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テラトピア大事変
日時: 2020/12/25 07:49
名前: 戦艦零号

第一話

休憩時間
全世界を二分させる人類史上最大の大戦争…。第三次列国大戦が終焉してより十五年が経過する。世界暦五千五百二十二年四月下旬…。小国家〔テラトピア自由区〕での出来事である。場所は進学校テラトピア学園…。休憩中に一人の男子生徒が窓際から仰天の青空を眺望する。
「今日も図書室で暇潰しだな…」
男子生徒の名前は【フィルドルク】…。テラトピア学園の男子生徒であり学部は普通科である。フィルドルクは一見すると年齢十四歳の普通の少年であるものの…。誰よりも荒唐無稽のオカルト関連が大好きであり勉学以外の時間帯ではオカルト関連の情報を調査するのが趣味である。フィルドルクは午前中の休憩時間に図書室へと移動する。
「オカルト関連…オカルト関連…」
フィルドルクはオカルト関連の参考書を何冊か黙読したのである。内容としては近年話題の超能力関連は勿論…。古代文明の魔法神秘学やら東洋の妖術関連である。
「僕にも超能力とか…荒唐無稽の魔法が扱えたらな…」
フィルドルクは自身にも超能力やら魔法が使用出来たらと妄想し始める。
「一体如何すれば僕に超能力が?」
彼是と思考し続けた直後…。
「ん?」
隣接より一人の女子生徒が魔法関連の書籍を何冊か漁ったのである。
『誰だろう…』
気になったフィルドルクは恐る恐る隣接の女子生徒をチラ見する。
『うわっ…誰なのかな?』
女子生徒は女性としては高身長であり頭髪は赤毛のストレートロング…。両目の瞳孔は半透明の血紅色であり両方の耳朶には金剛石のイヤリングが特徴的である。容姿は人一倍美的でありフィルドルクは彼女の妖艶さに見惚れる。
『彼女…相当の美人だな…胸部も…』
女子生徒は胸部が豊富である。フィルドルクは彼女に魅了されたのか赤面し始める。
『瞳孔が血紅色だ…彼女は…人間の女の子なのかな?』
隣接の女子生徒は一般の女性とは異質的であり摩訶不思議のオーラを感じさせる雰囲気だったのである。すると摩訶不思議の女子生徒はフィルドルクの存在に気付いたのかフィルドルクの方法を凝視し始める。
「貴方…先程から何かしら?私に用事?」
「えっ!?」
フィルドルクはビクッと反応…。
「御免…気にしないで…」
フィルドルクは赤面した表情で即座に女子生徒に謝罪したのである。すると女子生徒は恐る恐る…。
「貴方…名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクだよ…」
フィルドルクは即答したのである。
「君は?」
一方のフィルドルクも女子生徒に名前を問い掛ける。
「私は【メロティス】よ…貴方は私のクラスメートだったわよね…」
「えっ…君は僕のクラスメートだっけ?」
フィルドルクはオカルト関連には随一である反面…。オカルト関連以外の物事には比較的無関心であり自身のクラスに誰が存在するのか認識出来なかったのである。
「貴方って…オカルト以外の物事には無関心そうね…」
『フィルドルクって男子は天然なのかしら?』
フィルドルクは極度の天然でありメロティスは内心呆れ果てる。
「えっ…はぁ…」
一方のフィルドルクは苦笑いしたのである。
「貴方は荒唐無稽の心霊とか超常現象とか大好きそうね…」
「勿論だよ♪超能力とか異星人とかも大好きだよ♪」
フィルドルクは笑顔で即答する。
「へぇ…貴方って純粋なのね…」
「えっ?純粋?僕が?」
「純粋よ…誰よりもね♪」
メロティスは微笑した表情で発言したのである。
「えっ…」
『純粋って…子供みたいだな…』
フィルドルクはメロティスに子供扱いされ…。赤面したのである。するとメロティスは小声で…。
「今日の放課後だけど…私と一緒に帰宅しない?折角の機会だし…」
「えっ!?」
フィルドルクはメロティスに誘われ驚愕したのである。
『こんなシチュエーション…現実なのかな?こんな僕が…女子生徒と帰宅…』
フィルドルクは今回の出来事が現実なのか混乱する。予想外のシチュエーションに再度赤面したのである。
「私も荒唐無稽のオカルトが大好きだからね…如何する?貴方にとって都合が悪ければ無理にとは…」
問い掛けられたフィルドルクは一瞬沈黙するものの…。
「勿論大丈夫♪僕は大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
フィルドルクはワクワクした様子であり笑顔で返答したのである。
『こんな僕がこんな可愛らしい女の子と一緒に帰宅出来るなんて…夢物語みたいだよ♪現実の出来事なのかな?』
一瞬現実なのか自分自身の妄想なのか混迷する。フィルドルクはメロティスとの帰宅に内心大喜びしたのである。

第二話

帰宅
放課後の時間帯…。フィルドルクはメロティスと一緒に帰宅する。
「メロティスさん…自宅は?」
「私の自宅はサウスタウンよ…」
サウスタウンとは西方地帯に存在する小規模の住宅街である。
「えっ?メロティスさんの自宅もサウスタウンなの?僕と一緒だね♪」
「貴方の自宅もサウスタウンなのね…」
メロティスもサウスタウンの住民でありフィルドルクは内心大喜びする。
「貴方…随分と嬉しそうね…」
「えっ!?」
フィルドルクは赤面…。気恥ずかしくなる。
「フィルドルク♪貴方って本当に面白いわね♪」
メロティスは微笑み始める。
「僕って…面白いのかな?」
「面白いわよ♪人一倍天然そうだし♪」
「えっ…」
『人一倍天然って…』
フィルドルクは苦笑いしたのである。するとメロティスは無表情で…。
「貴方は現実世界に荒唐無稽の魔法が存在するなら…直視したくない?」
「えっ…」
『正直…メロティスさんの思考が理解出来ないけど…』
メロティスの突然の質問に困惑したのである。
「魔法が…」
フィルドルクは一息する。
「空想かも知れないけど…荒唐無稽の魔法が本当に存在するのであれば…実際に直視したいかな…」
フィルドルクが恐る恐る返答するとメロティスは瞑目し始める。
「仕方ないわね…」
「えっ?仕方ないって…」
「今回だけは特別よ…」
「えっ…特別って?」
メロティスはカッターナイフを所持したかと思いきや…。自身の手首を自傷させたのである。
「メロティスさん!?一体何を!?」
フィルドルクは突然の彼女の自傷行為に驚愕する。一方のメロティスは平気そうな表情だったのである。
『彼女は正気なの!?』
地面にはメロティスの血液が一滴ずつ流れ出る。
「メロティスさん…血液が…」
フィルドルクは彼女の鮮血に畏怖したのかソワソワする。
「フィルドルク…貴方は極度の心配性ね…」
一方のメロティスは冷静沈着だったのである。
「心配しなくても私は大丈夫よ…貴方は大袈裟ね…フィルドルク…」
数秒間が経過する。カッターナイフで自傷したメロティスの傷口が一瞬で治癒したのである。
「えっ!?メロティスさんの傷口が治癒した!?一体如何して…何が?」
フィルドルクは荒唐無稽の超常現象に愕然とする。するとメロティスは無表情で発言したのである。
「単刀直入に表現するなら…私の正体は魔女なのよ…」
「えっ…魔女?メロティスさんの正体が魔女だって?」
一瞬出鱈目であると思考するものの…。先程の荒唐無稽の超常現象を直視するとメロティスの正体が魔女であると否定出来なくなる。
「正確には私の家計は魔女の家計ってだけよ…父様は普通の人間だし…私は魔女と人間の混血なのよね…」
メロティスは母親が人外の魔女であるものの…。父親は純血の人間だったのである。フィルドルクは緊張した様子で恐る恐る彼女に質問する。
「ひょっとするとメロティスさんの祖先って…東洋に存在する…イーストユートピア出身者なの?」
「私の祖先はイーストユートピアに出身らしいわね…」
イーストユートピアとは極東に存在した辺境の島国であり所謂桃源郷神国と命名される。世界的には魔女の発祥地とされる。イーストユートピアは近代化の成功により列強の一員として認識されたものの…。二百年前に勃発した第二次列国大戦で超大国に敗北したのである。イーストユートピアは多大なる空襲により各村落は焦土化…。今現在では荒廃した無人地帯同然であり居住者は誰一人として存在しない。
「メロティスさんが魔女なのは事実みたいだけど…吃驚したよ…」
「こんな話題はオカルト大好きな貴方以外には出来ないからね…」
「正直最初に対面してから普通の常人とは異質的だったからね…メロティスさんの正体が魔女なのは納得だよ…」
するとフィルドルクは小声で…。
「メロティスさんは今迄誰かに気味悪がられるとか…差別されなかったの?」
メロティスは一瞬沈黙するも小声で返答したのである。
「無論ね…私自身こんな容姿だし…クラスメートの女子達からは人外の魔女って揶揄されたわよ…実際問題私の家計が人外の魔女なのは事実なのだけどね♪」
彼女は笑顔で発言する。
「前向きだね…メロティスさんは…」
フィルドルクはメロティスが人一倍ポジティブであると感じる。一方のメロティスはフィルドルクを凝視…。
「貴方も人外でしょう…フィルドルク…」
「えっ?」
メロティスの人外の一言にフィルドルクは意味が理解出来ず脳内が白色化する。
「僕が…人外だって?」
「貴方ってエスパーっぽいのよね…」
「僕が…エスパー?」
フィルドルクは珍紛漢紛であり困惑したものの…。
「二年前に死んじゃったけど…僕の母方の叔父さん…ストレイダス叔父さんが…霊能力なのかな?死者の霊体と会話出来るとかって…」
フィルドルクには母方の【ストレイダス】と名乗る叔父が存在する。今現在でこそストレイダスは故人であるが…。ストレイダスは大昔から死者の霊体を視認出来る特殊体質だったのである。霊体を視認出来るばかりか死者との会話も出来る性質上…。周囲の者達からは非常に気味悪がられ両親やら実母以外の兄弟からも嫌忌されたのである。こんな境遇の彼であったが…。警察組織が死者と会話が可能であるストレイダスの霊能力に注目する。警察組織は特殊体質の彼を特別枠の特別警察に配属させ数多くの未解決事件解決に貢献させたのである。
「やっぱりフィルドルクの血縁者はエスパーだったわね…」
メロティスは納得する。
「貴方は正真正銘エスパーの人種なのよ♪」
「僕がエスパーの人種!?」
「如何やら貴方が貴方の叔父さんの血筋を色濃く継承したみたいね…」
「血筋を継承したとしても僕にはストレイダス叔父さんみたいに死者の霊体なんて視認出来ないし…映画とか漫画の主人公みたいに怪力とか超能力なんて何一つとして使用出来ないよ…」
「貴方が特殊能力を発揮するには相応の衝撃が必要不可欠なのかも知れないわ…」
「相応の…衝撃?」
「貴方自身が大事件とか…事故に遭遇しなければ特殊能力は一生涯覚醒しないでしょうね…」
「大事件とか事故って…物騒だな…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。メロティスと摩訶不思議の会話から数分後…。二人は自宅へと戻ったのである。

第三話

新人類
小規模の島国…。テラトピア自由区から数百キロメートルの長距離にはテラトピア自由区よりも小規模の島国が存在する。島国の国名は〔万民解放区〕である。万民解放区は十五年前こそ無名の無人島であったが…。第三次列国大戦に敗北した万民解放軍の残党勢力と世界各地の犯罪者達が移住したのである。彼等は無人島の万民解放区に暗躍すると島内全域を軍事拠点化…。万民解放軍を再結成したのである。とある密室にて二人の軍人が密談する。
「二日後だ…二日後に近場のテラトピア自由区を攻略するぞ…」
将軍らしき人物が発言したのである。
「テラトピア自由区か…一日間で攻略出来そうだな…」
背広姿の金髪碧眼の男性が返答する。テラトピア自由区は比較的国内の治安が安定した一方…。戦力は最低限の武装警察隊が配置された程度であり通常の国軍としての反撃能力は実質皆無とされる。
「歴戦の貴様にとっては今回の作戦…片手間なのかも知れないが…貴様以外の将兵達は実戦未経験の新米兵士達ばかりだ…実戦で役立つのやら…」
今現在万民解放軍の将兵は大半が世界各国の犯罪者達ばかりであり経験豊富の将兵は実質少数とされる。将軍らしき人物は将兵達の熟練度の脆弱さを懸念する。
「非力の新兵ばかりだが…世界連合は十五年前の大戦で疲弊した状態なのも事実だからな…」
世界連合とは第二次列国大戦を契機に創設された各国家による統一政府である。第三次列国大戦が終結してから十五年が経過したものの…。今現在世界各国が戦争の悪影響で疲弊状態でありあらゆる国家が戦争出来る余力が皆無だったのである。無論…。統一政権の世界連合さえも今現在は反戦ムードであり各地の紛争を解決出来る余力は皆無である。背広姿の男性が断言する。
「今回の作戦は俺達の強大さを全世界に知らしめる絶好機…今回の作戦が成功すれば世界連合は迂闊には手出し出来なくなるだろう…何よりも俺には…」
背広姿の男性は護身用の拳銃を携帯したかと思いきや…。
「なっ!?貴様は…一体何を!?」
将軍らしき人物は拳銃に冷や冷やする。
「安心しろ…此奴を…分解するだけだ…」
「分解だと?一体如何するのだ?」
「大人しく見物し続けろ…」
背広姿の男性は摩訶不思議の効力で自身の拳銃を分解したのである。
「俺が超能力さえ思う存分に発揮出来れば…全世界を掌握出来るだろう…容易に…」
新人類とは超能力を所持する特殊人種とされ…。現在の調査では百万人に一人の確率で存在するとされる。
「現段階では俺に対抗出来る新人類は存在しない…」
すると将軍らしき人物はニヤリと冷笑する。
「貴様の超能力とやら…期待するぞ♪【ウィルフィールド】…」
彼自身詳細は不明であるが…。ウィルフィールドと名乗る人物は超能力を使用出来る新人類の一人だったのである。
『ウィルフィールドの正体が荒唐無稽の新人類だったとは…新人類とやらは本当に実在するのだな…』
将軍らしき人物は内心新人類の存在に驚愕する。

第四話

霊体
真夜中の深夜帯…。フィルドルクは超能力の歴史書と呼称される参考書を黙読したのである。超能力の歴史書には古代文明時代は勿論…。今現在の事例も多数記述され非常に興味深かったのである。
「極東のイーストユートピアにもエスパーが存在したなんて…」
イーストユートピア所謂桃源郷神国は魔女の発祥地として有名であるものの…。新人類による超能力伝説は複数存在する。先例としては戦乱時代に活躍したとされる名将夜桜崇徳王である。崇徳王は十数キロメートルもの長距離から敵軍の将兵が何人存在するのか正確に察知出来たとされる。崇徳王以外には安穏時代の八正道と名乗る僧侶も有名である。詳細こそ不明であるが…。彼にも超能力らしき伝説が一部確認される。一例としては神族天狐如夜叉との戦闘で銃弾のみで神器を破壊したとの一説である。八正道の場合は偶然の可能性が指摘される一方…。超能力による超常現象も否定出来ないとの意見も存在する。両者とも無自覚であったが…。今現在の見解では両者とも新人類であるとの見解が通説である。
「イーストユートピアにも新人類が存在したなんて…」
数分間が経過するとフィルドルクは熟睡する。睡眠してより数分後…。フィルドルクの脳裏より視界全域が白色の世界が発現されたのである。
「えっ?何だろう?」
フィルドルクは恐る恐る周囲を警戒するのだが…。周辺の景色は白色だけであり自分自身以外には何も存在しない虚無の世界である。
「摩訶不思議の世界だな…」
すると背後より…。
「フィルドルク…フィルドルク?」
「えっ?誰なの?」
フィルドルクは恐る恐る背後を直視したのである。
「えっ!?ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクの背後に存在するのは誰であろう二年前に死去した叔父…。ストレイダス本人だったのである。
「久し振りだな♪フィルドルク♪」
「叔父さん…」
「フィルドルクが元気そうで安心したよ♪」
ストレイダスは笑顔で発言する。
「如何して…ストレイダス叔父さんが?叔父さんは二年前に…」
フィルドルクは衝撃的光景に脳内が白色化したのである。
「突然だから吃驚するよな…フィルドルク…」
フィルドルクはストレイダスに近寄ると力一杯密着…。
「叔父さん!」
涙腺から涙が零れ落ちる。
「如何して…如何してストレイダス叔父さんは死んじゃったの?」
「フィルドルク…」
フィルドルクは数分間程度落涙し続ける。
「大丈夫そうだな…フィルドルク…」
泣き止むフィルドルクにストレイダスは安心する。
「甘えん坊だな♪フィルドルクは♪」
「御免なさい…叔父さん…」
フィルドルクは赤面した様子で謝罪したのである。
「当然であるが…今現在の俺は霊体の存在なのだ…」
ストレイダスは自身が霊体であると自負する。
「霊体…」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「如何して叔父さんは死んじゃったの?本当に事故で死んじゃったの?」
両親からはストレイダスの死因は不慮の事故であると説明されたのだが…。フィルドルクは如何しても納得出来なかったのである。
「今更フィルドルクに隠し事しても仕方ないからな…」
「隠し事?」
ストレイダスは一息する。
「二年前の十二月だ…」
「二年前の十二月?」
二年前の十二月の出来事である。新人類のストレイダスは特別警察での数多くの功績を評価され…。世界連合の特務機関に抜擢されたのである。全世界の主軸である世界連合も新人類の存在に興味を抱き始め…。新人類で構成された特務機関を創設したのである。特務機関の秘密エージェントとして活動するストレイダスは秘密団体…。万民解放軍と呼称される武装勢力の本拠地万民解放区に潜入したのである。潜入には成功したものの…。不運にもストレイダスは万民解放軍の警備兵に発見され拘束されたのである。ストレイダスを拘束した警備兵は皮肉にも自身と同種である新人類であり名前はウィルフィールドと名乗る。ウィルフィールドと名乗る新人類は非常に強力でありストレイダスはウィルフィールドの超能力で殺害されたのである。
「俺は諜報員として万民解放区に潜入したが…万民解放軍の本拠地でウィルフィールドって名前の新人類に拘束され…彼に殺害された…」
「えっ…ウィルフィールド?新人類…」
『やっぱりストレイダス叔父さんの死因は事故じゃなくて…ウィルフィールドって新人類に殺されたの?』
ストレイダスの死後…。世界連合は非難を回避したかったのか諜報員のストレイダスは不慮の事故として扱われたのである。フィルドルクは衝撃の事実に混乱する。
「突然だから混乱するよな…フィルドルク…」
「御免なさい…正直突然過ぎるから…」
「当然の反応だよな…」
ストレイダスは再度一息したのである。
「フィルドルク…俺は霊能力以外に未来予知も出来る…」
「未来予知って?」
フィルドルクは自身の超能力を覚醒させ未来予知も使用出来る。
「恐らくだが二日後…俺を殺害した新人類のウィルフィールドと…万民解放軍の奴等がテラトピア自由区に侵攻を開始するだろう…」
「えっ!?」
フィルドルクは驚愕したのである。
「本当に!?万民解放軍がテラトピア自由区に侵攻!?」
非現実的であり一瞬冗談かと思いきや…。
『ストレイダス叔父さんって冗談は苦手だよね…』
ストレイダスは冗談が人一倍苦手であり本当であると感じる。
「恐らくだが…隠蔽体質の世界連合は勿論…テラトピア自由区の武装警察隊も期待出来ないだろうよ…」
ストレイダスはフィルドルクを凝視し続ける。
「今現在テラトピア自由区を守護出来るのはフィルドルクだけだ…」
「えっ!?僕がテラトピア自由区を!?」
フィルドルクは再度困惑する。
「叔父さん…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力なんて何一つとして…」
現実問題…。フィルドルクは何一つとして超能力が使用出来ない。
「今現在では超能力は使用出来ないが…フィルドルクは人一倍俺の血筋を色濃く継承する一人だ…超能力が覚醒すればフィルドルクは俺を上回るかも知れない…」
ストレイダスはフィルドルクの潜在能力は自身以上であると確信する。
「如何すれば…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させられるの?」
「簡単だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力を開放出来るさ♪」
「えっ?僕は意識するだけ?」
「フィルドルクは俺の血筋を色濃く継承した存在だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力は発動出来るだろう…超能力を使用すれば使用するだけ桁外れに上達する…」
新人類は超能力を使用し続けると超能力は更なる覚醒により効力は幅広くなる。新人類の潜在的能力は実質的に未知数とされる。
「本当に…出来るのかな?僕なんかに…」
フィルドルクは自信が皆無であり潜在的能力が覚醒するのか不安だったのである。
「大丈夫だ♪フィルドルクなら出来るさ♪俺が保証する♪」
ストレイダスは笑顔で断言する。
「叔父さん…」
するとストレイダスの肉体が半透明化し始める。
「えっ!?叔父さん…肉体が半透明に…」
「如何やら霊能力は限界みたいだ…俺はもう少しで消滅する…」
「限界なの…叔父さん…」
「フィルドルク…最後だが…」
ストレイダスは笑顔で…。
「俺を超越しろよ…フィルドルク…フィルドルクなら俺を上回れる♪明日からはフィルドルクが本物のスーパーヒーローさ♪」
ストレイダスの肉体は完全に消失したのである。ストレイダスが消滅した直後…。
「ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクは目覚めたのである。
「えっ!?」
フィルドルクは自身の寝室であり室内をキョロキョロさせる。
「心霊現象だったのかな?如何して死んじゃったストレイダス叔父さんが…」
先程自身の夢路にて死去したストレイダスと再会した出来事にフィルドルクは混乱するものの…。
「僕にも…出来るのかな?ストレイダス叔父さん…」
フィルドルクは意識するだけで超能力が発動するのか試行を決意する。

第五話

超能力
本日の放課後…。フィルドルクは学園の裏庭へと移動したのである。
「ストレイダス叔父さんのアドバイスでは…意識するだけで超能力が発動するらしいけど…」
『本当に意識するだけで超能力が覚醒するのかな?』
内心…。昨日夢路にて遭遇したストレイダスの心霊現象も偶然の可能性も否定出来ず超能力は発動しないだろうと思考したのである。
「石ころだ…」
地面の石ころを自身の目前に設置させたのである。
「石ころ…浮遊するかな?」
フィルドルクは恐る恐る両目を瞑目させる。
「石ころよ…空中を浮遊しろ…」
フィルドルクは石ころに命令するのだが…。石ころは依然として浮遊しない。
「石ころは浮遊しないな…」
フィルドルクは再度命令する。
「石ころ!浮遊しろ!」
試行してより数分間が経過…。フィルドルクは必死に思念するのだが目前の石ころはピクリとも動かない。フィルドルクは苛立ち始める。
「畜生!僕には出来ないよ!」
フィルドルクは自身が超能力の才能が皆無であると落胆したのである。
「僕は全然駄目だね…やっぱり石ころは浮遊しないや…」
フィルドルクは超能力が発動せずガッカリする。
「はぁ…やっぱり僕に超能力の才能なんて無かったみたいだね…」
『死んじゃったストレイダス叔父さんの幽霊が出現する時点で可笑しかったのかも知れないね…僕の妄想だったのかな?』
夢路に出現したストレイダスは自分自身の妄想であったと判断したのである。
「仕方ない…戻ろうかな…」
フィルドルクは帰宅する寸前…。
「えっ?」
一瞬であるが背後の石ころがコロッと動いたのである。
『一瞬動いたかな?』
フィルドルクは一息する。
『石ころよ…浮遊しろ…』
恐る恐る石ころに思念したのである。数秒後…。依然として動かなかった石ころが上昇し始める。
「えっ!?石ころが浮遊した!?」
石ころは自身の目線と同程度に浮遊…。ピタッと停止する。
『現実なの!?』
フィルドルクは空中浮揚する石ころに驚愕…。
「魔法みたいだ…」
目前の光景が現実なのか理解出来なくなる。
『石ころよ…落下しろ…』
落下を思考すると石ころは一瞬で地面に落下したのである。
「超能力って本当に存在したの?僕に超能力が…」
フィルドルクは先程の超常現象が自身による念力なのか確認したくなる。フィルドルクは帰宅せず近隣に位置する閉鎖中の廃鉱へと移動したのである。
「廃鉱なら好都合だね…」
閉鎖中の廃鉱には無数の岩石やら鉄屑の残骸が確認出来…。超能力を発動するには好都合だったのである。
「今度も其処等の石ころを…」
二十センチメートルの石ころを発見…。
「石ころは校内の裏庭みたいに浮遊するかな?」
先程みたいに石ころが浮遊するのか試行したのである。
『石ころよ…浮遊しろ…』
数秒後…。石ころが容易に浮遊したのである。
「えっ…」
フィルドルクは驚愕する。
「本当に…僕に超能力が?」
今回は裏庭の石ころよりも軽量に感じられたのである。
「落下しろ…」
落下をイメージすると石ころは一瞬で地面に落下する。フィルドルクは恐る恐る背後を凝視…。
「僕に…出来るだろうか?」
フィルドルクの背後に存在するのは先程の石ころより大サイズの岩石である。直径一メートルサイズであり念力で粉砕出来るか思考する。
「此奴を…念力だけで粉砕出来るかな?」
直径一メートルサイズの岩石に思念したのである。
『岩石よ…』
フィルドルクは必死に思念するのだが…。
「砕け散れ!」
岩石は非常に硬質であり容易には粉砕出来ない。
「ビクともしないな…やっぱり岩石を粉砕するのは困難だね…」
困難であると感じるものの…。
「今度こそ…」
フィルドルクは再チャレンジする。
「岩石よ…粉砕しろ!」
先程よりも根強く思念したのである。
「砕け散れ!」
すると数秒後…。岩石の表面よりピキッと罅割れが発生する。
「表面が罅割れた!?」
『今度こそ出来るかも!』
再度思念したのである。
『岩石よ…砕け散れ!』
数十秒間が経過…。直後である。頑強の岩石がバリッと粉砕され…。周囲に砕け散ったのである。岩石の破片が其処等に散乱する。
「はぁ…はぁ…手出しせずに岩石を粉砕出来たぞ♪」
フィルドルクは大喜びしたのである。目標を達成出来たものの…。フィルドルクは極度の疲労により地面に横たわる。
「念力だけで…こんなにも疲れが蓄積されるなんて…」
フィルドルクは体力の消耗に身動き出来なくなる。
『眠たいな…』
直前…。
「貴方…大丈夫かしら?」
「えっ…誰なの?」
最近知り合った女子学生のメロティスが地面に横たわった状態のフィルドルクに恐る恐る近寄る。
「メロティスさん?」
「フィルドルク…動かないでね…」
「えっ?」
メロティスはフィルドルクの腹部に接触したかと思いきや…。消耗した体力が蓄積されたのである。
「一安心だわ…」
メロティスはホッとする。
「感謝するよ♪メロティスさん♪体力が戻ったよ♪ひょっとしてメロティスさんの魔法なの?」
「無論ね…」
メロティスは体力の消耗したフィルドルクに回復魔法を使用したのである。フィルドルクはメロティスの回復魔法により体力が回復する。するとメロティスは笑顔で…。
「貴方…超能力の覚醒に成功したのね♪見事だったわ♪」
「えっ?メロティスさん…ひょっとして観察したの?」
「勿論よ♪放課後からね♪」
メロティスは笑顔で即答する。
「えっ…はぁ…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。
「フィルドルクは本当にサイコキネシス…超能力を覚醒させたのね♪貴方は正真正銘新人類だったのよ♪」
「僕が新人類…」
『ストレイダス叔父さんの遺言は事実だったのか…』
内心自身が新人類だった事実にフィルドルクは嬉しくなる。
「メロティスさん?」
「何かしら?フィルドルク?」
フィルドルクは深夜の夢路での出来事をメロティスに洗い浚い告白する。
「貴方は夢路で故人の叔父さんと遭遇したのね…」
「叔父さんの未来予知は本当なのかな?」
「本当でしょうね…私も千里眼で海辺を眺望するのだけど…」
メロティスは時たま大海原を眺望するのだが…。二日前に武装した小型船を数隻目撃したのである。不審の小型船は即座に撤収したものの…。メロティスは気味悪くなる。
「私は胸騒ぎを感じるのよ…ひょっとすると近日中に大事件が発生するかも知れないわね…」
メロティスは非常に不安視する。
『メロティスさん…』
彼自身自信は皆無であったものの…。
「メロティスさんは僕が守護するよ♪」
笑顔で断言する。
「フィルドルク…」
フィルドルクの発言にメロティスは一瞬赤面したのである。
『叔父さんを殺した新人類…ウィルフィールドにも対面したいし…』
数分後…。二人は各自の自宅へと戻ったのである。

第六話

開戦
翌日の早朝…。六時三十分未明である。本拠地の万民解放区より万民解放軍の艦隊が出撃を開始する。旗艦は巨大戦艦一隻と二隻の大型輸送艦が同行したのである。旗艦の巨大戦艦には新人類のウィルフィールドが乗艦する。
「ウィルフィールド大佐♪貴方の活躍を期待しますよ♪」
ブリッジにて艦長が笑顔で発言したのである。
「活躍するも何も…こんな単調の任務で活躍出来なければ全世界を制覇するのは夢物語だ…」
「〔ヘビーエンプレス〕の威力をテラトピア自由区の人民に知らしめる絶好機です♪」
超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスは第三次列国大戦で大活躍した超弩級ミサイル艦であり万民解放軍の旗艦である。将兵達からは難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金エターナルメタルが駆使され…。エターナルメタルの重厚装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない鉄壁の強度である。多数の多目的ミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射出来る電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には一機の大型輸送機か偵察用の無人機を二機搭載出来る。
「俺が超能力を発揮すればヘビーエンプレスの出番は無くなるな…」
航行してより三十分後の七時…。一隻の小型船と遭遇したのである。
「所属不明の小型船を発見しました!」
通信兵が報告する。
「所属不明の小型船だと?であればホログラム装置で確認しろ…」
ヘビーエンプレスには最新式のホログラム装置が搭載されたのである。装置の上部には立体化された海面上と一隻の小型船の立体映像が映写される。
「此奴はテラトピア自由区の警備艇か…大艦隊である俺達を相手に絶望的だな…」
ウィルフィールドが発言する。
「ウィルフィールド大佐…対艦ミサイルで攻撃しますかね?」
艦長はウィルフィールドに問い掛ける。
「折角の挨拶だ…手始めに攻撃しろ…」
「承知しました…」
艦長はウィルフィールドの指示に承知すると乗組員達に攻撃を命令する。
「警備艇を攻撃…撃沈せよ…」
「はっ!」
乗組員達は即座に行動を開始したのである。
『開戦だ…旧人類同士潰し合うのだな♪』
ウィルフィールドは周囲に失笑する。同時刻…。警備艇の船内では所属不明の大艦隊に騒然とする。
「大型艦艇が三隻も!?演習なのか?」
警備艇の乗組員達は所属不明の大艦隊に警戒したのである。すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「中央の大型船は恐らく…第三次列国大戦で活躍したヘビーエンプレスだろうか…」
「ヘビーエンプレスですと?」
「世界連合に敵対した新枢軸勢力が使用した超大型船舶だ…こんな辺境の海域で遭遇するとは…」
「であれば所属不明の大艦隊は新枢軸勢力の残党なのか!?」
「新枢軸の残党勢力が出現するとは…一体何が目的なのか?」
「何はともあれ相手が相手だ…俺達だけでは対処出来ない…即刻政府と世界連合に報告しろ!世界連合に援軍を要請し次第…海域を撤退するぞ!」
乗組員達は即座に政府と世界連合に事態を報告したのである。数秒後…。
「ヘビーエンプレスから対艦ミサイルが多数発射されました!」
ヘビーエンプレスより十数発もの対艦ミサイルが発射されたのである。
「対艦ミサイルを迎撃しろ!」
警備艇は即座に対空砲で対艦ミサイルの迎撃を開始する。四発の対艦ミサイルの迎撃には成功するのだが…。一発の対艦ミサイルが警備艇の甲板に直撃したのである。直後…。弾薬庫に引火すると警備艇は乗組員諸共轟沈したのである。一方ヘビーエンプレスの艦内ではウィルフィールドが双眼鏡で確認する。
「他愛無いな…俺達はテラトピア自由区に直進するぞ…」
万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区を目標に直進したのである。一方警備艇からの報告によりテラトピア自由区政府と世界連合は突然の事態に混乱する。

第七話

高速道路
午前七時…。テラトピア自由区では警戒警報が発令されたのである。突然の警報に国内は混乱し始める。フィルドルクも突然の警報に吃驚…。飛び起きたのである。
「えっ!?何が!?」
『ひょっとして警戒警報?』
フィルドルクは万民解放軍の襲来であると察知する。
『万民解放軍だな…叔父さんの予言は本当だったね…』
ストレイダスの未来予知に驚愕したのである。一方外部では突然の緊急事態に各勤務地は勿論…。各学園も一時的に休校されたのである。一部の学生は学園の休校で大喜びするものの…。数多くの者達が緊急事態に不安視する。すると突如として自室に設置された携帯型ホログラム装置が鳴動したのである。
「うわっ!吃驚した…」
フィルドルクは携帯型ホログラム装置を作動させる。
「フィルドルク?」
ホログラム装置はメロティスの姿形を映写させたのである。
「メロティスさん?」
「こんな朝っぱらから突然御免なさいね…」
「大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
メロティスは謝罪するのだがフィルドルクは笑顔で返答する。
「やっぱり貴方の叔父さんの予言は本当だったわね…」
「本当だね…正直僕も吃驚したよ…」
「避難所で合流しましょうね…フィルドルク…」
直後に携帯用のホログラム装置が停止したのである。すると自室のドアにて父親が入室する。
「フィルドルク?」
「父さん?」
「フィルドルク…準備が出来次第避難所に移動するぞ…」
「避難所?」
政府から避難指示が発令されたのである。
「オーケー!父さん!」
フィルドルクは準備を開始する。準備を開始してより数分後…。準備が終了するとフィルドルクは父親と母親との三人で外出したのである。
「如何して突然こんな事態に…」
母親は予想外の出来事にビクビクする。
「俺にも何が何やらサッパリだが…俺達は避難所に移動して命拾いするぞ…」
三人は自家用車で避難所へと移動するのだが…。高速道路の道路上は渋滞であり直進したくても直進出来ない。
「渋滞か…畜生…」
自家用車を運転する父親は非常に苛立った様子である。
「全然走行出来ないわね…」
「こんな状態では避難所には当分移動出来ないね…如何する?」
今現在では各地の車道が渋滞であり乗用車は走行出来ない。周囲の様子を直視すると乗用車を放棄…。大勢の歩行者が高速の車道を徒歩で通行したのである。
「仕方ないな…俺達も歩くぞ…」
「止むを得ないわね…」
三人は止むを得ず乗用車を放棄…。周囲の歩行者達と同様に徒歩で高速道路を通行したのである。
「私達は避難所に到達出来るのかしら?」
母親が不安視する。
「避難所に到達出来るかは断言出来ないが…何も行動しないよりは…」
一方フィルドルクは沈黙した様子で両親を凝視したのである。
『父さんも母さんも不安みたいだな…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させて…父さんと母さんを安心させたいな…』
フィルドルクと両親が高速道路を移動する同時刻…。魔女のメロティスは自宅の地下壕にて両親と三人で潜伏する。
「パパ?ママ?如何して避難所に移動しないのよ?私達も避難所に移動しましょうよ…こんな場所に待機し続けても…」
メロティスは不満そうな表情で両親に問い掛ける。
「避難所に移動するのは危険だ…移動中に攻撃されたら如何する?何が発生しても可笑しくない状況下だぞ…」
父親は避難所への移動を拒否する。
「俺は十五年前の大戦で大勢の避難民達が空爆で殺された瞬間を間近で目撃したからな…俺の兄貴も避難所に移動したばかりに…」
メロティスの父親は第三次列国大戦で避難所に移動中…。最愛の実兄が空爆で死亡したのである。
「パパ…」
父親の思考も理解出来るのだが…。
『私はフィルドルクと合流したいのに…』
彼女は自身の無力さを痛感する。

第八話

空爆
三十分後…。万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区の海域へと到達する。二隻の大型輸送艦の飛行甲板より多数の爆撃用ドローンが出撃…。数分間でテラトピア自由区領空へと飛来したのである。テラトピア武装警察隊の航空部隊が迎撃を開始するものの…。万民解放軍のドローン兵器は非常に高性能であり航空部隊は圧倒されたのである。各地で空爆が開始される。高速道路からでも空爆の様子が直視出来…。歩行者達は恐怖したのである。フィルドルク自身は比較的冷静であったものの…。両親は大戦のトラウマからか膠着したのである。すると一機の攻撃用ドローンが高速道路上空に急接近…。低空飛行にて逃亡中の歩行者達に対人射撃を仕掛ける。十数人が死傷する。今度はフィルドルクの両親を標的に攻撃を仕掛けるのだが…。
「父さんと母さんには手出しさせないよ!」
フィルドルクは低空飛行の攻撃用ドローンにサイコキネシスを発動する。
「墜落しろ!」
射撃寸前に攻撃用ドローンはフィルドルクのサイコキネシスにより空中分解したのである。フィルドルクの超能力を間近で目撃した父親は驚愕する。
「フィルドルク…超能力を…現実なのか?」
父親はフィルドルクのサイコキネシスに絶句するのだが…。
「貴方…覚醒したのね…」
母親は実弟のストレイダスを連想したのか冷静だったのである。
「母さん…父さん…僕はね…」
フィルドルクは最近超能力が開花した事実は勿論…。夢路にて故人のストレイダスと対面した出来事を一部始終両親に告白したのである。
「フィルドルクは夢路でストレイダスの霊体と接触したのね…ストレイダスは未来予知の内容を貴方に…」
母親は非常に納得した様子であったが…。
「死者との会話なんて…荒唐無稽の漫画みたいな出来事だな…」
父親は珍紛漢紛だったのである。
「納得出来なくて当然だよ…父さん…」
「俺は常人だから理解するには時間が必要不可欠だけど…内容は荒唐無稽だが超能力は本当に存在するのだな…」
正直理解するには程遠いが…。父親はフィルドルクの告白を闇雲に否定せず信用したのである。
「先程の内容が事実であれば…俺達が想像する以上に今回は相当の一大事だな…」
「貴方は如何するの?フィルドルク?」
「僕は…叔父さんの…ストレイダス叔父さんの継承者として万民解放軍を全身全霊で阻止するよ…」
「フィルドルク一人で…」
「フィルドルク…貴方は本気なのね?」
「勿論だよ…父さん…母さん…」
両親の意向としては当然猛反対であったが…。フィルドルクの表情から本気であると察知する。
「危なくなったら絶対に戻りなさいよ…フィルドルク…絶対に死なないでよ…」
「精一杯頑張れよ…フィルドルク…無事に戻れよ…」
「僕は絶対に死なないからね!」
フィルドルクは移動を開始したのである。

第九話

野望
ドローン兵器による空爆開始から十数分後…。テラトピア武装警察隊は疲弊状態であり万民解放軍は陸上部隊による上陸作戦を開始したのである。二隻の大型輸送艦からは合計十二隻もの上陸用舟艇が出撃…。主力戦車を中心とした上陸部隊がテラトピア自由区へと上陸したのである。旗艦ヘビーエンプレスのブリッジからウィルフィールドが上陸作戦の様子を眺望する。
「今回は俺も参戦するか…」
「大佐も上陸作戦に参加されるのですか!?」
「当然だ…」
周囲の乗組員達は愕然としたのである。
「無茶では…」
周囲の者達は無茶であると感じるものの…。
「私を仕留められる常人は存在しない…貴様達は私の実力を直視するのだな…」
ウィルフィールドは外部へと移動すると甲板にて佇立する。
「はっ!」
ウィルフィールドはサイコキネシスにより自身の肉体を浮遊させたのである。
「えっ…大佐が空中を!?」
「大佐は一体何者!?空中を飛行するなんて…幻覚だろうか?」
空中を浮遊するウィルフィールドにブリッジの乗組員達は驚愕する。一方のウィルフィールドはサイコキネシスで空中を飛行…。数分後に港内へと着地したのである。
「ん?」
『何やら…彼奴に匹敵する効力を感じるな…一体何者だろうか?』
正体こそ不明であるものの…。ウィルフィールドは気配を察知したのである。一方周囲では銃撃戦が展開されるのだが…。ウィルフィールドは無関心だったのである。
「貴様は敵部隊の指揮官か!?覚悟しろ!」
狙撃兵がウィルフィールドを標的に銃弾を発砲する。発砲された銃弾はウィルフィールドの発動したサイコキネシスにより寸前で急停止…。
「なっ!?銃弾が…」
サイコキネシスによって空中浮揚する銃弾に狙撃兵は驚愕する。一方のウィルフィールドは余裕の様子で…。
「鬱陶しい…」
発砲された銃弾はサイコキネシスの発動で狙撃兵に直撃したのである。
「ぐっ!」
銃弾の直撃により狙撃兵は地面に横たわる。
『ん?』
三人の敵兵が各ビルの屋上よりウィルフィールドを標的に設定する。
『敵軍の狙撃兵が三人か…』
ウィルフィールドは逸早く敵兵の気配を察知…。
「焼死しろ…」
発火能力であるパイロキネシスを発動する。各ビルの狙撃兵は突然の発火によって焼死したのである。すると今度は目前より…。
「今度の相手は重戦車か…俺に対抗するには力不足だな…」
重戦車はウィルフィールドを標的に戦車砲で砲撃したのである。
『こんな程度の攻撃で…』
ウィルフィールドはエレクトロキネシスで電撃のシールドを形成させる。砲弾はシールドの表面に接触すると爆散…。砲撃の無力化に成功したのである。
「今度は俺が反撃する…」
ウィルフィールドはサイコキネシスを発動すると敵軍の重戦車をペシャンコにスクラップ化させる。
「他愛無いな…敵軍の防衛ラインは容易に突破出来そうだな…」
『ん!?』
ウィルフィールドは気配の正体が気になり極度の胸騒ぎを感じる。
『気配の正体は…一体何者だろうか?新人類か?』
同時刻…。フィルドルクは銃声を目印に港内へと移動したのである。
『胸騒ぎかな?気配を感じる…一体何者なの?』
フィルドルクもウィルフィールドと同様に気配を察知…。極度の胸騒ぎを感じる。数分後…。フィルドルクは万民解放軍の上陸地点である港湾へと到達したのである。港湾には敵味方の将兵達の遺体が彼方此方に確認出来…。地獄絵同然だったのである。
「戦争の光景…」
想像以上の惨劇にフィルドルクは気味悪くなる。
『父さんと母さんは僕が誕生する以前にこんな惨劇を経験したのかな…』
するとフィルドルクは十五人の敵兵に包囲されたのである。
「貴様は民間人の学生か?こんな場所に一人で参上するとは其処等の凡人達よりは勇敢だが…場違いだな…」
「少年…死にたくなければ大人しく拘束されるのだな…」
フィルドルクは催眠を意識する。
『熟睡しろ…』
数秒間が経過すると周囲の兵士達はサイコキネシスの応用により地面に横たわり…。熟睡したのである。
「兵士達を殺さずに無力化出来たな…」
フィルドルクはホッとする。すると直後…。
「不殺で兵士達を無力化するとは…見事だな…少年…」
「えっ?誰なの?」
突如としてフィルドルクの目前より背広姿の男性が近寄る。
「少年よ…貴様の正体は新人類だな…」
男性は一目でフィルドルクが新人類であると洞察したのである。
「如何して貴方は僕を新人類だって…貴方は一体何者ですか?」
フィルドルクは恐る恐る男性に問い掛ける。
「俺の名前はウィルフィールド…俺も少年と同様に新人類の一人さ…」
ウィルフィールドは自身を新人類の一人と自負する。
「新人類…」
するとウィルフィールドはフィルドルクの両目を直視…。
「少年は彼奴に近似するな…俺が殺害した彼奴に…」
「彼奴って?誰ですか?」
「ストレイダスと名乗る新人類に…」
ストレイダスの名前にフィルドルクはピクッと反応する。
「ストレイダスって…貴方が…ストレイダス叔父さんを…」
「叔父さん?ストレイダスは貴様の叔父だったのか…」
ウィルフィールドは納得したのである。
「やっぱり貴方が叔父さんを殺害した張本人だったのですね?」
ウィルフィールドは身震いし始める。
「如何して貴方は叔父さんを殺害したのですか!?」
普段は温厚の性格であるフィルドルクであるが…。今回ばかりは非常に感情的だったのである。
「私がストレイダスを殺害した理由か…私は二年前に万民解放区に潜入した彼奴を新人類の仲間として勧誘したのだが…」
二年前…。諜報員として万民解放区に潜入したストレイダスは不運にも万民解放軍の偵察部隊と遭遇したのである。自身の超能力で偵察部隊を圧倒するもウィルフィールドが介入…。ウィルフィールドの介入によりストレイダスは拘束されたのである。ウィルフィールドは自身の野望にストレイダスに協力を一方的に要求するのだが…。
「俺は彼奴に腐敗した世界連合は勿論…世界連合を牛耳る〔ソロポスト共和国〕の滅亡に協力しないかと要求したのだが…ストレイダスは俺の要求に拒否した…彼奴も俺と境遇は一緒だろうに…」
僅少であるがウィルフィールドは感情的だったのである。
「如何してウィルフィールドは世界連合と貴方の祖国であるソロポスト共和国を滅亡させたいのですか?」
フィルドルクが恐る恐る問い掛ける。
「ソロポスト共和国は俺の祖国だったが…」
ソロポスト共和国は超大国であり今現在全世界の覇権国家である。ウィルフィールドはソロポスト共和国出身者であったが…。ソロポスト共和国は正真正銘の差別大国であり当然として新人類も差別の対象だったのである。
「差別…」
「俺は新人類としての性質上…身内の奴等からも差別されたのだ…」
「貴方は身内からも…」
フィルドルクはウィルフィールドの境遇に絶句する。
『ストレイダス叔父さんも…母さん以外の人間達に…』
ストレイダスもフィルドルクの母親以外の人間達から差別され…。数多くの者達から迫害されたのである。フィルドルクは返答出来ず沈黙する。
「俺は祖国を見限り…本来なら敵国である万民解放軍に寝返ったのだ…」
ウィルフィールドが万民解放軍に協力するのは世界連合と同組織を牛耳るソロポスト共和国の滅亡である。
「俺としても正直…ストレイダスは死なせたくなかった…新人類の同志として彼奴と一緒に腐敗した旧世界を改善させたかったのに…非常に残念だ…」
拘束されたストレイダスであるが…。ウィルフィールドの協力には拒否したのである。
「ストレイダスは何を血迷ったか…愚劣なる旧人類が支配し続けるこんな腐敗した世界を守護しても無意味だろうに…何故ストレイダスは奴等に協力するのか俺には理解出来ない…彼奴も迫害されただろうに…」
するとフィルドルクは恐る恐る…。
「貴方の目的は…新人類が差別されない世界の構築ですか?」
フィルドルクの問い掛けにウィルフィールドは嬉しそうな表情で返答する。
「勿論だとも♪主目的を達成するには数多くの犠牲が必要不可欠だが…」
ウィルフィールドはフィルドルクに名前を問い掛ける。
「少年よ…貴様の名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクです…」
「フィルドルクか…」
ウィルフィールドは一瞬瞑目する。
「フィルドルクよ…新人類の一人として俺に協力しろ…」
「はっ?」
フィルドルクはウィルフィールドの予想外の発言に拍子抜けしたのである。
「誰が貴方に協力なんて…」
フィルドルクは拒否する。
「貴方は過去に大勢の人間達から迫害されたのかも知れませんが…僕にとって貴方は悪人です!叔父さんを殺害した張本人と協力なんて僕には出来ません…」
「当然の返答だよな…突然見ず知らずの人間から協力を要請されても拒否するのは当然の返答だ…」
「貴方は一体何を?」
するとウィルフィールドは上空を眺望したのである。
「此処からだと確認出来ないが…」
「えっ?上空?」
「テラトピア自由区の成層圏上空には万民解放軍の衛星兵器…〔リバースキャノン〕が存在する…」
「リバースキャノン?」
リバースキャノンとは万民解放軍が開発した試作型光学衛星兵器…。戦略兵器である。高出力の高エネルギーを成層圏上空から発射出来…。大都市部を一撃で焦土化させる威力とされる。第三次列国大戦にて万民解放軍が開発した戦略兵器であるが完成直前に終戦…。第三次列国大戦では使用されなかったのである。
「少なくとも首都はリバースキャノンの一撃で焦土化するだろうよ…」
「首都が一撃で…」
フィルドルクは戦慄したのである。
「如何する?俺に協力すればリバースキャノンの発射を中止するし…上陸部隊を撤退させるぞ…フィルドルクにとって苦渋の選択だ…」
「えっ…苦渋の選択…」
ウィルフィールドの発言にフィルドルクは反応する。
「貴様の選択によってテラトピア自由区の運命が決定される…」
「貴方の…目的は?」
フィルドルクは警戒した様子で恐る恐るウィルフィールドに問い掛ける。
「俺の目的は世界各地に存命する新人類が迫害されない新世界の構築だ…」
「新人類が迫害されない新世界?」
「俺の目的に協力すればフィルドルクの家族は勿論…友人も命拾い出来るぞ…貴様は実質テラトピア自由区の英雄として崇拝されるだろう…」
「僕には…」
一息したのである。
「やっぱり貴方には賛同出来ません…」
フィルドルクは再度拒否する。
「如何しても拒否するか?フィルドルク…貴様の選択によって大勢の人間達が抹消されるのだぞ…貴様は極悪非道の悪魔だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクを極悪非道の悪魔であると指弾したのである。
「俺が悪魔だと?貴様には失望したよ…フィルドルク…」
ウィルフィールドは無表情であるが…。内心ではガッカリしたのである。
「仕方ない…であれば実力行使だ…」
「実力行使って?」
ウィルフィールドは両手より電撃を発動したのである。
「うわっ!ぎゃっ!」
フィルドルクはウィルフィールドのエレクトロキネシスにより全身が麻痺する。エレクトロキネシスは本来拷問として使用される超能力である。
「非常に残念だよ…フィルドルク…貴様も俺に拒否するとは…」
『所詮は愚か者達だ…フィルドルクもストレイダスも…俺達は新人類同士…未来永劫仲良く共闘出来たのに…』
ウィルフィールドは新人類として彼等と仲良くしたかったのだが…。フィルドルクの拒否によって自身の目的は達成出来ないと自覚する。一方のフィルドルクは身動き出来ず…。涙腺より涙が零れ落ちる。
『ストレイダス叔父さん…僕は如何すれば?結局僕は…ウィルフィールドに殺されちゃうのかな?』
最期を覚悟したフィルドルクであるが…。
『フィルドルク…』
『えっ?』
フィルドルクの脳裏よりストレイダスの霊体が出現する。
『叔父さん?』
『思う存分に反撃しろ…フィルドルク♪フィルドルクなら出来るさ…』
『叔父さん…僕は…』
フィルドルクは覚悟したのである。
「ぐっ!」
フィルドルクはウィルフィールドの電撃エネルギーを体内に吸収し始める。
「ん!?」
『フィルドルクは…俺の電撃を吸収するとは…』
冷静だったウィルフィールドも自身の電撃エネルギーを吸収し始めたフィルドルクには愕然とする。
『此奴…短期間でこんなにも超能力が開花するとは…』
故人のストレイダスは勿論…。自身をも上回ると予想する。一方のフィルドルクは吸収した電撃エネルギーを球体に形作る。
「はっ!」
「なっ!?」
ウィルフィールドは咄嗟にエレクトロキネシスで鉄壁のエネルギーシールドを形成…。間一髪電撃エネルギーの無力化に成功したのである。
「シールド?」
「はぁ…はぁ…一歩間違えれば俺がヤバかったな…」
ウィルフィールドはフィルドルクの覚醒に冷や冷やする。フィルドルクは先程の電撃により負傷した傷口が治癒したのである。
「フィルドルクは治癒効果も開花するとは…貴様の潜在的能力は俺の予想以上だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクが末恐ろしくなる。一方のフィルドルクは無表情でウィルフィールドに近寄る。
「俺と勝負するか?フィルドルク…」
「貴方は叔父さんを殺害した張本人だけど…僕は貴方を殺害したくない…」
フィルドルクからは殺意は感じられない。
「俺は最愛の人間を殺した張本人なのに…殺害したくないとは…フィルドルクは余程の聖人なのだな…」
「如何にか部隊を撤退させて下さい…」
フィルドルクはウィルフィールドに懇願する。フィルドルクの懇願にウィルフィールドは沈黙したのである。すると直後…。近辺より爆発音が響き渡る。
「えっ!?一体何が!?爆発音!?」
「ん?何事だ?」
爆発音が響き渡ったのは湾内だったのである。湾内の中心部には大型輸送艦が爆散…。一瞬で轟沈する。
「畜生が…味方の大型輸送艦が敵軍の猛反撃で撃沈されるとは…」
テラトピア武装警察隊の猛反撃により万民解放軍の大型輸送艦一隻が撃沈されたのである。ウィルフィールドは不本意であるが…。
「止むを得ないな…こんな場所で貴様みたいな新人類を殺害するのは非常に勿体無いからな…」
「えっ…」
一瞬ウィルフィールドの返答に拍子抜けしたのである。
「作戦中の部隊を撤退させる…当然としてリバースキャノンの発射も中止する…」
ウィルフィールドはフィルドルクの懇願に承諾…。作戦中止を決定したのである。
「貴様の成長は見物だな♪フィルドルク…」
『今度再会出来たら…フィルドルクと共闘したいな…』
今度はフィルドルクを仲間に勧誘…。共闘出来たらと思考する。ウィルフィールドは携帯式のホログラム装置を作動させ作戦の中止を全軍に伝播させたのである。作戦中止から数時間が経過…。万民解放軍の撤退により一連の事件は終焉する。同事件はテラトピア大事変と命名されたのである。

最終話

屋上
テラトピア大事変から一週間後…。世界連合の協力により国内の復興作業が開始される。テラトピア大事変終結から二週間が経過…。世界連合軍による報復作戦が開始され万民解放区は占拠されたのである。両軍の死闘により十数万人もの将兵達が死傷するが…。武装は解除され本土に配備された艦艇やら多数のドローン兵器は接収されたのである。作戦終了後…。万民解放軍の首謀者ウィルフィールドの行方は不明であり今現在でも行方は捜索されるのだが依然として発見されない。半年後の十月上旬…。
「はぁ…」
フィルドルクは休憩時間に学園の屋上にて上空を眺望する。
『ウィルフィールドって軍人さん…行方不明なのかな…』
フィルドルクはウィルフィールドの行方が気になったのである。するとフィルドルクの隣接より…。
「フィルドルク♪」
「えっ!?メロティスさん!?」
メロティスは笑顔でフィルドルクを直視したのである。
「ニュース番組ではテラトピア武装警察隊が悪者達を撃退したって報道したけどさ…実際は貴方の大活躍なのよね?」
「えっ…」
メロティスに問い掛けられるとフィルドルクは返答に困惑する。
「僕は…別に…」
フィルドルクは表情が微妙だったのである。するとメロティスは笑顔で…。
「今現在の貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
「えっ?」
メロティスのスーパーヒーローの一言に反応する。
「貴方が奮闘したからこそテラトピア自由区は奴等に占領されなかったのよ♪正真正銘貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは僅少であるが微笑したのである。
「メロティスさん♪僕がスーパーヒーローか…」
するとメロティスは赤面した表情で…。
「今度の休日だけど…私と一緒に遊ばない?」
「えっ…メラティスさんと?」
彼女の発言にフィルドルクはドキドキし始める。
『えっ…ひょっとして…メロティスさんとデートとか!?僕が!?』
フィルドルクもドキドキしたのか赤面したのである。
「こんな僕で…大丈夫なの?メロティスさん?」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「貴方だからなの♪人外同士♪私は今後も貴方と交流したいのよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは大喜びする。
「僕こそ♪」
フィルドルクは満面の笑顔で返答したのである。
「メロティスさんは何したいの?」
「私は映画かな♪映画は映画でもホラー映画とか♪」
「ホラー映画ね♪」
フィルドルクは笑顔で返答するのだが…。
『ホラー映画って…メロティスさんらしい趣味だな…』
メロティスの趣味に内心苦笑いしたのである。苦笑いのフィルドルクであるが…。
『ストレイダス叔父さん…こんな僕にも…彼女が出来たよ♪』
極度の嬉しさからかフィルドルクは涙腺より涙が零れ落ちる。
完結
メンテ

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桜花姫 ( No.21 )
日時: 2021/08/16 20:13
名前: 月影桜花姫

第八話

悪霊征伐

天地暦三千四十年六月十七日…。人間の崇徳丸と妖女の桃子姫の混血である小梅姫は悪霊征伐に尽力したのである。彼女は生真面目で熱血漢である父親の崇徳丸を人一倍憧憬…。村人達を襲撃する無数の悪霊を退治したのである。近頃は各地で悪霊が出現するのだが各国の武士団は勿論…。東国の武士団に悪霊退治の依頼が殺到するも何方も静観状態であり実質無関心だったのである。戦乱時代に疲弊した武士達は悪霊を征伐する気力が皆無であり東国唯一の妖女…。小梅姫が悪霊の征伐を決意する。
「目的地の恐山に到着したわね…」
恐山は西国に聳え立つ小山…。温泉郷である天霊山とは対照的であり滅多に誰も近寄らない場所だったのである。近年では恐山の近辺で生活する村人達が悪霊に襲撃される事件が多発…。噂話は各地に出回ったのである。
「今回も悪霊を退治するわよ…」
普段は人一倍穏和の小梅姫だが…。一度決定した物事は徹底的に完遂させる生真面目の性格である。十数分後…。小梅姫は恐山の頂上へと到達する。
「えっ!?」
すると頂上には小柄の人影らしき気配が確認出来る。小梅姫は恐る恐る人影に近寄る。
「貴方は一体何者なの?」
彼女は非常に警戒した様子であるものの…。人影の正体とは小柄の老婆だったのである。
「誰かと思いきや…貴方は老婦人でしたか?失礼しました…」
小梅姫は小柄の老婦人に謝罪する。すると老婦人は笑顔で…。
「こんな私が老婦人なんて♪あんたは上品だね♪」
すると老婦人は名前を名乗る。
「私は単なる通りすがりの薬屋…蛇骨鬼だよ♪」
「蛇骨鬼様ですか…こんなにも不吉の恐山で一体何を?」
問い掛けられた蛇骨鬼は即答する。
「暇潰しだよ♪こんな暗闇の場所で食事するのが私の趣味なのさ♪」
「趣味でしたか…」
小梅姫は苦笑いしたのである。蛇骨鬼は地面の土石に土鍋を慎重に設置…。土鍋に野菜やら新鮮そうな魚類を調理する。
「あんたも如何かな?」
「私は…別に…」
すると直後…。小梅姫の腹部から腹鳴が響き渡る。
「えっ…」
小梅姫は赤面する。
「肉体は正直だね♪空腹だろ…」
蛇骨鬼は小梅姫に小皿を手渡したのである。
「折角ですし…私も頂戴しますね…」
一瞬躊躇したものの食いしん坊の小梅姫は遠慮しなかったのか率直に味見する。
「美味ですね♪」
鍋物の料理を頬張る。今度は瓢箪を小梅姫に手渡したのである。
「焼酎ですか?私は正直酒類が苦手で…」
「安心しな…天然水だから…」
「であれば安心ですね♪」
すると蛇骨鬼は問い掛ける。
「あんたの名前は?」
「えっ…私の名前ですか?」
小梅姫は自身の名前を名乗る。
「私は小梅姫です♪出身地は西国ですが…今現在の住居は東国です…」
「あんた…東国の人間だったのかい?」
人間の一言に反応したのか小梅姫は恐る恐る…。
「失礼なのですが…私…本当は人間とは無縁の…妖女なのです…」
妖女の一言に蛇骨鬼は反応する。
「えっ!?妖女だって!?」
彼女は幼少期から一際美人と評判であり東国の小町娘からは疫病神の化身と揶揄されたのである。今迄は気にしなかったが近頃普通の人間には不可能である摩訶不思議の妖術に自覚し始める。直接特定の物体と接触しなくとも特定の物体を浮遊…。相手を睡眠させる妖術が無意識的に発動され自身が普通の人間とは異質的存在である妖女と自覚し始めたのである。
「あんたは妖女の子供なのかい?」
蛇骨鬼に問い掛けられると小梅姫は返答する。
「無論です…」
「こんなにも暗闇の恐山で妖女の子供と遭遇するなんて…奇遇だね♪」
蛇骨鬼は笑顔で発言したのである。
「私の母親は…桃子姫って名前の女性なのです…勿論彼女も妖女ですよ…」
「桃子姫か…」
今現在では西国出身者である桃子姫の存在は元祖妖女と認識され…。各地の村里では伝説の一人として熟知される。すると蛇骨鬼は笑顔で…。
「初見からあんたは普通の人間とは無縁だと認識出来たよ♪」
「えっ?蛇骨鬼様…」
「あんたの雰囲気は普通の人間の雰囲気とは異質的だったからね♪」
笑顔で発言する蛇骨鬼であるが…。突如として蛇骨鬼の表情が無表情に変化する。
「蛇骨鬼様?如何されましたか?」
蛇骨鬼の表情の変化に小梅姫は一瞬不安がる。すると蛇骨鬼は小声で…。
「私も…本当は神族の一員だからね…」
「えっ!?神族ですって!?」
神族の一言に小梅姫は驚愕したのである。
「あんたは大袈裟だね♪別に私が神族だからって驚愕しなくても…」
「ですが神族って…伝承では大昔に全滅したって…」
神族とは数百万年前の地上界を支配した伝説の種族…。多種多様の生命体の姿形に変化が可能であり摩訶不思議の特殊能力を所持する摩訶不思議の種族だったのである。
「大昔に人間達との大戦争で私以外の神族は全滅しちゃったけれどね…」
数万年前の古代時代に勃発した大戦争で大勢の神族が殺害…。迫害されたのである。今現在生存が確認出来るのは南国の蛇骨鬼のみである。
「古代時代の大戦争ですか…ですが如何して摩訶不思議の特殊能力を所持する神族が無力の人間達を相手に敗北したのでしょうか?」
小梅姫の問い掛けに蛇骨鬼は即答する。
「人間達と大戦争する以前の出来事だけどね…地上界の大天災として認識される魔獣との死闘で大半の神族が殺されちゃったのが最大の主要因だね…」
数百万年前の太古の出来事である。地上界の大天災として認識される天空の魔獣の出現により地上界は荒廃化され…。大勢の神族が殺害されたのである。天空の魔獣は神族の神力で暗闇の深海底に封印されたが…。魔獣との死闘の悪影響により神族は弱体化したのである。
「今現在では私以外の神族は死滅しちゃったよ…」
「大変でしたね…神族も…」
「あんたは信用するかい?今時は昔話だって揶揄されるがね…」
「私は信用しますよ!」
問い掛けられた小梅姫は信用すると断言する。
「あんたは純粋だね♪」
すると突然である。蛇骨鬼の肉体が白煙に覆い包まれ…。白色の大蛇に変化したのである。
「えっ!?蛇骨鬼様が…白色の大蛇に!?」
「吃驚したかい♪白色の大蛇こそ私の本来の姿形だよ…」
蛇骨鬼の正体は白色の蛇神であり本来の姿形は白色の大蛇であるが…。普段は小柄の老婦人として生活する。
「私と蛇骨鬼様…似た者同士ですね…」
変化を解除すると大蛇の状態から人間の老婦人の姿形に戻ったのである。
「小梅姫だったかね?大変だろうが…あんたも頑張りな♪」
「勿論ですとも♪」
すると蛇骨鬼は恐る恐る…。
「あんたはこんなにも不吉の恐山で一体何を?」
問い掛けられた小梅姫は即答する。
「勿論悪霊征伐ですよ!近頃は恐山に無数の悪霊が出現するとの噂話を熟知しましてね…」
「悪霊征伐ね…大変だろうが頑張りなよ♪最近は悪霊事件が各地で頻発するからね♪戦乱時代の反動だろうが…」
戦乱時代にも悪霊は出現するが安穏時代に突入してからは悪霊が出現する頻度が増加したのである。
「私はあんたを見届けるよ…悪霊なんかに殺されないでよね♪」
「勿論ですよ!」
断言した小梅姫は即座に下山し始める。彼女の周囲は森林浴であるものの…。真夜中では暗闇の樹海同然である。すると彼女の背後から異様の気配を察知する。
「突然胸騒ぎが…」
(一体何事かしら?)
恐る恐る慎重に背後を警戒するのだが…。彼女の背後には何も存在しない。
「私の勘違いかしら?」
誤認識かと思いきや…。
「何よ…」
背後の土中から小柄の人影が無数に出現したのである。
「えっ…怨霊達!?」
無数の人影は暗闇によって姿形の認識が非常に困難であるものの遺体の死臭が近辺を充満させる。全身が血塗れの状態であり全身の皮膚の腐敗が原因なのか左右両方の眼球と腹部の内臓やら胃腸が噴出した醜悪なる容姿…。そして皮膚と人骨のみの肉体であり全身は鮮血によって赤色へと変色した悪霊である。
「死滅した人間達の末路かしら…」
体格的には人間の女性よりも一回り小柄であり乳児の体格であるものの…。外見による男女の区別は出来ない。動作は非常に鈍足であり発語も支離滅裂である。
「此奴は悪霊の食人餓鬼だわ…」
無数の食人餓鬼は生者である小梅姫に殺到する。
「恐山の霊力の原因は食人餓鬼だったのね…」
普通の人間であれば畏怖しても可笑しくない光景であるが…。小梅姫は畏怖しなかったのである。彼等が小梅姫の視界間近へと到達する寸前…。
「業火で浄化されなさい!」
業火の妖術を発動すると食人餓鬼の皮膚が高熱の自然発火により燃焼し始める。食人餓鬼の肉体は高熱の怪火によって瞬間的に炭化する。
「彼等は浄化されたみたいね…」
彼女の足場周辺には無数の焼死体が埋没したのである。
「一安心だわ…」
一安心した直後…。再度背後より霊力を感じる。
「霊力かしら?」
警戒するなり恐る恐る背後を直視すると数十体もの食人餓鬼がふら付いた身動きで小梅姫に近寄る。
「今度も食人餓鬼ね…」
今度は雷撃の妖術を発動する。
「成仏しなさい!」
両手より高熱の雷撃を放出…。殺到する無数の食人餓鬼を雷撃で仕留めたのである。
「悪霊は片付けたかしら…」
恐山に出現した悪霊を仕留めたのが影響したのか突如として恐山の霊力が感じられなくなる。
(霊力が感じられなくなったわ…)
「恐山の霊気は浄化されたみたいね…」
小梅姫は一安心する。
「事件は無事解決ね…」
小梅姫は祖国である東国の家屋敷へと無事戻ったのである。恐山での戦闘から三日後の真昼…。小梅姫は娯楽を主目的に中心街へと出掛けたのである。甘党の和菓子屋にて大好物の蓬餅を頬張る。
「美味だわ♪」
彼女は無我夢中に和菓子を頬張るものの…。隣席には小柄の老婦人らしき老女が訪問する。
「えっ?」
(誰かしら…)
小柄の老婦人とは三日前に恐山にて遭遇した神族の蛇骨鬼であり奇遇にも彼女と遭遇したのである。小梅姫は蛇骨鬼に気付いた瞬間…。
「ひょっとして蛇骨鬼様!?」
「誰かと思いきや…あんたは小梅姫だね♪こんな場所であんたと再会するなんて奇遇だね…」
蛇骨鬼は小梅姫との再会に大喜びする。
「本当よ…蛇骨鬼様が和菓子屋に?」
「偶然だよ♪一休みしたいだけさ♪あんたは和菓子屋が大好きなのかい?」
問い掛けられると小梅姫は笑顔で即答したのである。
「勿論ですよ♪私は和菓子が大好きです!」
すると蛇骨鬼は突発的に顔色を変化させる。
「あんたは悪霊退治屋として活躍中だったね…」
「勿論ですとも♪悪霊征伐は私の専門なので♪」
小梅姫は笑顔で断言する。蛇骨鬼は恐る恐る…。
「北国の村人達からの噂話だけどね…」
「えっ?北国の噂話ですって?」
小梅姫は一瞬動作を停止させる。
「近頃北国では村里の赤子が神隠しに遭遇するって…誘拐事件が頻発したみたいだよ…」
「神隠しですって?一体何事でしょうか?」
「村里の情報源では数週間前の出来事かな?神隠しの正体が人為的なのか…悪霊の仕業なのかは断言出来ないけど…」
「数週間前ですか…」
小梅姫は突発的に興奮し始める。
「一大事だわ!即刻北国に移動しないと!」
「小梅姫よ…今回は匪賊の可能性も否定出来ないよ…相手が極悪非道の匪賊だったら如何するの?」
蛇骨鬼の問い掛けに小梅姫は即答する。
「勿論私だって相手が人間の悪党であれば徹底的に征伐しますよ!弱者を救済するのが私の使命ですから…」
普段は温厚篤実の小梅姫であっても残虐非道の大悪党には手加減しない。
「こんな俗界でもあんたみたいな天女が存在するなんてね…」
「私が天女なんて…蛇骨鬼様は大袈裟ですね…」
(えっ♪私が天女ですって♪)
天女の一言に小梅姫は内心大喜びする。
「慢心は危険だからね…油断大敵だよ…」
「大丈夫ですよ…私は…」
(今迄だって沢山の悪霊を退治出来たし…)
今迄の戦闘では苦戦しても敗北は皆無だったのである。
「小梅姫の妖力は非常に絶大かも知れないが…妖力の慢心は絶体絶命にも直結するからね…」
(蛇骨鬼様は極度の心配性ね…)
正直口喧しいと感じるものの…。小梅姫は蛇骨鬼に感謝する。
「助言…感謝しますね…蛇骨鬼様♪」
小梅姫は即座に北国へと急行したのである。
(彼女は行動が神速だね…)
蛇骨鬼は和菓子屋から出歩く彼女を見届ける。小梅姫は一時間程度の徒歩によって北国の村里へと到着する。北国は全体的に殺風景であり農村地帯ばかりの過疎化した村里だったのである。
(北国は随分と田舎村なのね…)
不可解にも村人が誰一人として存在しない。
「無人地帯だわ…」
適当に田畑を散歩し続ければ赤子を抱き抱えた白装束の黒髪の女性を発見する。
「えっ?村里の親子かしら?」
小梅姫は即座に女性の視界間近へと接近すれば…。
(鮮血だわ…)
着物は全体的に血塗れであり皮膚の表面には無数の外傷が確認出来る。小梅姫は一瞬膠着したものの彼女の安否を確認する。
「大怪我されたのでしょうか…大丈夫ですか?」
母親は小梅姫の問い掛けに無言であり彼女を凝視…。睥睨し始める。
「何よ?」
睥睨された小梅姫は腹立たしくなったのか母親に睥睨し返したのである。
(彼女って本当に人間なのかしら?)
すると数秒後…。母親は一目散に逃走し始める。
「えっ!?」
小梅姫は即座に逃走中の母親を追跡する。
「如何して母親は私から逃亡したのかしら?」
母親は墓場へと潜入したのである。
「墓場だわ…」
小梅姫は恐る恐る慎重に墓場へと急行する。
「先程の母親は一体何者なのかしら?」
(彼女からは霊力らしい霊力は感じられなかったけれども…)
霊力は感じられないが…。赤子を抱き抱える母親らしき人物が俗界の人間なのか如何なのかは非常に疑問である。
「姿形から判断して…」
(恐らく彼女は現世とは無縁の存在なのは確実でしょうね…)
すると先程の女性らしき人物を発見する。早速近寄ろうかと思いきや…。
「えっ!?如何して全裸なのよ!?」
女性は着物を脱衣したのか全裸の状態である。彼女は赤子を抱き抱えた状態から生身の乳房と赤子の頭部を密着させる。
「あんた一体何を!?」
処女の彼女にとって非常に刺激的光景であり一瞬膠着する。小梅姫は墓石から母親の様子を観察したのである。
(母親は一体何を!?)
すると赤子の肉体が液体化したのか赤子の肉体諸共母親の体内へと瞬時に吸収する。
「赤子の肉体を吸収出来る霊能力…母親の正体って…」
(ひょっとして彼女の正体は悪霊の亡霊女房かしら?)
亡霊女房とは戦乱時代の戦乱は勿論…。天災やら疫病によって実子を亡くした母親達の無念の集合体である。赤子を体内へと吸収する性行為は実子に対する愛情表現である。小梅姫は咄嗟に亡霊女房の視界間近へと急行する。
「子供を誘拐する悪霊は私が成仏させるわ!覚悟しなさい…亡霊女房…」
小梅姫は体内の妖力を蓄積させるなり…。黒雲を天空全域へと発生させたのである。天空全域が黒雲に覆い包まれたかと思いきや…。黒雲から落雷を発生させる。落雷は亡霊女房の頭頂部直上へと落下したのである。
「直撃…」
視界間近が雷光によって両目を一瞬閉眼させる。落雷の破壊力は地面を容易く半球型に陥没させたのである。
「亡霊女房は?」
亡霊女房は肉体が非常に柔軟であり大量の鮮血やら手足の肉片は勿論…。体内の臓器やら胃腸が地面に散乱する。
「亡霊女房は仕留めたかしら?」
両目を開眼するなり再確認したのである。
「如何やら彼女を仕留めたわね…」
(生身の状態で落雷を直撃させれば即死よね?)
凄惨なる光景であるものの…。小梅姫は手応えを感じる。
「亡霊女房を討伐出来たし…退散しましょう…」
小梅姫は一安心したのか東国の武家屋敷へと戻ろうかと思いきや…。
(一体何かしら!?)
彼女の背後から僅少なる霊力の気配を瞬時に察知したのである。小梅姫は早速背後を凝視するなり…。
「厄介だわ…」
全身を粉砕された亡霊女房の血肉が融合し始める。粉砕された亡霊女房の肉体は数秒間で元通りに再生…。完全に復活したのである。
「粉砕された肉体が一瞬で元通りに復活するなんて…再生能力かしら?」
(亡霊女房って不死身なのかしら…)
亡霊女房は小梅姫の愕然とした表情を凝視するなり微笑み始める。亡霊女房は口先から猛毒の溶解液を噴射する。
「毒液!?」
小梅姫は咄嗟に妖力の防壁を発動…。妖力の防壁により溶解液から本体を守備したのである。防壁の周辺の地面は溶解液によって一瞬で液状化させる。
「如何やら危機一髪ね…」
(一歩間違えれば大怪我だったわね…)
小梅姫の表情が険悪化する。
「如何やら私は亡霊女房の霊能力を軽視し過ぎたのね…」
体内の妖力を蓄積…。今度は自爆の妖術を発動すると亡霊女房の肉体を内部から自爆させたのである。
「今度も復活するかしら?」
先程の自爆の妖術は試用であり亡霊女房の肉体が元通りに再生するのか如何なのかを再確認したかったのである。亡霊女房の肉体は自爆の妖術により破壊されたものの…。先程と同様に粉砕された肉体は元通りに再生する。
「見事に復活したわね…非常に厄介だわ…」
(彼女の弱点は何かしら?)
今度は天眼の妖術を発動したのである。天眼の妖術の透視化により亡霊女房の心臓内部から水晶玉らしき宝玉を発見する。
「えっ?水晶玉?」
(亡霊女房の魂魄かしら?)
小梅姫は再度自爆の妖術を発動…。見事に亡霊女房の肉体は自爆したのである。小梅姫は体内の心臓を発見するなり更なる自爆の妖術を再発動させる。すると亡霊女房の心臓が自爆の妖術により爆破されると心臓内部から水晶玉を摘出させたのである。
「水晶玉を発見したわ!」
水晶玉が地面に落下したかと思いきや…。水晶玉は浮遊すると蛍光色に点滅し始める。すると周辺に散乱した肉片が水晶玉へと接合したのである。
「如何やら水晶玉が亡霊女房の本体っぽいわね…」
亡霊女房の弱点を発見した小梅姫は念力の妖術を発動すると水晶玉を粉砕する。すると同時に亡霊女房の再生能力が発動しなくなったのである。業火の妖術によって粉砕された亡霊女房の肉体諸共水晶玉の破片を浄化させる。
「今度こそ浄化出来たみたいね…」
(亡霊女房は予想外に厄介だったわ…)
小梅姫は周辺を恐る恐る慎重に凝視するなり…。村里へと無事帰還する。自分自身の家屋へと無事帰宅すれば彼女は寝転び始める。
「随分派手に妖力を消耗した影響かしら…」
(極度に息苦しいのよね…)
妖力の消耗によって疲れ果てたのである。
(相手は実力的には私よりも脆弱だったけれども…妖女である私が悪霊を相手に苦戦しちゃうなんて…)
今回の出来事から自分自身の傲慢さと力不足を実感したのである。
メンテ
桜花姫 ( No.22 )
日時: 2021/08/16 20:14
名前: 月影桜花姫

第九話

強敵

亡霊女房が退治されてより三日後の真夜中…。北国に位置する山奥のとある洞窟では白装束の集団が集結する。
「全員終結したな…」
集団の人数は六人であり松明を所持する集団の頭領が五人の若者達の人数を確認したのである。
「頭領…こんな洞窟に私達を集合させるなんて…」
「今回は何事でしょうか…」
「不吉だな…村里に戻りたいよ…」
「早速私が道案内する…私に追尾せよ…」
頭領は洞窟の奥底へと移動する。数分後…。洞窟の奥底へと到達すると奥底の地面には一体の木乃伊が確認出来る。
「えっ!木乃伊ですか?」
彼等は木乃伊を直視すると一瞬畏怖する。木乃伊は野犬によって食い殺された状態であり老若男女の区別は不可能である。
「一体誰の誰なのでしょうか?」
集団の一人が頭首に問い掛ける。
「彼こそは私達北国の英雄…鬼殺丸様の遺体であるぞ!」
「木乃伊が鬼殺丸様ですか!?」
鬼殺丸とは戦乱時代に活躍した北国最強の武士である。生前は北軍の鬼神と呼称され各国の領主達は勿論…。大勢の武士達から畏怖されたのである。戦乱時代当時は北国最強の英雄として扱われるものの…。彼によって大勢の味方も殺され憎悪する者達により安穏時代では極悪非道の人物として扱われる。世間では極悪非道の大悪党と認識される反面…。一部の村里では今現在でも英雄として神格化される。
「鬼殺丸様は死去されたのですか?」
「残念であるが鬼殺丸が死去されたのは事実だ…鬼殺丸様は山中の野犬によって食い殺されたのかも知れない…」
今迄鬼殺丸の生死は不明であったが…。死因こそは不明瞭であるものの鬼殺丸は死亡したと判明する。
「勿論事実を熟知したのは私達だけだぞ…鬼殺丸様の遺体を発見したのは誰であろう私なのだからな…」
集団の頭首は十五年前の戦乱時代末期…。生前当時から鬼殺丸を神格化する一人であり奇遇にも鬼殺丸が死去した数日後に鬼殺丸の遺体を発見したのである。
「頭領は鬼殺丸様の遺体を如何されるのですか?」
頭領は一息するなり…。
「黄泉の国から鬼殺丸様を…生者として復活させる…」
「なっ!?」
彼等は頭領の発言に驚愕したのである。
「最早死没者である鬼殺丸様を…完全なる生者として復活させられるのですか?」
「死没者を復活させるなんて…実現出来るのでしょうか?」
問い掛けられた頭領は即答する。
「出来るとも…無論死没者を復活させるには犠牲が必要不可欠であるが…」
すると頭領は隠し持った拳銃を所持するなり…。
「えっ?拳銃ですか?」
「此奴は異国の拳銃だ…貴様達の生命を頂戴する…」
「ひっ!」
「殺される!逃げろ!」
五人の若者達は頭領の所持する拳銃に畏怖したのか即座に逃走する。
「安眠せよ…」
頭領は背後から四人の若者達に発砲…。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
拳銃で四人を殺害したのである。最後の一人は畏怖した様子で全身が膠着化…。身動き出来ず地面に横たわる。
「頭領…俺を…俺を殺さないで…」
極度の恐怖心からか身震いした様子で涙腺からは涙が零れ落ちる。
「貴様が恐怖するのは勿論理解出来るが…本来死没者を復活させるには百人もの人身御供が必要不可欠なのだよ…」
戦乱時代以前の旧時代…。一人の死没者を復活させるのに百人の人間を人身御供として利用した儀式が各地で実行されたのである。当時は頻繁に実行されたが死没者が復活した事例は実質皆無であり非人道的理由から今現在の安穏時代は勿論…。弱肉強食の戦乱時代でさえも儀式は禁止される。
「私は今迄に九十五人の人間達を人身御供として殺害したが…今回で無事に達成出来そうだ…」
弾丸を装填させるなり…。
「南国の鬼神…鬼殺丸様を完全なる生者として復活させるには貴様の犠牲が必要不可欠なのだ…成仏せよ…」
銃弾が若者の頭部を貫通…。
「ぐっ!」
即死させたのである。
「鬼殺丸様を復活させるには…彼等の血液が必要だな…」
頭首は今迄に九十五人の人間達を殺害…。鬼殺丸の木乃伊に殺害した人間の血液を含有させたのである。
「今回で五人の血液を入手出来たぞ…」
(五人の血液を…)
殺害した五人の遺体から血液を指先に採取…。鬼殺丸の木乃伊に接触したのである。
「英雄…鬼殺丸様♪」
死没者である鬼殺丸の復活に期待する。
「黄泉の国から俗界に戻られよ…」
一分間が経過するのだが…。鬼殺丸の木乃伊は復活せず身動きしない。
「鬼殺丸様!?何故復活されない!?」
(ひょっとして儀式に不備が…)
直後である。突如として鬼殺丸の遺体が破裂…。洞窟内部に鬼殺丸の血肉が飛散する。
「ひっ!」
突然の超常現象に頭領は畏怖したのである。
「一体何が…なっ!?」
破裂した鬼殺丸の肉片に頭領は驚愕する。
「鬼殺丸様の…肉体が…」
(如何してこんな…こんな状態では鬼殺丸様は二度と復活出来ない…)
頭領は涙腺より涙が零れ落ちる。
「死没者を復活させる儀式とは…出鱈目だったのか…」
頭領は出鱈目の儀式に後悔したのである。
(結局…私は単なる人殺しだったのか…)
自身の行動が単なる殺人であると自覚した直後…。背後より不吉の胸騒ぎを感じる。
「えっ…」
恐る恐る背後を直視すると背後には不定形の黒雲が存在する。
「一体何が!?」
すると不定形の黒雲が人語で発言し始める。
「愚劣なる人間よ…一人の死没者を復活させるのに百人もの人間を惨殺するとは…人間とは非常に愚劣であり…醜悪であるな…」
頭領は恐る恐る…。
「貴方様は一体何者なのでしょうか?」
問い掛けられた不定形の黒雲は即答する。
「私は…大勢の亡者達の集合体だ…」
「亡者達の…集合体ですと?」
不定形の黒雲は自身を大勢の亡者達から誕生した集合体であると名乗る。
「貴様は…戦乱時代の鬼殺丸と名乗る…極悪非道の亡者を復活させたいみたいだな…」
問い掛けられた頭領は恐る恐る返答する。
「勿論ですとも…私にとって鬼殺丸様は未来永劫北国の英雄であり…北国の武神なのですから…」
「貴様の崇拝する鬼殺丸を復活させたいのであれば…貴様自身の生命を授与せよ…」
「私自身の生命ですと…」
「亡者を復活させるには生者の生身の肉体が必要不可欠だ…」
頭領は一瞬躊躇うものの…。
「承知しました…私自身の生命を授与しましょう…」
不本意であるが頭領は承諾したのである。
「であれば鬼殺丸を…悪霊として復活させる…」
直後…。
「なっ!?発火!?」
頭領の皮膚が突発的に発火したのである。高熱の火炎は一瞬で全身へと覆い包まれ…。頭領の肉体は黒焦げの焼死体へと変化したのである。すると焼死した頭領の肉体が瞬間的に再生…。全身が筋肉質で素肌が灰白色の美青年へと変化したのである。
「ぐっ!私は…一体…」
地面に横たわった美青年が恐る恐る目覚める。
「目覚めたか…鬼殺丸よ…」
鬼殺丸は素肌が灰白色であったが生前と同様の姿形に復活したのである。
「私は…野犬の亡霊に食い殺されて…」
「鬼殺丸…貴様は…」
不定形の黒雲が復活した経緯を説明する。
「私は黄泉の国から復活したのか…」
「悪霊の肉体であるが…今現在の貴様は生前よりも強力だ…其処等の悪霊とは別格の霊力であるぞ…」
普段は無表情の鬼殺丸であるが…。微笑したのである。
「悪霊の肉体なのは気に入らないが…彼奴に復讐出来るなら悪霊の肉体でも止むを得ないな♪」
「彼奴とは?」
鬼殺丸は即答する。
「東国の軍神…夜桜崇徳丸…私が唯一憎悪する人間だ…」
「貴様が夜桜崇徳丸と名乗る人間を殺したいのであれば思う存分殺せ…」
すると不定形の黒雲は復活した代償として条件を提示したのである。
「条件として…愚劣なる大勢の人間達を殲滅せよ…悪霊として復活した貴様であれば出来るよな?」
問い掛けられた鬼殺丸は一瞬沈黙するが…。
「折角復活したのであれば…貴様との約束は厳守するさ…」
交渉成立する。鬼殺丸は不定形の黒雲に問い掛ける。
「貴様は一体何者だ?人間達を憎悪するみたいだが…」
「私は亡者達の集合体とでも…」
問い掛けられた不定形の黒雲は自身を亡者達の集合体と名乗る。
「亡者達の集合体か…」
数秒後…。
「鬼殺丸よ…黄泉の国に戻りたくなければ思う存分人間達を殺せ…」
不定形の黒雲は消滅したのである。
「思う存分人間達を殺せとは…」
(亡者達の集合体に命令されるのは正直気に入らないが…悪霊の肉体でも折角復活出来たのだからな…)
心情より人間達への殺意が芽生える。
「近日中にでも…思う存分人間達を蹴散らせるか…」
六日後の早朝…。西国と東国の国境に位置する廃村から大量の人骨が発見されたのである。近隣の村里では地獄から出現した怨霊達の仕業であるとの噂話が国全体に出回る。同日の早朝には東国の連山から大量発生した食人餓鬼の大群が隣接する各農村にて出没したのである。気になった小梅姫は即刻問題の廃村へと出発する。
(村人達の行方不明事件と廃村の大量の人骨…そして食人餓鬼の大群…)
「今回の事件と無関係では無さそうだわ…」
東国からは非常に近辺なのか徒歩でも数分間で到着する短距離である。彼女は山岳地帯から貝塚村の様子を眺望するなり…。
(随分殺風景ね…)
村里の雰囲気から徘徊した無人の城下町であり中心地には廃城が確認出来る。
「悪霊が出現しても可笑しくない雰囲気ね…」
誰一人として人間が存在しない廃村であり無数の霊力が潜伏するのは察知出来る。時間帯は真昼であるものの…。廃村の雰囲気から夕方同然である。非常に重苦しい空気であり普通の人間であれば卒倒しても可笑しくない感覚である。
(恐らく今回は今迄の悪霊とは比較出来ない悪霊が出現しそうだわ…)
村里の雰囲気から気力が格段に低下したものの…。廃村の中心地に位置する廃城から強烈なる霊力を察知したのである。
(村里中心部の廃城が非常に奇怪だわ…)
「妖力を過剰に消耗するのも面倒臭いし…強行突破よ!」
彼女は鈍足であるものの廃村へと正面から進行し始める。すると周囲の土中から無数の食人餓鬼が出現…。
「食人餓鬼?」
無防備状態の小梅姫へと殺到する。
(彼等の招待状かしら?)
「大歓迎みたいね…」
小梅姫は即座に妖力の防壁を発生させたのである。今度は防壁を攻撃用に転用させた半透明の魔手を形成…。防壁の表面より無数の魔手が形作られる。魔手は外敵である食人餓鬼の猛攻から小梅姫本体を守備しては自動的に動作し続ける。
「鬱陶しいわね…」
魔手の発動によって殺到し続ける食人餓鬼の大群を容易に駆逐したのである。魔手に接触した食人餓鬼は只管全身が粉砕される。小梅姫が通過すれば大量の肉塊と鮮血が彼女の道端に散乱し続ける。一直線に進行し続ければ中心地の廃城へと到達する。
「廃城から霊力を感じるわね…」
恐る恐る廃城へと進入する。城内は家具が散乱した状態であり当然として住民は誰一人確認出来ない。
(戦乱時代で処分された根城かしら?)
全体的に純和風ではなく異国風の雰囲気である。
「異国の文化財だわ…」
(ひょっとして城主は異国愛好家かしらね…)
階段を利用しては最上階へと到達する。最上階には高価値の骨董品が発見されたのである。
(廃城の城主は異国の愛好家なのね…)
すると室内中心部にて摩訶不思議なる骨董品を発見する。
「一体何かしら?」
(ひょっとして能面?)
彼女が注目したのは内壁に装飾された能面であるものの…。能面は非常に不自然であり等身大の人間と同程度の巨大さである。
「えっ…悪趣味だわ…」
(正直能面とか般若の仮面って外見的にも不吉なのよね…私は大嫌いだわ…)
彼女は室内に装飾された巨大能面を気味悪がる。
「私には所有者の感受性が理解出来ないわね…」
迂闊にも巨大能面に接触する。
「普通の能面よりも随分特大なのね…」
(本当に能面なのかしら?単なる装飾品っぽいわね…)
先程から疑問であったのか彼女が廃城へと進入した途端に城内の霊力が一瞬で消失したのである。
「霊力が感じられないわ…」
霊力が皆無であると判断した小梅姫は即座に石庭へと戻ろうかと思いきや…。背後から物音が響き渡る。
「えっ…」
彼女は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「一体何事かしら?」
背後の内壁に装飾された巨大能面の両目が蛍光色に発光した状態であり八本の蜘蛛脚が生成される。形状的には巨大蜘蛛であり中心部の胴体部分は巨大能面である。
「此奴はひょっとして…悪霊の小面蜘蛛かしら!?」
油断した小梅姫は愕然とする。内壁の巨大能面の正体とは器物の悪霊…。小面蜘蛛であり装飾品の巨大能面に憑依した悪霊である。特定の地方では付喪神とも呼称される。特定の道具への憑依が可能であり小梅姫をも油断させる。胴体の両目が小梅姫を凝視し始めるなり口先から白色の粘液を噴出する。粘液が彼女の皮膚に接触した瞬間…。体内の妖力が急速に消耗し始める。
(何かしら?妖力が消耗するなんて…)
妖力のみならず…。体力が半減したのか肉体の身動きすらも負担に感じられる。
「ぐっ…迂闊だったわ…」
(能面の正体が小面蜘蛛だったなんて…)
小面蜘蛛の体内から噴出される粘液は妖力を消耗させる効力を発揮出来る。妖力を多用する攻撃法では小面蜘蛛を攻略するのは非常に困難である。莫大なる妖力を所持…。自由自在に操作出来る小梅姫にとって小面蜘蛛を相手するのは圧倒的に不利である。
(私は小面蜘蛛の餌食に…)
小梅姫は莫大なる妖力によって力尽きたのか横たわる。寝転び始める彼女の視界間近に小面蜘蛛が急接近…。
「私を捕食したければ捕食しなさいよ…」
彼女は覚悟したものの…。
(妖女の私が…)
「こんな悪霊を相手に敗北するなんて…」
彼女は僅少の妖力によって時空間停止の妖術使用を決意する。
(一か八か…)
金縛りの妖術を発動すると一時的に小面蜘蛛は身動きしなくなる。金縛りの妖術は相手の身動きを長時間封殺出来る妖術である。
「今度は…」
瞬身の妖術を発動…。即座に安全地帯へと移動したのである。小梅姫は瞬身の妖術の使用により廃城から無事脱出…。近辺の山道へと移動したのである。
(危機一髪だったわね…)
「一瞬食い殺されるかと…」
小梅姫は恐る恐る周囲を警戒…。無事に廃城から脱出出来たのである。
「脱出には成功したみたいね…」
妖力の消耗によって妖術の使用は不可能であり一時的に退却を余儀無くさせられる。
(時空間停止の妖術は解除されたし…即刻戻らないと…)
東国の家屋敷へと戻ろうかと思いきや…。地面より数体の食人餓鬼が小梅姫の視界間近へと突発的に出現したのである。
「えっ!?今度は食人餓鬼!?」
最早小梅姫は妖力を消耗した満身創痍の状態であり本来ならば雑魚である複数の食人餓鬼ですらも攻略不可能である。
(本調子なら食人餓鬼なんて楽勝なのに…)
彼女にとって食人餓鬼程度は雑魚同然であるものの…。衰弱化した状態では非常に脅威である。
「きゃっ!」
大量の妖力を消耗した状態では食人餓鬼でさえも恐怖の対象であり小梅姫は一歩ずつ後退りする。
(私…食人餓鬼に捕食されるのね…)
食人餓鬼が彼女の視界間近へと殺到する寸前…。食人餓鬼は突発的に身動きしなくなる。
「えっ…」
(一体何が?)
彼等の足場を直視すれば白色の粘液を発見する。
「ひょっとして…」
彼等の背後には獲物である小梅姫を追撃する小面蜘蛛が急接近したのである。小面蜘蛛に畏怖した彼女は全身が膠着する。
「小面蜘蛛!?」
廃城からは危機一髪脱出したものの小面蜘蛛は彼女の妖力を目印に小梅姫の居場所を察知…。小梅姫の行方を見逃さなかったのである。小面蜘蛛は粘液によって捕獲した数体の食人餓鬼を捕食し始める。
(此奴…)
「仲間の食人餓鬼を食い殺すなんて…」
凄惨なる光景に小梅姫は恐怖したのである。最早自分自身も彼等と同様に捕食されるのかと思考すると自殺願望が芽生え始める。小面蜘蛛の鋭利なる脚部が小梅姫の胸部を貫通させる。
「ぐっ!」
心臓を貫通させられた直後…。彼女の胸部から大量の鮮血が流血し始める。流血により地面が赤色に染色したのである。
(私は今度こそ…小面蜘蛛に捕食されるのね…)
最早即死しても可笑しくない致命傷であるものの…。神経の麻痺によって苦痛すらも感じられなくなる。抵抗出来なくなった小梅姫は観念する。両目を瞑目したと同時に耳元から爆発音が響き渡る。
「えっ?」
(今度は何事かしら?)
恐る恐る両目を開眼すれば…。
(誰かしら?)
粉砕された小面蜘蛛の血肉が散乱した状態であり背後には焙烙火矢を装備した僧侶服の小柄の男性が横たわる小梅姫に近寄る。
「僧侶?」
「小梅姫…」
「貴方は…」
僧侶の正体とは父親の夜桜崇徳丸であり脆弱化した小梅姫にとって崇徳丸は救済の守護神同然である。
「ひょっとして父様なの…」
「大丈夫か?小梅姫…なっ!?」
小梅姫の胸部の外傷を直視すると身震いする。すると直後…。
「小梅姫…傷口が…」
小梅姫の腹部の外傷は妖力によって数秒間で治癒する。
「父様…私は大丈夫よ…外傷なら自力で治癒出来るから…」
「本当に大丈夫なのか?小梅姫…」
「私なら大丈夫よ…父様は心配性ね…」
(彼女は大丈夫そうだが…出血多量の影響で大分衰弱化した状態だな…)
小梅姫は肉体的にも精神的にも疲弊した様子である。
「父様…感謝するわね…私…もう少しで小面蜘蛛に食い殺されるかと…」
小梅姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「大丈夫だ…小梅姫…小梅姫が無事で何よりだ…」
「父様…」
すると小梅姫は恐る恐る…。
「如何して人間の父様が小面蜘蛛を簡単に仕留められたのよ?妖女の私がこんなにも苦戦した強敵なのに…」
「恐らく小面蜘蛛は妖力を使用しない方法によって退治出来る悪霊みたいだな…今回の相手は妖術を多用する妖女では最悪の天敵だろうよ…」
妖力を使用しない戦法こそが小面蜘蛛の弱点であると推測する。妖術を使用する妖女が相手では相性的にも最悪である反面…。武装した人間には滅法貧弱である。崇徳丸は彼女に麦飯を譲渡する。
「空腹だろ?」
「御免なさい…」
「小梅姫…一人で無茶するなよ…」
すると崇徳丸は笑顔で…。
「小梅姫は私の宝物だ♪悪霊なんかに殺されるなよ…」
「父様♪」
小梅姫は内心嬉しくなる。
「空腹だから食べろよ…」
小梅姫は麦飯を一瞬で頬張ったのである。
(相当空腹だったのか…)
麦飯を一瞬で頬張る小梅姫に崇徳丸は苦笑いする。小梅姫は極度の不安が解消したのか再活動を開始しなければと意気込み始める。
(こんな山道で長居し続ければ悪霊が村里全域に…)
「ん?小梅姫?」
「無数の霊力が国全体に蔓延したみたいなの…」
突如として莫大なる食人餓鬼の気配を瞬時に察知したのである。
「霊力だと?」
「恐らく食人餓鬼の仕業ね…」
「こんな短期間で国全体に蔓延するとは…」
「原因は不明なのよね…」
すると小梅姫は崇徳丸に依頼する。
「今回ばかりは父様の協力が必要なの…」
先程の戦闘によって彼女は余程自信を喪失したのである。
「勿論…私は小梅姫に協力するよ♪安心しろ♪」
「父様と一緒なら心強いわ♪」
二人は行動を開始する。強大なる無数の霊力の感じる東国へと急行したのである。
「えっ…」
「戦乱時代だな…」
東国は主戦場であり地面には赤色の鮮血…。散乱した臓器やら胃腸らしき肉塊が無数に確認出来る。先程遭遇した食人餓鬼の大群が爆発的に出現したらしく村人達に殺到しては村人達の人肉を咀嚼し始める。
「東国では一体何が…」
徘徊中である無数の食人餓鬼が移動中の小梅姫と崇徳丸に反応するなり…。二人に襲撃するものの小梅姫の火炎の妖術によって瞬殺される。地面には無数の焼死体が埋没する。
「浄化したわね…」
「小梅姫の妖術を肉眼で拝見したが…予想外に絶大だな…」
崇徳丸は小梅姫の摩訶不思議の妖術に驚愕したのである。小梅姫は只管村人達の遺体を捕食し続ける食人餓鬼の大群を相手に逆襲…。爆破の妖術により食人餓鬼を仕留めたのである。爆破の妖術で頭部を破壊された食人餓鬼は途端に身動きしなくなる。
「食人餓鬼が相手ならば…小梅姫の妖力は天下無敵だな…」
「天下無敵なんて大袈裟ね…」
(正直妖力の消耗で息苦しいのよね…)
彼女にとって通常の悪霊が相手ならば余裕であるものの…。先程の悪戦苦闘による妖力の消耗が影響したのか重苦しい深呼吸が目立ち始める。
「小梅姫?」
「何よ?」
「大丈夫か?先程から顔色が…」
崇徳丸は彼女の様子を心配する。
「別に…私なら大丈夫よ…」
「本当に大丈夫なのか?」
「私は大丈夫だよ…父様は極度の心配性なのね…」
城下町の中央区へと進行するものの生存者は誰一人として発見出来ない。
「無人地帯だわ…領民達は?」
「領民は根城に避難したみたいだな…最早東国は悪霊の巣窟だ…」
すると崇徳丸は彼女に助言する。
「妖力は非常に強力だが油断すれば食人餓鬼が相手でも苦戦するかも知れないからな…小梅姫も武器も装備するべきだ…」
「武器ですって?」
「私が武士団の駐屯地に案内する…」
崇徳丸は東国武士団の駐屯地へと案内したのである。
「廃屋だわ…」
「駐屯地も悪霊に襲撃されたからな…」
如何やら駐屯地は無人地帯であり駐屯地の守備隊は食人餓鬼の襲撃により撤退…。本拠地である都城へと移動したのである。
「鎮守府の守備隊は退却したのかしら?」
「今回の相手は悪霊の大群だからな…東国の武士達が屈強でも相手が大群では対抗出来ないよ…」
最早武器庫は警備が手薄状態であり無力の町民でも容易に潜入出来る。
「先程は私も武器庫で焙烙火矢を入手出来たからな…」
小梅姫は恐る恐る慎重に武器庫へと入室する。多種多様の刀剣やら弓矢は勿論…。火縄銃やら焙烙火矢が確認出来る。
「拳銃でも装備するか?此奴なら小梅姫でも扱えるよ…」
崇徳丸は比較的素人でも扱えそうな軽量の拳銃を小梅姫に手渡したのである。
「拳銃なんて物騒ね…」
小梅姫は武術が苦手であり拳銃の使用を拒否する。軽量の小刀を発見…。
「私は小刀を所持するわ…」
護身用に軽量の小刀を携帯したのである。
「小刀でも食人餓鬼なら仕留められるか…」
「駐屯地から脱出しましょう…父様…」
すると廊下から物音が響き渡る。
「ん?」
「物音だわ…一体何かしら?」
「物音は廊下からだな…」
(無数の霊力が一点に集中した状態だわ…今度は何が出現したのかしら?)
彼女は無数の霊力を瞬時に察知したのである。小梅姫と崇徳丸は警戒した四数で恐る恐る武器庫から脱出…。すると直後である。
「怪物!?」
(食人餓鬼とは別物だわ…此奴はひょっとして…)
小梅姫の視界間近に佇立する怪物とは無数の食人餓鬼が融合した人型の肉塊…。等身大の人間よりも一回り巨大であり廊下を牛歩する。すると小梅姫の背後より…。
「此奴は悪霊の百鬼食人餓鬼だな…」
「父様…厄介なのが出現したわね…」
体表の食人餓鬼の頭部が小梅姫と崇徳丸を睥睨したのである。
「私が万全の状態であれば食人餓鬼の集合体なんて楽勝に仕留められるでしょうけれども…」
すると百鬼食人餓鬼は全身の口先から高熱の熱風を放射し始める。小梅姫は咄嗟に妖力によって妖力の防壁を形成させたのである。無防備である崇徳丸にも防壁の形成によって守護する。
「父様…命拾いしたわね…」
「小梅姫…感謝する!」
(先程の同時結界で大半の妖力を消耗しちゃったのよね…)
百鬼食人餓鬼と交戦したとしても敗北は濃厚であると判断した小梅姫は崇徳丸に逃亡を合図したのである。
「父様!逃走しましょう…」
「逃走だと?」
小梅姫の様子を直視すると彼女は満身創痍の状態であると察知する。
(小梅姫…)
「承知した…」
小梅姫と崇徳丸は全力疾走により駐屯地から無事脱出したのである。
メンテ
桜花姫 ( No.23 )
日時: 2021/08/16 20:15
名前: 月影桜花姫

最終話

天女

無事に武士団の駐屯地から脱出した小梅姫と崇徳丸は東国の郊外に聳え立つ低山…。日和山に到達したのである。
「はぁ…はぁ…」
崇徳丸は恐る恐る…。
「百鬼食人餓鬼は小梅姫でも仕留められないのか?」
問い掛けられた小梅姫は即答する。
「本調子の私だったら百鬼食人餓鬼程度の悪霊なら十体以上出現しても簡単に仕留められるわ…」
百鬼食人餓鬼は所謂食人餓鬼の集合体であり人間が単独で仕留めるのは困難であるが…。摩訶不思議の妖術を駆使する妖女であれば容易に仕留められる程度の悪霊である。
「えっ…」
(本調子なら百鬼食人餓鬼を十体も仕留められるのか…)
小梅姫の発言に崇徳丸は絶句する。
「今現在の私の妖力は空っぽだからね…食人餓鬼も仕留められないわよ…」
「一休みするか…小梅姫?」
すると小梅姫は小声で発言する。
「天霊山の露天風呂にでも入浴出来れば…」
「ん?天霊山の露天風呂だと?」
崇徳丸は露天風呂の一言に反応したのである。
「天霊山って…西国の小山だったよな?」
「天霊山の露天風呂に入浴すれば消耗した妖力も回復させられるの…」
「即刻西国に移動するか…」
直後…。無数の霊力が日和山に接近するのを感じる。
「殺気か…」
「無数の霊力だわ…」
無数の霊力の正体とは百鬼食人餓鬼であり先程遭遇した百鬼食人餓鬼が日和山に出現したのである。
「此奴…」
「百鬼食人餓鬼だわ…私達を追尾したのね…」
すると崇徳丸は一息するなり…。
「久方振りに…此奴の出番だな…」
「えっ?父様?」
崇徳丸は牢固石の刀剣を抜刀したのである。
(父様…本物の武士みたいだわ…)
崇徳丸は身構える。
「悪霊との戦闘は三十年前以来だな…」
三十年前の死霊餓狼との死闘を想起したのである。
「成仏せよ…悪霊!」
百鬼食人餓鬼を睥睨するなり…。神速の身動きで百鬼食人餓鬼に接近したのである。
「瞬殺!?」
崇徳丸の斬撃で百鬼食人餓鬼は両断される。
(父様って…こんなに精強だったの!?)
小梅姫は崇徳丸の強大さに愕然とする。
「私は戦乱時代では東国の一兵卒だったからな…」
(父様…男前ね♪)
小梅姫は赤面…。崇徳丸に見惚れたのであり。すると両断された百鬼食人餓鬼が無数の肉片に分裂…。数十体もの食人餓鬼に変化したのである。
「此奴…食人餓鬼に分裂するとは…」
無数の食人餓鬼が崇徳丸に殺到する。
「父様!多勢に無勢だわ…逃げましょう!」
「食人餓鬼は私が仕留める…」
圧倒的に不利であるが崇徳丸は再度…。神速の身動きにより殺到する食人餓鬼を斬撃したのである。数分間で数十体の食人餓鬼を仕留める。
「此奴は意外と楽勝だったな…」
地面には無数の血肉が散乱したのである。小梅姫は沈黙する。
(父様が東国の軍神って噂話は本当だったのね…)
百鬼食人餓鬼との交戦で崇徳丸の精強さを再認識したのである。
「こんな程度の奴等なら私一人でも容易に仕留められそうだ…小梅姫は西国の天霊山で妖力を回復させろ…」
直後…。百鬼食人餓鬼をも上回る霊力を察知したのである。
「えっ!?何かしら!?」
(霊力だけど…今迄の悪霊とは桁違いだわ…一体何が出現したのかしら!?)
畏怖する小梅姫の様子に崇徳丸も極度の胸騒ぎを感じる。
(如何やら小梅姫も感じるみたいだな…)
すると背後の獣道より…。
「ん?なっ!?貴様は…」
崇徳丸は背後を直視すると身震いしたのである。
「えっ…誰なの!?」
獣道に出現したのは鬼神を連想させる甲冑を装備した武士…。崇徳丸を直視するなり睥睨したのである。
「父様?此奴は一体何者なの?」
(此奴の肉体から霊力を感じるわ…悪霊なのは確実だけど何者かしら?)
武士が悪霊なのは確実であり小梅姫は恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。問い掛けられた崇徳丸は一瞬後退りする。
「此奴は…北国の鬼神…鬼殺丸だ…」
「鬼殺丸?」
すると鬼殺丸は発言し始める。
「久方振りだな…夜桜崇徳丸…戦乱時代では人殺しだった貴様が…今現在では僧侶の身分とは呆れ果てるな…」
小梅姫は崇徳丸を直視するなり…。
「父様!此奴は悪霊よ!肉体から霊力を感じるわ!」
「えっ…悪霊だと!?」
鬼殺丸が悪霊である事実に崇徳丸は驚愕したのである。
「鬼殺丸?貴様…戦死したのか?」
崇徳丸の問い掛けに即答する。
「俺は野犬の亡霊に食い殺された…今現在の俺は悪霊の肉体だ…」
「野犬の亡霊とは…」
(死霊餓狼か…)
野犬の亡霊が死霊餓狼であると推測したのである。
「俺は皮肉にも悪霊の集合体によって復活させられた悪霊だ…」
「悪霊の集合体だと?」
「人間達を全滅させるのが俺の仕事だからな…手始めに復讐の対象者である崇徳丸…貴様から片付ける!」
すると小梅姫が発言する。
「父様を殺さないで!」
「ん?誰だ…貴様は?」
鬼殺丸は小梅姫を睥睨したのである。
「小梅姫…逃げろ…此奴は私が阻止する…」
崇徳丸は再度抜刀する。
「えっ?父様!?」
「安心しろ…私は死なないよ♪」
崇徳丸は笑顔で断言したのである。
「如何やら小娘は貴様の愛娘みたいだな…」
「私の愛娘に手出しさせない…貴様の相手は私だ…」
「安心しろ…貴様を打っ殺してから貴様の愛娘も打っ殺すからよ…」
鬼殺丸は右手に霊力を収縮…。雷光の刀剣を形作ったのである。
「雷光の刀剣だと?」
「貴様を仕留めるには…此奴で事足りる!」
両者は睥睨するなり…。
「覚悟しろ!鬼殺丸!」
「貴様こそ!」
両者は神速の身動きで移動し始める。
(えっ!?)
両者の身動きは肉眼では視認出来ず小梅姫は何が発生したのか理解出来なかったのである。
(一体全体何が!?)
直後…。両者の刀剣が交差したのである。
「崇徳丸…貴様の刀剣は私の霊剣と互角とは…」
「私の刀剣は牢固石だ!貴様の雷光の刀剣でも簡単には屈折しないぞ…」
すると鬼殺丸は後退…。雷光の刀剣は消滅する。
「ん?」
崇徳丸は警戒したのである。
(鬼殺丸は一体何を?)
鬼殺丸は左手より霊力の火球を形作る。
「死滅せよ…崇徳丸…」
高熱の火球を発射したのである。
(火球か…)
崇徳丸は火球を一刀両断…。左右に両断された火球は崇徳丸の背後で爆散したのである。
「鬼殺丸…貴様は其処等の悪霊とは桁外れだな…」
「当然だ…悪霊は悪霊でも俺は其処等の悪霊とは別格だからな!最上級の悪霊とでも…」
自身を最上級の悪霊と豪語する。
「であれば鬼殺丸よ…本来の貴様は死没者であるからな…死没者である貴様を死後の世界に戻らせる…」
「最上級の悪霊である私を死後の世界に戻らせるか…であれば私は貴様を死後の世界である地獄に招待するだけだ…」
鬼殺丸は崇徳丸の両足を直視…。
「えっ?」
「父様の両足が…」
すると崇徳丸の両足は氷結したのである。
「なっ!?氷結だと!?鬼殺丸…貴様一体何を?」
「残念だったな…崇徳丸…私の霊力で貴様の身動きを封殺した…」
両腕と両足の氷結により崇徳丸は完全に身動き出来なくなる。
「ぐっ…」
(迂闊だった…)
鬼殺丸は再度雷光の刀剣を発動したのである。
「今度こそ貴様を地獄に招待する…覚悟せよ!崇徳丸…」
一歩ずつ崇徳丸に近寄る。普段は冷静であり無表情の鬼殺丸であるが…。
(今回で復讐を達成出来るぞ♪)
今回ばかりは微笑したのである。
「覚悟しろ!崇徳丸!」
(今日が私の命日か…)
崇徳丸は最期を覚悟する。頭首を斬首される寸前…。
「父様を殺さないで!」
「はっ?」
「小梅姫…」
鬼殺丸と崇徳丸は小梅姫を直視する。
「鬼殺丸…父様を殺さないで…」
小梅姫は泣訴したのである。落涙する小梅姫に鬼殺丸は無表情で…。
「安心しろ…小娘…此奴を打っ殺してから愛娘の貴様も打っ殺すからよ…」
すると小梅姫は鬼殺丸を睥睨したのである。
「如何しても父様を殺したいのであれば…」
「はっ?」
小梅姫の全身より血紅色の妖力が全身から溢れ出る。
「小梅姫…一体何が…」
「小娘…」
小梅姫の妖力は肉眼でも視認出来る。普段の温厚篤実の彼女とは別人であり今現在の彼女は鬼神だったのである。
(小梅姫なのか!?別人みたいだ…)
崇徳丸は彼女に戦慄する。すると数秒後である。妖力の覚醒からか彼女の全身から溢れ出た妖力が小梅姫の全身を覆い包み…。小梅姫は常人よりも一回り巨体の化け猫らしき妖獣へと変化したのである。
「小娘…妖怪化したのか…」
無表情であった鬼殺丸も恐る恐る後退りする。
「私を殺せるなら殺しなさい!」
小梅姫は力一杯鬼殺丸を睥睨したのである。
(小娘の正体は妖獣だったのか…)
「死滅しろ!妖獣!」
高熱の火球で攻撃する。
「小梅姫!」
小梅姫は雷撃の結界で鬼殺丸の火球を無力化したのである。
「俺の攻撃を無力化しやがったか…」
直後…。
「なっ!?」
突如として身動き出来なくなる。
(ぐっ…身動き出来ないだと…)
小梅姫は鬼殺丸に金縛りの妖術を発動したのである。
「逃げられないわよ…悪霊!」
口先より高熱の雷光を凝縮…。雷光の火球を形成させる。
「完全に成仏しなさい!」
雷光の火球を発射したのである。
「えっ…」
前方の地面は高熱により焦土化…。黒焦げに抉れたのである。
「予想外の威力だ…」
(小梅姫の妖力は私の想像以上だな…)
小梅姫の妖力に崇徳丸は圧倒される。
「鬼殺丸は…仕留めたかしら…」
すると背後より…。
「小梅姫!食人餓鬼だ!」
「えっ?」
小梅姫の背後に一体の食人餓鬼が出現したのである。
「食人餓鬼程度なら…」
攻撃する直前…。食人餓鬼の肉体から白煙が発生したのである。食人餓鬼は白煙に覆い包まれ…。
「えっ…」
「此奴は…」
先程仕留められた鬼殺丸が再度出現したのである。
「残念だったな…小娘よ…」
「如何して鬼殺丸が?貴様は小梅姫の攻撃で…」
すると鬼殺丸は説明する。
「俺の肉体は悪霊だ…実体としての肉体が破壊されたとしても霊体のみでも活動出来るぞ…」
鬼殺丸は小梅姫に攻撃される寸前…。近辺で徘徊する食人餓鬼に憑霊したのである。
「俺は肉体を何度破壊されても他者の肉体に憑霊すれば何度でも復活出来るからな!」
鬼殺丸は豪語するが…。
(畜生が…先程の攻撃で肉体のみならず…霊体の大半が浄化されちまったからな…)
先程の小梅姫の攻撃は肉体の殲滅は無論であるが浄化作用により霊体も浄化出来る。
(鬼殺丸の様子…食人餓鬼に憑霊したみたいだが大分弱体化した様子だな…)
崇徳丸は鬼殺丸の様子を観察すると一時的に弱体化したのではと察知したのである。
(ひょっとすると攻撃する絶好機かも知れないな…)
崇徳丸は小梅姫に合図する。
「小梅姫!鬼殺丸は弱体化したぞ!今度こそ鬼殺丸を仕留められる!」
(なっ!?)
普段は無表情の鬼殺丸であるが…。一瞬動揺する。
「此奴に攻撃したいけれど…」
小梅姫は妖力の消耗により妖獣の形態から元通りの少女の姿形に戻ったのである。
「えっ…小梅姫…」
(先程の威勢は一体…)
崇徳丸は沈黙する。一時的に妖力の覚醒で妖獣へと変化した小梅姫であるが小面蜘蛛との戦闘で大量の妖力を吸収され…。衰弱化した状態からの覚醒であり妖力の消耗が加速したのである。
(今度も攻撃されたら…俺は今度こそ地獄に逆戻りだったな…)
鬼殺丸は命拾いにより内心一安心する。小梅姫は妖力が空っぽ状態であり地面に横たわる。
「小梅姫!?」
鬼殺丸は横たわった小梅姫に近寄る。
「小娘…貴様は俺にとって復讐の対象者である崇徳丸の愛娘だからな…貴様も同罪だ…」
悪霊の鬼殺丸にとって小梅姫の存在は非常に厄介であり崇徳丸よりも脅威である。鬼殺丸は再度雷光の刀剣を形作る。
「鬼殺丸!貴様の復讐に彼女は無関係だぞ!復讐するなら私に復讐しろ!彼女に手出しするな!」
崇徳丸は必死に彼を制止するのだが…。
「俺にとって此奴は脅威だ…」
(折角俗界に戻れたのだ…二度も地獄に戻されるのは御免だからな…)
すると小梅姫は落涙した表情で崇徳丸を直視する。
「父様…」
「小梅姫…」
絶望的状況下であったが…。暗闇の黒雲で覆い包まれた天空であるが光り輝く発光体が降下したのである。
「発光体だわ…」
「今度は何が出現した…」
小梅姫と崇徳丸は勿論…。
「天空から発光体か?」
鬼殺丸も天空の発光体に注目する。発光体が日和山の頂上に着地したかと思いきや…。発光体の正体は巫女装束の女性だったのである。背丈は非常に小柄であり頭部には金冠…。背中には円形の光背が確認出来る。天女を連想させる女性に崇徳丸は愕然とする。
「えっ!?貴女様はひょっとして…」
天女は微笑むなり…。
「崇徳丸様♪久し振りね♪」
「勿論ですよ…桃子姫様…」
天女の正体とは三十年前に逝去した桃子姫だったのである。
(桃子姫って…私の母様…)
崇徳丸と小梅姫は桃子姫との再会に涙が零れ落ちる。すると鬼殺丸が桃子姫を睥睨するなり…。
「貴様は一体何者だ!?俺の復讐を邪魔するのであれば貴様を打っ殺す…」
鬼殺丸は威嚇するが桃子姫は無表情で返答する。
「私の家族には手出しさせないわよ…」
すると半透明の血紅色だった桃子姫の両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光したのである。
「桃子姫様の両目が瑠璃色に発光した…」
崇徳丸は不思議がる。
「鬼殺丸だったかしら?貴方は死没者なのです!死後の住人である貴方は即刻黄泉の国に戻りなさい…」
直後である。
「なっ!?」
鬼殺丸は桃子姫の神通力によって身動き出来なくなったと同時に…。
「畜生が…」
(結局…地獄に逆戻りとは…)
肉体は虹色の粒子状の発光体へと変化したのである。無数の発光体へと変化した鬼殺丸は天空にて消滅する。
「鬼殺丸が…」
「消滅するなんて…」
小梅姫と崇徳丸は驚愕したのである。
「亡者達は全員浄化したわ♪」
桃子姫の神通力により各地で徘徊する食人餓鬼の大群と百鬼食人餓鬼は浄化され…。消滅したのである。
(霊力が消滅したわ…母様が一人で悪霊の大群を浄化したの?)
小梅姫は桃子姫の神通力の絶大さに愕然とする。
「一安心ですね♪桃子姫様♪」
すると小猫姫は恐る恐る…。
「貴女は本当に…私の母様なのね…」
「勿論よ♪私は貴女の母親よ♪」
桃子姫は笑顔で即答する。
「小梅姫…貴女は美人さんに成長したわね♪」
美人の一言に小梅姫は赤面したのである。
「私が美人さんなんて…母様は大袈裟よ…」
赤面するが…。内心では大喜びだったのである。
「母様こそ…太陽神っぽくって容姿端麗よ…」
容姿端麗の一言に桃子姫は赤面する。
「私が容姿端麗なんて♪小梅姫は大袈裟ね♪」
桃子姫も内心では大喜びしたのである。
「ですが桃子姫様…貴女の救済で命拾い出来ました…大変感謝します…」
崇徳丸は桃子姫に一礼する。
「気にしないで♪崇徳丸様…貴方達が無事なのが何よりだから♪」
(桃子姫様は本当に救済の女神様だな…)
直後…。桃子姫の肉体が半透明化したのである。
「如何やら時間みたいね…」
「えっ…桃子姫様…」
「母様…」
小梅姫の涙腺から一粒の涙が零れ落ちる。
「小梅姫♪心配しなくても大丈夫よ♪私は天国で小梅姫を見守るからね♪」
「母様…約束だからね♪」
小梅姫に笑顔が戻ったのである。
「約束するわ♪勿論崇徳丸様もね♪」
「桃子姫様♪」
すると桃子姫は消滅する寸前…。
「私達…来世で再会しましょうね♪」
数秒後に桃子姫は消滅したのである。
(来世か…)
小梅姫は恐る恐る崇徳丸に問い掛ける。
「父様?来世も私達…再会出来るかな?」
崇徳丸は一息するなり…。
「再会出来るさ♪」
笑顔で返答する。数分後…。
「解散するか?」
「解散しましょう…私も家屋敷に戻らないと女中達が心配するし…」
二人は解散したのである。今回の悪霊事件は桃子姫の化身により無事解決したが…。以後も小規模の悪霊事件は各地で頻発したのである。小梅姫は悪霊退治屋を自称…。多種多様の悪霊を征伐したのである。当初は差別的だった田舎村の村人達も妖女に対する認識も次第に変化し始める。悪霊征伐に専念した小梅姫は四年後の初春に東国出身者である領主の若殿と婚姻…。無事三人の子供を出産したのである。小梅姫が三人の妖女を出産して以後…。本格的に妖女の時代が到来する。
完結
メンテ
メガラニカ大事変 ( No.24 )
日時: 2021/08/17 09:02
名前: 月影桜花姫

第一話

開戦

世界暦五百二十二年五月十七日午前八時未明の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『アプセラス帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。戦後の疲弊した世界各国を牛耳れる超大国としての地位と資源を獲得したのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得したアプセラス帝国であるが…。アプセラス帝国の存在に反対する一部の反政府勢力と敗戦国の各残党勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ自由区』と命名されアプセラス帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ自由区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ自由区の勢力拡大を危惧したアプセラス帝国はメガラニカ自由区に宣戦布告…。翌日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ自由区本土を攻撃目標に直進したのである。アプセラス帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦アスピドケロンにはアプセラス帝国国家元首である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。
「大総統!徹底的にメガラニカ自由区を撃滅しましょう!」
「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国であるアプセラス帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」
ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦アスピドケロンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ自由区本土攻略作戦ではアスピドケロン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。
「メガラニカ自由区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」
「全軍を警戒態勢に移行させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。
「全軍…警戒態勢に移行せよ…」
すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦アスピドケロンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。
「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」
スーパーレーダーはアプセラス帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在アプセラス帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。
「何事だ?」
ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。
「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」
スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。
「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」
すると直後…。
「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」
四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。
「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」
ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。
「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」
各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年アプセラス帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。
「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」
「最先端の科学技術の結晶であるアプセラス帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」
ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」
総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。アプセラス帝国軍の大艦隊はメガラニカ自由区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ自由区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。
「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」
メガラニカ自由区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。
「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」
ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。アプセラス帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。
「味方艦隊の圧倒的優勢です!」
旗艦アスピドケロンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。
「アプセラス帝国軍の圧勝は確実だな…」
「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ自由区なんて…」
乗組員達はアプセラス帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ自由区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。
「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」
「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…アプセラス帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」
乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。
「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」
「狼狽えるな…」
ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。
「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ防衛隊が圧倒的に不利ですよ…」
ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。
「時間だな…」
周囲の乗組員達はハッとした表情で…。
「えっ…何が時間なのですか!?」
一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。
「作戦を開始する…」
ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。
「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」
「はっ!」
周囲の者達はポカンとする。
「一体何を開始するのか?」
同時刻…。メガラニカ自由区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ自由区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景にアプセラス帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。
「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ自由区の南方地帯全域を空爆せよ…非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」
「はっ!」
ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ自由区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死にアプセラス帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦アスピドケロンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。
「大総統♪アプセラス帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」
副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…」
ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。
「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。
「スーパーレーダーが反応しました!」
特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。
「今度は何事だ!?」
ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。
「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」
「移動物体だと?敵機か?」
ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。
「此奴は…」
飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。
「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」
「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」
「戦闘用ドローンですと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」
「承知しました…大総統…」
戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。
「大総統…敵軍のドローンです…」
「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」
ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦アスピドケロンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。
「なっ!?シールドでしょうか!?」
「シールドだと?」
「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」
「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」
電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年ではアプセラス帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。
「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」
ドローン関連の科学技術ではメガラニカ自由区がアプセラス帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ防衛隊にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方のアプセラス帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。
「艦長…上空より敵機が接近中です!」
対空パルスレーザーの弾幕がアプセラス帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。
「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」
「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」
本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。
「大昔の大戦だな…」
アプセラス帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。
「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」
特殊無線技士が報告する。
「即刻回避だ!」
ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦アスピドケロンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦アスピドケロンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。
「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」
メガラニカ防衛隊のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローンも艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。
「大総統…アプセラス帝国軍の劣勢です…」
形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦アスピドケロンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。
「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」
同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦アスピドケロンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。
「大総統!現状ではアプセラス帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」
撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。
「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」
実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。
「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」
ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。
「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」
特殊無線技士が報告する。
「敵機だと?」
数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦アスピドケロンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。
「ぐっ!」
艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。
「大総統!大丈夫ですか!?」
副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。
「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」
先程のドローンの攻撃により旗艦アスピドケロンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。
「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」
「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」
「であればダメージコントロールを急行せよ…」
乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。
(戦闘を続行し続ければアプセラス帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…)
味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。
「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」
ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始したアプセラス帝国軍の艦隊にメガラニカ防衛隊のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦でアプセラス帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ防衛隊はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。アプセラス帝国の権威が失墜したのである。

第二話

大艦巨砲主義

メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ自由区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ防衛隊はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力によりアプセラス帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。アプセラス帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。
「大総統…一週間の短期間でアプセラス帝国の統治領の約半分がメガラニカ防衛隊の猛反撃により占拠されました…アプセラス帝国軍は劣勢の状態です…」
「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」
ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。
「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ自由区はアプセラス帝国以上に消耗した状態です!」
今現在のメガラニカ自由区とアプセラス帝国の国力は一対十八でありメガラニカ自由区は圧倒的に不利である。メガラニカ防衛隊はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量のアプセラス帝国軍を圧倒する。メガラニカ防衛隊の快進撃によりアプセラス帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ防衛隊は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。
「メガラニカ防衛隊は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来るチャンスですよ!」
するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」
「訓練中のホムンクルスですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前のアプセラス帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治のアプセラス帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来たのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。
「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。アプセラス帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
近日ではアプセラス帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ防衛隊に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続けるアプセラス帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。
「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」
開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。
「戦闘用ドローン…『ケルベロス』?」
「ケルベロスは…」
ケルベロスとはアプセラス帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザーと実弾の対空機関砲を搭載…。
「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ防衛隊のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」
メガラニカ南方海戦でアプセラス帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦でアプセラス帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ防衛隊のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。
「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」
二枚目の設計図を直視する。
「ん?此奴は…」
「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『ティタニア』です…」
「超砲撃型戦艦…ティタニア?」
正式名は超砲撃型戦艦ティタニアであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるがティタニアは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。
「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…」
ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるが…。
「戦艦ティタニアは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…」
「電磁投射砲か…」
電磁投射砲は現在アプセラス帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。
「海軍開発部の大計画では戦艦ティタニアの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも安価ですからね♪」
「であれば建造を急行するべきだな…」
直後である。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。
「緊急事態だと?何事だ?」
ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。
「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍に占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…部隊は玉砕したとの情報です…」
「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」
「残念ですが…」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人ものアプセラス帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ防衛隊の強襲で全滅したのである。
「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…アポロゾーン基地だな…」
アポロゾーン基地とは最南端に位置する離島…。アポロゾーン本島を防衛するアプセラス帝国軍守備隊の本拠地である。アプセラス帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「大総統…即刻アポロゾーン本島に援軍を派遣させますか?」
「援軍は不要だ…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。
「本気ですか!?大総統!?」
「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」
「如何して援軍を派遣しないのですか!?アポロゾーンが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」
ブラッドフォードは再度無表情で返答する。
「アポロゾーンの守備隊には陽動作戦に利用する…」
「陽動作戦ですと?」
「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…アポロゾーンに侵攻中のメガラニカ防衛隊を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」
アポロゾーン基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。アポロゾーンを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。
「特殊弾頭ミサイルですと!?アポロゾーンに特殊弾頭なんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の民間人にも被害が…」
特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発のミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には躊躇する。
「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」
小国家だったアプセラス帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。
「敵味方諸共…殲滅するのですか?」
「最早多少の犠牲は止むを得ない…」
ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。
「特殊弾頭は極秘だぞ…兎にも角にもアポロゾーンの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは不本意であるが承諾したのである。

第三話

攻防戦

五月二十七日早朝…。メガラニカ防衛隊の大艦隊がアプセラス帝国最終防衛区域アポロゾーンへと進行を開始したのである。同時刻…。アポロゾーン基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。
「一体何事だ!?」
「スーパーレーダーが反応したぞ!」
即座に立体映像のホログラムで確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。
「此奴はメガラニカ防衛隊の艦隊だな…アポロゾーンを攻略するみたいだ…」
「如何しましょう…総司令官…」
守備隊の陸軍総司令官が各員に指示したのである。
「即刻防衛戦を開始する!各員は戦闘配置だ!アポロゾーンは徹底的に死守しろ!」
アポロゾーンは本土防衛の最終防衛ラインでありアポロゾーンが陥落すれば本土が攻撃される。
「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」
「はっ!」
通信兵は即座に総本部に通達したのである。三十分後…。メガラニカ防衛隊の大艦隊がアポロゾーンの防衛区域へと到達したのである。
「総司令官…メガラニカの大艦隊が防衛区域に到達しました…」
「防衛戦を開始するか…」
攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻もの魚雷艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。
メンテ
桜花姫 ( No.25 )
日時: 2021/08/17 09:38
名前: 月影桜花姫

第二部

第一話

斬首

世界樹の霊魂巨神木との死闘から半年後の天地歴四千二十年十二月中旬…。太平神国に安寧秩序が到来したものの近頃東国の中心街では何者かによって頭首を斬首される連続殺人事件が多発したのである。殺人事件の発生に町民達は畏怖する。真夜中に二人の鎮守府常備軍の邏卒が東国の中心街を夜番したのである。
「折角平穏が戻ったのに…殺人事件が三件も連続的に発生するなんて物騒だな…」
「恐らく匪賊の仕業だろうが…斬首するなんて随分悪質だよな…」
殺害された被害者達は三人とも頭首を斬首された状態であり翌朝には斬首された頭部と遺体が事件現場で発見される。すると小柄の邏卒がブルブルと寒気を感じる。
「こんな真夜中に人殺しなんかと出くわしたくないぜ…勘弁しろよな…」
「東国の武士団である俺達が人殺しに畏怖して如何する?こんな小事件で畏怖しちまったら俺達は世間様の笑い者だぜ…」
「今回も月影桜花姫様の出番だよな…彼女だったら百人力?千人力だろうし…」
邏卒が口走った月影桜花姫の一言に大柄の邏卒が苛立ち始める。
「桜花姫…桜花姫って…毎回不寝番の桜花姫に頼りっ放しだと東国の武士団は不必要だって村人達から造反されちまうよ!好い加減武士団の上役達も内部を改革させないと形骸化しちまうぞ…」
近年では不寝番の最上級妖女…。月影桜花姫の悪霊征伐により東国武士団の権威が失墜したのである。東国武士団の形骸化と他力本願が問題視され武士団内部からも改革派が出現…。武士団全体の再構築が公言されたのである。
「相手が匪賊だけなら俺達でも対処出来るかも知れないが…神出鬼没の悪霊なんて俺達では頑張っても如何にも出来ないだろ…」
「相手が悪霊だったらな…」
彼等が雑談中…。
「ん?」
東国と北国に国境に直結する両国橋より番傘を所持した赤色の着物姿の女性がポツンと佇立した様子であり天空の満月を眺望する。
「一体誰だろう?」
「こんな真夜中に女人が一人で何を…」
彼等は恐る恐る両国橋へと移動するなり…。番傘の女性の背後に近寄ったのである。女性は小柄の背丈であるが非常に美的の雰囲気であり頭髪には寒椿の髪装飾が確認出来る。
「真夜中だぞ…近頃は斬首事件で物騒だしこんな真夜中にあんたみたいな小町娘が一人で出歩くのは危険だぜ!即刻家屋敷に戻りやがれ!」
大柄の邏卒は強気の態度で女性に命令する。大柄の邏卒は強気であったが女性は無反応であり見向きすらしなかったのである。
「此奴…」
(畜生が…無視しやがって!)
大柄の邏卒は女性の態度に苛立ったのかピリピリする。すると小柄の邏卒が恐る恐る…。
「失礼なのですが…貴女様みたいな美人さんがこんな真夜中に一人で出歩かれたら人攫いに遭遇するかも知れませんし…即刻家屋敷に戻られませんか?」
小柄の邏卒が物静かに発言するも女性は反応しない。
「此奴…聾者っぽいな…」
「彼女は雛人形みたいだな…私達の問い掛けには反応しないし…」
(不吉だな…)
ゾッとした小柄の邏卒は女性の雰囲気に畏怖したのか恐る恐る後退りしたのである。
「貴様…こんな小町娘に畏怖するなんて♪余程の小心者だな♪」
大柄の邏卒は女性の背後へと移動するなり…。
「外見だけなら可愛らしい雰囲気だな♪素顔は別嬪かな?」
小柄の邏卒はビクビクした様子で大柄の邏卒に制止する。
「女人に手出しするなよ!任務は如何する!?」
制止する小柄の邏卒に大柄の邏卒は強気で反論したのである。
「任務なんて後回しだよ♪後回し♪」
「後回しって…」
大柄の邏卒の無責任さに呆れ果てる。
「真夜中だし…人目は貴様だけだからな♪」
大柄の邏卒はムラムラした様子で赤面するなり…。
「小町娘の姉ちゃんよ♪俺と一緒に夜遊びしないか?」
小柄の邏卒は膠着したのである。
(一体如何すれば…)
困惑した直後…。女性が背後を直視したのである。
「えっ?」
女性は半透明の血紅色の瞳孔であり無表情で大柄の邏卒を凝視する。
「素顔も別嬪だな♪」
大柄の邏卒が微笑した直後…。大柄の邏卒の喉元から血液が流れ出る。
「えっ?流血だと?」
大柄の邏卒は恐る恐る喉元に接触する。
「如何して流血した?」
すると直後…。
「えっ?」
大柄の邏卒の頭首がポロッと橋板に落下したのである。
「ひっ!」
(一体何が!?)
小柄の邏卒は極度の恐怖心により恐る恐る後退り…。一目散に逃走したのである。翌朝…。東国と北国の国境に直結する両国橋にて斬首された大柄の邏卒の遺体が発見される。当日の真昼…。最上級妖女の月影桜花姫は久方振りに東国の三蔵郎の寺院へと訪問したのである。
「三蔵郎様♪」
「桜花姫様でしたか♪久方振りですな♪本日は如何されましたか?」
三蔵郎は久方振りの桜花姫の訪問に大喜びする。
「勿論暇潰しよ♪」
「承知しました♪折角ですし昼食でも如何でしょうか?」
「昼食ですって♪空腹だから頂戴するわね♪」
三蔵郎は桜花姫に客室へと案内したのである。
「早速食事を用意しますので…」
三蔵郎は客室から退室する。
「霊魂巨神木の事件は無事に解決したけれど…悪霊が出現しないと面白くないわね…」
半年前に発生した霊魂巨神木の事件は無事に解決したが…。
「毎日が退屈だわ…」
平和が到来すると非常に退屈なのか普通の日常生活が憂鬱に感じられる。
「今後如何しましょう…」
すると三蔵郎が恐る恐る客室へと戻ったのである。
「桜花姫♪」
「三蔵郎様…食事は何かしら?」
「本日の昼食は天丼ですよ♪」
三蔵郎が用意した食事は美味しそうな天丼であり桜花姫は頬張りたくなる。
「天丼なのね♪美味しそうだわ♪」
海老天を頬張る直前…。何者かが寺院の客室へと乱入したのである。
「失礼します!」
突然の出来事に桜花姫と三蔵郎は驚愕する。
「きゃっ!」
「うわっ!」
「突然何事よ!?」
客室へと乱入した人物とは小柄の邏卒である。
「誰かと思いきや…鎮守府の駐在員さんでしょうか?」
「如何して鎮守府の駐在員さんが三蔵郎様の寺院なんかに?」
小柄の邏卒は桜花姫を直視するなり…。
「ひっ!悪霊!?」
「なっ!」
邏卒の悪霊発言に桜花姫はムッとする。
「失礼しちゃうわね!地上界の女神様である私に悪霊ですって!」
失言した邏卒を睥睨するなり…。
「命知らずのあんたは招き猫に変化しなさい♪」
すると小柄の邏卒は桜花姫の変化の妖術によって招き猫に変化させられる。
「えっ!?駐在員さんが招き猫に!?」
三蔵郎は一瞬で招き猫に変化した邏卒を直視すると驚愕したのである。
「私の天道眼は変化の妖術で多種多様の物体を別物に変化させられるのよ♪悪霊は勿論…人間だって無条件に変化させられるからね♪」
すると三蔵郎は恐る恐る桜花姫に…。
「ですが桜花姫様…遣り過ぎでは?彼を元通りには戻せないのでしょうか?」
「勿論戻せるわよ♪」
変化の妖術を解除…。妖術で招き猫に変化させられた邏卒は元通りの人間の姿形に戻ったのである。
「元通りに戻れた…」
小柄の邏卒はホッとする。
「反省しなさいね♪」
桜花姫は笑顔で発言したのである。すると邏卒はビクビクした様子で恐る恐る…。
「失礼しました…桜花姫様…」
桜花姫に謝罪したのである。
「気にしないで♪金輪際地上界の女神様である私に悪霊なんて失言したら今度こそ桜餅に変化させてあんたを食い殺しちゃうからね♪」
邏卒は勿論…。
(桜花姫様…)
三蔵郎も苦笑いする。
「ですが突然如何されたのですか?重役である東国武士団の駐在員さんがこんな寺院に訪問されるなんて…事件でも発生したのでしょうか?」
「昨夜の出来事なのですが…」
邏卒は昨夜の出来事は勿論…。昨今に頻発した連続斬首事件を洗い浚い告白したのである。
「真夜中の連続斬首事件ですか…一大事ですね…」
「昨夜に遭遇した小町娘によって私の仲間が殺されましたからね…」
(小町娘?)
小町娘の一言に桜花姫が反応する。
「駐在員さんの仲間は小町娘に殺されたの?」
桜花姫が質問すると邏卒は恐る恐る…。
「彼女は妖術らしき摩訶不思議の効力で…私の仲間の頭首を斬首されたのです…被害者達は全員共通して頭首を斬撃された状態でしたからね…」
「ひょっとして妖女の仕業かしら?」
「妖女ですと?」
三蔵郎と邏卒は桜花姫の妖女の一言に反応したのである。
「真犯人が妖女なのかは現段階では断定は出来ないけれど…彼女の特徴とかは?」
桜花姫の質問に邏卒は恐る恐る返答する。
「私が遭遇した小町娘の特徴ですか…特徴であれば赤色の着物姿でしたね…頭髪には寒椿の髪装飾…右手には番傘でした…」
「赤色の着物姿…寒椿の髪装飾…番傘ね…」
桜花姫は一瞬沈黙したのである。
「桜花姫様…如何されましたか?」
「ひょっとすると今回の連続斬首事件も…悪霊の仕業かも知れないわ…」
「悪霊ですと!?」
三蔵郎と邏卒は悪霊の一言に反応する。
「ひょっとすると【椿女郎】って名前の小町娘の悪霊の仕業よ…」
「椿女郎ですと?椿女郎とは一体何者なのでしょうか?」
「椿女郎はね…」
椿女郎とは戦乱時代に極悪非道の荒武者によって頭部を斬首された村娘の亡霊である。外見のみなら容姿端麗の小町娘であるが…。霊力は非常に強力であり彼女の瞳孔を直視した人間は彼女の霊力により頭首を斬首される。今現在でも成仏出来ずに各地を徘徊しては遭遇した人間の頭首を自身の霊能力で斬首したのである。
「戦乱時代に斬首された村娘の悪霊でしたか…非常に気の毒ですね…」
「椿女郎の瞳孔を直視すれば彼女の霊能力によって頭首を斬首されるわ…」
「私が彼女に斬首されなかったのは…」
「あんたが斬首されなかったのは幸運にも彼女の瞳孔を直視しなかったからよ…」
命拾いした邏卒であるが…。
「ですが正直…私も彼女の素顔を拝見したかったですよ♪彼女は別嬪っぽかったし…」
「駐在員さんが死にたくなったら彼女の素顔を直視しなさいよ♪」
桜花姫は笑顔で発言する。
「桜花姫様は意地悪ですね♪」
談笑した桜花姫と邏卒であるが桜花姫は邏卒に質問したのである。
「如何してあんたは初対面の私を悪霊と勘違いしたのよ?」
邏卒は苦笑いするなり…。
「椿女郎と命名される悪霊が奇遇にも桜花姫様と姿形が一致しましてね…桜花姫様が一瞬悪霊かと勘違いしちゃったのですよ♪」
「桜花姫様は普段から赤色の着物姿ですからね♪」
「三蔵郎様も…失礼しちゃうわね…」
三蔵郎に揶揄された桜花姫は表情が赤面する。
「勿論桜花姫様は別嬪ですよ♪」
「勿論ですとも♪」
「私が別嬪なんて三蔵郎様も駐在員さんも大袈裟ね♪」
桜花姫は内心大喜びしたのである。
「椿女郎は即刻仕留めないと温厚篤実の女神様である私が悪霊と勘違いされちゃうからね!傍迷惑だわ…」
「桜花姫様の風評被害は勿論ですが…今回の問題を放置し続ければ大勢の町民達が斬首されますからね!」
三蔵郎は桜花姫を凝視するなり…。
「桜花姫様…即刻悪霊の椿女郎を征伐しなくては…」
「本来なら即刻征伐したいのだけれど…生憎椿女郎が出現するのは真夜中だけなのよね…」
椿女郎が出現するのは真夜中のみであり日中では出現しない。桜花姫は邏卒に指示する。
「駐在員さんは武士団の役人達に今夜の夜番活動を中止させなさい…勿論東国の町民達には夜間の外出を厳禁させてね♪」
「承知しました…私は失礼しますね…」
承諾した邏卒は外出したのである。
「ですが今回の悪霊事件も非常に厄介そうですね…」
「厄介かしら?悪霊退治屋の私にとっては好都合だけれどね♪何よりも悪霊征伐なんて久方振りだし♪」
久方振りの悪霊出現に桜花姫は大喜びする。
「ですが奇妙ですね…」
三蔵郎の表情が険悪化したのである。
「何が奇妙なの?三蔵郎様?」
「霊魂巨神木の悪霊の集合体を桜花姫様が成仏させたのに…今回は女人の悪霊が出現しました…」
半年前に霊魂巨神木に憑霊した悪霊の集合体は桜花姫の神通力によって成仏されたが…。近頃は各地に悪霊が再出現し始めたのである。少数であるが悪霊の再出現に三蔵郎は極度の胸騒ぎを感じる。
「桜花姫様…私は極度の胸騒ぎを感じるのです…」
「胸騒ぎですって…」
「今迄に出現した以上の悪霊が出現するかも知れません…」
三蔵郎は今迄に出現した悪霊とは桁外れの霊力を保持…。強大なる悪霊の出現を危惧したのである。三蔵郎は人一倍心配性の性格であるが桜花姫も悪霊の再出現は非常に気になる。
「兎にも角にも私は今回の悪霊を征伐するわね…」
「承知しました…桜花姫様…」
「早速昼食を頂戴するわね♪」
桜花姫と三蔵郎は昼食の天丼を食事したのである。当日の真夜中…。桜花姫は久方振りの悪霊征伐にワクワクした様子で闇夜の東国に直行する。
(椿女郎…今夜は出現するかしら♪)
一時間後…。東国の中心街へと到達する。
「真夜中の東国って普段は都会なのに無人の過疎地みたいだわ…」
日中は人通りが過多である東国の中心街であるが…。真夜中では人通りは皆無であり武士団の夜間の外出禁止命令によって町民は誰一人として確認出来ない。
「好都合ね♪」
今夜は武士団の巡邏も禁止される。
「悪霊を仕留めて思う存分熟睡するわよ♪」
適当に中心街を出回るのだが…。霊力らしい霊力を感じられず悪霊らしき物体は何一つ発見出来ない。
「はぁ…」
(霊力も感じられないわね…)
困惑した桜花姫であるが…。
「両国橋は如何かしら…」
事件現場である東国と北国を直結する両国橋を想起したのである。
「両国橋に直行するわよ♪」
即座に両国橋へと移動する。数分後…。両国橋へと到達したのである。
「両国橋に到着したけれど…」
周囲を警戒するが霊力も人影も皆無であり桜花姫は落胆する。
「如何しましょう…」
(真夜中に発見出来なければ悪霊を仕留められなくなるわ…)
一息したのである。
「今夜は出直しかしら…」
西国に戻ろうかと思いきや…。突如として背後より人気を感じる。
「えっ?」
(人気かしら?)
彼女は恐る恐る背後を警戒するなり…。
「こんな真夜中に誰かしら?」
桜花姫の背後には番傘を所持した赤色の着物姿の女性が真夜中の満月を眺望する。彼女の頭髪には寒椿の髪装飾が確認出来る。
(番傘と寒椿の髪装飾…ひょっとして彼女は…)
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る一歩ずつ番傘を所持する女性へと近寄る。
「あんたは悪霊の椿女郎ね…こんな真夜中にあんたみたいな村娘が一人で外出するなんて不自然だわ…」
桜花姫は女性に問い掛けるが…。番傘の女性は沈黙した様子であり只管天空の満月を眺望し続けるだけである。
(私の問い掛けに無視するなんて…腹立たしい悪霊ね…)
彼女の態度に桜花姫はピリピリする。すると椿女郎は背後に位置する桜花姫の方向を直視する直前…。
「えっ!?」
桜花姫は即座に両目を瞑目させる。
(危機一髪だったわ!下手に彼女の瞳孔を直視すると斬首されちゃうのよね…)
桜花姫は瞑目した状態で恐る恐る後退りする。
(非常に厄介だわ…如何しましょう…)
瞑目し続けた状態では身動きすら不安定であり妖術を発動したくても集中出来ず思う存分に妖術を発動出来ない。
(こんな状態では不利だわ…)
「一か八か逃げましょう!」
桜花姫は両国橋から一目散に逃走したのである。
(緊張しちゃったから変化の妖術も発動出来ないわね…)
緊張したのと椿女郎の素顔が気になり変化の妖術を発動したくても発動出来なかったのである。
(彼女の素顔も気になるし…)
「一か八か…」
桜花姫は斬首を覚悟…。再度両国橋へと戻ったのである。数分後…。桜花姫は両国橋に到達する。両国橋には満月を眺望し続ける椿女郎が確認出来る。
(椿女郎だわ…今度こそ妖術で仕留めるわよ♪)
桜花姫は恐る恐る椿女郎に近寄る。
「椿女郎!今度こそあんたを成仏させるからね!覚悟しなさいよ!」
すると数秒後…。椿女郎は桜花姫に反応したのか再度背後の彼女を直視するなり無表情で桜花姫を凝視する。
(椿女郎って…悪霊なのに意外と美人さんなのね♪)
彼女の素顔は非常に美的であり桜花姫でさえも容姿端麗であると感じる。
(本当に斬首されるかしら?)
数秒間が経過したものの…。何も発生しない。
「別に大丈夫そうね♪」
大丈夫であると確信した直後…。
「えっ?」
喉元からポタポタッと赤色の液体が流れ出る。
「何かしら?」
桜花姫は恐る恐る首筋の液体に接触したのである。
「流血だわ…」
皮膚から流れ出る赤色の液体が血液であると確信した直後…。桜花姫の頭首がポロっと橋板に落下したのである。椿女郎は霊能力で桜花姫の頭首を斬首すると不吉の表情で微笑する。彼女は再度満月を眺望するのだが…。
「残念だったわね♪椿女郎♪」
椿女郎は女性の美声に反応したのか背後を直視すると両目を瞑目した無傷の桜花姫が佇立する。すると椿女郎の霊能力によって斬首された桜花姫の肉体と頭首がポンッと白煙により消滅したのである。無表情だった椿女郎であるがハッとした表情で桜花姫を凝視する。
「あんたの表情を直視出来ないのは非常に残念だけれど♪あんたが霊能力で斬首したのは私の分身体なのよね♪」
桜花姫は分身の妖術で形作った分身体を利用して椿女郎と接触…。彼女の形相を認識させたのである。桜花姫は変化の妖術を発動…。
「あんたの素顔は分身体で確認したからね♪あんたは桜餅に変化しなさい♪」
椿女郎を桜餅に変化させる。
「消耗した妖力を回復させないと♪」
桜餅に変化した椿女郎をパクッと頬張る。
「美味だわ♪」
すると両国橋から感じられた不吉の霊力が消失する。
「事件解決ね♪私は西国に戻って思う存分熟睡するわよ♪」
無事事件を解決させた桜花姫は即座に西国へと戻ったのである。
メンテ
桜花姫 ( No.26 )
日時: 2021/08/17 09:39
名前: 月影桜花姫

第二話

鬼面山

椿女郎との死闘から四日後の真昼…。南国の鬼面山と命名される岩山にて無数の悪霊が出現したとの噂話が国全体に出回る。噂話が気になった桜花姫は悪霊征伐にワクワクしたのか西国から南国に聳え立つ鬼面山へと直行する。
「今度は南国の鬼面山に悪霊が出現したのね♪」
鬼面山とは標高九町の岩山であり大山全体が鬼面を連想させる外観から鬼面山と命名される。霊魂巨神木との戦闘から悪霊の出現は少数であったものの…。久方振りの悪霊の大群出現に桜花姫は大喜びしたのである。西国から徒歩により二時間後…。南国の村里に到達する。
「南国に到着したわね♪」
南国の村里は非常に殺風景であるものの…。大勢の農民達が農作業に尽力中である。
(今回は何が出現したのかしら♪半年前の荒神山の戦闘みたいに大量の悪霊が出現したら面白いわね♪)
半年前の荒神山での悪霊征伐を想起する。
「即刻鬼面山に移動しないと…」
目的地の鬼面山に直行したいが場所が不明瞭である。
(鬼面山の場所って…)
困惑した桜花姫は恐る恐る耕作中の農民に近寄るなり…。
「御免あそばせ♪百姓さん♪」
すると耕作中の農民が恐る恐る桜花姫を直視する。
「えっ?花魁の娘さんが南国の村里に訪問されるなんて…一体何事ですかね?」
農民の花魁発言に桜花姫は苛立ったのか即答したのである。
「なっ!失礼しちゃうわね…私は最上級妖女の月影桜花姫よ!花魁なんかと勘違いしないでよね!」
桜花姫の返答に農民は驚愕する。
「貴女様は伝説の最上級妖女の…月影桜花姫様ですか!?」
農民は即座に桜花姫に謝罪したのである。
「大変失礼しました!月影桜花姫様…花柄の着物姿だったので桜花姫様を花魁の娘さんと勘違いしちゃいました…」
「私自身奇抜だから花魁と見間違えるでしょうね♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「ですがこんな早朝から如何して桜花姫様は南国に訪問されたのですか?南国はこんなにも田舎村ですよ…」
南国の領土の広大さは東国に匹敵するものの土地の大半は農村地帯であり娯楽は皆無である。
「近頃南国の鬼面山に悪霊の大群が出現したみたいだからね♪私は鬼面山に出現した悪霊の大群を征伐しに南国に出掛けたのよ♪」
「鬼面山の悪霊征伐ですね…」
桜花姫は恐る恐る鬼面山の場所を質問する。
「私は鬼面山の場所を知りたくて…あんたは知らないかしら?」
農民は北方の側面に位置する岩山を指差したのである。
「鬼面山であれば北方の岩山ですよ…」
「北方の岩山ですって?」
桜花姫は農民が指差した北方の岩山を眺望する。鬼面山は農村から非常に近辺であり徒歩でも十数分で到達出来る近距離である。
「案外近辺だったのね♪感謝するわね♪」
桜花姫は北方の岩山を目印に直進する。農村からは感じられなかったが鬼面山に近寄ると重苦しい無数の霊力を感じる。
「霊力かしら?」
(非常に重苦しいわね…)
鬼面山の表面は非常に暗闇であり無数の霊力の悪影響からか空気も全体的に重苦しい。
「こんなにも空気が重苦しいなんて…普通の人間なんて近寄れないでしょうね…」
桜花姫は恐る恐る鬼面山へと突入する。周辺はゴツゴツの岩壁ばかりで動植物は確認出来ない。
「昼間なのに真夜中みたいな雰囲気だわ…」
すると山道の周辺より…。
霊力だわ…悪霊かしら?」
無数の霊力が近寄るのを感じる。
(天道眼…発動!)
警戒した桜花姫は即座に瞳術の天道眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。直後…。目前の地面より無数の食人餓鬼が出現したのである。
「食人餓鬼の大群なんて…久方振りね♪」
彼女は久方振りの悪霊との遭遇に大喜びする。
「悪霊を蹴散らせるわよ♪」
地面から出現した無数の食人餓鬼が桜花姫に殺到したのである。
「死滅しなさい♪」
桜花姫は即座に念力の妖術を発動…。殺到する無数の食人餓鬼の頭部を破裂させたのである。
「楽勝♪楽勝♪」
周辺の地面には頭部を破裂させられた無数の食人餓鬼の血肉が散乱する。桜花姫は一安心するものの…。背後からも無数の霊力を感じる。
「背後?」
背後の地面からも無数の食人餓鬼が出現したのである。
「鬱陶しい奴等だわ…」
苛立った桜花姫であるが…。
「あんた達も死滅しなさい♪」
背後から殺到する食人餓鬼を念力の妖術によって粉砕する。一瞬で食人餓鬼の大群を仕留めたのである。
「妖力を消耗しちゃったから桜餅に変化させちゃおうかしら♪」
彼女はルンルンした気分で変化の妖術を発動…。破裂させた無数の食人餓鬼の肉片を自身の大好物である桜餅に変化させる。
「消耗しちゃった妖力を回復させないと♪」
本来は悪霊の血肉であるが桜花姫は無我夢中に無数の桜餅を頬張る。数分後…。道端に散乱した無数の桜餅をパクパクと平らげたのである。
「妖力は回復したわね♪」
桜餅によって妖力を回復させた直後…。
「えっ!?」
背後より複数の霊力を感じる。
「霊力を感じるわね…」
(食人餓鬼を上回る霊力だわ…一体何かしら?)
恐る恐る背後を警戒するなり…。
「今度の相手は集合体の百鬼食人餓鬼かしら?悪霊の親玉が三体も出現するなんてね♪」
桜花姫の背後に出現した悪霊は無数の食人餓鬼が一体化した百鬼食人餓鬼であり三体も出現したのである。百鬼食人餓鬼の出現に桜花姫は大喜びする。
(私は空腹だから好都合だわ♪)
すると百鬼食人餓鬼の体表である無数の食人餓鬼がギョロッと桜花姫を睥睨したのである。
「気味悪さだけは抜群ね♪」
百鬼食人餓鬼の体表である食人餓鬼の口先から猛毒の瘴気を放出する。
(瘴気かしら?)
すると地面の石道が融解されたのである。
(百鬼食人餓鬼の瘴気は非常に強力ね…皮膚に接触すると危険そうだわ…)
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。百鬼食人餓鬼の瘴気を無力化したのである。
「鬱陶しいからあんた達は飴玉に変化しなさい♪」
変化の妖術を発動…。三体の百鬼食人餓鬼を大好きな飴玉に変化させたのである。桜花姫は飴玉に変化した百鬼食人餓鬼をパクッと頬張る。
「美味だわ♪」
大喜びした桜花姫であるが直後である。鬼面山の天辺より強大なる霊力を感じる。
「今度は何かしら?」
(天辺から霊力を感じるわ…)
気になった桜花姫は一目散に鬼面山の天辺へと直行したのである。天辺に到達した桜花姫は周囲を警戒する。
「食人餓鬼を上回る霊力なのは確実ね…」
すると背後から強烈なる熱気を感じる。
「熱気!?」
彼女は恐る恐る背後を直視するなり…。
「天辺の霊力の正体はあんただったのね…」
桜花姫の背後に出現したのは空中を浮遊する牛車の車輪である。超高温の火炎に包まれた車輪の中心部には僧侶らしき頭部が確認出来る。
「あんたは車輪の悪霊…【天空輪入道】ね…」
(此奴は殺された僧侶の悪霊だったかしら?)
天空輪入道とは戦乱時代にて惨殺された僧侶達の悪霊の集合体である。すると天空輪入道は空中を浮遊した状態から桜花姫を睥睨する。
「命知らずの人間の小娘が…鬼面山の天辺に到達するとは無謀なり!」
天空輪入道は人間界の公用語で発言したのである。天空輪入道の人間の小娘発言に桜花姫は腹立たしくなる。
「誰が人間の小娘ですって!私は最上級妖女なのよ!」
桜花姫は強気で返答する。
「随分強気であるな…最上級妖女の小娘よ…」
「如何やら鬼面山の霊力の正体はあんただったみたいね♪」
「命知らずの妖女の小娘…俺に遭遇したのを後悔せよ!」
天空輪入道は口先に強烈なる火炎を凝縮させる。
(予想外ね…食人餓鬼は勿論…百鬼食人餓鬼の霊力よりも強力だわ…)
食人餓鬼の集合体である百鬼食人餓鬼をも上回る霊力に桜花姫は一瞬後退りする。
「戦慄したか!か弱き小娘の妖女よ!」
桜花姫は笑顔で反論したのである。
「誰が戦慄ですって♪」
天空輪入道の口先に凝縮された火炎は高熱の火球へと変化する。
「死滅せよ!」
天空輪入道は口先から高熱の火球を発射したのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。天空輪入道の火球を無力化したのである。
「危機一髪ね♪」
「妖力の防壁で無力化したか…」
「私も猛反撃しちゃうわよ♪桜餅に変化しちゃいなさい♪」
桜花姫は天空輪入道に変化の妖術を発動するものの…。天空輪入道は浮遊した状態であり桜餅に変化しない。
(えっ!?如何して!?)
「如何して妖術が発動しないの!?」
予想外の事態に桜花姫は驚愕する。
「残念だったな…妖女の小娘よ♪貴様の妖術は俺には通用しない!」
「念力の妖術だったら如何かしら…」
今度は天空輪入道に念力の妖術を発動するのだが…。天空輪入道は平然とした状態であり念力の妖術さえも発動されない。
「如何して私の妖術が無力化されるのよ…」
天空輪入道は動揺する桜花姫に…。
「本来俺の肉体は霊魂巨神木の肉片から誕生した器物であるからな♪貴様程度の妖術では俺は仕留められまい!貴様が俺に妖術を発動すれば貴様の妖力は必然的に俺の肉体に吸収されるだけだ!」
「妖力を吸収するなんて…小面蜘蛛みたいね…」
本来天空輪入道の肉体は霊魂巨神木の木材から誕生した器物の悪霊であり地方では付喪神とも呼称される。妖術で天空輪入道に攻撃すると本体の吸収能力によって妖力を吸収され…。妖術は無力化される。
「貴様程度の妖術では俺には勝利出来ない!観念せよ!」
豪語する天空輪入道であるが…。
「半年前の私だったら悪戦苦闘は確実だったかも知れないわね♪」
桜花姫は余裕の表情である。
「ん?」
(此奴…俺を相手に随分と余裕だな…)
すると桜花姫はニコッと微笑む。
「口寄せの妖術なら如何かしら♪」
「口寄せの妖術だと?」
桜花姫は神通力を利用するなり…。口寄せの妖術を発動する。桜花姫は俗界とは異世界より近代兵器である小型対空ミサイルを鬼面山天辺へと一瞬でワープさせる。
「なっ!?異次元空間から火箭弾を口寄せしたのか?」
口寄せの妖術は別名時空間妖術である。多種多様の生命体のみならず…。異世界に存在する物品すらも自由自在に口寄せ出来る。異世界から口寄せされた小型対空ミサイルの導火線に火炎の妖術で着火…。小型対空ミサイルは飛翔すると鬼面山の天辺に浮遊する天空輪入道へと直撃したのである。
「異世界の火箭弾で死滅するのね♪」
「ぎゃっ!」
小型対空ミサイルの直撃により天空輪入道の肉体はバラバラに粉砕される。地面には天空輪入道の肉片が彼方此方に散乱する。
「今度こそ桜餅に変化しなさい♪」
桜花姫は変化の妖術を駆使するなり…。バラバラに粉砕された天空輪入道の肉片を大好きな桜餅に変化させる。
「空腹だし桜餅を食べちゃおうかしら♪」
彼女はムシャムシャと桜餅を平らげる。無我夢中に桜餅を頬張る桜花姫であるが…。背後より強大なる複数の霊力を感じる。
「えっ?」
(今度は何かしら?)
背後を警戒するなり…。
「鬱陶しいわね…天空輪入道が三体も出現するなんて…」
彼女の背後には三体の天空輪入道が出現したのである。
「こんな妖女の小娘が俺の分身体を死滅させるとは…」
「如何やら貴様は普通の妖女とは別格であるな…」
「ひょっとして貴様…一握りの最上級妖女だな?」
桜花姫は笑顔で発言する。
「勿論私は最上級妖女なのよ♪其処等の妖女とは別格だからね♪あんた達も変化の妖術で桜餅に変化させるわよ♪」
三体の天空輪入道は即答したのである。
「こんな小娘を相手に…本領を発揮させられるとは…」
三体の天空輪入道の肉体がピカッと発光したかと思いきや…。
「えっ!?一体何事!?」
三体の天空輪入道が融合すると牛車の悪霊へと一体化したのである。
「ヨウジョノコムスメ…キサマヲヒキコロシテヤル…」
「厄介なのが出現したわね…」
(此奴は今迄に出現した悪霊とは桁違いの霊力だわ…)
桜花姫は牛車の悪霊を直視するなり恐る恐る後退りする。
「三体の天空輪入道が一体化して…牛車の悪霊…【朧戦車】が出現するなんて…」
(此奴…今迄出現した悪霊とは別格みたいだわ…)
朧戦車とは戦乱時代に斬首された武将達の怨念が融合化した集合体である。本体である牛車の前方部分には鬼首が確認出来る。霊力のみなら最上級の悪霊である。
(畜生…こんな悪霊は妖力を発動したとしても吸収されるでしょうね…如何しましょう…)
朧戦車の肉体も霊魂巨神木の木材から誕生した器物の悪霊であり妖力を駆使しても確実に吸収される。
「ヨウジョノコムスメヨ!シメツセヨ!」
口先より蛍光色の火球を発射する。直後…。桜花姫は妖力の防壁により火球を無力化するも火球の爆発力により吹っ飛ばされる。
「きゃっ!」
朧戦車の攻撃力は桁外れであり妖力の防壁でも本体を防ぎ切るのが精一杯だったのである。
(妖力の防壁を発動しなければ全身がバラバラだったわね…)
朧戦車の攻撃に吹っ飛ばされた桜花姫は地面に横たわる。
「コノママキサマヲヒキコロシテヤル…ヨウジョノコムスメ!カクゴセヨ!」
「ぐっ!」
(一か八か口寄せの妖術で…)
桜花姫は一か八かの苦肉の策により口寄せの妖術を発動する。朧戦車に轢死させられる寸前…。
「ナッ!?ニンゲンノツクッタタイホウダト!?」
桜花姫は口寄せの妖術によって超未来の世界で製造されたであろう最新式の巨大戦艦型固定砲台を口寄せしたのである。
「死滅するのはあんたよ!朧戦車!」
朧戦車の前面に出現した巨大戦艦型固定砲台が突進する朧戦車を砲撃…。
「ギャッ!」
巨大戦艦型固定砲台の砲撃によって朧戦車はバラバラに粉砕させる。
「朧戦車を仕留めたわね♪久方振りの強敵だったわ…」
すると鬼面山から霊力が感じられなくなる。
「無事に事件は解決かしら♪」
危機一髪朧戦車に辛勝した桜花姫は一安心する。
「消耗しちゃった妖力を回復させないと♪」
変化の妖術を発動するなりバラバラに粉砕された朧戦車の肉片を無数の桜餅に変化させる。桜花姫は無我夢中に桜餅を頬張ったのである。
(満腹♪満腹♪)
「悪霊事件も無事に解決出来たし…西国に戻りましょう♪」
桜餅を腹一杯平らげた桜花姫は鬼面山から下山する。
メンテ
桜花姫 ( No.27 )
日時: 2021/08/17 09:40
名前: 月影桜花姫

第三話

人魚

南国の鬼面山から下山してより二時間後…。桜花姫は無事に西国へと戻ったのである。
「天霊山の露天風呂にでも入浴しちゃおうかしら♪」
時間帯は夕方であり彼女は即刻天霊山天辺の露天風呂へと直行する。すると突然…。
「えっ!?何かしら!?」
突如として天霊山の天辺より摩訶不思議の妖力を感じる。
(妖力っぽいけれど…ひょっとして天霊山の天辺に妖女が?)
「一体誰かしら?」
気になった桜花姫は即座に天霊山の天辺へと急行したのである。すると露天風呂の中心部より一人の女性らしき人影を確認する。
(彼女は何者なのかしら?)
桜花姫は岩陰から恐る恐る入浴中の女性の様子を観察したのである。彼女の頭髪は赤髪のストレートロングであり頭髪には海星型のヘアアクセサリー…。両方の耳朶には金剛石のイヤリングが確認出来る。何よりも気になったのは彼女の巨乳のおっぱいであり桜花姫はジーッと凝視する。
(おっぱいは私に匹敵するかも…えっ!?)
彼女の下半身を直視した桜花姫は極度の驚愕により口走る。
「人魚!?」
露天風呂の水面より銀鱗の大魚の尾鰭を直視したのである。入浴中の女性の正体が人魚であると認識する。
(彼女が本物の人魚なのは確実ね…如何して人魚が地上界に?)
今現在では地上界で人魚の血族と断定出来るのは桜花姫のみであり彼女を除外すると人魚の血族は皆無である。
「今時私以外の人魚なんて希少価値だわ…」
すると直後…。人魚はピクッと背後の岩陰を警戒したのか恐る恐る背後の岩陰をジーッと凝視する。
(気付かれちゃったわ…即刻戻らないと…)
桜花姫は恐る恐る天霊山から下山したのである。無事に自宅へと帰宅するなりゴロゴロと寝転ぶ。
「結局先程の人魚は一体何者だったのかしら?」
彼女が何者なのか非常に気になり結局真夜中も寝付けなかったのである。翌朝…。桜花姫は娯楽目的にて東国の三蔵郎の寺院へと訪問する。
「お早う三蔵郎様♪」
「お早う御座います桜花姫様♪こんな早朝に訪問されるなんて…一体如何されましたか?」
「御免あそばせ♪霊魂巨神木の悪霊を仕留めてから毎日が退屈だったからね♪単なる暇潰しよ♪」
「暇潰しでしたか…折角なので緑茶と…菓子類を用意しなくては♪」
「御免あそばせ♪三蔵郎様♪」
桜花姫は大喜びするなり客室へと入室したのである。三蔵郎は緑茶と異国の洋菓子であるカステラケーキを用意する。
「何かしら♪異国の洋菓子?」
異国の菓子類は滅多に入手出来ない高額品の代物であり桜花姫は大喜びしたのである。
「カステラケーキと命名される異国の洋菓子ですよ♪昨晩北国の知人から頂戴しました♪太平神国では滅多に吟味出来ない貴重品ですからね♪是非とも桜花姫様にカステラケーキを提供しますよ…」
「感謝するわね♪三蔵郎様♪」
桜花姫は恐る恐る洋菓子のカステラケーキを味見する。
「美味だわ♪」
彼女はカステラケーキが大変美味しかったのか満足気の様子である。
「異国の洋菓子も絶品ね♪」
「桜花姫様が大喜びされたので安心しましたよ…」
すると桜花姫は昨夕の出来事を想起するなり…。
「三蔵郎様?」
「如何されましたか?桜花姫様?」
天霊山の露天風呂にて人魚と遭遇した出来事を三蔵郎に一部始終告白したのである。
「桜花姫様は天霊山の露天風呂で人魚の女性に遭遇されたのですか?」
「正直…島国の太平神国では私以外の人魚の血族なんて皆無でしょうし…私の遭遇した人魚は一体何者だったのかしら?」
三蔵郎は恐る恐る…。
「ひょっとすると桜花姫様が遭遇された人魚の女性とは…異国の人魚なのでは?」
「異国の人魚ですって?」
「異国でも人魚伝説は有名ですし…桜花姫様が昨夕に遭遇された人魚の女性とは太平神国に入国された異国の妖女なのでしょうね…」
「私が遭遇した人魚が異国の妖女である可能性も否定出来ないわね…」
「ですが正直私も遭遇したかったですよ♪異国の人魚に♪」
「勿論おっぱいは私に匹敵する巨乳ちゃんだったわよ♪」
笑顔で発言する桜花姫に三蔵郎は赤面…。動揺するも必死に誤魔化したのである。
「なっ!私は…別に…何も…」
(普段は生真面目の三蔵郎様でも変態男みたいね♪)
桜花姫は赤面する三蔵郎を揶揄する。
「ですが桜花姫様が遭遇された人魚の女性が何者なのかは非常に気になりますね…」
「今度彼女と遭遇したら会話したいわね…敵意は無さそうだったし…」
桜花姫はカステラケーキをペロリと頬張るなり…。西国へと戻ったのである。すると桜花姫の家屋敷の玄関口よりピンク色のロングドレスを着用した小柄の女性が佇立する。頭髪は赤髪のストレートロングであり頭髪には海星型のヘアアクセサリーが確認出来る。
(えっ?彼女は一体誰なのかしら?)
桜花姫は恐る恐る女性の背後へと近寄るなり…。ポンッと彼女の背中に接触する。
「きゃっ!」
驚愕した彼女は即座に背後を直視したのである。彼女はアクアカラーの碧眼であり異国の人間であると認識出来る。
「突然何するのよ!吃驚するじゃない!」
「突然何するのよって…私の台詞よ!私に用事かしら…」
桜花姫が発言すると彼女は謝罪したのである。
「御免なさい…」
「別に…えっ?」
赤髪の女性を昨夕に遭遇した人魚であると確信する。
「ひょっとしてあんたは…昨夕に天霊山の露天風呂で入浴中だった…異国の人魚かしら?」
赤髪の女性はハッとするなり…。
「あんたは入浴中の私を覗き見した…小娘!?」
彼女の小娘発言にムッとしたのか即答する。
「なっ!誰が小娘ですって!?私は誰よりも温厚篤実の女神様なのよ!」
「自分で女神様って自称しちゃうなんて…」
赤髪の女性は女神様を自称する桜花姫に苦笑いしたのである。
「あんたの名前は?」
問い掛けられた赤髪の女性は恐る恐る名前を名乗る。
「私の名前は【アクアヴィーナス】…深海底の人魚王国『アクアユートピア』の人魚の末裔よ…」
「アクアユートピアって?」
「アクアユートピアは私の祖国よ…」
アクアユートピアとは深海底の理想郷であり大勢の人魚達が深海底のアクアユートピアで安住する。地上界では別名人魚王国とも呼称される。
「アクアヴィーナスは異国の人魚だったのね…」
「無論ね…」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「極東のイーストユートピアでは天下無敵の魔法使いが君臨するって…噂話が世界各地で出回ったのだけど…あんたは月影桜花姫って名前の魔法使いの居場所は知らないかしら?」
「えっ?」
(イーストユートピアって何かしら?)
世界各地では太平神国は極東の理想郷と認識され…。極東のイーストユートピアと呼称される。アクアヴィーナスの質問に桜花姫は即答したのである。
「私が月影桜花姫よ!魔法使いって何者よ!?私は妖女だからね…」
「妖女?極東のイーストユートピアでは魔法使いは妖女って呼称されるのね…意外だわ…」
世界各国では妖女は魔法使いか魔女と呼称されるのが通説である。
「勿論妖女は妖女でも…私は最上級妖女なのよ!留意しなさいね!」
「あんたが噂話の月影桜花姫だったのね…」
「勿論よ!私が最上級妖女の月影桜花姫様だからね♪」
アクアヴィーナスはボソッと本音を口走る。
「第一印象…あんたって世間知らずの小娘っぽいわね…正直最上級の魔法使いとは程遠い雰囲気だわ…」
「なっ!?」
アクアヴィーナスの本音に桜花姫はピリピリするなり…。
(此奴…)
「あんた…地上界の女神様である私に世間知らずの小娘ですって!」
「ひっ!」
アクアヴィーナスは怒号する桜花姫に畏怖したのである。桜花姫はアクアヴィーナスに変化の妖術を発動する。
「命知らずのあんたは溝鼠に変化しなさい…」
すると直後…。アクアヴィーナスは桜花姫の変化の妖術によって小汚い溝鼠に変化したのである。
「きゃっ!」
アクアヴィーナスは恐る恐る自分自身の肉体を凝視するなり…。
(えっ!?如何して私は溝鼠に!?)
アクアヴィーナスは桜花姫の妖術に戦慄する。
「地上界の女神様である私を世間知らずの小娘なんて…失言した天罰だからね♪」
桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。アクアヴィーナスを溝鼠の状態から元通りの姿形に戻したのである。
「えっ?私は元通りに戻れたのね…」
アクアヴィーナスはビクビクした様子であるがホッとする。
「反省しなさいね♪金輪際女神様の私に失言すれば…今度こそ桜餅に変化させてあんたを食い殺しちゃうからね♪」
桜花姫は笑顔で忠告したのである。
「ひっ!」
笑顔で食い殺すと忠告する桜花姫に…。アクアヴィーナスは畏怖したのかビクビクする。
「御免なさい…月影桜花姫…」
「気にしないで♪金輪際失言しないのよ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に謝罪したのである。
「如何してあんたは島国の太平神国なんかに?」
問い掛けられたアクアヴィーナスは恐る恐る…。
「私達の祖国であるアクアユートピアが極悪非道の魔女と手下達によって占拠されちゃったのよ…」
人魚達の理想郷アクアユートピアは極悪非道の深海底魔女と部下達によって侵略されたのである。魔女と部下達の襲撃からアクアユートピアの人魚達は必死に抵抗するのだが…。魔女の魔力は桁違いに強力であり魔女の猛反撃によって抵抗した大勢の人魚達が惨殺される。
「平和だったアクアユートピアが深海底の魔女に侵略されて…私の母様…【ウェンディーネ】母様が魔女に連行されちゃったの…」
「ウェンディーネってあんたの母様なの?」
「私の母様よ…魔女に連行されたの…」
ウェンディーネとはアクアヴィーナスの母親である。今現在深海底のアクアユートピアは魔女と部下達の魔窟であり母親のウェンディーネは魔女に連行される。幸運にも愛娘であるアクアヴィーナスは危機一髪アクアユートピアから脱出出来たものの…。母親のウェンディーネを見殺した事実に自分自身の無力さと極度の罪悪感が芽生え始める。
「結局私は何も出来ず…ウェンディーネ母様を見殺しに…」
アクアヴィーナスの涙腺から涙が零れ落ちる。
「私に依頼したかったのね♪」
「噂話ではあんたの母親も人魚の血族みたいだし…魔法使いのあんただったら魔女にも対抗出来るかなって…」
「あんたの祖国を牛耳る魔女を征伐するのね♪面白そうだわ♪」
魔女の征伐に桜花姫は非常にワクワクしたのである。
「最上級妖女の私が魔女を徹底的に蹴散らせるから安心しなさい♪」
桜花姫は笑顔で魔女を征伐すると宣言する。
(桜花姫の魔法は本物だったわ…最強の魔法使いである彼女なら…アクアユートピアを侵略した魔女が相手でも撃退出来るかも知れないわね…)
アクアヴィーナスは桜花姫の妖力の絶大さを実感したのである。
「即刻出掛けちゃおうかしら♪」
「下準備しなくても大丈夫なの?」
「大丈夫よ♪早速あんたの祖国に道案内してよ♪」
アクアヴィーナスは桜花姫に道案内するなり西国の海岸へと直行する。
「案外近辺なのね♪」
「人魚に変身するわね…」
アクアヴィーナスは変身魔法を発動したのである。アクアヴィーナスの全身が虹色に発光したかと思いきや…。彼女の下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。
「美人さんね♪アクアヴィーナス♪」
桜花姫の美人さん発言にアクアヴィーナスは赤面する。
「あんたも…桜花姫も人魚に変身出来るのよね?」
「勿論よ♪」
桜花姫は笑顔で即答したのである。変化の妖術を発動…。下半身が銀鱗の大魚へと変化する。するとアクアヴィーナスは赤面した表情で恐る恐る…。
「あんたも…人魚の桜花姫も…海水の女神様だよ…」
「私が海水の女神様なんて♪アクアヴィーナスは大袈裟ね♪」
(私が海水の女神様ですって♪)
ボソッと発言するアクアヴィーナスに桜花姫は内心大喜びしたのである。
「人魚に変化しちゃったし!私達は早速アクアユートピアに直行しましょう!」
「承知したわ…即刻アクアユートピアに道案内するわよ…」
彼女達は海中へと潜行するなり深海底のアクアユートピアへと驀進する。
メンテ
桜花姫 ( No.28 )
日時: 2021/08/17 09:41
名前: 月影桜花姫

第四話

アクアユートピア

人魚に変身した桜花姫とアクアヴィーナスが深海底地帯のアクアユートピアへと移動中…。深海底地帯の失楽園『ネクロデストピア』では魔女が魔法の水晶玉にて直進中の彼女達の様子を観察する。
「えっ?アクアユートピアの赤毛の人魚と…同行者の小娘は一体何者なのかしら?」
魔法の水晶玉に投影された桜花姫を直視するなり彼女が何者なのか非常に気になる。
「異国の人魚みたいだわ…彼女は一体何者なの?」
深海底の魔女は死霊魔術を発動するなり…。殺害した人魚達を女性型アンデッドとして復活させる。
「下級アンデッド…【ネクロマーメイド】…彼女達を食い殺しなさい…」
ネクロマーメイドとは死霊魔術によって復活した人魚の女性型アンデッドであり嗜好品は生命体の血肉である。基本的には魚介類やら鯨類の血肉を捕食するものの…。場合によっては陸生動物やら人間の血肉をも捕食する。同時刻…。必死に力泳する桜花姫であるが移動中に極度の疲労を感じる。
「桜花姫?大丈夫なの?先程からあんたの顔色が…」
アクアヴィーナスは疲労する桜花姫を心配する。
「私なら大丈夫よ…」
「本当に大丈夫なの?」
「アクアヴィーナスは極度の心配性なのね…」
(正直息苦しいわ…)
心配するアクアヴィーナスに桜花姫は苦笑いの表情で返答したのである。
(深海底って予想外に体力と妖力を消耗するわね…)
深海底の自然環境は予想外に苛烈であり苦難に感じる。すると突如として無数の殺気を感じる。
(殺気だわ…一体何かしら?)
周辺は暗闇の深海底であるものの…。無数の殺気が彼女達に急接近するのを感じる。警戒する桜花姫にアクアヴィーナスは不安がる。
「桜花姫…如何しちゃったの!?」
「殺気を感じるの…」
「殺気ですって!?」
すると遠方の海中より全身血塗れの人魚達が出現…。彼女達に急接近する。
「えっ?人魚かしら?」
「えっ…」
「えっ?アクアヴィーナス?」
血塗れの人魚を直視したアクアヴィーナスはビクビクした様子で…。
「奴等は…ネクロマーメイドよ!」
「ネクロマーメイドって?」
「死亡した人魚の下級アンデッドよ…彼女達は色んな生命体の血肉を捕食するわ…」
「悪霊の食人餓鬼みたいな奴等ね♪」
桜花姫は即座に瞳術の天道眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。アクアヴィーナスは桜花姫の瞳孔を直視すると驚愕したのである。
「桜花姫の瞳孔が…」
(彼女の瞳孔はレッドアイだったのに…半透明のアクアカラーに発光するなんて…)
桜花姫は殺到する無数のネクロマーメイドを睥睨するなり…。
「深海底の悪霊…死滅しなさい♪」
直後である。突如としてネクロマーメイドが身動きしなくなったかと思いきや…。彼女達の全身が肥大化するとパンッと一瞬で破裂したのである。
「きゃっ!」
桜花姫の念力の妖術によって無数のネクロマーメイドは仕留められたものの…。予想外の超常現象にアクアヴィーナスはビクビクした様子で戦慄する。
「戦慄しなくても大丈夫よ♪アクアヴィーナス♪」
アクアヴィーナスは極度の戦慄によりビクビクと身震いしたのである。周辺はネクロマーメイドの無数の血肉が散乱する。
「念力の妖術で妖力を消耗しちゃったからね…」
今度は変化の妖術を発動…。念力の妖術により仕留めたネクロマーメイドの無数の血肉を大好きな桜餅に変化させる。
「人魚に変化した状態で妖術を発動しちゃうと全身の疲労が蓄積されちゃうのよね♪」
桜花姫はパクパクと桜餅を頬張り始める。
「アクアヴィーナス♪あんたも味見しないかしら♪桜餅は絶品よ♪」
「私は…遠慮するわ…」
アクアヴィーナスは悪食の桜花姫にドン引きしたのか気味悪くなる。
(異国の魔法使いはこんなにも荒唐無稽の魔法を使用するのね…)
数分後…。桜花姫は桜餅を完食する。
「アクアユートピアに直行して…極悪非道の魔女を仕留めるわよ♪」
同時刻…。ネクロデストピアでは魔女が水晶玉で桜花姫の様子を観察するのだが彼女の荒唐無稽の妖術に驚愕したのである。
(げっ!魔法で殺害したネクロマーメイドの肉片を異国のスイーツに変化させて頬張るなんて…)
「異国の魔法使いは予想外に厄介だし…何よりも発想が下劣だわ…」
殺害したネクロマーメイドの肉片を大好きな桜餅に変化…。無我夢中に桜餅を頬張り続ける桜花姫を直視するなり気味悪くなる。
(異国の魔法使いってこんなにも悪食で下劣なのね…)
魔女は一息するなり…。
「異国の魔法使いを相手するなら彼が適任かしら?」
魔女は召喚魔法を発動する。直後…。規格外に巨体の超大型クリーチャーを召喚したのである。
「彼なら異国の魔法使いが相手でも捕食出来るでしょうね…」
魔女が召喚魔法で召喚した異類の超大型クリーチャーは規格外に巨体であり本拠地の外部にて召喚される。姿形はワーム型の巨大生命体であり全身の皮膚には無数の人面が確認出来る。魔女は本拠地の窓際から巨体のクリーチャーに命令する。
「ワーム型アンデッド…【ネクロシーワーム】よ…あんたは即刻異国の魔法使いと小判鮫の人魚を捕食しなさい♪」
ネクロシーワームとは規格外に巨体のワーム型アンデッドであり溺死した人間達は勿論…。多種多様の魚介類の怨念が融合化した集合体である。性格は獰猛で強欲であり鯨類やら人魚は勿論…。場合によっては海面上の船舶を襲撃して人間の船員をも捕食する。ネクロシーワームは魔女の命令に服従…。即座に移動を開始したのである。同時刻…。桜花姫とアクアヴィーナスは必死にアクアユートピアへと直行する。
「一息頑張ればアクアユートピアに到達するわよ…」
アクアヴィーナスは桜花姫を直視したのである。
「えっ…桜花姫?」
桜花姫は非常に険悪化した表情であり彼女の息苦しそうな表情を直視するとアクアヴィーナスは極度に不安がる。
(大丈夫なのかしら?桜花姫…)
アクアヴィーナスは桜花姫に恐る恐る大丈夫なのか如何なのか問い掛ける。
「桜花姫?一体如何しちゃったの?大丈夫?」
すると桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。
「アクアヴィーナス…規格外の霊力が接近中よ…」
「えっ?規格外の…霊力ですって?」
(今度は何が出現するのよ!?)
アクアヴィーナスは全身がブルブルした様子で桜花姫に密着する。すると遠方の暗闇の海中より正体不明の移動物体が猛スピードで彼女達に急接近したのである。
「一体何かしら?」
規格外に巨体のワーム型の巨大クリーチャーが出現する。
「ひっ!」
アクアヴィーナスはワーム型の巨大クリーチャーを直視すると極度に戦慄したのである。
「こんな怪物に畏怖するなんてアクアヴィーナスは大袈裟ね…」
桜花姫は極度に戦慄するアクアヴィーナスに苦笑いする。
(小心者のアクアヴィーナスが太平神国の悪霊と遭遇しちゃえば確実に気絶するでしょうね♪)
アクアヴィーナスが太平神国の悪霊と遭遇する場面を想像すると桜花姫は内心大笑いしたのである。アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫は…アンデッドに遭遇しても平気なの?」
桜花姫は笑顔で即答する。
「別に♪こんな怪物と遭遇するのは太平神国では日常茶飯事だからね♪」
「日常茶飯事って…」
(イーストユートピアって名前とは裏腹に相当物騒なのかしら?)
桜花姫の返答にアクアヴィーナスは絶句したのである。
「深海底にはこんな怪物が生息するのね…巨大蚯蚓かしら?」
「此奴はワーム型の巨大アンデッド…ネクロシーワームよ!大型の鯨類だって簡単に食い殺しちゃうわ!」
「アンデッドって悪霊ね♪鯨類を捕食するなんて大物だわ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫…即刻逃げましょう!」
「逃げましょうって…」
「ネクロシーワームはネクロマーメイドよりも厄介なのよ!あんたでも食い殺されちゃうわ!」
「食い殺されちゃうって…ネクロシーワームが私に食い殺されちゃうのかしら♪」
桜花姫は笑顔でネクロシーワームを凝視する。
「私の食欲は悪霊以上だからね♪相手が巨体のアンデッドでも私が食い殺しちゃうわよ♪」
「桜花姫…」
桜花姫は余裕の様子だったのである。すると直後…。
「きゃっ!」
ネクロシーワームは猛スピードで桜花姫に急接近すると彼女の肉体諸共パクッと桜花姫を捕食したのである。
「えっ!?桜花姫!?」
桜花姫は一瞬でネクロシーワームに捕食され…。アクアヴィーナスは一瞬の出来事に混乱する。
(桜花姫が捕食されちゃった…)
桜花姫はネクロシーワームに捕食されアクアヴィーナスは絶望したのである。逃げられるのであれば一目散に逃げたい彼女であるが…。極度の恐怖心からか全身が膠着化したのである。ネクロシーワームは猛スピードでアクアヴィーナスに接近するなり…。
「きゃっ!」
アクアヴィーナスの全身を拘束したのである。ネクロシーワームは口先を開口する。
「ひっ!」
(私も…捕食されちゃうわ…)
アクアヴィーナスは極度の恐怖心により涙腺から涙が零れ落ちる。ネクロシーワームは口先を開口した直後…。突如として身動きしなくなる。
「えっ!?」
(一体何が!?如何してネクロシーワームは身動きしなくなったのかしら…)
突如として身動きしなくなったネクロシーワームにアクアヴィーナスは何が発生したのか理解出来ない。すると数秒間が経過したのである。ネクロシーワームの全身がポンッと白煙に覆い包まれ消滅したかと思いきや…。桜餅と妖力の防壁を発動した桜花姫が出現したのである。
(えっ!?桜花姫!?)
桜花姫は妖力の防壁を解除するなり笑顔で桜餅をパクッと頬張る。
「悪霊でも桜餅に変化させちゃえば非常に美味だわ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に近寄るなり…。
「桜花姫…あんたはネクロシーワームに食べられちゃったのに無事だったのね…」
アクアヴィーナスは内心ホッとしたのか涙腺から涙が零れ落ちる。
「一瞬あんたがアンデッドに食い殺されちゃったのかと…」
「心配させちゃったわね♪御免あそばせ♪」
桜花姫はアクアヴィーナスに謝罪する。
「最強クラスのアンデッドを簡単に仕留めちゃうなんて…桜花姫の魔法は想像以上に強力だわ…」
「勿論私は最上級の妖女だからね♪悪霊が私を食い殺すなんて無謀なのよ♪」
するとアクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何して桜花姫はネクロシーワームに捕食されたのに無事だったの?」
「私はネクロシーワームに捕食される直前に妖力の防壁を発動したの♪ネクロシーワームの胃袋で変化の妖術を発動したのよ♪」
「ネクロシーワームの体内で魔法を使用したのね…何よりもあんたが無事でホッとしたわ…」
アクアヴィーナスは一安心したのである。
同時刻…。失楽園のネクロデストピアでは魔女が魔法の水晶玉に投影された光景を直視する。
「えっ!?」
ネクロシーワームが桜花姫に仕留められた光景に魔女は愕然としたのである。
「最上級のアンデッドであるネクロシーワームが見ず知らずの異国の魔法使いに仕留められるなんて…」
(異国の魔法使い…彼女は想像以上に厄介だわ…)
ネクロシーワームが仕留められたのは正直予想外であり魔女は桜花姫の妖力の絶大さに畏怖し始める。
(異国の魔法使いに私の居場所を察知されると非常に不都合だわ…即刻彼奴の封印を…)
「彼女を解放させないと異国の魔法使いには対抗出来ないでしょうね…」
不本意であるものの…。
「一か八か牢獄に…」
魔女は恐る恐る地下壕の牢獄へと移動したのである。同時刻…。桜花姫とアクアヴィーナスは無事に深海底のアクアユートピアへと到達する。
「えっ!?深海底に村里だわ…」
「私の祖国…アクアユートピアなのよ…」
アクアユートピアは貝殻みたいなデザインの住宅地が無数に隣接…。全体的に独特の景観だったのである。
「あんたの祖国って異世界みたいね♪」
深海底地帯のアクアユートピアは異世界でありアクアユートピアの独特の雰囲気に桜花姫は非常にワクワクする。
「独特の雰囲気なのに殺風景ね…人気が感じられないわ…」
「アクアユートピアは魔女に侵略されちゃったからね…何よりもウェンディーネ母様が無事なのか心配だわ…」
「私は即刻あんたの母様を救出するわよ♪」
桜花姫は笑顔であるものの…。妖力の消耗により深呼吸が目立ち始める。
「大丈夫なの?桜花姫?先程から深呼吸が…」
「アクアヴィーナスは心配性ね…心配しなくても私なら大丈夫よ…」
(深海底の水圧と人魚に変身した影響かしら?妖力を回復させたのに数分間で消耗しちゃうなんて…)
水圧の影響からか深海底での長時間の人魚の変身は妖力と体力の消耗が桁違いである。人魚に変身し続けた場合深海底の水圧による溺死…。妖力の消耗による衰弱死の可能性すら否定出来ない。
(長時間の人魚の変化は衰弱死に直結するわね…変化を解除しちゃったら水圧で溺死するかも知れないし…今回の事件は短時間で解決させないと…)
当初は娯楽感覚であったものの…。妖力の消耗が予想外であり短時間での事件解決は困難であると実感する。
「アクアヴィーナス…アクアユートピアに潜入しましょう…」
彼女達は恐る恐る物静かなアクアユートピアに潜入したのである。
「アクアユートピアって普段からこんなにも物静かなの?」
「人魚は少数民族だし場所が暗闇の深海底だからね…魔女に侵略されてからは無人地帯みたいだわ…」
周囲を警戒するのだが…。人魚の住民は誰一人として確認出来ない。
「えっ?」
すると桜花姫は殺気を感じるなり民家の路地裏へと移動する。
「きゃっ!」
桜花姫の悲鳴に戦慄したのかアクアヴィーナスは恐る恐る居住地の路地裏へと移動するなり…。
「一体何事よ!?ひゃっ!」
路地裏には殺害された抹香鯨の水死体が転がった状態であり体表には無数の小魚によって食い破られた形跡が確認出来る。
「如何やら抹香鯨の水死体みたいね…ネクロマーメイドに食い殺されちゃったのかしら?」
「私にも何が何やらサッパリだわ…ひっ!」
突如として抹香鯨の体内がモゴモゴッと蠢動したかと思いきや…。
「今度は何かしら!?」
抹香鯨の体内を食い破るなり血塗れの肉食怪魚が無数に出現したのである。
「きゃっ!此奴は【ダークフィッシュ】だわ!」
「ダークフィッシュ!?」
ダークフィッシュとは深海魚の魚類型アンデッドでありネクロマーメイドによって食い殺された魚介類がアンデッドとして復活…。多種多様の新鮮なる魚介類やら大型海洋生物の血肉を捕食する。性格は非常に獰猛で強欲であり人魚は勿論…。場合によっては海面上を漂流する人間やら陸生動物の血肉さえも捕食する。
「相手が小魚の悪霊でも♪」
(桜餅に変化しなさい♪)
殺到する無数のダークフィッシュを桜餅に変化させる。
「私を捕食するなんて無謀なのよ♪」
桜餅に変化した無数のダークフィッシュを頬張る。
「正直あんたの魔法って荒唐無稽だけど便利ね…捕食者を食い殺しちゃうなんて…」
アクアヴィーナスは苦笑いしたのである。
「桜花姫…折角だし私の自宅で休憩しない?」
「勿論よ♪休憩しましょう♪」
桜花姫は大喜びするなりアクアヴィーナスの自宅へと同行する。
「私の自宅よ…」
「あんたの家屋敷なのね…地上界と比較すると随分独特の雰囲気ね♪」
アクアヴィーナスの家屋敷も貝殻のデザインであり非常に独特の雰囲気である。桜花姫はワクワクした様子でアクアヴィーナスの自宅に入室するのだが…。屋敷内は魔力によって防水された状態であり普通に呼吸出来る。
「えっ?普通に呼吸出来るわ…」
「防水用の魔法の効力で室内は呼吸出来るのよ…地上界みたいに普通に生活出来るわ…」
アクアユートピアの各家屋敷には防水用のシールド魔法によって通常の人間の状態でも生活出来る。
「元通りに戻れるのね♪」
桜花姫は即刻変化の妖術を解除…。元通りの人間の姿形に戻ったのである。
「長時間の人魚の状態は疲れ果てるわね♪こんなにも疲れ果てたのは久方振りよ♪」
アクアヴィーナスも人間の姿形に変化する。
「私達人魚は真逆なのよね…大昔から深海底のアクアユートピアで生活し続けた影響かしら?」
アクアユートピアの人魚達は長期間の深海底での生活により魔力の消耗は軽微であり人魚に変身した状態でも平気である。すると桜花姫はソファーベッドの壁際に配置された写真の女性に注目する。
「えっ?本物みたいな似顔絵だわ…一体誰の似顔絵なのかしら?」
「写真よ…」
「写真って…何かしら?」
太平神国では長年の鎖国によって銃火器を除外する異国の科学技術は勿論…。異国の文化財は皆無であり桜花姫は写真に魅了されたのである。
「アクアユートピアではこんな代物が出来るのね♪」
「別に…今時写真なんて地上界でも普通に一般的でしょう…」
「写真の女性は誰なのよ?」
写真の女性が誰なのか気になる。
「彼女が私の母様…ウェンディーネ母様よ…」
「彼女があんたの母様なのね♪随分美人の女性だわ♪」
ウェンディーネは金髪碧眼の美少女である。
「正直ウェンディーネ母様が無事なのか不安だわ…」
するとアクアヴィーナスはフッと想起するなり…。書棚の宝石箱から水色の水晶玉を入手するなり恐る恐る桜花姫に手渡したのである。
「桜花姫…」
「えっ?何かしら…水晶玉?」
水晶玉に接触した直後…。消耗された妖力が一瞬で回復する。
「妖力が戻ったわ…一体如何して!?」
「水晶玉は魔法石の『アクアクリスタル』よ…」
「アクアクリスタルって?」
アクアクリスタルとは深海底地帯で採掘された魔法石であり人魚がアクアクリスタルに接触すると消耗した魔力が蓄積される。深海底では魔力の消耗が地上界とは桁違いでありアクアユートピアの人魚達が深海底の自然環境で適応出来るのはアクアクリスタルの効力である。
「私達人魚にとってアクアクリスタルは必要不可欠だからね…」
「私にとっての桜餅ね♪」
するとアクアヴィーナスは紅茶と洋菓子のショートケーキを用意する。
「何かしら?」
「紅茶とショートケーキよ…折角だし味見したら…」
「ショートケーキ?洋菓子かしら♪」
桜花姫はペロリとショートケーキを平らげる。
「洋菓子も美味だわ♪」
彼女はショートケーキの美味しさに大喜びする。
「ショートケーキを一瞬で平らげちゃうなんて…」
ショートケーキをペロリと平らげた桜花姫を直視するなりアクアヴィーナスは苦笑いしたのである。
「休憩は終了よ!」
「大丈夫なの?」
アクアヴィーナスは桜花姫を心配するが…。桜花姫は笑顔で即答する。
「私なら大丈夫よ♪アクアヴィーナスは心配性ね…兎にも角にも私達は即刻あんたの母様を救出しないと!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。再度人魚に変身する。
「アクアヴィーナス…あんたも人魚に変身しちゃいなさい♪即刻あんたの母様を救出しに出掛けるわよ♪」
「承知したわ…」
アクアヴィーナスも変身魔法で人魚に変身したのである。人魚に変身した彼女達は恐る恐る外出する。すると道端には無数のダークフィッシュとネクロマーメイドが徘徊したのである。
「ひっ!ダークフィッシュとネクロマーメイドだわ…如何してアンデッドがこんなにも徘徊中なのよ…」
「深海底の魔女の仕業かしらね…」
魔女は召喚魔法により無数のダークフィッシュとネクロマーメイドをアクアユートピアの中心街にて召喚…。徘徊させる。無数のアンデッドがアクアユートピア全域に徘徊中であり最早アクアユートピアはアンデッドの巣窟である。徘徊する無数のアンデッドにアクアヴィーナスは極度に戦慄するが…。桜花姫は余裕の表情でありアンデッドの出現に大喜びする。
「悪霊がこんなにも徘徊中なんて♪私にとっては桜餅の調味料ね♪」
すると玄関口近辺には複数のネクロマーメイドと数匹のダークフィッシュが徘徊中であり玄関口の彼女達をギロッと睥睨するなり…。猛スピードで殺到したのである。
「きゃっ!」
「鬱陶しい奴等だわ♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。殺到するネクロマーメイドとダークフィッシュを桜餅に変化させる。
「桜花姫の魔法は荒唐無稽ね…」
桜花姫はムシャムシャと桜餅を頬張る。数分間で桜餅を食べ終わる。
「相手するのも面倒臭いし…口寄せの妖術で片付けましょうかね♪」
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。先程仕留めた無数のダークフィッシュとネクロマーメイドを口寄せの妖術で復活させる。
「きゃっ!アンデッドだわ!」
アクアヴィーナスは突如として出現したネクロマーメイドとダークフィッシュを直視するなり…。ビクビクしたのである。
「アクアヴィーナスは大袈裟ね…大丈夫よ♪彼等は私が口寄せの妖術で復活させた手駒だから♪」
「如何して桜花姫はアンデッドを召喚出来るの?」
アクアヴィーナスの質問に桜花姫は即答する。
「口寄せの妖術は死滅した生命体は勿論…地獄の悪霊だって元通りに復活させられるからね♪」
「死滅した生命体を復活させるなんて…桜花姫は本物の女神様だわ…」
常識の通用しない荒唐無稽の妖術にアクアヴィーナスは理解出来なくなる。
「私が本物の女神様なんて…アクアヴィーナスは大袈裟ね♪」
桜花姫は内心大喜びしたのである。
「あんた達♪アクアユートピアで徘徊中の悪霊を一掃しなさい♪」
無数のアンデッドは無言で承諾するなり…。周辺で徘徊中のネクロマーメイドとダークフィッシュに接触すると自爆したのである。アクアユートピアの彼方此方で爆発音が響き渡る。
「相手するのも面倒臭いからね♪」
「復活させたアンデッドを自爆に利用するなんて…」
アクアヴィーナスの発言に桜花姫は笑顔で即答する。
「所詮悪霊は自爆要員だからね♪」
復活させたアンデッドの自爆攻撃によってアクアユートピアに徘徊中のダークフィッシュとネクロマーメイドは一掃される。
「徘徊中の悪霊は一掃させたし…」
桜花姫は先程仕留めたネクロマーメイドの一体を口寄せの妖術により再復活させたのである。
「如何してネクロマーメイドを復活させたの?」
「情報収集よ♪」
「情報収集ですって?」
桜花姫はネクロマーメイドに質問する。
「あんたの親玉の居場所を告白しなさい…」
「告白ってネクロマーメイドはアンデッドなのよ…喋れないでしょう…」
喋れないと断言するアクアヴィーナスであるが…。ネクロマーメイドは恐る恐る人間の口言葉で発言し始めたのである。
「ワタシタチノ…ハハギミサマ…【スキュラン】サマノ…イバショハ…シツラクエン…ネクロデストピアノ…マオウジョウ…」
「えっ!?ネクロマーメイドって…普通に人語で喋れるのね…」
ネクロマーメイドは片言であるが人間界の公用語で喋れる。人語で発言するネクロマーメイドにアクアヴィーナスは驚愕する。
「スキュランって魔女があんた達悪霊の黒幕なのね♪即刻ネクロデストピアの魔女の本拠地に直行しないと♪」
黒幕の居場所を把握した桜花姫は即刻ネクロデストピアへの直行を決意したのである。
「情報収集感謝するわね♪」
桜花姫はネクロマーメイドに感謝するのだが…。
「折角だけど♪あんたは桜餅に変化しなさい♪」
口寄せの妖術によって復活させたネクロマーメイドに変化の妖術を発動したのである。ネクロマーメイドは白煙に覆い包まれポンッと桜餅に変化…。桜花姫は即座に桜餅をパクッと平らげる。
「復活させたのに結局食い殺しちゃうのね…」
「私は空腹だから♪」
桜花姫は笑顔で返答する。
「空腹だからって…」
桜花姫の返答にアクアヴィーナスは苦笑いしたのである。
「妖力も回復したわ♪アクアヴィーナス!即刻ネクロデストピアの魔王城に直行して魔女を仕留めるわよ♪」
意気込む桜花姫であるが…。ネクロデストピアに聳え立つ魔王城の場所が不明でありアクアヴィーナスに道案内を依頼する。
「道案内してよ♪アクアヴィーナス♪」
「道案内するけれど…ネクロデストピアはアンデッドの魔窟なのよね…」
ネクロデストピアはアンデッドの魔窟であり悪魔の海域として認識される危険区域である。ネクロデストピアに潜入した人魚で生還した人魚は皆無でありアクアユートピアでは禁止区域に指定される。
「ネクロデストピアに潜入した人魚で生還した人魚は皆無なのよね…私…死にたくないわ…」
ウジウジするアクアヴィーナスに桜花姫は苛立ったのか怒号する。
「確りしなさい!アクアヴィーナス!」
「えっ…桜花姫…」
「あんたは自分の母様を無事に救出したいのよね!?今更当事者のあんたが畏怖しちゃって如何するのよ!?」
桜花姫の怒号にアクアヴィーナスはハッとした表情で…。
「御免ね…桜花姫…私…恐怖心で畏怖しちゃったわ…ウェンディーネ母様を救出しないと…」
極度の恐怖心によりビクビクしたアクアヴィーナスであるが桜花姫の大目玉によって平常心に戻ったのである。
「道案内するわね…桜花姫…」
「勿論よ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫に道案内する。
メンテ
桜花姫 ( No.29 )
日時: 2021/08/17 09:42
名前: 月影桜花姫

第五話

ネクロデストピア

同時刻…。失楽園ネクロデストピアの魔王城にて魔女のスキュランは恐る恐る地下壕の牢獄へと移動する。
「人魚と異国の魔法使いが魔王城に到達するのも時間の問題だからね…」
鉄格子の奥側には上半身が巨体の人間の女性…。下半身が巨大海蛇の巨大女性型アンデッドが収容される。巨体の女性型アンデッドがスキュランをギラギラと睥睨するなり…。
「あんたは真蛸の小母さん…如何してあんたが地下壕の牢獄なんかに?今更食いしん坊の私に何を要求するのよ?」
スキュランは上半身が人間の女性であり下半身は真蛸である。女性型アンデッドの真蛸発言にピリピリする。
「真蛸って…」
(失礼しちゃうわね…鬱陶しいビッチだわ…)
彼女の発言に苛立ったスキュランであるが…。
「最上級アンデッド…【アクアラーミアン】…あんたを解放するわよ…」
「えっ!?解放ですって!?」
アクアラーミアンとはスキュランが自身の血肉から魔法で誕生させた最上級の巨大女性型アンデッドであり魔力のみならスキュランをも上回る。素肌は水色で頭髪は青色…。赤色の口紅とリング状の純金のイヤリングが特徴的である。アクアラーミアンは非常に暴れん坊で食いしん坊のアンデッドであり魔女のスキュランでさえも彼女を抑制させるのに体内の魔力を消耗…。彼女を抑制させるだけでも精一杯であり今現在では地下壕の牢獄にて封印されたのである。封印により身動き出来ないアクアラーミアンであるが…。
「あんたは本当に私を解放するの♪」
スキュランの牢獄からの解放の一言に反応する。
「勿論よ…アクアラーミアンを解放するわよ…」
スキュランはビクビクした様子で返答したのである。
「今更私を解放するなんて♪私はあんたを食い殺すかも知れないのに♪ひょっとしてあんたは食いしん坊の私に食い殺されたいのかしら♪」
アクアラーミアンはスキュランを揶揄する。
「沈黙しなさい…あんたの大好きな人魚の血肉がネクロデストピアに接近中なのよ…」
「えっ!?人魚がネクロデストピアに接近中ですって♪」
アクアラーミアンは大喜びする。
「即刻解放してよ♪空腹だから人魚を頬張りたいわ♪」
彼女は両目をキラキラさせた表情でスキュランに問い掛ける。
「今回の人魚は?」
「今回の餌食は…赤毛の人魚と人魚にも変身出来る異国の魔法使いよ…」
「えっ?」
アクアラーミアンは異国の魔法使いに反応したのである。
「異国の魔法使いですって!?面白そうだわ♪一体何者かしら♪」
大喜びするアクアラーミアンであるが…。腹部から腹鳴がグーッと響き渡る。
「私は空腹なのよ♪異国の魔法使いを捕食したいわ♪私を牢獄から解放してよ♪」
スキュランはプルプルと身震いした様子で…。鉄格子の封印魔法を解除したのである。アクアラーミアンはワクワクした様子で鉄格子を破壊するなり…。
「久方振りに大食い出来るわね♪」
尻尾でスキュランを力任せに拘束する。
「なっ!?私を…如何するのよ!?」
スキュランは極度の戦慄によりビクビクしたのである。
「恐怖心かしら♪あんたは私をこんなにも小汚い牢獄に十年間も封印し続けたからね♪」
アクアラーミアンは笑顔で発言するが…。
「本来なら私を封印したあんたを即刻食い殺したいのだけれどね…スキュランを捕食するのは後回しだからね♪私は即刻異国の魔法使いと赤毛の人魚を食い殺しに出掛けるわ♪」
アクアラーミアンはスキュランを解放するなり外部へと直行する。
「一瞬彼女に食い殺されるかと…」
スキュランは命拾いしたのか内心ホッとする。
(兎にも角にもアクアラーミアンが異国の魔法使いと潰し合えば確実に共倒れか…何方かが食い殺されるでしょうね…)
桜花姫とアクアラーミアンが潰し合えば高確率で両者ともが魔力を消耗…。潰し合いで魔力を消耗した両者を殲滅するのがスキュランの魂胆である。
「今回でトラブルメーカーは排除出来るし…アクアユートピア全域も無事に征服出来るわ♪」
(一石二鳥ね♪)
同時刻…。移動中の桜花姫とアクアヴィーナスであるが遠方の海中より強大なる妖力を感じる。
「えっ?妖力かしら…」
「妖力ですって?」
「遠方から妖力を感じるのよ…」
「妖力って…ひょっとして今度もネクロマーメイドかしら?」
「ネクロマーメイドとは別物みたいだわ…」
「ネクロマーメイドとは別物ですって?」
「非常に強力だわ…一体何かしら?」
妖力の正体は不明であるものの…。彼女達は警戒する。すると遠方より正体不明の移動物体が猛スピードで彼女達に急接近したのである。
「えっ!?何かしら!?」
移動物体は猛スピードで力泳するなり彼女達の目前に出現する。
「海蛇の…悪霊みたいね…」
移動物体の正体とは上半身が巨体の人間の女性であるものの…。下半身は巨体の海蛇である。
「彼女は海蛇の女王…アクアラーミアンだわ!最上級のアンデッドよ!」
「最上級のアンデッドですって♪早速面白くなったわね♪」
桜花姫は強敵との遭遇により非常にワクワクする。するとアクアラーミアンは蛍光色の瞳孔で桜花姫をジロジロと凝視するなり…。
「如何やらあんたが異国の魔法使いみたいね♪美味しそうだわ♪」
「私もあんたを桜餅に変化させて食べちゃいたいわ♪」
笑顔で発言するアクアラーミアンに桜花姫も笑顔で返答したのである。
「アクアラーミアンだったかしら?あんたは桜餅に変化しなさい♪」
彼女に変化の妖術を発動するのだが…。アクアラーミアンは桜餅に変化しない。
「えっ?あんたは私に何したのかしら♪」
アクアラーミアンはピンピンした様子であり桜花姫は動揺する。
「えっ!?如何して変化の妖術が発動しないのよ!?」
「桜花姫の魔法が無力化された!?」
(アクアラーミアンには桜花姫の魔法が通用しないのかしら?)
アクアヴィーナスは恐る恐るアクアラーミアンに問い掛ける。
「あんたは一体何したのよ?アクアラーミアン…」
アクアヴィーナスの質問にアクアラーミアンは笑顔で返答したのである。
「何って♪私は彼女の魔力をペロペロッと平らげただけよ♪」
「平らげたって…ひょっとして彼女も吸収能力で私の妖力を…」
先程は余裕だった桜花姫であるが…。恐る恐る後退りする。
「えっ?桜花姫?」
桜花姫の様子を直視すると彼女は全身がプルプルと身震いした様子である。
(ひょっとして彼女は恐怖心を…)
恐怖心からかプルプルと身震いする桜花姫を直視するなりアクアヴィーナスは極度の不安感が芽生える。
(私一人では何も出来ないし…一体如何すれば…)
深海底地帯の自然環境では妖力の消耗は桁外れであり吸収能力を保持するアンデッドは最悪の難敵である。圧倒的に不利であると判断した桜花姫は苦し紛れに…。
「アクアヴィーナス…あんたは即刻アクアユートピアに戻りなさい…戻らなければあんただって確実に殺されるかも知れないわよ…」
桜花姫は恐る恐る彼女に指示するのだがアクアヴィーナスは強張った表情で桜花姫の指示を拒否する。
「私は…一人でアクアユートピアへは戻れないよ…恩人の桜花姫を見殺しになんて出来ないわ…」
本心では逃げられるのであれば一目散に逃げたいアクアヴィーナスであるが…。母親のウェンディーネを見殺した自身への無力感と罪悪感に影響され桜花姫を見殺しには出来なかったのである。
「見殺しって…今回ばかりは私だって殺されるかも知れないのに!一人では何も出来ないあんたは正直足手纏いなのよ!」
「えっ…」
アクアヴィーナスは足手纏い発言にピクッと反応する。
「はっ!?」
(私は一体何を…)
本音を口走り桜花姫はハッとした表情で…。
「御免なさい…アクアヴィーナス…気にしないで…」
桜花姫は即座にアクアヴィーナスに謝罪する。謝罪した桜花姫であるもののアクアヴィーナスは無表情で…。
「別に…私は気にしないから大丈夫よ…私が足手纏いなのは事実だし…」
「アクアヴィーナス…」
すると沈黙したアクアラーミアンが笑顔で発言する。
「女同士の雑談は終了したかしら♪あんた達は私の餌食決定だからね♪二人とも私に仲良く食い殺されちゃいなさい♪」
アクアラーミアンは召喚魔法を発動…。彼女達の背後より四体のネクロマーメイドが召喚される。
「えっ!?ネクロマーメイド!?」
「ネクロマーメイド♪彼女達を拘束しなさい♪」
四体のネクロマーメイドは彼女達に密着すると力任せに彼女達の身動きを封殺したのである。
「きゃっ!」
「ぐっ!」
アクアラーミアンは身動き出来なくなった桜花姫に近寄るなり…。
「異国の魔法使い♪手始めにあんたから味見するわね♪」
するとアクアヴィーナスは力一杯鼓舞するなり恐る恐る発言する。
「彼女を…桜花姫を見逃して!本来彼女は無関係なのよ…食い殺したければ私だけを食い殺しなさい!」
(えっ!?アクアヴィーナス!?)
アクアヴィーナスの突発的発言に桜花姫は驚愕したのである。
「小判鮫の分際で…」
苛立ったアクアラーミアンはギロッとアクアヴィーナスを睥睨するなり…。
「別に心配しなくても小判鮫のあんたも食い殺すから安心しなさい♪私は異国の魔法使いから食事したいの♪食事中に私に口出しするのであれば私の魔法であんたを喋れなくしちゃうわよ…」
「ひっ!」
アクアラーミアンの恫喝にアクアヴィーナスは畏怖したのである。アクアラーミアンは桜花姫の頬っぺたをペロペロする。
「異国の魔法使い♪あんたみたいな可愛らしい小娘は大好きよ♪食い殺しちゃうのが勿体無いわね♪」
(彼女は余程の物好きなのかしら?悪霊に気に入られるなんて…)
桜花姫は内心苦笑いしたのである。
「ぐっ!」
アクアラーミアンに接触された悪影響により桜花姫は体内の妖力が消耗する。
(妖力が一瞬で消耗しちゃうんなんて…ひょっとしてアクアラーミアンの吸収能力かしら…)
「あんたの魔力は誰よりも美味だわ♪肉体諸共食べちゃおうかしら♪」
アクアラーミアンが桜花姫に接触した直後…。
(桜花姫がアクアラーミアンに食べられちゃうわ!)
アクアヴィーナスは咄嗟の判断により背後のネクロマーメイドに力一杯頭突きしたのである。
「ギャッ!」
「アクアヴィーナス!?」
アクアヴィーナスは力一杯の頭突きにより背後のネクロマーメイドを怯ませる。
「桜花姫!」
アクアヴィーナスは咄嗟に所持品のアクアクリスタルを力一杯投擲する。
(アクアヴィーナス!)
桜花姫は即座にアクアヴィーナスの方向を直視するなり…。力一杯投擲されたアクアクリスタルを大好きな桜餅に変化させたのである。桜花姫は桜餅に変化したアクアクリスタルをパクッと頬張る。
「こんなにも絶体絶命の状況下で異国のスイーツなんて食べちゃって如何するのよ♪」
アクアラーミアンは失笑するものの…。桜花姫の妖力が先程よりも増大化したのである。
(えっ?彼女の魔力が先程よりも桁違いに増大化したわ…一体如何してなの?)
妖力が増大化した桜花姫に不思議がる。不思議がるアクアラーミアンにアクアヴィーナスが解説する。
「残念だったわね!アクアラーミアン!私が桜花姫に食べさせたアイテムは魔法石のアクアクリスタルよ!」
「アクアクリスタルだって!?」
アクアクリスタルの一言にアクアラーミアンは驚愕したのである。
「桜花姫は異国のスイーツに変化させたアクアクリスタルを頬張ったのよ…魔力だけなら確実にあんたを上回ったわ…」
「妖力が戻ったからね♪」
桜花姫は変化の妖術を発動…。
「あんた達は即刻桜餅に変化しちゃいなさい♪」
背後で桜花姫とアクアヴィーナスを拘束する四体のネクロマーメイドを大好きな桜餅に変化させる。
「えっ…私のネクロマーメイドが…」
「如何やらアクアラーミアンには変化の妖術は通用しなかったみたいね♪」
桜花姫の余裕の様子にアクアラーミアンは苛立ったのである。
(此奴…小娘の分際で…)
「異国の魔法使いが…私には魔力による攻撃法は通用しないからね!」
アクアラーミアンは変化の妖術を発動した桜花姫の妖力を吸収能力によって即座に吸収する。
「今度の攻撃であんたを仕留めるわ…」
桜花姫の発言にアクアラーミアンは反論したのである。
「私を仕留めるって?私よりも魔力が上回ったとしてもあんた達は圧倒的に不利なのよ…私に魔法なんて通用しないのにあんた達に何が出来るの?」
「鬱陶しいあんたは…」
(口寄せの妖術…発動!)
桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動する。
「えっ?」
口寄せの妖術を発動するとアクアラーミアンの背後より異次元空間が出現したのである。
「異次元空間かしら?」
直後…。異次元空間の中心部より近代兵器である魚雷を口寄せしたのである。
「なっ!?」
(異次元の空間から魚型の武器が召喚されるなんて…)
アクアラーミアンの背後に魚雷が出現するなり…。アクアラーミアンの背後より魚雷が一直線に突っ込む。彼女の背中に魚雷が接触した直後…。魚雷が爆散する。
「ぎゃっ!」
アクアラーミアンは魚雷攻撃によって全身がバラバラに粉砕されたのである。桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。爆散した魚雷の水圧から危機一髪本体を防備する。同行者のアクアヴィーナスにも妖力の防壁を発動…。アクアヴィーナスも無事だったのである。
「一件落着♪アクアヴィーナス…大丈夫かしら?」
「私なら大丈夫よ…感謝するわね♪桜花姫♪」
アクアヴィーナスもホッとしたのか微笑む。
「アクアヴィーナス♪微笑んだわね♪」
「えっ!?」
アクアヴィーナスはハッとした表情から赤面するなり…。表情を無理矢理に強張らせる。
「アクアヴィーナス…」
(彼女は強情ね…無理に表情を強張らせなくても…)
無理矢理に表情を強張らせるアクアヴィーナスに桜花姫は苦笑いしたのである。
「妖力を消耗したからね♪」
桜花姫は魚雷攻撃によってバラバラに粉砕されたアクアラーミアンの無数の血肉を直視するなり…。
「今度こそ桜餅に変化しちゃえ♪」
変化の妖術でバラバラに粉砕されたアクアラーミアンの無数の血肉を桜餅に変化させる。
「アクアヴィーナス♪あんたも味見しない?」
「私は食べたくないわ…遠慮するわね…」
アクアヴィーナスは苦笑いの様子であり遠慮したのである。桜花姫は即座に散乱した桜餅をムシャムシャと平らげる。数分後…。桜餅を完食したのである。
「食べ過ぎちゃったわね♪」
桜花姫の腹部がプクプクの状態であり肥満化する。
「食べ過ぎでしょう…桜花姫…」
アクアヴィーナスは苦笑いしたのである。
「御免あそばせ♪即刻ネクロデストピアに直行するわよ!」
彼女達はネクロデストピアの魔王城へと直行する。
メンテ
桜花姫 ( No.30 )
日時: 2021/08/17 09:43
名前: 月影桜花姫

第六話

魔王城

アクアヴィーナスは桜花姫と移動中…。
(月影桜花姫…人一倍ヘタレの私でも彼女と一緒だったら…危険区域のネクロデストピアに到達したとしても生還出来るかも知れないわ…)
普段は人一倍ネガティブ思考のアクアヴィーナスであるものの桜花姫と一緒に行動すると希望が芽生える。すると突如として周辺が暗闇に覆い包まれる。
「暗闇だわ…」
「ネクロデストピアは間近っぽいわね…」
「目的地は目前なのね♪」
桜花姫は非常にワクワクする。暗闇の周辺より無数の殺気と霊力を感じる。
(ん?無数の霊力を感じるわ…)
「悪霊かしら♪」
「悪霊って…アンデッドが出現したの!?」
アクアヴィーナスはビクビクするなり…。力一杯桜花姫に密着する。
「アクアヴィーナスは大袈裟ね♪戦慄しなくても大丈夫よ♪」
「御免なさい桜花姫…結局私一人では力不足だし何一つ出来ないから…」
(先程の彼女の度胸は何だったのかしら?)
極度に畏怖するアクアヴィーナスの様子に桜花姫は苦笑いしたのである。暗闇の海中を直進し続けると無数の殺気と霊力を感じる。
(無数の霊力を感じるわ…敵陣だからかしら?)
桜花姫は即座に天道眼を発動…。妖力の防壁を形作る。
「悪霊が接近中ね♪」
暗闇の海中より数百体…。数千体ものネクロマーメイドとダークフィッシュが移動中の桜花姫とアクアヴィーナスに殺到する。
「きゃっ!アンデッドの大群よ!食べられちゃうわ!」
一人で大騒ぎするアクアヴィーナスに桜花姫は大袈裟であると感じる。
「アクアヴィーナスは本当に大袈裟ね…」
ネクロマーメイドとダークフィッシュの大群が彼女達に接触する直前…。妖力の防壁から半透明の血紅色の魔手を形作る。
「悪霊の分際で私に接触するなんて無謀なのよ♪」
ネクロマーメイドとダークフィッシュの大群は桜花姫とアクアヴィーナスに殺到するものの…。妖力の防壁から出現した無数の血紅色の魔手によって瞬殺される。防壁の魔手に接触したネクロマーメイドとダークフィッシュは肉体が粉砕…。暗闇の海中にて無数の血肉が散乱したのである。
「シールド魔法から紅色の魔手が…一体何かしら?」
「妖力の防壁を攻撃用に応用しただけよ♪」
「桜花姫の魔法は本当に万能なのね…」
「私にとっては序の口だから♪」
桜花姫の返答にアクアヴィーナスは絶句する。
「こんなにも荒唐無稽なのに序の口って…」
(桜花姫に私達の常識なんて通用しないわね…)
桜花姫の荒唐無稽さにアクアヴィーナスは普段の自分達の常識が微細に感じられる。暗闇の海中を直進し続けると遠方より異国風の根城らしきシルエットが確認出来る。
「えっ?何かしら?」
「如何やら根城っぽいわね…」
「ひょっとすると根城は魔女の本拠地かも知れないわね♪」
正体不明のシルエットに接近するとシルエットの正体は暗闇に覆い包まれた根城であると確信する。
「魔女の本拠地かしら…」
「根城の内部から人魚達の妖力と無数の霊力を感じるわね♪」
「妖力と霊力ですって?」
「あんた達の認識では魔力だったわね…」
アクアヴィーナスは恐る恐る魔王城を直視するなり…。
「魔女の本拠地にアクアヴィーナスが…」
「アクアヴィーナス…根城に潜入するわよ♪魔女に遭遇したら即刻彼女を食い殺してアクアヴィーナスの母様とアクアユートピアの人魚達を救出しましょう♪」
(魔女を食い殺すって…)
アクアヴィーナスは魔女を食い殺すと笑顔で発言する桜花姫に内心ゾッとしたのである。彼女達は恐る恐る魔王城の表門へと近寄る。
「念力で粉砕しちゃいましょう♪」
桜花姫は念力の妖術によって魔王城の表門を粉砕…。
「潜入するわよ…アクアヴィーナス♪」
彼女達は警戒した様子で恐る恐る魔王城へと潜入する。魔王城の城内では無数のダークフィッシュとネクロマーメイドが徘徊中である。侵入者である桜花姫とアクアヴィーナスを直視するなり彼女達に殺到する。
「あんた達は命知らずね♪」
桜花姫は念力の妖術を発動…。体内からアンデッドの肉体を破裂させる。
「こんなにもアンデッドの大群を瞬殺しちゃうなんて…」
「根城の守備陣は蹴散らしたわ♪最上階に直行しましょう♪」
彼女達は魔王城の最上階へと直進する。直進中にも無数のダークフィッシュとネクロマーメイドに遭遇するも桜花姫の猛反撃によって蹴散らされる。
「アクアクリスタルの効力かしら♪妖力の消耗が気にならなくなったわ♪」
桜餅に変化させたアクアクリスタルの効力により深海底地帯の自然環境でも妖力の消耗が緩和されたのである。彼女達は魔王城の最上階へと到達する。
「如何やら根城の最上階っぽいわね…ん?」
最上階の中心部より下半身が真蛸の女性が確認出来る。
「誰かしら?」
するとアクアヴィーナスがプルプルと身震いするなり…。
「彼女が…」
「えっ?如何しちゃったのよ?アクアヴィーナス?」
「彼女が…」
「えっ?彼女?」
「彼女が…私達のアクアユートピアを襲撃した魔女よ…」
(此奴が魔女ね…)
「彼女があんたの祖国を侵略した魔女なのね♪真蛸みたいだわ♪」
すると桜花姫の真蛸発言にスキュランはピクッと反応するなり…。
「誰が真蛸ですって!?失礼しちゃうわね…私は深海底の魔女…スキュランよ!」
真蛸と揶揄されたスキュランは桜花姫を睥睨したのである。
「スキュラン…」
「あんたが今回の事件の黒幕っぽいわね♪」
「ワーム型アンデッドのネクロシーワームと最上級アンデッドのアクアラーミアンを死滅させ…ノーダメージで魔王城の最上階に到達するなんて異国の魔法使いは予想外に手強いわね…」
「勿論私は最上級妖女だからね♪」
桜花姫は笑顔で発言する。
「即刻あんたを仕留めて連行されたアクアヴィーナスの母様とアクアユートピアの人魚達を無事に救出するわよ♪」
「彼女達を無事に救出出来るかしら?現実を直視しない単細胞のあんた達に…」
スキュランは平常心の様子であり桜花姫は警戒したのである。
(スキュランは随分冷静ね…妖力だけならアクアラーミアンよりも数段階下回るのに…如何して彼女は冷静なのかしら?)
するとアクアヴィーナスは恐る恐るスキュランに問い掛ける。
「如何してスキュランは私達のアクアユートピアを侵略したのよ?」
「私がアクアユートピアを侵略した理由ですって?」
スキュランは一息するなり…。
「深海底のアクアユートピアでは…無尽蔵の魔法石…アクアクリスタルを入手出来るからね…」
「アクアクリスタルですって?」
アクアクリスタルの一言に桜花姫とアクアヴィーナスは反応する。
「魔法石のアクアクリスタルは米粒大のサイズだとしても地上界の一国を引っ繰り返せる魔力を発揮出来るのよ♪米粒大のアクアクリスタルでも超一流の魔法使いが所持すれば一国を陥落させられるし…一国の征服だって実現出来る魔力を入手出来るからね♪」
魔法石のアクアクリスタルは消耗した魔力の回復だけではなく超一流の魔女がアクアクリスタルを所持した場合…。体内の魔力を数十倍から数百倍にも増大化させられる。一国のスケールにアクアヴィーナスは勿論…。桜花姫も絶句したのである。
「米粒大のアクアクリスタルだけで…一国ですって…」
「如何して魔女のスキュランに魔法石のアクアクリスタルが必要なのよ?魔法石のアクアクリスタルを所持しなくてもあんたの魔力は桁外れに強力でしょう…」
スキュランの魔力を高評価したアクアヴィーナスであるが…。スキュランは一瞬沈黙したのである。
「私は莫大なるアクアクリスタルで私自身の魔力を増大化させ…魔法の海水で地上界全域を水没させるのよ♪地上界全域を水没させるには私自身の魔力だけでは力不足だからね…アクアユートピアのアクアクリスタルで私自身の魔力を数百倍に増大化させたかったのよ♪」
スキュランの主目的に桜花姫とアクアヴィーナスは沈黙する。
「極悪非道の人間達を溺死させ…全世界を魔法の海水で覆い包ませるのよ♪」
「スキュラン?」
桜花姫は恐る恐るスキュランに問い掛ける。
「何よ?」
「あんたも…人間達が大嫌いなの?」
「無論よ…」
桜花姫の問い掛けにスキュランは即答したのである。
「如何してあんたは地上界の人間達を溺死させたいのよ?」
再度問い掛けられたスキュランは無言で魔法を発動…。桜花姫とアクアヴィーナスの目前に蛍光色の発光体を発生させる。
「何かしら?」
「時空の光球よ…」
「時空の光球?」
「時空の光球は…」
時空の光球とは別名予言の発光体とも命名される予言魔法である。蛍光色の発光体に接触すると超古代から超未来は勿論…。あらゆる並行世界で発生する出来事を実体験出来る魔法の発光体であり幻術とは別物である。
「面白そうだわ♪接触しましょう♪アクアヴィーナス♪」
「えっ…大丈夫なの?火傷しないかな…」
アクアヴィーナスは極度に不安がる。
「安心しなさい…火傷しないから…」
スキュランは火傷しないと発言するのだが…。アクアヴィーナスはビクビクした様子で恐る恐る時空の光球に接触したのである。
「本当に…大丈夫かな…」
「私も♪」
桜花姫は娯楽感覚で時空の光球に接触する。すると彼女達の脳内にとある平野にて獣類の毛皮を羽織った大勢の部族が尖頭器を所持…。闘争する光景が鮮明に発現されたのである。
(えっ?何かしら?)
するとパッと闘争の光景が消滅したかと思いきや…。今度はとある海峡での合戦場の様子である。とある巨大船団と別の巨大船団が衝突する光景であり主戦場が船上で足場が不安定であるが両勢力とも必死に奮闘する。パッと戦闘の光景が消滅したのである。今度は数百隻もの異国の軍船がとある砂浜にて上陸を開始…。巨漢の兵士達が火薬を投擲して甲冑を装備した武士達に攻撃する光景が発現される。暴風雨により無数の軍船が沈没…。大勢の兵士達が溺死する光景も確認出来る。暴風雨の光景が消滅すると今度は各勢力が多種多様の家紋を掲揚した甲冑の武士達がとある荒野にて奮闘する光景が発現される。
(ひょっとして戦乱時代の様子かしら?)
桜花姫は戦乱時代を連想したのである。総大将らしき武将の目前には斬首された武士達の生首が並列される。すると今度は炎上する家屋にて一人の家臣に裏切られた武将が自害する光景である。場面が一変すると今度の光景は蒸気を放出する異国の巨大軍船が馴染み深いとある湾港に上陸する光景が発現され…。異国の軍服を着用した巨漢男性と和服の男性達が会話する光景が確認出来る。すると場面は一変…。異国の軍服と鉄砲を所持した異国風の軍勢と和服と甲冑を装備した古風の軍勢が交戦する。
(一体何が…)
両勢力の戦闘の光景が消滅すると今度は鉄砲を所持した異国風の黒服の兵士達がとある丘陵地にて突撃する場面が発現…。突撃する大勢の兵士達が丘陵地の狙撃兵達により銃殺されたのである。場面が一変すると今度はとある青海原にて数十隻もの鋼鉄の巨大軍船が突入する数十隻もの鋼鉄の巨大軍船を無数の大砲で砲撃する光景が発現される。すると今度は鋼鉄の無数の鳥類がとある異国の湾港にて飛行中…。湾港に停泊中の巨大軍船を鋼鉄の火薬で攻撃する光景が発現されたのである。十数隻もの巨大軍船が沈没…。大勢の兵士達が鋼鉄の火薬で吹っ飛ばされる。直後…。とある諸島にて鋼鉄の火薬を抱き抱えた鋼鉄の鳥類が大砲を装備した鋼鉄の巨大軍船に自爆攻撃する光景が発現される。すると今度は鋼鉄の火薬を抱き抱えた小柄の少年兵が大砲を装備した鋼鉄の巨大牛車に突撃…。鋼鉄の巨大牛車諸共自爆攻撃する光景も発現されたのである。先程の光景が消滅…。今度は無数の鋼鉄の鳥類がとある城下町に鋼鉄の火薬を投下する光景が発現される。火炎に覆い包まれた村人達…。頭巾の女性達が必死に炎上する家屋敷を消火する光景が発現されたのである。場面が一変すると突然ピカッと高熱の閃光が一面に光り輝いたかと思いきや…。とある村里全域にてどす黒いキノコ雲と黒色の雨水も確認出来る。焦土化した陸地では眼球と全身の皮膚がドロドロに焼け爛れた大勢の村人達が各地を彷徨する。焦土化した各地には無数の焼死体が埋没…。無数の蛆虫が発生したのである。
「如何してこんな…」
アクアヴィーナスは極度の恐怖心により涙腺から涙が溢れ出る。全身がプルプルするなり膠着したのである。
「アクアヴィーナス…」
(如何やら彼女は限界みたいね…)
すると時空の光球はパッと消滅する。スキュランは無表情で桜花姫を直視するなり…。
「常日頃から単細胞のあんた達でも理解出来たでしょう?人間達の野蛮さを…」
「先程の光景は幻術かしら?」
桜花姫の返答にスキュランは全否定する。
「幻術なんて甘っちょろい子供騙しの魔法とは別物よ!時空の光球は超古代から超未来は勿論…無限の並行世界で発生する出来事を鮮明に再現させる予言の魔法なの…」
「予言の…魔法?」
「先程の光景は超古代から超未来の戦乱は勿論…別の時間軸で勃発する一連の戦乱なのよ…醜悪なる人間達の悪行かしら…」
桜花姫は沈黙する。
「こんなにも同族同士で殺し合って…自然界の自然環境を汚染させる全人類を滅亡させたいからこそ…私はアクアクリスタルの絶大なる魔力を利用して地上界全域を水没させたいのよ…」
すると桜花姫は無表情で…。
「別にあんたが人間達を溺死させたいのであれば思う存分殺しなさいよ…先程の光景を直視させられちゃったら人間界を守護するのも笑止千万だわ…所詮人間達があんたの魔法で溺死しちゃうのも自業自得でしょう…」
「あんたって意外だね…」
スキュランは桜花姫の返答に意外であると感じる。
「えっ?何が意外なのよ?」
「正直あんたは姿形も発想も世間知らずの単細胞って印象だったけど…思考力だけなら赤髪の女友達よりは大人の女性みたいね♪正直ホッとしたわ♪」
(鬱陶しい真蛸ね…何が大人の女性みたいな思考力よ…)
スキュランから大人と認識された桜花姫であるが内心ではピリピリする。
「あんたが私の主目的に協力するのであれば赤髪の女友達もアクアユートピアの人魚達も無事に解放するけれど♪」
「誰が真蛸のあんたなんかに協力するか…」
桜花姫は協力を拒否したのである。
「地上界を水没させちゃうと太平神国の桜餅は二度と食べられなくなるし…三蔵郎様と小猫姫が溺死しちゃうからね…何よりも悪霊征伐と匪賊征伐が出来なくなるわ♪」
数秒後…。
「悪いけどあんたの野望には賛同出来ないわね…」
笑顔で返答する桜花姫にスキュランはピリッと苛立ったのである。
「異国の魔法使いが…所詮あんたも人間達に味方するのね…」
苛立ったスキュランは桜花姫とアクアヴィーナスに魔法を発動する。
「えっ?」
すると突如…。
(なっ!?突然身動き出来なくなったわ…一体何が?)
彼女達は金縛りにより身動き出来なくなる。
(ひょっとして金縛りの魔法かしら?)
スキュランは金縛りの魔法によって桜花姫とアクアヴィーナスの身動きを封殺したのである。
「身動き出来なくなったわね♪」
身動き出来なくなった桜花姫とアクアヴィーナスに催眠術魔法を発動する。
「えっ…」
(何かしら?)
(突然眠気が…)
すると桜花姫とアクアヴィーナスは極度の眠気により熟睡したのである。
「あんた達は精一杯熟睡しなさい♪」
スキュランは熟睡した桜花姫に恐る恐る接触するなり…。
「異国の魔法使いは生意気で腹立たしい小娘だったけど…熟睡すると寝顔だけは人一倍美人さんだわ♪非常に勿体無いわね♪」
(早速彼女達をピチピチの甘海老に変化させちゃおうかしら♪)
魔法によって睡眠中の桜花姫とアクアヴィーナスを小指サイズの甘海老に変化させたのである。
「美味しそうな甘海老ね♪異国の魔法使いはピチピチした素肌の感触が誰よりも美味しそうだわ♪」
即刻頬張ろうかと思いきや…。ポンッと小指サイズの甘海老に変化した桜花姫の肉体が突発的に消滅したのである。
「えっ!?一体何が…如何して彼女の肉体が消滅したのよ!?」
突然消滅した甘海老の桜花姫にスキュランは驚愕する。
「彼女は一体!?」
すると背後より何者かがポンッとスキュランの背中に接触したのである。
「きゃっ!」
突然の出来事によりスキュランはビクッと反応する。
「御免あそばせ♪」
「えっ!?あんたは…」
スキュランの背中を接触したのは誰であろう桜花姫だったのである。
「あんたは異国の魔法使い!?如何して元通りに…あんたは私が魔法で甘海老に変化させたのよ…」
元通りに戻った桜花姫にスキュランは動揺する。不思議がるスキュランに桜花姫は笑顔で説明したのである。
「あんたが妖術で甘海老に変化させたのは私の分身体なのよ♪残念だったわね♪」
「分身体ですって!?」
スキュランが魔法を発動する直前に分身の妖術を発動…。スキュランの魔法で小指サイズの甘海老に変化したのは桜花姫の分身体であり彼女の本体は無事だったのである。
「分身体の魔法で私の魔法を無力化するなんて…異国の魔法使いは悪知恵も超一流みたいね…」
「残念だったわね♪真蛸の小母さん♪私こそあんたを桜餅に変化させて頬張っちゃうわよ♪」
笑顔で発言する桜花姫にスキュランは恐る恐る忠告する。
「私を食い殺せば…甘海老に変化させたあんたの女友達は勿論…アクアユートピアの人魚達も二度と元通りには戻れなくなるわよ…」
忠告された桜花姫であるが…。
「別に♪元通りに戻れないから何よ?」
「えっ!?仲間が元通りに戻れなくなるのにあんたは正気なの!?」
桜花姫の予想外の返答にスキュランは愕然としたのである。
「私は正気よ♪私はあんたが気に入らないからあんたを食い殺したいだけなのよ♪」
「あんたは外見とは裏腹に悪魔みたいね…」
悪魔と誹謗された桜花姫であるが…。
「悪魔だから何よ♪鬱陶しいあんたは桜餅に変化しちゃいなさい♪」
桜花姫は変化の妖術を発動するとスキュランを大好きな桜餅に変化させる。一口で桜餅に変化したスキュランをパクッと頬張る。
「桜餅は美味だわ♪」
甘海老に変化したアクアヴィーナスを直視するなり…。
「口寄せの妖術でスキュランを元通りに復活させれば問題解決なのよね♪」
即座に口寄せの妖術を発動する。先程変化の妖術で食い殺したスキュランを元通りに復活させたのである。
「えっ?私は一体?」
「元通りに戻れたわね♪スキュラン♪」
スキュランは無表情であり何も反応しない。姿形は生前と瓜二つであるが術者である桜花姫によって自我を掌握された状態であり今現在のスキュランは彼女の傀儡人形である。
「スキュラン♪あんたの魔法によって甘海老に変化させられちゃったアクアヴィーナスとアクアユートピアの人魚達を元通りに戻しちゃいなさい♪」
「承知したわ…」
スキュランは桜花姫の命令を承諾…。即座に魔法を解除したのである。魔法を解除されたアクアヴィーナスは勿論…。魔王城で拘束された人魚達も甘海老の状態から元通りの人魚の姿形へと戻れたのである。熟睡中だったアクアヴィーナスが恐る恐る目覚める。
「えっ?私は一体何を?」
彼女は寝惚けた様子であったがスキュランを直視するなりビクッとした反応で戦慄したのである。
「えっ!?スキュラン!?」
「あんたは本当に小心者ね…アクアヴィーナス♪」
「桜花姫!?」
アクアヴィーナスは恐る恐るスキュランを直視するなり…。
「えっ?彼女は無反応だわ…無感情のビスクドールみたいね…」
スキュランはアクアヴィーナスにジーッと凝視されても無反応であり無表情だったのである。
「今現在の彼女は口寄せの妖術で復活させた傀儡人形だからね♪本物のスキュランなら私が征伐しちゃったから大丈夫よ♪」
「えっ?征伐って…あんたが本物のスキュランを仕留めちゃったの!?」
「勿論よ♪」
(桜花姫…あんただったらアクアクリスタルの魔力を使用しなくても一国を征服出来そうね…)
アクアヴィーナスは桜花姫が黒幕であるスキュランを仕留めた事実に驚愕する。
「スキュランに魔法を解除させたからあんたは勿論♪今頃はアクアユートピアの人魚達も無事に解放されたでしょうね♪」
「アクアヴィーナスも解放されたのね…」
すると背後の鉄扉が解放されるなり金髪の人魚がウェンディーネに近寄るなり力一杯密着する。
「アクアヴィーナス♪」
「ウェンディーネ母様!?無事だったのね…」
アクアヴィーナスは母親のウェンディーネとの再会に涙腺から涙が零れ落ちる。
「アクアヴィーナス…私…母様が魔女に殺されちゃうかと…」
「大丈夫よ…大丈夫だからね…ウェンディーネ母様…」
「アクアヴィーナス…」
「母様が無事で何よりだわ…」
ウェンディーネ自身も殺害される恐怖心によって落涙したものの無事に解放され…。大喜びしたのである。
「私だけ逃げちゃって御免なさいね…ウェンディーネ母様…私は母様を見殺しに…」
謝罪するアクアヴィーナスであるがウェンディーネは笑顔で…。
「気にしないで♪アクアヴィーナス♪無事に戻れただけでも結果オーライでしょう♪」
「ウェンディーネ…」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が溢れ出る。
「えっ?彼女は誰かしら?」
するとウェンディーネは桜花姫に気付いたのである。
「ウェンディーネ母様…桜花姫に感謝してよね…彼女の協力が無ければ母様は今頃魔女に食い殺されちゃったかも知れないのよ…」
アクアヴィーナスは恐る恐る桜花姫を直視するなり…。
「ひょっとして貴女様がイーストユートピアの伝説の魔法使いである月影桜花姫様ですか!?」
「勿論♪私が誰よりも温厚篤実で最上級妖女であり…地上界の女神様♪桜花姫…月影桜花姫よ♪」
桜花姫は笑顔で即答したのである。
(人一倍短気で無慈悲のあんたが地上界の女神様を自称するなんて…)
地上界の女神様を自称する桜花姫にアクアヴィーナスは苦笑いする。
「あんたがアクアヴィーナスの母様ね♪美人さんだわ♪」
「私が美人さんなんて…桜花姫様は大袈裟ですわね♪」
するとウェンディーネは桜花姫に謝意する。
「大変感謝しますわ♪桜花姫様♪」
アクアヴィーナスも恐る恐る桜花姫に謝意したのである。
「私からも感謝するわ…桜花姫…」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が溢れ出る。
「あんたの孤軍奮闘で私達は勿論!アクアユートピアの人魚達が無事に解放されたわ…私達にとって桜花姫…あんたは正真正銘本物の救世主…地上界の女神様よ…」
落涙するアクアヴィーナスに桜花姫は困惑したのである。
「私が地上界の女神様なんて…あんた達は大袈裟ね♪私にとって悪霊征伐なんて所詮道楽だし夜遊びと一緒なのよ♪今回の悪霊事件で暇潰し出来たからね♪感謝したいのは私自身だから♪」
「桜花姫…」
「桜花姫様…」
桜花姫は先程から無言のスキュランを凝視するなり…。
「スキュラン…あんたはアクアユートピアの守護神として活動しなさい♪金輪際アクアユートピアを侵略するなんて悪巧みは厳禁だからね♪」
「承知したわ…」
スキュランは無表情であるものの承諾したのである。スキュランはテレポート魔法を発動…。アクアユートピアへと瞬間移動したのである。
「一件落着ね♪」
一安心した直後…。
「えっ?」
桜花姫は突如として息苦しくなる。
「ぐっ!」
(疲労感かしら…)
突然息苦しくなる桜花姫にアクアヴィーナスとウェンディーネはゾッとしたのである。
「えっ!?桜花姫!?如何しちゃったのよ…」
「大丈夫ですか!?桜花姫様!?」
「妖力の消耗かしら…突然息苦しくなったのよ…」
桜花姫は息苦しいのか小声で返答…。正直返答するだけでも辛苦の状態だったのである。
「ひょっとすると桜花姫は魔力の消耗で長時間の人魚の状態が維持出来なくなったのかも知れないわ…」
「ウェンディーネ母様…早急に地上界に戻らないと桜花姫様が溺死しちゃうわ!如何しましょう!?」
「私は即刻桜花姫を地上界に浮上させるわよ!」
「えっ?アクアヴィーナス!?」
アクアヴィーナスは衰弱化した桜花姫を力一杯抱き抱えるなり海面上へと急行したのである。
(死なないでよ…桜花姫…死んじゃったら承知しないわよ!)
アクアヴィーナスは全身全霊の力泳によりとある無人島へと漂着する。無人島に漂着した直後…。桜花姫の変化の妖術が解除される。
「桜花姫!?大丈夫!?」
数秒後…。
「はぁ…はぁ…」
桜花姫は深呼吸したのである。
「えっ?私は一体…」
「桜花姫…意識が戻ったみたいね…」
アクアヴィーナスは意識が戻った桜花姫の様子にホッとする。
「アクアヴィーナス?えっ?」
桜花姫は真夜中の天空を直視するなり…。地上界であると認識する。
「私は地上界に?何時の間にか戻っちゃったのかしら?」
「突然あんたが息苦しくなるからビクビクしちゃったわよ…もう少しであんた…窒息死しちゃうかと…」
「心配させちゃったわね…御免あそばせ♪」
「あんたが無事で何よりだわ…」
周辺を眺望するのだが視界一面が無人島である。遠方は闇夜の青海原であり陸地は何一つ確認出来ない。
「アクアユートピアから随分遠方に移動しちゃったからね…」
「口寄せの妖術で私達諸共目的地に口寄せしましょう♪」
「えっ!?目的地にワープ出来るの!?」
「一か八か…」
桜花姫は即座に口寄せの妖術を発動…。自分自身とアクアヴィーナスを太平神国の西国を目印に口寄せしたのである。彼女達は一瞬で西国の天霊山の頂上へと瞬間移動する。
「ひょっとしてイーストユートピアの小山かしら?」
「如何やら私達は無事に太平神国に戻れたみたいね♪」
「私達…一瞬で陸地に瞬間移動しちゃったの!?」
「勿論よ♪」
アクアヴィーナスは恐る恐る天霊山の頂上から西国の村里を眺望したのである。
「あんたの祖国だったわね…」
「私とあんたが遭遇した場所よ♪」
アクアヴィーナスは涙腺から涙が零れ落ちる。
「一日間の出来事なのに…長期間の長旅に感じられるわね…」
「私も極度の疲労感が蓄積したから…久方振りに天霊山の露天風呂にでも入浴しちゃおうかしら♪」
桜花姫は着物を脱衣し始める。人前で着物を脱衣する桜花姫にアクアヴィーナスは赤面したのである。
「えっ!?桜花姫!?人前で何するのよ!?」
「何って…入浴するから脱衣しただけよ♪」
「えっ!?あんたは人前なのに平気なの!?」
アクアヴィーナスに問い掛けられた桜花姫であるが…。桜花姫は笑顔で即答する。
「別に♪人前だからって何よ♪折角だしあんたも一緒に入浴しましょうよ♪女同士だから全裸でも平気でしょう♪」
アクアヴィーナスはビクビクした様子で周囲を警戒するなり…。
(人気は無さそうだわ…)
「折角だし…私も入浴しちゃおうかしら…」
彼女は赤面した表情で恐る恐る衣服を脱衣したのである。衣服を脱衣するとアクアヴィーナスは警戒した様子で露天風呂へと入浴する。するとアクアヴィーナスは恐る恐る…。
「桜花姫…」
「何よ?アクアヴィーナス?」
「御免なさいね…桜花姫…何も謝礼が出来なくて…」
謝罪するアクアヴィーナスに桜花姫は笑顔で即答する。
「別に謝礼なんて…気にしないの♪」
「私自身足手纏いで桜花姫に守護されてばかりだし…」
アクアヴィーナスは赤面した表情で…。
「アクアユートピアに平和が戻ったから…私からの恩返しに今度はショートケーキでも如何かなって…あんたは人一倍スイーツが大好きみたいだし…」
「ショートケーキですって♪」
ショートケーキに反応したのか桜花姫は大喜びしたのである。
「あんたのショートケーキは本当に美味しかったから…是非とも今度食べさせてよ♪」
「勿論よ♪桜花姫♪」
アクアヴィーナスは笑顔で即答する。
メンテ

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