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テラトピア大事変
日時: 2020/12/25 07:49
名前: 戦艦零号

第一話

休憩時間
全世界を二分させる人類史上最大の大戦争…。第三次列国大戦が終焉してより十五年が経過する。世界暦五千五百二十二年四月下旬…。小国家〔テラトピア自由区〕での出来事である。場所は進学校テラトピア学園…。休憩中に一人の男子生徒が窓際から仰天の青空を眺望する。
「今日も図書室で暇潰しだな…」
男子生徒の名前は【フィルドルク】…。テラトピア学園の男子生徒であり学部は普通科である。フィルドルクは一見すると年齢十四歳の普通の少年であるものの…。誰よりも荒唐無稽のオカルト関連が大好きであり勉学以外の時間帯ではオカルト関連の情報を調査するのが趣味である。フィルドルクは午前中の休憩時間に図書室へと移動する。
「オカルト関連…オカルト関連…」
フィルドルクはオカルト関連の参考書を何冊か黙読したのである。内容としては近年話題の超能力関連は勿論…。古代文明の魔法神秘学やら東洋の妖術関連である。
「僕にも超能力とか…荒唐無稽の魔法が扱えたらな…」
フィルドルクは自身にも超能力やら魔法が使用出来たらと妄想し始める。
「一体如何すれば僕に超能力が?」
彼是と思考し続けた直後…。
「ん?」
隣接より一人の女子生徒が魔法関連の書籍を何冊か漁ったのである。
『誰だろう…』
気になったフィルドルクは恐る恐る隣接の女子生徒をチラ見する。
『うわっ…誰なのかな?』
女子生徒は女性としては高身長であり頭髪は赤毛のストレートロング…。両目の瞳孔は半透明の血紅色であり両方の耳朶には金剛石のイヤリングが特徴的である。容姿は人一倍美的でありフィルドルクは彼女の妖艶さに見惚れる。
『彼女…相当の美人だな…胸部も…』
女子生徒は胸部が豊富である。フィルドルクは彼女に魅了されたのか赤面し始める。
『瞳孔が血紅色だ…彼女は…人間の女の子なのかな?』
隣接の女子生徒は一般の女性とは異質的であり摩訶不思議のオーラを感じさせる雰囲気だったのである。すると摩訶不思議の女子生徒はフィルドルクの存在に気付いたのかフィルドルクの方法を凝視し始める。
「貴方…先程から何かしら?私に用事?」
「えっ!?」
フィルドルクはビクッと反応…。
「御免…気にしないで…」
フィルドルクは赤面した表情で即座に女子生徒に謝罪したのである。すると女子生徒は恐る恐る…。
「貴方…名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクだよ…」
フィルドルクは即答したのである。
「君は?」
一方のフィルドルクも女子生徒に名前を問い掛ける。
「私は【メロティス】よ…貴方は私のクラスメートだったわよね…」
「えっ…君は僕のクラスメートだっけ?」
フィルドルクはオカルト関連には随一である反面…。オカルト関連以外の物事には比較的無関心であり自身のクラスに誰が存在するのか認識出来なかったのである。
「貴方って…オカルト以外の物事には無関心そうね…」
『フィルドルクって男子は天然なのかしら?』
フィルドルクは極度の天然でありメロティスは内心呆れ果てる。
「えっ…はぁ…」
一方のフィルドルクは苦笑いしたのである。
「貴方は荒唐無稽の心霊とか超常現象とか大好きそうね…」
「勿論だよ♪超能力とか異星人とかも大好きだよ♪」
フィルドルクは笑顔で即答する。
「へぇ…貴方って純粋なのね…」
「えっ?純粋?僕が?」
「純粋よ…誰よりもね♪」
メロティスは微笑した表情で発言したのである。
「えっ…」
『純粋って…子供みたいだな…』
フィルドルクはメロティスに子供扱いされ…。赤面したのである。するとメロティスは小声で…。
「今日の放課後だけど…私と一緒に帰宅しない?折角の機会だし…」
「えっ!?」
フィルドルクはメロティスに誘われ驚愕したのである。
『こんなシチュエーション…現実なのかな?こんな僕が…女子生徒と帰宅…』
フィルドルクは今回の出来事が現実なのか混乱する。予想外のシチュエーションに再度赤面したのである。
「私も荒唐無稽のオカルトが大好きだからね…如何する?貴方にとって都合が悪ければ無理にとは…」
問い掛けられたフィルドルクは一瞬沈黙するものの…。
「勿論大丈夫♪僕は大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
フィルドルクはワクワクした様子であり笑顔で返答したのである。
『こんな僕がこんな可愛らしい女の子と一緒に帰宅出来るなんて…夢物語みたいだよ♪現実の出来事なのかな?』
一瞬現実なのか自分自身の妄想なのか混迷する。フィルドルクはメロティスとの帰宅に内心大喜びしたのである。

第二話

帰宅
放課後の時間帯…。フィルドルクはメロティスと一緒に帰宅する。
「メロティスさん…自宅は?」
「私の自宅はサウスタウンよ…」
サウスタウンとは西方地帯に存在する小規模の住宅街である。
「えっ?メロティスさんの自宅もサウスタウンなの?僕と一緒だね♪」
「貴方の自宅もサウスタウンなのね…」
メロティスもサウスタウンの住民でありフィルドルクは内心大喜びする。
「貴方…随分と嬉しそうね…」
「えっ!?」
フィルドルクは赤面…。気恥ずかしくなる。
「フィルドルク♪貴方って本当に面白いわね♪」
メロティスは微笑み始める。
「僕って…面白いのかな?」
「面白いわよ♪人一倍天然そうだし♪」
「えっ…」
『人一倍天然って…』
フィルドルクは苦笑いしたのである。するとメロティスは無表情で…。
「貴方は現実世界に荒唐無稽の魔法が存在するなら…直視したくない?」
「えっ…」
『正直…メロティスさんの思考が理解出来ないけど…』
メロティスの突然の質問に困惑したのである。
「魔法が…」
フィルドルクは一息する。
「空想かも知れないけど…荒唐無稽の魔法が本当に存在するのであれば…実際に直視したいかな…」
フィルドルクが恐る恐る返答するとメロティスは瞑目し始める。
「仕方ないわね…」
「えっ?仕方ないって…」
「今回だけは特別よ…」
「えっ…特別って?」
メロティスはカッターナイフを所持したかと思いきや…。自身の手首を自傷させたのである。
「メロティスさん!?一体何を!?」
フィルドルクは突然の彼女の自傷行為に驚愕する。一方のメロティスは平気そうな表情だったのである。
『彼女は正気なの!?』
地面にはメロティスの血液が一滴ずつ流れ出る。
「メロティスさん…血液が…」
フィルドルクは彼女の鮮血に畏怖したのかソワソワする。
「フィルドルク…貴方は極度の心配性ね…」
一方のメロティスは冷静沈着だったのである。
「心配しなくても私は大丈夫よ…貴方は大袈裟ね…フィルドルク…」
数秒間が経過する。カッターナイフで自傷したメロティスの傷口が一瞬で治癒したのである。
「えっ!?メロティスさんの傷口が治癒した!?一体如何して…何が?」
フィルドルクは荒唐無稽の超常現象に愕然とする。するとメロティスは無表情で発言したのである。
「単刀直入に表現するなら…私の正体は魔女なのよ…」
「えっ…魔女?メロティスさんの正体が魔女だって?」
一瞬出鱈目であると思考するものの…。先程の荒唐無稽の超常現象を直視するとメロティスの正体が魔女であると否定出来なくなる。
「正確には私の家計は魔女の家計ってだけよ…父様は普通の人間だし…私は魔女と人間の混血なのよね…」
メロティスは母親が人外の魔女であるものの…。父親は純血の人間だったのである。フィルドルクは緊張した様子で恐る恐る彼女に質問する。
「ひょっとするとメロティスさんの祖先って…東洋に存在する…イーストユートピア出身者なの?」
「私の祖先はイーストユートピアに出身らしいわね…」
イーストユートピアとは極東に存在した辺境の島国であり所謂桃源郷神国と命名される。世界的には魔女の発祥地とされる。イーストユートピアは近代化の成功により列強の一員として認識されたものの…。二百年前に勃発した第二次列国大戦で超大国に敗北したのである。イーストユートピアは多大なる空襲により各村落は焦土化…。今現在では荒廃した無人地帯同然であり居住者は誰一人として存在しない。
「メロティスさんが魔女なのは事実みたいだけど…吃驚したよ…」
「こんな話題はオカルト大好きな貴方以外には出来ないからね…」
「正直最初に対面してから普通の常人とは異質的だったからね…メロティスさんの正体が魔女なのは納得だよ…」
するとフィルドルクは小声で…。
「メロティスさんは今迄誰かに気味悪がられるとか…差別されなかったの?」
メロティスは一瞬沈黙するも小声で返答したのである。
「無論ね…私自身こんな容姿だし…クラスメートの女子達からは人外の魔女って揶揄されたわよ…実際問題私の家計が人外の魔女なのは事実なのだけどね♪」
彼女は笑顔で発言する。
「前向きだね…メロティスさんは…」
フィルドルクはメロティスが人一倍ポジティブであると感じる。一方のメロティスはフィルドルクを凝視…。
「貴方も人外でしょう…フィルドルク…」
「えっ?」
メロティスの人外の一言にフィルドルクは意味が理解出来ず脳内が白色化する。
「僕が…人外だって?」
「貴方ってエスパーっぽいのよね…」
「僕が…エスパー?」
フィルドルクは珍紛漢紛であり困惑したものの…。
「二年前に死んじゃったけど…僕の母方の叔父さん…ストレイダス叔父さんが…霊能力なのかな?死者の霊体と会話出来るとかって…」
フィルドルクには母方の【ストレイダス】と名乗る叔父が存在する。今現在でこそストレイダスは故人であるが…。ストレイダスは大昔から死者の霊体を視認出来る特殊体質だったのである。霊体を視認出来るばかりか死者との会話も出来る性質上…。周囲の者達からは非常に気味悪がられ両親やら実母以外の兄弟からも嫌忌されたのである。こんな境遇の彼であったが…。警察組織が死者と会話が可能であるストレイダスの霊能力に注目する。警察組織は特殊体質の彼を特別枠の特別警察に配属させ数多くの未解決事件解決に貢献させたのである。
「やっぱりフィルドルクの血縁者はエスパーだったわね…」
メロティスは納得する。
「貴方は正真正銘エスパーの人種なのよ♪」
「僕がエスパーの人種!?」
「如何やら貴方が貴方の叔父さんの血筋を色濃く継承したみたいね…」
「血筋を継承したとしても僕にはストレイダス叔父さんみたいに死者の霊体なんて視認出来ないし…映画とか漫画の主人公みたいに怪力とか超能力なんて何一つとして使用出来ないよ…」
「貴方が特殊能力を発揮するには相応の衝撃が必要不可欠なのかも知れないわ…」
「相応の…衝撃?」
「貴方自身が大事件とか…事故に遭遇しなければ特殊能力は一生涯覚醒しないでしょうね…」
「大事件とか事故って…物騒だな…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。メロティスと摩訶不思議の会話から数分後…。二人は自宅へと戻ったのである。

第三話

新人類
小規模の島国…。テラトピア自由区から数百キロメートルの長距離にはテラトピア自由区よりも小規模の島国が存在する。島国の国名は〔万民解放区〕である。万民解放区は十五年前こそ無名の無人島であったが…。第三次列国大戦に敗北した万民解放軍の残党勢力と世界各地の犯罪者達が移住したのである。彼等は無人島の万民解放区に暗躍すると島内全域を軍事拠点化…。万民解放軍を再結成したのである。とある密室にて二人の軍人が密談する。
「二日後だ…二日後に近場のテラトピア自由区を攻略するぞ…」
将軍らしき人物が発言したのである。
「テラトピア自由区か…一日間で攻略出来そうだな…」
背広姿の金髪碧眼の男性が返答する。テラトピア自由区は比較的国内の治安が安定した一方…。戦力は最低限の武装警察隊が配置された程度であり通常の国軍としての反撃能力は実質皆無とされる。
「歴戦の貴様にとっては今回の作戦…片手間なのかも知れないが…貴様以外の将兵達は実戦未経験の新米兵士達ばかりだ…実戦で役立つのやら…」
今現在万民解放軍の将兵は大半が世界各国の犯罪者達ばかりであり経験豊富の将兵は実質少数とされる。将軍らしき人物は将兵達の熟練度の脆弱さを懸念する。
「非力の新兵ばかりだが…世界連合は十五年前の大戦で疲弊した状態なのも事実だからな…」
世界連合とは第二次列国大戦を契機に創設された各国家による統一政府である。第三次列国大戦が終結してから十五年が経過したものの…。今現在世界各国が戦争の悪影響で疲弊状態でありあらゆる国家が戦争出来る余力が皆無だったのである。無論…。統一政権の世界連合さえも今現在は反戦ムードであり各地の紛争を解決出来る余力は皆無である。背広姿の男性が断言する。
「今回の作戦は俺達の強大さを全世界に知らしめる絶好機…今回の作戦が成功すれば世界連合は迂闊には手出し出来なくなるだろう…何よりも俺には…」
背広姿の男性は護身用の拳銃を携帯したかと思いきや…。
「なっ!?貴様は…一体何を!?」
将軍らしき人物は拳銃に冷や冷やする。
「安心しろ…此奴を…分解するだけだ…」
「分解だと?一体如何するのだ?」
「大人しく見物し続けろ…」
背広姿の男性は摩訶不思議の効力で自身の拳銃を分解したのである。
「俺が超能力さえ思う存分に発揮出来れば…全世界を掌握出来るだろう…容易に…」
新人類とは超能力を所持する特殊人種とされ…。現在の調査では百万人に一人の確率で存在するとされる。
「現段階では俺に対抗出来る新人類は存在しない…」
すると将軍らしき人物はニヤリと冷笑する。
「貴様の超能力とやら…期待するぞ♪【ウィルフィールド】…」
彼自身詳細は不明であるが…。ウィルフィールドと名乗る人物は超能力を使用出来る新人類の一人だったのである。
『ウィルフィールドの正体が荒唐無稽の新人類だったとは…新人類とやらは本当に実在するのだな…』
将軍らしき人物は内心新人類の存在に驚愕する。

第四話

霊体
真夜中の深夜帯…。フィルドルクは超能力の歴史書と呼称される参考書を黙読したのである。超能力の歴史書には古代文明時代は勿論…。今現在の事例も多数記述され非常に興味深かったのである。
「極東のイーストユートピアにもエスパーが存在したなんて…」
イーストユートピア所謂桃源郷神国は魔女の発祥地として有名であるものの…。新人類による超能力伝説は複数存在する。先例としては戦乱時代に活躍したとされる名将夜桜崇徳王である。崇徳王は十数キロメートルもの長距離から敵軍の将兵が何人存在するのか正確に察知出来たとされる。崇徳王以外には安穏時代の八正道と名乗る僧侶も有名である。詳細こそ不明であるが…。彼にも超能力らしき伝説が一部確認される。一例としては神族天狐如夜叉との戦闘で銃弾のみで神器を破壊したとの一説である。八正道の場合は偶然の可能性が指摘される一方…。超能力による超常現象も否定出来ないとの意見も存在する。両者とも無自覚であったが…。今現在の見解では両者とも新人類であるとの見解が通説である。
「イーストユートピアにも新人類が存在したなんて…」
数分間が経過するとフィルドルクは熟睡する。睡眠してより数分後…。フィルドルクの脳裏より視界全域が白色の世界が発現されたのである。
「えっ?何だろう?」
フィルドルクは恐る恐る周囲を警戒するのだが…。周辺の景色は白色だけであり自分自身以外には何も存在しない虚無の世界である。
「摩訶不思議の世界だな…」
すると背後より…。
「フィルドルク…フィルドルク?」
「えっ?誰なの?」
フィルドルクは恐る恐る背後を直視したのである。
「えっ!?ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクの背後に存在するのは誰であろう二年前に死去した叔父…。ストレイダス本人だったのである。
「久し振りだな♪フィルドルク♪」
「叔父さん…」
「フィルドルクが元気そうで安心したよ♪」
ストレイダスは笑顔で発言する。
「如何して…ストレイダス叔父さんが?叔父さんは二年前に…」
フィルドルクは衝撃的光景に脳内が白色化したのである。
「突然だから吃驚するよな…フィルドルク…」
フィルドルクはストレイダスに近寄ると力一杯密着…。
「叔父さん!」
涙腺から涙が零れ落ちる。
「如何して…如何してストレイダス叔父さんは死んじゃったの?」
「フィルドルク…」
フィルドルクは数分間程度落涙し続ける。
「大丈夫そうだな…フィルドルク…」
泣き止むフィルドルクにストレイダスは安心する。
「甘えん坊だな♪フィルドルクは♪」
「御免なさい…叔父さん…」
フィルドルクは赤面した様子で謝罪したのである。
「当然であるが…今現在の俺は霊体の存在なのだ…」
ストレイダスは自身が霊体であると自負する。
「霊体…」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「如何して叔父さんは死んじゃったの?本当に事故で死んじゃったの?」
両親からはストレイダスの死因は不慮の事故であると説明されたのだが…。フィルドルクは如何しても納得出来なかったのである。
「今更フィルドルクに隠し事しても仕方ないからな…」
「隠し事?」
ストレイダスは一息する。
「二年前の十二月だ…」
「二年前の十二月?」
二年前の十二月の出来事である。新人類のストレイダスは特別警察での数多くの功績を評価され…。世界連合の特務機関に抜擢されたのである。全世界の主軸である世界連合も新人類の存在に興味を抱き始め…。新人類で構成された特務機関を創設したのである。特務機関の秘密エージェントとして活動するストレイダスは秘密団体…。万民解放軍と呼称される武装勢力の本拠地万民解放区に潜入したのである。潜入には成功したものの…。不運にもストレイダスは万民解放軍の警備兵に発見され拘束されたのである。ストレイダスを拘束した警備兵は皮肉にも自身と同種である新人類であり名前はウィルフィールドと名乗る。ウィルフィールドと名乗る新人類は非常に強力でありストレイダスはウィルフィールドの超能力で殺害されたのである。
「俺は諜報員として万民解放区に潜入したが…万民解放軍の本拠地でウィルフィールドって名前の新人類に拘束され…彼に殺害された…」
「えっ…ウィルフィールド?新人類…」
『やっぱりストレイダス叔父さんの死因は事故じゃなくて…ウィルフィールドって新人類に殺されたの?』
ストレイダスの死後…。世界連合は非難を回避したかったのか諜報員のストレイダスは不慮の事故として扱われたのである。フィルドルクは衝撃の事実に混乱する。
「突然だから混乱するよな…フィルドルク…」
「御免なさい…正直突然過ぎるから…」
「当然の反応だよな…」
ストレイダスは再度一息したのである。
「フィルドルク…俺は霊能力以外に未来予知も出来る…」
「未来予知って?」
フィルドルクは自身の超能力を覚醒させ未来予知も使用出来る。
「恐らくだが二日後…俺を殺害した新人類のウィルフィールドと…万民解放軍の奴等がテラトピア自由区に侵攻を開始するだろう…」
「えっ!?」
フィルドルクは驚愕したのである。
「本当に!?万民解放軍がテラトピア自由区に侵攻!?」
非現実的であり一瞬冗談かと思いきや…。
『ストレイダス叔父さんって冗談は苦手だよね…』
ストレイダスは冗談が人一倍苦手であり本当であると感じる。
「恐らくだが…隠蔽体質の世界連合は勿論…テラトピア自由区の武装警察隊も期待出来ないだろうよ…」
ストレイダスはフィルドルクを凝視し続ける。
「今現在テラトピア自由区を守護出来るのはフィルドルクだけだ…」
「えっ!?僕がテラトピア自由区を!?」
フィルドルクは再度困惑する。
「叔父さん…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力なんて何一つとして…」
現実問題…。フィルドルクは何一つとして超能力が使用出来ない。
「今現在では超能力は使用出来ないが…フィルドルクは人一倍俺の血筋を色濃く継承する一人だ…超能力が覚醒すればフィルドルクは俺を上回るかも知れない…」
ストレイダスはフィルドルクの潜在能力は自身以上であると確信する。
「如何すれば…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させられるの?」
「簡単だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力を開放出来るさ♪」
「えっ?僕は意識するだけ?」
「フィルドルクは俺の血筋を色濃く継承した存在だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力は発動出来るだろう…超能力を使用すれば使用するだけ桁外れに上達する…」
新人類は超能力を使用し続けると超能力は更なる覚醒により効力は幅広くなる。新人類の潜在的能力は実質的に未知数とされる。
「本当に…出来るのかな?僕なんかに…」
フィルドルクは自信が皆無であり潜在的能力が覚醒するのか不安だったのである。
「大丈夫だ♪フィルドルクなら出来るさ♪俺が保証する♪」
ストレイダスは笑顔で断言する。
「叔父さん…」
するとストレイダスの肉体が半透明化し始める。
「えっ!?叔父さん…肉体が半透明に…」
「如何やら霊能力は限界みたいだ…俺はもう少しで消滅する…」
「限界なの…叔父さん…」
「フィルドルク…最後だが…」
ストレイダスは笑顔で…。
「俺を超越しろよ…フィルドルク…フィルドルクなら俺を上回れる♪明日からはフィルドルクが本物のスーパーヒーローさ♪」
ストレイダスの肉体は完全に消失したのである。ストレイダスが消滅した直後…。
「ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクは目覚めたのである。
「えっ!?」
フィルドルクは自身の寝室であり室内をキョロキョロさせる。
「心霊現象だったのかな?如何して死んじゃったストレイダス叔父さんが…」
先程自身の夢路にて死去したストレイダスと再会した出来事にフィルドルクは混乱するものの…。
「僕にも…出来るのかな?ストレイダス叔父さん…」
フィルドルクは意識するだけで超能力が発動するのか試行を決意する。

第五話

超能力
本日の放課後…。フィルドルクは学園の裏庭へと移動したのである。
「ストレイダス叔父さんのアドバイスでは…意識するだけで超能力が発動するらしいけど…」
『本当に意識するだけで超能力が覚醒するのかな?』
内心…。昨日夢路にて遭遇したストレイダスの心霊現象も偶然の可能性も否定出来ず超能力は発動しないだろうと思考したのである。
「石ころだ…」
地面の石ころを自身の目前に設置させたのである。
「石ころ…浮遊するかな?」
フィルドルクは恐る恐る両目を瞑目させる。
「石ころよ…空中を浮遊しろ…」
フィルドルクは石ころに命令するのだが…。石ころは依然として浮遊しない。
「石ころは浮遊しないな…」
フィルドルクは再度命令する。
「石ころ!浮遊しろ!」
試行してより数分間が経過…。フィルドルクは必死に思念するのだが目前の石ころはピクリとも動かない。フィルドルクは苛立ち始める。
「畜生!僕には出来ないよ!」
フィルドルクは自身が超能力の才能が皆無であると落胆したのである。
「僕は全然駄目だね…やっぱり石ころは浮遊しないや…」
フィルドルクは超能力が発動せずガッカリする。
「はぁ…やっぱり僕に超能力の才能なんて無かったみたいだね…」
『死んじゃったストレイダス叔父さんの幽霊が出現する時点で可笑しかったのかも知れないね…僕の妄想だったのかな?』
夢路に出現したストレイダスは自分自身の妄想であったと判断したのである。
「仕方ない…戻ろうかな…」
フィルドルクは帰宅する寸前…。
「えっ?」
一瞬であるが背後の石ころがコロッと動いたのである。
『一瞬動いたかな?』
フィルドルクは一息する。
『石ころよ…浮遊しろ…』
恐る恐る石ころに思念したのである。数秒後…。依然として動かなかった石ころが上昇し始める。
「えっ!?石ころが浮遊した!?」
石ころは自身の目線と同程度に浮遊…。ピタッと停止する。
『現実なの!?』
フィルドルクは空中浮揚する石ころに驚愕…。
「魔法みたいだ…」
目前の光景が現実なのか理解出来なくなる。
『石ころよ…落下しろ…』
落下を思考すると石ころは一瞬で地面に落下したのである。
「超能力って本当に存在したの?僕に超能力が…」
フィルドルクは先程の超常現象が自身による念力なのか確認したくなる。フィルドルクは帰宅せず近隣に位置する閉鎖中の廃鉱へと移動したのである。
「廃鉱なら好都合だね…」
閉鎖中の廃鉱には無数の岩石やら鉄屑の残骸が確認出来…。超能力を発動するには好都合だったのである。
「今度も其処等の石ころを…」
二十センチメートルの石ころを発見…。
「石ころは校内の裏庭みたいに浮遊するかな?」
先程みたいに石ころが浮遊するのか試行したのである。
『石ころよ…浮遊しろ…』
数秒後…。石ころが容易に浮遊したのである。
「えっ…」
フィルドルクは驚愕する。
「本当に…僕に超能力が?」
今回は裏庭の石ころよりも軽量に感じられたのである。
「落下しろ…」
落下をイメージすると石ころは一瞬で地面に落下する。フィルドルクは恐る恐る背後を凝視…。
「僕に…出来るだろうか?」
フィルドルクの背後に存在するのは先程の石ころより大サイズの岩石である。直径一メートルサイズであり念力で粉砕出来るか思考する。
「此奴を…念力だけで粉砕出来るかな?」
直径一メートルサイズの岩石に思念したのである。
『岩石よ…』
フィルドルクは必死に思念するのだが…。
「砕け散れ!」
岩石は非常に硬質であり容易には粉砕出来ない。
「ビクともしないな…やっぱり岩石を粉砕するのは困難だね…」
困難であると感じるものの…。
「今度こそ…」
フィルドルクは再チャレンジする。
「岩石よ…粉砕しろ!」
先程よりも根強く思念したのである。
「砕け散れ!」
すると数秒後…。岩石の表面よりピキッと罅割れが発生する。
「表面が罅割れた!?」
『今度こそ出来るかも!』
再度思念したのである。
『岩石よ…砕け散れ!』
数十秒間が経過…。直後である。頑強の岩石がバリッと粉砕され…。周囲に砕け散ったのである。岩石の破片が其処等に散乱する。
「はぁ…はぁ…手出しせずに岩石を粉砕出来たぞ♪」
フィルドルクは大喜びしたのである。目標を達成出来たものの…。フィルドルクは極度の疲労により地面に横たわる。
「念力だけで…こんなにも疲れが蓄積されるなんて…」
フィルドルクは体力の消耗に身動き出来なくなる。
『眠たいな…』
直前…。
「貴方…大丈夫かしら?」
「えっ…誰なの?」
最近知り合った女子学生のメロティスが地面に横たわった状態のフィルドルクに恐る恐る近寄る。
「メロティスさん?」
「フィルドルク…動かないでね…」
「えっ?」
メロティスはフィルドルクの腹部に接触したかと思いきや…。消耗した体力が蓄積されたのである。
「一安心だわ…」
メロティスはホッとする。
「感謝するよ♪メロティスさん♪体力が戻ったよ♪ひょっとしてメロティスさんの魔法なの?」
「無論ね…」
メロティスは体力の消耗したフィルドルクに回復魔法を使用したのである。フィルドルクはメロティスの回復魔法により体力が回復する。するとメロティスは笑顔で…。
「貴方…超能力の覚醒に成功したのね♪見事だったわ♪」
「えっ?メロティスさん…ひょっとして観察したの?」
「勿論よ♪放課後からね♪」
メロティスは笑顔で即答する。
「えっ…はぁ…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。
「フィルドルクは本当にサイコキネシス…超能力を覚醒させたのね♪貴方は正真正銘新人類だったのよ♪」
「僕が新人類…」
『ストレイダス叔父さんの遺言は事実だったのか…』
内心自身が新人類だった事実にフィルドルクは嬉しくなる。
「メロティスさん?」
「何かしら?フィルドルク?」
フィルドルクは深夜の夢路での出来事をメロティスに洗い浚い告白する。
「貴方は夢路で故人の叔父さんと遭遇したのね…」
「叔父さんの未来予知は本当なのかな?」
「本当でしょうね…私も千里眼で海辺を眺望するのだけど…」
メロティスは時たま大海原を眺望するのだが…。二日前に武装した小型船を数隻目撃したのである。不審の小型船は即座に撤収したものの…。メロティスは気味悪くなる。
「私は胸騒ぎを感じるのよ…ひょっとすると近日中に大事件が発生するかも知れないわね…」
メロティスは非常に不安視する。
『メロティスさん…』
彼自身自信は皆無であったものの…。
「メロティスさんは僕が守護するよ♪」
笑顔で断言する。
「フィルドルク…」
フィルドルクの発言にメロティスは一瞬赤面したのである。
『叔父さんを殺した新人類…ウィルフィールドにも対面したいし…』
数分後…。二人は各自の自宅へと戻ったのである。

第六話

開戦
翌日の早朝…。六時三十分未明である。本拠地の万民解放区より万民解放軍の艦隊が出撃を開始する。旗艦は巨大戦艦一隻と二隻の大型輸送艦が同行したのである。旗艦の巨大戦艦には新人類のウィルフィールドが乗艦する。
「ウィルフィールド大佐♪貴方の活躍を期待しますよ♪」
ブリッジにて艦長が笑顔で発言したのである。
「活躍するも何も…こんな単調の任務で活躍出来なければ全世界を制覇するのは夢物語だ…」
「〔ヘビーエンプレス〕の威力をテラトピア自由区の人民に知らしめる絶好機です♪」
超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスは第三次列国大戦で大活躍した超弩級ミサイル艦であり万民解放軍の旗艦である。将兵達からは難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金エターナルメタルが駆使され…。エターナルメタルの重厚装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない鉄壁の強度である。多数の多目的ミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射出来る電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には一機の大型輸送機か偵察用の無人機を二機搭載出来る。
「俺が超能力を発揮すればヘビーエンプレスの出番は無くなるな…」
航行してより三十分後の七時…。一隻の小型船と遭遇したのである。
「所属不明の小型船を発見しました!」
通信兵が報告する。
「所属不明の小型船だと?であればホログラム装置で確認しろ…」
ヘビーエンプレスには最新式のホログラム装置が搭載されたのである。装置の上部には立体化された海面上と一隻の小型船の立体映像が映写される。
「此奴はテラトピア自由区の警備艇か…大艦隊である俺達を相手に絶望的だな…」
ウィルフィールドが発言する。
「ウィルフィールド大佐…対艦ミサイルで攻撃しますかね?」
艦長はウィルフィールドに問い掛ける。
「折角の挨拶だ…手始めに攻撃しろ…」
「承知しました…」
艦長はウィルフィールドの指示に承知すると乗組員達に攻撃を命令する。
「警備艇を攻撃…撃沈せよ…」
「はっ!」
乗組員達は即座に行動を開始したのである。
『開戦だ…旧人類同士潰し合うのだな♪』
ウィルフィールドは周囲に失笑する。同時刻…。警備艇の船内では所属不明の大艦隊に騒然とする。
「大型艦艇が三隻も!?演習なのか?」
警備艇の乗組員達は所属不明の大艦隊に警戒したのである。すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「中央の大型船は恐らく…第三次列国大戦で活躍したヘビーエンプレスだろうか…」
「ヘビーエンプレスですと?」
「世界連合に敵対した新枢軸勢力が使用した超大型船舶だ…こんな辺境の海域で遭遇するとは…」
「であれば所属不明の大艦隊は新枢軸勢力の残党なのか!?」
「新枢軸の残党勢力が出現するとは…一体何が目的なのか?」
「何はともあれ相手が相手だ…俺達だけでは対処出来ない…即刻政府と世界連合に報告しろ!世界連合に援軍を要請し次第…海域を撤退するぞ!」
乗組員達は即座に政府と世界連合に事態を報告したのである。数秒後…。
「ヘビーエンプレスから対艦ミサイルが多数発射されました!」
ヘビーエンプレスより十数発もの対艦ミサイルが発射されたのである。
「対艦ミサイルを迎撃しろ!」
警備艇は即座に対空砲で対艦ミサイルの迎撃を開始する。四発の対艦ミサイルの迎撃には成功するのだが…。一発の対艦ミサイルが警備艇の甲板に直撃したのである。直後…。弾薬庫に引火すると警備艇は乗組員諸共轟沈したのである。一方ヘビーエンプレスの艦内ではウィルフィールドが双眼鏡で確認する。
「他愛無いな…俺達はテラトピア自由区に直進するぞ…」
万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区を目標に直進したのである。一方警備艇からの報告によりテラトピア自由区政府と世界連合は突然の事態に混乱する。

第七話

高速道路
午前七時…。テラトピア自由区では警戒警報が発令されたのである。突然の警報に国内は混乱し始める。フィルドルクも突然の警報に吃驚…。飛び起きたのである。
「えっ!?何が!?」
『ひょっとして警戒警報?』
フィルドルクは万民解放軍の襲来であると察知する。
『万民解放軍だな…叔父さんの予言は本当だったね…』
ストレイダスの未来予知に驚愕したのである。一方外部では突然の緊急事態に各勤務地は勿論…。各学園も一時的に休校されたのである。一部の学生は学園の休校で大喜びするものの…。数多くの者達が緊急事態に不安視する。すると突如として自室に設置された携帯型ホログラム装置が鳴動したのである。
「うわっ!吃驚した…」
フィルドルクは携帯型ホログラム装置を作動させる。
「フィルドルク?」
ホログラム装置はメロティスの姿形を映写させたのである。
「メロティスさん?」
「こんな朝っぱらから突然御免なさいね…」
「大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
メロティスは謝罪するのだがフィルドルクは笑顔で返答する。
「やっぱり貴方の叔父さんの予言は本当だったわね…」
「本当だね…正直僕も吃驚したよ…」
「避難所で合流しましょうね…フィルドルク…」
直後に携帯用のホログラム装置が停止したのである。すると自室のドアにて父親が入室する。
「フィルドルク?」
「父さん?」
「フィルドルク…準備が出来次第避難所に移動するぞ…」
「避難所?」
政府から避難指示が発令されたのである。
「オーケー!父さん!」
フィルドルクは準備を開始する。準備を開始してより数分後…。準備が終了するとフィルドルクは父親と母親との三人で外出したのである。
「如何して突然こんな事態に…」
母親は予想外の出来事にビクビクする。
「俺にも何が何やらサッパリだが…俺達は避難所に移動して命拾いするぞ…」
三人は自家用車で避難所へと移動するのだが…。高速道路の道路上は渋滞であり直進したくても直進出来ない。
「渋滞か…畜生…」
自家用車を運転する父親は非常に苛立った様子である。
「全然走行出来ないわね…」
「こんな状態では避難所には当分移動出来ないね…如何する?」
今現在では各地の車道が渋滞であり乗用車は走行出来ない。周囲の様子を直視すると乗用車を放棄…。大勢の歩行者が高速の車道を徒歩で通行したのである。
「仕方ないな…俺達も歩くぞ…」
「止むを得ないわね…」
三人は止むを得ず乗用車を放棄…。周囲の歩行者達と同様に徒歩で高速道路を通行したのである。
「私達は避難所に到達出来るのかしら?」
母親が不安視する。
「避難所に到達出来るかは断言出来ないが…何も行動しないよりは…」
一方フィルドルクは沈黙した様子で両親を凝視したのである。
『父さんも母さんも不安みたいだな…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させて…父さんと母さんを安心させたいな…』
フィルドルクと両親が高速道路を移動する同時刻…。魔女のメロティスは自宅の地下壕にて両親と三人で潜伏する。
「パパ?ママ?如何して避難所に移動しないのよ?私達も避難所に移動しましょうよ…こんな場所に待機し続けても…」
メロティスは不満そうな表情で両親に問い掛ける。
「避難所に移動するのは危険だ…移動中に攻撃されたら如何する?何が発生しても可笑しくない状況下だぞ…」
父親は避難所への移動を拒否する。
「俺は十五年前の大戦で大勢の避難民達が空爆で殺された瞬間を間近で目撃したからな…俺の兄貴も避難所に移動したばかりに…」
メロティスの父親は第三次列国大戦で避難所に移動中…。最愛の実兄が空爆で死亡したのである。
「パパ…」
父親の思考も理解出来るのだが…。
『私はフィルドルクと合流したいのに…』
彼女は自身の無力さを痛感する。

第八話

空爆
三十分後…。万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区の海域へと到達する。二隻の大型輸送艦の飛行甲板より多数の爆撃用ドローンが出撃…。数分間でテラトピア自由区領空へと飛来したのである。テラトピア武装警察隊の航空部隊が迎撃を開始するものの…。万民解放軍のドローン兵器は非常に高性能であり航空部隊は圧倒されたのである。各地で空爆が開始される。高速道路からでも空爆の様子が直視出来…。歩行者達は恐怖したのである。フィルドルク自身は比較的冷静であったものの…。両親は大戦のトラウマからか膠着したのである。すると一機の攻撃用ドローンが高速道路上空に急接近…。低空飛行にて逃亡中の歩行者達に対人射撃を仕掛ける。十数人が死傷する。今度はフィルドルクの両親を標的に攻撃を仕掛けるのだが…。
「父さんと母さんには手出しさせないよ!」
フィルドルクは低空飛行の攻撃用ドローンにサイコキネシスを発動する。
「墜落しろ!」
射撃寸前に攻撃用ドローンはフィルドルクのサイコキネシスにより空中分解したのである。フィルドルクの超能力を間近で目撃した父親は驚愕する。
「フィルドルク…超能力を…現実なのか?」
父親はフィルドルクのサイコキネシスに絶句するのだが…。
「貴方…覚醒したのね…」
母親は実弟のストレイダスを連想したのか冷静だったのである。
「母さん…父さん…僕はね…」
フィルドルクは最近超能力が開花した事実は勿論…。夢路にて故人のストレイダスと対面した出来事を一部始終両親に告白したのである。
「フィルドルクは夢路でストレイダスの霊体と接触したのね…ストレイダスは未来予知の内容を貴方に…」
母親は非常に納得した様子であったが…。
「死者との会話なんて…荒唐無稽の漫画みたいな出来事だな…」
父親は珍紛漢紛だったのである。
「納得出来なくて当然だよ…父さん…」
「俺は常人だから理解するには時間が必要不可欠だけど…内容は荒唐無稽だが超能力は本当に存在するのだな…」
正直理解するには程遠いが…。父親はフィルドルクの告白を闇雲に否定せず信用したのである。
「先程の内容が事実であれば…俺達が想像する以上に今回は相当の一大事だな…」
「貴方は如何するの?フィルドルク?」
「僕は…叔父さんの…ストレイダス叔父さんの継承者として万民解放軍を全身全霊で阻止するよ…」
「フィルドルク一人で…」
「フィルドルク…貴方は本気なのね?」
「勿論だよ…父さん…母さん…」
両親の意向としては当然猛反対であったが…。フィルドルクの表情から本気であると察知する。
「危なくなったら絶対に戻りなさいよ…フィルドルク…絶対に死なないでよ…」
「精一杯頑張れよ…フィルドルク…無事に戻れよ…」
「僕は絶対に死なないからね!」
フィルドルクは移動を開始したのである。

第九話

野望
ドローン兵器による空爆開始から十数分後…。テラトピア武装警察隊は疲弊状態であり万民解放軍は陸上部隊による上陸作戦を開始したのである。二隻の大型輸送艦からは合計十二隻もの上陸用舟艇が出撃…。主力戦車を中心とした上陸部隊がテラトピア自由区へと上陸したのである。旗艦ヘビーエンプレスのブリッジからウィルフィールドが上陸作戦の様子を眺望する。
「今回は俺も参戦するか…」
「大佐も上陸作戦に参加されるのですか!?」
「当然だ…」
周囲の乗組員達は愕然としたのである。
「無茶では…」
周囲の者達は無茶であると感じるものの…。
「私を仕留められる常人は存在しない…貴様達は私の実力を直視するのだな…」
ウィルフィールドは外部へと移動すると甲板にて佇立する。
「はっ!」
ウィルフィールドはサイコキネシスにより自身の肉体を浮遊させたのである。
「えっ…大佐が空中を!?」
「大佐は一体何者!?空中を飛行するなんて…幻覚だろうか?」
空中を浮遊するウィルフィールドにブリッジの乗組員達は驚愕する。一方のウィルフィールドはサイコキネシスで空中を飛行…。数分後に港内へと着地したのである。
「ん?」
『何やら…彼奴に匹敵する効力を感じるな…一体何者だろうか?』
正体こそ不明であるものの…。ウィルフィールドは気配を察知したのである。一方周囲では銃撃戦が展開されるのだが…。ウィルフィールドは無関心だったのである。
「貴様は敵部隊の指揮官か!?覚悟しろ!」
狙撃兵がウィルフィールドを標的に銃弾を発砲する。発砲された銃弾はウィルフィールドの発動したサイコキネシスにより寸前で急停止…。
「なっ!?銃弾が…」
サイコキネシスによって空中浮揚する銃弾に狙撃兵は驚愕する。一方のウィルフィールドは余裕の様子で…。
「鬱陶しい…」
発砲された銃弾はサイコキネシスの発動で狙撃兵に直撃したのである。
「ぐっ!」
銃弾の直撃により狙撃兵は地面に横たわる。
『ん?』
三人の敵兵が各ビルの屋上よりウィルフィールドを標的に設定する。
『敵軍の狙撃兵が三人か…』
ウィルフィールドは逸早く敵兵の気配を察知…。
「焼死しろ…」
発火能力であるパイロキネシスを発動する。各ビルの狙撃兵は突然の発火によって焼死したのである。すると今度は目前より…。
「今度の相手は重戦車か…俺に対抗するには力不足だな…」
重戦車はウィルフィールドを標的に戦車砲で砲撃したのである。
『こんな程度の攻撃で…』
ウィルフィールドはエレクトロキネシスで電撃のシールドを形成させる。砲弾はシールドの表面に接触すると爆散…。砲撃の無力化に成功したのである。
「今度は俺が反撃する…」
ウィルフィールドはサイコキネシスを発動すると敵軍の重戦車をペシャンコにスクラップ化させる。
「他愛無いな…敵軍の防衛ラインは容易に突破出来そうだな…」
『ん!?』
ウィルフィールドは気配の正体が気になり極度の胸騒ぎを感じる。
『気配の正体は…一体何者だろうか?新人類か?』
同時刻…。フィルドルクは銃声を目印に港内へと移動したのである。
『胸騒ぎかな?気配を感じる…一体何者なの?』
フィルドルクもウィルフィールドと同様に気配を察知…。極度の胸騒ぎを感じる。数分後…。フィルドルクは万民解放軍の上陸地点である港湾へと到達したのである。港湾には敵味方の将兵達の遺体が彼方此方に確認出来…。地獄絵同然だったのである。
「戦争の光景…」
想像以上の惨劇にフィルドルクは気味悪くなる。
『父さんと母さんは僕が誕生する以前にこんな惨劇を経験したのかな…』
するとフィルドルクは十五人の敵兵に包囲されたのである。
「貴様は民間人の学生か?こんな場所に一人で参上するとは其処等の凡人達よりは勇敢だが…場違いだな…」
「少年…死にたくなければ大人しく拘束されるのだな…」
フィルドルクは催眠を意識する。
『熟睡しろ…』
数秒間が経過すると周囲の兵士達はサイコキネシスの応用により地面に横たわり…。熟睡したのである。
「兵士達を殺さずに無力化出来たな…」
フィルドルクはホッとする。すると直後…。
「不殺で兵士達を無力化するとは…見事だな…少年…」
「えっ?誰なの?」
突如としてフィルドルクの目前より背広姿の男性が近寄る。
「少年よ…貴様の正体は新人類だな…」
男性は一目でフィルドルクが新人類であると洞察したのである。
「如何して貴方は僕を新人類だって…貴方は一体何者ですか?」
フィルドルクは恐る恐る男性に問い掛ける。
「俺の名前はウィルフィールド…俺も少年と同様に新人類の一人さ…」
ウィルフィールドは自身を新人類の一人と自負する。
「新人類…」
するとウィルフィールドはフィルドルクの両目を直視…。
「少年は彼奴に近似するな…俺が殺害した彼奴に…」
「彼奴って?誰ですか?」
「ストレイダスと名乗る新人類に…」
ストレイダスの名前にフィルドルクはピクッと反応する。
「ストレイダスって…貴方が…ストレイダス叔父さんを…」
「叔父さん?ストレイダスは貴様の叔父だったのか…」
ウィルフィールドは納得したのである。
「やっぱり貴方が叔父さんを殺害した張本人だったのですね?」
ウィルフィールドは身震いし始める。
「如何して貴方は叔父さんを殺害したのですか!?」
普段は温厚の性格であるフィルドルクであるが…。今回ばかりは非常に感情的だったのである。
「私がストレイダスを殺害した理由か…私は二年前に万民解放区に潜入した彼奴を新人類の仲間として勧誘したのだが…」
二年前…。諜報員として万民解放区に潜入したストレイダスは不運にも万民解放軍の偵察部隊と遭遇したのである。自身の超能力で偵察部隊を圧倒するもウィルフィールドが介入…。ウィルフィールドの介入によりストレイダスは拘束されたのである。ウィルフィールドは自身の野望にストレイダスに協力を一方的に要求するのだが…。
「俺は彼奴に腐敗した世界連合は勿論…世界連合を牛耳る〔ソロポスト共和国〕の滅亡に協力しないかと要求したのだが…ストレイダスは俺の要求に拒否した…彼奴も俺と境遇は一緒だろうに…」
僅少であるがウィルフィールドは感情的だったのである。
「如何してウィルフィールドは世界連合と貴方の祖国であるソロポスト共和国を滅亡させたいのですか?」
フィルドルクが恐る恐る問い掛ける。
「ソロポスト共和国は俺の祖国だったが…」
ソロポスト共和国は超大国であり今現在全世界の覇権国家である。ウィルフィールドはソロポスト共和国出身者であったが…。ソロポスト共和国は正真正銘の差別大国であり当然として新人類も差別の対象だったのである。
「差別…」
「俺は新人類としての性質上…身内の奴等からも差別されたのだ…」
「貴方は身内からも…」
フィルドルクはウィルフィールドの境遇に絶句する。
『ストレイダス叔父さんも…母さん以外の人間達に…』
ストレイダスもフィルドルクの母親以外の人間達から差別され…。数多くの者達から迫害されたのである。フィルドルクは返答出来ず沈黙する。
「俺は祖国を見限り…本来なら敵国である万民解放軍に寝返ったのだ…」
ウィルフィールドが万民解放軍に協力するのは世界連合と同組織を牛耳るソロポスト共和国の滅亡である。
「俺としても正直…ストレイダスは死なせたくなかった…新人類の同志として彼奴と一緒に腐敗した旧世界を改善させたかったのに…非常に残念だ…」
拘束されたストレイダスであるが…。ウィルフィールドの協力には拒否したのである。
「ストレイダスは何を血迷ったか…愚劣なる旧人類が支配し続けるこんな腐敗した世界を守護しても無意味だろうに…何故ストレイダスは奴等に協力するのか俺には理解出来ない…彼奴も迫害されただろうに…」
するとフィルドルクは恐る恐る…。
「貴方の目的は…新人類が差別されない世界の構築ですか?」
フィルドルクの問い掛けにウィルフィールドは嬉しそうな表情で返答する。
「勿論だとも♪主目的を達成するには数多くの犠牲が必要不可欠だが…」
ウィルフィールドはフィルドルクに名前を問い掛ける。
「少年よ…貴様の名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクです…」
「フィルドルクか…」
ウィルフィールドは一瞬瞑目する。
「フィルドルクよ…新人類の一人として俺に協力しろ…」
「はっ?」
フィルドルクはウィルフィールドの予想外の発言に拍子抜けしたのである。
「誰が貴方に協力なんて…」
フィルドルクは拒否する。
「貴方は過去に大勢の人間達から迫害されたのかも知れませんが…僕にとって貴方は悪人です!叔父さんを殺害した張本人と協力なんて僕には出来ません…」
「当然の返答だよな…突然見ず知らずの人間から協力を要請されても拒否するのは当然の返答だ…」
「貴方は一体何を?」
するとウィルフィールドは上空を眺望したのである。
「此処からだと確認出来ないが…」
「えっ?上空?」
「テラトピア自由区の成層圏上空には万民解放軍の衛星兵器…〔リバースキャノン〕が存在する…」
「リバースキャノン?」
リバースキャノンとは万民解放軍が開発した試作型光学衛星兵器…。戦略兵器である。高出力の高エネルギーを成層圏上空から発射出来…。大都市部を一撃で焦土化させる威力とされる。第三次列国大戦にて万民解放軍が開発した戦略兵器であるが完成直前に終戦…。第三次列国大戦では使用されなかったのである。
「少なくとも首都はリバースキャノンの一撃で焦土化するだろうよ…」
「首都が一撃で…」
フィルドルクは戦慄したのである。
「如何する?俺に協力すればリバースキャノンの発射を中止するし…上陸部隊を撤退させるぞ…フィルドルクにとって苦渋の選択だ…」
「えっ…苦渋の選択…」
ウィルフィールドの発言にフィルドルクは反応する。
「貴様の選択によってテラトピア自由区の運命が決定される…」
「貴方の…目的は?」
フィルドルクは警戒した様子で恐る恐るウィルフィールドに問い掛ける。
「俺の目的は世界各地に存命する新人類が迫害されない新世界の構築だ…」
「新人類が迫害されない新世界?」
「俺の目的に協力すればフィルドルクの家族は勿論…友人も命拾い出来るぞ…貴様は実質テラトピア自由区の英雄として崇拝されるだろう…」
「僕には…」
一息したのである。
「やっぱり貴方には賛同出来ません…」
フィルドルクは再度拒否する。
「如何しても拒否するか?フィルドルク…貴様の選択によって大勢の人間達が抹消されるのだぞ…貴様は極悪非道の悪魔だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクを極悪非道の悪魔であると指弾したのである。
「俺が悪魔だと?貴様には失望したよ…フィルドルク…」
ウィルフィールドは無表情であるが…。内心ではガッカリしたのである。
「仕方ない…であれば実力行使だ…」
「実力行使って?」
ウィルフィールドは両手より電撃を発動したのである。
「うわっ!ぎゃっ!」
フィルドルクはウィルフィールドのエレクトロキネシスにより全身が麻痺する。エレクトロキネシスは本来拷問として使用される超能力である。
「非常に残念だよ…フィルドルク…貴様も俺に拒否するとは…」
『所詮は愚か者達だ…フィルドルクもストレイダスも…俺達は新人類同士…未来永劫仲良く共闘出来たのに…』
ウィルフィールドは新人類として彼等と仲良くしたかったのだが…。フィルドルクの拒否によって自身の目的は達成出来ないと自覚する。一方のフィルドルクは身動き出来ず…。涙腺より涙が零れ落ちる。
『ストレイダス叔父さん…僕は如何すれば?結局僕は…ウィルフィールドに殺されちゃうのかな?』
最期を覚悟したフィルドルクであるが…。
『フィルドルク…』
『えっ?』
フィルドルクの脳裏よりストレイダスの霊体が出現する。
『叔父さん?』
『思う存分に反撃しろ…フィルドルク♪フィルドルクなら出来るさ…』
『叔父さん…僕は…』
フィルドルクは覚悟したのである。
「ぐっ!」
フィルドルクはウィルフィールドの電撃エネルギーを体内に吸収し始める。
「ん!?」
『フィルドルクは…俺の電撃を吸収するとは…』
冷静だったウィルフィールドも自身の電撃エネルギーを吸収し始めたフィルドルクには愕然とする。
『此奴…短期間でこんなにも超能力が開花するとは…』
故人のストレイダスは勿論…。自身をも上回ると予想する。一方のフィルドルクは吸収した電撃エネルギーを球体に形作る。
「はっ!」
「なっ!?」
ウィルフィールドは咄嗟にエレクトロキネシスで鉄壁のエネルギーシールドを形成…。間一髪電撃エネルギーの無力化に成功したのである。
「シールド?」
「はぁ…はぁ…一歩間違えれば俺がヤバかったな…」
ウィルフィールドはフィルドルクの覚醒に冷や冷やする。フィルドルクは先程の電撃により負傷した傷口が治癒したのである。
「フィルドルクは治癒効果も開花するとは…貴様の潜在的能力は俺の予想以上だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクが末恐ろしくなる。一方のフィルドルクは無表情でウィルフィールドに近寄る。
「俺と勝負するか?フィルドルク…」
「貴方は叔父さんを殺害した張本人だけど…僕は貴方を殺害したくない…」
フィルドルクからは殺意は感じられない。
「俺は最愛の人間を殺した張本人なのに…殺害したくないとは…フィルドルクは余程の聖人なのだな…」
「如何にか部隊を撤退させて下さい…」
フィルドルクはウィルフィールドに懇願する。フィルドルクの懇願にウィルフィールドは沈黙したのである。すると直後…。近辺より爆発音が響き渡る。
「えっ!?一体何が!?爆発音!?」
「ん?何事だ?」
爆発音が響き渡ったのは湾内だったのである。湾内の中心部には大型輸送艦が爆散…。一瞬で轟沈する。
「畜生が…味方の大型輸送艦が敵軍の猛反撃で撃沈されるとは…」
テラトピア武装警察隊の猛反撃により万民解放軍の大型輸送艦一隻が撃沈されたのである。ウィルフィールドは不本意であるが…。
「止むを得ないな…こんな場所で貴様みたいな新人類を殺害するのは非常に勿体無いからな…」
「えっ…」
一瞬ウィルフィールドの返答に拍子抜けしたのである。
「作戦中の部隊を撤退させる…当然としてリバースキャノンの発射も中止する…」
ウィルフィールドはフィルドルクの懇願に承諾…。作戦中止を決定したのである。
「貴様の成長は見物だな♪フィルドルク…」
『今度再会出来たら…フィルドルクと共闘したいな…』
今度はフィルドルクを仲間に勧誘…。共闘出来たらと思考する。ウィルフィールドは携帯式のホログラム装置を作動させ作戦の中止を全軍に伝播させたのである。作戦中止から数時間が経過…。万民解放軍の撤退により一連の事件は終焉する。同事件はテラトピア大事変と命名されたのである。

最終話

屋上
テラトピア大事変から一週間後…。世界連合の協力により国内の復興作業が開始される。テラトピア大事変終結から二週間が経過…。世界連合軍による報復作戦が開始され万民解放区は占拠されたのである。両軍の死闘により十数万人もの将兵達が死傷するが…。武装は解除され本土に配備された艦艇やら多数のドローン兵器は接収されたのである。作戦終了後…。万民解放軍の首謀者ウィルフィールドの行方は不明であり今現在でも行方は捜索されるのだが依然として発見されない。半年後の十月上旬…。
「はぁ…」
フィルドルクは休憩時間に学園の屋上にて上空を眺望する。
『ウィルフィールドって軍人さん…行方不明なのかな…』
フィルドルクはウィルフィールドの行方が気になったのである。するとフィルドルクの隣接より…。
「フィルドルク♪」
「えっ!?メロティスさん!?」
メロティスは笑顔でフィルドルクを直視したのである。
「ニュース番組ではテラトピア武装警察隊が悪者達を撃退したって報道したけどさ…実際は貴方の大活躍なのよね?」
「えっ…」
メロティスに問い掛けられるとフィルドルクは返答に困惑する。
「僕は…別に…」
フィルドルクは表情が微妙だったのである。するとメロティスは笑顔で…。
「今現在の貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
「えっ?」
メロティスのスーパーヒーローの一言に反応する。
「貴方が奮闘したからこそテラトピア自由区は奴等に占領されなかったのよ♪正真正銘貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは僅少であるが微笑したのである。
「メロティスさん♪僕がスーパーヒーローか…」
するとメロティスは赤面した表情で…。
「今度の休日だけど…私と一緒に遊ばない?」
「えっ…メラティスさんと?」
彼女の発言にフィルドルクはドキドキし始める。
『えっ…ひょっとして…メロティスさんとデートとか!?僕が!?』
フィルドルクもドキドキしたのか赤面したのである。
「こんな僕で…大丈夫なの?メロティスさん?」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「貴方だからなの♪人外同士♪私は今後も貴方と交流したいのよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは大喜びする。
「僕こそ♪」
フィルドルクは満面の笑顔で返答したのである。
「メロティスさんは何したいの?」
「私は映画かな♪映画は映画でもホラー映画とか♪」
「ホラー映画ね♪」
フィルドルクは笑顔で返答するのだが…。
『ホラー映画って…メロティスさんらしい趣味だな…』
メロティスの趣味に内心苦笑いしたのである。苦笑いのフィルドルクであるが…。
『ストレイダス叔父さん…こんな僕にも…彼女が出来たよ♪』
極度の嬉しさからかフィルドルクは涙腺より涙が零れ落ちる。
完結
メンテ

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桜花姫 ( No.41 )
日時: 2021/08/17 09:54
名前: 月影桜花姫

第七話

魔獣

一週間後の早朝…。太平神国の裏側に位置する孤島では神族の冥王鬼が到達する。
「今現在でも近海の海底下に…」
(十二人の最高神によって封印された魔獣が存在するか…)
数百万年前の超古代時代…。神族の最盛期であり地上界には高度化された無数の神族による文明社会が構築されたのである。とある望月某日…。天空より全長が小大陸規模もの魔獣が出現したのである。魔獣は世界各地で暴れ回り大勢の神族やら人間達を虐殺…。大陸の陸地をバリバリと食い散らかしたのである。神族でも最強の部類である十二人の最高神と交戦…。長期戦であったが最高神の神通力によって魔獣は深海底にて封印されたのである。魔獣の封印には成功するも…。十二人の最高神は神通力の消耗によって衰弱死したのである。魔獣の暴走によって地形が大幅に変化…。魔獣の暴走こそ神族が弱体化する決定的要因だったのである。
「今回は超古代に神族を殺害した魔獣を復活させ…地上界の人間達を駆逐する…」
冥王鬼は天道眼の効力により結界を発動…。目的地である深海底へと移動したのである。数分後…。冥王鬼は目的地の海底下へと到達する。周辺は暗闇の海中であったが目的地の海底下中心部には規格外の巨大海亀らしき岩石物体が確認出来る。
「此奴が…魔獣…【羅刹獣】か…」
羅刹獣は全身が凸凹の岩石の肉体である。凸凹した岩石の甲羅には無数の巨大人面…。尻尾の部分は巨大海蛇が確認出来る。封印された羅刹獣の全身には金剛石で形作られた巨大鉄鎖により封殺され…。完全に身動き出来ない状態である。すると冥王鬼の神通力に反応したのか巨大人面の一部が海中を浮遊する冥王鬼をギロッと直視する。
「こんな深海底に小娘か?貴様…一体何者だ?」
巨大人面は人語で発言したのである。
「私は…冥王鬼…神族の一員だ…」
「貴様…神族の小娘か?今度こそ封印された私を死滅させるか?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「貴様を封印から解放する…」
封印から解放すると発言した冥王鬼であるが…。羅刹獣の巨大人面は失笑したのである。
「貴様正気か?最高神ですら衰弱化させた私を貴様みたいな小娘が解放するとは…貴様は余程の命知らずであるな…」
「鬱陶しい…貴様は解放されたくないのか?」
「復活させた瞬間…私は再度暴れ回る…今度こそ全世界の滅亡は確定的であるぞ…」
「地上界全域を滅亡させるには貴様の絶大なる魔力が必要不可欠なのだ…地上界の滅亡は私にとって好都合…」
「地上界の滅亡か…」
すると今度は別の巨大人面が発言する。
「貴様が私を封印から解放するのか!?であれば即刻封印を解除させろ!今度こそ大暴れして全世界を打っ壊すからよ♪」
別の巨大人面は失笑するなり…。
「私を復活させた瞬間…チビッ子の姉ちゃんを食い殺しちまうぜ♪」
巨大人面の発言に冥王鬼は呆れ果てる。
「封印から解放させたとしても今現在の羅刹獣は弱体化した状態だ…間違っても天道眼を所持する私を殺せないぞ…」
長期間の封印の効力からか羅刹獣の魔力は超古代時代から相当弱体化したのである。
「畜生が…本調子であればこんな小娘簡単に打っ殺せるのだが…」
「今現在の状態であれば…貴様に協力するのが正解みたいだな…」
「神族の小娘に協力するのは気に入らないが…止むを得ない…」
(交渉成立だな…)
冥王鬼は微笑する。
「早速貴様の封印を解除する…」
冥王鬼は瞑目するなり…。
「天道眼…発動!」
群青色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「羅刹獣…貴様の封印を解除する…はっ!」
直後…。念力の効力により羅刹獣の全身の身動きを封殺した金剛石の巨大鉄鎖がバリっと破壊されたのである。すると封印が全面的に解除され…。本体の先端部分に位置する頭部がハイテンションで大喜びしたのである。
「ヤッタゼ!トウトウフウインガカイジョサレタカ!ヒサカタブリニチジョウデオオアバレシテヤルゼ!」
本体の先端に位置する頭部部分が冥王鬼を直視するなり…。
「フウインヲカイジョシタノハシンゾクノネエチャンカ!?アリガトサンヨ♪チジョウノガイチュウドモヲクイコロシニデカケルカ!」
(此奴…下手すれば扱い切れないかも知れないな…)
羅刹獣は殺戮と破壊のみの破壊者である。本来の魔力が戻れば天道眼を駆使しても羅刹獣をコントロールするのは非常に困難であると感じる。
(羅刹獣が多少弱体化したのが何よりだな…)
同時刻…。深海底地帯のアクアユートピアでは深海底魔女のスキュランが魔法の水晶玉で深海底の異変をキャッチする。
「えっ?」
(水晶玉が反応したわ…)
魔法の水晶玉を直視するなり…。
「なっ!?此奴は…」
魔法の水晶玉には冥王鬼と封印が解除された羅刹獣が映写される。
「此奴は超古代に地上界で暴れ回った魔獣…羅刹獣だったかしら?」
(胸騒ぎの原因は此奴だったのね…)
スキュランは恐怖心からか全身がプルプルする。
「伝承では羅刹獣の大暴れで全世界が滅亡寸前だったとか…」
魔法の水晶玉に映写された冥王鬼を直視したのである。
(羅刹獣は封印が解除されたのかしら?ひょっとして小柄の少女が羅刹獣の封印を…)
「兎にも角にも…アクアユートピアの人魚達には国外の外出を徹底的に禁止させないと…」
スキュランは即刻国外への外出禁止をアクアユートピア全域に発令…。国外への外出は全面禁止され国境は完全に封鎖されたのである。二人の人魚の側近がスキュランの家屋敷に訪問する。
「スキュラン様…国外への外出禁止を発令しました!」
「国境もシールド魔法で封鎖しました…国内の安全は確保出来た模様です」
「完了したのね…上出来だわ…」
するとドアがノックされたのである。
「誰かしら?」
ウェンディーネがソワソワした様子で入室する。
「スキュラン!大変よ!」
「えっ!?今度は何事!」
ウェンディーネの様子にスキュランは吃驚したのである。
「アクアヴィーナスが…出掛けちゃったの…」
彼女は落涙する。
「えっ…アクアヴィーナス…国外に出掛けちゃったの!?」
スキュランは呆れ果てる。
「はぁ…」
(彼女は人一倍弱虫なのにトラブルメーカーね…)
すると側近は恐る恐る…。
「スキュラン様…彼女を救出しますか?」
スキュランは一息する。
「彼女には悪いけれど…救出は出来ないわ…」
「えっ!?スキュラン!?」
スキュランの発言にウェンディーネはビクッと反応したのである。
「アクアヴィーナスは如何なるのよ!?」
「正直私にはアクアユートピアの国内を守護するのが精一杯なの…彼女には悪いけど…」
「スキュラン…」
ウェンディーネは絶望する。同時刻…。国外へと出掛けたアクアヴィーナスは深海底を移動中に極度の胸騒ぎを感じる。
(先程から胸騒ぎを感じるわ…)
恐怖心によりビクビクする。
「アクアユートピアに戻ろうかな…」
戻ろうかと思いきや…。海底下を直視すると岩石の塊状が移動するのを発見する。
「えっ…」
(何かしら…)
岩石の移動物体は規格外の巨大さである。海底下の移動物体を凝視し続けると上部の表面には無数の巨大人面が確認出来る。
「ひっ!」
(人面だわ…)
無数の巨大人面にアクアヴィーナスは畏怖したのである。移動物体を凝視し続けると小大陸規模の規格外の巨大海亀であると認識する。
(ひょっとして海亀の怪物かしら?)
すると甲羅の表面に存在する巨大人面の一部が直上のアクアヴィーナスを発見するなり…。
「ん?彼奴は人魚の小娘か?」
巨大人面は人語で発言したのである。
「如何やら人魚の小娘みたいだな…」
「肩慣らしには好都合だが…如何する?」
「人魚の小娘を食い殺しちまうか?」
無数の人面が相談し始める。すると本体の先端に位置する海亀の頭部が大声で…。
「セナカノガンメン!サッキカラコソコソハナシヤガッテ…オレハクウフクナンダ!ダイチヲクウノガサキダ!アンナコバンザメデハハラノタシニモナラン…ホウチシテオケ!」
海亀の頭部が怒号すると甲羅の無数の人面は沈黙したのである。海亀の怪物は大南海へと直進…。アクアヴィーナスは命拾いしたのである。
「はぁ…はぁ…」
(一瞬食い殺されるかと…)
アクアヴィーナスは周辺を警戒するなり…。
(先程の怪物は一体何者だったのかしら?)
「イーストユートピアの桜花姫なら海亀の怪物を退治出来るかな?」
アクアヴィーナスは即刻太平神国に直行したのである。同時刻…。桜花姫は暇潰しに東国の茶店に来店したのである。彼女は大好きな桜餅を頬張る。
「桜餅は美味ね♪」
すると彼女の背後より…。
「桜花姫♪」
何者かが彼女の背中を接触する。
「きゃっ!」
桜花姫は驚愕したのである。
「誰よ!?吃驚するじゃない!」
背後を直視すると背後の人物は氷麗姫…。彼女だったのである。
「えっ?氷麗姫…あんただったのね…」
「御免あそばせ♪」
笑顔で謝罪する。
「あんた…吃驚させないでよね…折角の娯楽が台無しじゃない…」
「御免♪御免♪」
氷麗姫も同席したのである。
「今日は何事かしら?」
桜花姫が問い掛けると氷麗姫は真剣そうな表情で…。
「あんたの妹分の小猫姫だけどね…今日の早朝に自害し掛けたの…」
「えっ…小猫姫が自害ですって…」
蛇骨鬼が老衰してより小猫姫は精神的に参ったのか出刃包丁で自害し掛けたのである。
「今日は私が阻止したから大丈夫だったけど…」
今回は氷麗姫の参上により氷結の妖術を駆使…。危機一髪自害を阻止したのである。
「一歩間違えれば…彼女…本当に自殺しちゃうかも…」
「小猫姫…」
蛇骨鬼の霊体との会話により自然界と一体化した事実を小猫姫に説明するも…。彼女は納得しなかったのである。
「小猫姫は?」
「三蔵郎の寺院よ…」
今現在小猫姫は三蔵郎の寺院で寝転び…。三蔵郎が彼女の様子を見守る。
「三蔵郎様…大丈夫かな?」
(正直不安だわ…)
小猫姫が脱走しないか正直不安だったのである。
「大丈夫よ…桜花姫♪三蔵郎は人間だけど死霊餓狼とも互角に接戦した実力者なのよ♪小猫姫でも簡単には…」
直後…。桜花姫の姿形が消失する。
「えっ!?桜花姫は!?」
同時刻…。桜花姫は口寄せの妖術により三蔵郎の寺院へと瞬間移動したのである。
「三蔵郎様?」
玄関の戸口をノックするのだが…。
「無反応ね…」
桜花姫は恐る恐る寺院へと進入したのである。
「三蔵郎様は…」
客室へと入室すると客室では三蔵郎がグッタリとした表情で横たわる。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫はソワソワした表情で三蔵郎に近寄るなり安否を確認する。
「はぁ…」
(三蔵郎様は大丈夫そうね…)
ホッとしたのか一安心したのである。すると横たわる三蔵郎の左側の真横には木魚が確認出来る。
「如何して木魚がこんな場所に…」
すると横たわった三蔵郎が目覚める。
「うっ!私は…」
「三蔵郎様?大丈夫?」
「えっ?桜花姫様でしたか…ん!?小猫姫様…」
「小猫姫?」
三蔵郎は恐る恐る…。
「私は…小猫姫様に木魚で殴打されて…」
「えっ!?小猫姫が!?」
桜花姫はゾッとしたのである。
(ひょっとして彼女…)
彼女は恐怖心からか全身が身震いする。即座に二階の居間へと移動したのである。
「えっ?桜花姫様?」
二階の居間に到達すると屏風を直視する。
「小猫姫…」
屏風に装飾された霊斬刀が無くなったのである。
「えっ!?私の霊斬刀が…」
三蔵郎は精神的ショックからか全身が脱力する。
「一体誰が…私の霊斬刀を窃盗したのでしょうか…」
桜花姫は小声で…。
「小猫姫かしら…」
「えっ?小猫姫様が?」
「三蔵郎様…御免なさいね…」
桜花姫は自分自身に口寄せの妖術で小猫姫の居場所へと自身を口寄せしたのである。小猫姫は霊斬刀を所持した状態で東国と南国の国境に位置する山道にて移動する。
「えっ…桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は突発的に出現した桜花姫と遭遇…。一時的に佇立する。
「私からは逃げられないわよ…大人しく霊斬刀を渡しなさい…」
すると小猫姫は睥睨するなり…。
「渡さない…今日は私の命日なの…」
小猫姫は落涙したのである。
「私を死なせてよ…桜花姫姉ちゃん…」
「はぁ…小猫姫…」
桜花姫は呆れ果てる。
「あんたが自害したって…誰も大喜びしないわよ…」
「私は一人では何も出来ないし…未来に希望なんて無いよ…」
「あんた…」
「私を殺したければ殺せば?桜花姫姉ちゃんの大好きな桜餅に変化させて私を食い殺しちゃえば?」
苛立った桜花姫は無表情で…。
「小猫姫?」
「何よ?桜花姫姉ちゃん?」
力一杯小猫姫の頬っぺたを引っ叩いたのである。
「きゃっ!」
小猫姫は地面に横たわる。
「あんたみたいな意気地なしは桜餅に変化させても不味いだけよ…」
桜花姫は無表情であり霊斬刀を回収する。
「霊斬刀は三蔵様の所有物だからね…」
すると桜花姫は再度無表情で発言したのである。
「今日からあんたとは絶縁ね…自害したければ勝手に自害しなさい…」
桜花姫は退散したのである。移動中…。
(小猫姫の馬鹿…)
涙腺より涙が零れ落ちる。小猫姫の様子が気になるのか再度戻ろうかと思いきや…。突発的にグラグラッと地面が地響きにより震動したのである。
「なっ!?」
(ひょっとして地震かしら…)
地響きは数秒間で沈静する。
「先程の地響きは一体何だったのかしら?」
すると彼女の前方より…。
「桜花姫!」
「えっ…」
ピンク色のロングドレスと赤髪の小柄の女性が桜花姫に近寄る。
「あんたはアクアユートピアのアクアヴィーナス?」
「はぁ…はぁ…桜花姫…」
赤髪の女性はアクアユートピアのアクアヴィーナスであり非常にソワソワした様子だったのである。
「大丈夫?アクアヴィーナス?今度は何事かしら?」
「桜花姫…大変なの!」
アクアヴィーナスは真剣そうな表情で…。
「西海の深海底で海亀みたいな怪物が出現したの!陸地みたいに巨体だったわ…」
「海亀みたいな怪物?」
桜花姫は一瞬沈黙する。
(幼少期に蛇骨鬼婆ちゃんが…先程の地震は怪物の仕業かしら?)
神族の昔話で旧世界を襲撃した巨体の怪物の伝承を想起したのである。
(大昔の伝承と関連するかしら…)
「気になるわね…」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「如何しましょう…」
彼女は恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。
「海亀の怪物の正体が旧世界を襲撃した魔獣であれば…私以外では対抗出来ないわ…」
「えっ…」
アクアヴィーナスは絶望により沈黙する。
(最上級妖女の私でも全世界規模の怪物を攻略出来るかしら…)
普段なら大喜びで征伐に出掛けるのだが…。今回の戦闘は今迄の戦闘とはスケールが桁外れであり自身の妖力のみで怪物に対抗出来るかは正直未知数だったのである。
「アクアヴィーナスは東国の三蔵郎様の寺院で待機しなさい…寺院へは私が案内するから…」
「えっ?三蔵郎様って誰なの?」
桜花姫は笑顔で即答する。
「三蔵郎様は人間の僧侶よ♪仏様を擬人化した存在だから大丈夫よ♪」
「えっ?はぁ…」
アクアヴィーナスは珍紛漢紛であったが桜花姫と一緒に東国の寺院へと急行したのである。
「三蔵郎様!」
桜花姫は玄関をノックする。
「えっ?桜花姫様…ん?同行者の女性は?」
アクアヴィーナスは恐る恐る名前を名乗る。
「私は…アクアヴィーナスです…」
すると桜花姫が笑顔で紹介する。
「彼女は人魚王国のアクアユートピアの人魚なの♪」
「貴女様は異国の人魚の女性ですか♪」
三蔵郎は一瞬アクアヴィーナスに見惚れる。
「三蔵郎様…一定の時間だけど…彼女を保護出来ないかしら?」
「保護ですと?」
桜花姫は超古代の魔獣が出現した事実を洗い浚い報告したのである。
「えっ!?旧世界に封印された魔獣が出現したのですか!?」
するとアクアヴィーナスがボソッと一言…。
「私は深海底で海亀みたいな怪物と遭遇しました…遭遇した当初は魔獣に食い殺されるかと…」
アクアヴィーナスは恐怖心から涙腺から涙が零れ落ちる。
「ですがアクアヴィーナス様が無事なのが何よりですよ♪」
「感謝します…」
桜花姫は三蔵郎に霊斬刀を手渡したのである。
「三蔵郎様?」
「えっ?霊斬刀…」
すると三蔵郎は恐る恐る…。
「小猫姫様は無事ですか?」
問い掛けられた桜花姫は一瞬ビクッと反応するも笑顔で返答する。
「彼女なら…大丈夫よ♪小猫姫は自害しないって約束したから♪」
「であれば一安心ですね♪」
「小猫姫はソッとしましょう…」
「承知しました♪」
直後である。再度地面がグラグラッと震動する。
「なっ!?」
「地響きだわ!」
「今度も地震だわ…」
(魔獣の仕業かしら?)
突然…。近辺より摩訶不思議の神力を感じる。
(えっ?何かしら?神通力でも妖力でも無いわね…ひょっとして神族!?)
桜花姫は警戒したのである。
「三蔵郎様!アクアヴィーナスは即刻寺院に避難して!」
「えっ!?桜花姫!?」
「一体何が発生したのですか?」
桜花姫は恐る恐る…。
「神族が接近中なの…」
「神族ですと!?」
「危険そうなの…」
「下手すれば殺されるかも…」
三蔵郎は承諾する。
「承知しました…桜花姫様…」
すると寺院の表門より…。木刀を所持した青色の着物姿の女性が進入したのである。
「彼女は…」
「誰かしら?」
桜花姫は恐る恐る…。
「彼女は冥王鬼…神族の一員よ…」
「彼女が神族ですか?人間の女性みたいですね…」
すると冥王鬼は無表情で発言する。
「亡者の集合体…月影桜花姫よ…貴様は死後の世界である地獄から脱出するとは…」
「私は天国でも地獄でも脱出するから安心しなさい…」
「悪運だけは人一倍だな…」
直後…。桜花姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「貴様…神族の眼光を…」
「残念だったわね♪あんたから一時的に天道眼を奪取されたけど霊魂巨神木の精霊から再度頂戴したのよ♪」
笑顔で発言する桜花姫に冥王鬼は内心苛立ったのか一言…。
「霊魂巨神木はこんな小娘に味方するとは…」
「私は即刻魔獣を仕留めたいの…邪魔しないで…」
冥王鬼は魔獣の一言に反応する。
「魔獣か…」
普段は無表情の冥王鬼であるが微笑したのである。
「何が可笑しいのよ?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「魔獣を封印から解放させたのは誰であろう私だからな…今頃は世界各地で大暴れだろうよ…」
「えっ!?あんたが!?」
彼女の発言に一同は反応したのである。すると三蔵郎は恐る恐る…。
「魔獣とは…ひょっとして伝説の羅刹獣でしょうか?」
「羅刹獣って?」
「羅刹獣は太古の旧世界で大暴れした海亀の怪物ですよ…伝承では十二人の最高神によって封印されたと…」
三蔵郎は桜花姫とアクアヴィーナスに説明する。
「ですが如何して神族の一員である冥王鬼が…古代の怪物を復活させたのですか?怪物によって数百人もの神族が惨殺されたのですよね?」
三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。すると冥王鬼は即答する。
「大勢の仲間達が羅刹獣によって殺されたが…今現在の私は羅刹獣以上に地上界を君臨する人間達こそ殲滅したい…」
「冥王鬼は如何して人間達を殲滅したいのですか?」
「私が人間達を殲滅したい理由だと?」
冥王鬼は一息するなり…。
「貴様達も人類の歴史学を勉学すれば理解出来るだろうが…人間の歴史は戦争と自然界を汚染させるばかりだ…恐らく未来の世界でも戦争は何度も勃発するだろう…」
彼女の発言に桜花姫はハッとする。
(スキュランの時空の光球…)
桜花姫は時空の光球で発現された数多の戦争の光景を想起したのである。
(今後も戦乱時代みたいな時代が何度も到来するのかしら?)
正直自身も戦乱時代を体験出来ればと希求する。
(面白そうだわ♪今後の時代を見届けたいわね…)
するとアクアヴィーナスが恐る恐る問い掛ける。
「如何してあんたは本来仕留めるべき相手を復活させたのよ?あんたは神族だし…人間達を仕留めるなら一人でも簡単でしょう?」
問い掛けられた冥王鬼はアクアヴィーナスに返答する。
「地上界の人間達だけを殲滅するなら私一人でも容易いが…太平神国には数多くの妖女が安住する桃源郷だ…最上級妖女である桜花姫が死後の地獄から生還したからには…」
正直桜花姫が俗界に戻ったのは予想外であり目的を達成するのに数多の妖女と彼女の存在は不都合だったのである。今度は三蔵郎が質問する。
「人間達を殲滅したとしても羅刹獣と神族である冥王鬼は敵対関係です…羅刹獣は大勢の神族を殺害した強者ですし貴女様も殺される可能性だって否定出来ませんよ…」
「であれば今度は羅刹獣を殲滅するだけだ…今現在の羅刹獣は長年の封印で相当弱体化した状態だ…私単独でも簡単に仕留められる…」
「私から天道眼を奪取したのは魔獣の羅刹獣の封印を解除したかったからなのね…」
「えっ!?桜花姫様?天道眼を奪取されたって…」
「先日の出来事だけどね…」
問い掛けられた桜花姫は先日の出来事を洗い浚い公言したのである。
「桜花姫様は彼女に天道眼を奪取されたなんて…」
「死後の世界にも幽閉されちゃったし…一苦労だったわ…」
所詮羅刹獣は人間達を殲滅する手駒であり瞳術の天道眼を所持した冥王鬼にとって弱体化した羅刹獣は目的を完遂させる手駒だったのである。
「遅かれ早かれ羅刹獣の封印を解除した以上…全世界が滅亡するのは時間の問題だ…」
すると冥王鬼は天道眼を発動…。
「貴様達の身動きを封殺する…」
直後である。冥王鬼の金縛りによって三蔵郎とアクアヴィーナスは身動き出来なくなる。
「なっ!?」
「えっ!?」
二人は身動きを封殺される。
「三蔵郎様!?アクアヴィーナス!?」
(金縛りでしょうか?)
三蔵郎は身動きしたいが金縛りにより身動き出来ない。
(身動き出来ないよ…)
アクアヴィーナスは涙腺より涙が零れ落ちる。
「二人の身動きは封殺出来たが…月影桜花姫…妖女である貴様には私の金縛りが通用しなかったか…」
桜花姫には冥王鬼の金縛りが発動されず自由自在に身動き出来たのである。桜花姫は冥王鬼を睥睨するなり…。
「冥王鬼…あんたは本当に気に入らないわ…」
(蛇骨鬼婆ちゃんからは此奴を救済してって依頼されたけれど…)
天道眼を所持する冥王鬼と交戦するなら全力で力戦しなければ勝利出来ないと確信する。
(中途半端では今度こそ地獄に逆戻りね…)
桜花姫も天道眼を発動したのである。
「貴様も天道眼を発動したか…天道眼を発動したとしても私の木刀は妖力を吸収する神器…貴様が勝利する可能性は皆無だぞ…」
冥王鬼の木刀は霊魂巨神木の小枝から形作られた神器であり妖力による攻撃は木刀に吸収される。桜花姫は恐る恐る後退りする。
(天道眼を使用出来ても…単独で此奴を仕留められるかしら?)
すると直後である。
(えっ?霊斬刀が…)
三蔵郎の所持する霊斬刀がカタカタッと振動したかと思いきや…。空中を浮遊したのである。数秒後…。桜花姫の目前に落下したのである。
「えっ?霊斬刀?」
(ひょっとして所持しろと?)
摩訶不思議の超常現象であったが…。桜花姫は恐る恐る霊斬刀を所持したのである。
「霊斬刀だと?牢固石の刀剣か?」
冥王鬼は警戒する。
「私でも対抗出来るかも知れないわね…」
メンテ
桜花姫 ( No.42 )
日時: 2021/08/17 09:55
名前: 月影桜花姫

第八話

最終決戦

同時刻…。小猫姫は南国の山道にて歔欷したのである。
(私は今後…如何すれば…蛇骨鬼婆ちゃんは死んじゃったし…私一人では何も出来ないよ…)
「私…死にたいよ…」
すると直後…。背後より摩訶不思議の気配を感じる。
「えっ?」
背後には白色の大蛇が歔欷し続ける小猫姫を凝視したのである。
「白蛇かな?」
小猫姫は恐る恐る白蛇に近寄る。すると白蛇が人語で…。
「小猫姫よ♪久し振りだね♪」
笑顔で発言したのである。
「えっ!?白蛇が喋った!?」
人語で発言する白蛇に小猫姫は驚愕する。
「別に吃驚しなくても♪私だよ♪蛇骨鬼♪」
白蛇は自身を蛇骨鬼と名乗る。
「えっ…蛇骨鬼婆ちゃん?蛇骨鬼婆ちゃんなの?」
「勿論私だよ♪」
小猫姫は再度落涙するなり…。蛇骨鬼に密着したのである。
「蛇骨鬼婆ちゃん!」
「小猫姫…あんたは本当に甘えん坊だね♪」
すると蛇骨鬼は小声で…。
「心配させちゃったね…御免ね…小猫姫…今迄辛かっただろう?」
問い掛けられた小猫姫は小声で返答する。
「正直…」
「あんたは正直者だね♪」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「蛇骨鬼は死んじゃったのに如何して?」
小猫姫の問い掛けに蛇骨鬼は即答する。
「今現在の私は肉体こそ消滅しちゃったけど…私の霊魂は自然界と一体化したのさ♪」
蛇骨鬼は死後…。小猫姫の様子を観察した蛇骨鬼だがメソメソし続ける小猫姫を心配したのである。
「あんたの様子が気になってね♪」
「蛇骨鬼婆ちゃん…私…」
小猫姫は死にたくなった事実と桜花姫と絶縁した事実を洗い浚い告白したのである。
「桜花姫ちゃんと絶縁しちゃったのかね…」
「私…二度と桜花姫姉ちゃんとは…」
涙腺から涙が零れ落ちる。
「私…本当は桜花姫姉ちゃんと仲直り出来るなら…仲直りしたいよ…」
仲直りしたいと本音を告白する小猫姫に蛇骨鬼は笑顔で…。
「安心しな♪小猫姫♪素直に謝罪すれば仲直り出来るさ♪」
「仲直り出来るかな?」
小猫姫は不安がる。
「桜花姫ちゃんは基本的に人間関係では無欲恬淡だからね♪」
「桜花姫姉ちゃんに謝罪するよ…」
小猫姫は内心不安であったが謝罪を決意する。すると蛇骨鬼は小猫姫を直視するなり…。
「小猫姫…あんたは小梅姫って名前の妖女と瓜二つだね…」
「小梅姫って誰なの?」
「小梅姫はね…元祖妖女…桃子姫の愛娘だよ♪」
桃子姫の名前に小猫姫は反応する。
「桃子姫って…千年前の妖女の…ひょっとして彼女の愛娘が私にそっくりなの?」
「勿論だよ♪」
すると蛇骨鬼は再度笑顔で…。
「ひょっとすると小猫姫は小梅姫の再来かも知れないね♪」
「えっ…私が…」
(元祖妖女の…愛娘の再来♪)
小猫姫は赤面するが内心では大喜びしたのである。一瞬であるが小猫姫はニコッと微笑む。
「おっ!小猫姫…笑顔が戻ったね♪」
「えっ?」
「小猫姫は笑顔が一番だよ♪」
すると直後…。実体化した蛇骨鬼の肉体であるが突如として半透明化したのである。
「えっ!?蛇骨鬼婆ちゃん!?肉体が半透明に…」
「如何やら時間みたいだね…」
「えっ…」
蛇骨鬼は最後に…。
「小猫姫…今後は大変かも知れないけどね…あんたはあんたらしく大勢の村人達と仲良く生活しな♪あんたは人一倍甘えん坊だけど人懐っこい性格だから大丈夫だよ♪勿論桜花姫ちゃんや三蔵郎とも仲良くね♪間違っても自害は駄目だよ…」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
「時たまだけど…私の墓参りは忘れずにね♪」
「約束するよ…蛇骨鬼婆ちゃん…」
小猫姫は落涙し始める。
「最後だけどね…私にとってあんたとの生活は毎日が幸福だったよ♪」
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
「感謝するね♪小猫姫♪」
半透明化した蛇骨鬼の肉体が消滅したのである。
「えっ…」
(蛇骨鬼婆ちゃんの肉体が…)
寂然と感じるが…。
「私…三蔵郎様の寺院に戻ろう…」
(戻って桜花姫姉ちゃんと三蔵郎様に謝罪しないと…)
小猫姫は三蔵郎の寺院へと直行したのである。同時刻…。寺院の庭園では桜花姫と冥王鬼が対峙する。
「死滅せよ…亡者の集合体…」
冥王鬼は木刀に自身の神力を集中…。木刀の剣先から蛍光色の雷球を形成させる。
「雷球だわ…」
直後…。木刀の剣先から蛍光色の雷球が発射される。雷球が桜花姫に接近するが桜花姫は霊斬刀で一振り…。雷球を消滅させたのである。
「私の神力を消滅させるとは…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は自身の妖力を霊斬刀に集中させる。すると銀色だった霊斬刀の白刃は血紅色の霊気に覆い包まれる。
「貴様の所持する刀剣は妖刀だな…」
冥王鬼は勿論…。
(霊斬刀に血紅色の霊気…本物の妖刀みたいですね…)
三蔵郎も血紅色の霊気に覆い包まれた霊斬刀を直視すると正真正銘妖刀であると感じる。桜花姫は妖刀へと変化した霊斬刀を一振りする。すると直後…。霊斬刀の効力からか表門を消滅させる衝撃波を発生させる。寺院の前方近辺より推定二百メートル規模のクレーターが形作られる。
「えっ…」
桜花姫は勿論…。三蔵郎と霊斬刀の威力を直視するなり愕然とする。
(桜花姫様が妖力を集中させただけで…こんな威力を発揮出来るなんて…)
一方のアクアヴィーナスも…。
(恐らく桜花姫の魔力の効力よね…深海底魔女のスキュランが彼女に退治されるのも納得だわ…)
するとクレーターの中心部より結界を構築した冥王鬼が浮遊する。
「絶大なる妖力だ…貴様の力量は妖女のみならず…下手すると最高神に相当するかも知れないな…」
「私が…最高神に?」
冥王鬼は東国最高峰…。天空山を眺望したのである。
(桜花姫と仲間達を相手するのは後回しだ…)
冥王鬼は突如として姿形がパッと消滅する。
「冥王鬼!?」
(逃げられちゃった…)
桜花姫は身動き出来なくなった三蔵郎とアクアヴィーナスの金縛りを解除したのである。
「身動き出来るわ…」
「感謝しますね…桜花姫様…」
三蔵郎とアクアヴィーナスは桜花姫に感謝する。
「あんたは本当に最強ね…桜花姫…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫が最強であると発言したのである。
「勿論♪私は最上級妖女の月影桜花姫だからね♪」
彼女は笑顔で返答する。
「ですが桜花姫様が霊斬刀を一振りしただけで二町の陸地が一掃されるなんて…ひょっとすると霊斬刀は妖女が所持してこそ本来の力量を発揮するのかも知れませんね…」
直後である。
「えっ!?」
霊斬刀が虹色に発光したかと思いきや…。巫女装束の小柄の少女が霊斬刀の白刃から出現したのである。
「きゃっ!」
「うわっ!霊斬刀から女人が…」
「彼女は一体何者なの!?」
三蔵郎とアクアヴィーナスは驚愕する。桜花姫は突如として出現した巫女装束の女性に恐る恐る…。
「あんたは霊魂巨神木の精霊かしら?」
「私だ…」
霊魂巨神木の精霊は即答する。
「三蔵郎様から霊斬刀を私に手渡ししたのはあんたかしら?」
「無論である…」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「彼女は一体何者なの?桜花姫…」
アクアヴィーナスの問い掛けに桜花姫は笑顔で返答する。
「彼女は世界樹の霊魂巨神木の精霊よ…姿形は小柄の少女だけど本体は世界樹だからね♪」
「貴女様は霊魂巨神木の精霊でしたか…」
(こんなにも美人なんて…)
三蔵郎は精霊に見惚れたのか赤面したのである。
「貴様はこんな私に見惚れたのか?」
問い掛けられた三蔵郎は動揺し始める。
「えっ!?私は別に…何も…」
三蔵郎は必死に誤魔化したのである。
(三蔵郎様は助平だわ♪)
桜花姫は三蔵郎の様子にニコッと微笑む。すると精霊は三蔵郎を直視するなりボソッと発言する。
「如何やら貴様が桜花姫の理解者である人間の僧侶か…悪霊の集合体に憑霊されても健康体とは…」
「意気衝天こそが私にとって美点ですからね♪私は一生涯現役ですよ!」
精霊に一生現役だと断言したのである。
「貴様だったら悪霊に憑霊されても大丈夫だな…」
すると今度は桜花姫が発言する。
「あんたは今迄雲隠れしたのね…」
霊魂巨神木の精霊は雲隠れした状態で桜花姫に追尾…。彼女と同行したのである。
「貴様には見破られたか…」
「当然でしょう♪私に雲隠れしても簡単に見破っちゃうからね♪」
桜花姫は最初から精霊が自身の背後に追尾したのを察知する。
「先程の絶大なる妖力だ…貴様だったら冥王鬼の暴走を阻止出来るかも知れないな…」
「早速冥王鬼を仕留めちゃいましょう♪」
「勿論ですとも♪桜花姫様♪即刻冥王鬼を降参させ…彼女の暴走から俗界を守護しましょう!」
するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。
「桜花姫?彼奴の居場所は?」
「冥王鬼の居場所なら千里眼の妖術で把握したから大丈夫♪」
桜花姫は冥王鬼が撤退した直後に千里眼の妖術を発動…。彼女の居場所を正確に把握したのである。
「冥王鬼の居場所は天空山の頂上よ♪」
「天空山とは東国の最高峰ですか…」
冥王鬼は天空山の頂上にて逃亡…。潜伏したのである。一同は天空山へと移動する直前…。
「えっ…」
とある白猫が桜花姫の目前に接近したのである。
「白猫かしら?」
桜花姫は恐る恐る近寄る。
「こんな場所に白猫が…」
すると直後である。白猫の肉体から白煙が発生する。
「えっ?」
白猫が白煙に覆い包まれたかと思いきや…。ポンッと小柄の少女が出現する。
「えっ!?白猫が女の子に!?」
アクアヴィーナスは驚愕したのである。
「小猫姫…」
白猫の正体は誰であろう山猫妖女の小猫姫…。彼女だったのである。
「白猫はあんただったのね…」
「桜花姫姉ちゃん…」
二人とも内心気まずいと感じる。小猫姫は多少強張った表情で落涙するなり…。
「桜花姫姉ちゃん…三蔵郎様…心配させちゃって御免なさい…」
小猫姫は二人に謝罪したのである。
「小猫姫様…」
「小猫姫…」
桜花姫も涙腺より涙が零れ落ちる。
「私こそ御免なさいね…小猫姫…」
「えっ…桜花姫様…」
「桜花姫…」
(無慈悲の桜花姫でも…落涙するのね…)
落涙する桜花姫に三蔵郎とアクアヴィーナスは驚愕する。
「私は妹分の小猫姫に絶縁なんて…最低だよね…」
「私だって…何度も自害し掛けて…桜花姫姉ちゃんや三蔵郎様を心配させちゃったから…」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私は何時迄もあんたの姉貴分だから心配しないでね♪」
桜花姫の発言に小猫姫も笑顔で返答する。
「勿論♪私だって何時迄も桜花姫姉ちゃんの妹分だよ♪」
彼女達は笑顔で断言したのである。
「金輪際自害は禁止だからね…小猫姫…約束出来るわよね?」
「大丈夫よ…蛇骨鬼婆ちゃんとも約束したから♪」
「えっ…蛇骨鬼婆ちゃんって?」
彼女の発言に桜花姫は一瞬絶句する。小猫姫は先程の出来事を洗い浚い告白したのである。
「霊体だったけど…蛇骨鬼婆ちゃんと再会出来たから…私は大丈夫だよ♪」
「蛇骨鬼婆ちゃんは小猫姫が余程心配だったみたいね…」
(蛇骨鬼婆ちゃんも安心出来るよね…)
桜花姫は勿論…。三蔵郎も小猫姫の吹っ切れた様子に一先ずホッとする。
「ですが桜花姫様と小猫姫様が仲直り出来たので一安心ですね♪ホッとしましたよ♪」
「小猫姫との関係は一件落着だけど…冥王鬼を仕留めないとね…」
小猫姫は恐る恐る問い掛ける。
「冥王鬼って…誰なの?桜花姫姉ちゃん?」
「冥王鬼は神族の一員で…蛇骨鬼婆ちゃんの悪友よ…」
「蛇骨鬼婆ちゃんの…悪友?」
「彼女を復讐から…解放するのよ…」
普段の桜花姫であれば敵対者が人間であっても我先にと仕留めると断言するのだが…。今回ばかりは異例中の異例であると感じる。すると小猫姫は真剣そうな表情で…。
「桜花姫姉ちゃん!私にも協力させてよ!」
桜花姫はニコッと微笑む。
「勿論よ♪小猫姫♪協力してね!」
一同は再度直行する寸前…。
「悪友の私を放置するなんて意地悪ね♪桜花姫♪」
今度は粉雪妖女の氷麗姫が出現する。
「あんたは氷麗姫?」
すると氷麗姫はアクアヴィーナスの存在に気付くなり…。
「えっ?あんたは誰よ?異国の人間かしら?」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で名前を名乗る。
「えっ…私は…アクアヴィーナスです…」
「彼女は人魚王国…アクアユートピアの人魚で私の悪友よ♪人一倍気弱だから意地悪しないでね♪」
「あんたは人魚なのね…」
(彼女…取っ付き難そうな性格だわ…根暗っぽいし仲良く出来なさそうね…)
氷麗姫は内心アクアヴィーナスと仲良くするのは困難であると感じる。桜花姫は周囲を確認する。
「全員集合したわね♪」
桜花姫は一息するなり…。
「今回は恐らく今迄の戦闘とは比較出来ない大激戦が予想されるわ…自宅に戻りたかったら遠慮せずに戻りなさい…無理強いしないから…」
桜花姫の発言に一同は即答する。
「私は桜花姫様に同行しますよ♪」
「私だって!」
「戻っても退屈だからね…協力するわ♪」
アクアヴィーナスも小声で返答する。
「私も…同行するわ…桜花姫…」
霊魂巨神木の精霊も…。
「貴様の奮闘…見届けるか…」
桜花姫の発言に一同は覚悟する。
(あんた達♪)
「成立ね♪」
桜花姫は内心大喜びしたのである。
「早速天空山の頂上に移動するわよ…」
桜花姫は口寄せの妖術を発動する。自分自身の肉体と一同を天空山の頂上を目標にテレポート…。桜花姫一同は目的地である天空山の頂上へと無事に移動出来たのである。
「口寄せの妖術…成功♪」
「天空山の頂上ですか…」
「私達…一瞬で…」
周囲を眺望すると太平神国の村里全域が眺望出来る。
「絶景の景色だわ♪今日が観光だったら最高なのに…」
観光なら最高であると発言する氷麗姫に桜花姫が笑顔で…。
「冥王鬼を片付けてから思う存分観光しちゃえば♪」
「冥王鬼は?」
すると一同の背後より一人の小柄の女性が佇立する。
「貴様達は幸運だな…」
「冥王鬼!?」
一同は背後の冥王鬼に驚愕したのである。
「貴様達…儀式を開始する…」
「儀式ですって?一体何を?」
桜花姫が問い掛けると冥王鬼はニヤッとした表情で…。
「月影桜花姫よ…天道眼の本当の効力を直視するのだ…」
「天道眼の本当の効力ですって?」
精霊は身震いし始める。
「此奴は危険だ!」
普段は物静かな霊魂巨神木の精霊であるが…。非常にソワソワした様子であり一同は絶句する。
「一体如何しちゃったのよ!?」
「全員…死にたくなければ私か桜花姫の肉体に接触するのだ!」
「えっ…」
混乱した一同であるが三蔵郎と氷麗姫には精霊が接触…。アクアヴィーナスと小猫姫には桜花姫が接触したのである。すると数秒後…。冥王鬼は再度天道眼を発動する。
「神族を除外する地上界の愚劣なる生命体…冥界の愚劣なる亡者達よ…神族の神世界から完全に浄化せよ…」
直後である。地上界全域の人間達は勿論…。あらゆる生命体が粒子状の発光体に変化するなり消滅したのである。アクアユートピアではウェンディーネが消滅し始める自身の肉体に恐怖する。
「えっ!?全身が…」
ウェンディーネは肉体諸共消滅したのである。国境のスキュランはアクアユートピア全体をシールド魔法で守護するのだが…。彼女は恐る恐る消滅し始める自身の肉体を直視したのである。
「消滅の魔法かしら…」
(私…二度も殺されるのね…)
消滅の恐怖よりも空虚に感じられる。深海底のアクアユートピアの人魚達は勿論…。海中の生物達も消滅したのである。同時刻…。死後の世界である地獄では亡者達が粒子状の発光体に変化したのである。
「はっ?」
地獄の住人である鬼殺丸は周囲の悪霊が消滅する光景を直視する。
「亡者達が…」
周囲の悪霊が粒子状の発光体に変化…。消滅したのである。
「一体何が発生しやがった?ん?」
自身の肉体を直視すると無数の粒子状の発光体へと変化…。肉体が消滅し始める。
(畜生が…俺も消滅するのか…)
鬼殺丸も消滅したのである。死後の世界である地獄は虚無の世界であり亡者は誰一人として存在しない。同時刻…。天空山の頂上では冥王鬼が桜花姫一行を凝視する。
「非常に残念だな…貴様達だけは無事だったか…」
すると氷麗姫が恐る恐る…。
「えっ…一体何が発生したのよ!?」
問い掛けられた冥王鬼は即答する。
「何が発生したか?神族を除外する低次元の種族を…存在諸共消滅させたのだ…」
冥王鬼の発言に一同は絶句したのである。
「なっ!?」
「存在を…消滅ですって!?」
「地上界の下等生物達は無論…冥界の薄汚い亡者達も全員駆除したからな…神族の支配する神世界に薄汚い害虫の存在は相応しくない…駆除して当然であろう?」
冥王鬼の発動した消滅の効力により地上界は勿論…。死後の世界である冥界は無人地帯であり今現在無事なのは桜花姫一行だけである。
「天道眼と神通力を所持する桜花姫と霊魂巨神木を駆除出来なかったのは非常に残念だ…貴様達は幸運だったな…」
天道眼に対抗出来るのは神通力か天道眼を所持する妖女か霊魂巨神木のみであり冥王鬼の消滅の効力でも桜花姫と霊魂巨神木は消滅を無効化…。無事だったのである。
「えっ…ウェンディーネ母様は?」
恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスに冥王鬼は即答する。
「勿論アクアユートピアの人魚達も消滅した…」
「えっ…ウェンディーネ母様が…」
(死んじゃったの…)
「アクアヴィーナス…」
アクアヴィーナスは落涙したのである。
「勿論人魚の貴様も仕留めるから安心しろ…」
冥王鬼の横暴さに腹立たしくなった三蔵郎は即座に護身用の連発銃を所持…。
「冥王鬼!」
「えっ!?三蔵郎様!?」
周囲の者達は三蔵郎の様子に吃驚する。
「何が神族ですか!?何が神世界ですか!?神族であっても貴女様みたいな極悪非道の大悪党は絶対に看過出来ません!」
三蔵郎は鬼神の表情であり冥王鬼を睥睨したのである。
「えっ…」
(普段は誰よりも仏様みたいな三蔵郎様が…)
桜花姫は勿論…。
(えっ…三蔵郎様…仁王様みたい…)
(三蔵郎って…こんな人物だったっけ?)
小猫姫と氷麗姫も睥睨する三蔵郎に畏怖したのである。桜花姫は恐る恐る…。
「三蔵郎様…あんまり彼女を挑発すると…」
「ですが桜花姫様!彼女は大勢の民衆達を消滅させた極悪非道の大悪党なのですよ!今回の大罪は神族であっても絶対に許容出来ません!」
「三蔵郎様…相手は神族なのよ!?彼女に反抗すれば三蔵郎様が殺されちゃうわ…」
桜花姫は必死に三蔵郎を制止するのだが三蔵郎は只管に怒号する。
「冥王鬼!今回ばかりは私が神族である貴女様を征伐します!」
怒号し続ける三蔵郎に冥王鬼は呆れ果てる。
(人間風情が…)
「貴様は命知らずだな…人間の分際で天道眼を所持する私を征伐すると?片腹痛いわ…」
三蔵郎は最早後戻りが出来ないと覚悟する。
(一か八か…)
「冥王鬼…覚悟!」
三蔵郎は一か八か冥王鬼に連発銃を発砲したのである。
「所詮人間の玩具で…」
(無謀だな…)
冥王鬼は木刀でガードするのだが…。
「はっ!?」
連発銃の弾丸は木刀を屈折させ冥王鬼の胸部を貫通したのである。
「ぐっ…貴様…」
冥王鬼は口先から吐血する。
「えっ…」
一同は予想外の事態に再度絶句したのである。
「冥王鬼の…木刀が…」
本来なら鋼鉄をも両断出来る冥王鬼の木刀であるが…。一発の銃弾によって簡単に屈折したのである。三蔵郎は身震いした表情で恐る恐る…。
「冥王鬼…最後の最後で油断しましたね…油断大敵ですよ…」
すると桜花姫が不思議そうな表情で問い掛ける。
「如何して三蔵郎様の連発銃で…冥王鬼の木刀が簡単に屈折したのかしら?」
桜花姫の疑問に三蔵郎は即答する。
「彼女の木刀は恐らく小面蜘蛛と同質の素材で形作られた代物でしょう…」
冥王鬼の木刀は霊魂巨神木の小枝で形作られた代物である。冥王鬼の木刀は妖力を吸収出来る反面…。妖力を使用しない攻撃には無力である。
「彼女の木刀は妖力を吸収出来るかも知れませんが…妖力を使用しない攻撃なら通用するかも知れないと予想したのです…」
「人間である私の父様は此奴に殺されたのよ…」
すると霊魂巨神木の精霊が解説する。
「恐らくだが当時…貴様の父親…月影夜叉丸が彼女に殺害されたのは装備品の木刀に自身の神力を混入させたのであろう…」
冥王鬼の木刀は自身の神力を混入すると鋼鉄をも両断出来る。真逆に神力を混入しなければ単なる木刀同然である。
「完全に油断だったのね…」
「正直…一か八かの大博打でしたが…」
三蔵郎自身は大博打であり冥王鬼に反撃されるのを覚悟で発砲…。冥王鬼に殺害されるのは覚悟したのである。三蔵郎の大博打で胸部を怪我した冥王鬼であるが…。自身の神力により傷口を治癒させる。
「貴様等…地上界の存在で…全員死滅させる!」
冥王鬼は口寄せにより周囲の地面から三体の小面蜘蛛を出現させたのである。
「蜘蛛の怪物!?」
「ひっ!小面蜘蛛だわ!?」
「桜花姫姉ちゃん!撃退出来ないの!?」
三体の小面蜘蛛は桜花姫一行の周囲を包囲する。
「三体の小面蜘蛛よ!二人を除外して四人は妖女だ!食い殺せ!」
小面蜘蛛は死亡した神族の霊魂が器物に憑霊した悪霊である。霊魂巨神木から誕生した器物の存在であり妖力は通用しない。
「如何するのよ!?桜花姫!?小面蜘蛛には妖術は通用しないわよ!」
桜花姫以外の二人の妖女は勿論…。アクアヴィーナスはビクビクするなり力一杯桜花姫に密着する。妖女が小面蜘蛛を仕留めるのは実質困難であり妖力を使用しても吸収されるだけである。
「桜花姫様…武器を使用しても三体の小面蜘蛛を同時に相手では…」
正直多勢に無勢であり武器を所持する三蔵郎だけで三体の小面蜘蛛を仕留めるのは実質不可能…。桜花姫は一瞬瞑目する。
「一か八か…」
(口寄せの妖術…発動!)
桜花姫は神通力を駆使しなければ発動出来ない口寄せの妖術を使用したのである。自身の細胞を三体の小面蜘蛛の体内に口寄せする。桜花姫の様子に冥王鬼は恐る恐る…。
「ん?貴様…一体何を発動した?妖術を駆使しても小面蜘蛛には通用しないぞ…」
「単なる大博打よ…」
桜花姫は即答する。
「大博打だと?」
すると数秒後…。三体の小面蜘蛛がポンッと白煙に覆い包まれる。
「なっ!?小面蜘蛛が…」
白煙に覆い包まれた三体の小面蜘蛛が三人の桜花姫に変化したのである。
「えっ!?如何して桜花姫が…」
「桜花姫姉ちゃんが三人も!?」
「ひょっとして彼女達は…桜花姫様の分身体でしょうか?」
「如何して蜘蛛の怪物が桜花姫に変化したのかしら?」
突然の出来事に一同は驚愕する。すると冥王鬼は桜花姫に睥睨するなり…。
「貴様…小面蜘蛛の体内に異物を混入させたな?」
桜花姫は笑顔で即答する。
「口寄せの妖術で小面蜘蛛の体内に私自身の細胞を混入させたのよ♪」
彼女は口寄せの妖術で自身の細胞を小面蜘蛛の体内に混入…。侵食させ自身の分身体に変換させたのである。
「小面蜘蛛の肉体を利用して自身の分身体を形作るとは…貴様は小娘の外見とは裏腹に中身は怪物同然だな…」
冥王鬼の怪物発言にピリピリする。
(地上界の女神様である私を怪物ですって…)
「私の分身体!彼女の身動きを封殺しなさい!」
三体の分身体は冥王鬼に金縛りの妖術を発動…。
「ぐっ…」
冥王鬼は完全に身動き出来なくなる。
(木刀さえ破壊されなければ…畜生…)
最早木刀が無くなった状態では天道眼を所持しても桜花姫と三体の分身体に対抗するのは不可能である。
(神世界の再興は間近なのに…私はこんな小娘に殺されるのか…)
桜花姫は一歩ずつ身動き出来なくなった冥王鬼に近寄る。すると小猫姫が大声で…。
「桜花姫姉ちゃん!彼女を殺さないで!」
「えっ?小猫姫?」
制止する小猫姫に一同と冥王鬼はハッとした表情で小猫姫に注目する。
「冥王鬼は蛇骨鬼婆ちゃんの友人なのよ…彼女を殺しちゃったら蛇骨鬼婆ちゃん…絶対に悲しんじゃうよ…」
小猫姫は落涙したのである。すると桜花姫は笑顔で返答する。
「大丈夫よ♪小猫姫♪私は彼女を救済したいの♪蛇骨鬼婆ちゃんと約束したからね♪安心しなさい♪」
桜花姫は金縛りの妖術を解除…。解放したのである。
「えっ!?桜花姫!?折角此奴の身動きを封殺したのに…金縛りを解除しちゃうの!?」
アクアヴィーナスは警戒したのか恐る恐る後退りする。
「大丈夫よ♪アクアヴィーナス♪彼女は大分弱体化したわ♪抵抗しないわよ…」
冥王鬼は先程の消滅の効力により神力を消耗…。最早抵抗出来ない状態である。冥王鬼はバタッと横たわる。
「大丈夫!?冥王鬼!?」
小猫姫が近寄る。冥王鬼は恐る恐る直視するなり…。
「小娘…敵対者である私を庇護するとは…」
「あんたは蛇骨鬼婆ちゃんの友人でしょう?庇護するのは当然だよ…」
小猫姫の発言に冥王鬼は苦笑した様子で返答する。
「貴様は蛇神の蛇骨鬼の知人か?神族の一員なのにこんな小娘と交流したのか…蛇骨鬼は…」
冥王鬼は蛇骨鬼に呆れ果てる。
「蛇骨鬼婆ちゃんにとって…私と桜花姫姉ちゃんは孫娘なの…」
「貴様達が…孫娘だと?」
すると小猫姫は再度涙が零れ落ちる。
「貴様…」
冥王鬼は恐る恐る小猫姫に問い掛ける。
「蛇骨鬼は?」
「蛇骨鬼婆ちゃんは…老衰で死んじゃったよ…」
「老衰か…」
(蛇骨鬼…)
冥王鬼は無表情であり沈黙したのである。沈黙する冥王鬼に桜花姫は再度問い掛ける。
「冥王鬼…如何するのよ?今度こそ私と勝負する?」
問い掛けられた冥王鬼は一瞬苛立つも…。
(今更桜花姫と勝負しても…)
「降参するよ…最早神力も空っぽの状態だ…こんな状態では貴様と勝負しても敗北するだけだからな…」
不本意であるが冥王鬼は降参する。
「あんた♪意外と潔白なのね♪」
(此奴…)
冥王鬼はヘラヘラする桜花姫にピリピリしたのである。すると三蔵郎は恐る恐る…。
「冥王鬼?貴女の神力で消滅された村人達を元通りには戻せませんか?」
問い掛けられた冥王鬼は一瞬困惑したのである。
「あんた…今度も私達に手出しするの?」
桜花姫が問い掛けると冥王鬼は彼女に睥睨するなり…。
「私の敗北だ…神世界の再興を実現出来ないのは残念だったが…人間達への復讐は達成したからな…今更貴様達に手出ししても無意味だ…」
冥王鬼の様子に一同はホッとする。
「再生は可能なのですか?」
「再度天道眼を発動すれば消滅した生命体を復活させられるが…生憎私には神力が消耗した状態だ…再度復活させるには莫大なる神力を回復させなくては…」
すると桜花姫が恐る恐る…。
「私にも出来ないかしら?」
桜花姫の問い掛けに冥王鬼は無表情で返答する。
「貴様自身も神族の眼光を所持する最上級妖女であるが…相当の妖力が必要不可欠だ…場合によっては術者が衰弱死するかも知れない…」
「えっ…」
「術者が…衰弱死ですと…」
桜花姫以外の一同は衰弱死の一言にビクッと反応したのである。
「あんた達♪心配しなくても私なら大丈夫よ♪」
「ですが桜花姫様…」
「あんたが死んじゃったら…」
「桜花姫姉ちゃんが死んじゃったら私…今度こそ…」
「あんた達…」
極度に心配する一同に困惑する。すると直後…。
「きゃっ!」
「地響きです!」
「今度も地震かしら!?」
再度グラグラッと地響きが発生したのである。
「なっ!?」
三蔵郎は東方の海面上に直視する。
「桜花姫様!?東海の海面上に岩石の巨島が此方に接近中です!」
海面上には標高のみでも天空に到達する規格外の巨大移動物体が出現…。
「岩石の巨島ですって?」
桜花姫も岩石の巨島に注目したのである。
「えっ…何かしら?」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で桜花姫に密着する。
「アクアヴィーナス?大丈夫?」
「ひょっとして私が深海底で遭遇した…海亀の怪物かしら…」
「えっ…海亀の怪物?彼奴が…」
巨大移動物体は全体的に海亀の形状であり全身は凸凹した岩石の肉体…。尻尾の部分は巨大海蛇であり背中の甲羅部分には無数の巨大人面が確認出来る。
「地震の正体は彼奴だったのね…」
先程から自身が頻発したのは怪物が世界各地で暴れ回った影響である。すると冥王鬼が恐る恐る…。
「魔獣…羅刹獣だな…」
羅刹獣の一言に霊魂巨神木の精霊が反応する。
「羅刹獣だと?此奴が天空から出現した旧世界の魔獣か…こんなにも規格外の怪物だったとは…」
「羅刹獣は神族でも十二人の最高神が全身全霊で封印した規格外の怪物だぞ…封印解除直後であれば私一人でも仕留められる程度の実力だったが…」
氷麗姫は恐る恐る問い掛ける。
「えっ…彼奴はあんたでも仕留められないの!?」
「残念だが…」
羅刹獣は先程よりも魔力が増大化…。最早全盛期に匹敵する状態だったのである。
「こんなにも急速に魔力が増大化するとは予想外だった…」
(世界各地の大陸を暴食したのか?)
氷麗姫が恐る恐る問い掛ける。
「如何すれば彼奴を仕留められるのよ!?彼奴を仕留める方法とか…」
「私に神力が戻れば…一か八か…」
桜花姫が笑顔で…。
「私が羅刹獣を仕留めるわ♪」
仕留めると断言した桜花姫であるが周囲の者達は猛反対する。
「桜花姫様!?本気なのですか!?相手は全世界を破壊し兼ねない規格外の怪物なのですよ…」
「今回ばかりは桜花姫姉ちゃんでも…」
「あんた達は心配性ね♪私は最上級妖女なのよ♪今回だって大丈夫よ!」
周囲の者達の反応に桜花姫は只管笑顔で返答したのである。すると霊魂巨神木の精霊がボソッと一言…。
「仙女に覚醒すれば…」
「えっ?仙女ですって?」
一同は精霊に注目する。
「桜花姫が今度も仙女に覚醒出来れば…羅刹獣を仕留められる確率が上昇するかも知れない…」
「私が仙女に…」
半年前の霊魂巨神木との戦闘を想起したのである。
「桜花姫様が仙女に覚醒出来れば…羅刹獣を征伐出来るのですね!」
「完全に仕留められるかは断言出来ないが…何も実行しないよりは…」
桜花姫は精霊に近寄るなり…。
「早速仙女に覚醒するわ!一体如何すれば仙女に覚醒出来るかしら?」
問い掛けられた精霊は一瞬沈黙するも発言し始める。
「特定の妖女が仙女に覚醒するには莫大なる妖力は勿論…瞳術の天道眼が必要不可欠だ…貴様自身の妖力のみでは力不足であるからな…仙女に覚醒するのであれば周囲の者達の妖力を存分に吸収しろ…」
「妖力を吸収?」
桜花姫は背後の氷麗姫と小猫姫は勿論…。アクアヴィーナスを直視する。
「如何やら今回はあんた達の妖力が必要みたいね…」
すると小猫姫は笑顔で…。
「桜花姫姉ちゃん♪私の妖力…吸収して…」
小猫姫は桜花姫の左手に接触すると急速に妖力を消耗したのである。
「ぐっ!」
「小猫姫…大丈夫?」
心配する桜花姫であるが…。小猫姫は笑顔で返答する。
「私なら大丈夫よ♪桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫の妖力は非常に莫大であり彼女の妖力を吸収すると今迄よりも桁外れの妖力が体内に蓄積される。すると氷麗姫は恐る恐る…。
「止むを得ないわね…私の妖力も吸収しなさい…」
氷麗姫は右手で桜花姫の胸部に接触したのである。
「いや〜ん♪」
「桜花姫♪あんたのおっぱいって…饅頭みたいね♪」
(氷麗姫…意外と助平なのね…)
乳房の接触により桜花姫は赤面する。
「なっ!?」
三蔵郎は赤面するも…。即座に瞑目したのである。必死に瞑目する三蔵郎に小猫姫は笑顔で…。
「三蔵郎様って意外と助平だね♪」
「えっ!?私は…別に…何も…」
三蔵郎は必死に誤魔化すものの赤面したのである。桜花姫の乳房を弄った氷麗姫であるが…。
「ぐっ…」
(桜花姫の吸収力は絶大ね…)
体内の妖力を吸収され数十秒で妖力の大半を消耗したのである。今度はアクアヴィーナスが近寄るなり…。
「桜花姫…私の魔力…吸収して…」
「アクアヴィーナス…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子であり恐る恐る桜花姫の右手に握手したのである。
「ぐっ!」
体内の魔力が急速に消耗…。桜花姫の体内へと吸収されたのである。
「御免ね…アクアヴィーナス…」
桜花姫はアクアヴィーナスに謝罪する。
「大丈夫よ…桜花姫…気にしないで♪」
アクアヴィーナスは重苦しい状態だが…。笑顔で返答したのである。
「妖力は蓄積されたわ♪あんた達…感謝するわね♪」
桜花姫は彼女達に謝礼する。今度は三蔵郎を直視するなり…。
「三蔵郎様…」
「如何されましたか?」
霊斬刀を手渡したのである。
「返却するわね…今現在の私には不要みたい…」
「承知しました…桜花姫様…」
すると直後…。桜花姫の全身がピカッと光り輝いたのである。
「なっ!?桜花姫様の肉体から閃光が…」
「一体何が…」
突然の彼女の発光に一同は瞑目する。数秒後…。周囲の者達が桜花姫に注目するが頂上の中心部には球状の発光体が確認出来る。
「発光体だわ…」
「桜花姫は?」
すると球状の発光体が女体を形成するなり…。巫女装束の女神へと変化したのである。
「えっ…女神様?」
「彼女は天女でしょうか…」
彼女は両目を瞑目した様子であり頭部には金冠…。背後の背中には円形の光背が確認出来る。三蔵郎は恐る恐る…。
「貴女様は…桜花姫様でしょうか?」
女性は三蔵郎を直視するなり笑顔で返答する。
「私よ♪桜花姫よ♪」
「桜花姫様ですか!?一瞬女神様かと…」
彼女は女神様の一言に赤面…。
「私が女神様なんて♪三蔵郎様は大袈裟ね♪」
内心では大喜びしたのである。
「あんた…桜花姫なの?別人みたいだわ…」
「普段よりも大人っぽいわね…」
氷麗姫とアクアヴィーナスも仙女である彼女に見惚れる。すると精霊が桜花姫に近寄るなり…。
「如何やら成功だな…月影桜花姫よ…今現在の貴様は半年前の貴様よりも強大であるぞ…今現在の貴様は百人力?千人力の妖女だな…」
「私は最上級妖女だから当然よ♪今回は小猫姫以外にも…氷麗姫とアクアヴィーナスの妖力も吸収したからね♪」
今迄で最大級の妖力を所持する。
「今現在の貴様であれば羅刹獣とも思う存分対抗出来そうだ…」
「勿論よ♪」
今度は冥王鬼が近寄る。
「月影桜花姫…貴様の神族の眼光と私の神力…吸収しろ…」
「えっ…冥王鬼…」
冥王鬼の表情を直視すると彼女の表情は先程の殺伐とした雰囲気は感じられない。
(彼女…仏様みたいな雰囲気ね…)
意外であると感じる。
「私は貴様の父親を殺害したからな…今現在の私に出来る唯一の贖罪だ…」
桜花姫はニコッと微笑む。
「気にしないで♪父様の一件は私の誕生日の前日の出来事でしょう♪私は気にしないから大丈夫よ♪」
「えっ…桜花姫様…」
「桜花姫姉ちゃん…」
「あんたは父親が殺されたのに…気にしないって…」
「桜花姫…彼女にとって家族の基準とは…」
気にしないと発言する桜花姫に周囲の者達は一瞬ドン引きしたのである。
「兎にも角にも…私は彼奴を仕留めるわね♪」
桜花姫は飛空の妖術を発動…。肉体が空中へと浮遊したのである。
「桜花姫様…御無事で…」
「桜花姫姉ちゃん!頑張って!」
「あんたらしく大暴れしなさいよ♪桜花姫♪」
一同は天空の桜花姫を見届ける。同時刻…。羅刹獣は太平神国に接近したのである。
「アトハココダケダ!チッポケナシマグニダガ…イガイトカミゴタメハアリソウダゾ…」
すると背中の甲羅部分の人面が発言し始める。
「此奴は島国か?小規模の島国だか…無数の生命体の気配を感じる…」
「生命体か♪こんな小規模の島国にも生命体が存在するのか?此奴は久方振りに満足出来そうだな♪」
「リクチノガイチュウモロトモシマグニヲクッテヤルゼ♪」
太平神国へと直行する羅刹獣であるが…。
「羅刹獣!あんたの相手は私よ!」
「ん!?」
「誰だ?」
「彼奴は?」
甲羅の無数の巨大人面が天空を浮遊する桜花姫を直視したのである。
「彼奴は天女の小娘か…」
「天女の小娘から妖力と神通力を感じるぞ…」
「天女の小娘が相手とは面白そうだ♪早速天女の小娘を打っ殺そうぜ♪」
甲羅の無数の巨大人面が会話し始める。すると前方の巨大海亀の頭部と尻尾部分の巨大海蛇が上空の桜花姫を直視したのである。
「アイツハテンニョノコムスメカ!?キサマハナニモノダ!?」
問い掛けられた桜花姫は即座に名前を名乗る。
「私は最上級妖女の月影桜花姫よ!羅刹獣!あんたを征伐するわ!」
征伐すると断言した桜花姫に甲羅の巨大人面の一部が反応したのである。
「貴様が私を征伐するだと?片腹痛いわ…」
「小娘は余程の命知らずみたいだな…手始めに天女の小娘を死滅させるか…」
すると海亀の頭部が再度発言する。
「シマグニヲクウノハアトマワシダ!マズハテンニョノコムスメカラブッコロシテヤルゼ!」
直後…。甲羅の無数の巨大人面が上空の桜花姫を直視するなり口部を開口したのである。
「一体何を?」
桜花姫は警戒する。直後である。
「トットトシニヤガレ!」
甲羅部分の無数の巨大人面が無数の火球を発射する。一発一発の火球は数十メートル規模であり大気圏上空にて爆散…。上空全体に大陸をも消滅させる大爆発と衝撃波が何百発も頻発したのである。桜花姫は上空を直視する。
(規格外の威力だわ…羅刹獣の火球が一発でも太平神国に直撃すれば陸地は完全に消滅するわね…)
すると一発の火球が上空の桜花姫に急接近…。
「なっ!?」
桜花姫は咄嗟に妖術を発動する。
(止むを得ないわね…)
異次元転送の妖術を発動…。自身に急接近する火球がパッと消滅したのである。火球は異次元空間へとテレポート…。異次元空間にて爆散する。
「危機一髪だったわ…」
羅刹獣の火球は一国をも消滅させる威力であり妖力の防壁でも防ぎ切れるか正直未知数だったのである。
「シブトイコムスメダナ!ヨウジュツデオレノコウゲキヲカイヒシヤガッタカ…」
すると甲羅の巨大人面が発言する。
「ひょっとすると天女の小娘は太古の最高神以上に厄介かも知れないな…」
甲羅の巨大人面は仙女の桜花姫を警戒したのである。
「勿論私は最上級妖女なのよ!即刻あんたを片付けちゃうから安心しなさい♪」
桜花姫の発言に苛立ったのか羅刹獣の海亀の頭部がギロッと天空の彼女を睥睨する。
「コイツ…コムスメノブンザイデ…ナメヤガッテ…ドウヤラコムスメハオレニコロサレタイミタイダナ…」
「今度は私が反撃するわよ!」
桜花姫は両手より神通力を凝縮…。高熱の雷球を形成したのである。
「死滅しなさい!」
羅刹獣の背中の甲羅を目標に高熱の雷球を発射…。背中の甲羅に直撃させたのである。
「直撃したわ!」
直撃したと同時に周辺がピカッと発光…。数十キロメートルもの大爆発を発生させたのである。地上界全域に衝撃波が発生…。絶大なる破壊力により天空山の頂上から桜花姫の奮闘を見守る一同も彼女の神通力に愕然とする。
「桜花姫様…神話の領域ですね…」
「現実なのかしら…」
「異次元の領域だわ…」
桜花姫の荒唐無稽の戦闘に恐怖すら感じる。同時刻…。桜花姫は爆心地を眺望する。
「羅刹獣は?えっ…」
羅刹獣は無傷であり掠り傷すら皆無だったのである。
「コノテイドノコウゲキリョクカ?キサマゴトキ…ショボイヨウジュツデハオレヲタオスコトハデキナイ…」
甲羅の巨大人面も桜花姫を直視…。失笑し始める。
「所詮貴様は小娘だ…」
「貴様程度の神通力では私は仕留められないぞ…」
(羅刹獣…予想以上に頑強ね…)
羅刹獣の肉体は金剛石をも上回る強度であり外部から羅刹獣の皮膚を直接破壊するのは困難である。桜花姫は羅刹獣の様子を直視するなり…。
(此奴の体内から何百体…何千体もの神族の怨念を感じるわ…)
古代の神族との大戦で羅刹獣は数百体から数千体もの神族を食い殺したのである。彼等の怨念が桜花姫を気味悪がらせる。
(羅刹獣を仕留めるには体内の神族の怨念を浄化しないと仕留められないわね…)
すると羅刹獣は海亀の頭部…。甲羅の無数の人面と尻尾の海蛇から雷撃の光線を全身から拡散…。発射したのである。
「えっ!?」
桜花姫は即座に神通力の防壁を発動…。雷撃の光線をガードしたのである。拡散された雷撃の光線は天空山の頂上にも発射される。危機を察知した桜花姫の三人の分身体が妖力の防壁を発動…。雷撃の光線から一同を守護したのである。一人の分身体が背後を直視…。
「大丈夫かしら?」
分身体の問い掛けに三蔵郎は笑顔で返答する。
「大丈夫ですよ♪感謝します…桜花姫様の分身体♪」
三蔵郎は一礼したのである。すると氷麗姫が恐る恐る…。
「こんな戦闘…全世界が滅亡しても可笑しくないわね…大昔の神族はこんな怪物を封印したのよね?」
霊魂巨神木の精霊が返答する。
「神族でも最上級に君臨する十二人の最高神でも…羅刹獣を封印するのが精一杯だった…神力の消耗と戦闘による後遺症で最高神は全滅したからな…」
「桜花姫姉ちゃん…大丈夫かな?一人で羅刹獣を征伐出来るのかな?」
小猫姫は非常に不安がる。
「大丈夫よ…桜花姫なら…」
普段は小心者のアクアヴィーナスであるが…。大丈夫だと断言する。
「数週間前の出来事だけど私の祖国…アクアユートピアは極悪非道の魔女と無数のアンデッドに侵略されちゃったけど彼女の奮闘でアクアユートピアに平和が戻ったのよ…今回だって大丈夫よ…」
「えっ!?桜花姫様が貴女様の祖国を?」
三蔵郎は勿論…。一同は驚愕したのである。
「桜花姫…彼奴は私達に内緒で…」
「桜花姫姉ちゃんが異国でも悪霊を征伐したなんて…」
「恐らく彼女に私達の常識なんて通用しないわ…」
アクアヴィーナスの発言に精霊も賛同する。
「彼奴は存在自体が荒唐無稽だ…多分私達の常識は通用しないだろう…予想を裏切るであろうな…」
普段は無表情の精霊であるが…。僅少にも苦笑いする。三蔵郎は笑顔で…。
「兎にも角にも…私達に出来るのは桜花姫様の勝利の祈願です!桜花姫様の勝利を精一杯祈願しましょう♪」
同時刻…。
(直接攻撃は通用しないし…如何すれば?)
困惑した桜花姫であるがハッとしたのである。
(霊魂巨神木の悪霊を浄化させた…秘術は如何かしら?)
半年前の霊魂巨神木に憑霊した悪霊の集合体を浄化させた秘術…。日輪光を想起したのである。
(日輪光だったら…羅刹獣の体内の怨念を浄化出来るかも知れないわ…)
羅刹獣に通用するかは未知数だが…。一か八か日輪光の使用を決意する。桜花姫は両目を瞑目させる。突如として両目を瞑目させる桜花姫に羅刹獣は警戒したのである。すると甲羅の人面が会話し始める。
「ん?彼奴…一体何を?」
「小娘は恐怖で身動き出来なくなったか?」
海亀の頭部が返答する。
「イヤ…コイツハフシゼンダゾ…ナニカハジメルツモリダ…コムスメハナニカタクランデイヤガルニチガイナイゾ…」
「小細工か…」
桜花姫は再度両目を開眼させる。
「今度こそあんたを仕留めるわ!羅刹獣!」
「オレヲシトメルダト?キサマテイドノヨウジュツデハオレハシトメラレナイゾ…モハヤウツテガナイキサマガ…ドウヤッテオレヲシトメルトイウノダ?」
桜花姫は両手より神通力を凝縮…。虹色の粒子状の発光体が桜花姫の両手より収縮されたのである。
「ン?キサマ…イッタイナニヲスルキダ?」
直後…。
(秘術…)
「日輪光…発動!」
あらゆる怨念を浄化させる日輪光を発動する。両手に収縮された神通力の閃光を発射したのである。日輪光は羅刹獣の甲羅に直撃…。周囲全体が虹色に光り輝いたのである。光り輝く虹色の閃光に三蔵郎は感動…。涙腺より涙が零れ落ちる。
「神聖なる閃光ですね…桜花姫様でしょうか?」
「桜花姫姉ちゃんの…妖術なの?」
「彼女の発動したのは秘術…日輪光だ…」
精霊が解説する。
「日輪光って?」
「日輪光とは成仏出来ない亡者達を浄化させる史上最強の最終奥義だ…私も半年前に彼女の日輪光で悪霊の集合体から解放されたのだ…」
「彼女が…霊魂巨神木を…」
冥王鬼は桜花姫に対する認識が変化し始める。
(彼女なら…)
同時刻…。桜花姫によって日輪光を発射された羅刹獣だが怯まない。
「ナンダ?タダノヒカリカ?イタクモカユクモナイゼ!」
日輪光は怨念を浄化させる閃光であり殺傷能力は発揮されない。
(大丈夫…羅刹獣の体内の怨念は着実に弱体化したわ…)
桜花姫は冷静であり羅刹獣は不思議がる。
「ン?コムスメ?」
(レイセイダナ…)
数秒後…。
「神族の怨念!浄化されなさい!」
全力で日輪光を照射したのである。すると羅刹獣の全身より数千体もの神族の霊魂が出現…。日輪光の閃光により浄化されたのである。
「ナッ!?シンゾクノタマシイガ…ジョウカサレタダト!?」
体内の神族の霊魂は浄化され羅刹獣は弱体化…。甲羅の人面も沈黙したのである。
「羅刹獣…弱体化したわね♪」
「キサマ…」
羅刹獣は天空の桜花姫を睥睨する。
「観念しなさい…」
「コムスメガ…ナメタマネヲシヤガッテ!」
「古代の魔獣…あんたは桜餅に変化しなさい!」
桜花姫は変化の妖術を発動したのである。規格外の巨大さの羅刹獣であるが…。変化の妖術の効力により白煙に覆い包まれ小皿と桜餅に変化したのである。
(羅刹獣は桜餅に変化したわね♪)
自分自身に口寄せの妖術を発動…。海面上にて移動したのである。海面上にプカプカと浮動し続ける桜餅を発見する。
「桜餅♪発見♪」
桜餅をパクっと頬張ったのである。
「美味だわ♪」
桜花姫は大喜びする。日輪光の使用によって神通力を消耗するも桜餅を頬張ると消耗した神通力が回復したのである。
「神通力は蓄積されたし♪天空山に戻りましょう♪」
再度口寄せの妖術を発動…。天空山の頂上へと無事戻ったのである。天空山の頂上にて突然ポンっと白煙が発生…。桜花姫が出現する。
「うわっ!桜花姫様!?」
「きゃっ!桜花姫!?」
突如として出現する桜花姫に周囲の者達は愕然とする。
「突然桜花姫姉ちゃんが出現するから吃驚したよ…」
「御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪したのである。
「ですが無事に戻られたのですね…桜花姫様…」
三蔵郎は感動の再会に落涙する。
「三蔵郎様…」
すると霊魂巨神木の精霊が近寄るなり…。
「見事だったぞ!月影桜花姫!十二人の最高神でも封印するのが精一杯だった羅刹獣を一人で征伐するとは…」
「羅刹獣を征伐出来たのは小猫姫達が協力したからよ…私一人では仕留められなかったわ…」
今度は冥王鬼が発言する。
「貴様が最高神を上回ったのは事実だ…最早俗界で貴様と拮抗出来る存在は皆無だぞ…貴様は最強の存在だ…」
「大袈裟ね…」
(私って…本当に最強の存在なのね♪)
内心では大喜びしたのである。今度は小猫姫と氷麗姫が近寄る。
「桜花姫姉ちゃんが無事に戻れたから一安心だよ♪」
「羅刹獣みたいな規格外の怪物を一人で仕留めちゃったからね…私は一生涯桜花姫には反抗出来ないわ…」
「あんた達♪」
するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。
「本当…あんたは私達の常識が通用しないわね…」
「私は地上界の女神様だからね♪」
地上界の女神様を自称する桜花姫に一同は苦笑いする。
「あんた達…如何して苦笑いするのかしら?」
桜花姫はムッとしたのである。数分後…。
「消滅した…人間達…羅刹獣によって破壊された世界各地の大陸を元通りに再生させるわね…」
天地創造の再生の妖術を発動する。冥王鬼によって消滅した人間達やら動物達は勿論…。羅刹獣の暴走で暴食された世界各地の大陸が元通りに再生したのである。
「完了♪消滅した民衆達と破壊された陸地が元通りに戻ったわ♪」
「桜花姫様…本物の女神様ですな…」
最早天道の領域であり一同は愕然とする。
「事件は無事に解決したわ♪戻りましょう♪」
戻ろうかと思いきや…。桜花姫は極度の疲労によりバタッと横たわる。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?」
「桜花姫様!?」
「桜花姫!?」
神通力の消耗からか仙女の姿形から元通りの桜花姫に戻ったのである。
「桜花姫姉ちゃんが…元通りに…」
すると冥王鬼が恐る恐る接触する。
「安心しろ…彼女は極度の疲労で一時的に衰弱化しただけだ…」
「単純に疲労しただけなのですね…」
「人騒がせね…」
一同は一安心したのである。
「私達の出番は終了ね…」
桜花姫の三体の分身体が自然消滅する。
「えっ…桜花姫様の分身体が…」
「事件が無事に解決したからな…私も退散する…」
今度は霊魂巨神木の精霊が消滅したのである。
「今度は精霊が消滅したわ…」
すると氷麗姫が恐る恐る周囲の者達に問い掛ける。
「あんた達は如何するの?」
三蔵郎は返答する。
「私は寺院に戻りますよ…疲労された桜花姫様を介抱しなくては…」
「私も南国の天女の村里に戻ろうかな♪」
小猫姫は笑顔で返答したのである。アクアヴィーナスはソワソワした表情で…。
「私はアクアユートピアに戻らないと…母様達が心配するし…」
氷麗姫は恐る恐る冥王鬼に問い掛ける。
「あんたは如何するのよ?冥王鬼…」
「私は…」
正直気まずいのか冥王鬼は沈黙したのである。すると小猫姫が笑顔で彼女の両手を接触するなり…。
「冥王鬼姉ちゃん♪私と一緒に居候しない♪」
「えっ!?小猫姫?」
小猫姫の居候発言に氷麗姫は驚愕したのである。冥王鬼は恐る恐る…。
「こんな私で大丈夫なのか?山猫妖女の小猫姫よ…私は大勢の民衆達を消滅させた極悪非道の罪人だぞ…」
困惑した冥王鬼であるが小猫姫は平気そうな様子であり笑顔で返答する。
「消滅しちゃった人間達は元通りに戻れたのよ♪大丈夫よ♪」
「小猫姫…」
無表情の冥王鬼であったが…。彼女は涙腺から涙が零れ落ちる。
(蛇骨鬼…彼女は…小猫姫は人一倍純粋だな…如何して蛇骨鬼が彼女を深愛するのか…理解出来るよ…)
「兎にも角にも…事件は無事に解決したのです♪戻りましょう♪」
三蔵郎は笑顔で発言する。事件が無事に解決すると一同は解散したのである。
メンテ
桜花姫 ( No.43 )
日時: 2021/08/17 09:57
名前: 月影桜花姫

最終話

後日談

羅刹獣との大激戦から一週間後…。事件後アクアヴィーナスは無事にアクアユートピアに帰還したのである。スキュランと母親のウェンディーネにこっ酷く説教され大泣きするも…。翌日には無事を大喜びされる。ギクシャクしたスキュランとの関係も改善され今現在のアクアユートピアは本当の意味で楽園へと変化したのである。一方の氷麗姫は不倫により別居中だった亭主との関係改善に成功…。今現在では本当の夫婦として同居を再開する。一方居候生活を開始した小猫姫と冥王鬼の様子だが…。
「冥王鬼姉ちゃん♪蛇骨鬼婆ちゃんの墓参りしない♪」
「墓参りか…同行するよ…」
冥王鬼は小猫姫と一緒に蛇骨鬼の墓参りに移動したのである。墓場へと到達した彼女達は蛇骨鬼の墓石へと到達する。
「蛇骨鬼婆ちゃん…」
小猫姫は恐る恐る合掌したのである。すると彼女の涙腺より一粒の涙が零れ落ちる。
「小猫姫…」
(彼女にとって蛇骨鬼との死別は相当辛かったのだろうな…)
冥王鬼は恐る恐る小猫姫に接触する。
「冥王鬼姉ちゃん?」
「蛇骨鬼は小猫姫と再会出来て…大喜びだろうよ♪」
「本当かな?」
「勿論だよ…蛇骨鬼にとって小猫姫は最愛の孫娘だからな♪」
「冥王鬼姉ちゃん♪」
「小猫姫には笑顔が一番だな…」
「本当?」
小猫姫に笑顔が戻ったのである。
「戻ろうか?小猫姫…」
「戻ろう♪戻ろう♪」
小猫姫は帰宅途中…。村里の村道にて小柄の若武者の美青年とぶつかったのである。
「きゃっ!」
「うわっ!」
小猫姫と若武者は地面に横たわる。
「小猫姫!?大丈夫か!?」
ぶつかった若武者が恐る恐る…。
「失礼しました!御嬢さん…怪我は?大丈夫ですか?」
若武者は即座に謝罪したのである。
「私は…大丈夫よ…大丈夫だから…心配しないで…」
すると若武者と小猫姫は目線が合致…。
「えっ…」
「はぁ…」
両者は赤面したのである。若武者は内心…。
(俗界にこんな美人さんが存在するなんて…私は俗界の女神様と遭遇したのか!?)
一方の小猫姫も内心ドキドキする。
(如何してこんなに緊張するの!?ひょっとして…)
赤面する小猫姫に冥王鬼は微笑む。
(ひょっとすると小猫姫…恋心か♪)
すると直後である。半透明の白蛇が冥王鬼の背後に出現する。
(なっ!?)
「貴様は蛇神の蛇骨鬼か!?」
「冥王鬼よ…久方振りだね♪」
突如として冥王鬼の背後に出現したのは蛇神の蛇骨鬼だったのである。
「蛇骨鬼…如何して貴様が…」
「単なる挨拶だよ♪久方振りに大昔の悪友に再会したかったのさ♪元気そうで安心したよ…冥王鬼♪」
突然の超常現象に冥王鬼は混乱する。
「混乱するのも当然かね♪大丈夫♪時間は一時的に停止させたから♪」
冥王鬼は恐る恐る小猫姫と若武者を直視するなり…。
「如何やら今現在身動き出来るのは私と蛇骨鬼だけか…」
「蛇骨鬼よ…人一倍人間達を憎悪した貴様がこんなにも変化するとは…予想外だね♪」
「鬱陶しいな…貴様は…」
すると冥王鬼はボソッと小声で…。
「結局私は間違ったのか…」
「結果的に羅刹獣は桜花姫ちゃんによって仕留められた…遅かれ早かれ羅刹獣の封印は脆弱化した状態だったからね♪あんたが封印を解除しなくても封印は自力で解除されただろうよ…」
問い掛ける冥王鬼に蛇骨鬼は否定しなかったのである。
「人間達は野蛮だからね…あんたは今後も抑止力として活動しな♪悪人が出現すれば徹底的に征伐しなよ…勿論殺さない程度に♪」
「私が抑止力か…努力するよ…」
彼女は再度笑顔で…。
「今後も小猫姫と仲良くね♪」
「当然だ…彼女はあんたの孫娘だろう?」
「勿論だとも♪」
蛇骨鬼は笑顔で即答する。
「勿論…桜花姫ちゃんとも仲良くしなよ♪彼女も私の孫娘の一人だからね…」
「なっ!?」
桜花姫の名前にビクッと反応したのである。
(彼奴が蛇骨鬼の孫娘だと!?蛇骨鬼の感性が理解出来ないな…)
冥王鬼は桜花姫の名前にピリピリするが…。
「正直桜花姫は気に入らないが…努力するさ…」
すると突如として蛇骨鬼に肉体が消滅し始める。
「えっ…蛇骨鬼?」
「如何やら時間みたいだね…」
冥王鬼は恐る恐る…。
「消滅するのか…蛇骨鬼…」
「達者でね♪冥王鬼♪」
蛇骨鬼は消滅したのである。
「蛇骨鬼…」
蛇骨鬼が消滅すると停止された時間は再度経過し始める。すると若武者はホッとする。
「御嬢様に怪我が無さそうなので安心しましたよ♪」
若武者は恐る恐る…。
「御詫びなのですが…」
三両の小判を小猫姫に手渡したのである。
「えっ!?三両も!?」
純金の小判に小猫姫は驚愕する。
「怪我が無くても貴女様みたいな女性にぶつかっちゃいましたからね…是非とも貴女様に贖罪しなければ…」
「大袈裟だよ…別に私は大丈夫なのに…」
小猫姫は困惑したのである。
(人間にもこんな若武者が存在するのか…当分は様子見が必要だな…)
人一倍人間を憎悪する冥王鬼であるが…。若武者の行動に彼女は微笑む。すると冥王鬼は笑顔で…。
「人間の若者よ♪貴様は人一倍幸運だな…ぶつかったのが最上級妖女の桜花姫なら貴様みたいな小坊主…簡単に食い殺されただろうよ♪今回はぶつかった相手が小猫姫で幸運だったな…」
「えっ…小猫姫って…」
若武者の表情が変化する。
「貴女様…ひょっとして桜花姫様の妹分の…」
「私は…小猫姫…山猫妖女の小猫姫よ…」
小猫姫は恐る恐る名前を名乗る。すると若武者は大喜びしたのである。
「貴女様が山猫妖女の小猫姫様ですか♪私は小猫姫様が大好きでして…本日が休暇であれば…私と一緒に東国で遊歩しませんか?勿論料金は私が負担しますよ♪」
「えっ…」
(如何するべきなのかな?)
見ず知らずの若武者を相手に小猫姫は困惑するが…。冥王鬼は笑顔で発言する。
「折角の機会だ♪小猫姫よ…勉学として此奴と遊歩したら如何なのだ?」
小猫姫は赤面するが…。
「仕方ないね…」
承諾したのである。すると冥王鬼が若者に睥睨するなり…。
「人間の若武者よ…彼女は人一倍純粋だぞ…彼女を裏切れば私は即刻貴様を惨殺するから覚悟しろよ…」
「ひっ!承知しました…」
冥王鬼の表情に若武者はビクビクする。
(冥王鬼姉ちゃん…)
小猫姫は苦笑いしたのである。同時刻…。氷麗姫は暇潰しに東国の三蔵郎の寺院へと訪問する。
「三蔵郎?」
「誰かと思いきや…貴女様は氷麗姫ですか♪本日は如何されましたか?」
「暇潰しよ♪暇潰し♪」
「暇潰しですか…」
氷麗姫は周囲をキョロキョロしたのである。
「桜花姫は?」
桜花姫の居場所を問い掛けられた三蔵郎は恐る恐る…。
「桜花姫様なら先程桜餅を食べられてから…地獄に出掛けるとか…」
「えっ?地獄ですって?」
氷麗姫は珍紛漢紛だったのである。
「私自身も何が何やら…」
「彼奴は本当に気紛れね…」
同時刻…。
「口寄せの妖術成功♪」
桜花姫は口寄せの妖術により自分自身を死後の世界である地獄に口寄せしたのである。最早口寄せの妖術は死後の世界さえも行き来出来る領域へと到達する。死後の世界である地獄へと到達した彼女は周辺の景色を眺望するなり…。
「地獄は無数の悪霊が出現しそうな雰囲気ね♪」
(悪霊を仕留めるなら最適の場所だわ♪)
地獄の雰囲気にワクワクしたのである。彼女の目前には鬼神の甲冑を装着した武士が存在する。
「久し振りね♪鬼殺丸♪元気だったかしら?」
すると武士は警戒した様子で背後を直視したのである。
「なっ!?貴様は…」
「御免あそばせ♪」
武士は誰であろう地獄の住人…。鬼殺丸だったのである。
「貴様…月影桜花姫か!?二度と地獄へは逆戻りするなと忠告しただろ…」
鬼殺丸は桜花姫を睥睨…。非常に呆れ果てたのである。
「俗界は毎日が平和だから退屈なのよね♪地獄なら思う存分悪霊を征伐出来るし♪」
「貴様は相当の物好きだな…自分から地獄に参上するとは余程の単細胞か?」
すると直後…。周囲の亡者達が生者である桜花姫に気付いたのである。
「地獄の亡者達が生者である貴様に反応しやがったぞ…自分から地獄に参上したのを後悔するぜ…」
再度忠告された桜花姫であるが…。彼女は笑顔で返答する。
「後悔しないわ♪今度の私なら大丈夫よ♪」
「ん?」
(此奴…随分と余裕そうだな…)
桜花姫は余裕の様子であり鬼殺丸は非常に不思議がる。
「私には…」
桜花姫は瞳術である天道眼を発動…。血紅色だった瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。
(桜花姫…)
「瞳孔が瑠璃色に発光するとは…」
「悪霊♪あんた達は桜餅に変化しなさい♪」
周囲の亡者達に変化の妖術を発動したのである。
完結
メンテ
桜花姫※別作品 ( No.44 )
日時: 2021/08/17 10:24
名前: 月影桜花姫

第一話

闇夜

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の妖怪達が出現し始める。五十年後の天地暦四千二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の妖怪達が出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は妖怪達の魔窟であり人間は誰一人として近寄れない。
(何やら無数の妖気が感じられる…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
(普通の人間は近寄れないな…)
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外である。
「妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体は妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。ふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等か…」
総勢数十体もの食人餓鬼に包囲されるも…。三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼を発火させたのである。三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上に落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が妖怪なのは確実であるが敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの妖気を感じる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の妖怪の集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は妖怪の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談♪冗談♪御免あそばせ♪」
笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪でも…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は妖怪の集合体です…正直桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じる。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気!?)
三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾するのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「妖術で先回りしたのですか?」
「勿論♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死する。
「漁船を襲撃したのが海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは…」
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪よ♪」
「あんたが妖怪?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿と大好きな桜餅に変化したのである。
「なっ!?漁船が…」
「桜餅に!?」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは本物の妖怪なのか?」
「勿論♪」
笑顔で即答する。すると漁師達は恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!殺されちまう!」
「逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間は必要以上に妖怪を脅威に感じる。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
メンテ
ギルゾッド ( No.45 )
日時: 2021/08/17 10:39
名前: 月影桜花姫

第一話

制圧作戦

世界最終戦争で旧文明が大崩壊してより四年後…。世界各地は殺伐とした雰囲気であり暴徒化した人間達が食糧の争奪戦で殺し合ったのである。こんなにも荒廃した世の中であるが…。旧文明の復興を主眼に活動する勢力も誕生したのである。某月某日…。荒廃した主要都市部では巨大武装勢力『リベレーターズ』が敵対する巨大軍事勢力『地球革命軍』の軍事工場に強襲を仕掛ける。
「全軍!突撃せよ!」
リベレーターズの総大将【ルーヴェルハルト】の指示と同時に銃火器を所持した戦闘員達が全力で突撃したのである。軍事工場の周辺には十数個ものトーチカが確認出来る。トーチカには機関銃が配備される。
「リベレーターズの突撃隊が突撃を開始したぞ!攻撃しろ!軍事工場には近寄らせるな!」
トーチカの部隊長が命令すると機関銃が炸裂する。無数の銃弾が炸裂…。突入するリベレーターズの突撃隊は地球革命軍の猛攻撃で五十人以上の戦闘員が死傷したのである。地球革命軍の銃撃に畏怖した突撃隊は後退…。自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様等!何故戻った!?」
総大将のルーヴェルハルトは彼等に怒号する。
「総大将…こんな丸腰の状態では無謀ですぜ…」
突撃隊の装備品は護身用のハンドガンのみである。人員でもリベレーターズは二百五十人であるが…。地球革命軍の守備隊は推計五百人であり機関銃以外にも高火力の重戦車が五両も配備される。強固に構築された地球革命軍のトーチカを突破するのは現実的に不可能である。
「多勢に無勢ですぜ…」
「貴様等…」
(役立たずが…)
ルーヴェルハルトは突撃隊の弱腰に呆れ果てる。本来リベレーターズは無頼漢やら戦災孤児によって構成された暴力団的軍閥であり武装も士気も貧弱である。
「撤退しませんか?」
戦闘員の一人が撤退を要請する。
「なっ!?撤退だと!?今回軍事工場を攻略出来れば地球革命軍の戦力低下が期待出来るのだぞ!撤退は許容出来ない!」
軍事工場を今回の作戦で占拠出来れば地球革命軍の戦力低下は勿論…。装備が貧弱のリベレーターズでも高火力の装備品の入手が可能であり独自で武器の生産も出来る。
「ですが総大将…」
弱気の戦闘員達は戦意喪失した様子であり絶句したのである。するとルーヴェルハルトの背後より…。
「俺の出番みたいだな…」
「ん?貴様は…」
ルーヴェルハルトの背後にはフードを被った小柄の人物が近寄る。素顔は不明であるが性別は男性である。
「あんたは何者だよ?」
戦闘員の一人がフードの人物に問い掛ける。するとフードの人物はフードを外したのである。
「なっ!?あんたは…」
フードの人物は両目の瞳孔は半透明の碧眼…。頭髪は銀髪である。周囲の者達は彼に身震いしたのか全身がプルプルする。
「あんたは…【ギルゾッド】か…」
「ギルゾッドだって!?あんたは『ネオヒューマン』の…」
ネオヒューマンとは遺伝子操作によって誕生した人工性の超人類…。人類を超越した存在の総称である。ネオヒューマンは常人以上の身体能力と不老長寿…。摩訶不思議の超能力を駆使出来る。荒廃した今現在でこそネオヒューマンは神性の存在であるが世界最終戦争の終戦後も各地で生存が確認される。
「ギルゾッドって…暗闇の一匹狼だよな?」
ギルゾッドは戦闘に特化されたネオヒューマンである。普段は単独で行動する習性からか異名は暗闇の一匹狼と呼称される。
「如何して一匹狼のあんたがリベレーターズに?」
するとルーヴェルハルトが説明する。
「此奴は三日前にリベレーターズに編入させた…即戦力として期待出来るし百人力?千人力だろうからな…」
ギルゾッドの戦闘能力は規格外であり最低でも機関銃を所持した戦闘員の三百人分は期待出来る。
「ギルゾッド…敵軍を蹴散らすのだぞ…」
ルーヴェルハルトの指示にギルゾッドは無言であるが承諾したのである。ギルゾッドは最前線へと移動する。
「ん?彼奴は何者だ?」
「リベレーターズの新手か?」
「一人で突入するとは…無謀だな…」
将兵の一人がトーチカからハンドガンを所持…。
「射殺する!」
ハンドガンを発砲したのである。直後…。ギルゾッドは超能力を発動する。全身からスパークのシールドが発生…。本体を覆い包む。スパークのシールドによりハンドガンの弾丸が無力化されたのである。
「なっ!?シールドか!?」
「弾丸が…」
「彼奴はひょっとして…ネオヒューマン?」
ネオヒューマンの一言に部隊長は反応する。
「ネオヒューマンだと!?」
戦闘に特化されたネオヒューマンは味方であれば非常に心強い存在である反面…。敵対すれば強大なる近代兵器を所持しても仕留めるのは非常に困難である。
「であれば非常に厄介だな…」
(一か八か…)
不本意であるが…。
「ネオヒューマンを仕留めよ!全軍…総攻撃開始!」
地球革命軍はギルゾッドに総攻撃を仕掛ける。数千発もの弾丸は勿論…。重戦車の戦車砲による砲弾がギルゾッドを急襲する。ギルゾッドは再度スパークのシールドを発動…。機関銃の弾丸と戦車砲の砲弾を無力化したのである。
「畜生…シールドで攻撃を無力化したか…」
ギルゾッドはノーダメージであり地球革命軍の将兵達は絶句する。
「こんな程度か?今度は俺の出番だな…」
メンテ
メガラニカ大事変 ( No.46 )
日時: 2021/08/20 09:25
名前: 月影桜花姫

第一話

開戦

世界暦五百二十二年五月十七日午前八時未明の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『太平帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。戦後の疲弊した世界各国を牛耳れる超大国としての地位と資源を獲得したのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得した太平帝国であるが…。太平帝国の存在に反対する一部の国連軍残存勢力と各地の反政府勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ解放区』と命名され太平帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ解放区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ解放区の勢力拡大を危惧した太平帝国はメガラニカ解放区に宣戦布告…。翌日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ解放区本土を攻撃目標に直進したのである。太平帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦アスピドケロンには太平帝国国家元首である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。
「大総統!徹底的にメガラニカ解放区を撃滅しましょう!」
「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国である太平帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」
ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦アスピドケロンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ解放区本土攻略作戦ではアスピドケロン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。
「メガラニカ解放区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」
「全軍を警戒態勢に移行させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。
「全軍…警戒態勢に移行せよ…」
すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦アスピドケロンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。
「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」
スーパーレーダーは太平帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。太平帝国軍では艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在太平帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。
「何事だ?」
ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。
「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」
スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。
「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」
すると直後…。
「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」
四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。
「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」
ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。
「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」
各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年太平帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。
「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」
「最先端の科学技術の結晶である太平帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」
ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」
総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。太平帝国軍の大艦隊はメガラニカ解放区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ解放区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。
「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」
メガラニカ解放区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。
「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」
ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。太平帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。
「味方艦隊の圧倒的優勢です!」
旗艦アスピドケロンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。
「太平帝国軍の圧勝は確実だな…」
「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ解放区なんて…」
乗組員達は太平帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ解放区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。
「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」
「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…太平帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」
乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。
「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」
「狼狽えるな…」
ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。
「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ解放軍が圧倒的に不利ですよ…」
ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。
「時間だな…」
周囲の乗組員達はハッとした表情で…。
「えっ…何が時間なのですか!?」
一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。
「作戦を開始する…」
ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。
「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」
「はっ!」
周囲の者達はポカンとする。
「一体何を開始するのか?」
同時刻…。メガラニカ解放区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ解放区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景に太平帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。
「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ解放区の南方地帯全域を空爆せよ…非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」
「はっ!」
ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ解放区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死に太平帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦アスピドケロンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。
「大総統♪太平帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」
副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…」
ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。
「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。
「スーパーレーダーが反応しました!」
特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。
「今度は何事だ!?」
ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。
「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」
「移動物体だと?敵機か?」
ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。
「此奴は…」
飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。
「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」
「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」
「戦闘用ドローンですと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」
「承知しました…大総統…」
戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。
「大総統…敵軍のドローンです…」
「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」
ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦アスピドケロンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。
「なっ!?シールドでしょうか!?」
「シールドだと?」
「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」
「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」
電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年では太平帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。
「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」
ドローン関連の科学技術ではメガラニカ解放区が太平帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ解放軍にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方の太平帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。
「艦長…上空より敵機が接近中です!」
対空パルスレーザーの弾幕が太平帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。
「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」
「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」
本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。
「大昔の大戦だな…」
太平帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。
「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」
特殊無線技士が報告する。
「即刻回避だ!」
ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦アスピドケロンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦アスピドケロンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。
「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」
メガラニカ解放軍のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローン部隊も艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。
「大総統…太平帝国軍の劣勢です…」
形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦アスピドケロンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。
「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」
同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦アスピドケロンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。
「大総統!現状では太平帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」
撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。
「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」
実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。
「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」
ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。
「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」
特殊無線技士が報告する。
「敵機だと?」
数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦アスピドケロンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。
「ぐっ!」
艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。
「大総統!大丈夫ですか!?」
副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。
「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」
先程のドローンの攻撃により旗艦アスピドケロンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。
「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」
「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」
「であればダメージコントロールを急行せよ…」
乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。
(戦闘を続行し続ければ太平帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…)
味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。
「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」
ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始した太平帝国軍の艦隊にメガラニカ解放軍のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦で太平帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ解放軍はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。太平帝国の権威が失墜したのである。

第二話

大艦巨砲主義

メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ解放区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ解放軍はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力により太平帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。太平帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。
「大総統…一週間の短期間で太平帝国の統治領の約半分がメガラニカ解放軍の猛反撃により占拠されました…太平帝国軍は劣勢の状態です…」
「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」
ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。
「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ解放区は太平帝国以上に消耗した状態です!」
今現在のメガラニカ解放区と太平帝国の国力は一対十八でありメガラニカ解放区は圧倒的に不利である。メガラニカ解放軍はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量の太平帝国軍を圧倒する。メガラニカ解放軍の快進撃により太平帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ解放軍は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。
「メガラニカ解放軍は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来る絶好のチャンスですよ!」
するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」
「訓練中のホムンクルスですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前の太平帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治の太平帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来たのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。
「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。太平帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
近日では太平帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ解放軍に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続ける太平帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。
「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」
開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。
「戦闘用ドローン…『ケルベロス』?」
「ケルベロスは…」
ケルベロスとは太平帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザーと実弾の対空機関砲を搭載…。
「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ解放軍のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」
メガラニカ南方海戦で太平帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦で太平帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ解放軍のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。
「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」
二枚目の設計図を直視する。
「ん?此奴は…」
「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『ティタニア』です…」
「超砲撃型戦艦…ティタニア?」
正式名は超砲撃型戦艦ティタニアであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるがティタニアは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。
「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…」
ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるが…。
「戦艦ティタニアは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…」
「電磁投射砲か…」
電磁投射砲は現在太平帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。
「海軍開発部の大計画では戦艦ティタニアの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも安価ですからね♪」
「であれば建造を急行するべきだな…」
直後である。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。
「緊急事態だと?何事だ?」
ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。
「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍に占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…守備隊は玉砕したとの情報です…」
「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。
「残念ですが…」
メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人もの太平帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ解放軍の強襲で全滅したのである。
「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…アポロゾーン基地だな…」
アポロゾーン基地とは最南端に位置する離島…。アポロゾーン本島を防衛する太平帝国軍守備隊の本拠地である。太平帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「大総統…即刻アポロゾーン本島に援軍を派遣させますか?」
「援軍は不要だ…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。
「本気ですか!?大総統!?」
「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」
「如何して援軍を派遣しないのですか!?アポロゾーンが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」
ブラッドフォードは再度無表情で返答する。
「アポロゾーンの守備隊には陽動作戦に利用する…」
「陽動作戦ですと?」
「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…アポロゾーンに侵攻中のメガラニカ解放軍を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」
アポロゾーン基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。アポロゾーンを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。
「特殊弾頭ミサイルですと!?アポロゾーンに特殊弾頭なんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の民間人にも被害が…」
特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発のミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には躊躇する。
「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」
小国家だった太平帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。
「敵味方諸共…殲滅するのですか?」
「最早多少の犠牲は止むを得ない…」
ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。
「特殊弾頭は極秘だぞ…兎にも角にもアポロゾーンの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは不本意であるが承諾したのである。

第三話

攻防戦

五月二十七日早朝…。メガラニカ解放軍の大艦隊が太平帝国最終防衛区域アポロゾーンへと進行を開始したのである。同時刻…。アポロゾーン基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。
「一体何事だ!?」
「スーパーレーダーが反応したぞ!」
即座に立体映像のホログラムで確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。
「此奴はメガラニカ解放軍の艦隊だな…アポロゾーンを攻略するみたいだ…」
「如何しましょう…総司令官…」
「即刻防衛戦を開始する!各員は戦闘配置だ!アポロゾーンは徹底的に死守しろ!」
守備隊の陸軍総司令官が各員に指示したのである。
「はっ!」
アポロゾーンは本土防衛の最終防衛ラインでありアポロゾーンが陥落すれば本土が攻撃される。
「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」
「はっ!」
通信兵は即座に総本部に通達したのである。三十分後…。メガラニカ解放軍の大艦隊がアポロゾーンの防衛区域へと到達したのである。
「総司令官…メガラニカの大艦隊が防衛区域に到達しました…」
「防衛戦を開始するか…」
攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻ものミサイル警備艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。同時刻…。メガラニカ解放軍の大艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦レヴィアタンはスーパーレーダーで太平帝国軍のミサイル警備艇と戦闘爆撃機を確認する。
「艦長…敵部隊を確認しました…」
レヴィアタンの艦長はメガラニカ南方海戦で活躍したウィンフィールドである。
「ホログラムを作動させろ…」
乗組員は艦内のホログラムを作動させる。するとホログラムには百隻以上のミサイル警備艇と戦闘爆撃機が立体映像として映写される。
「旧型の兵器ばかりか…」
「如何されますか?」
乗組員の問い掛けにウィンフィールドは即答する。
「即刻迎撃せよ…ドローン兵器を発進させろ…」
「承知しました…」
旗艦のレヴィアタンから二十八機のグリフォン型ドローン兵器が発進する。レヴィアタンは全長二百四十メートルサイズ…。全幅三十メートルサイズの大型艦であり満載排水量は推定五万トンである。ミサイル戦闘艦としての機能は勿論…。航空機の母艦としても使用出来る。所謂現代型の航空戦艦である。艦載機はドローン兵器であり合計五十機以上搭載出来る。旗艦のレヴィアタンは勿論…。レヴィアタン級航空大型ミサイル戦闘艦六隻と最新鋭のドローン空母艦隊から合計四百機以上ものグリフォン型ドローン兵器が発進したのである。ドローン部隊が発進してより十五分後…。最前線のアポロゾーン防衛部隊と遭遇したのである。両軍が遭遇した直後に戦闘が開始され…。アポロゾーン防衛部隊はミサイル警備艇と戦闘爆撃機による対空ミサイル攻撃で十四機のドローンを撃墜したのである。ドローン撃墜に防衛部隊の将兵達は戦意が向上するも…。相手は新型のドローン兵器であり二分も経過すればドローンの反撃で八十三隻のミサイル警備艇が撃沈され七十六機の戦闘爆撃機が一瞬で撃墜されたのである。ドローン部隊の猛反撃からアポロゾーン防衛部隊は総崩れ…。海上の防衛網は簡単に突破されたのである。
「総司令官…海上の防衛部隊が壊滅…敵軍に突破されました…」
通信兵の報告にアポロゾーン総司令部は混乱する。
「ドローン部隊を使用したか…」
総司令官は一瞬沈黙するも…。
「守備隊に伝播せよ…陸上の防衛戦を開始する!」
「承知しました…」
基地内の将兵達は承諾したのである。
「民間人は緊急用シェルターに避難させろ…」
陸上の防衛部隊は即座に行動を開始する。緊急警報システムが作動され…。民間人は即座に各地に設置された避難用の緊急用シェルターへと移動したのである。民間人の避難終了から三分後…。メガラニカ解放軍のドローン部隊がアポロゾーン領空へと到達する。
「メガラニカのドローンだ!」
「海上の防衛部隊は全滅したのか?」
「兎にも角にも迎撃するぞ!」
陸上の守備隊は迎撃を開始…。上空のドローンを目標に攻撃したのである。数千発もの機関砲と対空ミサイルが上空に炸裂する。守備隊の攻撃で二十二機のドローンを撃墜するも…。ドローンの空爆で三十六両の戦闘車が破壊され百三十七人の将兵が戦死する。三分間の空爆で陸上部隊の八割が壊滅したのである。
「陸上部隊の八割が壊滅しました…」
守備隊の劣勢に総司令部は混乱する。
「なっ!?壊滅状態だと!?」
「ドローンの空爆で守備隊の八割が壊滅したのか!?」
総司令部の将兵達は予想外の事態に恐怖したのである。直後…。スーパーレーダーが反応する。
「スーパーレーダーが反応したぞ…今度は何事だ?」
ホログラムを作動させるとメガラニカ解放軍の大艦隊が映写される。
「敵軍の大艦隊だぞ…アポロゾーンの領海に到達したのか!?」
メガラニカ解放軍の大艦隊は航空大型ミサイル戦闘艦が七隻と正規空母四隻…。ミサイル巡洋艦が十三隻と三十一隻の防空駆逐艦が確認出来る。後方には上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦が十八隻…。補助用の魚雷艇が十五隻確認出来る。メガラニカ解放軍はドローンの投入で海上の防衛部隊を撃退…。メガラニカ解放軍艦隊はノーダメージでアポロゾーンの領海へと到達出来たのである。
「本土から援軍は出動したのか!?」
総司令官が通信兵に問い掛ける。
「無線では…本土から潜水艦が一隻出動したと…」
「はっ?」
総司令官は絶句する。
「こんな状況で潜水艦一隻だと!?何故海軍の主力艦隊を出動させない!?」
「主力艦隊は本土を防衛するのが手一杯であると…」
現実問題…。メガラニカ南方海戦の大敗北から太平帝国軍主力艦隊は艦隊の再建に手一杯であり大艦隊は派遣出来なかったのである。
「畜生が…」
通信兵の報告に総司令官はピリピリする。
(アポロゾーンは陥落しろと?総本部は本土決戦を決断したのか?)
総司令官は決断したのである。
「総員…援軍は期待出来ないが…精一杯アポロゾーンを死守するぞ!」
「はっ!承知しました…」
絶望的状況下であるが将兵達は一致団結…。残存部隊による徹底抗戦を決意したのである。同時刻…。メガラニカ解放軍大艦隊は上陸作戦を開始したのである。十八隻の大型輸送艦から三十六隻の上陸用舟艇が出動…。陸上部隊によるアポロゾーン上陸作戦が開始されたのである。
メンテ
アフターウォーズ ( No.47 )
日時: 2021/08/21 20:28
名前: 月影桜花姫

第一話

制圧作戦

世界最終戦争で旧文明が大崩壊してより四年後…。世界各地は殺伐とした雰囲気であり暴徒化した人間達が食糧の争奪戦で殺し合ったのである。こんなにも荒廃した世の中であるが…。旧文明の復興を主眼に活動する勢力も誕生したのである。某月某日…。荒廃した主要都市部では『ホープセイバーズ』と呼称される巨大武装勢力が敵対する国連軍残存勢力『地球革命軍』の軍事工場に強襲を仕掛ける。
「全軍!突撃せよ!」
ホープセイバーズの総大将【ルーヴェルハルト】の指示と同時に銃火器を所持した戦闘員達が全力で突撃したのである。軍事工場の周辺には十数個ものトーチカが確認出来る。トーチカには機関銃が配備される。
「ホープセイバーズの突撃隊が突撃を開始したぞ!即刻迎撃しろ!軍事工場には近寄らせるな!」
トーチカの部隊長が迎撃を命令すると機関銃が炸裂する。無数の銃弾が炸裂…。突入するホープセイバーズの突撃隊は地球革命軍の猛攻撃で五十人以上の戦闘員が死傷したのである。地球革命軍の銃撃に畏怖した突撃隊は後退…。自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様等!何故戻った!?敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将のルーヴェルハルトは彼等に怒号する。
「総大将…こんな丸腰の状態では無謀ですぜ…」
突撃隊の装備品は護身用のハンドガンやらダガーナイフのみである。人員でもホープセイバーズは二百五十人程度であるが…。地球革命軍の守備隊は推計五百人であり機関銃以外にも高火力の重戦車が五両も配備される。強固に構築された地球革命軍のトーチカを突破するのは現実的に不可能である。
「多勢に無勢ですぜ…」
「貴様等…」
(役立たずが…)
ルーヴェルハルトは突撃隊の弱腰に呆れ果てる。本来ホープセイバーズは無頼漢やら戦災孤児によって構成された暴力団的軍閥組織であり武装も士気も貧弱である。
「撤退しませんか?」
戦闘員の一人が撤退を要請する。
「なっ!?今更撤退だと!?今回軍事工場を攻略出来れば地球革命軍の戦力低下が期待出来るのだぞ!撤退は許容出来ない!」
軍事工場を今回の作戦で占拠出来れば地球革命軍の戦力低下は勿論…。装備が貧弱のホープセイバーズでも高火力の装備品の入手が可能であり独自で武器の生産も出来る。
「ですが総大将…」
弱気の戦闘員達は戦意喪失した様子であり絶句したのである。するとルーヴェルハルトの背後より…。
「俺の出番みたいだな…」
「ん?貴様は…」
ルーヴェルハルトの背後にはフードを被った小柄の人物が近寄る。素顔は不明であるが性別は男性である。
「あんたは何者だよ?」
戦闘員の一人がフードの人物に問い掛ける。するとフードの人物はフードを外したのである。
「なっ!?あんたは…」
フードの人物は両目の瞳孔は半透明の碧眼…。頭髪は銀髪である。周囲の者達は彼に身震いしたのか全身がプルプルする。
「あんたは…【ノイザッグ】か…」
「ノイザッグだって!?あんたは『ネオヒューマン』の…」
ネオヒューマンとは遺伝子操作によって誕生した人工性の超人類…。人類を超越した存在の総称である。ネオヒューマンは常人以上の身体能力と不老長寿…。摩訶不思議の超能力を駆使出来る。荒廃した今現在でこそネオヒューマンは神性の存在であるが世界最終戦争の終戦後も各地で生存が確認される。
「ノイザッグって…暗闇の一匹狼だよな?」
ノイザッグは戦闘に特化されたネオヒューマンである。普段は単独で行動する習性からか異名は暗闇の一匹狼と呼称される。
「如何して一匹狼のあんたがホープセイバーズに所属した?」
するとルーヴェルハルトが説明する。
「此奴は三日前にホープセイバーズに編入させた…即戦力として期待出来るし百人力?千人力の戦力だからな…」
ノイザッグの戦闘能力は規格外であり最低でも機関銃を所持した戦闘員の三百人分は期待出来る。ルーヴェルハルトの指示にノイザッグは無言であるが承諾したのである。ノイザッグは最前線へと移動する。
「ん?彼奴は何者だ?」
「ホープセイバーズの新手か?」
「一人で突入するとは…無謀だな…」
将兵の一人がトーチカからハンドガンを所持…。
「射殺する!」
ハンドガンを発砲したのである。直後…。ノイザッグは超能力を発動する。全身からスパークのシールドが発生…。本体を覆い包む。スパークのシールドによりハンドガンの弾丸が無力化されたのである。
「なっ!?シールドか!?」
「弾丸が…」
「彼奴はひょっとして…ネオヒューマンか?」
ネオヒューマンの一言に部隊長は反応する。
「ネオヒューマンだと!?」
戦闘に特化されたネオヒューマンは味方であれば非常に心強い存在である反面…。敵対すれば強大なる近代兵器を所持しても仕留めるのは非常に困難である。
「敵兵がネオヒューマンであれば…非常に厄介だな…」
(一か八か…)
不本意であるが…。
「ネオヒューマンを仕留めよ!全軍…総攻撃開始!」
地球革命軍はノイザッグに総攻撃を仕掛ける。数千発もの弾丸は勿論…。重戦車の戦車砲による砲弾がノイザッグを急襲する。ノイザッグは再度スパークのシールドを発動…。機関銃の弾丸と戦車砲の砲弾を無力化したのである。
「畜生…シールドで攻撃を無力化したか…」
ノイザッグはノーダメージであり地球革命軍の将兵達は絶句する。するとノイザッグは無表情で…。
「こんな程度か?今度は俺の出番だな…」
ノイザッグは超能力を発動すると軍事工場を守備する五両の重戦車をペシャンコに破壊したのである。
「えっ!?重戦車が…」
ノイザッグの超能力に敵味方は驚愕する。
「畜生…重戦車を破壊されたか…」
破壊された重戦車に地球革命軍の兵士達は戦意喪失するが…。
「相手はネオヒューマン一人だ!彼奴を殲滅せよ!」
部隊長の命令にトーチカの兵士達は再度機関銃で攻撃したのである。
「無謀だな…」
ノイザッグは再度超能力を発動…。数千発もの機関銃の弾丸を停止させる。
「俺に金属類は通用しない…」
ノイザッグはあらゆる金属類を自由自在に操作出来る超能力であり彼に金属を使用した武器は通用しない。
「死滅しろ…」
停止させた無数の銃弾をトーチカの兵士達に返却したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
返却された無数の銃弾によりトーチカの兵士達は戦死する。
(勝利は目前だな…)
後方のルーヴェルハルトは勝利を確信したのである。
「敵軍は弱体化したぞ!総攻撃を開始しろ!」
ルーヴェルハルトは味方の戦闘員達に総攻撃を指示したのである。主力の突撃隊のみならず…。後方に位置する各戦闘員達も軍事工事への総攻撃に参加したのである。軍事工事はノイザッグの加勢により一時間程度で占拠…。地球革命軍の守備隊は軍事工事から撤退したのである。
「総大将♪敵軍の奴等撤退しましたぜ♪」
戦闘員達は勝利に大喜びする。
「初戦は冷や冷やしたが無事に軍事工場を確保出来たからな…結果オーライだ…」
ルーヴェルハルトはノイザッグに近寄るなり…。
「見事だったぞ♪ノイザッグ♪」
普段は厳格のルーヴェルハルトであるが笑顔で発言する。
「初戦でこんな大戦果とは…貴様は次期総帥候補決定だな♪」
「えっ!?次期総帥候補って…」
周囲の戦闘員達は次期総帥候補に任命されたノイザッグに驚愕したのである。
「此奴が…次期総帥候補だって!?」
「実質今回の戦闘で地球革命軍に勝利出来たのはノイザッグの力戦だからな…次期総帥候補に任命されても可笑しくないぞ…」
するとノイザッグは無表情で…。
「俺は単純に戦闘で気に入らない人間を打っ殺したいだけだ…」
ノイザッグは人一倍好戦的であり戦闘に参加出来れば満足だったのである。
「総帥なんて称号は俺には不要だ…」
ノイザッグの返答に内心ガッカリするものの…。
「貴様が戦闘に参加したいのであれば思う存分戦闘しろ…恐らく今後も地球革命軍との戦闘は予想されるからな…」
今回の戦闘でホープセイバーズは四十三人の戦闘員が戦死するが軍事工場と戦闘車を十三両鹵獲したのである。未完成であるが航空戦力の戦闘用ドローンを十七機鹵獲する。
メンテ
Re: 新世紀エヴァンゲリオン〔仮名〕※休止中 ( No.48 )
日時: 2021/08/24 19:23
名前: 月影桜花姫

第一話

闇夜

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。五十年後の天地暦一万二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は魑魅魍魎の魔窟であり人間は誰一人として近寄れない。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
(如何やら今回も大群だな…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんな重苦しい妖気だ…普通の人間は近寄れないな…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻荒神山の妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身である。
「此奴は妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体とは妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。特定の地域では疫病神とも呼称される。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。ふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
総勢数十体から数百体もの食人餓鬼に包囲されるも…。圧倒的に劣勢であったが三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼の全身を発火させたのである。発火により三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上に落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。極度の疲労により法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
(戻ろうか…)
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が列記とした妖怪なのは確実であるが…。敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。彼女の様子に正直意外であると感じる。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?ひょっとして覗き見とか♪あんたは物好きね♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんた…私に殺されたいみたいね…」
「私に用事かしら?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪でも…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は妖怪の集合体です…正直桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は列記とした妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…本当に妖怪なのか?)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視する。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気!?)
三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾し続けるのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りしたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…普通の妖怪よりも桁違いに巨体ですね…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死する。
「漁船を襲撃したのが海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは…」
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪よ♪」
「あんたが妖怪?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?漁船が…」
「桜餅に!?」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは本当に妖怪なのか?」
「勿論♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。すると漁師達は恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」
「殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
再度変化の妖術を発動する。すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化…。黒髪の長髪は銀髪に変色したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
三蔵郎は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚に変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来でも巨大真蛸らしき物体は確認出来ない。
(こんな暗闇だと海難入道は発見出来ないわね…)
すると直後である。妖気が接近するのを感じる。
「妖気!?」
(ひょっとして海難入道かしら?)
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。
メンテ
アフターウォーズ ( No.49 )
日時: 2021/08/25 19:36
名前: 月影桜花姫

第一話

制圧作戦

世界最終戦争で旧文明が大崩壊してより四年後…。荒廃した世界各地は殺伐とした雰囲気であり暴徒化した人間達が食糧やら領土の争奪戦で殺し合ったのである。こんなにも荒廃した世の中であるが…。東方の亜大陸では旧文明の復興を主眼に活動する勢力が誕生したのである。某月某日…。荒廃した南方地帯の主要都市部では『ホープセイバーズ』と呼称される巨大武装勢力が敵対する国連軍残存勢力『地球新政府軍』の軍事工場に強襲を仕掛ける。
「全軍!突撃せよ!」
ホープセイバーズの総大将【ルーヴェルハルト】の指示と同時に銃火器を所持した戦闘員達が全力で突撃したのである。軍事工場の周辺には十数個ものトーチカが確認出来る。トーチカには機関銃が配備される。
「ホープセイバーズの突撃隊が突撃を開始したぞ!即刻迎撃しろ!軍事工場には近寄らせるな!」
トーチカの部隊長が迎撃を命令すると機関銃が炸裂する。無数の銃弾が炸裂…。突入するホープセイバーズの突撃隊は地球新政府軍の猛攻撃で五十人以上の戦闘員が死傷したのである。地球新政府軍の銃撃に畏怖した突撃隊は即座に後退…。自軍の陣地へと戻ったのである。
「貴様等!何故戻った!?敵前逃亡は重罪だぞ!」
総大将のルーヴェルハルトは彼等に怒号する。
「総大将…こんな丸腰の状態では無謀ですぜ…」
突撃隊の装備品は護身用のハンドガンやらダガーナイフのみである。人員でもホープセイバーズは二百五十人程度であるが…。地球新政府軍の守備隊は推計五百人であり機関銃以外にも高火力の重戦車が五両も配備される。強固に構築された地球新政府軍のトーチカを突破するのは現実的に不可能である。
「多勢に無勢ですぜ…」
「貴様等…」
(役立たずが…)
ルーヴェルハルトは突撃隊の弱腰に呆れ果てる。本来ホープセイバーズは無頼漢やら戦災孤児によって構成された暴力団的軍閥組織であり武装も士気も貧弱である。
「撤退しませんか?」
戦闘員の一人が撤退を要請する。
「なっ!?今更撤退だと!?今回軍事工場を攻略出来れば地球新政府軍の戦力低下が期待出来るのだぞ!撤退は許容出来ない!」
軍事工場を今回の作戦で占拠出来れば地球新政府軍の戦力低下は勿論…。装備が貧弱のホープセイバーズでも高火力の装備品の入手が可能であり独自で武器の生産も出来る。
「ですが総大将…」
弱気の戦闘員達は戦意喪失した様子であり絶句したのである。するとルーヴェルハルトの背後より…。
「俺の出番みたいだな…」
「ん?貴様は…」
ルーヴェルハルトの背後にはフードを被った小柄の人物が近寄る。素顔は不明であるが性別は男性である。
「あんたは何者だよ?」
戦闘員の一人がフードの人物に問い掛ける。するとフードの人物はフードを外したのである。
「なっ!?あんたは…」
フードの人物は両目の瞳孔は半透明の碧眼…。頭髪は銀髪であり両手は黒色の手袋である。周囲の者達は彼に身震いしたのか全身がプルプルする。
「あんたは…【ノイザッグ】か…」
「ノイザッグだって!?あんたは『ネオヒューマン』の…」
ネオヒューマンとは遺伝子操作によって誕生した人工性の超人類…。人類を超越した存在の総称である。ネオヒューマンは常人以上の身体能力と不老長寿…。摩訶不思議の超能力を駆使出来る。荒廃した今現在でこそネオヒューマンは神性の存在であるが世界最終戦争の終戦後も荒廃した各地で生存が確認される。
「ノイザッグって…暗闇の一匹狼だよな?」
ノイザッグは戦闘に特化されたネオヒューマンである。普段は単独で行動する習性からか異名は暗闇の一匹狼と呼称される。
「如何して一匹狼のあんたがホープセイバーズに所属した?」
するとルーヴェルハルトが説明する。
「此奴は三日前にホープセイバーズに編入させた…即戦力として期待出来るし百人力?千人力の戦力だからな…」
ノイザッグの戦闘能力は規格外であり最低でも機関銃を所持した戦闘員の三百人分は期待出来る。ルーヴェルハルトの指示にノイザッグは無言であるが承諾したのである。ノイザッグは最前線へと移動する。
「ん?彼奴は何者だ?」
「ホープセイバーズの新手か?」
「一人で突入するとは…無謀だな…」
将兵の一人がトーチカからハンドガンを所持…。
「射殺する!」
ハンドガンを発砲したのである。直後…。ノイザッグは超能力を発動する。全身からスパークのシールドが発生…。本体を覆い包む。スパークのシールドによりハンドガンの弾丸が無力化されたのである。
「なっ!?シールドか!?」
「弾丸が…」
「彼奴はひょっとして…ネオヒューマンか?」
ネオヒューマンの一言に部隊長は反応する。
「ネオヒューマンだと!?」
戦闘に特化されたネオヒューマンは味方であれば非常に心強い存在である反面…。敵対すれば強大なる近代兵器を所持しても仕留めるのは非常に困難である。
「敵兵がネオヒューマンであれば…非常に厄介だな…」
(一か八か…)
不本意であるが…。
「ネオヒューマンを仕留めよ!全軍…総攻撃開始!」
地球新政府軍はノイザッグに総攻撃を仕掛ける。数千発もの弾丸は勿論…。重戦車の戦車砲による砲弾がノイザッグを急襲する。ノイザッグは再度スパークのシールドを発動…。機関銃の弾丸と戦車砲の砲弾を無力化したのである。
「畜生…シールドで攻撃を無力化したか…」
ノイザッグはノーダメージであり地球新政府軍の将兵達は絶句する。するとノイザッグは無表情で…。
「こんな程度か?今度は俺の出番だな…」
ノイザッグは超能力を発動すると軍事工場を守備する五両の重戦車をペシャンコに破壊したのである。
「えっ!?重戦車が…」
ノイザッグの超能力に敵味方は驚愕する。
「畜生…重戦車を破壊されたか…」
破壊された重戦車に地球新政府軍の兵士達は戦意喪失するが…。
「相手はネオヒューマン一人だ!彼奴を殲滅せよ!」
部隊長の命令にトーチカの兵士達は再度機関銃で攻撃したのである。
「無謀だな…」
ノイザッグは再度超能力を発動…。数千発もの機関銃の弾丸を停止させる。
「俺に金属類は通用しない…」
ノイザッグはあらゆる金属類を自由自在に操作出来る超能力であり彼に金属を使用した武器は通用しない。
「死滅しろ…」
停止させた無数の銃弾をトーチカの兵士達に返却したのである。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
返却された無数の銃弾によりトーチカの兵士達は戦死する。
(勝利は目前だな…)
後方のルーヴェルハルトは勝利を確信したのである。
「敵軍は弱体化したぞ!総攻撃を開始しろ!」
ルーヴェルハルトは味方の戦闘員達に総攻撃を指示したのである。主力の突撃隊のみならず…。後方に位置する各戦闘員達も軍事工事への総攻撃に参加したのである。軍事工事はノイザッグの加勢により一時間程度で占拠…。地球新政府軍の守備隊は軍事工事から撤退したのである。
「総大将♪敵軍の奴等…撤退しましたぜ♪」
戦闘員達はホープセイバーズの勝利に大喜びする。
「初戦は冷や冷やしたが無事に軍事工場を確保出来たからな…結果オーライだ…」
ルーヴェルハルトはノイザッグに近寄るなり…。
「見事だったぞ♪ノイザッグ♪」
普段は厳格のルーヴェルハルトであるが笑顔で発言する。
「初戦でこんな大戦果とは…貴様は次期総帥候補決定だな♪」
「えっ!?次期総帥候補って…」
周囲の戦闘員達は次期総帥候補に任命されたノイザッグに驚愕したのである。
「此奴が…次期総帥候補だって!?」
「実質今回の戦闘でホープセイバーズが地球新政府軍に勝利出来たのはノイザッグの力戦がデカいからな…」
「今回の大戦果だ…ノイザッグが次期総帥候補に任命されても可笑しくないぞ…」
するとノイザッグは無表情で…。
「俺は単純に戦闘で気に入らない人間を打っ殺したいだけだ…」
ノイザッグは人一倍好戦的であり戦闘に参加出来れば満足だったのである。
「総帥なんて称号は俺には不要だ…」
ノイザッグの返答に内心ガッカリするものの…。
「貴様が戦闘に参加したいのであれば思う存分戦闘しろ…恐らく今後も地球新政府軍との戦闘は予想されるからな…」
今回の軍事工場制圧作戦でホープセイバーズは四十三人の戦闘員が戦死するが軍事工場と戦闘車を十三両鹵獲したのである。未完成であるが…。航空戦力の戦闘用ドローンを十七機鹵獲する。

第二話

歓楽街

地球新政府軍の軍事工場を占拠してより三日後…。ホープセイバーズの戦闘員達は都市部の歓楽街の飲食店にてワイワイと泥酔する。南方地帯はスラム街ばかりだが…。歓楽街では飲食店も経営され大勢の人間達が飲食したのである。戦闘員達は店員と周囲の客人に自分達の武勇伝を自慢する。
「俺達は地球新政府軍の奴等を撃退したホープセイバーズの精鋭だぞ♪今度の南方地帯の支配者は俺達ホープセイバーズだからな♪」
「平伏するなら今後は俺達に平伏しろよ♪」
南方地帯全域は地球新政府軍の支配領域であったが…。三日前の戦闘の大敗北により地球新政府軍は撤退したのである。大袈裟に自慢し続ける彼等に周囲の店員や客人はポカンとする。すると一人の戦闘員が…。
「ん?彼奴は?」
「彼奴?誰だよ?」
「ノイザッグだよ…ノイザッグは?」
「ノイザッグなら出歩いたぜ…」
「一人で出歩きやがったのか?」
ノイザッグは酒場の雰囲気が大嫌いであり歓楽街を適当に出歩いたのである。すると道中…。とあるキャバクラを発見する。三人組のキャバ嬢がノイザッグを直視するなり…。
「男前の兵隊さん♪寄ってかない♪」
メンテ
妖怪奇譚※仮名 ( No.50 )
日時: 2021/08/25 19:40
名前: 月影桜花姫

第一話

闇夜

太古の大昔…。極東の島国『太平神国』での出来事である。数百年と長引いた戦乱時代は終焉…。太平神国は弱肉強食の戦乱時代から共生共存の安穏時代へと突入したのである。村人達の生活は毎日が平穏であったが…。各地に神出鬼没の百鬼夜行が出現し始める。五十年後の天地暦一万二十年五月上旬…。南国に聳え立つ荒神山にて一人の僧侶が真夜中の荒神山を視察する。
「荒神山か…」
荒神山は南国の最高峰であり観光地として有名である。近頃は無数の魑魅魍魎が出現…。荒神山を占拠したのである。今現在荒神山は魑魅魍魎の魔窟であり人間は誰一人として近寄れない。
「何やら無数の妖気が感じられる…」
(如何やら今回も大群だな…)
僧侶の名前は【三蔵郎】であり国内屈指の法力を所持する随一の僧侶である。
「こんな重苦しい妖気だ…普通の人間は近寄れないな…」
周囲の自然林からは非常に物静かな風音と川音が響き渡るのだが…。空気は非常に重苦しい。数分後…。荒神山の頂上へと到達する。
「荒神山の頂上だな…」
天辺からは南国の村里が眺望出来る。
「絶妙の景色だ…」
(即刻荒神山の妖怪達を撃退して…元通りの観光地に戻さなくては…)
直後である。
「ん!?」
(気配だ…)
突如として無数の気配を察知…。三蔵郎は警戒したのである。
(此奴は妖気か?)
「如何やら大群みたいだな…」
姿形こそ不明瞭であるが…。無数の妖気が接近するのは認識出来る。数秒後…。暗闇の自然林より一体の人影を確認する。
(人影みたいだな…)
体格は非常に小柄でありふら付いた身動きで接近する。
「人間では無さそうだな…」
周辺は暗闇であり人影の正体は認識出来ないが…。極度の悪臭により人間とは無縁の存在であるのは認識出来る。人影はふら付いた様子で一歩ずつ頂上の中心地へと近寄る。直後である。
(此奴は…)
人影は全身が血塗れで皮膚が腐敗…。眼球と体内の臓物が噴出した人外の化身である。
「此奴は妖怪…【食人餓鬼】だな…」
人影の正体とは妖怪の食人餓鬼である。食人餓鬼とは戦乱時代に飢饉やら疫病によって死去した人間達の無念が妖怪化した存在…。特定の地域では疫病神とも呼称される。性格は非常に強欲であり人間と遭遇すれば相手が誰であろうと捕食する。
「食人餓鬼が出現するとは…」
(相手が食人餓鬼程度なら…)
三蔵郎は即座に法力を駆使…。直後である。自身を食い殺そうと近寄る食人餓鬼の肉体を自然発火…。食人餓鬼は三蔵郎の発動した法力によって焼失したのである。
「成仏せよ…」
焼死した食人餓鬼に合掌する。
「安心は出来ないな…」
今度は周囲の自然林より無数の食人餓鬼が出現…。ふら付いた身動きで三蔵郎に近寄る。
「荒神山の妖気の正体は彼等だったか…」
総勢数十体から数百体もの食人餓鬼に包囲されるも…。圧倒的に劣勢であったが三蔵郎は畏怖せず冷静だったのである。
「飢饉と疫病によって辛苦する亡者達よ…貴様達を成仏させる…」
再度法力を駆使…。殺到する無数の食人餓鬼の全身を発火させたのである。発火により三蔵郎の周囲には食人餓鬼の焼死体が無数に埋没する。
「今度は…」
(食人餓鬼よりも強大なる妖気だな…)
恐る恐る背後を警戒…。背後には無数の食人餓鬼が融合化した肉塊の怪物が出現する。巨体の人型であるが体表には無数の食人餓鬼の頭部が確認出来る。
「此奴は【百鬼食人餓鬼】か…」
(厄介なのが出現したな…)
体表の無数の頭部が三蔵郎を睥睨…。口先より熱風を放出する。
「熱風!?」
三蔵郎は即座に法力の結界を発動…。百鬼食人餓鬼の熱風を無力化したのである。
(絶大なる妖力だな…)
熱風の無力化には成功するが…。先程の結界により大半の法力を消耗する。
(予想以上に強力だな…)
「一か八か…」
直後…。黒雲が天空を覆い包む。
「死滅せよ!」
黒雲から落雷を発動…。百鬼食人餓鬼の頭上より高熱の落雷が直撃したのである。地面が陥没…。南国全域に雷光と爆発音が響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
先程の攻撃で法力は消耗…。極度の疲労により法力が使用出来なくなる。
「百鬼食人餓鬼は仕留めたか…」
(戻ろうか…)
一安心した直後…。複数の強大なる妖気が接近するのを感じる。
「なっ!?」
(複数の妖気か!?)
すると周囲の自然林から三体の百鬼食人餓鬼が出現する。
「百鬼食人餓鬼か…」
(三体も出現するなんて…)
最早複数の百鬼食人餓鬼を相手に反撃する余力は皆無であり三蔵郎は撤退を余儀無くされる。
(不本意だが…撤退しなければ…)
撤退する直前…。
「えっ…」
今度は百鬼食人餓鬼をも上回る不吉の妖気を感じる。
「今度は別の妖気だ…」
(百鬼食人餓鬼よりも数段階強力だな…ひょっとして大妖怪か!?)
不吉の妖気は大妖怪に匹敵する妖気であり刻一刻と荒神山の頂上に接近する。
(遭遇すれば…私は確実に殺される…)
「即刻退散しなければ…」
退散する寸前…。
「えっ…」
三蔵郎の背後には小柄の女性が佇立する。
(女性?)
女性は外見のみなら人一倍容姿端麗であり両目の瞳孔は半透明の血紅色…。頭髪は黒毛の長髪であり赤色の口紅が非常に魅了される。巨乳のおっぱいも非常に魅力的であり正真正銘絶世の童顔美少女である。彼女の最大の特徴である赤色の着物は桜吹雪模様の花柄であり耳朶の耳装飾は金剛石で形作られた勾玉…。頭髪には八重桜の髪装飾が確認出来る。背丈は小柄であるものの非常に颯爽とした雰囲気である。
(彼女から邪気は感じられないが…妖気は感じる…)
女性が列記とした妖怪なのは確実であるが…。敵意も邪気も感じられない。すると彼女は無表情で…。
「氷結の妖術…発動!」
女性が氷結の妖術を発動すると三体の百鬼食人餓鬼は一瞬で全身が氷結したのである。数秒後…。氷結した肉体が崩れ落ちる。
「所詮は雑魚ね…」
すると女性は三蔵郎を凝視し始める。
「なっ!?」
三蔵郎は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。強張った表情で恐る恐る女性に問い掛ける。
「貴女様は一体何者ですか?失礼ですが…人間では無さそうですね…」
女性は笑顔で名前を名乗る。
「私の名前は【月影桜花姫】♪妖怪の一員よ♪」
桜花姫は自身を妖怪の一員と名乗ったのである。
「貴女様は妖怪でしたか…」
桜花姫は正真正銘妖怪であるが…。彼女からは敵意も殺意も感じられない。
(姿形のみなら人間の小町娘ですが…)
三蔵郎は再度警戒した様子で恐る恐る後退りする。彼女からは敵意は感じられないが正直桜花姫を信用出来ず只管警戒し続ける。
(彼女の肉体から無数の妖怪達の妖気を感じるぞ…)
可愛らしい外見とは裏腹に桜花姫の体内からは数百体から数千体もの無数の妖気が感じられる。
「あんたは人間の僧侶ね♪警戒しないで…別に私は人間には手出ししないから…」
「えっ…」
(人間を…殺さないって!?)
本来人間と妖怪は敵対関係である。俗界に存在する大半の妖怪達は人間と遭遇すれば即座に敵意…。襲撃するのが通例だったのである。桜花姫は列記とした妖怪であるものの…。彼女の様子に意外であると感じる。
(摩訶不思議だな…妖怪でも人間に手出ししない妖怪が存在するなんて…ん?)
桜花姫を直視し続けると彼女の肉体から人間の気配を感じる。
(一体何が?人間の気配だ…如何して妖怪である彼女の肉体から…人間の気配が感じられるのか?)
すると桜花姫は三蔵郎を凝視するなり…。
「あんた…不思議そうな表情ね♪」
「えっ!?」
桜花姫は説明する。
「妖怪は妖怪でも…私は特殊なのよ…」
「特殊ですと?」
「私の肉体の一部…【月影桃子姫】って名前だったかしら?桃子姫って人間の巫女と無数の妖怪達が集合して誕生したのが私なのよ♪」
桜花姫は月影桃子姫と名乗る人間の巫女と無数の妖怪達が一体化した存在…。彼女は所謂無数の魑魅魍魎から誕生した集合体である。
「失礼ですが…桜花姫様は魑魅魍魎の集合体なのですね?」
(彼女が非常に人間っぽい雰囲気だったのも…肉体の一部である人間の巫女の影響だったのか…)
三蔵郎は再度桜花姫に質問する。
「先程は如何して人間である私を攻撃せず…同種の妖怪である百鬼食人餓鬼を攻撃されたのですか?」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
「私は気紛れなの♪今回は単純に百鬼食人餓鬼が目障りだっただけだけどね♪」
(気紛れだったか…)
理解するのは非常に困難であるが…。桜花姫の様子から三蔵郎は内心一安心する。
「勿論…僧侶のあんたが私に手出しするのであれば…私は手加減しないわよ♪」
桜花姫の発言に三蔵郎は一瞬畏怖したのである。
「私は貴女様を征伐しませんよ…生憎私自身実力不足ですし…大妖怪に匹敵する貴女様を単独で征伐するなんて百年修行しても不可能でしょう…」
「私が大妖怪なんて大袈裟ね♪」
(私が大妖怪ですって♪)
桜花姫は内心大喜びする。
「兎にも角にも私は退散します…先程の桜花姫様の妖術で荒神山の妖怪達は無事征伐されました…」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですと…私は僧侶の三蔵郎です…」
自身の名前を名乗ると三蔵郎は即座に荒神山から退散したのである。数秒後…。
「私も西国に戻ろうかしら…」
桜花姫も自身の祖国である西国に戻ったのである。戻ってより二時間後…。無事に西国の村里へと戻った桜花姫は自宅の近辺に聳え立つ『天霊山』に移動する。
「露天風呂で入浴しましょう♪」
田舎村の西国であるが…。太平神国の温泉郷と呼称され時たま観光客が西国の温泉に入浴する。天霊山の頂上に到達すると天辺の中心部には石造りの露天風呂が確認出来る。
「露天風呂だ♪」
天霊山の露天風呂は妖怪が入浴すると消耗した妖力を蓄積…。回復させられる。
(折角だし変化の妖術を使用しちゃおうかしら♪)
桜花姫はあらゆる妖怪の集合体である。当然として変化の妖術も使用出来…。変化の妖術を駆使すると多種多様の動植物やら器物にも変化出来る。
「変化の妖術…発動!」
変化の妖術を発動すると彼女の全身から白煙が発生…。すると下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。両目の血紅色の瞳孔は半透明の瑠璃色に発光…。黒毛の長髪だった頭髪は銀髪に変色する。
「入浴するわよ♪」
巨体の人魚に変化した桜花姫は即座に露天風呂へと入浴する。
「極楽♪極楽♪」
彼女にとって天霊山での入浴は一日の日課である。桜花姫は満足したのか天空の夜空を眺望する。
(妖怪の征伐も意外と面白いわね♪今度も妖怪を征伐しちゃおうかな?)
直後…。突如として背後の竹林より気配を感じる。
「えっ?」
(気配だわ…)
何者かによる正体不明の気配は露天風呂に接近する。
(妖気かしら?)
「如何やら妖怪みたいね…」
気配の正体は妖気であり露天風呂に接近するのは妖怪であると認識したのである。桜花姫は背後を直視する。
「誰かと思いきや…」
露天風呂の近辺には白装束の着物姿の少女が佇立…。青紫色の口紅と黒髪の長髪が特徴的である。体格は桜花姫よりも小柄であり半透明の血紅色の瞳孔で入浴中の桜花姫を凝視する。
「あんたは粉雪妖怪の【雪女郎】♪」
「桜花姫…入浴中だったのね…」
彼女は粉雪妖怪の雪女郎である。姿形は人間の小町娘だが…。列記とした妖怪であり桜花姫にとって唯一の悪友である。桜花姫は笑顔で…。
「折角だしあんたも私と一緒に入浴しない♪雪女郎♪」
「誰が熱湯の温泉なんかに入浴しますか!こんな暑苦しい場所で…」
粉雪妖怪の雪女郎は高温の温泉が苦手である。
「私が入浴すると肉体が崩れ落ちちゃうわよ…」
「冗談よ♪冗談♪御免あそばせ♪」
桜花姫は笑顔で謝罪する。
「入浴しないなら…如何してこんな場所に?ひょっとして覗き見とか♪あんたは相当の物好きね♪」
揶揄する桜花姫に雪女郎は苛立ったのである。
「あんた…私に殺されたいみたいね…」
「私に用事かしら?」
桜花姫が問い掛けると雪女郎は真剣そうな表情で…。
「大変なの…桜花姫…」
「何が大変なのよ?」
雪女郎に恐る恐る問い掛ける。
「先程…あんたが南国の荒神山で百鬼食人餓鬼を殺したわよね?」
「問題だったかしら?」
「大問題よ!」
桜花姫が荒神山に出没した百鬼食人餓鬼を仕留めたのを契機に…。一部の妖怪達が桜花姫の行為を批判したのである。
「あんたが人間の僧侶に加勢しちゃったから…」
噂話は全国各地に出回る。一部の妖怪達が桜花姫を敵対視したのである。
「何体かの大妖怪もあんたを敵対視したみたいなのよ…如何するのよ!?」
雪女郎は非常に不安がる。極度に不安視する雪女郎に…。
「雪女郎…あんたは極度の心配性ね♪気にしない♪気にしない♪」
桜花姫は特段気にならなかったのか非常に平気そうな様子である。
(桜花姫…)
「あんたは本当に気楽ね…」
桜花姫の様子に呆れ果てる。
「気楽も何も…私は無数の妖怪達の集合体なのよ♪人間の匪賊達を食べ過ぎちゃったからね♪妖力だけなら大妖怪に匹敵するかもね…」
以前は大勢の山賊やら匪賊達を殺害…。食い殺したのである。彼等を食い殺し続けた結果…。彼女は妖力のみなら大妖怪に匹敵する領域へと到達したのである。
「相手が大妖怪であっても…私に手出しするなら手加減しないわよ♪猛反撃しちゃうからね♪」
「桜花姫…」
断言する桜花姫に雪女郎は苦笑いする。
「私は加勢しないわよ…一人で頑張りなさいね…」
雪女郎は自宅へと戻ったのである。
「面白くなったわね♪」
内心大喜びする。

第二話

大海戦

南国の荒神山での戦闘から六日後の真昼…。桜花姫は娯楽を主目的に東国の中心街へと出掛ける。
「東国だわ…」
東国とは太平神国でも比較的老熟した全国一の城下町である。総人口も太平神国では最大級の大規模都市であり唯一の文明地帯である。桜花姫は和菓子屋にて大好きな桜餅を頬張る。
「非常に美味だわ♪」
彼女は無我夢中に桜餅を頬張り続けるものの…。
「えっ?」
(誰かしら?僧侶っぽいわね…)
隣席には僧侶らしき人物が和菓子屋に来店する。
(彼には見覚えが…)
「誰だったっけ?」
僧侶らしき人物とは六日前に闇夜の荒神山にて対面した僧侶の三蔵郎であり奇遇にも彼が東国の和菓子屋にて来店したのである。
「ひょっとして三蔵郎様?」
すると三蔵郎は身震いした様子で恐る恐る…。
「桜花姫様?如何してこんな場所に?」
三蔵郎は小声で問い掛ける。
「如何してって…私は単純に和菓子屋で桜餅を食べたかっただけよ♪私は桜餅が大好きだからね♪」
三蔵郎は恐る恐る周囲を警戒した様子で…。
「生憎妖気を感じられるのは私だけですが…」
警戒する三蔵郎に問い掛ける。
「あんた…私を信用出来ないの?」
「信用するも何も…失礼ですが貴女様は魑魅魍魎の集合体です…正直妖怪である桜花姫様を信用するのは…」
実際に桜花姫が暴走した場合…。三蔵郎が全力で法力を駆使しても彼女の暴走を阻止するのは実質不可能である。
「あんたは本当に心配性なのね♪私なら大丈夫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答する。
「私は荒神山で三蔵郎様に加勢してから…大勢の妖怪達に毛嫌いされたのよ♪」
「えっ!?毛嫌いですと!?」
三蔵郎は驚愕したのである。
「今現在の私は一匹狼だからね♪妖怪達に敵対視されちゃったから♪」
「一匹狼って…」
(同種の妖怪に敵対視された?彼女は平気なのか?)
平気そうな彼女に不思議がる。
(月影桜花姫…彼女は本当に摩訶不思議の妖怪だな…)
すると桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張り始める。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫に…。
(彼女は列記とした妖怪ですが…本当に人間らしく感じられる…本当に妖怪なのか?)
桜花姫は純粋無垢であり非常に人間らしく感じられ彼女が本当に妖怪なのか疑問視する。すると直後である。
「ん!?」
(別の妖気か!?)
突如として妖気を察知…。三蔵郎は警戒する。
「えっ?」
桜花姫も妖気に反応したのである。
「三蔵郎様も察知したみたいね…」
「方角から南方地帯でしょうか…南国の海域に妖気が感じられます…」
突如として南国の海域より妖気を察知する。
「南国に妖怪が出現したのね♪」
「妖気は非常に強力です…大妖怪の一歩手前でしょうか?」
妖気は大妖怪よりは若干下回るものの…。非常に強力である。
「面白そうね♪私の出番かしら♪」
「私は即刻妖怪を退治しなくては…」
三蔵郎は一目散に和菓子屋から南国へと疾走する。
「えっ!?三蔵郎様!?」
桜花姫も全力で疾走…。三蔵郎を追尾したのである。必死に三蔵郎を追尾し続けるのだが…。三蔵郎の身動きは神速であり身体能力が愚鈍の桜花姫では彼を追尾出来ない。東国と南国を直結する両国橋を通過してより三分後…。
「はぁ…はぁ…」
(三蔵郎様を見失っちゃったわ…)
桜花姫は草臥れたのか南国の村里の道中で一休みする。
「仕方ないわね…」
(妖術を使用しちゃいましょう♪)
桜花姫は即座に瞬間移動の妖術を発動…。疾走し続ける三蔵郎の目前に瞬間移動したのである。
「うわっ!桜花姫様!?」
突如として目前より出現した桜花姫に驚愕する。
「桜花姫様は妖術で先回りしたのですか?」
「勿論よ♪」
すると桜花姫は笑顔で…。
「私を置いてきぼりなんて…三蔵郎様の意地悪♪」
「仕方ないですね…」
三蔵郎は桜花姫と一緒に南国の海岸へと直行したのである。一時間後…。二人は海岸へと到達する。
「到着したわね♪」
「ですが妖怪は?」
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻…。十数人の漁師達が確認出来る。彼等は非常に困惑した様子であり三蔵郎は恐る恐る問い掛ける。
「如何されましたか?」
「法師様ですか…」
「先程ですが…突然海辺に妖怪が出現しましてね…」
「妖怪ですと?」
「大山みたいな巨大真蛸ですよ…普通の妖怪よりも桁違いに巨体ですね…」
数時間前の出来事である。彼等は漁猟活動中…。突如として規格外の巨大真蛸が出現したのである。巨大真蛸の出現によって漁船は襲撃されたものの…。彼等は危機一髪巨大真蛸の襲撃から海岸に戻ったのである。
「一瞬妖怪に殺されるかと…」
「俺達は命拾い出来ましたが…漁猟が出来なくて…」
すると先程から沈黙した桜花姫が発言し始める。
「ひょっとして巨大真蛸の正体は水難妖怪の【海難入道】かしら…」
「海難入道ですか?」
海難入道とは水難事故によって死亡した亡者達が妖怪化した存在…。目撃者の証言では海難入道の姿形は規格外の巨大真蛸が通説である。海面上で海難入道に遭遇すると船舶は沈没され…。遭遇した人間は溺死する。
「漁船を襲撃したのが海難入道であれば…即刻仕留めなければ…」
三蔵郎は即刻退治を決意するのだが…。
「海難入道は私が仕留めるわ♪」
「えっ…桜花姫様?」
桜花姫の発言に周囲の者達は驚愕したのである。
「姉ちゃんよ…相手は本物の妖怪だぞ…」
「人間のあんたでは…」
「私が人間ですって♪」
桜花姫は笑顔で…。
「私は正真正銘…妖怪よ♪」
「あんたが妖怪?」
「姉ちゃんよ…面白くない冗談だな…」
自身を妖怪と名乗る桜花姫に漁師達や揶揄したのである。
「仕方ないわね…」
桜花姫は木造の漁船を直視するなり…。
「桜餅に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動する。すると木造の漁船は白煙に覆い包まれ…。小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「なっ!?俺達の漁船が…」
「桜餅に!?」
変化の妖術はあらゆる物体を別物に変化させられる。
「変化の妖術は私の得意妖術なのよ♪」
漁師達は勿論…。三蔵郎も桜花姫の妖術に愕然とする。漁師達は恐る恐る…。
「あんたは…本当に妖怪なのか?」
「勿論♪私は正真正銘妖怪よ♪」
問い掛けられた桜花姫は笑顔で即答する。すると漁師達は身震いした様子で恐る恐る後退りしたのである。
「ひっ!此奴は本物の妖怪だ!」
「殺されちまう!逃げろ!」
周囲の漁師達は桜花姫に畏怖したのか一目散に逃走する。
「逃げちゃったわ…」
「当然の反応でしょうね…」
現実問題…。妖怪と人間は敵対関係であり妖怪に敵意が無くとも人間は必要以上に妖怪を脅威に感じるのが現状である。
「兎にも角にも…私は海難入道を征伐するわよ♪」
再度変化の妖術を発動する。すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化…。黒髪の長髪は銀髪に変色したのである。
「なっ!?桜花姫様が人魚に!?」
三蔵郎は驚愕する。
「私は変化の妖術で人魚に変化出来るのよ♪」
桜花姫は即座に海中へと潜水したのである。
「海難入道は?」
海中は意外にも暗闇であり魚類は確認出来ても巨大真蛸らしき物体は何一つとして確認出来ない。
(こんな暗闇だと海難入道は発見出来ないわね…)
すると直後である。強大なる妖気が自身に接近するのを感じる。
「妖気!?」
(ひょっとして海難入道の妖気かしら?)
接近する妖気に桜花姫は警戒したのである。数秒後…。暗闇の遠方より白鯨らしき巨大移動物体が接近する。
「何かしら?」
巨大移動物体を凝視し続けると半透明の体表に無数の触手…。頭部は巨大坊主であり全体的に真蛸らしき物体だったのである。
(巨大真蛸…)
「海難入道だわ…」
海中の巨大移動物体とは水難妖怪…。海難入道だったのである。通常の妖怪とは桁外れの巨体であり全長は大島に匹敵する。すると海難入道は両方の大目玉で海中の桜花姫を凝視し始める。
「ん?人魚の小娘かと思いきや…貴様は妖怪…月影桜花姫だな…人魚に変化したのか?」
海難入道は人語で発言したのである。
「私は人魚にも変化出来るからね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「今現在の俺は空腹だ…邪魔するなら貴様も食い殺すぞ…」
海難入道は獰猛で強欲の妖怪である。彼自身は極度の食いしん坊であり相手が妖怪であっても捕食する。
「私こそあんたを食い殺しちゃおうかしら♪」
「はっ?」
桜花姫の挑発に海難入道は苛立ったのである。
「所詮は陸地の妖怪である貴様が…水難妖怪である俺を食い殺すと?海中では俺を仕留められる妖怪は存在しないぞ…」
海難入道は妖力こそ大妖怪よりは若干下回るが…。海中で彼を上回る海中の妖怪は存在しない。
「噂話は熟知したぞ…近頃貴様は人間の僧侶に加勢して…同種の妖怪達を征伐したらしいな?」
「人間に加勢したから何よ?私は邪魔者を仕留めただけよ♪」
桜花姫は笑顔で反論したのである。
「貴様…気に入らないな…」
「如何する♪」
「死滅しろ…」
海難入道は即座に触手で攻撃するのだが…。桜花姫は瞬間移動の妖術により海難入道の背後へと瞬間移動したのである。
「危機一髪だったわね♪」
「此奴…妖術で俺の攻撃を回避しやがったか…」
「今度は私の出番ね♪」
桜花姫は両手より雷光の発光体を凝縮…。雷光の球体を形作る。
「あんたこそ死滅しなさい♪」
両手から雷光の球体を発射したのである。雷光の球体は海難入道に直撃する。
「直撃♪」
雷光の球体は海難入道の皮膚に直撃するのだが…。
「えっ?」
「残念であったな…」
桜花姫が発射した雷光の球体は海難入道の体内へと吸収されたのである。
「吸収するなんて…」
(海難入道には妖術が通用しないのかしら…)
メンテ

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