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テラトピア大事変
日時: 2020/12/25 07:49
名前: 戦艦零号

第一話

休憩時間
全世界を二分させる人類史上最大の大戦争…。第三次列国大戦が終焉してより十五年が経過する。世界暦五千五百二十二年四月下旬…。小国家〔テラトピア自由区〕での出来事である。場所は進学校テラトピア学園…。休憩中に一人の男子生徒が窓際から仰天の青空を眺望する。
「今日も図書室で暇潰しだな…」
男子生徒の名前は【フィルドルク】…。テラトピア学園の男子生徒であり学部は普通科である。フィルドルクは一見すると年齢十四歳の普通の少年であるものの…。誰よりも荒唐無稽のオカルト関連が大好きであり勉学以外の時間帯ではオカルト関連の情報を調査するのが趣味である。フィルドルクは午前中の休憩時間に図書室へと移動する。
「オカルト関連…オカルト関連…」
フィルドルクはオカルト関連の参考書を何冊か黙読したのである。内容としては近年話題の超能力関連は勿論…。古代文明の魔法神秘学やら東洋の妖術関連である。
「僕にも超能力とか…荒唐無稽の魔法が扱えたらな…」
フィルドルクは自身にも超能力やら魔法が使用出来たらと妄想し始める。
「一体如何すれば僕に超能力が?」
彼是と思考し続けた直後…。
「ん?」
隣接より一人の女子生徒が魔法関連の書籍を何冊か漁ったのである。
『誰だろう…』
気になったフィルドルクは恐る恐る隣接の女子生徒をチラ見する。
『うわっ…誰なのかな?』
女子生徒は女性としては高身長であり頭髪は赤毛のストレートロング…。両目の瞳孔は半透明の血紅色であり両方の耳朶には金剛石のイヤリングが特徴的である。容姿は人一倍美的でありフィルドルクは彼女の妖艶さに見惚れる。
『彼女…相当の美人だな…胸部も…』
女子生徒は胸部が豊富である。フィルドルクは彼女に魅了されたのか赤面し始める。
『瞳孔が血紅色だ…彼女は…人間の女の子なのかな?』
隣接の女子生徒は一般の女性とは異質的であり摩訶不思議のオーラを感じさせる雰囲気だったのである。すると摩訶不思議の女子生徒はフィルドルクの存在に気付いたのかフィルドルクの方法を凝視し始める。
「貴方…先程から何かしら?私に用事?」
「えっ!?」
フィルドルクはビクッと反応…。
「御免…気にしないで…」
フィルドルクは赤面した表情で即座に女子生徒に謝罪したのである。すると女子生徒は恐る恐る…。
「貴方…名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクだよ…」
フィルドルクは即答したのである。
「君は?」
一方のフィルドルクも女子生徒に名前を問い掛ける。
「私は【メロティス】よ…貴方は私のクラスメートだったわよね…」
「えっ…君は僕のクラスメートだっけ?」
フィルドルクはオカルト関連には随一である反面…。オカルト関連以外の物事には比較的無関心であり自身のクラスに誰が存在するのか認識出来なかったのである。
「貴方って…オカルト以外の物事には無関心そうね…」
『フィルドルクって男子は天然なのかしら?』
フィルドルクは極度の天然でありメロティスは内心呆れ果てる。
「えっ…はぁ…」
一方のフィルドルクは苦笑いしたのである。
「貴方は荒唐無稽の心霊とか超常現象とか大好きそうね…」
「勿論だよ♪超能力とか異星人とかも大好きだよ♪」
フィルドルクは笑顔で即答する。
「へぇ…貴方って純粋なのね…」
「えっ?純粋?僕が?」
「純粋よ…誰よりもね♪」
メロティスは微笑した表情で発言したのである。
「えっ…」
『純粋って…子供みたいだな…』
フィルドルクはメロティスに子供扱いされ…。赤面したのである。するとメロティスは小声で…。
「今日の放課後だけど…私と一緒に帰宅しない?折角の機会だし…」
「えっ!?」
フィルドルクはメロティスに誘われ驚愕したのである。
『こんなシチュエーション…現実なのかな?こんな僕が…女子生徒と帰宅…』
フィルドルクは今回の出来事が現実なのか混乱する。予想外のシチュエーションに再度赤面したのである。
「私も荒唐無稽のオカルトが大好きだからね…如何する?貴方にとって都合が悪ければ無理にとは…」
問い掛けられたフィルドルクは一瞬沈黙するものの…。
「勿論大丈夫♪僕は大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
フィルドルクはワクワクした様子であり笑顔で返答したのである。
『こんな僕がこんな可愛らしい女の子と一緒に帰宅出来るなんて…夢物語みたいだよ♪現実の出来事なのかな?』
一瞬現実なのか自分自身の妄想なのか混迷する。フィルドルクはメロティスとの帰宅に内心大喜びしたのである。

第二話

帰宅
放課後の時間帯…。フィルドルクはメロティスと一緒に帰宅する。
「メロティスさん…自宅は?」
「私の自宅はサウスタウンよ…」
サウスタウンとは西方地帯に存在する小規模の住宅街である。
「えっ?メロティスさんの自宅もサウスタウンなの?僕と一緒だね♪」
「貴方の自宅もサウスタウンなのね…」
メロティスもサウスタウンの住民でありフィルドルクは内心大喜びする。
「貴方…随分と嬉しそうね…」
「えっ!?」
フィルドルクは赤面…。気恥ずかしくなる。
「フィルドルク♪貴方って本当に面白いわね♪」
メロティスは微笑み始める。
「僕って…面白いのかな?」
「面白いわよ♪人一倍天然そうだし♪」
「えっ…」
『人一倍天然って…』
フィルドルクは苦笑いしたのである。するとメロティスは無表情で…。
「貴方は現実世界に荒唐無稽の魔法が存在するなら…直視したくない?」
「えっ…」
『正直…メロティスさんの思考が理解出来ないけど…』
メロティスの突然の質問に困惑したのである。
「魔法が…」
フィルドルクは一息する。
「空想かも知れないけど…荒唐無稽の魔法が本当に存在するのであれば…実際に直視したいかな…」
フィルドルクが恐る恐る返答するとメロティスは瞑目し始める。
「仕方ないわね…」
「えっ?仕方ないって…」
「今回だけは特別よ…」
「えっ…特別って?」
メロティスはカッターナイフを所持したかと思いきや…。自身の手首を自傷させたのである。
「メロティスさん!?一体何を!?」
フィルドルクは突然の彼女の自傷行為に驚愕する。一方のメロティスは平気そうな表情だったのである。
『彼女は正気なの!?』
地面にはメロティスの血液が一滴ずつ流れ出る。
「メロティスさん…血液が…」
フィルドルクは彼女の鮮血に畏怖したのかソワソワする。
「フィルドルク…貴方は極度の心配性ね…」
一方のメロティスは冷静沈着だったのである。
「心配しなくても私は大丈夫よ…貴方は大袈裟ね…フィルドルク…」
数秒間が経過する。カッターナイフで自傷したメロティスの傷口が一瞬で治癒したのである。
「えっ!?メロティスさんの傷口が治癒した!?一体如何して…何が?」
フィルドルクは荒唐無稽の超常現象に愕然とする。するとメロティスは無表情で発言したのである。
「単刀直入に表現するなら…私の正体は魔女なのよ…」
「えっ…魔女?メロティスさんの正体が魔女だって?」
一瞬出鱈目であると思考するものの…。先程の荒唐無稽の超常現象を直視するとメロティスの正体が魔女であると否定出来なくなる。
「正確には私の家計は魔女の家計ってだけよ…父様は普通の人間だし…私は魔女と人間の混血なのよね…」
メロティスは母親が人外の魔女であるものの…。父親は純血の人間だったのである。フィルドルクは緊張した様子で恐る恐る彼女に質問する。
「ひょっとするとメロティスさんの祖先って…東洋に存在する…イーストユートピア出身者なの?」
「私の祖先はイーストユートピアに出身らしいわね…」
イーストユートピアとは極東に存在した辺境の島国であり所謂桃源郷神国と命名される。世界的には魔女の発祥地とされる。イーストユートピアは近代化の成功により列強の一員として認識されたものの…。二百年前に勃発した第二次列国大戦で超大国に敗北したのである。イーストユートピアは多大なる空襲により各村落は焦土化…。今現在では荒廃した無人地帯同然であり居住者は誰一人として存在しない。
「メロティスさんが魔女なのは事実みたいだけど…吃驚したよ…」
「こんな話題はオカルト大好きな貴方以外には出来ないからね…」
「正直最初に対面してから普通の常人とは異質的だったからね…メロティスさんの正体が魔女なのは納得だよ…」
するとフィルドルクは小声で…。
「メロティスさんは今迄誰かに気味悪がられるとか…差別されなかったの?」
メロティスは一瞬沈黙するも小声で返答したのである。
「無論ね…私自身こんな容姿だし…クラスメートの女子達からは人外の魔女って揶揄されたわよ…実際問題私の家計が人外の魔女なのは事実なのだけどね♪」
彼女は笑顔で発言する。
「前向きだね…メロティスさんは…」
フィルドルクはメロティスが人一倍ポジティブであると感じる。一方のメロティスはフィルドルクを凝視…。
「貴方も人外でしょう…フィルドルク…」
「えっ?」
メロティスの人外の一言にフィルドルクは意味が理解出来ず脳内が白色化する。
「僕が…人外だって?」
「貴方ってエスパーっぽいのよね…」
「僕が…エスパー?」
フィルドルクは珍紛漢紛であり困惑したものの…。
「二年前に死んじゃったけど…僕の母方の叔父さん…ストレイダス叔父さんが…霊能力なのかな?死者の霊体と会話出来るとかって…」
フィルドルクには母方の【ストレイダス】と名乗る叔父が存在する。今現在でこそストレイダスは故人であるが…。ストレイダスは大昔から死者の霊体を視認出来る特殊体質だったのである。霊体を視認出来るばかりか死者との会話も出来る性質上…。周囲の者達からは非常に気味悪がられ両親やら実母以外の兄弟からも嫌忌されたのである。こんな境遇の彼であったが…。警察組織が死者と会話が可能であるストレイダスの霊能力に注目する。警察組織は特殊体質の彼を特別枠の特別警察に配属させ数多くの未解決事件解決に貢献させたのである。
「やっぱりフィルドルクの血縁者はエスパーだったわね…」
メロティスは納得する。
「貴方は正真正銘エスパーの人種なのよ♪」
「僕がエスパーの人種!?」
「如何やら貴方が貴方の叔父さんの血筋を色濃く継承したみたいね…」
「血筋を継承したとしても僕にはストレイダス叔父さんみたいに死者の霊体なんて視認出来ないし…映画とか漫画の主人公みたいに怪力とか超能力なんて何一つとして使用出来ないよ…」
「貴方が特殊能力を発揮するには相応の衝撃が必要不可欠なのかも知れないわ…」
「相応の…衝撃?」
「貴方自身が大事件とか…事故に遭遇しなければ特殊能力は一生涯覚醒しないでしょうね…」
「大事件とか事故って…物騒だな…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。メロティスと摩訶不思議の会話から数分後…。二人は自宅へと戻ったのである。

第三話

新人類
小規模の島国…。テラトピア自由区から数百キロメートルの長距離にはテラトピア自由区よりも小規模の島国が存在する。島国の国名は〔万民解放区〕である。万民解放区は十五年前こそ無名の無人島であったが…。第三次列国大戦に敗北した万民解放軍の残党勢力と世界各地の犯罪者達が移住したのである。彼等は無人島の万民解放区に暗躍すると島内全域を軍事拠点化…。万民解放軍を再結成したのである。とある密室にて二人の軍人が密談する。
「二日後だ…二日後に近場のテラトピア自由区を攻略するぞ…」
将軍らしき人物が発言したのである。
「テラトピア自由区か…一日間で攻略出来そうだな…」
背広姿の金髪碧眼の男性が返答する。テラトピア自由区は比較的国内の治安が安定した一方…。戦力は最低限の武装警察隊が配置された程度であり通常の国軍としての反撃能力は実質皆無とされる。
「歴戦の貴様にとっては今回の作戦…片手間なのかも知れないが…貴様以外の将兵達は実戦未経験の新米兵士達ばかりだ…実戦で役立つのやら…」
今現在万民解放軍の将兵は大半が世界各国の犯罪者達ばかりであり経験豊富の将兵は実質少数とされる。将軍らしき人物は将兵達の熟練度の脆弱さを懸念する。
「非力の新兵ばかりだが…世界連合は十五年前の大戦で疲弊した状態なのも事実だからな…」
世界連合とは第二次列国大戦を契機に創設された各国家による統一政府である。第三次列国大戦が終結してから十五年が経過したものの…。今現在世界各国が戦争の悪影響で疲弊状態でありあらゆる国家が戦争出来る余力が皆無だったのである。無論…。統一政権の世界連合さえも今現在は反戦ムードであり各地の紛争を解決出来る余力は皆無である。背広姿の男性が断言する。
「今回の作戦は俺達の強大さを全世界に知らしめる絶好機…今回の作戦が成功すれば世界連合は迂闊には手出し出来なくなるだろう…何よりも俺には…」
背広姿の男性は護身用の拳銃を携帯したかと思いきや…。
「なっ!?貴様は…一体何を!?」
将軍らしき人物は拳銃に冷や冷やする。
「安心しろ…此奴を…分解するだけだ…」
「分解だと?一体如何するのだ?」
「大人しく見物し続けろ…」
背広姿の男性は摩訶不思議の効力で自身の拳銃を分解したのである。
「俺が超能力さえ思う存分に発揮出来れば…全世界を掌握出来るだろう…容易に…」
新人類とは超能力を所持する特殊人種とされ…。現在の調査では百万人に一人の確率で存在するとされる。
「現段階では俺に対抗出来る新人類は存在しない…」
すると将軍らしき人物はニヤリと冷笑する。
「貴様の超能力とやら…期待するぞ♪【ウィルフィールド】…」
彼自身詳細は不明であるが…。ウィルフィールドと名乗る人物は超能力を使用出来る新人類の一人だったのである。
『ウィルフィールドの正体が荒唐無稽の新人類だったとは…新人類とやらは本当に実在するのだな…』
将軍らしき人物は内心新人類の存在に驚愕する。

第四話

霊体
真夜中の深夜帯…。フィルドルクは超能力の歴史書と呼称される参考書を黙読したのである。超能力の歴史書には古代文明時代は勿論…。今現在の事例も多数記述され非常に興味深かったのである。
「極東のイーストユートピアにもエスパーが存在したなんて…」
イーストユートピア所謂桃源郷神国は魔女の発祥地として有名であるものの…。新人類による超能力伝説は複数存在する。先例としては戦乱時代に活躍したとされる名将夜桜崇徳王である。崇徳王は十数キロメートルもの長距離から敵軍の将兵が何人存在するのか正確に察知出来たとされる。崇徳王以外には安穏時代の八正道と名乗る僧侶も有名である。詳細こそ不明であるが…。彼にも超能力らしき伝説が一部確認される。一例としては神族天狐如夜叉との戦闘で銃弾のみで神器を破壊したとの一説である。八正道の場合は偶然の可能性が指摘される一方…。超能力による超常現象も否定出来ないとの意見も存在する。両者とも無自覚であったが…。今現在の見解では両者とも新人類であるとの見解が通説である。
「イーストユートピアにも新人類が存在したなんて…」
数分間が経過するとフィルドルクは熟睡する。睡眠してより数分後…。フィルドルクの脳裏より視界全域が白色の世界が発現されたのである。
「えっ?何だろう?」
フィルドルクは恐る恐る周囲を警戒するのだが…。周辺の景色は白色だけであり自分自身以外には何も存在しない虚無の世界である。
「摩訶不思議の世界だな…」
すると背後より…。
「フィルドルク…フィルドルク?」
「えっ?誰なの?」
フィルドルクは恐る恐る背後を直視したのである。
「えっ!?ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクの背後に存在するのは誰であろう二年前に死去した叔父…。ストレイダス本人だったのである。
「久し振りだな♪フィルドルク♪」
「叔父さん…」
「フィルドルクが元気そうで安心したよ♪」
ストレイダスは笑顔で発言する。
「如何して…ストレイダス叔父さんが?叔父さんは二年前に…」
フィルドルクは衝撃的光景に脳内が白色化したのである。
「突然だから吃驚するよな…フィルドルク…」
フィルドルクはストレイダスに近寄ると力一杯密着…。
「叔父さん!」
涙腺から涙が零れ落ちる。
「如何して…如何してストレイダス叔父さんは死んじゃったの?」
「フィルドルク…」
フィルドルクは数分間程度落涙し続ける。
「大丈夫そうだな…フィルドルク…」
泣き止むフィルドルクにストレイダスは安心する。
「甘えん坊だな♪フィルドルクは♪」
「御免なさい…叔父さん…」
フィルドルクは赤面した様子で謝罪したのである。
「当然であるが…今現在の俺は霊体の存在なのだ…」
ストレイダスは自身が霊体であると自負する。
「霊体…」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「如何して叔父さんは死んじゃったの?本当に事故で死んじゃったの?」
両親からはストレイダスの死因は不慮の事故であると説明されたのだが…。フィルドルクは如何しても納得出来なかったのである。
「今更フィルドルクに隠し事しても仕方ないからな…」
「隠し事?」
ストレイダスは一息する。
「二年前の十二月だ…」
「二年前の十二月?」
二年前の十二月の出来事である。新人類のストレイダスは特別警察での数多くの功績を評価され…。世界連合の特務機関に抜擢されたのである。全世界の主軸である世界連合も新人類の存在に興味を抱き始め…。新人類で構成された特務機関を創設したのである。特務機関の秘密エージェントとして活動するストレイダスは秘密団体…。万民解放軍と呼称される武装勢力の本拠地万民解放区に潜入したのである。潜入には成功したものの…。不運にもストレイダスは万民解放軍の警備兵に発見され拘束されたのである。ストレイダスを拘束した警備兵は皮肉にも自身と同種である新人類であり名前はウィルフィールドと名乗る。ウィルフィールドと名乗る新人類は非常に強力でありストレイダスはウィルフィールドの超能力で殺害されたのである。
「俺は諜報員として万民解放区に潜入したが…万民解放軍の本拠地でウィルフィールドって名前の新人類に拘束され…彼に殺害された…」
「えっ…ウィルフィールド?新人類…」
『やっぱりストレイダス叔父さんの死因は事故じゃなくて…ウィルフィールドって新人類に殺されたの?』
ストレイダスの死後…。世界連合は非難を回避したかったのか諜報員のストレイダスは不慮の事故として扱われたのである。フィルドルクは衝撃の事実に混乱する。
「突然だから混乱するよな…フィルドルク…」
「御免なさい…正直突然過ぎるから…」
「当然の反応だよな…」
ストレイダスは再度一息したのである。
「フィルドルク…俺は霊能力以外に未来予知も出来る…」
「未来予知って?」
フィルドルクは自身の超能力を覚醒させ未来予知も使用出来る。
「恐らくだが二日後…俺を殺害した新人類のウィルフィールドと…万民解放軍の奴等がテラトピア自由区に侵攻を開始するだろう…」
「えっ!?」
フィルドルクは驚愕したのである。
「本当に!?万民解放軍がテラトピア自由区に侵攻!?」
非現実的であり一瞬冗談かと思いきや…。
『ストレイダス叔父さんって冗談は苦手だよね…』
ストレイダスは冗談が人一倍苦手であり本当であると感じる。
「恐らくだが…隠蔽体質の世界連合は勿論…テラトピア自由区の武装警察隊も期待出来ないだろうよ…」
ストレイダスはフィルドルクを凝視し続ける。
「今現在テラトピア自由区を守護出来るのはフィルドルクだけだ…」
「えっ!?僕がテラトピア自由区を!?」
フィルドルクは再度困惑する。
「叔父さん…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力なんて何一つとして…」
現実問題…。フィルドルクは何一つとして超能力が使用出来ない。
「今現在では超能力は使用出来ないが…フィルドルクは人一倍俺の血筋を色濃く継承する一人だ…超能力が覚醒すればフィルドルクは俺を上回るかも知れない…」
ストレイダスはフィルドルクの潜在能力は自身以上であると確信する。
「如何すれば…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させられるの?」
「簡単だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力を開放出来るさ♪」
「えっ?僕は意識するだけ?」
「フィルドルクは俺の血筋を色濃く継承した存在だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力は発動出来るだろう…超能力を使用すれば使用するだけ桁外れに上達する…」
新人類は超能力を使用し続けると超能力は更なる覚醒により効力は幅広くなる。新人類の潜在的能力は実質的に未知数とされる。
「本当に…出来るのかな?僕なんかに…」
フィルドルクは自信が皆無であり潜在的能力が覚醒するのか不安だったのである。
「大丈夫だ♪フィルドルクなら出来るさ♪俺が保証する♪」
ストレイダスは笑顔で断言する。
「叔父さん…」
するとストレイダスの肉体が半透明化し始める。
「えっ!?叔父さん…肉体が半透明に…」
「如何やら霊能力は限界みたいだ…俺はもう少しで消滅する…」
「限界なの…叔父さん…」
「フィルドルク…最後だが…」
ストレイダスは笑顔で…。
「俺を超越しろよ…フィルドルク…フィルドルクなら俺を上回れる♪明日からはフィルドルクが本物のスーパーヒーローさ♪」
ストレイダスの肉体は完全に消失したのである。ストレイダスが消滅した直後…。
「ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクは目覚めたのである。
「えっ!?」
フィルドルクは自身の寝室であり室内をキョロキョロさせる。
「心霊現象だったのかな?如何して死んじゃったストレイダス叔父さんが…」
先程自身の夢路にて死去したストレイダスと再会した出来事にフィルドルクは混乱するものの…。
「僕にも…出来るのかな?ストレイダス叔父さん…」
フィルドルクは意識するだけで超能力が発動するのか試行を決意する。

第五話

超能力
本日の放課後…。フィルドルクは学園の裏庭へと移動したのである。
「ストレイダス叔父さんのアドバイスでは…意識するだけで超能力が発動するらしいけど…」
『本当に意識するだけで超能力が覚醒するのかな?』
内心…。昨日夢路にて遭遇したストレイダスの心霊現象も偶然の可能性も否定出来ず超能力は発動しないだろうと思考したのである。
「石ころだ…」
地面の石ころを自身の目前に設置させたのである。
「石ころ…浮遊するかな?」
フィルドルクは恐る恐る両目を瞑目させる。
「石ころよ…空中を浮遊しろ…」
フィルドルクは石ころに命令するのだが…。石ころは依然として浮遊しない。
「石ころは浮遊しないな…」
フィルドルクは再度命令する。
「石ころ!浮遊しろ!」
試行してより数分間が経過…。フィルドルクは必死に思念するのだが目前の石ころはピクリとも動かない。フィルドルクは苛立ち始める。
「畜生!僕には出来ないよ!」
フィルドルクは自身が超能力の才能が皆無であると落胆したのである。
「僕は全然駄目だね…やっぱり石ころは浮遊しないや…」
フィルドルクは超能力が発動せずガッカリする。
「はぁ…やっぱり僕に超能力の才能なんて無かったみたいだね…」
『死んじゃったストレイダス叔父さんの幽霊が出現する時点で可笑しかったのかも知れないね…僕の妄想だったのかな?』
夢路に出現したストレイダスは自分自身の妄想であったと判断したのである。
「仕方ない…戻ろうかな…」
フィルドルクは帰宅する寸前…。
「えっ?」
一瞬であるが背後の石ころがコロッと動いたのである。
『一瞬動いたかな?』
フィルドルクは一息する。
『石ころよ…浮遊しろ…』
恐る恐る石ころに思念したのである。数秒後…。依然として動かなかった石ころが上昇し始める。
「えっ!?石ころが浮遊した!?」
石ころは自身の目線と同程度に浮遊…。ピタッと停止する。
『現実なの!?』
フィルドルクは空中浮揚する石ころに驚愕…。
「魔法みたいだ…」
目前の光景が現実なのか理解出来なくなる。
『石ころよ…落下しろ…』
落下を思考すると石ころは一瞬で地面に落下したのである。
「超能力って本当に存在したの?僕に超能力が…」
フィルドルクは先程の超常現象が自身による念力なのか確認したくなる。フィルドルクは帰宅せず近隣に位置する閉鎖中の廃鉱へと移動したのである。
「廃鉱なら好都合だね…」
閉鎖中の廃鉱には無数の岩石やら鉄屑の残骸が確認出来…。超能力を発動するには好都合だったのである。
「今度も其処等の石ころを…」
二十センチメートルの石ころを発見…。
「石ころは校内の裏庭みたいに浮遊するかな?」
先程みたいに石ころが浮遊するのか試行したのである。
『石ころよ…浮遊しろ…』
数秒後…。石ころが容易に浮遊したのである。
「えっ…」
フィルドルクは驚愕する。
「本当に…僕に超能力が?」
今回は裏庭の石ころよりも軽量に感じられたのである。
「落下しろ…」
落下をイメージすると石ころは一瞬で地面に落下する。フィルドルクは恐る恐る背後を凝視…。
「僕に…出来るだろうか?」
フィルドルクの背後に存在するのは先程の石ころより大サイズの岩石である。直径一メートルサイズであり念力で粉砕出来るか思考する。
「此奴を…念力だけで粉砕出来るかな?」
直径一メートルサイズの岩石に思念したのである。
『岩石よ…』
フィルドルクは必死に思念するのだが…。
「砕け散れ!」
岩石は非常に硬質であり容易には粉砕出来ない。
「ビクともしないな…やっぱり岩石を粉砕するのは困難だね…」
困難であると感じるものの…。
「今度こそ…」
フィルドルクは再チャレンジする。
「岩石よ…粉砕しろ!」
先程よりも根強く思念したのである。
「砕け散れ!」
すると数秒後…。岩石の表面よりピキッと罅割れが発生する。
「表面が罅割れた!?」
『今度こそ出来るかも!』
再度思念したのである。
『岩石よ…砕け散れ!』
数十秒間が経過…。直後である。頑強の岩石がバリッと粉砕され…。周囲に砕け散ったのである。岩石の破片が其処等に散乱する。
「はぁ…はぁ…手出しせずに岩石を粉砕出来たぞ♪」
フィルドルクは大喜びしたのである。目標を達成出来たものの…。フィルドルクは極度の疲労により地面に横たわる。
「念力だけで…こんなにも疲れが蓄積されるなんて…」
フィルドルクは体力の消耗に身動き出来なくなる。
『眠たいな…』
直前…。
「貴方…大丈夫かしら?」
「えっ…誰なの?」
最近知り合った女子学生のメロティスが地面に横たわった状態のフィルドルクに恐る恐る近寄る。
「メロティスさん?」
「フィルドルク…動かないでね…」
「えっ?」
メロティスはフィルドルクの腹部に接触したかと思いきや…。消耗した体力が蓄積されたのである。
「一安心だわ…」
メロティスはホッとする。
「感謝するよ♪メロティスさん♪体力が戻ったよ♪ひょっとしてメロティスさんの魔法なの?」
「無論ね…」
メロティスは体力の消耗したフィルドルクに回復魔法を使用したのである。フィルドルクはメロティスの回復魔法により体力が回復する。するとメロティスは笑顔で…。
「貴方…超能力の覚醒に成功したのね♪見事だったわ♪」
「えっ?メロティスさん…ひょっとして観察したの?」
「勿論よ♪放課後からね♪」
メロティスは笑顔で即答する。
「えっ…はぁ…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。
「フィルドルクは本当にサイコキネシス…超能力を覚醒させたのね♪貴方は正真正銘新人類だったのよ♪」
「僕が新人類…」
『ストレイダス叔父さんの遺言は事実だったのか…』
内心自身が新人類だった事実にフィルドルクは嬉しくなる。
「メロティスさん?」
「何かしら?フィルドルク?」
フィルドルクは深夜の夢路での出来事をメロティスに洗い浚い告白する。
「貴方は夢路で故人の叔父さんと遭遇したのね…」
「叔父さんの未来予知は本当なのかな?」
「本当でしょうね…私も千里眼で海辺を眺望するのだけど…」
メロティスは時たま大海原を眺望するのだが…。二日前に武装した小型船を数隻目撃したのである。不審の小型船は即座に撤収したものの…。メロティスは気味悪くなる。
「私は胸騒ぎを感じるのよ…ひょっとすると近日中に大事件が発生するかも知れないわね…」
メロティスは非常に不安視する。
『メロティスさん…』
彼自身自信は皆無であったものの…。
「メロティスさんは僕が守護するよ♪」
笑顔で断言する。
「フィルドルク…」
フィルドルクの発言にメロティスは一瞬赤面したのである。
『叔父さんを殺した新人類…ウィルフィールドにも対面したいし…』
数分後…。二人は各自の自宅へと戻ったのである。

第六話

開戦
翌日の早朝…。六時三十分未明である。本拠地の万民解放区より万民解放軍の艦隊が出撃を開始する。旗艦は巨大戦艦一隻と二隻の大型輸送艦が同行したのである。旗艦の巨大戦艦には新人類のウィルフィールドが乗艦する。
「ウィルフィールド大佐♪貴方の活躍を期待しますよ♪」
ブリッジにて艦長が笑顔で発言したのである。
「活躍するも何も…こんな単調の任務で活躍出来なければ全世界を制覇するのは夢物語だ…」
「〔ヘビーエンプレス〕の威力をテラトピア自由区の人民に知らしめる絶好機です♪」
超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスは第三次列国大戦で大活躍した超弩級ミサイル艦であり万民解放軍の旗艦である。将兵達からは難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金エターナルメタルが駆使され…。エターナルメタルの重厚装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない鉄壁の強度である。多数の多目的ミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射出来る電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には一機の大型輸送機か偵察用の無人機を二機搭載出来る。
「俺が超能力を発揮すればヘビーエンプレスの出番は無くなるな…」
航行してより三十分後の七時…。一隻の小型船と遭遇したのである。
「所属不明の小型船を発見しました!」
通信兵が報告する。
「所属不明の小型船だと?であればホログラム装置で確認しろ…」
ヘビーエンプレスには最新式のホログラム装置が搭載されたのである。装置の上部には立体化された海面上と一隻の小型船の立体映像が映写される。
「此奴はテラトピア自由区の警備艇か…大艦隊である俺達を相手に絶望的だな…」
ウィルフィールドが発言する。
「ウィルフィールド大佐…対艦ミサイルで攻撃しますかね?」
艦長はウィルフィールドに問い掛ける。
「折角の挨拶だ…手始めに攻撃しろ…」
「承知しました…」
艦長はウィルフィールドの指示に承知すると乗組員達に攻撃を命令する。
「警備艇を攻撃…撃沈せよ…」
「はっ!」
乗組員達は即座に行動を開始したのである。
『開戦だ…旧人類同士潰し合うのだな♪』
ウィルフィールドは周囲に失笑する。同時刻…。警備艇の船内では所属不明の大艦隊に騒然とする。
「大型艦艇が三隻も!?演習なのか?」
警備艇の乗組員達は所属不明の大艦隊に警戒したのである。すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「中央の大型船は恐らく…第三次列国大戦で活躍したヘビーエンプレスだろうか…」
「ヘビーエンプレスですと?」
「世界連合に敵対した新枢軸勢力が使用した超大型船舶だ…こんな辺境の海域で遭遇するとは…」
「であれば所属不明の大艦隊は新枢軸勢力の残党なのか!?」
「新枢軸の残党勢力が出現するとは…一体何が目的なのか?」
「何はともあれ相手が相手だ…俺達だけでは対処出来ない…即刻政府と世界連合に報告しろ!世界連合に援軍を要請し次第…海域を撤退するぞ!」
乗組員達は即座に政府と世界連合に事態を報告したのである。数秒後…。
「ヘビーエンプレスから対艦ミサイルが多数発射されました!」
ヘビーエンプレスより十数発もの対艦ミサイルが発射されたのである。
「対艦ミサイルを迎撃しろ!」
警備艇は即座に対空砲で対艦ミサイルの迎撃を開始する。四発の対艦ミサイルの迎撃には成功するのだが…。一発の対艦ミサイルが警備艇の甲板に直撃したのである。直後…。弾薬庫に引火すると警備艇は乗組員諸共轟沈したのである。一方ヘビーエンプレスの艦内ではウィルフィールドが双眼鏡で確認する。
「他愛無いな…俺達はテラトピア自由区に直進するぞ…」
万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区を目標に直進したのである。一方警備艇からの報告によりテラトピア自由区政府と世界連合は突然の事態に混乱する。

第七話

高速道路
午前七時…。テラトピア自由区では警戒警報が発令されたのである。突然の警報に国内は混乱し始める。フィルドルクも突然の警報に吃驚…。飛び起きたのである。
「えっ!?何が!?」
『ひょっとして警戒警報?』
フィルドルクは万民解放軍の襲来であると察知する。
『万民解放軍だな…叔父さんの予言は本当だったね…』
ストレイダスの未来予知に驚愕したのである。一方外部では突然の緊急事態に各勤務地は勿論…。各学園も一時的に休校されたのである。一部の学生は学園の休校で大喜びするものの…。数多くの者達が緊急事態に不安視する。すると突如として自室に設置された携帯型ホログラム装置が鳴動したのである。
「うわっ!吃驚した…」
フィルドルクは携帯型ホログラム装置を作動させる。
「フィルドルク?」
ホログラム装置はメロティスの姿形を映写させたのである。
「メロティスさん?」
「こんな朝っぱらから突然御免なさいね…」
「大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
メロティスは謝罪するのだがフィルドルクは笑顔で返答する。
「やっぱり貴方の叔父さんの予言は本当だったわね…」
「本当だね…正直僕も吃驚したよ…」
「避難所で合流しましょうね…フィルドルク…」
直後に携帯用のホログラム装置が停止したのである。すると自室のドアにて父親が入室する。
「フィルドルク?」
「父さん?」
「フィルドルク…準備が出来次第避難所に移動するぞ…」
「避難所?」
政府から避難指示が発令されたのである。
「オーケー!父さん!」
フィルドルクは準備を開始する。準備を開始してより数分後…。準備が終了するとフィルドルクは父親と母親との三人で外出したのである。
「如何して突然こんな事態に…」
母親は予想外の出来事にビクビクする。
「俺にも何が何やらサッパリだが…俺達は避難所に移動して命拾いするぞ…」
三人は自家用車で避難所へと移動するのだが…。高速道路の道路上は渋滞であり直進したくても直進出来ない。
「渋滞か…畜生…」
自家用車を運転する父親は非常に苛立った様子である。
「全然走行出来ないわね…」
「こんな状態では避難所には当分移動出来ないね…如何する?」
今現在では各地の車道が渋滞であり乗用車は走行出来ない。周囲の様子を直視すると乗用車を放棄…。大勢の歩行者が高速の車道を徒歩で通行したのである。
「仕方ないな…俺達も歩くぞ…」
「止むを得ないわね…」
三人は止むを得ず乗用車を放棄…。周囲の歩行者達と同様に徒歩で高速道路を通行したのである。
「私達は避難所に到達出来るのかしら?」
母親が不安視する。
「避難所に到達出来るかは断言出来ないが…何も行動しないよりは…」
一方フィルドルクは沈黙した様子で両親を凝視したのである。
『父さんも母さんも不安みたいだな…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させて…父さんと母さんを安心させたいな…』
フィルドルクと両親が高速道路を移動する同時刻…。魔女のメロティスは自宅の地下壕にて両親と三人で潜伏する。
「パパ?ママ?如何して避難所に移動しないのよ?私達も避難所に移動しましょうよ…こんな場所に待機し続けても…」
メロティスは不満そうな表情で両親に問い掛ける。
「避難所に移動するのは危険だ…移動中に攻撃されたら如何する?何が発生しても可笑しくない状況下だぞ…」
父親は避難所への移動を拒否する。
「俺は十五年前の大戦で大勢の避難民達が空爆で殺された瞬間を間近で目撃したからな…俺の兄貴も避難所に移動したばかりに…」
メロティスの父親は第三次列国大戦で避難所に移動中…。最愛の実兄が空爆で死亡したのである。
「パパ…」
父親の思考も理解出来るのだが…。
『私はフィルドルクと合流したいのに…』
彼女は自身の無力さを痛感する。

第八話

空爆
三十分後…。万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区の海域へと到達する。二隻の大型輸送艦の飛行甲板より多数の爆撃用ドローンが出撃…。数分間でテラトピア自由区領空へと飛来したのである。テラトピア武装警察隊の航空部隊が迎撃を開始するものの…。万民解放軍のドローン兵器は非常に高性能であり航空部隊は圧倒されたのである。各地で空爆が開始される。高速道路からでも空爆の様子が直視出来…。歩行者達は恐怖したのである。フィルドルク自身は比較的冷静であったものの…。両親は大戦のトラウマからか膠着したのである。すると一機の攻撃用ドローンが高速道路上空に急接近…。低空飛行にて逃亡中の歩行者達に対人射撃を仕掛ける。十数人が死傷する。今度はフィルドルクの両親を標的に攻撃を仕掛けるのだが…。
「父さんと母さんには手出しさせないよ!」
フィルドルクは低空飛行の攻撃用ドローンにサイコキネシスを発動する。
「墜落しろ!」
射撃寸前に攻撃用ドローンはフィルドルクのサイコキネシスにより空中分解したのである。フィルドルクの超能力を間近で目撃した父親は驚愕する。
「フィルドルク…超能力を…現実なのか?」
父親はフィルドルクのサイコキネシスに絶句するのだが…。
「貴方…覚醒したのね…」
母親は実弟のストレイダスを連想したのか冷静だったのである。
「母さん…父さん…僕はね…」
フィルドルクは最近超能力が開花した事実は勿論…。夢路にて故人のストレイダスと対面した出来事を一部始終両親に告白したのである。
「フィルドルクは夢路でストレイダスの霊体と接触したのね…ストレイダスは未来予知の内容を貴方に…」
母親は非常に納得した様子であったが…。
「死者との会話なんて…荒唐無稽の漫画みたいな出来事だな…」
父親は珍紛漢紛だったのである。
「納得出来なくて当然だよ…父さん…」
「俺は常人だから理解するには時間が必要不可欠だけど…内容は荒唐無稽だが超能力は本当に存在するのだな…」
正直理解するには程遠いが…。父親はフィルドルクの告白を闇雲に否定せず信用したのである。
「先程の内容が事実であれば…俺達が想像する以上に今回は相当の一大事だな…」
「貴方は如何するの?フィルドルク?」
「僕は…叔父さんの…ストレイダス叔父さんの継承者として万民解放軍を全身全霊で阻止するよ…」
「フィルドルク一人で…」
「フィルドルク…貴方は本気なのね?」
「勿論だよ…父さん…母さん…」
両親の意向としては当然猛反対であったが…。フィルドルクの表情から本気であると察知する。
「危なくなったら絶対に戻りなさいよ…フィルドルク…絶対に死なないでよ…」
「精一杯頑張れよ…フィルドルク…無事に戻れよ…」
「僕は絶対に死なないからね!」
フィルドルクは移動を開始したのである。

第九話

野望
ドローン兵器による空爆開始から十数分後…。テラトピア武装警察隊は疲弊状態であり万民解放軍は陸上部隊による上陸作戦を開始したのである。二隻の大型輸送艦からは合計十二隻もの上陸用舟艇が出撃…。主力戦車を中心とした上陸部隊がテラトピア自由区へと上陸したのである。旗艦ヘビーエンプレスのブリッジからウィルフィールドが上陸作戦の様子を眺望する。
「今回は俺も参戦するか…」
「大佐も上陸作戦に参加されるのですか!?」
「当然だ…」
周囲の乗組員達は愕然としたのである。
「無茶では…」
周囲の者達は無茶であると感じるものの…。
「私を仕留められる常人は存在しない…貴様達は私の実力を直視するのだな…」
ウィルフィールドは外部へと移動すると甲板にて佇立する。
「はっ!」
ウィルフィールドはサイコキネシスにより自身の肉体を浮遊させたのである。
「えっ…大佐が空中を!?」
「大佐は一体何者!?空中を飛行するなんて…幻覚だろうか?」
空中を浮遊するウィルフィールドにブリッジの乗組員達は驚愕する。一方のウィルフィールドはサイコキネシスで空中を飛行…。数分後に港内へと着地したのである。
「ん?」
『何やら…彼奴に匹敵する効力を感じるな…一体何者だろうか?』
正体こそ不明であるものの…。ウィルフィールドは気配を察知したのである。一方周囲では銃撃戦が展開されるのだが…。ウィルフィールドは無関心だったのである。
「貴様は敵部隊の指揮官か!?覚悟しろ!」
狙撃兵がウィルフィールドを標的に銃弾を発砲する。発砲された銃弾はウィルフィールドの発動したサイコキネシスにより寸前で急停止…。
「なっ!?銃弾が…」
サイコキネシスによって空中浮揚する銃弾に狙撃兵は驚愕する。一方のウィルフィールドは余裕の様子で…。
「鬱陶しい…」
発砲された銃弾はサイコキネシスの発動で狙撃兵に直撃したのである。
「ぐっ!」
銃弾の直撃により狙撃兵は地面に横たわる。
『ん?』
三人の敵兵が各ビルの屋上よりウィルフィールドを標的に設定する。
『敵軍の狙撃兵が三人か…』
ウィルフィールドは逸早く敵兵の気配を察知…。
「焼死しろ…」
発火能力であるパイロキネシスを発動する。各ビルの狙撃兵は突然の発火によって焼死したのである。すると今度は目前より…。
「今度の相手は重戦車か…俺に対抗するには力不足だな…」
重戦車はウィルフィールドを標的に戦車砲で砲撃したのである。
『こんな程度の攻撃で…』
ウィルフィールドはエレクトロキネシスで電撃のシールドを形成させる。砲弾はシールドの表面に接触すると爆散…。砲撃の無力化に成功したのである。
「今度は俺が反撃する…」
ウィルフィールドはサイコキネシスを発動すると敵軍の重戦車をペシャンコにスクラップ化させる。
「他愛無いな…敵軍の防衛ラインは容易に突破出来そうだな…」
『ん!?』
ウィルフィールドは気配の正体が気になり極度の胸騒ぎを感じる。
『気配の正体は…一体何者だろうか?新人類か?』
同時刻…。フィルドルクは銃声を目印に港内へと移動したのである。
『胸騒ぎかな?気配を感じる…一体何者なの?』
フィルドルクもウィルフィールドと同様に気配を察知…。極度の胸騒ぎを感じる。数分後…。フィルドルクは万民解放軍の上陸地点である港湾へと到達したのである。港湾には敵味方の将兵達の遺体が彼方此方に確認出来…。地獄絵同然だったのである。
「戦争の光景…」
想像以上の惨劇にフィルドルクは気味悪くなる。
『父さんと母さんは僕が誕生する以前にこんな惨劇を経験したのかな…』
するとフィルドルクは十五人の敵兵に包囲されたのである。
「貴様は民間人の学生か?こんな場所に一人で参上するとは其処等の凡人達よりは勇敢だが…場違いだな…」
「少年…死にたくなければ大人しく拘束されるのだな…」
フィルドルクは催眠を意識する。
『熟睡しろ…』
数秒間が経過すると周囲の兵士達はサイコキネシスの応用により地面に横たわり…。熟睡したのである。
「兵士達を殺さずに無力化出来たな…」
フィルドルクはホッとする。すると直後…。
「不殺で兵士達を無力化するとは…見事だな…少年…」
「えっ?誰なの?」
突如としてフィルドルクの目前より背広姿の男性が近寄る。
「少年よ…貴様の正体は新人類だな…」
男性は一目でフィルドルクが新人類であると洞察したのである。
「如何して貴方は僕を新人類だって…貴方は一体何者ですか?」
フィルドルクは恐る恐る男性に問い掛ける。
「俺の名前はウィルフィールド…俺も少年と同様に新人類の一人さ…」
ウィルフィールドは自身を新人類の一人と自負する。
「新人類…」
するとウィルフィールドはフィルドルクの両目を直視…。
「少年は彼奴に近似するな…俺が殺害した彼奴に…」
「彼奴って?誰ですか?」
「ストレイダスと名乗る新人類に…」
ストレイダスの名前にフィルドルクはピクッと反応する。
「ストレイダスって…貴方が…ストレイダス叔父さんを…」
「叔父さん?ストレイダスは貴様の叔父だったのか…」
ウィルフィールドは納得したのである。
「やっぱり貴方が叔父さんを殺害した張本人だったのですね?」
ウィルフィールドは身震いし始める。
「如何して貴方は叔父さんを殺害したのですか!?」
普段は温厚の性格であるフィルドルクであるが…。今回ばかりは非常に感情的だったのである。
「私がストレイダスを殺害した理由か…私は二年前に万民解放区に潜入した彼奴を新人類の仲間として勧誘したのだが…」
二年前…。諜報員として万民解放区に潜入したストレイダスは不運にも万民解放軍の偵察部隊と遭遇したのである。自身の超能力で偵察部隊を圧倒するもウィルフィールドが介入…。ウィルフィールドの介入によりストレイダスは拘束されたのである。ウィルフィールドは自身の野望にストレイダスに協力を一方的に要求するのだが…。
「俺は彼奴に腐敗した世界連合は勿論…世界連合を牛耳る〔ソロポスト共和国〕の滅亡に協力しないかと要求したのだが…ストレイダスは俺の要求に拒否した…彼奴も俺と境遇は一緒だろうに…」
僅少であるがウィルフィールドは感情的だったのである。
「如何してウィルフィールドは世界連合と貴方の祖国であるソロポスト共和国を滅亡させたいのですか?」
フィルドルクが恐る恐る問い掛ける。
「ソロポスト共和国は俺の祖国だったが…」
ソロポスト共和国は超大国であり今現在全世界の覇権国家である。ウィルフィールドはソロポスト共和国出身者であったが…。ソロポスト共和国は正真正銘の差別大国であり当然として新人類も差別の対象だったのである。
「差別…」
「俺は新人類としての性質上…身内の奴等からも差別されたのだ…」
「貴方は身内からも…」
フィルドルクはウィルフィールドの境遇に絶句する。
『ストレイダス叔父さんも…母さん以外の人間達に…』
ストレイダスもフィルドルクの母親以外の人間達から差別され…。数多くの者達から迫害されたのである。フィルドルクは返答出来ず沈黙する。
「俺は祖国を見限り…本来なら敵国である万民解放軍に寝返ったのだ…」
ウィルフィールドが万民解放軍に協力するのは世界連合と同組織を牛耳るソロポスト共和国の滅亡である。
「俺としても正直…ストレイダスは死なせたくなかった…新人類の同志として彼奴と一緒に腐敗した旧世界を改善させたかったのに…非常に残念だ…」
拘束されたストレイダスであるが…。ウィルフィールドの協力には拒否したのである。
「ストレイダスは何を血迷ったか…愚劣なる旧人類が支配し続けるこんな腐敗した世界を守護しても無意味だろうに…何故ストレイダスは奴等に協力するのか俺には理解出来ない…彼奴も迫害されただろうに…」
するとフィルドルクは恐る恐る…。
「貴方の目的は…新人類が差別されない世界の構築ですか?」
フィルドルクの問い掛けにウィルフィールドは嬉しそうな表情で返答する。
「勿論だとも♪主目的を達成するには数多くの犠牲が必要不可欠だが…」
ウィルフィールドはフィルドルクに名前を問い掛ける。
「少年よ…貴様の名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクです…」
「フィルドルクか…」
ウィルフィールドは一瞬瞑目する。
「フィルドルクよ…新人類の一人として俺に協力しろ…」
「はっ?」
フィルドルクはウィルフィールドの予想外の発言に拍子抜けしたのである。
「誰が貴方に協力なんて…」
フィルドルクは拒否する。
「貴方は過去に大勢の人間達から迫害されたのかも知れませんが…僕にとって貴方は悪人です!叔父さんを殺害した張本人と協力なんて僕には出来ません…」
「当然の返答だよな…突然見ず知らずの人間から協力を要請されても拒否するのは当然の返答だ…」
「貴方は一体何を?」
するとウィルフィールドは上空を眺望したのである。
「此処からだと確認出来ないが…」
「えっ?上空?」
「テラトピア自由区の成層圏上空には万民解放軍の衛星兵器…〔リバースキャノン〕が存在する…」
「リバースキャノン?」
リバースキャノンとは万民解放軍が開発した試作型光学衛星兵器…。戦略兵器である。高出力の高エネルギーを成層圏上空から発射出来…。大都市部を一撃で焦土化させる威力とされる。第三次列国大戦にて万民解放軍が開発した戦略兵器であるが完成直前に終戦…。第三次列国大戦では使用されなかったのである。
「少なくとも首都はリバースキャノンの一撃で焦土化するだろうよ…」
「首都が一撃で…」
フィルドルクは戦慄したのである。
「如何する?俺に協力すればリバースキャノンの発射を中止するし…上陸部隊を撤退させるぞ…フィルドルクにとって苦渋の選択だ…」
「えっ…苦渋の選択…」
ウィルフィールドの発言にフィルドルクは反応する。
「貴様の選択によってテラトピア自由区の運命が決定される…」
「貴方の…目的は?」
フィルドルクは警戒した様子で恐る恐るウィルフィールドに問い掛ける。
「俺の目的は世界各地に存命する新人類が迫害されない新世界の構築だ…」
「新人類が迫害されない新世界?」
「俺の目的に協力すればフィルドルクの家族は勿論…友人も命拾い出来るぞ…貴様は実質テラトピア自由区の英雄として崇拝されるだろう…」
「僕には…」
一息したのである。
「やっぱり貴方には賛同出来ません…」
フィルドルクは再度拒否する。
「如何しても拒否するか?フィルドルク…貴様の選択によって大勢の人間達が抹消されるのだぞ…貴様は極悪非道の悪魔だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクを極悪非道の悪魔であると指弾したのである。
「俺が悪魔だと?貴様には失望したよ…フィルドルク…」
ウィルフィールドは無表情であるが…。内心ではガッカリしたのである。
「仕方ない…であれば実力行使だ…」
「実力行使って?」
ウィルフィールドは両手より電撃を発動したのである。
「うわっ!ぎゃっ!」
フィルドルクはウィルフィールドのエレクトロキネシスにより全身が麻痺する。エレクトロキネシスは本来拷問として使用される超能力である。
「非常に残念だよ…フィルドルク…貴様も俺に拒否するとは…」
『所詮は愚か者達だ…フィルドルクもストレイダスも…俺達は新人類同士…未来永劫仲良く共闘出来たのに…』
ウィルフィールドは新人類として彼等と仲良くしたかったのだが…。フィルドルクの拒否によって自身の目的は達成出来ないと自覚する。一方のフィルドルクは身動き出来ず…。涙腺より涙が零れ落ちる。
『ストレイダス叔父さん…僕は如何すれば?結局僕は…ウィルフィールドに殺されちゃうのかな?』
最期を覚悟したフィルドルクであるが…。
『フィルドルク…』
『えっ?』
フィルドルクの脳裏よりストレイダスの霊体が出現する。
『叔父さん?』
『思う存分に反撃しろ…フィルドルク♪フィルドルクなら出来るさ…』
『叔父さん…僕は…』
フィルドルクは覚悟したのである。
「ぐっ!」
フィルドルクはウィルフィールドの電撃エネルギーを体内に吸収し始める。
「ん!?」
『フィルドルクは…俺の電撃を吸収するとは…』
冷静だったウィルフィールドも自身の電撃エネルギーを吸収し始めたフィルドルクには愕然とする。
『此奴…短期間でこんなにも超能力が開花するとは…』
故人のストレイダスは勿論…。自身をも上回ると予想する。一方のフィルドルクは吸収した電撃エネルギーを球体に形作る。
「はっ!」
「なっ!?」
ウィルフィールドは咄嗟にエレクトロキネシスで鉄壁のエネルギーシールドを形成…。間一髪電撃エネルギーの無力化に成功したのである。
「シールド?」
「はぁ…はぁ…一歩間違えれば俺がヤバかったな…」
ウィルフィールドはフィルドルクの覚醒に冷や冷やする。フィルドルクは先程の電撃により負傷した傷口が治癒したのである。
「フィルドルクは治癒効果も開花するとは…貴様の潜在的能力は俺の予想以上だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクが末恐ろしくなる。一方のフィルドルクは無表情でウィルフィールドに近寄る。
「俺と勝負するか?フィルドルク…」
「貴方は叔父さんを殺害した張本人だけど…僕は貴方を殺害したくない…」
フィルドルクからは殺意は感じられない。
「俺は最愛の人間を殺した張本人なのに…殺害したくないとは…フィルドルクは余程の聖人なのだな…」
「如何にか部隊を撤退させて下さい…」
フィルドルクはウィルフィールドに懇願する。フィルドルクの懇願にウィルフィールドは沈黙したのである。すると直後…。近辺より爆発音が響き渡る。
「えっ!?一体何が!?爆発音!?」
「ん?何事だ?」
爆発音が響き渡ったのは湾内だったのである。湾内の中心部には大型輸送艦が爆散…。一瞬で轟沈する。
「畜生が…味方の大型輸送艦が敵軍の猛反撃で撃沈されるとは…」
テラトピア武装警察隊の猛反撃により万民解放軍の大型輸送艦一隻が撃沈されたのである。ウィルフィールドは不本意であるが…。
「止むを得ないな…こんな場所で貴様みたいな新人類を殺害するのは非常に勿体無いからな…」
「えっ…」
一瞬ウィルフィールドの返答に拍子抜けしたのである。
「作戦中の部隊を撤退させる…当然としてリバースキャノンの発射も中止する…」
ウィルフィールドはフィルドルクの懇願に承諾…。作戦中止を決定したのである。
「貴様の成長は見物だな♪フィルドルク…」
『今度再会出来たら…フィルドルクと共闘したいな…』
今度はフィルドルクを仲間に勧誘…。共闘出来たらと思考する。ウィルフィールドは携帯式のホログラム装置を作動させ作戦の中止を全軍に伝播させたのである。作戦中止から数時間が経過…。万民解放軍の撤退により一連の事件は終焉する。同事件はテラトピア大事変と命名されたのである。

最終話

屋上
テラトピア大事変から一週間後…。世界連合の協力により国内の復興作業が開始される。テラトピア大事変終結から二週間が経過…。世界連合軍による報復作戦が開始され万民解放区は占拠されたのである。両軍の死闘により十数万人もの将兵達が死傷するが…。武装は解除され本土に配備された艦艇やら多数のドローン兵器は接収されたのである。作戦終了後…。万民解放軍の首謀者ウィルフィールドの行方は不明であり今現在でも行方は捜索されるのだが依然として発見されない。半年後の十月上旬…。
「はぁ…」
フィルドルクは休憩時間に学園の屋上にて上空を眺望する。
『ウィルフィールドって軍人さん…行方不明なのかな…』
フィルドルクはウィルフィールドの行方が気になったのである。するとフィルドルクの隣接より…。
「フィルドルク♪」
「えっ!?メロティスさん!?」
メロティスは笑顔でフィルドルクを直視したのである。
「ニュース番組ではテラトピア武装警察隊が悪者達を撃退したって報道したけどさ…実際は貴方の大活躍なのよね?」
「えっ…」
メロティスに問い掛けられるとフィルドルクは返答に困惑する。
「僕は…別に…」
フィルドルクは表情が微妙だったのである。するとメロティスは笑顔で…。
「今現在の貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
「えっ?」
メロティスのスーパーヒーローの一言に反応する。
「貴方が奮闘したからこそテラトピア自由区は奴等に占領されなかったのよ♪正真正銘貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは僅少であるが微笑したのである。
「メロティスさん♪僕がスーパーヒーローか…」
するとメロティスは赤面した表情で…。
「今度の休日だけど…私と一緒に遊ばない?」
「えっ…メラティスさんと?」
彼女の発言にフィルドルクはドキドキし始める。
『えっ…ひょっとして…メロティスさんとデートとか!?僕が!?』
フィルドルクもドキドキしたのか赤面したのである。
「こんな僕で…大丈夫なの?メロティスさん?」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「貴方だからなの♪人外同士♪私は今後も貴方と交流したいのよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは大喜びする。
「僕こそ♪」
フィルドルクは満面の笑顔で返答したのである。
「メロティスさんは何したいの?」
「私は映画かな♪映画は映画でもホラー映画とか♪」
「ホラー映画ね♪」
フィルドルクは笑顔で返答するのだが…。
『ホラー映画って…メロティスさんらしい趣味だな…』
メロティスの趣味に内心苦笑いしたのである。苦笑いのフィルドルクであるが…。
『ストレイダス叔父さん…こんな僕にも…彼女が出来たよ♪』
極度の嬉しさからかフィルドルクは涙腺より涙が零れ落ちる。
完結
メンテ

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桜花姫 ( No.31 )
日時: 2021/08/17 09:44
名前: 月影桜花姫

第七話

廃神社

スキュランによるアクアユートピアでの事件が無事解決してより翌日の早朝…。桜花姫の妹分である山猫妖女の小猫姫は暇潰しに西国の廃神社にて一休みする。
「毎日毎日…退屈だな…」
(悪霊でも出現しないかな?)
霊魂巨神木との死闘以後…。小猫姫は桜花姫みたいに悪霊征伐に尽力するのだが近頃は悪霊も匪賊も出現せず退屈の毎日だったのである。
(悪霊が出現すれば…私でも桜花姫姉ちゃんみたいに悪霊を仕留めちゃうのに…)
小猫姫は一息した直後…。
「えっ?」
(一体何だろう?)
突如として極度の胸騒ぎを感じる。
「胸騒ぎかな…」
非常に気味悪くなり周囲を警戒したのである。
「ひょっとして出現したのかな?」
小猫姫は警戒するものの…。内心ワクワクしたのである。すると暗闇の天然林より無数の鬼火が出現する。
「えっ?悪霊かな?」
無数の鬼火の出現に小猫姫は内心大喜びしたのである。
「本物の悪霊っぽいね♪」
背後より強烈なる霊力を察知…。小猫姫は恐る恐る背後の鳥居を直視する。
「えっ?人間の…生首?」
(巨体だね…)
廃神社の鳥居から女性らしき巨体の生首が出現したのである。
「ひょっとして此奴は以前…桜花姫姉ちゃんが退治した大生首って悪霊かな?」
悪霊の正体は大生首であり浮遊した状態で小猫姫を直視するなり不吉の笑顔でニヤッと微笑む。
「早速私の出番みたいだね♪退治するよ!」
すると突然…。大生首は口先を開口すると周囲に浮遊する無数の鬼火を吸収したのである。
「えっ?一体何を?」
鬼火を吸収すると先程よりも大生首の霊力が増幅される。
「霊力が強化されたみたいだね…」
すると大生首は口先より無数の火の玉を放出したのである。
「火の玉?」
(変化の妖術で…)
小猫姫は変化の妖術を発動…。伝説の妖獣に変化したのである。大生首が放出した無数の火の玉が小猫姫に接近する。小猫姫は体内の妖力を増幅させるなり…。
「はっ!」
衝撃波を発生させる。小猫姫が衝撃波を発生させた直後…。大生首の火の玉は一瞬で消失したのである。
「あんた程度の火の玉なんて私には通用しないからね!」
小猫姫は口先より高熱の雷光を凝縮させる。
「死滅しろ!大生首!」
口先から高熱の雷球を放出したのである。小猫姫が放出した高熱の雷球は大生首に直撃するのだが…。大生首はパッと消滅したのである。
「えっ!?消滅した!?」
(大生首は?)
周囲を警戒するものの…。大生首は確認出来ない。
(霊力は感じられるけれど…)
霊力は感じるのだが大生首の居場所は不明である。
(先程の大生首は幻影かな?)
「本体は一体…」
すると突然…。周囲の地中より無数の食人餓鬼が出現したのである。
「えっ?今度は食人餓鬼の大群?」
無数の食人餓鬼が小猫姫に殺到したのである。
(食人餓鬼が相手なら…)
小猫姫は衝撃波を発動…。殺到する食人餓鬼の大群を一瞬でバラバラに粉砕したのである。食人餓鬼は肉体が非常に脆弱であり僅少の妖力で仕留められるものの…。多勢に無勢であり地中より更なる大量の食人餓鬼が再度出現する。
(こんなに出現するなんて…半年前の悪霊騒動以来だね…)
再度出現した無数の食人餓鬼は小猫姫に殺到…。小猫姫は口先に妖力を凝縮させる。
「死滅しろ!」
口先より高熱の雷球を発射…。殺到する食人餓鬼の大群を焼失させたのである。
「仕留めたね…」
小猫姫はホッとしたのか一安心した直後…。再度霊力を感じる。
(今度は何だろう?)
すると地面より無数の食人餓鬼が一体化した肉団子の悪霊…。百鬼食人餓鬼が出現したのである。体表には無数の食人餓鬼の顔面が確認出来る。
「此奴は…百鬼食人餓鬼?」
(以前桜花姫姉ちゃんが退治した食人餓鬼の集合体だったよね…)
百鬼食人餓鬼の体表の食人餓鬼が小猫姫を凝視する。
「気味悪いね…」
体表の無数の食人餓鬼が口先から高熱の火炎を放射したのである。小猫姫は即座に雷光の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の火炎を無力化したのである。
「こんな程度の火炎では私には通用しないよ!」
小猫姫は落雷の妖術を発動…。
「成仏しろ!」
天空が黒雲により覆い包まれる。すると黒雲の中心部より高熱の落雷が百鬼食人餓鬼に直撃…。百鬼食人餓鬼が佇立した地面が抉れる。百鬼食人餓鬼は高熱の落雷により消滅したのである。
「悪霊は消滅したね…」
百鬼食人餓鬼を仕留めた直後…。背後より強烈なる霊力が突発的に出現したのである。
「えっ!?」
(霊力?)
小猫姫は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「大生首…」
先程突然消失した大生首が再度出現したのである。大生首は小猫姫を直視するなりニヤッと不吉の笑顔で微笑む。
「あんたは本当に気味悪いね…」
小猫姫は高熱の雷球を発射する。発射された高熱の雷球は大生首に直撃するのだが…。パッと消失したのである。
「えっ!?今度も幻影?」
直後…。大生首の本体が小猫姫の目前より出現する。
「此奴が大生首の本体!?」
すると大生首は人間界の公用語で発語し始める。
「伝説の妖獣に変化出来る妖女の小娘よ…貴様の妖力は非常に絶大だ…」
「えっ!?」
(大生首って…喋れるの!?)
人語で発語する大生首に小猫姫は驚愕したのである。
「先程の戦闘で貴様の妖力は消耗した…」
すると小猫姫は妖力の消耗により変化の妖術が解除され…。伝説の妖獣から元通りの人間の姿形に戻ったのである。
「えっ!?」
(戻っちゃった…)
妖力の消耗により小猫姫は身動き出来なくなる。
「ぐっ!」
(迂闊だった…妖力の消耗で身動き出来なくなるなんて…)
大生首はニヤッと微笑むなり…。
「妖獣の小娘よ…貴様は私に食い殺される運命なのだ♪」
大生首は小猫姫に急接近する。
「妖獣の小娘よ…貴様の肉体を頂戴する♪」
「ひっ!」
(私…悪霊に食い殺されちゃうよ…蛇骨鬼婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…)
小猫姫は恐怖心により瞑目したのである。大生首に食い殺される直前…。
「桜餅に変化しなさい♪」
すると大生首はポンッと白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
「えっ!?」
(一体何が?)
小猫姫は恐る恐る両目を見開くと目前の地面には小皿と桜餅が確認出来る。
「えっ?如何して桜餅が?」
すると背後より桜花姫が近寄る。
「危機一髪だったわね♪小猫姫♪」
「えっ?桜花姫姉ちゃん?」
桜花姫は小皿に配置された桜餅をパクッと頬張る。
「ひょっとして桜餅の正体は…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「勿論大生首よ♪」
桜花姫は変化の妖術で悪霊の大生首を桜餅に変化…。頬張ったのである。
「悪霊でも桜餅に変化させちゃえば美味ね♪」
(桜花姫姉ちゃん…悪霊を食べちゃうなんて…)
美味しそうに桜餅を頬張る桜花姫に小猫姫は苦笑いする。
「今回出現した大生首は前回私が征伐した大生首よりも強力だったみたいね…」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「桜花姫姉ちゃんは如何して私の居場所を?」
「近辺の神社であんたの妖力と悪霊の霊力を察知したのよ♪何よりもあんたの妖力は其処等の妖女よりも強力だから非常に目立つわよ♪」
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は苦笑いしたのである。
「私に内緒で悪霊征伐なんて小猫姫の意地悪♪」
「意地悪も何も…結局大物は桜花姫姉ちゃんが仕留めちゃったけどね…」
「あんたも頑張ったみたいね♪」
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は赤面するも内心では大喜びする。
メンテ
桜花姫 ( No.32 )
日時: 2021/08/17 09:45
名前: 月影桜花姫

第八話

救出作戦

無数の悪霊と大生首との戦闘から四日後の夕方…。桜花姫は毎日の日課である天霊山の露天風呂にて入浴したのである。
「極楽♪極楽♪」
天霊山の露天風呂に入浴すると一日の浪費した妖力が蓄積される。
「天霊山の露天風呂は最高だわ♪」
(湯加減も良好だし♪)
すると彼女は変化の妖術を発動…。桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。同時に長髪の黒髪が銀髪に変色する。
「完了♪」
桜花姫は人魚に変化した状態から露天風呂にて遊泳したのである。西国は温泉郷として有名である反面…。天霊山の露天風呂に入浴するのは大半が桜花姫である。彼女を除外すると桜花姫以外の妖女やら人間は滅多に露天風呂へは入浴しない。天霊山の露天風呂は実質桜花姫が私物化した状態だったのである。すると突然…。
「なっ!?」
(妖力だわ…)
近辺より僅少の妖力が天霊山の露天風呂に接近するのを感じる。
(妖女なのは確実ね…)
「一体誰かしら?」
妖力を察知した桜花姫は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「えっ?あんたは…」
桜花姫の背後には水色のロングドレスを着用した金髪碧眼の白人美少女が佇立する。
「貴女様は月影桜花姫様でしょうか?」
「ひょっとしてあんたはアクアユートピアの…アクアヴィーナスの母様かしら?」
天霊山の露天風呂に来訪したのはアクアユートピア出身者…。アクアヴィーナスの母親のウェンディーネだったのである。
「如何しちゃったのよ?深海底のアクアユートピアからこんな場所に入国するなんて…」
するとウェンディーネは深刻そうな表情で…。
「桜花姫様!大変です!」
「えっ?何が大変なの?」
(ひょっとして今回も大事件発生かしら?)
ウェンディーネの様子から一大事であると察知する。ウェンディーネはソワソワした表情で恐る恐る…。
「一昨日の出来事なのですが…アクアヴィーナスが気分転換に地上界へと出掛けたのですが…全然戻らなくて…」
今日より二日前の出来事である。スキュランと無数のアンデッドによる大騒ぎから数日後…。アクアヴィーナスは久方振りの気分転換に地上界へと出掛けたのだが二日間が経過しても戻らなかったのである。
「アクアヴィーナスが戻らないの?」
「彼女が出掛けても普段なら四時間程度…場合によっては二時間程度で帰宅するのですが…」
アクアヴィーナスは人一倍小心者であり半日間出歩くだけでも彼女にとってはハードであり普段は短時間で帰宅するのが通例である。桜花姫は恐る恐るウェンディーネに問い掛ける。
「アクアヴィーナスの母様?魔女のスキュランには依頼しなかったのかしら?」
桜花姫が問い掛けるとウェンディーネはビクッと反応する。
「えっ!?」
(彼女の様子だと…魔女のスキュランには依頼しなかったみたいね…)
ウェンディーネの様子に桜花姫は苦笑いしたのである。
「御免なさい…私…人一倍深海底魔女のスキュランが苦手で…彼女に依頼は勿論…相談すら出来ませんでした…」
「彼女は深海底では最強の魔女だし…スキュランの魔法だったら小心者のアクアヴィーナスが行方不明でも簡単に発見出来そうよ…」
ウェンディーネにとって深海底魔女のスキュランはトラウマの対象であり桜花姫が口寄せの妖術により浄化された状態でスキュランは復活したものの…。国内では彼女を毛嫌いする人魚の平民も少なくない。
(彼女は一度アクアユートピアを侵略した張本人だからね…信用されないのは自業自得だから仕方ないわね…)
桜花姫はニコッと微笑むなり…。
「承知したわ♪協力するわよ♪」
「桜花姫様♪」
ウェンディーネは一安心したのか笑顔が戻ったのである。
「アクアヴィーナス…彼女の居場所を特定するなら…」
(こんな場合…千里眼の妖術が有効ね…)
桜花姫は両目を瞑目するなり…。
(千里眼の妖術…発動!)
千里眼の妖術とは広範囲に存在する物体やら特定の人物を正確に知覚出来る妖術である。背後からの透視能力も発揮出来る。千里眼の妖術を発動すると桜花姫の脳内より広大なる大海原を航行中の一隻の帆船が発現されたのである。
(何かしら?異国の…軍船?)
無数の大砲を装備…。人間の髑髏らしき旗印が確認出来る。すると船内の内部には拘束された状態の小柄の童顔美少女がソワソワした表情で落涙するのを発見…。
(えっ!?彼女は…)
童顔美少女はピンク色のロングドレスに頭髪は赤毛のストレートロングである。
(ひょっとして彼女はアクアヴィーナス!?拘束されたのかしら…)
拘束された童顔美少女がアクアヴィーナスであると確信する。桜花姫は恐る恐る…。
「母様…アクアヴィーナスを発見したわ…」
「えっ!?本当ですか!?」
するとウェンディーネはハッとした表情で反応する。
「アクアヴィーナスの居場所は一体?」
「アクアヴィーナスは異国の軍船に拘束されたみたいよ…」
桜花姫は険悪化した表情で発言したのである。
「異国の軍船ですって?」
「私が千里眼の妖術で確認したのは髑髏の旗印の軍船だったわ…アクアヴィーナスは軍船の船内で拘束された状態だったわ…」
髑髏の旗印にウェンディーネは反応する。
「桜花姫様が魔法で確認された異国の軍船って…ひょっとすると海賊団の海賊船では?」
「えっ?海賊団ですって?海賊団って…何かしら?」
太平神国では海賊団と命名される言語が皆無であり桜花姫は海賊団の意味が理解出来なかったのである。
「海賊団はね…」
海賊団とは海上で略奪行為を実行する盗賊達の集団であり近年では多数の海賊達が大海原を大航海…。無力の小国やら遭遇した多数の商船を襲撃したのである。
「海賊団って水軍みたいな奴等ね…」
戦乱時代では太平神国の海域にも極悪非道の水軍が活動…。各地の村里を襲撃しては村人達から畏怖されたのである。戦乱時代から安穏時代に変化する中頃には勢力の規模が縮小化…。今現在では完全に自然淘汰されたのである。
「アクアヴィーナスは海賊達に誘拐されたのですね…」
すると桜花姫は笑顔で断言する。
「私が誘拐されたアクアヴィーナスを救出してから…海賊団って名前の匪賊の集団を蹴散らせるわね♪」
「桜花姫様…」
同時刻…。海賊達により誘拐されたアクアヴィーナスは海賊船の船内密室にて拘束される。船内密室の天井中心部にはオレンジカラーのマリンランプが室内全体を発光させる。
(私…海賊達に殺されちゃうのかな?)
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。魔力の消耗により人魚の状態から人間の姿形に戻ったのである。
「下半身が人間の両足に戻ったわ…」
すると二人の海賊達が船内の密室に入室する。
「人魚の姉ちゃんよ♪魔法で人間に変身したのか?」
「人魚の姉ちゃんは人間の姿形でも可愛らしいけどな♪」
海賊達は横たわったアクアヴィーナスに近寄る。アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「私を…如何するの?殺しちゃうの?食べちゃうの?」
ビクビクするアクアヴィーナスに海賊達は大笑いする。
「傑作だな♪人魚の姉ちゃんよ♪」
「俺達は極悪非道の海賊団だが…人魚を食い殺しちまったら折角の賞金を頂戴出来なくなるからな♪」
すると小柄の船員がボソッと小声で…。
「正直…人魚の姉ちゃんを犯しちまいたいが…こんな場所で犯しちまったら折角の賞金が水の泡だ…」
小柄の船員はムラムラした様子で力一杯アクアヴィーナスの乳房に接触する。
「ひっ!」
「此奴は高値で密売出来そうだぜ♪」
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか全身が膠着したのである。すると大柄の船員が恐る恐る…。
「貴様好い加減にしろよ…こんな人魚は激レアだから犯しちまいたいのは同意するが…」
注意する大柄の船員に小柄の船員が睥睨する。
「はっ?一般船員の分際で俺に指図するのか?」
小柄の船員は大柄の海賊に反抗する。
「必要以上に畏怖させて自害されちまったら元も子もないだろ…深海底の人魚なんて滅多に捕獲出来ない代物だぞ!こんな場所で人魚に自害されちまったら折角の賞金がワンゴールドも確保出来なくなるぞ…」
ワンゴールドとは金貨一枚分であり現実世界なら推計四百万円の高価値である。人魚は世界各国でも僅少の種族であり一人でも人魚を捕獲出来れば最低でも金貨五十枚は獲得出来る。
「此奴を無傷で密売出来れば最低でも五十ゴールドはゲット出来るぞ…」
「畜生が…」
制止された小柄の船員は大柄の船員を睥睨するなり後退りする。するとアクアヴィーナスは恐る恐る大柄の船員に…。
「結局…あんた達は私を如何するの?」
恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスの質問に大柄の船員は即答する。
「貴様は地上界の超大国に密売される…恐らく貴様一人でも金貨五十ゴールドは確実だからな…」
「ひょっとして身売りとか?」
「勿論…」
アクアヴィーナスの身売りの発言に大柄の船員は即答したのである。
「えっ…私…異国に身売りされちゃうの…」
するとアクアヴィーナスはビクビクするなり涙腺から涙が零れ落ちる。
「安心しろ…最低でも海賊船の船内では殺されないからな…」
すると小声で…。
「無論…超大国に密売されてからの生存は保証出来ないが…」
「えっ…」
アクアヴィーナスは極度の精神的ショックからか意識を喪失…。再度横たわったのである。
「人魚が気絶しちまったぜ…如何するよ?」
「下手に船内で大騒ぎされるよりは…」
「随分大人しい人魚だったな…」
彼等は密室を退室するなり…。ドアを厳重にロックしたのである。同時刻…。桜花姫とウェンディーネは西国の海辺へと移動したのである。
「変化の妖術で人魚に変化しちゃいましょう♪」
桜花姫は変化の妖術を発動すると下半身が銀鱗の大魚へと変化…。ストレートロングの黒髪が銀髪へと変色したのである。桜花姫は小柄の身長であるが変化の妖術で人魚に変化すると体長は推定八尺程度に巨大化する。同行したウェンディーネが人魚に変化した桜花姫を直視すると恐る恐る…。
「桜花姫様は人魚に変身しても可愛らしいですね…誰よりも海水の女神様って雰囲気ですよ♪」
ウェンディーネが海水の女神様と発言すると桜花姫は赤面した様子で返答する。
「こんな私が海水の女神様なんて♪アクアヴィーナスの母様は大袈裟ね♪」
(私が海水の女神様ですって♪)
大袈裟と発言するが内心では大喜びしたのである。ウェンディーネも魔法で人魚に変身する。下半身が大魚へと変化…。水色の魚鱗へと変化したのである。
「勿論母様も深海底の天女みたいで可愛らしいわよ♪」
桜花姫の深海底の天女発言にウェンディーネは大喜びする。
「私が深海底の天女なんて♪桜花姫様も大袈裟ですわね♪」
彼女達は即座に海中へと潜水したのである。ウェンディーネが恐る恐る…。
「桜花姫様?アクアヴィーナスは無事なのでしょうか?」
恐る恐る問い掛けるウェンディーネに桜花姫は笑顔で即答する。
「大丈夫よ♪母様♪アクアヴィーナスは海賊船の船内で気絶した状態だったけど無事だからね♪安心しなさい♪」
桜花姫は千里眼の妖術でアクアヴィーナスの状態を正確に知覚したのである。
「無事でしたか…」
(アクアヴィーナス…無事で良かったわ♪)
ウェンディーネはホッとしたのか一安心する。
「今回は人間相手だから楽勝ね♪」
桜花姫とウェンディーネはアクアヴィーナスを誘拐した海賊船を目標に海中を直進したのである。すると海中を直進してより二時間後…。西国近海から推定五百キロメートルの海域よりとある無人島を発見する。
「母様…」
「えっ?桜花姫様?」
「無人島で休憩しましょう…」
桜花姫は人魚に変身した影響からか息苦しそうな表情だったのである。
「桜花姫様…」
(ひょっとして体内の魔力が消耗しちゃったのかしら?)
人魚に変身した状態で長時間力泳し続けると普段の戦闘よりも大量の妖力が消耗する。彼女達は無人島の砂浜へと上陸すると桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。元通りの童顔美少女へと戻ったのである。
「はぁ…はぁ…」
桜花姫は極度の疲労により深呼吸する。
(桜花姫様…苦痛そうだわ…)
ウェンディーネは恐る恐る…。
「桜花姫様?大丈夫ですか?」
「大丈夫よ…私は平気だから♪心配しないで…」
桜花姫は疲労した様子であるが多少強張った笑顔で返答する。
「桜花姫様…」
(本当に大丈夫かしら…)
桜花姫は非常に強張った笑顔でありウェンディーネは不安がる。すると桜花姫は恐る恐る…。
「アクアヴィーナスの母様…御免なさいね…」
ウェンディーネに謝罪したのである。
「御免なさいって…一体如何されましたか?」
「アクアヴィーナスは私一人で救出するわね…正直人間の海賊団が相手でも妖力を消耗した状態では母様を守護出来ないわ…」
妖力を消耗した状態では同行者を守護して戦闘するのは非常に不利であり戦闘用の魔法を使用出来ないウェンディーネは正直足手纏いだったのである。
「承知しました…桜花姫様…」
桜花姫の発言にウェンディーネは承諾する。彼女は意外にも素直であり桜花姫は内心ホッとしたのである。
「アクアヴィーナスの母様は無人島で待機してね…」
「私は大丈夫ですけど…アクアヴィーナスは無事でしょうか?」
心配するウェンディーネに桜花姫は笑顔で即答する。
「彼女なら大丈夫よ♪無人島の近辺からアクアヴィーナスの妖力を感じるのよ♪」
拘束されたアクアヴィーナスの魔力が近辺より感じられる。海賊船は間近であると確信したのである。
「私は海賊達を蹴散らして…アクアヴィーナスを救出するからね!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。即座に人魚に変化すると再度海中へと潜水したのである。
「桜花姫様…」
ウェンディーネは桜花姫を見届ける。同時刻…。海中へと潜水した桜花姫であるが妖力の消耗は想像以上であり長時間人魚の状態を維持するのは不利であると確信する。
(今回も短時間で事件を解決させないと…私自身が衰弱死するわね…)
数分後…。数キロメートルの長距離より船体の船底を確認する。
(えっ?何かしら?)
桜花姫は即座に浮上…。海面上から数キロメートルの長距離より船影を確認する。
「船影だわ…」
(異国の…軍船かしら?)
形状的には木造の帆船であり髑髏の旗印が確認出来る。
(ひょっとして私が千里眼の妖術で発見した海賊船かしら?)
桜花姫は両目を瞑目させると船内から僅少の魔力を感じる。
(海賊船の船内からアクアヴィーナスの妖力を感じるわ…)
海賊船の船内よりアクアヴィーナスの妖力を察知…。木造の帆船がアクアヴィーナスを誘拐した海賊船であると確信する。
(短時間で奴等を蹴散らしましょう…)
桜花姫は変化の妖術を発動…。全長数十メートル規模の巨大真蛸の妖怪海坊主に変化したのである。
(妖怪海坊主に変化して海賊達を征伐しましょう♪)
桜花姫は即座に潜水するなり…。海中から恐る恐る海賊船に接近する。同時刻…。海賊船甲板の見張り役が数キロメートルの遠距離から正体不明の物体が潜水したのを発見したのである。
「数キロメートルの西海から正体不明の物体が海中に潜水したぞ…」
見張り役の発言に乗組員達が反応する。
「ん?正体不明の物体だと?」
乗組員の一人が双眼鏡で西方の海面上を確認するのだが…。
「何も確認出来ないぞ…単なる見間違いだろ…」
直後である。海賊船の船体全体がグラグラッと震動したのである。
「うわっ!」
「一体何が!?」
すると直後…。甲板より巨大真蛸の触手が出現するなり海賊船の甲板に密着する。
「ひっ!」
「此奴は触手!?」
数秒後…。海賊船の左舷中央から数十メートルサイズの巨大真蛸が海面上より出現したのである。
「うわっ!此奴はクラーケンか!?」
海賊船の乗組員達は突如として出現した巨大真蛸に驚愕する。
「即刻カノン砲を用意しろ!クラーケンを仕留めろ!」
同時刻…。船内の密室にて気絶したアクアヴィーナスであるが船体の震動により目覚めたのである。
「ひっ!」
(一体何が!?)
船体の震動にビクビクする。
(ウェンディーネ母様…桜花姫…私…死にたくないよ…)
極度の恐怖心からかアクアヴィーナスの涙腺より涙が零れ落ちる。海賊船の海賊達は突如として出現した巨大真蛸にカノン砲を発砲する直前…。巨大真蛸は体表から発生した白煙に覆い包まれポンッと一瞬で消滅したのである。
「なっ!?クラーケンが消滅しやがったぞ!」
「先程の光景は…幻影だったのか?」
すると直後…。
「なっ!?」
海賊船の左側の甲板には着物姿の小柄の女性が佇立する。
「此奴は異国の小娘か!?」
「貴様は一体何者だ!?如何してこんな場所に…」
海賊達は警戒した様子で恐る恐る女性に近寄る。すると女性は笑顔で…。
「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ♪」
桜花姫は笑顔で名前を名乗ったのである。
「月影桜花姫だと?」
「先程のクラーケンの正体は貴様だったのか!?」
桜花姫は問い掛けられるも…。
「えっ?クラーケンって?」
「異国の魔女が!貴様を打っ殺す!」
乗組員の一人が護身用のピストルを入手するなり桜花姫に発砲したのである。桜花姫は妖力の防壁を発動…。発砲されたピストルの弾丸を無力化したのである。
「此奴!魔法で本体をガードしやがったのか!?」
すると桜花姫は無表情で…。
「私に手出しする愚者には…」
変化の妖術を発動する。
「あんたは桜餅に変化しなさい♪」
直後…。ピストルを所持した船員が小皿に配置された桜餅に変化させられたのである。
「えっ!?魔法なのか!?」
「人間が…異国のスイーツに!?」
海賊達は恐る恐る後退りする。
「此奴は魔法で俺達の仲間を異国のスイーツに変化させたのか…」
海賊達は恐怖心によりプルプルしたのである。
「此奴は女体の怪物だ!逃げろ!」
女体の怪物発言に桜花姫はピクッと反応する。
「誰が女体の怪物ですって!?地上界の女神様である私に女体の怪物なんて…失礼しちゃうわね…」
桜花姫は逃走する海賊達を睥睨するなり…。
「あんた達は全員…ショートケーキに変化しなさい♪」
変化の妖術を発動すると海賊船の乗組員達全員がショートケーキに変化させる。桜花姫は変化の妖術によってショートケーキに変化させた海賊船の乗組員達をパクパクと食い殺したのである。
「妖力が回復したわね♪」
ショートケーキを完食すると消耗した妖力が回復する。
「誘拐されたアクアヴィーナスを救出しないとね♪」
桜花姫はアクアヴィーナスの魔力を感じる密室へと移動したのである。数分後…。密室のドアへと到達する。
「室内から彼女の妖力を感じるわね…」
桜花姫は念力の妖術を発動するとロックされたドアを開放したのである。
「アクアヴィーナス?大丈夫?」
「えっ…桜花姫!?」
アクアヴィーナスはホッとしたのか脱力する。
「大丈夫かしら?アクアヴィーナス?」
桜花姫はアクアヴィーナスに近寄る。
「桜花姫…」
アクアヴィーナスは力一杯彼女に密着すると涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫…私…身売りされちゃうかと…」
「安心しなさい♪海賊達は征伐したから…」
「感謝するわね…桜花姫…」
「あんたの母様も相当心配したのよ…人一倍小心者のあんたが海賊団に誘拐されたからね♪」
「ウェンディーネ母様が…」
すると桜花姫は口寄せの妖術を発動…。無人島にて待機中であった母親のウェンディーネが海賊船の密室にて強制的にテレポーテーションされたのである。
「えっ!?一体何が?」
ウェンディーネは突然の出来事に驚愕する。
「口寄せの妖術で母様を口寄せしたのよ♪」
「えっ?桜花姫様が私を…」
ポカンとするウェンディーネであるが…。アクアヴィーナスが恐る恐る近寄る。
「母様…」
「アクアヴィーナス…」
ウェンディーネは力一杯アクアヴィーナスに密着したのである。
「アクアヴィーナス!無事で良かった…」
ウェンディーネは涙腺から涙が零れ落ちる。
「御免なさいね…ウェンディーネ母様…心配させちゃって…」
「気にしないでアクアヴィーナス…貴女が無事なのが何よりよ…」
「一件落着ね♪」
桜花姫は一息するなり…。
「兎にも角にも…事件は無事に解決したから私は退散するわね♪」
直後である。アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫?」
「何よ?アクアヴィーナス?」
「折角だし…アクアユートピアでショートケーキでも…如何かしら?」
「えっ!?ショートケーキですって!?」
「前回は何も謝礼が出来なかったからね…今回こそは桜花姫に謝礼したいの…」
桜花姫は大喜びした様子であり笑顔で承諾したのである。
「即刻アクアユートピアに移動しましょう♪ショートケーキ食べたいわ♪」
「桜花姫には感謝したくても感謝し切れないからね…」
彼女達は人魚に変化すると深海底地帯のアクアユートピアへと直行する。
メンテ
桜花姫 ( No.33 )
日時: 2021/08/17 09:46
名前: 月影桜花姫

第九話

大黒島

アクアヴィーナス救出作戦から五日後の真夜中の出来事である。北国の最北端に位置する大黒島で無数の悪霊が出現…。大黒島を占拠したのである。翌日の真昼…。大黒島の悪霊出現の噂話を熟知した桜花姫は即座に北国へと直行したのである。
「大黒島に悪霊が出現するなんて…」
大黒島は今現在でこそ大勢の漁民達が移住する離島であるが…。大昔の戦乱時代では罪人達が配流された場所として有名である。
「今回は一体何が出現したのかしら?」
二時間後…。桜花姫は北国の海岸へと到達する。海岸の砂浜から海面上を眺望したのである。
「大黒島かしら?」
海面上を眺望し続けると小規模の孤島を発見する。
「大黒島っぽいわね…」
海岸の砂浜から大黒島への距離は推定五キロメートルの長距離であるが…。大黒島から漁民達の無数の鮮血と霊力を感じる。
(無数の鮮血と霊力を感じるわ…)
「大黒島の漁民達は悪霊に食い殺されたみたいね…」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。人魚に変化したのである。
「悪霊を征伐するわよ…」
桜花姫は人魚の状態で海面上を力泳…。大黒島へと直行したのである。大黒島へは数分間で到達する。
「到着したわね♪」
人魚の状態から元通りの姿形に戻ったのである。大黒島は非常に物静かであるが…。無数の霊力が徘徊するのを感じる。
「悪霊の気配だわ…」
桜花姫は即座に警戒…。天道眼を発動する。すると数秒後である。周囲の砂浜より数十体もの食人餓鬼が出現…。桜花姫を注視したのである。
「食人餓鬼だわ♪」
(早速出現したわね♪)
悪霊の出現に大喜び…。数十体の食人餓鬼が桜花姫に殺到し始める。
「あんた達は無謀ね…」
桜花姫は彼等の行動に呆れ果てる。
「あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
殺到する無数の食人餓鬼に変化の妖術を発動…。食人餓鬼は数十個の桜餅と小皿に変化したのである。
「桜餅に変化したわね♪」
(消耗しちゃった妖力を回復させたいからね♪早速頂戴するわよ♪)
桜花姫は周辺の桜餅をパクパクッと食べ始める。数分後…。桜餅を完食する。
(妖力は回復したし…)
「悪霊を征伐しましょう♪」
桜花姫は住宅街へと移動したのである。
「住宅街から無数の妖力を感じるわね…」
(今度は何が出現するのかしら?)
同時刻…。
「はぁ…はぁ…」
大黒島の住宅街にて一人の村娘が無数の悪霊から逃走する。
(逃げないと…悪霊に食い殺されちゃう…)
村娘はとある住居へと進入…。潜伏したのである。恐怖心からか全身が身震いする。
(私…如何すれば…)
すると直後…。戸口よりガタガタッと物音が響き渡る。
「ひっ!」
(死にたくないよ…父ちゃん…母ちゃん…)
村娘は涙腺より涙が零れ落ちる。
「可愛らしい少女ね♪」
「えっ?」
恐る恐る背後を直視…。彼女の背後には花魁らしき女性が家屋敷の居間でビクビクする村娘を凝視し続ける。
「えっ…誰なの?」
花魁は非常に妖美の雰囲気であるが…。
「私はあんたみたいな純粋無垢の少女が大好きなのよ♪大人しく私に食べられちゃいなさい♪」
花魁の発言に極度の恐怖心を感じる。
「ひっ!」
(悪霊!?)
花魁は人外であると察知…。即座に家屋敷から脱走したのである。必死に逃走するのだが…。
「私からは逃げられないわよ♪」
先程遭遇した花魁が路地裏にて再度遭遇する。
「えっ!?」
(如何して…)
村娘は恐る恐る後退りしたのである。すると背後には二体の食人餓鬼がふら付いた身動きで村娘に近寄る。
「悪霊!?」
直後…。村娘は花魁に捕捉されたのである。
「きゃっ!」
「好い加減観念しなさい♪」
「きゃっ!誰か!誰か!」
村娘は必死に抵抗するものの…。花魁の女性は外見とは裏腹に非常に力強く村娘の力量では抵抗すら出来ない。
「村里で無事なのはあんただけね♪あんたの清心を頂戴するわね♪」
花魁は赤面した表情で無理矢理に接吻…。
「ぐっ!」
花魁に口移しされた直後である。村娘は全身が脱力…。意識が喪失した状態で地面に横たわる。花魁は満足気に…。
「美味しいわね♪女子の清心は純真無垢だから非常に美味だわ♪」
村娘の清心を完食した花魁は即座に退散したのである。数分後…。桜花姫が路地裏にて地面に横たわる村娘を発見する。
「彼女は村娘かしら?」
恐る恐る彼女に接触…。
「仮死状態ね…即刻悪霊を仕留めないと彼女が衰弱死するわ…」
直後である。突如として周囲より無数の気配を感じる。
「霊力かしら?」
すると地面より十数体もの食人餓鬼が出現する。
「毎度毎度…鬱陶しいわね…」
十数体の食人餓鬼が桜花姫に殺到したのである。
「はぁ…」
桜花姫は呆れ果てるものの…。
「砂金に変化しなさい…」
砂金の妖術を発動する。すると殺到する十数体の食人餓鬼がサラサラの砂金に変化…。一瞬で崩れ落ちる。
「楽勝♪楽勝♪」
食人餓鬼を一蹴した桜花姫であるが今度は背後から五体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「今度は百鬼食人餓鬼かしら?」
無数の食人餓鬼の顔面が桜花姫を睥睨したのである。
(私を殺したいみたいね…)
百鬼食人餓鬼は全身の食人餓鬼の顔面から高熱の熱風を放出…。桜花姫に攻撃したのである。
「熱風?」
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
「あんた達は…」
再度変化の妖術を発動…。五体の百鬼食人餓鬼を大好きな桜餅に変化させる。
「妖力が消耗しちゃったからね♪」
再度桜餅をパクッと頬張り始める。
「満腹♪満腹♪」
桜花姫は満足するが…。
「えっ?」
(殺気!?)
今度は人間達の殺気を感じる。
(人間達の殺気だわ…)
再度警戒する。直後…。周囲の家屋より十数人の刃物を所持した漁民達が桜花姫を包囲する。
「何よ?あんた達…」
(村人達かしら?)
彼等の表情は無表情であり人形みたいな雰囲気だったのである。
(人形みたいだわ…何者かに憑霊されたのかしら?)
漁民達が桜花姫に殺到する。
「仕方ないわね…」
桜花姫は即座に睡眠の妖術を発動…。睡眠の妖術を発動すると殺到する漁民達はバタッと横たわる。
「全員熟睡したみたいね…」
(えっ?)
背後より気配を感じる。
(気配だわ…悪霊かしら?)
恐る恐る背後を警戒…。背後には色白の花魁らしき女性が佇立する。
(花魁かしら?)
花魁の女性は桜花姫を直視するなりニコッと微笑む。桜花姫は恐る恐る…。
「あんたは悪霊の亡霊新婦ね…」
(幻術で村人達を傀儡人形みたいに操作したのかしら?)
亡霊新婦は亭主に殺害された令夫人の悪霊である。人語で会話も可能であり幻術を駆使出来る。亡霊新婦は人語で返答したのである。
「あんたは妖女の月影桜花姫かしら?折角だからあんたの清心も頂戴するわね♪」
「出来るかしら?私は最上級妖女なのよ…」
「勿論私だけでは最上級妖女のあんたを仕留められないからね…」
直後…。
「あんた達♪出番よ♪」
すると周辺の地面より数十体もの食人餓鬼が再度出現する。
「食人餓鬼?」
(如何やら幻術で操作したのね…)
亡霊新婦は幻術により悪霊さえも傀儡人形として利用出来る。
「こんな奴等で私を仕留めるなんて…あんたは余程のお馬鹿さんみたいね♪」
桜花姫は即座に氷結の妖術を発動…。周囲の食人餓鬼を凍結化させる。全身を凍結化された食人餓鬼は肉体がバリバリッと崩れ落ちる。
「此奴なら如何かしら?」
すると目前の地面より巨大能面が出現したかと思いきや…。八本の蜘蛛脚が生成される。
「えっ…此奴は…」
桜花姫も突如として出現した巨大能面にドキッとする。
「此奴は…小面蜘蛛…」
普段は霊性の桜花姫であるが…。突然の小面蜘蛛の出現により恐る恐る後退りする。
「桜花姫♪先程の威勢は如何しちゃったのかしら♪」
桜花姫にとって小面蜘蛛はトラウマであり恐怖心からか身震いしたのである。
「小面蜘蛛にあんたの妖術は通用しないわよ♪大人しく小面蜘蛛に食い殺されちゃいなさい♪」
すると小面蜘蛛は口先から蜘蛛糸を放出…。
「きゃっ!」
桜花姫を拘束したのである。蜘蛛糸で拘束された直後…。
「ぐっ!」
(妖力が…消耗するわ…)
身動き出来ないばかりか体内の妖力が吸収されたのである。
(衰弱死しちゃうわ…)
桜花姫は衰弱化…。バタッと横たわったのである。亡霊新婦が横たわる桜花姫に近寄る。
「早速…あんたの清心を頂戴するわね♪」
亡霊新婦は赤面した表情で…。身動き出来なくなった桜花姫に接吻したのである。
「ぐっ…」
スーッと全身が脱力…。桜花姫は意識が遠退き始める。
「美味しいわね♪あんたの清心も♪」
亡霊新婦は接吻により桜花姫の清心を吸収…。大喜びしたのである。
「えっ?」
直後…。突如として気味悪くなり亡霊新婦は吐血したのである。
「ぎゃっ!」
吐血した亡霊新婦は横たわった桜花姫を睥睨するなり…。
「如何やら彼女…純粋無垢とは程遠いみたいね…邪心だらけだわ…」
直後である。横たわる桜花姫の肉体から白煙が発生…。ポンッと消滅したのである。
「えっ!?一体何が!?」
すると亡霊新婦の背後より…。
「誰が邪心ですって?」
背後には桜花姫が佇立する。
「あんたは桜花姫!?」
「残念だったわね♪あんたが接吻したのは私の分身体よ♪」
「分身体だと!?」
亡霊新婦は畏怖したのは恐る恐る後退りしたのである。
「地上界の女神様である私を…邪心なんて失言するあんたは…」
桜花姫は変化の妖術を発動…。亡霊新婦は桜餅に変化したのである。
「妖力が通用しないあんたは…」
口寄せの妖術を発動…。上空より無人の小型爆撃機を口寄せしたのである。小型爆撃機は小面蜘蛛に爆弾一発を投下…。小面蜘蛛はバラバラに粉砕されたのである。亡霊新婦と小面蜘蛛を仕留めた影響からか大黒島の霊力が感じられなくなる。
(大黒島の霊力が消失したわ…)
「事件は無事解決ね♪」
桜花姫はパクッと桜餅を頬張る。数秒間が経過すると亡霊新婦に傀儡人形として利用された漁民達は勿論…。
「えっ?私は一体…」
先程亡霊新婦に清心を奪取された村娘も意識が戻ったのである。
メンテ
桜花姫 ( No.34 )
日時: 2021/08/17 09:47
名前: 月影桜花姫

最終話

因縁

大黒島での戦闘から一週間後の早朝…。僧侶の三蔵郎は室内を清掃するのだが摩訶不思議の刀剣を発見したのである。
「えっ?ひょっとして刀剣でしょうか?」
三蔵郎は恐る恐る刀剣に接触する。
「なっ!?名刀の『霊斬刀』では!?」
霊斬刀とは国宝級の名刀であり戦乱時代の英雄…。夜桜崇徳丸が所持した牢固石の刀剣である。戦乱時代では単なる刀剣として扱われるも崇徳丸の死後…。神出鬼没の悪霊を征伐する名刀霊斬刀と命名されたのである。当時怨敵であった南国と北国からは今現在でも不吉の妖刀と皮肉られる。
「如何してこんな国宝級の代物が…私の寺院に?」
不思議がる三蔵郎であるがフッと想起するなり…。
「一昨年に知人に贈呈された代物でしたね♪」
一昨年に知人から霊斬刀を頂戴した内容を忘却したのである。
「清掃中に霊斬刀を発見したのは何かしらの運命なのかも知れませんね♪」
(折角なので…記念品として私の自室にでも装飾しますかね♪)
三蔵郎はルンルンした気分で自室の屏風に霊斬刀を装飾する。
「ですが霊斬刀が千年前の代物なんて…私には想像も出来ませんね…」
三蔵郎は霊斬刀に魅了される。
(こんな刀剣で大勢の悪者達を撃退出来れば…本物の武士みたいに大勢の村人達に敬愛されるのですがね…)
三蔵郎は妄想したのである。
「明日の早朝…暇潰しに西国の国境で素振りするのも悪くないですね♪」
翌日の早朝…。三蔵郎は霊斬刀を所持するなり東国と西国の国境に位置する山道へと移動したのである。恐る恐る周囲の人通りを警戒する。
「早朝であれば国境の山道でも人通りは少数ですし大丈夫でしょうね…」
時間帯は早朝で人通りも皆無であり三蔵郎は力一杯素振りしたのである。
「常日頃の気苦労も解消出来ますし…最高ですね♪」
(私も歴史人物の夜桜崇徳丸様みたいに大勢の悪者達を撃退して…誰かを守護したいですな♪)
三蔵郎にとって戦乱時代に活躍した崇徳丸は憧憬の対象であり三蔵郎は彼を意識する。無我夢中に何度も何度も素振りを反復し続けたのである。
(悪霊でも出現しませんかね?)
「霊斬刀で悪霊を仕留められるのであれば是非とも霊斬刀で悪霊を仕留めたいですな♪」
すると直後…。突如として極度の胸騒ぎを感じたのである。
「なっ!?」
(胸騒ぎでしょうか…)
突如として極度の死臭と強烈なる殺気が此方に接近するのを感じる。
(極度の死臭と殺気…一体何が?)
正体不明の不吉の気配は刻一刻と山道へと急接近する。数秒後…。全身が血塗れで規格外に巨体の野犬が国境の山道に出現したのである。
「えっ…野犬!?」
(巨体だな…)
左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の野犬は正真正銘悪霊であると認識出来る。
(此奴は…野犬の悪霊なのか!?)
口先には咀嚼された肉片らしき物体を確認…。何かを捕食したのであると推測する。
「悪霊は遭遇した野獣を食い殺したのでしょうか?」
三蔵郎は極度の恐怖心により恐る恐る後退りする。
(人間の私でも感じられる強烈なる殺気…非常に厄介かも知れませんね…)
殺されるかも知れないと危惧するのだが…。野犬の悪霊と対峙すると不自然にも霊斬刀がカタカタッと震え始める。
「えっ!?霊斬刀が…」
(ひょっとして私に野犬の悪霊を仕留めろと…)
逃亡出来るのであれば一目散に逃亡したい三蔵郎であるが…。
(現在地は東国と西国との国境…私が逃亡すれば東国にも西国にも悪影響が…)
戦闘を放棄して逃亡すれば命拾いは出来るものの戦闘を放棄すれば確実に大勢の村人達が悪霊によって惨殺されるのは明白である。
(私が逃亡すれば東国は勿論…西国にも被害が及びましょう…何よりも西国は桜花姫様が安住される桃源郷…)
「全身全霊私が死守しなくては!」
三蔵郎は決意する。三蔵郎の表情が変化すると野犬の悪霊がピクッと反応したのである。野犬の悪霊はギロッと三蔵郎を睥睨するなり…。
「なっ!」
野犬の悪霊は猛スピードで突進したのである。三蔵郎は咄嗟に野犬の悪霊の突進を間一髪回避…。野犬の悪霊は一直線に突進するなり三蔵郎の背後の岩壁へと突っ込んだのである。
(危機一髪…こんなのに突進されたら全身が粉砕されますね…)
野犬の悪霊の突進によって頑強なる岩壁が抉れる。三蔵郎は神速により野犬の悪霊の背後へと移動するなり背後から霊斬刀で斬撃する。
(悪霊を仕留めたか!?)
手応えは感じるものの…。野犬の悪霊の姿形がパッと消滅する。
(ひょっとして先程の姿形は残像なのか!?)
野犬の悪霊は神速によって三蔵郎の斬撃を回避したのである。
「残像だったか…」
野犬の悪霊は一瞬で三蔵郎の背後へと移動する。野犬の悪霊がギロッと睥睨した直後…。
「えっ?」
霊斬刀がピカッと蛍光色に発光したのである。
(霊斬刀が発光した…)
すると全身に重苦しい殺気を感じる。天空一面が黒雲により覆い包まれる。
(天空が…)
直後…。ピカッと落雷が三蔵郎の頭上より落下したのである。
「落雷!?」
三蔵郎は咄嗟の判断により落雷の回避に成功する。
「危機一髪だった…」
(ひょっとして霊斬刀は私に生命の危機を予知したのか…)
すると突然…。
「貴様は僧侶の身分であるが…彼奴に酷似する…」
突然人間の口言葉で発語した野犬の悪霊に驚愕したのである。
「なっ!悪霊は人語で喋れるのか!?」
「貴様も彼奴と同様の反応であるな…」
「彼奴とは…誰なのでしょうか?」
野犬の悪霊は即答する。
「夜桜崇徳丸と名乗る…愚劣なる人間の若武者である…」
(夜桜崇徳丸だって!?)
夜桜崇徳丸の名前を傾聴した直後…。三蔵郎は何が何やら困惑したのである。
「ひょっとすると僧侶の貴様は…戦乱時代の夜桜崇徳丸と名乗る武士の再来であるな…」
野犬の悪霊の発言に三蔵郎は絶句する。
(私が…崇徳丸様の再来ですと!?)
「雰囲気もだが…醜悪なる人間としては非常に清心であるからな…貴様は崇徳丸に共通する…」
(ですが私の前世が夜桜崇徳丸様ですか♪)
崇徳丸の再来である事実に三蔵郎は内心大喜びしたのである。三蔵郎は恐る恐る…。
「貴方様は一体何者でしょうか?」
問い掛けられた野犬の悪霊は即答する。
「私は死霊餓狼…千年前に醜悪なる人間によって惨殺された野犬の亡霊とでも…」
「死霊餓狼…」
死霊餓狼とは極悪非道の人間に惨殺された野犬の亡霊と認識される反面…。汚染された自然界から誕生した悪霊の集合体とも呼称される。共通する伝承では死霊餓狼は人間達に憎悪…。死霊餓狼と遭遇した人間は確実に食い殺されるのが通説である。死霊餓狼の肉体を死滅させたとしても死霊餓狼の呪力は本体を死滅させた人間に憑霊…。憑霊された人間に大勢の人間達を呪力で殺させる。大勢の人間達を殺害すると最終的には死霊餓狼の呪力に憑霊された人間の肉体は腐敗…。腐敗した肉体は確実に崩れ落ちる。
(悪霊は悪霊でも最初に遭遇した悪霊が死霊餓狼なんて…私は人一倍不運ですね…)
「ですが如何して今更死霊餓狼が出現したのですか?」
死霊餓狼は一瞬沈黙するなり…。
「今迄に愚劣なる人間の亡者達を利用したが…結局貴様達愚劣なる人間達を呪殺出来なかったからな…私自身が直接的に愚劣なる人間達を全滅しに顕現したのだ…」
死霊餓狼の発言に三蔵郎はピクッと反応する。
「ひょっとして今迄出現した悪霊は死霊餓狼が…」
死霊餓狼は即答したのである。
「勿論…半年前に世界樹である霊魂巨神木に憑霊して…大勢の亡者達を利用したのも私自身であるからな…」
「貴様が黒幕だったのか…」
霊魂巨神木は本来純粋無垢で無害の樹木であるが死霊餓狼の怨念が無害の霊魂巨神木に憑霊…。戦乱時代で死去した大勢の亡者達を復活させ各地の村人達を襲撃させたのである。
「結局…崇徳丸の花嫁の再来によって阻止されたが…」
「崇徳丸様の花嫁の再来とは…」
(ひょっとすると…桜花姫様でしょうか?)
三蔵郎は桜花姫を連想する。
「如何やら今回は幸運にも崇徳丸の花嫁の再来は不在であるからな…非常に好都合である!」
「ですが今回は私が全身全霊で貴方様の野望を阻止しますよ!今度も各地の村里を襲撃するみたいですからね!」
三蔵郎は強気で返答したのである。
「随分強気であるな…手始めに貴様を呪殺して…愚劣なる人間達を殲滅するか…」
(僧侶を呪殺して僧侶の肉体に憑霊すれば…花嫁の再来とて迂闊には手出し出来なくなるからな…)
死霊餓狼は口先より高熱の火球を発射したのである。
「死滅せよ!崇徳丸の再来!」
(火球!?)
三蔵郎は高熱の火球を一刀両断…。高熱の火球を斬撃したのである。両断された火球は三蔵郎の背後にて爆散…。背後の地面にはクレーターが形作られる。
(こんなのが直撃すれば即死でしょうね…)
火球の灼熱によって霊斬刀の白刃が赤化する。
「牢固石の白刃が高熱で赤化するなんて…」
(普通の刀剣なら確実に屈折するでしょうね…)
「今度こそ死滅しろ!崇徳丸の再来!」
死霊餓狼は再度口先から高熱の火球を発射したのである。
「なっ!?」
三蔵郎は咄嗟に火球を回避する。
(畜生…間一髪回避したか…)
「愚劣なる人間の分際で私の攻撃を回避するとは…貴様が崇徳丸の再来なのは決定的であるな…」
死霊餓狼は力一杯睥睨するなり…。
「崇徳丸の再来!」
(今度こそ死滅しろ!)
死霊餓狼は全身全霊で突進する。相手は猛スピードであり三蔵郎は回避出来ない。
(止むを得ないな…)
三蔵郎は咄嗟の斬撃で死霊餓狼の右側の前脚を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
間一髪死霊餓狼の右側の前脚を斬撃…。死霊餓狼の突進攻撃を無力化したのである。
(一歩間違えれば殺されたのは私だったでしょうね…)
死霊餓狼はバタッと地面に横たわる。三蔵郎は恐る恐る衰弱化した死霊餓狼へと近寄る。
(死霊餓狼を仕留めれば…東国も西国も無事に守護出来る…)
「戦乱時代の悪霊…成仏せよ…」
斬撃する寸前…。
「えっ!?」
三蔵郎は斬撃したいが死霊餓狼の悲哀の表情を直視すると殺せなくなる。
(私には殺せないな…死霊餓狼を仕留めなければ東国と西国の大勢の村人達が殺害されるかも知れないのに…)
相手が悪霊であっても衰弱化した表情を直視すると心苦しくなる。
「悪霊を相手に躊躇いとは…所詮貴様の慈悲は崇徳丸と同様であるな…貴様の躊躇いが愚劣なる人間達の殺戮に直結するのに…」
「なっ!?」
三蔵郎はゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じる。
(強烈なる殺意…死霊餓狼は一体何を?)
三蔵郎は警戒するなり恐る恐る後退りする。
「崇徳丸の再来よ…貴様の身動きを封殺する…」
「身動きを封殺ですと!?」
すると突然…。
「ぐっ!」
(一体何が!?)
突如として三蔵郎は身動き出来なくなる。
(ひょっとして金縛りか?身動き出来なくなるなんて…)
「金縛りで貴様の身動きを封殺した…最早身動きは出来まい…」
死霊餓狼は一息するなり…。
「貴様の肉体に憑霊する…最早野犬の肉体も不必要だ!」
すると死霊餓狼の肉体から黒煙が発生するなり三蔵郎の肉体へと憑霊する。
(なっ!?)
死霊餓狼の肉体から発生した黒煙こそが死霊餓狼の本体であり三蔵郎の肉体へと憑霊したのである。
「ぐっ!」
(視界が…)
三蔵郎は意識が喪失する。数秒後…。野犬の肉体が崩れ落ちる。
「人間の肉体に憑霊したな♪」
(人間は人間でも私が憎悪する崇徳丸の再来であるからな♪)
死霊餓狼は大喜びする。
「即刻愚劣なる人間達を呪殺したいが…」
(手始めに崇徳丸の花嫁の…再来から呪殺するか…)
死霊餓狼の霊体は三蔵郎の肉体に憑霊した状態で西国の村里へと直行したのである。同時刻…。
「えっ?何かしら?」
(霊力?)
桜花姫は自宅で昼寝したものの極悪非道の霊力を察知するなり起床する。
「無数の霊力を感じるわ…」
(東国との国境に悪霊が出現したのかしら?)
直後…。
「えっ!?」
霊力が突然パッと消失するなり感じられなくなる。
(如何して突然霊力が消失したのかしら?)
桜花姫は警戒したのかソワソワする。直後である。
「きゃっ!」
突然の板戸のノックに驚愕する。
(吃驚するじゃない…)
桜花姫は玄関の板戸へと移動するなり…。
(一体誰かしら?)
「何よ?」
彼女は恐る恐る玄関の板戸を開放すると玄関口には刀剣を所持した三蔵郎が佇立する。
「えっ!?三蔵郎様?」
突然の三蔵郎の訪問に桜花姫は驚愕したのである。
「三蔵郎様が私の家屋敷に訪問するなんて…」
何よりも気になるのは血塗れの刀剣であり僧侶である三蔵郎が如何してこんな代物を所持するのか非常に気になる。
(物騒だわ…如何して三蔵郎様は血塗れの刀剣を?)
三蔵郎の表情を直視すると無表情であり桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。
(相手は三蔵郎様なのに…不吉だわ…)
人一倍温柔敦厚の三蔵郎が別人みたいに感じられる。
(普段の三蔵郎様とは別人みたいだわ…ひょっとして三蔵郎は前回みたいに何者かによって憑依されちゃったのかしら?)
桜花姫は三蔵郎を睥睨するなり…。
「あんたは一体何者よ?姿形は三蔵郎様本人でも…中身は別物よね?」
すると三蔵郎らしき人物が発言し始める。
「最上級の妖女である貴様には通用しまいか…一瞬で見破られるとは…」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りするなり…。
「はっ?あんたは一体何者なのよ?」
三蔵郎らしき人物は即答する。
「私が誰かって?私は死霊餓狼…半年前に貴様によって成仏させられた悪霊の片鱗とでも…」
「悪霊の片鱗?死霊餓狼ですって?」
桜花姫は何が何やら理解出来なかったのか珍紛漢紛だったのである。
「私は半年前に世界樹の霊魂巨神木に憑霊した悪霊…所謂悪霊の集合体だよ…」
「霊魂巨神木!?」
桜花姫は霊魂巨神木の一言にピクッと反応する。
「あんたが霊魂巨神木に憑霊した悪霊の正体だったのね…」
「無論であるが…貴様の神通力で霊体の九分九厘が浄化されたのは非常に無念であるぞ…」
「今現在のあんたは悪霊の集合体の…残滓なのね…」
死霊餓狼は余裕の態度であり表情が変化しない。
「如何やら今現在の貴様は半年前みたいに莫大なる神通力を使用出来ないみたいだな…最強の妖女である貴様さえ呪殺出来れば愚劣なる人間達の殲滅は片手間である…」
(今現在の僧侶の肉体が死滅したとしても…再度別の人間に憑霊するだけだからな♪誰であっても私は仕留められない…相手が崇徳丸の花嫁でも♪)
本来死霊餓狼の本体は不定形の霊体であり多種多様の生命体は勿論…。多種多様の器物にも憑霊出来る。
「自身を最上級の妖女と豪語する貴様でも…私が憑霊した僧侶には手出し出来ないであろう♪」
桜花姫はピクッと反応する。
(私でも三蔵郎様には妖術なんて使用出来ないわ…一体如何すれば…)
困惑した桜花姫に死霊餓狼は失笑したのである。
「如何やら貴様は本当に手出し出来ないみたいだな♪」
(崇徳丸の再来に憑霊したのは正解であったな♪憑霊したのが別人であれば猛反撃されただろうが…)
死霊餓狼は霊斬刀で桜花姫の右手首を斬撃…。
「きゃっ!」
掠り傷であったが桜花姫はバタッと横たわったのである。
「最上級の妖女である貴様にとって…こんな人間の僧侶は妖術を駆使すれば簡単に仕留められるのに勿体無いな♪所詮貴様は妖術が使用出来なければ何も出来ない小娘同然なのだ♪」
(三蔵郎様…)
極度の悲痛により桜花姫は精神的に参ったのか落涙する。
「崇徳丸の花嫁の再来よ…本日が貴様にとって命日である!貴様が家族と豪語する人間の僧侶によって貴様は惨殺されるのだ!」
(勿論貴様の家族である僧侶も呪殺するから無間地獄で再会出来るが♪)
霊斬刀で斬撃される寸前…。
「ぐっ!」
突如として両手が氷結したのである。
「なっ!?氷結だと!?」
死霊餓狼の両手が突然の氷結により両手が使用出来なくなる。
「えっ!?氷結?」
「危機一髪だったわね…桜花姫♪」
死霊餓狼の背後には水色の着物姿の花魁が佇立する。
(えっ?花魁?)
「誰なの?ひょっとしてあんたも妖女かしら?」
花魁は笑顔で…。
「私よ…私♪粉雪妖女の氷麗姫よ♪」
「えっ!?あんたは…粉雪妖女の氷麗姫だったの!?」
粉雪妖女の氷麗姫は口寄せの妖術で復活してからは花魁として活動中だったのである。雰囲気が以前とは別人であり桜花姫は驚愕する。
(花魁の正体が氷麗姫だったなんて…一瞬別人かと…)
「氷麗姫…如何してあんたが?」
「西国の村里から薄気味悪い霊力を察知したのよ…場所があんたの家屋敷だったのは正直意外だったけどね♪」
「半年前は敵対者だったあんたが私に助太刀するなんて…」
桜花姫は氷麗姫の行動に意外であると感じる。死霊餓狼は恐る恐る背後を凝視するなり氷麗姫を睥睨したのである。
「如何やら貴様も…妖女の小娘みたいだな…」
「あんたは人間の僧侶みたいだね…桜花姫に手出しするなら私は手加減しないわよ!」
「氷麗姫!三蔵郎様には手出ししないで!」
氷麗姫は強気の様子であったが桜花姫は氷麗姫に切願する。
「えっ!?僧侶はあんたを殺そうと…」
「三蔵郎様は悪霊に憑霊されただけなの!彼を殺さないで…」
氷麗姫は瞑目するなり…。
(彼自身は普通の人間なのに僧侶の肉体から亡者達の霊力が感じられるわね…)
「僧侶は極悪非道の悪霊に憑霊されちゃったのね…」
彼女は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫?悪霊を除霊するとか…変化の妖術で僧侶を食い殺してから口寄せの妖術で再度僧侶を元通りに復活させるとか出来ないの?」
氷麗姫に問い掛けられた桜花姫であるが彼女は困惑した表情で…。
「生憎除霊の妖術は出来ないの…変化の妖術で三蔵郎様を桜餅に変化させて食べちゃえば簡単だけど…人一倍食いしん坊の私でも三蔵郎様を食い殺すなんて出来ないわ…」
(桜花姫にとって悪霊に憑霊された僧侶は余程大切なのね…)
氷麗姫は一瞬意外であると感じる。
(僧侶の身動きは封殺出来ても…私には除霊なんて出来ないし一体如何すれば?)
氷麗姫は困惑した直後…。
「如何やら間に合ったね♪」
「悪者は私が征伐するよ!」
「あんた達は蛇神の蛇骨鬼婆ちゃんと山猫妖女の小猫姫!?如何してあんた達が…」
「西国の村里から極悪非道の霊力を察知したからね♪」
蛇神の蛇骨鬼と山猫妖女の小猫姫も死霊餓狼の霊力を目印に桜花姫の家屋敷へと参上したのである。
「えっ?悪者は?」
小猫姫は家屋敷を警戒するものの…。
「小猫姫…悪者は…」
蛇骨鬼は苦笑いした表情で氷結により身動き出来なくなった三蔵郎を指差したのである。
「えっ?三蔵郎様でしょう?如何して刀剣を?」
蛇骨鬼は三蔵郎の肉体に憑霊した死霊餓狼を睥睨するなり…。
「死霊餓狼も執念深いね…最早戦乱時代は終焉したのに…」
(老婆の分際で…)
蛇骨鬼の発言に死霊餓狼は即答したのである。
「私を浄化したとしても愚劣なる人間達は未来永劫戦乱時代を頻発させる…愚劣なる人間達を全滅させなければ今後も自然界は汚染されるだけだぞ…」
(最早悪意の集合体である死霊餓狼に説得は無意味だね…)
死霊餓狼は亡者達の悪意の集合体であり説得は不可能であると判断する。
「覚悟しな…死霊餓狼…」
蛇骨鬼は左手が白蛇へと変化させるなり…。蛇骨鬼の白蛇が三蔵郎の肉体に接触したのである。直後…。
「ぐっ!」
(蛇神の蛇骨鬼…愚劣なる人間達によって迫害された純血の神族が人間達に加勢するとは…)
三蔵郎の肉体から不定形の黒雲が発生したのである。
「黒雲だわ…ひょっとして死霊餓狼の本体かしら?」
すると三蔵郎は意識が消失するなりバタッと横たわる。
「三蔵郎様が…」
「心配しなくても大丈夫だよ…死霊餓狼の霊体を除霊したから三蔵郎は一時的に気絶しただけだよ…」
すると小猫姫と氷麗姫がポカンとする。
「死霊餓狼の本体って?」
「私にも何が何やら…」
(小猫姫と氷麗姫には死霊餓狼の本体が認識出来ないのね…)
死霊餓狼の霊体を認識出来るのは特定の人物のみであり普通の人間は勿論…。凡庸の妖女でも死霊餓狼の霊体は認識出来ない。
「死霊餓狼の憑霊から無事に三蔵郎を解放したからかね…今度こそ桜花姫ちゃんの出番だよ♪」
桜花姫は蛇骨鬼の効力に驚愕する。
(物理的に三蔵郎様の肉体から死霊餓狼を除霊させちゃうなんて…)
驚愕した桜花姫であるが即座に変化の妖術を発動…。
「死霊餓狼!桜餅に変化しちゃえ!」
すると不定形の霊体である死霊餓狼がポンッと小皿と桜餅に変化したのである。小猫姫と氷麗姫は桜餅として実体化した死霊餓狼を直視するなり…。
「えっ!?突然桜餅が!?」
「霊体さえも桜餅に変化させちゃうなんて…桜花姫は天道の化身かしら?」
小猫姫と氷麗姫は苦笑いする。桜花姫はパクっと実体化した桜餅を頬張る。
「悪霊でも桜餅に変化させると美味だわ♪」
「本日で戦乱時代の因縁を完全に浄化させたね…桜花姫ちゃん♪」
小猫姫は蛇骨鬼に問い掛ける。
「蛇骨鬼婆ちゃん?結局死霊餓狼って何者だったの?」
「死霊餓狼は戦乱時代に人間に殺された野犬の悪霊だよ…自然界から誕生した悪霊で多種多様の怨念を吸収するから多種多様の悪霊を実体化させられるのさ♪所謂亡者達の悪意の集合体だね…」
「今迄に出現した悪霊は死霊餓狼が復活させたの?」
「勿論♪半年前に霊魂巨神木に憑霊して大量の悪霊を復活させたのも死霊餓狼の霊体だからね…半年前は桜花姫ちゃんと小猫姫の力戦で霊体の九分九厘を成仏させられたけど…今回は霊体の片鱗が三蔵郎に憑霊したみたいだね…」
すると蛇骨鬼は小声でボソッと発言したのである。
「千年前の元祖妖女…桃子姫が健康体なら死霊餓狼は完全に浄化されたのだけれどね…彼女は病弱だったから死霊餓狼を浄化し切れなかった…」
「桃子姫って誰なのよ?」
一同は桃子姫の名前に反応する。
「桃子姫は…所謂桜花姫ちゃんの前世だよ…」
桜花姫の前世の一言に一同は驚愕したのである。
「えっ!?桃子姫って妖女が桜花姫姉ちゃんの前世なの!?」
「桜花姫の前世が…元祖妖女ですって!?」
「桃子姫って妖女が…私の…前世?」
「桃子姫はね…」
蛇骨鬼は千年前の伝承である桃子姫の伝説を一部始終力説する。桃子姫の伝説を傾聴した一同は絶句したのである。
「想像以上に壮絶だったのね…戦乱時代って…」
(別に沈黙しなくても…)
沈黙した一同に蛇骨鬼は苦笑いする。
「何よりも今回で死霊餓狼は完全に浄化されたからね♪金輪際太平神国では悪霊は出現しなくなるだろうよ♪」
「えっ…」
「悪霊は金輪際出現しないのね♪」
「一安心だね♪」
小猫姫と氷麗姫は大喜びするものの…。桜花姫はパッとしなかったのか寂然の表情だったのである。こんな彼女に蛇骨鬼は恐る恐る問い掛ける。
「桜花姫ちゃん?大丈夫かい?」
「大丈夫だけれど…正直…悪霊征伐が出来なくなるから…今後は退屈だなって…」
桜花姫の発言に氷麗姫は呆れ果てる。
(退屈って…)
「あんたはお馬鹿さんね…悪霊なんて四六時中出現されたら傍迷惑でしょう!私は懲り懲りだわ!」
蛇骨鬼がボソッと発言したのである。
「今回で死霊餓狼が完全に浄化されたとしても…人間達が再度戦乱時代を頻発させた場合は第二…第三の死霊餓狼が出現するかも知れないからね…戦乱時代は絶対に阻止しないと…」
「勿論だよ!蛇骨鬼婆ちゃん!今後は私も桜花姫姉ちゃんと一緒に悪者を征伐するから安心してね!」
豪語する小猫姫に氷麗姫は苦笑いする。
(化け猫のお嬢ちゃんは…二代目の桜花姫だね…)
沈黙する桜花姫に蛇骨鬼が…。
「桜花姫ちゃんよ…あんたは金輪際匪賊征伐に専念しな♪」
桜花姫はボソッと返答する。
「勿論よ…蛇骨鬼婆ちゃん…」
すると直後…。気絶した三蔵郎が恐る恐る目覚める。
「三蔵郎様!?」
「如何やら彼が目覚めたみたいだね…」
「えっ?私は今迄一体何を?」
三蔵郎は警戒した様子でハッとするなり…。
「桜花姫様ですか!?悪霊は!?即刻悪霊を征伐しなくては!」
蛇骨鬼は笑顔でポンっと接触する。
「一安心しな…悪霊なら桜花姫ちゃんが成仏させたからあんたが心配しなくても大丈夫だよ♪」
「えっ!?桜花姫様が…悪霊を成仏させられたのですか…」
三蔵郎は一安心したのかホッとしたのである。
「桜花姫様の妖術で悪霊は無事に征伐されたのですね…一件落着ですな♪」
すると桜花姫は落涙するなり…。
「うわっ!桜花姫様!?」
桜花姫は力一杯三蔵郎の腹部に密着したのである。
「一体如何されましたか?」
「三蔵郎様!」
(桜花姫様…)
氷麗姫が恐る恐る三蔵郎に近寄る。
「あんたの名前は三蔵郎だったわね…」
「私は三蔵郎ですが…一体如何されましたか?」
氷麗姫は三蔵郎を睥睨するなり…。
「三蔵郎は悪霊に憑霊されちゃったみたいだけどあんたは桜花姫に手出しする寸前だったのよ…あんたは即刻桜花姫に謝罪しなさい!下手すれば桜花姫は殺されるかも知れなかったのよ…」
「えっ!?僧侶である私が…桜花姫様を殺そうと…」
三蔵郎は絶句したのである。
(私が…桜花姫様に…)
三蔵郎の涙腺から涙が零れ落ちる。
「今回は私にとって人生最大の過誤です…」
落涙する三蔵郎に桜花姫は笑顔で…。
「三蔵郎様…気にしないで♪」
「ですが桜花姫様…私は…」
「三蔵郎様は悪霊に憑霊されただけだから三蔵郎様は何も悪くないわよ♪三蔵郎様が無事で何よりだから♪」
「私は悪霊によって憑霊されたかも知れませんが桜花姫様に手出ししたのは事実みたいですし…私にとって今回の過誤は一生の不覚です…」
「気にしないの♪三蔵郎様♪」
「ですが私は桜花姫様に贖罪しなければ!」
彼自身今回の罪悪を贖罪しなければ一生後悔するのではと感じる。すると桜花姫は笑顔で発言するなり…。
「三蔵郎様が如何しても贖罪したいのであれば…和菓子屋で桜餅を頬張らせてよ♪」
「えっ!?桜餅って…」
「贖罪が桜餅なんて…」
(桜花姫ちゃんらしいね…)
桜花姫の発言に一同はポカンとした反応である。
「贖罪は贖罪でも桜花姫にとっての贖罪は非常に軽薄なのね…」
(桜花姫らしいけれども…)
一同は苦笑いする。
「三蔵郎様♪即刻東国の和菓子屋に直行しましょう♪」
「勿論ですとも♪桜花姫様♪」
桜花姫と三蔵郎は東国の和菓子屋へと直行したのである。
完結
メンテ
桜花姫 ( No.35 )
日時: 2021/08/17 09:48
名前: 月影桜花姫

第三部

第一話

桜花

天地暦三千九百九十二年四月四日の真夜中…。東国武士団の夜番警備隊であった月影夜叉丸は東国の国境より出現した悪霊を征伐しに出掛ける。
「東国に悪霊が出現したか…」
近頃は悪霊の出現頻度が頻繁であり常日頃から多忙である夜叉丸は非常に苛立ったのである。東国武士団は悪霊征伐に対応出来る夜番警備隊を結成させるのだが…。安穏時代は長年の平和の弊害からか凄腕の剣豪は一握りだったのである。唯一剣豪と畏怖される武家一族の月影一族名手…。月影夜叉丸が悪霊征伐専門の夜番警備隊に抜擢されたのである。夜叉丸は安穏時代の太平神国では一番の剣豪であり彼に対抗出来る剣豪は今現在皆無とも断言出来る。性格は非常に生真面目で人一倍厳格であり一人での活動が大半であり仲間達からは一匹狼とも揶揄される。一時間後…。夜叉丸は東国の国境に到達する。
「悪霊が出現するって…噂話の場所だな…」
夜叉丸は周囲を警戒するのだが…。周囲は暗闇の自然林ばかりで何も確認出来ない。
「悪霊が出現しそうな雰囲気であるが…」
数秒後…。突発的にゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じる。
(突然胸騒ぎが…)
「一体何が出現する?」
すると背後の地中より数体の食人餓鬼が出現したのである。
「此奴は食人餓鬼か…」
夜叉丸は即座に護身用の刀剣を抜刀するなり…。
「悪霊よ…即刻征伐する…」
護身用の刀剣を抜刀した夜叉丸は神速の身動きで食人餓鬼に接近すると斬撃したのである。頭首を斬撃された食人餓鬼は身動きしなくなる。一体の食人餓鬼を仕留めるのだが…。
「恐怖を感じられないのか?」
食人餓鬼は恐怖心が皆無であり彼等の大群は只管に夜叉丸へと殺到する。
「死滅せよ!」
夜叉丸は神速の身動きにより自身に殺到し続ける食人餓鬼を全滅させる。
「貴様達程度で私を食い殺そうなんて片腹痛いわ…」
自宅へと戻ろうかと思いきや…。背後より無数の殺気を感じる。
「ん?今度は…」
夜叉丸は警戒した様子で恐る恐る背後を確認したのである。
「此奴は…」
背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉団子の怪物がノソノソと夜叉丸に近寄る。
「此奴は悪霊の集合体…百鬼食人餓鬼か…」
夜叉丸の背後に出現したのは無数の食人餓鬼が一体化した肉塊の悪霊…。百鬼食人餓鬼である。
「悪霊の親玉が出現するとは…」
百鬼食人餓鬼の体表に確認出来る無数の食人餓鬼の頭部が夜叉丸を凝視するなり…。口先から猛毒の瘴気を放射したのである。百鬼食人餓鬼の瘴気は黒煙であり黒煙に接触した地面…。周囲の植物が枯死したのである。
(此奴は瘴気か…)
純血の人間である夜叉丸にとって百鬼食人餓鬼の瘴気は致命傷であり僅少でも体内に吸収すれば毒死は回避出来ない。夜叉丸は呼吸を我慢した状態で百鬼食人餓鬼に接近したのである。
(成仏せよ!)
百鬼食人餓鬼の胴体を一刀両断…。両断された百鬼食人餓鬼は肉片がバラバラに散乱すると無数の食人餓鬼へと変化する。同時に瘴気は自然と浄化されたのである。
(瘴気は浄化されたが…)
「百鬼食人餓鬼の肉片から無数の食人餓鬼に変化するとは…」
無数の食人餓鬼が夜叉丸に殺到する。
「覚悟しろ!悪霊!」
数秒間で出現した無数の食人餓鬼を仕留めたのである。
「片付けたか…」
すると国境の殺気も感じられなくなる。
「如何やら無事に終了したか…」
無事に事件は解決…。夜叉丸は西国の自宅へと戻ったのである。
「夜叉丸様…お帰りなさい…」
「美海姫か…」
美海姫は真珠の耳装飾と群青色の着物が特徴的であり頭髪は黒毛の長髪…。両目は半透明の血紅色である。自宅へと戻った夜叉丸に女房の美海姫は恐る恐る…。
「今夜も無事に戻られましたね…」
美海姫は夜叉丸に緑茶を手渡したのである。夜叉丸は肥大化した美海姫の下腹を恐る恐る凝視するなり…。
「以前よりも満月みたいだな…」
「えっ…満月ですか?」
夜叉丸の発言に美海姫は赤面する。
「数日後に私達の赤ちゃんが誕生しますよ♪」
「数日後には…俺も父親なのか…」
普段は厳格の夜叉丸であるが…。今日の夜叉丸は普段の彼とは別人みたいに穏和だったのである。
(夜叉丸様♪)
夜叉丸の様子に美海姫はニコッと微笑む。すると夜叉丸は恐る恐る…。
「美海姫…明日は久方振りに近辺の川辺で散歩しないか?」
「えっ?」
夜叉丸の発言に美海姫は一瞬驚愕する。夜叉丸は基本的に一人で行動するのが大半であり自宅でも食事以外は単独行動が日常茶飯事だったのである。
「駄目か?」
「駄目なんて…一緒に散歩しましょう♪」
(夜叉丸様と散歩なんて♪)
美海姫は内心大喜びする。翌日の真昼…。夜叉丸と美海姫は近辺の川辺を散歩したのである。周囲は川音と風音の音色が村里全体に響き渡り…。満開に開花した桜花の樹木が川辺に確認出来る。夜叉丸は満開に開花した桜花の樹木を直視したのである。
「桜花の樹木が満開だな…」
「魅了されますね♪」
桜花の樹木に二人は感動する。すると桜花の樹木に魅了された夜叉丸は恐る恐る…。
「美海姫?」
「如何されましたか?夜叉丸様?」
夜叉丸は一瞬沈黙するのだがボソッと発言する。
「子供の名前だが…女の子だったら…桜花姫なんて如何かな?」
「えっ…桜花姫ですか?」
美海姫は一瞬沈黙するが…。ニコッと微笑んだのである。
「桜花姫♪春季の天女みたいで可愛らしい名前ですね♪」
「えっ!?桜花姫で大丈夫なのか?」
ハッとした表情の夜叉丸に美海姫は笑顔で即答する。
「勿論…私は大賛成ですよ♪」
「大賛成か…」
夜叉丸はホッとした表情であり内心大喜びしたのである。
「私自身は純血の妖女だから…多分子供は女の子でしょうね…」
基本的に妖女は同種の妖女しか出産出来ない。すると夜叉丸は恐る恐る問い掛ける。
「美海姫よ…」
「如何されましたか?」
「美海姫は俺と一緒で幸福だったか?」
「えっ?突然如何されたのでしょうか!?」
突然の夜叉丸の問い掛けに美海姫は吃驚したのである。
「俺は…人一倍一匹狼の性格だからな…正直気難しいかなって…」
(夜叉丸様…自分の性格が気になるのかしら?)
すると美海姫は笑顔で返答する。
「私は今現在でも幸福ですよ♪私が夜叉丸様に見惚れたのですから♪三年前に夜叉丸様と対面しなければ私は今頃悪霊に食い殺されたでしょう…」
美海姫は三年前の真夜中の散歩中に悪霊と遭遇…。食い殺される寸前に夜番警備隊の夜叉丸に守護され夜叉丸に見惚れたのである。
「美海姫は単純だな…」
美海姫は赤面する。
「ですが三年前の悪霊事件に遭遇しなければ…私は夜叉丸様とは婚姻出来なかったのですからね♪」
「殺されたかも知れないからな…」
二人は自宅へと戻ったのである。翌日の早朝…。薬屋の蛇骨鬼が月影家の武家屋敷へと訪問する。
「邪魔するよ♪」
「蛇骨鬼婆様♪久し振りですね♪」
美海姫は蛇骨鬼との久方振りの再会に大喜びしたのである。
「美海姫ちゃんよ♪あんたが元気そうで安心したよ♪」
美海姫の元気そうな様子に蛇骨鬼は一安心する。
「ん?あんたの亭主は?」
「夜叉丸様なら東国の鎮守府に出掛けましたよ…」
「好都合だね…」
蛇骨鬼はホッとしたのである。
「本日は如何されたのでしょうか?」
問い掛けられた蛇骨鬼は即答する。
「あんたが月影夜叉丸って人間の武士と婚姻してから元気なのか如何なのか確認したかったのさ♪」
「私は毎日元気ですよ♪蛇骨鬼婆様は心配性ですね♪」
美海姫は笑顔で返答したのである。
「私でも心配するよ!あんたは天女の村里では一番の気弱で病弱だったからね…」
天女の村里とは南国に存在する小村落地帯であり両親を亡くした孤児達は勿論…。迫害された妖女の子供達が生活する安住の居住地である。幼少期では美海姫も蛇骨鬼に世話され…。南国の天女の村里で生活したのである。弱肉強食の戦乱時代では各地の戦乱やら疫病によって両親を亡くした大勢の孤児達を蛇骨鬼が養護…。子供達を世話したのである。
「人一倍気弱で病弱だったあんたが…数日後には一児の母親とはね♪」
美海姫は赤面した表情で…。
「私にも子供が出来ますからね♪」
すると蛇骨鬼はボソッと発言する。
「私も初孫と対面したいね♪」
「えっ?初孫ですって?」
蛇骨鬼の初孫の一言に反応したのである。
「初孫は初孫だよ!私にとってあんたは愛娘だからね♪当然としてあんたの愛娘は私にとって初孫だよ♪」
「蛇骨鬼婆様…」
美海姫は苦笑いする。
「何よりもあんたが元気そうで安心したよ♪私は退散するね♪」
蛇骨鬼は南国へと戻ったのである。
「蛇骨鬼婆様も元気そうで何よりだわ…」
翌日の真夜中…。夜叉丸は不吉の気配を察知したのである。
(殺気か!?)
警戒した様子で刀剣を所持…。外出したのである。美海姫は熟睡中であったがゴソゴソッと物音に気付いたのか目覚める。
「えっ?夜叉丸様は?」
屏風の刀剣と甲冑が無かったのである。
「ひょっとして夜叉丸様…」
外出したのであると察知する。同時刻…。夜叉丸は近辺に位置する廃神社にて無数の殺気を察知したのである。
「廃神社か…」
(ひょっとして悪霊の大群か!?)
暗闇の廃神社へと到達するのだが…。廃神社には無数の食人餓鬼の血肉が散乱する。廃神社の中心部には藍色の着物姿…。木刀を所持した小柄の花魁が確認出来る。
(彼女は花魁なのか?)
こんなにも真夜中に女性が一人で出歩くのを不自然に感じる。夜叉丸は恐る恐る…。
「悪霊が…貴様が退治したのか?」
問い掛けられた女性は背後の夜叉丸を直視する。
「貴様は…人間の武士だな…」
女性は両目が半透明の群青色であり姿形は人間であるが…。雰囲気から人間とは別物であると察知する。
(此奴…)
「女人…貴様は人間でも悪霊でも無さそうだな…一体何者だ?」
すると花魁は名前を名乗る。
「私は【冥王鬼】…神族の一員だ…」
「なっ!?貴様…神族だと!?」
自身を神族の一員と名乗る冥王鬼に夜叉丸は驚愕したのである。何故なら旧世界を支配した神族であるが戦乱時代以前の太古の大昔に人間達との大戦で敗北…。過半数以上の神族が人間達により殺され今現在生存を確認出来る神族は実質太平神国出身者の蛇骨鬼のみである。
「伝承では蛇骨鬼以外の神族は全員殺されたと…」
「如何やら今現在は間違った認識が出回ったみたいだな…人間達との大戦で瀕死だった私は同胞達と一緒に異国の土地で肉体を回復させたのだ…」
冥王鬼は数万年前…。人間達との大戦で瀕死の状態であり同胞と一緒に異国の土地へと逃亡したのである。
「瀕死から復活した私は以前よりも肉体が強化されたのだ…手始めに神聖なる土地に蔓延する虫けらを蹴散らしたが…こんな奴等では強化された私の実力を発揮するには力不足である…」
冥王鬼は夜叉丸を直視するなり…。
「人間であるが相当の実力者である貴様であれば…地面の薄汚い害虫よりは私の実力を発揮出来そうだな…」
冥王鬼の雰囲気に圧倒されたのか夜叉丸は恐る恐る後退りする。
(此奴は悪霊よりも厄介そうだ…人間の私では対処出来ない…)
夜叉丸は恐る恐る刀剣を抜刀したのである。
「相手が神族でも…」
(私が此奴を阻止しなければ…西国は勿論…何よりも美海姫と…桜花姫が…)
相手が自身よりも強大であっても阻止しなければ西国は勿論…。女房の美海姫と愛娘の桜花姫が殺害されるのは明白である。夜叉丸は冥王鬼に睥睨するなり…。
(姿形は女人でも…)
「冥王鬼とやら!覚悟しろ!」
神速の身動きによって冥王鬼に急接近すると即座に斬撃したのである。すると冥王鬼は自身の木刀で間一髪ガードする。
「貴様…人間としては非常に強力だな…」
直後…。
「なっ!?」
(此奴…木刀で…)
摩訶不思議の超常現象により夜叉丸の鋼鉄の刀剣がパリッと屈折したのである。
(妖術か!?)
「私の刀剣が一瞬で…」
突然の超常現象に夜叉丸はハッとしたのか全身が膠着する。
「貴様が不思議がるのも当然であるな…私の木刀は世界樹の霊魂巨神木の小枝で形作られた神剣だ…」
「霊魂巨神木だと?」
冥王鬼の所持する木刀は世界樹の霊魂巨神木から形作られた代物であり鋼鉄をも上回る硬質さである。
「私の木刀は鋼鉄をも上回る…死滅しろ!」
夜叉丸はザクッと腹部を斬撃され…。
「ぐっ!」
(木刀で…)
地面に横たわったのである。
「所詮貴様は脆弱なる人間だ…神族の一員である私には勝利出来ない…死滅せよ…無力の人間…」
直後…。冥王鬼は身動きしなくなる。
「今更瀕死の貴様を殺しても無意味だ…失血死するのだな…」
すると夜叉丸は恐る恐る問い掛ける。
「貴様は…一体…何が目的だ?」
「私の目的だと?」
冥王鬼は即答する。
「太古の大昔に存在した…神族の神世界を再興させるだけだ…数万年前の大戦で私達神族は貴様達人間によって駆逐されたのだ…」
古代時代当時の神族は多種多様の超能力を所持した最強の少数民族であったが…。大勢の人間達を相手するには多勢に無勢であり大勢の神族が迫害され惨殺されたのである。
「今現在の強大化した私であれば…一国程度なら一日で破滅させられる…」
「私達…人間に…復讐するのか?あんたは…」
夜叉丸が問い掛けると冥王鬼は即答する。
「即刻全滅させたいが…幸運にも太平神国には無数の悪霊が蔓延中であるからな…彼等によって貴様達人間が駆逐されるのも時間の問題だ…私が手出しせずとも太平神国は無数の悪霊によって死滅させられるであろう…」
すると冥王鬼の姿形がパッと消失…。冥王鬼は退散したのである。
(畜生…迂闊だった…)
夜叉丸は血塗れの状態であるが…。
「ぐっ…」
(美海姫…)
夜叉丸は瀕死の状態で自宅へと戻ったのである。地面には傷口の鮮血がポトポトッと出血し続ける。
「ぐっ!」
(視界が…)
出血多量により視界が黒化…。
(今夜が俺の命日とは…畜生…)
全身がフラフラしたのである。夜叉丸は自宅の玄関へと到達するのだが…。バタッと力尽きる。
(美海姫…桜花姫…)
夜叉丸は衰弱化したのである。
(畜生が…明日は桜花姫の出産日かも知れないのに…桜花姫を抱けないのは…心残りだな…)
直後…。夜叉丸は息絶えたのである。玄関口の物音に気付いた美海姫は即座に玄関へと移動するなり…。
「えっ?夜叉丸様…夜叉丸様!?」
美海姫は夜叉丸に接触すると失血死したのだと察知する。
(えっ…如何して…夜叉丸様が…)
「夜叉丸様…如何して…」
涙腺より涙が零れ落ちる。夜叉丸が死去したのは桜花姫の誕生日の前日だったのである。夜叉丸が死去した翌朝…。愛娘の桜花姫が誕生したのである。
メンテ
桜花姫 ( No.36 )
日時: 2021/08/17 09:49
名前: 月影桜花姫

第二話

人工妖女

天地暦四千二十年十二月二十八日の十六時半…。北国に聳え立つ天神山の洞窟ではとある集団が集結する。
「全員集合したな…」
首領らしき人物が頭陀袋から木材の破片を入手したのである。
「ん?木材の…破片ですか?」
首領らしき人物は一息するなり…。
「此奴は付喪神の肉片だよ♪」
「付喪神の肉片!?」
付喪神とは通称小面蜘蛛の肉片である。
「付喪神って…悪霊の小面蜘蛛ですよね…」
「勿論だとも♪半年前に西国の廃村で付喪神の肉片を回収したからな…」
「頭領…付喪神の肉片を如何されるのでしょうか?」
すると集団の頭領は恐る恐る背後の物体を直視する。
「女人の…死体?」
「死体なんて気味悪いですね…」
頭領の背後には腐敗した小柄の女性の遺体が確認出来る。女性の遺体は皮膚の劣化により遺体の一部は完全に白骨化した状態だったのである。
「此奴の体内に付喪神の肉片を含有させ…史上最強の人工の妖女を誕生させるのだよ…」
「なっ!?人工の妖女ですと!?」
「本気ですか!?頭領!?」
人工の妖女を誕生させる計画であるが…。周囲の者達は本当に人工の妖女が誕生するのか如何なのか疑問視したのである。
「人工の妖女なんて…実現出来るのでしょうか?」
「実現出来るかは断言出来ないが…一か八か…」
頭領は恐る恐る小面蜘蛛の肉片を女性の遺体の内部に混入させる。すると直後である。
「なっ!?」
女性の遺体に小面蜘蛛の肉片を混入させると一瞬であるが…。女性の遺体がピクッと身動きしたのである。
「死体が一瞬身動きしたぞ…」
彼等は恐る恐る女性の遺体に近寄る。彼等が近寄るが女性の遺体は停止した様子であり何も反応しない。
「彼女は…身動きしなくなったな…」
「先程の超常現象は一体…」
数秒後…。遺体の腐敗した部分が猛スピードで再生され遺体は新鮮なる生身の女体へと変化したのである。
「うわっ!本物なのか?」
すると生身の女体は深呼吸し始める。
「此奴は生者みたいだな…実験は成功したのか!?」
頭領は大喜びする。
「計画は成功した♪人工の妖女が誕生したぞ♪」
外見のみなら黒髪で長髪の童顔美少女であり体格は小柄であるが非常に容姿端麗である。直後…。瞑目した生身の女体が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか…」
「此奴は人形みたいな女人だな…」
生身の女体は警戒した様子であり血紅色の瞳孔で周囲を恐る恐る凝視したのである。
「別に警戒しなくても大丈夫だぞ♪貴様の名前は…人工妖女…【魍魎姫】なんて如何かな?」
頭領は生身の女体を魍魎姫と名付ける。魍魎姫と名付けられた生身の女体は無表情で頭領を凝視し始める。
「ん?空腹なのか?」
彼女は無反応であり何も喋らない。
「彼女は喋れないのかな?」
すると直後である。魍魎姫はニコッと微笑むなり…。
「えっ?」
右腕より複数の真蛸らしき触手を生成させると頭領に密着させる。
「うわっ!何事だ!?」
頭領は魍魎姫の触手に全身が覆い包まれ…。ズルズルと彼女の体内に吸収される。
「ひっ!」
「此奴…頭領を捕食しやがったぞ!」
警戒した周囲の人間達は即座に抜刀したのである。
「此奴は欠陥だ!即刻仕留めろ!」
危惧した魍魎姫は即座に両腕から無数の触手を生成…。周囲の人間達を拘束したのである。触手の吸盤が皮膚に密着され身動き出来なくなる。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
彼等はズルズルと彼女の体内へと吸収される。数秒間が経過すると魍魎姫の肉体が元通りに戻ったのである。すると直後…。
「食べたい…人間を…食べたい…食べたい…」
魍魎姫は人間の口言葉で発語したのである。彼女は周囲を警戒するなり恐る恐る洞窟から脱出…。全裸の状態で山道を直進する。洞窟から脱出した魍魎姫であるが夕方…。三人の匪賊達と遭遇する。
「ん?誰だ?」
「村娘の姉ちゃんか?」
「全裸だが…村娘は誰かに犯されちまったのか♪」
大柄の匪賊は全裸の彼女にムラムラしたのである。
「姉ちゃんは巨乳で可愛らしいな♪犯しちまいたいぜ♪」
すると大柄の匪賊が彼女の乳房を弄る。
「饅頭みたいだな♪」
乳房を弄られた魍魎姫であるが…。
「ん?此奴…」
彼女は無反応であり無表情だったのである。
「此奴は人形みたいで気味悪いな…普通の女子だったら悲鳴か抵抗するだろうに…」
匪賊の一人が無抵抗の魍魎姫に畏怖したのか恐る恐る後退りする。
「こんな小娘相手に畏怖しやがって♪」
大柄の匪賊は揶揄したのである。直後…。
「食べたい…」
「ん?」
彼女の食べたいと発言する一言に匪賊達は反応する。
「食べたいって…何を?」
大柄の匪賊に問い掛けられた魍魎姫はニコッと微笑む。
「人間…食べたい♪人間♪食べたい♪私♪空腹♪空腹♪」
「はっ?」
直後である。
「えっ!?」
魍魎姫の左腕から無数の触手が生成すると大柄の匪賊の肉体を覆い包み…。ズルズルと大柄の肉体諸共匪賊を体内に吸収したのである。
「ひっ!」
「此奴は怪物か!?」
魍魎姫に畏怖した二人の匪賊は一目散に逃走…。魍魎姫は一息する。
「今度は妖女♪妖女が食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪」
大勢の人間達を捕食した影響からか先程よりは大人びた雰囲気へと変貌したのである。翌日の真昼…。桜花姫は久方振りに死去した父親の夜叉丸と母親の美海姫の墓参りに出掛けたのである。
(父様…母様…)
桜花姫は両目を瞑目させるなり恐る恐る合掌する。すると直後である。突然背後より…。
「桜花姫ちゃんが両親の墓参りとは珍妙だね♪」
「きゃっ!」
吃驚した桜花姫は即座に背後を直視したのである。
「誰かと思いきや…蛇骨鬼婆ちゃん…吃驚させないでよね…」
「御免よ♪御免よ♪吃驚させちゃったね♪」
蛇骨鬼は笑顔で謝罪する。
「最近は悪霊征伐で多忙だったからね…」
「久方振りに元気そうなあんたと対面出来て…両親も大喜びだろうよ♪」
蛇骨鬼が笑顔で発言するのだが…。
「如何かな?母様は私が殺しちゃったのよね…」
「桜花姫ちゃん…」
蛇骨鬼は桜花姫の雰囲気に一瞬気まずくなる。すると桜花姫は恐る恐る問い掛ける。
「私の父様って…どんな人物だったの?」
問い掛けられた蛇骨鬼は一瞬困惑するものの…。
「第一印象は優男とは程遠い印象だったかね…生真面目だけど必要以上に厳格だったかな?」
「三蔵郎様とは正反対みたいね…」
桜花姫は苦笑いする。
「普段の彼奴は…夜叉丸は厳格で一匹狼だったけれども…人一倍人情味で情熱的だったかな?」
「一匹狼なのは私みたいだね…父様♪」
桜花姫はニコッと微笑む。
「一匹狼っぽい部分は桜花姫ちゃんっぽいね♪」
「本当ね♪私も一人で行動するのが大好きだからね♪」
二人は談笑したのである。同時刻…。粉雪妖女の氷麗姫は北国の山道を通行したのである。
「はぁ…最近は退屈だわ…」
氷麗姫は花魁として活動中であったが…。時たま匪賊の征伐にも尽力したのである。死霊餓狼の消滅以後…。世の中は非常に平和であり匪賊の活動も小規模化したのである。
「匪賊達も桜花姫に畏怖しちゃったのかしら?本当に退屈だわ…」
(こんなにも世の中が平和だと…私が活躍したくても活躍出来ないわね…)
日常が退屈であると愚痴る氷麗姫であるが…。数メートルの近距離より全裸の女性が笑顔で歩行するのを確認する。
「えっ!?」
(如何して彼女は全裸なのよ!?)
気味悪いと感じるなり氷麗姫は素通りするのだが…。彼女は笑顔でジロジロと氷麗姫を凝視し続ける。無視したい氷麗姫であるが…。
「鬱陶しいわね!先程から何よ!?」
苛立った氷麗姫はヘラヘラする全裸の女性に怒号したのである。すると彼女は笑顔で…。
「私♪名前♪魍魎姫♪魍魎姫♪あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪妖女♪」
彼女は自身を魍魎姫と名乗る。魍魎姫はヘラヘラした様子であり氷麗姫は気味悪くなったのか恐る恐る後退りする。
「えっ…魍魎姫だって?」
(此奴…悪霊なの!?悪霊って死霊餓狼が浄化されちゃったから…悪霊とは別物よね?霊力は感じられないし…)
現段階では魍魎姫と名乗る全裸の女性が何者なのかは不明瞭であり氷麗姫は非常に気味悪がる。
(何方にせよ厄介だわ…此奴の正体は一体何者なのかしら?)
氷麗姫は魍魎姫に睥睨する。
「あんた…凍死しなさい…」
氷麗姫は粉雪妖術を発動…。魍魎姫の両足を氷結させ魍魎姫は身動き出来なくなる。
「ぎゃっ!身動き…出来ない…食べられない♪食べられない♪」
氷結の妖術で身動きを封殺された魍魎姫であるが…。こんな状態でも彼女はヘラヘラしたのである。
「えっ…」
(此奴…桜花姫以上に狂気ね…)
全身を氷結させる寸前…。魍魎姫は両手より蛸足を連想させる無数の触手を発動したのである。
「えっ!?」
魍魎姫の体内より出現した無数の触手が氷麗姫の全身に密着する。
「ひゃっ!」
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
触手の吸盤が皮膚に密着すると氷麗姫は気味悪くなる。
(畜生…一か八か…)
氷麗姫は一か八か粉雪分身の妖術を発動…。皮膚の表面より粉雪を地面に飛散させる。直後…。氷麗姫の全身は魍魎姫の触手に覆い包まれ触手諸共彼女の体内へと吸収されたのである。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
氷麗姫を捕食した魍魎姫は大喜びする。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫はヘラヘラした様子で移動したのである。魍魎姫が退散した数秒後…。飛散した粉雪が融合化すると女体を形作り氷麗姫が復活する。
「危機一髪だったわね…」
(粉雪分身の妖術を発動しなかったら…私は確実に食い殺されたわね…)
氷麗姫は周囲を警戒したのである。
「魍魎姫…下手すれば悪霊よりも厄介そうね…」
(桜花姫だったら…)
氷麗姫は即座に西国へと直行する。
メンテ
桜花姫 ( No.37 )
日時: 2021/08/17 09:50
名前: 月影桜花姫

第三話

遭遇

同日の夕方…。最上級妖女の月影桜花姫は毎日の日課である天霊山の露天風呂に入浴したのである。
「極楽♪極楽♪」
露天風呂の適温の湯加減に桜花姫は満足する。
「天霊山の露天風呂は湯加減も適温だし…消耗しちゃった妖力も回復させられるから最高ね♪」
露天風呂の湯加減に満足した桜花姫であるが…。背後よりガサガサッと人気に気付いたのである。
(人気!?)
「一体何者!?」
警戒した様子で背後を直視する。すると背後の岩陰より茶髪の童顔美少女が出現したのである。
「誰かと思いきや…あんたは山猫妖女の小猫姫…」
「桜花姫姉ちゃん♪」
小猫姫の出現に桜花姫は笑顔で…。
「女の子なのに入浴中の女性を覗き見するなんて♪あんたは相当の物好きなのね♪三蔵郎様みたいだわ♪」
「私は…別に…」
小猫姫は苦笑いする。同時刻…。東国の寺院では三蔵郎がクシャミしたのである。
「一体何事でしょうか?誰か私の噂話でも…」
同時刻…。小猫姫は赤面した様子で着物を脱衣したのである。
「私も…天霊山の露天風呂に入浴したくて…」
小猫姫は恐る恐る周囲を警戒するなり…。石造りの露天風呂へと入浴したのである。
「小猫姫♪」
桜花姫は入浴中の小猫姫に近寄る。
「えっ…何よ?桜花姫姉ちゃん…」
「あんたのおっぱいって…饅頭みたいね♪」
「えっ?饅頭?」
桜花姫は赤面した表情で恐る恐る…。小猫姫の巨乳のおっぱいを力一杯弄ったのである。
「きゃっ!桜花姫姉ちゃんの助平!突然何するのよ!?」
突然の桜花姫の行為に小猫姫は動揺する。
「あんたのおっぱいは本当に饅頭みたいで可愛らしいわね♪」
(桜花姫姉ちゃん…)
小猫姫は赤面したのである。
「私だって!仕返ししちゃうよ!」
小猫姫も桜花姫に仕返しする。力一杯桜花姫の乳房を接触…。
「きゃっ!いや〜ん♪」
桜花姫も赤面したのである。すると直後…。
「えっ?」
再度背後から気配を感じる。
「気配だわ…今度は誰かしら?」
「誰だろう?」
彼女達は恐る恐る背後を警戒すりなり…。岩陰より人気を感じる。
「誰なの?」
すると岩陰から水色の着物姿の花魁が出現する。
「あんたは…粉雪妖女の氷麗姫…」
「桜花姫…」
同時刻…。徘徊中の魍魎姫は東国の天空山頂上へと移動したのである。天空山とは東国の最高峰であり標高三キロメートルの巨山…。東国の観光地である。数年前は悪霊の出現により登山者は減少傾向であったが死霊餓狼の消滅以後…。再度登山者が増加し始める。天空山の頂上では鎖鎌を所持するとある童顔の美少女が修行に尽力する。
「修行して最上級妖女の月影桜花姫様は無理でも…妹分の小猫姫には勝利したいわね…」
彼女は妖女の【山茶花姫】…。年齢は小猫姫と同年代であり彼女の好敵手である。彼女の家系は最強の忍者一族であり戦乱時代は諜報活動…。要人の暗殺任務で活躍したのである。安穏時代は平和であり忍者の仕事は限定的であるが…。山茶花姫は唯一の女性忍者であり匪賊の暗殺任務に従事する。山茶花姫は鎖鎌の大鎌を投擲しては近辺の樹木をグルグルに絡まらせる。
「雷撃!」
両手より雷撃の妖術を発動…。体内から放電させた雷光を所持品の鎖鎌に流電させたのである。直後…。樹木が黒焦げに燃焼する。
「上出来♪上出来♪」
修行の成果に山茶花姫は大喜びしたのである。
「こんな私でも山猫妖女の小猫姫になら対抗出来そうね♪」
ホッとした直後…。
(えっ?)
僅少であるが突如として別の妖力が天空山頂上に接近するのを感じる。
(妖力を感じるわね…一体何かしら?)
警戒した山茶花姫は恐る恐る背後を直視する。
「あんた…何者よ?」
(妖女なのかしら…)
山茶花姫の背後には全裸の女性が佇立…。彼女はヘラヘラした表情で山茶花姫を凝視したのである。
(何者なの?此奴…悪霊みたいで気味悪いわね…)
すると全裸の女性は笑顔で…。
「私♪魍魎姫♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「魍魎姫?あんたみたいな妖女は初耳だわ…」
(彼女の体内から僅少の妖力は感じられるけれども…彼女は一体何者なのかしら?)
魍魎姫が妖女なのか疑問視する。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「此奴…」
(先程から食べたい…食べたいって鬱陶しいわね…)
山茶花姫は只管食べたいと連呼する魍魎姫に大層苛立ったのである。
「あんたみたいな下級妖女…即刻死になさい!」
山茶花姫は即座に鎖鎌を投擲…。魍魎姫を捕縛したのである。身動き出来なくなった魍魎姫であるがヘラヘラする。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
ヘラヘラする魍魎姫に山茶花姫は気味悪がる。
「あんたみたいな痴人と遭遇したのは初体験ね…」
山茶花姫は妖力を発動…。
「自爆しろ…」
山茶花姫は自爆の妖術を発動したのである。
「えっ♪」
直後…。魍魎姫の肉体は自爆の妖術によってバラバラに粉砕される。天空山頂上には魍魎姫の血肉やら肉片が飛散したのである。
「所詮は下級妖女…あんたみたいな下級妖女が私を食い殺すなんて無謀なのよ…」
戻ろうかと思いきや…。飛散した周辺の肉片がピクピクッと鼓動すると一瞬で融合化したのである。融合化した肉塊は女体を形作り…。元通りの魍魎姫に戻ったのである。
「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」
「なっ!?」
(此奴…肉体をバラバラに粉砕させても元通りに戻れるなんて…此奴は悪霊以上に厄介ね…)
山茶花姫は驚愕したのか恐る恐る後退りする。
「今度は私の出番♪私の出番♪私の出番♪」
魍魎姫は捕食した氷麗姫の氷結の妖術を発動…。山茶花姫の両足を氷結させたのである。
「なっ!?氷結!?」
山茶花姫は両足の氷結により身動き出来なくなる。
(迂闊だったわ…)
すると魍魎姫は両手より無数の触手を生成させるなり…。山茶花姫を拘束したのである。
「きゃっ!」
触手の吸盤により身動きを封殺する。
「ぐっ!」
(迂闊だったわ…身動き出来なくなるなんて…)
山茶花姫の身体髪膚は魍魎姫の触手に覆い包まれる。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
数秒後…。
(馬鹿だったわ…私…こんな痴人に食い殺されるなんて…)
触手で覆い包まれた山茶花姫の肉体は触手諸共魍魎姫の体内へと吸収されたのである。
「御馳走様♪御馳走様♪」
妖女の山茶花姫を食い殺した魍魎姫は天空山から退散する。同時刻…。氷麗姫は桜花姫の家屋敷にて真昼の出来事を一部始終告白したのである。
「あんたの粉雪の分身が魍魎姫なんて名前の…正体不明の女人に捕食されちゃったのね…」
「魍魎姫って女人の正体は…悪霊なのかな?」
小猫姫はボソッと発言する。
「悪霊なら霊力を感じられるでしょうし…私が即刻退治するわよ…悪霊は死霊餓狼が消滅しちゃったから俗界には出現しないわよ…」
死霊餓狼が消滅してより悪霊は出現しなくなる。
「昼間に遭遇した彼女からは霊力は感じられなかったわ…悪霊とは別物っぽかったけれど…妖女でも無さそうな雰囲気だったわね…」
現段階では魍魎姫の正体は不明であり彼女達はモヤモヤする。すると桜花姫は恐る恐る…。
「彼女の正体が悪霊でも…妖女にも該当しないのであれば…神族の一員の可能性は…」
「神族の一員ですって?」
神族の仮説に小猫姫は否定する。
「蛇骨鬼婆ちゃん以外の神族は大昔の大戦で全滅しちゃったらしいよ…」
「私も同感…」
「であれば魍魎姫って一体何者なのかしら?」
結局魍魎姫の正体が何者なのか不明であり彼女達はモヤモヤした様子で解散したのである。小猫姫は帰宅途中…。
「えっ?何だろう?」
南国国境の山道よりフラフラした状態で歩行し続ける人影を発見したのである。
(人影かな?)
周囲は暗闇であり人影の正体は不明であるが…。フラフラした身動きで小猫姫の方向に接近する。
(悪霊っぽいけれど…)
「悪霊は死霊餓狼が消滅しちゃったから出現しないし…こんな真夜中に一体何者だろう?」
人影がフラフラした状態で小猫姫の間近に近寄る。
「えっ!?」
(女の人!?)
人影の正体は全裸の女性であり小猫姫を直視するなりニコッと微笑む。
「あんた♪妖女♪食べたい♪」
彼女の口言葉に小猫姫はハッとする。
(食べたいって…ひょっとして彼女が氷麗姫様の粉雪分身を捕食した…魍魎姫!?)
全裸の女性が魍魎姫であると察知…。小猫姫は警戒した様子で恐る恐る後退りする。
(此奴が本当に魍魎姫であれば…)
小猫姫は睥睨するなり…。
「あんたが魍魎姫なら私が征伐するよ!」
「私♪魍魎姫♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫はヘラヘラした様子で小猫姫に近寄ったのである。
「あんた何者よ!?私に近寄らないで!」
小猫姫は近寄る魍魎姫に睥睨する。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
小猫姫に睥睨された魍魎姫であるが…。彼女はヘラヘラした様子である。
「此奴…」
小猫姫は非常に苛立ったのか大声で…。
「私に近寄るな!」
変化の妖術を発動すると伝説の妖獣に変化したのである。小猫姫の妖力は莫大であり近寄った魍魎姫の肉体は一瞬で粉砕され…。地面にはバラバラに粉砕された無数の血肉やら肉片が飛散したのである。
「簡単に仕留めちゃったね…全身に妖力を放出させただけなのに…」
小猫姫は全身に妖力を放出させただけであり魍魎姫の肉体は非常に脆弱なのか簡単に粉砕される。
「こんな場所で長居したくないし…」
(即刻戻らないと…蛇骨鬼婆ちゃんを心配させちゃうよね…)
南国の自宅に戻ろうかと思いきや…。バラバラに粉砕された魍魎姫の血肉が融合化すると元通りの女体の姿形に戻ったのである。
「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」
元通りに再生した魍魎姫の肉体に小猫姫は驚愕する。
「なっ!?」
(此奴…肉体がバラバラでも元通りに復活出来るの!?)
小猫姫は警戒した様子で口先に妖力を凝縮させる。
「死滅しろ!」
口先より高熱の雷球を発射…。高熱の雷球は魍魎姫の肉体に直撃すると彼女の肉体は簡単に粉砕されたのである。
「今度こそ…」
焦土化した山道には黒焦げの肉片が散乱する。
(今度こそ魍魎姫は死滅したかな?)
数秒後…。一部の小指サイズの肉片が等身大サイズに細胞分裂すると等身大の女体を形成させる。
(えっ!?魍魎姫は不死身!?)
小猫姫はゾッとしたのである。女体は魍魎姫の肉体へと形作られる。
「元通り♪復活♪復活♪」
魍魎姫はヘラヘラした様子で再度小猫姫に近寄る。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
小猫姫は再度高熱の雷球を発射するのだが…。魍魎姫は両手より無数の触手を発動すると高熱の雷球を吸収したのである。
「えっ!?雷球が…」
妖力の吸収能力によって小猫姫の雷球を無力化する。
「あんたの妖力♪美味しい♪妖力♪美味しい♪」
魍魎姫は大喜びしたのである。
「今度はあんた♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫は再度両手から無数の触手を発動…。妖獣形態の小猫姫を拘束したのである。
「きゃっ!」
(身動き出来ない…如何すれば!?)
魍魎姫の触手により小猫姫は身動き出来なくなる。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
彼女の触手が皮膚に密着すると全身の妖力が吸収され…。小猫姫は一瞬で元通りの少女の姿形に戻ったのである。
「ぐっ!」
(変化の妖術が解除されちゃった…私…食い殺されちゃうよ…)
小猫姫は極度の恐怖心からか涙腺から涙が零れ落ちる。
(蛇骨鬼婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…)
魍魎姫の体内へと吸収される直前…。突如として魍魎姫の肉体がパンっと破裂したのである。
「きゃっ!」
突然の出来事に小猫姫は吃驚する。
「えっ!?」
(魍魎姫が…)
直後…。何者かが小猫姫の背中をポンッと接触する。
「ひゃっ!」
吃驚した小猫姫は即座に背後を直視…。
「桜花姫姉ちゃん!?」
小猫姫の背中を接触した人物は誰であろう最上級妖女…。桜花姫だったのである。
「御免あそばせ♪小猫姫♪」
「桜花姫姉ちゃん♪」
桜花姫の参上に小猫姫はホッとしたのか一安心する。
「桜花姫姉ちゃん…感謝するね…」
恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何して桜花姫姉ちゃんがこんな場所に?」
「あんたの妖力は勿論だけど…複数の妖女の妖力を察知したからね♪」
南国の国境より小猫姫と数人の妖女の妖力を察知したのである。
「此奴は魍魎姫だよ…」
直後…。念力の妖術でバラバラに粉砕された魍魎姫の血肉が融合化すると元通りに戻ったのである。
「元通り♪元通り♪復活♪復活♪」
復活した魍魎姫はヘラヘラした表情で桜花姫を凝視する。
「あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「彼女が魍魎姫ね…」
(彼女の体内から小猫姫と氷麗姫の妖力と…別の誰かの妖力が感じられるわね…)
現段階では彼女が何者なのかは不明であるが…。複数の妖女の妖力を吸収したのは確実であると認識出来る。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
すると魍魎姫は氷麗姫の氷結の妖術を発動したのである。氷結の妖術により桜花姫の両足が氷結され…。身動き出来なくなる。
(氷麗姫の妖術ね…)
身動き出来なくなった桜花姫であるが…。彼女は冷静である。直後…。魍魎姫は両手から無数の触手を生成させ氷結により身動き出来なくなった桜花姫を拘束する。
「桜花姫姉ちゃんが拘束されちゃった!」
拘束された桜花姫に小猫姫はハラハラしたのである。
「心配しなくても大丈夫よ…小猫姫…」
捕食されても可笑しくない状態であるが…。桜花姫は冷静であり小猫姫は不思議がる。
(食い殺されちゃうかも知れないのに…如何して桜花姫姉ちゃんは冷静なの?)
すると魍魎姫はヘラヘラした様子で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
桜花姫の肉体は魍魎姫の触手により覆い包まれる。
「桜花姫姉ちゃん!?」
(食べられちゃう!)
畏怖する小猫姫であるが…。魍魎姫の触手に覆い包まれた桜花姫の肉体から白煙が発生するとポンッと消滅したのである。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?桜花姫姉ちゃんは!?」
小猫姫は勿論…。
「えっ?妖女は?妖女は?」
魍魎姫でさえも何が発生したのか理解出来ない。すると魍魎姫の背後より何者かがポンッと彼女の背中を接触する。
「えっ?誰?誰?」
「残念だったわね♪魍魎姫♪」
「桜花姫姉ちゃん!?」
(無事だったのね…冷や冷やしちゃったよ…)
冷や冷やした小猫姫であるが…。桜花姫は健在であり彼女はホッとしたのである。
「妖女?妖女?」
「あんたが拘束したのは私の分身体なのよ♪」
桜花姫は魍魎姫に食い殺される寸前…。分身の妖術を発動したのである。
「残念だったわね♪あんたみたいなお馬鹿さんが最上級妖女である私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」
すると魍魎姫は周囲をキョロキョロさせる。
「覚悟しなさい♪」
魍魎姫は圧倒的に不利であると判断…。雷撃分身の妖術を発動したのである。雷撃分身の妖術とは自爆分身の妖術の類似妖術であり分身体を攻撃用に転用させた妖術…。分身体を自爆させ相手を感電死させる妖術である。魍魎姫の肉体が雷撃に変化…。桜花姫と小猫姫を急襲したのである。
「なっ!?」
(雷撃分身の妖術!?)
桜花姫は自身の肉体と小猫姫に防壁の妖術を発動…。雷撃分身による感電攻撃を無力化したのである。
「危機一髪だったわね♪」
桜花姫は一安心する。
「魍魎姫…結局逃げられちゃったね…」
魍魎姫は雷撃分身の妖術を発動したと同時に逃亡したのである。
「逃げられちゃったのは残念だわ…」
最早桜花姫でも妖力も感じられず…。逃亡した魍魎姫を追撃するのは不可能だったのである。
「今度遭遇したら確実に魍魎姫を仕留めましょう…」
(結局彼奴は何者なのかしらね?魍魎姫の体内からは妖力を感じられたけれど…違和感が…)
魍魎姫の体内からは妖力を感じられるのだが…。妖女と断言すると微妙に異質的だったのである。すると小猫姫が恐る恐る発言する。
「蛇骨鬼婆ちゃんだったら魍魎姫の正体が何者なのか判明出来るかも…」
「であれば即刻南国の村里に直行しましょう♪」
彼女達は南国の村里へと直行したのである。数分後…。蛇骨鬼の自宅へと到達する。
「今晩は♪蛇骨鬼婆ちゃん♪」
笑顔で挨拶するのだが…。
「えっ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん?」
蛇骨鬼は居間にグッタリと横たわった状態だったのである。小猫姫が蛇骨鬼に殺到する。
「蛇骨鬼婆ちゃん!?」
すると蛇骨鬼が恐る恐る目覚める。
「小猫姫かい…」
「蛇骨鬼婆ちゃん…大丈夫?」
問い掛けられた蛇骨鬼は小声で返答する。
「私は大丈夫だよ…常日頃の疲労が蓄積しちまっただけだから…」
「疲労だったの…」
小猫姫は一安心したのかホッとしたのである。すると桜花姫が恐る恐る質問する。
「蛇骨鬼婆ちゃん?質問なのだけど…」
「質問だって?」
桜花姫は先程の出来事を一部始終蛇骨鬼に口述したのである。
「魍魎姫と名乗る正体不明の女人ね…」
「彼女の正体が妖女なのか神族なのか…知りたくてね…」
すると蛇骨鬼は発言する。
「神族は該当しないね…俗界で私以外の神族は実質存在しないからね…」
「消去法で妖女かしら?」
「微妙だけど…妖女とも無縁かな…」
妖女も否定したのである。
「妖女とも無縁であれば…彼女は一体何者なのかしら?」
蛇骨鬼は一瞬沈黙するなり…。
「ひょっとすると魍魎姫の正体は…人工の妖女とか…」
「えっ!?人工の妖女ですって!?」
蛇骨鬼の人工の妖女発言に桜花姫と小猫姫は驚愕する。
「人工って…人間によって誕生した妖女なの?」
「人為的に妖女なんて出来るの?」
「五百年前の伝承だけれどね…」
五百年前の出来事である。とある村里の夫婦が疫病で死去した愛娘の遺体に世界樹として認識される霊魂巨神木の破片を愛娘の遺体に含有…。愛娘は元通りの姿形に復活したのである。愛娘の復活に大喜びした夫婦であったが…。復活した愛娘は生前とは別人であり姿形は人間の少女であるが悪霊以上の怪物だったのである。夫婦は彼女に食い殺され…。村里で暴れ回る。一晩中暴れ回った彼女は最終的に村里の妖女によって退治されたのである。
「人間の愚行による悲劇だね…」
すると桜花姫は一言…。
「結局は人間達の自業自得ね…」
桜花姫は愛娘を怪物として復活させた夫婦を自業自得であると感じる。
「先程の伝承から魍魎姫の正体が判明したわね…」
「ひょっとして魍魎姫の正体は人間の愚行によって復活した…女性の遺体だったの?」
「かも知れないね…」
断言は出来ないが魍魎姫の大凡の正体を把握した桜花姫は西国へと戻ったのである。
メンテ
桜花姫 ( No.38 )
日時: 2021/08/17 09:51
名前: 月影桜花姫

第四話

増殖

真夜中の魍魎姫との戦闘から三日後…。魍魎姫とは遭遇しなかったが三人の若齢の村娘が神隠しに遭遇するとの行方不明事件が三件も連続的に発生したのである。近所の村人達は勿論…。東国の鎮守府も行方不明者である村娘達を捜索するのだが発見されない。神隠しに遭遇した村娘達は人外の妖女だったのである。神隠しの噂話は国全体に出回り桜花姫も神隠しの噂話を熟知する。噂話を熟知した当日…。暇潰しに東国の茶店で一休みしたのである。
(神隠しの事件ね…)
「行方不明者は三人とも妖女…」
彼女はフッと魍魎姫を連想する。
(今回の事件…魍魎姫…)
「彼奴の仕業なのは確実ね…」
すると直後…。
「桜花姫?」
「えっ?あんたは…粉雪妖女の氷麗姫?」
花魁の氷麗姫が同席したのである。
「こんな茶店で一休みなんて…桜花姫らしいわね♪」
「和菓子屋は私にとって日課だからね…当然でしょう…」
机上には小皿と桜餅…。緑茶が確認出来る。
「如何してあんたはこんな場所に?」
問い掛けられた氷麗姫は笑顔で返答する。
「単なる気分転換よ♪気分転換♪」
すると氷麗姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何やら神隠しの事件が気になるみたいね…」
「今回の相手は今迄の悪霊よりも厄介そうだし…」
「最上級妖女のあんたでも厄介って感じるのであれば…余程手強いみたいね…私なんて場違いだわ…」
氷麗姫は魍魎姫を相手に命拾い出来た自身を驚愕する。
「魍魎姫は妖女を捕食しても妖力を潜伏させちゃうから妖力を感じられないのよね…」
魍魎姫は絶大なる妖力を保持するのだが体内の妖力を潜伏させられ…。彼女の居場所を特定するのは実質困難である。同時刻…。二人の東国武士団の邏卒が東国郊外に位置する山道を巡邏する。
「近頃は悪霊も匪賊も出現しなくなったが…物騒だよな…」
大柄の邏卒が発言すると小柄の邏卒が返答したのである。
「村娘が三人も行方不明だからな…神隠しにでも遭遇したか?」
「神隠しね…本当に神隠しだとすれば俺達では如何にも出来ないぞ…神隠しであれば西国の桜花姫様の出番だな…」
「桜花姫様だったら神隠しでも簡単に解決出来そうだな♪」
「正直今回の事件も彼女が適任だよな…」
直後…。
「ん?誰だろう…」
山道の道中より不吉の女性に遭遇する。
「女人?」
「こんな山道で女人が一人で出歩くなんて…」
女性は紫色の着物姿であり非常に小柄の体格であるのだが…。雰囲気は非常に異質的でありフラフラした様子で山道を歩行したのである。
「悪霊みたいで気味悪いな…」
すると女性は二人の邏卒を直視するなり…。
「食べたい♪」
ニコッとした表情で二人の邏卒を凝視したのである。
「はっ?食べたいって…何を?」
問い掛けられた女性は笑顔で…。
「あんた達♪人間♪食べたい♪私♪魍魎姫♪」
自身を魍魎姫と名乗る女性はヘラヘラした表情で二人の邏卒に近寄る。
「魍魎姫だって?」
「此奴…重度の痴人か?」
すると小柄の邏卒が抜刀する。
「近寄るな!近寄れば貴様を斬殺するぞ!」
威嚇された魍魎姫であるが…。彼女は只管にヘラヘラした様子であり彼等に近寄る。
「如何やら殺されたいらしいな…」
直後である。魍魎姫は両腕から無数の触手を生成…。
「なっ!?」
刀剣を抜刀した邏卒を拘束したのである。
「食べたい♪人間♪食べたい♪」
邏卒は魍魎姫の触手に覆い包まれ…。彼女の体内へと吸収される。
「ひっ!此奴は怪物だ!」
大柄の邏卒は恐怖心により一目散に逃走したのである。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
魍魎姫は大喜びするのだが…。
「えっ?」
突如として左腕がモゴモゴと蠢動し始める。数秒後…。魍魎姫の左腕から数十個ものビー玉サイズの肉塊が排出されたのである。
「ん?」
魍魎姫は体内から排出された無数の肉塊を凝視する。すると直後である。排出された無数の肉塊が人型を形成…。等身大の女体を形作る。肉塊は等身大の全裸の女性へと変化したのである。
「あんた達♪あんた達♪私の♪子供♪子供♪」
彼女の体内から排出された無数の肉塊は魍魎姫の分身体であり魍魎姫は大喜びする。すると周囲の分身体は母体である魍魎姫を直視するなりヘラヘラしたのである。
「あんた♪母体♪母体♪」
「私♪空腹♪空腹♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
彼女達はヘラヘラした表情で只管に食べたいと連呼する。同時刻…。桜花姫は西国の自宅にて昼寝するのだが無数の妖力を察知したのである。
「えっ!?何かしら?」
(無数の妖力がバラバラに砕け散った様子だわ…)
突如として出現した複数の妖力が一瞬でバラバラに分裂するのを察知…。
「ひょっとして魍魎姫の妖力かしら?」
魍魎姫の妖力であると予想したのである。無数の妖力が気になった桜花姫は即座に外出するなり無数の妖力の感じる場所へと直行する。同時刻…。各村落では魍魎姫の【分裂体】が出没しては遭遇した村人達を食い殺したのである。当然として魍魎姫の分裂体は大都市である東国にも出現する。
「何やら外部が非常に騒然としますね…」
(一体何事でしょうか?)
東国の寺院では三蔵郎が二階の雨戸を開放するなり恐る恐る外部の様子を直視したのである。
「なっ!?」
逃走する町民達は勿論…。背後には数十人もの全裸の女性がふら付いた様子で追尾したのである。
「女性でしょうか?」
直後…。彼女達の両腕が真蛸の触手に変化すると逃走する町民達を拘束したのである。町民達は全身を触手に覆い包まれ…。彼女達に捕食される。
「げっ!」
町民達が食い殺される場面を直視した三蔵郎は気味悪くなる。
(ひょっとして彼女達は女体の悪霊でしょうか?)
一瞬女体の悪霊と解釈するのだが…。
(ですが悪霊は元凶である死霊餓狼を桜花姫様が退治されたみたいなので…悪霊は該当しないでしょうね…)
「であれば彼女達の正体は一体…」
混乱したのである。すると一体の分裂体が二階の三蔵郎を直視する。
「えっ!?」
分裂体は三蔵郎を直視するなりニコッと微笑む。
「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」
ゾッとした三蔵郎は即座に雨戸を密閉したのである。
(私も彼女達に食い殺されるかも知れない…)
三蔵郎は即座に自室へと移動…。屏風に装飾された霊斬刀を護身用に所持したのである。
「先程の女人は悪霊よりも厄介かも知れませんね…」
すると直後…。二階より一体の分裂体が進入する。
「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」
三蔵郎は恐る恐る後退りしたのである。
「貴女様は一体何者でしょうか?」
問い掛けられた分裂体はヘラヘラした様子で…。
「私♪魍魎姫の子供♪子供♪あんた♪食べたい♪」
彼女は只管に食べたいと連呼する。
(魍魎姫と呼称される人物が今回の元凶みたいですね…)
「止むを得ないですね…」
三蔵郎は即座に霊斬刀を抜刀したのである。
(正直相手が正体不明の怪物でも…か弱き女性の姿形では本領を発揮出来ませんが…)
「御免!」
神速の身動きでスパッと魍魎姫の分裂体を一刀両断…。分裂体は左右に両断されたのである。
「相手が悪霊であれば簡単に仕留められるのですが…」
一安心した直後…。両断された分裂体の半身がピクピクッと身動きしたのである。
「なっ!?」
左右両方の半身が再生され…。一体のみだった分裂体が二体の分裂体に分裂したのである。
(彼女はバラバラに砕け散ると増殖するのでしょうか…)
「であれば非常に厄介ですね…」
二体に分裂した分裂体は目覚めるなり三蔵郎を凝視する。
「食べたい♪」
「あんた♪人間♪食べたい♪」
彼女達はヘラヘラした表情で三蔵郎に近寄る。
(彼女達を迂闊に斬撃しても増殖するのは明白…一体如何すれば?)
三蔵郎は混乱したのである。後退りした直後…。突如として二体の分裂体が氷結により身動き出来なくなる。
「氷結ですと!?」
(突然何が!?)
すると背後より何者かがポンっと三蔵郎の背中を接触したのである。
「えっ?」
「危機一髪ね…三蔵郎…」
「貴女様は…粉雪妖女の氷麗姫様でしたか…」
氷麗姫は氷結の妖術によって二体の分裂体の身動きを一時的に封殺する。
「感謝しますね♪氷麗姫様♪氷麗姫様の加勢で命拾い出来ました♪」
三蔵郎は笑顔で謝礼するのだが…。
「勘違いしないで!あんたを守護しないと桜花姫が心配するからね…」
桜花姫の名前にハッとする。
(桜花姫様…)
「彼女は一体…」
「桜花姫…彼奴なら今頃…」
同時刻…。北国の国境へと到達した桜花姫であるが六体の分裂体に包囲される。
「あんた達…魍魎姫の分身体かしら?姿形は母体と瓜二つね…」
分裂体はヘラヘラした表情で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
彼女達は只管に妖女を食べたいと連呼する。
「私を食い殺したいのね♪あんた達に出来るかしら?妖女は妖女でも…私は其処等の妖女とは別格だからね♪」
「あんた♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪」
六体の分裂体はヘラヘラした様子で桜花姫に近寄る。
「鬱陶しい奴等ね…」
桜花姫は天道眼を発動…。半透明の血紅色であった両方の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。
「あんた達…死になさい…」
直後…。六体の分裂体は念力の妖術によって全身が破裂したのである。地面には分裂体の血肉やら肉片が飛散する。
「他愛無いわね…」
楽勝であると感じるものの…。飛散した無数の肉片が再度等身大の女体を形成したのである。先程飛散した無数の血肉は数百体もの分裂体に変化する。
「面倒臭いわ…」
(彼女達はバラバラに粉砕しても肉片からでも再生して…増殖するみたいね…)
魍魎姫の分裂体は一体をバラバラに粉砕しても肉片からでも再生…。無限に増殖する。数百体もの分裂体が再度桜花姫を包囲したのである。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
「食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
圧倒的に不利であり周囲は絶望的光景であるが…。桜花姫は余裕の様子だったのである。
「好都合だわ♪」
桜花姫は恐る恐る周囲を警戒するなり…。
「あんた達…桜餅に変化しなさい!」
今度は変化の妖術を発動する。すると周囲の分裂体がポンっと白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「楽勝♪楽勝♪」
(妖力を消耗しちゃったから…妖力を回復させないと♪)
妖力の消耗により桜花姫は周囲の桜餅をパクパクと頬張る。すると背後より…。
「桜花姫だわ!」
「桜花姫様!」
氷麗姫と三蔵郎が近寄る。
「氷麗姫と三蔵郎様…」
「えっ?」
氷麗姫は地面の小皿を直視するなり…。
「ひょっとして小皿は全部…」
桜花姫は笑顔で即答する。
「勿論♪魍魎姫の分身体よ♪」
「変化の妖術を使用したのね…」
「勿論♪」
(桜花姫らしいわね…)
氷麗姫と三蔵郎は苦笑いしたのである。
「妖力は回復出来たし♪本体の魍魎姫を征伐しましょうかね♪」
「桜花姫様が出陣されなければ被害が増加しますからね…即刻母体である魍魎姫の征伐を…」
直後…。
「何かしら?」
「桜花姫様?如何されましたか?」
三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「複数の妖力を感じるわ…」
「複数の…妖力ですと?」
「氷麗姫も感じるでしょう?」
氷麗姫も妖力を感じる。
「私も感じるわね…此奴は非常に強力だわ…」
「人間の私には何が何やら…」
人間の三蔵郎には妖力は感じられない。数秒後…。国境の自然林より紫色の着物姿の女性がフラフラした状態で三人に近寄る。
「ん?彼女は村里の女性でしょうか?」
「私達が出向かなくても大丈夫そうね…」
すると紫色の着物の女性はニコッと微笑むなり…。
「妖女♪人間♪食べたい♪」
「魍魎姫だわ…」
三人の目前に出現した女性は魍魎姫の本体だったのである。
「魍魎姫…此奴が本体ね…」
「彼女が魍魎姫ですか…外見のみなら普通の小町娘っぽいですが…」
氷麗姫は恐る恐る後退りする。
「外見だけなら普通の小町娘だけれども…妖力だけなら桜花姫に匹敵するわね…」
「えっ!?桜花姫様に匹敵する妖力ですと!?」
氷麗姫の発言に三蔵郎は驚愕したのである。
「前回よりも桁外れに強大化したみたいだわ…何人の妖女を捕食したのかしら?」
魍魎姫は今迄に氷麗姫の粉雪分身と山茶花姫…。彼女達以外にも三人の妖女を捕食したのである。多数の妖女を捕食した結果…。最上級妖女である桜花姫にも対抗出来る妖力を保持したのである。最早彼女に妖力で対抗出来るのは最上級妖女の桜花姫…。実質彼女だけである。
「此奴を仕留めるには一筋縄では無理そうね…」
魍魎姫はヘラヘラした表情で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪美味しそう♪」
彼女はニコッとした表情で桜花姫を直視したのである。
「あんた♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪」
すると魍魎姫は右手に妖力を凝縮させ高熱の火球を発射する。
「火球?」
桜花姫は妖力の防壁を形成…。魍魎姫の火球攻撃を無力化したのである。
「こんな程度で私を仕留めるなんて無理ね…」
今度は鎌鼬の妖術を発動…。突風の白刃が桜花姫を急襲する。
「鎌鼬の妖術かしら?」
再度妖力の防壁で無力化したのである。
「こんな程度の妖術では私を食い殺すなんて不可能だわ…」
(所詮妖力が強大なだけね…)
魍魎姫は妖力のみなら桜花姫と同等であるが…。自身の発動する妖術では桜花姫を仕留めるには力不足であり手応えを感じられない。
「食べたい♪妖女♪食べたい♪」
指摘された魍魎姫であるが…。彼女はヘラヘラした表情であり只管に食べたいと連呼し続ける。
「此奴…相当の痴人みたいね…」
桜花姫は呆れ果てる。
「あんたは桜餅に変化しなさい…」
変化の妖術を発動したのである。
「えっ?」
魍魎姫に変化の妖術を発動するのだが…。魍魎姫は桜餅に変化しない。
「あんたの妖力♪美味しい♪美味しい♪」
桜花姫の妖力を吸収すると魍魎姫は大喜びする。
「桜花姫の妖術が通用しないなんて…」
「ひょっとして彼女は桜花姫様の妖力を吸収されたのでしょうか?」
すると先程よりも魍魎姫の妖力が増幅される。
「此奴…私の妖力を吸収したみたいね…」
(面倒臭い相手だわ…)
桜花姫は背後の氷麗姫と三蔵郎に指示する。
「氷麗姫…三蔵郎様…あんた達は即刻逃げなさい…此奴は一筋縄では仕留められないわ…」
「桜花姫でも簡単には仕留められないのね…」
「承知しました…桜花姫様…」
直後である。
「えっ!?」
「桜花姫!?」
「なっ!?桜花姫様の両足に…」
何時の間にか桜花姫の両足に魍魎姫の触手が接触…。身動きを封殺したのである。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
魍魎姫は笑顔であり只管に食べたいと連呼する。
「ぐっ!」
(迂闊だったわ…)
触手の特性からか体内の妖力が魍魎姫の触手に吸収されたのである。
(妖力が吸収されるわ…)
触手により身動き出来なくなった桜花姫は全身を覆い包まれ…。魍魎姫の体内へと吸収されたのである。
「きゃっ!桜花姫が!」
「桜花姫様が食い殺されるなんて…」
氷麗姫と三蔵郎は絶望…。涙腺より涙が零れ落ちる。
「桜花姫様が…」
「最早私達では…」
(魍魎姫に対抗出来ないわ…)
魍魎姫は満足したのか笑顔で…。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
今迄よりも魍魎姫の妖力が桁外れに増幅されたのである。
(桜花姫の本体を吸収した影響かしら?魍魎姫の妖力が今迄以上に増幅されたわね…)
血紅色であった魍魎姫の瞳孔が半透明の瑠璃色に変化…。
「此奴…桜花姫の天道眼を…」
桜花姫の肉体を吸収した影響からか彼女の十八番である天道眼を開眼したのである。
「彼女…桜花姫様の天道眼を使用出来るなんて…」
魍魎姫は二人を凝視するなり…。ニコッと微笑む。
「今度はあんた達♪食べたい♪食べたい♪」
今現在の魍魎姫は最上級妖女をも上回る最強の怪物へと進化したのである。氷麗姫は恐る恐る…。
「三蔵郎…あんただけでも逃げなさい…」
「えっ…ですが氷麗姫様…」
三蔵郎は困惑したのである。
「正直人間のあんたでは此奴には対抗出来ないわ…」
三蔵郎は不本意であるが…。
「承知しました…」
三蔵郎は一目散に逃走したのである。
「二度も殺されるのね…私…」
氷麗姫は一息する。
(桜花姫?私は如何すれば…)
魍魎姫はヘラヘラした表情で氷麗姫に近寄る。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「二度も死にたくないけれども…」
氷麗姫は覚悟する。魍魎姫は両手より触手を生成…。氷麗姫を拘束したのである。
「あんた♪妖女♪食べたい♪」
氷麗姫は睥睨するなり…。
「私を食い殺したければ食い殺しなさいよ!」
全身が触手に覆い包まれる寸前である。
「ん?」
突如として魍魎姫は身動きしなくなる。
「えっ!?」
(彼女に一体何が!?)
先程はヘラヘラした表情だった魍魎姫であるが…。今現在の彼女は無表情であり氷麗姫は何が発生したのか理解出来ない。生成された触手が魍魎姫の体内へと戻ったのである。
「私を…食い殺さないの?」
すると直後…。魍魎姫の肉体がポンっと白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
「えっ!?桜餅!?」
(一体全体何が!?)
氷麗姫は恐る恐る桜餅に近寄る。
「如何して魍魎姫は桜餅に変化しちゃったのかしら?」
すると桜餅がポンっと白煙に覆い包まれ…。魍魎姫に食い殺された桜花姫が出現したのである。
「えっ!?桜花姫!?」
(如何して彼女が…)
突如として出現した桜花姫に氷麗姫は驚愕…。彼女が本物の桜花姫なのか恐る恐る問い掛ける。
「一体何が発生したの?あんたは本物の桜花姫かしら?桜花姫は魍魎姫に食い殺されたのよ…」
すると桜花姫は氷麗姫の問い掛けに即答する。
「私は一時的に魍魎姫に吸収されたけれどね♪魍魎姫の体内で彼女を食い殺したのよ♪」
「えっ…魍魎姫の体内で彼女を食い殺したの?」
氷麗姫は想像するだけで気味悪くなる。
「最上級妖女の私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」
魍魎姫は桜花姫の吸収により一時的に彼女の妖力を所持するが…。桜花姫の妖力は其処等の妖女とは桁外れであり彼女の妖力は扱い切れず真逆に内部から吸収されたのである。
(桜花姫…あんたは油虫かしら…)
氷麗姫は捕食されても死なない桜花姫を油虫であると感じる。
「桜花姫は不死身ね…如何すればあんたを殺せるのかしら?」
「多分寿命以外では無理でしょうね♪」
笑顔で即答する。
「寿命って…」
桜花姫の返答に氷麗姫は苦笑いしたのである。
「兎にも角にも♪各地で暴れ回る魍魎姫の分身体を一掃しないと♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。すると各地で徘徊する魍魎姫の分裂体を桜餅に変化させたのである。
「彼女達を浄化したわ♪一安心ね♪」
同時刻…。三蔵郎は逃走中に魍魎姫の分裂体に包囲されるも彼女達は突如として桜餅に変化したのである。
「桜餅!?」
(如何して彼女達は桜餅に変化したのでしょうか?)
突然の超常現象に三蔵郎は混乱するも…。
「北国の国境に戻りましょうかね…」
北国の国境へと直行したのである。
「氷麗姫様!」
「あんたは…三蔵郎…戻ったのね…」
すると桜花姫を直視するなり…。
「なっ!?桜花姫様!?」
驚愕したのである。
「三蔵郎様♪無事だったのね♪」
三蔵郎は桜花姫との再会に落涙したのである。
「桜花姫様!無事で良かったです…先程は桜花姫様が魍魎姫に食い殺されたとばかり…」
「心配させちゃったわね♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪したのである。
「桜花姫様が無事なのが何よりですよ♪ですが桜花姫様は肉体を魍魎姫に吸収されたのに如何して無事に戻れたのですか?」
問い掛けられた桜花姫は先程の経緯を説明する。
「体内から彼女の肉体を吸収されたのですか…」
三蔵郎は苦笑いしたのである。
「兎にも角にも…事件は無事に解決出来たし♪解散しましょう♪」
「折角ですし…私の寺院で茶会しませんか?桜餅も用意しますよ♪」
「桜餅ですって♪」
桜餅の一言に桜花姫は反応する。
「桜花姫…」
氷麗姫は苦笑いしたのである。
「早速寺院に移動しましょう♪氷麗姫は如何するかしら?」
「今回は私も参加するわ…」
一同は東国へと移動する直前…。背後より妖力を感じる。
「妖力だわ…」
「妖力ですと?」
一同の背後には山猫妖女の小猫姫がプルプルした様子で近寄る。
「はぁ…はぁ…」
「えっ…あんたは桜花姫の妹分の…小猫姫だっけ?」
「小猫姫?如何しちゃったのよ?」
小猫姫は小声で…。
「桜花姫姉ちゃん…」
すると彼女は涙腺から涙が零れ落ちる。
「えっ!?小猫姫!?大丈夫!?」
「一体…如何されたのでしょうか?」
普段は人一倍人懐っこく笑顔の絶えない小猫姫であるが…。落涙する小猫姫に一同は何事かと心配したのである。
「大丈夫?小猫姫?一体如何したのよ
問い掛けられた小猫姫は桜花姫を直視するなり…。
「蛇骨鬼婆ちゃんが…蛇骨鬼婆ちゃんが…」
「蛇骨鬼婆ちゃんが如何したのよ?」
直後である。
「死にそうなの…」
「えっ…」
小猫姫の発言に桜花姫は勿論…。三蔵郎も氷麗姫も沈黙する。
「蛇骨鬼婆ちゃんが…」
小猫姫は一部始終口述したのである。蛇骨鬼は三日前以前から体調が悪化…。小猫姫には秘密にするも三日前に自宅の居間で昏倒したのである。本人は平気であると言明するのだが…。本日の早朝より吐血したのである。
「病院には?」
「蛇骨鬼婆ちゃんは受診を拒否したの…」
「承知したわ…」
すると三蔵郎は恐る恐る…。
「桜花姫様…如何されますか?」
「三蔵郎様…御免なさいね…」
桜花姫は口寄せの妖術を発動すると自分自身を蛇骨鬼の家屋敷へと瞬間移動したのである。
「桜花姫様!?」
桜花姫は口寄せの妖術にて蛇骨鬼の家屋敷へと一瞬で瞬間移動する。蛇骨鬼はグッタリした様子であり居間で寝込む。
「誰かと思いきや…桜花姫ちゃんかね…」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
桜花姫は恐る恐る寝込む蛇骨鬼に近寄る。
「大丈夫?」
問い掛けられた蛇骨鬼は瞑目するなり…。
「私の寿命は…恐らく数日だね…」
普段は誰よりも元気であり冗談が大好きな蛇骨鬼であるが今回ばかりは本当であると感じる。
(蛇骨鬼婆ちゃん…)
桜花姫は涙腺より涙か零れ落ちる。
「大丈夫かい?桜花姫ちゃんらしくないね…」
「蛇骨鬼婆ちゃん!」
桜花姫は力一杯密着したのである。
(桜花姫ちゃん…)
蛇骨鬼はボソッと発言する。
「あんたと小猫姫は私にとって…自慢の孫娘だよ…」
「私が…蛇骨鬼婆ちゃんの孫娘?」
孫娘の一言に桜花姫は内心嬉しくなる。
「私は老衰で旅立つかも知れないけれども…桜花姫ちゃんは桜花姫ちゃんらしく自由に生きな♪」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
すると蛇骨鬼はスヤスヤと熟睡したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん…眠っちゃったな…」
メンテ
桜花姫 ( No.39 )
日時: 2021/08/17 09:52
名前: 月影桜花姫

第五話

地獄

魍魎姫と無数の分裂体との戦闘から二週間が経過…。桜花姫は自宅の居間でゴロゴロと寝転ぶ。
(蛇骨鬼婆ちゃん…大丈夫かな?)
蛇骨鬼の様子が気になったのである。蛇骨鬼は小猫姫により介抱されるも老衰からか体調は日に日に悪化…。虫の息だったのである。
(蛇骨鬼婆ちゃん…)
日に日に衰弱化し続ける蛇骨鬼が気になり食欲も減退…。極度の不安と憂鬱からか大好きな桜餅も食べたくなくなる。
「はぁ…」
気分転換に別の場所に移動したくなる。桜花姫は西国の海辺に移動したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん…大丈夫かな?」
遠方の水平線を眺望するのだが如何しても蛇骨鬼の様子が気になる。すると直後…。
「えっ?」
突如として何者かの気配を感じる。
(気配だわ…人間では無さそうね…)
恐る恐る背後を直視する。
「あんた…一体何者?」
桜花姫の背後には藍色の着物姿の女性が佇立…。体格は小柄であり左手には木刀を所持する。
(花魁かしら?外見だけだったら普通の人間っぽいけれど…)
両目は半透明の群青色であり神秘性を感じさせる。
(妖女でも無さそうだわ…)
彼女の雰囲気は非常に神秘的であり妖女とも別物である。すると女性は無表情で桜花姫を直視するなり…。
「貴様…最上級妖女の月影桜花姫だな…」
「えっ!?如何して見ず知らずのあんたが私の名前を…」
彼女とは初対面であるが桜花姫の名前を熟知する花魁らしき女性に驚愕したのである。
「あんたは一体何者なの!?」
「私は冥王鬼…神族の一員だ…」
問い掛けられた女性は自身を神族の一員…。冥王鬼であると名乗る。
「えっ!?あんたは神族の一員ですって!?」
神族の一言に桜花姫は驚愕する。
(蛇骨鬼婆ちゃん以外の神族は全滅したって…)
「不思議そうだな…妖女の小娘よ…私は正真正銘神族だぞ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん以外の神族は…大昔に全員殺されたって…」
「貴様の反応…彼奴と一緒だな…」
「彼奴って?誰なのよ?」
数秒後…。
「月影夜叉丸と名乗る…人間の武士だよ…」
「えっ…月影夜叉丸って…」
(父様の名前!?)
父親の夜叉丸の名前を熟知する冥王鬼に再度驚愕したのである。
「如何して見ず知らずのあんたが私の父様の名前を?」
桜花姫は恐る恐る冥王鬼に問い掛ける。
「貴様の父親…月影夜叉丸を殺害したのは誰であろう私だからな…」
「えっ…あんたが…私の父様を?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
「私を憎悪するか?月影桜花姫よ…」
「別に…」
「はっ?」
桜花姫の反応に冥王鬼は不思議に感じる。
「貴様…身内が殺されて憎悪しないとは…」
「今更父様を殺したって発言されても…私は生前の父様を知らないし…」
実際問題夜叉丸が殺害されたのは桜花姫の出産日前日である。
「貴様は相当の奇人だな…」
「奇人だから何よ♪」
奇人と発言されても桜花姫は平気だったのかニコッと微笑む。
「あんたは神族みたいだけど…伝承では神族は全滅したって…」
今現在では神族の存在は伝説であり彼等に対する認識も架空の神話程度の認識だったのである。
「今現在では間違った認識が各地に出回ったのだな…」
「如何して神族の一員であるあんたが今更こんな場所に?」
桜花姫の質問に冥王鬼は即答する。
「貴様の天道眼を…入手したいからな…」
「えっ?天道眼?」
桜花姫は理解出来なかったのか混乱したのである。
「貴様の天道眼を入手出来れば…私の主目的である人間達を殲滅出来…神世界の再興が実現するからな…」
太古の大昔に神族は人間達との大戦に敗北…。冥王鬼は大勢の同胞達が殺され人間達を憎悪したのである。
「人間達に対する復讐であり…神世界を再興させる絶好の機会なのだ…」
「人間達の殲滅に…私の天道眼が必要なの?」
「勿論だ…天道眼は想像を実現させる効力が発揮出来るからな…」
「えっ!?」
(想像を実現ですって…)
天道眼は万能の瞳術であり術者の想像を現実世界で実現させる効力を発揮出来る。今迄桜花姫が多種多様の妖術を使用出来たのは彼女の想像が実現した結果である。
「貴様の天道眼を頂戴する…」
すると桜花姫はギロッと冥王鬼を睥睨する。
「天道眼を頂戴ですって?」
「私を妖術で仕留めるか?」
冥王鬼の発言に苛立ったのか天道眼を発動したのである。
「当然でしょう…」
「天道眼か…」
血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。
「あんたは桜餅に変化しなさい!」
冥王鬼に変化の妖術を発動したのである。
「ん?」
変化の妖術を発動するのだが…。冥王鬼は桜餅に変化しない。
「えっ!?如何して冥王鬼は桜餅に変化しないの!?」
桜花姫は動揺したのである。
「貴様程度の妖術なんて私には通用しない…何故なら…」
桜花姫に木刀を誇示する。
「木刀?」
「私の木刀は木刀でも…其処等の木刀とは格別だぞ!此奴は霊魂巨神木の小枝から彫刻された神器である…」
「霊魂巨神木ですって!?」
桜花姫は驚愕したのである。冥王鬼の所持する木刀は霊魂巨神木の小枝から誕生した神器であり妖術を無力化…。妖力を吸収出来る。
「私の神聖なる木刀には貴様程度の妖術は通用しない…今度は私が貴様に反撃するぞ…」
冥王鬼は神速の身動きにより桜花姫の目前に接近…。
「えっ?」
彼女の腹部を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
冥王鬼の所持する木刀は鋼鉄の刀剣に匹敵する強度…。相手を斬殺するのも可能である。腹部を斬撃された桜花姫は腹部から出血…。
「ぐっ…」
(迂闊だったわ…)
バタッと地面に横たわる。
「何が最上級妖女だ…所詮貴様は妖術を無力化すれば其処等のか弱き小娘同然なのだ…」
冥王鬼は桜花姫の右手に接触したのである。
「今度こそ貴様の天道眼を頂戴するぞ…」
直後…。桜花姫は身動き出来なくなる。
「えっ…」
(一体何が!?身動き出来ないわ!)
数秒後…。
「はっ!?」
身動き出来たのである。すると冥王鬼は微笑した表情で…。
「貴様から天道眼を頂戴した…」
冥王鬼の発言に桜花姫は愕然とする。
「えっ!?私の天道眼を!?」
「今現在の貴様は天道眼を使用出来ない…」
天道眼を奪取された桜花姫は多種多様の妖術を使用出来ず…。最早戦闘は不可能である。
「天道眼を…」
天道眼の発動を試行するが天道眼は発動されない。
(えっ…私…)
冥王鬼は険悪化した表情で…。
「貴様の肉体から数百体?数千体もの薄汚い亡者達の気配を感じる…貴様はか弱き小町娘とは裏腹に薄汚い亡者の集合体か…」
「なっ!?私を亡者の集合体ですって…」
桜花姫はギロッと冥王鬼を睥睨したのである。
「貴様みたいな薄汚い亡者の集合体なんかに神聖なる天道眼は宝の持ち腐れだ…」
本来なら冥王鬼に変化の妖術を発動したいが天道眼を使用出来ない状態ではあらゆる妖術を使用出来ない。
「天道眼とは本来は神族の眼光なのだ…」
「神族の眼光?」
神族の神世界では天道眼は別名神族の眼光と呼称される。
「神族の眼光は純血の神族である私にこそ相応しい…」
「如何して私に天道眼が…」
桜花姫の疑問に冥王鬼は即答する。
「小娘の分際である貴様が神聖なる天道眼を開眼出来たのは霊魂巨神木が関係する…」
霊魂巨神木は本来神族の鮮血を吸収した樹木である。千年前の戦乱時代に西国の桃子姫が霊魂巨神木の果実を採食…。神族の眼球である天道眼を開眼したのである。
「皮肉にも貴様は桃子姫と名乗る妖女の再来だ…であるからこそ神族の眼光を使用出来ただけだ…」
桜花姫は恐る恐る…。
「金輪際…私は妖術を使用出来ないの?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「当然だ…今迄桜花姫があらゆる妖術を使用出来たのは神聖なる天道眼の効力なのだよ!神族の眼光を使用出来なくなった貴様は金輪際何一つとして妖術を使用出来ない…本日より貴様は最上級妖女から下級妖女へと降格したのだ…」
「此奴…」
桜花姫は腹立たしくなる。直後…。斬撃された腹部の傷口が自然に治癒されたのである。
(私なら大丈夫…妖術が使用出来なくても…)
彼女は幼少期に天道眼を開眼する以前から妖力のみは通常の妖女の数十倍を所持…。妖力のみなら莫大だったのである。桜花姫は体内の妖力により自力で傷口を再生させる。
「妖術が使用出来ずとも…肉体が本能的に外傷を自然治癒するとは…」
(悪運だけは人一倍だな…)
すると半透明の群青色だった冥王鬼の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。
「えっ!?天道眼だわ…」
冥王鬼は天道眼を発動したのである。
「神族の眼光だ…貴様は死後の世界…地獄に直行するのが相応しい…」
直後…。桜花姫は冥王鬼の発動した口寄せの妖術によって死後の世界である地獄へと連行されたのである。
(神族の眼光を無くした小娘は二度と俗界へは戻れなくなる…地獄で無限の苦痛を痛感せよ…)
冥王鬼の口寄せの妖術により強制的に地獄へと連行された桜花姫は気絶した状態で地面に横たわる。連行されてより数分後…。
(えっ?何かしら…)
目覚めた直後…。桜花姫は周辺の光景を直視するとハッとしたのである。
「えっ!?一体何が!?」
周辺を眺望すると地上全体が灼熱の火山地帯であり森林やら海水は何一つ確認出来ない。
「ひょっとして本物の地獄…」
(私…死んじゃったのかしら?)
生死は不明瞭であるが…。天道眼を使用出来ず極度の恐怖心により身震いする。
(私…今迄…)
今迄は天道眼の乱用により天下無敵の気分であったが…。天道眼を無くした今現在では自分自身の無力さに絶望する。
(一体如何すれば…)
すると周囲より…。
「えっ!?」
周囲をキョロキョロさせると自身の周囲には数体の食人餓鬼が出現したのである。
「彼等は食人餓鬼!?」
天道眼を発動出来れば大喜びであるが…。何一つとして妖術を使用出来ない無力の状態では食人餓鬼すらも脅威に感じる。
「止むを得ないわね…」
(逃げないと悪霊に食い殺されちゃうわ…)
桜花姫は落涙するなり…。一目散に逃走したのである。
「岩陰だわ…」
四町の距離より岩陰を発見した桜花姫は岩陰にて潜伏する。
「はぁ…はぁ…」
(今後は如何しましょう…)
一休みした桜花姫だが今後は如何するべきか苦悩したのである。一息した直後…。周囲の地中より気配を感じる。
(えっ…気配だわ…)
「霊力?」
彼女の感じる気配とは霊力であり食人餓鬼よりも強大である。数秒後…。地面より無数の食人餓鬼が一体化した百鬼食人餓鬼が五体も出現したのである。
「百鬼食人餓鬼!?」
百鬼食人餓鬼の出現に桜花姫は恐怖を感じる。実質天道眼を所持しない状態では通常の食人餓鬼すら仕留められず…。親玉である百鬼食人餓鬼を仕留めるのは確実に不可能である。
(天道眼が無くなった状態では百鬼食人餓鬼を仕留めるのは不可能だわ…)
「如何しましょう…」
桜花姫はビクビクした様子で後退りする。最期を覚悟した直後…。突如として右腕がモゴモゴッと蠢動したのである。
「えっ…私の右腕が…」
モゴモゴッと蠢動する右腕に気味悪くなる。数秒後である。桜花姫の右腕から無数の真蛸らしき触手が出現…。五体の百鬼食人餓鬼を拘束したのである。
「げっ!触手!?」
(ひょっとして魍魎姫の…)
右腕から出現した触手は魍魎姫の肉体の一部であり桜花姫は一週間前に彼女との戦闘で肉体を同化…。皮肉にも魍魎姫の肉体を吸収した影響で本能的に彼女の特殊能力が発動したのである。桜花姫は不本意であるが触手で拘束した五体の百鬼食人餓鬼の肉体を覆い包み…。自身の体内に吸収したのである。
「はぁ…魍魎姫みたいで気味悪いわ…」
自分の意思で悪霊を吸収するがドン引きする。
(天道眼を使用出来ないのであれば止むを得ないわね…)
覚悟した桜花姫は再度行動を開始したのである。行動を再開してより五分後…。今度は全身に鎧兜を装備した巨体の人骨が出現したのである。
(甲冑の人骨…)
「此奴は戦死者達の悪霊…骸骨荒武者だったわね…」
骸骨荒武者は戦乱時代に戦死した戦死者達の無念の集合体であり左手には金砕棒を所持する。
「相手が誰であろうと…」
体内から触手を生成させる直前…。骸骨荒武者は背後から何者かの攻撃によりバラバラに粉砕される。
「えっ!?一体何が!?」
桜花姫の目前には右手に雷光の刀剣を所持した小柄の武士が佇立する。鬼神を連想される甲冑を装備…。桜花姫を凝視したのである。
「こんな場所に貴様みたいなか弱き小娘が落下するとは…不運だな…」
「はっ?何が不運なのよ?」
「貴様…か弱き外見とは裏腹に相当の大悪人みたいだな…」
「なっ!?」
武士の大悪人の一言に反応したのか桜花姫はピリピリする。
(此奴…)
「地上界の女神様である私を大悪人ですって!?」
桜花姫は睥睨した表情で武士に怒号したのである。
「あんた…私に殺されたいのかしら?」
武士は無表情で返答する。
「俺は二度も殺された極悪非道の荒武者だぜ…」
「二度も殺されたって?」
(此奴…悪霊なのは確実だけど…其処等の悪霊とは随分異質的だわ…人間っぽいわね…)
桜花姫は恐る恐る亡者の武士に問い掛ける。
「あんたは一体何者なの?名前は?」
すると武士は即座に名前を名乗る。
「俺は…北国最強の鬼神…鬼殺丸だ…」
「えっ!?鬼殺丸ですって!?」
鬼殺丸の名前に桜花姫は驚愕したのである。
(鬼殺丸って…)
「戦乱時代に活躍した北国の武士だったわよね?」
鬼殺丸とは戦乱時代に活躍した武士の一人…。北国出身者である。今現在では史上最悪の大悪党として大勢の大衆から嫌悪される。
「勿論だ…」
「歴史学では…生前のあんたは極悪非道の大悪党だって…」
「俺が大悪党か…」
大衆からは極悪非道の大悪党として扱われる鬼殺丸であるが…。彼自身は特段気にならなかったのである。
「俺は兎にも角にも誰かを打っ殺したいからな…俗界の愚民達が俺を悪人だの極悪非道だの扱おうが構わん…悪党で上等だ…」
(此奴は相当の異端者だわ…地獄でこんな大悪党と遭遇するなんて私は不運なのかも知れないわね…)
正直鬼殺丸との遭遇に面倒臭く感じる。すると鬼殺丸は桜花姫にボソッと発言する。
「貴様…二度目に俺を打っ殺した天女の小娘に瓜二つだな…」
桜花姫は天女の一言に反応したのである。
(えっ?)
「天女の小娘?誰なのかしら…」
鬼殺丸は険悪化した表情で…。
「桃子姫って…名前の天女の小娘だったか?貴様は雰囲気だけなら天女の彼奴にそっくりだ…」
(桃子姫って…元祖妖女の…)
桃子姫の名前を傾聴するなり桜花姫は内心大喜びする。
(最初は吃驚しちゃったけど…私の前世が元祖妖女なのは正直意外だったわ♪)
「当然として貴様と桃子姫では性格は似ても似つかないか…」
鬼殺丸の発言に桜花姫はピクッと反応したのである。
「えっ?」
「貴様は好戦的で強欲そうな雰囲気…正真正銘のじゃじゃ馬だな…」
「なっ!?」
(此奴…腹立たしいわね…)
鬼殺丸の失言にピリピリする。
「地上界の女神様である私にじゃじゃ馬ですって…」
変化の妖術を使用出来るのであれば即刻駆使したいが…。
(妖術さえ使用出来れば…こんな悪霊なんて簡単に…)
彼女にとって最大の十八番である天道眼が使用出来ないので変化の妖術も使用出来ず桜花姫は余計に苛立ったのである。
「貴様みたいなじゃじゃ馬の小娘が地上界の女神様を自称するとは…片腹痛いぜ…」
自身を地上界の女神様と自称する桜花姫を揶揄する。
「ぐっ…」
(此奴…今度食い殺すから覚悟しなさいよ…)
苛立った桜花姫であるが…。一息したのである。
「鬼殺丸?」
桜花姫は不安そうな表情で恐る恐る問い掛ける。
「私って…死んじゃったの?」
桜花姫の問い掛けに鬼殺丸は即答する。
「貴様の肉体は…生者の肉体だ…」
「えっ!?生者の肉体ですって…」
「今現在の貴様は仮死状態だ…」
(無事なのね♪)
桜花姫はホッとしたのである。
「であれば私は俗界に戻れるのね♪」
希望が芽生える。
「即刻地獄から脱出しないと…」
「俗界に戻りたければ…地獄の石門に移動するのだな…」
「地獄の石門ですって?」
地獄の石門とは俗界と黄泉の国との境目であり死者は通過出来ないが仮死状態…。生者であれば通過出来る。
「地獄の石門に移動すれば私は俗界に戻れるのね♪早速地獄の石門に移動しましょう♪」
桜花姫はルンルンの気分であるが…。
「地獄の石門を突破するには…朧戦車って門番の悪霊を仕留めなければ地獄の石門を通過出来ないぞ…」
「えっ…朧戦車って…」
朧戦車とは悪霊の一体であり俗界では最上級の悪霊として認識される。其処等の悪霊とは別格であり天道眼を所持しない状態では確実に苦戦…。場合によっては敗死する可能性も否定出来ない。
(朧戦車って…悪霊は悪霊でも最強の悪霊だったわよね…妖術を駆使出来ない私に朧戦車を攻略出来るかしら?)
非常に不安がる。恐る恐る鬼殺丸を直視するなり…。
(正直此奴も今一信用出来ないのよね…)
すると鬼殺丸はギロッと睥睨する。
「貴様…俺を信用出来ないか?」
「げっ!」
鬼殺丸が問い掛けると桜花姫はビクッと反応したのである。
「図星か…」
桜花姫はボソッと一言…。
「あんたは極悪非道の悪人だし…正直…」
「別に俺を信用せずとも構わんが…門番の朧戦車を仕留めなければ貴様は二度と俗界へは戻れなくなるぞ…」
「仕方ないわね…」
桜花姫は地獄の石門を目標に行動を開始する。移動してより三十分後…。周囲より無数の殺気を察知したのである。
「殺気だわ…」
(ひょっとして霊力…)
桜花姫はソワソワした様子で周囲を警戒する。数秒間が経過すると周囲の地面より数十体…。数百体もの食人餓鬼が出現したのである。
(食人餓鬼かしら?)
無数の食人餓鬼が桜花姫に殺到する。
「毎回…毎回鬱陶しい奴等ね…」
(食人餓鬼程度なら…)
桜花姫は両腕から無数の触手を生成…。殺到する無数の食人餓鬼を拘束したのである。
「頂戴するわね♪」
拘束した食人餓鬼の全身を覆い包み…。自身の体内へと吸収したのである。
「案外魍魎姫の特殊能力も役立つわね♪」
便利であると感じる。数分後…。石造りの四十尺サイズの城門らしき巨大物体を発見する。
(石造りの城門?)
「ひょっとして地獄の石門かしら…」
発見した城門らしき物体は地獄の石門である。
「此奴を通過出来れば私は地獄から脱出出来るのね♪」
(案外楽勝だわ…)
楽勝であると感じるも…。背後から強大なる霊力を感じる。
「えっ…霊力?」
恐る恐る背後を警戒するなり…。
「此奴…ひょっとして…」
桜花姫の背後には鬼首と牛車が一体化した悪霊が出現…。ギロッとした表情で桜花姫を睥睨する。
「此奴は朧戦車だわ…」
朧戦車とは戦乱時代に斬首された武将達の無念の集合体であり最上級の悪霊である。
(如何やら朧戦車が出現するのは本当だったのね…)
以前出現した朧戦車は口寄せの妖術によって異世界に存在する巨大兵器を使用…。辛勝するも今回は天道眼が使用出来ず自力で朧戦車を仕留めるのは確実に不可能である。すると朧戦車の鬼首が人語で発語し始める。
「コムスメ…キサマハセイジャカ?イキテイルニンゲンガジゴクニオチルトハ…キサマハカヨワイコムスメノブンザイデアリナガラ…マレニミルソウトウノワルダナ…」
「此奴…」
朧戦車の発言に桜花姫はプルプルする。
「マアイイ…キサマハコノママイキテカエレルトハオモウナヨ!ココデキサマヲブッコロシテヤルゼ!」
朧戦車は鬼首の口部を開口するなり…。
「クライヤガレ!」
口先から霊力で形作った高熱の火球を発射したのである。
「一か八か!」
高熱の火球が直撃する直前…。桜花姫は両手から触手を生成させ高熱の火球を吸収したのである。
(魍魎姫の触手って…霊力も吸収出来るのね♪)
魍魎姫の吸収力は妖力と神通力は勿論…。霊力さえも無力化出来る。
(天道眼が無くても突破出来るかも知れないわ!)
すると朧戦車は再度口先を開口させる。
「オレノコウゲキヲムリョクカシタカ…」
口先より鋼鉄の大砲が出現したのである。
「えっ!?大砲!?」
「コイツハオクノテダ…タイホウデキサマヲフットバシテヤルゼ!カクゴシヤガレ!」
数秒後…。大砲から鋼鉄の砲弾が発射される。
(今度こそ一か八か…)
触手で肉塊の防壁を生成するのだが…。
「きゃっ!」
肉塊の防壁は破壊され桜花姫は吹っ飛ばされたのである。
「ぐっ…」
桜花姫は地面に横たわる。彼女は恐る恐る自身の両腕を直視…。
「えっ…」
桜花姫の両腕は朧戦車の砲撃により吹っ飛ばされ地面には大量の鮮血が流れ出る。
(迂闊だったわ…両腕が…)
先程の攻撃は実弾による攻撃であり魍魎姫の吸収能力も発揮されなかったのである。
「コンドコソトドメダ!コノママキサマヲヒキコロシテヤル!」
朧戦車は猛スピードで横たわった状態の桜花姫に急接近…。桜花姫は逃げたいが両腕が切断され逃げたくても逃げられない。
(俗界に戻れないわ…)
覚悟した直後…。
「ナンダト!?」
突如として朧戦車が爆散したのである。
「えっ!?」
突然の出来事に桜花姫はハッとする。
「一体何が…」
すると桜花姫の背後より…。
「こんな雑魚を相手に瀕死とは…」
「あんたは…鬼殺丸!?」
桜花姫の背後に出現したのは先程遭遇した鬼殺丸であり左手には携帯式の榴弾砲を装備する。
「如何して生者である私を…」
鬼殺丸はギロッと桜花姫を睥睨…。
「こんな場所で貴様に死なれちまうと面倒だからな…恐らく貴様の死後は地獄で確定だろうし…」
彼にとって地獄とは最高の楽園であり桜花姫が地獄に滞留するのは非常に不都合だったのである。
「私…今度こそ俗界に戻れるのね♪」
桜花姫は大喜びする。
「感謝するわね♪鬼殺丸♪私…あんたを誤解しちゃったみたい♪」
「貴様は鬱陶しい小娘だ…」
すると桜花姫はニコッとした表情で…。
「天道眼を無事奪還したら…あんたを生者として復活させるわね♪」
「残念だが俺は二度と俗界へは戻りたくないな…人間の肉体は脆弱で不自由だ…」
鬼殺丸にとっては今現在の悪霊の肉体で大満足であり人間として復活したくなかったのである。
「何よりも地獄は悪霊の魔窟だ…地獄であれば思う存分悪霊を仕留められるからな…」
すると桜花姫はニヤッと微笑む。
(私も旅立つなら天国なんかよりも地獄に旅立ちたいわね♪)
直後…。地獄の石門が開放されたのである。
「如何やら時間だ…」
「石門が開放されたわ…」
「生者である貴様に反応したみたいだ…」
桜花姫は笑顔で…。
「達者でね♪鬼殺丸♪」
すると鬼殺丸は問い掛ける。
「貴様…名前は?」
「えっ…」
桜花姫は一瞬表情が赤面するも…。笑顔で名前を名乗る。
「私は桜花姫♪最上級妖女の月影桜花姫よ♪」
「月影桜花姫か…」
鬼殺丸はボソッと発言する。
「桜花姫が戦乱時代の人間で俺と遭遇しちまったら…俺の人生は大分変化したのかも知れないな…」
「勿論私も一緒よ♪」
(私と桃子姫…誕生した時代を間違えちゃったみたいね…)
桜花姫は内心戦乱時代に羨望したのである。
「兎にも角にも貴様の居場所は俗界だろ?即刻俗界に戻りやがれ…正直目障りだ…」
「勿論よ♪」
桜花姫は恐る恐る地獄の石門を通過…。背後を直視すると地獄の石門が自動的に閉門される。
(地獄へは戻れなくなったのね…)
僅少であるが…。内心寂然に感じる。
「俗界に戻らないと三蔵郎様が心配するわよね…」
周辺を直視すると視界全体が暗闇の空間であり非常に不吉である。
(私…俗界に戻れるのかしら?)
不安に感じる。すると数秒後…。
「えっ…」
突如として強烈なる眠気を感じる。
(眠気だわ…)
突然の眠気により桜花姫はパタッと地面に横たわり…。極度の疲労からか衰弱化したのである。
メンテ
桜花姫 ( No.40 )
日時: 2021/08/17 09:53
名前: 月影桜花姫

第六話

精霊

一時的に死後の世界である地獄に幽閉された桜花姫であるが…。地獄の住人である鬼殺丸の協力により俗界と地獄の境目である地獄の石門を無事通過出来たのである。境目の空間にて衰弱化した桜花姫は自身の自宅にて目覚める。
(えっ…私は…)
周囲を直視するなり…。
「私の…家屋敷だわ…」
極度の安心感によりホッとしたのである。
「私…地獄から無事脱出出来たのね♪」
無事に地獄から戻れたと実感出来…。桜花姫は大喜びする。
(早速今回の出来事を誰かに喋っちゃおうかな♪)
すると直後である。何者かがトントンッと自宅の板戸をノックする。
「えっ?誰かしら?」
玄関へと移動すると玄関口には粉雪妖女の氷麗姫が桜花姫の自宅に訪問したのである。
「氷麗姫?」
氷麗姫は非常に真剣そうな表情で桜花姫を凝視する。
「桜花姫…」
「何よ?」
氷麗姫は恐る恐る…。
「あんたの仲間…蛇骨鬼だったかしら?」
「えっ…蛇骨鬼婆ちゃんが何よ…」
蛇骨鬼の名前に桜花姫はビクビクする。
「蛇骨鬼…危篤状態らしいの…」
「えっ…危篤ですって…」
蛇骨鬼は危篤状態であり今夜が山場だったのである。
「私と一緒に南国に直行しましょう…」
「承知したわ…」
外出すると時間帯は真夜中であり星空が眺望出来る。すると氷麗姫が桜花姫の方向を直視するなり…。
「あんた三日間も留守だったから心配したわよ…」
「えっ?三日間?」
桜花姫は三日間も地獄に滞在したのである。
(私…三日間も地獄に…)
時間の感覚が麻痺する。移動を開始してより一時間後…。桜花姫と氷麗姫は南国の天女の村里に到達する。
「南国だわ…」
「蛇骨鬼婆ちゃんの家屋敷は…」
数分後…。蛇骨鬼の自宅に到着したのである。
「桜花姫様…」
蛇骨鬼の自宅には三蔵郎と小猫姫…。居間の中心には衰弱化した蛇骨鬼が確認出来る。
「桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は落涙した様子で桜花姫を直視する。
「小猫姫…」
桜花姫は恐る恐る小猫姫に近寄る。
「御免ね…三日間も留守しちゃって…」
小猫姫に謝罪したのである。
「大丈夫…大丈夫よ…気にしないで桜花姫姉ちゃん…」
(小猫姫…)
桜花姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「蛇骨鬼婆ちゃんは…」
衰弱化した蛇骨鬼は最早両目を瞑目させ素肌も土気色だったのである。
「老衰かしら…」
桜花姫は恐る恐る蛇骨鬼の皮膚に接触する。
(蛇骨鬼婆ちゃん…)
桜花姫が接触した直後…。蛇骨鬼はスーッと全身が脱力したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
蛇骨鬼は老衰により息絶える。
「老衰による自然死ですね…」
三蔵郎は両手で合掌する。沈黙した氷麗姫は内心…。
(こんな発言は桜花姫と小猫姫には出来ないけれど…死に方としては理想の死に方よね…)
不謹慎であるが蛇骨鬼の死に方は理想の死に方であると感じる。すると直後である。
「えっ?」
自然死した蛇骨鬼の肉体がピカッと発光したかと思いきや…。白色の大蛇に変化したのである。
「なっ!?」
「大蛇だわ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん?」
数秒後…。白色の大蛇は粒子状の発光体に変化すると消滅したのである。
「如何やら…蛇骨鬼様は天空世界に旅立たれたのでしょうね…」
三蔵郎が発言すると氷麗姫も発言する。
「最期に白蛇に変化するなんて…摩訶不思議ね…」
小猫姫は沈黙した様子であり何も喋らない。一時間は沈黙の空気であり誰もが気まずいと感じる。沈黙の一時間から五分後…。一同は解散したのである。帰宅中…。桜花姫は真夜中の夜空を眺望する。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
(本当に死んじゃったのね…)
再度涙腺から涙が零れ落ちる。三十分後…。無事に自宅へと戻ったのである。桜花姫は自宅の居間にて寝転ぶ。精神的にも肉体的にも疲れ果てたのか睡眠したのである。熟睡した桜花姫だが…。摩訶不思議の気配により目覚める。
(えっ…何かしら?)
桜花姫は恐る恐る外出したのである。すると周辺には虹色の発光体が無数に浮遊する。
「発光体だわ…」
(一体何かしら?)
今度は天霊山から摩訶不思議の神通力を察知したのである。
「ひょっとして神通力!?」
(天霊山ね…)
気になった桜花姫は即座に天霊山へと直行する。天霊山の天辺を直視すると天辺全体が虹色の発光により光り輝いたのである。移動してより数分後…。桜花姫は天霊山の頂上へと到達する。
「えっ!?」
天霊山の頂上には百尺サイズの巨大広葉樹が存在…。木枝には虹色の単葉やら果実が確認出来る。桜花姫は一息するなり…。
「ひょっとして…霊魂巨神木?」
天霊山の頂上に聳え立つ樹木とは世界樹の霊魂巨神木だったのである。
(如何して霊魂巨神木がこんな場所に…)
霊魂巨神木は突発的に出現する摩訶不思議の樹木であるが…。突然の出現に意味深さを感じる。すると突如として霊魂巨神木の樹木全体がピカッと虹色に発光したのである。
「きゃっ!」
突然の樹木の発光によって桜花姫は両目を力一杯瞑目させる。数秒後…。桜花姫は両目を見開くと彼女の目前には小柄の巫女装束の女性が佇立する。彼女は黒髪の長髪であり背丈は桜花姫よりも小柄である。女性の両目は半透明の瑠璃色の瞳孔であり桜花姫は驚愕する。
「あんた…一体何者なの?」
(彼女の両目…瑠璃色だわ…ひょっとして天道眼かしら…)
恐る恐る問い掛ける桜花姫に女性は名前を名乗る。
「私は霊魂巨神木の精霊…姿形は元祖妖女…桃子姫であるが…」
「霊魂巨神木の精霊ですって?」
雰囲気こそ以前とは若干変化したが…。霊魂巨神木の精霊との再会は半年前以来である。
「あんたの容姿…元祖妖女の桃子姫だったのね…」
「桃子姫の死後…彼女の魂魄は樹木である私と同化したからな…」
桜花姫は再度霊魂巨神木の精霊に問い掛ける。
「如何してあんたは天霊山の頂上に出現したの?」
すると霊魂巨神木の精霊は一息するなり…。
「桜花姫…冥王鬼と名乗る神族の暴走を阻止するのだ…」
「冥王鬼ですって!?」
桜花姫は冥王鬼の名前に反応する。
(彼奴は私の天道眼を奪取した神族の一員だったわね…)
冥王鬼の名前に腹立たしくなる。
「冥王鬼は神族でも最強に部類される存在だ…俗界で彼女を阻止出来るのは…最上級妖女である月影桜花姫…貴様のみ…」
霊魂巨神木の精霊は桜花姫の実力を高評価するのだが…。
「私…先日冥王鬼に天道眼を奪取されて…天道眼を駆使出来なくなったの…」
桜花姫は困惑したのである。
「冥王鬼に天道眼が奪取されたのは本当なのか…」
「残念だけど…今現在の私は妖術が使用出来ない下級妖女なのよ…」
問い掛けられた桜花姫は困惑した表情で返答する。
「先程の内容が事実であれば…地上界は勿論…全世界の滅亡は回避出来なくなるな…」
「全世界の滅亡ですって!?」
恐る恐る霊魂巨神木の精霊に問い掛ける。
「恐らく冥王鬼は貴様から奪取した天道眼の効力で全世界の種族を滅亡させ…神族の支配する神世界を創造するであろう…」
本来天道眼は神族でも最高神に部類される神族の所有物である。最高神が天道眼を発動すると無限の森羅万象をも翻弄出来る。
「如何すれば冥王鬼を阻止出来るの?」
「最終手段だ…」
突如として精霊の左手より虹色に発光する摩訶不思議の果実が出現…。
「虹色の…果実だわ…」
精霊は桜花姫に果実を手渡したのである。
「霊魂巨神木の神聖なる果実だ…此奴は戦乱時代に元祖妖女である桃子姫が菜食した代物であるぞ…」
霊魂巨神木の果実を菜食した人間は妖力を所持出来る。
「私の神聖なる果実を菜食すれば貴様は再度…天道眼を開眼出来る…」
「えっ…天道眼を?」
桜花姫は一息するなり…。恐る恐る手渡された果実を一口菜食したのである。
「えっ?」
直後…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「如何やら貴様に天道眼が戻ったみたいだな…」
「本当に♪天道眼が戻ったの♪」
肉体に妖力が戻ったかは無感覚であったが…。桜花姫は大喜びしたのである。数秒後…。
(妖力が戻った感覚だわ…)
天道眼の開眼により妖力も戻ったと自覚出来たのである。
「余談であるが…貴様が衰弱死しなかったのは奇跡だ…」
「えっ?何が奇跡なの?」
精霊はボソッと一言…。
「基本的に私の果実を菜食した人間は…即刻衰弱死する…」
霊魂巨神木の果実は別名禁断の果実であり普通の人間が菜食した場合…。数秒間で衰弱死する。誰しもが妖力は所持出来ない。
「桃子姫と私が死ななかったのは…」
「貴様と桃子姫は運命の存在であり…最初から妖女として覚醒すべき人間であった…」
「はぁ…」
(私には何が何やら…)
桜花姫は内心珍紛漢紛だったのである。
「兎にも角にも天道眼と妖力が戻ったし♪精霊には感謝するわね♪」
すると精霊は真剣そうな表情で…。
「折角だが…貴様に対面したい人物が三人存在する…」
「えっ?私に対面?誰なの…」
精霊は自身の神通力で三人の霊体を口寄せする。桜花姫の背後より三人の半透明の人物が出現…。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る三人の霊体を直視したのである。
「えっ!?」
半透明の人物とは老衰により死去した老婆の蛇骨鬼と群青色の着物姿の女性…。若齢の若武者が佇立する。
「あんたは蛇骨鬼婆ちゃんと…母様!?若武者は誰かしら…」
「若武者は貴様の実父…夜叉丸だ…」
「若武者は私の父様?」
群青色の着物姿の女性は母親の美海姫であり若齢の若武者は父親の夜叉丸である。すると蛇骨鬼は笑顔で…。
「桜花姫ちゃん♪あんたと再会出来て何よりだよ♪」
蛇骨鬼は桜花姫と再会出来大喜びする。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
一方の桜花姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「今現在の私は自然界と一体化した存在だよ♪」
蛇骨鬼は人間の老婆としての肉体は維持出来なくなったが…。彼女の魂魄は自然界と一体化する。
「消滅したのは実体としての肉体だけだからね♪あんまり悲観しないでね…」
「私は大丈夫だけど…小猫姫が…」
小猫姫は蛇骨鬼の自然死により彼女自身のショックは想像以上である。
「小猫姫は純粋だからね…」
「彼女を元気付けたいわ…」
小猫姫を元気付けたいと発言する桜花姫に蛇骨鬼は再度笑顔で…。
「彼女なら大丈夫だよ♪」
「えっ?」
「時間が解決するさ♪」
現状では精神的ショックにより気力が消失するが時間が解決すると蛇骨鬼は思考する。
(無理に元気付けないのが無難かしら…)
すると今度は母親の美海姫が笑顔で発言したのである。
「桜花姫♪久し振りね♪」
「母様…」
桜花姫は恐る恐る…。
「御免なさい…母様…私は母様を…」
謝罪した桜花姫であるが美海姫は笑顔で返答する。
「気にしないで♪桜花姫♪」
「えっ…私は妖力で母様を殺したのよ…」
美海姫は一息すると真実を告白する。
「私の本当の死因は…食人餓鬼の毒素が原因なの…」
「えっ?食人餓鬼の…毒素?」
美海姫は夜叉丸と婚姻する三年前…。食人餓鬼に襲撃され左手を怪我したのである。外傷自体は軽傷であったが十五年後…。食人餓鬼の毒液が全身に転移したのである。
「本当の原因は悪霊の毒素なのよ…桜花姫は自分を非難しないで…」
美海姫の発言により心情の罪悪感が解消される。
「あんたは悪くないのよ…桜花姫♪」
「母様…」
今迄は美海姫を殺害した罪悪感により辛苦されたが…。美海姫との再会により長年の罪悪感から解放されたのである。すると今度は父親の夜叉丸が発言する。
「桜花姫なのか…こんなに美人だったとは…」
美人の一言に桜花姫は赤面したのである。
「私が美人なんて…父様は大袈裟ね♪」
すると夜叉丸は小声で…。
「元気そうで安心した…今迄大変だったな…桜花姫…悪かったな…」
夜叉丸は桜花姫に謝罪したのである。
「別に謝罪しなくても…案外一人でも気楽だったし♪悪霊征伐は面白かったわよ♪」
「此奴…」
(外見とは裏腹に活気だな…)
か弱そうな外見とは裏腹に活気であると感じる。
「私は一人でも幸福よ♪」
「桜花姫が幸福であれば俺は満足だ…」
(父様…)
夜叉丸の発言に桜花姫は微笑む。意外と優男であると感じる。
「父様?」
「ん?如何した?」
「父様って…冥王鬼って名前の神族に殺されたの?」
桜花姫は真剣そうな表情で恐る恐る問い掛ける。
「彼奴か…」
問い掛けられると夜叉丸の表情が険悪化したのである。
「想起したくないが…俺が冥王鬼に殺されたのは事実だ…」
桜花姫はハッとする。
「父様が冥王鬼に殺されたのは本当だったのね…」
「冥王鬼か…」
蛇骨鬼は真剣そうな表情でボソッと発言する。すると美海姫がハッとした表情で反応したのである。
「えっ!?冥王鬼?神族ですって…夜叉丸様は悪霊に殺されたのでは!?」
当時は誰もが悪霊によって殺されたと認識する。
「当時の俺は悪霊を征伐しに出掛けたが…悪霊は木刀を所持した女人によって退治されたのだが…」
「木刀を所持した女人が冥王鬼だったのね…」
「嗚呼…」
「如何して冥王鬼って神族の一員が夜叉丸様を殺害されたのです?」
美海姫は恐る恐る夜叉丸に問い掛ける。
「恐らく肩慣らしだろうな…」
「冥王鬼は…」
今度は蛇骨鬼が発言する。
「彼奴は姿形こそ小柄の小娘だが…人間なんて瞬殺されるだろう…」
桜花姫は精霊を直視するなり…。
「彼奴の木刀は霊魂巨神木の小枝で形作られた代物だったわよね?」
「勿論だ…冥王鬼の木刀は私の肉体の一部から形作られた刀剣だ…鋼鉄の刀剣だって簡単に屈折させられるし妖術だって無力化出来る…」
(冥王鬼の木刀は厄介ね…私の妖術も無力化されるし…)
「冥王鬼に対抗するには如何すれば?」
桜花姫の問い掛けに精霊は即答する。
「天道眼と木刀を所持する冥王鬼に対抗するには…天道眼と霊斬刀が必要だな…」
「霊斬刀ですって?」
霊斬刀に夜叉丸が反応したのである。
「霊斬刀とは夜桜崇徳丸が所持した伝説の刀剣だな…牢固石の…」
「勿論…」
「霊斬刀は三蔵郎様が…」
「三蔵郎だと?一体誰だ?」
すると蛇骨鬼が笑顔で返答する。
「三蔵郎は桜花姫ちゃんの理解者だよ♪助平だけど僧侶だからね♪」
「助平って…」
桜花姫は苦笑いしたのである。
「人一倍内気だった桜花姫にも理解者がね♪三蔵郎様には感謝しないと…」
「こんな俗界にも聖者が存在するとは…」
美海姫も夜叉丸も一安心する。精霊は再度発言したのである。
「兎にも角にも今現在の冥王鬼は最高神に匹敵する存在だ…冥王鬼に対抗出来るのは桜花姫だけだからな…」
天道眼を開眼した冥王鬼は最早最高神に匹敵する存在へと進化…。最早彼女に対抗出来るのは天道眼を所持する桜花姫以外には存在しない。直後…。
「えっ?三人の肉体が…」
半透明だった三人の肉体が消滅し始める。
「如何やら時間みたいだね…」
蛇骨鬼は桜花姫を直視するなり…。
「桜花姫ちゃんよ…彼女を…冥王鬼を復讐から解放してね…」
「えっ?蛇骨鬼婆ちゃん?」
蛇骨鬼と冥王鬼は太古の大昔は悪友の関係だったのである。
「彼奴は神族だが…精神的には非常に未熟だからね♪」
正直冥王鬼の存在は気に入らなかったが…。
「努力するよ♪蛇骨鬼婆ちゃん♪」
笑顔で返答したのである。
「大変かも知れないけど小猫姫と仲良く支え合いな♪間違っても口寄せの妖術なんかで自然界の一部である私を復活させないでね…」
「えっ…」
桜花姫は一瞬困惑するものの…。蛇骨鬼の希望を尊重したのである。
「約束するよ…蛇骨鬼婆ちゃん…」
すると今度は美海姫が発言する。
「桜花姫…達者でね♪私は何時迄も貴女を見守るから♪」
「母様…」
桜花姫は再度涙腺から涙が零れ落ちる。今度は夜叉丸が発言する。
「桜花姫よ…今後も大変だろうが桜花姫は桜花姫らしく自由に生きろ…」
一息するなり…。
「冥王鬼なんかに殺されるな…精一杯頑張れよ…」
「父様…勿論よ♪」
数秒間が経過すると三人の肉体は完全に消滅したのである。
「はぁ…」
(三人には二度と再会出来ないのね…)
内心切なくなる。
「冥王鬼との戦闘は今迄とは比較出来ない大激戦だろう…最悪全世界の滅亡も否定出来ない…」
「私が彼奴を征伐するわよ…相手が神族だからって手加減しないから…」
桜花姫は断言する。
「であれば一安心だ…」
数秒後…。今度は精霊の肉体が消滅し始める。
「えっ?あんたの肉体が…」
「如何やら私も時間みたいだ…」
精霊は最後に…。
「最上級妖女の月影桜花姫よ…冥王鬼から全世界を救済しろ…最上級妖女の貴様なら…」
精霊の肉体は完全消滅したのである。
(全世界を救済なんて…)
「私に出来るかしら?」
メンテ

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