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テラトピア大事変
日時: 2020/12/25 07:49
名前: 戦艦零号

第一話

休憩時間
全世界を二分させる人類史上最大の大戦争…。第三次列国大戦が終焉してより十五年が経過する。世界暦五千五百二十二年四月下旬…。小国家〔テラトピア自由区〕での出来事である。場所は進学校テラトピア学園…。休憩中に一人の男子生徒が窓際から仰天の青空を眺望する。
「今日も図書室で暇潰しだな…」
男子生徒の名前は【フィルドルク】…。テラトピア学園の男子生徒であり学部は普通科である。フィルドルクは一見すると年齢十四歳の普通の少年であるものの…。誰よりも荒唐無稽のオカルト関連が大好きであり勉学以外の時間帯ではオカルト関連の情報を調査するのが趣味である。フィルドルクは午前中の休憩時間に図書室へと移動する。
「オカルト関連…オカルト関連…」
フィルドルクはオカルト関連の参考書を何冊か黙読したのである。内容としては近年話題の超能力関連は勿論…。古代文明の魔法神秘学やら東洋の妖術関連である。
「僕にも超能力とか…荒唐無稽の魔法が扱えたらな…」
フィルドルクは自身にも超能力やら魔法が使用出来たらと妄想し始める。
「一体如何すれば僕に超能力が?」
彼是と思考し続けた直後…。
「ん?」
隣接より一人の女子生徒が魔法関連の書籍を何冊か漁ったのである。
『誰だろう…』
気になったフィルドルクは恐る恐る隣接の女子生徒をチラ見する。
『うわっ…誰なのかな?』
女子生徒は女性としては高身長であり頭髪は赤毛のストレートロング…。両目の瞳孔は半透明の血紅色であり両方の耳朶には金剛石のイヤリングが特徴的である。容姿は人一倍美的でありフィルドルクは彼女の妖艶さに見惚れる。
『彼女…相当の美人だな…胸部も…』
女子生徒は胸部が豊富である。フィルドルクは彼女に魅了されたのか赤面し始める。
『瞳孔が血紅色だ…彼女は…人間の女の子なのかな?』
隣接の女子生徒は一般の女性とは異質的であり摩訶不思議のオーラを感じさせる雰囲気だったのである。すると摩訶不思議の女子生徒はフィルドルクの存在に気付いたのかフィルドルクの方法を凝視し始める。
「貴方…先程から何かしら?私に用事?」
「えっ!?」
フィルドルクはビクッと反応…。
「御免…気にしないで…」
フィルドルクは赤面した表情で即座に女子生徒に謝罪したのである。すると女子生徒は恐る恐る…。
「貴方…名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクだよ…」
フィルドルクは即答したのである。
「君は?」
一方のフィルドルクも女子生徒に名前を問い掛ける。
「私は【メロティス】よ…貴方は私のクラスメートだったわよね…」
「えっ…君は僕のクラスメートだっけ?」
フィルドルクはオカルト関連には随一である反面…。オカルト関連以外の物事には比較的無関心であり自身のクラスに誰が存在するのか認識出来なかったのである。
「貴方って…オカルト以外の物事には無関心そうね…」
『フィルドルクって男子は天然なのかしら?』
フィルドルクは極度の天然でありメロティスは内心呆れ果てる。
「えっ…はぁ…」
一方のフィルドルクは苦笑いしたのである。
「貴方は荒唐無稽の心霊とか超常現象とか大好きそうね…」
「勿論だよ♪超能力とか異星人とかも大好きだよ♪」
フィルドルクは笑顔で即答する。
「へぇ…貴方って純粋なのね…」
「えっ?純粋?僕が?」
「純粋よ…誰よりもね♪」
メロティスは微笑した表情で発言したのである。
「えっ…」
『純粋って…子供みたいだな…』
フィルドルクはメロティスに子供扱いされ…。赤面したのである。するとメロティスは小声で…。
「今日の放課後だけど…私と一緒に帰宅しない?折角の機会だし…」
「えっ!?」
フィルドルクはメロティスに誘われ驚愕したのである。
『こんなシチュエーション…現実なのかな?こんな僕が…女子生徒と帰宅…』
フィルドルクは今回の出来事が現実なのか混乱する。予想外のシチュエーションに再度赤面したのである。
「私も荒唐無稽のオカルトが大好きだからね…如何する?貴方にとって都合が悪ければ無理にとは…」
問い掛けられたフィルドルクは一瞬沈黙するものの…。
「勿論大丈夫♪僕は大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
フィルドルクはワクワクした様子であり笑顔で返答したのである。
『こんな僕がこんな可愛らしい女の子と一緒に帰宅出来るなんて…夢物語みたいだよ♪現実の出来事なのかな?』
一瞬現実なのか自分自身の妄想なのか混迷する。フィルドルクはメロティスとの帰宅に内心大喜びしたのである。

第二話

帰宅
放課後の時間帯…。フィルドルクはメロティスと一緒に帰宅する。
「メロティスさん…自宅は?」
「私の自宅はサウスタウンよ…」
サウスタウンとは西方地帯に存在する小規模の住宅街である。
「えっ?メロティスさんの自宅もサウスタウンなの?僕と一緒だね♪」
「貴方の自宅もサウスタウンなのね…」
メロティスもサウスタウンの住民でありフィルドルクは内心大喜びする。
「貴方…随分と嬉しそうね…」
「えっ!?」
フィルドルクは赤面…。気恥ずかしくなる。
「フィルドルク♪貴方って本当に面白いわね♪」
メロティスは微笑み始める。
「僕って…面白いのかな?」
「面白いわよ♪人一倍天然そうだし♪」
「えっ…」
『人一倍天然って…』
フィルドルクは苦笑いしたのである。するとメロティスは無表情で…。
「貴方は現実世界に荒唐無稽の魔法が存在するなら…直視したくない?」
「えっ…」
『正直…メロティスさんの思考が理解出来ないけど…』
メロティスの突然の質問に困惑したのである。
「魔法が…」
フィルドルクは一息する。
「空想かも知れないけど…荒唐無稽の魔法が本当に存在するのであれば…実際に直視したいかな…」
フィルドルクが恐る恐る返答するとメロティスは瞑目し始める。
「仕方ないわね…」
「えっ?仕方ないって…」
「今回だけは特別よ…」
「えっ…特別って?」
メロティスはカッターナイフを所持したかと思いきや…。自身の手首を自傷させたのである。
「メロティスさん!?一体何を!?」
フィルドルクは突然の彼女の自傷行為に驚愕する。一方のメロティスは平気そうな表情だったのである。
『彼女は正気なの!?』
地面にはメロティスの血液が一滴ずつ流れ出る。
「メロティスさん…血液が…」
フィルドルクは彼女の鮮血に畏怖したのかソワソワする。
「フィルドルク…貴方は極度の心配性ね…」
一方のメロティスは冷静沈着だったのである。
「心配しなくても私は大丈夫よ…貴方は大袈裟ね…フィルドルク…」
数秒間が経過する。カッターナイフで自傷したメロティスの傷口が一瞬で治癒したのである。
「えっ!?メロティスさんの傷口が治癒した!?一体如何して…何が?」
フィルドルクは荒唐無稽の超常現象に愕然とする。するとメロティスは無表情で発言したのである。
「単刀直入に表現するなら…私の正体は魔女なのよ…」
「えっ…魔女?メロティスさんの正体が魔女だって?」
一瞬出鱈目であると思考するものの…。先程の荒唐無稽の超常現象を直視するとメロティスの正体が魔女であると否定出来なくなる。
「正確には私の家計は魔女の家計ってだけよ…父様は普通の人間だし…私は魔女と人間の混血なのよね…」
メロティスは母親が人外の魔女であるものの…。父親は純血の人間だったのである。フィルドルクは緊張した様子で恐る恐る彼女に質問する。
「ひょっとするとメロティスさんの祖先って…東洋に存在する…イーストユートピア出身者なの?」
「私の祖先はイーストユートピアに出身らしいわね…」
イーストユートピアとは極東に存在した辺境の島国であり所謂桃源郷神国と命名される。世界的には魔女の発祥地とされる。イーストユートピアは近代化の成功により列強の一員として認識されたものの…。二百年前に勃発した第二次列国大戦で超大国に敗北したのである。イーストユートピアは多大なる空襲により各村落は焦土化…。今現在では荒廃した無人地帯同然であり居住者は誰一人として存在しない。
「メロティスさんが魔女なのは事実みたいだけど…吃驚したよ…」
「こんな話題はオカルト大好きな貴方以外には出来ないからね…」
「正直最初に対面してから普通の常人とは異質的だったからね…メロティスさんの正体が魔女なのは納得だよ…」
するとフィルドルクは小声で…。
「メロティスさんは今迄誰かに気味悪がられるとか…差別されなかったの?」
メロティスは一瞬沈黙するも小声で返答したのである。
「無論ね…私自身こんな容姿だし…クラスメートの女子達からは人外の魔女って揶揄されたわよ…実際問題私の家計が人外の魔女なのは事実なのだけどね♪」
彼女は笑顔で発言する。
「前向きだね…メロティスさんは…」
フィルドルクはメロティスが人一倍ポジティブであると感じる。一方のメロティスはフィルドルクを凝視…。
「貴方も人外でしょう…フィルドルク…」
「えっ?」
メロティスの人外の一言にフィルドルクは意味が理解出来ず脳内が白色化する。
「僕が…人外だって?」
「貴方ってエスパーっぽいのよね…」
「僕が…エスパー?」
フィルドルクは珍紛漢紛であり困惑したものの…。
「二年前に死んじゃったけど…僕の母方の叔父さん…ストレイダス叔父さんが…霊能力なのかな?死者の霊体と会話出来るとかって…」
フィルドルクには母方の【ストレイダス】と名乗る叔父が存在する。今現在でこそストレイダスは故人であるが…。ストレイダスは大昔から死者の霊体を視認出来る特殊体質だったのである。霊体を視認出来るばかりか死者との会話も出来る性質上…。周囲の者達からは非常に気味悪がられ両親やら実母以外の兄弟からも嫌忌されたのである。こんな境遇の彼であったが…。警察組織が死者と会話が可能であるストレイダスの霊能力に注目する。警察組織は特殊体質の彼を特別枠の特別警察に配属させ数多くの未解決事件解決に貢献させたのである。
「やっぱりフィルドルクの血縁者はエスパーだったわね…」
メロティスは納得する。
「貴方は正真正銘エスパーの人種なのよ♪」
「僕がエスパーの人種!?」
「如何やら貴方が貴方の叔父さんの血筋を色濃く継承したみたいね…」
「血筋を継承したとしても僕にはストレイダス叔父さんみたいに死者の霊体なんて視認出来ないし…映画とか漫画の主人公みたいに怪力とか超能力なんて何一つとして使用出来ないよ…」
「貴方が特殊能力を発揮するには相応の衝撃が必要不可欠なのかも知れないわ…」
「相応の…衝撃?」
「貴方自身が大事件とか…事故に遭遇しなければ特殊能力は一生涯覚醒しないでしょうね…」
「大事件とか事故って…物騒だな…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。メロティスと摩訶不思議の会話から数分後…。二人は自宅へと戻ったのである。

第三話

新人類
小規模の島国…。テラトピア自由区から数百キロメートルの長距離にはテラトピア自由区よりも小規模の島国が存在する。島国の国名は〔万民解放区〕である。万民解放区は十五年前こそ無名の無人島であったが…。第三次列国大戦に敗北した万民解放軍の残党勢力と世界各地の犯罪者達が移住したのである。彼等は無人島の万民解放区に暗躍すると島内全域を軍事拠点化…。万民解放軍を再結成したのである。とある密室にて二人の軍人が密談する。
「二日後だ…二日後に近場のテラトピア自由区を攻略するぞ…」
将軍らしき人物が発言したのである。
「テラトピア自由区か…一日間で攻略出来そうだな…」
背広姿の金髪碧眼の男性が返答する。テラトピア自由区は比較的国内の治安が安定した一方…。戦力は最低限の武装警察隊が配置された程度であり通常の国軍としての反撃能力は実質皆無とされる。
「歴戦の貴様にとっては今回の作戦…片手間なのかも知れないが…貴様以外の将兵達は実戦未経験の新米兵士達ばかりだ…実戦で役立つのやら…」
今現在万民解放軍の将兵は大半が世界各国の犯罪者達ばかりであり経験豊富の将兵は実質少数とされる。将軍らしき人物は将兵達の熟練度の脆弱さを懸念する。
「非力の新兵ばかりだが…世界連合は十五年前の大戦で疲弊した状態なのも事実だからな…」
世界連合とは第二次列国大戦を契機に創設された各国家による統一政府である。第三次列国大戦が終結してから十五年が経過したものの…。今現在世界各国が戦争の悪影響で疲弊状態でありあらゆる国家が戦争出来る余力が皆無だったのである。無論…。統一政権の世界連合さえも今現在は反戦ムードであり各地の紛争を解決出来る余力は皆無である。背広姿の男性が断言する。
「今回の作戦は俺達の強大さを全世界に知らしめる絶好機…今回の作戦が成功すれば世界連合は迂闊には手出し出来なくなるだろう…何よりも俺には…」
背広姿の男性は護身用の拳銃を携帯したかと思いきや…。
「なっ!?貴様は…一体何を!?」
将軍らしき人物は拳銃に冷や冷やする。
「安心しろ…此奴を…分解するだけだ…」
「分解だと?一体如何するのだ?」
「大人しく見物し続けろ…」
背広姿の男性は摩訶不思議の効力で自身の拳銃を分解したのである。
「俺が超能力さえ思う存分に発揮出来れば…全世界を掌握出来るだろう…容易に…」
新人類とは超能力を所持する特殊人種とされ…。現在の調査では百万人に一人の確率で存在するとされる。
「現段階では俺に対抗出来る新人類は存在しない…」
すると将軍らしき人物はニヤリと冷笑する。
「貴様の超能力とやら…期待するぞ♪【ウィルフィールド】…」
彼自身詳細は不明であるが…。ウィルフィールドと名乗る人物は超能力を使用出来る新人類の一人だったのである。
『ウィルフィールドの正体が荒唐無稽の新人類だったとは…新人類とやらは本当に実在するのだな…』
将軍らしき人物は内心新人類の存在に驚愕する。

第四話

霊体
真夜中の深夜帯…。フィルドルクは超能力の歴史書と呼称される参考書を黙読したのである。超能力の歴史書には古代文明時代は勿論…。今現在の事例も多数記述され非常に興味深かったのである。
「極東のイーストユートピアにもエスパーが存在したなんて…」
イーストユートピア所謂桃源郷神国は魔女の発祥地として有名であるものの…。新人類による超能力伝説は複数存在する。先例としては戦乱時代に活躍したとされる名将夜桜崇徳王である。崇徳王は十数キロメートルもの長距離から敵軍の将兵が何人存在するのか正確に察知出来たとされる。崇徳王以外には安穏時代の八正道と名乗る僧侶も有名である。詳細こそ不明であるが…。彼にも超能力らしき伝説が一部確認される。一例としては神族天狐如夜叉との戦闘で銃弾のみで神器を破壊したとの一説である。八正道の場合は偶然の可能性が指摘される一方…。超能力による超常現象も否定出来ないとの意見も存在する。両者とも無自覚であったが…。今現在の見解では両者とも新人類であるとの見解が通説である。
「イーストユートピアにも新人類が存在したなんて…」
数分間が経過するとフィルドルクは熟睡する。睡眠してより数分後…。フィルドルクの脳裏より視界全域が白色の世界が発現されたのである。
「えっ?何だろう?」
フィルドルクは恐る恐る周囲を警戒するのだが…。周辺の景色は白色だけであり自分自身以外には何も存在しない虚無の世界である。
「摩訶不思議の世界だな…」
すると背後より…。
「フィルドルク…フィルドルク?」
「えっ?誰なの?」
フィルドルクは恐る恐る背後を直視したのである。
「えっ!?ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクの背後に存在するのは誰であろう二年前に死去した叔父…。ストレイダス本人だったのである。
「久し振りだな♪フィルドルク♪」
「叔父さん…」
「フィルドルクが元気そうで安心したよ♪」
ストレイダスは笑顔で発言する。
「如何して…ストレイダス叔父さんが?叔父さんは二年前に…」
フィルドルクは衝撃的光景に脳内が白色化したのである。
「突然だから吃驚するよな…フィルドルク…」
フィルドルクはストレイダスに近寄ると力一杯密着…。
「叔父さん!」
涙腺から涙が零れ落ちる。
「如何して…如何してストレイダス叔父さんは死んじゃったの?」
「フィルドルク…」
フィルドルクは数分間程度落涙し続ける。
「大丈夫そうだな…フィルドルク…」
泣き止むフィルドルクにストレイダスは安心する。
「甘えん坊だな♪フィルドルクは♪」
「御免なさい…叔父さん…」
フィルドルクは赤面した様子で謝罪したのである。
「当然であるが…今現在の俺は霊体の存在なのだ…」
ストレイダスは自身が霊体であると自負する。
「霊体…」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「如何して叔父さんは死んじゃったの?本当に事故で死んじゃったの?」
両親からはストレイダスの死因は不慮の事故であると説明されたのだが…。フィルドルクは如何しても納得出来なかったのである。
「今更フィルドルクに隠し事しても仕方ないからな…」
「隠し事?」
ストレイダスは一息する。
「二年前の十二月だ…」
「二年前の十二月?」
二年前の十二月の出来事である。新人類のストレイダスは特別警察での数多くの功績を評価され…。世界連合の特務機関に抜擢されたのである。全世界の主軸である世界連合も新人類の存在に興味を抱き始め…。新人類で構成された特務機関を創設したのである。特務機関の秘密エージェントとして活動するストレイダスは秘密団体…。万民解放軍と呼称される武装勢力の本拠地万民解放区に潜入したのである。潜入には成功したものの…。不運にもストレイダスは万民解放軍の警備兵に発見され拘束されたのである。ストレイダスを拘束した警備兵は皮肉にも自身と同種である新人類であり名前はウィルフィールドと名乗る。ウィルフィールドと名乗る新人類は非常に強力でありストレイダスはウィルフィールドの超能力で殺害されたのである。
「俺は諜報員として万民解放区に潜入したが…万民解放軍の本拠地でウィルフィールドって名前の新人類に拘束され…彼に殺害された…」
「えっ…ウィルフィールド?新人類…」
『やっぱりストレイダス叔父さんの死因は事故じゃなくて…ウィルフィールドって新人類に殺されたの?』
ストレイダスの死後…。世界連合は非難を回避したかったのか諜報員のストレイダスは不慮の事故として扱われたのである。フィルドルクは衝撃の事実に混乱する。
「突然だから混乱するよな…フィルドルク…」
「御免なさい…正直突然過ぎるから…」
「当然の反応だよな…」
ストレイダスは再度一息したのである。
「フィルドルク…俺は霊能力以外に未来予知も出来る…」
「未来予知って?」
フィルドルクは自身の超能力を覚醒させ未来予知も使用出来る。
「恐らくだが二日後…俺を殺害した新人類のウィルフィールドと…万民解放軍の奴等がテラトピア自由区に侵攻を開始するだろう…」
「えっ!?」
フィルドルクは驚愕したのである。
「本当に!?万民解放軍がテラトピア自由区に侵攻!?」
非現実的であり一瞬冗談かと思いきや…。
『ストレイダス叔父さんって冗談は苦手だよね…』
ストレイダスは冗談が人一倍苦手であり本当であると感じる。
「恐らくだが…隠蔽体質の世界連合は勿論…テラトピア自由区の武装警察隊も期待出来ないだろうよ…」
ストレイダスはフィルドルクを凝視し続ける。
「今現在テラトピア自由区を守護出来るのはフィルドルクだけだ…」
「えっ!?僕がテラトピア自由区を!?」
フィルドルクは再度困惑する。
「叔父さん…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力なんて何一つとして…」
現実問題…。フィルドルクは何一つとして超能力が使用出来ない。
「今現在では超能力は使用出来ないが…フィルドルクは人一倍俺の血筋を色濃く継承する一人だ…超能力が覚醒すればフィルドルクは俺を上回るかも知れない…」
ストレイダスはフィルドルクの潜在能力は自身以上であると確信する。
「如何すれば…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させられるの?」
「簡単だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力を開放出来るさ♪」
「えっ?僕は意識するだけ?」
「フィルドルクは俺の血筋を色濃く継承した存在だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力は発動出来るだろう…超能力を使用すれば使用するだけ桁外れに上達する…」
新人類は超能力を使用し続けると超能力は更なる覚醒により効力は幅広くなる。新人類の潜在的能力は実質的に未知数とされる。
「本当に…出来るのかな?僕なんかに…」
フィルドルクは自信が皆無であり潜在的能力が覚醒するのか不安だったのである。
「大丈夫だ♪フィルドルクなら出来るさ♪俺が保証する♪」
ストレイダスは笑顔で断言する。
「叔父さん…」
するとストレイダスの肉体が半透明化し始める。
「えっ!?叔父さん…肉体が半透明に…」
「如何やら霊能力は限界みたいだ…俺はもう少しで消滅する…」
「限界なの…叔父さん…」
「フィルドルク…最後だが…」
ストレイダスは笑顔で…。
「俺を超越しろよ…フィルドルク…フィルドルクなら俺を上回れる♪明日からはフィルドルクが本物のスーパーヒーローさ♪」
ストレイダスの肉体は完全に消失したのである。ストレイダスが消滅した直後…。
「ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクは目覚めたのである。
「えっ!?」
フィルドルクは自身の寝室であり室内をキョロキョロさせる。
「心霊現象だったのかな?如何して死んじゃったストレイダス叔父さんが…」
先程自身の夢路にて死去したストレイダスと再会した出来事にフィルドルクは混乱するものの…。
「僕にも…出来るのかな?ストレイダス叔父さん…」
フィルドルクは意識するだけで超能力が発動するのか試行を決意する。

第五話

超能力
本日の放課後…。フィルドルクは学園の裏庭へと移動したのである。
「ストレイダス叔父さんのアドバイスでは…意識するだけで超能力が発動するらしいけど…」
『本当に意識するだけで超能力が覚醒するのかな?』
内心…。昨日夢路にて遭遇したストレイダスの心霊現象も偶然の可能性も否定出来ず超能力は発動しないだろうと思考したのである。
「石ころだ…」
地面の石ころを自身の目前に設置させたのである。
「石ころ…浮遊するかな?」
フィルドルクは恐る恐る両目を瞑目させる。
「石ころよ…空中を浮遊しろ…」
フィルドルクは石ころに命令するのだが…。石ころは依然として浮遊しない。
「石ころは浮遊しないな…」
フィルドルクは再度命令する。
「石ころ!浮遊しろ!」
試行してより数分間が経過…。フィルドルクは必死に思念するのだが目前の石ころはピクリとも動かない。フィルドルクは苛立ち始める。
「畜生!僕には出来ないよ!」
フィルドルクは自身が超能力の才能が皆無であると落胆したのである。
「僕は全然駄目だね…やっぱり石ころは浮遊しないや…」
フィルドルクは超能力が発動せずガッカリする。
「はぁ…やっぱり僕に超能力の才能なんて無かったみたいだね…」
『死んじゃったストレイダス叔父さんの幽霊が出現する時点で可笑しかったのかも知れないね…僕の妄想だったのかな?』
夢路に出現したストレイダスは自分自身の妄想であったと判断したのである。
「仕方ない…戻ろうかな…」
フィルドルクは帰宅する寸前…。
「えっ?」
一瞬であるが背後の石ころがコロッと動いたのである。
『一瞬動いたかな?』
フィルドルクは一息する。
『石ころよ…浮遊しろ…』
恐る恐る石ころに思念したのである。数秒後…。依然として動かなかった石ころが上昇し始める。
「えっ!?石ころが浮遊した!?」
石ころは自身の目線と同程度に浮遊…。ピタッと停止する。
『現実なの!?』
フィルドルクは空中浮揚する石ころに驚愕…。
「魔法みたいだ…」
目前の光景が現実なのか理解出来なくなる。
『石ころよ…落下しろ…』
落下を思考すると石ころは一瞬で地面に落下したのである。
「超能力って本当に存在したの?僕に超能力が…」
フィルドルクは先程の超常現象が自身による念力なのか確認したくなる。フィルドルクは帰宅せず近隣に位置する閉鎖中の廃鉱へと移動したのである。
「廃鉱なら好都合だね…」
閉鎖中の廃鉱には無数の岩石やら鉄屑の残骸が確認出来…。超能力を発動するには好都合だったのである。
「今度も其処等の石ころを…」
二十センチメートルの石ころを発見…。
「石ころは校内の裏庭みたいに浮遊するかな?」
先程みたいに石ころが浮遊するのか試行したのである。
『石ころよ…浮遊しろ…』
数秒後…。石ころが容易に浮遊したのである。
「えっ…」
フィルドルクは驚愕する。
「本当に…僕に超能力が?」
今回は裏庭の石ころよりも軽量に感じられたのである。
「落下しろ…」
落下をイメージすると石ころは一瞬で地面に落下する。フィルドルクは恐る恐る背後を凝視…。
「僕に…出来るだろうか?」
フィルドルクの背後に存在するのは先程の石ころより大サイズの岩石である。直径一メートルサイズであり念力で粉砕出来るか思考する。
「此奴を…念力だけで粉砕出来るかな?」
直径一メートルサイズの岩石に思念したのである。
『岩石よ…』
フィルドルクは必死に思念するのだが…。
「砕け散れ!」
岩石は非常に硬質であり容易には粉砕出来ない。
「ビクともしないな…やっぱり岩石を粉砕するのは困難だね…」
困難であると感じるものの…。
「今度こそ…」
フィルドルクは再チャレンジする。
「岩石よ…粉砕しろ!」
先程よりも根強く思念したのである。
「砕け散れ!」
すると数秒後…。岩石の表面よりピキッと罅割れが発生する。
「表面が罅割れた!?」
『今度こそ出来るかも!』
再度思念したのである。
『岩石よ…砕け散れ!』
数十秒間が経過…。直後である。頑強の岩石がバリッと粉砕され…。周囲に砕け散ったのである。岩石の破片が其処等に散乱する。
「はぁ…はぁ…手出しせずに岩石を粉砕出来たぞ♪」
フィルドルクは大喜びしたのである。目標を達成出来たものの…。フィルドルクは極度の疲労により地面に横たわる。
「念力だけで…こんなにも疲れが蓄積されるなんて…」
フィルドルクは体力の消耗に身動き出来なくなる。
『眠たいな…』
直前…。
「貴方…大丈夫かしら?」
「えっ…誰なの?」
最近知り合った女子学生のメロティスが地面に横たわった状態のフィルドルクに恐る恐る近寄る。
「メロティスさん?」
「フィルドルク…動かないでね…」
「えっ?」
メロティスはフィルドルクの腹部に接触したかと思いきや…。消耗した体力が蓄積されたのである。
「一安心だわ…」
メロティスはホッとする。
「感謝するよ♪メロティスさん♪体力が戻ったよ♪ひょっとしてメロティスさんの魔法なの?」
「無論ね…」
メロティスは体力の消耗したフィルドルクに回復魔法を使用したのである。フィルドルクはメロティスの回復魔法により体力が回復する。するとメロティスは笑顔で…。
「貴方…超能力の覚醒に成功したのね♪見事だったわ♪」
「えっ?メロティスさん…ひょっとして観察したの?」
「勿論よ♪放課後からね♪」
メロティスは笑顔で即答する。
「えっ…はぁ…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。
「フィルドルクは本当にサイコキネシス…超能力を覚醒させたのね♪貴方は正真正銘新人類だったのよ♪」
「僕が新人類…」
『ストレイダス叔父さんの遺言は事実だったのか…』
内心自身が新人類だった事実にフィルドルクは嬉しくなる。
「メロティスさん?」
「何かしら?フィルドルク?」
フィルドルクは深夜の夢路での出来事をメロティスに洗い浚い告白する。
「貴方は夢路で故人の叔父さんと遭遇したのね…」
「叔父さんの未来予知は本当なのかな?」
「本当でしょうね…私も千里眼で海辺を眺望するのだけど…」
メロティスは時たま大海原を眺望するのだが…。二日前に武装した小型船を数隻目撃したのである。不審の小型船は即座に撤収したものの…。メロティスは気味悪くなる。
「私は胸騒ぎを感じるのよ…ひょっとすると近日中に大事件が発生するかも知れないわね…」
メロティスは非常に不安視する。
『メロティスさん…』
彼自身自信は皆無であったものの…。
「メロティスさんは僕が守護するよ♪」
笑顔で断言する。
「フィルドルク…」
フィルドルクの発言にメロティスは一瞬赤面したのである。
『叔父さんを殺した新人類…ウィルフィールドにも対面したいし…』
数分後…。二人は各自の自宅へと戻ったのである。

第六話

開戦
翌日の早朝…。六時三十分未明である。本拠地の万民解放区より万民解放軍の艦隊が出撃を開始する。旗艦は巨大戦艦一隻と二隻の大型輸送艦が同行したのである。旗艦の巨大戦艦には新人類のウィルフィールドが乗艦する。
「ウィルフィールド大佐♪貴方の活躍を期待しますよ♪」
ブリッジにて艦長が笑顔で発言したのである。
「活躍するも何も…こんな単調の任務で活躍出来なければ全世界を制覇するのは夢物語だ…」
「〔ヘビーエンプレス〕の威力をテラトピア自由区の人民に知らしめる絶好機です♪」
超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスは第三次列国大戦で大活躍した超弩級ミサイル艦であり万民解放軍の旗艦である。将兵達からは難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金エターナルメタルが駆使され…。エターナルメタルの重厚装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない鉄壁の強度である。多数の多目的ミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射出来る電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には一機の大型輸送機か偵察用の無人機を二機搭載出来る。
「俺が超能力を発揮すればヘビーエンプレスの出番は無くなるな…」
航行してより三十分後の七時…。一隻の小型船と遭遇したのである。
「所属不明の小型船を発見しました!」
通信兵が報告する。
「所属不明の小型船だと?であればホログラム装置で確認しろ…」
ヘビーエンプレスには最新式のホログラム装置が搭載されたのである。装置の上部には立体化された海面上と一隻の小型船の立体映像が映写される。
「此奴はテラトピア自由区の警備艇か…大艦隊である俺達を相手に絶望的だな…」
ウィルフィールドが発言する。
「ウィルフィールド大佐…対艦ミサイルで攻撃しますかね?」
艦長はウィルフィールドに問い掛ける。
「折角の挨拶だ…手始めに攻撃しろ…」
「承知しました…」
艦長はウィルフィールドの指示に承知すると乗組員達に攻撃を命令する。
「警備艇を攻撃…撃沈せよ…」
「はっ!」
乗組員達は即座に行動を開始したのである。
『開戦だ…旧人類同士潰し合うのだな♪』
ウィルフィールドは周囲に失笑する。同時刻…。警備艇の船内では所属不明の大艦隊に騒然とする。
「大型艦艇が三隻も!?演習なのか?」
警備艇の乗組員達は所属不明の大艦隊に警戒したのである。すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「中央の大型船は恐らく…第三次列国大戦で活躍したヘビーエンプレスだろうか…」
「ヘビーエンプレスですと?」
「世界連合に敵対した新枢軸勢力が使用した超大型船舶だ…こんな辺境の海域で遭遇するとは…」
「であれば所属不明の大艦隊は新枢軸勢力の残党なのか!?」
「新枢軸の残党勢力が出現するとは…一体何が目的なのか?」
「何はともあれ相手が相手だ…俺達だけでは対処出来ない…即刻政府と世界連合に報告しろ!世界連合に援軍を要請し次第…海域を撤退するぞ!」
乗組員達は即座に政府と世界連合に事態を報告したのである。数秒後…。
「ヘビーエンプレスから対艦ミサイルが多数発射されました!」
ヘビーエンプレスより十数発もの対艦ミサイルが発射されたのである。
「対艦ミサイルを迎撃しろ!」
警備艇は即座に対空砲で対艦ミサイルの迎撃を開始する。四発の対艦ミサイルの迎撃には成功するのだが…。一発の対艦ミサイルが警備艇の甲板に直撃したのである。直後…。弾薬庫に引火すると警備艇は乗組員諸共轟沈したのである。一方ヘビーエンプレスの艦内ではウィルフィールドが双眼鏡で確認する。
「他愛無いな…俺達はテラトピア自由区に直進するぞ…」
万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区を目標に直進したのである。一方警備艇からの報告によりテラトピア自由区政府と世界連合は突然の事態に混乱する。

第七話

高速道路
午前七時…。テラトピア自由区では警戒警報が発令されたのである。突然の警報に国内は混乱し始める。フィルドルクも突然の警報に吃驚…。飛び起きたのである。
「えっ!?何が!?」
『ひょっとして警戒警報?』
フィルドルクは万民解放軍の襲来であると察知する。
『万民解放軍だな…叔父さんの予言は本当だったね…』
ストレイダスの未来予知に驚愕したのである。一方外部では突然の緊急事態に各勤務地は勿論…。各学園も一時的に休校されたのである。一部の学生は学園の休校で大喜びするものの…。数多くの者達が緊急事態に不安視する。すると突如として自室に設置された携帯型ホログラム装置が鳴動したのである。
「うわっ!吃驚した…」
フィルドルクは携帯型ホログラム装置を作動させる。
「フィルドルク?」
ホログラム装置はメロティスの姿形を映写させたのである。
「メロティスさん?」
「こんな朝っぱらから突然御免なさいね…」
「大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
メロティスは謝罪するのだがフィルドルクは笑顔で返答する。
「やっぱり貴方の叔父さんの予言は本当だったわね…」
「本当だね…正直僕も吃驚したよ…」
「避難所で合流しましょうね…フィルドルク…」
直後に携帯用のホログラム装置が停止したのである。すると自室のドアにて父親が入室する。
「フィルドルク?」
「父さん?」
「フィルドルク…準備が出来次第避難所に移動するぞ…」
「避難所?」
政府から避難指示が発令されたのである。
「オーケー!父さん!」
フィルドルクは準備を開始する。準備を開始してより数分後…。準備が終了するとフィルドルクは父親と母親との三人で外出したのである。
「如何して突然こんな事態に…」
母親は予想外の出来事にビクビクする。
「俺にも何が何やらサッパリだが…俺達は避難所に移動して命拾いするぞ…」
三人は自家用車で避難所へと移動するのだが…。高速道路の道路上は渋滞であり直進したくても直進出来ない。
「渋滞か…畜生…」
自家用車を運転する父親は非常に苛立った様子である。
「全然走行出来ないわね…」
「こんな状態では避難所には当分移動出来ないね…如何する?」
今現在では各地の車道が渋滞であり乗用車は走行出来ない。周囲の様子を直視すると乗用車を放棄…。大勢の歩行者が高速の車道を徒歩で通行したのである。
「仕方ないな…俺達も歩くぞ…」
「止むを得ないわね…」
三人は止むを得ず乗用車を放棄…。周囲の歩行者達と同様に徒歩で高速道路を通行したのである。
「私達は避難所に到達出来るのかしら?」
母親が不安視する。
「避難所に到達出来るかは断言出来ないが…何も行動しないよりは…」
一方フィルドルクは沈黙した様子で両親を凝視したのである。
『父さんも母さんも不安みたいだな…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させて…父さんと母さんを安心させたいな…』
フィルドルクと両親が高速道路を移動する同時刻…。魔女のメロティスは自宅の地下壕にて両親と三人で潜伏する。
「パパ?ママ?如何して避難所に移動しないのよ?私達も避難所に移動しましょうよ…こんな場所に待機し続けても…」
メロティスは不満そうな表情で両親に問い掛ける。
「避難所に移動するのは危険だ…移動中に攻撃されたら如何する?何が発生しても可笑しくない状況下だぞ…」
父親は避難所への移動を拒否する。
「俺は十五年前の大戦で大勢の避難民達が空爆で殺された瞬間を間近で目撃したからな…俺の兄貴も避難所に移動したばかりに…」
メロティスの父親は第三次列国大戦で避難所に移動中…。最愛の実兄が空爆で死亡したのである。
「パパ…」
父親の思考も理解出来るのだが…。
『私はフィルドルクと合流したいのに…』
彼女は自身の無力さを痛感する。

第八話

空爆
三十分後…。万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区の海域へと到達する。二隻の大型輸送艦の飛行甲板より多数の爆撃用ドローンが出撃…。数分間でテラトピア自由区領空へと飛来したのである。テラトピア武装警察隊の航空部隊が迎撃を開始するものの…。万民解放軍のドローン兵器は非常に高性能であり航空部隊は圧倒されたのである。各地で空爆が開始される。高速道路からでも空爆の様子が直視出来…。歩行者達は恐怖したのである。フィルドルク自身は比較的冷静であったものの…。両親は大戦のトラウマからか膠着したのである。すると一機の攻撃用ドローンが高速道路上空に急接近…。低空飛行にて逃亡中の歩行者達に対人射撃を仕掛ける。十数人が死傷する。今度はフィルドルクの両親を標的に攻撃を仕掛けるのだが…。
「父さんと母さんには手出しさせないよ!」
フィルドルクは低空飛行の攻撃用ドローンにサイコキネシスを発動する。
「墜落しろ!」
射撃寸前に攻撃用ドローンはフィルドルクのサイコキネシスにより空中分解したのである。フィルドルクの超能力を間近で目撃した父親は驚愕する。
「フィルドルク…超能力を…現実なのか?」
父親はフィルドルクのサイコキネシスに絶句するのだが…。
「貴方…覚醒したのね…」
母親は実弟のストレイダスを連想したのか冷静だったのである。
「母さん…父さん…僕はね…」
フィルドルクは最近超能力が開花した事実は勿論…。夢路にて故人のストレイダスと対面した出来事を一部始終両親に告白したのである。
「フィルドルクは夢路でストレイダスの霊体と接触したのね…ストレイダスは未来予知の内容を貴方に…」
母親は非常に納得した様子であったが…。
「死者との会話なんて…荒唐無稽の漫画みたいな出来事だな…」
父親は珍紛漢紛だったのである。
「納得出来なくて当然だよ…父さん…」
「俺は常人だから理解するには時間が必要不可欠だけど…内容は荒唐無稽だが超能力は本当に存在するのだな…」
正直理解するには程遠いが…。父親はフィルドルクの告白を闇雲に否定せず信用したのである。
「先程の内容が事実であれば…俺達が想像する以上に今回は相当の一大事だな…」
「貴方は如何するの?フィルドルク?」
「僕は…叔父さんの…ストレイダス叔父さんの継承者として万民解放軍を全身全霊で阻止するよ…」
「フィルドルク一人で…」
「フィルドルク…貴方は本気なのね?」
「勿論だよ…父さん…母さん…」
両親の意向としては当然猛反対であったが…。フィルドルクの表情から本気であると察知する。
「危なくなったら絶対に戻りなさいよ…フィルドルク…絶対に死なないでよ…」
「精一杯頑張れよ…フィルドルク…無事に戻れよ…」
「僕は絶対に死なないからね!」
フィルドルクは移動を開始したのである。

第九話

野望
ドローン兵器による空爆開始から十数分後…。テラトピア武装警察隊は疲弊状態であり万民解放軍は陸上部隊による上陸作戦を開始したのである。二隻の大型輸送艦からは合計十二隻もの上陸用舟艇が出撃…。主力戦車を中心とした上陸部隊がテラトピア自由区へと上陸したのである。旗艦ヘビーエンプレスのブリッジからウィルフィールドが上陸作戦の様子を眺望する。
「今回は俺も参戦するか…」
「大佐も上陸作戦に参加されるのですか!?」
「当然だ…」
周囲の乗組員達は愕然としたのである。
「無茶では…」
周囲の者達は無茶であると感じるものの…。
「私を仕留められる常人は存在しない…貴様達は私の実力を直視するのだな…」
ウィルフィールドは外部へと移動すると甲板にて佇立する。
「はっ!」
ウィルフィールドはサイコキネシスにより自身の肉体を浮遊させたのである。
「えっ…大佐が空中を!?」
「大佐は一体何者!?空中を飛行するなんて…幻覚だろうか?」
空中を浮遊するウィルフィールドにブリッジの乗組員達は驚愕する。一方のウィルフィールドはサイコキネシスで空中を飛行…。数分後に港内へと着地したのである。
「ん?」
『何やら…彼奴に匹敵する効力を感じるな…一体何者だろうか?』
正体こそ不明であるものの…。ウィルフィールドは気配を察知したのである。一方周囲では銃撃戦が展開されるのだが…。ウィルフィールドは無関心だったのである。
「貴様は敵部隊の指揮官か!?覚悟しろ!」
狙撃兵がウィルフィールドを標的に銃弾を発砲する。発砲された銃弾はウィルフィールドの発動したサイコキネシスにより寸前で急停止…。
「なっ!?銃弾が…」
サイコキネシスによって空中浮揚する銃弾に狙撃兵は驚愕する。一方のウィルフィールドは余裕の様子で…。
「鬱陶しい…」
発砲された銃弾はサイコキネシスの発動で狙撃兵に直撃したのである。
「ぐっ!」
銃弾の直撃により狙撃兵は地面に横たわる。
『ん?』
三人の敵兵が各ビルの屋上よりウィルフィールドを標的に設定する。
『敵軍の狙撃兵が三人か…』
ウィルフィールドは逸早く敵兵の気配を察知…。
「焼死しろ…」
発火能力であるパイロキネシスを発動する。各ビルの狙撃兵は突然の発火によって焼死したのである。すると今度は目前より…。
「今度の相手は重戦車か…俺に対抗するには力不足だな…」
重戦車はウィルフィールドを標的に戦車砲で砲撃したのである。
『こんな程度の攻撃で…』
ウィルフィールドはエレクトロキネシスで電撃のシールドを形成させる。砲弾はシールドの表面に接触すると爆散…。砲撃の無力化に成功したのである。
「今度は俺が反撃する…」
ウィルフィールドはサイコキネシスを発動すると敵軍の重戦車をペシャンコにスクラップ化させる。
「他愛無いな…敵軍の防衛ラインは容易に突破出来そうだな…」
『ん!?』
ウィルフィールドは気配の正体が気になり極度の胸騒ぎを感じる。
『気配の正体は…一体何者だろうか?新人類か?』
同時刻…。フィルドルクは銃声を目印に港内へと移動したのである。
『胸騒ぎかな?気配を感じる…一体何者なの?』
フィルドルクもウィルフィールドと同様に気配を察知…。極度の胸騒ぎを感じる。数分後…。フィルドルクは万民解放軍の上陸地点である港湾へと到達したのである。港湾には敵味方の将兵達の遺体が彼方此方に確認出来…。地獄絵同然だったのである。
「戦争の光景…」
想像以上の惨劇にフィルドルクは気味悪くなる。
『父さんと母さんは僕が誕生する以前にこんな惨劇を経験したのかな…』
するとフィルドルクは十五人の敵兵に包囲されたのである。
「貴様は民間人の学生か?こんな場所に一人で参上するとは其処等の凡人達よりは勇敢だが…場違いだな…」
「少年…死にたくなければ大人しく拘束されるのだな…」
フィルドルクは催眠を意識する。
『熟睡しろ…』
数秒間が経過すると周囲の兵士達はサイコキネシスの応用により地面に横たわり…。熟睡したのである。
「兵士達を殺さずに無力化出来たな…」
フィルドルクはホッとする。すると直後…。
「不殺で兵士達を無力化するとは…見事だな…少年…」
「えっ?誰なの?」
突如としてフィルドルクの目前より背広姿の男性が近寄る。
「少年よ…貴様の正体は新人類だな…」
男性は一目でフィルドルクが新人類であると洞察したのである。
「如何して貴方は僕を新人類だって…貴方は一体何者ですか?」
フィルドルクは恐る恐る男性に問い掛ける。
「俺の名前はウィルフィールド…俺も少年と同様に新人類の一人さ…」
ウィルフィールドは自身を新人類の一人と自負する。
「新人類…」
するとウィルフィールドはフィルドルクの両目を直視…。
「少年は彼奴に近似するな…俺が殺害した彼奴に…」
「彼奴って?誰ですか?」
「ストレイダスと名乗る新人類に…」
ストレイダスの名前にフィルドルクはピクッと反応する。
「ストレイダスって…貴方が…ストレイダス叔父さんを…」
「叔父さん?ストレイダスは貴様の叔父だったのか…」
ウィルフィールドは納得したのである。
「やっぱり貴方が叔父さんを殺害した張本人だったのですね?」
ウィルフィールドは身震いし始める。
「如何して貴方は叔父さんを殺害したのですか!?」
普段は温厚の性格であるフィルドルクであるが…。今回ばかりは非常に感情的だったのである。
「私がストレイダスを殺害した理由か…私は二年前に万民解放区に潜入した彼奴を新人類の仲間として勧誘したのだが…」
二年前…。諜報員として万民解放区に潜入したストレイダスは不運にも万民解放軍の偵察部隊と遭遇したのである。自身の超能力で偵察部隊を圧倒するもウィルフィールドが介入…。ウィルフィールドの介入によりストレイダスは拘束されたのである。ウィルフィールドは自身の野望にストレイダスに協力を一方的に要求するのだが…。
「俺は彼奴に腐敗した世界連合は勿論…世界連合を牛耳る〔ソロポスト共和国〕の滅亡に協力しないかと要求したのだが…ストレイダスは俺の要求に拒否した…彼奴も俺と境遇は一緒だろうに…」
僅少であるがウィルフィールドは感情的だったのである。
「如何してウィルフィールドは世界連合と貴方の祖国であるソロポスト共和国を滅亡させたいのですか?」
フィルドルクが恐る恐る問い掛ける。
「ソロポスト共和国は俺の祖国だったが…」
ソロポスト共和国は超大国であり今現在全世界の覇権国家である。ウィルフィールドはソロポスト共和国出身者であったが…。ソロポスト共和国は正真正銘の差別大国であり当然として新人類も差別の対象だったのである。
「差別…」
「俺は新人類としての性質上…身内の奴等からも差別されたのだ…」
「貴方は身内からも…」
フィルドルクはウィルフィールドの境遇に絶句する。
『ストレイダス叔父さんも…母さん以外の人間達に…』
ストレイダスもフィルドルクの母親以外の人間達から差別され…。数多くの者達から迫害されたのである。フィルドルクは返答出来ず沈黙する。
「俺は祖国を見限り…本来なら敵国である万民解放軍に寝返ったのだ…」
ウィルフィールドが万民解放軍に協力するのは世界連合と同組織を牛耳るソロポスト共和国の滅亡である。
「俺としても正直…ストレイダスは死なせたくなかった…新人類の同志として彼奴と一緒に腐敗した旧世界を改善させたかったのに…非常に残念だ…」
拘束されたストレイダスであるが…。ウィルフィールドの協力には拒否したのである。
「ストレイダスは何を血迷ったか…愚劣なる旧人類が支配し続けるこんな腐敗した世界を守護しても無意味だろうに…何故ストレイダスは奴等に協力するのか俺には理解出来ない…彼奴も迫害されただろうに…」
するとフィルドルクは恐る恐る…。
「貴方の目的は…新人類が差別されない世界の構築ですか?」
フィルドルクの問い掛けにウィルフィールドは嬉しそうな表情で返答する。
「勿論だとも♪主目的を達成するには数多くの犠牲が必要不可欠だが…」
ウィルフィールドはフィルドルクに名前を問い掛ける。
「少年よ…貴様の名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクです…」
「フィルドルクか…」
ウィルフィールドは一瞬瞑目する。
「フィルドルクよ…新人類の一人として俺に協力しろ…」
「はっ?」
フィルドルクはウィルフィールドの予想外の発言に拍子抜けしたのである。
「誰が貴方に協力なんて…」
フィルドルクは拒否する。
「貴方は過去に大勢の人間達から迫害されたのかも知れませんが…僕にとって貴方は悪人です!叔父さんを殺害した張本人と協力なんて僕には出来ません…」
「当然の返答だよな…突然見ず知らずの人間から協力を要請されても拒否するのは当然の返答だ…」
「貴方は一体何を?」
するとウィルフィールドは上空を眺望したのである。
「此処からだと確認出来ないが…」
「えっ?上空?」
「テラトピア自由区の成層圏上空には万民解放軍の衛星兵器…〔リバースキャノン〕が存在する…」
「リバースキャノン?」
リバースキャノンとは万民解放軍が開発した試作型光学衛星兵器…。戦略兵器である。高出力の高エネルギーを成層圏上空から発射出来…。大都市部を一撃で焦土化させる威力とされる。第三次列国大戦にて万民解放軍が開発した戦略兵器であるが完成直前に終戦…。第三次列国大戦では使用されなかったのである。
「少なくとも首都はリバースキャノンの一撃で焦土化するだろうよ…」
「首都が一撃で…」
フィルドルクは戦慄したのである。
「如何する?俺に協力すればリバースキャノンの発射を中止するし…上陸部隊を撤退させるぞ…フィルドルクにとって苦渋の選択だ…」
「えっ…苦渋の選択…」
ウィルフィールドの発言にフィルドルクは反応する。
「貴様の選択によってテラトピア自由区の運命が決定される…」
「貴方の…目的は?」
フィルドルクは警戒した様子で恐る恐るウィルフィールドに問い掛ける。
「俺の目的は世界各地に存命する新人類が迫害されない新世界の構築だ…」
「新人類が迫害されない新世界?」
「俺の目的に協力すればフィルドルクの家族は勿論…友人も命拾い出来るぞ…貴様は実質テラトピア自由区の英雄として崇拝されるだろう…」
「僕には…」
一息したのである。
「やっぱり貴方には賛同出来ません…」
フィルドルクは再度拒否する。
「如何しても拒否するか?フィルドルク…貴様の選択によって大勢の人間達が抹消されるのだぞ…貴様は極悪非道の悪魔だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクを極悪非道の悪魔であると指弾したのである。
「俺が悪魔だと?貴様には失望したよ…フィルドルク…」
ウィルフィールドは無表情であるが…。内心ではガッカリしたのである。
「仕方ない…であれば実力行使だ…」
「実力行使って?」
ウィルフィールドは両手より電撃を発動したのである。
「うわっ!ぎゃっ!」
フィルドルクはウィルフィールドのエレクトロキネシスにより全身が麻痺する。エレクトロキネシスは本来拷問として使用される超能力である。
「非常に残念だよ…フィルドルク…貴様も俺に拒否するとは…」
『所詮は愚か者達だ…フィルドルクもストレイダスも…俺達は新人類同士…未来永劫仲良く共闘出来たのに…』
ウィルフィールドは新人類として彼等と仲良くしたかったのだが…。フィルドルクの拒否によって自身の目的は達成出来ないと自覚する。一方のフィルドルクは身動き出来ず…。涙腺より涙が零れ落ちる。
『ストレイダス叔父さん…僕は如何すれば?結局僕は…ウィルフィールドに殺されちゃうのかな?』
最期を覚悟したフィルドルクであるが…。
『フィルドルク…』
『えっ?』
フィルドルクの脳裏よりストレイダスの霊体が出現する。
『叔父さん?』
『思う存分に反撃しろ…フィルドルク♪フィルドルクなら出来るさ…』
『叔父さん…僕は…』
フィルドルクは覚悟したのである。
「ぐっ!」
フィルドルクはウィルフィールドの電撃エネルギーを体内に吸収し始める。
「ん!?」
『フィルドルクは…俺の電撃を吸収するとは…』
冷静だったウィルフィールドも自身の電撃エネルギーを吸収し始めたフィルドルクには愕然とする。
『此奴…短期間でこんなにも超能力が開花するとは…』
故人のストレイダスは勿論…。自身をも上回ると予想する。一方のフィルドルクは吸収した電撃エネルギーを球体に形作る。
「はっ!」
「なっ!?」
ウィルフィールドは咄嗟にエレクトロキネシスで鉄壁のエネルギーシールドを形成…。間一髪電撃エネルギーの無力化に成功したのである。
「シールド?」
「はぁ…はぁ…一歩間違えれば俺がヤバかったな…」
ウィルフィールドはフィルドルクの覚醒に冷や冷やする。フィルドルクは先程の電撃により負傷した傷口が治癒したのである。
「フィルドルクは治癒効果も開花するとは…貴様の潜在的能力は俺の予想以上だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクが末恐ろしくなる。一方のフィルドルクは無表情でウィルフィールドに近寄る。
「俺と勝負するか?フィルドルク…」
「貴方は叔父さんを殺害した張本人だけど…僕は貴方を殺害したくない…」
フィルドルクからは殺意は感じられない。
「俺は最愛の人間を殺した張本人なのに…殺害したくないとは…フィルドルクは余程の聖人なのだな…」
「如何にか部隊を撤退させて下さい…」
フィルドルクはウィルフィールドに懇願する。フィルドルクの懇願にウィルフィールドは沈黙したのである。すると直後…。近辺より爆発音が響き渡る。
「えっ!?一体何が!?爆発音!?」
「ん?何事だ?」
爆発音が響き渡ったのは湾内だったのである。湾内の中心部には大型輸送艦が爆散…。一瞬で轟沈する。
「畜生が…味方の大型輸送艦が敵軍の猛反撃で撃沈されるとは…」
テラトピア武装警察隊の猛反撃により万民解放軍の大型輸送艦一隻が撃沈されたのである。ウィルフィールドは不本意であるが…。
「止むを得ないな…こんな場所で貴様みたいな新人類を殺害するのは非常に勿体無いからな…」
「えっ…」
一瞬ウィルフィールドの返答に拍子抜けしたのである。
「作戦中の部隊を撤退させる…当然としてリバースキャノンの発射も中止する…」
ウィルフィールドはフィルドルクの懇願に承諾…。作戦中止を決定したのである。
「貴様の成長は見物だな♪フィルドルク…」
『今度再会出来たら…フィルドルクと共闘したいな…』
今度はフィルドルクを仲間に勧誘…。共闘出来たらと思考する。ウィルフィールドは携帯式のホログラム装置を作動させ作戦の中止を全軍に伝播させたのである。作戦中止から数時間が経過…。万民解放軍の撤退により一連の事件は終焉する。同事件はテラトピア大事変と命名されたのである。

最終話

屋上
テラトピア大事変から一週間後…。世界連合の協力により国内の復興作業が開始される。テラトピア大事変終結から二週間が経過…。世界連合軍による報復作戦が開始され万民解放区は占拠されたのである。両軍の死闘により十数万人もの将兵達が死傷するが…。武装は解除され本土に配備された艦艇やら多数のドローン兵器は接収されたのである。作戦終了後…。万民解放軍の首謀者ウィルフィールドの行方は不明であり今現在でも行方は捜索されるのだが依然として発見されない。半年後の十月上旬…。
「はぁ…」
フィルドルクは休憩時間に学園の屋上にて上空を眺望する。
『ウィルフィールドって軍人さん…行方不明なのかな…』
フィルドルクはウィルフィールドの行方が気になったのである。するとフィルドルクの隣接より…。
「フィルドルク♪」
「えっ!?メロティスさん!?」
メロティスは笑顔でフィルドルクを直視したのである。
「ニュース番組ではテラトピア武装警察隊が悪者達を撃退したって報道したけどさ…実際は貴方の大活躍なのよね?」
「えっ…」
メロティスに問い掛けられるとフィルドルクは返答に困惑する。
「僕は…別に…」
フィルドルクは表情が微妙だったのである。するとメロティスは笑顔で…。
「今現在の貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
「えっ?」
メロティスのスーパーヒーローの一言に反応する。
「貴方が奮闘したからこそテラトピア自由区は奴等に占領されなかったのよ♪正真正銘貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは僅少であるが微笑したのである。
「メロティスさん♪僕がスーパーヒーローか…」
するとメロティスは赤面した表情で…。
「今度の休日だけど…私と一緒に遊ばない?」
「えっ…メラティスさんと?」
彼女の発言にフィルドルクはドキドキし始める。
『えっ…ひょっとして…メロティスさんとデートとか!?僕が!?』
フィルドルクもドキドキしたのか赤面したのである。
「こんな僕で…大丈夫なの?メロティスさん?」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「貴方だからなの♪人外同士♪私は今後も貴方と交流したいのよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは大喜びする。
「僕こそ♪」
フィルドルクは満面の笑顔で返答したのである。
「メロティスさんは何したいの?」
「私は映画かな♪映画は映画でもホラー映画とか♪」
「ホラー映画ね♪」
フィルドルクは笑顔で返答するのだが…。
『ホラー映画って…メロティスさんらしい趣味だな…』
メロティスの趣味に内心苦笑いしたのである。苦笑いのフィルドルクであるが…。
『ストレイダス叔父さん…こんな僕にも…彼女が出来たよ♪』
極度の嬉しさからかフィルドルクは涙腺より涙が零れ落ちる。
完結
メンテ

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桜花姫 ( No.61 )
日時: 2021/08/30 08:44
名前: 月影桜花姫

第六話

斬首

亡霊新婦との戦闘から六日後の真夜中…。東国の中心街では何者かによって頭首を斬首される連続殺人事件が多発したのである。多発する殺人事件の発生に町民達は畏怖する。真夜中に二人組の武士団の邏卒が東国の中心街を夜番したのである。
「折角平穏が戻ったのに…殺人事件が三件も連続的に発生するなんて物騒だな…」
「恐らく匪賊の仕業だろうが…斬首するなんて随分悪質だよな…」
殺害された被害者達は三人とも頭首を斬首された状態であり翌朝には斬首された頭部と遺体が事件現場で発見される。すると小柄の邏卒がブルブルと寒気を感じる。
「こんな真夜中に人殺しなんかと出くわしたくないぜ…勘弁しろよな…」
「東国の武士団である俺達が人殺しに畏怖して如何する?こんな小事件で畏怖しちまったら俺達は世間様の笑い者だぜ…」
「今回も月影桜花姫様の出番だよな…彼女だったら百人力?千人力だろうし…」
邏卒が口走った月影桜花姫の一言に大柄の邏卒が苛立ち始める。
「桜花姫…桜花姫って…毎回不寝番の桜花姫に頼りっ放しだと東国の武士団は不必要だって村人達から造反されちまうよ!好い加減武士団の上役達も内部を改革させないと形骸化しちまうぞ…」
近年では不寝番の最上級妖女…。月影桜花姫の悪霊征伐により東国武士団の権威が失墜したのである。東国武士団の形骸化と他力本願が問題視され武士団内部からも改革派が出現…。武士団全体の再構築が公言されたのである。
「相手が匪賊だけなら俺達でも対処出来るかも知れないが…神出鬼没の悪霊なんて俺達では頑張っても如何にも出来ないだろ…」
「相手が悪霊だったらな…」
彼等が雑談中…。
「ん?」
東国と北国に国境に直結する両国橋より番傘を所持した赤色の着物姿の女性がポツンと佇立した様子であり天空の満月を眺望する。
「一体誰だろう?」
「こんな真夜中に女人が一人で何を…」
彼等は恐る恐る両国橋へと移動するなり…。番傘の女性の背後に近寄ったのである。女性は小柄の背丈であるが非常に美的の雰囲気であり頭髪には寒椿の髪装飾が確認出来る。
「真夜中だぞ…近頃は斬首事件で物騒だしこんな真夜中にあんたみたいな小町娘が一人で出歩くのは危険だぜ!即刻家屋敷に戻りやがれ!」
大柄の邏卒は強気の態度で女性に命令する。大柄の邏卒は強気であったが女性は無反応であり見向きすらしなかったのである。
「此奴…」
大柄の邏卒は女性の態度に苛立ったのか腹立たしくなる。
(畜生が…無視しやがって!)
すると小柄の邏卒が恐る恐る…。
「失礼なのですが…貴女様みたいな美人さんがこんな真夜中に一人で出歩かれたら人攫いに遭遇するかも知れませんし…即刻家屋敷に戻られませんか?」
小柄の邏卒が物静かに発言するも女性は反応しない。
「此奴…聾者っぽいな…」
「彼女は雛人形みたいだな…私達の問い掛けには反応しないし…」
(不吉だな…)
小柄の邏卒は女性の雰囲気に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
「貴様…こんな小町娘に畏怖するなんて♪余程の小心者だな♪」
大柄の邏卒は女性の背後へと移動するなり…。
「外見だけなら可愛らしい雰囲気だな♪素顔は別嬪かな?」
小柄の邏卒は身震いした様子で大柄の邏卒に制止する。
「女人に手出しするなよ!任務は如何する!?」
制止する小柄の邏卒に大柄の邏卒は強気で反論したのである。
「任務なんて後回しだよ♪後回し♪」
「後回しって…」
大柄の邏卒の無責任さに呆れ果てる。
「真夜中だし…人目は貴様だけだからな♪」
大柄の邏卒は欲情した様子であり赤面する。
「小町娘の姉ちゃんよ♪俺と一緒に夜遊びしないか?」
小柄の邏卒は膠着したのである。
(一体如何すれば…)
困惑した直後…。女性が背後を直視したのである。
「えっ?」
女性は半透明の血紅色の瞳孔であり無表情で大柄の邏卒を凝視する。
「素顔も別嬪だな♪」
大柄の邏卒が微笑した直後…。大柄の邏卒の喉元から血液が流れ出る。
「えっ?流血だと?」
大柄の邏卒は恐る恐る喉元に接触する。
「如何して流血した?」
すると直後…。
「えっ?」
大柄の邏卒の頭首が橋板に落下したのである。
「ひっ!」
(一体何が!?)
小柄の邏卒は極度の恐怖心により恐る恐る後退りし始め…。一目散に逃走したのである。翌朝…。東国と北国の国境に直結する両国橋にて斬首された大柄の邏卒の遺体が発見される。事件発生から三日後の真夜中…。東国の噂話を熟知した桜花姫は興味本位に闇夜の東国へと直行する。
(椿女郎…今夜は出現するかしら♪)
一時間後…。東国の中心街へと到達する。
「真夜中の東国って都会なのに無人の過疎地みたいだわ…」
日中は人通りが過多である東方国の中心街であるが…。真夜中では人通りは皆無であり東国武士団の夜間の外出禁止令により誰一人として通行者は確認出来ない。
「好都合ね♪」
今夜は武士団の巡邏も禁止される。
「悪霊を仕留めて思う存分熟睡するわよ♪」
適当に中心街を出回るのだが…。霊力らしい霊力を感じられず悪霊らしき物体は何一つとして発見出来ない。
「はぁ…」
(霊力も感じられないわね…普通の殺人事件かしら?)
困惑した桜花姫であるが…。
「両国橋は如何かしら…」
事件現場である東国と北国を直結する両国橋を想起したのである。
「両国橋に直行するわよ♪」
即座に両国橋へと移動する。数分後…。両国橋へと到達したのである。
「両国橋に到着したけれど…」
周囲を警戒するのだが…。霊力も人影も皆無であり桜花姫は落胆する。
「如何しましょう…」
(悪霊は発見出来ないし…無駄足だったわね…)
一息したのである。
「出直しかしら…」
西国に戻ろうかと思いきや…。突如として背後より人気を感じる。
「えっ?」
(人気かしら?)
彼女は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「誰かしら?」
桜花姫の背後には番傘を所持した赤色の着物姿の女性が真夜中の満月を眺望する。
(こんな真夜中に小町娘?)
彼女の頭髪には寒椿の髪装飾が確認出来る。
(番傘と寒椿の髪装飾…ひょっとして彼女は…)
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る一歩ずつ番傘を所持する女性へと近寄る。
「あんたは悪霊の椿女郎ね…こんな真夜中にあんたみたいな小町娘が一人で出歩くなんて不自然だわ…」
椿女郎とは戦乱時代に極悪非道の荒武者によって頭部を斬首された村娘の亡霊である。外見のみなら容姿端麗の小町娘であるが…。霊力は非常に強力であり彼女の瞳孔を直視した人間は彼女の霊力により頭首を斬首される。今現在でも成仏出来ずに各地を徘徊しては遭遇した人間の頭首を自身の霊能力で斬首したのである。桜花姫は女性に問い掛けるが…。番傘の女性は沈黙した様子であり只管天空の満月を眺望し続けるだけである。
(私の問い掛けに無視するなんて…腹立たしい悪霊ね…)
彼女の態度に桜花姫は腹立たしくなる。すると椿女郎は背後に位置する桜花姫の方向を直視する直前…。
「えっ!?」
桜花姫は即座に両目を瞑目させる。
(危機一髪だったわ…下手に彼女の瞳孔を直視すると斬首されちゃうのよね…)
桜花姫は瞑目した状態で恐る恐る後退りする。
(非常に厄介だわ…如何しましょう…)
瞑目し続けた状態では身動きすら不安定であり妖術を発動したくても集中出来ず思う存分に妖術も発動出来ない。
(こんな状態では不利だわ…)
「一か八か逃げましょう…」
桜花姫は両国橋から一目散に逃走したのである。
(緊張しちゃったから変化の妖術も発動出来ないわね…)
緊張したのと椿女郎の素顔が気になり変化の妖術を発動したくても発動出来なかったのである。
(彼女の素顔も気になるし…)
「一か八か…」
桜花姫は斬首を覚悟…。再度両国橋へと戻ったのである。数分後…。桜花姫は両国橋に到達する。両国橋には満月を眺望し続ける椿女郎が確認出来る。
(椿女郎だわ…今度こそ妖術で仕留めるわよ♪)
桜花姫は恐る恐る椿女郎に近寄る。
「椿女郎!今度こそあんたを成仏させるからね!覚悟しなさいよ!」
すると数秒後…。椿女郎は桜花姫に反応したのか再度背後の彼女を直視するなり無表情で桜花姫を凝視する。
(椿女郎って…悪霊なのに意外と美人さんなのね♪)
彼女の素顔は非常に美的であり桜花姫でさえも容姿端麗であると感じる。
(本当に斬首されるかしら?)
数秒間が経過したものの…。何も発生しない。
「別に大丈夫そうね♪」
大丈夫であると確信した直後…。
「えっ?」
喉元から赤色の液体が流れ出る。
「何かしら?」
桜花姫は恐る恐る首筋の液体に接触したのである。
「流血だわ…」
皮膚から流れ出る赤色の液体が血液であると確信した直後…。桜花姫の頭首が橋板に落下したのである。椿女郎は霊能力で桜花姫の頭首を斬首すると不吉の表情で微笑する。彼女は再度満月を眺望するのだが…。
「残念だったわね♪椿女郎♪」
椿女郎は女性の美声に反応したのか背後を直視すると両目を瞑目した無傷の桜花姫が佇立する。すると椿女郎の霊能力によって斬首された桜花姫の肉体と頭首から白煙が発生…。消滅したのである。無表情だった椿女郎であるが驚愕した表情で桜花姫を凝視する。
「あんたの表情を直視出来ないのは非常に残念だったけどね♪あんたが霊能力で斬首したのは私の分身体なのよ♪」
桜花姫は分身の妖術で形作った分身体を利用して椿女郎と接触…。彼女の形相を認識させたのである。桜花姫は変化の妖術を発動…。
「あんたの素顔は分身体で確認したからね♪あんたは桜餅に変化しなさい♪」
椿女郎を桜餅に変化させる。
「消耗した妖力を回復させないと♪」
桜餅に変化した椿女郎を一口で頬張る。
「美味だわ♪」
すると両国橋から感じられた不吉の霊力が消失する。
「事件解決ね♪私は西国に戻って思う存分熟睡するわよ♪」
無事事件を解決させた桜花姫は即座に西国へと戻ったのである。
メンテ
桜花姫 ( No.62 )
日時: 2021/08/30 08:45
名前: 月影桜花姫

第七話

悪戦苦闘

椿女郎との死闘から一週間後の真夜中…。東国と西国の国境の山道にて五人の匪賊達が一休みする。
「今日は大量でしたね♪米俵を二石も入手出来るなんて♪」
小柄の匪賊が笑顔で発言したのである。
「明日は如何しますかい?」
中肉中背の匪賊が問い掛ける。すると小柄の匪賊が笑顔で…。
「明日は西国なんて如何かな!?西国は田舎村だし食糧品を分捕るには最適だぜ♪」
小柄の匪賊の発言に大柄の匪賊が身震いしたのである。
「貴様は馬鹿か!?」
「えっ!誰が馬鹿だって!?」
大柄の匪賊の馬鹿発言に小柄の匪賊は腹立たしくなる。
「喧嘩したいのか!?」
大柄の匪賊は恐る恐る…。
「貴様は知らないのか?月影桜花姫の存在を…」
「月影桜花姫だって?誰だよ?」
周囲の者達は小柄の匪賊に呆れ果てる。
「貴様は本当に世間知らずだな…西国には最上級妖女の月影桜花姫が居住する妖女の魔窟だぞ…」
今度は中肉中背の匪賊が発言する。
「西国の村里なんか襲撃すれば…俺達みたいな凡人なんて桜花姫に瞬殺されちまうだろうな…」
「桜花姫って妖女は最強なのか?」
小柄の匪賊が問い掛けると大柄の匪賊が即答したのである。
「勿論最強だぞ…桜花姫は其処等の妖女とは別格に最強らしいし…俺達みたいな人間にも容赦しないらしいぞ…」
桜花姫は悪霊が出現しなければ時たま匪賊を征伐する。すると今度は別の小柄の匪賊が赤面した表情で…。
「桜花姫って…噂話では絶世の美女らしいな♪遭遇出来るなら遭遇したいぜ♪」
「貴様は相当の物好きだな…絶世の美女だとしても桜花姫は妖女だからな…所詮妖女なんて其処等の悪霊と一緒だろう…」
大柄の匪賊は揶揄したのである。
「兎にも角にも…明日は西国以外の人気の少なそうな村里を襲撃するか?」
「決定だな…」
すると直後…。
「うっ…」
突如として中肉中背の匪賊が極度の寒気により凍え始める。
「ん?如何した?」
「大丈夫か?」
「突然寒気が…」
極度の寒気からか全身が身震いしたのである。すると今度は大柄の匪賊が突然の寒気により凍え始める。
「俺も…」
「大丈夫かよ!?風邪か?」
直後…。周囲より気配を感じる。
「ん!?」
「気配だ…」
「人気か?」
突然の気配に匪賊達は警戒したのである。中肉中背の匪賊は恐る恐る…。
「人気なのか?」
「人気では…無さそうだな…」
「山犬か?」
匪賊達は恐る恐る護身用の刀剣を抜刀したのである。
「何が出現するか?」
目前の樹海より人影を確認…。匪賊達に接近する。
「人影だ…」
数秒後…。樹海より全身の皮膚が腐敗した小柄の怪物が出現したのである。
「ひっ!此奴は…」
「食人餓鬼って悪霊だったか?」
「此奴なら子供でも殺せるぜ♪打っ殺しちまえ!」
小柄の匪賊は食人餓鬼に近寄るなり頭部を斬首…。仕留めたのである。周囲の匪賊達は身動きしなくなった食人餓鬼に恐る恐る近寄る。
「身動きしなくなったぞ…」
「此奴は本当に雑魚みたいだな…」
食人餓鬼は非常に脆弱の悪霊であり頑張れば人間の子供でも仕留められる程度である。
「如何してこんな場所に悪霊が…」
「悪霊は神出鬼没だからな…」
「兎にも角にも…悪霊は仕留めたからな…一休みしないか?」
彼等は再度一休みするのだが…。再度寒気を感じる。
「今度も寒気を感じるぞ…」
「ひょっとして今度も悪霊が出現したか?」
彼等は再度警戒…。刀剣を抜刀したのである。
「今度は何が出現する?」
直後…。周辺の樹海より数十体もの食人餓鬼が出現したのである。
「今度は悪霊が大量に出現したぞ…如何する?」
「相手するか?」
すると大柄の匪賊が恐る恐る…。
「多勢に無勢だぜ…」
食人餓鬼は子供でも仕留められる程度の悪霊だが多勢に無勢であり圧倒的に不利である。
「逃げないか?」
「止むを得ないな…」
不本意であるが彼等は逃走を決意したのである。逃走する寸前…。
「ん?」
突如として食人餓鬼の大群は身動きしなくなる。
「えっ!?一体何が?」
身動きしなくなった食人餓鬼に匪賊達は何が発生したのか不思議がる。食人餓鬼は恐る恐る後退り…。鈍足の身動きで逃亡したのである。
「命拾いしたぜ…」
「奴等…如何して奴等逃げやがった?」
彼等は命拾いに安堵するのだが…。背後より気配を感じる。
「えっ…」
五人の匪賊達は恐る恐る背後を直視するなり…。
「ひっ!」
「蜘蛛の怪物だ!」
背後には正体不明の巨大蜘蛛らしき怪物が出現する。
「食い殺されちまう!逃げろ!」
彼等は一目散に逃走したのである。翌日の真昼…。西国に隣接する廃村の地面より野犬に咀嚼された大量の血肉やら人骨が無数に発見されたのである。近隣の村人達からは無間地獄の亡者達が出没したとの噂話が国全体に出回る。同時刻…。東国近辺の辺境地より食人餓鬼の大群が隣接する各地に出没したのである。村人達の噂話が気になった桜花姫は即刻問題の廃村へと直行する。
「廃村の無数の人骨と肉片…東国に出没した食人餓鬼の大群…」
(無数の悪霊が出現した因果関係は一体何かしら?)
西国から非常に近辺なのか数分間で到着する近距離である。桜花姫は恐る恐る廃村の様子を眺望する。
「随分殺風景ね…」
誰一人として村人が定住しない魔窟であり廃村から無数の霊力を察知したのである。
「廃村から無数の霊力を感じるわ…」
人気は皆無であり廃村の雰囲気から黄泉の国を連想させる。
「気味悪いわね…」
(空気も息苦しいし…)
廃村は非常に息苦しい場所であり普通の人間であれば卒倒しそうな雰囲気である。
「今回の超常現象では何が出現するのかしら?」
(亡霊新婦は勿論…亡霊女房よりも面倒臭いかも知れないわね…)
廃村の重苦しい空気からか気味悪くなる。廃村の雰囲気から無気力化するものの…。
「廃村中心部の楼閣が非常に不吉だわ…」
廃村中心地の楼閣から非常に重苦しい無数の霊力を察知したのである。
「妖力を消耗するのも面倒臭いからね…力任せで突破しちゃうわよ!」
彼女は鈍足であるものの真正面から廃村へと突入する。
「何かしら?」
すると周辺の地面より無数の食人餓鬼が出現…。大勢で道中を通行する桜花姫に殺到したのである。
「彼等なりの挨拶かしら?」
(食人餓鬼にとって私は嗜好品みたいね…)
桜花姫は即座に瞳術の天道眼を発動…。半透明の妖力の防壁を発動したのである。防壁の表面より半透明化した血紅色の魔手を無数に出現させる。
「鬱陶しい奴等だわ…」
妖力によって出現した無数の魔手は彼女に殺到する無数の食人餓鬼の猛攻撃から本体を防備…。血紅色の魔手は桜花姫に殺到する食人餓鬼を縦横無尽に蹴散らせる。
「人気者も災難だわ♪」
桜花姫は泰然自若とした様子であり無謀にも殺到し続ける食人餓鬼の大群を容易に死滅させたのである。桜花姫の発動した魔手に接触した食人餓鬼は一瞬で肉体が粉砕される。桜花姫が通過した直後…。桜花姫の通過した地面には食人餓鬼の無数の肉片やら血肉が彼女の路傍に散乱したのである。桜花姫は一直線に驀進するなり廃村中心部の楼閣へと到達する。
「楼閣から霊力を感じるわね…」
楼閣の最上階から不吉の霊力が感じられる。桜花姫は一息するなり…。恐る恐る楼閣へと潜入したのである。居室には異国風の調度品が散乱した状態であり居住者は誰一人として確認出来ない。
「如何やら大昔は富裕層の居住地だったのかしら…」
楼閣は全面的に洋式風の雰囲気である。
「室内の雰囲気は異国を意識したのかしら?異世界みたいだわ…」
洋式風の調度品ばかりであり異世界みたいに感じられる。階段にて最上層へと到達する。
「博物館みたいだわ…」
楼閣の最上層は骨董品の貯蔵庫であり桜花姫は無尽蔵の異国風の骨董品に魅了されたのである。
「楼閣の骨董品を競売しちゃえば私も富裕層かしら♪」
すると貯蔵庫の中心部には摩訶不思議なる骨董品が非常に気になる。
「何かしら?ひょっとして能面?」
桜花姫が気になった代物とは精巧に形作られた能面であるものの…。
「表情が気味悪いわね…」
能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。
「非常に悪趣味だわ…能面って外見的にも不吉なのよね…」
桜花姫は巨大能面を直視すると鳥肌が立つのか非常に気味悪くなる。
「私には所有者の感受性が理解出来ないわね…能面なんて気味悪いだけなのよ…私は大嫌いだわ…」
迂闊にも巨大能面に近寄るなり…。恐る恐る接触したのである。
「普通の能面よりも随分特大なのね…単なる装飾品なのかしら?」
先程から疑問視したのか桜花姫が楼閣へと潜入した直後に室内の霊力が完全消失する。
「霊力が感じられなくなったわ…」
霊力が皆無であると察知するなり桜花姫は恐る恐る庭園へと戻ろうかと思いきや…。背後から物音が響き渡る。彼女は即座に背後を警戒するなり…。
「えっ?一体何事!?」
巨大能面の両目部分が蛍光色へと変色した状態であり無数の人間の細腕らしき脚部が形作られる。姿形は巨大化した巨大人面蜘蛛であり中心部の胴体部分が巨大能面である。
「ひょっとしてあんたは器物の悪霊…【小面蜘蛛】かしら!?」
(厄介なのが出現したわね…)
小面蜘蛛とは器物である巨大能面へと憑霊した憑依系統の悪霊であり南国では別名巨大能面の付喪神とも命名される。器物に憑霊出来る呪術により天道眼を保有する桜花姫をも錯覚させる。小面蜘蛛の胴体部分である巨大能面の両目が桜花姫を凝視するなり微笑する。
「気味悪いわね…」
微笑する小面蜘蛛に桜花姫は気味悪くなる。すると巨大能面の口先より白色の蜘蛛糸を噴出したのである。
「きゃっ!」
小面蜘蛛の蜘蛛糸が彼女の皮膚に接触した直後…。
「ぐっ!」
(何かしら?妖力が消耗するなんて…)
体内の妖力が格段に消耗したのである。体内の妖力が一瞬で半減したのか肉体の身動きすらも負担に感じられる。
(迂闊だったわ…能面の正体が悪霊の小面蜘蛛だったなんて…如何して今迄気付かなかったのかしら?)
小面蜘蛛の蜘蛛糸に接触すると莫大なる妖力を一瞬で消耗する。大量の妖力を駆使する攻撃法では小面蜘蛛を仕留めるのは非常に困難である。莫大なる妖力と天道眼による多種多様の妖術を保有化…。自由自在に扱える桜花姫にとって小面蜘蛛は相性的にも最悪の天敵である。
(私は小面蜘蛛の餌食に…)
桜花姫は莫大なる妖力の消耗によって力尽きたのか横たわる。横たわった彼女の隣接に小面蜘蛛が急接近する。
「小面蜘蛛…」
(私を食い殺したければ食い殺しなさいよ…)
桜花姫は捕食されるのを覚悟したのである。
(最上級妖女の私が…悪霊を相手に圧倒されるなんて…)
彼女は僅少の妖力によって時空間停止の妖術の使用を決意する。
(一か八か…)
時空間停止の妖術を発動したのである。直後…。小面蜘蛛は一時的に身動きしなくなる。時空間停止の妖術は数分間のみ周囲の時間と空間を停止させられる妖術…。自身は身動き出来るが周囲の空間は何もかもが停止状態だったのである。
「今度は…」
瞬身の妖術を発動する。瞬身の妖術とは所謂瞬間移動であり瞬時に安全地帯に移動出来る。桜花姫は瞬身の妖術の使用により楼閣から無事脱出…。近辺の山道へと移動したのである。
(危機一髪だったわ…)
桜花姫は恐る恐る周囲を警戒…。無事に楼閣から脱出出来たのである。
「脱出には成功したみたいね…」
妖力の消耗によって妖術の使用は不可能であり一時的に退却を余儀無くさせられる。
(時空間停止の妖術は解除されたし…即刻戻らないと…)
大量の妖力消耗によって妖術が使用出来なくなり一時的に退却しなくては悪霊征伐が出来なくなる。
(こんなにも妖力を消耗した状態では妖術を使用出来ないわね…)
桜花姫は西国へと戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
周囲の地面より数体の食人餓鬼が出現する。彼等は地面に横たわった桜花姫へと殺到したのである。
「今度は食人餓鬼!?」
最早桜花姫は妖力を消耗した満身創痍の状態であり数体の食人餓鬼さえも仕留められなくなる。
(本調子の私だったら食人餓鬼なんて片手間で片付けられちゃうのに…)
本調子の彼女にとって食人餓鬼の大群相手は片手間であるものの…。大量の妖力を消耗した状態では複数の食人餓鬼さえも仕留められなくなる。彼等は無我夢中に横たわった桜花姫に殺到したのである。
「きゃっ!」
桜花姫は戦慄するなり恐る恐る後退りする。
(私は食人餓鬼に食い殺されちゃうのね…)
数体の食人餓鬼が彼女の肉体に接触する直前…。
「えっ!?」
食人餓鬼は突発的に身動きしなくなる。
「如何して身動きしなくなったの?」
恐る恐る地面を注視するなり…。
「きゃっ!蜘蛛糸だわ…」
小面蜘蛛の白色の蜘蛛糸を確認する。
「ひょっとして小面蜘蛛かしら?」
彼等の背後には標的である桜花姫を追撃する小面蜘蛛が近寄る。
「小面蜘蛛!?」
(今度こそ私は小面蜘蛛に食い殺されちゃうわ…)
小面蜘蛛に戦慄した桜花姫は全身が膠着したのである。金縛りの妖術によって楼閣から危機一髪脱出出来たものの…。小面蜘蛛は桜花姫の妖力を目印に彼女の居場所を察知する。必死に逃走する桜花姫を見逃さなかったのである。小面蜘蛛は体内から噴出させた蜘蛛糸によって身動き出来なくなった数体の食人餓鬼を捕食する。
「悪霊が悪霊を共食いするなんて…」
桜花姫は悪霊が悪霊を食い殺す残虐非道の場面に気味悪くなる。食い殺される食人餓鬼みたいに自分自身も小面蜘蛛に食い殺されるのではと想像すると自害したくなる。小面蜘蛛は横たわった桜花姫に近寄るなり…。小面蜘蛛の鋭利の脚部が桜花姫の腹部を抉り抜いたのである。
「ぎゃっ!」
急所を抉り抜かれた直後…。
「ぐっ!」
吐血したのである。地面は桜花姫の大量の出血によって血紅色に変色する。
(結局私は小面蜘蛛に捕食されちゃうのね…)
致命傷であり失血死寸前の瀕死状態である。最早全身の無感覚によって痛覚すらも感じられなくなる。身動き出来なくなった桜花姫は今度こそ最期を覚悟したのである。すると直後…。
「きゃっ!」
両目を瞑目すると耳元より爆発音が響き渡る。
(えっ!?爆発音?)
恐る恐る両目を見開くなり…。肉体を粉砕された小面蜘蛛の血肉が散乱した状態であり死滅した小面蜘蛛の背後には携帯式の榴弾砲を武装した僧侶服の何者かが地面に横たわった桜花姫に恐る恐る近寄る。
(誰かしら?)
僧侶服の人物とは僧侶の三蔵郎であり精神的にも肉体的にも衰弱化した桜花姫にとって三蔵郎は守護神にも感じられる。
「危機一髪でしたね…桜花姫様…」
「ひょっとして三蔵郎様?」
「桜花姫様…大丈夫ですか?」
三蔵郎は桜花姫の抉り抜かれた胸背の外傷を直視するなり…。
「桜花姫様…」
(致命傷ですね…)
桜花姫の外傷を直視した三蔵郎は絶句する。
「私なら大丈夫よ…外傷なら自力で治癒出来るから…」
「自力で治癒ですと?」
すると桜花姫の傷口は体内の妖力によって治癒されたのである。
「致命的外傷も一瞬で元通りなんて桜花姫様の妖力は正真正銘万能薬ですね…」
(ですが桜花姫様は出血多量の悪影響によって衰弱化された状態ですが…)
桜花姫は多量の出血により肉体的にも精神的にも疲弊した状態である。
「如何して人間の三蔵郎様が悪霊の小面蜘蛛を仕留められたのかしら?小面蜘蛛って悪霊でも段違いに強敵なのよ…」
「小面蜘蛛は妖力を無力化させる悪霊ですよね?妖力を多用すれば悪戦苦闘は必須でしょうが妖力が未利用の攻撃法によって撃退出来るのでしょうね…今回の悪霊は莫大なる妖力を保有する妖女では最悪の天敵かと…」
三蔵郎は妖力を利用しない攻撃法こそが小面蜘蛛にとって唯一の弱点であると推測する。小面蜘蛛は摩訶不思議の妖力を多用する妖女では相性的にも最悪であるものの…。武装化した人間には滅法脆弱である。
「ですが一安心ですね♪桜花姫様が無事なのが何よりですから…」
「三蔵郎様…」
桜花姫は涙腺から大粒の涙が零れ落ちるなり落涙する。
「三蔵郎様!」
桜花姫は三蔵郎の腹部に力一杯密着したのである。
「桜花姫様!?」
三蔵郎にとって彼女の様子は幼女であり純情可憐に感じられる。
「桜花姫様…」
(余程辛かったのでしょうね…)
疲弊した桜花姫を直視するなり…。三蔵郎は人一倍病弱だった愛娘を想起したのである。
(私の愛娘は一昨年…疫病によって…)
三蔵郎は一昨年伝染病で死去した愛娘を追想するなり内心極度の悲痛さを感じる。数分後…。
「桜花姫様?空腹なのでは?」
三蔵郎は空腹の彼女に麦飯を手渡したのである。
「御免あそばせ…こんな貴重品を私なんかに大丈夫なのかしら?」
「桜花姫様が空腹なのは一目瞭然ですし…桜花姫様が無事なのが何よりですから…桜花姫様は気になさらなくても大丈夫ですよ♪」
「三蔵郎様…」
桜花姫は三蔵郎の雰囲気が一瞬父親との距離感を想像したのである。すると感情が高揚したのか彼女の両目から大粒の涙が零れ落ちる。
(父親との距離感って…こんな雰囲気なのかしら…)
彼女は力一杯麦飯を平らげる。一瞬で麦飯を完食したのである。
「桜花姫様は相当空腹だったのですね…」
「小面蜘蛛の蜘蛛糸で体内の妖力を消耗させられちゃったからね…」
すると桜花姫は恐る恐る三蔵郎に告白する。
「私…一瞬三蔵郎様が私の父親だったらって…妄想しちゃったわ…」
「私が桜花姫様の父親ですと…」
桜花姫の発言に一瞬驚愕するものの…。
(私が桜花姫様の父親ですか♪)
三蔵郎は想像するなり内心大喜びしたのである。
「三蔵郎様?」
「如何されましたか?桜花姫様?」
桜花姫は叫喚地獄だった幼少期の出来事から悪霊退治屋として活動し始めた経緯を三蔵郎に一部始終追憶する。
「大昔の私はね…」
桜花姫の血筋は名門の武家一族…。月影一族の一人娘であり彼女の家系は分家に分類される。父親は東国武士団所属の最上級武士【月影夜叉丸】であり母親は人魚妖女の【月影美海姫】…。人間の夜叉丸と純血の妖女である美海姫の混血が愛娘の桜花姫である。父親の夜叉丸は天地歴九千九百九十二年四月七日の桜花姫の出産日前日にて死去…。母親の美海姫と一緒に生活したのである。東国武士団の最上級武士であった夜叉丸の財産によって毎日が暖衣飽食の生活であり非常に裕福であったものの…。桜花姫は春風駘蕩の毎日が非常に退屈であり武陵桃源の暖衣飽食に極度の倦怠感を感じる。憂鬱であった幼少期であるが彼女に人生最大の変化が到来したのである。不運にも十二歳の誕生日後日…。断崖絶壁の落石に直面する。不運にも桜花姫は落石によって背中を損傷したのである。
「私は落石で絶体絶命だったのよ…」
落石の事故後…。桜花姫は半死半生の状態であったものの背中の外傷が一瞬で自然治癒したのである。落石による外傷が全治した直後…。血紅色であった半透明の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。突如として体内の妖力が通常の妖女よりも桁違いに増大化…。規格外の妖力の覚醒により日に日に強大化した彼女は体内で蓄積された妖力を自力で抑制出来なくなる。
「当時子供だった私は妖力を自由自在に扱えなかったのよ…」
妖力を抑制出来なくなった桜花姫は不本意にも妖力の暴走によって唯一の肉親である母親の美海姫を殺害…。
(温厚篤実の桜花姫様が母君様を殺害ですと!?)
「桜花姫様が母君様を殺害されたのは事実なのでしょうか?」
「私が母様を殺したのは事実なのよね…」
三蔵郎は驚愕する。
「私は正真正銘残虐非道の殺人鬼なのよ…」
残虐非道の殺人鬼として明断された桜花姫は東国武士団の看守達により隔離される。監獄にて武士団の看守達から一晩中拷問されたものの…。桜花姫の規格外の生命力に戦慄したのである。看守達は桜花姫の常人をも超越した生命力に戦慄…。武士団の看守達は彼女を監獄から釈放させる。人間達にとって害悪である悪霊から村人達を防備する不寝番としての活動を必須要件として多種多様の悪霊やら大勢の匪賊達を問答無用に征伐したのである。妖力の順応化は非常に困難であったものの日に日に妖力を多用し続けた結果…。十八歳の中頃には伝説の秘術として伝承される瞳術の天道眼を開眼させたのである。
「桜花姫様が悪霊退治屋として活動された理由とは…不本意にも母君様を殺害された自分自身の罪悪感だったのですね…」
「内心忘却したい黒歴史なのよね…」
「ですが桜花姫様は人一倍勇猛果敢の女神様ですよ…勿論誰よりも♪」
桜花姫は三蔵郎の女神様発言に返答する。
「私が女神様なんて…三蔵郎様は随分表現が大袈裟ね…」
「桜花姫様は不本意にも幼少期に母君様を殺害されたのは事実なのかも知れません…ですが何よりも桜花姫様は罪滅ぼしとして無数の悪霊は勿論…極悪非道の匪賊達から村人達を守護する悪霊退治屋として粉骨砕身されたのも事実ですからね…」
「三蔵郎様…」
桜花姫の顔色が変化したのである。
「所詮妖女も生命体なのです…森羅万象に実在する生命体とは善悪の集合体であり非常に複雑ですからね…勿論こんな私自身にも悪心は存在しますよ♪」
三蔵郎の鼓舞激励によって微弱であるものの…。
「三蔵郎様♪三蔵郎様には大変感謝するわ…」
桜花姫に笑顔が戻ったのである。
「私自身桜花姫様に役立てただけでも恐悦至極に感じられますよ♪」
「三蔵郎様♪」
桜花姫は三蔵郎の鼓舞激励に一安心する。
「桜花姫様…今後は如何されますか?」
「無数の霊力が国全体に分散しちゃったみたいだからね…」
(亡者達が国全体に徘徊し続けると非常に大変だわ…)
突如として莫大なる無数の食人餓鬼の気配を察知したのである。
「国全体に霊力ですと!?一大事ですね…即刻悪霊を撃退しなければ…」
「食人餓鬼が増大化した悪影響ね…」
「ですがこんなにも突発的に食人餓鬼の大群が出現するなんて…」
「如何してこんなにも食人餓鬼の大群が出現しちゃったのかしら?」
すると桜花姫は三蔵郎に協力を要望する。
「三蔵郎様?」
「如何されましたか?桜花姫様?」
「今回ばかりは三蔵郎様の協力が必要不可欠なのよ…正直今回の悪霊征伐は私だけで解決するのは心細いのよね…」
正直今回も単独で悪霊事件を解決させたかったが先程の予想外の悪戦苦闘によって桜花姫は極度に心細くなる。
「勿論ですとも♪私は是非とも桜花姫様に協力しますよ♪」
桜花姫の要望に三蔵郎は大喜びで承諾したのである。
「三蔵郎様と一緒なら心強いわ♪」
メンテ
桜花姫※リメイク ( No.63 )
日時: 2021/08/30 08:46
名前: 月影桜花姫

第八話

敗走

桜花姫と三蔵郎は増大化した無数の霊力を感じる東国へと到達…。城下町の中心街に潜入したのである。東国の絶景は全域が主戦場であり城下町の地面には腐敗した無数の血肉は勿論…。散乱した血塗れの臓器やら血肉が無数に確認出来る。先程遭遇した食人餓鬼の大群が無数に出現…。逃走中の村人達に殺到するなり人間の血肉を無我夢中に捕食したのである。
「本物の地獄絵ですね…東国では一体何が…」
「彼等にとって人間の血肉は嗜好品だからね…」
徘徊中の無数の食人餓鬼が移動中の桜花姫と三蔵郎に殺到するなり…。大勢で襲撃するものの桜花姫が念力の妖術を発動すると彼等は瞬殺される。
「鬱陶しい悪霊だわ…」
桜花姫と三蔵郎の地面周辺には食人餓鬼の血肉やら体内の臓器が無数に散乱する。
(直接手出ししなくとも確実に殺害出来るなんて…)
三蔵郎は桜花姫の天道眼の効力に驚愕したのである。
「桜花姫様の妖力を肉眼で拝見しましたが…こんなにも天下無双とは非常に心強いですな…」
「私にとって片手間よ♪」
「片手間ですと!?」
(ですが桜花姫様の妖力がこんなにも強力であれば私の協力なんて無意味なのでは?)
内心桜花姫には同行者の協力は不必要なのではと感じる。
「鬱陶しい奴等ね…」
桜花姫は苛立った様子であり村人達の血肉を無我夢中に捕食し続ける食人餓鬼の大群に猛反撃したのである。無数の食人餓鬼の頭部を念力によって破裂させる。頭部が破裂した食人餓鬼は身動き出来なくなる。
「相手が微弱の食人餓鬼であれば…桜花姫様の妖力は天下無敵ですね♪」
「私にとって食人餓鬼なんて問題外よ…」
桜花姫にとって悪霊やら通常の妖女であれば滅法天下無双であるものの…。
(食人餓鬼が問題外でも妖力の消耗戦で私自身疲弊状態なのよね…)
先程の予想外の悪戦苦闘により妖力の消耗戦が影響したのか息苦しい深呼吸が目立ったのである。
「桜花姫様?」
「何かしら…三蔵郎様?」
「大丈夫ですか?何やら桜花姫様の顔色が…」
三蔵郎は息苦しそうに深呼吸する桜花姫を心配する。
「別に…私なら大丈夫よ…」
「ですが桜花姫様の顔色が…」
「三蔵郎様は人一倍心配性なのね…三蔵郎様が気にしなくても私は大丈夫だからね…」
城下町の中心地区域内へと到達するものの…。東国の村人達は誰一人として確認出来ない。
「無人地帯だわ…村人達の居場所は?」
「東国の村人達は武士団の本拠地である根城へと避難されました…最早東国全域が亡者達によって占拠されたのでしょうね…」
すると三蔵郎は桜花姫に助言する。
「桜花姫様の妖力は変幻自在かも知れませんが…先程の小面蜘蛛みたいな最上級の悪霊にでも遭遇すれば確実に苦戦するでしょう…護身用の装備品が必要不可欠かと…油断大敵ですよ…」
「護身用の装備品ですって?」
「武士団の駐屯地で装備品を確保しましょう…私が道案内しますよ…」
三蔵郎は桜花姫を道案内するなり一緒に駐屯地へと移動したのである。数分後…。桜花姫と三蔵郎は武士団の駐屯地に到達する。
「廃屋っぽいわね…」
「武士団の駐屯地も食人餓鬼の大群に占拠されましたからね…」
二人は恐る恐る駐屯地へと潜入したのである。駐屯地は無人化した廃屋であり武士団の守備隊は食人餓鬼の猛攻撃によって危機一髪撤退…。本拠地である根城へと退却したのである。
「常備軍は撤退しちゃったのかしら?」
通路は血塗れの刀剣やら甲冑が散乱した状態である。
「何しろ相手は神出鬼没の悪霊ですし武士団の守備隊が少数精鋭であったとしても無数の悪霊を撲滅させるなんて夢物語でしょう…ですが彼等が撤退した恩恵によって容易に潜入出来ましたからね…」
最早守備隊の駐屯地は無防備の状態であり非武装の村人達でも容易に潜入出来る。
「先程は私も駐屯地の武器庫で榴弾砲を確保しましたからね…」
桜花姫と三蔵郎は恐る恐る武器庫へと入室する。武器庫には多種多様の火縄銃やら手榴弾は勿論…。異国で購入された最新式の散弾銃やら携帯式の迫撃砲が無尽蔵に確認出来る。
「連発銃なんて如何でしょうか?連発銃であれば誰でも手軽に扱えるでしょう…」
三蔵郎は軽量化された携帯式の連発銃を桜花姫に手渡したものの…。
「三蔵郎様…残念だけど私には連発銃は相応しくないわね…」
桜花姫は連発銃の使用を拒絶する。
(私自身砲術は未経験だからね…連発銃なんて代物は私には扱えないわ…)
基本的に荒唐無稽の妖術を駆使する桜花姫にとって自身の肉体を行使する砲術やら武術は不向きであり連発銃の使用法は滅法専門外の領域である。
「短刀の懐刀だったら愚鈍の私でも…」
桜花姫は体術やら武術を多用する兵法は不向きであるものの…。比較的誰でも扱えそうな短刀の懐刀を護身用に所持する。
「三蔵郎様…即刻武器庫から脱出しましょう…」
「承知しました…」
すると通路より物音が響き渡る。
「通路から物音だわ…食人餓鬼かしら?」
通路より無数の霊力を察知したのである。
(無数の霊力が密集した状態だわ…何かしら!?)
桜花姫は恐る恐る武器庫から脱出するなり…。
「怪物!?」
通路に佇立する怪物とは無数の食人餓鬼が融合化した肉団子の悪霊である。
「食人餓鬼とは別物だわ…悪霊の変異体かしら?」
姿形のみなら肉団子を連想させる巨体の肉塊人間であるものの…。全身の皮膚の表面には醜悪なる食人餓鬼の顔面が無数に確認出来る。
「先程から感じる無数の霊力って…肉団子の怪物だったのね…」
三蔵郎も恐る恐る武器庫から退室する。
「ひょっとして悪霊の【百鬼食人餓鬼】では?」
「百鬼食人餓鬼ですって?」
「食人餓鬼の集合体ですよ…」
「食人餓鬼の集合体?」
三蔵郎は桜花姫に解説したのである。
「征伐された彼等の…無数の食人餓鬼の怨恨が具現化した悪霊の親玉でしょうね…」
「無数の食人餓鬼の怨恨が具現化ですって…」
図体は等身大の人間と同程度であり一匹一匹の食人餓鬼の霊力は非常に微弱であるものの…。
「傍迷惑なのが出現したわね…」
食人餓鬼の大群が無数に融合化した影響によって最上級の妖女である桜花姫も恐る恐る後退りする。
(私が万全の状態であれば…食人餓鬼の集合体なんて片手間だけれども…)
妖力の消耗戦により百鬼食人餓鬼との徹底抗戦は非常に難局である。
(迂闊にも小面蜘蛛から大量の妖力を消耗させられちゃったからね…)
すると百鬼食人餓鬼の全体像から確認出来る表面の食人餓鬼の口辺より超高温の熱風を放射する。桜花姫は咄嗟に霊力の防壁を発動…。同行者である三蔵郎にも妖力の防壁を発動するなり危機一髪彼を熱風から防備する。
「三蔵郎様…命拾いしたわね♪」
「感謝します桜花姫様…即刻ですが桜花姫様の妖術で百鬼食人餓鬼に猛反撃しちゃいましょう♪桜花姫様が天下無敵の妖術を駆使しちゃえば集合体の百鬼食人餓鬼だって撃退出来るでしょう!」
「三蔵郎様…」
桜花姫は苦笑いしたのである。
「桜花姫様…如何されたのですか?」
苦笑いする桜花姫に恐る恐る問い掛ける。
(先程の妖力の防壁で空っぽの状態なのよね…)
妖力が空っぽの状態であり百鬼食人餓鬼と応戦しても敗戦は確実であると判断した桜花姫は苦し紛れに…。
「三蔵郎様!即刻駐屯地から一か八か脱出しましょう…」
三蔵郎に逃走を合図したのである。
「えっ?脱出ですと?」
三蔵郎は一瞬困惑するが…。
(桜花姫様…)
桜花姫の表情から三蔵郎は咄嗟に掌握する。
「承知しました!桜花姫様…」
桜花姫と三蔵郎は全力疾走により駐屯地から無事脱出したのである。桜花姫は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「三蔵郎様…危機一髪だったわね♪」
「ですが如何して桜花姫様は逃走を判断されたのですか?桜花姫様らしくないですね…」
三蔵郎は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫様が天下無敵の妖術を駆使すれば食人餓鬼の集合体である百鬼食人餓鬼と交戦したとしても容易に撃退出来るのでは?」
「度重なる消耗戦で妖術が発動出来なくなったのよ…こんな空っぽの状態で百鬼食人餓鬼と徹底抗戦なんて無謀だわ…」
度重なる妖力の消耗戦によって桜花姫は満身創痍の状態であり妖力を消耗した状態では食人餓鬼の集合体である百鬼食人餓鬼は勿論…。相手が食人餓鬼の大群だったとしても絶体絶命である。
「人間の三蔵郎様は勿論…最上級妖女の私だって確実に瞬殺されるでしょうね…」
「えっ…最上級妖女の桜花姫様が悪霊を相手に瞬殺されるなんて…」
三蔵郎は桜花姫が非常に弱気であると感じるも…。桜花姫は息苦しく深呼吸したのである。
(桜花姫様…本当に重苦しい様子ですね…)
三蔵郎は恐る恐る…。
「如何やら妖力が消耗されたのは本当みたいですね…桜花姫様…」
「御免なさいね…三蔵郎様…」
桜花姫は謝罪したのである。
「妖力を消耗した状態では食人餓鬼の大群を相手するのも正直悲痛なのよね…『天霊山』の露天風呂にでも入浴出来れば…」
「天霊山の露天風呂ですか?」
天霊山とは西国の丘陵地であり俗界の温泉郷と命名される。妖女にとって天霊山の露天風呂は消耗した妖力を回復させられる正真正銘の妖力補給所であり極楽浄土である。
「西国の露天風呂なら思う存分妖力を回復させられるのよね…」
「西国は俗界の温泉郷ですからね…」
西国は天球神国唯一の温泉郷であるものの…。不運にも東国から田舎村の西国は遠距離である。
「距離的にも西国は遠距離なのよね…」
困惑し続ける桜花姫と三蔵郎であるが二人の背後より百鬼食人餓鬼が接近する。
「桜花姫様!?百鬼食人餓鬼ですよ!」
「私達を追尾したのね…」
(如何やら私達に選択肢は皆無みたいだわ…)
桜花姫と三蔵郎は一目散に逃走したのである。
「三蔵郎様…超特急で西国に戻りましょう…」
桜花姫は一時的に撤収を決意する。
「承知しました!」
二人は恐る恐る悪霊の襲撃を警戒するなり獣道にて西国へと全力疾走したのである。親玉の百鬼食人餓鬼は勿論…。食人餓鬼の身動きは非常に鈍足であり彼等から追尾されなかったのである。
メンテ
桜花姫※リメイク ( No.64 )
日時: 2021/08/30 08:47
名前: 月影桜花姫

第九話

反撃

同時刻…。北国のとある山道では旅先にて蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫が食人餓鬼の大群に追尾されたのである。
「ぐっ!」
「蛇骨鬼婆ちゃん!大丈夫!?」
蛇骨鬼は北国の山奥にて食人餓鬼の大群から逃走中…。極度の腰痛により身動き出来なくなる。獣道にて蛇骨鬼は横たわる。
「畜生…」
(こんな状況下で腰痛なんて…)
すると彼女達の背後より無数の食人餓鬼が急接近したのである。
(私の命日かね…)
「本日で神族も全滅かも知れないね…」
蛇骨鬼は覚悟する。すると小猫姫は無表情で…。
「蛇骨鬼婆ちゃん…私…」
「小猫姫?」
小猫姫の体内より強大化した妖力を感じる。
「小猫姫!?」
(小猫姫から妖力を感じる…)
小猫姫の皮膚から蛍光色の秘められた妖力が表面化する。
「小柄の小猫姫に…こんなにも潜在的妖力が…」
(ひょっとすると小猫姫は妖力だけなら幼少期の桜花姫ちゃんに匹敵するかも知れないね…)
蛇骨鬼は小猫姫の潜在的妖力に驚愕したのである。すると小柄の小猫姫は肉体が変化するなり…。伝説の妖獣へと変化したのである。
「ひょっとして伝説の…妖獣!?」
(子供の小猫姫が…伝説の妖獣に変化出来るなんて…)
小猫姫の潜在能力に蛇骨鬼は勿論…。悪霊の食人餓鬼でさえも伝説の妖獣へと変化した小猫姫を直視するなり一瞬後退りしたのである。
「あんた達!蛇骨鬼婆ちゃんには…手出しさせないからね!覚悟しなよ!」
伝説の妖獣に変化した小猫姫は食人餓鬼の大群へと突進…。真正面に位置する数体の食人餓鬼を撃退する。極度に腐敗した食人餓鬼の肉体は非常に脆弱であり伝説の妖獣に変化した小猫姫が力一杯突進すると容易に粉砕されたのである。食人餓鬼の大群が再度小猫姫に殺到するものの…。小猫姫は口先を開口すると体内の妖力を凝縮させる。すると直後…。口先から高熱の雷球を射出したのである。高熱の雷球により獣道は焦土化…。一瞬で食人餓鬼の大群を消滅させ獣道の推定二町の界隈が焦土化したのである。圧倒的妖力により食人餓鬼の大群を消滅させた小猫姫であるが…。莫大なる妖力の消耗により小猫姫は元通りの姿形に戻ったのである。
「はぁ…はぁ…」
彼女は精神的にも肉体的にも疲弊したのか地面に横たわる。
「小猫姫!?大丈夫かい!?」
すると小猫姫は疲れ果てた表情で返答する。
「蛇骨鬼婆ちゃん…私なら大丈夫だよ…疲れ果てただけだから…」
「小猫姫…」
小猫姫の様子に蛇骨鬼は一安心したのである。
「桜花姫姉ちゃんは…大丈夫かな?」
彼女は桜花姫が大丈夫なのか非常に気になる。
「桜花姫ちゃんなら小猫姫が心配しなくても大丈夫だよ♪桜花姫ちゃんの場合妖女は妖女でも最上級の妖女だからね♪彼女の妖力は其処等の妖女とは別格だよ…」
蛇骨鬼は笑顔で断言する。
「桜花姫姉ちゃんなら…大丈夫だよね♪」
「桜花姫ちゃん…彼女なら今頃は…」
同時刻…。桜花姫と三蔵郎は無事に西国へと到達する。
「如何やら西国に到達したみたいですね♪桜花姫様の祖国ですか?」
「勿論よ♪無事に西国に戻れたから一安心だわ…」
時間帯は真夜中であり物静かな暗闇の夜空を眺望すると桜花姫と三蔵郎は一安心したのである。
「夜空だわ…」
桜花姫は物静かな夜空を眺望したのである。すると三蔵郎が笑顔で…。
「田舎村の西国へは食人餓鬼の襲撃は皆無だったみたいですね♪桜花姫様の祖国が無事なので一安心ですよ♪」
「油断大敵だけれどね…西国は正真正銘武陵桃源だったみたいだわ…」
過疎地である西国は総人口も比較的少人数であり神出鬼没の食人餓鬼の大群も襲撃しなかったのである。桜花姫と三蔵郎は桜花姫の自宅の近辺に隣接する天霊山へと直行する。
「目的地の天霊山よ…」
「天霊山とは…こんなにも低山だったのですね…」
三蔵郎は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「ですが天霊山の露天風呂なんかで…消耗された妖力を回復させられるのですか?」
「天霊山の露天風呂は私達妖女にとって極楽浄土だからね♪天霊山の露天風呂なら消耗しちゃった妖力だって回復させられるわ♪」
天霊山は非常に物静かであるが桜花姫は極度に周囲を警戒…。恐る恐る天霊山の天辺へと到達したのである。天霊山の天辺中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「天霊山の露天風呂…本物の幻想郷みたいですね♪」
「天霊山は神秘の場所よ♪私にとって天霊山の露天風呂で入浴するのが毎晩の醍醐味だからね♪」
桜花姫は毎晩天霊山の露天風呂で入浴する。
「自然界での入浴とは非常に健康的ですからね♪」
すると彼女は人前であるものの…。特段気にならなかった様子であり突如として着物を脱衣したのである。
「なっ!?桜花姫様!?」
三蔵郎は公明正大に着物を脱衣する桜花姫に驚愕する。
「何かしら?三蔵郎様…」
桜花姫は無表情で返答したのである。
「桜花姫様…人前で何を!?」
彼女は平気そうな表情で…。
「何って…入浴するから着物を脱衣しただけよ…」
桜花姫は全裸の状態であり三蔵郎の表情が赤面する。すると赤面した三蔵郎の反応に桜花姫は笑顔で…。
「三蔵郎様は大袈裟ね♪」
桜花姫は赤面する三蔵郎の様子に微笑ましくなる。
(生真面目の三蔵郎様も悩殺しちゃったわね♪)
三蔵郎は人前で脱衣しても平常心である桜花姫に愕然とする。
「私にとって三蔵郎様は特別だから大丈夫なのよ♪別に全裸だからって私は気にしないから…」
「気にしないって…桜花姫様は正真正銘女性なのですよ…」
桜花姫は全裸の状態であろうとも平常心の様子である。
「私自身全裸でも気にならないのよね♪人前で全裸だからって何よ?三蔵郎様は大袈裟ね♪」
「妖女とは…」
(妖女って私達人間とは感覚が別次元なのでしょうね…)
三蔵郎は摩訶不思議の妖女が人間とは異質的であると再認識する。
「変化の儀式を発動するわよ…」
「変化の儀式ですと?」
すると桜花姫の全身の皮膚が虹色に変化したかと思いきや…。
「桜花姫様!?」
三蔵郎は強烈なる無数の発光体によって両目を瞑目させる。すると桜花姫の血紅色であった両目が瑠璃色へと変化したのである。直後…。彼女の下半身が銀鱗の大魚へと変化するなり人間の女性から美貌を感じさせる人魚の肉体へと変化したのである。黒毛の頭髪が銀髪へと変色する。
(えっ…桜花姫様が…)
「人魚に!?」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられるが自分自身の肉体をあらゆる動植物にも変化させられる。雰囲気の変化した彼女に三蔵郎は驚愕の様子であり…。内心人魚に変化した桜花姫に見惚れる。
「三蔵郎様♪如何かしら♪」
人魚に変化した桜花姫は普段の体格を一回り上回る巨体であり人魚の状態で入浴したのである。
(桜花姫様が人魚に変化出来る理由とは天道眼の効力なのでしょうか?)
「桜花姫様は人魚にも変化出来るのですね…」
「私の母様が人魚の血筋だからね♪」
彼女の母親である美海姫は純血の人魚であり桜花姫も美海姫の血筋により人魚に変化出来る。
「折角だし三蔵郎様も私と一緒に混浴しないかしら?適度の湯加減だし♪」
「えっ!?私が桜花姫様と混浴ですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。桜花姫に笑顔で歓迎されるものの…。今回ばかりは拒否したのである。
「桜花姫様…生憎ですが今回ばかりは私は遠慮しますよ…私は無事超常現象が解決してから桜花姫様と一緒に混浴でも♪」
三蔵郎は赤面する。
「三蔵郎様は遠慮深いのね♪」
桜花姫は満足気の様子であり度重なる悪戦苦闘によって消耗した妖力が体内に蓄積…。万全の状態へと戻ったのである。
(如何やら桜花姫様の妖力が回復したみたいですね…)
三蔵郎は露天風呂で水遊びする桜花姫を見守るものの…。
(今更なのですが…私も桜花姫様と一緒に混浴したかったな…如何して私は遠慮しちゃったのか…)
三蔵郎は後悔したのか無我夢中に水遊びする桜花姫の様子を注視し続けると内心彼女と混浴したくなる。
「天霊山の露天風呂は極楽浄土だわ…先程の悪戦苦闘が悪夢だったって感じられるのよね…」
桜花姫は真夜中の夜空を眺望する。
「ですが桜花姫様は今後如何されるのですか?食人餓鬼の大群は勿論ですが…百鬼食人餓鬼の暴走を黙殺し続ければ国全体が彼等に占拠されましょう…」
「体力と妖力を回復させたら即刻猛反撃するからね♪私が全身全霊で食人餓鬼の大群と百鬼食人餓鬼の大群を蹴散らしちゃうわよ!」
数分後…。露天風呂の効力によって桜花姫の妖力が完全に回復したのである。入浴終了後…。桜花姫は人魚の状態から人間の姿形へと元通りに戻ったのである。桜花姫は即座に脱衣した着物を着衣する。
「三蔵郎様…妖力は万全よ!万全の状態なら食人餓鬼の大群は勿論…百鬼食人餓鬼が襲撃したとしても撃退出来るわ!」
「如何やら本調子が戻ったみたいですね♪桜花姫様♪」
すると三蔵郎は突発的に彼女に提案したのである。
「桜花姫様?突発的なのですが別行動は如何でしょうか?」
「別行動ですって?」
「桜花姫様は東国の城下町に出現した食人餓鬼の大群と親玉の百鬼食人餓鬼の征伐に全身全霊を…私は彼等の大群が出現した主要因を徹底的に探索します…」
「百鬼食人餓鬼は勿論…東国の城下町には神出鬼没の食人餓鬼の大群が徘徊中なのよ…人間の三蔵郎様が単独で出歩くのは自害するのと一緒だわ…」
桜花姫は非常に危惧するものの三蔵郎は大丈夫であると断言する。
「私は先程武器庫で無尽蔵の弾薬と護身用の連発銃を確保しましたからね♪私なら大丈夫ですよ…」
「悪霊が大群であれば即座に避難するのよ…三蔵郎様…」
「承知しました…桜花姫様…」
桜花姫の心配事を把握するなり三蔵郎は恐る恐る東国の城下町へと戻ったのである。桜花姫と三蔵郎は本格的に別行動を開始する。
「三蔵郎様は単独で大丈夫かしら…」
桜花姫は三蔵郎が単独で大丈夫なのか不安視したのである。桜花姫は天道眼を発動…。東国の中心街を徘徊する百鬼食人餓鬼の居場所を察知する。
「百鬼食人餓鬼の気配を感じるわ…」
百鬼食人餓鬼の霊力は規格外であり周辺には無数の食人餓鬼が徘徊中であるものの…。容易に居場所を特定化出来る。
「百鬼食人餓鬼だけは規格外だからね…霊力が目立ち過ぎだわ…」
(霊力が強力だから容易に居場所を特定化出来るのよね♪)
桜花姫は即座に東国へと直行する。獣道にて徘徊中の無数の食人餓鬼に遭遇するものの即座に念力の妖術を発動…。容易に彼等を蹴散らせる。
「周辺の妨害者達が鬱陶しいわね…」
無数の食人餓鬼が大勢で殺到するものの…。彼女の本体に接触する直前に彼等の肉体が念力の妖術によって粉砕されたのである。露天風呂の効力からか先程よりも桜花姫の妖力が増強化する。数分後…。
「百鬼食人餓鬼は中心街で徘徊中ね…」
桜花姫は東国の中心街へと到達する。
(百鬼食人餓鬼は私が仕留めるからね♪)
「覚悟しなさいよ…」
桜花姫は恐る恐る東国の中心街へと潜入したのである。
「村人達だわ…」
(非常に心苦しいわね…)
農村地帯は食人餓鬼の襲撃によって惨殺された村人達の血肉やら無数の肉片が散乱する。
「彼等は食人餓鬼の襲撃によって惨殺されたのね…」
すると横たわった村人達が突発的に身動きし始めたのである。彼等は通行中の桜花姫に殺到する。
「きゃっ!」
桜花姫は咄嗟に念力の妖術を発動…。
「死滅しなさい!」
殺到する村人達の腹部を念力の妖術で粉砕したのである。村人達を仕留めたかと思いきや…。
「えっ!?」
上半身のみで身動きするなり桜花姫に急接近する。
(上半身のみで身動き出来るなんて…)
即座に念力の妖術を再活用するなり食人餓鬼へと変化した村人達の頭部を粉砕…。すると頭部を粉砕された影響からか村人達は身動きしなくなる。
「脳味噌を粉砕しちゃえば身動き出来なくなるみたいね…」
如何して食人餓鬼によって殺害された村人達が突発的に身動きしたのか疑問視する。
「如何して食人餓鬼に食い殺された村人達が身動きしたのかしら…」
(ひょっとすると食人餓鬼に食い殺された人間も食人餓鬼として復活するのかしら?疫病みたいだわ…)
通常の食人餓鬼は捕食されても食人餓鬼には変化しなかったが今回の天災地変で出現した食人餓鬼は今迄に出現した食人餓鬼とは別物であり捕食…。殺害された人間も食人餓鬼として復活するのである。
「食人餓鬼に襲撃された人間達が食人餓鬼として復活するのであれば相当厄介だわ…」
最早祖国存亡の瀬戸際であり最悪の場合…。食人餓鬼の増大化による天球神国の滅亡が危惧される。
「東国は勿論…最悪天球神国が滅亡するかも知れないわね…」
すると突発的に胸騒ぎを感じる。
「霊力かしら!?」
彼女の背後には無数の人面が融合化した百鬼食人餓鬼が佇立する。
「百鬼食人餓鬼だわ…」
百鬼食人餓鬼の無数の人面が桜花姫を睥睨の眼力で凝視するなり超高温の熱風を放射したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。超高温の熱風から本体を防備したのである。
「危機一髪ね♪」
天道眼の効力により百鬼食人餓鬼の頭頂部から雷撃の妖術を発動する。
「死滅しなさい!百鬼食人餓鬼…」
すると高熱の落雷によって地面は陥没…。百鬼食人餓鬼の肉体が粉砕される。
「仕留めたかしら?」
落雷で粉砕された無数の肉片が小柄の人間体を形作るなり無数の食人餓鬼へと分裂したのである。
(粉砕された肉片が食人餓鬼に分裂したのね…)
桜花姫は超高温の火炎の妖術を発動…。分裂した食人餓鬼の大群を火炎の妖術で焼殺する。
「亡者達…成仏しなさい…」
火炎の妖術により数秒間で食人餓鬼の大群は完全焼失したのである。
「焼失したわね…楽勝だったわ♪」
桜花姫は手応えを感じる。
「三蔵郎様は大丈夫かしら?」
桜花姫は三蔵郎が無事なのか如何なのか非常に気になる。
メンテ
桜花姫※リメイク ( No.65 )
日時: 2021/08/30 08:47
名前: 月影桜花姫

第十話

仙女

同時刻…。三蔵郎は無事に東国へと到達したのである。各家屋敷の路地裏を通行中…。とある血塗れの女性と遭遇したのである。三蔵郎は恐る恐る…。
「大丈夫ですか?」
女性は無表情であり三蔵郎を凝視し続けるだけである。
「如何されましたか?」
(不吉ですね…)
女性の様子に三蔵郎は非常に気味悪くなる。すると数秒後…。無表情の女性は突発的に卒倒したのである。
「うわっ!」
驚愕した三蔵郎は恐る恐る横たわった彼女の皮膚に接触するなり…。
「如何やら失血死したみたいですね…」
(悪霊によって殺害されたのでしょうか…無念です…)
数秒後に失血死した女性が佇立したのである。すると数秒後…。女性の肉体が一瞬で腐敗したのである。
「肉体が一瞬で腐敗するなんて…」
三蔵郎は気味悪がる。横たわった女性の肉体が腐敗したかと思いきや…。
「此奴は食人餓鬼!?」
腐敗した彼女の体内から小柄の食人餓鬼が出現したのである。
(ひょっとして食人餓鬼によって殺害された人間は食人餓鬼として復活するのでしょうか?)
突如として女性の体内から出現した食人餓鬼が三蔵郎に近寄るものの…。三蔵郎は即座に護身用の連発銃で食人餓鬼の頭部を狙撃したのである。すると頭部を狙撃された直後に食人餓鬼は身動きしなくなる。
「疫病みたいですね…」
すると背後に無数の殺気を感じる。
(殺気!?)
恐る恐る背後を警戒するなり…。
「食人餓鬼と…村人達でしょうか?」
無数の食人餓鬼と血塗れの村人達が大勢で山奥へと移動する。
「彼等の目的地は一体?」
彼等の行動が気になった三蔵郎は彼等の背後から恐る恐る追尾したのである。数分後…。三蔵郎は日和山と命名される低山へと到達したのである。日和山の天辺には虹色に発光する摩訶不思議の広葉樹が確認出来る。
「摩訶不思議の広葉樹ですな…」
すると無数の食人餓鬼と血塗れの村人達が虹色に発光する広葉樹の表面へと殺到したのである。すると広葉樹の表面から無数の触手が出現するなり…。樹木の表面に密着する食人餓鬼と血塗れの村人達は広葉樹から出現した触手によって肉体諸共捕食されたのである。
「広葉樹が食人餓鬼と村人達を捕食するなんて…樹木の悪霊でしょうか…」
数秒後…。広葉樹の表面より無数の食人餓鬼の集合体である百鬼食人餓鬼が二体も出現したのである。
「百鬼食人餓鬼!?」
(悪霊の親玉が二体も出現するなんて…)
三蔵郎は気味悪がるなり恐る恐る後退りしたのである。すると突然…。金縛りによって身動き出来なくなる。
「ぐっ!」
(一体何が!?身動き出来なくなるなんて…)
三蔵郎は身動き出来なくなった状態から突発的に衰弱化したのである。
(突然眠気が…桜花姫様…)
同時刻…。三蔵郎の気配を感じられなくなった桜花姫は即座に東国近辺に位置する日和山へと急行する。
「突然三蔵郎様の気配が感じられなくなったわ…三蔵郎様は一体何に遭遇しちゃったのかしら?」
低山の日和山から食人餓鬼の無数の霊力とは別物の神通力を感じる。
「食人餓鬼の霊力なら感じるけれども…」
(中心部から百鬼食人餓鬼を上回る霊力?神通力を感じるわ…神通力の正体は何かしら?)
すると桜花姫の背後より無数の食人餓鬼は勿論…。二体の百鬼食人餓鬼が出現したのである。
「百鬼食人餓鬼が二体も出現するなんて…」
食人餓鬼の大群と二体の百鬼食人餓鬼が桜花姫に殺到する。
「鬱陶しい奴等だわ…多勢に無勢なら♪」
こんなにも絶体絶命であるものの…。桜花姫は平常心の様子である。
「あんた達…桜餅に変化しなさい♪」
桜花姫は変化の妖術を発動するなり無数の食人餓鬼は勿論…。二体の百鬼食人餓鬼を自身の大好物である桜餅に変化させる。
「美味しそうだわ♪消耗しちゃった妖力を回復させられるわね♪」
桜花姫は無尽蔵の桜餅を頬張る。
「美味しいわね♪」
無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「三蔵郎様の安否を確認しないと!」
すると彼女の背後より四人の匪賊達が近寄る。
「よっ♪花魁の姉ちゃんよ♪」
「あんた達は…何者よ?私は十中八九普通の小町娘だからね…花魁なんかと勘違いしないでよね…」
接触する匪賊達に苛立ったのである。
(面倒臭いわね…ひょっとして匪賊達かしら?こんな場所で匪賊と遭遇するなんて私も不運だわ…)
彼等の装備品は刀剣やら携帯式の連発銃であり桜花姫は警戒するなり恐る恐る後退りする。
「不用意に警戒しなくても大丈夫だよ♪大人しく金品を手渡しちゃえば小町娘の姉ちゃんには手出ししないからよ♪」
「俺達は誰よりも温厚篤実の若侍だからな♪」
「あんた達が温厚篤実の若侍ね…」
(匪賊の分際で何が若侍よ…)
桜花姫は彼等を軽蔑するなり…。無表情で反論する。
「私はあんた達みたいな田舎侍とは大違いで常日頃から大忙しなの…殺されたくなければあんた達こそ逃走するのね…」
「はっ?殺されたくなかったらって…」
「俺達を田舎侍って軽蔑するなんて片腹痛いぜ♪小町娘の姉ちゃんよ♪」
「小町娘の姉ちゃんは余程の命知らずみたいだな♪」
彼等は桜花姫の発言に苛立ったのである。
「命知らずなのはあんた達でしょう?こんな天災地変なのよ…あんた達だって悪霊に食い殺されるかも知れないのに…」
桜花姫は無表情で反論する。
「如何やら本当に打っ殺されたいらしいな…」
「相手は所詮小娘!力尽くでも金品を強奪しちまえ!」
匪賊達は桜花姫に殺到したのである。
「鬱陶しい奴等だわ…」
桜花姫は即座に天道眼を発動…。
(雨蛙に変身しちゃえ♪)
変化の妖術によって巨漢の匪賊を微弱の雨蛙に変化させる。すると三人の匪賊達は桜花姫の妖術で雨蛙に変化させられた匪賊を恐る恐る凝視するなり…。驚愕したのである。
「ひっ!如何して人間が雨蛙に!?」
「妖術なのか…」
すると小柄の匪賊が恐る恐る…。
「ひょっとして貴様は…」
「私が誰かって?」
桜花姫は笑顔の表情で名前を名乗る。
「私は悪霊退治屋の桜花姫…月影桜花姫よ♪」
笑顔で名前を名乗る桜花姫に彼等は驚愕したのか恐る恐る後退りしたのである。
「なっ!?月影桜花姫って冗談だろ…」
「貴様が最上級妖女って噂話の…月影桜花姫なのか!?」
「本物かよ…」
匪賊達は後退りするものの…。中肉中背の匪賊が恐る恐る連発銃に弾丸を装填させる。
「狼狽えるな!桜花姫が最上級の妖女だとしても所詮は単なる小娘!連発銃で狙撃しちまえば最上級の妖女だって打っ殺せるさ…」
「如何やらあんたは余程の命知らずみたいね♪」
桜花姫は失笑する。
「桜花姫!覚悟しやがれ!」
匪賊は連発銃から弾丸を発砲したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁によって発砲された弾丸を無力化したのである。
「畜生が…此奴は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
桜花姫は不本意であるものの…。
(禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪)
匪賊の一人に禁断の妖術を発動する。
(飴玉に変化しちゃえ…)
すると連発銃を武装した匪賊が桜花姫の禁断の妖術によって彼女の大好きな飴玉に変化したのである。
「うわっ!人間が妖術で飴玉に変化したぞ…」
桜花姫は無表情で発言する。
「私に殺されたいのは誰かしら?」
彼等は桜花姫に戦慄する。
「ひっ!打っ殺されちまうよ!逃げろ!」
匪賊達は極度の恐怖心により一目散に逃走したのである。
「鬱陶しい奴等だったわ…」
匪賊達を撃退した桜花姫は摩訶不思議の神通力を目印に目的地の日和山へと到達したのである。
「虹色の広葉樹だわ…えっ?三蔵郎様!?」
天辺の中心部には虹色に発光した広葉樹と地面に横たわった三蔵郎らしき人物が確認出来る。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る横たわった三蔵郎に近寄るものの…。
「三蔵郎様だよね…」
普段の温柔敦厚の三蔵郎とは別人であり非常に薄気味悪い雰囲気だったのである。不吉にも人間である三蔵郎の肉体から摩訶不思議の神通力を感じる。
「三蔵郎様の肉体から神通力を感じるわ…」
すると横たわった三蔵郎が恐る恐る目覚める。
「三蔵郎様!?大丈夫なの?」
三蔵郎は無表情で桜花姫を凝視するなり…。
「三蔵郎だと?人違いであるな…」
「えっ?」
三蔵郎の返答に桜花姫は困惑したのである。
(姿形は三蔵郎様でも…別人みたいだわ…)
地上界の聖人である三蔵郎であるが雰囲気の変化に桜花姫は後退りする。すると三蔵郎らしき人物は睥睨した表情で…。
「私は【霊魂巨神木】である…」
三蔵郎らしき人物は自身を霊魂巨神木と名乗る。
「霊魂巨神木ですって!?」
「僧侶の肉体に憑霊した…」
(霊魂巨神木って…大昔の伝承では世界樹だったかしら?)
霊魂巨神木とは森羅万象の造物主であり太古の古代人達の伝承では森羅万象の世界樹として認識される。
(こんな小山みたいな日和山に本物の世界樹と遭遇しちゃうなんてね…)
霊魂巨神木は太古の大昔に存在した樹木であり死滅した神族の鮮血を養分として誕生したのである。古代人達から森羅万象の創造主やら世界樹として神格化されたものの…。戦乱時代末期の出来事である。とある田舎村の病弱だった村娘が霊魂巨神木の果実を菜食…。人間の女性であった彼女は超自然の妖女へと覚醒するなり摩訶不思議の妖力を入手したのである。霊魂巨神木の果実を菜食した彼女こそが事実上妖女の元祖であり今現在では昔話として伝承される。
「造物主である私と対峙して正気を維持出来るとは…妖女は妖女でも貴様は最上級の妖女であるな…」
桜花姫は三蔵郎の肉体に憑霊した霊魂巨神木を睥睨するなり…。
「霊魂巨神木…三蔵郎様を元通りに戻しなさい!」
桜花姫は勇往邁進の気構えで断言する。
「妖女の小娘よ…僧侶の肉体を元通りに戻したければ私に協力しろ…」
「協力ですって?何よ?」
霊魂巨神木は一息したのである。
「貴様の妖術で…全世界の人間達を殲滅せよ…」
「はっ?」
霊魂巨神木の発言に桜花姫は呆れ果てる。
「貴様の妖力は非常に強力である…最上級妖女の貴様であれば一日に一国の人間達を全滅させられるだろう…」
桜花姫は苛立った表情で睥睨する。
「面倒臭いわね…誰があんたの協力なんて…人間達を殲滅したいのであればあんたが一人で実行すれば?」
「であれば貴様の僧侶は一生涯元通りには戻れない…」
「卑劣だわ…あんた…」
「貴様だって一緒だろ…」
桜花姫の卑劣の一言に霊魂巨神木は反論したのである。すると桜花姫は睥睨した表情で問い掛ける。
「如何してこんなにも無数の悪霊が俗界に出現したのよ?世界樹のあんただったら天災地変の主要因を特定出来るわよね?」
すると問い掛けられた霊魂巨神木は断言する。
「今回大勢の亡者達を俗界に口寄せしたのは私自身の神通力である…」
(霊魂巨神木が…)
「神通力って…あんたが黒幕だったのね!」
桜花姫は突如として表情が強張ったのである。
「今回私が大勢の亡者達を口寄せさせた主原因とは…所詮人間達の自業自得であるからな…」
「人間達の自業自得ですって?」
「愚劣なる人間達は戦乱時代以前の太古の大昔から同族同士で殺し合い…自然界の多種多様の動植物を殺戮し続けたからな…」
戦乱時代以前からも人間達は同族で紛争し合い…。殺し合ったのである。
「私は彼等の野蛮さと傲慢さにより愚劣なる俗界の人間達を見限ったのだ…」
表情が強張った桜花姫であるものの霊魂巨神木の発言に意気投合…。否定しなかったのである。
「霊魂巨神木…あんたの主義主張も理解出来るかも知れないわ…内心私自身も人間達は大嫌いよ…私自身も幼少期は周囲の村人達に妖女だからって迫害されたのよね…人間達って野蛮で強欲よね?」
今現在でこそ桜花姫は悪霊退治屋として各地方で活躍するが…。幼少期は一部の村人達から疫病神と嫌悪され迫害されたのである。
「私自身も人間なんて誰一人として信頼出来なかったわ…」
桜花姫は幼少期に一部の村人達による偏見…。迫害から人間達を憎悪したのである。
「無論である…人間とは醜悪なる生命体であるからな…」
霊魂巨神木は即答する。
「結局人間は誰も信頼出来なかったけれどね…」
「ん?貴様は何を発言したいのであるか?」
数秒後…。
「三蔵郎様…彼だけは私の唯一の理解者であり…私にとって唯一信頼出来る人間だったのよ…」
「僧侶が唯一の貴様の理解者であると?」
「私にとって三蔵郎様は家族同然なのよ!私の家族である三蔵郎様に手出しするなら言語道断!あんたが世界樹だからって手加減しないからね!」
「であれば折角の機会である…私と真剣勝負でも如何かな?最上級妖女の小娘よ…」
霊魂巨神木が真剣勝負を提案する。
「私があんたと真剣勝負ですって?」
「無論小娘が私に敗戦したならば…貴様の寿命を収縮させる…貴様が家族であると豪語する僧侶も未来永劫呪詛し続ける…」
すると桜花姫は恐る恐る霊魂巨神木に質問したのである。
「反対に私が…あんたとの真剣勝負に勝利出来たら如何するのよ?」
「小娘が私に勝利したならば貴様の寿命を収縮させないし…貴様が家族であると豪語する僧侶も呪詛から無条件に解放する…無数の悪霊による天災地変も無事終息させるぞ…」
桜花姫は一瞬度重なる悪戦苦闘により困惑するものの…。霊魂巨神木の提案を承諾したのである。
「私は全身全霊であんたを仕留めるからね!」
すると三蔵郎の肉体は脱力により横たわる。三蔵郎に憑霊した霊魂巨神木の神通力が本体である広葉樹に戻ったのである。
「如何やら手加減しなくても大丈夫みたいね♪」
桜花姫は即座に天道眼を発動…。
(火球の妖術で…)
火球の妖術を発動すると手首より超高温の発光体を形成したのである。
「死滅しなさい!」
発射された発光体は非常に特大であり霊魂巨神木の表面に直撃…。爆散したのである。
「直撃♪」
仕留めたかと思いきや…。霊魂巨神木は神通力の防壁によって直撃した超高温の発光体を無力化したのである。
(私の妖力を無力化するなんて…)
霊魂巨神木は無数の人魂を口寄せするなり融合化…。特大の鬼火を形作る。
「鬼火かしら…」
(死滅した人魂の集合体である…死滅せよ!)
霊魂巨神木の発動した鬼火は死滅した人魂の集合体であり桜花姫に放射したのである。桜花姫は即座に寒風を発動…。霊魂巨神木の鬼火を消失させる。
(寒風で私の鬼火を無力化するとは…)
周辺の地面より半透明の触手を無数に出現…。
「触手!?」
桜花姫は咄嗟に妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁を発動すると半透明の触手の無力化に成功する。
「危機一髪ね♪」
霊魂巨神木は精神感応により桜花姫の脳裏に伝達したのである。
(天道眼の防壁で私の神通力を無力化するとは…)
「霊魂巨神木!?精神感応かしら?」
(太古の大昔から数多くの妖女が伝説の瞳術である天道眼を保有したが…貴様に匹敵する妖女は誰一人として皆無であった…)
桜花姫も精神感応で返答する。
(勿論私は最上級の妖女だからね♪其処等の妖女とは別格なのよ♪)
(無論貴様は屈強の最上級妖女であるが…所詮肉体はか弱き小娘…森羅万象の造物主である私には勝利出来ないであろう…)
(私が勝利出来ないかは…)
両手より雷光の光線を発動…。霊魂巨神木の樹木に直撃させる。
(絶大なる雷撃であるが…)
桜花姫の発動した雷光の光線を吸収したのである。
(私には貴様程度の妖術は通用しないぞ…)
「一筋縄ではあんたは仕留められないわね…」
霊魂巨神木は金縛りにより桜花姫の身動きを封殺したのである。
「ぐっ!」
(ひょっとして金縛りかしら?)
桜花姫は霊魂巨神木の金縛りによって身動き出来なくなる。
(妖女の小娘よ…貴様の妖力を頂戴するぞ…)
地面より半透明の無数の触手が出現…。桜花姫の全身に接触する。
「きゃっ!」
(私の妖力が…)
半透明の触手によって身動き出来なくなった桜花姫は霊魂巨神木の吸収能力により体内の妖力が一瞬で消耗させられる。
「妖力が…」
(吸収されちゃうわ…衰弱死しちゃうかも…)
覚悟した直後である。周囲の自然林から一匹の白猫が出現…。
「えっ…」
(白猫!?)
白猫の目力により衝撃波を発生させたのである。直後…。無数の触手を消滅させる。
「きゃっ!」
衝撃波の発生に桜花姫は地面に横たわる。白猫の体内から妖力を感じる。
(白猫の体内から妖力を感じるわね…ひょっとして白猫の正体は妖女かしら?)
白猫が人間の少女の姿形へと変化する。
「ひょっとしてあんたの正体は…」
「桜花姫姉ちゃん…大丈夫?」
「あんたは山猫妖女の小猫姫!?」
白猫の正体は山猫妖女の小猫姫だったのである。小猫姫は変化の妖術によって白猫にも変化出来る。すると横たわった桜花姫の背後より大神族の蛇骨鬼が恐る恐る近寄る。
「桜花姫ちゃんよ…大丈夫かね?」
「蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんも?」
「最上級妖女の桜花姫ちゃんがこんなにも衰弱化しちゃうなんてね…」
蛇骨鬼は特殊能力によって左手を白蛇に変化…。恐る恐る桜花姫の背中に接触したのである。
「妖力が戻ったわ…」
桜花姫の消耗した妖力を回復させる。
「命拾いしたね…桜花姫ちゃん…」
「感謝するわ…蛇骨鬼婆ちゃん♪小猫姫♪」
蛇骨鬼の特殊能力によって桜花姫の消耗した妖力は回復したのである。蛇骨鬼は恐る恐る霊魂巨神木を凝視するなり…。
(今回の相手は世界樹の霊魂巨神木だね…)
「こんな荒唐無稽の造物主を相手に真正面から真剣勝負なんてね…普通の妖女なら暴虎馮河だよ…」
「私は三蔵郎様を元通りに戻したかったのよ…」
「三蔵郎様だって?三蔵郎とは誰かね?」
「三蔵郎様は…」
蛇骨鬼は桜花姫の背後に横たわる三蔵郎を直視する。
「誰かと思いきや…男前の僧侶だね♪」
「私にとって三蔵郎様は人間では唯一の理解者だから…」
(彼が桜花姫ちゃんの理解者とはね…こんな世の中でも温柔敦厚の人間が実在するなんて…)
蛇骨鬼は微笑むなり…。
「人間を人一倍毛嫌いした桜花姫ちゃんが本心から一人の人間を救済したいなんてね♪小猫姫よ♪」
「何よ?蛇骨鬼婆ちゃん?」
「桜花姫ちゃんに協力しな♪」
小猫姫は大喜びで承諾する。
「勿論だよ♪私は桜花姫姉ちゃんに協力するよ♪」
小猫姫は体内の妖力を増強化させるなり伝説の妖獣へと変化したのである。伝説の妖獣に変化した小猫姫を凝視するなり桜花姫は驚愕する。
「小猫姫が伝説の妖獣に!?」
「私も変化出来るのよ♪桜花姫姉ちゃん!私と精一杯共闘しましょう!」
(小猫姫が伝説の妖獣に変化出来るなんてね…非常に心強いわ!)
「勿論よ♪小猫姫♪」
桜花姫と小猫姫の一枚岩に危惧したのか霊魂巨神木の神通力が先程よりも増大化したのである。
(天道眼の小娘は勿論…妖獣の小娘も出現するとは…)
天空全体が黒雲により覆い包まれる。
「先程よりも霊魂巨神木の神通力が増大化したわ…」
桜花姫は一瞬身震いしたのである。
「油断大敵よ…小猫姫…」
「桜花姫姉ちゃんこそ油断大敵だからね♪」
直後…。
「えっ!?雷撃だわ!」
すると強烈なる落雷攻撃が彼女達の直上より落下する。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。霊魂巨神木の落雷攻撃を無力化したのである。小猫姫も雷光の防壁により霊魂巨神木の落雷を無力化する。
「死滅しろ!」
小猫姫は妖力を凝縮させるなり口先から高熱の雷球を発射したのである。小猫姫の高熱の雷球は霊魂巨神木の樹木表面に直撃するものの…。霊魂巨神木の吸収能力によって小猫姫の発射した高熱の雷球は無力化されたのである。
「私の妖力が吸収されちゃった…此奴は容易には仕留められないね!桜花姫姉ちゃん!」
「霊魂巨神木は本物の世界樹だからね…此奴には妖術は通用しないみたいよ…」
(私と小猫姫は妖力だけなら確実に霊魂巨神木を上回ったけれども…霊魂巨神木の吸収能力には妖術は無力化されるし…一体如何すれば霊魂巨神木を仕留められるのかしら?)
通常の妖術では無力化される霊魂巨神木に彼女達は困惑する。
「私にも此奴に対抗出来る神通力が扱えるなら…」
すると地獄耳の蛇骨鬼は桜花姫が口走った神通力の一言を傾聴するなり…。
「えっ?神通力だって?」
蛇骨鬼は頭陀袋からとある木材の破片を桜花姫に手渡したのである。
「えっ?何かしら?」
「何って…小面蜘蛛の肉片だよ♪」
蛇骨鬼は笑顔で木材の破片が小面蜘蛛の肉片であると即答する。
「げっ!小面蜘蛛の肉片ですって!?」
木材の破片が小面蜘蛛の肉片である事実に桜花姫は一瞬気味悪がる。
「桜花姫ちゃんよ…あんたも神通力を入手したかったら小面蜘蛛の肉片を頬張りな♪本来小面蜘蛛は霊魂巨神木の皮膚から形作られた能面だからね♪」
小面蜘蛛が誕生した経緯は不明であるが…。一説では古代の人間達によって迫害された神族の怨念が能面に憑霊した悪霊であるとも解釈される。
「小面蜘蛛の肉片を食べちゃえばあんたの天道眼を覚醒させられるかも知れないよ…」
「天道眼の覚醒ですって…」
(こんな老婆が小面蜘蛛の肉片を入手したとは…)
霊魂巨神木も小面蜘蛛の肉片を察知する。小面蜘蛛の肉片を手渡された桜花姫であったものの…。非常に困惑したのである。
(こんな代物…食いしん坊の私でも頬張りたくないわね…如何しましょう?)
生理的に小面蜘蛛の肉片を捕食したくない桜花姫であるものの…。
(一か八か…)
「桜餅に変化しなさい!」
変化の妖術を発動すると小面蜘蛛の肉片は桜花姫の大好きな桜餅に変化したのである。
「小面蜘蛛の肉片を…あんたの大好きな桜餅に変化させるなんてね…」
蛇骨鬼は苦笑いする。
「桜餅に変化しちゃえば小面蜘蛛の肉片だって吟味出来るからね♪」
桜花姫は変化の妖術で桜餅に変化した小面蜘蛛の肉片を一口で平らげる。
(所詮妖女の小娘が私の肉体の欠片である小面蜘蛛の肉片を捕食したとしても扱える神通力は微量…造物主の私には程遠い!)
霊魂巨神木は桜花姫を脆弱であると判断する。
「えっ?」
突如として桜花姫の肉体が粒子状の虹色の発光体に覆い包まれる。
「桜花姫ちゃん!?」
「桜花姫姉ちゃん!?」
蛇骨鬼と小猫姫は強烈なる虹色の発光体により瞑目したのである。すると数秒後…。無数の発光体の中心部より大日如来を連想させる巫女装束の女神が出現する。
「女神様かな?」
「えっ?あんたは仙女かね?」
巫女装束の女神の頭部には金無垢の金冠…。背中には大日如来を連想させる黄金色の輪光体が形作られる。蛇骨鬼と小猫姫は恐る恐る…。
「ひょっとしてあんたは…桜花姫ちゃんなのかい?」
「桜花姫姉ちゃんだよね?」
すると巫女装束の女神は背後の小猫姫と蛇骨鬼を直視するなり…。
「私よ…桜花姫よ♪」
蛇骨鬼は仙女へと覚醒した桜花姫に驚愕したのである。
「えっ…」
(桜花姫ちゃんが容姿端麗の仙女に覚醒するなんて…)
小猫姫は仙女の桜花姫に見惚れる。
「本物の女神様みたいだね♪桜花姫姉ちゃん♪」
「私が女神様なんて…小猫姫は大袈裟ね♪」
(私が女神様♪)
内心大喜びしたのである。
「私…普段よりも妖力が増強化したのかしら…」
霊魂巨神木は返答する。
(天道眼の覚醒によって小娘の体内の妖力が神通力に変化したが…貴様の体内の神通力は私よりも数段階下回る!所詮貴様はか弱き小娘…貴様程度の微弱の肉体では扱える神通力も微量である!造物主の私には程遠いぞ…)
「現段階の私だったら…圧倒的に劣勢かも知れないわね♪」
「えっ?桜花姫姉ちゃん?」
彼女は笑顔で背後の小猫姫を凝視するなり…。
「小猫姫♪」
「何よ?桜花姫姉ちゃん?」
「小猫姫…あんたの妖力を私に♪」
小猫姫は変化の妖術を解除するなり伝説の妖獣から本来の美少女の姿形へと戻ったのである。恐る恐る桜花姫の背中に接触する。すると桜花姫の吸収能力により小猫姫の莫大なる妖力が一瞬で消耗したのである。
「ぐっ!妖力が一瞬で…」
「御免あそばせ♪小猫姫…」
(小猫姫…あんたの妖力を頂戴するわね…此奴を仕留めるにはあんたの妖力が必要なのよ…)
桜花姫は謝罪する。小猫姫は非常に息苦しくなるものの…。
「私なら大丈夫だから…気にしないで…桜花姫姉ちゃん♪」
小猫姫は笑顔で返答したのである。
「感謝するわね♪小猫姫♪」
桜花姫に吸収された小猫姫の妖力は彼女の体内にて神通力へと変化する。すると桜花姫の神通力は先程よりも数段階増大化したのである。
(微弱であった小娘の神通力が造物主である私に匹敵?上回るなんて…)
急速に神通力が増大する桜花姫に霊魂巨神木は驚愕する。小猫姫の妖力によって桜花姫の神通力が霊魂巨神木を数段階上回ったのである。
「桜花姫ちゃんが天道眼の覚醒と小猫姫の妖力によって造物主である霊魂巨神木の神通力を上回るなんてね…」
(ひょっとすると彼女は…桜花姫ちゃんは正真正銘戦乱時代に実在した元祖妖女の再来なのかも知れないね…)
蛇骨鬼は桜花姫を見守るなり大昔の伝説を連想…。桜花姫が大昔に実在した元祖妖女の再来なのではと推測する。
「霊魂巨神木…あんたの本体から戦乱時代の無念の亡者達の霊力を感じるわ…」
桜花姫は瞑目するなり…。
「私があんたの本体に憑霊する亡者達を成仏させるわ…」
(仙術…『日輪光』!)
虹色の神通力を諸手に凝縮させるなり…。両手より虹色の発光体を射出する。桜花姫が発動させた虹色の日輪光は霊魂巨神木に直撃したのである。
(こんな微弱の小娘が…仙術である日輪光を発動させるとは…)
霊魂巨神木は咄嗟に神通力の防壁にて樹木本体を防備するものの…。仙女へと覚醒した桜花姫の日輪光は霊魂巨神木の神通力の防壁を容易に無力化する。防壁を無力化した日輪光は霊魂巨神木の表面に直撃したのである。すると樹木に憑霊した無数の亡者達の阿鼻叫喚が国全体へと響き渡る。
「ぐっ!」
「きゃっ!」
「小猫姫!?蛇骨鬼婆ちゃん!?」
霊魂巨神木の樹木本体に憑霊した無数の亡者達の阿鼻叫喚は蛇骨鬼と小猫姫は勿論…。各地の村人達をも卒倒させたのである。
(戦乱時代の亡者達は一筋縄では成仏出来ぬ!所詮小娘の貴様では…)
「沈黙するのね!」
桜花姫は即答する。桜花姫は全身全霊の神通力を発動…。
「戦乱時代の亡者達!好い加減成仏しなさい!」
全身全霊の神通力によって無念の亡者達の阿鼻叫喚を沈黙させたのである。数秒後…。
「はぁ…はぁ…」
神通力の消耗戦によって桜花姫は力尽きるなり地面に横たわる。桜花姫は仙女の状態から元通りの彼女に戻ったのである。霊魂巨神木からは醜悪なる亡者達の霊力は感じられない。すると霊魂巨神木は半透明の触手を発動…。
「霊魂巨神木…私を…如何するのよ…」
霊魂巨神木の触手が疲れ果てた桜花姫の皮膚に接触するなり消耗した妖力を回復させる。
(妖力が戻ったわ…)
「如何して私に妖力を…」
すると直後…。霊魂巨神木が樹木の状態から桜色の着物姿の女性に変化したのである。
「えっ!?あんたは樹木に憑霊する精霊かしら?」
(ひょっとして霊魂巨神木の正体は女体の精霊だったの?)
霊魂巨神木は桜花姫の質問に即答する。
(私の本来の姿形である…今迄は大勢の醜悪なる亡者達に憑霊されてより…本来の姿形には戻れなかった…)
霊魂巨神木の精霊は一息するなり…。
(貴様は戦乱時代の亡者達を無事に成仏させたからな…私は天道眼の所有者に無念の亡者達を成仏させたかった…)
「戦乱時代の亡者達…」
(大勢の成仏出来ぬ亡者達が私の体内に密集したからな…)
「ひょっとして今回の天災地変は…意図的に私の天道眼を覚醒させる魂胆だったのね…」
霊魂巨神木の精霊は恐る恐る返答する。
(人間達には傍迷惑だったかも知れないが…)
桜花姫は沈黙する。
(貴様にとって彼が…人間の僧侶が唯一の理解者なのか…)
桜花姫は地面に横たわった三蔵郎を凝視するなり即答したのである。
「勿論よ…あんたの神通力で三蔵郎様を元通りに戻しなさい…」
霊魂巨神木の精霊は返答する。
(貴様の僧侶を元通りに戻そう…貴様の神通力が…私の体内で忘却された戦乱時代の亡者達を無事成仏させられたからな…是非とも貴様には感謝しなければ…)
直後である。暗闇であった天空の黒雲も消失…。村里にて徘徊中だった食人餓鬼と百鬼食人餓鬼も霊魂巨神木の精霊の神通力によって白砂へと変化するなり成仏する。
(貴様の僧侶の肉体を無事元通りに戻した…天球神国の天災地変も終息させたからな…)
霊魂巨神木の精神感応が響き渡る。
(小娘よ…貴様の名前は?)
桜花姫は即答する。
「私は桜花姫…月影桜花姫よ…」
(月影桜花姫と名乗る妖女よ…貴様は天道眼を所有する唯一の妖女…天寿によって貴様の肉体が死滅したとしても極楽浄土の守護神として覚醒する…月影桜花姫とやら…太古の妖女は戦乱で荒廃化した天球神国に安寧秩序を樹立させた…貴様の神通力であれば一天四海全域の安寧秩序を樹立させられるかも知れないな…)
「私が極楽浄土の守護神?一天四海の安寧秩序ですって?」
(貴様は彼女の後継者に相応しいからな…月影桜花姫よ…)
直後…。霊魂巨神木の精霊が無数の粒子状へと変化するなり天空にて消滅したのである。
「霊魂巨神木が…」
(神通力が感じられなくなったわ…霊魂巨神木が消滅するなんてね…)
すると地面に横たわった三蔵郎は勿論…。卒倒した蛇骨鬼と小猫姫が目覚める。
「えっ?私は一体何を?」
「桜花姫ちゃん?」
「桜花姫姉ちゃん?」
「三蔵郎様!」
桜花姫は力一杯三蔵郎に密着する。
「ぐっ!桜花姫様!?突然如何されたのですか!?」
突然の出来事に三蔵郎は困惑したのである。
「桜花姫姉ちゃん!私にも♪」
小猫姫は桜花姫の胸元に力一杯密着する。
「小猫姫…妹分のあんたでもおっぱいに密着されちゃったら…私…」
桜花姫は赤面したのである。
「最上級妖女でも人間の混血である桜花姫ちゃんが…造物主の霊魂巨神木を仕留めるなんてね…」
桜花姫は一瞬困惑するものの…。恐る恐る返答する。
「仕留めたわよ…」
(桜花姫ちゃん…)
蛇骨鬼は桜花姫の様子から察知する。桜花姫は恐る恐る蛇骨鬼に問い掛けたのである。
「如何して蛇骨鬼婆ちゃんが小面蜘蛛の破片を?」
「西国の廃村で確保したのさ♪本来なら傷薬の原料品として役立てたかったけどね…」
「傷薬って…」
桜花姫は苦笑いする。
「私が神通力を扱えたのは小面蜘蛛の肉片を捕食したからなのよね♪小面蜘蛛の肉片を吟味しなかったら今頃私達は霊魂巨神木の悪霊に敗北したでしょうね…」
「こんな老婆の私でも桜花姫ちゃんに役立てたみたいだね♪」
蛇骨鬼は微笑む。すると小猫姫も桜花姫に密着した状態で…。
「私だって桜花姫姉ちゃんに協力したよ!私も役立てたでしょう!?桜花姫姉ちゃん!?」
「勿論小猫姫もね♪」
桜花姫は瞑目するなり恐る恐る小猫姫に接吻する。
「桜花姫様!?」
「桜花姫ちゃん!?」
三蔵郎と蛇骨鬼は驚愕したのである。桜花姫に接吻された小猫姫は無言で赤面するなり…。
「えっ!?」
(桜花姫姉ちゃん…)
彼女の身体髪膚が膠着化したのである。すると三蔵郎が恐る恐る…。
「談笑中に大変失礼なのですが…」
「何よ…三蔵郎様?」
「先日なのですが…私の隣人から良質の白米たっぷりの米俵と猪肉を提供されましてね♪是非とも今晩は私の寺院で食事しませんか?」
蛇骨鬼と小猫姫が反応する。
「食事だって♪私達も大丈夫かい♪」
「猪肉♪私も食事したいよ♪」
「勿論ですとも♪是非とも蛇骨鬼様も小猫姫様も一緒に食事しましょう!」
蛇骨鬼と小猫姫は大喜びしたのである。
「勿論…桜花姫様も一緒に食事しましょう♪」
「私も食事させてね♪」
桜花姫は一息するなり恐る恐る三蔵郎に近寄る。
「桜花姫様?如何されましたか?」
すると三蔵郎の耳元で…。
「私はね…人間では誰よりも三蔵郎様が大好きなの♪」
(桜花姫様…)
三蔵郎は一瞬驚愕するものの笑顔で返答する。
「私にとって桜花姫様は愛娘同然ですからね♪」
「精一杯長生きしてよね…三蔵郎様♪」
「勿論ですとも!桜花姫様も精一杯長生きするのですよ…」
桜花姫と三蔵郎は握手したのである。
(私は長生きするからね…)
桜花姫は精一杯長生きしなければと決心する。
メンテ
桜花姫※リメイク ( No.66 )
日時: 2021/08/30 08:48
名前: 月影桜花姫

最終話

匪賊征伐

霊魂巨神木と無数の亡者達による天災地変から三週間後の早朝である。悪霊事件が解決してより天球神国に安寧秩序が戻ったものの…。南国の荒神山は極悪非道の匪賊達により牛耳られたのである。近頃匪賊達による悪巧みの噂話が国全体に出回る。噂話が気になった桜花姫は即座に南国の荒神山へと潜入したのである。
(荒神山では極悪非道の匪賊達が潜伏中みたいね…)
先日より桜花姫が荒神山に出没した悪霊の大群を仕留めて以降荒神山は元通りの観光地に戻ったものの…。近日では十数人の匪賊達により荒神山は完全占拠されたのである。桜花姫は南国の荒神山に到達するなり…。
「何かしら?」
周辺の自然林より無数の人間達の殺気を感じる。
「人間達の殺気を感じるわ…」
登山中に一瞬身震いするものの…。
「手出しするなら相手が人間でも私は手加減しないわよ!」
桜花姫は警戒した様子で荒神山の天辺へと突入したのである。
「天道眼…」
桜花姫は瞳術の天道眼を発動…。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が瑠璃色の碧眼へと発光する。
「天道眼を発動するのは久方振りね…」
霊魂巨神木に憑霊した無数の亡者達よる悪霊事件が解決してからは毎日が平穏の日常であり摩訶不思議の超常現象も悪霊も出現しなかったのである。平穏の日常は桜花姫にとって極度の憂鬱であったものの…。
「退屈中だったし…私にとって今回の大騒ぎは絶好機なのよね♪」
彼女にとって匪賊達の征伐は久方振りの道楽であり内心大喜びしたのである。すると突然…。周辺の自然林より人間達の殺気を感じる。
「人間達の殺気だわ…」
突如として周辺より無数の火縄銃の弾丸が乱射される。
(敵襲かしら!?)
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。火縄銃の弾丸を無力化したのである。近辺の地面には無数の弾丸が散乱する。
「陣地の見張り役は数人かしら?」
自然林から桜花姫を狙撃した見張り役の匪賊達は弾丸を無力化した彼女に戦慄したのである。
「畜生が…弾丸を無力化するなんて…」
「ひょっとして妖術で弾丸を無力化しやがったのか!?」
「如何やら侵入者は妖女みたいだな…」
匪賊達は恐る恐る後退りする。
「即刻本拠地に戻ろう…火縄銃では妖女は仕留められまい…」
天辺の本拠地に戻ろうかと思いきや…。
「ぎゃっ!」
突如として小柄の見張り役の頭部が肥大化したのである。周囲の匪賊達は肥大化した頭部を直視するなり戦慄する。
「頭部が…」
数秒後…。肥大化した頭部が破裂したのである。
「ひっ!」
「頭部が破裂しやがった!」
地面には無数の血肉やら脳味噌が散乱する。
「如何してこんな…」
「妖術で破裂させたのか!?」
戦慄した見張り役達は一目散に逃走したのである。数秒後…。桜花姫が自然林へと潜入する。
「如何やら見張り役は逃走しちゃったみたいね…えっ?」
地面に散乱した血肉やら脳味噌を直視するなり…。
(気味悪いわね…)
「桜餅に変化させちゃおうかしら♪」
桜花姫は変化の妖術によって散乱した見張り役の血肉を大好きな桜餅に変化させたのである。
「消耗しちゃった妖力を回復させなくちゃね♪」
散乱した桜餅を頬張るなり消耗した妖力を回復させる。
「妖力も万全だし♪本拠地に潜伏中の匪賊達を蹴散らせないと…」
桜花姫は荒神山天辺の本拠地へと進行したのである。すると背後より…。
「雑魚の分際で鬱陶しいわね…」
異国の洋弓銃を装備した匪賊が出現する。
「侵入者は毒死しやがれ!」
洋弓銃から猛毒の毒矢を発射するなり…。桜花姫に射撃したのである。
(毒矢かしら?)
即座に妖力の防壁を発動…。毒矢を無力化する。
「雨蛙に変化しなさい♪」
すると匪賊は変化の妖術によって雨蛙に変化したのである。
「私は常日頃から大忙しなのよ♪」
獣道を通行中…。獣道の道端で一休みしたのである。
「私だけで匪賊達を全滅させるのは片手間だけれども…」
一息するなり…。
「禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪」
神通力による禁断の妖術を発動したくなる。地面の石ころを直視する。
「口寄せの妖術…発動!」
すると数秒後…。地面の石ころが蛍光体に変化したのである。蛍光体の石ころが等身大の女体を形作るなり…。白装束の女性が地面に横たわったのである。白装束の女性が恐る恐る目覚める。
「えっ?私は…」
白装束の女性は寝惚けた様子であったものの…。
「えっ?誰かしら…」
女性は桜花姫と目線が合致する。
「ひっ!あんたは!?」
白装束の女性が桜花姫に気付いたかと思いきや…。桜花姫を直視すると彼女は極度に戦慄する。
「戦慄しなくても大丈夫よ♪私よ…桜花姫よ♪」
「あんたは…月影桜花姫!?」
「久方振りね…氷麗姫♪元気そうで安心したわ♪」
口寄せの妖術によって俗界に口寄せされたのは数週間前の戦闘で桜花姫の変化の妖術により食い殺された粉雪妖女の氷麗姫だったのである。
「如何してあんたが!?私は桜花姫に捕食されて…食い殺されたのよ…」
「口寄せの妖術であんたを俗界に再臨させたのよ♪」
口寄せの妖術とは伝説の瞳術である天道眼と造物主の神通力を保有する妖女のみが使用出来る前代未聞の禁断の妖術…。所謂時空間妖術の一種であり黄泉の国の死没者でさえも元通りに復活させられる。
「捕食された私を復活させるなんて…あんたは本物の女神様だね…」
氷麗姫は苦笑いしたのである。
「私が女神様なんて…氷麗姫は大袈裟ね♪」
氷麗姫の女神様発言に桜花姫は内心大喜びする。
(黄泉の国から死没者を簡単に復活させちゃうなんて…桜花姫は末恐ろしくなるわね…)
黄泉の国の死没者でさえも元通りに復活させた桜花姫を氷麗姫は戦慄したのである。
「如何してあんたみたいな小娘がこんなにも夢物語みたいな妖術が扱えるのよ?口寄せの妖術って禁断の妖術だったわよね?」
氷麗姫の質問に桜花姫は経緯を洗い浚い告白する。
「あんたが森羅万象の造物主である霊魂巨神木を仕留めちゃったの!?霊魂巨神木って世界樹だったわよね?」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
「無論ね♪霊魂巨神木は仕留められたけれど私一人では断然勝利出来なかったわよ…妹分の小猫姫と一緒に共闘したのだけれどね♪」
「仲間と共闘したとしても結果的にあんたみたいな小娘が森羅万象の造物主に勝利しちゃったみたいだからね…私みたいな凡庸の妖女では到達したくても到達出来ない領域だわ…」
氷麗姫にとって今現在の桜花姫は異次元の存在であり自身が低次元の微生物であると感じる。すると桜花姫は一息するなり…。
「口寄せの妖術は莫大の妖力を消耗しちゃうわね♪普通の妖女なら過労死するかも知れないわ…」
口寄せの妖術は通常の妖術とは桁違いの妖力が必要不可欠であり唯一瞳術の天道眼と造物主の神通力を扱える妖女のみが使用出来る。大量の妖力を所持した妖女を復活させるのであれば莫大なる妖力を消耗…。場合によっては術者の過労死も否定出来ない。桜花姫は口寄せの妖術を駆使した影響により大量の妖力を消耗する。
「普通の人間とか悪霊なら極小の妖力でも復活出来るけどね♪死滅した妖女を元通りに復活させるのは最上級妖女の私でも一苦労だわ…」
(人間と悪霊なら極小の妖力で復活出来るの!?)
桜花姫の発言に絶句する。
(ひょっとして桜花姫は天道の化身かしら?)
氷麗姫は桜花姫の正体が天道の化身なのではと連想したのである。すると桜花姫は氷麗姫に問い掛ける。
「如何して氷麗姫は西国の廃村で村人達を氷結させちゃったのよ?」
氷麗姫は一瞬困惑するものの恐る恐る…。
「私の宿六が…不倫したからよ…」
「宿六の不倫ですって?」
「宿六の不倫に苛立って無関係の村人達を氷結させたの…」
「あんたは人騒がせな人妻ね…」
(完全に八つ当たりだわ…)
桜花姫は呆れ果てる。
「金輪際夫婦間の八つ当たりで無関係の人間には手出ししないのよ…」
桜花姫の警告に氷麗姫は恐る恐る承諾したのである。
「勿論よ…」
「苛立って無関係の誰かに手出しすれば今度こそ私が征伐するからね♪」
桜花姫は笑顔で断言する。不吉の笑顔で微笑む桜花姫に戦慄した氷麗姫であるが内心気恥ずかしくなったのか沈黙したのである。
「即刻本拠地に潜入しましょう♪」
「本拠地ですって?」
「荒神山を牛耳る匪賊達を徹底的に征伐するのよ♪勿論あんたも私に協力するわよね?」
氷麗姫は笑顔の桜花姫に戦慄する。
「勿論…私も協力するわよ…」
(折角元通りに復活出来たのに…桜花姫に協力しなかったら今回も食い殺されちゃうかも知れないからね…)
氷麗姫は折角第二の人生を満喫出来るのに殺されては元も子もないと感じる。氷麗姫は笑顔の桜花姫に身震いしたのである。
「勿論♪今回私が傍若無人のあんたを復活させたのは私自身の気紛れだからね♪」
桜花姫の傍若無人の一言に一瞬腹立たしくなる。
(傍若無人なのはあんただって一緒でしょうが!桜花姫!)
苛立った氷麗姫であるが堪忍する。
「先程の口寄せの妖術で私は空腹だし敵対視するのであれば即刻あんたを桜餅に変化させて食い殺しちゃうかも知れないわよ♪」
笑顔で発言する桜花姫に苛立つものの…。不本意であるが氷麗姫は桜花姫に服従したのである。
「別に敵対視しないわよ…裏切れば食い殺されるのは明白だし…」
「交渉成立ね♪」
桜花姫と氷麗姫は一致団結…。匪賊達の本拠地へと移動したのである。数分後…。彼女達は荒神山の天辺へと到達する。
「到達したわね♪」
「荒神山の天辺だわ…」
天辺の中心部には楼閣らしき家屋敷が確認出来る。
「家屋敷だわ…奴等の本拠地っぽいわね…」
「表門の門番は二人ね…」
家屋敷の表門には二人組の門番が見張り役として表門を警護する。
「門番を突破しちゃえば楽勝ね♪」
「如何するのよ?桜花姫?」
「勿論正面突破で門番達を仕留めるわよ♪」
「あんたらしいわね♪桜花姫♪」
彼女達は家屋敷の表門へと近寄る。すると桜花姫は笑顔で挨拶する。
「御免あそばせ♪」
「なっ!?貴様達は一体何者であるか!?」
表門の門番達は警戒するなり即座に抜刀したのである。
「花魁かと思いきや…貴様は妖女であるな!?」
「先程の妖女の噂話とやらは事実であったか!」
桜花姫は笑顔で発言する。
「あんた達…私に殺されたくなければ即刻表門を開放しなさい♪」
「何を!小娘の分際で!」
「斬首されたいか!?小娘!?」
桜花姫の発言に苛立った門番達は桜花姫に殺到したのである。
「地上界の女神様のである私に小娘なんて…あんた達は余程の命知らずなのね♪」
即座に念力の妖術を発動…。門番達の肉体を破裂させる。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
表門には彼等の血肉やら肉片が散乱する。
「桜花姫…あんたは相手が人間でも手加減しないのね…」
人間相手に手加減しない桜花姫に氷麗姫は気味悪がる。
「手加減するも何も…敵対者が人間だったとしても確実に仕留めるのが私だからね♪無論無抵抗の人間なら相手が匪賊だったとしても手出ししないから安心しなさい♪」
気味悪がる氷麗姫であるが…。桜花姫は笑顔で反論する。
「あんただって数週間前は八つ当たりで村人達を殺戮したでしょう♪私は八つ当たりでは相手が誰でも人間は殺さないからね♪」
桜花姫の反論に氷麗姫は沈黙したのである。
「一休みしましょう♪私は空腹なので♪」
桜花姫は変化の妖術を発動するなり…。散乱した門番達の血肉を無数の桜餅に変化させたのである。
「えっ!?人間の血肉が桜餅に!?」
(半年前は私自身も桜花姫の変化の妖術で桜餅に変化させられて食い殺されたのよね…)
氷麗姫は数週間前の出来事を想起するなり身震いする。
「消耗した妖力を回復させないと♪」
桜花姫は極度の空腹であり散乱する桜餅を無我夢中に頬張る。
「桜餅でも本来は人間の血肉なのよ…笑顔で頬張れるなんて…」
桜花姫の悪食に氷麗姫は気味悪くなる。
「人間の血肉でも妖術で変化させれば気にならないから大丈夫よ♪折角だから氷麗姫も一緒に味見しない?」
「私は味見したくないわ!」
(人間の血肉なんて桜餅でも食べたくないわね…)
氷麗姫は断然拒否する。数分後…。
「美味だわ♪」
桜花姫は表門に散乱した無数の桜餅を平らげたのである。
「数分間で無数の桜餅を平らげるなんて…」
数分間で無数の桜餅を桜花姫に氷麗姫は苦笑いする。
「妖力も回復出来たし♪」
「匪賊達を蹴散らせるのよね?」
「今回は普通に蹴散らせるのは面白くないから…」
「如何するのよ?」
桜花姫は地面の石ころを凝視するなり…。
(口寄せの妖術…発動!)
桜花姫は口寄せの妖術を再発動する。口寄せの妖術を発動すると地面の石ころが蛍光体へと変化したかと思いきや…。一瞬で人間の姿形を形成したのである。数秒後…。先程念力の妖術で仕留めた門番の一人を元通りの姿形に復活させたのである。
「えっ!?先程仕留めた人間の門番だわ!ひょっとして彼も口寄せの妖術で復活させたの!?」
問い掛ける氷麗姫に桜花姫は笑顔で即答する。
「勿論よ♪彼も私が口寄せの妖術で復活させたのよ♪口寄せの妖術は普通の人間は当然♪普通の悪霊程度なら微量の妖力で復活させられるから非常に便利でしょう♪」
口寄せの妖術は同種の妖女を復活させた場合妖力の消耗は通常の妖術よりも桁外れであるが人間は勿論…。通常の悪霊を復活させるには微量の妖力のみで復活させられる。
(こんな荒唐無稽の小娘が夢物語みたいな非人道的妖術を自由自在に扱えるなんて…)
黄泉の国からの死没者さえ元通りに復活させる口寄せの妖術に氷麗姫は再度末恐ろしくなる。
「えっ?如何しちゃったのかしら?門番は喋らないし無反応だわ…」
元通りに復活させた門番であるが…。沈黙した様子であり何一つとして身動きしない。
「身動きしないわよ…無表情の雛人形みたいね…」
「勿論♪身動き出来ないし彼自身は単なる傀儡人形だからね…」
本来口寄せの妖術で復活させた対象者は妖術を発動した使用者の傀儡人形として扱われる。無論対象者の自我は妖術の使用者に掌握…。妖術の使用者が掌握を軽減化させなければ復活した対象者は単なる手駒であり姿形が生身の傀儡人形同然である。
「あんたが意思表示を表現出来るのは私が掌握を軽減化しただけだからね♪本来なら口寄せの妖術で復活させた氷麗姫だって私の傀儡人形なのよ♪」
復活させた門番は微量の妖力で形作られた不良品であり姿形は元通りでも自我は皆無であり彼自身は自己の意思表示は出来ない。すると桜花姫は復活した門番に問い掛けたのである。
「あんた達の家屋敷では何人の匪賊達が潜伏中なのかしら?」
桜花姫の質問に門番は的確に即答する。
「本拠地には守備隊が十三人…地下壕の牢獄には六人の見張り役が四人の村娘達を監禁中である…」
「村娘ですって?」
村娘の一言が気になったのか桜花姫は門番に再質問したのである。
「村娘って何よ?」
「南国の各村落から四人の村娘達を連行した…」
「如何してあんた達は村娘を四人も連行したのよ?」
門番は一瞬沈黙するなり…。
「連行した村娘達は異国に身売りされるからな…」
「身売りですって…」
門番の発言に彼女達は一瞬絶句する。
「ひ弱の女性を異国なんかに身売りさせるなんて極悪非道だわ…」
「今時身売りなんて完全に時代錯誤ね…」
桜花姫は勿論…。氷麗姫さえも腹立たしくなる。
「桜花姫…即刻彼女達を救出しましょう!」
「勿論よ!今回ばかりは地上界の女神様である私でも腹立たしくなったわ!」
(無慈悲のあんたが地上界の女神様って自称しちゃうなんて…)
氷麗姫は自分自身を地上界の女神様と自称する桜花姫に一瞬苦笑いしたのである。すると桜花姫は門番に接触するなり…。
「あんたは即刻本拠地に潜伏しなさい♪無事に潜伏出来たら匪賊の親玉諸共本拠地で自爆するのよ♪」
「えっ!?折角復活させたのに彼を自爆させるの!?」
桜花姫の自爆発言に氷麗姫は驚愕したのである。
「所詮門番は自爆要員だからね♪彼自身の自我は私が掌握したから意思表示も反論も出来ないわよ…」
桜花姫は再度門番に命令する。
「即刻あんたは本拠地に戻って親玉と部下の奴等諸共爆殺しなさい…勿論親玉には二人の妖女を仕留めたってちゃんと報告するのよ♪」
「承知した…」
桜花姫の命令を承諾した門番は表門から家屋敷へと入室…。家屋敷最上階の本拠地に戻ったのである。
「桜花姫…あんたも人一倍鬼畜ね…」
氷麗姫の発言に桜花姫は笑顔で即答する。
「無論私は敵対者には手加減しないからね♪手段が残虐非道でも敵対者は確実に仕留めるのが私だから…」
「あんたらしいわね♪桜花姫…」
氷麗姫は一瞬身震いするが笑顔で返答したのである。
「即刻監禁された女性達を救出しましょう♪」
彼女達は表門から恐る恐る家屋敷へと潜入する。
「屋敷内では人間達の気配は感じられないわね…」
周辺からは人間の気配も殺気も感じられない。
「門番の情報では連行された四人の村娘達の居場所は地下豪だったわね…」
すると通路の右側片隅に地下室への直階段を確認する。
「直階段だわ♪地下豪に潜入出来そうよ♪」
すると突然…。
「えっ!?」
(殺気かしら!?)
背後より殺気を感じる。
「桜花姫!敵襲よ!」
彼女達の背後には火縄銃を武装した匪賊が出現…。
「妖女!死滅しやがれ!」
桜花姫は背中を狙撃される。
「ぎゃっ!」
火縄銃で狙撃された桜花姫は多量の出血により横たわったのである。
「桜花姫!?大丈夫!?」
「氷麗姫…私…」
突発的出来事により氷麗姫は狼狽える。
「油断大敵ね…迂闊だったわ…ぐっ!」
桜花姫は吐血したのである。
「桜花姫!?」
(私は如何すれば…)
すると匪賊が狼狽える氷麗姫に近寄る。
「白装束の姉ちゃんよ♪即刻あんたも打っ殺すから覚悟しな♪」
氷麗姫は無表情で匪賊を睥睨するなり…。
「死滅するのはあんたよ…」
「はっ?」
氷麗姫は妖力により匪賊の肉体を一瞬で氷結させる。
「死滅しなさい!」
「なっ!?」
数秒後…。氷結された匪賊の肉体は一瞬で崩れ落ちる。
「桜花姫…大丈夫?」
氷麗姫は恐る恐る横たわった桜花姫に接触すると戦慄する。
「ひゃっ!」
(低体温だわ…)
桜花姫の肉体は非常に低体温であり氷麗姫は絶望したのである。
(最上級妖女の桜花姫が殺されちゃうなんて…)
絶望した直後…。突如として横たわった桜花姫の肉体から白煙が発生すると一瞬で消滅したのである。
「桜花姫!?」
突然消滅した桜花姫に氷麗姫は驚愕する。
「えっ?桜花姫の肉体は?」
すると背後より何者かが氷麗姫の背中に接触したのである。
「きゃっ!」
背中を接触された氷麗姫は驚愕する。
「氷麗姫♪」
「桜花姫!吃驚するじゃない!」
吃驚した氷麗姫は桜花姫に怒号したのである。
「御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「分身体だから大丈夫よ♪」
「分身体だったのね…」
先程狙撃された肉体が妖力によって形作られた桜花姫の分身体であり氷麗姫は一安心したのである。
「冷や冷やさせないでよ…一瞬あんたが本当に殺されちゃったのかと…」
「私に接吻したあんたが私を心配するなんてね♪感謝するわね♪」
すると氷麗姫は赤面した表情で否定する。
「勘違いしないで!私は別に…誰があんたの心配なんか…」
赤面した氷麗姫であるが…。彼女は無理矢理に表情を強張らせる。
(氷麗姫…表情を強張らせなくても…)
桜花姫は無理矢理に表情を強張らせる氷麗姫に苦笑いする。
「悪者はあんたが仕留めたみたいだから…即刻地下壕に潜入するわよ♪」
同時刻…。桜花姫の口寄せの妖術によって復活させられた門番は最上階の本拠地へと到達したのである。最上階には十三人の匪賊達と中心部には親玉らしき巨漢の無頼漢が集結する。
「ん?貴様は門番だな…何事かな?」
「二人組の妖女が出現してから随分大騒ぎみたいだが…通路は大丈夫なのかよ?」
門番は無表情で巨漢の無頼漢に報告したのである。
「親玉…」
「ん?」
門番は一息するなり…。
「噂話の二人組の妖女なら先程…俺が確実に仕留めたから安心しな…」
「妖女を確実に仕留めたって?」
匪賊達は門番が桜花姫と氷麗姫を本当に仕留めたのか疑問視する。
「貴様が二人組の妖女とやらを仕留めたのは事実であるか?」
「本当に妖女を仕留めたのかよ?」
「勿論…」
すると数秒後…。門番の体内から超高温の熱気が凝縮される。
「なっ!?此奴の体内から熱気だぞ…」
「一体何が!?」
直後…。門番の肉体が爆散したのである。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
門番の自爆によって周辺の匪賊達も爆殺される。家屋敷全域に爆発音が響き渡ったのである。同時刻…。地下豪では本拠地から響き渡った爆発音により六人の見張り役達が狼狽える。
「爆発音だと!?」
「最上階からだったよな…」
「如何して最上階から爆発音が…一体何が発生した!?」
連行された四人の村娘達も先程の爆発音に戦慄したのである。
「一体何かしら?」
「火薬の爆発音みたいね…」
「私達…こんな牢獄で殺されちゃうのかな…」
「私…こんな牢獄で死にたくないよ…」
彼女達は極度の戦慄により涙腺から涙が零れ落ちる。すると地下豪の鉄扉から二人組の妖女が潜入する。
「御免あそばせ♪」
笑顔で挨拶する桜花姫に見張り役達は戦慄したのである。
「うわっ!貴様達は!?」
「誰かと思いきや…貴様達は噂話の二人組の妖女だな…」
「如何して妖女が地下豪に潜入出来た!?」
「門番の奴等…警備をすっぽかしやがったのかよ!」
「結局俺達が尻拭いとは…」
桜花姫は笑顔で断言する。
「如何やらあんた達の門番が私達に寝返っちゃったみたいよ♪今頃仲間内で内輪揉めでしょうね♪」
「内輪揉めだって!?」
「門番が裏切りやがったのか!?」
問い掛けられた桜花姫であるが彼女は笑顔で…。
「さあね♪」
見張り役達は桜花姫の態度に苛立ったのである。
「此奴…」
「貴様出鱈目を…打っ殺されたいか!?」
桜花姫の返答に腹立たしくなった巨漢の見張り役が護身用の連発銃で桜花姫を狙撃…。
「桜花姫!?」
氷麗姫は畏怖したのである。狙撃された桜花姫であるものの…。危機一髪妖力の防壁を発動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
妖力の防壁により連発銃の弾丸を無力化…。氷麗姫は一安心する。
「あんたは本当に人騒がせね…」
「心配しなくても大丈夫よ♪氷麗姫♪」
見張り役達は恐る恐る後退りしたのである。
「畜生が…妖女の小娘は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
「弾丸では私は殺せないわよ♪私に手出ししたあんたは即刻招き猫に変化しなさいの♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。巨漢の見張り役を精巧に形作られた招き猫に変化させる。
「うわっ!人間が招き猫に!?」
見張り役達は勿論…。牢獄の村娘達も桜花姫の変化の妖術によって招き猫に変化させられた見張り役に驚愕したのである。
「人間が招き猫に変化するなんて…」
「妖術かしら?」
四人の村娘達は恐る恐る桜花姫に注目するなり…。
「えっ?ひょっとして彼女は…」
「西国の月影桜花姫様かしら?」
「月影桜花姫だって!?冗談だろ…」
小柄の見張り役は身震いするなり戦慄したのである。
「狼狽えるな!西国の月影桜花姫とて所詮は小娘!打っ殺しちまえ!」
見張り役達は連発銃で桜花姫に総攻撃するものの…。妖力の防壁によって連発銃の弾丸を無力化される。
「鬱陶しい奴等だわ…」
(飴玉に変化しなさい♪)
連発銃で狙撃した見張り役達を大好きな飴玉に変化させたのである。
「ひっ!」
唯一無抵抗だった小柄の匪賊が極度の恐怖心により落涙する。
「無事なのはあんただけね♪あんたは如何するかしら♪」
すると小柄の匪賊は恐る恐る…。
「俺は…降参するよ…」
匪賊は極度の戦慄により身震いしたのである。
「金輪際悪さしないから…今回は見逃して…」
身震いした様子で一歩ずつ後退りする。
「別に…私は誰よりも温厚篤実の女神様だからね♪匪賊でも無抵抗の人間には手出ししないから安心しなさい♪」
即座に匪賊の装備品を飴玉に変化させる。
「狙撃したくても出来なくなったわね♪」
桜花姫は牢獄を直視するなり…。
「即刻彼女達を救出しないと♪」
すると氷麗姫が牢獄の鉄格子に接触する。
「えっ?氷麗姫?如何するのよ?」
「桜花姫…私にも役立たせてよ…」
(彼女なりの罪滅ぼしかしら♪如何やら彼女も役立ちたいみたいね♪)
「承知したわ♪氷麗姫…思う存分役立ちなさい♪」
桜花姫は笑顔で承諾したのである。氷麗姫は四人の村娘達に警告する。
「あんた達…村里に戻りたかったら鉄格子には接触しないのよ…」
「承知しました…」
彼女達は恐る恐る後退りしたのである。すると氷麗姫は鉄格子に接触するなり…。一瞬で氷結させたのである。
「鉄格子が…」
「氷結するなんて…」
四人の村娘達は驚愕する。すると数秒後…。妖術で氷結させた鉄格子が一瞬で崩れ落ちる。
「鉄格子が崩れ落ちたわ…」
「私達…村里に戻れるのね♪」
解放された四人の村娘達は大喜びしたのである。
「桜花姫様と…誰でしたっけ?」
「私は氷麗姫よ…」
「氷麗姫様♪」
「大変感謝します♪桜花姫様と氷麗姫様が参上されなかったら私達は今頃異国に身売りされたかも知れません…」
桜花姫は笑顔で断言する。
「別に…あんた達が無事なのが何よりよ♪匪賊達を征伐するのも案外面白かったし♪」
「えっ?面白かったのかな?」
氷麗姫は笑顔で発言する桜花姫に苦笑いしたのである。
「あんた達…即刻地下壕から脱出しましょう♪」
すると氷麗姫が警戒した表情で…。
「油断大敵だよ…桜花姫…匪賊の残党が屋敷内に潜伏中かも知れないし…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「心配しなくても大丈夫よ♪氷麗姫♪匪賊の残党が襲撃したとしても私が即刻仕留めちゃうから♪」
彼女達は警戒した様子で恐る恐る地下壕から脱出する。無事に匪賊達の家屋敷から脱出したのである。
「私達…戻れたのね…」
「無事に戻れるなんて…」
四人の村娘達は涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫様…氷麗姫様…貴女達には大変感謝します…」
「私達…貴女達に何も謝礼が出来なくて御免なさいね…」
彼女達は桜花姫と氷麗姫に謝罪する。
「別に謝礼なんて…」
謝罪された桜花姫は困惑するものの…。
「別に気にしないの♪私にとって匪賊征伐は道楽だから♪所詮夜遊びと一緒だからね♪あんた達は気にしなくても大丈夫なのよ♪」
事実桜花姫にとって悪霊征伐も匪賊征伐も娯楽であり報酬は不要である。匪賊征伐を夜遊びと断言する桜花姫に氷麗姫は苦笑いする。
(匪賊達を征伐するのが道楽って…桜花姫は人一倍異端者だわ…)
桜花姫は異端者であると感じる。
「あんた達…無事に戻りなさいね♪」
「承知しました♪」
「達者でね♪」
「桜花姫様と氷麗姫様も♪」
四人の村娘達は恐る恐る南国の村里へと戻ったのである。桜花姫は背後の氷麗姫を直視するなり…。
「氷麗姫…あんたは今後如何するのよ?」
「桜花姫…私は…」
氷麗姫は一瞬沈黙するも笑顔で返答する。
「今回あんたと一緒に行動してから…私もあんたみたいに悪霊とか匪賊を征伐したくなったわ♪」
笑顔で発言した氷麗姫に桜花姫は微笑む。
「氷麗姫♪あんたの妖力でも匪賊程度なら確実に仕留められるでしょうね♪精一杯頑張りなさい♪」
「私も…八つ当たりで大勢の人間達を殺しちゃったからね…精一杯贖罪しないと!」
「反省したのね♪氷麗姫…」
改心した氷麗姫に感心する。
「桜花姫♪今回はあんたの気紛れかも知れないけれどね…感謝するわね♪」
「氷麗姫…」
(本来なら口寄せの妖術は非人道的妖術かも知れないけれど…結果的に悪くなかったのかも知れないわね♪)
数週間前は敵対者だった氷麗姫の変貌に一瞬驚愕するものの…。口寄せの妖術で復活させられたのは怪我の功名であると氷麗姫は感じる。
「私は第二の人生…精一杯長生きするからね…桜花姫♪」
断言する氷麗姫に桜花姫も笑顔で返答する。
「私もね♪」
数分後…。
「私は北国に帰郷するわね…」
「達者でね♪」
彼女達は解散したのである。帰宅中…。
(久し振りに東国の三蔵郎様に挨拶しましょうかね♪)
桜花姫は久方振りに東国の三蔵郎の寺院へと訪問する。二時間後…。桜花姫は東国の寺院に到達したのである。寺院の玄関にて桜花姫は笑顔で…。
「三蔵郎様♪」
桜花姫の美声に反応したのか三蔵郎は超特急で玄関口へと移動する。
「誰かと思いきや…月影桜花姫様でしたか♪久方振りですな♪」
三蔵郎は桜花姫との再会に大喜びしたのである。
「三蔵郎様♪元気そうで安心したわ♪」
「桜花姫様こそ元気そうで何よりですよ♪折角ですし…茶話会でも如何でしょうか♪」
三蔵郎は桜花姫を客室に案内するなり麦茶と牡丹餅を用意したのである。
「牡丹餅だわ♪美味そうね♪」
桜花姫は牡丹餅に大喜びする。
「桜花姫様が大喜びの様子なので一安心ですよ♪本来であれば桜花姫様の大好きな桜餅を用意したかったのですが…生憎桜餅は和菓子屋でも完売しちゃったみたいですね…」
恐る恐る謝罪する三蔵郎に桜花姫は笑顔で…。
「気にしないで三蔵郎様♪桜餅なら先程腹一杯平らげたから♪」
「頬張ったのですね…桜餅を頬張ったのであれば一安心です♪」
桜花姫は先程の出来事を三蔵郎に洗い浚い告白する。
「荒神山で匪賊達を征伐しに出掛けられたのですか!?連行された村里の女性達を無事に救出されたのですね…」
「面白かったわよ♪」
「ですが私も桜花姫様と一緒に行動したかったですよ…今回は非常に残念ですね…」
三蔵郎は非常に残念であると感じる。
「今回ばかりは敵対者が匪賊だったとしても相手は普通の人間だからね…正直聖職者の三蔵郎様は呼び辛かったのよ♪三蔵郎様は人一倍温柔敦厚で心配性だから悪霊は征伐出来ても人殺しなんて出来ないでしょう?」
桜花姫は笑顔で発言する。
「桜花姫様…」
(彼女は正真正銘…天球神国の女神様ですね♪)
桜花姫と三蔵郎は談笑し合ったのである。真夜中の出来事である。大騒ぎが鎮静化した真夜中の荒神山では蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫が天辺へと到達する。
「なっ!?荒神山の天辺中心部にこんな家屋敷が築造されたなんて…」
「誰の家屋敷かな?」
すると家屋敷の表門に小柄の匪賊が横たわる。
「えっ?誰だろう?」
「ん?ひょっとして家屋敷の宿主かね?」
「大丈夫かな?」
蛇骨鬼は恐る恐る横たわる匪賊の若者に近寄る。匪賊の背中に接触するなり…。
「若者よ…大丈夫かね?」
接触しても匪賊は無反応である。
「如何やら気絶したみたいだね…」
「如何して表門で気絶しちゃったのかな?」
「私にも何が何やらさっぱりだね…」
すると数秒後…。気絶した匪賊が恐る恐る目覚める。
「ん?俺は…」
「目覚めたかね?若者よ…」
「大丈夫かな?」
匪賊は寝惚けた様子であったものの蛇骨鬼と小猫姫を直視した直後…。突如として身震いしたのである。
「ひっ!俺を食い殺さないで!」
彼女達を直視するなり非常に戦慄する。戦慄する匪賊に蛇骨鬼と小猫姫は驚愕したのである。
「如何しちゃったのかね?別に私達はあんたを食い殺したりしないよ…」
「心配しなくても私達は手出ししないから大丈夫だよ…」
蛇骨鬼は近寄るものの…。
「ひっ!鬼婆…俺に近寄るな!近寄らないで!」
匪賊の鬼婆発言に小猫姫は一瞬失笑する。
「蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんに鬼婆だって♪蛇骨鬼婆ちゃん♪」
匪賊に鬼婆と発言された蛇骨鬼は身震いするなり…。力強く睥睨した表情で匪賊に怒号したのである。
「誰が鬼婆だって!あんたは私に食い殺されたいのかい!?」
「ひっ!失礼しました…女神様…」
「蛇骨鬼婆ちゃんが女神様って♪」
匪賊の女神様発言に小猫姫は大笑いする。
「金輪際悪さしないから俺を食い殺さないで…」
匪賊は恐る恐る後退りするなり…。落涙した様子で一目散に荒神山から逃走したのである。
「妖女は懲り懲り!」
全力疾走する匪賊に蛇骨鬼と小猫姫は非常に困惑する。
「一体何事だったのかね?」
「如何して逃走しちゃったのかな?」
「私が精霊だからかね?私にも何が何やら…」
「蛇骨鬼婆ちゃんに鬼婆とか女神様って失言しちゃったのは大笑いしちゃったよ♪」
揶揄する小猫姫に蛇骨鬼は赤面したのである。
「小猫姫…今回の荒神山での出来事は私とあんただけの秘密だからね!絶対に誰かに喋ったら承知しないよ!」
蛇骨鬼は小猫姫に断言するものの…。
「今回の出来事を桜花姫姉ちゃんに喋っちゃおうかな♪面白かったし♪」
小猫姫の返答に蛇骨鬼は怒号する。
「小猫姫!桜花姫ちゃんに喋ったら承知しないからね!勿論私とあんたの二人だけの秘密だよ!」
すると小猫姫の腹部から腹鳴が響き渡る。
「えっ…」
「小猫姫♪空腹感かね…」
小猫姫は腹鳴により赤面する。
「戻って夕食だね♪小猫姫♪」
「勿論だよ♪蛇骨鬼婆ちゃん♪戻ろう♪戻ろう♪」
蛇骨鬼と小猫姫は西国へと戻ったのである。
完結
メンテ
宇宙大動乱 ( No.67 )
日時: 2021/08/31 16:47
名前: 月影桜花姫

ジャンル
スペースオペラ

世界観
宇宙文明

登場人物
大銀河帝国軍
【ブラッドフォード】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦692年7月16日
星座:牡牛座
実年齢:30歳
所属:大銀河帝国軍
役職:大総統
階級:総帥
性別:男性
身長:168cm
体重:68kg
血液型:AB型
一人称:私
性格:冷静沈着、合理主義、強硬
趣味:ライフル射撃

【ストライダー】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦674年3月22日
星座:牡羊座
実年齢:48歳
所属:大銀河帝国軍
役職:副総統
階級:大将
性別:男性
身長:199cm
体重:88kg
血液型:B型
一人称:私
性格:適当、面倒臭がり
趣味:プラモデル作成

【ホムンクルス】
種別:クローン人間
所属:大銀河帝国軍
生産数:700万人〜7億人

タイラントキラー
【ウィグノール】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦678年9月28日
星座:天秤座
実年齢:44歳
所属:大銀河帝国軍〜タイラントキラー
役職:総帥
階級:中将
性別:男性
身長:200cm
体重:89kg
血液型:AB型
一人称:私
性格:生真面目
趣味:骨董品集め、サバイバルゲーム

【ウェンフィールド】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦700年8月17日
星座:獅子座
実年齢:22歳
所属:タイラントキラー〜ホープセイバーズ
役職:職業軍人
階級:大佐
性別:男性
身長:176cm
体重:76kg
血液型:O型
一人称:私
性格:誠実
趣味:ホラーゲーム

ホープセイバーズ
【ルーヴェルハルト】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦668年4月25日
星座:牡牛座
実年齢:54歳
所属:大銀河帝国軍〜ホープセイバーズ
役職:総帥
階級:少将
性別:男性
身長:198cm
体重:87kg
血液型:A型
一人称:私
性格:穏和、野心的
趣味:宇宙旅行

【セレスティノ】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦698年11月15日
星座:蠍座
実年齢:24歳
所属:タイラントキラー〜ホープセイバーズ
役職:職業軍人
階級:大尉
性別:男性
身長:180cm
体重:80kg
血液型:B型
一人称:私
性格:信実
趣味:設計

登場国家
『大銀河帝国』
成立日:宇宙新暦376年7月4日
総人口:900億人

自治領
『ユートピアサイド』
統治勢力:大銀河帝国軍
総人口:70億人

『エデンプラネット』
統治勢力:タイラントキラー
総人口:50億人

『ホープエリア』
統治勢力:ホープセイバーズ
総人口:20億人

登場兵器
大銀河帝国軍
『アルセイス』
諸元
正式名:上級大将専用宇宙戦艦アルセイス
所属:大銀河帝国軍
建造所:ユートピアサイド軍事工場
艦種:宇宙戦艦
同型艦:7隻
起工日:宇宙新暦722年3月27日
進宙日:宇宙新暦722年4月24日
就役日:宇宙新暦722年4月30日
全長:400m
全幅:220m
全高:80m
総重量:70万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
輸送要員:300人〜800人
兵装
990mm超弩級波動砲ケラウノス:1基
600mm高エネルギー連装砲:2基
50mm対空パルスレーザー機関砲:8基
光子魚雷発射機:2基
多目的ミサイル発射機:12基
艦載機:4機※無人機
装甲
主砲装甲:990mm
舷側装甲:750mm
甲板装甲:550mm
装甲材質:エターナルメタル
動力炉:ハイパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『スレイプニル』
諸元
正式名:宇宙要塞母艦スレイプニル
所属:大銀河帝国軍
建造所:プルトロン軍事工場
艦種:宇宙空母
同型艦:18隻
起工日:宇宙新暦722年4月29日
進宙日:宇宙新暦722年5月26日
就役日:宇宙新暦722年5月30日
全長:990m
全幅:860m
全高:140m
総重量:9900万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
輸送要員:5万人〜8万人
兵装
990mm超弩級怪光砲ケラウノス:1基
600mm高エネルギー連装砲:6基
50mm対空パルスレーザー機関砲:80基
光子魚雷発射機:12基
多目的ミサイル発射機:30基
艦載機:400機※無人機
装甲
主砲装甲:990mm
舷側装甲:800mm
甲板装甲:720mm
装甲材質:貴金属
動力炉:ハイパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『セイバードラゴン』
諸元
正式名:宇宙戦艦セイバードラゴン
所属:大銀河帝国軍
建造所:ユートピアサイド軍事工場
艦種:宇宙戦艦
同型艦:2万隻
起工日:宇宙新暦652年4月22日
進宙日:宇宙新暦654年9月19日
就役日:宇宙新暦654年12月27日
全長:800m
全幅:600m
全高:120m
総重量:500万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:320人
輸送要員:2万人〜4万人
兵装
800mm高エネルギー連装砲:8基
50mm対空パルスレーザー機関砲:40基
光子魚雷発射機:8基
多目的ミサイル発射機:20基
艦載機:90機
装甲
主砲装甲:750mm
舷側装甲:500mm
甲板装甲:460mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能

『バジリスク』
諸元
正式名:宇宙巡洋艦バジリスク
所属:大銀河帝国軍
建造所:ユートピアサイド軍事工場
艦種:宇宙巡洋艦
同型艦:6万隻〜8万隻
起工日:宇宙新暦722年3月26日
進宙日:宇宙新暦722年4月12日
就役日:宇宙新暦722年4月15日
全長:200m
全幅:140m
全高:40m
総重量:5万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
兵装
300mm高エネルギー連装砲:3基
50mm対空パルスレーザー機関砲:12基
光子魚雷発射機:2基
艦載機:1機〜2機※無人機
装甲
主砲装甲:440mm
舷側装甲:250mm
甲板装甲:130mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『アスピドケロン』
諸元
正式名:宇宙駆逐艦アスピドケロン
所属:大銀河帝国軍
建造所:メティス軍事工場
艦種:宇宙駆逐艦
同型艦:9万隻〜15万隻
起工日:宇宙新暦722年5月14日
進宙日:宇宙新暦722年5月26日
就役日:宇宙新暦722年6月4日
全長:180m
全幅:150m
全高:40m
総重量:4万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
兵装
250mm高エネルギー連装砲:4基
40mm対空パルスレーザー機関砲:12基
光子魚雷発射機:2基
艦載機:2機※無人機
装甲
主砲装甲:370mm
舷側装甲:240mm
甲板装甲:230mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『スペースバード』
諸元
機種:宇宙戦闘機
所属:大銀河帝国軍
初飛行:宇宙新暦699年12月24日
生産数:8万機
運用開始:宇宙新暦700年6月2日
全長:17m
全幅:16m
全高:6m
総重量:14t
全速力:マッハ15
搭乗員:1人
武装
30mm対空用パルスレーザー:2基
多目的ミサイル〜光子魚雷:2基
設備
スーパーレーダー
シールド装置

『セイバードローン』
諸元
機種:無人機
所属:大銀河帝国軍
初飛行:宇宙新暦722年4月26日
生産数:780万機
運用開始:宇宙新暦722年5月12日
全長:15m
全幅:14m
全高:4m
総重量:12t
全速力:マッハ15〜超光速
武装
30mm対空用パルスレーザー:2基
光子魚雷:4基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置
ステルス機能

『ケルベロス』
諸元
機種:無人機
所属:大銀河帝国軍
初飛行:宇宙新暦722年6月30日
生産数:400万機
運用開始:宇宙新暦722年7月15日
全長:16m
全幅:12m
全高:5m
総重量:20t
全速力:マッハ22〜超光速
武装
50mm対空用パルスレーザー:2基
新型光子魚雷:4基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置
ステルス機能

タイラントキラー
『サラマンダー』
諸元
正式名:宇宙戦艦サラマンダー
所属:タイラントキラー
建造所:エデンプラネット軍事工場
艦種:宇宙戦艦
同型艦:750隻
起工日:宇宙新暦628年1月24日
進宙日:宇宙新暦630年5月25日
就役日:宇宙新暦650年7月30日
全長:780m
全幅:540m
全高:90m
総重量:300万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:280人
輸送要員:2万人〜3万人
兵装
550mm高エネルギー連装砲:8基
40mm対空パルスレーザー機関砲:38基
光子魚雷発射機:4基
多目的ミサイル発射機:16基
艦載機:150機
装甲
主砲装甲:650mm
舷側装甲:480mm
甲板装甲:240mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能

『レヴィアタン』
諸元
正式名:宇宙戦闘母艦レヴィアタン
所属:タイラントキラー
建造所:エデンプラネット軍事工場
艦種:宇宙空母
同型艦:560隻
起工日:宇宙新暦718年3月29日
進宙日:宇宙新暦719年4月13日
就役日:宇宙新暦719年7月12日
全長:960m
全幅:530m
全高:120m
総重量:620万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:20人
輸送要員:4万人〜6万人
兵装
320mm高エネルギー連装砲:2基
50mm対空パルスレーザー機関砲:44基
艦載機:400機※無人機
装甲
主砲装甲:480mm
舷側装甲:340mm
甲板装甲:190mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『シーサーペント』
諸元
正式名:宇宙巡洋艦シーサーペント
所属:タイラントキラー
建造所:エデンプラネット軍事工場
艦種:宇宙巡洋艦
同型艦:4万隻
起工日:宇宙新暦720年1月27日
進宙日:宇宙新暦720年2月28日
就役日:宇宙新暦720年4月24日
全長:250m
全幅:180m
全高:50m
総重量:6万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
兵装
280mm高エネルギー連装砲:4基
50mm対空パルスレーザー機関砲:14基
光子魚雷発射機:4基
艦載機:2機〜4機※無人機
装甲
主砲装甲:470mm
舷側装甲:290mm
甲板装甲:150mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『スペースドローン』
諸元
機種:無人機
所属:タイラントキラー
初飛行:宇宙新暦720年2月27日
生産数:500万機
運用開始:宇宙新暦720年11月29日
全長:14m
全幅:12m
全高:3m
総重量:12t
全速力:マッハ14〜超光速
武装
20mm対空用パルスレーザー:2基
多目的ミサイル〜光子魚雷:2基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置

『ホワイトピクシー』
諸元
機種:無人機
所属:タイラントキラー
初飛行:宇宙新暦721年3月12日
生産数:2万機
運用開始:宇宙新暦721年3月15日
全長:18m
全幅:16m
全高:6m
総重量:15t
全速力:マッハ20〜超光速
武装
50mm対空用パルスレーザー:2基
多目的ミサイル〜光子魚雷:6基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置
ステルス機能

ホープセイバーズ
『リトルヴィーナス』
諸元
正式名:宇宙戦艦リトルヴィーナス
所属:ホープセイバーズ
建造所:ホープエリア軍事工場
艦種:宇宙戦艦
同型艦:4隻
起工日:宇宙新暦652年4月25日
進宙日:宇宙新暦654年9月19日
就役日:宇宙新暦654年12月27日
全長:850m
全幅:650m
全高:200m
総重量:600万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
輸送要員:5万人〜8万人
兵装
990mm超弩級対艦防衛砲サイクロプス:1基
450mm高エネルギー連装砲:8基
50mm対空パルスレーザー機関砲:40基
光子魚雷発射機:12基
多目的ミサイル発射機:30基
艦載機:120機〜140機※無人機
装甲
主砲装甲:950mm
舷側装甲:580mm
甲板装甲:560mm
装甲材質:エターナルメタル
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『フェンリル』
諸元
正式名:宇宙巡洋艦デュラハン
所属:ホープセイバーズ
建造所:ホープエリア軍事工場
艦種:宇宙巡洋艦
同型艦:4万隻〜5万隻
起工日:宇宙新暦720年11月26日
進宙日:宇宙新暦721年12月30日
就役日:宇宙新暦721年2月24日
全長:350m
全幅:280m
全高:65m
総重量:7万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
兵装
450mm高エネルギー連装砲:4基
50mm対空パルスレーザー機関砲:16基
光子魚雷発射機:2基
艦載機:5機※無人機
装甲
主砲装甲:680mm
舷側装甲:420mm
甲板装甲:270mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『ハイパードローン』
諸元
機種:無人機
所属:ホープセイバーズ
初飛行:宇宙新暦721年4月15日
生産数:900万機
運用開始:宇宙新暦721年5月30日
全長:12m
全幅:8m
全高:4m
総重量:8t
全速力:マッハ22〜超光速
武装
50mm対空用パルスレーザー:2基
新型光子魚雷:2基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置
ステルス機能

作中用語
『ケラウノス』超大型戦略高エネルギー兵器
『ツァーリーボンバ』超大型戦略貫通ミサイル
『ダウンフォール』銀河系殲滅兵器
『メティス基地』小惑星
『プルトロン基地』人工惑星
『メタリックアイ』小惑星
『エターナルメタル』特殊超合金
『スーパーリアクター』無限動力炉
『ハイパーリアクター』新型無限動力炉

第一話

艦隊戦闘

太古の大昔…。宇宙新暦七百二十二年三月二十八日午前一時の出来事である。とある銀河系では複数の巨大宇宙勢力が度重なる戦乱を頻発させる。太陽系から推定八万光年の宙域では銀河系全域を統治する大規模星間軍事国家『大銀河帝国』の宇宙大艦隊…。国民主義実現を主目的に活動する大規模反政府勢力である『タイラントキラー』の宇宙大艦隊が激突したのである。大銀河帝国軍宇宙軍主力艦隊旗艦…。宇宙戦艦『セイバードラゴン』ではブリッジの乗組員がタイラントキラーの宇宙艦隊を発見する。
「艦長!本艦のスペースレーダーが推定九百光年の宙域より敵軍の宇宙艦隊に反応しました!」
セイバードラゴンは大銀河帝国軍の主力宇宙戦艦であり地上の水上艦を連想させる巨大宇宙戦艦である。長距離索敵と誘導兵器の使用は勿論…。本艦一隻のみで数千キロメートルサイズの惑星表面を一掃させられる攻撃力を保持する。艦内には一隻だけで合計九十機もの宇宙用の艦載機を搭載出来る。本艦にとっての最大の武装は主砲である高エネルギーを放出する口径八百ミリメートルの高エネルギー連装砲である。主砲の威力は高火力であり数百メートルサイズの宇宙戦艦を一撃で撃沈出来ると推測される。本艦のレーダー射撃は高水準であり主砲の命中精度は八十五パーセントとも豪語される。本艦のサイズは全長八百メートルサイズで全幅六百メートルサイズ…。総重量は推定五百万トンと規格外に巨大であり現存する大銀河帝国軍宇宙主力艦隊では最大級の超巨大宇宙戦艦である。動力炉は『スーパーリアクター』が搭載され燃料の補給は不要であり半永久的に航行出来る。
「敵軍の宇宙艦隊を発見したか…」
セイバードラゴンの艦長は大銀河帝国の大総統…。【ブラッドフォード】である。ブラッドフォードは年齢二十九歳の青年であるが外見的には美少年であり十代後半にも間違われる。本来であればブラッドフォードは最前線での戦闘では参加しない立場であるものの…。少年時代の従軍経験から積極的に最前線での指揮を自発的に執行する。
「味方の全艦隊に伝播せよ…敵軍の宇宙大艦隊を発見したと…」
「はっ!承知しました!」
通信兵がブラッドフォードに敬礼するなり全艦隊に敵艦隊発見の情報を通信させる。大銀河帝国軍宇宙艦隊は大総統ブラッドフォードの乗艦する主力宇宙戦艦セイバードラゴンを先頭に推計十七万隻もの宇宙艦隊が追尾する。旗艦セイバードラゴン艦内ではブラッドフォードが再度指示したのである。
「最大船速でワープ機能を作動させろ…一瞬で敵軍艦隊の真正面に突入するぞ…」
「はっ!ワープ機能作動!」
ブリッジの乗組員がワープ機能を作動させる。すると味方の宇宙艦隊もワープ機能を作動させ最前線へと突入したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙軍艦隊は合計一万四千隻もの大規模艦隊であり旗艦は宇宙戦艦『サラマンダー』である。サラマンダーは全長七百八十メートルサイズで全幅五百四十メートルサイズ…。総重量は三百万トンもの大型宇宙戦艦である。旧型の宇宙戦艦であるが艦載機の総数は合計百五十機前後であり艦載機の搭載機数のみなら大銀河帝国軍のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。本艦の動力炉はスーパーリアクターであり燃料は不要である。
「艦長!スペースレーダーが反応しました!」
サラマンダーに搭載されたスペースレーダーが反応する。
「正体不明の無数の移動物体が超光速で味方艦隊に接近中です!移動物体の総数は推計十七万以上…」
旗艦サラマンダーの艦長は【ウィグノール】である。階級は中将であり本来は大銀河帝国軍親衛隊の総司令官であったが…。ブラッドフォードによる独裁政治を見限り脱退する。今現在は反政府組織であるタイラントキラーを創設…。国民主権の独立宇宙民主国家を目標に銀河系全域を支配する大銀河帝国に宣戦を布告する。
「恐らく敵軍の艦隊だろう…」
すると直後…。タイラントキラー宇宙艦隊から推定三百光年の宙域より数万隻もの艦影が突如として出現したのである。
「艦長!敵艦隊です!総数七万隻…大艦隊です!」
「敵艦隊の総数は七万隻か…」
今現在投入された戦力では大銀河帝国軍宇宙艦隊が宇宙艦艇推計十七万隻以上…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊の宇宙艦艇は推計三万四千隻程度でありタイラントキラーが圧倒的に不利である。
「直進せよ…」
ウィグノールが艦隊の直進を指示すると全艦隊が大銀河帝国軍宇宙艦隊に接近する。同時刻…。大銀河帝国軍宇宙艦隊旗艦セイバードラゴンではタイラントキラー宇宙艦隊の接近を確認する。
「艦長!敵軍の大艦隊が味方艦隊に接近中です!如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは無表情で…。
「急接近する敵軍艦隊を排除せよ…全軍…総攻撃開始!」
最前線の宇宙戦艦部隊を中心に全艦が砲撃を開始したのである。数秒間に数万発もの蛍光色の光線が射出され…。接近するタイラントキラー宇宙艦隊に砲撃したのである。宇宙戦艦部隊はシールド機能によって光線を無力化するが…。宇宙駆逐艦クラスの小型艦はシールド機能が最小限化された代物であり簡単に撃沈されたのである。一度の攻撃でタイラントキラー宇宙艦隊の二十パーセントが喪失…。多数の小型艦が損傷したのである。
「宇宙戦艦クラスの大型艦には光子魚雷…多目的ミサイルで対応せよ…」
旗艦セイバードラゴンの艦長…。ブラッドフォードの指示と同時に最前線の宇宙戦艦部隊が光子魚雷攻撃と多目的ミサイルで攻撃したのである。無数の実弾兵器が超光速で接近…。タイラントキラー宇宙艦隊の大型艦に命中したのである。宇宙戦艦クラスの大型艦十数隻が轟沈…。数十隻の大型艦を大破される。シールド機能を搭載する大型の敵艦を撃沈させるのに効果的だったのは光子魚雷である。光子魚雷とは超光速で発射させる宇宙用の魚雷であり破壊力は三千キロメートルクラスの小惑星を一撃で破壊させられる代物である。光子魚雷一発でも重厚装甲の大型宇宙戦艦は数十隻撃沈…。数百隻もの大型宇宙戦艦が大破したのである。爆沈する宇宙艦艇より多数の乗組員達が宇宙空間へと吹っ飛ばされる。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーにも多目的ミサイルが命中…。艦首が大破したのである。
「艦首が被弾しました!」
「本艦への被害状況は?」
ウィグノールは乗組員に問い掛ける。
「艦首は大破です…」
「艦首だけか…大破したのが艦首のみであれば戦況には問題無さそうだな…」
ブリッジの乗組員が恐る恐る…。
「ですが奴等の多目的ミサイルと光子魚雷は味方艦艇のシールドを透過しました…一体奴等は実弾兵器に何を細工したのでしょうか?」
長期間の宇宙航行を想定した宇宙用の艦船には宇宙デブリやら小惑星の衝突を無力化するシールド機能が搭載されるのが基本である。
「恐らく奴等の実弾兵器にはシールドジャミング装置を搭載させたのであろうな…」
シールドジャミング装置とは大銀河帝国軍が最新式の科学技術を駆使して開発した特殊装置…。大型艦に搭載されたシールド機能を妨害させ高確率で実弾兵器を目標に直撃させられる。光子魚雷と多目的ミサイルによるアウトレンジ戦法によってタイラントキラーのサラマンダー級大型宇宙戦艦五十二隻が撃沈され…。三百四十八隻の大型宇宙戦艦が大破したのである。大型宇宙戦艦以外の小型艦艇は数百隻が轟沈…。数千隻が大破したのである。旗艦サラマンダーでは大銀河帝国軍の猛攻撃に畏怖したブリッジの乗組員が撤退を要請する。
「ウィグノール艦長!即刻艦隊を撤退させましょう!敵軍の総攻撃で多数の味方艦艇が撃沈されました…戦闘を継続すれば全滅しますよ!」
するとウィグノールが無表情で…。
「狼狽えるな…」
戦局は圧倒的にタイラントキラーが不利であるがウィグノールは平常心であり周囲の乗組員達は不思議がる。
(こんなにも劣勢なのに冷静なんて…)
同時刻…。大銀河帝国軍宇宙艦隊旗艦であるセイバードラゴンの艦内では乗組員達が爆散する敵艦の光景を眺望する。
「ブラッドフォード大総統♪大銀河帝国軍の優勢です!」
「大銀河帝国軍の圧勝は確実だな♪」
「所詮タイラントキラーなんて一部のカルト集団だ…大銀河帝国軍が本領を発揮すれば簡単に殲滅出来るさ♪」
「愚衆政治国家の実現なんて…所詮は夢物語だな…」
大銀河帝国軍ではタイラントキラーは少人数のカルト集団…。単なるテロリスト集団程度の存在であると認識される。誰しもが大銀河帝国軍の圧勝を確実視するのだが…。大総統であるブラッドフォードだけは表情が険悪化する。一人の乗組員が恐る恐る…。
「大総統…如何されましたか?」
するとブラッドフォードが苛立った表情で返答する。
「前方の敵軍艦隊は陽動艦隊だろう…此奴は恐らく陽動作戦だ…」
ブラッドフォードが陽動作戦の可能性を指摘した直後…。スペースレーダーが反応したのである。
「スペースレーダーが反応しました!」
「スペースレーダーが反応したって!?一体何事だ!?」
周囲の乗組員達は突如として反応したスペースレーダーに動揺する。
「味方艦隊後方より無数の移動物体が確認されました!サイズは小型の機影…」
「小型の機影だと?」
小型の機影の一言にブラッドフォードが反応したのである。
「恐らく宇宙戦闘機かと…総数は推計三十万機…敵機部隊との距離は推計七百光年です…」
「総数三十万機か…全軍に対空戦闘を通信させろ…」
「はっ!承知しました!」
通信兵が全軍に対空戦闘用意を通信させる。タイラントキラーの宇宙航空機部隊がワープ機能を使用…。一秒間で大銀河帝国軍宇宙艦隊上空へとワープしたのである。大銀河帝国軍宇宙艦隊のスペースレーダーが再度反応する。
「スペースレーダーが反応しました!味方艦隊の上空より無数の敵機です!」
「敵機部隊はワープ機能で到達したか…」
ブラッドフォードは一瞬沈黙するものの…。
「上空の敵機を撃墜…宇宙迎撃機を出撃させろ…」
「承知しました…」
大銀河帝国軍の宇宙艦艇は宇宙用の対空砲で迎撃を開始…。セイバードラゴン級大型宇宙戦艦からは多数の宇宙戦闘機『スペースバード』が出撃する。スペースバードは全長十六メートル…。全幅七メートルの宇宙戦闘機である。スペースレーダーが搭載され機体前方には二基の対空用パルスレーザーが装備される。両翼には対艦戦闘用の多目的ミサイルは勿論…。光子魚雷も搭載可能である。二十年前に開発された旧型の機体であるが大勢のパイロット達が本機を愛用…。今現在でも現役の主力戦闘機である。出撃した多数のスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の対空砲は小型の高エネルギー機関砲が炸裂…。敵機に攻撃するのだが敵機は機体全面に新型シールド機能を搭載させた新型機であり対空用の高エネルギー機関砲が命中しても無力化される。
「大総統!敵機に攻撃しても敵機を撃墜出来ません!」
「此奴は新型機だな…ホログラムを作動させろ…」
ホログラムを作動させると新型機の立体映像が生成されたのである。
「此奴は恐らく無人機の『スペースドローン』だな…」
スペースドローンとは所謂宇宙戦闘用のドローンであり無人兵器に分類される。大銀河帝国軍にも宇宙用の偵察型ドローンは使用されるが…。タイラントキラーは戦闘用に特化された新型のドローンを多数開発したのである。タイラントキラーの新型ドローンは高出力の光学兵器の搭載…。宇宙戦艦の艦砲射撃をも無力化する新型シールド機能が搭載されたのである。ドローン兵器の技術のみならタイラントキラーは大銀河帝国の技術レベルを数段階上回る。
「タイラントキラーは無人機を戦闘用に特化させたのか…」
同時刻…。タイラントキラーのスペースドローンがスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦に急襲したのである。スペースドローンは機体底部に搭載された対艦戦闘用の大型ミサイルで攻撃…。宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇は一機のスペースドローンに撃沈されたのである。本来大銀河帝国軍の宇宙艦艇には外部からの物理攻撃を無力化するシールド機能が搭載されたが…。タイラントキラーのスペースドローンの機体内部には特殊電磁パルス発生装置が搭載され本機が接近すると接近された宇宙艦艇はシールド機能が使用出来なくなる。スペースドローンの電磁パルス発生装置によって大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦はシールド機能が停止…。一方的に攻撃されたのである。必死に迎撃するスペースバードもスペースドローンの攻撃によって多数の機体が撃墜…。数万人ものパイロット達が戦死する。機体底部に対艦戦闘用の固定型高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンはセイバードラゴン級大型宇宙戦艦を砲撃…。一撃で撃沈したのである。三分間の戦闘で六隻ものセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が撃沈される。
「大総統!スペースドローンの出現によって味方艦隊が混乱中です!」
すると直後…。
「スペースレーダーが反応しました!一機のスペースドローンが本艦に急接近中です!」
スペースレーダーが接近中のスペースドローンに反応したのである。スペースドローンが旗艦のセイバードラゴンに接近するとシールド機能が強制的にスリープモードへと移行…。シールド機能が使用出来なくなる。
「大変です!本艦のシールド機能が無力化されました…」
セイバードラゴンのシールド機能の停止によって乗組員達は動揺する。
「狼狽えるな…」
こんな絶望的状況下であってもブラッドフォードは冷静であり周囲の乗組員達は非常に不思議がる。直後…。対艦戦闘用の高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンがセイバードラゴン艦尾に搭載されたロケットエンジンに砲撃したのである。艦内に爆発音が響き渡る。
「うわっ!一体何が発生したのでしょうか!?」
爆発音に乗組員達は動揺したのである。するとブラッドフォードが無表情で…。
「恐らく艦尾のロケットエンジンが敵機の攻撃で破壊されたな…」
「えっ!?ロケットエンジンが!?」
先程の攻撃によってセイバードラゴンは航行出来なくなる。
「大総統…脱出しましょう…こんな場所で長居し続けては本艦諸共…」
ブラッドフォードは一瞬躊躇うが…。
「止むを得ないな…」
ブラッドフォードと十六人の乗組員達は即座に脱出用のポッドに乗艇すると航行不能のセイバードラゴンから脱出したのである。セイバードラゴンは二度目の光子魚雷攻撃で爆散…。撃沈されたのである。撃沈されたセイバードラゴンの乗組員達は轟沈するセイバードラゴンに絶句する。
「大総統…危機一髪でしたね♪」
一人の乗組員が笑顔で大総統に発言するのだが…。
「何が危機一髪だ…」
ブラッドフォードは睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨するブラッドフォードに周囲の乗組員達はゾッとする。
「敵軍の一個艦隊程度に敗北とは…」
同時刻…。多数のスペースドローンを搭載した宇宙戦闘母艦『レヴィアタン』が大銀河帝国軍宇宙艦隊の後方よりワープ機能で出現する。タイラントキラーの本隊である宇宙機動部隊は超大型宇宙戦闘母艦レヴィアタンを中心に六十隻もの宇宙用の空母戦闘艦隊が奇襲に参加したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はタイラントキラーが独自で開発した本格的宇宙戦闘用空母であり艦載機は有人型の宇宙戦闘機ではなく無人兵器のスペースドローンを四百機程度搭載する。艦体のサイズは全長九百六十メートル…。全幅は五百三十メートルであり艦体の総重量は推定六百二十万トンにも相当する。兵装は宇宙巡洋艦に匹敵する高エネルギー主砲が二基搭載され四基の対空パルスレーザーが装備される。六十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦が背後から大銀河帝国軍宇宙艦隊を砲撃する。スペースレーダーによる艦砲射撃により命中精度は八十パーセントと正確であり多数の宇宙艦艇を撃破したのである。同時刻…。脱出用ポッドに乗艇したブラッドフォードは撤退を決意したのである。
「全艦隊に撤退の命令を通信させろ…」
「承知しました…」
通信兵は即座に撤退命令を通信させる。同時に戦闘中の宇宙艦艇もワープ機能を作動…。大銀河帝国軍宇宙艦隊は推定四万光年に位置する大銀河帝国本土へと一瞬でワープしたのである。
「本船もワープさせろ…」
総司令官のブラッドフォードが乗艇する脱出用ポッドも一秒間で大銀河帝国本土『ユートピアサイド』へとワープ…。ユートピアサイドとはテラフォーミングによって地球型惑星に改装された海水の小惑星であり大銀河帝国軍本隊の本拠地である。ブラッドフォードは無事にユートピアサイドへと戻ったのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーのブリッジでは乗組員達がワープ機能で撤退する大銀河帝国軍宇宙艦隊を眺望する。
「艦長!敵軍が撤退します!」
ウィグノールは無表情で…。
「防衛作戦には成功したが…陽動作戦の囮艦隊は壊滅状態だな…」
今回の宇宙戦闘では大銀河帝国軍は大型宇宙戦艦三千三百四十八隻…。宇宙巡洋艦四千二百六十七隻と三万隻以上の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。一方のタイラントキラーは大型宇宙戦艦二千二百四十九隻…。宇宙巡洋艦三千六百九十四隻と二万五千六百三十八隻の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。人的損害では大銀河帝国軍は推計八十万人もの将兵が戦死…。タイラントキラーでは推計四十万人もの将兵が戦死したのである。今回の宇宙戦闘は第二十四次宇宙星間戦争と命名される。

第二話

亡命艦隊

第二十四次宇宙星間戦争から三日後の三月三十一日十六時…。大銀河帝国軍宇宙艦隊がタイラントキラーの宇宙機動部隊の奇襲攻撃によって大敗北してよりブラッドフォードは非常にピリピリした様子でユートピアサイド大総統官邸の自室にて無人兵器の資料を徹底的に黙読したのである。
(今後の戦闘では…無人兵器が役立ちそうだな…)
今迄は無人兵器の有効性は偵察以外では限定的と判断されたが…。第二十四次宇宙星間戦争により無人兵器の有用性が証明されたのである。すると何者かがコンコンッと自室のドアをノックする。
「誰だ?」
大柄の白人男性がブラッドフォードの自室に入室したのである。
「失礼します…ブラッドフォード大総統♪」
大柄の白人男性はヘラヘラした様子でありブラッドフォードは彼を直視すると余計にピリピリする。
(誰かと思いきや…)
「貴様は…副総統の【ストライダー】か…」
ストライダーとは碧眼金髪の白人男性でありブラッドフォードが唯一悪友と認識する人物である。今現在は副総統の立場であるが…。彼自身も少年時代は大銀河帝国軍の将兵であり各地の戦闘で活躍したのである。
「ブラッドフォード大総統♪ピリピリしちゃって如何されましたか♪三日前の第二十四次宇宙星間戦争は大変残念でしたね…」
ストライダーの発言にブラッドフォードは小声で…。
「貴様…」
「失礼です♪失礼です♪」
ストライダーは笑顔で謝罪する。ヘラヘラするストライダーであるが表情が変化したのである。
「訓練中の【ホムンクルス】ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から開発されたクローン人間達の総称である。度重なる宇宙戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。大銀河帝国ではクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。本来クローン人間の製造は倫理観の問題点から民主制の国家では禁止される反面…。大銀河帝国は独裁制の国家でありクローン人間の製造も容易に実施出来る。今現在は推計七億人のホムンクルスが大量生産され…。即戦力として実戦に参加出来そうなホムンクルスの将兵は推計七百万人である。
「彼等が実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。大銀河帝国軍はホムンクルス将兵と人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスを最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
「結局貴様の用事とは?」
ブラッドフォードが問い掛けるとストライダーは笑顔で…。
「新型兵器の完成と開発プランが完了しました…即刻軍事工場で見物しませんか?」
「承知した…」
ブラッドフォードは無表情で承諾したのである。彼等は外出するとスカイカーで軍事工場へと移動する。三十分後…。軍事工場は首都からは非常に近辺であり三十分程度で到着する。
「即刻完成した新型兵器を見物させろ…」
「承知しました…」
ストライダーは恐る恐るブラッドフォードに道案内したのである。
「軍事工場へは久方振りに見物したが…無人だな…」
軍事工場は基本的に無人であり作業用のロボットが新型兵器を製造する。
「最近はロボット技術の向上で人間の作業員が必要無くなりましたからね…」
近年ではロボットの普及によりあらゆる企業が管理人を一人配置するのが一般化したのである。彼等は地下に存在する宇宙船の巨大造船施設へと進入…。
「新型艦か…」
地下の巨大造船施設には数百隻もの宇宙艦艇が確認出来る。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争では反政府勢力のタイラントキラーによって大銀河帝国軍の宇宙艦隊が手酷く撃破されましたからね♪」
三日前の第二十四次宇宙星間戦争では当初の想定を上回る予想外の大損害により宇宙艦隊の再建が急行されたのである。
「建造中の宇宙艦隊は三日後には完成するでしょうし…一週間後には各部隊に配属させられますよ♪」
するとストライダーは新型艦を紹介する。
「最初に紹介する新型艦は宇宙巡洋艦…『バジリスク』です…」
バジリスク級宇宙巡洋艦とは大銀河帝国軍宇宙軍が開発した新型宇宙巡洋艦である。全長二百メートル…。全幅百四十メートルの大型巡洋艦であり総重量は推定五万トンである。兵装は口径三百ミリメートルの高エネルギー連装砲が三基装備され両サイドの片舷には光子魚雷発射機が二基搭載される。本艦の最大の利点は対空装備であり宇宙巡洋艦であるが対空パルスレーザーが合計十二基搭載されたのである。乗組員は全自動化を考慮…。通常の乗組員は三人であるが場合によっては一人だけでも操縦出来る。
「基本的にバジリスクは主力艦隊の護衛に利用されるでしょうね…」
ブラッドフォードは宇宙巡洋艦には無関心だったのかノーコメントだったのである。
(大総統…)
ブラッドフォードの無関心の態度にストライダーは苦笑いする。
「此奴は…」
ブラッドフォードが指差した方向には全長五百メートルサイズのドッグに確認出来る未完成の宇宙戦艦だったのである。
「宇宙戦艦なのか?建造中みたいだが…」
ストライダーはニヤッとした表情で即答したのである。
「ドッグに確認出来る建造中の軍艦は久方振りの新型宇宙戦艦ですよ♪」
「新型宇宙戦艦だと?セイバードラゴンの後継艦か…」
大銀河帝国軍はセイバードラゴン級宇宙戦艦が建造されて以来…。後継艦の建造は計画されなかったのである。近年とある新兵器の開発が浮上…。とある新兵器を搭載可能である新型宇宙戦艦の建造が急遽計画されたのである。
「新型宇宙戦艦とやらはセイバードラゴンの二分の一程度のサイズだな…」
ドッグのサイズから全長は推定四百メートルサイズの宇宙戦艦であると推測される。
「ですが新型宇宙戦艦が完成すればセイバードラゴン級宇宙戦艦を上回る性能が期待出来ましょう♪」
ブラッドフォードは無表情で…。
「性能が上回っても無用の長物なら御免だが…」
「大総統…」
(本当に偏屈だな…)
ブラッドフォードの発言にストライダーは人一倍偏屈であると感じる。するとブラッドフォードはフッとした表情で問い掛ける。
「今後の開発プランとやらは?」
「今後の開発プランは第二十四次宇宙星間戦争でタイラントキラーが投入したスペースドローンに対抗出来る戦闘用ドローンの開発ですよ♪」
ブラッドフォードは第二十四次宇宙星間戦争の翌日…。軍政部に戦闘用ドローンの重要性と開発を強引に説得させ戦闘用ドローンの開発計画が実行されたのである。幸運にも大銀河帝国軍宇宙艦隊の宇宙救助船が故障により全機能停止したタイラントキラーのスペースドローンを発見…。機体を鹵獲したのである。スペースドローンは機内の故障のみで全体的にノーダメージであり軍関係の技術者達は徹底的に機体を解析する。
「戦闘用ドローンの開発計画は順調みたいだな…」
「勿論ですとも♪機体の解析が順調に進行すれば…大銀河帝国軍でも独自の戦闘用ドローンの製造が開始されましょう…」
すると直後…。ブラッドフォードが所持する非常用の携帯式通信機が作動したのである。
「ん?通信機だと?」
ブラッドフォードは応答する。
「私だが…一体何事だ?」
「ブラッドフォード大総統!大変です!」
「貴様は【ルーヴェルハルト】少将か…一体何が発生した?」
ブラッドフォードに通信した相手は少将のルーヴェルハルトだったのである。ルーヴェルハルトは大銀河帝国軍の帝国軍人であるが…。帝国軍人としては非常に穏健派であり強硬派の帝国軍人達とは常日頃から対立する。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争の大敗北からタイラントキラーに影響された民衆達が各惑星で暴動を発生させたとの情報です…」
第二十四次宇宙星間戦争での大敗北から大銀河帝国の威厳が没落…。暴動を発生させた各惑星の住民達は民主化運動に尽力中のタイラントキラーを支持したのである。軍内部からも離反した脱走兵がデモ隊に協力…。各惑星にて地上の治安部隊とデモ隊による内紛が彼方此方で勃発したのである。ルーヴェルハルトはソワソワした様子であったがブラッドフォードは呆れ果てた様子で…。
「愚民の暴走程度で報告するな…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの予想外の返答にルーヴェルハルトはハッとする。
「愚民達のデモ隊なんて国軍の宇宙艦隊を派遣して鎮圧作戦を開始しろ…大気圏から光子魚雷を投下すれば簡単に鎮圧出来るだろう…」
「ですが大総統…国軍の宇宙艦隊を出撃させれば大勢の民間人が…」
躊躇するルーヴェルハルトにブラッドフォードは苛立ったのである。
「数億人程度の愚民に遠慮して如何する?デモ隊の暴動程度に畏怖するなら即刻宇宙艦隊を派遣させ…奴等を沈黙させろ…」
ルーヴェルハルトは一瞬沈黙するものの…。
「承知しました…大総統…」
ブラッドフォードの命令に承諾したルーヴェルハルトであるがプルプルした様子で通信を遮断させる。
「ルーヴェルハルトは本当に弱腰だな…」
ルーヴェルハルトを弱腰と罵倒するブラッドフォードにストライダーは恐る恐る…。
「ですが大総統…各地域でデモ隊の活動がエスカレートし続ければ大銀河帝国にとって非常に不都合ですよ…最悪大銀河帝国が内部分裂すればタイラントキラーの思う壺でしょう…」
「であれば一日も早くタイラントキラーの本土を攻略するべきだな…」
同日…。暴動が発生した各惑星には六個師団の大規模宇宙艦隊が派遣され艦隊の主力艦であるセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が各惑星の大気圏から地上を目標に光子魚雷を発射したのである。一発の光子魚雷により大都市諸共数千万人の住民達が死滅…。一度の鎮圧作戦で敵味方の合計死者数は推計十二億人を上回ったのである。同時刻…。タイラントキラーの本拠地であり自治領である母星『エデンプラネット』議会場では大銀河帝国軍による暴動鎮圧の情報が急報されたのである。総帥ウィグノールの右腕とも命名される【ウィンフィールド】がソワソワした様子で議会場へと入室する。
「ウィグノール総帥!緊急事態です!」
「ウィンフィールド大佐か…一体何事だ?」
ウィンフィールドとは若齢の職業軍人であり年齢は二十二歳の青年であるが階級は大佐…。非常に優秀でありタイラントキラーではウィグノールが唯一信頼する最高の部下である。
「大銀河帝国軍が自国内で発生した暴動を鎮圧したみたいですが…彼等の鎮圧作戦によってデモ隊のみならず…推計十二億人以上の非戦闘員が虐殺されたとの情報です…」
ウィンフィールドが最高指導者のウィグノールに伝達する。
「なっ!?虐殺だと!?奴等…デモ隊だけではなく自国内の国民をも殺害したのか?」
「残念ですが…本当みたいです…」
「大銀河帝国…ブラッドフォードは悪魔にでも憑依されたのか…」
ウィグノールは人一倍大銀河帝国のブラッドフォードを毛嫌いするのだが…。今回のデモ隊虐殺事件から今迄以上にブラッドフォードに対する嫌悪感が増大化したのである。
「最早大銀河帝国のブラッドフォードは野放しには出来ない…」
ウィグノールは一瞬沈黙するなり…。
「即刻宇宙大艦隊を準備させろ!タイラントキラーの宇宙艦隊を再編制させ…大銀河帝国本土…ユートピアサイドに宇宙艦隊を派遣…奇襲作戦を実行する…」
ウィグノールのユートピアサイド奇襲攻撃の発言にウィンフィールドは驚愕する。
「えっ!?総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて本気ですか!?」
「私は当然…本気だ!」
「ですが総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて実質自爆攻撃と一緒ですよ!エデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星『メティス基地』と人工惑星『プルトロン基地』を突破しなければ不可能です…」
現実問題…。タイラントキラーの本拠地であり自治領であるエデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破しなければ大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドへは到達出来ない。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地には合計十二万隻から十四万隻もの宇宙艦艇が配備され両陣営とも攻略するのは困難である。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破したとしてもユートピアサイドには二十万隻もの宇宙大艦隊は勿論…。両サイドの基地には新型巨大防衛兵器の存在が確認され簡単には攻略出来ない。奇襲作戦を実行すれば大多数の宇宙防衛艦隊からの猛反撃も予想され最悪味方艦隊全滅の可能性も否定出来ない。
「タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争でも相当の損害ですし…こんな作戦は将兵達も国民も支持しないでしょう…最悪の場合報復攻撃でエデンプラネットの滅亡も予想されましょう…」
実際タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争の陽動作戦で辛勝するものの大多数の大型艦が撃沈…。大破したのである。タイラントキラーも宇宙艦隊の再建に着手するのだが…。資源不足により手一杯の状態だったのである。こんな状態で奇襲作戦を強行すれば奇襲艦隊の全滅は確実であり最悪エデンプラネットの滅亡も否定出来ない。
「三日前の第二十四次宇宙星間戦争だけでタイラントキラーは二万隻以上の宇宙艦艇と四十万人以上の将兵達が戦死したのです…今現在は宇宙艦隊の再建と宇宙航空戦力の再強化に尽力するべきかと…」
直後…。会議室のホログラムがピコピコッと反応したのである。
「ん?ホログラム?」
ホログラムを作動させると通信兵の立体映像が出現する。
「ん?通信兵か?」
「ウィグノール総帥!大変です!緊急事態です!」
「緊急事態だと?今度は何事だ?」
「味方の宇宙偵察機が所属不明の宇宙艦隊を発見…小惑星『メタリックアイ』に接近中との情報です…」
小惑星メタリックアイとはタイラントキラーが統治する小惑星でありタイラントキラーにとって資源採掘の宝庫である。
「所属不明の宇宙艦隊だと?大銀河帝国軍の奇襲部隊か?」
「現段階では不明ですが…恐らくは…」
ウィグノールは再度問い掛ける。
「宇宙艦隊の規模は?」
「宇宙偵察機の情報では…宇宙巡洋艦クラスの大型艦一隻と…二十隻の宇宙駆逐艦クラスの小型艦です…」
「極小規模の小艦隊だな…」
「ウィグノール総帥…如何されますか?」
ウィグノールは一息するなり…。
「小惑星メタリックアイに宇宙警備艦隊の宇宙戦闘母艦一隻を派遣させ…所属不明の宇宙小艦隊を駆逐せよ…」
「承知しました…」
宇宙警備艦隊は主力のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦一隻で出撃したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はワープ機能を作動させると本拠地のエデンプラネットから推定百四十光年に位置する小惑星…。メタリックアイの存在する宙域へと到達したのである。タイラントキラーの宇宙警備艦隊は所属不明の宇宙小艦隊と遭遇するのだが…。所属不明の宇宙小艦隊は交戦の意思が皆無であり救難信号を発信したのである。彼等は五千人以上の避難民達を乗艦…。所属不明の宇宙小艦隊の正体は大銀河帝国軍を見限り祖国である大銀河帝国から亡命した亡命艦隊だったのである。当初はエデンプラネットでも混乱するも亡命艦隊の脱走兵は捕虜として扱われ…。避難民達は無事に保護されたのである。

第三話

奇襲大作戦

宇宙新暦七百二十二年四月十六日未明…。タイラントキラー軍内部では大銀河帝国本拠地であるユートピアサイド奇襲大作戦が正式決定される。当初はウィグノールの右腕であるウィンフィールドは勿論…。数多くの首脳陣が今回のユートピアサイド奇襲大作戦には猛反対され一時は作戦内容が全面的に白紙化されたのである。作戦内容が白紙化された数日後…。状況は一変する。大銀河帝国国内では大総統のブラッドフォードによる圧政に猛反発した大勢の将兵達やら国民達のデモ活動によりブラッドフォード政権は失脚寸前だったのである。大銀河帝国国内の大混乱から作戦を実行するチャンスであると確信したウィグノールは再度右腕のウィンフィールドとタイラントキラー首脳陣に説得…。最終的に作戦開始の三日前に大銀河帝国軍総本部ユートピアサイド奇襲大作戦は総帥ウィグノールの説得により正式決定されたのである。四月十八日十六時五十分…。タイラントキラー宇宙艦隊は七十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦を主力に機動突撃艦隊を新編成したのである。機動突撃艦隊は宇宙空母と宇宙航空戦力を中心とした宇宙大艦隊であり宇宙型大艦巨砲主義の大銀河帝国軍には存在しない。宇宙艦艇の総数は合計六万隻以上でありタイラントキラーにとっては最大の戦力だったのである。今回のユートピアサイド奇襲大作戦では主力の大型宇宙空母を護衛する新型宇宙巡洋艦の『シーサーペント』が二万隻以上投入される。シーサーペント級宇宙巡洋艦はスーパーレーダーによるレーダー射撃により主砲の命中精度のみなら大銀河帝国軍主力宇宙戦艦のセイバードラゴン級宇宙戦艦にも匹敵する。旗艦レヴィアタンより総司令官であるウィグノールが通信機で全軍に伝播…。
「全軍!ワープ機能を作動させろ!目標地点は大銀河帝国軍本拠地…ユートピアサイド!」
タイラントキラーの宇宙艦艇は大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドを目標にワープ機能を作動させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではステルス機能すら無効化する新型の改良型スーパーレーダーが設置されタイラントキラーの動向を察知したのである。
「大総統!タイラントキラーの主力宇宙艦隊が行動を開始しました!彼等は本拠地であるユートピアサイドに接近中です…」
通信兵の報告に大総統ブラッドフォードは承諾する。
「奴等…行動を開始したな…」
ブラッドフォードは基地内の総司令部に設置されたホログラムにてタイラントキラーの宇宙艦隊の動向を確認したのである。五日前にタイラントキラーの本拠地であるエデンプラネットに諜報部隊を派遣…。タイラントキラーの情報をキャッチするのに成功したのである。副総統のストライダーが恐る恐る…。
「大総統?ユートピアサイドに援軍を派遣しますか?」
「援軍は不要だ…」
問い掛けたストライダーであるがブラッドフォードは援軍の派遣は不要であると返答したのである。
「援軍は不要ですと?」
「最早大銀河帝国軍にとってユートピアサイドの戦略的価値は皆無だ…ユートピアサイドへは援軍は派遣しない…」
「であればユートピアサイドは如何されるのですか?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「新型戦略兵器『ツァーリーボンバ』で敵味方諸共…ユートピアサイドを殲滅する…」
「なっ!?戦略兵器であるツァーリーボンバで…大銀河帝国軍本拠地のユートピアサイドを殲滅するのですか!?」
ツァーリーボンバとは大銀河帝国軍が新開発した新型戦略兵器であり正式名は超大型戦略貫通ミサイルである。全長は七百メートルサイズ…。規格外の超巨大試作型誘導弾であり破壊力は未知数である。
「大総統は正気ですか!?ユートピアサイドには大勢の味方の地上部隊と民間人が居住する人口密集地ですし…何よりもユートピアサイドは大銀河帝国軍の本拠地なのですよ!?」
大銀河帝国軍の総本部であるユートピアサイドには総勢七十万人もの地上部隊が配備され…。推計七十億人以上の非戦闘員が居住する。
「敵軍を殲滅するには味方の犠牲は必要不可欠だ…」
(今現在ユートピアサイドの地上部隊は実質不要だからな…奴等にはツァーリーボンバの実験台として利用するのが適任だ…)
ユートピアサイドに配置された味方の地上部隊はブラッドフォードにとって不要と判断した部隊であり実質消耗品だったのである。
「即刻改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦に新型戦略兵器ツァーリーボンバを搭載させ…出撃させろ…」
「はっ!承知しました!」
ツァーリーボンバは宇宙戦艦クラスの大サイズであり実質改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にしか搭載出来ない。準備は五分で終了する。通信兵が再度司令室へと入室したのである。
「改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦にツァーリーボンバを搭載準備…完了しました…」
「上出来だ…」
ブラッドフォードはスマートウォッチで時間帯を確認する。
「出撃は五分後だ…」
「承知しました…」
五分が経過したと同時に…。ツァーリーボンバを搭載した改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦が出撃したのである。人工惑星プルトロン基地から改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦が出撃した同時刻…。タイラントキラーのユートピアサイド攻略宇宙艦隊が大銀河帝国軍本拠地ユートピアサイドの大気圏上空へと到達したのである。ユートピアサイド地上部隊は総司令部に設置されたスペースレーダーにてタイラントキラー宇宙艦隊の動向をキャッチする。
「大気圏上空よりタイラントキラーの宇宙艦隊です!」
「奇襲作戦か…」
タイラントキラー宇宙艦隊の突然の出現に地上部隊は動揺したのである。
「奴等…ワープ機能でプルトロン基地とメティス基地を突破したのか…」
「総数六万隻の大艦隊です…地上部隊だけで守備するのは不可能でしょう…」
現実問題地上部隊のみではタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するのは不可能…。味方の宇宙艦隊は各惑星のデモ隊鎮圧任務に投入され援軍からの援護は絶望的である。
「兎にも角にもタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するぞ!」
地上部隊の滑走路からは三百機前後の旧型宇宙戦闘機スペースバードが飛来…。地上軍は宇宙戦艦をも一発で撃沈出来る高エネルギー主砲搭載型砲撃列車と旧型戦闘装甲車が対空戦闘を開始したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦の宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは総司令官のウィグノールがホログラムにて地上の様子を観察する。
「ユートピアサイドの地上軍は攻撃を開始したか…」
ウィグノールは一息したのである。
「民間人への被害は最小限に努力しろ…」
数秒後…。
「全軍攻撃開始!敵軍を排除せよ!」
タイラントキラーの攻撃開始と同時に七十隻のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦飛行甲板より数百機ものスペースドローンが飛来したのである。ユートピアサイド都市部大気圏上空では有人機と無人機の空戦が展開される。大銀河帝国軍地上軍のスペースバード航空隊は必死に反撃するのだが…。相手は新型の無人機であり旧型の有人型宇宙戦闘機であるスペースバードでは撃墜するのは困難である。一分間の戦闘で百八十機ものスペースバードが撃墜される。スペースバードの防衛網を突破した無数のスペースドローンは都市部直上へと突入…。地上部隊の基地と周辺区域を攻撃したのである。地上部隊は砲撃列車と戦闘装甲車は勿論…。基地周辺に設置された固定砲台で上空のスペースドローンを迎撃するも地上では超音速で飛来するスペースドローンを撃墜するのは困難である。反対にスペースドローンの多目的ミサイル…。小型光子魚雷による爆撃で地上部隊の地上兵器が破壊されたのである。同時刻…。宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは副艦長のウィンフィールドが艦内のホログラムで地上の様子を再度直視する。
「味方部隊の優勢ですね…今現在自軍の損害は皆無です!」
タイラントキラーの優勢に大喜びするウィンフィールドであるが…。
「非常に奇妙だな…」
「奇妙ですと?」
奇妙であると発言するウィグノールにウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「何が奇妙なのですか?」
「敵軍の地上部隊は旧型の兵器ばかり…戦争博物館だな…」
ユートピアサイドは大銀河帝国軍にとって最重要拠点であるのだが…。投入された地上軍の兵器は旧型の前時代的代物ばかりでありウィグノールは胸騒ぎを感じる。
「最重要拠点の防衛戦としては抵抗が軽微に感じられる…」
戦闘開始から五分が経過するとユートピアサイドの地上部隊の戦力は八割が壊滅状態であり最早組織的抵抗は不可能の状態だったのである。タイラントキラーの将兵達は勝利を確信するのだが…。ウィグノールとウィンフィールドは表情が険悪化したのである。すると一人の将兵が彼等に問い掛ける。
「艦長達…一体如何されたのですか!?タイラントキラーの勝利は目前ですよ!今日より銀河全体の民主主義が実現するのです!」
するとウィグノールは恐る恐る…。
「ひょっとすると敵軍のトラップかも知れないな…」
「えっ!?敵軍のトラップですと?」
直前である。艦内のスペースレーダーが正体不明の移動物体に反応…。艦内全体にサイレンが響き渡る。
「ん?何事だ…」
モニターを作動させると規格外の超大型ミサイルを搭載したセイバードラゴン級宇宙戦艦が映写される。
「此奴は…大銀河帝国軍の…」
「セイバードラゴン級宇宙戦艦だな…改良型か…」
「ですが船底に大型戦艦クラスの超大型ミサイルらしき物体が確認出来ます…物体はミサイルなのでしょうか?」
ウィグノールは勿論…。周囲の乗組員達がセイバードラゴン級宇宙戦艦に搭載された超大型ミサイルに身震いしたのである。するとウィグノールは恐る恐る…。
「ウィンフィールド…」
「如何されましたか?ウィグノール総帥…」
普段は冷静であるウィグノールであるが不吉の予感を察知したのか今回は異常にビクビクしたのである。
(ウィグノール総帥が畏怖されるなんて…)
ウィンフィールドはウィグノールの様子に一大事であると察知する。
「不本意であるが…全軍を撤退させろ…」
ウィグノールの判断にウィンフィールドを除外する周囲の将兵達が猛反発したのである。
「えっ!?今更撤退ですと!?」
「敵艦は一隻だけです!即刻迎撃して…」
「下手に攻撃すると面倒だ…モニターの此奴は予想以上に危険かも知れない…」
ウィグノールは即座にワープ機能作動を全軍に伝播させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではブラッドフォードが基地内から無人の改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦を遠隔操作したのである。
(コンピュータゲームみたいだな…)
ストライダーは遠隔操作により航行する改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦をコンピュータゲームであると感じる。ブラッドフォードはモニターでユートピアサイドの大気圏上空を浮遊するタイラントキラーの宇宙艦隊を確認したのである。
「敵軍は大気圏上空に展開中だな…」
一息するなり…。
「攻撃目標…ユートピアサイド…超大型戦略貫通ミサイル…ツァーリーボンバ…発射する…」
改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦からツァーリーボンバが発射される。発射された同時刻…。ユートピアサイド大気圏上空にて展開中のタイラントキラー宇宙艦隊の各艦のスーパーレーダーにはツァーリーボンバが確認される。
「艦長!敵艦から規格外の超大型ミサイルが発射されました!」
ウィグノールはモニターの超大型ミサイルを直視する。
(此奴は大銀河帝国軍の新型兵器か…止むを得ないか…)
不本意であるが…。
「全軍に伝達する!全艦隊…即刻撤退せよ!」
直後である。ユートピアサイドに接近中の超大型戦略貫通ミサイル…。ツァーリーボンバが惑星全体にピカッと炸裂したのである。数秒後…。高熱の熱線が惑星全体を覆い包み天体諸共爆散したのである。タイラントキラーの主力宇宙艦隊はワープ機能の作動により撤退に成功したものの…。最前線の艦隊はツァーリーボンバの大爆発によってユートピアサイド諸共消滅したのである。
「はぁ…はぁ…ウィグノール総帥…無事に撤退出来ましたね…」
「主力の宇宙艦隊は無事だが…」
先程の自爆攻撃でタイラントキラーは推計三百四十八隻の宇宙戦艦…。六百八十九隻の宇宙巡洋艦と五千二百三十一隻の小型艦艇を喪失したのである。推計三十万人もの将兵を喪失する。一方の大銀河帝国軍は自身の自爆攻撃によって推計五百万人の兵員…。推計七十億人もの住民がツァーリーボンバで死滅したのである。タイラントキラーにとって今回の作戦失敗は甚大であり総帥のウィグノールは大勢の将兵達からは勿論…。民間からも作戦失敗の責任を追及され彼自身の妻子も戦争犯罪者として迫害されたのである。ウィグノールは作戦の失敗を契機に宇宙新暦七百二十二年四月二十一日…。自宅の寝室にて妻子と一緒に一家心中したのである。

第四話

新型宇宙戦艦

ユートピアサイド軍事工場で計画中であった新型宇宙戦艦は急遽人工惑星プルトロン基地で建造される。宇宙新暦七百二十二年四月二十四日早朝…。大総統のブラッドフォードはプルトロン基地の軍港へと来場する。
「如何やら新型宇宙戦艦が完成したみたいだな…」
軍港には全長四百メートルサイズ…。全幅二百二十メートルサイズの新型宇宙戦艦が確認出来る。すると背後より…。
「大総統♪こんな場所で一体何を?」
「ストライダーか…暇潰しに新型兵器を見物しただけだ…」
「新型兵器の見物ですか♪」
副総統のストライダーも新型宇宙戦艦を直視する。
「此奴はセイバードラゴン級宇宙戦艦の後継艦…キングタイタンですよ♪」
「キングタイタンだと?即刻改名しろ…」
艦名が気に入らなかったのか後継艦の改名を要求したのである。
「えっ?改名って…」
ストライダーは困惑したのである。
「であれば私が名付ける…此奴の艦名は『アルセイス』だ…」
「えっ…アルセイスって…」
ストライダーはハッとする。
「アルセイスとは…大総統の令夫人の名前では…」
「勿論…彼女の名前だ…」
アルセイスとは二年前の四月に大病で死去したブラッドフォードの夫人の名前である。
「大総統が希望すのであれば…」
新型宇宙戦艦の艦名はアルセイスと改名される。
「此奴の性能は?」
アルセイスは全長四百メートルサイズで全幅は二百二十メートルサイズ…。全備総重量は七十万トンの巨大宇宙戦艦である。全長が八百メートルサイズのセイバードラゴン級宇宙戦艦の二分の一のサイズであるが…。戦闘能力は段違いであり砲撃に特化された完全攻撃型宇宙戦艦である。兵装は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が二基…。対空兵装では五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八基搭載される。実弾兵器は光子魚雷発射機が二基…。多目的ミサイル発射機が十二基配置される。本艦にとって最大の兵装であり主砲…。超弩級波動砲『ケラウノス』は無限の電力を内包するスパークストーンが使用され一撃で惑星を消滅させる。動力炉はスーパーリアクターの改良型である新型無限動力炉『ハイパーリアクター』が搭載される。艦載機は無人機が四機…。乗組員は一人から三人程度で運用出来る。正式名は上級大将専用宇宙戦艦であり居住設備も豪華客船に匹敵する。本艦を一隻建造するだけでセイバードラゴン級宇宙戦艦二百隻の予算が使用…。政府首脳陣専用の宇宙戦艦であり実質ブラッドフォードのみが乗艦出来る。
「本艦の装甲は『エターナルメタル』ですからね…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは資源採掘惑星レアメタルスターで採掘された不朽性であり未知の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスは非常に安価ですからね♪」
「であれば好都合だ…」

第五話

猛反撃

三日後…。人工惑星プルトロン基地から三万隻もの宇宙大艦隊が出撃を開始する。旗艦は新型宇宙戦艦アルセイスであり大銀河帝国軍総司令官のブラッドフォードが乗艦したのである。
「全軍に伝達する!今回は小惑星メタリックアイを確保…タイラントキラーの防衛宇宙艦隊を殲滅せよ!」
今回の作戦では新型宇宙巡洋艦バジリスクが推計二千隻…。六千隻もの新型宇宙駆逐艦『アスピドケロン』が投入され艦載機は新型戦闘用ドローン『セイバードローン』が投入される。将兵の大半がクローン人間のホムンクルスであり人間の将兵は少数である。一新された大銀河帝国宇宙艦隊はタイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインである小惑星メタリックアイを目標に全速前進…。各艦艇はワープ機能で小惑星メタリックアイの宙域へと到達する。
「メタリックアイの宙域に無事到達したな…」
旗艦アルセイスを先頭に…。背後からは三万隻もの宇宙艦艇がワープ機能で到達したのである。するとブリッジのホムンクルス将兵が発言する。
「味方の宇宙艦隊が到達したみたいですね…」
「メタリックアイを攻略…奴等の最終防衛ラインを陥落させ…奴等を絶望させるぞ…」
タイラントキラーの保有する惑星は実質母星であるエデンプラネットと最終防衛拠点のメタリックアイのみである。
(メタリックアイを陥落させれば…実質大銀河帝国の大勝利だ…)
タイラントキラーはユートピアサイド攻略作戦の失敗で戦力が低下…。最高指導者である総帥ウィグノールの自殺により以前より士気も戦争遂行能力も低下した状態だったのである。タイラントキラーは国民主権の勢力であり大勢の民間人が安住するエデンプラネットでの本土決戦は回避…。投降するのではと思考したのである。
「艦長!敵部隊の防衛宇宙艦隊を発見しました!」
艦内のスペースレーダーがメタリックアイの防衛宇宙艦隊をキャッチする。
「宇宙艦艇の総数は?」
「推計一万五千隻です…」
「一万五千隻か…」
(一個艦隊程度だな…)

反帝国主義

宇宙新暦七百二十二年五月十七日…。最終戦略兵器ケラウノスによって国民主義勢力のタイライトキラーと本拠地である小惑星エデンプラネットを消滅させた大銀河帝国軍であるが…。日に日に過激化するブラッドフォード政権に対する反対運動は新勢力の誕生を促進させたのである。二日後の五月十九日…。ブラッドフォード政権を見限った穏健派の帝国軍人ルーヴェルハルトは大銀河帝国を脱退したのである。三日後の五月二十二日に反帝国主義勢力『ホープセイバーズ』が結成…。大銀河帝国自治領の一部である小惑星『ホープエリア』を本拠地として設置される。ホープセイバーズ結成から一週間後の五月二十四日…。大銀河帝国軍を見限った一部の帝国軍人達と母星の消滅により宇宙空間を漂流するタイライトキラーの臨時政府軍宇宙艦隊が小惑星ホープエリアへと集結したのである。ホープセイバーズ創設から二週間が経過するとホープエリアの総人口は推計二十億人に増加する。銀河系の各宙域ではタイラントキラーの残存艦隊が宇宙海賊団を組織…。彼等も義勇軍としてホープセイバーズに加入される。五月二十七日…。大銀河帝国軍総本部では大総統のブラッドフォードと副総統のストライダーが対談する。
「大総統…ルーヴェルハルト少将が大銀河帝国から脱退しましたな…」
「大銀河帝国に穏健派の軍人は不要だ…」
(彼奴は目障りだからな…)
ブラッドフォードにとって穏健派のルーヴェルハルトは正直目の上のたん瘤でありルーヴェルハルトの脱退は非常に好都合だったのである。
「ホープセイバーズですが…如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「当然として…敵対勢力は徹底的に殲滅する予定だ…」
メンテ
桜花姫※妖怪奇譚 ( No.68 )
日時: 2021/09/01 09:10
名前: 月影桜花姫

第一話

真夜中

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。五十年後の天地暦一万二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が荒神山に出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は魑魅魍魎の魔窟同然であり人間は誰一人として荒神山へは近寄れない。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
(如何やら今回の相手も大群だな…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんな重苦しい妖気だ…普通の人間は近寄れないな…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻荒神山の妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身である。
「此奴は妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体とは妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。特定の地域では疫病神とも呼称される。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「妖怪よ…成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。
「大群だな…」
無数の食人餓鬼はふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
総勢数十体から数百体もの食人餓鬼に包囲されるも…。圧倒的に劣勢であったが三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼の全身を発火させたのである。発火により三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度の相手は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。肉塊の怪物は巨体の人型であるが…。全身の体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は食人餓鬼の親玉…【百鬼食人餓鬼】か…」
百鬼食人餓鬼は通常の食人餓鬼の集合体であり食人餓鬼の親玉である。
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。極度の疲労により法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
(戻ろうか…)
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。
「えっ…」
今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が列記とした妖怪なのは確実であるが…。敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行し続けても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんてあんたは大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?ひょっとして覗き見とか♪あんたは相当の物好きね♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんた…私に殺されたいみたいね…」
「私に用事かしら?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかも知れないわね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は魑魅魍魎の集合体です…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は列記とした妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…本当に妖怪なのか?)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視する。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気か!?)
突如として妖気を察知…。三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾し続けるのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「三蔵郎様♪」
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りしたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…普通の妖怪よりも桁違いに巨体ですね…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達の霊魂が妖怪化した化身…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。海難入道と遭遇した人間は溺死するのが通例である。
「漁船を襲撃したのが水難妖怪の海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは妖怪を退治するなんて…」
漁師達は呆れ果てる。
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪なのよ♪」
「あんたが妖怪だって?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?俺達の漁船が…」
「桜餅に!?如何してこんな…」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは…本当に妖怪なのか?」
「勿論♪私は正真正銘妖怪なのよ♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。すると漁師達は身震いした様子で恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」
「殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間達は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
再度変化の妖術を発動する。すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化…。黒髪の長髪は銀髪に変色したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
三蔵郎は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚に変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき物体は何一つとして確認出来ない。
(こんな暗闇だと海難入道は発見出来ないわね…)
すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
「妖気!?」
(ひょっとして海難入道の妖気かしら?)
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。数秒後…。暗闇の遠方より白鯨らしき巨大移動物体が接近する。
「何かしら?」
巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主であり全体的に真蛸らしき物体だったのである。
(巨大真蛸…)
「海難入道だわ…」
海中の巨大移動物体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は大島に匹敵する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。
「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様はあらゆる妖怪の集合体…月影桜花姫だな…人魚に変化したのか?」
海難入道は人語で発言したのである。
「私は変化の妖術で人魚にも変化出来るからね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「今現在の俺は空腹だ…邪魔するなら貴様も食い殺すぞ…」
海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり自身が空腹であれば相手が妖怪であっても捕食する。
「空腹ね…私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」
「はっ?」
桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。
「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では俺を仕留められる妖怪は皆無であるぞ…」
海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るが…。海中で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。
「噂話は熟知したぞ…近頃貴様は人間の僧侶に加勢して…同種の妖怪達を征伐したらしいな?」
「人間に加勢したから何よ?私は鬱陶しい邪魔者を仕留めただけなのよね♪」
桜花姫は笑顔で反論したのである。
「貴様…気に入らないな…」
「気に入らないなら如何するのかしら♪」
「妖怪の面汚しである貴様は死滅しろ…」
海難入道は即座に巨大触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。
「あんたこそ死滅しなさい♪」
両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。
「直撃♪直撃♪」
雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。
「えっ?」
「残念だったな…桜花姫よ…」
桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。
「妖力を吸収するなんて…」
普段は冷静の桜花姫であるが…。海難入道の吸収能力に一瞬動揺する。
(海難入道には妖術が通用しないのかしら…)
「不思議そうな表情だな…桜花姫…俺はあらゆる妖力を吸収出来…妖術を無力化出来るのだ…」
海難入道の最強の特殊能力である吸収能力は自身の肉体に接触した多種多様の妖力を吸収出来…。あらゆる妖術を無力化出来る。基本的に妖力を駆使した攻撃法では海難入道は仕留められない。
「貴様程度の妖術では俺を仕留められない!」
(妖術が通用しないなんて…此奴は意外と厄介だわ…)
あらゆる魑魅魍魎の集合体である桜花姫でも…。妖力を吸収する妖怪を仕留めるのは非常に困難である。
(出直そうかな?)
恐る恐る後退りする。後退りする桜花姫に…。
「先程の威勢は如何した?俺に恐怖したか?」
「別に…」
問い掛けられた桜花姫は無表情で返答する。
「貴様は妖力だけなら大妖怪に匹敵するな…是非とも貴様を捕食したい…」
「私を捕食ですって?」
「あらゆる妖怪の集合体である貴様を食い殺せば…俺は大妖怪の領域に到達出来るからな♪」
豪語する海難入道に桜花姫は笑顔で…。
「私を捕食なんて…あんた程度の妖怪に出来るかしら♪」
桜花姫は笑顔で挑発したのである。
「貴様…本当に食い殺されたいらしいな…」
「食い殺せるのであれば私を食い殺しなさいよ♪」
桜花姫は再度挑発する。
「妖怪の小娘風情が…貴様は本当に気に入らない小娘だな…」
すると蛸足の巨大触手で桜花姫を拘束したのである。
「えっ?」
「貴様を食い殺す!」
一口で桜花姫を捕食…。口内で彼女を咀嚼したのである。
「所詮桜花姫はこんな程度の妖怪だ…」
すると直後…。桜花姫を捕食した影響からか先程よりも妖力が急上昇したのである。
「俺の妖力が増大化したぞ!」
妖力のみなら今現在の海難入道は大妖怪に匹敵…。海難入道は強大化した自身の妖力に大喜びしたのである。
「今日から俺も大妖怪の仲間入りだな♪」
すると直後…。
「ん?」
海難入道の全身が白煙に覆い包まれ…。二町規模の巨大さである海難入道の肉体が消滅したのである。すると白煙の内部から海難入道によって食い殺された桜花姫が出現…。彼女は無傷であり平気そうな様子だったのである。
「海難入道を仕留めたし♪」
(陸地に戻りましょう♪)
桜花姫は再度瞬間移動の妖術を駆使…。海岸の砂浜へと戻ったのである。
「なっ!?桜花姫様!?」
三蔵郎と合流する。
「三蔵郎様♪妖怪は無事征伐したわ♪」
「海難入道を征伐されたみたいですね…一瞬桜花姫様の妖気が消滅したので食い殺されたのかと…」
「一度海難入道に捕食されちゃったけれどね♪」
桜花姫は一時的に海難入道に捕食されたものの…。体内の胃袋から海難入道の肉体と同化したのである。
「反対に私が海難入道を捕食したのよ♪」
「えっ…捕食ですと?」
今現在海難入道は桜花姫の肉体の一部に変化する。
「兎にも角にも…海難入道は仕留めたから南国の海域は安全よ♪」
「事件は無事解決したので一件落着ですね…」
三蔵郎も一安心したのである。
「事件も解決したし♪戻りましょう♪」
「解散しますかね…」
桜花姫と三蔵郎は解散…。二人は村里へと戻ったのである。

第三話

強襲

南国での海難入道との大海戦から六日後の真夜中…。桜花姫は暇潰しに北国の村里にて散歩したのである。
「退屈ね…」
時間帯は深夜であり村人達は確認出来ない。
「妖怪でも出現しないかしら?」
基本的に多数の百鬼夜行が活動するのは真夜中であり日中に出現するのは中級以上の妖怪である。
「戻ろうかな?」
戻ろうかと思いきや…。
「ん!?」
突如として周囲より無数の気配を感じる。
(気配だわ…)
桜花姫は恐る恐る周囲を警戒し始める。
(無数の妖気みたいね…)
「妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり無数の妖怪達が自身に接近するのを察知する。
「何が出現するのかしら?」
すると直後である。周囲の地面より数十体もの食人餓鬼が出現…。周囲を包囲されたのである。
「食人餓鬼だわ…」
(敵意も感じられるわね…)
突如として出現した食人餓鬼であるが…。桜花姫を敵対視した様子だったのである。
「あんた達…如何やら私が気に入らないみたいね♪」
メンテ
メガラニカ大事変 ( No.69 )
日時: 2021/09/01 19:25
名前: 月影桜花姫

第一話

開戦

世界暦五百二十二年五月十七日午前八時未明の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『太平帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。終戦後は超大国としての地位と資源を牛耳ったのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得した太平帝国であるが…。太平帝国の圧政に反対する一部の国連軍残存勢力と各地の反政府勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ自由区』と命名され覇権国家である太平帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ自由区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ自由区の勢力拡大を危惧した太平帝国はメガラニカ自由区に宣戦布告…。翌日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ自由区本土を攻撃目標に直進したのである。太平帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦アスピドケロンには太平帝国国家元首であり総軍の最高指導者である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。
「大総統!徹底的にメガラニカ自由区を撃滅しましょう!」
「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国である太平帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」
ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦アスピドケロンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ自由区本土攻略作戦ではアスピドケロン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。
「メガラニカ自由区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」
「全軍を警戒態勢に移行させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。
「全軍…警戒態勢に移行せよ…」
すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦アスピドケロンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。
「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」
スーパーレーダーは太平帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。太平帝国軍では艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在太平帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。
「何事だ?」
ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。
「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」
スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。
「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」
すると直後…。
「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」
四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。
「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」
ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。
「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」
各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年太平帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。
「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」
「最先端の科学技術の結晶である太平帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」
ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」
総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。太平帝国軍の大艦隊はメガラニカ自由区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ自由区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。
「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」
メガラニカ自由区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。
「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」
ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。太平帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。
「味方艦隊の圧倒的優勢です!」
旗艦アスピドケロンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。
「太平帝国軍の圧勝は確実だな…」
「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ自由区なんて…」
乗組員達は太平帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ自由区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。
「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」
「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…太平帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」
乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。
「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」
「狼狽えるな…」
ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。
「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ防衛軍が圧倒的に不利ですよ…」
ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。
「時間だな…」
周囲の乗組員達はハッとした表情で…。
「えっ…何が時間なのですか!?」
一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。
「作戦を開始する…」
ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。
「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」
「はっ!」
周囲の者達はポカンとする。
「一体何を開始するのか?」
同時刻…。メガラニカ自由区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ自由区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景に太平帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。
「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ自由区の南方地帯全域を空爆せよ…場合によっては非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」
「はっ!」
ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ自由区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死に太平帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦アスピドケロンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。
「大総統♪太平帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」
副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…」
ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。
「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。
「スーパーレーダーが反応しました!」
特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。
「今度は何事だ!?」
ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。
「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」
「移動物体だと?敵機か?」
ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。
「此奴は…」
飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。
「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」
「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」
「戦闘用ドローンですと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」
「承知しました…大総統…」
戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。
「大総統…敵軍のドローンです…」
「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」
ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦アスピドケロンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。
「なっ!?シールドでしょうか!?」
「シールドだと?」
「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」
「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」
電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年では太平帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。
「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」
ドローン関連の科学技術ではメガラニカ自由区が太平帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ防衛軍にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方の太平帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。
「艦長…上空より敵機が接近中です!」
対空パルスレーザーの弾幕が太平帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。
「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」
「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」
本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。
「大昔の大戦だな…」
太平帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。
「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」
特殊無線技士が報告する。
「即刻回避だ!」
ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦アスピドケロンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦アスピドケロンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。
「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」
メガラニカ防衛軍のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローン部隊も艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。
「大総統…太平帝国軍の劣勢です…」
形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦アスピドケロンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。
「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」
同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦アスピドケロンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。
「大総統!現状では太平帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」
撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。
「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」
実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。
「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」
ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。
「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」
特殊無線技士が報告する。
「敵機だと?」
数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦アスピドケロンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。
「ぐっ!」
艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。
「大総統!大丈夫ですか!?」
副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。
「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」
先程のドローンの攻撃により旗艦アスピドケロンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。
「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」
「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」
「であればダメージコントロールを急行せよ…」
乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。
(戦闘を続行し続ければ太平帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…)
味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。
「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」
ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始した太平帝国軍の艦隊にメガラニカ防衛軍のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦で太平帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ防衛軍はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。太平帝国の権威が失墜したのである。

第二話

大艦巨砲主義

メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ自由区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ防衛軍はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力により太平帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。太平帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。
「大総統…一週間の短期間で太平帝国の統治領の約半分がメガラニカ防衛軍の猛反撃により占拠されました…太平帝国軍は劣勢の状態です…」
「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」
ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。
「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ自由区は太平帝国以上に消耗した状態です!」
今現在のメガラニカ自由区と太平帝国の国力は一対十八でありメガラニカ自由区は圧倒的に不利である。メガラニカ防衛軍はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量の太平帝国軍を圧倒する。メガラニカ防衛軍の快進撃により太平帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ防衛軍は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。
「メガラニカ防衛軍は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来る絶好のチャンスですよ!」
するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」
「訓練中のホムンクルスですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前の太平帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治の太平帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来るのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。
「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。太平帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
近日では太平帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ防衛軍に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続ける太平帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。
「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」
開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。
「戦闘用ドローン…『ケルベロス』?」
「ケルベロスは…」
ケルベロスとは太平帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザーと実弾の対空機関砲を搭載…。
「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ防衛軍のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」
メガラニカ南方海戦で太平帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦で太平帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ防衛軍のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。
「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」
二枚目の設計図を直視する。
「ん?此奴は…」
「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『アプセラス』です…」
「超砲撃型戦艦…アプセラス?」
正式名は超砲撃型戦艦アプセラスであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるがアプセラスは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。
「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…」
ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるが…。
「戦艦アプセラスは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…」
「電磁投射砲か…」
電磁投射砲は現在太平帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。
「海軍開発部の大計画では戦艦アプセラスの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも安価ですからね♪」
「であれば建造を急行するべきだな…」
直後である。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。
「緊急事態だと?一体何事だ?」
ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。
「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍の攻勢で占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…守備隊は玉砕したとの情報です…」
「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。
「残念ですが…」
メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人もの太平帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ防衛軍の強襲で全滅したのである。
「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…パシフィスゾーン基地だな…」
パシフィスゾーン基地とは最南端に位置する離島…。パシフィスゾーン本島を防衛する太平帝国軍守備隊の本拠地である。太平帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「大総統…即刻パシフィスゾーン本島に援軍を派遣させますか?」
「援軍は不要だ…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。
「本気ですか!?大総統!?」
「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」
「如何して援軍を派遣しないのですか!?パシフィスゾーンが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」
ブラッドフォードは再度無表情で返答する。
「パシフィスゾーンの守備隊には陽動作戦に利用する…」
「陽動作戦ですと?」
「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…パシフィスゾーンに侵攻中のメガラニカ防衛軍を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」
パシフィスゾーン基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。パシフィスゾーンを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。
「特殊弾頭ミサイルですと!?パシフィスゾーンに特殊弾頭なんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の民間人にも被害が…」
特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発のミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には躊躇する。
「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」
小規模国家であった太平帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。
「特殊弾道ミサイルで敵味方諸共…殲滅されるのですか?」
「最早多少の犠牲は止むを得ない…」
ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。
「特殊弾頭は極秘だぞ…兎にも角にもパシフィスゾーンの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは不本意であるが…。ブラッドフォードの作戦に承諾したのである。

第三話

攻防戦

五月二十七日早朝…。メガラニカ防衛軍の大艦隊が太平帝国最終防衛区域パシフィスゾーンへと進行を開始したのである。同時刻…。パシフィスゾーン基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。
「一体何事だ!?」
パシフィスゾーン基地陸軍総司令官【ウィグノール】が偵察員に問い掛ける。
「スーパーレーダーが反応しました!」
即座に立体映像のホログラムで領海を確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。
「此奴はメガラニカ防衛軍の大艦隊だな…パシフィスゾーンを攻略するみたいだ…」
「如何しましょう…総司令官…」
「即刻防衛戦を開始する!各員は戦闘配置だ!パシフィスゾーンは徹底的に死守しろ!」
ウィグノールは各員に防衛戦を指示したのである。
「はっ!」
パシフィスゾーンは本土防衛の最終防衛ラインでありパシフィスゾーンが陥落すれば本土が攻撃される。
「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」
「はっ!」
通信兵は即座に総本部に通達したのである。三十分後…。メガラニカ防衛軍の大艦隊がパシフィスゾーンの防衛区域へと到達したのである。
「総司令官…メガラニカ防衛軍の大艦隊が防衛区域に到達しました…」
「防衛戦を開始するか…」
ウィグノールの攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻ものミサイル警備艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。同時刻…。メガラニカ防衛軍の大艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦レヴィアタンはスーパーレーダーで太平帝国軍のミサイル警備艇と戦闘爆撃機を確認する。
「艦長…敵部隊を確認しました…」
レヴィアタンの艦長はメガラニカ南方海戦で活躍したウィンフィールドである。
「即刻ホログラムを作動させろ…」
乗組員は艦内のホログラムを作動させる。するとホログラムには百隻以上のミサイル警備艇と戦闘爆撃機が立体映像として映写される。
「敵部隊は旧型の兵器ばかりか…」
「如何されますか?」
乗組員の問い掛けにウィンフィールドは即答する。
「即刻迎撃せよ…ドローン兵器を発進させろ…」
「承知しました…」
旗艦のレヴィアタンから二十八機のグリフォン型ドローン兵器が発進する。レヴィアタンは全長二百四十メートルサイズ…。全幅三十メートルサイズの大型艦であり満載排水量は推定五万トンである。ミサイル戦闘艦としての機能は勿論…。航空機の母艦としても使用出来る。所謂現代型の航空戦艦である。艦載機はドローン兵器であり合計五十機以上搭載出来る。旗艦のレヴィアタンは勿論…。レヴィアタン級航空大型ミサイル戦闘艦六隻と最新鋭のドローン空母艦隊から合計四百機以上ものグリフォン型ドローン兵器が発進したのである。ドローン部隊が発進してより十五分後…。最前線のパシフィスゾーン防衛部隊と遭遇したのである。両軍が遭遇した直後に戦闘が開始され…。パシフィスゾーン防衛部隊はミサイル警備艇と戦闘爆撃機による対空ミサイル攻撃で十四機のドローンを撃墜したのである。ドローン撃墜に防衛部隊の将兵達は戦意が向上するも…。相手は新型のドローン兵器であり二分も経過すればドローンの反撃で八十三隻のミサイル警備艇が撃沈され七十六機の戦闘爆撃機が一瞬で撃墜されたのである。旗艦レヴィアタンの乗組員達は艦橋から戦況を確認する。
「艦長…味方の優勢です…」
「上出来だな…」
厳格の軍人であるウィンフィールドだが…。ドローン部隊の大戦果に上出来と判断したのである。
「ドローン部隊には攻撃を続行させろ…パシフィスゾーンを防衛する陸上部隊に空爆を仕掛けるのだ…」
ドローン部隊の攻撃の続行を指示する。
「承知しました!」
するとウィンフィールドは恐る恐る…。
「非戦闘員への被害は最小限に努力せよ…」
「承知です…」
ドローン部隊の猛反撃からパシフィスゾーン防衛部隊は総崩れ…。海上の防衛網は簡単に突破されたのである。
「総司令官…海上の防衛部隊が壊滅…敵軍に突破されました…」
通信兵の報告にパシフィスゾーン総司令部は混乱する。
「ドローン部隊を使用したか…」
総司令官のウィグノールは一瞬沈黙するも…。
「守備隊に伝播せよ…陸上の防衛戦を開始すると!」
「承知しました…」
基地内の将兵達は承諾したのである。
「非戦闘員は緊急用シェルターに避難させろ…」
陸上の防衛部隊は即座に行動を開始する。緊急警報システムが作動され…。民間人は即座に各地域の地下壕に設置された避難用の緊急用シェルターへと移動したのである。民間人の避難終了から三分後…。メガラニカ防衛軍のドローン部隊がパシフィスゾーン領空へと到達する。
「メガラニカ防衛軍のドローンだ!」
「海上の防衛部隊は全滅したのか?」
「兎にも角にも迎撃するぞ!」
陸上の守備隊は迎撃を開始…。上空のドローンを目標に攻撃したのである。数千発もの機関砲と対空ミサイルが上空に炸裂する。守備隊の攻撃で二十二機のドローンを撃墜するも…。ドローンの空爆で三十六両の戦闘車が破壊され百三十七人の将兵が戦死する。三分間の空爆で陸上部隊の八割が壊滅したのである。
「陸上部隊の八割が壊滅しました…」
守備隊の劣勢に総司令部は混乱する。
「なっ!?八割も!?」
「全滅だな…」
「ドローンの空爆で守備隊の八割が壊滅したのか!?」
総司令部の将兵達は予想外の事態に恐怖したのである。直後…。スーパーレーダーが反応する。
「スーパーレーダーが反応したぞ…今度は何事だ?」
ホログラムを作動させるとメガラニカ防衛軍の大艦隊が映写される。
「敵軍の大艦隊だぞ…パシフィスゾーンの領海に到達したのか!?」
メガラニカ防衛軍の大艦隊は航空大型ミサイル戦闘艦が七隻と正規空母四隻…。ミサイル巡洋艦が十三隻と三十一隻の防空駆逐艦が確認出来る。後方には上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦が十八隻…。補助用の魚雷艇が十五隻確認出来る。メガラニカ防衛軍はドローンの投入で海上の防衛部隊を撃退…。メガラニカ防衛軍艦隊はノーダメージでパシフィスゾーンの領海へと到達出来たのである。
「本土から援軍は出動したのか!?」
ウィグノールは再度通信兵に問い掛ける。
「無線では…本土から潜水艦が一隻出動したと…」
「はっ?」
ウィグノールは絶句する。
「こんな状況で援軍が潜水艦一隻だと!?何故海軍の主力艦隊を出動させない!?」
「主力艦隊は本土を防衛するのが手一杯であると…」
現実問題…。メガラニカ南方海戦の大敗北から太平帝国軍主力艦隊は艦隊の再建に手一杯であり主力の大艦隊は派遣出来なかったのである。
「畜生が…」
通信兵の報告にウィグノールはピリピリする。
(パシフィスゾーンは陥落しろと?総本部は本土での戦闘を決断したのか?)
総本部の意向に疑問視するが…。ウィグノールは決断したのである。
「総員…本土からの援軍は期待出来ないが…精一杯パシフィスゾーンを死守するぞ!」
「はっ!承知しました…」
絶望的状況下であるが守備隊の将兵達は一致団結…。残存部隊による徹底抗戦を決意したのである。同時刻…。メガラニカ防衛軍大艦隊は上陸作戦を開始したのである。十八隻の大型輸送艦から三十六隻の上陸用舟艇が出動…。陸上部隊によるパシフィスゾーン上陸作戦が開始されたのである。上陸部隊の戦力は主力戦車五十二両…。装甲車と軽量の戦闘車が六十四両投入される。二万人の海兵隊が上陸したのである。今回の上陸作戦では最新型の地上用ドローンである無人小型戦車を五機投入…。試作段階であるが実験目的で無人小型戦車が実戦配備されたのである。
「メガラニカ防衛軍の上陸部隊です…」
最前線に位置する陸軍の残存部隊が無傷のトーチカから恐る恐る…。上陸中の敵部隊を確認する。
「俺達は一先ず撤収するぞ…反撃は本隊と合流してからだ…」
最前線の残存部隊は総司令部へと撤収したのである。
メンテ
宇宙大動乱 ( No.70 )
日時: 2021/09/03 08:24
名前: 月影桜花姫

ジャンル
スペースオペラ

世界観
宇宙文明

登場人物
大銀河帝国軍
【ブラッドフォード】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦692年7月16日
星座:牡牛座
実年齢:30歳
所属:大銀河帝国軍
役職:大総統
階級:総帥
性別:男性
身長:168cm
体重:68kg
血液型:AB型
一人称:私
性格:冷静沈着、合理主義、強硬
趣味:ライフル射撃

【ストライダー】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦674年3月22日
星座:牡羊座
実年齢:48歳
所属:大銀河帝国軍
役職:副総統
階級:大将
性別:男性
身長:199cm
体重:88kg
血液型:B型
一人称:私
性格:適当、面倒臭がり
趣味:プラモデル作成、設計

【ホムンクルス】
種別:クローン人間
所属:大銀河帝国軍
生産数:700万人〜7億人

タイラントキラー
【ウィグノール】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦678年9月28日
星座:天秤座
実年齢:44歳
所属:大銀河帝国軍〜タイラントキラー
役職:総帥
階級:中将
性別:男性
身長:200cm
体重:89kg
血液型:AB型
一人称:私
性格:生真面目
趣味:骨董品集め、サバイバルゲーム

【ウェンフィールド】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦700年8月17日
星座:獅子座
実年齢:22歳
所属:タイラントキラー〜ホープセイバーズ
役職:職業軍人
階級:大佐
性別:男性
身長:176cm
体重:76kg
血液型:O型
一人称:私
性格:誠実
趣味:ホラーゲーム

ホープセイバーズ
【ルーヴェルハルト】
出身地:大銀河帝国
誕生日:宇宙新暦668年4月25日
星座:牡牛座
実年齢:54歳
所属:大銀河帝国軍〜ホープセイバーズ
役職:総帥
階級:少将
性別:男性
身長:198cm
体重:87kg
血液型:A型
一人称:私
性格:穏和、野心的
趣味:宇宙旅行

登場国家
『大銀河帝国』
成立日:宇宙新暦376年7月4日
総人口:900億人

自治領
『ユートピアサイド』
統治勢力:大銀河帝国軍
総人口:70億人

『エデンプラネット』
統治勢力:タイラントキラー
総人口:50億人

『ホープエリア』
統治勢力:ホープセイバーズ
総人口:20億人

登場兵器
大銀河帝国軍
『アルセイス』
諸元
正式名:上級大将専用宇宙戦艦アルセイス
所属:大銀河帝国軍
建造所:ユートピアサイド軍事工場
艦種:宇宙戦艦
同型艦:7隻
起工日:宇宙新暦722年3月27日
進宙日:宇宙新暦722年4月24日
就役日:宇宙新暦722年4月30日
全長:400m
全幅:220m
全高:80m
総重量:70万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
輸送要員:300人〜800人
兵装
990mm超弩級波動砲ケラウノス:1基
600mm高エネルギー連装砲:2基
50mm対空パルスレーザー機関砲:8基
光子魚雷発射機:2基
多目的ミサイル発射機:12基
艦載機:4機※無人機
装甲
主砲装甲:990mm
舷側装甲:750mm
甲板装甲:550mm
装甲材質:エターナルメタル
動力炉:ハイパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『スレイプニル』
諸元
正式名:宇宙要塞母艦スレイプニル
所属:大銀河帝国軍
建造所:プルトロン軍事工場
艦種:宇宙空母
同型艦:18隻
起工日:宇宙新暦722年4月29日
進宙日:宇宙新暦722年5月26日
就役日:宇宙新暦722年5月30日
全長:990m
全幅:860m
全高:140m
総重量:950万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
輸送要員:5万人〜8万人
兵装
990mm超弩級怪光砲ケラウノス:1基
600mm高エネルギー連装砲:6基
50mm対空パルスレーザー機関砲:80基
光子魚雷発射機:12基
多目的ミサイル発射機:30基
艦載機:400機※無人機
装甲
主砲装甲:990mm
舷側装甲:800mm
甲板装甲:720mm
装甲材質:貴金属
動力炉:ハイパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『セイバードラゴン』
諸元
正式名:宇宙戦艦セイバードラゴン
所属:大銀河帝国軍
建造所:ユートピアサイド軍事工場
艦種:宇宙戦艦
同型艦:2万隻
起工日:宇宙新暦652年4月22日
進宙日:宇宙新暦654年9月19日
就役日:宇宙新暦654年12月27日
全長:800m
全幅:600m
全高:120m
総重量:500万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:320人
輸送要員:2万人〜4万人
兵装
800mm高エネルギー連装砲:8基
50mm対空パルスレーザー機関砲:40基
光子魚雷発射機:8基
多目的ミサイル発射機:20基
艦載機:90機
装甲
主砲装甲:750mm
舷側装甲:500mm
甲板装甲:460mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能

『バジリスク』
諸元
正式名:宇宙巡洋艦バジリスク
所属:大銀河帝国軍
建造所:ユートピアサイド軍事工場
艦種:宇宙巡洋艦
同型艦:6万隻〜8万隻
起工日:宇宙新暦722年3月26日
進宙日:宇宙新暦722年4月12日
就役日:宇宙新暦722年4月15日
全長:200m
全幅:140m
全高:40m
総重量:5万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
兵装
300mm高エネルギー連装砲:3基
50mm対空パルスレーザー機関砲:12基
光子魚雷発射機:2基
艦載機:1機〜2機※無人機
装甲
主砲装甲:440mm
舷側装甲:250mm
甲板装甲:130mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『アスピドケロン』
諸元
正式名:宇宙駆逐艦アスピドケロン
所属:大銀河帝国軍
建造所:メティス軍事工場
艦種:宇宙駆逐艦
同型艦:9万隻〜15万隻
起工日:宇宙新暦722年5月14日
進宙日:宇宙新暦722年5月26日
就役日:宇宙新暦722年6月4日
全長:180m
全幅:150m
全高:40m
総重量:4万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
兵装
250mm高エネルギー連装砲:4基
40mm対空パルスレーザー機関砲:12基
光子魚雷発射機:2基
艦載機:2機※無人機
装甲
主砲装甲:370mm
舷側装甲:240mm
甲板装甲:230mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『スペースバード』
諸元
機種:宇宙戦闘機
所属:大銀河帝国軍
初飛行:宇宙新暦699年12月24日
生産数:8万機
運用開始:宇宙新暦700年6月2日
全長:17m
全幅:16m
全高:6m
総重量:14t
全速力:マッハ15
搭乗員:1人
武装
30mm対空用パルスレーザー:2基
多目的ミサイル〜光子魚雷:2基
設備
スーパーレーダー
シールド装置

『セイバードローン』
諸元
機種:無人機
所属:大銀河帝国軍
初飛行:宇宙新暦722年4月26日
生産数:780万機
運用開始:宇宙新暦722年5月12日
全長:15m
全幅:14m
全高:4m
総重量:12t
全速力:マッハ15〜超光速
武装
30mm対空用パルスレーザー:2基
光子魚雷:4基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置
ステルス機能

『ケルベロス』
諸元
機種:無人機
所属:大銀河帝国軍
初飛行:宇宙新暦722年6月30日
生産数:400万機
運用開始:宇宙新暦722年7月15日
全長:16m
全幅:12m
全高:5m
総重量:20t
全速力:マッハ22〜超光速
武装
50mm対空用パルスレーザー:2基
新型光子魚雷:4基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置
ステルス機能

タイラントキラー
『サラマンダー』
諸元
正式名:宇宙戦艦サラマンダー
所属:タイラントキラー
建造所:エデンプラネット軍事工場
艦種:宇宙戦艦
同型艦:750隻
起工日:宇宙新暦628年1月24日
進宙日:宇宙新暦630年5月25日
就役日:宇宙新暦650年7月30日
全長:780m
全幅:540m
全高:90m
総重量:300万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:280人
輸送要員:2万人〜3万人
兵装
550mm高エネルギー連装砲:8基
40mm対空パルスレーザー機関砲:38基
光子魚雷発射機:4基
多目的ミサイル発射機:16基
艦載機:150機
装甲
主砲装甲:650mm
舷側装甲:480mm
甲板装甲:240mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能

『レヴィアタン』
諸元
正式名:宇宙戦闘母艦レヴィアタン
所属:タイラントキラー
建造所:エデンプラネット軍事工場
艦種:宇宙空母
同型艦:560隻
起工日:宇宙新暦718年3月29日
進宙日:宇宙新暦719年4月13日
就役日:宇宙新暦719年7月12日
全長:960m
全幅:530m
全高:120m
総重量:620万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:20人
輸送要員:4万人〜6万人
兵装
320mm高エネルギー連装砲:2基
50mm対空パルスレーザー機関砲:44基
艦載機:400機※無人機
装甲
主砲装甲:480mm
舷側装甲:340mm
甲板装甲:190mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『シーサーペント』
諸元
正式名:宇宙巡洋艦シーサーペント
所属:タイラントキラー
建造所:エデンプラネット軍事工場
艦種:宇宙巡洋艦
同型艦:4万隻
起工日:宇宙新暦720年1月27日
進宙日:宇宙新暦720年2月28日
就役日:宇宙新暦720年4月24日
全長:250m
全幅:180m
全高:50m
総重量:6万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
兵装
280mm高エネルギー連装砲:4基
50mm対空パルスレーザー機関砲:14基
光子魚雷発射機:4基
艦載機:2機〜4機※無人機
装甲
主砲装甲:470mm
舷側装甲:290mm
甲板装甲:150mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『スペースドローン』
諸元
機種:無人機
所属:タイラントキラー
初飛行:宇宙新暦720年2月27日
生産数:500万機
運用開始:宇宙新暦720年11月29日
全長:14m
全幅:12m
全高:3m
総重量:12t
全速力:マッハ14〜超光速
武装
20mm対空用パルスレーザー:2基
多目的ミサイル〜光子魚雷:2基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置

『ホワイトピクシー』
諸元
機種:無人機
所属:タイラントキラー
初飛行:宇宙新暦721年3月12日
生産数:2万機
運用開始:宇宙新暦721年3月15日
全長:18m
全幅:16m
全高:6m
総重量:15t
全速力:マッハ20〜超光速
武装
50mm対空用パルスレーザー:2基
多目的ミサイル〜光子魚雷:6基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置
ステルス機能

ホープセイバーズ
『リトルヴィーナス』
諸元
正式名:宇宙戦艦リトルヴィーナス
所属:ホープセイバーズ
建造所:ホープエリア軍事工場
艦種:宇宙戦艦
同型艦:14隻
起工日:宇宙新暦652年4月25日
進宙日:宇宙新暦654年9月19日
就役日:宇宙新暦654年12月27日
全長:850m
全幅:650m
全高:200m
総重量:600万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
輸送要員:5万人〜8万人
兵装
990mm超弩級対艦防衛砲サイクロプス:1基
450mm高エネルギー連装砲:8基
50mm対空パルスレーザー機関砲:40基
光子魚雷発射機:12基
多目的ミサイル発射機:30基
艦載機:120機〜140機※無人機
装甲
主砲装甲:950mm
舷側装甲:580mm
甲板装甲:560mm
装甲材質:エターナルメタル
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『フェンリル』
諸元
正式名:宇宙巡洋艦デュラハン
所属:ホープセイバーズ
建造所:ホープエリア軍事工場
艦種:宇宙巡洋艦
同型艦:4万隻〜5万隻
起工日:宇宙新暦720年11月26日
進宙日:宇宙新暦721年12月30日
就役日:宇宙新暦721年2月24日
全長:350m
全幅:280m
全高:65m
総重量:7万t
全速力:超光速※ワープ機能
全出力:測定不能
航続距離:無限光年
乗組員:1人〜3人
兵装
450mm高エネルギー連装砲:4基
50mm対空パルスレーザー機関砲:16基
光子魚雷発射機:2基
艦載機:5機※無人機
装甲
主砲装甲:680mm
舷側装甲:420mm
甲板装甲:270mm
装甲材質:貴金属
動力炉:スーパーリアクター
設備
スーパーレーダー
シールド装置
ワープ機能
ステルス機能

『ハイパードローン』
諸元
機種:無人機
所属:ホープセイバーズ
初飛行:宇宙新暦721年4月15日
生産数:900万機
運用開始:宇宙新暦721年5月30日
全長:12m
全幅:8m
全高:4m
総重量:8t
全速力:マッハ22〜超光速
武装
50mm対空用パルスレーザー:2基
新型光子魚雷:2基
設備
スーパーレーダー
シールド装置
シールドジャミング装置
ステルス機能

作中用語
『ケラウノス』超大型戦略高エネルギー兵器
『ツァーリーボンバ』超大型戦略貫通ミサイル
『ダウンフォール』銀河系殲滅兵器
『メティス基地』小惑星
『プルトロン基地』人工惑星
『メタリックアイ』小惑星
『エターナルメタル』特殊超合金
『スーパーリアクター』無限動力炉
『ハイパーリアクター』新型無限動力炉

第一話

宇宙艦隊戦闘

太古の大昔…。宇宙新暦七百二十二年三月二十八日午前一時の出来事である。とある銀河系では複数の巨大宇宙勢力が度重なる戦乱を頻発させる。太陽系から推定八万光年の宙域では銀河系全域を統治する大規模星間軍事国家『大銀河帝国』の宇宙大艦隊…。国民主義実現を主目的に活動する大規模反政府勢力である『タイラントキラー』の宇宙大艦隊が激突したのである。大銀河帝国軍宇宙軍主力艦隊旗艦…。宇宙戦艦『セイバードラゴン』ではブリッジの乗組員がタイラントキラーの宇宙艦隊を発見する。
「艦長!本艦のスペースレーダーが推定九百光年の宙域より敵軍の宇宙艦隊に反応しました!」
セイバードラゴンは大銀河帝国軍の主力宇宙戦艦であり地上の水上艦を連想させる巨大宇宙戦艦である。長距離索敵と誘導兵器の使用は勿論…。本艦一隻のみで数千キロメートルサイズの惑星表面を一掃させられる攻撃力を保持する。艦内には一隻だけで合計九十機もの宇宙用の艦載機を搭載出来る。本艦にとっての最大の武装は主砲である高エネルギーを放出する口径八百ミリメートルの高エネルギー連装砲である。主砲の威力は高火力であり数百メートルサイズの宇宙戦艦を一撃で撃沈出来ると推測される。本艦のレーダー射撃は高水準であり主砲の命中精度は八十五パーセントとも豪語される。本艦のサイズは全長八百メートルサイズで全幅六百メートルサイズ…。総重量は推定五百万トンと規格外に巨大であり現存する大銀河帝国軍宇宙主力艦隊では最大級の超巨大宇宙戦艦である。動力炉は『スーパーリアクター』が搭載され燃料の補給は不要であり半永久的に航行出来る。
「敵軍の宇宙艦隊を発見したか…」
セイバードラゴンの艦長は大銀河帝国の大総統…。【ブラッドフォード】である。ブラッドフォードは年齢二十九歳の青年であるが外見的には美少年であり十代後半にも間違われる。本来であればブラッドフォードは最前線での戦闘では参加しない立場であるものの…。少年時代の従軍経験から積極的に最前線での指揮を自発的に執行する。
「味方の全艦隊に伝播せよ…敵軍の宇宙大艦隊を発見したと…」
「はっ!承知しました!」
通信兵がブラッドフォードに敬礼するなり全艦隊に敵艦隊発見の情報を通信させる。大銀河帝国軍宇宙艦隊は大総統ブラッドフォードの乗艦する主力宇宙戦艦セイバードラゴンを先頭に推計十七万隻もの宇宙艦隊が追尾する。旗艦セイバードラゴン艦内ではブラッドフォードが再度指示したのである。
「最大船速でワープ機能を作動させろ…一瞬で敵軍艦隊の真正面に突入するぞ…」
「はっ!ワープ機能作動!」
ブリッジの乗組員がワープ機能を作動させる。すると味方の宇宙艦隊もワープ機能を作動させ最前線へと突入したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙軍艦隊は合計一万四千隻もの大規模艦隊であり旗艦は宇宙戦艦『サラマンダー』である。サラマンダーは全長七百八十メートルサイズで全幅五百四十メートルサイズ…。総重量は三百万トンもの大型宇宙戦艦である。旧型の宇宙戦艦であるが艦載機の総数は合計百五十機前後であり艦載機の搭載機数のみなら大銀河帝国軍のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。本艦の動力炉はスーパーリアクターであり燃料は不要である。
「艦長!スペースレーダーが反応しました!」
サラマンダーに搭載されたスペースレーダーが反応する。
「正体不明の無数の移動物体が超光速で味方艦隊に接近中です!移動物体の総数は推計十七万以上…」
旗艦サラマンダーの艦長は【ウィグノール】である。階級は中将であり本来は大銀河帝国軍親衛隊の総司令官であったが…。ブラッドフォードによる独裁政治を見限り脱退する。今現在は反政府組織であるタイラントキラーを創設…。国民主権の独立宇宙民主国家を目標に銀河系全域を支配する大銀河帝国に宣戦を布告する。
「恐らく敵軍の艦隊だろう…」
すると直後…。タイラントキラー宇宙艦隊から推定三百光年の宙域より数万隻もの艦影が突如として出現したのである。
「艦長!敵艦隊です!総数七万隻…大艦隊です!」
「敵艦隊の総数は七万隻か…」
今現在投入された戦力では大銀河帝国軍宇宙艦隊が宇宙艦艇推計十七万隻以上…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊の宇宙艦艇は推計三万四千隻程度でありタイラントキラーが圧倒的に不利である。
「直進せよ…」
ウィグノールが艦隊の直進を指示すると全艦隊が大銀河帝国軍宇宙艦隊に接近する。同時刻…。大銀河帝国軍宇宙艦隊旗艦セイバードラゴンではタイラントキラー宇宙艦隊の接近を確認する。
「艦長!敵軍の大艦隊が味方艦隊に接近中です!如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは無表情で…。
「急接近する敵軍艦隊を排除せよ…全軍…総攻撃開始!」
最前線の宇宙戦艦部隊を中心に全艦が砲撃を開始したのである。数秒間に数万発もの蛍光色の光線が射出され…。接近するタイラントキラー宇宙艦隊に砲撃したのである。宇宙戦艦部隊はシールド機能によって光線を無力化するが…。宇宙駆逐艦クラスの小型艦はシールド機能が最小限化された代物であり簡単に撃沈されたのである。一度の攻撃でタイラントキラー宇宙艦隊の二十パーセントが喪失…。多数の小型艦が損傷したのである。
「宇宙戦艦クラスの大型艦には光子魚雷…多目的ミサイルで対応せよ…」
旗艦セイバードラゴンの艦長…。ブラッドフォードの指示と同時に最前線の宇宙戦艦部隊が光子魚雷攻撃と多目的ミサイルで攻撃したのである。無数の実弾兵器が超光速で接近…。タイラントキラー宇宙艦隊の大型艦に命中したのである。宇宙戦艦クラスの大型艦十数隻が轟沈…。数十隻の大型艦を大破される。シールド機能を搭載する大型の敵艦を撃沈させるのに効果的だったのは光子魚雷である。光子魚雷とは超光速で発射させる宇宙用の魚雷であり破壊力は三千キロメートルクラスの小惑星を一撃で破壊させられる代物である。光子魚雷一発でも重厚装甲の大型宇宙戦艦は数十隻撃沈…。数百隻もの大型宇宙戦艦が大破したのである。爆沈する宇宙艦艇より多数の乗組員達が宇宙空間へと吹っ飛ばされる。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーにも多目的ミサイルが命中…。艦首が大破したのである。
「艦首が被弾しました!」
「本艦への被害状況は?」
ウィグノールは乗組員に問い掛ける。
「艦首は大破です…」
「艦首だけか…大破したのが艦首のみであれば戦況には問題無さそうだな…」
ブリッジの乗組員が恐る恐る…。
「ですが奴等の多目的ミサイルと光子魚雷は味方艦艇のシールドを透過しました…一体奴等は実弾兵器に何を細工したのでしょうか?」
長期間の宇宙航行を想定した宇宙用の艦船には宇宙デブリやら小惑星の衝突を無力化するシールド機能が搭載されるのが基本である。
「恐らく奴等の実弾兵器にはシールドジャミング装置を搭載させたのであろうな…」
シールドジャミング装置とは大銀河帝国軍が最新式の科学技術を駆使して開発した特殊装置…。大型艦に搭載されたシールド機能を妨害させ高確率で実弾兵器を目標に直撃させられる。光子魚雷と多目的ミサイルによるアウトレンジ戦法によってタイラントキラーのサラマンダー級大型宇宙戦艦五十二隻が撃沈され…。三百四十八隻の大型宇宙戦艦が大破したのである。大型宇宙戦艦以外の小型艦艇は数百隻が轟沈…。数千隻が大破したのである。旗艦サラマンダーでは大銀河帝国軍の猛攻撃に畏怖したブリッジの乗組員が撤退を要請する。
「ウィグノール艦長!即刻艦隊を撤退させましょう!敵軍の総攻撃で多数の味方艦艇が撃沈されました…戦闘を継続すれば全滅しますよ!」
するとウィグノールが無表情で…。
「狼狽えるな…」
戦局は圧倒的にタイラントキラーが不利であるがウィグノールは平常心であり周囲の乗組員達は不思議がる。
(こんなにも劣勢なのに冷静なんて…)
同時刻…。大銀河帝国軍宇宙艦隊旗艦であるセイバードラゴンの艦内では乗組員達が爆散する敵艦の光景を眺望する。
「ブラッドフォード大総統♪大銀河帝国軍の優勢です!」
「大銀河帝国軍の圧勝は確実だな♪」
「所詮タイラントキラーなんて一部のカルト集団だ…大銀河帝国軍が本領を発揮すれば簡単に殲滅出来るさ♪」
「愚衆政治国家の実現なんて…所詮は夢物語だな…」
大銀河帝国軍ではタイラントキラーは少人数のカルト集団…。単なるテロリスト集団程度の存在であると認識される。誰しもが大銀河帝国軍の圧勝を確実視するのだが…。大総統であるブラッドフォードだけは表情が険悪化する。一人の乗組員が恐る恐る…。
「大総統…如何されましたか?」
するとブラッドフォードが苛立った表情で返答する。
「前方の敵軍艦隊は陽動艦隊だろう…此奴は恐らく陽動作戦だ…」
ブラッドフォードが陽動作戦の可能性を指摘した直後…。スペースレーダーが反応したのである。
「スペースレーダーが反応しました!」
「スペースレーダーが反応したって!?一体何事だ!?」
周囲の乗組員達は突如として反応したスペースレーダーに動揺する。
「味方艦隊後方より無数の移動物体が確認されました!サイズは小型の機影…」
「小型の機影だと?」
小型の機影の一言にブラッドフォードが反応したのである。
「恐らく宇宙戦闘機かと…総数は推計三十万機…敵機部隊との距離は推計七百光年です…」
「総数三十万機か…全軍に対空戦闘を通信させろ…」
「はっ!承知しました!」
通信兵が全軍に対空戦闘用意を通信させる。タイラントキラーの宇宙航空機部隊がワープ機能を使用…。一秒間で大銀河帝国軍宇宙艦隊上空へとワープしたのである。大銀河帝国軍宇宙艦隊のスペースレーダーが再度反応する。
「スペースレーダーが反応しました!味方艦隊の上空より無数の敵機です!」
「敵機部隊はワープ機能で到達したか…」
ブラッドフォードは一瞬沈黙するものの…。
「上空の敵機を撃墜…宇宙迎撃機を出撃させろ…」
「承知しました…」
大銀河帝国軍の宇宙艦艇は宇宙用の対空砲で迎撃を開始…。セイバードラゴン級大型宇宙戦艦からは多数の宇宙戦闘機『スペースバード』が出撃する。スペースバードは全長十六メートル…。全幅七メートルの宇宙戦闘機である。スペースレーダーが搭載され機体前方には二基の対空用パルスレーザーが装備される。両翼には対艦戦闘用の多目的ミサイルは勿論…。光子魚雷も搭載可能である。二十年前に開発された旧型の機体であるが大勢のパイロット達が本機を愛用…。今現在でも現役の主力戦闘機である。出撃した多数のスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の対空砲は小型の高エネルギー機関砲が炸裂…。敵機に攻撃するのだが敵機は機体全面に新型シールド機能を搭載させた新型機であり対空用の高エネルギー機関砲が命中しても無力化される。
「大総統!敵機に攻撃しても敵機を撃墜出来ません!」
「此奴は新型機だな…ホログラムを作動させろ…」
ホログラムを作動させると新型機の立体映像が生成されたのである。
「此奴は恐らく無人機の『スペースドローン』だな…」
スペースドローンとは所謂宇宙戦闘用のドローンであり無人兵器に分類される。大銀河帝国軍にも宇宙用の偵察型ドローンは使用されるが…。タイラントキラーは戦闘用に特化された新型のドローンを多数開発したのである。タイラントキラーの新型ドローンは高出力の光学兵器の搭載…。宇宙戦艦の艦砲射撃をも無力化する新型シールド機能が搭載されたのである。ドローン兵器の技術のみならタイラントキラーは大銀河帝国の技術レベルを数段階上回る。
「タイラントキラーは無人機を戦闘用に特化させたのか…」
同時刻…。タイラントキラーのスペースドローンがスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦に急襲したのである。スペースドローンは機体底部に搭載された対艦戦闘用の大型ミサイルで攻撃…。宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇は一機のスペースドローンに撃沈されたのである。本来大銀河帝国軍の宇宙艦艇には外部からの物理攻撃を無力化するシールド機能が搭載されたが…。タイラントキラーのスペースドローンの機体内部には特殊電磁パルス発生装置が搭載され本機が接近すると接近された宇宙艦艇はシールド機能が使用出来なくなる。スペースドローンの電磁パルス発生装置によって大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦はシールド機能が停止…。一方的に攻撃されたのである。必死に迎撃するスペースバードもスペースドローンの攻撃によって多数の機体が撃墜…。数万人ものパイロット達が戦死する。機体底部に対艦戦闘用の固定型高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンはセイバードラゴン級大型宇宙戦艦を砲撃…。一撃で撃沈したのである。三分間の戦闘で六隻ものセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が撃沈される。
「大総統!スペースドローンの出現によって味方艦隊が混乱中です!」
すると直後…。
「スペースレーダーが反応しました!一機のスペースドローンが本艦に急接近中です!」
スペースレーダーが接近中のスペースドローンに反応したのである。スペースドローンが旗艦のセイバードラゴンに接近するとシールド機能が強制的にスリープモードへと移行…。シールド機能が使用出来なくなる。
「大変です!本艦のシールド機能が無力化されました…」
セイバードラゴンのシールド機能の停止によって乗組員達は動揺する。
「狼狽えるな…」
こんな絶望的状況下であってもブラッドフォードは冷静であり周囲の乗組員達は非常に不思議がる。直後…。対艦戦闘用の高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンがセイバードラゴン艦尾に搭載されたロケットエンジンに砲撃したのである。艦内に爆発音が響き渡る。
「うわっ!一体何が発生したのでしょうか!?」
爆発音に乗組員達は動揺したのである。するとブラッドフォードが無表情で…。
「恐らく艦尾のロケットエンジンが敵機の攻撃で破壊されたな…」
「えっ!?ロケットエンジンが!?」
先程の攻撃によってセイバードラゴンは航行出来なくなる。
「大総統…脱出しましょう…こんな場所で長居し続けては本艦諸共…」
ブラッドフォードは一瞬躊躇うが…。
「止むを得ないな…」
ブラッドフォードと十六人の乗組員達は即座に脱出用のポッドに乗艇すると航行不能のセイバードラゴンから脱出したのである。セイバードラゴンは二度目の光子魚雷攻撃で爆散…。撃沈されたのである。撃沈されたセイバードラゴンの乗組員達は轟沈するセイバードラゴンに絶句する。
「大総統…危機一髪でしたね♪」
一人の乗組員が笑顔で大総統に発言するのだが…。
「何が危機一髪だ…」
ブラッドフォードは睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨するブラッドフォードに周囲の乗組員達はゾッとする。
「敵軍の一個艦隊程度に敗北とは…」
同時刻…。多数のスペースドローンを搭載した宇宙戦闘母艦『レヴィアタン』が大銀河帝国軍宇宙艦隊の後方よりワープ機能で出現する。タイラントキラーの本隊である宇宙機動部隊は超大型宇宙戦闘母艦レヴィアタンを中心に六十隻もの宇宙用の空母戦闘艦隊が奇襲に参加したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はタイラントキラーが独自で開発した本格的宇宙戦闘用空母であり艦載機は有人型の宇宙戦闘機ではなく無人兵器のスペースドローンを四百機程度搭載する。艦体のサイズは全長九百六十メートル…。全幅は五百三十メートルであり艦体の総重量は推定六百二十万トンにも相当する。兵装は宇宙巡洋艦に匹敵する高エネルギー主砲が二基搭載され四基の対空パルスレーザーが装備される。六十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦が背後から大銀河帝国軍宇宙艦隊を砲撃する。スペースレーダーによる艦砲射撃により命中精度は八十パーセントと正確であり多数の宇宙艦艇を撃破したのである。同時刻…。脱出用ポッドに乗艇したブラッドフォードは撤退を決意したのである。
「全艦隊に撤退の命令を通信させろ…」
「承知しました…」
通信兵は即座に撤退命令を通信させる。同時に戦闘中の宇宙艦艇もワープ機能を作動…。大銀河帝国軍宇宙艦隊は推定四万光年に位置する大銀河帝国本土へと一瞬でワープしたのである。
「本船もワープさせろ…」
総司令官のブラッドフォードが乗艇する脱出用ポッドも一秒間で大銀河帝国本土『ユートピアサイド』へとワープ…。ユートピアサイドとはテラフォーミングによって地球型惑星に改装された海水の小惑星であり大銀河帝国軍本隊の本拠地である。ブラッドフォードは無事にユートピアサイドへと戻ったのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーのブリッジでは乗組員達がワープ機能で撤退する大銀河帝国軍宇宙艦隊を眺望する。
「艦長!敵軍が撤退します!」
ウィグノールは無表情で…。
「防衛作戦には成功したが…陽動作戦の囮艦隊は壊滅状態だな…」
今回の宇宙戦闘では大銀河帝国軍は大型宇宙戦艦三千三百四十八隻…。宇宙巡洋艦四千二百六十七隻と三万隻以上の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。一方のタイラントキラーは大型宇宙戦艦二千二百四十九隻…。宇宙巡洋艦三千六百九十四隻と二万五千六百三十八隻の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。人的損害では大銀河帝国軍は推計八十万人もの将兵が戦死…。タイラントキラーでは推計四十万人もの将兵が戦死したのである。今回の宇宙戦闘は第二十四次宇宙星間戦争と命名される。

第二話

亡命艦隊

第二十四次宇宙星間戦争から三日後の三月三十一日十六時…。大銀河帝国軍宇宙艦隊がタイラントキラーの宇宙機動部隊の奇襲攻撃によって大敗北してよりブラッドフォードは非常にピリピリした様子でユートピアサイド大総統官邸の自室にて無人兵器の資料を徹底的に黙読したのである。
(今後の戦闘では…無人兵器が役立ちそうだな…)
今迄は無人兵器の有効性は偵察以外では限定的と判断されたが…。第二十四次宇宙星間戦争により無人兵器の有用性が証明されたのである。すると何者かがコンコンッと自室のドアをノックする。
「誰だ?」
大柄の白人男性がブラッドフォードの自室に入室したのである。
「失礼します…ブラッドフォード大総統♪」
大柄の白人男性はヘラヘラした様子でありブラッドフォードは彼を直視すると余計にピリピリする。
(誰かと思いきや…)
「貴様は…副総統の【ストライダー】か…」
ストライダーとは碧眼金髪の白人男性でありブラッドフォードが唯一悪友と認識する人物である。今現在は副総統の立場であるが…。彼自身も少年時代は大銀河帝国軍の将兵であり各地の戦闘で活躍したのである。
「ブラッドフォード大総統♪ピリピリしちゃって如何されましたか♪三日前の第二十四次宇宙星間戦争は大変残念でしたね…」
ストライダーの発言にブラッドフォードは小声で…。
「貴様…」
「失礼です♪失礼です♪」
ストライダーは笑顔で謝罪する。ヘラヘラするストライダーであるが表情が変化したのである。
「訓練中の【ホムンクルス】ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から開発されたクローン人間達の総称である。度重なる宇宙戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。大銀河帝国ではクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。本来クローン人間の製造は倫理観の問題点から民主制の国家では禁止される反面…。大銀河帝国は独裁制の国家でありクローン人間の製造も容易に実施出来る。今現在は推計七億人のホムンクルスが大量生産され…。即戦力として実戦に参加出来そうなホムンクルスの将兵は推計七百万人である。
「彼等が実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。大銀河帝国軍はホムンクルス将兵と人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスを最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
「結局貴様の用事とは?」
ブラッドフォードが問い掛けるとストライダーは笑顔で…。
「新型兵器の完成と開発プランが完了しました…即刻軍事工場で見物しませんか?」
「承知した…」
ブラッドフォードは無表情で承諾したのである。彼等は外出するとスカイカーで軍事工場へと移動する。三十分後…。軍事工場は首都からは非常に近辺であり三十分程度で到着する。
「即刻完成した新型兵器を見物させろ…」
「承知しました…」
ストライダーは恐る恐るブラッドフォードに道案内したのである。
「軍事工場へは久方振りに見物したが…無人だな…」
軍事工場は基本的に無人であり作業用のロボットが新型兵器を製造する。
「最近はロボット技術の向上で人間の作業員が必要無くなりましたからね…」
近年ではロボットの普及によりあらゆる企業が管理人を一人配置するのが一般化したのである。彼等は地下に存在する宇宙船の巨大造船施設へと進入…。
「新型艦か…」
地下の巨大造船施設には数百隻もの宇宙艦艇が確認出来る。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争では反政府勢力のタイラントキラーによって大銀河帝国軍の宇宙艦隊が手酷く撃破されましたからね♪」
三日前の第二十四次宇宙星間戦争では当初の想定を上回る予想外の大損害により宇宙艦隊の再建が急行されたのである。
「建造中の宇宙艦隊は三日後には完成するでしょうし…一週間後には各部隊に配属させられますよ♪」
するとストライダーは新型艦を紹介する。
「最初に紹介する新型艦は宇宙巡洋艦…『バジリスク』です…」
バジリスク級宇宙巡洋艦とは大銀河帝国軍宇宙軍が開発した新型宇宙巡洋艦である。全長二百メートル…。全幅百四十メートルの大型巡洋艦であり総重量は推定五万トンである。兵装は口径三百ミリメートルの高エネルギー連装砲が三基装備され両サイドの片舷には光子魚雷発射機が二基搭載される。本艦の最大の利点は対空装備であり宇宙巡洋艦であるが対空パルスレーザーが合計十二基搭載されたのである。乗組員は全自動化を考慮…。通常の乗組員は三人であるが場合によっては一人だけでも操縦出来る。
「基本的にバジリスクは主力艦隊の護衛に利用されるでしょうね…」
ブラッドフォードは宇宙巡洋艦には無関心だったのかノーコメントだったのである。
(大総統…)
ブラッドフォードの無関心の態度にストライダーは苦笑いする。
「此奴は…」
ブラッドフォードが指差した方向には全長五百メートルサイズのドッグに確認出来る未完成の宇宙戦艦だったのである。
「宇宙戦艦なのか?建造中みたいだが…」
ストライダーはニヤッとした表情で即答したのである。
「ドッグに確認出来る建造中の軍艦は久方振りの新型宇宙戦艦ですよ♪」
「新型宇宙戦艦だと?セイバードラゴンの後継艦か…」
大銀河帝国軍はセイバードラゴン級宇宙戦艦が建造されて以来…。後継艦の建造は計画されなかったのである。近年とある新兵器の開発が浮上…。とある新兵器を搭載可能である新型宇宙戦艦の建造が急遽計画されたのである。
「新型宇宙戦艦とやらはセイバードラゴンの二分の一程度のサイズだな…」
ドッグのサイズから全長は推定四百メートルサイズの宇宙戦艦であると推測される。
「ですが新型宇宙戦艦が完成すればセイバードラゴン級宇宙戦艦を上回る性能が期待出来ましょう♪」
ブラッドフォードは無表情で…。
「性能が上回っても無用の長物なら御免だが…」
「大総統…」
(本当に偏屈だな…)
ブラッドフォードの発言にストライダーは人一倍偏屈であると感じる。するとブラッドフォードはフッとした表情で問い掛ける。
「今後の開発プランとやらは?」
「今後の開発プランは第二十四次宇宙星間戦争でタイラントキラーが投入したスペースドローンに対抗出来る戦闘用ドローンの開発ですよ♪」
ブラッドフォードは第二十四次宇宙星間戦争の翌日…。軍政部に戦闘用ドローンの重要性と開発を強引に説得させ戦闘用ドローンの開発計画が実行されたのである。幸運にも大銀河帝国軍宇宙艦隊の宇宙救助船が故障により全機能停止したタイラントキラーのスペースドローンを発見…。機体を鹵獲したのである。スペースドローンは機内の故障のみで全体的にノーダメージであり軍関係の技術者達は徹底的に機体を解析する。
「戦闘用ドローンの開発計画は順調みたいだな…」
「勿論ですとも♪機体の解析が順調に進行すれば…大銀河帝国軍でも独自の戦闘用ドローンの製造が開始されましょう…」
すると直後…。ブラッドフォードが所持する非常用の携帯式通信機が作動したのである。
「ん?通信機だと?」
ブラッドフォードは応答する。
「私だが…一体何事だ?」
「ブラッドフォード大総統!大変です!」
「貴様は【ルーヴェルハルト】少将か…一体何が発生した?」
ブラッドフォードに通信した相手は少将のルーヴェルハルトだったのである。ルーヴェルハルトは大銀河帝国軍の帝国軍人であるが…。帝国軍人としては非常に穏健派であり強硬派の帝国軍人達とは常日頃から対立する。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争の大敗北からタイラントキラーに影響された民衆達が各惑星で暴動を発生させたとの情報です…」
第二十四次宇宙星間戦争での大敗北から大銀河帝国の威厳が没落…。暴動を発生させた各惑星の住民達は民主化運動に尽力中のタイラントキラーを支持したのである。軍内部からも離反した脱走兵がデモ隊に協力…。各惑星にて地上の治安部隊とデモ隊による内紛が彼方此方で勃発したのである。ルーヴェルハルトはソワソワした様子であったがブラッドフォードは呆れ果てた様子で…。
「愚民の暴走程度で報告するな…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの予想外の返答にルーヴェルハルトはハッとする。
「愚民達のデモ隊なんて国軍の宇宙艦隊を派遣して鎮圧作戦を開始しろ…大気圏から光子魚雷を投下すれば簡単に鎮圧出来るだろう…」
「ですが大総統…国軍の宇宙艦隊を出撃させれば大勢の民間人が…」
躊躇するルーヴェルハルトにブラッドフォードは苛立ったのである。
「数億人程度の愚民に遠慮して如何する?デモ隊の暴動程度に畏怖するなら即刻宇宙艦隊を派遣させ…奴等を沈黙させろ…」
ルーヴェルハルトは一瞬沈黙するものの…。
「承知しました…大総統…」
ブラッドフォードの命令に承諾したルーヴェルハルトであるがプルプルした様子で通信を遮断させる。
「ルーヴェルハルトは本当に弱腰だな…」
ルーヴェルハルトを弱腰と罵倒するブラッドフォードにストライダーは恐る恐る…。
「ですが大総統…各地域でデモ隊の活動がエスカレートし続ければ大銀河帝国にとって非常に不都合ですよ…最悪大銀河帝国が内部分裂すればタイラントキラーの思う壺でしょう…」
「であれば一日も早くタイラントキラーの本土を攻略するべきだな…」
同日…。暴動が発生した各惑星には六個師団の大規模宇宙艦隊が派遣され艦隊の主力艦であるセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が各惑星の大気圏から地上を目標に光子魚雷を発射したのである。一発の光子魚雷により大都市諸共数千万人の住民達が死滅…。一度の鎮圧作戦で敵味方の合計死者数は推計十二億人を上回ったのである。同時刻…。タイラントキラーの本拠地であり自治領である母星『エデンプラネット』議会場では大銀河帝国軍による暴動鎮圧の情報が急報されたのである。総帥ウィグノールの右腕とも命名される【ウィンフィールド】がソワソワした様子で議会場へと入室する。
「ウィグノール総帥!緊急事態です!」
「ウィンフィールド大佐か…一体何事だ?」
ウィンフィールドとは若齢の職業軍人であり年齢は二十二歳の青年であるが階級は大佐…。非常に優秀でありタイラントキラーではウィグノールが唯一信頼する最高の部下である。
「大銀河帝国軍が自国内で発生した暴動を鎮圧したみたいですが…彼等の鎮圧作戦によってデモ隊のみならず…推計十二億人以上の非戦闘員が虐殺されたとの情報です…」
ウィンフィールドが最高指導者のウィグノールに伝達する。
「なっ!?虐殺だと!?奴等…デモ隊だけではなく自国内の国民をも殺害したのか?」
「残念ですが…本当みたいです…」
「大銀河帝国…ブラッドフォードは悪魔にでも憑依されたのか…」
ウィグノールは人一倍大銀河帝国のブラッドフォードを毛嫌いするのだが…。今回のデモ隊虐殺事件から今迄以上にブラッドフォードに対する嫌悪感が増大化したのである。
「最早大銀河帝国のブラッドフォードは野放しには出来ない…」
ウィグノールは一瞬沈黙するなり…。
「即刻宇宙大艦隊を準備させろ!タイラントキラーの宇宙艦隊を再編制させ…大銀河帝国本土…ユートピアサイドに宇宙艦隊を派遣…奇襲作戦を実行する…」
ウィグノールのユートピアサイド奇襲攻撃の発言にウィンフィールドは驚愕する。
「えっ!?総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて本気ですか!?」
「私は当然…本気だ!」
「ですが総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて実質自爆攻撃と一緒ですよ!エデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星『メティス基地』と人工惑星『プルトロン基地』を突破しなければ不可能です…」
現実問題…。タイラントキラーの本拠地であり自治領であるエデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破しなければ大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドへは到達出来ない。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地には合計十二万隻から十四万隻もの宇宙艦艇が配備され両陣営とも攻略するのは困難である。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破したとしてもユートピアサイドには二十万隻もの宇宙大艦隊は勿論…。両サイドの基地には新型巨大防衛兵器の存在が確認され簡単には攻略出来ない。奇襲作戦を実行すれば大多数の宇宙防衛艦隊からの猛反撃も予想され最悪味方艦隊全滅の可能性も否定出来ない。
「タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争でも相当の損害ですし…こんな作戦は将兵達も国民も支持しないでしょう…最悪の場合報復攻撃でエデンプラネットの滅亡も予想されましょう…」
実際タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争の陽動作戦で辛勝するものの大多数の大型艦が撃沈…。大破したのである。タイラントキラーも宇宙艦隊の再建に着手するのだが…。資源不足により手一杯の状態だったのである。こんな状態で奇襲作戦を強行すれば奇襲艦隊の全滅は確実であり最悪エデンプラネットの滅亡も否定出来ない。
「三日前の第二十四次宇宙星間戦争だけでタイラントキラーは二万隻以上の宇宙艦艇と四十万人以上の将兵達が戦死したのです…今現在は宇宙艦隊の再建と宇宙航空戦力の再強化に尽力するべきかと…」
直後…。会議室のホログラムがピコピコッと反応したのである。
「ん?ホログラム?」
ホログラムを作動させると通信兵の立体映像が出現する。
「ん?通信兵か?」
「ウィグノール総帥!大変です!緊急事態です!」
「緊急事態だと?今度は何事だ?」
「味方の宇宙偵察機が所属不明の宇宙艦隊を発見…小惑星『メタリックアイ』に接近中との情報です…」
小惑星メタリックアイとはタイラントキラーが統治する小惑星でありタイラントキラーにとって資源採掘の宝庫である。
「所属不明の宇宙艦隊だと?大銀河帝国軍の奇襲部隊か?」
「現段階では不明ですが…恐らくは…」
ウィグノールは再度問い掛ける。
「宇宙艦隊の規模は?」
「宇宙偵察機の情報では…宇宙巡洋艦クラスの大型艦一隻と…二十隻の宇宙駆逐艦クラスの小型艦です…」
「極小規模の小艦隊だな…」
「ウィグノール総帥…如何されますか?」
ウィグノールは一息するなり…。
「小惑星メタリックアイに宇宙警備艦隊の宇宙戦闘母艦一隻を派遣させ…所属不明の宇宙小艦隊を駆逐せよ…」
「承知しました…」
宇宙警備艦隊は主力のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦一隻で出撃したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はワープ機能を作動させると本拠地のエデンプラネットから推定百四十光年に位置する小惑星…。メタリックアイの存在する宙域へと到達したのである。タイラントキラーの宇宙警備艦隊は所属不明の宇宙小艦隊と遭遇するのだが…。所属不明の宇宙小艦隊は交戦の意思が皆無であり救難信号を発信したのである。彼等は五千人以上の避難民達を乗艦…。所属不明の宇宙小艦隊の正体は大銀河帝国軍を見限り祖国である大銀河帝国から亡命した亡命艦隊だったのである。当初はエデンプラネットでも混乱するも亡命艦隊の脱走兵は捕虜として扱われ…。避難民達は無事に保護されたのである。

第三話

奇襲大作戦

宇宙新暦七百二十二年四月十六日未明…。タイラントキラー軍内部では大銀河帝国本拠地であるユートピアサイド奇襲大作戦が正式決定される。当初はウィグノールの右腕であるウィンフィールドは勿論…。数多くの首脳陣が今回のユートピアサイド奇襲大作戦には猛反対され一時は作戦内容が全面的に白紙化されたのである。作戦内容が白紙化された数日後…。状況は一変する。大銀河帝国国内では大総統のブラッドフォードによる圧政に猛反発した大勢の将兵達やら国民達のデモ活動によりブラッドフォード政権は失脚寸前だったのである。大銀河帝国国内の大混乱から作戦を実行するチャンスであると確信したウィグノールは再度右腕のウィンフィールドとタイラントキラー首脳陣に説得…。最終的に作戦開始の三日前に大銀河帝国軍総本部ユートピアサイド奇襲大作戦は総帥ウィグノールの説得により正式決定されたのである。四月十八日十六時五十分…。タイラントキラー宇宙艦隊は七十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦を主力に機動突撃艦隊を新編成したのである。機動突撃艦隊は宇宙空母と宇宙航空戦力を中心とした宇宙大艦隊であり宇宙型大艦巨砲主義の大銀河帝国軍には存在しない。宇宙艦艇の総数は合計六万隻以上でありタイラントキラーにとっては最大の戦力だったのである。今回のユートピアサイド奇襲大作戦では主力の大型宇宙空母を護衛する新型宇宙巡洋艦の『シーサーペント』が二万隻以上投入される。シーサーペント級宇宙巡洋艦はスーパーレーダーによるレーダー射撃により主砲の命中精度のみなら大銀河帝国軍主力宇宙戦艦のセイバードラゴン級宇宙戦艦にも匹敵する。旗艦レヴィアタンより総司令官であるウィグノールが通信機で全軍に伝播…。
「全軍!ワープ機能を作動させろ!目標地点は大銀河帝国軍本拠地…ユートピアサイド!」
タイラントキラーの宇宙艦艇は大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドを目標にワープ機能を作動させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではステルス機能すら無効化する新型の改良型スーパーレーダーが設置されタイラントキラーの動向を察知したのである。
「大総統!タイラントキラーの主力宇宙艦隊が行動を開始しました!彼等は本拠地であるユートピアサイドに接近中です…」
通信兵の報告に大総統ブラッドフォードは承諾する。
「奴等…行動を開始したな…」
ブラッドフォードは基地内の総司令部に設置されたホログラムにてタイラントキラーの宇宙艦隊の動向を確認したのである。五日前にタイラントキラーの本拠地であるエデンプラネットに諜報部隊を派遣…。タイラントキラーの情報をキャッチするのに成功したのである。副総統のストライダーが恐る恐る…。
「大総統?ユートピアサイドに援軍を派遣しますか?」
「援軍は不要だ…」
問い掛けたストライダーであるがブラッドフォードは援軍の派遣は不要であると返答したのである。
「援軍は不要ですと?」
「最早大銀河帝国軍にとってユートピアサイドの戦略的価値は皆無だ…ユートピアサイドへは援軍は派遣しない…」
「であればユートピアサイドは如何されるのですか?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「新型戦略兵器『ツァーリーボンバ』で敵味方諸共…ユートピアサイドを殲滅する…」
「なっ!?戦略兵器であるツァーリーボンバで…大銀河帝国軍本拠地のユートピアサイドを殲滅するのですか!?」
ツァーリーボンバとは大銀河帝国軍が新開発した新型戦略兵器であり正式名は超大型戦略貫通ミサイルである。全長は七百メートルサイズ…。規格外の超巨大試作型誘導弾であり破壊力は未知数である。
「大総統は正気ですか!?ユートピアサイドには大勢の味方の地上部隊と民間人が居住する人口密集地ですし…何よりもユートピアサイドは大銀河帝国軍の本拠地なのですよ!?」
大銀河帝国軍の総本部であるユートピアサイドには総勢七十万人もの地上部隊が配備され…。推計七十億人以上の非戦闘員が居住する。
「敵軍を殲滅するには味方の犠牲は必要不可欠だ…」
(今現在ユートピアサイドの地上部隊は実質不要だからな…奴等にはツァーリーボンバの実験台として利用するのが適任だ…)
ユートピアサイドに配置された味方の地上部隊はブラッドフォードにとって不要と判断した部隊であり実質消耗品だったのである。
「即刻改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦に新型戦略兵器ツァーリーボンバを搭載させ…出撃させろ…」
「はっ!承知しました!」
ツァーリーボンバは宇宙戦艦クラスの大サイズであり実質改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にしか搭載出来ない。準備は五分で終了する。通信兵が再度司令室へと入室したのである。
「改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦にツァーリーボンバを搭載準備…完了しました…」
「上出来だ…」
ブラッドフォードはスマートウォッチで時間帯を確認する。
「出撃は五分後だ…」
「承知しました…」
五分が経過したと同時に…。ツァーリーボンバを搭載した改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦が出撃したのである。人工惑星プルトロン基地から改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦が出撃した同時刻…。タイラントキラーのユートピアサイド攻略宇宙艦隊が大銀河帝国軍本拠地ユートピアサイドの大気圏上空へと到達したのである。ユートピアサイド地上部隊は総司令部に設置されたスペースレーダーにてタイラントキラー宇宙艦隊の動向をキャッチする。
「大気圏上空よりタイラントキラーの宇宙艦隊です!」
「奇襲作戦か…」
タイラントキラー宇宙艦隊の突然の出現に地上部隊は動揺したのである。
「奴等…ワープ機能でプルトロン基地とメティス基地を突破したのか…」
「総数六万隻の大艦隊です…地上部隊だけで守備するのは不可能でしょう…」
現実問題地上部隊のみではタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するのは不可能…。味方の宇宙艦隊は各惑星のデモ隊鎮圧任務に投入され援軍からの援護は絶望的である。
「兎にも角にもタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するぞ!」
地上部隊の滑走路からは三百機前後の旧型宇宙戦闘機スペースバードが飛来…。地上軍は宇宙戦艦をも一発で撃沈出来る高エネルギー主砲搭載型砲撃列車と旧型戦闘装甲車が対空戦闘を開始したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦の宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは総司令官のウィグノールがホログラムにて地上の様子を観察する。
「ユートピアサイドの地上軍は攻撃を開始したか…」
ウィグノールは一息したのである。
「民間人への被害は最小限に努力しろ…」
数秒後…。
「全軍攻撃開始!敵軍を排除せよ!」
タイラントキラーの攻撃開始と同時に七十隻のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦飛行甲板より数百機ものスペースドローンが飛来したのである。ユートピアサイド都市部大気圏上空では有人機と無人機の空戦が展開される。大銀河帝国軍地上軍のスペースバード航空隊は必死に反撃するのだが…。相手は新型の無人機であり旧型の有人型宇宙戦闘機であるスペースバードでは撃墜するのは困難である。一分間の戦闘で百八十機ものスペースバードが撃墜される。スペースバードの防衛網を突破した無数のスペースドローンは都市部直上へと突入…。地上部隊の基地と周辺区域を攻撃したのである。地上部隊は砲撃列車と戦闘装甲車は勿論…。基地周辺に設置された固定砲台で上空のスペースドローンを迎撃するも地上では超音速で飛来するスペースドローンを撃墜するのは困難である。反対にスペースドローンの多目的ミサイル…。小型光子魚雷による爆撃で地上部隊の地上兵器が破壊されたのである。同時刻…。宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは副艦長のウィンフィールドが艦内のホログラムで地上の様子を再度直視する。
「味方部隊の優勢ですね…今現在自軍の損害は皆無です!」
タイラントキラーの優勢に大喜びするウィンフィールドであるが…。
「非常に奇妙だな…」
「奇妙ですと?」
奇妙であると発言するウィグノールにウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「何が奇妙なのですか?」
「敵軍の地上部隊は旧型の兵器ばかり…戦争博物館だな…」
ユートピアサイドは大銀河帝国軍にとって最重要拠点であるのだが…。投入された地上軍の兵器は旧型の前時代的代物ばかりでありウィグノールは胸騒ぎを感じる。
「最重要拠点の防衛戦としては抵抗が軽微に感じられる…」
戦闘開始から五分が経過するとユートピアサイドの地上部隊の戦力は八割が壊滅状態であり最早組織的抵抗は不可能の状態だったのである。タイラントキラーの将兵達は勝利を確信するのだが…。ウィグノールとウィンフィールドは表情が険悪化したのである。すると一人の将兵が彼等に問い掛ける。
「艦長達…一体如何されたのですか!?タイラントキラーの勝利は目前ですよ!今日より銀河全体の民主主義が実現するのです!」
するとウィグノールは恐る恐る…。
「ひょっとすると敵軍のトラップかも知れないな…」
「えっ!?敵軍のトラップですと?」
直前である。艦内のスペースレーダーが正体不明の移動物体に反応…。艦内全体にサイレンが響き渡る。
「ん?何事だ…」
モニターを作動させると規格外の超大型ミサイルを搭載したセイバードラゴン級宇宙戦艦が映写される。
「此奴は…大銀河帝国軍の…」
「セイバードラゴン級宇宙戦艦だな…改良型か…」
「ですが船底に大型戦艦クラスの超大型ミサイルらしき物体が確認出来ます…物体はミサイルなのでしょうか?」
ウィグノールは勿論…。周囲の乗組員達がセイバードラゴン級宇宙戦艦に搭載された超大型ミサイルに身震いしたのである。するとウィグノールは恐る恐る…。
「ウィンフィールド…」
「如何されましたか?ウィグノール総帥…」
普段は冷静であるウィグノールであるが不吉の予感を察知したのか今回は異常にビクビクしたのである。
(ウィグノール総帥が畏怖されるなんて…)
ウィンフィールドはウィグノールの様子に一大事であると察知する。
「不本意であるが…全軍を撤退させろ…」
ウィグノールの判断にウィンフィールドを除外する周囲の将兵達が猛反発したのである。
「えっ!?今更撤退ですと!?」
「敵艦は一隻だけです!即刻迎撃して…」
「下手に攻撃すると面倒だ…モニターの此奴は予想以上に危険かも知れない…」
ウィグノールは即座にワープ機能作動を全軍に伝播させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではブラッドフォードが基地内から無人の改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦を遠隔操作したのである。
(コンピュータゲームみたいだな…)
ストライダーは遠隔操作により航行する改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦をコンピュータゲームであると感じる。ブラッドフォードはモニターでユートピアサイドの大気圏上空を浮遊するタイラントキラーの宇宙艦隊を確認したのである。
「敵軍は大気圏上空に展開中だな…」
一息するなり…。
「攻撃目標…ユートピアサイド…超大型戦略貫通ミサイル…ツァーリーボンバ…発射する…」
改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦からツァーリーボンバが発射される。発射された同時刻…。ユートピアサイド大気圏上空にて展開中のタイラントキラー宇宙艦隊の各艦のスーパーレーダーにはツァーリーボンバが確認される。
「艦長!敵艦から規格外の超大型ミサイルが発射されました!」
ウィグノールはモニターの超大型ミサイルを直視する。
(此奴は大銀河帝国軍の新型兵器か…止むを得ないか…)
不本意であるが…。
「全軍に伝達する!全艦隊…即刻撤退せよ!」
直後である。ユートピアサイドに接近中の超大型戦略貫通ミサイル…。ツァーリーボンバが惑星全体にピカッと炸裂したのである。数秒後…。高熱の熱線が惑星全体を覆い包み天体諸共爆散したのである。タイラントキラーの主力宇宙艦隊はワープ機能の作動により撤退に成功したものの…。最前線の艦隊はツァーリーボンバの大爆発によってユートピアサイド諸共消滅したのである。
「はぁ…はぁ…ウィグノール総帥…無事に撤退出来ましたね…」
「主力の宇宙艦隊は無事だが…」
先程の自爆攻撃でタイラントキラーは推計三百四十八隻の宇宙戦艦…。六百八十九隻の宇宙巡洋艦と五千二百三十一隻の小型艦艇を喪失したのである。推計三十万人もの将兵を喪失する。一方の大銀河帝国軍は自身の自爆攻撃によって推計五百万人の兵員…。推計七十億人もの住民がツァーリーボンバで死滅したのである。タイラントキラーにとって今回の作戦失敗は甚大であり総帥のウィグノールは大勢の将兵達からは勿論…。民間からも作戦失敗の責任を追及され彼自身の妻子も戦争犯罪者として迫害されたのである。ウィグノールは作戦の失敗を契機に宇宙新暦七百二十二年四月二十一日…。自宅の寝室にて妻子と一緒に一家心中したのである。

第四話

新型宇宙戦艦

ユートピアサイド軍事工場で計画中であった新型宇宙戦艦は急遽人工惑星プルトロン基地で建造される。宇宙新暦七百二十二年四月二十四日早朝…。大総統のブラッドフォードはプルトロン基地の軍港へと来場する。
「如何やら新型宇宙戦艦が完成したみたいだな…」
軍港には全長四百メートルサイズ…。全幅二百二十メートルサイズの新型宇宙戦艦が確認出来る。すると背後より…。
「大総統♪こんな場所で一体何を?」
「ストライダーか…暇潰しに新型兵器を見物しただけだ…」
「新型兵器の見物ですか♪」
副総統のストライダーも新型宇宙戦艦を直視する。
「此奴はセイバードラゴン級宇宙戦艦の後継艦…キングタイタンですよ♪」
「キングタイタンだと?即刻改名しろ…」
艦名が気に入らなかったのか後継艦の改名を要求したのである。
「えっ?改名って…」
ストライダーは困惑したのである。
「であれば私が名付ける…此奴の艦名は『アルセイス』だ…」
「えっ…アルセイスって…」
ストライダーはハッとする。
「アルセイスとは…大総統の令夫人の名前では…」
「勿論…彼女の名前だ…」
アルセイスとは二年前の四月に大病で死去したブラッドフォードの令夫人の名前でありブラッドフォードの唯一の理解者である。
「大総統が希望すのであれば…」
新型宇宙戦艦の艦名はアルセイスと改名される。
「此奴の性能は?」
アルセイスは全長四百メートルサイズで全幅は二百二十メートルサイズ…。全備総重量は七十万トンの巨大宇宙戦艦である。全長が八百メートルサイズのセイバードラゴン級宇宙戦艦の二分の一のサイズであるが…。戦闘能力は段違いであり砲撃に特化された完全攻撃型宇宙戦艦である。兵装は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が二基…。対空兵装では五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八基搭載される。実弾兵器は光子魚雷発射機が二基…。多目的ミサイル発射機が十二基配置される。本艦にとって最大の兵装であり主砲…。超弩級波動砲『ケラウノス』は無限の電力を内包するスパークストーンが使用され一撃で惑星を消滅させる。動力炉はスーパーリアクターの改良型である新型無限動力炉『ハイパーリアクター』が搭載される。艦載機は無人機が四機…。乗組員は一人から三人程度で運用出来る。正式名は上級大将専用宇宙戦艦であり居住設備も豪華客船に匹敵する。本艦を一隻建造するだけでセイバードラゴン級宇宙戦艦二百隻の予算が使用…。政府首脳陣専用の宇宙戦艦であり実質ブラッドフォードのみが乗艦出来る。
「本艦の装甲は『エターナルメタル』ですからね…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは資源採掘惑星レアメタルスターで採掘された不朽性であり未知の鉄鉱石である。非常に軽量であるが…。硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスは非常に安価ですからね♪」
「であれば好都合だ…」

第五話

猛反撃

三日後…。人工惑星プルトロン基地から三万隻もの宇宙大艦隊が出撃を開始する。旗艦は新型宇宙戦艦アルセイスであり大銀河帝国軍総司令官のブラッドフォードが乗艦したのである。
「全軍に伝達する!今回は小惑星メタリックアイを確保…タイラントキラーの防衛宇宙艦隊を殲滅せよ!」
今回の作戦では新型宇宙巡洋艦バジリスクが推計二千隻…。六千隻もの新型宇宙駆逐艦『アスピドケロン』が投入され艦載機は新型戦闘用ドローン『セイバードローン』が投入される。将兵の大半がクローン人間のホムンクルスであり人間の将兵は少数である。一新された大銀河帝国宇宙艦隊はタイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインである小惑星メタリックアイを目標に全速前進…。各艦艇はワープ機能で小惑星メタリックアイの宙域へと到達する。
「メタリックアイの宙域に無事到達出来たな…」
旗艦アルセイスを先頭に…。背後からは三万隻もの宇宙艦艇がワープ機能で到達したのである。するとブリッジのホムンクルス将兵が発言する。
「味方の宇宙艦隊が到達したみたいですね…」
「メタリックアイを攻略…奴等の最終防衛ラインを陥落させ…奴等を絶望させるぞ…」
タイラントキラーの保有する惑星は実質母星であるエデンプラネットと最終防衛拠点のメタリックアイのみである。
(タイラントキラーの資源宝庫であるメタリックアイを陥落させれば…実質大銀河帝国の大勝利だ…)
タイラントキラーはユートピアサイド攻略作戦の失敗で戦力が低下…。最高指導者である総帥ウィグノールの自殺により以前より士気も戦争遂行能力も低下した状態だったのである。タイラントキラーは国民主権の勢力であり大勢の民間人が安住するエデンプラネットでの本土決戦は回避…。投降するのではと思考したのである。
「艦長!敵部隊の防衛宇宙艦隊を発見しました!」
艦内のスペースレーダーがメタリックアイの防衛宇宙艦隊をキャッチする。
「敵部隊の宇宙艦艇の総数は?」
「推計一万五千隻です…」
「一万五千隻か…」
(敵軍の規模は一個艦隊程度だな…)
敵軍の規模から片手間であると感じるものの…。
「全軍…全速前進だ!戦闘艦艇は敵艦に砲撃を開始!」
防衛艦隊との射程距離は推定十七光年と近距離であり各艦は高エネルギー砲塔から高エネルギーの光弾を射出…。数十万発もの発光体が各艦の砲塔から発射される。大銀河帝国軍宇宙艦隊の猛攻により数百隻もの宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇が轟沈したのである。宇宙巡洋艦クラスの大型艦は超大型シールド装置の設置により高エネルギー兵器を無力化…。ノーダメージだったのである。
「シールド装置だな…であれば光子魚雷と多目的ミサイルの実弾攻撃で対応せよ…」
各艦は無数の光子魚雷…。多目的ミサイルを発射する。大銀河帝国軍の実弾兵器はシールドジャミング装置が搭載され…。シールド装置を無力化させ大型艦に攻撃したのである。実弾兵器の猛攻で二百隻以上の宇宙巡洋艦クラスは勿論…。宇宙戦艦クラスの大型艦を撃沈する。
「大総統…大銀河帝国軍の優勢です!」
部下の報告にブラッドフォードは一安心するものの…。
「油断大敵だ…新型宇宙空母『スレイプニル』から新型ドローン部隊を出撃させろ!」
今回の作戦では宇宙用の新型宇宙巨大空母スレイプニルが一隻投入されたのである。艦名はスレイプニルと命名され…。正式名は宇宙要塞母艦スレイプニルである。スレイプニル級宇宙空母はプルトロン軍事工場で建造されたドローン搭載型母艦であり十八隻が建造される。全長は九百九十メートルであり全長八百メートルクラスのセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。艦体の総重量は九百五十万トンと桁外れであり超光速の速力を発揮出来る。宇宙戦艦アルセイスと同様に動力炉はハイパーリアクターが使用され…。航続距離は実質無限光年である。規格外の巨大さのスレイプニル級宇宙空母であるが…。乗組員は一人から三人体制であり少人数での運用が可能である。五万人から八万人もの輸送要員を乗艦させられる。艦載機は無人兵器のドローン兵器が四百機搭載される。兵装はアルセイスと同様に主砲のケラウノスが艦首に設置…。副砲は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が六基と対空兵装は五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八十基搭載されたのである。実弾兵器は光子魚雷発射機が十二基と多目的ミサイル発射機が三十基搭載され…。実質従来型の宇宙戦艦をも上回る戦闘空母である。補助兵装ではアルセイス同様…。ステルス機能と館内には娯楽施設が設置されたのである。スレイプニルの宇宙用甲板からは三百機ものセイバードローンが出撃…。ワーム機能を作動させ超光速で敵軍艦隊の射程圏内へと突入したのである。タイラントキラーのレヴィアタン級宇宙戦闘母艦もドローン兵器スペースドローンを発進させる。ドローン兵器同士による空戦が開始されるが…。セイバードローンは鹵獲したスペースドローンをベースに開発された機体でありスペースドローンは圧倒される。一分間の空戦で二百機以上のスペースドローンが撃墜されたのである。
「圧倒的だな…」
ブラッドフォードはアルセイスの艦内ホログラムから空戦の様子を直視する。
「セイバードローンは予想以上の戦果ですね…」
セイバードローンの損害は皆無であり敵機はバタバタと撃墜…。タイラントキラーのドローン部隊は壊滅したのである。
「敵軍のドローン部隊は壊滅した…ドローン部隊には後方の敵艦への攻撃を継続させろ…」
「承知しました…」
セイバードローンは後方のタイラントキラー宇宙艦隊に攻撃を仕掛ける。

反帝国主義

宇宙新暦七百二十二年五月十七日…。最終戦略兵器ケラウノスによって国民主義勢力のタイライトキラーと本拠地である小惑星エデンプラネットを消滅させた大銀河帝国軍であるが…。日に日に過激化するブラッドフォード政権に対する反対運動は新勢力の誕生を促進させたのである。二日後の五月十九日…。ブラッドフォード政権を見限った穏健派の帝国軍人ルーヴェルハルトは大銀河帝国を脱退したのである。三日後の五月二十二日に反帝国主義勢力『ホープセイバーズ』が結成…。大銀河帝国自治領の一部である小惑星『ホープエリア』を本拠地として設置される。ホープセイバーズ結成から一週間後の五月二十四日…。大銀河帝国軍を見限った一部の帝国軍人達と母星の消滅により宇宙空間を漂流するタイライトキラーの臨時政府軍宇宙艦隊が小惑星ホープエリアへと集結したのである。ホープセイバーズ創設から二週間が経過するとホープエリアの総人口は推計二十億人に増加する。銀河系の各宙域ではタイラントキラーの残存艦隊が宇宙海賊団を組織…。彼等も義勇軍としてホープセイバーズに加入される。五月二十七日…。大銀河帝国軍総本部では大総統のブラッドフォードと副総統のストライダーが対談する。
「大総統…ルーヴェルハルト少将が大銀河帝国から脱退しましたな…」
「大銀河帝国に穏健派の軍人は不要だ…」
(彼奴は目障りだからな…)
ブラッドフォードにとって穏健派のルーヴェルハルトは正直目の上のたん瘤でありルーヴェルハルトの脱退は非常に好都合だったのである。
「ホープセイバーズですが…如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「当然として…敵対勢力は徹底的に殲滅する予定だ…」
メンテ

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