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テラトピア大事変
日時: 2020/12/25 07:49
名前: 戦艦零号

第一話

休憩時間
全世界を二分させる人類史上最大の大戦争…。第三次列国大戦が終焉してより十五年が経過する。世界暦五千五百二十二年四月下旬…。小国家〔テラトピア自由区〕での出来事である。場所は進学校テラトピア学園…。休憩中に一人の男子生徒が窓際から仰天の青空を眺望する。
「今日も図書室で暇潰しだな…」
男子生徒の名前は【フィルドルク】…。テラトピア学園の男子生徒であり学部は普通科である。フィルドルクは一見すると年齢十四歳の普通の少年であるものの…。誰よりも荒唐無稽のオカルト関連が大好きであり勉学以外の時間帯ではオカルト関連の情報を調査するのが趣味である。フィルドルクは午前中の休憩時間に図書室へと移動する。
「オカルト関連…オカルト関連…」
フィルドルクはオカルト関連の参考書を何冊か黙読したのである。内容としては近年話題の超能力関連は勿論…。古代文明の魔法神秘学やら東洋の妖術関連である。
「僕にも超能力とか…荒唐無稽の魔法が扱えたらな…」
フィルドルクは自身にも超能力やら魔法が使用出来たらと妄想し始める。
「一体如何すれば僕に超能力が?」
彼是と思考し続けた直後…。
「ん?」
隣接より一人の女子生徒が魔法関連の書籍を何冊か漁ったのである。
『誰だろう…』
気になったフィルドルクは恐る恐る隣接の女子生徒をチラ見する。
『うわっ…誰なのかな?』
女子生徒は女性としては高身長であり頭髪は赤毛のストレートロング…。両目の瞳孔は半透明の血紅色であり両方の耳朶には金剛石のイヤリングが特徴的である。容姿は人一倍美的でありフィルドルクは彼女の妖艶さに見惚れる。
『彼女…相当の美人だな…胸部も…』
女子生徒は胸部が豊富である。フィルドルクは彼女に魅了されたのか赤面し始める。
『瞳孔が血紅色だ…彼女は…人間の女の子なのかな?』
隣接の女子生徒は一般の女性とは異質的であり摩訶不思議のオーラを感じさせる雰囲気だったのである。すると摩訶不思議の女子生徒はフィルドルクの存在に気付いたのかフィルドルクの方法を凝視し始める。
「貴方…先程から何かしら?私に用事?」
「えっ!?」
フィルドルクはビクッと反応…。
「御免…気にしないで…」
フィルドルクは赤面した表情で即座に女子生徒に謝罪したのである。すると女子生徒は恐る恐る…。
「貴方…名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクだよ…」
フィルドルクは即答したのである。
「君は?」
一方のフィルドルクも女子生徒に名前を問い掛ける。
「私は【メロティス】よ…貴方は私のクラスメートだったわよね…」
「えっ…君は僕のクラスメートだっけ?」
フィルドルクはオカルト関連には随一である反面…。オカルト関連以外の物事には比較的無関心であり自身のクラスに誰が存在するのか認識出来なかったのである。
「貴方って…オカルト以外の物事には無関心そうね…」
『フィルドルクって男子は天然なのかしら?』
フィルドルクは極度の天然でありメロティスは内心呆れ果てる。
「えっ…はぁ…」
一方のフィルドルクは苦笑いしたのである。
「貴方は荒唐無稽の心霊とか超常現象とか大好きそうね…」
「勿論だよ♪超能力とか異星人とかも大好きだよ♪」
フィルドルクは笑顔で即答する。
「へぇ…貴方って純粋なのね…」
「えっ?純粋?僕が?」
「純粋よ…誰よりもね♪」
メロティスは微笑した表情で発言したのである。
「えっ…」
『純粋って…子供みたいだな…』
フィルドルクはメロティスに子供扱いされ…。赤面したのである。するとメロティスは小声で…。
「今日の放課後だけど…私と一緒に帰宅しない?折角の機会だし…」
「えっ!?」
フィルドルクはメロティスに誘われ驚愕したのである。
『こんなシチュエーション…現実なのかな?こんな僕が…女子生徒と帰宅…』
フィルドルクは今回の出来事が現実なのか混乱する。予想外のシチュエーションに再度赤面したのである。
「私も荒唐無稽のオカルトが大好きだからね…如何する?貴方にとって都合が悪ければ無理にとは…」
問い掛けられたフィルドルクは一瞬沈黙するものの…。
「勿論大丈夫♪僕は大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
フィルドルクはワクワクした様子であり笑顔で返答したのである。
『こんな僕がこんな可愛らしい女の子と一緒に帰宅出来るなんて…夢物語みたいだよ♪現実の出来事なのかな?』
一瞬現実なのか自分自身の妄想なのか混迷する。フィルドルクはメロティスとの帰宅に内心大喜びしたのである。

第二話

帰宅
放課後の時間帯…。フィルドルクはメロティスと一緒に帰宅する。
「メロティスさん…自宅は?」
「私の自宅はサウスタウンよ…」
サウスタウンとは西方地帯に存在する小規模の住宅街である。
「えっ?メロティスさんの自宅もサウスタウンなの?僕と一緒だね♪」
「貴方の自宅もサウスタウンなのね…」
メロティスもサウスタウンの住民でありフィルドルクは内心大喜びする。
「貴方…随分と嬉しそうね…」
「えっ!?」
フィルドルクは赤面…。気恥ずかしくなる。
「フィルドルク♪貴方って本当に面白いわね♪」
メロティスは微笑み始める。
「僕って…面白いのかな?」
「面白いわよ♪人一倍天然そうだし♪」
「えっ…」
『人一倍天然って…』
フィルドルクは苦笑いしたのである。するとメロティスは無表情で…。
「貴方は現実世界に荒唐無稽の魔法が存在するなら…直視したくない?」
「えっ…」
『正直…メロティスさんの思考が理解出来ないけど…』
メロティスの突然の質問に困惑したのである。
「魔法が…」
フィルドルクは一息する。
「空想かも知れないけど…荒唐無稽の魔法が本当に存在するのであれば…実際に直視したいかな…」
フィルドルクが恐る恐る返答するとメロティスは瞑目し始める。
「仕方ないわね…」
「えっ?仕方ないって…」
「今回だけは特別よ…」
「えっ…特別って?」
メロティスはカッターナイフを所持したかと思いきや…。自身の手首を自傷させたのである。
「メロティスさん!?一体何を!?」
フィルドルクは突然の彼女の自傷行為に驚愕する。一方のメロティスは平気そうな表情だったのである。
『彼女は正気なの!?』
地面にはメロティスの血液が一滴ずつ流れ出る。
「メロティスさん…血液が…」
フィルドルクは彼女の鮮血に畏怖したのかソワソワする。
「フィルドルク…貴方は極度の心配性ね…」
一方のメロティスは冷静沈着だったのである。
「心配しなくても私は大丈夫よ…貴方は大袈裟ね…フィルドルク…」
数秒間が経過する。カッターナイフで自傷したメロティスの傷口が一瞬で治癒したのである。
「えっ!?メロティスさんの傷口が治癒した!?一体如何して…何が?」
フィルドルクは荒唐無稽の超常現象に愕然とする。するとメロティスは無表情で発言したのである。
「単刀直入に表現するなら…私の正体は魔女なのよ…」
「えっ…魔女?メロティスさんの正体が魔女だって?」
一瞬出鱈目であると思考するものの…。先程の荒唐無稽の超常現象を直視するとメロティスの正体が魔女であると否定出来なくなる。
「正確には私の家計は魔女の家計ってだけよ…父様は普通の人間だし…私は魔女と人間の混血なのよね…」
メロティスは母親が人外の魔女であるものの…。父親は純血の人間だったのである。フィルドルクは緊張した様子で恐る恐る彼女に質問する。
「ひょっとするとメロティスさんの祖先って…東洋に存在する…イーストユートピア出身者なの?」
「私の祖先はイーストユートピアに出身らしいわね…」
イーストユートピアとは極東に存在した辺境の島国であり所謂桃源郷神国と命名される。世界的には魔女の発祥地とされる。イーストユートピアは近代化の成功により列強の一員として認識されたものの…。二百年前に勃発した第二次列国大戦で超大国に敗北したのである。イーストユートピアは多大なる空襲により各村落は焦土化…。今現在では荒廃した無人地帯同然であり居住者は誰一人として存在しない。
「メロティスさんが魔女なのは事実みたいだけど…吃驚したよ…」
「こんな話題はオカルト大好きな貴方以外には出来ないからね…」
「正直最初に対面してから普通の常人とは異質的だったからね…メロティスさんの正体が魔女なのは納得だよ…」
するとフィルドルクは小声で…。
「メロティスさんは今迄誰かに気味悪がられるとか…差別されなかったの?」
メロティスは一瞬沈黙するも小声で返答したのである。
「無論ね…私自身こんな容姿だし…クラスメートの女子達からは人外の魔女って揶揄されたわよ…実際問題私の家計が人外の魔女なのは事実なのだけどね♪」
彼女は笑顔で発言する。
「前向きだね…メロティスさんは…」
フィルドルクはメロティスが人一倍ポジティブであると感じる。一方のメロティスはフィルドルクを凝視…。
「貴方も人外でしょう…フィルドルク…」
「えっ?」
メロティスの人外の一言にフィルドルクは意味が理解出来ず脳内が白色化する。
「僕が…人外だって?」
「貴方ってエスパーっぽいのよね…」
「僕が…エスパー?」
フィルドルクは珍紛漢紛であり困惑したものの…。
「二年前に死んじゃったけど…僕の母方の叔父さん…ストレイダス叔父さんが…霊能力なのかな?死者の霊体と会話出来るとかって…」
フィルドルクには母方の【ストレイダス】と名乗る叔父が存在する。今現在でこそストレイダスは故人であるが…。ストレイダスは大昔から死者の霊体を視認出来る特殊体質だったのである。霊体を視認出来るばかりか死者との会話も出来る性質上…。周囲の者達からは非常に気味悪がられ両親やら実母以外の兄弟からも嫌忌されたのである。こんな境遇の彼であったが…。警察組織が死者と会話が可能であるストレイダスの霊能力に注目する。警察組織は特殊体質の彼を特別枠の特別警察に配属させ数多くの未解決事件解決に貢献させたのである。
「やっぱりフィルドルクの血縁者はエスパーだったわね…」
メロティスは納得する。
「貴方は正真正銘エスパーの人種なのよ♪」
「僕がエスパーの人種!?」
「如何やら貴方が貴方の叔父さんの血筋を色濃く継承したみたいね…」
「血筋を継承したとしても僕にはストレイダス叔父さんみたいに死者の霊体なんて視認出来ないし…映画とか漫画の主人公みたいに怪力とか超能力なんて何一つとして使用出来ないよ…」
「貴方が特殊能力を発揮するには相応の衝撃が必要不可欠なのかも知れないわ…」
「相応の…衝撃?」
「貴方自身が大事件とか…事故に遭遇しなければ特殊能力は一生涯覚醒しないでしょうね…」
「大事件とか事故って…物騒だな…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。メロティスと摩訶不思議の会話から数分後…。二人は自宅へと戻ったのである。

第三話

新人類
小規模の島国…。テラトピア自由区から数百キロメートルの長距離にはテラトピア自由区よりも小規模の島国が存在する。島国の国名は〔万民解放区〕である。万民解放区は十五年前こそ無名の無人島であったが…。第三次列国大戦に敗北した万民解放軍の残党勢力と世界各地の犯罪者達が移住したのである。彼等は無人島の万民解放区に暗躍すると島内全域を軍事拠点化…。万民解放軍を再結成したのである。とある密室にて二人の軍人が密談する。
「二日後だ…二日後に近場のテラトピア自由区を攻略するぞ…」
将軍らしき人物が発言したのである。
「テラトピア自由区か…一日間で攻略出来そうだな…」
背広姿の金髪碧眼の男性が返答する。テラトピア自由区は比較的国内の治安が安定した一方…。戦力は最低限の武装警察隊が配置された程度であり通常の国軍としての反撃能力は実質皆無とされる。
「歴戦の貴様にとっては今回の作戦…片手間なのかも知れないが…貴様以外の将兵達は実戦未経験の新米兵士達ばかりだ…実戦で役立つのやら…」
今現在万民解放軍の将兵は大半が世界各国の犯罪者達ばかりであり経験豊富の将兵は実質少数とされる。将軍らしき人物は将兵達の熟練度の脆弱さを懸念する。
「非力の新兵ばかりだが…世界連合は十五年前の大戦で疲弊した状態なのも事実だからな…」
世界連合とは第二次列国大戦を契機に創設された各国家による統一政府である。第三次列国大戦が終結してから十五年が経過したものの…。今現在世界各国が戦争の悪影響で疲弊状態でありあらゆる国家が戦争出来る余力が皆無だったのである。無論…。統一政権の世界連合さえも今現在は反戦ムードであり各地の紛争を解決出来る余力は皆無である。背広姿の男性が断言する。
「今回の作戦は俺達の強大さを全世界に知らしめる絶好機…今回の作戦が成功すれば世界連合は迂闊には手出し出来なくなるだろう…何よりも俺には…」
背広姿の男性は護身用の拳銃を携帯したかと思いきや…。
「なっ!?貴様は…一体何を!?」
将軍らしき人物は拳銃に冷や冷やする。
「安心しろ…此奴を…分解するだけだ…」
「分解だと?一体如何するのだ?」
「大人しく見物し続けろ…」
背広姿の男性は摩訶不思議の効力で自身の拳銃を分解したのである。
「俺が超能力さえ思う存分に発揮出来れば…全世界を掌握出来るだろう…容易に…」
新人類とは超能力を所持する特殊人種とされ…。現在の調査では百万人に一人の確率で存在するとされる。
「現段階では俺に対抗出来る新人類は存在しない…」
すると将軍らしき人物はニヤリと冷笑する。
「貴様の超能力とやら…期待するぞ♪【ウィルフィールド】…」
彼自身詳細は不明であるが…。ウィルフィールドと名乗る人物は超能力を使用出来る新人類の一人だったのである。
『ウィルフィールドの正体が荒唐無稽の新人類だったとは…新人類とやらは本当に実在するのだな…』
将軍らしき人物は内心新人類の存在に驚愕する。

第四話

霊体
真夜中の深夜帯…。フィルドルクは超能力の歴史書と呼称される参考書を黙読したのである。超能力の歴史書には古代文明時代は勿論…。今現在の事例も多数記述され非常に興味深かったのである。
「極東のイーストユートピアにもエスパーが存在したなんて…」
イーストユートピア所謂桃源郷神国は魔女の発祥地として有名であるものの…。新人類による超能力伝説は複数存在する。先例としては戦乱時代に活躍したとされる名将夜桜崇徳王である。崇徳王は十数キロメートルもの長距離から敵軍の将兵が何人存在するのか正確に察知出来たとされる。崇徳王以外には安穏時代の八正道と名乗る僧侶も有名である。詳細こそ不明であるが…。彼にも超能力らしき伝説が一部確認される。一例としては神族天狐如夜叉との戦闘で銃弾のみで神器を破壊したとの一説である。八正道の場合は偶然の可能性が指摘される一方…。超能力による超常現象も否定出来ないとの意見も存在する。両者とも無自覚であったが…。今現在の見解では両者とも新人類であるとの見解が通説である。
「イーストユートピアにも新人類が存在したなんて…」
数分間が経過するとフィルドルクは熟睡する。睡眠してより数分後…。フィルドルクの脳裏より視界全域が白色の世界が発現されたのである。
「えっ?何だろう?」
フィルドルクは恐る恐る周囲を警戒するのだが…。周辺の景色は白色だけであり自分自身以外には何も存在しない虚無の世界である。
「摩訶不思議の世界だな…」
すると背後より…。
「フィルドルク…フィルドルク?」
「えっ?誰なの?」
フィルドルクは恐る恐る背後を直視したのである。
「えっ!?ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクの背後に存在するのは誰であろう二年前に死去した叔父…。ストレイダス本人だったのである。
「久し振りだな♪フィルドルク♪」
「叔父さん…」
「フィルドルクが元気そうで安心したよ♪」
ストレイダスは笑顔で発言する。
「如何して…ストレイダス叔父さんが?叔父さんは二年前に…」
フィルドルクは衝撃的光景に脳内が白色化したのである。
「突然だから吃驚するよな…フィルドルク…」
フィルドルクはストレイダスに近寄ると力一杯密着…。
「叔父さん!」
涙腺から涙が零れ落ちる。
「如何して…如何してストレイダス叔父さんは死んじゃったの?」
「フィルドルク…」
フィルドルクは数分間程度落涙し続ける。
「大丈夫そうだな…フィルドルク…」
泣き止むフィルドルクにストレイダスは安心する。
「甘えん坊だな♪フィルドルクは♪」
「御免なさい…叔父さん…」
フィルドルクは赤面した様子で謝罪したのである。
「当然であるが…今現在の俺は霊体の存在なのだ…」
ストレイダスは自身が霊体であると自負する。
「霊体…」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「如何して叔父さんは死んじゃったの?本当に事故で死んじゃったの?」
両親からはストレイダスの死因は不慮の事故であると説明されたのだが…。フィルドルクは如何しても納得出来なかったのである。
「今更フィルドルクに隠し事しても仕方ないからな…」
「隠し事?」
ストレイダスは一息する。
「二年前の十二月だ…」
「二年前の十二月?」
二年前の十二月の出来事である。新人類のストレイダスは特別警察での数多くの功績を評価され…。世界連合の特務機関に抜擢されたのである。全世界の主軸である世界連合も新人類の存在に興味を抱き始め…。新人類で構成された特務機関を創設したのである。特務機関の秘密エージェントとして活動するストレイダスは秘密団体…。万民解放軍と呼称される武装勢力の本拠地万民解放区に潜入したのである。潜入には成功したものの…。不運にもストレイダスは万民解放軍の警備兵に発見され拘束されたのである。ストレイダスを拘束した警備兵は皮肉にも自身と同種である新人類であり名前はウィルフィールドと名乗る。ウィルフィールドと名乗る新人類は非常に強力でありストレイダスはウィルフィールドの超能力で殺害されたのである。
「俺は諜報員として万民解放区に潜入したが…万民解放軍の本拠地でウィルフィールドって名前の新人類に拘束され…彼に殺害された…」
「えっ…ウィルフィールド?新人類…」
『やっぱりストレイダス叔父さんの死因は事故じゃなくて…ウィルフィールドって新人類に殺されたの?』
ストレイダスの死後…。世界連合は非難を回避したかったのか諜報員のストレイダスは不慮の事故として扱われたのである。フィルドルクは衝撃の事実に混乱する。
「突然だから混乱するよな…フィルドルク…」
「御免なさい…正直突然過ぎるから…」
「当然の反応だよな…」
ストレイダスは再度一息したのである。
「フィルドルク…俺は霊能力以外に未来予知も出来る…」
「未来予知って?」
フィルドルクは自身の超能力を覚醒させ未来予知も使用出来る。
「恐らくだが二日後…俺を殺害した新人類のウィルフィールドと…万民解放軍の奴等がテラトピア自由区に侵攻を開始するだろう…」
「えっ!?」
フィルドルクは驚愕したのである。
「本当に!?万民解放軍がテラトピア自由区に侵攻!?」
非現実的であり一瞬冗談かと思いきや…。
『ストレイダス叔父さんって冗談は苦手だよね…』
ストレイダスは冗談が人一倍苦手であり本当であると感じる。
「恐らくだが…隠蔽体質の世界連合は勿論…テラトピア自由区の武装警察隊も期待出来ないだろうよ…」
ストレイダスはフィルドルクを凝視し続ける。
「今現在テラトピア自由区を守護出来るのはフィルドルクだけだ…」
「えっ!?僕がテラトピア自由区を!?」
フィルドルクは再度困惑する。
「叔父さん…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力なんて何一つとして…」
現実問題…。フィルドルクは何一つとして超能力が使用出来ない。
「今現在では超能力は使用出来ないが…フィルドルクは人一倍俺の血筋を色濃く継承する一人だ…超能力が覚醒すればフィルドルクは俺を上回るかも知れない…」
ストレイダスはフィルドルクの潜在能力は自身以上であると確信する。
「如何すれば…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させられるの?」
「簡単だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力を開放出来るさ♪」
「えっ?僕は意識するだけ?」
「フィルドルクは俺の血筋を色濃く継承した存在だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力は発動出来るだろう…超能力を使用すれば使用するだけ桁外れに上達する…」
新人類は超能力を使用し続けると超能力は更なる覚醒により効力は幅広くなる。新人類の潜在的能力は実質的に未知数とされる。
「本当に…出来るのかな?僕なんかに…」
フィルドルクは自信が皆無であり潜在的能力が覚醒するのか不安だったのである。
「大丈夫だ♪フィルドルクなら出来るさ♪俺が保証する♪」
ストレイダスは笑顔で断言する。
「叔父さん…」
するとストレイダスの肉体が半透明化し始める。
「えっ!?叔父さん…肉体が半透明に…」
「如何やら霊能力は限界みたいだ…俺はもう少しで消滅する…」
「限界なの…叔父さん…」
「フィルドルク…最後だが…」
ストレイダスは笑顔で…。
「俺を超越しろよ…フィルドルク…フィルドルクなら俺を上回れる♪明日からはフィルドルクが本物のスーパーヒーローさ♪」
ストレイダスの肉体は完全に消失したのである。ストレイダスが消滅した直後…。
「ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクは目覚めたのである。
「えっ!?」
フィルドルクは自身の寝室であり室内をキョロキョロさせる。
「心霊現象だったのかな?如何して死んじゃったストレイダス叔父さんが…」
先程自身の夢路にて死去したストレイダスと再会した出来事にフィルドルクは混乱するものの…。
「僕にも…出来るのかな?ストレイダス叔父さん…」
フィルドルクは意識するだけで超能力が発動するのか試行を決意する。

第五話

超能力
本日の放課後…。フィルドルクは学園の裏庭へと移動したのである。
「ストレイダス叔父さんのアドバイスでは…意識するだけで超能力が発動するらしいけど…」
『本当に意識するだけで超能力が覚醒するのかな?』
内心…。昨日夢路にて遭遇したストレイダスの心霊現象も偶然の可能性も否定出来ず超能力は発動しないだろうと思考したのである。
「石ころだ…」
地面の石ころを自身の目前に設置させたのである。
「石ころ…浮遊するかな?」
フィルドルクは恐る恐る両目を瞑目させる。
「石ころよ…空中を浮遊しろ…」
フィルドルクは石ころに命令するのだが…。石ころは依然として浮遊しない。
「石ころは浮遊しないな…」
フィルドルクは再度命令する。
「石ころ!浮遊しろ!」
試行してより数分間が経過…。フィルドルクは必死に思念するのだが目前の石ころはピクリとも動かない。フィルドルクは苛立ち始める。
「畜生!僕には出来ないよ!」
フィルドルクは自身が超能力の才能が皆無であると落胆したのである。
「僕は全然駄目だね…やっぱり石ころは浮遊しないや…」
フィルドルクは超能力が発動せずガッカリする。
「はぁ…やっぱり僕に超能力の才能なんて無かったみたいだね…」
『死んじゃったストレイダス叔父さんの幽霊が出現する時点で可笑しかったのかも知れないね…僕の妄想だったのかな?』
夢路に出現したストレイダスは自分自身の妄想であったと判断したのである。
「仕方ない…戻ろうかな…」
フィルドルクは帰宅する寸前…。
「えっ?」
一瞬であるが背後の石ころがコロッと動いたのである。
『一瞬動いたかな?』
フィルドルクは一息する。
『石ころよ…浮遊しろ…』
恐る恐る石ころに思念したのである。数秒後…。依然として動かなかった石ころが上昇し始める。
「えっ!?石ころが浮遊した!?」
石ころは自身の目線と同程度に浮遊…。ピタッと停止する。
『現実なの!?』
フィルドルクは空中浮揚する石ころに驚愕…。
「魔法みたいだ…」
目前の光景が現実なのか理解出来なくなる。
『石ころよ…落下しろ…』
落下を思考すると石ころは一瞬で地面に落下したのである。
「超能力って本当に存在したの?僕に超能力が…」
フィルドルクは先程の超常現象が自身による念力なのか確認したくなる。フィルドルクは帰宅せず近隣に位置する閉鎖中の廃鉱へと移動したのである。
「廃鉱なら好都合だね…」
閉鎖中の廃鉱には無数の岩石やら鉄屑の残骸が確認出来…。超能力を発動するには好都合だったのである。
「今度も其処等の石ころを…」
二十センチメートルの石ころを発見…。
「石ころは校内の裏庭みたいに浮遊するかな?」
先程みたいに石ころが浮遊するのか試行したのである。
『石ころよ…浮遊しろ…』
数秒後…。石ころが容易に浮遊したのである。
「えっ…」
フィルドルクは驚愕する。
「本当に…僕に超能力が?」
今回は裏庭の石ころよりも軽量に感じられたのである。
「落下しろ…」
落下をイメージすると石ころは一瞬で地面に落下する。フィルドルクは恐る恐る背後を凝視…。
「僕に…出来るだろうか?」
フィルドルクの背後に存在するのは先程の石ころより大サイズの岩石である。直径一メートルサイズであり念力で粉砕出来るか思考する。
「此奴を…念力だけで粉砕出来るかな?」
直径一メートルサイズの岩石に思念したのである。
『岩石よ…』
フィルドルクは必死に思念するのだが…。
「砕け散れ!」
岩石は非常に硬質であり容易には粉砕出来ない。
「ビクともしないな…やっぱり岩石を粉砕するのは困難だね…」
困難であると感じるものの…。
「今度こそ…」
フィルドルクは再チャレンジする。
「岩石よ…粉砕しろ!」
先程よりも根強く思念したのである。
「砕け散れ!」
すると数秒後…。岩石の表面よりピキッと罅割れが発生する。
「表面が罅割れた!?」
『今度こそ出来るかも!』
再度思念したのである。
『岩石よ…砕け散れ!』
数十秒間が経過…。直後である。頑強の岩石がバリッと粉砕され…。周囲に砕け散ったのである。岩石の破片が其処等に散乱する。
「はぁ…はぁ…手出しせずに岩石を粉砕出来たぞ♪」
フィルドルクは大喜びしたのである。目標を達成出来たものの…。フィルドルクは極度の疲労により地面に横たわる。
「念力だけで…こんなにも疲れが蓄積されるなんて…」
フィルドルクは体力の消耗に身動き出来なくなる。
『眠たいな…』
直前…。
「貴方…大丈夫かしら?」
「えっ…誰なの?」
最近知り合った女子学生のメロティスが地面に横たわった状態のフィルドルクに恐る恐る近寄る。
「メロティスさん?」
「フィルドルク…動かないでね…」
「えっ?」
メロティスはフィルドルクの腹部に接触したかと思いきや…。消耗した体力が蓄積されたのである。
「一安心だわ…」
メロティスはホッとする。
「感謝するよ♪メロティスさん♪体力が戻ったよ♪ひょっとしてメロティスさんの魔法なの?」
「無論ね…」
メロティスは体力の消耗したフィルドルクに回復魔法を使用したのである。フィルドルクはメロティスの回復魔法により体力が回復する。するとメロティスは笑顔で…。
「貴方…超能力の覚醒に成功したのね♪見事だったわ♪」
「えっ?メロティスさん…ひょっとして観察したの?」
「勿論よ♪放課後からね♪」
メロティスは笑顔で即答する。
「えっ…はぁ…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。
「フィルドルクは本当にサイコキネシス…超能力を覚醒させたのね♪貴方は正真正銘新人類だったのよ♪」
「僕が新人類…」
『ストレイダス叔父さんの遺言は事実だったのか…』
内心自身が新人類だった事実にフィルドルクは嬉しくなる。
「メロティスさん?」
「何かしら?フィルドルク?」
フィルドルクは深夜の夢路での出来事をメロティスに洗い浚い告白する。
「貴方は夢路で故人の叔父さんと遭遇したのね…」
「叔父さんの未来予知は本当なのかな?」
「本当でしょうね…私も千里眼で海辺を眺望するのだけど…」
メロティスは時たま大海原を眺望するのだが…。二日前に武装した小型船を数隻目撃したのである。不審の小型船は即座に撤収したものの…。メロティスは気味悪くなる。
「私は胸騒ぎを感じるのよ…ひょっとすると近日中に大事件が発生するかも知れないわね…」
メロティスは非常に不安視する。
『メロティスさん…』
彼自身自信は皆無であったものの…。
「メロティスさんは僕が守護するよ♪」
笑顔で断言する。
「フィルドルク…」
フィルドルクの発言にメロティスは一瞬赤面したのである。
『叔父さんを殺した新人類…ウィルフィールドにも対面したいし…』
数分後…。二人は各自の自宅へと戻ったのである。

第六話

開戦
翌日の早朝…。六時三十分未明である。本拠地の万民解放区より万民解放軍の艦隊が出撃を開始する。旗艦は巨大戦艦一隻と二隻の大型輸送艦が同行したのである。旗艦の巨大戦艦には新人類のウィルフィールドが乗艦する。
「ウィルフィールド大佐♪貴方の活躍を期待しますよ♪」
ブリッジにて艦長が笑顔で発言したのである。
「活躍するも何も…こんな単調の任務で活躍出来なければ全世界を制覇するのは夢物語だ…」
「〔ヘビーエンプレス〕の威力をテラトピア自由区の人民に知らしめる絶好機です♪」
超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスは第三次列国大戦で大活躍した超弩級ミサイル艦であり万民解放軍の旗艦である。将兵達からは難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金エターナルメタルが駆使され…。エターナルメタルの重厚装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない鉄壁の強度である。多数の多目的ミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射出来る電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には一機の大型輸送機か偵察用の無人機を二機搭載出来る。
「俺が超能力を発揮すればヘビーエンプレスの出番は無くなるな…」
航行してより三十分後の七時…。一隻の小型船と遭遇したのである。
「所属不明の小型船を発見しました!」
通信兵が報告する。
「所属不明の小型船だと?であればホログラム装置で確認しろ…」
ヘビーエンプレスには最新式のホログラム装置が搭載されたのである。装置の上部には立体化された海面上と一隻の小型船の立体映像が映写される。
「此奴はテラトピア自由区の警備艇か…大艦隊である俺達を相手に絶望的だな…」
ウィルフィールドが発言する。
「ウィルフィールド大佐…対艦ミサイルで攻撃しますかね?」
艦長はウィルフィールドに問い掛ける。
「折角の挨拶だ…手始めに攻撃しろ…」
「承知しました…」
艦長はウィルフィールドの指示に承知すると乗組員達に攻撃を命令する。
「警備艇を攻撃…撃沈せよ…」
「はっ!」
乗組員達は即座に行動を開始したのである。
『開戦だ…旧人類同士潰し合うのだな♪』
ウィルフィールドは周囲に失笑する。同時刻…。警備艇の船内では所属不明の大艦隊に騒然とする。
「大型艦艇が三隻も!?演習なのか?」
警備艇の乗組員達は所属不明の大艦隊に警戒したのである。すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「中央の大型船は恐らく…第三次列国大戦で活躍したヘビーエンプレスだろうか…」
「ヘビーエンプレスですと?」
「世界連合に敵対した新枢軸勢力が使用した超大型船舶だ…こんな辺境の海域で遭遇するとは…」
「であれば所属不明の大艦隊は新枢軸勢力の残党なのか!?」
「新枢軸の残党勢力が出現するとは…一体何が目的なのか?」
「何はともあれ相手が相手だ…俺達だけでは対処出来ない…即刻政府と世界連合に報告しろ!世界連合に援軍を要請し次第…海域を撤退するぞ!」
乗組員達は即座に政府と世界連合に事態を報告したのである。数秒後…。
「ヘビーエンプレスから対艦ミサイルが多数発射されました!」
ヘビーエンプレスより十数発もの対艦ミサイルが発射されたのである。
「対艦ミサイルを迎撃しろ!」
警備艇は即座に対空砲で対艦ミサイルの迎撃を開始する。四発の対艦ミサイルの迎撃には成功するのだが…。一発の対艦ミサイルが警備艇の甲板に直撃したのである。直後…。弾薬庫に引火すると警備艇は乗組員諸共轟沈したのである。一方ヘビーエンプレスの艦内ではウィルフィールドが双眼鏡で確認する。
「他愛無いな…俺達はテラトピア自由区に直進するぞ…」
万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区を目標に直進したのである。一方警備艇からの報告によりテラトピア自由区政府と世界連合は突然の事態に混乱する。

第七話

高速道路
午前七時…。テラトピア自由区では警戒警報が発令されたのである。突然の警報に国内は混乱し始める。フィルドルクも突然の警報に吃驚…。飛び起きたのである。
「えっ!?何が!?」
『ひょっとして警戒警報?』
フィルドルクは万民解放軍の襲来であると察知する。
『万民解放軍だな…叔父さんの予言は本当だったね…』
ストレイダスの未来予知に驚愕したのである。一方外部では突然の緊急事態に各勤務地は勿論…。各学園も一時的に休校されたのである。一部の学生は学園の休校で大喜びするものの…。数多くの者達が緊急事態に不安視する。すると突如として自室に設置された携帯型ホログラム装置が鳴動したのである。
「うわっ!吃驚した…」
フィルドルクは携帯型ホログラム装置を作動させる。
「フィルドルク?」
ホログラム装置はメロティスの姿形を映写させたのである。
「メロティスさん?」
「こんな朝っぱらから突然御免なさいね…」
「大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
メロティスは謝罪するのだがフィルドルクは笑顔で返答する。
「やっぱり貴方の叔父さんの予言は本当だったわね…」
「本当だね…正直僕も吃驚したよ…」
「避難所で合流しましょうね…フィルドルク…」
直後に携帯用のホログラム装置が停止したのである。すると自室のドアにて父親が入室する。
「フィルドルク?」
「父さん?」
「フィルドルク…準備が出来次第避難所に移動するぞ…」
「避難所?」
政府から避難指示が発令されたのである。
「オーケー!父さん!」
フィルドルクは準備を開始する。準備を開始してより数分後…。準備が終了するとフィルドルクは父親と母親との三人で外出したのである。
「如何して突然こんな事態に…」
母親は予想外の出来事にビクビクする。
「俺にも何が何やらサッパリだが…俺達は避難所に移動して命拾いするぞ…」
三人は自家用車で避難所へと移動するのだが…。高速道路の道路上は渋滞であり直進したくても直進出来ない。
「渋滞か…畜生…」
自家用車を運転する父親は非常に苛立った様子である。
「全然走行出来ないわね…」
「こんな状態では避難所には当分移動出来ないね…如何する?」
今現在では各地の車道が渋滞であり乗用車は走行出来ない。周囲の様子を直視すると乗用車を放棄…。大勢の歩行者が高速の車道を徒歩で通行したのである。
「仕方ないな…俺達も歩くぞ…」
「止むを得ないわね…」
三人は止むを得ず乗用車を放棄…。周囲の歩行者達と同様に徒歩で高速道路を通行したのである。
「私達は避難所に到達出来るのかしら?」
母親が不安視する。
「避難所に到達出来るかは断言出来ないが…何も行動しないよりは…」
一方フィルドルクは沈黙した様子で両親を凝視したのである。
『父さんも母さんも不安みたいだな…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させて…父さんと母さんを安心させたいな…』
フィルドルクと両親が高速道路を移動する同時刻…。魔女のメロティスは自宅の地下壕にて両親と三人で潜伏する。
「パパ?ママ?如何して避難所に移動しないのよ?私達も避難所に移動しましょうよ…こんな場所に待機し続けても…」
メロティスは不満そうな表情で両親に問い掛ける。
「避難所に移動するのは危険だ…移動中に攻撃されたら如何する?何が発生しても可笑しくない状況下だぞ…」
父親は避難所への移動を拒否する。
「俺は十五年前の大戦で大勢の避難民達が空爆で殺された瞬間を間近で目撃したからな…俺の兄貴も避難所に移動したばかりに…」
メロティスの父親は第三次列国大戦で避難所に移動中…。最愛の実兄が空爆で死亡したのである。
「パパ…」
父親の思考も理解出来るのだが…。
『私はフィルドルクと合流したいのに…』
彼女は自身の無力さを痛感する。

第八話

空爆
三十分後…。万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区の海域へと到達する。二隻の大型輸送艦の飛行甲板より多数の爆撃用ドローンが出撃…。数分間でテラトピア自由区領空へと飛来したのである。テラトピア武装警察隊の航空部隊が迎撃を開始するものの…。万民解放軍のドローン兵器は非常に高性能であり航空部隊は圧倒されたのである。各地で空爆が開始される。高速道路からでも空爆の様子が直視出来…。歩行者達は恐怖したのである。フィルドルク自身は比較的冷静であったものの…。両親は大戦のトラウマからか膠着したのである。すると一機の攻撃用ドローンが高速道路上空に急接近…。低空飛行にて逃亡中の歩行者達に対人射撃を仕掛ける。十数人が死傷する。今度はフィルドルクの両親を標的に攻撃を仕掛けるのだが…。
「父さんと母さんには手出しさせないよ!」
フィルドルクは低空飛行の攻撃用ドローンにサイコキネシスを発動する。
「墜落しろ!」
射撃寸前に攻撃用ドローンはフィルドルクのサイコキネシスにより空中分解したのである。フィルドルクの超能力を間近で目撃した父親は驚愕する。
「フィルドルク…超能力を…現実なのか?」
父親はフィルドルクのサイコキネシスに絶句するのだが…。
「貴方…覚醒したのね…」
母親は実弟のストレイダスを連想したのか冷静だったのである。
「母さん…父さん…僕はね…」
フィルドルクは最近超能力が開花した事実は勿論…。夢路にて故人のストレイダスと対面した出来事を一部始終両親に告白したのである。
「フィルドルクは夢路でストレイダスの霊体と接触したのね…ストレイダスは未来予知の内容を貴方に…」
母親は非常に納得した様子であったが…。
「死者との会話なんて…荒唐無稽の漫画みたいな出来事だな…」
父親は珍紛漢紛だったのである。
「納得出来なくて当然だよ…父さん…」
「俺は常人だから理解するには時間が必要不可欠だけど…内容は荒唐無稽だが超能力は本当に存在するのだな…」
正直理解するには程遠いが…。父親はフィルドルクの告白を闇雲に否定せず信用したのである。
「先程の内容が事実であれば…俺達が想像する以上に今回は相当の一大事だな…」
「貴方は如何するの?フィルドルク?」
「僕は…叔父さんの…ストレイダス叔父さんの継承者として万民解放軍を全身全霊で阻止するよ…」
「フィルドルク一人で…」
「フィルドルク…貴方は本気なのね?」
「勿論だよ…父さん…母さん…」
両親の意向としては当然猛反対であったが…。フィルドルクの表情から本気であると察知する。
「危なくなったら絶対に戻りなさいよ…フィルドルク…絶対に死なないでよ…」
「精一杯頑張れよ…フィルドルク…無事に戻れよ…」
「僕は絶対に死なないからね!」
フィルドルクは移動を開始したのである。

第九話

野望
ドローン兵器による空爆開始から十数分後…。テラトピア武装警察隊は疲弊状態であり万民解放軍は陸上部隊による上陸作戦を開始したのである。二隻の大型輸送艦からは合計十二隻もの上陸用舟艇が出撃…。主力戦車を中心とした上陸部隊がテラトピア自由区へと上陸したのである。旗艦ヘビーエンプレスのブリッジからウィルフィールドが上陸作戦の様子を眺望する。
「今回は俺も参戦するか…」
「大佐も上陸作戦に参加されるのですか!?」
「当然だ…」
周囲の乗組員達は愕然としたのである。
「無茶では…」
周囲の者達は無茶であると感じるものの…。
「私を仕留められる常人は存在しない…貴様達は私の実力を直視するのだな…」
ウィルフィールドは外部へと移動すると甲板にて佇立する。
「はっ!」
ウィルフィールドはサイコキネシスにより自身の肉体を浮遊させたのである。
「えっ…大佐が空中を!?」
「大佐は一体何者!?空中を飛行するなんて…幻覚だろうか?」
空中を浮遊するウィルフィールドにブリッジの乗組員達は驚愕する。一方のウィルフィールドはサイコキネシスで空中を飛行…。数分後に港内へと着地したのである。
「ん?」
『何やら…彼奴に匹敵する効力を感じるな…一体何者だろうか?』
正体こそ不明であるものの…。ウィルフィールドは気配を察知したのである。一方周囲では銃撃戦が展開されるのだが…。ウィルフィールドは無関心だったのである。
「貴様は敵部隊の指揮官か!?覚悟しろ!」
狙撃兵がウィルフィールドを標的に銃弾を発砲する。発砲された銃弾はウィルフィールドの発動したサイコキネシスにより寸前で急停止…。
「なっ!?銃弾が…」
サイコキネシスによって空中浮揚する銃弾に狙撃兵は驚愕する。一方のウィルフィールドは余裕の様子で…。
「鬱陶しい…」
発砲された銃弾はサイコキネシスの発動で狙撃兵に直撃したのである。
「ぐっ!」
銃弾の直撃により狙撃兵は地面に横たわる。
『ん?』
三人の敵兵が各ビルの屋上よりウィルフィールドを標的に設定する。
『敵軍の狙撃兵が三人か…』
ウィルフィールドは逸早く敵兵の気配を察知…。
「焼死しろ…」
発火能力であるパイロキネシスを発動する。各ビルの狙撃兵は突然の発火によって焼死したのである。すると今度は目前より…。
「今度の相手は重戦車か…俺に対抗するには力不足だな…」
重戦車はウィルフィールドを標的に戦車砲で砲撃したのである。
『こんな程度の攻撃で…』
ウィルフィールドはエレクトロキネシスで電撃のシールドを形成させる。砲弾はシールドの表面に接触すると爆散…。砲撃の無力化に成功したのである。
「今度は俺が反撃する…」
ウィルフィールドはサイコキネシスを発動すると敵軍の重戦車をペシャンコにスクラップ化させる。
「他愛無いな…敵軍の防衛ラインは容易に突破出来そうだな…」
『ん!?』
ウィルフィールドは気配の正体が気になり極度の胸騒ぎを感じる。
『気配の正体は…一体何者だろうか?新人類か?』
同時刻…。フィルドルクは銃声を目印に港内へと移動したのである。
『胸騒ぎかな?気配を感じる…一体何者なの?』
フィルドルクもウィルフィールドと同様に気配を察知…。極度の胸騒ぎを感じる。数分後…。フィルドルクは万民解放軍の上陸地点である港湾へと到達したのである。港湾には敵味方の将兵達の遺体が彼方此方に確認出来…。地獄絵同然だったのである。
「戦争の光景…」
想像以上の惨劇にフィルドルクは気味悪くなる。
『父さんと母さんは僕が誕生する以前にこんな惨劇を経験したのかな…』
するとフィルドルクは十五人の敵兵に包囲されたのである。
「貴様は民間人の学生か?こんな場所に一人で参上するとは其処等の凡人達よりは勇敢だが…場違いだな…」
「少年…死にたくなければ大人しく拘束されるのだな…」
フィルドルクは催眠を意識する。
『熟睡しろ…』
数秒間が経過すると周囲の兵士達はサイコキネシスの応用により地面に横たわり…。熟睡したのである。
「兵士達を殺さずに無力化出来たな…」
フィルドルクはホッとする。すると直後…。
「不殺で兵士達を無力化するとは…見事だな…少年…」
「えっ?誰なの?」
突如としてフィルドルクの目前より背広姿の男性が近寄る。
「少年よ…貴様の正体は新人類だな…」
男性は一目でフィルドルクが新人類であると洞察したのである。
「如何して貴方は僕を新人類だって…貴方は一体何者ですか?」
フィルドルクは恐る恐る男性に問い掛ける。
「俺の名前はウィルフィールド…俺も少年と同様に新人類の一人さ…」
ウィルフィールドは自身を新人類の一人と自負する。
「新人類…」
するとウィルフィールドはフィルドルクの両目を直視…。
「少年は彼奴に近似するな…俺が殺害した彼奴に…」
「彼奴って?誰ですか?」
「ストレイダスと名乗る新人類に…」
ストレイダスの名前にフィルドルクはピクッと反応する。
「ストレイダスって…貴方が…ストレイダス叔父さんを…」
「叔父さん?ストレイダスは貴様の叔父だったのか…」
ウィルフィールドは納得したのである。
「やっぱり貴方が叔父さんを殺害した張本人だったのですね?」
ウィルフィールドは身震いし始める。
「如何して貴方は叔父さんを殺害したのですか!?」
普段は温厚の性格であるフィルドルクであるが…。今回ばかりは非常に感情的だったのである。
「私がストレイダスを殺害した理由か…私は二年前に万民解放区に潜入した彼奴を新人類の仲間として勧誘したのだが…」
二年前…。諜報員として万民解放区に潜入したストレイダスは不運にも万民解放軍の偵察部隊と遭遇したのである。自身の超能力で偵察部隊を圧倒するもウィルフィールドが介入…。ウィルフィールドの介入によりストレイダスは拘束されたのである。ウィルフィールドは自身の野望にストレイダスに協力を一方的に要求するのだが…。
「俺は彼奴に腐敗した世界連合は勿論…世界連合を牛耳る〔ソロポスト共和国〕の滅亡に協力しないかと要求したのだが…ストレイダスは俺の要求に拒否した…彼奴も俺と境遇は一緒だろうに…」
僅少であるがウィルフィールドは感情的だったのである。
「如何してウィルフィールドは世界連合と貴方の祖国であるソロポスト共和国を滅亡させたいのですか?」
フィルドルクが恐る恐る問い掛ける。
「ソロポスト共和国は俺の祖国だったが…」
ソロポスト共和国は超大国であり今現在全世界の覇権国家である。ウィルフィールドはソロポスト共和国出身者であったが…。ソロポスト共和国は正真正銘の差別大国であり当然として新人類も差別の対象だったのである。
「差別…」
「俺は新人類としての性質上…身内の奴等からも差別されたのだ…」
「貴方は身内からも…」
フィルドルクはウィルフィールドの境遇に絶句する。
『ストレイダス叔父さんも…母さん以外の人間達に…』
ストレイダスもフィルドルクの母親以外の人間達から差別され…。数多くの者達から迫害されたのである。フィルドルクは返答出来ず沈黙する。
「俺は祖国を見限り…本来なら敵国である万民解放軍に寝返ったのだ…」
ウィルフィールドが万民解放軍に協力するのは世界連合と同組織を牛耳るソロポスト共和国の滅亡である。
「俺としても正直…ストレイダスは死なせたくなかった…新人類の同志として彼奴と一緒に腐敗した旧世界を改善させたかったのに…非常に残念だ…」
拘束されたストレイダスであるが…。ウィルフィールドの協力には拒否したのである。
「ストレイダスは何を血迷ったか…愚劣なる旧人類が支配し続けるこんな腐敗した世界を守護しても無意味だろうに…何故ストレイダスは奴等に協力するのか俺には理解出来ない…彼奴も迫害されただろうに…」
するとフィルドルクは恐る恐る…。
「貴方の目的は…新人類が差別されない世界の構築ですか?」
フィルドルクの問い掛けにウィルフィールドは嬉しそうな表情で返答する。
「勿論だとも♪主目的を達成するには数多くの犠牲が必要不可欠だが…」
ウィルフィールドはフィルドルクに名前を問い掛ける。
「少年よ…貴様の名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクです…」
「フィルドルクか…」
ウィルフィールドは一瞬瞑目する。
「フィルドルクよ…新人類の一人として俺に協力しろ…」
「はっ?」
フィルドルクはウィルフィールドの予想外の発言に拍子抜けしたのである。
「誰が貴方に協力なんて…」
フィルドルクは拒否する。
「貴方は過去に大勢の人間達から迫害されたのかも知れませんが…僕にとって貴方は悪人です!叔父さんを殺害した張本人と協力なんて僕には出来ません…」
「当然の返答だよな…突然見ず知らずの人間から協力を要請されても拒否するのは当然の返答だ…」
「貴方は一体何を?」
するとウィルフィールドは上空を眺望したのである。
「此処からだと確認出来ないが…」
「えっ?上空?」
「テラトピア自由区の成層圏上空には万民解放軍の衛星兵器…〔リバースキャノン〕が存在する…」
「リバースキャノン?」
リバースキャノンとは万民解放軍が開発した試作型光学衛星兵器…。戦略兵器である。高出力の高エネルギーを成層圏上空から発射出来…。大都市部を一撃で焦土化させる威力とされる。第三次列国大戦にて万民解放軍が開発した戦略兵器であるが完成直前に終戦…。第三次列国大戦では使用されなかったのである。
「少なくとも首都はリバースキャノンの一撃で焦土化するだろうよ…」
「首都が一撃で…」
フィルドルクは戦慄したのである。
「如何する?俺に協力すればリバースキャノンの発射を中止するし…上陸部隊を撤退させるぞ…フィルドルクにとって苦渋の選択だ…」
「えっ…苦渋の選択…」
ウィルフィールドの発言にフィルドルクは反応する。
「貴様の選択によってテラトピア自由区の運命が決定される…」
「貴方の…目的は?」
フィルドルクは警戒した様子で恐る恐るウィルフィールドに問い掛ける。
「俺の目的は世界各地に存命する新人類が迫害されない新世界の構築だ…」
「新人類が迫害されない新世界?」
「俺の目的に協力すればフィルドルクの家族は勿論…友人も命拾い出来るぞ…貴様は実質テラトピア自由区の英雄として崇拝されるだろう…」
「僕には…」
一息したのである。
「やっぱり貴方には賛同出来ません…」
フィルドルクは再度拒否する。
「如何しても拒否するか?フィルドルク…貴様の選択によって大勢の人間達が抹消されるのだぞ…貴様は極悪非道の悪魔だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクを極悪非道の悪魔であると指弾したのである。
「俺が悪魔だと?貴様には失望したよ…フィルドルク…」
ウィルフィールドは無表情であるが…。内心ではガッカリしたのである。
「仕方ない…であれば実力行使だ…」
「実力行使って?」
ウィルフィールドは両手より電撃を発動したのである。
「うわっ!ぎゃっ!」
フィルドルクはウィルフィールドのエレクトロキネシスにより全身が麻痺する。エレクトロキネシスは本来拷問として使用される超能力である。
「非常に残念だよ…フィルドルク…貴様も俺に拒否するとは…」
『所詮は愚か者達だ…フィルドルクもストレイダスも…俺達は新人類同士…未来永劫仲良く共闘出来たのに…』
ウィルフィールドは新人類として彼等と仲良くしたかったのだが…。フィルドルクの拒否によって自身の目的は達成出来ないと自覚する。一方のフィルドルクは身動き出来ず…。涙腺より涙が零れ落ちる。
『ストレイダス叔父さん…僕は如何すれば?結局僕は…ウィルフィールドに殺されちゃうのかな?』
最期を覚悟したフィルドルクであるが…。
『フィルドルク…』
『えっ?』
フィルドルクの脳裏よりストレイダスの霊体が出現する。
『叔父さん?』
『思う存分に反撃しろ…フィルドルク♪フィルドルクなら出来るさ…』
『叔父さん…僕は…』
フィルドルクは覚悟したのである。
「ぐっ!」
フィルドルクはウィルフィールドの電撃エネルギーを体内に吸収し始める。
「ん!?」
『フィルドルクは…俺の電撃を吸収するとは…』
冷静だったウィルフィールドも自身の電撃エネルギーを吸収し始めたフィルドルクには愕然とする。
『此奴…短期間でこんなにも超能力が開花するとは…』
故人のストレイダスは勿論…。自身をも上回ると予想する。一方のフィルドルクは吸収した電撃エネルギーを球体に形作る。
「はっ!」
「なっ!?」
ウィルフィールドは咄嗟にエレクトロキネシスで鉄壁のエネルギーシールドを形成…。間一髪電撃エネルギーの無力化に成功したのである。
「シールド?」
「はぁ…はぁ…一歩間違えれば俺がヤバかったな…」
ウィルフィールドはフィルドルクの覚醒に冷や冷やする。フィルドルクは先程の電撃により負傷した傷口が治癒したのである。
「フィルドルクは治癒効果も開花するとは…貴様の潜在的能力は俺の予想以上だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクが末恐ろしくなる。一方のフィルドルクは無表情でウィルフィールドに近寄る。
「俺と勝負するか?フィルドルク…」
「貴方は叔父さんを殺害した張本人だけど…僕は貴方を殺害したくない…」
フィルドルクからは殺意は感じられない。
「俺は最愛の人間を殺した張本人なのに…殺害したくないとは…フィルドルクは余程の聖人なのだな…」
「如何にか部隊を撤退させて下さい…」
フィルドルクはウィルフィールドに懇願する。フィルドルクの懇願にウィルフィールドは沈黙したのである。すると直後…。近辺より爆発音が響き渡る。
「えっ!?一体何が!?爆発音!?」
「ん?何事だ?」
爆発音が響き渡ったのは湾内だったのである。湾内の中心部には大型輸送艦が爆散…。一瞬で轟沈する。
「畜生が…味方の大型輸送艦が敵軍の猛反撃で撃沈されるとは…」
テラトピア武装警察隊の猛反撃により万民解放軍の大型輸送艦一隻が撃沈されたのである。ウィルフィールドは不本意であるが…。
「止むを得ないな…こんな場所で貴様みたいな新人類を殺害するのは非常に勿体無いからな…」
「えっ…」
一瞬ウィルフィールドの返答に拍子抜けしたのである。
「作戦中の部隊を撤退させる…当然としてリバースキャノンの発射も中止する…」
ウィルフィールドはフィルドルクの懇願に承諾…。作戦中止を決定したのである。
「貴様の成長は見物だな♪フィルドルク…」
『今度再会出来たら…フィルドルクと共闘したいな…』
今度はフィルドルクを仲間に勧誘…。共闘出来たらと思考する。ウィルフィールドは携帯式のホログラム装置を作動させ作戦の中止を全軍に伝播させたのである。作戦中止から数時間が経過…。万民解放軍の撤退により一連の事件は終焉する。同事件はテラトピア大事変と命名されたのである。

最終話

屋上
テラトピア大事変から一週間後…。世界連合の協力により国内の復興作業が開始される。テラトピア大事変終結から二週間が経過…。世界連合軍による報復作戦が開始され万民解放区は占拠されたのである。両軍の死闘により十数万人もの将兵達が死傷するが…。武装は解除され本土に配備された艦艇やら多数のドローン兵器は接収されたのである。作戦終了後…。万民解放軍の首謀者ウィルフィールドの行方は不明であり今現在でも行方は捜索されるのだが依然として発見されない。半年後の十月上旬…。
「はぁ…」
フィルドルクは休憩時間に学園の屋上にて上空を眺望する。
『ウィルフィールドって軍人さん…行方不明なのかな…』
フィルドルクはウィルフィールドの行方が気になったのである。するとフィルドルクの隣接より…。
「フィルドルク♪」
「えっ!?メロティスさん!?」
メロティスは笑顔でフィルドルクを直視したのである。
「ニュース番組ではテラトピア武装警察隊が悪者達を撃退したって報道したけどさ…実際は貴方の大活躍なのよね?」
「えっ…」
メロティスに問い掛けられるとフィルドルクは返答に困惑する。
「僕は…別に…」
フィルドルクは表情が微妙だったのである。するとメロティスは笑顔で…。
「今現在の貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
「えっ?」
メロティスのスーパーヒーローの一言に反応する。
「貴方が奮闘したからこそテラトピア自由区は奴等に占領されなかったのよ♪正真正銘貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは僅少であるが微笑したのである。
「メロティスさん♪僕がスーパーヒーローか…」
するとメロティスは赤面した表情で…。
「今度の休日だけど…私と一緒に遊ばない?」
「えっ…メラティスさんと?」
彼女の発言にフィルドルクはドキドキし始める。
『えっ…ひょっとして…メロティスさんとデートとか!?僕が!?』
フィルドルクもドキドキしたのか赤面したのである。
「こんな僕で…大丈夫なの?メロティスさん?」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「貴方だからなの♪人外同士♪私は今後も貴方と交流したいのよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは大喜びする。
「僕こそ♪」
フィルドルクは満面の笑顔で返答したのである。
「メロティスさんは何したいの?」
「私は映画かな♪映画は映画でもホラー映画とか♪」
「ホラー映画ね♪」
フィルドルクは笑顔で返答するのだが…。
『ホラー映画って…メロティスさんらしい趣味だな…』
メロティスの趣味に内心苦笑いしたのである。苦笑いのフィルドルクであるが…。
『ストレイダス叔父さん…こんな僕にも…彼女が出来たよ♪』
極度の嬉しさからかフィルドルクは涙腺より涙が零れ落ちる。
完結
メンテ

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桜花姫 ( No.11 )
日時: 2021/08/14 22:03
名前: 月影桜花姫

第八話

反撃

同時刻…。北方国のとある山道では旅先にて蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫が食人餓鬼の大群に追尾されたのである。
「ぐっ!」
「蛇骨鬼婆ちゃん!大丈夫!?」
蛇骨鬼は北方国の山奥にて食人餓鬼の大群から逃走中…。極度の腰痛により身動き出来なくなる。獣道にて蛇骨鬼は横たわる。
「畜生…」
(こんな状況下で腰痛なんて…)
すると彼女達の背後より無数の食人餓鬼が急接近したのである。
(私の命日かね…)
「本日で神族も全滅かも知れないね…」
蛇骨鬼は覚悟する。すると小猫姫は無表情で…。
「蛇骨鬼婆ちゃん…私…」
「小猫姫?」
小猫姫の体内より強大化した妖力を感じる。
「小猫姫!?」
(小猫姫から妖力を感じる…)
小猫姫の皮膚から蛍光色の秘められた妖力が表面化する。
「小柄の小猫姫に…こんなにも潜在的妖力が…」
(ひょっとすると小猫姫は妖力だけなら幼少期の桜花姫ちゃんに匹敵するかも知れないね…)
蛇骨鬼は小猫姫の潜在的妖力に驚愕したのである。すると小柄の小猫姫は肉体が変化するなり…。伝説の妖獣へと変化したのである。
「ひょっとして伝説の…妖獣!?」
(子供の小猫姫が…伝説の妖獣に変化出来るなんて…)
小猫姫の潜在能力に蛇骨鬼は勿論…。悪霊の食人餓鬼でさえも伝説の妖獣へと変化した小猫姫を直視するなり一瞬後退りしたのである。
「あんた達!蛇骨鬼婆ちゃんには…手出しさせないからね!覚悟しなよ!」
伝説の妖獣に変化した小猫姫は食人餓鬼の大群へと突進…。真正面に位置する数体の食人餓鬼を撃退する。極度に腐敗した食人餓鬼の肉体は非常に脆弱であり伝説の妖獣に変化した小猫姫が力一杯突進すると容易に粉砕されたのである。食人餓鬼の大群が再度小猫姫に殺到するものの…。小猫姫は口先を開口すると体内の妖力を凝縮させる。すると直後…。口先から高熱の雷球を射出したのである。高熱の雷球により獣道は焦土化…。一瞬で食人餓鬼の大群を消滅させ獣道の推定二町の界隈が焦土化したのである。圧倒的妖力により食人餓鬼の大群を消滅させた小猫姫であるが…。莫大なる妖力の消耗により小猫姫は元通りの姿形に戻ったのである。
「はぁ…はぁ…」
彼女は精神的にも肉体的にも疲弊したのか地面に横たわる。
「小猫姫!?大丈夫かい!?」
すると小猫姫は疲れ果てた表情で返答する。
「蛇骨鬼婆ちゃん…私なら大丈夫だよ…疲れ果てただけだから…」
「小猫姫…」
小猫姫の様子に蛇骨鬼は一安心したのである。
「桜花姫姉ちゃんは…大丈夫かな?」
彼女は桜花姫が大丈夫なのか非常に気になる。
「桜花姫ちゃんなら小猫姫が心配しなくても大丈夫だよ♪桜花姫ちゃんの場合妖女は妖女でも最上級の妖女だからね♪彼女の妖力は其処等の妖女とは別格だよ…」
蛇骨鬼は笑顔で断言する。
「桜花姫姉ちゃんなら…大丈夫だよね♪」
「桜花姫ちゃん…彼女なら今頃は…」
同時刻…。桜花姫と三蔵郎は無事に西方国へと到達する。
「如何やら西方国に到達したみたいですね♪桜花姫様の祖国ですか?」
「勿論よ♪無事に西方国に戻れたから一安心だわ…」
時間帯は真夜中であり物静かな暗闇の夜空を眺望すると桜花姫と三蔵郎は一安心したのである。
「夜空だわ…」
桜花姫は物静かな夜空を眺望したのである。すると三蔵郎が笑顔で…。
「田舎村の西方国へは食人餓鬼の襲撃は皆無だったみたいですね♪桜花姫様の祖国が無事なので一安心ですよ♪」
「油断大敵だけれどね…西方国は正真正銘武陵桃源だったみたいだわ…」
過疎地である西方国は総人口も比較的少人数であり神出鬼没の食人餓鬼の大群も襲撃しなかったのである。桜花姫と三蔵郎は桜花姫の自宅の近辺に隣接する天霊山へと直行する。
「目的地の天霊山よ…」
「天霊山とは…こんなにも低山だったのですね…」
三蔵郎は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「ですが天霊山の露天風呂なんかで…消耗された妖力を回復させられるのですか?」
「天霊山の露天風呂は私達妖女にとって極楽浄土だからね♪天霊山の露天風呂なら消耗しちゃった妖力だって回復させられるわ♪」
天霊山は非常に物静かであるが桜花姫は極度に周囲を警戒…。恐る恐る天霊山の天辺へと到達したのである。天霊山の天辺中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「天霊山の露天風呂…本物の幻想郷みたいですね♪」
「天霊山は神秘の場所よ♪私にとって天霊山の露天風呂で入浴するのが毎晩の醍醐味だからね♪」
桜花姫は毎晩天霊山の露天風呂で入浴する。
「自然界での入浴とは非常に健康的ですからね♪」
すると彼女は人前であるものの…。特段気にならなかった様子であり突如として着物を脱衣したのである。
「なっ!?桜花姫様!?」
三蔵郎は公明正大に着物を脱衣する桜花姫に驚愕する。
「何かしら?三蔵郎様…」
桜花姫は無表情で返答したのである。
「桜花姫様…人前で何を!?」
彼女は平気そうな表情で…。
「何って…入浴するから着物を脱衣しただけよ…」
桜花姫は全裸の状態であり三蔵郎の表情が赤面する。すると赤面した三蔵郎の反応に桜花姫は笑顔で…。
「三蔵郎様は大袈裟ね♪」
桜花姫は赤面する三蔵郎の様子に微笑ましくなる。
(生真面目の三蔵郎様も悩殺しちゃったわね♪)
三蔵郎は人前で脱衣しても平常心である桜花姫に愕然とする。
「私にとって三蔵郎様は特別だから大丈夫なのよ♪別に全裸だからって私は気にしないから…」
「気にしないって…桜花姫様は正真正銘女性なのですよ…」
桜花姫は全裸の状態であろうとも平常心の様子である。
「私自身全裸でも気にならないのよね♪人前で全裸だからって何よ?三蔵郎様は大袈裟ね♪」
「妖女とは…」
(妖女って私達人間とは感覚が別次元なのでしょうね…)
三蔵郎は摩訶不思議の妖女が人間とは異質的であると再認識する。
「変化の儀式を発動するわよ…」
「変化の儀式ですと?」
すると桜花姫の全身の皮膚が虹色に変化したかと思いきや…。
「桜花姫様!?」
三蔵郎は強烈なる無数の発光体によって両目を瞑目させる。すると桜花姫の血紅色であった両目が瑠璃色へと変化したのである。直後…。彼女の下半身が銀鱗の大魚へと変化するなり人間の女性から美貌を感じさせる人魚の肉体へと変化したのである。黒毛の頭髪が銀髪へと変色する。
(えっ…桜花姫様が…)
「人魚に!?」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられるが自分自身の肉体をあらゆる動植物にも変化させられる。雰囲気の変化した彼女に三蔵郎は驚愕の様子であり…。内心人魚に変化した桜花姫に見惚れる。
「三蔵郎様♪如何かしら♪」
人魚に変化した桜花姫は普段の体格を一回り上回る巨体であり人魚の状態で入浴したのである。
(桜花姫様が人魚に変化出来る理由とは天道眼の効力なのでしょうか?)
「桜花姫様は人魚にも変化出来るのですね…」
「私の母様が人魚の血筋だからね♪」
彼女の母親である美海姫は純血の人魚であり桜花姫も美海姫の血筋により人魚に変化出来る。
「折角だし三蔵郎様も私と一緒に混浴しないかしら?適度の湯加減だし♪」
「えっ!?私が桜花姫様と混浴ですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。桜花姫に笑顔で歓迎されるものの…。今回ばかりは拒否したのである。
「桜花姫様…生憎ですが今回ばかりは私は遠慮しますよ…私は無事超常現象が解決してから桜花姫様と一緒に混浴でも♪」
三蔵郎は赤面する。
「三蔵郎様は遠慮深いのね♪」
桜花姫は満足気の様子であり度重なる悪戦苦闘によって消耗した妖力が体内に蓄積…。万全の状態へと戻ったのである。
(如何やら桜花姫様の妖力が回復したみたいですね…)
三蔵郎は露天風呂で水遊びする桜花姫を見守るものの…。
(今更なのですが…私も桜花姫様と一緒に混浴したかったな…如何して私は遠慮しちゃったのか…)
三蔵郎は後悔したのか無我夢中に水遊びする桜花姫の様子を注視し続けると内心彼女と混浴したくなる。
「天霊山の露天風呂は極楽浄土だわ…先程の悪戦苦闘が悪夢だったって感じられるのよね…」
桜花姫は真夜中の夜空を眺望する。
「ですが桜花姫様は今後如何されるのですか?食人餓鬼の大群は勿論ですが…百鬼食人餓鬼の暴走を黙殺し続ければ国全体が彼等に占拠されましょう…」
「体力と妖力を回復させたら即刻猛反撃するからね♪私が全身全霊で食人餓鬼の大群と百鬼食人餓鬼の大群を蹴散らしちゃうわよ!」
数分後…。露天風呂の効力によって桜花姫の妖力が完全に回復したのである。入浴終了後…。桜花姫は人魚の状態から人間の姿形へと元通りに戻ったのである。桜花姫は即座に脱衣した着物を着衣する。
「三蔵郎様…妖力は万全よ!万全の状態なら食人餓鬼の大群は勿論…百鬼食人餓鬼が襲撃したとしても撃退出来るわ!」
「如何やら本調子が戻ったみたいですね♪桜花姫様♪」
すると三蔵郎は突発的に彼女に提案したのである。
「桜花姫様?突発的なのですが別行動は如何でしょうか?」
「別行動ですって?」
「桜花姫様は東方国の城下町に出現した食人餓鬼の大群と親玉の百鬼食人餓鬼の征伐に全身全霊を…私は彼等の大群が出現した主要因を徹底的に探索します…」
「百鬼食人餓鬼は勿論…東方国の城下町には神出鬼没の食人餓鬼の大群が徘徊中なのよ…人間の三蔵郎様が単独で出歩くのは自害するのと一緒だわ…」
桜花姫は非常に危惧するものの三蔵郎は大丈夫であると断言する。
「私は先程武器庫で無尽蔵の弾薬と護身用の連発銃を確保しましたからね♪私なら大丈夫ですよ…」
「悪霊が大群であれば即座に避難するのよ…三蔵郎様…」
「承知しました…桜花姫様…」
桜花姫の心配事を把握するなり三蔵郎は恐る恐る東方国の城下町へと戻ったのである。桜花姫と三蔵郎は本格的に別行動を開始する。
「三蔵郎様は単独で大丈夫かしら…」
桜花姫は三蔵郎が単独で大丈夫なのか不安視したのである。桜花姫は天道眼を発動…。東方国の中心街を徘徊する百鬼食人餓鬼の居場所を察知する。
「百鬼食人餓鬼の気配を感じるわ…」
百鬼食人餓鬼の霊力は規格外であり周辺には無数の食人餓鬼が徘徊中であるものの…。容易に居場所を特定化出来る。
「百鬼食人餓鬼だけは規格外だからね…霊力が目立ち過ぎだわ…」
(霊力が強力だから容易に居場所を特定化出来るのよね♪)
桜花姫は即座に東方国へと直行する。獣道にて徘徊中の無数の食人餓鬼に遭遇するものの即座に念力の妖術を発動…。容易に彼等を蹴散らせる。
「周辺の妨害者達が鬱陶しいわね…」
無数の食人餓鬼が大勢で殺到するものの…。彼女の本体に接触する直前に彼等の肉体が念力の妖術によって粉砕されたのである。露天風呂の効力からか先程よりも桜花姫の妖力が増強化する。数分後…。
「百鬼食人餓鬼は中心街で徘徊中ね…」
桜花姫は東方国の中心街へと到達する。
(百鬼食人餓鬼は私が仕留めるからね♪)
「覚悟しなさいよ…」
桜花姫は恐る恐る東方国の中心街へと潜入したのである。
「村人達だわ…」
(非常に心苦しいわね…)
農村地帯は食人餓鬼の襲撃によって惨殺された村人達の血肉やら無数の肉片が散乱する。
「彼等は食人餓鬼の襲撃によって惨殺されたのね…」
すると横たわった村人達が突発的に身動きし始めたのである。彼等は通行中の桜花姫に殺到する。
「きゃっ!」
桜花姫は咄嗟に念力の妖術を発動…。
「死滅しなさい!」
殺到する村人達の腹部を念力の妖術で粉砕したのである。村人達を仕留めたかと思いきや…。
「えっ!?」
上半身のみで身動きするなり桜花姫に急接近する。
(上半身のみで身動き出来るなんて…)
即座に念力の妖術を再活用するなり食人餓鬼へと変化した村人達の頭部を粉砕…。すると頭部を粉砕された影響からか村人達は身動きしなくなる。
「脳味噌を粉砕しちゃえば身動き出来なくなるみたいね…」
如何して食人餓鬼によって殺害された村人達が突発的に身動きしたのか疑問視する。
「如何して食人餓鬼に食い殺された村人達が身動きしたのかしら…」
(ひょっとすると食人餓鬼に食い殺された人間も食人餓鬼として復活するのかしら?疫病みたいだわ…)
通常の食人餓鬼は捕食されても食人餓鬼には変化しなかったが今回の天災地変で出現した食人餓鬼は今迄に出現した食人餓鬼とは別物であり捕食…。殺害された人間も食人餓鬼として復活するのである。
「食人餓鬼に襲撃された人間達が食人餓鬼として復活するのであれば相当厄介だわ…」
最早祖国存亡の瀬戸際であり最悪の場合…。食人餓鬼の増大化による太平神国の滅亡が危惧される。
「東方国は勿論…最悪太平神国が滅亡するかも知れないわね…」
すると突発的に胸騒ぎを感じる。
「霊力かしら!?」
彼女の背後には無数の人面が融合化した百鬼食人餓鬼が佇立する。
「百鬼食人餓鬼だわ…」
百鬼食人餓鬼の無数の人面が桜花姫を睥睨の眼力で凝視するなり超高温の熱風を放射したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。超高温の熱風から本体を防備したのである。
「危機一髪ね♪」
天道眼の効力により百鬼食人餓鬼の頭頂部から雷撃の妖術を発動する。
「死滅しなさい!百鬼食人餓鬼…」
すると高熱の落雷によって地面は陥没…。百鬼食人餓鬼の肉体が粉砕される。
「仕留めたかしら?」
落雷で粉砕された無数の肉片が小柄の人間体を形作るなり無数の食人餓鬼へと分裂したのである。
(粉砕された肉片が食人餓鬼に分裂したのね…)
桜花姫は超高温の火炎の妖術を発動…。分裂した食人餓鬼の大群を火炎の妖術で焼殺する。
「亡者達…成仏しなさい…」
火炎の妖術により数秒間で食人餓鬼の大群は完全焼失したのである。
「焼失したわね…楽勝だったわ♪」
桜花姫は手応えを感じる。
「三蔵郎様は大丈夫かしら?」
桜花姫は三蔵郎が無事なのか如何なのか非常に気になる。
メンテ
桜花姫 ( No.12 )
日時: 2021/08/14 22:05
名前: 月影桜花姫

第九話

仙女

同時刻…。三蔵郎は無事に東方国へと到達したのである。各家屋敷の路地裏を通行中…。とある血塗れの女性と遭遇したのである。三蔵郎は恐る恐る…。
「大丈夫ですか?」
女性は無表情であり三蔵郎を凝視し続けるだけである。
「如何されましたか?」
(不吉ですね…)
女性の様子に三蔵郎は非常に気味悪くなる。すると数秒後…。無表情の女性は突発的に卒倒したのである。
「うわっ!」
驚愕した三蔵郎は恐る恐る横たわった彼女の皮膚に接触するなり…。
「如何やら失血死したみたいですね…」
(悪霊によって殺害されたのでしょうか…無念です…)
数秒後に失血死した女性が佇立したのである。すると数秒後…。女性の肉体が一瞬で腐敗したのである。
「肉体が一瞬で腐敗するなんて…」
三蔵郎は気味悪がる。横たわった女性の肉体が腐敗したかと思いきや…。
「此奴は食人餓鬼!?」
腐敗した彼女の体内から小柄の食人餓鬼が出現したのである。
(ひょっとして食人餓鬼によって殺害された人間は食人餓鬼として復活するのでしょうか?)
突如として女性の体内から出現した食人餓鬼が三蔵郎に近寄るものの…。三蔵郎は即座に護身用の連発銃で食人餓鬼の頭部を狙撃したのである。すると頭部を狙撃された直後に食人餓鬼は身動きしなくなる。
「疫病みたいですね…」
すると背後に無数の殺気を感じる。
(殺気!?)
恐る恐る背後を警戒するなり…。
「食人餓鬼と…村人達でしょうか?」
無数の食人餓鬼と血塗れの村人達が大勢で山奥へと移動する。
「彼等の目的地は一体?」
彼等の行動が気になった三蔵郎は彼等の背後から恐る恐る追尾したのである。数分後…。三蔵郎は日和山と命名される低山へと到達したのである。日和山の天辺には虹色に発光する摩訶不思議の広葉樹が確認出来る。
「摩訶不思議の広葉樹ですな…」
すると無数の食人餓鬼と血塗れの村人達が虹色に発光する広葉樹の表面へと殺到したのである。すると広葉樹の表面から無数の触手が出現するなり…。樹木の表面に密着する食人餓鬼と血塗れの村人達は広葉樹から出現した触手によって肉体諸共捕食されたのである。
「広葉樹が食人餓鬼と村人達を捕食するなんて…樹木の悪霊でしょうか…」
数秒後…。広葉樹の表面より無数の食人餓鬼の集合体である百鬼食人餓鬼が二体も出現したのである。
「百鬼食人餓鬼!?」
(悪霊の親玉が二体も出現するなんて…)
三蔵郎は気味悪がるなり恐る恐る後退りしたのである。すると突然…。金縛りによって身動き出来なくなる。
「ぐっ!」
(一体何が!?身動き出来なくなるなんて…)
三蔵郎は身動き出来なくなった状態から突発的に衰弱化したのである。
(突然眠気が…桜花姫様…)
同時刻…。三蔵郎の気配を感じられなくなった桜花姫は即座に東方国近辺に位置する日和山へと急行する。
「突然三蔵郎様の気配が感じられなくなったわ…三蔵郎様は一体何に遭遇しちゃったのかしら?」
低山の日和山から食人餓鬼の無数の霊力とは別物の神通力を感じる。
「食人餓鬼の霊力なら感じるけれども…」
(中心部から百鬼食人餓鬼を上回る霊力?神通力を感じるわ…神通力の正体は何かしら?)
すると桜花姫の背後より無数の食人餓鬼は勿論…。二体の百鬼食人餓鬼が出現したのである。
「百鬼食人餓鬼が二体も出現するなんて…」
食人餓鬼の大群と二体の百鬼食人餓鬼が桜花姫に殺到する。
「鬱陶しい奴等だわ…多勢に無勢なら♪」
こんなにも絶体絶命であるものの…。桜花姫は平常心の様子である。
「あんた達…桜餅に変化しなさい♪」
桜花姫は変化の妖術を発動するなり無数の食人餓鬼は勿論…。二体の百鬼食人餓鬼を自身の大好物である桜餅に変化させる。
「美味しそうだわ♪消耗しちゃった妖力を回復させられるわね♪」
桜花姫は無尽蔵の桜餅を頬張る。
「美味しいわね♪」
無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「三蔵郎様の安否を確認しないと!」
すると彼女の背後より四人の匪賊達が近寄る。
「よっ♪花魁の姉ちゃんよ♪」
「あんた達は…何者よ?私は十中八九普通の小町娘だからね…花魁なんかと勘違いしないでよね…」
接触する匪賊達に苛立ったのである。
(面倒臭いわね…ひょっとして匪賊達かしら?こんな場所で匪賊と遭遇するなんて私も不運だわ…)
彼等の装備品は刀剣やら携帯式の連発銃であり桜花姫は警戒するなり恐る恐る後退りする。
「不用意に警戒しなくても大丈夫だよ♪大人しく金品を手渡しちゃえば小町娘の姉ちゃんには手出ししないからよ♪」
「俺達は誰よりも温厚篤実の若侍だからな♪」
「あんた達が温厚篤実の若侍ね…」
(匪賊の分際で何が若侍よ…)
桜花姫は彼等を軽蔑するなり…。無表情で反論する。
「私はあんた達みたいな田舎侍とは大違いで常日頃から大忙しなの…殺されたくなければあんた達こそ逃走するのね…」
「はっ?殺されたくなかったらって…」
「俺達を田舎侍って軽蔑するなんて片腹痛いぜ♪小町娘の姉ちゃんよ♪」
「小町娘の姉ちゃんは余程の命知らずみたいだな♪」
彼等は桜花姫の発言に苛立ったのである。
「命知らずなのはあんた達でしょう?こんな天災地変なのよ…あんた達だって悪霊に食い殺されるかも知れないのに…」
桜花姫は無表情で反論する。
「如何やら本当に打っ殺されたいらしいな…」
「相手は所詮小娘!力尽くでも金品を強奪しちまえ!」
匪賊達は桜花姫に殺到したのである。
「鬱陶しい奴等だわ…」
桜花姫は即座に天道眼を発動…。
(雨蛙に変身しちゃえ♪)
変化の妖術によって巨漢の匪賊を微弱の雨蛙に変化させる。すると三人の匪賊達は桜花姫の妖術で雨蛙に変化させられた匪賊を恐る恐る凝視するなり…。驚愕したのである。
「ひっ!如何して人間が雨蛙に!?」
「妖術なのか…」
すると小柄の匪賊が恐る恐る…。
「ひょっとして貴様は…」
「私が誰かって?」
桜花姫は笑顔の表情で名前を名乗る。
「私は悪霊退治屋の桜花姫…月影桜花姫よ♪」
笑顔で名前を名乗る桜花姫に彼等は驚愕したのか恐る恐る後退りしたのである。
「なっ!?月影桜花姫って冗談だろ…」
「貴様が最上級妖女って噂話の…月影桜花姫なのか!?」
「本物かよ…」
匪賊達は後退りするものの…。中肉中背の匪賊が恐る恐る連発銃に弾丸を装填させる。
「狼狽えるな!桜花姫が最上級の妖女だとしても所詮は単なる小娘!連発銃で狙撃しちまえば最上級の妖女だって打っ殺せるさ…」
「如何やらあんたは余程の命知らずみたいね♪」
桜花姫は失笑する。
「桜花姫!覚悟しやがれ!」
匪賊は連発銃から弾丸を発砲したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁によって発砲された弾丸を無力化したのである。
「畜生が…此奴は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
桜花姫は不本意であるものの…。
(禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪)
匪賊の一人に禁断の妖術を発動する。
(飴玉に変化しちゃえ…)
すると連発銃を武装した匪賊が桜花姫の禁断の妖術によって彼女の大好きな飴玉に変化したのである。
「うわっ!人間が妖術で飴玉に変化したぞ…」
桜花姫は無表情で発言する。
「私に殺されたいのは誰かしら?」
彼等は桜花姫に戦慄する。
「ひっ!打っ殺されちまうよ!逃げろ!」
匪賊達は極度の恐怖心により一目散に逃走したのである。
「鬱陶しい奴等だったわ…」
匪賊達を撃退した桜花姫は摩訶不思議の神通力を目印に目的地の日和山へと到達したのである。
「虹色の広葉樹だわ…えっ?三蔵郎様!?」
天辺の中心部には虹色に発光した広葉樹と地面に横たわった三蔵郎らしき人物が確認出来る。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る横たわった三蔵郎に近寄るものの…。
「三蔵郎様だよね…」
普段の温柔敦厚の三蔵郎とは別人であり非常に薄気味悪い雰囲気だったのである。不吉にも人間である三蔵郎の肉体から摩訶不思議の神通力を感じる。
「三蔵郎様の肉体から神通力を感じるわ…」
すると横たわった三蔵郎が恐る恐る目覚める。
「三蔵郎様!?大丈夫なの?」
三蔵郎は無表情で桜花姫を凝視するなり…。
「三蔵郎だと?人違いであるな…」
「えっ?」
三蔵郎の返答に桜花姫は困惑したのである。
(姿形は三蔵郎様でも…別人みたいだわ…)
地上界の聖人である三蔵郎であるが雰囲気の変化に桜花姫は後退りする。すると三蔵郎らしき人物は睥睨した表情で…。
「私は【霊魂巨神木】である…」
三蔵郎らしき人物は自身を霊魂巨神木と名乗る。
「霊魂巨神木ですって!?」
「僧侶の肉体に憑霊した…」
(霊魂巨神木って…大昔の伝承では世界樹だったかしら?)
霊魂巨神木とは森羅万象の造物主であり太古の古代人達の伝承では森羅万象の世界樹として認識される。
(こんな小山みたいな日和山に本物の世界樹と遭遇しちゃうなんてね…)
霊魂巨神木は太古の大昔に存在した樹木であり死滅した神族の鮮血を養分として誕生したのである。古代人達から森羅万象の創造主やら世界樹として神格化されたものの…。戦乱時代末期の出来事である。とある田舎村の病弱だった村娘が霊魂巨神木の果実を菜食…。人間の女性であった彼女は超自然の妖女へと覚醒するなり摩訶不思議の妖力を入手したのである。霊魂巨神木の果実を菜食した彼女こそが事実上妖女の元祖であり今現在では昔話として伝承される。
「造物主である私と対峙して正気を維持出来るとは…妖女は妖女でも貴様は最上級の妖女であるな…」
桜花姫は三蔵郎の肉体に憑霊した霊魂巨神木を睥睨するなり…。
「霊魂巨神木…三蔵郎様を元通りに戻しなさい!」
桜花姫は勇往邁進の気構えで断言する。
「妖女の小娘よ…僧侶の肉体を元通りに戻したければ私に協力しろ…」
「協力ですって?何よ?」
霊魂巨神木は一息したのである。
「貴様の妖術で…全世界の人間達を殲滅せよ…」
「はっ?」
霊魂巨神木の発言に桜花姫は呆れ果てる。
「貴様の妖力は非常に強力である…最上級妖女の貴様であれば一日に一国の人間達を全滅させられるだろう…」
桜花姫は苛立った表情で睥睨する。
「面倒臭いわね…誰があんたの協力なんて…人間達を殲滅したいのであればあんたが一人で実行すれば?」
「であれば貴様の僧侶は一生涯元通りには戻れない…」
「卑劣だわ…あんた…」
「貴様だって一緒だろ…」
桜花姫の卑劣の一言に霊魂巨神木は反論したのである。すると桜花姫は睥睨した表情で問い掛ける。
「如何してこんなにも無数の悪霊が俗界に出現したのよ?世界樹のあんただったら天災地変の主要因を特定出来るわよね?」
すると問い掛けられた霊魂巨神木は断言する。
「今回大勢の亡者達を俗界に口寄せしたのは私自身の神通力である…」
(霊魂巨神木が…)
「神通力って…あんたが黒幕だったのね!」
桜花姫は突如として表情が強張ったのである。
「今回私が大勢の亡者達を口寄せさせた主原因とは…所詮人間達の自業自得であるからな…」
「人間達の自業自得ですって?」
「愚劣なる人間達は戦乱時代以前の太古の大昔から同族同士で殺し合い…自然界の多種多様の動植物を殺戮し続けたからな…」
戦乱時代以前からも人間達は同族で紛争し合い…。殺し合ったのである。
「私は彼等の野蛮さと傲慢さにより愚劣なる俗界の人間達を見限ったのだ…」
表情が強張った桜花姫であるものの霊魂巨神木の発言に意気投合…。否定しなかったのである。
「霊魂巨神木…あんたの主義主張も理解出来るかも知れないわ…内心私自身も人間達は大嫌いよ…私自身も幼少期は周囲の村人達に妖女だからって迫害されたのよね…人間達って野蛮で強欲よね?」
今現在でこそ桜花姫は悪霊退治屋として各地方で活躍するが…。幼少期は一部の村人達から疫病神と嫌悪され迫害されたのである。
「私自身も人間なんて誰一人として信頼出来なかったわ…」
桜花姫は幼少期に一部の村人達による偏見…。迫害から人間達を憎悪したのである。
「無論である…人間とは醜悪なる生命体であるからな…」
霊魂巨神木は即答する。
「結局人間は誰も信頼出来なかったけれどね…」
「ん?貴様は何を発言したいのであるか?」
数秒後…。
「三蔵郎様…彼だけは私の唯一の理解者であり…私にとって唯一信頼出来る人間だったのよ…」
「僧侶が唯一の貴様の理解者であると?」
「私にとって三蔵郎様は家族同然なのよ!私の家族である三蔵郎様に手出しするなら言語道断!あんたが世界樹だからって手加減しないからね!」
「であれば折角の機会である…私と真剣勝負でも如何かな?最上級妖女の小娘よ…」
霊魂巨神木が真剣勝負を提案する。
「私があんたと真剣勝負ですって?」
「無論小娘が私に敗戦したならば…貴様の寿命を収縮させる…貴様が家族であると豪語する僧侶も未来永劫呪詛し続ける…」
すると桜花姫は恐る恐る霊魂巨神木に質問したのである。
「反対に私が…あんたとの真剣勝負に勝利出来たら如何するのよ?」
「小娘が私に勝利したならば貴様の寿命を収縮させないし…貴様が家族であると豪語する僧侶も呪詛から無条件に解放する…無数の悪霊による天災地変も無事終息させるぞ…」
桜花姫は一瞬度重なる悪戦苦闘により困惑するものの…。霊魂巨神木の提案を承諾したのである。
「私は全身全霊であんたを仕留めるからね!」
すると三蔵郎の肉体は脱力により横たわる。三蔵郎に憑霊した霊魂巨神木の神通力が本体である広葉樹に戻ったのである。
「如何やら手加減しなくても大丈夫みたいね♪」
桜花姫は即座に天道眼を発動…。
(火球の妖術で…)
火球の妖術を発動すると手首より超高温の発光体を形成したのである。
「死滅しなさい!」
発射された発光体は非常に特大であり霊魂巨神木の表面に直撃…。爆散したのである。
「直撃♪」
仕留めたかと思いきや…。霊魂巨神木は神通力の防壁によって直撃した超高温の発光体を無力化したのである。
(私の妖力を無力化するなんて…)
霊魂巨神木は無数の人魂を口寄せするなり融合化…。特大の鬼火を形作る。
「鬼火かしら…」
(死滅した人魂の集合体である…死滅せよ!)
霊魂巨神木の発動した鬼火は死滅した人魂の集合体であり桜花姫に放射したのである。桜花姫は即座に寒風を発動…。霊魂巨神木の鬼火を消失させる。
(寒風で私の鬼火を無力化するとは…)
周辺の地面より半透明の触手を無数に出現…。
「触手!?」
桜花姫は咄嗟に妖力の防壁を発動したのである。妖力の防壁を発動すると半透明の触手の無力化に成功する。
「危機一髪ね♪」
霊魂巨神木は精神感応により桜花姫の脳裏に伝達したのである。
(天道眼の防壁で私の神通力を無力化するとは…)
「霊魂巨神木!?精神感応かしら?」
(太古の大昔から数多くの妖女が伝説の瞳術である天道眼を保有したが…貴様に匹敵する妖女は誰一人として皆無であった…)
桜花姫も精神感応で返答する。
(勿論私は最上級の妖女だからね♪其処等の妖女とは別格なのよ♪)
(無論貴様は屈強の最上級妖女であるが…所詮肉体はか弱き小娘…森羅万象の造物主である私には勝利出来ないであろう…)
(私が勝利出来ないかは…)
両手より雷光の光線を発動…。霊魂巨神木の樹木に直撃させる。
(絶大なる雷撃であるが…)
桜花姫の発動した雷光の光線を吸収したのである。
(私には貴様程度の妖術は通用しないぞ…)
「一筋縄ではあんたは仕留められないわね…」
霊魂巨神木は金縛りにより桜花姫の身動きを封殺したのである。
「ぐっ!」
(ひょっとして金縛りかしら?)
桜花姫は霊魂巨神木の金縛りによって身動き出来なくなる。
(妖女の小娘よ…貴様の妖力を頂戴するぞ…)
地面より半透明の無数の触手が出現…。桜花姫の全身に接触する。
「きゃっ!」
(私の妖力が…)
半透明の触手によって身動き出来なくなった桜花姫は霊魂巨神木の吸収能力により体内の妖力が一瞬で消耗させられる。
「妖力が…」
(吸収されちゃうわ…衰弱死しちゃうかも…)
覚悟した直後である。周囲の自然林から一匹の白猫が出現…。
「えっ…」
(白猫!?)
白猫の目力により衝撃波を発生させたのである。直後…。無数の触手を消滅させる。
「きゃっ!」
衝撃波の発生に桜花姫は地面に横たわる。白猫の体内から妖力を感じる。
(白猫の体内から妖力を感じるわね…ひょっとして白猫の正体は妖女かしら?)
白猫が人間の少女の姿形へと変化する。
「ひょっとしてあんたの正体は…」
「桜花姫姉ちゃん…大丈夫?」
「あんたは山猫妖女の小猫姫!?」
白猫の正体は山猫妖女の小猫姫だったのである。小猫姫は変化の妖術によって白猫にも変化出来る。すると横たわった桜花姫の背後より大神族の蛇骨鬼が恐る恐る近寄る。
「桜花姫ちゃんよ…大丈夫かね?」
「蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんも?」
「最上級妖女の桜花姫ちゃんがこんなにも衰弱化しちゃうなんてね…」
蛇骨鬼は特殊能力によって左手を白蛇に変化…。恐る恐る桜花姫の背中に接触したのである。
「妖力が戻ったわ…」
桜花姫の消耗した妖力を回復させる。
「命拾いしたね…桜花姫ちゃん…」
「感謝するわ…蛇骨鬼婆ちゃん♪小猫姫♪」
蛇骨鬼の特殊能力によって桜花姫の消耗した妖力は回復したのである。蛇骨鬼は恐る恐る霊魂巨神木を凝視するなり…。
(今回の相手は世界樹の霊魂巨神木だね…)
「こんな荒唐無稽の造物主を相手に真正面から真剣勝負なんてね…普通の妖女なら暴虎馮河だよ…」
「私は三蔵郎様を元通りに戻したかったのよ…」
「三蔵郎様だって?三蔵郎とは誰かね?」
「三蔵郎様は…」
蛇骨鬼は桜花姫の背後に横たわる三蔵郎を直視する。
「誰かと思いきや…男前の僧侶だね♪」
「私にとって三蔵郎様は人間では唯一の理解者だから…」
(彼が桜花姫ちゃんの理解者とはね…こんな世の中でも温柔敦厚の人間が実在するなんて…)
蛇骨鬼は微笑むなり…。
「人間を人一倍毛嫌いした桜花姫ちゃんが本心から一人の人間を救済したいなんてね♪小猫姫よ♪」
「何よ?蛇骨鬼婆ちゃん?」
「桜花姫ちゃんに協力しな♪」
小猫姫は大喜びで承諾する。
「勿論だよ♪私は桜花姫姉ちゃんに協力するよ♪」
小猫姫は体内の妖力を増強化させるなり伝説の妖獣へと変化したのである。伝説の妖獣に変化した小猫姫を凝視するなり桜花姫は驚愕する。
「小猫姫が伝説の妖獣に!?」
「私も変化出来るのよ♪桜花姫姉ちゃん!私と精一杯共闘しましょう!」
(小猫姫が伝説の妖獣に変化出来るなんてね…非常に心強いわ!)
「勿論よ♪小猫姫♪」
桜花姫と小猫姫の一枚岩に危惧したのか霊魂巨神木の神通力が先程よりも増大化したのである。
(天道眼の小娘は勿論…妖獣の小娘も出現するとは…)
天空全体が黒雲により覆い包まれる。
「先程よりも霊魂巨神木の神通力が増大化したわ…」
桜花姫は一瞬身震いしたのである。
「油断大敵よ…小猫姫…」
「桜花姫姉ちゃんこそ油断大敵だからね♪」
直後…。
「えっ!?雷撃だわ!」
すると強烈なる落雷攻撃が彼女達の直上より落下する。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。霊魂巨神木の落雷攻撃を無力化したのである。小猫姫も雷光の防壁により霊魂巨神木の落雷を無力化する。
「死滅しろ!」
小猫姫は妖力を凝縮させるなり口先から高熱の雷球を発射したのである。小猫姫の高熱の雷球は霊魂巨神木の樹木表面に直撃するものの…。霊魂巨神木の吸収能力によって小猫姫の発射した高熱の雷球は無力化されたのである。
「私の妖力が吸収されちゃった…此奴は容易には仕留められないね!桜花姫姉ちゃん!」
「霊魂巨神木は本物の世界樹だからね…此奴には妖術は通用しないみたいよ…」
(私と小猫姫は妖力だけなら確実に霊魂巨神木を上回ったけれども…霊魂巨神木の吸収能力には妖術は無力化されるし…一体如何すれば霊魂巨神木を仕留められるのかしら?)
通常の妖術では無力化される霊魂巨神木に彼女達は困惑する。
「私にも此奴に対抗出来る神通力が扱えるなら…」
すると地獄耳の蛇骨鬼は桜花姫が口走った神通力の一言を傾聴するなり…。
「えっ?神通力だって?」
蛇骨鬼は頭陀袋からとある木材の破片を桜花姫に手渡したのである。
「えっ?何かしら?」
「何って…小面蜘蛛の肉片だよ♪」
蛇骨鬼は笑顔で木材の破片が小面蜘蛛の肉片であると即答する。
「げっ!小面蜘蛛の肉片ですって!?」
木材の破片が小面蜘蛛の肉片である事実に桜花姫は一瞬気味悪がる。
「桜花姫ちゃんよ…あんたも神通力を入手したかったら小面蜘蛛の肉片を頬張りな♪本来小面蜘蛛は霊魂巨神木の皮膚から形作られた能面だからね♪」
小面蜘蛛が誕生した経緯は不明であるが…。一説では古代の人間達によって迫害された神族の怨念が能面に憑霊した悪霊であるとも解釈される。
「小面蜘蛛の肉片を食べちゃえばあんたの天道眼を覚醒させられるかも知れないよ…」
「天道眼の覚醒ですって…」
(こんな老婆が小面蜘蛛の肉片を入手したとは…)
霊魂巨神木も小面蜘蛛の肉片を察知する。小面蜘蛛の肉片を手渡された桜花姫であったものの…。非常に困惑したのである。
(こんな代物…食いしん坊の私でも頬張りたくないわね…如何しましょう?)
生理的に小面蜘蛛の肉片を捕食したくない桜花姫であるものの…。
(一か八か…)
「桜餅に変化しなさい!」
変化の妖術を発動すると小面蜘蛛の肉片は桜花姫の大好きな桜餅に変化したのである。
「小面蜘蛛の肉片を…あんたの大好きな桜餅に変化させるなんてね…」
蛇骨鬼は苦笑いする。
「桜餅に変化しちゃえば小面蜘蛛の肉片だって吟味出来るからね♪」
桜花姫は変化の妖術で桜餅に変化した小面蜘蛛の肉片を一口で平らげる。
(所詮妖女の小娘が私の肉体の欠片である小面蜘蛛の肉片を捕食したとしても扱える神通力は微量…造物主の私には程遠い!)
霊魂巨神木は桜花姫を脆弱であると判断する。
「えっ?」
突如として桜花姫の肉体が粒子状の虹色の発光体に覆い包まれる。
「桜花姫ちゃん!?」
「桜花姫姉ちゃん!?」
蛇骨鬼と小猫姫は強烈なる虹色の発光体により瞑目したのである。すると数秒後…。無数の発光体の中心部より大日如来を連想させる巫女装束の女神が出現する。
「女神様かな?」
「えっ?あんたは仙女かね?」
巫女装束の女神の頭部には金無垢の金冠…。背中には大日如来を連想させる黄金色の輪光体が形作られる。蛇骨鬼と小猫姫は恐る恐る…。
「ひょっとしてあんたは…桜花姫ちゃんなのかい?」
「桜花姫姉ちゃんだよね?」
すると巫女装束の女神は背後の小猫姫と蛇骨鬼を直視するなり…。
「私よ…桜花姫よ♪」
蛇骨鬼は仙女へと覚醒した桜花姫に驚愕したのである。
「えっ…」
(桜花姫ちゃんが容姿端麗の仙女に覚醒するなんて…)
小猫姫は仙女の桜花姫に見惚れる。
「本物の女神様みたいだね♪桜花姫姉ちゃん♪」
「私が女神様なんて…小猫姫は大袈裟ね♪」
(私が女神様♪)
内心大喜びしたのである。
「私…普段よりも妖力が増強化したのかしら…」
霊魂巨神木は返答する。
(天道眼の覚醒によって小娘の体内の妖力が神通力に変化したが…貴様の体内の神通力は私よりも数段階下回る!所詮貴様はか弱き小娘…貴様程度の微弱の肉体では扱える神通力も微量である!造物主の私には程遠いぞ…)
「現段階の私だったら…圧倒的に劣勢かも知れないわね♪」
「えっ?桜花姫姉ちゃん?」
彼女は笑顔で背後の小猫姫を凝視するなり…。
「小猫姫♪」
「何よ?桜花姫姉ちゃん?」
「小猫姫…あんたの妖力を私に♪」
小猫姫は変化の妖術を解除するなり伝説の妖獣から本来の美少女の姿形へと戻ったのである。恐る恐る桜花姫の背中に接触する。すると桜花姫の吸収能力により小猫姫の莫大なる妖力が一瞬で消耗したのである。
「ぐっ!妖力が一瞬で…」
「御免あそばせ♪小猫姫…」
(小猫姫…あんたの妖力を頂戴するわね…此奴を仕留めるにはあんたの妖力が必要なのよ…)
桜花姫は謝罪する。小猫姫は非常に息苦しくなるものの…。
「私なら大丈夫だから…気にしないで…桜花姫姉ちゃん♪」
小猫姫は笑顔で返答したのである。
「感謝するわね♪小猫姫♪」
桜花姫に吸収された小猫姫の妖力は彼女の体内にて神通力へと変化する。すると桜花姫の神通力は先程よりも数段階増大化したのである。
(微弱であった小娘の神通力が造物主である私に匹敵?上回るなんて…)
急速に神通力が増大する桜花姫に霊魂巨神木は驚愕する。小猫姫の妖力によって桜花姫の神通力が霊魂巨神木を数段階上回ったのである。
「桜花姫ちゃんが天道眼の覚醒と小猫姫の妖力によって造物主である霊魂巨神木の神通力を上回るなんてね…」
(ひょっとすると彼女は…桜花姫ちゃんは正真正銘戦乱時代に実在した元祖妖女の再来なのかも知れないね…)
蛇骨鬼は桜花姫を見守るなり大昔の伝説を連想…。桜花姫が大昔に実在した元祖妖女の再来なのではと推測する。
「霊魂巨神木…あんたの本体から戦乱時代の無念の亡者達の霊力を感じるわ…」
桜花姫は瞑目するなり…。
「私があんたの本体に憑霊する亡者達を成仏させるわ…」
(仙術…『日輪光』!)
虹色の神通力を諸手に凝縮させるなり…。両手より虹色の発光体を射出する。桜花姫が発動させた虹色の日輪光は霊魂巨神木に直撃したのである。
(こんな微弱の小娘が…仙術である日輪光を発動させるとは…)
霊魂巨神木は咄嗟に神通力の防壁にて樹木本体を防備するものの…。仙女へと覚醒した桜花姫の日輪光は霊魂巨神木の神通力の防壁を容易に無力化する。防壁を無力化した日輪光は霊魂巨神木の表面に直撃したのである。すると樹木に憑霊した無数の亡者達の阿鼻叫喚が国全体へと響き渡る。
「ぐっ!」
「きゃっ!」
「小猫姫!?蛇骨鬼婆ちゃん!?」
霊魂巨神木の樹木本体に憑霊した無数の亡者達の阿鼻叫喚は蛇骨鬼と小猫姫は勿論…。各地の村人達をも卒倒させたのである。
(戦乱時代の亡者達は一筋縄では成仏出来ぬ!所詮小娘の貴様では…)
「沈黙するのね!」
桜花姫は即答する。桜花姫は全身全霊の神通力を発動…。
「戦乱時代の亡者達!好い加減成仏しなさい!」
全身全霊の神通力によって無念の亡者達の阿鼻叫喚を沈黙させたのである。数秒後…。
「はぁ…はぁ…」
神通力の消耗戦によって桜花姫は力尽きるなり地面に横たわる。桜花姫は仙女の状態から元通りの彼女に戻ったのである。霊魂巨神木からは醜悪なる亡者達の霊力は感じられない。すると霊魂巨神木は半透明の触手を発動…。
「霊魂巨神木…私を…如何するのよ…」
霊魂巨神木の触手が疲れ果てた桜花姫の皮膚に接触するなり消耗した妖力を回復させる。
(妖力が戻ったわ…)
「如何して私に妖力を…」
すると直後…。霊魂巨神木が樹木の状態から桜色の着物姿の女性に変化したのである。
「えっ!?あんたは樹木に憑霊する精霊かしら?」
(ひょっとして霊魂巨神木の正体は女体の精霊だったの?)
霊魂巨神木は桜花姫の質問に即答する。
(私の本来の姿形である…今迄は大勢の醜悪なる亡者達に憑霊されてより…本来の姿形には戻れなかった…)
霊魂巨神木の精霊は一息するなり…。
(貴様は戦乱時代の亡者達を無事に成仏させたからな…私は天道眼の所有者に無念の亡者達を成仏させたかった…)
「戦乱時代の亡者達…」
(大勢の成仏出来ぬ亡者達が私の体内に密集したからな…)
「ひょっとして今回の天災地変は…意図的に私の天道眼を覚醒させる魂胆だったのね…」
霊魂巨神木の精霊は恐る恐る返答する。
(人間達には傍迷惑だったかも知れないが…)
桜花姫は沈黙する。
(貴様にとって彼が…人間の僧侶が唯一の理解者なのか…)
桜花姫は地面に横たわった三蔵郎を凝視するなり即答したのである。
「勿論よ…あんたの神通力で三蔵郎様を元通りに戻しなさい…」
霊魂巨神木の精霊は返答する。
(貴様の僧侶を元通りに戻そう…貴様の神通力が…私の体内で忘却された戦乱時代の亡者達を無事成仏させられたからな…是非とも貴様には感謝しなければ…)
直後である。暗闇であった天空の黒雲も消失…。村里にて徘徊中だった食人餓鬼と百鬼食人餓鬼も霊魂巨神木の精霊の神通力によって白砂へと変化するなり成仏する。
(貴様の僧侶の肉体を無事元通りに戻した…太平神国の天災地変も終息させたからな…)
霊魂巨神木の精神感応が響き渡る。
(小娘よ…貴様の名前は?)
桜花姫は即答する。
「私は桜花姫…月影桜花姫よ…」
(月影桜花姫と名乗る妖女よ…貴様は天道眼を所有する唯一の妖女…天寿によって貴様の肉体が死滅したとしても極楽浄土の守護神として覚醒する…月影桜花姫とやら…太古の妖女は戦乱で荒廃化した太平神国に安寧秩序を樹立させた…貴様の神通力であれば一天四海全域の安寧秩序を樹立させられるかも知れないな…)
「私が極楽浄土の守護神?一天四海の安寧秩序ですって?」
(貴様は彼女の後継者に相応しいからな…月影桜花姫よ…)
直後…。霊魂巨神木の精霊が無数の粒子状へと変化するなり天空にて消滅したのである。
「霊魂巨神木が…」
(神通力が感じられなくなったわ…霊魂巨神木が消滅するなんてね…)
すると地面に横たわった三蔵郎は勿論…。卒倒した蛇骨鬼と小猫姫が目覚める。
「えっ?私は一体何を?」
「桜花姫ちゃん?」
「桜花姫姉ちゃん?」
「三蔵郎様!」
桜花姫は力一杯三蔵郎に密着する。
「ぐっ!桜花姫様!?突然如何されたのですか!?」
突然の出来事に三蔵郎は困惑したのである。
「桜花姫姉ちゃん!私にも♪」
小猫姫は桜花姫の胸元に力一杯密着する。
「小猫姫…妹分のあんたでもおっぱいに密着されちゃったら…私…」
桜花姫は赤面したのである。
「最上級妖女でも人間の混血である桜花姫ちゃんが…造物主の霊魂巨神木を仕留めるなんてね…」
桜花姫は一瞬困惑するものの…。恐る恐る返答する。
「仕留めたわよ…」
(桜花姫ちゃん…)
蛇骨鬼は桜花姫の様子から察知する。桜花姫は恐る恐る蛇骨鬼に問い掛けたのである。
「如何して蛇骨鬼婆ちゃんが小面蜘蛛の破片を?」
「西方国の廃村で確保したのさ♪本来なら傷薬の原料品として役立てたかったけどね…」
「傷薬って…」
桜花姫は苦笑いする。
「私が神通力を扱えたのは小面蜘蛛の肉片を捕食したからなのよね♪小面蜘蛛の肉片を吟味しなかったら今頃私達は霊魂巨神木の悪霊に敗北したでしょうね…」
「こんな老婆の私でも桜花姫ちゃんに役立てたみたいだね♪」
蛇骨鬼は微笑む。すると小猫姫も桜花姫に密着した状態で…。
「私だって桜花姫姉ちゃんに協力したよ!私も役立てたでしょう!?桜花姫姉ちゃん!?」
「勿論小猫姫もね♪」
桜花姫は瞑目するなり恐る恐る小猫姫に接吻する。
「桜花姫様!?」
「桜花姫ちゃん!?」
三蔵郎と蛇骨鬼は驚愕したのである。桜花姫に接吻された小猫姫は無言で赤面するなり…。
「えっ!?」
(桜花姫姉ちゃん…)
彼女の身体髪膚が膠着化したのである。すると三蔵郎が恐る恐る…。
「談笑中に大変失礼なのですが…」
「何よ…三蔵郎様?」
「先日なのですが…私の隣人から良質の白米たっぷりの米俵と猪肉を提供されましてね♪是非とも今晩は私の寺院で食事しませんか?」
蛇骨鬼と小猫姫が反応する。
「食事だって♪私達も大丈夫かい♪」
「猪肉♪私も食事したいよ♪」
「勿論ですとも♪是非とも蛇骨鬼様も小猫姫様も一緒に食事しましょう!」
蛇骨鬼と小猫姫は大喜びしたのである。
「勿論…桜花姫様も一緒に食事しましょう♪」
「私も食事させてね♪」
桜花姫は一息するなり恐る恐る三蔵郎に近寄る。
「桜花姫様?如何されましたか?」
すると三蔵郎の耳元で…。
「私はね…人間では誰よりも三蔵郎様が大好きなの♪」
(桜花姫様…)
三蔵郎は一瞬驚愕するものの笑顔で返答する。
「私にとって桜花姫様は愛娘同然ですからね♪」
「精一杯長生きしてよね…三蔵郎様♪」
「勿論ですとも!桜花姫様も精一杯長生きするのですよ…」
桜花姫と三蔵郎は握手したのである。
(私は長生きするからね…)
桜花姫は精一杯長生きしなければと決心する。
メンテ
桜花姫 ( No.13 )
日時: 2021/08/14 22:07
名前: 月影桜花姫

最終話

匪賊征伐

霊魂巨神木と無数の亡者達による天災地変から三週間後の早朝である。悪霊事件が解決してより太平神国に安寧秩序が戻ったものの…。南方国の荒神山は極悪非道の匪賊達により牛耳られたのである。近頃匪賊達による悪巧みの噂話が国全体に出回る。噂話が気になった桜花姫は即座に南方国の荒神山へと潜入したのである。
(荒神山では極悪非道の匪賊達が潜伏中みたいね…)
先日より桜花姫が荒神山に出没した悪霊の大群を仕留めて以降荒神山は元通りの観光地に戻ったものの…。近日では十数人の匪賊達により荒神山は完全占拠されたのである。桜花姫は南方国の荒神山に到達するなり…。
「何かしら?」
周辺の自然林より無数の人間達の殺気を感じる。
「人間達の殺気を感じるわ…」
登山中に一瞬身震いするものの…。
「手出しするなら相手が人間でも私は手加減しないわよ!」
桜花姫は警戒した様子で荒神山の天辺へと突入したのである。
「天道眼…」
桜花姫は瞳術の天道眼を発動…。半透明の血紅色だった両目の瞳孔が瑠璃色の碧眼へと発光する。
「天道眼を発動するのは久方振りね…」
霊魂巨神木に憑霊した無数の亡者達よる悪霊事件が解決してからは毎日が平穏の日常であり摩訶不思議の超常現象も悪霊も出現しなかったのである。平穏の日常は桜花姫にとって極度の憂鬱であったものの…。
「退屈中だったし…私にとって今回の大騒ぎは絶好機なのよね♪」
彼女にとって匪賊達の征伐は久方振りの道楽であり内心大喜びしたのである。すると突然…。周辺の自然林より人間達の殺気を感じる。
「人間達の殺気だわ…」
突如として周辺より無数の火縄銃の弾丸が乱射される。
(敵襲かしら!?)
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。火縄銃の弾丸を無力化したのである。近辺の地面には無数の弾丸が散乱する。
「陣地の見張り役は数人かしら?」
自然林から桜花姫を狙撃した見張り役の匪賊達は弾丸を無力化した彼女に戦慄したのである。
「畜生が…弾丸を無力化するなんて…」
「ひょっとして妖術で弾丸を無力化しやがったのか!?」
「如何やら侵入者は妖女みたいだな…」
匪賊達は恐る恐る後退りする。
「即刻本拠地に戻ろう…火縄銃では妖女は仕留められまい…」
天辺の本拠地に戻ろうかと思いきや…。
「ぎゃっ!」
突如として小柄の見張り役の頭部が肥大化したのである。周囲の匪賊達は肥大化した頭部を直視するなり戦慄する。
「頭部が…」
数秒後…。肥大化した頭部が破裂したのである。
「ひっ!」
「頭部が破裂しやがった!」
地面には無数の血肉やら脳味噌が散乱する。
「如何してこんな…」
「妖術で破裂させたのか!?」
戦慄した見張り役達は一目散に逃走したのである。数秒後…。桜花姫が自然林へと潜入する。
「如何やら見張り役は逃走しちゃったみたいね…えっ?」
地面に散乱した血肉やら脳味噌を直視するなり…。
(気味悪いわね…)
「桜餅に変化させちゃおうかしら♪」
桜花姫は変化の妖術によって散乱した見張り役の血肉を大好きな桜餅に変化させたのである。
「消耗しちゃった妖力を回復させなくちゃね♪」
散乱した桜餅を頬張るなり消耗した妖力を回復させる。
「妖力も万全だし♪本拠地に潜伏中の匪賊達を蹴散らせないと…」
桜花姫は荒神山天辺の本拠地へと進行したのである。すると背後より…。
「雑魚の分際で鬱陶しいわね…」
異国の洋弓銃を装備した匪賊が出現する。
「侵入者は毒死しやがれ!」
洋弓銃から猛毒の毒矢を発射するなり…。桜花姫に射撃したのである。
(毒矢かしら?)
即座に妖力の防壁を発動…。毒矢を無力化する。
「雨蛙に変化しなさい♪」
すると匪賊は変化の妖術によって雨蛙に変化したのである。
「私は常日頃から大忙しなのよ♪」
獣道を通行中…。獣道の道端で一休みしたのである。
「私だけで匪賊達を全滅させるのは片手間だけれども…」
一息するなり…。
「禁断の妖術…発動しちゃおうかしら♪」
神通力による禁断の妖術を発動したくなる。地面の石ころを直視する。
「口寄せの妖術…発動!」
すると数秒後…。地面の石ころが蛍光体に変化したのである。蛍光体の石ころが等身大の女体を形作るなり…。白装束の女性が地面に横たわったのである。白装束の女性が恐る恐る目覚める。
「えっ?私は…」
白装束の女性は寝惚けた様子であったものの…。
「えっ?誰かしら…」
女性は桜花姫と目線が合致する。
「ひっ!あんたは!?」
白装束の女性が桜花姫に気付いたかと思いきや…。桜花姫を直視すると彼女は極度に戦慄する。
「戦慄しなくても大丈夫よ♪私よ…桜花姫よ♪」
「あんたは…月影桜花姫!?」
「久方振りね…氷麗姫♪元気そうで安心したわ♪」
口寄せの妖術によって俗界に口寄せされたのは数週間前の戦闘で桜花姫の変化の妖術により食い殺された粉雪妖女の氷麗姫だったのである。
「如何してあんたが!?私は桜花姫に捕食されて…食い殺されたのよ…」
「口寄せの妖術であんたを俗界に再臨させたのよ♪」
口寄せの妖術とは伝説の瞳術である天道眼と造物主の神通力を保有する妖女のみが使用出来る前代未聞の禁断の妖術…。所謂時空間妖術の一種であり黄泉の国の死没者でさえも元通りに復活させられる。
「捕食された私を復活させるなんて…あんたは本物の女神様だね…」
氷麗姫は苦笑いしたのである。
「私が女神様なんて…氷麗姫は大袈裟ね♪」
氷麗姫の女神様発言に桜花姫は内心大喜びする。
(黄泉の国から死没者を簡単に復活させちゃうなんて…桜花姫は末恐ろしくなるわね…)
黄泉の国の死没者でさえも元通りに復活させた桜花姫を氷麗姫は戦慄したのである。
「如何してあんたみたいな小娘がこんなにも夢物語みたいな妖術が扱えるのよ?口寄せの妖術って禁断の妖術だったわよね?」
氷麗姫の質問に桜花姫は経緯を洗い浚い告白する。
「あんたが森羅万象の造物主である霊魂巨神木を仕留めちゃったの!?霊魂巨神木って世界樹だったわよね?」
桜花姫は笑顔で返答したのである。
「無論ね♪霊魂巨神木は仕留められたけれど私一人では断然勝利出来なかったわよ…妹分の小猫姫と一緒に共闘したのだけれどね♪」
「仲間と共闘したとしても結果的にあんたみたいな小娘が森羅万象の造物主に勝利しちゃったみたいだからね…私みたいな凡庸の妖女では到達したくても到達出来ない領域だわ…」
氷麗姫にとって今現在の桜花姫は異次元の存在であり自身が低次元の微生物であると感じる。すると桜花姫は一息するなり…。
「口寄せの妖術は莫大の妖力を消耗しちゃうわね♪普通の妖女なら過労死するかも知れないわ…」
口寄せの妖術は通常の妖術とは桁違いの妖力が必要不可欠であり唯一瞳術の天道眼と造物主の神通力を扱える妖女のみが使用出来る。大量の妖力を所持した妖女を復活させるのであれば莫大なる妖力を消耗…。場合によっては術者の過労死も否定出来ない。桜花姫は口寄せの妖術を駆使した影響により大量の妖力を消耗する。
「普通の人間とか悪霊なら極小の妖力でも復活出来るけどね♪死滅した妖女を元通りに復活させるのは最上級妖女の私でも一苦労だわ…」
(人間と悪霊なら極小の妖力で復活出来るの!?)
桜花姫の発言に絶句する。
(ひょっとして桜花姫は天道の化身かしら?)
氷麗姫は桜花姫の正体が天道の化身なのではと連想したのである。すると桜花姫は氷麗姫に問い掛ける。
「如何して氷麗姫は西方国の廃村で村人達を氷結させちゃったのよ?」
氷麗姫は一瞬困惑するものの恐る恐る…。
「私の宿六が…不倫したからよ…」
「宿六の不倫ですって?」
「宿六の不倫に苛立って無関係の村人達を氷結させたの…」
「あんたは人騒がせな人妻ね…」
(完全に八つ当たりだわ…)
桜花姫は呆れ果てる。
「金輪際夫婦間の八つ当たりで無関係の人間には手出ししないのよ…」
桜花姫の警告に氷麗姫は恐る恐る承諾したのである。
「勿論よ…」
「苛立って無関係の誰かに手出しすれば今度こそ私が征伐するからね♪」
桜花姫は笑顔で断言する。不吉の笑顔で微笑む桜花姫に戦慄した氷麗姫であるが内心気恥ずかしくなったのか沈黙したのである。
「即刻本拠地に潜入しましょう♪」
「本拠地ですって?」
「荒神山を牛耳る匪賊達を徹底的に征伐するのよ♪勿論あんたも私に協力するわよね?」
氷麗姫は笑顔の桜花姫に戦慄する。
「勿論…私も協力するわよ…」
(折角元通りに復活出来たのに…桜花姫に協力しなかったら今回も食い殺されちゃうかも知れないからね…)
氷麗姫は折角第二の人生を満喫出来るのに殺されては元も子もないと感じる。氷麗姫は笑顔の桜花姫に身震いしたのである。
「勿論♪今回私が傍若無人のあんたを復活させたのは私自身の気紛れだからね♪」
桜花姫の傍若無人の一言に一瞬腹立たしくなる。
(傍若無人なのはあんただって一緒でしょうが!桜花姫!)
苛立った氷麗姫であるが堪忍する。
「先程の口寄せの妖術で私は空腹だし敵対視するのであれば即刻あんたを桜餅に変化させて食い殺しちゃうかも知れないわよ♪」
笑顔で発言する桜花姫に苛立つものの…。不本意であるが氷麗姫は桜花姫に服従したのである。
「別に敵対視しないわよ…裏切れば食い殺されるのは明白だし…」
「交渉成立ね♪」
桜花姫と氷麗姫は一致団結…。匪賊達の本拠地へと移動したのである。数分後…。彼女達は荒神山の天辺へと到達する。
「到達したわね♪」
「荒神山の天辺だわ…」
天辺の中心部には楼閣らしき家屋敷が確認出来る。
「家屋敷だわ…奴等の本拠地っぽいわね…」
「表門の門番は二人ね…」
家屋敷の表門には二人組の門番が見張り役として表門を警護する。
「門番を突破しちゃえば楽勝ね♪」
「如何するのよ?桜花姫?」
「勿論正面突破で門番達を仕留めるわよ♪」
「あんたらしいわね♪桜花姫♪」
彼女達は家屋敷の表門へと近寄る。すると桜花姫は笑顔で挨拶する。
「御免あそばせ♪」
「なっ!?貴様達は一体何者であるか!?」
表門の門番達は警戒するなり即座に抜刀したのである。
「花魁かと思いきや…貴様は妖女であるな!?」
「先程の妖女の噂話とやらは事実であったか!」
桜花姫は笑顔で発言する。
「あんた達…私に殺されたくなければ即刻表門を開放しなさい♪」
「何を!小娘の分際で!」
「斬首されたいか!?小娘!?」
桜花姫の発言に苛立った門番達は桜花姫に殺到したのである。
「地上界の女神様のである私に小娘なんて…あんた達は余程の命知らずなのね♪」
即座に念力の妖術を発動…。門番達の肉体を破裂させる。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
表門には彼等の血肉やら肉片が散乱する。
「桜花姫…あんたは相手が人間でも手加減しないのね…」
人間相手に手加減しない桜花姫に氷麗姫は気味悪がる。
「手加減するも何も…敵対者が人間だったとしても確実に仕留めるのが私だからね♪無論無抵抗の人間なら相手が匪賊だったとしても手出ししないから安心しなさい♪」
気味悪がる氷麗姫であるが…。桜花姫は笑顔で反論する。
「あんただって数週間前は八つ当たりで村人達を殺戮したでしょう♪私は八つ当たりでは相手が誰でも人間は殺さないからね♪」
桜花姫の反論に氷麗姫は沈黙したのである。
「一休みしましょう♪私は空腹なので♪」
桜花姫は変化の妖術を発動するなり…。散乱した門番達の血肉を無数の桜餅に変化させたのである。
「えっ!?人間の血肉が桜餅に!?」
(半年前は私自身も桜花姫の変化の妖術で桜餅に変化させられて食い殺されたのよね…)
氷麗姫は数週間前の出来事を想起するなり身震いする。
「消耗した妖力を回復させないと♪」
桜花姫は極度の空腹であり散乱する桜餅を無我夢中に頬張る。
「桜餅でも本来は人間の血肉なのよ…笑顔で頬張れるなんて…」
桜花姫の悪食に氷麗姫は気味悪くなる。
「人間の血肉でも妖術で変化させれば気にならないから大丈夫よ♪折角だから氷麗姫も一緒に味見しない?」
「私は味見したくないわ!」
(人間の血肉なんて桜餅でも食べたくないわね…)
氷麗姫は断然拒否する。数分後…。
「美味だわ♪」
桜花姫は表門に散乱した無数の桜餅を平らげたのである。
「数分間で無数の桜餅を平らげるなんて…」
数分間で無数の桜餅を桜花姫に氷麗姫は苦笑いする。
「妖力も回復出来たし♪」
「匪賊達を蹴散らせるのよね?」
「今回は普通に蹴散らせるのは面白くないから…」
「如何するのよ?」
桜花姫は地面の石ころを凝視するなり…。
(口寄せの妖術…発動!)
桜花姫は口寄せの妖術を再発動する。口寄せの妖術を発動すると地面の石ころが蛍光体へと変化したかと思いきや…。一瞬で人間の姿形を形成したのである。数秒後…。先程念力の妖術で仕留めた門番の一人を元通りの姿形に復活させたのである。
「えっ!?先程仕留めた人間の門番だわ!ひょっとして彼も口寄せの妖術で復活させたの!?」
問い掛ける氷麗姫に桜花姫は笑顔で即答する。
「勿論よ♪彼も私が口寄せの妖術で復活させたのよ♪口寄せの妖術は普通の人間は当然♪普通の悪霊程度なら微量の妖力で復活させられるから非常に便利でしょう♪」
口寄せの妖術は同種の妖女を復活させた場合妖力の消耗は通常の妖術よりも桁外れであるが人間は勿論…。通常の悪霊を復活させるには微量の妖力のみで復活させられる。
(こんな荒唐無稽の小娘が夢物語みたいな非人道的妖術を自由自在に扱えるなんて…)
黄泉の国からの死没者さえ元通りに復活させる口寄せの妖術に氷麗姫は再度末恐ろしくなる。
「えっ?如何しちゃったのかしら?門番は喋らないし無反応だわ…」
元通りに復活させた門番であるが…。沈黙した様子であり何一つとして身動きしない。
「身動きしないわよ…無表情の雛人形みたいね…」
「勿論♪身動き出来ないし彼自身は単なる傀儡人形だからね…」
本来口寄せの妖術で復活させた対象者は妖術を発動した使用者の傀儡人形として扱われる。無論対象者の自我は妖術の使用者に掌握…。妖術の使用者が掌握を軽減化させなければ復活した対象者は単なる手駒であり姿形が生身の傀儡人形同然である。
「あんたが意思表示を表現出来るのは私が掌握を軽減化しただけだからね♪本来なら口寄せの妖術で復活させた氷麗姫だって私の傀儡人形なのよ♪」
復活させた門番は微量の妖力で形作られた不良品であり姿形は元通りでも自我は皆無であり彼自身は自己の意思表示は出来ない。すると桜花姫は復活した門番に問い掛けたのである。
「あんた達の家屋敷では何人の匪賊達が潜伏中なのかしら?」
桜花姫の質問に門番は的確に即答する。
「本拠地には守備隊が十三人…地下壕の牢獄には六人の見張り役が四人の村娘達を監禁中である…」
「村娘ですって?」
村娘の一言が気になったのか桜花姫は門番に再質問したのである。
「村娘って何よ?」
「南方国の各村落から四人の村娘達を連行した…」
「如何してあんた達は村娘を四人も連行したのよ?」
門番は一瞬沈黙するなり…。
「連行した村娘達は異国に身売りされるからな…」
「身売りですって…」
門番の発言に彼女達は一瞬絶句する。
「ひ弱の女性を異国なんかに身売りさせるなんて極悪非道だわ…」
「今時身売りなんて完全に時代錯誤ね…」
桜花姫は勿論…。氷麗姫さえも腹立たしくなる。
「桜花姫…即刻彼女達を救出しましょう!」
「勿論よ!今回ばかりは地上界の女神様である私でも腹立たしくなったわ!」
(無慈悲のあんたが地上界の女神様って自称しちゃうなんて…)
氷麗姫は自分自身を地上界の女神様と自称する桜花姫に一瞬苦笑いしたのである。すると桜花姫は門番に接触するなり…。
「あんたは即刻本拠地に潜伏しなさい♪無事に潜伏出来たら匪賊の親玉諸共本拠地で自爆するのよ♪」
「えっ!?折角復活させたのに彼を自爆させるの!?」
桜花姫の自爆発言に氷麗姫は驚愕したのである。
「所詮門番は自爆要員だからね♪彼自身の自我は私が掌握したから意思表示も反論も出来ないわよ…」
桜花姫は再度門番に命令する。
「即刻あんたは本拠地に戻って親玉と部下の奴等諸共爆殺しなさい…勿論親玉には二人の妖女を仕留めたってちゃんと報告するのよ♪」
「承知した…」
桜花姫の命令を承諾した門番は表門から家屋敷へと入室…。家屋敷最上階の本拠地に戻ったのである。
「桜花姫…あんたも人一倍鬼畜ね…」
氷麗姫の発言に桜花姫は笑顔で即答する。
「無論私は敵対者には手加減しないからね♪手段が残虐非道でも敵対者は確実に仕留めるのが私だから…」
「あんたらしいわね♪桜花姫…」
氷麗姫は一瞬身震いするが笑顔で返答したのである。
「即刻監禁された女性達を救出しましょう♪」
彼女達は表門から恐る恐る家屋敷へと潜入する。
「屋敷内では人間達の気配は感じられないわね…」
周辺からは人間の気配も殺気も感じられない。
「門番の情報では連行された四人の村娘達の居場所は地下豪だったわね…」
すると通路の右側片隅に地下室への直階段を確認する。
「直階段だわ♪地下豪に潜入出来そうよ♪」
すると突然…。
「えっ!?」
(殺気かしら!?)
背後より殺気を感じる。
「桜花姫!敵襲よ!」
彼女達の背後には火縄銃を武装した匪賊が出現…。
「妖女!死滅しやがれ!」
桜花姫は背中を狙撃される。
「ぎゃっ!」
火縄銃で狙撃された桜花姫は多量の出血により横たわったのである。
「桜花姫!?大丈夫!?」
「氷麗姫…私…」
突発的出来事により氷麗姫は狼狽える。
「油断大敵ね…迂闊だったわ…ぐっ!」
桜花姫は吐血したのである。
「桜花姫!?」
(私は如何すれば…)
すると匪賊が狼狽える氷麗姫に近寄る。
「白装束の姉ちゃんよ♪即刻あんたも打っ殺すから覚悟しな♪」
氷麗姫は無表情で匪賊を睥睨するなり…。
「死滅するのはあんたよ…」
「はっ?」
氷麗姫は妖力により匪賊の肉体を一瞬で氷結させる。
「死滅しなさい!」
「なっ!?」
数秒後…。氷結された匪賊の肉体は一瞬で崩れ落ちる。
「桜花姫…大丈夫?」
氷麗姫は恐る恐る横たわった桜花姫に接触すると戦慄する。
「ひゃっ!」
(低体温だわ…)
桜花姫の肉体は非常に低体温であり氷麗姫は絶望したのである。
(最上級妖女の桜花姫が殺されちゃうなんて…)
絶望した直後…。突如として横たわった桜花姫の肉体から白煙が発生すると一瞬で消滅したのである。
「桜花姫!?」
突然消滅した桜花姫に氷麗姫は驚愕する。
「えっ?桜花姫の肉体は?」
すると背後より何者かが氷麗姫の背中に接触したのである。
「きゃっ!」
背中を接触された氷麗姫は驚愕する。
「氷麗姫♪」
「桜花姫!吃驚するじゃない!」
吃驚した氷麗姫は桜花姫に怒号したのである。
「御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「分身体だから大丈夫よ♪」
「分身体だったのね…」
先程狙撃された肉体が妖力によって形作られた桜花姫の分身体であり氷麗姫は一安心したのである。
「冷や冷やさせないでよ…一瞬あんたが本当に殺されちゃったのかと…」
「私に接吻したあんたが私を心配するなんてね♪感謝するわね♪」
すると氷麗姫は赤面した表情で否定する。
「勘違いしないで!私は別に…誰があんたの心配なんか…」
赤面した氷麗姫であるが…。彼女は無理矢理に表情を強張らせる。
(氷麗姫…表情を強張らせなくても…)
桜花姫は無理矢理に表情を強張らせる氷麗姫に苦笑いする。
「悪者はあんたが仕留めたみたいだから…即刻地下壕に潜入するわよ♪」
同時刻…。桜花姫の口寄せの妖術によって復活させられた門番は最上階の本拠地へと到達したのである。最上階には十三人の匪賊達と中心部には親玉らしき巨漢の無頼漢が集結する。
「ん?貴様は門番だな…何事かな?」
「二人組の妖女が出現してから随分大騒ぎみたいだが…通路は大丈夫なのかよ?」
門番は無表情で巨漢の無頼漢に報告したのである。
「親玉…」
「ん?」
門番は一息するなり…。
「噂話の二人組の妖女なら先程…俺が確実に仕留めたから安心しな…」
「妖女を確実に仕留めたって?」
匪賊達は門番が桜花姫と氷麗姫を本当に仕留めたのか疑問視する。
「貴様が二人組の妖女とやらを仕留めたのは事実であるか?」
「本当に妖女を仕留めたのかよ?」
「勿論…」
すると数秒後…。門番の体内から超高温の熱気が凝縮される。
「なっ!?此奴の体内から熱気だぞ…」
「一体何が!?」
直後…。門番の肉体が爆散したのである。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
門番の自爆によって周辺の匪賊達も爆殺される。家屋敷全域に爆発音が響き渡ったのである。同時刻…。地下豪では本拠地から響き渡った爆発音により六人の見張り役達が狼狽える。
「爆発音だと!?」
「最上階からだったよな…」
「如何して最上階から爆発音が…一体何が発生した!?」
連行された四人の村娘達も先程の爆発音に戦慄したのである。
「一体何かしら?」
「火薬の爆発音みたいね…」
「私達…こんな牢獄で殺されちゃうのかな…」
「私…こんな牢獄で死にたくないよ…」
彼女達は極度の戦慄により涙腺から涙が零れ落ちる。すると地下豪の鉄扉から二人組の妖女が潜入する。
「御免あそばせ♪」
笑顔で挨拶する桜花姫に見張り役達は戦慄したのである。
「うわっ!貴様達は!?」
「誰かと思いきや…貴様達は噂話の二人組の妖女だな…」
「如何して妖女が地下豪に潜入出来た!?」
「門番の奴等…警備をすっぽかしやがったのかよ!」
「結局俺達が尻拭いとは…」
桜花姫は笑顔で断言する。
「如何やらあんた達の門番が私達に寝返っちゃったみたいよ♪今頃仲間内で内輪揉めでしょうね♪」
「内輪揉めだって!?」
「門番が裏切りやがったのか!?」
問い掛けられた桜花姫であるが彼女は笑顔で…。
「さあね♪」
見張り役達は桜花姫の態度に苛立ったのである。
「此奴…」
「貴様出鱈目を…打っ殺されたいか!?」
桜花姫の返答に腹立たしくなった巨漢の見張り役が護身用の連発銃で桜花姫を狙撃…。
「桜花姫!?」
氷麗姫は畏怖したのである。狙撃された桜花姫であるものの…。危機一髪妖力の防壁を発動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
妖力の防壁により連発銃の弾丸を無力化…。氷麗姫は一安心する。
「あんたは本当に人騒がせね…」
「心配しなくても大丈夫よ♪氷麗姫♪」
見張り役達は恐る恐る後退りしたのである。
「畜生が…妖女の小娘は妖術で弾丸を無力化しやがったか…」
「弾丸では私は殺せないわよ♪私に手出ししたあんたは即刻招き猫に変化しなさいの♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。巨漢の見張り役を精巧に形作られた招き猫に変化させる。
「うわっ!人間が招き猫に!?」
見張り役達は勿論…。牢獄の村娘達も桜花姫の変化の妖術によって招き猫に変化させられた見張り役に驚愕したのである。
「人間が招き猫に変化するなんて…」
「妖術かしら?」
四人の村娘達は恐る恐る桜花姫に注目するなり…。
「えっ?ひょっとして彼女は…」
「西方国の月影桜花姫様かしら?」
「月影桜花姫だって!?冗談だろ…」
小柄の見張り役は身震いするなり戦慄したのである。
「狼狽えるな!西方国の月影桜花姫とて所詮は小娘!打っ殺しちまえ!」
見張り役達は連発銃で桜花姫に総攻撃するものの…。妖力の防壁によって連発銃の弾丸を無力化される。
「鬱陶しい奴等だわ…」
(飴玉に変化しなさい♪)
連発銃で狙撃した見張り役達を大好きな飴玉に変化させたのである。
「ひっ!」
唯一無抵抗だった小柄の匪賊が極度の恐怖心により落涙する。
「無事なのはあんただけね♪あんたは如何するかしら♪」
すると小柄の匪賊は恐る恐る…。
「俺は…降参するよ…」
匪賊は極度の戦慄により身震いしたのである。
「金輪際悪さしないから…今回は見逃して…」
身震いした様子で一歩ずつ後退りする。
「別に…私は誰よりも温厚篤実の女神様だからね♪匪賊でも無抵抗の人間には手出ししないから安心しなさい♪」
即座に匪賊の装備品を飴玉に変化させる。
「狙撃したくても出来なくなったわね♪」
桜花姫は牢獄を直視するなり…。
「即刻彼女達を救出しないと♪」
すると氷麗姫が牢獄の鉄格子に接触する。
「えっ?氷麗姫?如何するのよ?」
「桜花姫…私にも役立たせてよ…」
(彼女なりの罪滅ぼしかしら♪如何やら彼女も役立ちたいみたいね♪)
「承知したわ♪氷麗姫…思う存分役立ちなさい♪」
桜花姫は笑顔で承諾したのである。氷麗姫は四人の村娘達に警告する。
「あんた達…村里に戻りたかったら鉄格子には接触しないのよ…」
「承知しました…」
彼女達は恐る恐る後退りしたのである。すると氷麗姫は鉄格子に接触するなり…。一瞬で氷結させたのである。
「鉄格子が…」
「氷結するなんて…」
四人の村娘達は驚愕する。すると数秒後…。妖術で氷結させた鉄格子が一瞬で崩れ落ちる。
「鉄格子が崩れ落ちたわ…」
「私達…村里に戻れるのね♪」
解放された四人の村娘達は大喜びしたのである。
「桜花姫様と…誰でしたっけ?」
「私は氷麗姫よ…」
「氷麗姫様♪」
「大変感謝します♪桜花姫様と氷麗姫様が参上されなかったら私達は今頃異国に身売りされたかも知れません…」
桜花姫は笑顔で断言する。
「別に…あんた達が無事なのが何よりよ♪匪賊達を征伐するのも案外面白かったし♪」
「えっ?面白かったのかな?」
氷麗姫は笑顔で発言する桜花姫に苦笑いしたのである。
「あんた達…即刻地下壕から脱出しましょう♪」
すると氷麗姫が警戒した表情で…。
「油断大敵だよ…桜花姫…匪賊の残党が屋敷内に潜伏中かも知れないし…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「心配しなくても大丈夫よ♪氷麗姫♪匪賊の残党が襲撃したとしても私が即刻仕留めちゃうから♪」
彼女達は警戒した様子で恐る恐る地下壕から脱出する。無事に匪賊達の家屋敷から脱出したのである。
「私達…戻れたのね…」
「無事に戻れるなんて…」
四人の村娘達は涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫様…氷麗姫様…貴女達には大変感謝します…」
「私達…貴女達に何も謝礼が出来なくて御免なさいね…」
彼女達は桜花姫と氷麗姫に謝罪する。
「別に謝礼なんて…」
謝罪された桜花姫は困惑するものの…。
「別に気にしないの♪私にとって匪賊征伐は道楽だから♪所詮夜遊びと一緒だからね♪あんた達は気にしなくても大丈夫なのよ♪」
事実桜花姫にとって悪霊征伐も匪賊征伐も娯楽であり報酬は不要である。匪賊征伐を夜遊びと断言する桜花姫に氷麗姫は苦笑いする。
(匪賊達を征伐するのが道楽って…桜花姫は人一倍異端者だわ…)
桜花姫は異端者であると感じる。
「あんた達…無事に戻りなさいね♪」
「承知しました♪」
「達者でね♪」
「桜花姫様と氷麗姫様も♪」
四人の村娘達は恐る恐る南方国の村里へと戻ったのである。桜花姫は背後の氷麗姫を直視するなり…。
「氷麗姫…あんたは今後如何するのよ?」
「桜花姫…私は…」
氷麗姫は一瞬沈黙するも笑顔で返答する。
「今回あんたと一緒に行動してから…私もあんたみたいに悪霊とか匪賊を征伐したくなったわ♪」
笑顔で発言した氷麗姫に桜花姫は微笑む。
「氷麗姫♪あんたの妖力でも匪賊程度なら確実に仕留められるでしょうね♪精一杯頑張りなさい♪」
「私も…八つ当たりで大勢の人間達を殺しちゃったからね…精一杯贖罪しないと!」
「反省したのね♪氷麗姫…」
改心した氷麗姫に感心する。
「桜花姫♪今回はあんたの気紛れかも知れないけれどね…感謝するわね♪」
「氷麗姫…」
(本来なら口寄せの妖術は非人道的妖術かも知れないけれど…結果的に悪くなかったのかも知れないわね♪)
数週間前は敵対者だった氷麗姫の変貌に一瞬驚愕するものの…。口寄せの妖術で復活させられたのは怪我の功名であると氷麗姫は感じる。
「私は第二の人生…精一杯長生きするからね…桜花姫♪」
断言する氷麗姫に桜花姫も笑顔で返答する。
「私もね♪」
数分後…。
「私は北方国に帰郷するわね…」
「達者でね♪」
彼女達は解散したのである。帰宅中…。
(久し振りに東方国の三蔵郎様に挨拶しましょうかね♪)
桜花姫は久方振りに東方国の三蔵郎の寺院へと訪問する。二時間後…。桜花姫は東方国の寺院に到達したのである。寺院の玄関にて桜花姫は笑顔で…。
「三蔵郎様♪」
桜花姫の美声に反応したのか三蔵郎は超特急で玄関口へと移動する。
「誰かと思いきや…月影桜花姫様でしたか♪久方振りですな♪」
三蔵郎は桜花姫との再会に大喜びしたのである。
「三蔵郎様♪元気そうで安心したわ♪」
「桜花姫様こそ元気そうで何よりですよ♪折角ですし…茶話会でも如何でしょうか♪」
三蔵郎は桜花姫を客室に案内するなり麦茶と牡丹餅を用意したのである。
「牡丹餅だわ♪美味そうね♪」
桜花姫は牡丹餅に大喜びする。
「桜花姫様が大喜びの様子なので一安心ですよ♪本来であれば桜花姫様の大好きな桜餅を用意したかったのですが…生憎桜餅は和菓子屋でも完売しちゃったみたいですね…」
恐る恐る謝罪する三蔵郎に桜花姫は笑顔で…。
「気にしないで三蔵郎様♪桜餅なら先程腹一杯平らげたから♪」
「頬張ったのですね…桜餅を頬張ったのであれば一安心です♪」
桜花姫は先程の出来事を三蔵郎に洗い浚い告白する。
「荒神山で匪賊達を征伐しに出掛けられたのですか!?連行された村里の女性達を無事に救出されたのですね…」
「面白かったわよ♪」
「ですが私も桜花姫様と一緒に行動したかったですよ…今回は非常に残念ですね…」
三蔵郎は非常に残念であると感じる。
「今回ばかりは敵対者が匪賊だったとしても相手は普通の人間だからね…正直聖職者の三蔵郎様は呼び辛かったのよ♪三蔵郎様は人一倍温柔敦厚で心配性だから悪霊は征伐出来ても人殺しなんて出来ないでしょう?」
桜花姫は笑顔で発言する。
「桜花姫様…」
(彼女は正真正銘…太平神国の女神様ですね♪)
桜花姫と三蔵郎は談笑し合ったのである。真夜中の出来事である。大騒ぎが鎮静化した真夜中の荒神山では蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫が天辺へと到達する。
「なっ!?荒神山の天辺中心部にこんな家屋敷が築造されたなんて…」
「誰の家屋敷かな?」
すると家屋敷の表門に小柄の匪賊が横たわる。
「えっ?誰だろう?」
「ん?ひょっとして家屋敷の宿主かね?」
「大丈夫かな?」
蛇骨鬼は恐る恐る横たわる匪賊の若者に近寄る。匪賊の背中に接触するなり…。
「若者よ…大丈夫かね?」
接触しても匪賊は無反応である。
「如何やら気絶したみたいだね…」
「如何して表門で気絶しちゃったのかな?」
「私にも何が何やらさっぱりだね…」
すると数秒後…。気絶した匪賊が恐る恐る目覚める。
「ん?俺は…」
「目覚めたかね?若者よ…」
「大丈夫かな?」
匪賊は寝惚けた様子であったものの蛇骨鬼と小猫姫を直視した直後…。突如として身震いしたのである。
「ひっ!俺を食い殺さないで!」
彼女達を直視するなり非常に戦慄する。戦慄する匪賊に蛇骨鬼と小猫姫は驚愕したのである。
「如何しちゃったのかね?別に私達はあんたを食い殺したりしないよ…」
「心配しなくても私達は手出ししないから大丈夫だよ…」
蛇骨鬼は近寄るものの…。
「ひっ!鬼婆…俺に近寄るな!近寄らないで!」
匪賊の鬼婆発言に小猫姫は一瞬失笑する。
「蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんに鬼婆だって♪蛇骨鬼婆ちゃん♪」
匪賊に鬼婆と発言された蛇骨鬼は身震いするなり…。力強く睥睨した表情で匪賊に怒号したのである。
「誰が鬼婆だって!あんたは私に食い殺されたいのかい!?」
「ひっ!失礼しました…女神様…」
「蛇骨鬼婆ちゃんが女神様って♪」
匪賊の女神様発言に小猫姫は大笑いする。
「金輪際悪さしないから俺を食い殺さないで…」
匪賊は恐る恐る後退りするなり…。落涙した様子で一目散に荒神山から逃走したのである。
「妖女は懲り懲り!」
全力疾走する匪賊に蛇骨鬼と小猫姫は非常に困惑する。
「一体何事だったのかね?」
「如何して逃走しちゃったのかな?」
「私が精霊だからかね?私にも何が何やら…」
「蛇骨鬼婆ちゃんに鬼婆とか女神様って失言しちゃったのは大笑いしちゃったよ♪」
揶揄する小猫姫に蛇骨鬼は赤面したのである。
「小猫姫…今回の荒神山での出来事は私とあんただけの秘密だからね!絶対に誰かに喋ったら承知しないよ!」
蛇骨鬼は小猫姫に断言するものの…。
「今回の出来事を桜花姫姉ちゃんに喋っちゃおうかな♪面白かったし♪」
小猫姫の返答に蛇骨鬼は怒号する。
「小猫姫!桜花姫ちゃんに喋ったら承知しないからね!勿論私とあんたの二人だけの秘密だよ!」
すると小猫姫の腹部から腹鳴が響き渡る。
「えっ…」
「小猫姫♪空腹感かね…」
小猫姫は腹鳴により赤面する。
「戻って夕食だね♪小猫姫♪」
「勿論だよ♪蛇骨鬼婆ちゃん♪戻ろう♪戻ろう♪」
蛇骨鬼と小猫姫は西方国へと戻ったのである。
完結
メンテ
桜花姫 ( No.14 )
日時: 2021/08/14 22:10
名前: 月影桜花姫

特別編

第一話

武陵桃源

戦乱時代の出来事である。天地歴二千八百五十年の中頃より太平神国は東西南北の四国に分裂…。各陣営の領主達が全身全霊で国全体の主導権の争奪戦に尽力する。頻発する戦乱の悪影響からか各村落では神出鬼没の悪霊が出没するとの超状現象も日に日に頻発したのである。戦乱によって死去した亡者達は勿論…。動植物の亡霊も多数出現する。戦乱時代末期の出来事である。天地歴三千九年十一月中頃…。最大勢力である東方国よりとある若武者の美青年と家来が武陵桃源の西方国へと移動したのである。西方国へと到達すると家来が真夜中の田畑を眺望する。
「西方国に到着しましたよ!正真正銘武陵桃源ですな♪」
美青年の若武者も西方国の広大無辺の茶畑を眺望したのである。
「西方国が武陵桃源なのは事実だったのか…こんなにも戦乱が頻発する時代で…西方国だけは本当に桃源郷だな…」
若武者の名前は【夜桜崇徳丸】…。東方国出身の最上級武士であり名門の夜桜一族の長男である。家来は恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「ですが崇徳丸様?如何して崇徳丸様はこんなにも田舎村の西方国なんかに視察されたかったのですか?」
理由を問い掛けられた崇徳丸は一息するなり…。無表情で返答する。
「私は…武陵桃源の西方国で定住したかったからな…」
崇徳丸の返答に家来は驚愕したのである。
「崇徳丸様!?突発的に何を!?西方国に定住されるなんて…本気なのですか?」
驚愕する家来に崇徳丸は即答する。
「勿論…私は本気だよ…」
「崇徳丸様…突然如何されたのですか?ひょっとして再起不能の疫病にでも?」
「疫病なんて…貴様は大袈裟だな…」
「崇徳丸様は名門の夜桜一族の最上級武士なのですよ!最上級武士の崇徳丸様がこんなにも田舎村の西方国なんかに移住されるなんて♪」
夜桜一族は名門の武家一族であり崇徳丸は最上級武士としては勿論…。東方国の軍神として大勢の敵兵達を斬撃する。崇徳丸は家来の発言に苛立ったのか表情が険悪化するなり家来を睥睨したのである。
「結局は貴様も…」
「えっ?」
崇徳丸の目力に家来は圧倒される。
「崇徳丸様…如何されたのですか?」
崇徳丸は一息するなり…。
「本日より私は東方国…武家一族の夜桜一族とは絶縁する…金輪際私は東方国へは戻らないからな…」
「絶縁ですと!?崇徳丸様は突然何を…」
家来は崇徳丸の突発的発言に混乱したのである。警戒した様子で恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「絶縁なんて…崇徳丸様は本気なのですか!?」
「私は本気だよ…」
崇徳丸は即答したのである。
「是非とも貴様には感謝しなければ…こんな私なんかと一緒に田舎村の西方国に随伴して…」
「崇徳丸様?」
崇徳丸は即座に護身用の刀剣を抜刀するなり家来を威嚇したのである。
「なっ!?崇徳丸様!?一体何を!?」
崇徳丸の表情から本気の殺意を感じる。
「命拾いしたければ…即刻私から逃走しろ…」
「ひっ!」
家来は戦慄するなり闇夜の自然林へと一目散に逃走する。
「邪魔者は逃走したな…」
崇徳丸は恐る恐る西方国へと潜入したのである。田舎村の西方国は人口増の東方国とは桁違いの少人数であり崇徳丸は内心一安心する。
(西方国は極楽浄土を想念させる場所だな…)
すると西方国の天霊山と命名される低山から露天風呂の薫風が西方国全体に浸透化したのである。
「温泉郷の薫風っぽいな…」
気になった崇徳丸は薫風を目印に天霊山へと疾走する。数分間で天霊山の天辺へと到達…。天霊山の天辺中心部には神秘性を感じさせる石造りの露天風呂が確認出来る。
「正真正銘温泉郷だったとは…」
恐る恐る露天風呂を凝視し続けるなり…。
「ん?」
露天風呂には一人の女性らしき小柄の人影が確認出来る。
(誰かと思いきや…小柄の女性っぽいな…)
露天風呂の湯気によって誰が入浴中なのかは不明瞭であるものの…。小柄の人影は人間の女性であると認識出来る。驚愕した崇徳丸は胸騒ぎを感じるなり…。即座に岩陰にて入浴中の女性の様子を眺望する。
(入浴中みたいだが…彼女は一体何者なのか?人間なのかな?)
「本物の天女みたいだ…」
女性は非常に神秘的雰囲気であり崇徳丸は人間の女性なのか疑問視したのである。黒毛の長髪…。両目の瞳孔は半透明の血紅色であり非常に異質的である。何よりも気になったのは彼女の巨乳のおっぱいであり普段は人一倍生真面目の崇徳丸も女性のおっぱいに見惚れる。
「なっ!?」
(私は一体全体何を…私にとって本来の天敵とは私自身の下心なのかも知れないな…)
崇徳丸は極度の忍耐力により自分自身の性欲を抑圧するものの…。女性の様子が気になるのか赤面した様子で恐る恐る覗き見したのである。
(私は名門の武家一族…夜桜一族の最上級武士なのだぞ!)
すると崇徳丸の背後より…。突如として何者かが崇徳丸の後頭部を棍棒で力一杯打擲したのである。
「ぎゃっ!」
強烈なる打撃力により崇徳丸は地面に横たわる。
「助平!変態男!」
力一杯崇徳丸の後頭部を打擲したのは茶髪の小柄の女性であり地面に横たわった崇徳丸を凝視…。強烈なる目力で彼を睥睨する。
「ぐっ!貴様…突然何しやがる…」
腹立たしくなった崇徳丸も茶髪の女性に睥睨し返したのである。
「あんたは敵国の刺客ね!?私の【桃子姫】姉ちゃんに手出しするなら私は手加減しないからね!」
崇徳丸は強気の彼女に圧倒される。
「なっ!?私は…別に…何も…」
すると入浴中だった桃子姫が全裸の状態で恐る恐る岩陰へと近寄る。
「如何しちゃったの…【胡桃姫】?一体何事かしら?」
「桃子姫姉ちゃん!敵国の刺客よ!彼が入浴中の桃子姫姉ちゃんを覗き見したのよ…」
「えっ?覗き見ですって?誰が覗き見したの?」
桃子姫は極度の鈍感なのか危機感が皆無だったのである。
(桃子姫姉ちゃん…本当に鈍感だわ…)
桃子姫の様子に胡桃姫は苦笑いする。沈黙した崇徳丸であるが即座に反論したのである。
「別に覗き見なんて…私は敵国の刺客ではなく東方国出身の夜桜崇徳丸ですよ!一兵卒の身分ですが守護するべき女性には手出ししませんから…」
「東方国ですって?」
崇徳丸は彼女達に東方国から西方国に来訪した経緯を一部始終告白する。
「戦乱に嫌悪感がね…」
「ですが祖国と一族を絶縁するなんて…」
「何よりも私にとって祖国と一族は呪縛でしたからね…正直解放されたかったのですよ…」
すると崇徳丸は笑顔で…。
「ですが西方国が武陵桃源なのは事実みたいですね♪俗界の天国ですな…」
崇徳丸は満足気に発言する。
「夜桜崇徳丸様だったかしら?胡桃姫が勘違いしちゃったみたいで大変失礼しました…」
桃子姫は恐る恐る崇徳丸に謝罪したのである。謝罪する桃子姫に崇徳丸は笑顔で返答する。
「桃子姫様ですかね♪気になさらないで…私なら大丈夫ですから♪」
すると胡桃姫が笑顔で…。
「崇徳丸様が助平で変態男なのは事実よね♪」
揶揄する胡桃姫に崇徳丸は苦笑いする。
「私は別に…何も…」
すると桃子姫は崇徳丸を揶揄する胡桃姫に怒号したのである。
「胡桃姫!崇徳丸様に失礼でしょう!崇徳丸様に謝罪しなさい!」
「御免あそばせ♪夜桜崇徳丸様♪」
胡桃姫は笑顔で謝罪する。
「胡桃姫様…私なら気にしませんから大丈夫ですよ♪」
「崇徳丸様…」
胡桃姫は崇徳丸を人一倍温厚篤実であると感じる。
「私達は失礼しますね…」
桃子姫と胡桃姫は崇徳丸に黙礼するなり恐る恐る村里の家屋敷へと戻ったのである。すると胡桃姫は下山中に恐る恐る…。
「桃子姫姉ちゃん?」
「何よ…胡桃姫?」
「桃子姫姉ちゃんが赤面しちゃうなんてね♪ひょっとして桃子姫姉ちゃんは崇徳丸様に見惚れちゃったのかしら♪」
胡桃姫は桃子姫を揶揄する。
「胡桃姫!私は別に…崇徳丸様に恋心なんて…」
桃子姫は反論するものの…。
「崇徳丸様が誰よりも紳士的なのは事実かしらね…」
「崇徳丸様は助平で変態男だけどね♪」
「胡桃姫…彼に失礼よ…」
「御免あそばせ♪桃子姫姉ちゃん♪」
胡桃姫は笑顔で謝罪する。すると周辺の暗闇の自然林から無数の気配を感じる。
「えっ!?何かしら?」
「気配だわ…」
数秒後…。暗闇の自然林から四人の無頼漢達が出現するなり下山中の桃子姫と胡桃姫を包囲したのである。
「あんた達は一体何者よ!?」
「ひょっとして彼等は匪賊かしら?」
「匪賊なんて失礼だな…俺達は南方軍の最精鋭の最上級武士だぞ♪」
「姉ちゃん達よ♪殺されたくなったから大人しく俺達に金品を手渡しな…」
匪賊達は即座に刀剣を抜刀する。
「今回の相手は非武装の姉ちゃん達だからな♪俺達でも楽勝で打っ殺せるぜ♪」
胡桃姫は匪賊達に睥睨したのである。
「何が最精鋭の最上級武士よ!守護するべき女性に手出しするなんてあんた達は本当に最上級武士なの!?」
相手は屈強の無頼漢達であるものの…。胡桃姫は強烈なる目力により彼等に威嚇したのである。
「姉ちゃんよ…あんたは随分強気だな♪」
「俺達は南方軍の最上級武士だからな♪南方国の女子達だったら守備するぜ♪所詮姉ちゃん達は敵国の人間だから対象外なのさ♪」
匪賊達は失笑する。すると桃子姫は恐る恐る…。
「胡桃姫…私達殺されちゃうよ…」
桃子姫は極度の恐怖心により涙腺から涙が零れ落ちる。
「桃子姫姉ちゃん…」
(畜生…如何すれば…)
胡桃姫と桃子姫は戦慄したのか恐る恐る後退りしたのである。
「一安心しな♪姉ちゃん達は即刻安楽死させるからよ♪」
直後…。
「ぐっ!」
何者かによって投擲された石ころにより小柄の匪賊を気絶させる。
「なっ!?」
「一体誰が!?」
彼等は驚愕する。すると匪賊達の背後より…。
「貴様は一体何者だ!?」
匪賊達の背後には若齢の美青年が出現する。
「本来なら守備するべきか弱き女性を相手に…経世済民の武士達が多人数で手出しするとは言語道断だな!か弱き女性に手出しする愚人達は私が即刻征伐する…」
美青年の出現に桃子姫と胡桃姫は一安心したのである。
「ひょっとして夜桜崇徳丸様!?」
「あんただったのね♪」
すると匪賊達が恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「夜桜崇徳丸って…貴様は東方国の軍神…夜桜崇徳丸なのか!?」
匪賊達の問い掛けに崇徳丸は即答したのである。
「無論!私が東方国の若武者…夜桜崇徳丸だからな…」
「誰かと思いきや…貴様が名門の武家一族…夜桜一族の夜桜崇徳丸だったとは…」
すると巨漢の無頼漢が崇徳丸に睥睨するなり…。
「今回は俺達にとって好都合だ!俺達南方軍の戦友達は東方軍の荒武者達によって大勢惨殺されちまったからな…復讐するには絶好機!」
巨漢の匪賊が崇徳丸に殺到する。
「敗残兵の分際で…」
崇徳丸は無表情で即座に刀剣を抜刀するなり…。
「ぐっ!」
一瞬の身動きによって巨漢の匪賊を瞬殺したのである。巨漢の匪賊は多量の出血により地面に横たわる。崇徳丸の超人的瞬発力と剣術に周囲の匪賊達は勿論…。桃子姫と胡桃姫も愕然とする。
(崇徳丸様って誰よりも勇猛果敢で男前だわ♪)
桃子姫は崇徳丸の瞬発力と剣術を直視するなり…。崇徳丸に見惚れたのである。
(如何やら私は勘違いしたみたいね…崇徳丸様は単なる変態男ではなく正真正銘剣客だったのね…桃子姫姉ちゃんが崇徳丸様に見惚れちゃうのも納得出来るわ♪)
胡桃姫も崇徳丸に魅了される。
「私に殺されたくなければ即刻逃走するのだな…」
「ひっ!打っ殺されちまう!逃げろ!」
匪賊達は崇徳丸に戦慄したのか一目散に逃走する。
「大丈夫でしたか?桃子姫様?胡桃姫様?」
桃子姫は笑顔で即答したのである。
「私達なら大丈夫よ♪感謝します…崇徳丸様…」
「か弱き女性を守護するのは当然の行為です…桃子姫様と胡桃姫様が無事なのが何よりですよ♪」
すると胡桃姫が笑顔で発言する。
「あんたって正真正銘剣客だったのね♪誰よりも男前だし♪」
「私が男前なんて…胡桃姫様は非常に大袈裟ですな♪」
(私が男前ですって♪)
崇徳丸は胡桃姫の男前発言に赤面するものの…。内心では大喜びしたのである。
「崇徳丸様?」
桃子姫は赤面するなり…。
「如何されましたか?桃子姫様?」
「私達の家屋敷で居候しない?」
「居候ですと!?私が…」
崇徳丸は驚愕する。
「西方国は全体的に独特で閉鎖的だからね…」
「こんな見ず知らずの私が桃子姫様と胡桃姫様の家屋敷に居候しても大丈夫なのですか?」
桃子姫は笑顔で即答したのである。
「崇徳丸様が居候するなら私は大喜びですよ♪」
すると胡桃姫も笑顔で発言する。
「私も桃子姫姉ちゃんと同意見よ♪崇徳丸様が変態男だけど勇猛果敢で温厚篤実で人一倍男前だし♪是非とも居候してね♪夜桜崇徳丸様♪」
「えっ…」
(変態男って…)
崇徳丸は胡桃姫の変態男発言に苦笑いするものの…。恐る恐る承諾したのである。
「承知しました♪」
困惑した崇徳丸であるが…。内心では一安心した様子だったのである。
メンテ
桜花姫 ( No.15 )
日時: 2021/08/14 22:12
名前: 月影桜花姫

第二話

亡霊

桃子姫と胡桃姫との居候から一週間後…。安穏であった西方国では無数の悪霊による超常現象が頻発したのである。崇徳丸が昼寝中にて胡桃姫が大急ぎで…。
「崇徳丸様!大変よ!」
「うわっ!如何されましたか胡桃姫様!?」
大急ぎの彼女に崇徳丸は驚愕する。
「一体何事ですか?」
「村人が…村人が何者かによって殺されたの…」
「えっ!?村人が殺されたって?一体何が…」
崇徳丸は即刻胡桃姫と一緒に近隣の麦畑へと疾走したのである。麦畑には大勢の村人達が殺到する。
(何事でしょうか?)
崇徳丸と胡桃姫は恐る恐る麦畑へと潜入するなり…。崇徳丸と胡桃姫は身震いしたのである。
「一体何が…誰がこんな…」
麦畑の中心部には無数の肉片やら腐敗した血肉が散乱する。すると隣接する村人が恐る恐る発言したのである。
「野犬の悪霊の仕業だよ…」
「野犬の悪霊ですって?」
「先日の真夜中だったかな?俺は山奥の樹海で人間の血肉を咀嚼する野犬の悪霊を目撃しちまってよ…周辺は暗闇だったが確実に野犬の悪霊だって認識したよ…」
胡桃姫は恐る恐る隣接する村人に質問する。
「野犬の悪霊って何よ?」
「野犬の悪霊は別名【死霊餓狼】って命名される動植物の悪霊だよ…人間に殺されちまった怨恨で妖怪化しちまった野良犬の化身かな…」
「死霊餓狼ですか…」
死霊餓狼とは無数の動植物が妖怪化した悪霊であり非常に獰猛で肉食である。人間達によって惨殺された無数の動植物の怨恨が融合化した無念の集合体であり憎悪するべき人間が死霊餓狼に遭遇した場合…。遭遇した人間は即刻食い殺される。
「殺された村人は死霊餓狼によって惨殺されたのでしょうか…」
すると突然…。
「ん!?」
(胸騒ぎか!?)
崇徳丸は極度の胸騒ぎを感じる。
「崇徳丸様?大丈夫?」
警戒する崇徳丸に胡桃姫は非常に不安がる。
「胡桃姫様…戦慄させちゃいましたね…失礼しました♪」
崇徳丸は苦笑いするものの…。表情が険悪化したのである。
(私が感じるのは…ひょっとして殺気でしょうか!?)
険悪化した表情で恐る恐る胡桃姫を凝視するなり…。
「胡桃姫様…ひょっとすると一大事かも知れません…」
「一大事ですって?何が一大事なのよ?」
「先程から極度の胸騒ぎを感じるのです…胸騒ぎの正体が人間なのか悪霊なのかは断言出来ませんが…西方国に急接近中です…」
「ひょっとして死霊餓狼かしら…」
胡桃姫は恐る恐る返答する。
(死霊餓狼…)
「死霊餓狼の可能性は否定出来ませんね…」
崇徳丸は険悪化した表情で…。
「胡桃姫様…」
「何よ…崇徳丸様?」
「胡桃姫様は即刻家屋敷に戻りなされ…」
胡桃姫は崇徳丸の目力に圧倒される。
(普段は温厚篤実の大仏様みたいな崇徳丸様が…こんなにも仁王様みたいな表情なんて余程の一大事みたいね…)
胡桃姫は恐る恐る…。
「無理は禁物だからね…崇徳丸様…」
「勿論ですとも…胡桃姫様…」
胡桃姫は即刻自宅へと戻ったのである。
「胡桃姫様は自宅に戻られましたね…」
(私は即刻…)
崇徳丸は即座に殺気の感じる近辺の連山へと全力疾走する。連山の獣道を通過中…。先程よりも胸騒ぎの元凶が刻一刻と急接近するのである。
(殺気を感じる…)
「獣道では一体何が?」
すると背後より…。
「背後!?」
崇徳丸は即座に背後を警戒する。
「此奴は本物の怪物なのか…」
(こんなにも荒唐無稽の怪物が実在するなんて…)
崇徳丸の背後に出現したのは満身創痍の野犬の化身であり左脚と右側の前頭部は白骨化した状態である。
(ひょっとして此奴が…)
「野犬の悪霊…死霊餓狼だな…」
血塗れの腐敗した皮膚と極度の出血により極度の悪臭は勿論…。死霊餓狼の表情から極度の悲痛さを感じさせられる。
「此奴が悪霊なのは確実だな…」
崇徳丸は恐怖心からか身震いする。
(今回の敵対者は人間ではなく正真正銘悪霊だからな…私の『牢固石』の刀剣で仕留められるのか?)
牢固石とは南方国の金剛山で発掘された不朽性の鉄鉱石である。従来型の金剛石を傑出する金剛不壊さと半永久的に原物を持続し続けられる耐久性により名門の武家一族のみが保有を認許される。
「死霊餓狼よ…私が悪霊の貴様を成仏させる!」
強大なる悪霊相手の戦闘は前代未聞であるものの…。崇徳丸は即座に刀剣を抜刀する。死霊餓狼は崇徳丸を睥睨するなり超特急で突進したのである。
「即刻とは!」
崇徳丸は即座に死霊餓狼の突進を回避する。突進を回避した崇徳丸は即刻死霊餓狼に急接近するなり…。
「成仏せよ!」
死霊餓狼に斬撃したのである。
「なっ!?」
渾身の斬撃であったが寸前で回避される。
「私の斬撃を回避するなんて…」
すると死霊餓狼が全身を武者震いさせるなり…。
「ん?」
死霊餓狼は口先より超高温の火球を射出したのである。
「鬼火だと!?」
(ひょっとして妖術なのか!?)
崇徳丸は射出された火球を即座に一刀両断…。危機一髪死霊餓狼の火球を無力化したのである。寸前の一刀両断により火球は切断されたものの…。切断された火球は崇徳丸の背後にて爆散する。
(こんなにも規格外の破壊力とは…牢固石の刀剣ではなく凡庸の刀剣であれば確実に屈折したな…)
超高温の火球を切断した影響からか牢固石の刀剣が火球の熱量により灼熱したのである。
「死霊餓狼は予想外の強敵だが…」
(私が死霊餓狼に殺されれば十中八九桃子姫様と胡桃姫様が殺されるかも知れない…)
崇徳丸は如何するべきなのか混乱する。
(畜生…私は如何すれば…)
すると天空が黒雲により覆い包まれる。
「黒雲だと?」
死霊餓狼の霊力が先程よりも増大化したのである。
「死霊餓狼から極度の殺気を感じる…」
天空の黒雲を恐る恐る直視する。数秒後…。
「うわっ!」
落雷攻撃により黒雲から強烈なる稲光を落下させる。
(落雷なのか!?)
崇徳丸は即座に死霊餓狼の落雷攻撃を回避する。落雷には無事回避したものの…。落雷によって地面が半球型に陥没したのである。半球型に陥没した地面を直視するなり崇徳丸は戦慄する。
(こんなのが頭部にでも直撃すれば私は確実に絶体絶命だったな…)
死霊餓狼は背後から崇徳丸に突進するものの…。
(背後だと!?)
崇徳丸は即座に死霊餓狼の気配を察知する。背後から突進する死霊餓狼の左辺の前脚を斬撃…。左辺の前脚を切断された死霊餓狼は断末魔の悲鳴により横たわったのである。崇徳丸は恐る恐る横たわった死霊餓狼へと近寄る。
「悪霊…成仏しろ…」
斬撃する寸前…。
「畜生…」
死霊餓狼の悲憤慷慨の表情を直視すると非常に心苦しくなる。
(即座に死霊餓狼を仕留めなければ…西方国の村里は勿論…桃子姫様と胡桃姫様が殺されるかも知れないのに…)
すると突然…。
「愚劣なる人間よ…」
虫の息であった死霊餓狼が人間界の公用語で発語したのである。
「えっ?」
(死霊餓狼は喋れるのか!?)
崇徳丸は人語で発語した死霊餓狼に驚愕する。
「ひょっとして死霊餓狼は…喋れるのですか?」
驚愕した崇徳丸であるが恐る恐る死霊餓狼に問い掛けたのである。数秒後…。崇徳丸の問い掛けに死霊餓狼は即答したのである。
「無論である…」
普通なら驚愕する場面であるものの…。崇徳丸は人語の通じる相手に内心一安心したのである。死霊餓狼は崇徳丸を凝視するなり…。
「貴様は人間の…武士であるな…」
「如何して死霊餓狼は西方国の村人達を襲撃するのですか!?死霊餓狼にとって彼等は無関係なのでは…」
死霊餓狼は崇徳丸の発言に反論する。
「奴等が無関係であると?貴様達人間の殺し合いによって自然界は汚染された…私は人間達によって惨殺された動植物の霊魂の集合体である…」
「動植物の霊魂ですと…」
死霊餓狼とは人間達によって惨殺された多種多様の動植物の霊魂が融合化した悪霊の集合体であり各地で戦乱を頻発させる人間達を憎悪する。
「私自身も人間であり一兵卒の身分ですが…頻発する戦乱の世の中を毛嫌いするからこそ武陵桃源の西方国に移住したかったのです…悪霊の死霊餓狼も私達人間によって自然界を汚染されたかも知れませぬが…西方国の村人達には手出ししないと約束出来ないでしょうか?」
崇徳丸は死霊餓狼に哀願したのである。
「西方国は戦乱とは程遠い場所なのです…如何しても手出ししたいのであれば部外者である私のみで…」
死霊餓狼は崇徳丸の発言に影響されたのか霊力が弱体化する。
「貴様は武士の人間であるが非常に人格者であるな…是非とも勇猛果敢の貴様には呪詛しなければ…」
「呪詛ですと!?」
すると突然…。
「ぐっ!」
(全身から熱気が…)
体内より強烈なる熱気を感じる。
「人格者の貴様には私の呪力を分け与えた…戦乱を頻発させる大勢の極悪非道の人間達を呪殺するべし…」
「呪殺ですと?私に死霊餓狼の呪力で大勢の人間を殺せと…」
「勿論…貴様なら出来る…大勢の人間達を殺せ…」
返答した直後…。死霊餓狼は衰弱化するなり満身創痍の肉体が白骨化したのである。白骨化した死霊餓狼の死骸からは殺気は感じられない。
「死霊餓狼が…」
すると数秒後…。背後より桃子姫と胡桃姫が恐る恐る崇徳丸に近寄る。
「崇徳丸様!」
「崇徳丸様!?大丈夫ですか?」
「桃子姫様と胡桃姫様でしたか…」
桃子姫は力一杯崇徳丸に密着したのである。
「崇徳丸様が無事で…無事で何よりです…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
(桃子姫様…こんな私を心配して…)
内心嬉しくなる。崇徳丸は桃子姫に笑顔で…。
「ですが私にとって桃子姫様と胡桃姫様が無事なのが何よりですよ♪」
「崇徳丸様…」
すると胡桃姫が背後の白骨化した死霊餓狼に気付いたのである。
「ひょっとして野犬の遺骨かしら?」
「死霊餓狼の死骸ですよ…」
「死霊餓狼の?白骨化した野犬みたいね…」
胡桃姫は恐る恐る白骨化した死霊餓狼の死骸に接触する。
「えっ?」
「一体如何されましたか?胡桃姫様?」
胡桃姫は白骨化した死霊餓狼の頭蓋骨より正体不明の金属類の破片を発見したのである。
「何かしら?えっ…」
「如何やら金属類の…破片ですね…」
胡桃姫は愕然とした表情で…。
「ひょっとして火縄銃の弾丸かしら…」
すると崇徳丸が発言する。
「ひょっとすると死霊餓狼の正体は人間達によって惨殺された野犬の亡霊だったのでしょう…」
「死霊餓狼の正体は人間に殺された野犬の亡霊だったのね…」
一同は戦乱の悲劇を痛感したのである。
「如何して人間達って殺し合うのかしら…」
桃子姫は無表情で発言する。
「桃子姫様…」
「桃子姫姉ちゃん…」
崇徳丸と胡桃姫は困惑するものの…。
「人間とは非常に強欲ですからね…結局は誰しもが強欲だからこそ大勢で殺し合うのでしょうね…こんな私も彼等の一員ですがね…」
気難しく発言するが数秒後に崇徳丸は笑顔で断言する。
「ですが西方国は正真正銘武陵桃源です!私自身出身地の東方国よりも武陵桃源の西方国が大好きですよ♪今回みたいに神出鬼没の無礼者が出現したとしても私は全身全霊で西方国を守護しますから…」
崇徳丸は天空を眺望するなり恐る恐る…。
「戻りませんか?」
すると胡桃姫が笑顔で発言する。
「戻りましょう♪祝賀会よ♪」
「祝賀会ですと?誰の祝賀会でしょうか?」
崇徳丸は恐る恐る問い掛ける。
「勿論崇徳丸様の祝賀会よ♪」
「えっ…私の祝賀会ですか?」
崇徳丸は動揺する。
「私達は崇徳丸様に守護されてばかりだし♪私達からも精一杯恩返ししないとね…」
崇徳丸は非常に困惑したのである。
「別に恩返しなんて…大袈裟ですな…」
「崇徳丸様は遠慮深いのね♪」
「遠慮しないで崇徳丸様♪」
「生憎ですが私は別に…何も…」
崇徳丸は気恥ずかしくなる。桃子姫は恐る恐る…。
「崇徳丸様は梅酒とか大丈夫?」
崇徳丸は即答する。
「生憎ですが…私は酒類が苦手なのです…」
「意外だね…」
すると突然…。
「ぐっ!」
突発的に息苦しくなり卒倒したのである。
「崇徳丸様!?」
「崇徳丸様!?大丈夫!?」
すると崇徳丸の全身より血紅色の発光体が無数に出現する。
「きゃっ!血紅色の発光体だわ…」
「何かしら…」
彼女達は恐る恐る血紅色の発光体に接触するものの平然とした様子である。数秒後…。崇徳丸は平常心の様子で目覚める。
「えっ?桃子姫様と胡桃姫様?如何されたのですか?」
「崇徳丸様…大丈夫ですか?突然卒倒されて…」
桃子姫は極度の心配性であり崇徳丸に気遣ったのである。
「私が卒倒ですと!?一体私に何が…」
崇徳丸は驚愕する。
「あんたが突然気絶しちゃったから…一瞬膠着しちゃったわ…」
胡桃姫は不機嫌そうに発言したのである。
「心配させちゃいましたね…大変失礼しました…」
崇徳丸は二人に謝罪する。
「別に謝罪しなくても…」
桃子姫は苦笑いしたのである。
「桃子姫様と胡桃姫様…即刻家屋敷に戻りましょう!悪霊は退治しましたから一先ずは安心ですよ♪」
崇徳丸は笑顔で先走る。無表情だった胡桃姫は崇徳丸の様子に身震いするなり恐る恐る問い掛ける。
「桃子姫姉ちゃん?」
「何よ…胡桃姫…」
「彼って…悪霊の死霊餓狼に呪詛されちゃったのかも知れないわね…」
胡桃姫は超常現象やら超自然関連の宗教学が人一倍大好きであり独力で勉学したのである。
「呪詛ですって?」
「桃子姫姉ちゃんも肉眼で認識したでしょう?血紅色の発光体を…」
「血紅色の発光体…」
「崇徳丸様は死霊餓狼の怨恨に憑霊されちゃったのよ…」
「崇徳丸様が死霊餓狼の怨恨に憑霊されたって?」
桃子姫は胡桃姫の発言に困惑する。
「現段階では断言は出来ないけれども…今後私達も彼に…崇徳丸様に殺されちゃうかも知れないわ…」
不安視する胡桃姫に桃子姫が猛反発したのである。
「胡桃姫!崇徳丸様に失礼よ…彼が…誰よりも温厚篤実の崇徳丸様が私達に手出しするなんて荒唐無稽だわ…」
「桃子姫姉ちゃん!大昔の伝承では自然界の悪霊を征伐した人間が悪霊に憑霊されて…大勢の村人達を殺戮したのよ…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「崇徳丸様は…」
「桃子姫姉ちゃん…」
胡桃姫は桃子姫に接触するなり…。
「現時点では大丈夫かも知れないけれども…金輪際崇徳丸様とは注意深く接触しましょう…崇徳丸様が私達に手出しするのか如何なのかは断言出来ないけれどね…」
「胡桃姫…」
メンテ
桜花姫 ( No.16 )
日時: 2021/08/14 22:13
名前: 月影桜花姫

第三話

世界樹

死霊餓狼の出現から数日後の出来事である。桃子姫は暇潰しに西方国の天霊山へと登山中…。摩訶不思議なる薫風と虹色に発光する広葉樹に魅了されたのである。
「何かしら…」
彼女は恐る恐る虹色の広葉樹へと近寄る。
「摩訶不思議の異世界みたいだわ…」
桃子姫は無我夢中に広葉樹の表面へと恐る恐る接触したのである。すると直後…。彼女は強烈なる睡魔によって熟睡したのである。同時刻…。家屋敷にて昼寝中だった崇徳丸は恐る恐る胡桃姫の自室へと入室する。
「胡桃姫様…失礼します…」
「崇徳丸様…何かしら?」
「胡桃姫様?桃子姫様は出掛けられたのですか?」
「桃子姫姉ちゃんなら暇潰しに登山中よ♪」
「桃子姫様は登山中でしたか…」
崇徳丸は桃子姫に対面したくなる。
「彼女が暇潰しであれば…私も暇潰しに…」
すると胡桃姫は険悪化した表情で…。
「崇徳丸様…桃子姫姉ちゃんには絶対に手出ししないでよ…」
「えっ…」
崇徳丸は赤面する。
「胡桃姫様!私は別に桃子姫様に手出しなんて…」
崇徳丸の返答に胡桃姫は赤面した表情で恐る恐る…。
「崇徳丸様は…人一倍変態男だから…」
「なっ!」
崇徳丸は胡桃姫の発言に気分が消沈したのである。
(私って…胡桃姫様にとって人一倍変態男なのかな…)
すると胡桃姫は身震いするなり恐る恐る問い掛ける。
「崇徳丸様?気分は大丈夫かしら?気味悪くない?」
「気味悪いって…別に私は何も気味悪くないですよ♪」
崇徳丸は笑顔で即答したのである。
「ですが突然如何されたのですか?胡桃姫様?ひょっとして心配事でも?」
「先日だけど崇徳丸様は…死霊餓狼を仕留めた直後に卒倒しちゃったから大丈夫かなって…正直不安だったのよ…」
(胡桃姫様♪こんな私なんかを心配して…)
心配する胡桃姫に崇徳丸は内心大喜びする。
「胡桃姫様は極度の心配性なのですね♪私なら胡桃姫様が気にされなくとも大丈夫ですよ♪意気衝天こそが私にとって唯一の美点ですから♪」
「意気衝天ね…」
断言する崇徳丸に胡桃姫は苦笑いしたのである。数秒後…。
「私は即刻出掛けますね…」
「崇徳丸様…」
崇徳丸は即座に出掛ける。
(桃子姫様の居場所は一体…)
すると突然…。
「えっ?天霊山の自然林から果実の薫風が…」
崇徳丸は果実の薫風を目印に天霊山へと直行したのである。すると天霊山の自然林より桃色の着物姿の女性が地面に横たわるのを発見する。
「えっ…女性!?」
崇徳丸は即座に横たわった女性に近寄る。
(彼女は…)
「桃子姫様!?」
横たわった女性は誰であろう桃子姫だったのである。崇徳丸は身震いした様子で桃子姫に接触したのである。
「桃子姫様!?大丈夫ですか!?桃子姫様!?」
数秒後…。桃子姫は横たわった状態から恐る恐る目覚める。
「えっ…崇徳丸様?何かしら?如何しちゃったの?」
「桃子姫様…一瞬驚愕しましたよ…大丈夫ですか?」
桃子姫の様子に一安心する。心配性の崇徳丸に桃子姫は微笑む。
「崇徳丸様は極度の心配性ね♪」
「桃子姫様…」
「崇徳丸様…汗水が…」
前額部から大量の汗水が流れ出るなり崇徳丸は赤面したのである。
「失礼しました…桃子姫様…」
すると桃子姫が恐る恐る背後を凝視するなり…。
「えっ…摩訶不思議の広葉樹は?」
「摩訶不思議の広葉樹ですと?」
「虹色の広葉樹…無くなったのかしら?ひょっとして私自身の幻覚だったのかしら?」
(虹色の広葉樹ですって?)
崇徳丸は恐る恐る発言する。
「先程…私が天霊山に到達出来たのは果実の薫風…ひょっとすると虹色の広葉樹とは世界樹の霊魂巨神木かも知れませんね…」
「霊魂巨神木ですって?」
崇徳丸は空覚えであるものの…。桃子姫に霊魂巨神木の伝承を説明したのである。
「霊魂巨神木とは森羅万象の造物主ですよ…大昔の伝承では世界樹として有名ですね…」
「森羅万象の造物主?」
「霊力やら神通力やら…摩訶不思議の広葉樹だと認識されますね…噂話では各村落の辺境地で出現するらしいのですが…桃子姫様が神出鬼没の霊魂巨神木に遭遇されたのは運命なのかも知れませんよ…」
「霊魂巨神木は本物の世界樹なのね…」
すると桃子姫は突発的に崇徳丸の腹部に力一杯密着する。
「桃子姫様!?」
力一杯密着する桃子姫に崇徳丸は驚愕する。恐る恐る彼女の表情を直視するなり…。
「桃子姫様…」
桃子姫の涙腺から涙が零れ落ちる。
「崇徳丸様?」
「何ですか?」
「崇徳丸様は…私と胡桃姫に手出ししないよね?殺さないよね?」
崇徳丸は桃子姫の突発的発言に困惑する。
「私が桃子姫様と胡桃姫様に手出しですって!?突然如何されたのですか?」
「胡桃姫がね…」
桃子姫は一部始終崇徳丸に告白したのである。
「死霊餓狼の呪力の悪影響で…私が桃子姫様と胡桃姫様に手出しするのではと心配されたのですね…」
(ひょっとして近頃胡桃姫様が極度に身震いされたのは…死霊餓狼の呪力が主要因だったのか…)
崇徳丸は納得する。崇徳丸は桃子姫に笑顔で断言したのである。
「桃子姫様♪不用意に危惧されなくても大丈夫ですよ!私が死霊餓狼の呪詛なんかで桃子姫様と胡桃姫様に手出ししませんよ♪最悪手出しするのなら私は私自身で自害する覚悟ですから!一安心しなされ♪」
笑顔で断言する崇徳丸に桃子姫は一安心する。
(崇徳丸様…)
すると桃子姫は笑顔で…。
「崇徳丸様♪」
「如何されましたか?桃子姫様…」
彼女は赤面する。
「私と一緒に…天辺の露天風呂で混浴しないかしら?」
(えっ!?私が桃子姫様と混浴ですって!?)
桃子姫の衝撃的発言に崇徳丸は困惑したのである。
「桃子姫様が私みたいな人間なんかと混浴しても大丈夫なのですか?」
崇徳丸は非常に困惑するものの…。桃子姫は笑顔で即答する。
「勿論私は大丈夫よ♪相手が崇徳丸様なら一緒に混浴しても…胡桃姫には内緒にするからね♪」
「ですが混浴する相手が私なんかで本当に大丈夫でしょうか?」
心配する崇徳丸に桃子姫は笑顔で断言する。
「崇徳丸様だからこそ一緒に混浴したいのよ…遠慮しないでね♪」
「桃子姫様が平気なら一安心ですね…」
一息した崇徳丸と桃子姫は天霊山の天辺へと到達するなり…。石造りの露天風呂にて混浴したのである。
(桃子姫様と混浴出来るなんて♪)
崇徳丸は内心大喜びする。桃子姫は恐る恐る崇徳丸に近寄るなり力一杯密着したのである。
「桃子姫様!?突然如何されたのですか!?」
彼女に密着された崇徳丸は気恥ずかしくなる。桃子姫は表情が赤面するなり…。
「崇徳丸様…私は…私は崇徳丸様が…」
桃子姫は一息した直後である。
「崇徳丸様が大好きなの…」
桃子姫の一心不乱の恋心に一瞬膠着化するものの…。
「私だって桃子姫様が大好きですよ♪」
崇徳丸は笑顔で返答する。
「崇徳丸様…」
桃子姫は大喜びの様子であり涙腺から涙が零れ落ちる。
(私は人一倍福運だったわ…私にとって崇徳丸様は運命の男性だったのかも知れないわね…)
大喜びした桃子姫であるが直後…。
「ぐっ!」
桃子姫は突発的に吐血したのである。
「桃子姫様!?大丈夫ですか!?」
桃子姫は悲痛の表情で恐る恐る崇徳丸を凝視する。
「桃子姫様…」
(今迄秘密にしたのに…)
「崇徳丸様…御免なさいね…私は…幼少期から…人一倍病弱だったのよ…」
「病弱ですと!?」
(如何して秘密に…)
崇徳丸は一瞬腹立たしくなるものの…。
(桃子姫様…)
桃子姫の表情を直視するなり沈黙したのである。
「私は疫病で…近頃吐血が増悪しちゃったのよね…」
「疫病ですか…胡桃姫様には相談されなかったのですか?」
「胡桃姫にも相談しなかったのよ…」
「如何して彼女に相談しなかったのですか?」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「疫病神だって…胡桃姫に毛嫌いされたくなかったからよ…」
「ですが即刻胡桃姫様に相談しなければ!胡桃姫様が疫病を理由に桃子姫様を疫病神なんて毛嫌いしませんよ…」
「疫病神だって毛嫌いされるわよ…」
崇徳丸は必死に説得するものの…。桃子姫は納得しない。
(桃子姫様は人一倍頑固ですね…)
内心桃子姫を人一倍頑固であると感じる。
「私は長生き出来ないでしょうね…」
「桃子姫様…」
すると桃子姫は崇徳丸を凝視するなり…。
「私は赤ちゃんを出産したいのよ…」
「なっ!?出産ですって!?」
桃子姫の発言に驚愕する。
「こんなにも病弱なのに出産なんて桃子姫様は正気なのですか!?」
彼女は即答したのである。
「勿論私は正気よ…私自身長生き出来ないからね…」
「桃子姫様…」
崇徳丸は混乱するものの…。
「承知しました…桃子姫様♪」
笑顔で彼女の願望に承諾したのである。崇徳丸は笑顔で承諾したが内心では非常に心苦しくなる。
(桃子姫様が病弱だったなんて…)
崇徳丸は涙腺から涙が零れ落ちる。
メンテ
桜花姫 ( No.17 )
日時: 2021/08/16 20:08
名前: 月影桜花姫

第四話

襲撃

天地歴三千十年五月下旬の出来事である。真夜中…。南国の南軍侍大将と北国の北軍侍大将が武陵桃源の西国を視察するなり密談する。
「西国とは…殺風景の田舎村みたいですね…」
「こんなにも物静かな武陵桃源の西国で無尽蔵の牢固石が確保出来るのでしょうか…」
南国と北国は本来水と油の関係であり両勢力は敵対関係であったものの…。西国の地表に沈黙する無尽蔵の牢固石の確保と両勢力にとって共通の宿敵である東国の打倒を主目的に利害が一致する。
「西国総攻撃は本日の真夜中でしたね…」
「こんなにも田舎村ですからね…翌朝には西国の全域を占拠出来るでしょう…」
「面白くなりますな♪」
彼等は本国へと戻ったのである。同時刻…。妊娠により腹部が肥大化した桃子姫は非常に重苦しい様子であり自宅の居間で寝転ぶ。
「桃子姫姉ちゃん?大丈夫?」
胡桃姫は一日中重苦しく寝転ぶ桃子姫に恐る恐る近寄る。
「私なら大丈夫よ♪気にしなくても大丈夫だからね…胡桃姫…」
胡桃姫は笑顔で…。
「桃子姫姉ちゃん♪桃子姫姉ちゃんも…数日後には一児の母親なのね…」
「御免なさいね…胡桃姫…私は…正直足手纏いだよね?」
近頃の桃子姫は妊娠によって寝転ぶ状態が習慣化する。
「足手纏いなんて…気にしないで♪桃子姫姉ちゃん♪」
胡桃姫は笑顔で返答したのである。
「無事に赤ちゃんを出産出来たら…精一杯恩返しするから♪」
「桃子姫姉ちゃん…」
今現在でこそ胡桃姫は笑顔で接触するのだが桃子姫の妊娠が発覚した当初は猛反発…。当事者である崇徳丸に怒号したのである。数分後…。胡桃姫は家屋敷の庭園にて崇徳丸に接触する。
「崇徳丸様…」
「胡桃姫様…如何されましたか?」
二人は非常に気難しい雰囲気であったものの…。
「崇徳丸様…私は崇徳丸様に頭ごなしに怒号しちゃって御免なさいね…」
胡桃姫は恐る恐る崇徳丸に謝罪する。
「私は崇徳丸様に…崇徳丸様は何も悪くないのにね…」
(揉め事の発端である私が…何も悪くないのかな?)
崇徳丸は苦笑いしたのである。一息するなり…。
「胡桃姫様…私なら大丈夫ですよ♪私は気にしませんから…本来であれば今回の揉め事は胡桃姫様に秘密にした私こそが加害者であり…主原因なのですから…」
崇徳丸は笑顔で返答したのである。
「正直私は…私達は悪霊の死霊餓狼に呪詛された崇徳丸様に殺されるかも知れないって…毎日が息苦しい雰囲気だったのよね…」
「胡桃姫様…」
胡桃姫は一息するなり笑顔で…。
「崇徳丸様が悪霊を征伐してから毎日の生活が息苦しい雰囲気だったけどね♪助平だけど崇徳丸様は純粋に誰よりも人一倍温厚篤実で紳士的だったわ…私は不必要に悲観視し過ぎちゃったみたいね♪」
(助平なのは…)
胡桃姫の助平発言に苦笑いするものの…。崇徳丸は笑顔で返答したのである。
「別に私自身は気にしませんし♪最悪私が桃子姫様と胡桃姫様に手出ししそうになれば私は自害する覚悟ですからね♪」
「崇徳丸様…」
崇徳丸の様子に胡桃姫は一安心する。すると数秒後である。
「胡桃姫様…大変心苦しいのですが…」
何も喋れず数分間沈黙するのだが…。
「崇徳丸様?何が心苦しいの?」
「胡桃姫様…」
崇徳丸は突然涙腺から涙が溢れ出たのである。
「崇徳丸様!?突然如何しちゃったのよ?」
落涙する崇徳丸に胡桃姫は困惑する。
「胡桃姫様…桃子姫様の秘密なのですが…」
「えっ?桃子姫姉ちゃんの秘密ですって?」
崇徳丸は桃子姫が赤子を出産したかった本当の理由を告白したのである。
「えっ…桃子姫姉ちゃんが…不治の疫病に…」
胡桃姫は衝撃的事実に絶句するなり全身が膠着化する。
「桃子姫姉ちゃんは…不治の疫病と闘病中だったのね…」
数秒後…。胡桃姫は平常心に戻ったのである。
「胡桃姫様?」
「近頃…桃子姫姉ちゃんの顔色が病人みたいな様子だったから…」
彼女は涙腺から涙が零れ落ちるなり…。
「長生き出来ないのよね…桃子姫姉ちゃん…」
胡桃姫の発言に崇徳丸は小声で返答する。
「残念ですが…桃子姫様は…」
涙腺から涙が零れ落ちる胡桃姫であるものの彼女は笑顔で…。
「私達は精一杯桃子姫姉ちゃんに助力しないと…」
(胡桃姫様…)
胡桃姫の様子に崇徳丸は一安心したのである。
「勿論ですとも…胡桃姫様…」
胡桃姫と崇徳丸は約束する。同時刻…。南軍と北軍の軍勢が西国の山奥にて合流したのである。
「西国の国境に到達したぞ!総攻撃は本日の真夜中に決行する!」
「翌日の早朝には確実に西国全土を占拠するからな…全軍覚悟せよ!」
両陣営の侍大将が各兵卒達に伝播させる。
「翌日の早朝に西国全土を占拠出来るのか?」
「西国は過疎地だからな…遭遇するとすれば非武装の農民とか♪」
「相手が非武装の農民だったら楽勝だけどな♪」
「手前勝手の殺戮であるが…」
兵卒達は雑談したのである。
「南国の匪賊達の噂話だったかな?近頃何やら東国出身者の夜桜崇徳丸って若武者と遭遇しちまったらしいが…」
南国の匪賊達の噂話により両陣営の兵卒達は突如として戦慄する。
「夜桜崇徳丸だって!?本当なのか!?」
「夜桜崇徳丸って東軍の最上級武士だったよな!?如何して東国出身者の夜桜崇徳丸が過疎地の西国なんかに?」
崇徳丸は各勢力から危惧される剣客の有名人であり各勢力の武将達は勿論…。各勢力の領主達からも戦慄されたのである。
「所詮噂話であるからな…常識的にこんな過疎地に剣客の最上級武士が移住するなんて面白くない冗談だな…」
「戦慄させるなよ…」
両陣営の総大将達が兵卒達に怒号する。
「貴様達!沈黙せよ…」
兵卒達は即座に沈黙したのである。
「今回の総攻撃は非常に容易いが…楽観視するなよ!主戦場が過疎地だったとしても油断大敵であるからな…」
兵卒達が沈黙すると暗闇の森林浴から風音と川音が響き渡る。真夜中の出来事である。崇徳丸は家屋敷の庭園にて真夜中の夜空を眺望するなり極度の胸騒ぎを感じる。
「胸騒ぎかな…」
すると崇徳丸の背後より胡桃姫が恐る恐る近寄る。
「崇徳丸様?」
「うわっ!」
崇徳丸は驚愕する。
「誰かと思いきや…胡桃姫様でしたか…失礼しました…」
「大丈夫?」
「大丈夫って何が?」
「崇徳丸様の表情が非常に重苦しいから…」
崇徳丸は苦笑いするなり返答したのである。
「私の表情が重苦しかったですかね?失礼しました♪」
崇徳丸は苦笑いするものの…。表情が険悪化する。
「ですが胡桃姫様…私は先程から極度の胸騒ぎを感じるのです…」
「胸騒ぎですって?ひょっとして今回も悪霊の気配とか!?」
崇徳丸は一息するなり…。
「大勢の人間達の殺気でしょうか…悪霊の気配とは別物ですね…」
近辺の山奥より大勢の殺気を感じる。
「人間達の殺気?ひょっとしてこんな真夜中に夜戦とか?」
「断言は出来ませんが…」
「武陵桃源の西国で夜戦なんて傍迷惑だわ…」
すると崇徳丸は発言したのである。
「胡桃姫様…私達は即刻家屋敷から脱出しなければ…」
「脱出ですって!?」
胡桃姫は崇徳丸の発言に驚愕する。
「不穏の気配を感じるのです…ひょっとすると今回も一大事かも知れません!即刻家屋敷から脱出しましょう!」
「脱出って…桃子姫姉ちゃんは寝転んだ状態なのよ…突然家屋敷から脱出するなんて無茶よ…」
二人の背後より桃子姫は重苦しい表情で近寄る。
「私なら…大丈夫よ…」
「桃子姫姉ちゃん!?」
「徒歩だけなら自力で出来るわ…」
桃子姫は息苦しい様子であり出歩くのは非常に困難の状態である。
「桃子姫姉ちゃん…無理しないで!桃子姫姉ちゃんには…赤ちゃんが…」
「私は足手纏いだからこそ…徒歩だけでも…」
桃子姫は断言する。
「桃子姫様…」
崇徳丸は承諾したのである。
「即刻桃子姫様も私達と一緒に家屋敷から脱出しましょう…」
すると突然…。南方の山奥より無数の大砲の砲撃音と村人達の阿鼻叫喚が西国全域に響き渡る。
「爆薬かしら!?」
「一触即発ですね…桃子姫様!胡桃姫様!即刻家屋敷から脱出しましょう!」
崇徳丸は敵軍の刺客に警戒するなり恐る恐る自宅から脱出したのである。外部は村人達の鮮血やら肉片が散乱する。
「きゃっ!」
「流血だわ!」
大勢の村人達が一目散に逃走したのである。すると南方の山奥より大勢の鎧兜の兵卒達が西国の麦畑へと進撃する。
「敵襲です!桃子姫様!胡桃姫様!即刻天霊山に避難しましょう!」
「崇徳丸様は如何するのよ!?」
「敵軍は私が撃退しますから…桃子姫様と胡桃姫様は即刻避難を…」
「一人で敵軍を撃退するなんて無謀よ!崇徳丸様も私達と一緒に脱出しましょう!崇徳丸様が殺されちゃったら…私は…」
桃子姫は必死に説得するものの…。
「私なら大丈夫ですよ♪私は東国の軍神です…確実に戻れますから♪約束しましょう…」
胡桃姫は不本意であるものの承諾する。
「無理しないでね…崇徳丸様…」
「胡桃姫!?如何して…」
「桃子姫姉ちゃん…私と一緒に天霊山に逃げましょう…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちるなり即刻天霊山へと逃走したのである。
(彼女達は…避難しましたね…)
崇徳丸は最前線の敵兵達を凝視すると武者震いする。
「敵軍は…南国と北国の軍勢だな…」
すると直後…。極度の熱気により殺意が芽生える。
(私自身…こんなにも殺意が…)
「ひょっとして死霊餓狼の呪力とやらの悪影響なのか…」
大勢の敵兵達が崇徳丸に気付いたのである。
「貴様は…東国の夜桜崇徳丸!?如何して貴様が西国に…」
「噂話は事実であったか…」
「理由は不明瞭だが…東軍の荒武者達によって大勢の戦友達が惨殺されちまったからな!今回は復讐する絶好機だぞ!」
崇徳丸の身体髪膚から無数の血紅色の発光体が出現したのである。
「ん!?」
「崇徳丸の肉体から…一体何が!?」
敵兵達は血紅色の発光体を凝視するなり…。
「ひっ!」
「崇徳丸は怪物なのか…」
彼等は豹変した崇徳丸に戦慄したのか恐る恐る後退りする。
「狼狽えるな!夜桜崇徳丸とて所詮は人間の若武者!斬殺しろ!」
大勢の敵兵達が崇徳丸に殺到した直後…。殺到した敵兵達の頭部が崇徳丸の眼力によって破裂したのである。
「ぎゃっ!」
地面には敵兵達の無数の肉片やら鮮血が散乱する。
「うわっ!」
「ひっ!怪物…」
崇徳丸本人も一瞬驚愕するものの…。平常心へと戻ったのである。
(死霊餓狼の呪力なのか…こんなにも絶大とは…)
敵兵達は崇徳丸に戦慄するものの…。
「鉄砲隊!夜桜崇徳丸を射殺しろ!」
鉄砲隊が最前線にて並列化するなり火縄銃で崇徳丸に狙撃する。崇徳丸は通常の人間をも上回る神速の身動きによって無数の火縄銃の弾丸を一刀両断…。斬撃により無数の弾丸を無力化したのである。崇徳丸は猛反撃するなり神速の身動きによって鉄砲隊に急接近…。鉄砲隊の数人を瞬殺する。
「ひっ!」
「撤退しろ!」
崇徳丸に戦慄した敵兵達は撤退したのである。
「敵軍は撃退したか…」
一安心した直後…。
「ぐっ!」
死霊餓狼の呪力によって右腕の皮膚が腐敗したのである。
(畜生が…死霊餓狼の呪力とやらの悪影響なのか…)
右腕は腐敗と出血により完全に麻痺する。
「右腕が麻痺するなんて…」
すると背後より…。敵軍の狙撃兵によって背中を狙撃されたのである。
「がっ!」
(迂闊だったか…畜生…)
狙撃された崇徳丸は横たわる。
(桃子姫様…胡桃姫様…無事に避難して…赤ちゃんを…)
呪力によって敵軍を撤退させた崇徳丸であるが…。死霊餓狼の呪力の悪影響と敵軍の狙撃により衰弱化したのである。
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桜花姫 ( No.18 )
日時: 2021/08/16 20:09
名前: 月影桜花姫

第五話

妖女

同時刻…。桃子姫と胡桃姫は全身全霊で天霊山へと逃走する。天霊山の天辺へと到達したのである。
「桃子姫姉ちゃん…大丈夫?」
「胡桃姫…私が足手纏いなばかりに…」
「桃子姫姉ちゃん…気にしないで…」
桃子姫は精神的にも肉体的にも疲弊した状態であり山道に横たわったのである。
「桃子姫姉ちゃん!?大丈夫!?」
胡桃姫は横たわる桃子姫に近寄る。
「胡桃姫…足手纏いだよね…私…」
桃子姫の涙腺から涙が零れ落ちる。
「桃子姫姉ちゃん…」
すると突然…。極度の陣痛を感じる。
「ぐっ!」
「桃子姫姉ちゃん!?」
胡桃姫は恐る恐る桃子姫の腹部に接触するなり…。
(ひょっとして出産かしら!?)
胡桃姫は困惑する。
「最悪だわ…」
(私は如何すれば…)
すると彼女達の背後より大勢の敵兵達が彼女達を追撃したのである。
「ん?貴様等は西国の女子達だな♪」
「こんなにも武陵桃源の田舎村に容姿端麗の女子達と出くわしちまうなんて俺達は福運だよな♪」
「如何するよ?正直打っ殺しちまうのが勿体無いよな♪」
火縄銃を武装する狙撃兵により桃子姫が狙撃される寸前…。
(桃子姫姉ちゃんが殺される!)
危惧した胡桃姫は咄嗟の判断により全力疾走したのである。危機一髪横たわった桃子姫を庇護した胡桃姫であるが…。
「ぐっ!」
胡桃姫は横たわる桃子姫の真正面にて敵兵の銃撃により狙撃されたのである。
(桃子姫姉ちゃん…)
胡桃姫は涙腺から涙が零れ落ちるなり地面に横たわる。地面は彼女の鮮血によって赤色に変色する。
「胡桃姫…胡桃姫!?」
桃子姫は力一杯横たわった胡桃姫に近寄る。
「胡桃姫…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「如何して…如何して私なんかを…胡桃姫…」
「桃子姫姉ちゃんが…無事で…何よりだわ…」
胡桃姫は衰弱化したのである。
「桃子姫姉ちゃん…死なないでね…無事に赤ちゃんを…出産してね…」
「胡桃姫…胡桃姫!?」
彼女は息絶える。
(胡桃姫が…死んじゃった…)
極度の無念と悲痛により無気力化するものの…。遠方の森林浴より無数の虹色の発光体を確認したのである。
「えっ…」
(虹色の発光体だわ…一体何かしら?)
桃子姫は精一杯虹色の発光体を目印に疾走する。
「小娘を追尾しろ…」
敵兵達は全力疾走する桃子姫を追撃したのである。彼女は虹色の発光体の居場所へと到達する。無数の発光体の中心部には虹色に発光する広葉樹が確認出来る。
(ひょっとして世界樹の…霊魂巨神木かしら…)
虹色に発光する広葉樹とは半年前に遭遇した世界樹の霊魂巨神木である。桃子姫は恐る恐る霊魂巨神木へと近寄るなり広葉樹の表面に接触する。
(私は…結局私は如何するべきだったの?本来なら私が殺されるべきだったのに…如何して胡桃姫が殺されたのよ?父様と母様だって如何して匪賊に殺されたのよ…)
桃子姫の両親は二十年前に匪賊によって惨殺されたのである。
(如何して私の家族は誰かに殺されるの?天罰なの?)
極度の悲哀と怒気が増大化する。すると霊魂巨神木の小枝から虹色に発光する果実を発見するなり…。
(虹色なんて…摩訶不思議の果実だわ…)
桃子姫は恐る恐る虹色の果実を確保する。確保した果実を無我夢中に菜食したのである。すると彼女は超常現象により全身から無数の血紅色の放射体が出現する。
「ん?一体何が?」
「小娘は妖怪化したのか…」
大勢の敵兵達が到達したものの彼女の雰囲気から恐る恐る後退りしたのである。
「狼狽えるな!妖怪化したとしても所詮は人間の小娘!大勢で小娘を根絶やしにせよ…」
桃子姫の血紅色であった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。
「沈黙しなさい…」
彼女が殺気立った眼力によって周囲の敵兵達を力強く睥睨した直後…。
「なっ!?ぎゃっ!」
突如として最前線の敵兵達の頭部が破裂する。地面に無数の血肉と彼等の脳味噌が散乱したのである。
「ひっ!」
「うわっ!何事であるか!?」
背面の敵兵達は超常現象により戦慄する。
「一体何が!?如何してこんな…」
「狼狽えるな!小娘を根絶やしにせよ!打っ殺せ!」
敵兵達は大勢で無防備の桃子姫に殺到するものの…。桃子姫は全身から血紅色の放射体を炸裂するなり半透明化した血紅色の防壁を形作る。防壁の表面より無数の魔手が出現したのである。
「魔手だと!?」
無数の魔手が出現しては殺到する敵兵達に接触するなり…。敵兵達の肉体諸共圧縮したのである。大勢の敵兵達が魔手によって全身を圧縮…。血肉やら体内の臓物が噴出したのである。
「即刻撤退しましょう!」
「止むを得ないな…」
敵兵達は一目散に桃子姫から逃走したのである。同時刻…。南軍と北軍の本拠地では両陣営の総大将達が談笑する。
「本日は福徳円満ですな♪早朝には西国は私達の勢力圏ですし…西国の地中には無尽蔵の牢固石が採掘出来ます♪何よりも難敵である東国は滅亡されましょう…」
「一石三鳥ですな♪難敵の東国を打倒出来れば正真正銘太平神国全域が私達の支配圏ですからね♪」
すると本拠地より血塗れの一兵卒が一目散に乱入したのである。
「総大将!大変です!」
「突然何事であるか!?」
「随分大慌ての様子だな…」
総大将達は血塗れの一兵卒に驚愕する。
「西国の天霊山より…妖女が…妖女が出現しました!」
「妖女だと?」
「妖女なんて面白くない冗談だな…」
「妖女なんて実在するのか♪」
「貴様の見間違いだろ…妖女が出現したのが事実であるなら遭遇したくなるな♪」
総大将達は疲弊する一兵卒の発言を揶揄する。
「妖女が出現したのは本当です!妖女の猛反撃によって大勢の足軽が殺害されました!即刻西国から全軍の撤退を…」
直後である。
「なっ!?」
一兵卒の頭部が肥大化するなり…。
「ぎゃっ!」
数秒後破裂したのである。
「うわっ!」
「げっ!如何して頭部が!?一体全体何が…」
突発的出来事により総大将達は戦慄する。
「如何して頭部が破裂した…」
「ひょっとして妖女とやらの仕業なのか!?」
「先程の内容は事実であったのか…荒唐無稽の妖術で足軽の頭部を破裂させたのか…」
すると本拠地より小柄の女性が潜入したのである。
「ひっ!」
「うわっ!貴様は何者であるか!?」
着物は血塗れであり亡霊みたいな雰囲気の女性に総大将達は恐る恐る後退りする。
「ひょっとして貴様は…村娘の悪霊なのか…」
すると女性が無表情で総大将達を凝視するなり…。
「私は西国の…桃子姫よ…あんた達ね…私の胡桃姫を殺させたのは…」
「胡桃姫とは?」
「一体何者であるか?」
桃子姫は険悪化した表情で即答する。
「胡桃姫は…私の…私の実妹よ!」
数秒後…。
「あんた達も…死滅するのね…」
総大将達の頭部が肥大化するなり…。
「ぎゃっ!」
「がっ!」
数秒後彼等の頭部が破裂したのである。両陣営の総大将達の落命によって南軍と北軍は総崩れ…。事実上妖怪化した桃子姫の猛反撃により西国に出兵した南軍と北軍は全滅したのである。摩訶不思議の妖力で敵軍を撃退した桃子姫であるものの…。直後である。
「ぐっ!」
(陣痛かしら…)
桃子姫は極度の陣痛により地面に横たわる。同時刻…。火縄銃の弾丸によって横たわった崇徳丸であるが目覚めたのである。敵襲を警戒するなり恐る恐る一歩ずつ歩行する。
「随分物静かだな…」
主戦場であった西国であるものの…。周囲の物静かな雰囲気に身震いしたのである。
「如何してこんなにも物静かなのか…」
死霊餓狼の呪力と大量の出血によって眼前が朦朧とする。
「ぐっ!」
(畜生が…私は失血死するかも知れないな…)
崇徳丸は虫の息であり歩行するだけでも息苦しくなる。
「桃子姫様と胡桃姫様は…無事に避難されたでしょうか?」
すると桃子姫と胡桃姫が逃走した天霊山へと到達すると獣道の地面には敵兵達の鎧兜は勿論…。鮮血やら無数の肉片が散乱する。
「敵軍の!?」
(誰がこんなにも敵兵達を殺害したのか…)
西国には若武者は勿論…。力自慢の農民すら少数派であり統率された南軍と北軍の兵卒達を撃退出来る該当者は皆無である。
「如何して敵軍の兵卒達がこんなにも殺害されたのか?」
誰が敵軍の兵卒達を殺害したのか非常に気になる。
「赤子の産声!?」
すると遠方の自然林より赤子の産声が響き渡る。
「ひょっとして桃子姫様!?」
(桃子姫様…無事だったのですね♪)
天霊山の自然林から響き渡る産声に崇徳丸は一安心したのである。獣道の遠方より血塗れの着物姿の女性と抱き抱えられた赤子が確認出来る。
(ひょっとして桃子姫様!?如何やら無事だったみたいですね♪)
崇徳丸は恐る恐る女性に近寄る。
「桃子姫様でしたか♪無事だったのですね♪」
血塗れの着物姿の女性は正真正銘桃子姫だったのである。
「桃子姫様♪無事に再会出来て一安心ですよ♪」
「崇徳丸様…」
「えっ?」
崇徳丸は赤子を凝視するなり大喜びする。
「無事に赤ちゃんを出産されたのですね♪桃子姫様♪」
「赤ちゃんは無事に出産出来たわ…私達の赤ちゃん…女の子よ…」
「女の子ですか♪容姿端麗ですね♪えっ?」
崇徳丸は恐る恐る無表情の桃子姫を直視すると一瞬戦慄したのである。
(桃子姫様の表情が無表情!?一体何が…)
「桃子姫様…一体如何されたのですか?」
崇徳丸は恐る恐る彼女に問い掛ける。
「胡桃姫が…胡桃姫がね…」
「胡桃姫様が…如何されたのですか?」
桃子姫の涙腺から涙が零れ落ちる。
「胡桃姫が敵軍の襲撃で…殺されちゃったのよ…」
「えっ!?胡桃姫様が敵軍に!?」
崇徳丸は驚愕した直後…。涙腺より涙が零れ落ちる。
(胡桃姫様が息絶えたなんて…)
桃子姫は先程の出来事を一部始終告白したのである。
「桃子姫様は霊魂巨神木の果実を!?」
「私が…摩訶不思議の神通力で敵軍を全滅させたのよ…」
(桃子姫様が敵軍を全滅させたって?先程から西国全域が物静かだったのは桃子姫様が霊魂巨神木の神通力で敵軍を全滅させたのか…)
崇徳丸は納得する。
「崇徳丸様は…こんなにも妖女みたいな私に戦慄しないの?」
桃子姫は崇徳丸に恐る恐る問い掛ける。
「私なら桃子姫様が人外の妖女でも戦慄しませんよ…桃子姫様が正真正銘妖女だったとしても桃子姫様は桃子姫様なのですから♪」
崇徳丸は笑顔で即答する。
「崇徳丸様…」
無表情だった桃子姫に笑顔が戻ったのである。
(桃子姫様♪)
笑顔が戻った桃子姫に崇徳丸は一安心する。
「崇徳丸様?」
「如何されましたか?桃子姫様?」
彼女は赤面した表情で瞑目するなり…。恐る恐る崇徳丸に接吻したのである。
「えっ…」
(桃子姫様!?)
桃子姫の接吻に驚愕するものの…。彼女の神通力による効力なのか外傷と呪力による体内の熱気が一瞬で浄化されたのである。
(体内の熱気と外傷が浄化されるなんて…ひょっとして桃子姫様の神通力とやらは治癒力は勿論…死霊餓狼の呪詛でさえも浄化出来るのか…)
すると突然…。
「ぐっ!」
桃子姫は吐血する。
「桃子姫様!?大丈夫ですか!?」
「崇徳丸様…」
桃子姫は恐る恐る崇徳丸に赤子を手渡したのである。
「崇徳丸様…私は…」
最早精神的にも肉体的にも疲弊した半死半生の状態であり深呼吸が非常に重苦しくなる。
「私にとって…崇徳丸様が居候してから…毎日が幸福だったのよ…」
桃子姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
(桃子姫様…)
「桃子姫様…私こそ…」
桃子姫は涙目で赤子を凝視するなり…。
「唯一の心残りなのは…無事に出産した赤ちゃんと…一緒に生活出来ないのが何よりも残念なのよね…」
すると彼女の肉体が血紅色の粒子状の発光体へと変化したのである。
「えっ?桃子姫様!?」
桃子姫は笑顔で密着するなり…。
「崇徳丸様…精一杯長生きしてね♪」
(私は未来永劫天国の胡桃姫と一緒に見守るからね♪)
無数の血紅色の発光体へと変化した彼女は天空にて消滅する。
(桃子姫様…勿論約束しますよ…)
崇徳丸は息絶えた桃子姫の安眠により一晩中落涙したのである。
(桃子姫様…私は如何すれば…)
後日の早朝…。東国から崇徳丸の家来が訪問する。
「西国では一体何が!?」
西国の農村地帯全域が血塗れであり武陵桃源とは程遠い地獄絵だったのである。
(崇徳丸様は無事なのでしょうか…)
家来は崇徳丸の安否が気になる。すると遠方の山間部より血塗れの武士が佇立するのを確認したのである。
「なっ!?何者でしょうか?」
家来は恐る恐る近寄るなり…。
「崇徳丸様!?崇徳丸様ですね!?」
崇徳丸は家来に気付いたのである。
「誰かと思いきや…貴様だったのか…如何して東国の貴様が西国なんかに?」
「敵国である南軍と北軍が西国に出兵するとの悪巧みを察知しましてね…私自身崇徳丸様の安否が気になったのですよ…」
「今更祖国を裏切った逆賊の安否を確認するなんて…貴様は馬鹿者だな…」
「祖国を裏切ったとしても崇徳丸様は正真正銘夜桜一族の最上級武士ですからね♪崇徳丸様が無事なのが何よりですよ♪」
家来は笑顔で発言する。
「えっ?崇徳丸様…誰の赤子なのでしょうか?」
家来は誰の赤子なのか気になったのである。
「誰のって…彼女は私の愛娘だよ…」
家来は驚愕する。
「えっ!?崇徳丸様の愛娘ですと!?」
家来は大喜びしたのである。
「ひょっとして崇徳丸様は西国で令夫人と婚姻されたのですね♪」
家来は大喜びするものの…。
「えっ?崇徳丸様?突然如何されたのですか?」
崇徳丸は涙腺から涙が零れ落ちる。
「私の女房は…」
崇徳丸は西国での出来事を一部始終告白したのである。
「崇徳丸様の令夫人は先程永眠されたのですね…」
崇徳丸は家来に要望する。
「所詮私は祖国を裏切った人間だからな…斬首刑は覚悟する…」
恐る恐る赤子を凝視するなり…。
「彼女を…私の愛娘を東国の村里で養育出来ないか?」
「何も斬首刑なんて…東軍の武士達には私が説得しますから!崇徳丸様の愛娘は是非とも東国で養育しますから♪彼女は正真正銘…夜桜崇徳丸様の愛娘なのですからね♪」
「感謝するよ…」
すると崇徳丸は断言したのである。
「本日より私は人殺しの武士ではなく…僧侶として活動したい…」
「なっ!?崇徳丸様が僧侶ですと!?突然如何されたのですか!?崇徳丸様らしくないですね…」
崇徳丸の発言に驚愕する。
「私は大勢の人間達を斬殺したからな…金輪際僧侶として私自身の悪逆非道を贖罪しなければ…」
「何も悪逆非道なんて…崇徳丸様は大勢の敵兵達を仕留められたかも知れませぬが…大勢の村人達は勿論…東国に粉骨砕身されたのも事実ですよ!」
「敵国の敵兵であっても所詮は人間…私が人殺しなのは事実であるからな…」
(崇徳丸様…)
崇徳丸の表情を直視するなり…。
「崇徳丸様が僧侶として活動されたいのであれば…私は尊重しますよ…」
家来は崇徳丸の意志を承諾したのである。
メンテ
桜花姫 ( No.19 )
日時: 2021/08/16 20:10
名前: 月影桜花姫

第六話

愛娘

天地歴三千十年六月一日より夜桜崇徳丸は僧侶として活動…。同年五月三十日に誕生した愛娘は東国の武家屋敷にて養育される。崇徳丸が僧侶として活動してからも各村落では局地戦が頻発したのである。大勢の武士達は勿論…。村人達が局地戦によって死去したのである。西国にて出兵した南軍と北軍は妖女へと覚醒した桃子姫の猛反撃によって領主達と数百人もの兵卒達を喪失…。総兵力喪失の悪影響からか両勢力は唐突に弱体化したのである。弱体化した南国と北国の両勢力は東国により本格的に属国化…。東国の東軍は太平神国の東国武士団として太平神国全域を牛耳ったのである。東国の天下統一により百年以上長期化した弱肉強食の戦乱時代は本格的に終息…。天地歴三千十一年一月一日より太平神国は共存共栄と安寧秩序の安穏時代へと突入したのである。弱肉強食の戦乱時代から共存共栄の安穏時代へと変化した数年後…。桃子姫は伝説の元祖妖女として国全体の村人達から認識される。桃子姫が死没してより十二年後の天地歴三千二十年五月三十日の真昼…。各村落にて僧侶として活動中の夜桜崇徳丸は久方振りに祖国である東国の武家屋敷へと訪問したのである。すると武家屋敷の玄関口より小柄の美少女が笑顔で崇徳丸に力一杯密着する。
「父様♪」
「【小梅姫】だったか♪元気そうだな♪」
小梅姫とは崇徳丸と桃子姫の愛娘である。崇徳丸は小梅姫との久方振りの再会に大喜びする。
「小梅姫は人一倍容姿端麗で美人さんだな♪」
「私が美人さんなんて…父様は大袈裟ね♪」
小梅姫は赤面するものの内心では大喜びしたのである。
「小梅姫…私は毎日が一晩中大忙しだから悪かったな…」
謝罪する崇徳丸に小梅姫は笑顔で返答する。
「父様…気にしないで♪私は大丈夫だから♪」
「小梅姫…」
すると突然…。何者かが崇徳丸の背中に接触する。
「えっ!?」
(誰かが私の背中を…)
崇徳丸は人気を感じるなり恐る恐る背後を凝視するものの…。
(誰かの気配は感じるのだが…)
すると小梅姫が笑顔で発言する。
「父様♪二人の女神様だよ♪」
「えっ?二人の女神様だって?」
(ひょっとして桃子姫様と胡桃姫様が…)
崇徳丸は涙腺から涙が溢れ出る。
「父様…大丈夫?」
小梅姫は落涙する崇徳丸を心配したのである。
「心配させちゃったね…小梅姫…私なら大丈夫だよ♪」
崇徳丸は笑顔で…。
「ひょっとすると女神様の正体は小梅姫の母さん達かも知れないよ♪」
「私の母様?」
「小梅姫?久方振りに母さん達の墓参りに出掛けないか?」
「母様達の墓参りに?」
「無理強いしないが…小梅姫が墓参りしたら天国の母さん達が大喜びするかも知れないよ♪小梅姫は私と桃子姫母さんの愛娘だからな♪」
彼女は一瞬困惑するものの…。笑顔で承諾する。
「母様の…墓参りしないとね♪父様♪」
「小梅姫♪」
崇徳丸は小梅姫と一緒に桃子姫と胡桃姫の墓参りに出掛ける。
メンテ
桜花姫 ( No.20 )
日時: 2021/08/16 20:12
名前: 月影桜花姫

第七話

野犬

天地歴三千五年八月中頃…。北国には【鬼殺丸】と名乗る最上級武士が北軍の強兵として各戦場で活躍する。鬼殺丸は年齢十五歳の青二才であるが…。外見のみなら好青年であり今迄の各戦場での功績から次期北軍の総大将に任命される。同年八月十五日の真昼の出来事である。鬼殺丸は久方振りの気分転換に南国の最高峰である荒神山の頂上より…。南国の絶景の景色を眺望する。
「南国はこんな時代に平穏だな…」
荒神山の頂上から眺望出来る景色は非常に絶妙であり空気も清涼である。荒神山全体は非常に物静かな雰囲気であり自然林からは僅少の風音が響き渡る。
「南国は荒武者の集合地帯って命名されるが…案外平和そうだな…」
南国は荒武者の集合地帯とも呼称され…。各国の領主達からは必要以上に畏怖される。領土の大半は農村地帯であり南軍の兵卒達も大半が農村の村人達である。
(長居し続けても無意味だな…)
「北国に戻ろうか…」
祖国の北国に戻ろうかと思いきや…。背後より気配を感じる。
(ん?)
「気配を感じるな…」
鬼殺丸は冷静の表情であるが…。警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。すると鬼殺丸の背後には白色の野犬が一匹…。無表情で鬼殺丸を凝視したのである。
「此奴は…単なる野犬か…」
一安心するものの…。
「折角だ…」
鬼殺丸は護身用の拳銃を携帯したのである。
(異国の拳銃とやらが本当に役立つのか…)
「此奴で試射するか…」
鬼殺丸の性格は人一倍負けず嫌いな性格であるが非常に獰猛で野蛮であり戦場であれば相手が無抵抗の女性やら子供は勿論…。無力の老人であっても平気で殺害する残虐非道の荒武者である。場合によっては敵軍の攻撃で瀕死状態だった仲間も殺害…。自軍の将兵達からも畏怖されたのである。
「野犬よ…私に遭遇したのを後悔するのだな…」
鬼殺丸は拳銃を発砲…。野犬の前頭部に拳銃の銃弾が直撃したのである。銃撃された野犬は即死…。地面に横たわったのである。地面には野犬の鮮血により赤色に染色する。
「人間を打っ殺す場合でも…案外此奴は役立ちそうだな…」
鬼殺丸は祖国の北国へと戻ったのである。同年の九月一日…。北軍は東国が牛耳る金剛山への侵攻作戦を開始したのである。金剛山は東国の支配領域であるが金剛山を攻略出来れば無尽蔵の牢固石が確保出来…。東国への侵攻が容易くなる。北国の領主は即座に兵卒達を集結させ東国の金剛山侵攻作戦を開始させる。北国の根城より大勢の兵卒達が集結したのである。
「全軍覚悟せよ!」
北軍の侍大将が発言する。
「今回東国の金剛山を陥落させれば大量の牢固石も確保出来…大敵の東国を弱体化させられる絶好の機会である!総軍で奮闘すれば確実に勝利出来る戦闘であるぞ!」
直後…。北軍の兵卒達の士気が鼓舞したのである。
「金剛山を守備する東軍の総兵力は俺達よりも数倍上回るが…所詮奴等は烏合の衆である!相対する貴様達は歴戦の勇士なのだ!貴様達歴戦の精鋭達が奮闘すれば…確実に東軍の烏合の衆を容易に蹴散らせられる!」
今回集結した北軍の総兵力は推計三百人…。金剛山を守備する東国の総兵力は最低でも推計九百人であり兵力では圧倒的に不利であるものの…。今回の作戦に抜擢された北軍の兵卒達は歴戦の勇士達であり北軍最強の鬼神と呼称される鬼殺丸も抜擢されたのである。
「全軍!即刻進撃を開始するぞ!」
侍大将を先頭に北軍は東国の支配領域である金剛山への侵攻作戦を開始する。移動中…。二人の足軽が私語する。
「あんた…敵兵を何人殺せるか俺と競争しないか♪」
小柄の足軽が競争を提案するのだが…。大柄の足軽は嫌悪した様子で返答する。
「他人事氏の競争なんて…不謹慎だな…俺は即刻村里に戻りたいのに…」
足軽は農民が大半であり村里に戻りたい兵卒達も少なくない。大柄の足軽が返答すると小柄の足軽が…。
「あんたは巨漢なのに随分弱腰だよな♪敵兵を二百人以上打っ殺せば三石の米俵を獲得出来る絶好の機会なのに♪」
北国では敵国の兵卒を二百人以上殺害した場合は褒美として三石の米俵を譲渡される。敵軍の総大将…。強豪の強兵を斬首した場合は領主の側近として一生涯従事出来る。すると小柄の足軽は無口の鬼殺丸に競争を提案したのである。
「兄ちゃんよ♪あんたも敵兵を何人殺せるか俺と敵兵打っ殺し競争しないか?」
(此奴…命知らずだな…)
小柄の足軽に大柄の足軽が命知らずであると感じる。すると鬼殺丸が睥睨した表情で返答する。
「鬱陶しい…貴様は私に殺されたいか?」
「ひっ!」
鬼殺丸の威厳と目力に圧倒されたのか小柄の足軽は勿論…。周囲の兵卒達が鬼殺丸に畏怖したのである。鬼殺丸は北軍では最強の武人である反面…。味方であっても気に入らなければ殺害する。鬼殺丸が発言すると周囲は即座に沈黙したのである。北軍が進撃してより二時間後…。北国と東国の国境へと到達する。
「国境に到達したぞ!目的地の金剛山は間近だ!」
侍大将を先頭に北軍は再度金剛山へと直行したのである。金剛山の天辺には東軍の根城が増築され根城の表門には二人の番兵が警備する。真夜中であるが表門の番兵が無数の足音に気付いたのである。
「足音だ…味方の軍勢か?」
「こんな真夜中に味方の軍勢が行動するか?」
直後…。真正面の山道より大勢の武士達が天辺の根城へと突入する。
「なっ!敵襲だ!」
「北軍の奴等だな!」
旗印を直視すると敵軍は北軍であると認識…。根城内部の兵卒達が番兵の呼号に気付いたのである。
「敵襲だと!?」
守備隊の兵卒達は即座に抜刀する。すると進撃中の北軍は攻城兵器である破城槌で真正面の表門を破壊…。
「表門が破壊されたぞ!」
表門を突破した北軍は城内へと進撃したのである。
「全軍!東国の荒武者達を打っ殺せ!」
北軍の侍大将が命令したと同時に北軍の足軽…。武士達が東国の兵卒達に襲撃する。
「根城を守備しろ!敵軍を撃退するのだ!」
根城の城内は乱戦状態であり敵味方の鮮血…。肉片が城内に散乱したのである。北軍最強の鬼神…。鬼殺丸は神速の身動きと剣術を駆使しては接近する東国の兵卒達を瞬殺する。戦闘開始からの五分間で東国の兵卒達を十二人殺害したのである。
(雑魚ばかりか…)
鬼殺丸は根城の最上階へと直行する。同時刻…。根城の最上階には東国の総大将と側近が停留する。
「総大将…敵軍は北軍みたいです…」
「北国の奴等か…恐らく奴等は金剛山に埋没する牢固石を確保したいみたいだな…」
すると障子の奥側より見張り役達の悲鳴が響き渡る。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
障子には赤色の血飛沫が飛散したのである。障子の血飛沫を直視すると総大将と側近は畏怖する。
「ひっ!」
「狼狽えるな…」
総大将は恐る恐る護身用の懐刀を抜刀したのである。すると障子が蹴破られる。
「貴様は一体…」
食人餓鬼を連想させる甲冑を装備した武士が出現したのである。右手には鮮血により赤色に染色した刀剣が確認出来る。
「私は…鬼殺丸…」
「鬼殺丸って…」
「貴様が北国最強の鬼神…鬼殺丸なのか!?」
鬼殺丸が名前を名乗ると総大将と側近は極度に畏怖するなり後退りする。
「貴様…城内の若武者達は?」
「今頃…撤退か…全滅しただろうな…」
総大将に問い掛けられた鬼殺丸は即答したのである。
「貴様…一体如何するのだ?」
恐る恐る問い掛ける総大将に鬼殺丸は再度即答する。
「如何するって…私は東国最強の軍神…夜桜崇徳丸みたいに相手が無抵抗でも手加減しない…」
直後…。鬼殺丸は神速の身動きにより総大将と側近の頭首を斬撃したのである。鬼殺丸は総大将の頭首を所持するなり…。最上階から脱出する。戦闘は継続中であり敵味方の兵卒達が乱戦したのである。鬼殺丸は一息するなり…。
「全員注目せよ!」
鬼殺丸の大声に敵味方の兵卒達が鬼殺丸に注目する。
「えっ?」
「一体何事だ?」
「鬼殺丸?」
鬼殺丸は東国総大将の頭首を敵味方に拝見させる。
「此奴を直視せよ!」
北軍は勿論…。東軍の兵卒達も愕然とした表情で東軍総大将の頭首を直視したのである。
「なっ!?総大将が…」
「斬首されたのか!?」
東軍の兵卒達は絶望したのか一目散に根城から逃走する。
「敵軍が撤退したぞ!俺達の大勝利だ!」
北軍の侍大将は勿論…。兵卒達は大喜びしたのである。侍大将は鬼殺丸に近寄るなり…。
「鬼殺丸♪見事だったぞ!今回で貴様は次期領主に確定したからな♪」
すると鬼殺丸は無表情で返答する。
「私には領主なんて不向きだ…」
「不向きだと?」
「私は徹底的に敵対者を斬首する…思う存分気に入らない人間を打っ殺せれば満足だ…」
鬼殺丸の発言に一瞬畏怖するも侍大将は笑顔で…。
「貴様らしい発言だな♪今後も思う存分大勢の敵兵を仕留めろよ…」
今回の戦闘で金剛山は北軍に襲撃され占拠されたのである。翌朝…。北軍は東軍の残存勢力殲滅を名目に金剛山の東側近辺に位置する村里への襲撃を実行したのである。村里を襲撃するものの…。東軍の残存勢力は皆無であり北軍の襲撃により数十人の村人が殺害される。
「畜生…結局東軍の残党は一目散に逃げやがったか…」
「ですが大量の米俵を入手出来ましたぜ♪」
東軍の残存勢力殲滅は達成出来なかったが…。大量の食糧を確保出来たのである。村里の中心地では兵卒達が飲酒するなり大声で談笑する。鬼殺丸は中心地のとある民家にて一人で焼酎を飲酒したのである。すると二人の兵卒達が民家に進入する。
「ん?あんたは鬼神の鬼殺丸か…」
大柄の兵卒が鬼殺丸に近寄る。
「あんたの昨日の活躍は絶大だったな♪」
「俺もあんたみたいに活躍したいぜ♪鬼殺丸みたいに活躍出来れば俺も今頃は北国の領主確定だな♪」
中柄の兵卒が発言する。すると鬼殺丸は無表情で…。
「私は単純に気に入らない人間を殺したいだけだ…私にとって地位も名誉も無価値であり不要…」
(此奴…無欲だな…)
二人とも鬼殺丸が無欲であると感じる。すると突然…。
「ん?誰だ?」
「村里の子供みたいだな…」
民家の板戸より血塗れの着物姿の少女が民家の玄関口へと進入したのである。少女の左手には出刃包丁が確認出来る。少女は鬼殺丸を睥睨するなり…。
「あんたが…あんたが私の父様と母様を殺した武士ね…」
少女は鬼神を連想させる表情で力一杯鬼殺丸を睥睨する。
「お嬢ちゃんよ…相手は北軍最強の武士だぜ♪お嬢ちゃんみたいな小娘なんて簡単に打っ殺されちまうぞ♪」
「此奴はお嬢ちゃんみたいな子供でも容赦しないからな♪死にたくなかったら即刻逃げちまいな♪」
鬼殺丸は無表情で少女に近寄る。すると少女は恐る恐る…。
「如何して…如何してあんたは私の父様と母様を殺したのよ…」
少女は目前で父親と母親が惨殺されたのである。少女の涙腺から涙が零れ落ちる。
「であればあんたも地獄で父ちゃんと母ちゃんに再会しな…」
「えっ?」
鬼殺丸は即座に抜刀すると少女の頭首を一刀両断…。室内には彼女の鮮血が飛散する。
「鬼殺丸…」
「此奴…本当に無慈悲だな…子供相手にも容赦しないとは…」
相手が子供でも容赦しない鬼殺丸に二人の兵卒達は畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
「であれば今度は貴様達も小娘みたいに斬首されたいか?」
「ひっ!」
鬼殺丸に畏怖した二人の兵卒達は一目散に逃走する。
「所詮奴等も小心者だな…」
同時刻…。東国の中心地に位置する本拠地では北国の領土拡大により根城全体が大騒ぎする。
「北軍の領土拡大なんて本当なのかよ!?」
「如何やら本当らしい…金剛山の根城が奴等の少数精鋭の軍勢によって陥落したって…」
「金剛山の総大将も斬首されたらしいな…」
東軍の武士達は北軍の進撃に畏怖したのである。東国の領主達は即座に討伐部隊を編成する。一番に討伐部隊に抜擢されたのは東国の軍神と呼称される夜桜崇徳丸である。崇徳丸は鬼神を連想させる甲冑を装備…。愛刀である牢固石の刀剣を護身用に所持したのである。崇徳丸以外には推計八百人もの精鋭達が北軍討伐部隊として抜擢されたのである。東国中心地の根城より討伐部隊が集結する。
「俺達は即刻東国の領内に侵攻する北軍を撃退する!全員で奮闘すれば確実に撃退出来る戦闘であるぞ!」
東軍は侍大将を先頭に討伐部隊が追尾したのである。移動中…。崇徳丸に隣接する若齢の足軽が恐る恐る発言する。
「あんたは夜桜一族の夜桜崇徳丸様だよな?」
すると崇徳丸は即答したのである。
「勿論ですが…如何されましたか?」
「こんな場所で発言するのも不謹慎だが…正直あんたは自分の村里へは戻りたくないのか?俺は正直一目散に戻りたいよ…」
崇徳丸は一瞬沈黙するものの…。
「正直私は…祖国よりも西国に安住したいですね…」
崇徳丸の発言に足軽は一瞬驚愕する。
「西国に?意外だね…あんたは祖国に戻りたくないのか?」
崇徳丸は困惑した表情で…。
「正直東国の風習は堅苦しい…出来るなら私は少人数の武陵桃源の土地で安住したいですね…」
崇徳丸にとって東国の風習は堅苦しく苦痛だったのである。戦乱時代が終焉したら何者にも束縛されない場所に安住したいと思考する。
「武陵桃源か…」
すると足軽は笑顔で発言する。
「東国が無事に天下統一出来れば…西国で安住しなされ♪」
「感謝します♪私は貴方様の無事を切願しますよ♪」
「崇徳丸様♪勿論俺も崇徳丸様の無事を切願しますよ♪」
彼等は握手したのである。本拠地から移動してより二時間後…。周囲は非常に物静かであり清涼の風音が響き渡る。討伐部隊は金剛山の近辺に位置する村里の郊外へと到達するのだが…。
「なっ!?」
「村里では一体何が?」
彼等が直視したのは荒廃した村里である。人気は皆無であり腐敗した鮮血の悪臭が村里全体に蔓延する。
「襲撃されたみたいだな…」
崇徳丸は一瞬瞑目するなり…。
(無数の殺気を感じる…)
崇徳丸は幼少期から気配やら殺気を察知する感知能力が顕著であり人一倍敏感である。すると侍大将が恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「崇徳丸?敵軍の兵力は何人か判別出来るか?」
問い掛けられた崇徳丸は即座に返答する。
「気配から判断して…敵軍の兵力は推定二百人前後かと…」
「二百人前後か…」
周囲の兵卒達は崇徳丸に驚愕したのである。
「崇徳丸はこんな場所からでも気配だけで敵軍の人数を判断出来るのか!?」
「本当に人間なのか?此奴は?」
侍大将が村里への突入を合図する。
「全軍…慎重に突入しろ…敵兵を発見すれば即座に仕留めよ…」
討伐部隊は侍大将の合図と同時に恐る恐る村里へと潜入したのである。村里に突入すると惨殺された村人達の遺体…。肉片やら鮮血が彼方此方に確認出来る。
「敵軍は村人達を殺したのか…」
すると移動中…。崇徳丸は腹部を斬撃された妊婦の遺体を発見する。
「奴等は妊婦にも手出ししたのか…」
崇徳丸は涙腺から涙が零れ落ちるなり…。恐る恐る両手で合掌したのである。先程一緒に談笑し合った足軽が恐る恐る崇徳丸に近寄る。
「あんたは敵兵からは極悪非道の悪鬼だって畏怖されるみたいだが…今現在のあんたは本当に仏様だよ…」
「こんな私が仏様か…」
足軽の一言に崇徳丸は内心嬉しくなる。
「俺達が頑張って殺し合いの世の中を終了させましょう!」
足軽の発言に…。
「勿論ですとも!」
彼等は再度村里の中心地へと直行する。討伐部隊は村里の中心地に到達したのである。村里の中心地には北軍の兵卒達が潜伏中であり東軍の彼等と対峙するなり…。
「奴等…東国の軍勢ですぜ…」
討伐部隊の総大将が恐る恐る北軍の兵卒達に問い掛ける。
「貴様達か!?村里を襲撃したのは…」
すると北軍の兵卒が即答する。
「勿論俺達だよ♪俺達にとって東国の領内に居住する奴等は全員殲滅の対象だからな!」
「俺達は相手が女人だろうと子供だろうと打っ殺すぜ♪服従するなら別だけどな♪」
討伐部隊の兵卒達が彼等の言動に腹立たしくなる。
「外道が…」
北軍の侍大将が刀剣を抜刀する。
「こんな場所に東軍の奴等が出向くとは…非常に好都合である♪」
北軍の侍大将は合図したのである。
「全軍!東国の奴等は憎悪すべき対象だ!皆殺しにせよ!」
侍大将の合図と同時に北軍の兵卒達が殺到する。
「奴等を討伐せよ!」
東軍の侍大将も反撃を合図したのである。北軍の軍勢と討伐部隊の軍勢が衝突…。乱戦状態へと発展する。同時刻…。大勢の将兵達の雄叫びが村里全域へと響き渡り移動中の崇徳丸と若齢の足軽が兵卒達の雄叫びに気付いたのである。
「如何やら中心地で戦闘が開始されたみたいですね…」
「俺達も参戦しましょう♪崇徳丸様!」
すると道中…。三人の北軍将兵と遭遇したのである。
「ん?貴様達は東軍の奴等か?」
三人の将兵達は即座に抜刀する。崇徳丸と若齢の足軽は警戒した様子で刀剣を抜刀したのである。
「如何やら北軍の敵兵みたいですね…」
「如何しますかい?崇徳丸様?」
「仕留めなければ私達が殺されます…」
すると北軍の兵卒が崇徳丸の名前を傾聴するなり…。
「貴様は東国の軍神…夜桜崇徳丸か?」
「貴様によって俺達の戦友は大勢殺されたのだ!復讐する!」
崇徳丸は今迄の戦闘で数十人もの敵兵を斬殺したのである。味方からは英雄として扱われるも…。敵軍からは憎悪すべき対象として認識されたのである。
「覚悟せよ!」
三人の兵卒達が崇徳丸に殺到するも…。崇徳丸は神速の身動きにより数秒間で三人の兵卒達を瞬殺したのである。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
彼等は地面に横たわる。三人の敵兵を瞬殺した崇徳丸に若齢の足軽は愕然とする。
「一瞬で三人の敵兵を瞬殺するなんて…あんたは本当に軍神だな…」
「私は人間ですよ…」
返答する崇徳丸に若齢の足軽は苦笑いしたのである。
「私達は即刻討伐部隊に合流して…敵軍に反撃しなくては…」
移動する直前…。
「なっ!」
(殺気!?)
「今度の相手は私だ…」
鬼神を連想させる甲冑を装備した武士が左手に拳銃…。右手には刀剣を装備した状態で拳銃を崇徳丸に発砲する。
「崇徳丸様!」
若齢の足軽が崇徳丸を庇護…。胸部に拳銃の銃弾が命中する。
「ぐっ!」
若齢の足軽が地面に横たわる。
「大丈夫ですか!?」
すると若齢の足軽が…。
「崇徳丸様…無事で…何よりです…」
若齢の足軽は息絶える。
(如何して気付けなかった…畜生…)
崇徳丸の涙腺より涙が零れ落ちる。すると敵軍の武士が落涙する崇徳丸に近寄る。
「今度こそ貴様を仕留める…東国の軍神…夜桜崇徳丸…」
崇徳丸は強烈なる目力で敵軍の武士を睥睨するなり…。
「私を殺したいか?崇徳丸…」
敵軍の武士は無表情で名前を名乗る。
「私の名前は北国の鬼神…鬼殺丸だ…貴様も地獄で仲間と再会しな♪」
普段は無表情の鬼殺丸であるが…。一瞬微笑したのである。
「鬼殺丸?」
(此奴が北軍最強の武人か…)
鬼殺丸も東国…。南国の武士達から畏怖される一人である。
「覚悟しろ!崇徳丸!」
鬼殺丸は神速で崇徳丸に急接近…。
「鬼殺丸!」
崇徳丸も全身全霊で鬼殺丸に突撃する。両者が交差した直後…。
「ぐっ!」
鬼殺丸が胸部より出血したのである。
「崇徳丸…貴様…」
崇徳丸の背中を睥睨するなり…。地面に横たわる。
「鬼殺丸…所詮貴様では私を殺せない…」
「畜生が…」
崇徳丸は無表情で横たわる鬼殺丸に近寄る。
「貴様は今迄…大勢の村人達を惨殺したみたいだな…」
「村人達を…惨殺だと?」
横たわる鬼殺丸に断言する。
「今後は罪滅ぼしとして大勢の村人達を守護しろ…急所は無事だ…貴様なら遣り直せる…」
崇徳丸は即座に村里の中心地へと移動したのである。
(何が…)
「何が罪滅ぼしだ!崇徳丸!貴様だって大勢の足軽を打っ殺しただろ!」
普段は冷静であり無表情の鬼殺丸であるが…。今回ばかりは崇徳丸の発言に鬼殺丸の表情が鬼神の表情へと変化する。同時刻…。崇徳丸は村里の中心地へと移動すると殺到する敵兵を無我夢中に仕留める。最初は互角に交戦するが崇徳丸の参戦により北軍は兵力の半分以上を喪失…。北軍は後退したのである。
「畜生!東軍の奴等!」
すると血塗れの兵卒が北軍の侍大将に近寄るなり…。
「戦闘を継続し続ければ軍勢が全滅します!金剛山に撤退しましょう!」
「止むを得ないな…」
侍大将は決断する。
「全軍金剛山に撤退するぞ!」
侍大将の撤退の合図と同時に北軍の軍勢は一目散に金剛山へと撤退したのである。討伐部隊の侍大将が笑顔で崇徳丸に近寄る。
「今回も見事だったぞ♪崇徳丸♪貴様の活躍で敵軍を撃退出来たぞ!」
崇徳丸は落涙する。
「ですが今回の悲劇で…大勢の仲間達…無関係の村人達が殺されたのです…」
「崇徳丸…」
侍大将は沈黙したのである。崇徳丸は精神的にも肉体的にも疲弊したのか東側に位置するとある民家にて一休みするのだが…。
「えっ!?」
民家には両目を失明した少女が血塗れの状態で横たわる。
「北軍の奴等はこんな少女にも…」
横たわった状態の少女に崇徳丸は悲痛に感じる。すると直後…。少女が再度呼吸し始めたのである。
「なっ!?」
少女は失明した状態であるが…。恐る恐る一休みする崇徳丸に接触したのである。
「貴方様は…味方の…将兵ですか?敵兵ですか?」
瀕死の少女に問い掛けられた崇徳丸は落涙した様子で…。
「安心しなさい…私は…味方の将兵だよ…」
崇徳丸が返答すると少女は微笑む。
「貴方様は…味方の…将兵でしたか…」
直後…。瀕死の少女は息絶える。
(力尽きたか…)
崇徳丸は戦闘の悲惨さを痛感する。崇徳丸は即座に中心地へと戻ったのである。
「侍大将…」
「崇徳丸か…大丈夫なのか?」
問い掛けられた崇徳丸は即答する。
「大丈夫です!」
崇徳丸の様子に侍大将は一安心したのである。すると崇徳丸は侍大将に意見する。
「即刻…北軍の奴等から金剛山を奪還しましょう!」
崇徳丸の意見に侍大将は困惑したのである。
「金剛山を奪還出来るのであれば奪還したいが…将兵達は体力を消耗した状態だ…北軍から金剛山を奪還するなら明日の早朝からでも…」
「明日の早朝なんて悠長過ぎます!敵軍の増援が到達すれば何もかもが水の泡ですよ!」
すると周囲の兵卒達も崇徳丸の意見に賛同する。
「勿論ですよ!即刻奴等から金剛山を奪還しましょう!」
「俺達なら思う存分大暴れ出来ますよ♪」
「金剛山から敵軍を蹴散らしましょう!」
侍大将は彼等の闘志に圧倒される。
「貴様達…」
侍大将は一瞬瞑目するなり…。
「即刻金剛山を奪還するか!」
奪還作戦を決断した討伐部隊は即座に金剛山奪還作戦を開始する。金剛山は間近であり十数分で到達したのである。占拠された根城からは無数の火縄銃…。火矢が乱射され討伐部隊は百人以上の将兵達が死傷するも洗い浚い突破したのである。金剛山の根城へと到達した討伐部隊の将兵達は全身全霊で敵陣へと突入…。北軍を圧倒したのである。崇徳丸も十四人の敵兵を斬殺…。最上階へと単身で移動したのである。
「最上階だな…」
すると背後より火縄銃を発砲されるも感知能力により火縄銃の銃弾を一刀両断…。
「あんたが総大将だな…」
火縄銃で狙撃したのは北軍の侍大将である。
「此奴は東国の軍神…夜桜崇徳丸か…」
侍大将は再度弾丸を装填させる。
「今度こそ夜桜崇徳丸!貴様を仕留める…軍神の貴様を仕留められれば東軍全体は総崩れしたのも同然であるからな♪」
侍大将が再度火縄銃で崇徳丸を狙撃する直前…。崇徳丸は神速の身動きにより火縄銃を両断したのである。
「なっ!?」
「降参しろ…あんたでは私は仕留められない…」
崇徳丸は最上階へと戻ろうかと思いきや…。背後より北軍の侍大将は護身用の懐刀で斬撃しに接近する。
「死滅しろ!崇徳丸!」
崇徳丸は即座に殺気を察知すると即座に猛反撃…。侍大将の胸部を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
侍大将は胸部を斬撃され即死する。崇徳丸は無表情の様子で最上階へと戻ったのである。敵軍の敗残兵は北国へと撤退…。侍大将の戦死により金剛山奪還作戦は北軍討伐部隊の勝利に終結する。同日の真夜中…。崇徳丸との戦闘で胸部を斬撃された北軍敗残兵である鬼殺丸は血塗れの状態で東国のとある山奥の夜道を徘徊する。
「ぐっ!」
(崇徳丸…)
崇徳丸の発言を想起すると腹立たしくなる。
「誰が贖罪なんて…」
(今度こそ…私が彼奴に復讐する…)
すると直後である。周囲より胸騒ぎを感じる。
(胸騒ぎか…)
「一体何が?」
突然の胸騒ぎにより周囲を警戒したのである。恐る恐る背後を直視するのだが…。
「背後には何も…」
気配は感じるも背後には何も存在しない。疲労による誤認識かと思いきや…。
「なっ!?」
鬼殺丸の前面より一体の異形の化身が出現したのである。
「此奴は一体…」
異形の化身とは全身の皮膚が血塗れであり小柄の肉体…。両目の眼球が噴出した不吉の風貌である。
「ひょっとして近頃村人達が大騒ぎした…悪霊か?」
(名前は…食人餓鬼だったか?)
食人餓鬼はふら付いた身動きで鬼殺丸に近寄る。彼自身悪霊の存在は否定的であり実際に悪霊と遭遇する以前は子供騙しであると揶揄したが…。
「こんな悪霊が本当に実在するなんて…」
鬼殺丸は睥睨すると即座に抜刀する。
「私と勝負するか…悪霊!?」
神速の身動きにより接近する食人餓鬼の頭部を斬首…。瞬殺したのである。
「悪霊でも所詮は雑魚か…」
(こんな程度では其処等の子供でも打っ殺せるな…所詮悪霊なんて…)
すると周辺の地中より無数の食人餓鬼が出現する。
「私を食い殺したいか?悪霊?」
無数の食人餓鬼が鬼殺丸に殺到するも食人餓鬼は非常に貧弱であり簡単に仕留められる。二分間で地面には数十体以上の食人餓鬼の肉片…。血肉が散乱したのである。
「終了したか?」
(他愛無いな…)
直後…。背後より無数の食人餓鬼が融合した人型の肉塊が出現する。
「今度の相手は百鬼食人餓鬼か…」
百鬼食人餓鬼の体表の頭部が鬼殺丸を睥睨するなり…。高熱の火炎を放射したのである。
「火炎攻撃か!?」
鬼殺丸は神速の身動きで火炎攻撃を回避する。
(此奴が相手なら多少手応えを感じられそうだな…)
神速の身動きにより百鬼食人餓鬼に接近すると一刀両断…。百鬼食人餓鬼の肉体が無数の肉片へと分裂したのである。
「ん?」
分裂した肉体が融合化すると複数の食人餓鬼に変化する。
(今度も食人餓鬼か…鬱陶しい…)
鬱陶しいと感じるも複数の食人餓鬼を瞬殺したのである。
「面白くないな…」
背後から別物の気配を察知…。背後を警戒すると甲冑を装備した巨体の骸骨が出現したのである。
「此奴は骸骨荒武者?戦死者達の亡霊か…」
(悪霊でも手応えを感じられそうな相手が出現したか♪)
鬼殺丸は内心大喜びする。二体の骸骨荒武者は抜刀すると鈍足で鬼殺丸に殺到したのである。
「鈍間が…」
骸骨荒武者は刀剣で斬撃するも容易に回避される。
(こんな鈍間では私には通用しないぞ…)
鬼殺丸は急接近…。刀剣で一体の骸骨荒武者に腹部を斬撃するのだが骸骨荒武者の鎧兜は予想以上に硬質であり鬼殺丸の刀剣が屈折したのである。
「なっ!?」
(私の刀剣が…)
愕然とした鬼殺丸に骸骨荒武者は鬼殺丸の左腕を斬撃…。
「ぐっ!」
鬼殺丸は左腕を切断されたのである。
(北国の鬼神である私が…悪霊相手に左腕を…)
地面は赤色の血液により染色する。
「畜生が…」
(本調子であれば…こんな悪霊…簡単に…)
最早戦闘継続は不可能であると判断…。鬼殺丸は一目散に逃走したのである。逃走してより十数分後…。悪霊から逃走し続けた鬼殺丸であるが精神的にも肉体的にも疲弊したのか獣道の道中にて横たわる。
(今夜が…私の最期みたいだな…)
出血多量が影響したのか鬼殺丸は瀕死の状態であり肉体は刻一刻と衰弱化する。
(夜桜崇徳丸…彼奴を仕留められなかったのは…非常に心残りだな…)
崇徳丸の存在を想起したのである。数分後…。極度の死臭と強烈なる殺気を感じる。
(極度の死臭と殺気…今度は何が出現した?)
正体不明の不吉の気配は刻一刻と横たわる鬼殺丸に急接近する。数秒後…。全身が血塗れで規格外に巨体の野犬が出現したのである。
「野犬?」
(随分巨体だな…)
左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の野犬は正真正銘悪霊であると認識出来る。
(野犬の…悪霊なのか?)
口先には咀嚼された肉片らしき物体を確認…。何かを捕食したのであると推測する。
「野犬の悪霊…俺を…食い殺したいか?」
すると野犬の悪霊は人語で発言し始める。
「私は死霊餓狼…」
(死霊餓狼…此奴は悪霊の分際で喋れるのか…)
鬼殺丸は衰弱化した小声で問い掛ける。
「死霊餓狼だったか?貴様は一体何者だ?」
すると死霊餓狼は即答する。
「私は貴様によって殺された野犬の悪霊である…」
死霊餓狼の発言に鬼殺丸は想起したのである。
(此奴…南国の荒神山で私が打っ殺した…野犬の亡霊だったのか…)
死霊餓狼の前頭部を直視すると銃弾の傷跡が確認出来る。
「俺が打っ殺した野犬の亡霊が…地獄から復活するとは…」
すると鬼殺丸は恐る恐る…。
「俺を食い殺したいか?死霊餓狼…俺を食い殺したければ思う存分食い殺せよ…最早俺の肉体は虫の息だぜ…」
死霊餓狼は返答する。
「極悪非道の人間よ…貴様は無間地獄で無限の苦痛を体感せよ…」
死霊餓狼の発言に鬼殺丸は僅少であるが微笑したのである。
「地獄か…」
(私にとっては本望だ…)
直後…。
「極悪非道の人間よ…貴様の肉体を頂戴する…」
死霊餓狼は衰弱化した鬼殺丸の肉体を咀嚼したのである。
メンテ

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