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テラトピア大事変
日時: 2020/12/25 07:49
名前: 戦艦零号

第一話

休憩時間
全世界を二分させる人類史上最大の大戦争…。第三次列国大戦が終焉してより十五年が経過する。世界暦五千五百二十二年四月下旬…。小国家〔テラトピア自由区〕での出来事である。場所は進学校テラトピア学園…。休憩中に一人の男子生徒が窓際から仰天の青空を眺望する。
「今日も図書室で暇潰しだな…」
男子生徒の名前は【フィルドルク】…。テラトピア学園の男子生徒であり学部は普通科である。フィルドルクは一見すると年齢十四歳の普通の少年であるものの…。誰よりも荒唐無稽のオカルト関連が大好きであり勉学以外の時間帯ではオカルト関連の情報を調査するのが趣味である。フィルドルクは午前中の休憩時間に図書室へと移動する。
「オカルト関連…オカルト関連…」
フィルドルクはオカルト関連の参考書を何冊か黙読したのである。内容としては近年話題の超能力関連は勿論…。古代文明の魔法神秘学やら東洋の妖術関連である。
「僕にも超能力とか…荒唐無稽の魔法が扱えたらな…」
フィルドルクは自身にも超能力やら魔法が使用出来たらと妄想し始める。
「一体如何すれば僕に超能力が?」
彼是と思考し続けた直後…。
「ん?」
隣接より一人の女子生徒が魔法関連の書籍を何冊か漁ったのである。
『誰だろう…』
気になったフィルドルクは恐る恐る隣接の女子生徒をチラ見する。
『うわっ…誰なのかな?』
女子生徒は女性としては高身長であり頭髪は赤毛のストレートロング…。両目の瞳孔は半透明の血紅色であり両方の耳朶には金剛石のイヤリングが特徴的である。容姿は人一倍美的でありフィルドルクは彼女の妖艶さに見惚れる。
『彼女…相当の美人だな…胸部も…』
女子生徒は胸部が豊富である。フィルドルクは彼女に魅了されたのか赤面し始める。
『瞳孔が血紅色だ…彼女は…人間の女の子なのかな?』
隣接の女子生徒は一般の女性とは異質的であり摩訶不思議のオーラを感じさせる雰囲気だったのである。すると摩訶不思議の女子生徒はフィルドルクの存在に気付いたのかフィルドルクの方法を凝視し始める。
「貴方…先程から何かしら?私に用事?」
「えっ!?」
フィルドルクはビクッと反応…。
「御免…気にしないで…」
フィルドルクは赤面した表情で即座に女子生徒に謝罪したのである。すると女子生徒は恐る恐る…。
「貴方…名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクだよ…」
フィルドルクは即答したのである。
「君は?」
一方のフィルドルクも女子生徒に名前を問い掛ける。
「私は【メロティス】よ…貴方は私のクラスメートだったわよね…」
「えっ…君は僕のクラスメートだっけ?」
フィルドルクはオカルト関連には随一である反面…。オカルト関連以外の物事には比較的無関心であり自身のクラスに誰が存在するのか認識出来なかったのである。
「貴方って…オカルト以外の物事には無関心そうね…」
『フィルドルクって男子は天然なのかしら?』
フィルドルクは極度の天然でありメロティスは内心呆れ果てる。
「えっ…はぁ…」
一方のフィルドルクは苦笑いしたのである。
「貴方は荒唐無稽の心霊とか超常現象とか大好きそうね…」
「勿論だよ♪超能力とか異星人とかも大好きだよ♪」
フィルドルクは笑顔で即答する。
「へぇ…貴方って純粋なのね…」
「えっ?純粋?僕が?」
「純粋よ…誰よりもね♪」
メロティスは微笑した表情で発言したのである。
「えっ…」
『純粋って…子供みたいだな…』
フィルドルクはメロティスに子供扱いされ…。赤面したのである。するとメロティスは小声で…。
「今日の放課後だけど…私と一緒に帰宅しない?折角の機会だし…」
「えっ!?」
フィルドルクはメロティスに誘われ驚愕したのである。
『こんなシチュエーション…現実なのかな?こんな僕が…女子生徒と帰宅…』
フィルドルクは今回の出来事が現実なのか混乱する。予想外のシチュエーションに再度赤面したのである。
「私も荒唐無稽のオカルトが大好きだからね…如何する?貴方にとって都合が悪ければ無理にとは…」
問い掛けられたフィルドルクは一瞬沈黙するものの…。
「勿論大丈夫♪僕は大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
フィルドルクはワクワクした様子であり笑顔で返答したのである。
『こんな僕がこんな可愛らしい女の子と一緒に帰宅出来るなんて…夢物語みたいだよ♪現実の出来事なのかな?』
一瞬現実なのか自分自身の妄想なのか混迷する。フィルドルクはメロティスとの帰宅に内心大喜びしたのである。

第二話

帰宅
放課後の時間帯…。フィルドルクはメロティスと一緒に帰宅する。
「メロティスさん…自宅は?」
「私の自宅はサウスタウンよ…」
サウスタウンとは西方地帯に存在する小規模の住宅街である。
「えっ?メロティスさんの自宅もサウスタウンなの?僕と一緒だね♪」
「貴方の自宅もサウスタウンなのね…」
メロティスもサウスタウンの住民でありフィルドルクは内心大喜びする。
「貴方…随分と嬉しそうね…」
「えっ!?」
フィルドルクは赤面…。気恥ずかしくなる。
「フィルドルク♪貴方って本当に面白いわね♪」
メロティスは微笑み始める。
「僕って…面白いのかな?」
「面白いわよ♪人一倍天然そうだし♪」
「えっ…」
『人一倍天然って…』
フィルドルクは苦笑いしたのである。するとメロティスは無表情で…。
「貴方は現実世界に荒唐無稽の魔法が存在するなら…直視したくない?」
「えっ…」
『正直…メロティスさんの思考が理解出来ないけど…』
メロティスの突然の質問に困惑したのである。
「魔法が…」
フィルドルクは一息する。
「空想かも知れないけど…荒唐無稽の魔法が本当に存在するのであれば…実際に直視したいかな…」
フィルドルクが恐る恐る返答するとメロティスは瞑目し始める。
「仕方ないわね…」
「えっ?仕方ないって…」
「今回だけは特別よ…」
「えっ…特別って?」
メロティスはカッターナイフを所持したかと思いきや…。自身の手首を自傷させたのである。
「メロティスさん!?一体何を!?」
フィルドルクは突然の彼女の自傷行為に驚愕する。一方のメロティスは平気そうな表情だったのである。
『彼女は正気なの!?』
地面にはメロティスの血液が一滴ずつ流れ出る。
「メロティスさん…血液が…」
フィルドルクは彼女の鮮血に畏怖したのかソワソワする。
「フィルドルク…貴方は極度の心配性ね…」
一方のメロティスは冷静沈着だったのである。
「心配しなくても私は大丈夫よ…貴方は大袈裟ね…フィルドルク…」
数秒間が経過する。カッターナイフで自傷したメロティスの傷口が一瞬で治癒したのである。
「えっ!?メロティスさんの傷口が治癒した!?一体如何して…何が?」
フィルドルクは荒唐無稽の超常現象に愕然とする。するとメロティスは無表情で発言したのである。
「単刀直入に表現するなら…私の正体は魔女なのよ…」
「えっ…魔女?メロティスさんの正体が魔女だって?」
一瞬出鱈目であると思考するものの…。先程の荒唐無稽の超常現象を直視するとメロティスの正体が魔女であると否定出来なくなる。
「正確には私の家計は魔女の家計ってだけよ…父様は普通の人間だし…私は魔女と人間の混血なのよね…」
メロティスは母親が人外の魔女であるものの…。父親は純血の人間だったのである。フィルドルクは緊張した様子で恐る恐る彼女に質問する。
「ひょっとするとメロティスさんの祖先って…東洋に存在する…イーストユートピア出身者なの?」
「私の祖先はイーストユートピアに出身らしいわね…」
イーストユートピアとは極東に存在した辺境の島国であり所謂桃源郷神国と命名される。世界的には魔女の発祥地とされる。イーストユートピアは近代化の成功により列強の一員として認識されたものの…。二百年前に勃発した第二次列国大戦で超大国に敗北したのである。イーストユートピアは多大なる空襲により各村落は焦土化…。今現在では荒廃した無人地帯同然であり居住者は誰一人として存在しない。
「メロティスさんが魔女なのは事実みたいだけど…吃驚したよ…」
「こんな話題はオカルト大好きな貴方以外には出来ないからね…」
「正直最初に対面してから普通の常人とは異質的だったからね…メロティスさんの正体が魔女なのは納得だよ…」
するとフィルドルクは小声で…。
「メロティスさんは今迄誰かに気味悪がられるとか…差別されなかったの?」
メロティスは一瞬沈黙するも小声で返答したのである。
「無論ね…私自身こんな容姿だし…クラスメートの女子達からは人外の魔女って揶揄されたわよ…実際問題私の家計が人外の魔女なのは事実なのだけどね♪」
彼女は笑顔で発言する。
「前向きだね…メロティスさんは…」
フィルドルクはメロティスが人一倍ポジティブであると感じる。一方のメロティスはフィルドルクを凝視…。
「貴方も人外でしょう…フィルドルク…」
「えっ?」
メロティスの人外の一言にフィルドルクは意味が理解出来ず脳内が白色化する。
「僕が…人外だって?」
「貴方ってエスパーっぽいのよね…」
「僕が…エスパー?」
フィルドルクは珍紛漢紛であり困惑したものの…。
「二年前に死んじゃったけど…僕の母方の叔父さん…ストレイダス叔父さんが…霊能力なのかな?死者の霊体と会話出来るとかって…」
フィルドルクには母方の【ストレイダス】と名乗る叔父が存在する。今現在でこそストレイダスは故人であるが…。ストレイダスは大昔から死者の霊体を視認出来る特殊体質だったのである。霊体を視認出来るばかりか死者との会話も出来る性質上…。周囲の者達からは非常に気味悪がられ両親やら実母以外の兄弟からも嫌忌されたのである。こんな境遇の彼であったが…。警察組織が死者と会話が可能であるストレイダスの霊能力に注目する。警察組織は特殊体質の彼を特別枠の特別警察に配属させ数多くの未解決事件解決に貢献させたのである。
「やっぱりフィルドルクの血縁者はエスパーだったわね…」
メロティスは納得する。
「貴方は正真正銘エスパーの人種なのよ♪」
「僕がエスパーの人種!?」
「如何やら貴方が貴方の叔父さんの血筋を色濃く継承したみたいね…」
「血筋を継承したとしても僕にはストレイダス叔父さんみたいに死者の霊体なんて視認出来ないし…映画とか漫画の主人公みたいに怪力とか超能力なんて何一つとして使用出来ないよ…」
「貴方が特殊能力を発揮するには相応の衝撃が必要不可欠なのかも知れないわ…」
「相応の…衝撃?」
「貴方自身が大事件とか…事故に遭遇しなければ特殊能力は一生涯覚醒しないでしょうね…」
「大事件とか事故って…物騒だな…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。メロティスと摩訶不思議の会話から数分後…。二人は自宅へと戻ったのである。

第三話

新人類
小規模の島国…。テラトピア自由区から数百キロメートルの長距離にはテラトピア自由区よりも小規模の島国が存在する。島国の国名は〔万民解放区〕である。万民解放区は十五年前こそ無名の無人島であったが…。第三次列国大戦に敗北した万民解放軍の残党勢力と世界各地の犯罪者達が移住したのである。彼等は無人島の万民解放区に暗躍すると島内全域を軍事拠点化…。万民解放軍を再結成したのである。とある密室にて二人の軍人が密談する。
「二日後だ…二日後に近場のテラトピア自由区を攻略するぞ…」
将軍らしき人物が発言したのである。
「テラトピア自由区か…一日間で攻略出来そうだな…」
背広姿の金髪碧眼の男性が返答する。テラトピア自由区は比較的国内の治安が安定した一方…。戦力は最低限の武装警察隊が配置された程度であり通常の国軍としての反撃能力は実質皆無とされる。
「歴戦の貴様にとっては今回の作戦…片手間なのかも知れないが…貴様以外の将兵達は実戦未経験の新米兵士達ばかりだ…実戦で役立つのやら…」
今現在万民解放軍の将兵は大半が世界各国の犯罪者達ばかりであり経験豊富の将兵は実質少数とされる。将軍らしき人物は将兵達の熟練度の脆弱さを懸念する。
「非力の新兵ばかりだが…世界連合は十五年前の大戦で疲弊した状態なのも事実だからな…」
世界連合とは第二次列国大戦を契機に創設された各国家による統一政府である。第三次列国大戦が終結してから十五年が経過したものの…。今現在世界各国が戦争の悪影響で疲弊状態でありあらゆる国家が戦争出来る余力が皆無だったのである。無論…。統一政権の世界連合さえも今現在は反戦ムードであり各地の紛争を解決出来る余力は皆無である。背広姿の男性が断言する。
「今回の作戦は俺達の強大さを全世界に知らしめる絶好機…今回の作戦が成功すれば世界連合は迂闊には手出し出来なくなるだろう…何よりも俺には…」
背広姿の男性は護身用の拳銃を携帯したかと思いきや…。
「なっ!?貴様は…一体何を!?」
将軍らしき人物は拳銃に冷や冷やする。
「安心しろ…此奴を…分解するだけだ…」
「分解だと?一体如何するのだ?」
「大人しく見物し続けろ…」
背広姿の男性は摩訶不思議の効力で自身の拳銃を分解したのである。
「俺が超能力さえ思う存分に発揮出来れば…全世界を掌握出来るだろう…容易に…」
新人類とは超能力を所持する特殊人種とされ…。現在の調査では百万人に一人の確率で存在するとされる。
「現段階では俺に対抗出来る新人類は存在しない…」
すると将軍らしき人物はニヤリと冷笑する。
「貴様の超能力とやら…期待するぞ♪【ウィルフィールド】…」
彼自身詳細は不明であるが…。ウィルフィールドと名乗る人物は超能力を使用出来る新人類の一人だったのである。
『ウィルフィールドの正体が荒唐無稽の新人類だったとは…新人類とやらは本当に実在するのだな…』
将軍らしき人物は内心新人類の存在に驚愕する。

第四話

霊体
真夜中の深夜帯…。フィルドルクは超能力の歴史書と呼称される参考書を黙読したのである。超能力の歴史書には古代文明時代は勿論…。今現在の事例も多数記述され非常に興味深かったのである。
「極東のイーストユートピアにもエスパーが存在したなんて…」
イーストユートピア所謂桃源郷神国は魔女の発祥地として有名であるものの…。新人類による超能力伝説は複数存在する。先例としては戦乱時代に活躍したとされる名将夜桜崇徳王である。崇徳王は十数キロメートルもの長距離から敵軍の将兵が何人存在するのか正確に察知出来たとされる。崇徳王以外には安穏時代の八正道と名乗る僧侶も有名である。詳細こそ不明であるが…。彼にも超能力らしき伝説が一部確認される。一例としては神族天狐如夜叉との戦闘で銃弾のみで神器を破壊したとの一説である。八正道の場合は偶然の可能性が指摘される一方…。超能力による超常現象も否定出来ないとの意見も存在する。両者とも無自覚であったが…。今現在の見解では両者とも新人類であるとの見解が通説である。
「イーストユートピアにも新人類が存在したなんて…」
数分間が経過するとフィルドルクは熟睡する。睡眠してより数分後…。フィルドルクの脳裏より視界全域が白色の世界が発現されたのである。
「えっ?何だろう?」
フィルドルクは恐る恐る周囲を警戒するのだが…。周辺の景色は白色だけであり自分自身以外には何も存在しない虚無の世界である。
「摩訶不思議の世界だな…」
すると背後より…。
「フィルドルク…フィルドルク?」
「えっ?誰なの?」
フィルドルクは恐る恐る背後を直視したのである。
「えっ!?ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクの背後に存在するのは誰であろう二年前に死去した叔父…。ストレイダス本人だったのである。
「久し振りだな♪フィルドルク♪」
「叔父さん…」
「フィルドルクが元気そうで安心したよ♪」
ストレイダスは笑顔で発言する。
「如何して…ストレイダス叔父さんが?叔父さんは二年前に…」
フィルドルクは衝撃的光景に脳内が白色化したのである。
「突然だから吃驚するよな…フィルドルク…」
フィルドルクはストレイダスに近寄ると力一杯密着…。
「叔父さん!」
涙腺から涙が零れ落ちる。
「如何して…如何してストレイダス叔父さんは死んじゃったの?」
「フィルドルク…」
フィルドルクは数分間程度落涙し続ける。
「大丈夫そうだな…フィルドルク…」
泣き止むフィルドルクにストレイダスは安心する。
「甘えん坊だな♪フィルドルクは♪」
「御免なさい…叔父さん…」
フィルドルクは赤面した様子で謝罪したのである。
「当然であるが…今現在の俺は霊体の存在なのだ…」
ストレイダスは自身が霊体であると自負する。
「霊体…」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「如何して叔父さんは死んじゃったの?本当に事故で死んじゃったの?」
両親からはストレイダスの死因は不慮の事故であると説明されたのだが…。フィルドルクは如何しても納得出来なかったのである。
「今更フィルドルクに隠し事しても仕方ないからな…」
「隠し事?」
ストレイダスは一息する。
「二年前の十二月だ…」
「二年前の十二月?」
二年前の十二月の出来事である。新人類のストレイダスは特別警察での数多くの功績を評価され…。世界連合の特務機関に抜擢されたのである。全世界の主軸である世界連合も新人類の存在に興味を抱き始め…。新人類で構成された特務機関を創設したのである。特務機関の秘密エージェントとして活動するストレイダスは秘密団体…。万民解放軍と呼称される武装勢力の本拠地万民解放区に潜入したのである。潜入には成功したものの…。不運にもストレイダスは万民解放軍の警備兵に発見され拘束されたのである。ストレイダスを拘束した警備兵は皮肉にも自身と同種である新人類であり名前はウィルフィールドと名乗る。ウィルフィールドと名乗る新人類は非常に強力でありストレイダスはウィルフィールドの超能力で殺害されたのである。
「俺は諜報員として万民解放区に潜入したが…万民解放軍の本拠地でウィルフィールドって名前の新人類に拘束され…彼に殺害された…」
「えっ…ウィルフィールド?新人類…」
『やっぱりストレイダス叔父さんの死因は事故じゃなくて…ウィルフィールドって新人類に殺されたの?』
ストレイダスの死後…。世界連合は非難を回避したかったのか諜報員のストレイダスは不慮の事故として扱われたのである。フィルドルクは衝撃の事実に混乱する。
「突然だから混乱するよな…フィルドルク…」
「御免なさい…正直突然過ぎるから…」
「当然の反応だよな…」
ストレイダスは再度一息したのである。
「フィルドルク…俺は霊能力以外に未来予知も出来る…」
「未来予知って?」
フィルドルクは自身の超能力を覚醒させ未来予知も使用出来る。
「恐らくだが二日後…俺を殺害した新人類のウィルフィールドと…万民解放軍の奴等がテラトピア自由区に侵攻を開始するだろう…」
「えっ!?」
フィルドルクは驚愕したのである。
「本当に!?万民解放軍がテラトピア自由区に侵攻!?」
非現実的であり一瞬冗談かと思いきや…。
『ストレイダス叔父さんって冗談は苦手だよね…』
ストレイダスは冗談が人一倍苦手であり本当であると感じる。
「恐らくだが…隠蔽体質の世界連合は勿論…テラトピア自由区の武装警察隊も期待出来ないだろうよ…」
ストレイダスはフィルドルクを凝視し続ける。
「今現在テラトピア自由区を守護出来るのはフィルドルクだけだ…」
「えっ!?僕がテラトピア自由区を!?」
フィルドルクは再度困惑する。
「叔父さん…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力なんて何一つとして…」
現実問題…。フィルドルクは何一つとして超能力が使用出来ない。
「今現在では超能力は使用出来ないが…フィルドルクは人一倍俺の血筋を色濃く継承する一人だ…超能力が覚醒すればフィルドルクは俺を上回るかも知れない…」
ストレイダスはフィルドルクの潜在能力は自身以上であると確信する。
「如何すれば…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させられるの?」
「簡単だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力を開放出来るさ♪」
「えっ?僕は意識するだけ?」
「フィルドルクは俺の血筋を色濃く継承した存在だ…フィルドルクなら意識するだけで超能力は発動出来るだろう…超能力を使用すれば使用するだけ桁外れに上達する…」
新人類は超能力を使用し続けると超能力は更なる覚醒により効力は幅広くなる。新人類の潜在的能力は実質的に未知数とされる。
「本当に…出来るのかな?僕なんかに…」
フィルドルクは自信が皆無であり潜在的能力が覚醒するのか不安だったのである。
「大丈夫だ♪フィルドルクなら出来るさ♪俺が保証する♪」
ストレイダスは笑顔で断言する。
「叔父さん…」
するとストレイダスの肉体が半透明化し始める。
「えっ!?叔父さん…肉体が半透明に…」
「如何やら霊能力は限界みたいだ…俺はもう少しで消滅する…」
「限界なの…叔父さん…」
「フィルドルク…最後だが…」
ストレイダスは笑顔で…。
「俺を超越しろよ…フィルドルク…フィルドルクなら俺を上回れる♪明日からはフィルドルクが本物のスーパーヒーローさ♪」
ストレイダスの肉体は完全に消失したのである。ストレイダスが消滅した直後…。
「ストレイダス叔父さん!?」
フィルドルクは目覚めたのである。
「えっ!?」
フィルドルクは自身の寝室であり室内をキョロキョロさせる。
「心霊現象だったのかな?如何して死んじゃったストレイダス叔父さんが…」
先程自身の夢路にて死去したストレイダスと再会した出来事にフィルドルクは混乱するものの…。
「僕にも…出来るのかな?ストレイダス叔父さん…」
フィルドルクは意識するだけで超能力が発動するのか試行を決意する。

第五話

超能力
本日の放課後…。フィルドルクは学園の裏庭へと移動したのである。
「ストレイダス叔父さんのアドバイスでは…意識するだけで超能力が発動するらしいけど…」
『本当に意識するだけで超能力が覚醒するのかな?』
内心…。昨日夢路にて遭遇したストレイダスの心霊現象も偶然の可能性も否定出来ず超能力は発動しないだろうと思考したのである。
「石ころだ…」
地面の石ころを自身の目前に設置させたのである。
「石ころ…浮遊するかな?」
フィルドルクは恐る恐る両目を瞑目させる。
「石ころよ…空中を浮遊しろ…」
フィルドルクは石ころに命令するのだが…。石ころは依然として浮遊しない。
「石ころは浮遊しないな…」
フィルドルクは再度命令する。
「石ころ!浮遊しろ!」
試行してより数分間が経過…。フィルドルクは必死に思念するのだが目前の石ころはピクリとも動かない。フィルドルクは苛立ち始める。
「畜生!僕には出来ないよ!」
フィルドルクは自身が超能力の才能が皆無であると落胆したのである。
「僕は全然駄目だね…やっぱり石ころは浮遊しないや…」
フィルドルクは超能力が発動せずガッカリする。
「はぁ…やっぱり僕に超能力の才能なんて無かったみたいだね…」
『死んじゃったストレイダス叔父さんの幽霊が出現する時点で可笑しかったのかも知れないね…僕の妄想だったのかな?』
夢路に出現したストレイダスは自分自身の妄想であったと判断したのである。
「仕方ない…戻ろうかな…」
フィルドルクは帰宅する寸前…。
「えっ?」
一瞬であるが背後の石ころがコロッと動いたのである。
『一瞬動いたかな?』
フィルドルクは一息する。
『石ころよ…浮遊しろ…』
恐る恐る石ころに思念したのである。数秒後…。依然として動かなかった石ころが上昇し始める。
「えっ!?石ころが浮遊した!?」
石ころは自身の目線と同程度に浮遊…。ピタッと停止する。
『現実なの!?』
フィルドルクは空中浮揚する石ころに驚愕…。
「魔法みたいだ…」
目前の光景が現実なのか理解出来なくなる。
『石ころよ…落下しろ…』
落下を思考すると石ころは一瞬で地面に落下したのである。
「超能力って本当に存在したの?僕に超能力が…」
フィルドルクは先程の超常現象が自身による念力なのか確認したくなる。フィルドルクは帰宅せず近隣に位置する閉鎖中の廃鉱へと移動したのである。
「廃鉱なら好都合だね…」
閉鎖中の廃鉱には無数の岩石やら鉄屑の残骸が確認出来…。超能力を発動するには好都合だったのである。
「今度も其処等の石ころを…」
二十センチメートルの石ころを発見…。
「石ころは校内の裏庭みたいに浮遊するかな?」
先程みたいに石ころが浮遊するのか試行したのである。
『石ころよ…浮遊しろ…』
数秒後…。石ころが容易に浮遊したのである。
「えっ…」
フィルドルクは驚愕する。
「本当に…僕に超能力が?」
今回は裏庭の石ころよりも軽量に感じられたのである。
「落下しろ…」
落下をイメージすると石ころは一瞬で地面に落下する。フィルドルクは恐る恐る背後を凝視…。
「僕に…出来るだろうか?」
フィルドルクの背後に存在するのは先程の石ころより大サイズの岩石である。直径一メートルサイズであり念力で粉砕出来るか思考する。
「此奴を…念力だけで粉砕出来るかな?」
直径一メートルサイズの岩石に思念したのである。
『岩石よ…』
フィルドルクは必死に思念するのだが…。
「砕け散れ!」
岩石は非常に硬質であり容易には粉砕出来ない。
「ビクともしないな…やっぱり岩石を粉砕するのは困難だね…」
困難であると感じるものの…。
「今度こそ…」
フィルドルクは再チャレンジする。
「岩石よ…粉砕しろ!」
先程よりも根強く思念したのである。
「砕け散れ!」
すると数秒後…。岩石の表面よりピキッと罅割れが発生する。
「表面が罅割れた!?」
『今度こそ出来るかも!』
再度思念したのである。
『岩石よ…砕け散れ!』
数十秒間が経過…。直後である。頑強の岩石がバリッと粉砕され…。周囲に砕け散ったのである。岩石の破片が其処等に散乱する。
「はぁ…はぁ…手出しせずに岩石を粉砕出来たぞ♪」
フィルドルクは大喜びしたのである。目標を達成出来たものの…。フィルドルクは極度の疲労により地面に横たわる。
「念力だけで…こんなにも疲れが蓄積されるなんて…」
フィルドルクは体力の消耗に身動き出来なくなる。
『眠たいな…』
直前…。
「貴方…大丈夫かしら?」
「えっ…誰なの?」
最近知り合った女子学生のメロティスが地面に横たわった状態のフィルドルクに恐る恐る近寄る。
「メロティスさん?」
「フィルドルク…動かないでね…」
「えっ?」
メロティスはフィルドルクの腹部に接触したかと思いきや…。消耗した体力が蓄積されたのである。
「一安心だわ…」
メロティスはホッとする。
「感謝するよ♪メロティスさん♪体力が戻ったよ♪ひょっとしてメロティスさんの魔法なの?」
「無論ね…」
メロティスは体力の消耗したフィルドルクに回復魔法を使用したのである。フィルドルクはメロティスの回復魔法により体力が回復する。するとメロティスは笑顔で…。
「貴方…超能力の覚醒に成功したのね♪見事だったわ♪」
「えっ?メロティスさん…ひょっとして観察したの?」
「勿論よ♪放課後からね♪」
メロティスは笑顔で即答する。
「えっ…はぁ…」
フィルドルクは苦笑いしたのである。
「フィルドルクは本当にサイコキネシス…超能力を覚醒させたのね♪貴方は正真正銘新人類だったのよ♪」
「僕が新人類…」
『ストレイダス叔父さんの遺言は事実だったのか…』
内心自身が新人類だった事実にフィルドルクは嬉しくなる。
「メロティスさん?」
「何かしら?フィルドルク?」
フィルドルクは深夜の夢路での出来事をメロティスに洗い浚い告白する。
「貴方は夢路で故人の叔父さんと遭遇したのね…」
「叔父さんの未来予知は本当なのかな?」
「本当でしょうね…私も千里眼で海辺を眺望するのだけど…」
メロティスは時たま大海原を眺望するのだが…。二日前に武装した小型船を数隻目撃したのである。不審の小型船は即座に撤収したものの…。メロティスは気味悪くなる。
「私は胸騒ぎを感じるのよ…ひょっとすると近日中に大事件が発生するかも知れないわね…」
メロティスは非常に不安視する。
『メロティスさん…』
彼自身自信は皆無であったものの…。
「メロティスさんは僕が守護するよ♪」
笑顔で断言する。
「フィルドルク…」
フィルドルクの発言にメロティスは一瞬赤面したのである。
『叔父さんを殺した新人類…ウィルフィールドにも対面したいし…』
数分後…。二人は各自の自宅へと戻ったのである。

第六話

開戦
翌日の早朝…。六時三十分未明である。本拠地の万民解放区より万民解放軍の艦隊が出撃を開始する。旗艦は巨大戦艦一隻と二隻の大型輸送艦が同行したのである。旗艦の巨大戦艦には新人類のウィルフィールドが乗艦する。
「ウィルフィールド大佐♪貴方の活躍を期待しますよ♪」
ブリッジにて艦長が笑顔で発言したのである。
「活躍するも何も…こんな単調の任務で活躍出来なければ全世界を制覇するのは夢物語だ…」
「〔ヘビーエンプレス〕の威力をテラトピア自由区の人民に知らしめる絶好機です♪」
超弩級要塞戦艦ヘビーエンプレスは第三次列国大戦で大活躍した超弩級ミサイル艦であり万民解放軍の旗艦である。将兵達からは難攻不落の海上移動要塞とも呼称される。全長は四百メートル規模と規格外に大型であり本艦の装甲は特殊性超硬合金エターナルメタルが駆使され…。エターナルメタルの重厚装甲は大量破壊兵器の超高温でもビクともしない鉄壁の強度である。多数の多目的ミサイル発射機は勿論…。甲板の前方には実弾を超音速で発射出来る電磁投射連装砲が搭載される。甲板の後方には一機の大型輸送機か偵察用の無人機を二機搭載出来る。
「俺が超能力を発揮すればヘビーエンプレスの出番は無くなるな…」
航行してより三十分後の七時…。一隻の小型船と遭遇したのである。
「所属不明の小型船を発見しました!」
通信兵が報告する。
「所属不明の小型船だと?であればホログラム装置で確認しろ…」
ヘビーエンプレスには最新式のホログラム装置が搭載されたのである。装置の上部には立体化された海面上と一隻の小型船の立体映像が映写される。
「此奴はテラトピア自由区の警備艇か…大艦隊である俺達を相手に絶望的だな…」
ウィルフィールドが発言する。
「ウィルフィールド大佐…対艦ミサイルで攻撃しますかね?」
艦長はウィルフィールドに問い掛ける。
「折角の挨拶だ…手始めに攻撃しろ…」
「承知しました…」
艦長はウィルフィールドの指示に承知すると乗組員達に攻撃を命令する。
「警備艇を攻撃…撃沈せよ…」
「はっ!」
乗組員達は即座に行動を開始したのである。
『開戦だ…旧人類同士潰し合うのだな♪』
ウィルフィールドは周囲に失笑する。同時刻…。警備艇の船内では所属不明の大艦隊に騒然とする。
「大型艦艇が三隻も!?演習なのか?」
警備艇の乗組員達は所属不明の大艦隊に警戒したのである。すると一人の乗組員が恐る恐る…。
「中央の大型船は恐らく…第三次列国大戦で活躍したヘビーエンプレスだろうか…」
「ヘビーエンプレスですと?」
「世界連合に敵対した新枢軸勢力が使用した超大型船舶だ…こんな辺境の海域で遭遇するとは…」
「であれば所属不明の大艦隊は新枢軸勢力の残党なのか!?」
「新枢軸の残党勢力が出現するとは…一体何が目的なのか?」
「何はともあれ相手が相手だ…俺達だけでは対処出来ない…即刻政府と世界連合に報告しろ!世界連合に援軍を要請し次第…海域を撤退するぞ!」
乗組員達は即座に政府と世界連合に事態を報告したのである。数秒後…。
「ヘビーエンプレスから対艦ミサイルが多数発射されました!」
ヘビーエンプレスより十数発もの対艦ミサイルが発射されたのである。
「対艦ミサイルを迎撃しろ!」
警備艇は即座に対空砲で対艦ミサイルの迎撃を開始する。四発の対艦ミサイルの迎撃には成功するのだが…。一発の対艦ミサイルが警備艇の甲板に直撃したのである。直後…。弾薬庫に引火すると警備艇は乗組員諸共轟沈したのである。一方ヘビーエンプレスの艦内ではウィルフィールドが双眼鏡で確認する。
「他愛無いな…俺達はテラトピア自由区に直進するぞ…」
万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区を目標に直進したのである。一方警備艇からの報告によりテラトピア自由区政府と世界連合は突然の事態に混乱する。

第七話

高速道路
午前七時…。テラトピア自由区では警戒警報が発令されたのである。突然の警報に国内は混乱し始める。フィルドルクも突然の警報に吃驚…。飛び起きたのである。
「えっ!?何が!?」
『ひょっとして警戒警報?』
フィルドルクは万民解放軍の襲来であると察知する。
『万民解放軍だな…叔父さんの予言は本当だったね…』
ストレイダスの未来予知に驚愕したのである。一方外部では突然の緊急事態に各勤務地は勿論…。各学園も一時的に休校されたのである。一部の学生は学園の休校で大喜びするものの…。数多くの者達が緊急事態に不安視する。すると突如として自室に設置された携帯型ホログラム装置が鳴動したのである。
「うわっ!吃驚した…」
フィルドルクは携帯型ホログラム装置を作動させる。
「フィルドルク?」
ホログラム装置はメロティスの姿形を映写させたのである。
「メロティスさん?」
「こんな朝っぱらから突然御免なさいね…」
「大丈夫だよ♪メロティスさん♪」
メロティスは謝罪するのだがフィルドルクは笑顔で返答する。
「やっぱり貴方の叔父さんの予言は本当だったわね…」
「本当だね…正直僕も吃驚したよ…」
「避難所で合流しましょうね…フィルドルク…」
直後に携帯用のホログラム装置が停止したのである。すると自室のドアにて父親が入室する。
「フィルドルク?」
「父さん?」
「フィルドルク…準備が出来次第避難所に移動するぞ…」
「避難所?」
政府から避難指示が発令されたのである。
「オーケー!父さん!」
フィルドルクは準備を開始する。準備を開始してより数分後…。準備が終了するとフィルドルクは父親と母親との三人で外出したのである。
「如何して突然こんな事態に…」
母親は予想外の出来事にビクビクする。
「俺にも何が何やらサッパリだが…俺達は避難所に移動して命拾いするぞ…」
三人は自家用車で避難所へと移動するのだが…。高速道路の道路上は渋滞であり直進したくても直進出来ない。
「渋滞か…畜生…」
自家用車を運転する父親は非常に苛立った様子である。
「全然走行出来ないわね…」
「こんな状態では避難所には当分移動出来ないね…如何する?」
今現在では各地の車道が渋滞であり乗用車は走行出来ない。周囲の様子を直視すると乗用車を放棄…。大勢の歩行者が高速の車道を徒歩で通行したのである。
「仕方ないな…俺達も歩くぞ…」
「止むを得ないわね…」
三人は止むを得ず乗用車を放棄…。周囲の歩行者達と同様に徒歩で高速道路を通行したのである。
「私達は避難所に到達出来るのかしら?」
母親が不安視する。
「避難所に到達出来るかは断言出来ないが…何も行動しないよりは…」
一方フィルドルクは沈黙した様子で両親を凝視したのである。
『父さんも母さんも不安みたいだな…僕はストレイダス叔父さんみたいに超能力を覚醒させて…父さんと母さんを安心させたいな…』
フィルドルクと両親が高速道路を移動する同時刻…。魔女のメロティスは自宅の地下壕にて両親と三人で潜伏する。
「パパ?ママ?如何して避難所に移動しないのよ?私達も避難所に移動しましょうよ…こんな場所に待機し続けても…」
メロティスは不満そうな表情で両親に問い掛ける。
「避難所に移動するのは危険だ…移動中に攻撃されたら如何する?何が発生しても可笑しくない状況下だぞ…」
父親は避難所への移動を拒否する。
「俺は十五年前の大戦で大勢の避難民達が空爆で殺された瞬間を間近で目撃したからな…俺の兄貴も避難所に移動したばかりに…」
メロティスの父親は第三次列国大戦で避難所に移動中…。最愛の実兄が空爆で死亡したのである。
「パパ…」
父親の思考も理解出来るのだが…。
『私はフィルドルクと合流したいのに…』
彼女は自身の無力さを痛感する。

第八話

空爆
三十分後…。万民解放軍の大艦隊はテラトピア自由区の海域へと到達する。二隻の大型輸送艦の飛行甲板より多数の爆撃用ドローンが出撃…。数分間でテラトピア自由区領空へと飛来したのである。テラトピア武装警察隊の航空部隊が迎撃を開始するものの…。万民解放軍のドローン兵器は非常に高性能であり航空部隊は圧倒されたのである。各地で空爆が開始される。高速道路からでも空爆の様子が直視出来…。歩行者達は恐怖したのである。フィルドルク自身は比較的冷静であったものの…。両親は大戦のトラウマからか膠着したのである。すると一機の攻撃用ドローンが高速道路上空に急接近…。低空飛行にて逃亡中の歩行者達に対人射撃を仕掛ける。十数人が死傷する。今度はフィルドルクの両親を標的に攻撃を仕掛けるのだが…。
「父さんと母さんには手出しさせないよ!」
フィルドルクは低空飛行の攻撃用ドローンにサイコキネシスを発動する。
「墜落しろ!」
射撃寸前に攻撃用ドローンはフィルドルクのサイコキネシスにより空中分解したのである。フィルドルクの超能力を間近で目撃した父親は驚愕する。
「フィルドルク…超能力を…現実なのか?」
父親はフィルドルクのサイコキネシスに絶句するのだが…。
「貴方…覚醒したのね…」
母親は実弟のストレイダスを連想したのか冷静だったのである。
「母さん…父さん…僕はね…」
フィルドルクは最近超能力が開花した事実は勿論…。夢路にて故人のストレイダスと対面した出来事を一部始終両親に告白したのである。
「フィルドルクは夢路でストレイダスの霊体と接触したのね…ストレイダスは未来予知の内容を貴方に…」
母親は非常に納得した様子であったが…。
「死者との会話なんて…荒唐無稽の漫画みたいな出来事だな…」
父親は珍紛漢紛だったのである。
「納得出来なくて当然だよ…父さん…」
「俺は常人だから理解するには時間が必要不可欠だけど…内容は荒唐無稽だが超能力は本当に存在するのだな…」
正直理解するには程遠いが…。父親はフィルドルクの告白を闇雲に否定せず信用したのである。
「先程の内容が事実であれば…俺達が想像する以上に今回は相当の一大事だな…」
「貴方は如何するの?フィルドルク?」
「僕は…叔父さんの…ストレイダス叔父さんの継承者として万民解放軍を全身全霊で阻止するよ…」
「フィルドルク一人で…」
「フィルドルク…貴方は本気なのね?」
「勿論だよ…父さん…母さん…」
両親の意向としては当然猛反対であったが…。フィルドルクの表情から本気であると察知する。
「危なくなったら絶対に戻りなさいよ…フィルドルク…絶対に死なないでよ…」
「精一杯頑張れよ…フィルドルク…無事に戻れよ…」
「僕は絶対に死なないからね!」
フィルドルクは移動を開始したのである。

第九話

野望
ドローン兵器による空爆開始から十数分後…。テラトピア武装警察隊は疲弊状態であり万民解放軍は陸上部隊による上陸作戦を開始したのである。二隻の大型輸送艦からは合計十二隻もの上陸用舟艇が出撃…。主力戦車を中心とした上陸部隊がテラトピア自由区へと上陸したのである。旗艦ヘビーエンプレスのブリッジからウィルフィールドが上陸作戦の様子を眺望する。
「今回は俺も参戦するか…」
「大佐も上陸作戦に参加されるのですか!?」
「当然だ…」
周囲の乗組員達は愕然としたのである。
「無茶では…」
周囲の者達は無茶であると感じるものの…。
「私を仕留められる常人は存在しない…貴様達は私の実力を直視するのだな…」
ウィルフィールドは外部へと移動すると甲板にて佇立する。
「はっ!」
ウィルフィールドはサイコキネシスにより自身の肉体を浮遊させたのである。
「えっ…大佐が空中を!?」
「大佐は一体何者!?空中を飛行するなんて…幻覚だろうか?」
空中を浮遊するウィルフィールドにブリッジの乗組員達は驚愕する。一方のウィルフィールドはサイコキネシスで空中を飛行…。数分後に港内へと着地したのである。
「ん?」
『何やら…彼奴に匹敵する効力を感じるな…一体何者だろうか?』
正体こそ不明であるものの…。ウィルフィールドは気配を察知したのである。一方周囲では銃撃戦が展開されるのだが…。ウィルフィールドは無関心だったのである。
「貴様は敵部隊の指揮官か!?覚悟しろ!」
狙撃兵がウィルフィールドを標的に銃弾を発砲する。発砲された銃弾はウィルフィールドの発動したサイコキネシスにより寸前で急停止…。
「なっ!?銃弾が…」
サイコキネシスによって空中浮揚する銃弾に狙撃兵は驚愕する。一方のウィルフィールドは余裕の様子で…。
「鬱陶しい…」
発砲された銃弾はサイコキネシスの発動で狙撃兵に直撃したのである。
「ぐっ!」
銃弾の直撃により狙撃兵は地面に横たわる。
『ん?』
三人の敵兵が各ビルの屋上よりウィルフィールドを標的に設定する。
『敵軍の狙撃兵が三人か…』
ウィルフィールドは逸早く敵兵の気配を察知…。
「焼死しろ…」
発火能力であるパイロキネシスを発動する。各ビルの狙撃兵は突然の発火によって焼死したのである。すると今度は目前より…。
「今度の相手は重戦車か…俺に対抗するには力不足だな…」
重戦車はウィルフィールドを標的に戦車砲で砲撃したのである。
『こんな程度の攻撃で…』
ウィルフィールドはエレクトロキネシスで電撃のシールドを形成させる。砲弾はシールドの表面に接触すると爆散…。砲撃の無力化に成功したのである。
「今度は俺が反撃する…」
ウィルフィールドはサイコキネシスを発動すると敵軍の重戦車をペシャンコにスクラップ化させる。
「他愛無いな…敵軍の防衛ラインは容易に突破出来そうだな…」
『ん!?』
ウィルフィールドは気配の正体が気になり極度の胸騒ぎを感じる。
『気配の正体は…一体何者だろうか?新人類か?』
同時刻…。フィルドルクは銃声を目印に港内へと移動したのである。
『胸騒ぎかな?気配を感じる…一体何者なの?』
フィルドルクもウィルフィールドと同様に気配を察知…。極度の胸騒ぎを感じる。数分後…。フィルドルクは万民解放軍の上陸地点である港湾へと到達したのである。港湾には敵味方の将兵達の遺体が彼方此方に確認出来…。地獄絵同然だったのである。
「戦争の光景…」
想像以上の惨劇にフィルドルクは気味悪くなる。
『父さんと母さんは僕が誕生する以前にこんな惨劇を経験したのかな…』
するとフィルドルクは十五人の敵兵に包囲されたのである。
「貴様は民間人の学生か?こんな場所に一人で参上するとは其処等の凡人達よりは勇敢だが…場違いだな…」
「少年…死にたくなければ大人しく拘束されるのだな…」
フィルドルクは催眠を意識する。
『熟睡しろ…』
数秒間が経過すると周囲の兵士達はサイコキネシスの応用により地面に横たわり…。熟睡したのである。
「兵士達を殺さずに無力化出来たな…」
フィルドルクはホッとする。すると直後…。
「不殺で兵士達を無力化するとは…見事だな…少年…」
「えっ?誰なの?」
突如としてフィルドルクの目前より背広姿の男性が近寄る。
「少年よ…貴様の正体は新人類だな…」
男性は一目でフィルドルクが新人類であると洞察したのである。
「如何して貴方は僕を新人類だって…貴方は一体何者ですか?」
フィルドルクは恐る恐る男性に問い掛ける。
「俺の名前はウィルフィールド…俺も少年と同様に新人類の一人さ…」
ウィルフィールドは自身を新人類の一人と自負する。
「新人類…」
するとウィルフィールドはフィルドルクの両目を直視…。
「少年は彼奴に近似するな…俺が殺害した彼奴に…」
「彼奴って?誰ですか?」
「ストレイダスと名乗る新人類に…」
ストレイダスの名前にフィルドルクはピクッと反応する。
「ストレイダスって…貴方が…ストレイダス叔父さんを…」
「叔父さん?ストレイダスは貴様の叔父だったのか…」
ウィルフィールドは納得したのである。
「やっぱり貴方が叔父さんを殺害した張本人だったのですね?」
ウィルフィールドは身震いし始める。
「如何して貴方は叔父さんを殺害したのですか!?」
普段は温厚の性格であるフィルドルクであるが…。今回ばかりは非常に感情的だったのである。
「私がストレイダスを殺害した理由か…私は二年前に万民解放区に潜入した彼奴を新人類の仲間として勧誘したのだが…」
二年前…。諜報員として万民解放区に潜入したストレイダスは不運にも万民解放軍の偵察部隊と遭遇したのである。自身の超能力で偵察部隊を圧倒するもウィルフィールドが介入…。ウィルフィールドの介入によりストレイダスは拘束されたのである。ウィルフィールドは自身の野望にストレイダスに協力を一方的に要求するのだが…。
「俺は彼奴に腐敗した世界連合は勿論…世界連合を牛耳る〔ソロポスト共和国〕の滅亡に協力しないかと要求したのだが…ストレイダスは俺の要求に拒否した…彼奴も俺と境遇は一緒だろうに…」
僅少であるがウィルフィールドは感情的だったのである。
「如何してウィルフィールドは世界連合と貴方の祖国であるソロポスト共和国を滅亡させたいのですか?」
フィルドルクが恐る恐る問い掛ける。
「ソロポスト共和国は俺の祖国だったが…」
ソロポスト共和国は超大国であり今現在全世界の覇権国家である。ウィルフィールドはソロポスト共和国出身者であったが…。ソロポスト共和国は正真正銘の差別大国であり当然として新人類も差別の対象だったのである。
「差別…」
「俺は新人類としての性質上…身内の奴等からも差別されたのだ…」
「貴方は身内からも…」
フィルドルクはウィルフィールドの境遇に絶句する。
『ストレイダス叔父さんも…母さん以外の人間達に…』
ストレイダスもフィルドルクの母親以外の人間達から差別され…。数多くの者達から迫害されたのである。フィルドルクは返答出来ず沈黙する。
「俺は祖国を見限り…本来なら敵国である万民解放軍に寝返ったのだ…」
ウィルフィールドが万民解放軍に協力するのは世界連合と同組織を牛耳るソロポスト共和国の滅亡である。
「俺としても正直…ストレイダスは死なせたくなかった…新人類の同志として彼奴と一緒に腐敗した旧世界を改善させたかったのに…非常に残念だ…」
拘束されたストレイダスであるが…。ウィルフィールドの協力には拒否したのである。
「ストレイダスは何を血迷ったか…愚劣なる旧人類が支配し続けるこんな腐敗した世界を守護しても無意味だろうに…何故ストレイダスは奴等に協力するのか俺には理解出来ない…彼奴も迫害されただろうに…」
するとフィルドルクは恐る恐る…。
「貴方の目的は…新人類が差別されない世界の構築ですか?」
フィルドルクの問い掛けにウィルフィールドは嬉しそうな表情で返答する。
「勿論だとも♪主目的を達成するには数多くの犠牲が必要不可欠だが…」
ウィルフィールドはフィルドルクに名前を問い掛ける。
「少年よ…貴様の名前は?」
「僕の名前は…フィルドルクです…」
「フィルドルクか…」
ウィルフィールドは一瞬瞑目する。
「フィルドルクよ…新人類の一人として俺に協力しろ…」
「はっ?」
フィルドルクはウィルフィールドの予想外の発言に拍子抜けしたのである。
「誰が貴方に協力なんて…」
フィルドルクは拒否する。
「貴方は過去に大勢の人間達から迫害されたのかも知れませんが…僕にとって貴方は悪人です!叔父さんを殺害した張本人と協力なんて僕には出来ません…」
「当然の返答だよな…突然見ず知らずの人間から協力を要請されても拒否するのは当然の返答だ…」
「貴方は一体何を?」
するとウィルフィールドは上空を眺望したのである。
「此処からだと確認出来ないが…」
「えっ?上空?」
「テラトピア自由区の成層圏上空には万民解放軍の衛星兵器…〔リバースキャノン〕が存在する…」
「リバースキャノン?」
リバースキャノンとは万民解放軍が開発した試作型光学衛星兵器…。戦略兵器である。高出力の高エネルギーを成層圏上空から発射出来…。大都市部を一撃で焦土化させる威力とされる。第三次列国大戦にて万民解放軍が開発した戦略兵器であるが完成直前に終戦…。第三次列国大戦では使用されなかったのである。
「少なくとも首都はリバースキャノンの一撃で焦土化するだろうよ…」
「首都が一撃で…」
フィルドルクは戦慄したのである。
「如何する?俺に協力すればリバースキャノンの発射を中止するし…上陸部隊を撤退させるぞ…フィルドルクにとって苦渋の選択だ…」
「えっ…苦渋の選択…」
ウィルフィールドの発言にフィルドルクは反応する。
「貴様の選択によってテラトピア自由区の運命が決定される…」
「貴方の…目的は?」
フィルドルクは警戒した様子で恐る恐るウィルフィールドに問い掛ける。
「俺の目的は世界各地に存命する新人類が迫害されない新世界の構築だ…」
「新人類が迫害されない新世界?」
「俺の目的に協力すればフィルドルクの家族は勿論…友人も命拾い出来るぞ…貴様は実質テラトピア自由区の英雄として崇拝されるだろう…」
「僕には…」
一息したのである。
「やっぱり貴方には賛同出来ません…」
フィルドルクは再度拒否する。
「如何しても拒否するか?フィルドルク…貴様の選択によって大勢の人間達が抹消されるのだぞ…貴様は極悪非道の悪魔だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクを極悪非道の悪魔であると指弾したのである。
「俺が悪魔だと?貴様には失望したよ…フィルドルク…」
ウィルフィールドは無表情であるが…。内心ではガッカリしたのである。
「仕方ない…であれば実力行使だ…」
「実力行使って?」
ウィルフィールドは両手より電撃を発動したのである。
「うわっ!ぎゃっ!」
フィルドルクはウィルフィールドのエレクトロキネシスにより全身が麻痺する。エレクトロキネシスは本来拷問として使用される超能力である。
「非常に残念だよ…フィルドルク…貴様も俺に拒否するとは…」
『所詮は愚か者達だ…フィルドルクもストレイダスも…俺達は新人類同士…未来永劫仲良く共闘出来たのに…』
ウィルフィールドは新人類として彼等と仲良くしたかったのだが…。フィルドルクの拒否によって自身の目的は達成出来ないと自覚する。一方のフィルドルクは身動き出来ず…。涙腺より涙が零れ落ちる。
『ストレイダス叔父さん…僕は如何すれば?結局僕は…ウィルフィールドに殺されちゃうのかな?』
最期を覚悟したフィルドルクであるが…。
『フィルドルク…』
『えっ?』
フィルドルクの脳裏よりストレイダスの霊体が出現する。
『叔父さん?』
『思う存分に反撃しろ…フィルドルク♪フィルドルクなら出来るさ…』
『叔父さん…僕は…』
フィルドルクは覚悟したのである。
「ぐっ!」
フィルドルクはウィルフィールドの電撃エネルギーを体内に吸収し始める。
「ん!?」
『フィルドルクは…俺の電撃を吸収するとは…』
冷静だったウィルフィールドも自身の電撃エネルギーを吸収し始めたフィルドルクには愕然とする。
『此奴…短期間でこんなにも超能力が開花するとは…』
故人のストレイダスは勿論…。自身をも上回ると予想する。一方のフィルドルクは吸収した電撃エネルギーを球体に形作る。
「はっ!」
「なっ!?」
ウィルフィールドは咄嗟にエレクトロキネシスで鉄壁のエネルギーシールドを形成…。間一髪電撃エネルギーの無力化に成功したのである。
「シールド?」
「はぁ…はぁ…一歩間違えれば俺がヤバかったな…」
ウィルフィールドはフィルドルクの覚醒に冷や冷やする。フィルドルクは先程の電撃により負傷した傷口が治癒したのである。
「フィルドルクは治癒効果も開花するとは…貴様の潜在的能力は俺の予想以上だ…」
ウィルフィールドはフィルドルクが末恐ろしくなる。一方のフィルドルクは無表情でウィルフィールドに近寄る。
「俺と勝負するか?フィルドルク…」
「貴方は叔父さんを殺害した張本人だけど…僕は貴方を殺害したくない…」
フィルドルクからは殺意は感じられない。
「俺は最愛の人間を殺した張本人なのに…殺害したくないとは…フィルドルクは余程の聖人なのだな…」
「如何にか部隊を撤退させて下さい…」
フィルドルクはウィルフィールドに懇願する。フィルドルクの懇願にウィルフィールドは沈黙したのである。すると直後…。近辺より爆発音が響き渡る。
「えっ!?一体何が!?爆発音!?」
「ん?何事だ?」
爆発音が響き渡ったのは湾内だったのである。湾内の中心部には大型輸送艦が爆散…。一瞬で轟沈する。
「畜生が…味方の大型輸送艦が敵軍の猛反撃で撃沈されるとは…」
テラトピア武装警察隊の猛反撃により万民解放軍の大型輸送艦一隻が撃沈されたのである。ウィルフィールドは不本意であるが…。
「止むを得ないな…こんな場所で貴様みたいな新人類を殺害するのは非常に勿体無いからな…」
「えっ…」
一瞬ウィルフィールドの返答に拍子抜けしたのである。
「作戦中の部隊を撤退させる…当然としてリバースキャノンの発射も中止する…」
ウィルフィールドはフィルドルクの懇願に承諾…。作戦中止を決定したのである。
「貴様の成長は見物だな♪フィルドルク…」
『今度再会出来たら…フィルドルクと共闘したいな…』
今度はフィルドルクを仲間に勧誘…。共闘出来たらと思考する。ウィルフィールドは携帯式のホログラム装置を作動させ作戦の中止を全軍に伝播させたのである。作戦中止から数時間が経過…。万民解放軍の撤退により一連の事件は終焉する。同事件はテラトピア大事変と命名されたのである。

最終話

屋上
テラトピア大事変から一週間後…。世界連合の協力により国内の復興作業が開始される。テラトピア大事変終結から二週間が経過…。世界連合軍による報復作戦が開始され万民解放区は占拠されたのである。両軍の死闘により十数万人もの将兵達が死傷するが…。武装は解除され本土に配備された艦艇やら多数のドローン兵器は接収されたのである。作戦終了後…。万民解放軍の首謀者ウィルフィールドの行方は不明であり今現在でも行方は捜索されるのだが依然として発見されない。半年後の十月上旬…。
「はぁ…」
フィルドルクは休憩時間に学園の屋上にて上空を眺望する。
『ウィルフィールドって軍人さん…行方不明なのかな…』
フィルドルクはウィルフィールドの行方が気になったのである。するとフィルドルクの隣接より…。
「フィルドルク♪」
「えっ!?メロティスさん!?」
メロティスは笑顔でフィルドルクを直視したのである。
「ニュース番組ではテラトピア武装警察隊が悪者達を撃退したって報道したけどさ…実際は貴方の大活躍なのよね?」
「えっ…」
メロティスに問い掛けられるとフィルドルクは返答に困惑する。
「僕は…別に…」
フィルドルクは表情が微妙だったのである。するとメロティスは笑顔で…。
「今現在の貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
「えっ?」
メロティスのスーパーヒーローの一言に反応する。
「貴方が奮闘したからこそテラトピア自由区は奴等に占領されなかったのよ♪正真正銘貴方は本物のスーパーヒーローよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは僅少であるが微笑したのである。
「メロティスさん♪僕がスーパーヒーローか…」
するとメロティスは赤面した表情で…。
「今度の休日だけど…私と一緒に遊ばない?」
「えっ…メラティスさんと?」
彼女の発言にフィルドルクはドキドキし始める。
『えっ…ひょっとして…メロティスさんとデートとか!?僕が!?』
フィルドルクもドキドキしたのか赤面したのである。
「こんな僕で…大丈夫なの?メロティスさん?」
フィルドルクは恐る恐る問い掛ける。
「貴方だからなの♪人外同士♪私は今後も貴方と交流したいのよ♪」
彼女の発言にフィルドルクは大喜びする。
「僕こそ♪」
フィルドルクは満面の笑顔で返答したのである。
「メロティスさんは何したいの?」
「私は映画かな♪映画は映画でもホラー映画とか♪」
「ホラー映画ね♪」
フィルドルクは笑顔で返答するのだが…。
『ホラー映画って…メロティスさんらしい趣味だな…』
メロティスの趣味に内心苦笑いしたのである。苦笑いのフィルドルクであるが…。
『ストレイダス叔父さん…こんな僕にも…彼女が出来たよ♪』
極度の嬉しさからかフィルドルクは涙腺より涙が零れ落ちる。
完結
メンテ

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メテオマン ( No.91 )
日時: 2021/09/13 21:37
名前: 月影桜花姫

【メテオマン】
身長:170cm〜340m
体重:70kg〜14万t
飛行速度:マッハ15以上

【ダークオクタルス】
全長:600m
体重:120万t

【サラマンダー】
身長:20m
全長:80m
体重:2万t

【アンダーサウルス】
身長:90m
全長:180m
体重:9万t

【メタルベルセルク】
全高:1.7m
重量:1.7t
飛行速度:マッハ15以上
所属:レムリア解放軍

【スコーピオン】
身長:30m
全長:150m
体重:3万t

【ケルベロス】
身長:80m
全長:240m
体重:8万t

【メタルタロース】
全高:380m
重量:38万t

【キングダークネス】
身長:4m〜400m
体重:4t〜400万t

レムリア解放軍
【シークハイル】
【ルーヴェルハルト】
『アクアベース』汎用型戦艦

民間人
【クリスティーヌ】
【ウィグノール】

第一話

宇宙害獣

銀河系の外界ではとある一人の異星人が宇宙の警察官を自称するなり…。宇宙全域に出現する宇宙害獣を討伐したのである。
「今日も多忙だな…」
彼こそは自称宇宙警察の【メテオマン】…。多種多様の超能力と絶大なるスーパーパワースーパーパワーで宇宙に蔓延する多数の宇宙害獣を撃破したのである。
「休憩が必要だな…」
長期戦の疲労により近辺の惑星で一休みする。メテオマンはあらゆる環境でも適応出来る万能体質であり宇宙空間でも生身で飛行出来る。休憩したメテオマンであるが…。高エネルギーを感知したのである。
「高エネルギーを感じるぞ…」
気になったメテオマンは再度宇宙空間へと飛行…。高エネルギーの感じる場所へと急行する。場所は二万光年に位置する宙域であり地球に酷似する海洋惑星を発見したのである。
(海洋惑星か?)
メテオマンは海洋惑星へと到達すると上空にて地上の青海原を眺望する。
「高エネルギーは…」
すると直後…。とある無人島らしき陸地にて鋼鉄の物体を発見したのである。
(一体何だろう?)
メテオマンは即座に鋼鉄の物体へと移動する。
「なっ!?宇宙船!?」
鋼鉄の物体の正体とは全長二百メートルサイズの大型宇宙船であり表面はボロボロだったのである。
「墜落したのか?」
宇宙船は墜落したのだと推測される。
「一体如何してこんな無人の惑星に有人型宇宙船が…」
(調査が必要だな…)
恐る恐る宇宙船の船内を潜入…。調査したのである。宇宙船の船内には生活必需品である家具が確認され客室にはベッドルームやらリビングルームが確認出来る。
「宇宙の豪華客船か…」
宇宙船の正体は宇宙用の豪華客船だったのである。
「乗客は…」
乗組員は勿論…。乗客は誰一人として確認出来ない。
「乗組員と乗客は無事に脱出したのか?」
すると直後である。
「なっ!」
船内がグラグラッと振動し始める。
(一体何が…)
数秒後…。真後ろの鉄扉が破壊されワーム型の巨大生命体がメテオマンに吸収したのである。
「背後か!?」
メテオマンは即座に背後を見向くと左手より蛍光色の高エネルギー光弾を射出…。ワーム型巨大生命体に直撃させたのである。メテオマンの高エネルギー光弾が口部に直撃すると口部は簡単に破壊され…。巨大生命体は撃退されたのである。
「撃退したが…先程の巨大生命体は一体?」
(此奴は宇宙害獣の一体か?)
先程のワーム型巨大生命体が宇宙害獣なのかは不明だが気になったメテオマンは即座に宇宙船から脱出する。
「巨大生命体は?」
宇宙船の甲板から周囲を警戒するのだが巨大生命体は確認出来ない。
「逃げられたか…」
落胆したメテオマンであったが…。突如として宇宙船の周囲より八体のワーム型巨大生命体が出現したのである。
「なっ!?巨大生命体が…八体も出現するなんて…」
先程出現したワーム型の巨大生命体でありメテオマンは驚愕する。
「巨大生命体が八体同時に出現するとは…」
(八体の巨大生命体を同時に相手するのは…私でも簡単には仕留められないな…)
すると巨大生命体は口先より高エネルギーの光弾を発射したのである。
「なっ!?」
(攻撃か!?)
メテオマンは飛行により即座に回避…。攻撃には回避するも巨大生命体の八体同時攻撃により宇宙船はバラバラに破壊されたのである。
「宇宙船が簡単に破壊されるとは…」
海面上には無数の金属類の破片が飛散する。
メンテ
アルセイス ( No.92 )
日時: 2021/09/15 15:26
名前: 月影桜花姫

第一話

実験室

世界暦八百七年五月十四日の出来事である。超大国『レムリア共和国』イーストサイドの無人化したスラム街にて三人組の女学生達が潜入する。彼女達は恐る恐る荒廃した商店街へと潜入するなり…。
「アンデッドとか…出現しそうだね…」
気弱の女学生がボソッと発言する。すると小柄の女学生が笑顔で返答したのである。
「勿論心霊スポットだからね♪面白そうな場所でしょう♪」
「人気が感じられないわ…」
数年前は数人の貧困者達が生活したのだが…。今現在では正真正銘ゴーストタウンであり生活者は誰一人として確認出来ない。
「噂話では住民達は自殺したとか…」
「えっ…」
彼女達は戦慄したのかゾッとする。
「自殺した貧困者のアンデッドとか出くわしちゃうかも知れないわね♪」
金髪の女学生が揶揄したのである。
「【クリスティーヌ】!」
クリスティーヌとは小柄の女学生でありスカイブルーの碧眼と金髪のツインテール…。エメラルドのピアスが特徴的である。女学園ではマドンナ的ポジションでありクラスメートのリーダー的ポジションとして暗躍する。彼女達はヘラヘラするクリスティーヌをギロッと凝視するなり…。ピリピリしたのである。
「冗談だって♪冗談♪あんた達は冗談も理解出来ないの?」
「クリスティーヌ…私達を不安がらせないでよね…」
「御免なさいね♪」
「目的地は?」
「墓場の地下壕よ♪」
「墓場の地下壕?」
「墓場の地下壕は近頃アンデッドが出現するらしいのよね♪」
「墓場の地下壕って…あんたも悪趣味ね…」
近年…。イーストサイドの墓場では無数のアンデッドが出現するとの噂話が各地で頻発したのである。クリスティーヌの発言に女学生達はビクビクする。
「ビクビクしなくても大丈夫よ♪」
「何が大丈夫なのよ?」
「目的地に到達すれば…理解出来るからね♪」
クリスティーヌは笑顔で発言したのである。彼女達は不思議がるものの…。沈黙した様子で目的地である墓場の地下壕通用口へと到達する。するとクリスティーヌはヘラヘラした様子で…。
「【アルセイス】♪到着したわよ♪」
地下壕通行口の左側に隣接する墓石の片隅より非常に小柄の女学生がソワソワした様子で彼女達に近寄る。
「誰かと思いきや…」
「アルセイスだったの?」
アルセイスとは茶髪のストレートロングが特徴的の女学生であり両目は赤色のレッドアイ…。学生服はロングスカートである。茶髪の頭髪には三日月型のヘアアクセサリーと耳朶には金剛石のイヤリングが確認出来る。体格的には小柄であるものの…。スタイルは非常に抜群であり巨乳の乳房が非常に魅力的である。
「誰かと思いきや…弱虫のアルセイスじゃない…」
「如何してアルセイスがこんなスラム街に?」
アルセイスは人一倍気弱の性格であるものの…。異質的雰囲気からか女学園のクラスメート達からは弱虫と揶揄される。こんなアルセイスをクリスティーヌは人一倍気に入らなかったのか誰よりも彼女を毛嫌いしたのである。クリスティーヌは悪友達にヒソヒソするなり…。
「墓場の地下壕にアンデッドが出現するか如何なのか…アルセイスに確認させるのよ♪」
「アルセイスに?大丈夫なの?」
「アルセイスは人一倍弱虫だから一目散に逃走しそうだけどね?」
「正直アンデッドなんて噂話でしょうし♪何よりもアルセイスの醜態を観察出来るからね♪最高でしょう♪」
「醜態って♪面白いけどクリスティーヌって本当に悪趣味ね…」
クリスティーヌがイーストサイドのスラム街に訪問した本当の目的とはアルセイスを揶揄したいからでありアンデッドが出現するか如何なのかは彼女にとっては問題外だったのである。
「私にとってアルセイスは人一倍鬱陶しくて目障りだったからね♪」
ビクビクした女学生達は内心ホッとしたのか一安心する。
「アルセイスだけが地下壕を確認するなら…一安心だね♪」
クリスティーヌはスタスタとアルセイスに近寄るなり…。
「アルセイス♪」
「えっ?」
アルセイスはソワソワした様子でクリスティーヌを直視する。
「あんたは地下壕でアンデッドが出現するか如何なのかを確認しなさい♪勿論アルセイスに拒否権は無いからね♪」
「えっ…」
アルセイスはビクビクするなり全身が膠着化したのである。
「はっ?何よ?今更反抗期かしら♪」
クリスティーヌはアルセイスの様子に苛立ったのかピリピリする。
「あんたが地下壕を確認しないなら…あんたのヌード写真を学内に♪」
アルセイスはビクッと反応するなり…。恐る恐る地下壕へと潜入したのである。
「最初から素直に服従するのね♪」
すると高身長の女学生が恐る恐るクリスティーヌに発言する。
「クリスティーヌ?本当にアルセイスだけで大丈夫なのかしら?彼女が本物のアンデッドにでも出くわしちゃったら…如何するのよ?」
クリスティーヌは即答したのである。
「あんた達は極度の心配性なのね?大丈夫だって♪アンデッドなんて所詮噂話でしょうに♪アンデッドが本当に実在したとしてもアルセイスは人一倍弱虫だから一目散に逃走するわよ♪」
「アルセイスは鬱陶しいけどさ…今回の出来事が表面化しちゃったら退学は確実よ…最悪私達は逮捕されるかも知れないし…」
「逮捕って…大袈裟ね…」
(えっ…逮捕…)
ヘラヘラするクリスティーヌであるものの…。逮捕の一言により一瞬ビクッと身震いしたのである。
「あんた達は本当に大袈裟ね!大丈夫だって…アルセイスが戻ったらちゃんと忠告するし♪彼女は人一倍弱虫だから誰にも喋れないよ♪」
クリスティーヌは苦笑いするものの…。内心では人一倍不安だったのである。数分間が経過するものの…。
「アルセイス…戻らないね…大丈夫かしら?」
「アルセイスなら大丈夫よ!大丈夫だって…」
(アルセイス…如何して戻らないのよ…戻りなさいよ!あんたが無事に戻らなかったら私達は…)
一瞬後悔したのである。すると背後から胸苦しい気配を感じる。
(えっ?胸騒ぎが…一体何かしら?)
背後を確認したいのだが…。極度の戦慄からか身動き出来ない。
「きゃっ!」
「ぐっ!」
二人の悪友達の悲鳴がクリスティーヌの耳元に響き渡る。
(背後では一体何が?)
クリスティーヌは恐る恐る背後を直視…。背後の光景に戦慄したのである。
「えっ…」
(何よ…一体…)
クリスティーヌの背後には血塗れの横たわった二人の悪友達と中心部には鉄仮面と鉄棒を装備した灰白色の迷彩服の巨漢が佇立する。
「誰よ…あんたは…」
鉄仮面の巨漢はスタスタと近寄るなり鉄棒で打撃するものの…。クリスティーヌは咄嗟に回避するなり一目散に逃走したのである。鉄仮面の巨漢は逃走するクリスティーヌを凝視するのだが…。即座に地下壕へと進入する。同時刻…。地下壕へと潜入したアルセイスは外部から彼女達の絶叫に気味悪がる。
「えっ?悲鳴だわ…」
(外部では一体何が…)
一瞬戻ろうか困惑するのだがクリスティーヌに揶揄されたくなったのか地下壕の内部を探索する。すると地下壕の奥底より鉄扉が確認出来る。
(鉄扉だわ…地下室かしら?)
恐る恐る鉄扉へと接近するなり接触する。
「地下壕にこんな代物が…」
背後よりスタスタと人気を感じる。
「誰かが…」
何者かによる跫音によりアルセイスは戦慄するなり…。右側に確認出来る岩陰にて雲隠れしたのである。すると鉄仮面を装着した軍人風の巨漢が鉄扉に近寄るなり左側のスイッチを作動させる。すると鉄扉が自動的に開放されたのである。鉄仮面の巨漢は周囲を警戒するものの…。即座に地下室へと進入したのである。
「兵隊さんかしら?」
気になったアルセイスは恐る恐る鉄扉へと近寄る。
「一体何かしら?」
即座に左側のスイッチを再作動するなり…。恐る恐る地下室へと潜入する。地下室は非常に近未来的であり室内全体が機械式だったのである。
(研究所みたいね…)
人気は感じられなかったのか彼女は一安心…。室内を探索する。すると密室へと入室したのである。密室は暗闇であったものの…。彼女が密室に入室すると室内のシーリングライトが自動的に作動したのである。密室には大量の水槽と切断された人間の手足やら生首は勿論…。摘出された無数の脳味噌やら内臓が確認出来る。
「きゃっ!」
アルセイスは人間の手足と内臓を凝視するなり驚愕したのである。
「えっ…本物なのかしら?」
(人間の…臓器だよね?)
アルセイスは極度に気味悪がるものの…。恐る恐る水槽の内臓やら切断された手足を凝視する。
(如何してこんなにも人間の手足とか内臓が…)
アルセイスは戦慄したのか自宅に戻りたくなる。
「即刻戻らないと…」
(パパもママも心配するわよね…)
墓場に戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
(誰かしら?)
背後より何者かがアルセイスの背中に鈍器で打撃する。
「ぎゃっ!」
彼女はグッタリと横たわったのである。数分後…。密室にて小柄の美青年が入室する。小柄の美青年は銀髪の頭髪とスカイブルーの碧眼が特徴的である。
「【ルーヴェルハルト】補佐官?何事ですか?」
「【ブラッドフォード】総帥…侵入者です…」
ブラッドフォードは気絶したアルセイスを凝視するなり…。
「彼女は…女学生でしょうか?」
(彼女は絶世の女神様を想念させる雰囲気ですな♪)
ブラッドフォードは彼女に見惚れる。
「彼女は部外者ですからね…私が仕留めました…」
「こんな女学生を相手に随分乱暴ですね…ルーヴェルハルト補佐官は…」
「私達のシークレットベースが世間で露呈されると非常に不都合でしたからね…相手が女学生でも仕留めなければ厄介でしょう…」
「彼女は殺害したのですか?」
ブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「気絶させました…彼女を殺害しましょうか?」
「彼女を殺害するのは非常に勿体無いですよ…」
「勿体無いと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「彼女を実験体に適用するのが好都合かと♪」
「彼女を実験体に利用するのですか?」
「彼女は絶世の美少女ですからね♪是非とも彼女を実験体として役立てるのが適切でしょう♪」
ブラッドフォードとルーヴェルハルトは即刻気絶したアルセイスを恐る恐る実験室へと連行したのである。するとブラッドフォードは恐る恐ルーヴェルハルトに問い掛ける。
「外部の薄汚い女学生達は如何されましたか?」
「二人の女学生は撲殺しましたが…金髪の女学生は見逃しました…」
「見逃したって?非常に不都合ですね…」
ブラッドフォードは困惑したのである。
「生憎ですが…金髪の女学生は非常に機敏でしたからね…」
「機敏でしたか…」
ルーヴェルハルトの屁理屈に内心苛立ったものの…。ブラッドフォードは無表情で反応したのである。
「ですが一人の不良少女がシークレットベースの居場所を告発したとしても武装警察隊は出動しないでしょうからね♪」
武装警察隊とはレムリア共和国の防衛組織であり屈強の警察力と国防力の両方を保有化する。正式名はレムリア共和国武装警察隊である。楽観視すルーヴェルハルトであるものの…。ブラッドフォードは無表情で承諾したのである。
「承知しました…」
(ブラッドフォード総帥…)
無表情のブラッドフォードにルーヴェルハルトは一瞬ビクッと身震いする。ブラッドフォードは実験用の注射器を所持したのである。
「彼女に純血の魔女の血液を注入させますね…」
恐る恐るアルセイスの左手の手首に魔女の血液を注入させる。
「ブラッドフォード総帥…今回は大丈夫でしょうか…」
ブラッドフォードとルーヴェルハルトはビクビクしたのである。数秒後…。
「彼女は…破裂しませんね…」
ブラッドフォードは一安心したのか深呼吸したのである。
「如何やら彼女の肉体は魔女の血液と適合したみたいですね…」
ルーヴェルハルトも一安心したのかホッとする。
「肉体が破裂しなかったですからね…」
魔女の血液を注入された人間は数秒後全身の肉体が肥大化した状態で破裂…。実験台に利用された人間は誰しもが変死したのである。今回はアルセイスに魔女の血液を注入するが…。アルセイスの肉体は破裂しなかったのであルーヴェルハルトは即座にアルセイスの心拍数を測定する。
「彼女の心拍数は正常値です!」
「如何やら彼女は唯一の成功例ですね!」
ブラッドフォードとルーヴェルハルトは大喜びしたのである。
「不老長寿も現実化しますな♪」
ブラッドフォードは再度注射器を所持すると恐る恐るアルセイスの血液を採血する。
「不老長寿の実現は勿論ですが…何よりも屈強なる戦闘員達の育成化にも役立てるでしょうね♪」
「ルーヴェルハルト補佐官…私達は即刻総本部に戻りましょう…」
「えっ?総本部ですと?」
「シークレットベースが部外者に熟知されましたからね…本日よりシークレットベースは閉鎖させましょう…」
「えっ!?閉鎖ですと!?」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。
「魔女の実験体から血液を入手出来ましたし…何よりも部外者に私達の居場所を熟知されたのでは非常に厄介ですからね…」
ルーヴェルハルトは謝罪する。
「私が部外者を見逃さなければ…」
ブラッドフォードは笑顔で発言したのである。
「ルーヴェルハルト補佐官♪気にしなくても大丈夫ですよ♪」
「ブラッドフォード総帥…」
ルーヴェルハルトはホッとしたのか一安心する。
「魔女の実験体は如何されますか?」
「彼女は外部の墓場にでも熟眠させましょう…」
ブラッドフォードとルーヴェルハルトは気絶したアルセイスを墓場にて処分するなり即刻シークレットベースから脱出したのであルーヴェルハルトは撲殺した二人の女学生達を凝視するなり…。
「ブラッドフォード総帥?二人組の女学生は如何しましょうか?」
「武装警察隊に察知されては傍迷惑ですからね…彼女達は総本部の焼却炉で焼却処分しましょう…」
「隠蔽ですね…」
彼等はシークレットベースに配備されたスカイカーのトランクに撲殺した女学生達を留置させる。
「脱出しましょうか…ルーヴェルハルト補佐官…」
「勿論ですとも…」
ブラッドフォードとルーヴェルハルトが地下壕のシークレットベースから脱出してより数分後…。アルセイスは恐る恐る目覚める。
「えっ?私は一体?」
アルセイスはハッとしたのか周辺を警戒する。地下壕の通行口には血痕が確認出来る。
「きゃっ!」
血痕を凝視するなりアルセイスは戦慄したのである。
(如何してこんなにも血痕が…一体何が?)
「誰か出血したのかしら?」
アルセイスは戦慄するものの…。
「戻らないとパパとママが心配するし…」
地下壕の通行口の血痕が非常に気になるものの時間帯は夕方でありアルセイスは一目散に自宅へと戻ったのである。
「お帰りなさい♪アルセイス♪」
母親の【ソフィリア】が笑顔で彼女を出迎える。
「ママ…」
アルセイスは無表情でソフィリアを凝視する。
「如何しちゃったのよ?アルセイス?大丈夫かしら?」
ソフィリアの質問にアルセイスは無表情で即答したのである。
「別に…何も…」
ソフィリアは恐る恐る問い掛ける。
「最近女学園は如何なのよ?」
アルセイスは数秒後…。ボソッと返答する。
「別に…何も無いけど…」
アルセイスは即座に自室へと戻ったのである。翌朝…。アルセイスはリビングルームへと入室するなり母親のソフィリアと父親の【ウィグノール】に挨拶する。
「パパ…ママ…お早う…」
「アルセイスか…お早う♪」
「お早う♪アルセイス♪」
ソフィリアとウィグノールは笑顔でアルセイスに挨拶したのである。ソフィリアは彼女に朝食を用意する。モーニングメニューはハムエッグとアルセイスの大好きなメロンパンである。
「私の大好きなメロンパンだね♪」
アルセイスは笑顔でメロンパンをペロリと平らげる。
「メロンパンを一瞬で平らげるなんてね…」
ソフィリアは苦笑いする。するとウィグノールは新聞紙を黙読するなり…。
「近頃は物騒だな…」
「物騒って何が物騒なの?」
問い掛けるアルセイスにウィグノールは即答する。
「レムリア解放軍って名乗るテログループだよ…」
「レムリア解放軍ですって?」
「レムリア解放軍って…世界一の大富豪って噂話のブラッドフォードの私兵集団だったわよね…」
「ブラッドフォード?大富豪?」
レムリア解放軍とは世界一の資産家である大富豪ブラッドフォードが独自の財力によって武装化した過激派のテログループである。長期化した不景気の悪影響からか総人員は日に日に拡大化…。国全体を牛耳るレムリア共和国武装警察隊総本部もブラッドフォードのレムリア解放軍には警戒中である。
「最近武装警察隊の兵隊さんが田舎町もパトロールするのはテログループの活動が頻発したからなのね…」
「武装警察隊も大変だよな…」
するとアルセイスは新聞紙に注目する。新聞紙には昨晩レムリア解放軍所属の工作員によるウエストサイド武装警察隊総司令部銃撃戦が記載されたのである。
「昨晩もね…」
「ウエストサイドの武装警察隊総司令部もレムリア解放軍の工作員に襲撃されたらしいからな…」
近頃はブラッドフォードのレムリア解放軍によるテロリズムが各区域内で頻発…。レムリア共和国全域を震撼させたのである。
「武装警察隊の総司令部が?」
「総司令部は無事だったらしいが…テログループの襲撃で数人の警備兵が殉職しちまったらしい…」
「武装警察隊の兵隊さんも人間だからね…兵隊さんの家族は悲痛よね…」
ソフィリアはアルセイスを凝視するなり…。
「アルセイスはテログループなんかに殺されないでよ…アルセイスが殺されちゃったら私達は…」
「俺達にとってアルセイスは唯一の愛娘…宝物だからな♪」
「パパ…ママ…」
アルセイスは赤面する。
「私なら大丈夫だよ♪」
ハムエッグをペロリと平らげるなり一目散に女学園へと通学する。
「クリスティーヌちゃんは?」
無事女学園へと通学するものの教室にはクリスティーヌは勿論…。悪友の二人組は欠席したのである。クリスティーヌは極度の精神病により長期間の入院…。悪友の二人組は武装警察隊が居場所を捜索するのだが結局今現在も彼女達の居場所は不明である。こんなにも物騒であったものの…。アルセイスは内心ホッとしたのである。

第二話

閃光

問題児のクリスティーヌが入院してより三日後の五月十七日の早朝…。
「はぁ…ズキズキするわ…」
(頭痛かしら…)
アルセイスは早朝から頭痛が頻発したのである。アルセイスはリビングルームのソファーベッドにて極度の頭痛によりグッタリと横たわる。すると早朝からグッタリするアルセイスを心配したのか母親のソフィリアが恐る恐る彼女に近寄る。
「アルセイス?大丈夫?」
「頭痛かしら…早朝からズキズキするの…」
ソフィリアは体温計で恐る恐るアルセイスの体温を測定する。数秒後…。体温計がピピッと電子音が反応したのである。
「微熱みたいね…」
「えっ…微熱?」
「今日は欠席しなさい…女学園には私が連絡するから…」
「ベッドで睡眠するよ…」
アルセイスはフラフラした状態で自室のベッドにてグッタリと横たわる。父親のウィグノールが起床するなり…。リビングルームに入室する。
「お早う♪ソフィリア♪」
ウィグノールは笑顔で挨拶したのである。
「お早う…ウィグノール…アルセイスが微熱みたいなの…」
「えっ?アルセイスが微熱なのか…心配だな…」
「一日だけど欠席させるわね…」
「微熱でも悪化すると大変だからな…今日は仕方ないな…」
ソフィリアもウィグノールも微熱のアルセイスを心配する。朝食後…。ウィグノールはアルセイスの自室のドアをノックするなり恐る恐る入室したのである。
「お早う…アルセイス…」
「パパ…お早う…」
「微熱みたいだな…大丈夫なのか?」
アルセイスは苦笑いするなり返答する。
「大丈夫よ…頭痛だけだからね…心配させちゃって御免なさいね…パパ…」
「気にするな♪」
するとウィグノールは笑顔で…。
「本日はアルセイスの誕生日だったな♪アルセイスも十五歳とは…アルセイスの大好きなショートケーキとプレゼントを用意しないと♪」
「パパ♪」
「俺は出勤するが…アルセイスは睡眠しろよ♪微熱でも油断大敵だからな…」
「勿論よ♪」
ウィグノールは職場へと出勤したのである。すると母親のソフィリアがドアをノックするなり入室する。
「アルセイス♪」
「何よ…ママ?」
数秒後…。
「ハッピーバースデー♪アルセイス♪」
「ママ♪」
「誕生日だったわね♪アルセイス♪」
「御免なさいねママ…今日は私の誕生日なのに微熱なんてね…正直災難よ…」
アルセイスは苦笑いしたのである。
「誕生日パーティーは後日にでも♪」
「微熱だしね…」
「フルーツポンチでも如何かしら?」
「用意して…」
ソフィリアはキッチンルームにてフルーツポンチを用意する。同時刻…。ウエストサイドのレムリア解放軍総本部ではとある新型巨大兵器の秘密実験が発動されたのである。とある新型巨大兵器とはレムリア解放軍が異国の民間型軍事会社との協力により開発された通称『ケラウノス』…。正式名は超弩級サテライトキャノンである。人工衛星型のデザインであり成層圏で使用される。高エネルギーの閃光を射出させる高エネルギー巨大衛星兵器であり殺傷力のみなら特殊弾道をも上回ると推測されたのである。通常は光学迷彩装置によって武装警察隊のスペースレーダーでは察知出来ない。補佐官のルーヴェルハルトが総司令部専用室へと入室する。
「ブラッドフォード総帥!ケラウノスの発射準備が完了しました!」
「完了したのですね…」
ブラッドフォードは室内に設置されたホログラムで成層圏のケラウノスを確認したのである。
「イーストサイドの成層圏には障害物は無さそうですね…」
するとルーヴェルハルトが恐る恐るボソッと発言する。
「ですがブラッドフォード総帥…無関係の非戦闘員を標的に…こんな代物を使用されるのですか?非人道的かと…」
ルーヴェルハルトは非常に不安がる。
「ルーヴェルハルト補佐官…今更如何されたのですか?」
「私達がレムリア共和国全土を牛耳るにはケラウノスが必要不可欠なのです…イーストサイドの住民達にはモルモットとして活用しなくては…」
ブラッドフォードの目力によりルーヴェルハルトは圧倒される。
「私がシグナルを発動します…私がシグナルを発動させたら即刻ケラウノスを射出するのです…」
「承知しました…ブラッドフォード総帥…」
数秒後…。ブラッドフォードがシグナルを発動する。
「ケラウノスを射出せよ…標的はイーストサイド…」
ルーヴェルハルトは恐る恐る成層圏のケラウノスを発射させる。するとケラウノスの砲口に粒子状の高エネルギーが収縮されたのである。直後…。高出力の高エネルギーがイーストサイドに射出されたのである。成層圏から射出された高エネルギーはイーストサイド全域にてピカッと蛍光色の蛍光体を炸裂させる。
「えっ?一体何かしら…」
自宅にて熟睡中であったアルセイスは蛍光色の蛍光体に接触…。
「きゃっ!」
全身の皮膚から出血するなり全身がブクブクッと肥大化したのである。数秒後…。
「ぎゃっ!」
肥大化したアルセイスの全身がパンッと破裂したのである。室内全域に無数の肉片浄血が散乱する。イーストサイドの居住民達は全身が破裂…。イーストサイドの各地域にて粉砕された人間達の無数の血肉が散乱したのである。レムリア解放軍総本部から偵察用のドローンが出動するなりゴーストタウンへと変化したイーストサイド上空を確認する。ブラッドフォードとルーヴェルハルトはドローンの監視用カメラでイーストサイドの様子を観察したのである。
「ブラッドフォード総帥…イーストサイド全域はゴーストタウンですね…」
ルーヴェルハルトは極度の恐怖心によって全身がプルプルするなりイーストサイドの惨劇に戦慄する。イーストサイドの惨劇を凝視してもブラッドフォードは失笑したのである。
「ケラウノスは人体のみを死滅させる…非常に合理的でしょう!レムリア解放軍は容易にイーストサイドを占拠出来るのですから…」
建造物は勿論…。動植物にはケラウノスの悪影響は皆無であり事実上人間のみを死滅させたのである。
「ケラウノスから炸裂した素粒子はナノレベルで透過します…密閉された地下豪でも絶体絶命でしょう…」
地下室は勿論…。地下鉄の人間達もケラウノスから炸裂したナノレベルの素粒子により死滅させる。レムリア解放軍のデモンストレーションによってイーストサイドは事実上全滅…。推計四百万人の住民が死滅したのである。偵察用ドローンがイーストサイド全域を偵察するものの…。生存者は誰一人として確認されなかったのである。偵察用ドローンが退却してより数分後…。アルセイスの自室にて破裂した無数の肉片が融合化するなり女性の肉体を形作る。融合化した無数の肉片が女性の肉体へと変化したのである。
(私は一体…)
アルセイスは恐る恐る目覚める。全裸状態でありベッドには血塗れのネグリジェが確認出来る。
「如何して私のベッドが血塗れなのよ…」
恐る恐る血塗れの室内全域を凝視したのである。
「えっ…」
(如何してこんな…)
アルセイスは非常に気味悪がる。アルセイスは自室の窓側から恐る恐る外部の様子を見据えるなり…。
「きゃっ!」
外部の道路上には無数の肉片やら血肉が散乱する。
「一体何が…」
アルセイスはハッとしたのである。
「ママは!?」
アルセイスは恐る恐るリビングルームへと移動する。リビングルームには血塗れのソフィリアの洋服は勿論…。無数の肉片やら血肉が室内全体に散乱したのである。
「ママ…ママなの…」
肉片を凝視するとピカリと純金のイヤリングが確認出来る。
「ママのイヤリングだわ…」
アルセイスは極度のショッキングにより脳内が可笑しくなる。
「如何してこんな…ママは!?私のママは!?」
アルセイスは全裸の状態であったものの…。自宅から全力疾走する。リビングルームに散乱した血肉がソフィリアであると認識した彼女は極度の戦慄と悲痛さにより涙腺から涙が零れ落ちる。精神的にも肉体的にも疲弊したのか大都市部の道路上にてグッタリと横たわる。
「私は如何すれば…」
すると父親のウィグノールが気になったのかハッとする。
「パパは!?」
周辺は血塗れの洋服やら肉片ばかりで列記とした生存者は誰一人として確認出来ない。
「如何して人間が私だけ…」
(パパは一体…)
アルセイスはウィグノールの勤務先へと疾走する。ウィグノールの職場は自宅から比較的近距離であり数分間で到達する近距離である。数分後…。ウィグノールの勤務先へと到達したのである。
「パパの勤務先だわ…」
ウィグノールの勤務先は超高層型のタワービルであるものの…。誰一人として人気が感じられない。
(アンデッドが出現しそうだわ…)
彼女は恐る恐るタワービルへと潜入したのである。室内には無数の肉片が散乱した状態であり誰一人として生存者は確認出来ない。するとピカリと発光した物体と血塗れのスーツを気になったのかアルセイスは恐る恐る確認するなり…。
「誰のかしら?」
物体を凝視したのである。
「結婚指輪!?」
物体は結婚指輪でありアルセイスは婚約指輪を認識した直後…。
「ひょっとしてパパの婚約指輪かしら…」
彼女はドキドキするなり血塗れのスーツに接触するなりネームプレートを確認する。
「ウィグノール…パパのネームプレートだわ…」
ネームプレートの名称は父親のウィグノールでありアルセイスは絶望したのである。
「パパもママも…如何して私ばかり…」
涙腺から涙が零れ落ちる。アルセイスは無意識的に出歩くなり…。イーストサイドの海岸へと到達する。
「海岸だわ…」
防波堤を注目したのである。
「防波堤…」
(防波堤は幼児期にパパとママと一緒に海面上を眺望したのよね…)
ソフィリアとウィグノールの笑顔を想念するなり極度の悲痛を感じる。
「パパ…ママ…」
無意識的に防波堤へと移動したのである。
「如何して私は防波堤なんかに…」
数分後…。防波堤へと到達する。海面上を直視するなり…。
「私も…パパとママと一緒に…」
彼女はフワッと海面上へと落下したのである。同時刻…。武装警察隊所属の警備艇がイーストサイド近海をパトロールする。警備艇はケラウノスの射程圏外であり影響は皆無だったのである。警備艇の乗組員達はイーストサイド上空の光柱を気味悪がる。四人の乗組員達がヒソヒソと対談するものの一人の乗組員はイーストサイド近海をパトロールする。
(鬱陶しい奴等だな…パトロール中なのに…)
武装警察員の【ストライダー】であり武装警察隊では一匹狼と揶揄される。非常に生真面目であり任務は確実に遂行させるのが彼にとってのモットーである。ヒソヒソと対談し続ける乗組員達に苛立ったのかピリピリする。すると直後である。遠方の海面上より女性らしき物体を直視する。
「なっ!?」
(女性なのか?)
ストライダーは即座に警備艇を急停止させる。
「ん?ストライダー…何事かな?」
「如何して警備艇を急停止させた?」
乗組員達はストライダーの目線を直視するなり…。
「うわっ!」
「彼奴は水死体なのか!?」
彼等は驚愕したのである。
「貴様達…談笑しないで女性を救出しろ…」
ストライダーの目力に圧倒されたのか彼等は女性を救出する。
「女の子みたいだな…」
女性は小柄の美少女であり全裸だったのである。彼女の両目は瞑目した状態であるものの…。突発的に深呼吸したのである。
「生存者だったのか…」
彼等は少女の様子に一安心する。すると少女は両目が開眼するなり恐る恐る周囲を警戒した様子で警備艇の乗組員達を凝視したのである。ストライダーは恐る恐る少女に名前を問い掛ける。
「貴様の…名前は?」
「私は…アルセイス…レムリア女学園の…女学生です…」
「あんたは女学生だったのか…」
アルセイスは無事に救出されたものの…。彼女は精神的に可笑しくなりサウスサイドの精神科にて入院したのである。翌日…。ウエストサイドのレムリア解放軍総本部からイーストサイド突撃隊が出動するなり電撃的にゴーストタウンのイーストサイドへと進軍したのである。イーストサイドは武装警察隊の駐留地であり今回のケラウノス発射によって武装警察隊駐留軍は全滅…。レムリア解放軍はノーダメージでイーストサイド全域を攻略出来たのである。イーストサイドが占拠されてよりレムリア解放軍の快進撃が本格化する。今回の大事件は五月十七日事件と呼称されたのである。五月十七日事件の後日…。ウエストサイドのレムリア解放軍総本部にてローブの人物が訪問したのである。ローブの人物がコンッとブラッドフォードの専用室の鉄扉をノックする。
「失礼する…」
「誰かと思いきや…ハイドマンでしたか…」
「如何やら俺の提供したケラウノスでイーストサイドは死滅したみたいだな…」
「ケラウノスの殺傷力は予想外でしたよ…是非ともハイドマンには感謝しなければ♪」
ハイドマンとは極悪非道の武器商人であり彼自身の詳細を熟知するのは契約者のブラッドフォードと補佐官のルーヴェルハルトのみである。もちろんハイドマンは偽名でありブラッドフォードとルーヴェルハルトのみがハイドマンの本名と正体を熟知する。
「武装警察隊もパニック状態だからな♪ブラッドフォードにとっても好都合だろ…」
今回の五月十七日事件により武装警察隊は混乱の状態である。自国内の経済的ダメージも莫大であり物流も一時的にストップ…。国全体が混乱したのである。
「所詮武装警察隊の首脳陣も無能で無責任だからな…」
「ですがハイドマンからこんなにも無尽蔵の新型兵器を提供されましたが…私は負担金を提供しなくても大丈夫なのでしょうか?」
ハイドマンは即答する。
「安心しろ…負担金は不要だ…俺は腐敗した武装警察隊総本部を徹底的に破滅させたかったからな…」
「私達は是非とも武装警察隊総本部を失脚させますよ♪」
「俺はあんたを見届けるよ♪レムリア共和国の主導権を掌握しろよ♪」
「勿論ですとも♪」
ブラッドフォードは笑顔で返答したのである。
「本来私の血族は王族ですからね…」
「あんたは王族の末裔だったのか?」
「勿論ですとも♪私は王政復古によって君主制のレムリア王国を復活させたいのですから…」
三百年前のレムリア共和国は君主制のレムリア王国であったが…。大勢の民衆達と逆賊の軍人達によって組織された義勇軍によりレムリア王国は事実上滅亡する。民衆達を圧制した王族達は過半数が自国民により処刑され…。ブラッドフォードは唯一国外へと亡命した王族の末裔だったのである。
「今現在のレムリア共和国の国民性なら…あんたみたいな独裁者が必要不可欠なのかも知れないな…誰一人として歴史学と政治学には無関心だからな…」
「所詮は愚民ですからね…レムリア共和国をリニューアルしなくては…」
ブラッドフォードは内心ワクワクする。ハイドマンは恐る恐る発言したのである。
「心配なのは…実験体の小娘だな…」
「実験体の小娘ですと?」
「不老長寿の戦闘員育成化プランで実際体に利用した小娘だよ…」
「彼女ですか…彼女が如何されたのですか?」
「事件当日だが…あんたが実際体に利用した小娘がイーストサイド近海で武装警察隊に救出されたぞ…」
「なっ!?救出ですと!?」
ハイドマンの発言にブラッドフォードは驚愕する。
「彼女はイーストサイドの居住者ですよね?ケラウノスを照射されても生還したのでしょうか…」
純血の魔女の血液に適合した人間はケラウノスでも殺せなかったのである。今回の事例で判明する。
「魔女の生命力は予想外だな…」
「ですが本当に彼女だったのですか?偵察用のドローンでは誰一人として生存者は確認出来ませんでしたが…」
ブラッドフォードは疑問視したのである。
「近海では全裸の状態だったらしいからな…ケラウノスに直撃したのは確実だな…」
ハイドマンは恐る恐る…。
「ひょっとするとケラウノスに照射された直後だが…」
「直後に?」
「バラバラの肉体が元通りに戻ったのかも知れない…」
「純血の魔女の血液ですからね…肉体がバラバラに粉砕されても元通りに戻りそうですね…」
(如何やら彼女は無事みたいですね♪)
不思議がるブラッドフォードであるが内心ホッとしたのである。
「ん?」
(ブラッドフォードの様子が可笑しいな…)
ハイドマンはブラッドフォードの様子に一瞬不思議がるものの…。ソッとしたのである。するとハイドマンは恐る恐るブラッドフォードに警告する。
「警告するぞ…ブラッドフォード…」
「警告ですか?」
ハイドマンは一息するなり…。
「実験体の小娘は要注意だからな…」
「要注意って…如何してハイドマンは彼女を警戒するのですか?」
問い掛けられたハイドマンは恐る恐る返答する。
「復讐されるかも知れないからな…今回のケラウノスの攻撃によって四百万人以上の人間達を虐殺した…彼女の家族だって同条件だろう…」
「ですが彼女は女学生ですし…魔女の実験体だったとしても私に復讐するなんて出来るのでしょうか?」
「レムリア解放軍のノータリンが情報を漏洩しなければ大丈夫だろうが…」
ブラッドフォードはピクッと反応したのである。事実…。彼にとって信頼出来る人間は唯一補佐官のルーヴェルハルトのみでありレムリア解放軍の志願兵には誰一人として信用出来なかったのである。
「今現在彼女の所在は?」
「彼女ならサウスサイドの精神科で入院中らしいが…」
「サウスサイドでしたか…」
今現在サウスサイドにはレムリア解放軍の工作員は皆無でありブラッドフォードは一安心する。
「サウスサイドには武装警察隊の革命派が配備中だからな…彼等が小娘に接触したら非常に厄介ですね…」
革命派とはレムリア共和国武装警察隊所属であるものの…。武装警察隊総本部を陥落させたい過激派勢力である。ブラッドフォードのレムリア解放軍とは利害が一致…。彼等とは事実上協力関係である。
「正直彼等も信用出来ませんね…」
「奴等も信用出来ないなら…実験体の小娘を暗殺するか?」
ハイドマンは恐る恐るボソッと発言したのである。
「暗殺って…」
暗殺の一言によりブラッドフォードはビクッと反応する。
「ん?彼女を暗殺したら…ブラッドフォードにとって不都合でも?」
「失礼…ですが今現在国全体が混乱中ですし…サウスサイドで暗殺事件を頻発させれば私達にとっても不都合でしょう…」
現段階でも戦力的には武装警察隊が数倍上回る。こんな状態からサウスサイドでテロ事件を頻発させれば敗走するのは確実である。
「現段階では軍備を増強化させましょう…」
「軍備を増強化させたいなら自国内だけではなく…他国の軍需産業にも協力させなければ…」
レムリア共和国は歴史的に他国でも不信感が根強い。レムリア共和国の武装警察隊総本部を陥落させるなら他国の軍需産業も大喜びで協力するのではと想定する。
「海外の軍需産業には俺が説得する…あんたは自身の財力でレムリア解放軍の軍備を増強化しろ…」
「承知しました…」
レムリア解放軍の軍備の増強化が推進される。

第三話

夜襲

五月十七日事件から一年後の出来事である。勢力を拡大化させたブラッドフォードのレムリア解放軍は世界各国に宣戦布告…。第二次世界戦争が勃発したのである。レムリア解放軍は大量生産したケラウノスにより世界各地の大都市部を総攻撃…。推計五十億人以上の人間達が死滅したのである。世界各地の大都市部は荒廃…。ゴーストタウンへと変化する。第二次世界戦争はケラウノスの大量投入によるレムリア解放軍の圧倒的勝利に終結…。レムリア共和国を除外する各国は弱体化したのである。事実上全世界の覇権を牛耳った大富豪のブラッドフォードであるが…。レムリア共和国国内にはブラッドフォードに抵抗する勢力が各地で活動したのである。第二次世界戦争が終結してからもレムリア共和国国内ではレムリア解放軍とレムリア共和国武装警察隊の内戦が頻発する。大量破壊兵器ケラウノスによる五月十七日事件から十五年後…。国全体が内戦状態であり大勢の国民達がレムリア解放軍の襲撃に戦慄したのである。サウスサイドのとある教会堂にて一人の修道女が教会堂を清掃する。
「着実に清掃しないと神父様に怒号されるからね♪」
修道女はルンルンした気分で教会堂を清掃したのである。一時間後…。
「終了♪終了♪」
清掃が終了する。時間帯は真夜中であり教会堂は彼女のみである。
「真夜中かしら…」
彼女は事務室へと移動するなり日程表を確認する。
「明後日は定休日だけれども…」
(近頃はテロ事件で物騒だからね…旅行も出来ないわよね…)
不機嫌であるものの…。修道女は自宅へと戻ったのである。彼女は両親との家族写真を凝視するなり涙腺から涙が零れ落ちる。
「パパ…ママ…」
(私のパパとママは…)
彼女の両親は十五年前の五月十七日事件にて死去したのである。結局両親の遺体は区別出来なかったものの…。イーストサイドでは生存者は皆無であり彼女の両親は即死と断定される。彼女にとって五月十七日事件は修道女として活動する人生最大の契機だったのである。
「今現在私に出来るのは…」
(十五年前の五月十七日事件で死去された犠牲者達のレクイエムよね…)
すると腹部がググっと響き渡る。
「空腹かしら…」
(出勤中は何も食事しなかったからね…)
彼女は冷蔵庫からハンバーグステーキとロゼワインを用意する。数分間で平らげる。
(食事したし…入浴しないとね…)
即座に入浴したのである。入浴してから彼女は即座に睡眠する。翌朝の早朝…。彼女は出勤したのである。すると教会堂にて神父と対面するなり挨拶する。
「お早う御座います…神父様…」
「お早う御座います…クリスティーヌさん…」
修道女とはアルセイスと同級生であったクリスティーヌであり精神科に退院後…。今迄のアルセイスに対する悪行と両親の死別によって修道女の勉学をスタートしたのである。
「如何されたのですか?神父様?」
神父は戦慄した表情で…。
「今現在は各地で内戦が継続中ですが…近頃は何者かによって資産家達が暗殺される連続殺人事件が頻発しましたからね…」
各地でレムリア解放軍と武装警察隊との内戦は継続中であるものの…。レムリア解放軍に関係する資産家達が何者かによって暗殺される連続殺人事件も頻発したのである。
「暗殺ですって?誰が彼等を…」
「武装警察隊も調査中ですが…殺人犯が誰なのかは不明みたいです…」
(一体誰かしら?)
クリスティーヌは気になる。
「正直私は心苦しいのです…如何して人間達は殺し合うのでしょうか?」
神父がクリスティーヌに問い掛ける。問い掛けられたクリスティーヌは一瞬ビクッと反応するものの…。恐る恐る返答したのである。
「所詮人間は強欲だからでは?今迄の歴史学でも人類史は戦乱の時代ばかり…欲深い人間が指導者だったから殺し合うのでしょうかね?貧困とかも戦乱の原因かしら…正直私には何が何やらサッパリですが…」
クリスティーヌは非常にビクビクするものの…。神父は微笑む。
「クリスティーヌさん…感謝しますよ♪クリスティーヌさんは誰よりも人格者ですからね!是非とも荒廃した世界にピースワールドを実現させましょう♪」
(私みたいな陰湿人間が人格者って…神父様は大袈裟ね…)
クリスティーヌは苦笑いする。真夜中…。クリスティーヌは着実に教会堂を清掃したのである。
「清掃したら…即刻戻りましょう…」
ルンルンした気分で清掃するものの…。直後である。
「きゃっ!」
近辺から爆発音が響き渡る。
「爆発音かしら!?」
(ひょっとして内戦かしら!?)
クリスティーヌは戦慄したのか全身がガクガクして身動き出来なくなる。すると外部から大勢の住民達の悲鳴が響き渡ったのである。
(外部では一体何が…)
クリスティーヌは一歩ずつドアに近寄るなり…。恐る恐る外部を直視する。直後…。彼女は戦慄したのである。
「如何してこんな…」
近辺の建造物が火災により燃焼する。
(私も…)
すると燃焼する建造物のドアより火達磨の人間が出現したのである。
「何よ…」
(ゴースト!?)
最早老若男女の区別は不可能でありズルズルと教会堂のドアへと近寄る。戦慄したクリスティーヌは即座にドアをロックするなり教会堂の隅っこへと移動したのである。
「私は如何すれば…」
突然…。何者かによって左側のステンドグラスが粉砕される。
「きゃっ!誰よ!?」
ステンドグラスを粉砕したのはバズーカ砲らしき装備品を武装した大柄の兵隊であり灰白色の迷彩服…。ヘルメットは非常に近未来的である。
「武装警察隊かしら?」
「武装警察隊だと?人違いだな…俺はレムリア解放軍のレジスタンスだよ♪」
「レムリア解放軍ですって!?」
彼女はレムリア解放軍に反応する。
(レムリア解放軍って…第二次世界戦争を勃発させた奴等ね…)
「あんたはテロリストね!?」
「なっ!?テロリストだと!?貴様…」
敵兵はカチンとしたのかクリスティーヌに近寄るなり…。
「薄汚い修道女が…死滅しやがれ!」
バズーカ砲をクリスティーヌの顔面に密着させる。
(私…殺されちゃうのね…)
クリスティーヌは覚悟する。すると突然…。右側のステンドグラスが何者かによって粉砕されたのである。
「なっ!?」
「今度は誰かしら!?」
背後の人物に敵兵は勿論…。クリスティーヌも反応する。
(ひょっとして女性かしら?)
周囲は真夜中であり人物が何者なのかは不明であったものの…。シルエットから小柄の女性であると認識したのである。彼女の左手には銀色の刀剣が確認出来る。
「貴様は一体何者だ?」
すると小柄の女性が発言する。
「レジスタンスの兵隊さんが…修道女の女性を相手に手出しするなんてね…本当に外道だわ…」
彼女の発言に敵兵はピリピリしたのである。
「誰かと思いきや小娘か…如何やら貴様も打っ殺されたいらしいな…」
「出来るかしら?テロリストの分際で…」
「テロリストだと?」
小柄の女性は超音速のハイスピードで敵兵の背後に急接近するなり…。敵兵の背中にポンッと接触したのである。
「なっ!?貴様一瞬で!?」
「えっ!?一体何が!?」
敵兵とクリスティーヌは彼女のハイスピードを直視…。驚愕したのである。
「貴様…怪物なのか!?」
「私を怪物なんて…失礼しちゃうわね…私は普通の人間よ…」
刀剣で敵兵を斬撃…。瞬殺したのである。
「ぐっ!」
斬殺された敵兵はグッタリと横たわる。戦慄するクリスティーヌであるもの…。小柄の女性を凝視した直後である。
「えっ…あんたって…」
彼女にとって非常に衝撃的であり全身がプルプルと身震いする。
「ひょっとしてアルセイス…アルセイスなの!?」
赤色のロングドレスと茶髪のストレートロングと金剛石のイヤリング…。赤色の口紅と紅色のレッドアイズから彼女が同年齢のアルセイスであると再認識したのである。クリスティーヌにとっては非常にギスギスした雰囲気であったものの…。アルセイスは笑顔で微笑む。
「久し振りね♪クリスティーヌちゃん♪大丈夫?」
笑顔のアルセイスに一安心したのかクリスティーヌは内心ホッとしたのである。
(アルセイス…)
すると涙腺から涙が零れ落ちる。
「アルセイス…私は女学園時代に…あんたを…本当に御免なさいね…」
「クリスティーヌちゃん…気にしないで♪」
アルセイスは特段気にならなかった様子である。
「所詮大昔の出来事だし…」
「アルセイス…」
(アルセイスは人一倍大らかなのね…)
クリスティーヌは大らかなアルセイスに感心する。
(アルセイスの先程の身動きは人外だったわ…女学園時代では勉学は勿論…運動さえも人一倍苦手だった彼女が如何して?)
クリスティーヌは恐る恐るアルセイスに問い掛ける。
「先程のアルセイスの身動きは常人とは桁違いだったけど…ひょっとしてあんたはドーピングしたの?」
「ドーピングって…」
ドーピングの一言にアルセイスはプスッと苦笑いする。
「正直私にも何が何やらサッパリなのよ♪」
アルセイス自身も如何してこんなにも規格外にパワーアップしたのか正直不明だったのである。
「五月十七日事件の数日後かしら?全身の違和感を自覚し始めたのよね…」
「違和感ですって?」
「外傷が一瞬で治癒するとか…超音速で移動出来るとか…」
非常に曖昧であり正直クリスティーヌは理解出来ない。
「五月十七日事件って…イーストサイドに在住した人間達は無数の肉片と血液に変化したみたいだけど…事件当日アルセイスは?」
アルセイスは即答する。
「当日の私は自宅で休眠中だったのよ…事件当日は体調不良で女学園を欠席しちゃったからね…」
クリスティーヌは驚愕したのである。
「欠席ですって!?」
(アルセイスはイーストサイドで…如何してアルセイスだけが無事なのかしら?)
世間ではイーストサイドの住民達は全滅したとの認識であったが…。如何してアルセイスのみが無事だったのかクリスティーヌは非常に不思議がる。クリスティーヌは恐る恐る質問したのである。
「如何してアルセイスは無事だったの?」
アルセイスは非常に困惑する。
「御免なさい…正直私にも…」
「返答出来なかったら…返答しなくても大丈夫だからね…気にしないで…」
クリスティーヌは無理強いしなかったのである。
「御免なさいね…クリスティーヌちゃん…」
するとアルセイスの表情が険悪化する。
「本題だけどね…私は奴等に復讐するの…」
「えっ?奴等に復讐?」
アルセイスは一息するなり…。
「五月十七日事件はね…レムリア解放軍のテロリスト達は勿論…武装警察隊の革命派の陰謀らしいのよ…」
「えっ…武装警察隊の革命派ですって!?」
クリスティーヌはゾッとする。
「全世界の覇権を牛耳りたいブラッドフォードのレムリア解放軍と…レムリア共和国を牛耳る武装警察隊総本部を陥落させたい武装警察隊の革命派がレムリア解放軍に寝返って…両勢力は一致団結…密集地のイーストサイドをケラウノスって大量破壊兵器で殺戮したのよ…奴等にとって五月十七日事件は単なるデモンストレーションだったのよ…」
「デモンストレーションですって…」
「結局私のパパとママは…奴等のデモンストレーションによって虐殺されたのよ…」
「彼等のデモンストレーションで…アルセイスのパパとママが?」
クリスティーヌは混乱したのである。
「如何してアルセイスが武装警察隊の裏事情を?」
イーストサイド海域にて漂流中だったアルセイスは武装警察隊に救出されてよりサウスサイドの武装警察隊駐屯地にて保全される。駐屯地の密室にて革命派らしき武装警察員達が悪巧みする場面を目撃…。彼等の裏事情を入手したのである。
「私はレムリア解放軍に関係する武装警察隊の革命派と…資産家達の暗殺を決意したのよ…」
クリスティーヌはピクッと反応する。
「ひょっとして最近噂話の暗殺者って…アルセイスだったの!?」
アルセイスは真顔で即答したのである。
「勿論私よ…パパとママを惨たらしく殺した関係者とテロリスト達を私が徹底的に全滅させるの!」
(アルセイス…)
普段は人一倍大人しそうなアルセイスのイメージが大幅に変化する。するとクリスティーヌがボソッと一言…。
「アルセイスも…パパとママが殺されちゃったのね…」
「ひょっとしてクリスティーヌちゃんも?」
「私もパパとママがイーストサイドで殺されたのよ…私が修道女として活動し始めたのはパパとママの死去が契機だからね…勿論女学園時代に悪友達と一緒にアルセイスを揶揄したのも一因だけれども…」
「クリスティーヌちゃん…」
「こんな私に唯一出来るのは…五月十七日事件で死去された犠牲者達のレクイエムかしらね…」
「クリスティーヌちゃんは私とは真逆だね…えっ!?」
「アルセイス?」
アルセイスは警戒するなり周囲をキョロキョロさせる。警戒するアルセイスにクリスティーヌは非常に不安がる。
「レムリア解放軍の軍勢がサウスサイドに進行中だからね…奴等によってサウスサイドが占拠されるのは時間の問題だわ…」
「サウスサイドも!?」
サウスサイドは唯一の安全地帯として有名であったが本日の真夜中よりレムリア解放軍の軍勢が侵入する。
「勿論…」
レムリアは先程仕留めた敵兵のバズーカ砲をクリスティーヌに手渡したのである。
「私に!?」
「護身用よ…」
「バズーカ砲って…随分物騒ね…」
クリスティーヌはハンドガンの使用も未経験であり内心戦慄する。
「私はハンドガンでさえも未経験なのよ…バズーカ砲なんて…」
「大丈夫よ…『レーザーライフル』だから…」
「レーザーライフル?」
レーザーライフルとは別名光線小銃であり高火力の対人レーザーエネルギーを射出する携帯型高エネルギー兵器である。使用法は非常に単純であり非戦闘員でも容易に扱える。
「クリスティーヌちゃん…早速サウスサイドから脱出しましょう…」
クリスティーヌはビクビクした様子でアルセイスの背中に密着するなり…。恐る恐る教会堂から脱出したのである。レムリア解放軍の総攻撃によってサウスサイド全域が主戦場であり住民達は混乱する。武装警察隊の猛反撃により両陣営の死骸が散乱したのである。今迄平穏だったサウスサイドの変化にクリスティーヌは愕然とする。
「ひょっとしてサウスサイドなの…」
道路上には肉片やら血液が散乱したのである。
「きゃっ!」
遠方からは無数の爆発音が響き渡る。
「クリスティーヌちゃん…サウスサイドから脱出するの…最早サウスサイドは主戦場なのよ…」
不本意であるが…。
「アルセイス…承知したわ…」
すると彼女達が通過中の道路上から隣接する超高層型タワービル屋上より強烈なる殺気を感じる。
「えっ!?」
「アルセイス?」
アルセイスの表情が険悪化する。クリスティーヌはアルセイスの表情を直視するなり戦慄する。
(タワービルから殺気を感じるわ…)
アルセイスは超高層型タワービルの屋上から蛍光色の発光体を直視するなり…。超音速で回避する。
「えっ!?一体何が!?」
(アルセイスは!?)
クリスティーヌはハッとした表情であり何が発生したのか理解出来なかったのである。アルセイスは超音速で超高層型タワービル屋上へと移動するなり…。数秒間で到達する。タワービルの屋上には一人の狙撃兵が大型のレーザーライフルで道路上の歩行者達を狙撃したのである。狙撃兵は道路上の様子に無我夢中であり背後のアルセイスの存在には気付かない。
「畜生!ターゲットを見失っちまうとは!」
アルセイスは狙撃兵の背中をポンッと接触する。
「はっ?」
「御免あそばせ♪」
アルセイスは笑顔で挨拶したのである。
「なっ!?貴様一体!?」
狙撃兵は一瞬で超高層型タワービルの屋上へと移動したアルセイスに驚愕する。
「グッドナイト♪」
彼女は笑顔で挨拶するものの狙撃兵を斬撃…。
「ぐっ!」
瞬殺する。
「即刻戻らないとクリスティーヌちゃんが心配するわよね…」
アルセイスは一瞬で超高層型タワービルの屋上から道路上へと戻ったのである。
「クリスティーヌちゃん…」
「アルセイス!?」
「邪魔者は排除したわ…」
クリスティーヌはボソッと本音を発言する。
「女学園時代の弱虫だったアルセイスとは別人ね…」
「クリスティーヌちゃん…」
アルセイスは反応に困惑したのか苦笑いしたのである。

第四話

出撃

同時刻…。ウエストサイドのレムリア解放軍総本部では補佐官のルーヴェルハルトが総司令官のブラッドフォードの専用室へと入室したのである。
「失礼します…ブラッドフォード総帥…」
「誰かと思いきや…ルーヴェルハルト補佐官でしたか…一体如何されましたか?」
「サウスサイドですが…数時間で陥落するでしょう…」
「武装警察隊も弱体化しましたね♪」
ブラッドフォードは満足気の表情でニヤリとする。
「ですが気になるのは…」
「何が気になるのですか?」
「サウスサイドの武装警察隊は非常に手薄でして…現時点では彼等の目立った活動は皆無なのです…」
「ひょっとするとノースサイドの武装警察隊総本部に全軍を撤収中なのでしょう…本来なら即刻ケラウノスでノースサイド諸共武装警察隊総本部を死滅させるのが非常に合理的なのですが…」
「ケラウノスですと!?」
ブラッドフォードのケラウノスの一言にルーヴェルハルトはビクッと反応したのである。極度の戦慄により全身がプルプルする。
「大丈夫ですか?ルーヴェルハルト補佐官?」
「失礼しました…」
五月十七日事件は勿論…。第二次世界戦争の惨劇は当事者のルーヴェルハルトにとってもトラウマであり出来れば使用したくないのが本音である。
「ノースサイドには武装警察隊の革命派が潜伏中ですからね…」
ルーヴェルハルトは一安心したのか内心ホッとする。
「武装警察隊とは別問題なのですが…」
「別問題ですって?」
ルーヴェルハルトは恐る恐る室内のホログラムを作動させる。
「彼女は…」
ホログラムにはアルセイスが狙撃兵を斬殺する場面だったのである。
「上空より偵察用のドローンが彼女をキャッチしました…」
ブラッドフォードはピクッと反応する。
(ひょっとして彼女は…)
「実験体の…」
「予想外でしたよ…魔女の血液で常人だった彼女が十五年間でこんなにもパワーアップするなんて…」
「ですが所詮超人化した小娘一人が奮闘したとしてもレムリア解放軍を全滅させるなんて現実的に不可能でしょう…」
ブラッドフォードは余裕の様子であるものの…。ルーヴェルハルトは非常に不安視する。
「ルーヴェルハルト補佐官…空中母艦『スカイベース』を出動させましょう…」
「スカイベースですと!?」
スカイベースとは超弩級空中母艦でありレムリア解放軍の空中拠点型の無人機搭載型空中空母…。ブラッドフォードの財力と科学技術力を融合化させた象徴である。全長は百八十メートル…。全幅は百四十メートルと規格外のサイズであり六十機から二百機程度の艦載機を搭載出来る。兵装は対空用の垂直型ミサイル発射機を四基…。動力炉は最新式のスーパーリアクターでありエネルギー源を補給しなくとも無限に飛行し続けられる。基本的に上空の本拠地として活用されるものの…。海面上の大型水上艦としても活用出来る。本艦の装甲に使用された原材料は特殊超合金『エターナルメタル』であり核爆発をも無力化させる不沈空母である。エターナルメタルとはイーストサイド海底下にて採掘された不朽性のレアメタルであり硬質さのみなら金剛石をも上回る。大量のエターナルメタルが戦闘用に利用されたものの…。近年では民間型の各メーカーでも普及中である。ブラッドフォードがイーストサイドを占拠したのも大量のエターナルメタルを確保したかったからである。
「突撃隊によるノースサイドの武装警察隊総本部を総攻撃…本日でレムリア共和国全域を占拠するのです!」
「承知しました…ブラッドフォード総帥…」
ルーヴェルハルトは敬礼するなり恐る恐る退室する。
「ブラッドフォード総帥は本気だな…」
(世界一の資産家が今夜で全世界を牛耳るかも知れないな…レムリア王国が復活するか?)
ルーヴェルハルトは地下壕の格納庫へと移動するなり超弩級空中母艦…。スカイベースを直視したのである。
「一個人の資産家の財力だけで…こんな規格外の代物が建造出来るなんて…」
スカイベースを直視したルーヴェルハルトは驚愕する。

第五話

暴徒達
同時刻…。移動中だったアルセイスとクリスティーヌは無人化したショッピングモールへと潜入したのである。
「休憩しましょう…クリスティーヌちゃん…」
彼女達はショッピングモールで一休みする。
「先程からレムリア解放軍の敵兵と遭遇しないわね…ひょっとして武装警察隊が片付けちゃったのかしら?」
「サウスサイドに配備された武装警察隊は予備隊ばかりよ…」
事実…。サウスサイドに配備された武装警察隊は訓練未経験の予備隊ばかりであり装備品も非常に貧弱である。
「弱腰の予備隊で大勢の志願兵で統率されたレムリア解放軍を撃退するなんて夢物語だわ…何しろ第二次世界戦争で全世界に勝利しちゃった勢力だからね…」
するとアルセイスはポケットから錠剤を入手するなり…。ペットボトルの飲料水で服薬する。
「アルセイス?何を服用したの?」
クリスティーヌは恐る恐る問い掛けたのである。
「単なるラムネよ…気にしないで…」
アルセイスはビクビクした様子で返答する。アルセイスの様子が可笑しいと察知するものの…。
(恐らくアルセイスが服用したのは抗精神病薬ね…)
クリスティーヌはアルセイスに詮索しなかったのである。するとアルセイスがボソッと発言する。
「十年前の五月十七日事件から私は…イーストサイドで死滅した犠牲者達のゴーストが私に殺到するのよ…」
「ゴーストですって?」
「私はね…」
アルセイスは幼少期から誰よりも霊能力が非常に根強く超常現象には人一倍敏感である。五月十七日事件から数日後…。彼女は無数のゴーストと遭遇しては抗精神病薬を服用し続ける毎日だったのである。複数の抗精神病薬を服用しても血液を直視する場面に遭遇すると五月十七日事件のトラウマが再現化される。
「あんたも大変なのね…」
するとクリスティーヌの携帯式ホログラムがブルブルと反応したのである。
「えっ?何かしら?」
ポケットから携帯式ホログラムを入手するなり…。
「何よ…」
彼女達はゾッとしたのである。ホログラムの画面には十二月二十五日の首謀者であるブラッドフォードの立体映像が立体的に映写される。
「誰かと思いきや…ブラッドフォード!?」
アルセイスはホログラムに映写されたブラッドフォードを直視するなりピリピリする。同時刻…。レムリア解放軍はサウスサイドの通信社を占拠するなりスカイベース艦内からレムリア共和国全域にてホログラムによるブラッドフォードの演説を生放送で配信したのである。
「レムリア共和国の全国民に伝播します…私はレムリア解放軍総帥のブラッドフォード…世界一の大富豪です!今回私が不本意にもレムリア共和国全域を混乱させたのは生活困窮者達を圧制し続ける武装警察隊総本部を撃滅したいからなのです…私が無事にレムリア共和国の主導権を掌握すればレムリア共和国の全国民の生活を保障しますから!是非とも私に協力して下さい!私と一緒にノースサイドの武装警察隊総本部を殲滅しましょう!」
するとプチッと配信が遮断される。先程のブラッドフォードの演説にアルセイスがボソッと一言…。
「所詮テロリストの分際で何が全国民の生活を保障するよ…私のパパとママを惨殺した極悪非道の殺人鬼が…」
無表情だったアルセイスの表情が鬼神の表情へと変化する。
「アルセイス!?」
クリスティーヌはアルセイスの表情を直視するなり戦慄したのである。
「アルセイス…」
「何よ…クリスティーヌちゃん?」
クリスティーヌはビクビクした表情で…。
「ジュースでも如何かなって?私が購入するから…」
クリスティーヌは即座にフードコートの自販機へと移動する。
「クリスティーヌちゃん…随分ビクビクした様子だったけれども…」
(何にビクビクしたのかしら?)
アルセイスは理解出来なかった様子である。同時刻…。クリスティーヌは自販機にてグレープジュースとオレンジジュースを購入する。戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
(こんな場所に親子かしら?)
フードコートにて幼女を抱き抱える女性が気になったのかクリスティーヌは恐る恐る近寄る。
「大丈夫ですか?私達と一緒に脱出しませんか?」
女性の様子は非常に不可解でありクリスティーヌが近寄ってもテーブルを凝視し続ける状態で恐る恐る問い掛けるクリスティーヌには無関心である。クリスティーヌはムッとするものの恐る恐る幼女を直視するなり…。彼女は戦慄したのである。
「きゃっ!」
(下半身が…)
幼女を凝視すると下半身が消失した状態であり女性の足場にはポトポトと鮮血が流れ出る。すると女性が無表情でクリスティーヌを凝視したのである。
「如何して…私の愛娘は目覚めないの?」
無表情だった女性は涙腺から涙が零れ落ちる。
「如何して目覚めないのよ…」
クリスティーヌは恐る恐る返答する。
「如何してって…あんたの愛娘は下半身が…」
すると直後…。
「あんたが…あんたが私の愛娘を殺したのね!?」
「えっ!?私は何も!」
豹変した女性に戦慄する。
(えっ!?此奴…サイコパス!?)
女性は右手にテーブルナイフを所持…。
「あんたが…あんたが私の…」
スタスタとクリスティーヌに近寄る。クリスティーヌは一歩ずつ後退りする。
(畜生…如何すれば…)
クリスティーヌは恐怖心により全身がプルプルしたのである。
「死になさい!」
テーブルナイフでクリスティーヌを斬撃する寸前である。
「クリスティーヌちゃん!」
猛スピードでアルセイスが殺到するなり…。即座に刀剣で女性の所持するテーブルナイフを屈折させる。
「あんた!クリスティーヌちゃんに何するのよ!?」
「アルセイス!?」
女性はアルセイスの目力により後退りしたのである。
「彼女は…私の愛娘を…」
アルセイスは反論する。
「彼女は無関係よ…あんたの愛娘が誰に殺されたのかは不明だけどね…無関係のクリスティーヌちゃんに手出しするなら…私は手加減しないからね…」
「アルセイス…」
(アルセイスが恋人だったら見惚れるかも♪)
クリスティーヌは一瞬アルセイスに見惚れる。女性は涙腺から涙が零れ落ちる。
「御免なさい!御免なさいね…」
女性はクリスティーヌに謝罪したのである。
「私は…別に…」
クリスティーヌは困惑する。数分後…。女性は平常心に戻ったのである。
「私の愛娘は…テログループに殺されたのよ…」
「テログループですって?」
「ブラッドフォードのレムリア解放軍ね…」
「私は…」
女性は逃走中にてレムリア解放軍の兵士達に拘束され…。親子諸共暴行されたのである。彼等は面白がった様子であり全身を暴行された愛娘にレーザーライフルで下半身を狙撃…。愛娘を即死させたのである。目前にて愛娘を惨殺された悲痛さから…。自暴自棄によって部外者であるクリスティーヌに斬撃しそうになったのである。
「レムリア解放軍は極悪非道ね…」
「本当に御免なさいね…私は…」
女性はクリスティーヌに謝罪する。クリスティーヌは笑顔で返答したのである。
「気にしないで下さい♪娘さんが亡くなられたのは大変心苦しいかも知れませんが…即刻避難所に避難して下さい…天国の娘さんも母親である貴女様の無事を希望されますよ…」
女性の顔色が変化する。
「感謝しますね…」
クリスティーヌは一安心したのかホッとしたのである。すると無口だったアルセイスが発言する。
「私達は移動するわね…」
「移動ですって?目的地は?」
女性は恐る恐る質問したのである。アルセイスは即答する。
「ノースサイドよ…武装警察隊総本部にブラッドフォードのレムリア解放軍が進行中らしいから…」
すると女性はポケットからスカイカーのスマートエントリーを入手するなりアルセイスに手渡したのである。
「何かしら?」
「私のスカイカーのスマートエントリーです…役立つかなと…」
クリスティーヌが恐る恐る…。
「スマートエントリーって…貴女様のスカイカーですよね!?私達が乗車しても大丈夫なのですか?」
女性は即答する。
「大丈夫ですよ♪私は一人なのでスカイカーは不要です…」
「であれば頂戴するわね…」
「私も出来るなら協力したいけれども…私では足手纏いですからね…」
「承知したわ…あんたのスカイカーは?」
「ショッピングモールの駐車場よ…銀色のスカイカーよ…」
「感謝するわ♪クリスティーヌちゃん!早速移動しましょう!」
「勿論よ!」
彼女達は即刻ショッピングモールの駐車場へと移動する。アルセイスは銀色のスカイカーへと近寄るなりスマートエントリーを作動させる。数秒後…。ピカッとスカイカーのヘッドライトが点滅したのである。
「彼女のスカイカーね♪人騒がせな母親だったけれど…彼女に遭遇してラッキーだったわね♪」
「ラッキーなのかな?」
クリスティーヌは苦笑いする。するとアルセイスはボソッとクリスティーヌに質問したのである。
「クリスティーヌちゃんはスカイカーの運転免許証は?」
「私が無免許だとでも?」
クリスティーヌは断言する。アルセイスは笑顔でクリスティーヌにスマートエントリーを手渡したのである。
「何よ…アルセイス?」
「私は無免許だから…運転してよ♪」
「はっ?あんたは無免許だったの!?」
クリスティーヌはポカンとした表情で呆れ果てる。
「御免あそばせ♪」
アルセイスは笑顔で謝罪したのである。
(仕方ないわね…)
「承知したわ…私が運転するから…」
クリスティーヌは承諾したのである。すると近辺からガヤガヤと人間達の怒号が響き渡る。
「えっ?何かしら?」
気になったアルセイスは怒号の響き渡る現場へと移動したのである。
「アルセイス!?」
(彼女は本当にマイペースね…)
クリスティーヌはマイペースのアルセイスに困惑するものの…。恐る恐るアルセイスに追尾する。近辺の道路上には横たわった一人の武装警察員に暴徒化した五人組の青少年達がサンドバッグしたのである。
「愚連隊かしら?」
武装警察員は全身血塗れであり即死した状態であるものの…。青少年達は面白がった様子で横たわる武装警察員を暴行し続ける。残虐非道の彼等にクリスティーヌは勿論…。アルセイスもハッとした表情で愕然とする。クリスティーヌは恐る恐る…。
「あんた達!大勢で暴行するなんて下劣だわ…」
彼等はギロッとした目力でクリスティーヌを睥睨する。
「部外者は口出しするな!姉ちゃんも殺されたいか?」
「俺達はレムリア共和国のレジスタンスだからな!全国民を圧制する武装警察隊を撃退するのがレジスタンスである俺達の任務なのさ♪」
「俺達の任務を妨害するなら姉ちゃん達も惨殺するよ…」
アルセイスは一息するなり…。
「何が任務よ…あんた達はブラッドフォードの演説にマインドコントロールされたのね…気の毒に…」
ブラッドフォードの演説によって武装警察隊を敵対視する人間が続出したのである。暴力団は勿論…。失業者やら生活困窮者達も武装化するなり暴徒化したのである。最早レムリア共和国全域が無警察状態であり国全体がスラム化する。アルセイスとクリスティーヌは暴徒化した青少年達に包囲される。
(畜生…如何すれば…)
クリスティーヌは戦慄したのか隣接するアルセイスに密着したのである。
「茶髪の姉ちゃんは大人しそうで可愛らしいな♪」
彼等はアルセイスに見惚れるものの…。アルセイスは無表情で断言する。
「あんた達みたいな愚連隊はノーサンキューだわ…」
即座に抜刀したのである。
(こんな雑魚なら数人相手でも楽勝ね…)
「私に斬殺されたいのは誰かしら?」
強気のアルセイスに彼等はポカンとする。
「一人で俺達を斬殺するのか?」
「俺達を軽蔑しやがって…姉ちゃん一人で何が出来る?」
「多勢に無勢だよ♪装備品も刀剣だけだし…」
彼等の装備品は旧型のハンドガンやら軍事用のクロスボウである。刀剣のみでは圧倒的に不利であるが…。アルセイスは余裕の様子であり平常心である。
「あんた達を瞬殺する…」
「俺達を瞬殺するって…寝惚けやがったか?」
彼等は余裕の様子であるものの…。直後である。アルセイスは超音速で移動するなり愚連隊の一人を斬撃…。頭首を斬首したのである。一瞬の出来事により愚連隊の四人は勿論…。クリスティーヌも愕然とする。
「ひっ!」
「本当に瞬殺しやがった…」
「人間のスピードなのか…」
先程は余裕だった愚連隊であるがアルセイスの超人化したハイスピードを直視するなり戦慄したのである。
「私は有言実行だからね…今度は誰が私に殺されたいのかしら?」
無表情のアルセイスに四人はプルプルする。恐る恐るハンドガンで彼女に射撃するもののピキンと弾丸を一刀両断…。
「弾丸が…」
「斬鉄剣かよ…」
「私の刀剣はエターナルメタルなのよ…大抵の金属は簡単に両断出来るわ…」
アルセイスの刀剣はエターナルメタルで製造された代物であり正真正銘斬鉄剣である。あらゆる物体を切断出来る。
「あんたは…人間なのか!?」
アルセイスは即答する。
「勿論私は人間よ…」
「うわっ!殺されちまうよ!」
アルセイスの目力に戦慄したのか彼等は一目散に逃走したのである。
「所詮はヘタレだわ…」
「撃退出来たわね…アルセイス♪」
クリスティーヌは一安心したのかホッとする。するとアルセイスはポケットからペットボトルの飲料水と抗精神病薬を入手するなり服用したのである。
「アルセイス…大丈夫?」
「御免なさい…」
アルセイスは無表情であるものの…。全身がプルプルする。
(アルセイスも戦慄したのね…)
「クリスティーヌちゃん…早速ノースサイドに移動しましょう…」
「承知したわ…」
彼女達はショッピングモールの駐車場へと戻ったのである。スマートエントリーを作動させるなりスカイカーへと乗車する。クリスティーヌは運転席…。アルセイスは助手席に乗車するなりシートベルトを着用する。
「移動するわよ…」
スカイカーは目的地のノースサイドへと直行したのである。
メンテ
アルセイス ( No.93 )
日時: 2021/09/15 15:27
名前: 月影桜花姫

第七話

ノースサイド
同時刻…。ノースサイドの武装警察隊総本部ではレムリア解放軍のサウスサイド総攻撃に混乱する。総司令部にて武装警察隊の通信兵が入室する。
「ストライダー本部長!大変です!」
ストライダーとは十年前にイーストサイドの海域にて漂流中のアルセイスを救出した武装警察員である。数多くの功績により武装警察員から武装警察隊総本部の本部長へと昇級する。
「何事だ?」
「ノースサイド上空よりレムリア解放軍の巨大空中空母が到達しました!」
「巨大空中空母だと?即刻迎撃しろ…」
通信兵は困惑した様子で発言する。
「上空の空中母艦は迎撃したいのですが…陸地にはレムリア解放軍の突撃隊が進撃中です…」
(畜生が…俺は一体如何すれば…)
ストライダーは困惑したのである。
「非戦闘員は避難させたか?」
通信兵はストライダーの問い掛けに即答する。
「大丈夫です…非戦闘員の避難は無事完了しました!」
「上出来だ…」
一安心したのかホッとする。
「武装警察隊本隊を出動させろ!陸地の敵兵を総攻撃せよ!」
「承知しました!」
同時刻…。スカイカーでノースサイドに進行中のアルセイスとクリスティーヌはノースサイドの区域内へと到達したのである。彼女達は上空の超弩級空中母艦を直視するなり…。
「えっ?何かしら?」
「母艦っぽいわね…」
「空中のタンカーかしら…」
レムリア解放軍がノースサイドに到達したのであると再認識する。彼女達は駐車場にてスカイカーを駐車させる。
「レムリア解放軍の敵兵と遭遇したら即刻仕留めましょう…」
「承知したわ…」
クリスティーヌは護身用にレーザーライフルを所持する。
「ケルベロスよ!」
上空から十数機のケルベロスが急降下するなり武装警察隊の駐屯地を爆撃したのである。各区域内から無数の爆発音が響き渡る。
「主戦場だわ…」
するとアルセイスは殺気を感じる。
「殺気!?誰かしら?」
駐車場に一人の敵兵が進入する。敵兵の装備品はレーザーライフルである。ヘルメットのデザインからレムリア解放軍であると再認識する。
「レムリア解放軍だわ!」
「ん?」
敵兵は彼女達に気付いたのである。
「二人組の小娘と遭遇するとは…俺はラッキーだな♪」
「気付かれたわ…」
「アルセイス…如何するのよ!?」
クリスティーヌは非常に動揺する。敵兵は余裕の様子であり一歩ずつ彼女達に近寄る。
「死滅しな♪小娘♪」
レーザーライフルでアルセイスに狙撃するもののアルセイスは即座に刀剣を抜刀するなり…。刀剣でレーザーライフルから射出された蛍光色の発光体を無力化したのである。
「刀剣でレーザーライフルを無力化しやがるとは…」
「私の刀剣はエターナルメタルだからね…」
アルセイスは超音速で敵兵の背後へと移動する。
「なっ!?貴様!?一瞬で…」
敵兵はアルセイスのハイスピードに戦慄したのである。
「あんたを瞬殺するわ…」
アルセイスは敵兵を斬殺…。瞬殺する。
「クリスティーヌちゃん…即刻武装警備隊総本部に移動しましょう…上空の空中母艦も気になるけど…陸地の敵兵を殲滅しないと…」
「承知したわ…」
彼女達は駐車場から脱出したのである。すると駐車場に隣接する敷地にて瀕死状態の敵兵と遭遇する。
「ぐっ!」
「レムリア解放軍の敵兵だわ!?」
クリスティーヌは恐る恐る近寄る。
「クリスティーヌちゃん?」
「大怪我したのね…」
敵兵は全身が血塗れであり失血死しても可笑しくない状態だったのである。
「姉ちゃんよ…即刻俺を病院に…」
アルセイスは表情が険悪化するなりギロっと睥睨する。
「殺しちゃいましょう…テロリストだし…」
クリスティーヌはアルセイスの発言に戦慄したのである。
「えっ!?アルセイス!?」
「所詮テロリストなのよ…テロリストは殺さないと…」
クリスティーヌは彼女の発言に納得出来ない。
「テロリストでも人間よ…こんなにも衰弱化した状態で放置するのは…私には出来ないよ…」
「パパとママを殺した奴等だよ…クリスティーヌちゃんだってパパとママを殺されたのよね?」
「アルセイス…」
クリスティーヌはアルセイスの発言に困惑する。
(私には何も出来ないのね…)
アルセイスは内心ピリピリするものの…。刀剣で左手の手首をリストカットしたのである。
(えっ!?)
「アルセイス!?一体何を!?」
クリスティーヌはアルセイスのリストカットに驚愕する。アルセイスは手首から出血した血液を敵兵の外傷に注入したのである。直後…。敵兵の外傷が一瞬で治癒したのである。アルセイスの手首も元通りに治癒される。
「魔法みたいだわ…」
クリスティーヌは勿論…。敵兵も外傷の治癒に愕然とする。
「外傷が…一瞬で…」
「私の血液は治療薬にも利用出来るみたいだからね…」
「如何してこんな超能力を…あんたは一体何者なのよ?」
摩訶不思議の超常現象にクリスティーヌは非常に興味深くなる。
「アルセイスは本当に魔法使いみたいね…」
「魔法使いって…」
アルセイスは魔法使いの一言に一瞬苛立ったものの…。沈黙したのである。
「私にも正直何が何やらサッパリだけどね…」
五月十七日事件後…。彼女は大怪我しても一瞬で治癒する肉体へと変化したのである。何よりも驚愕したのは癌腫によって衰弱化した愛犬がアルセイスの血液に接触…。体内の癌腫が一瞬で消滅したのである。すると敵兵がアルセイスに一礼する。
「茶髪の姉ちゃんよ…感謝するよ♪」
アルセイスは無表情で…。
「勘違いしないでよね…私があんたの外傷を治癒したのは気紛れだから…感謝するなら修道女のクリスティーヌちゃんに感謝するのね!」
(アルセイス…ツンデレっぽいわね…)
クリスティーヌはアルセイスの反応に苦笑いしたのである。するとアルセイスは敵兵に質問する。
「あんた達の総大将の居場所は?」
「ブラッドフォード総帥か?ブラッドフォード総帥なら今頃スカイベースのブリッジだよ…」
「スカイベースって?」
「上空の空中母艦だよ…」
彼女達は上空のスカイベースを凝視したのである。
「上空の空中母艦にブラッドフォードがね…」
敵兵は恐る恐るアルセイスに問い掛ける。
「如何して茶髪の姉ちゃんはブラッドフォード総帥に?」
アルセイスは即答したのである。
「私はブラッドフォードに復讐したいの…私のパパとママはあんた達レムリア解放軍のケラウノスで殺されたからね…」
「ケラウノスか…」
敵兵はピクッと反応する。
「俺はブラッドフォード総帥に忠誠心なんて皆無だが…ブラッドフォード総帥に対面したとしてもブラッドフォード総帥は誰にも殺せないぜ…魔法使いのあんたでも…」
「殺せないって?」
「実際にブラッドフォード総帥を直視すれば驚愕するだろうよ♪」
彼女達は敵兵の発言に疑問視するものの…。
「私自身で確認するわ…あんたは如何するの?」
「俺は即刻逃走するよ…今更レムリア解放軍へは戻りたくないからな…」
「如何して戻りたくないのよ…」
アルセイスの質問に敵兵は即答する。
「俺は戦友に裏切られちまったからよ…」
レムリア解放軍は大勢の無頼漢達によって組織されたエゴイストのグループであり仲間内の内輪揉めは勿論…。脱走兵の続出は頻繁である。
「所詮レムリア解放軍のメンバーは過半数がエゴイストだからな…雇用主のブラッドフォード総帥でさえも金蔓としか認識しない破落戸ばかりだ…」
「金蔓って…」
「あんたも大変そうね…」
アルセイスも苦笑いする…。
「あんた達もスカイベース上空に到達するのは正直困難だが…精一杯頑張れよ…」
敵兵は逃走したのである。すると突然…。逃亡中の敵兵が両手で頭部を接触した直後である。敵兵の頭部がパンっと破裂する。
「きゃっ!」
「えっ!?一体何が!?」
先程敵兵と接触した直後の出来事であり彼女達は戦慄したのである。
「如何して兵隊さんの頭部が…」
地面には敵兵の脳味噌が散乱する。
「私にも何が何やら…」
アルセイスはポケットからペットボトルの飲料水と抗精神病薬を入手するなり服用したのである。
「クリスティーヌちゃん…私達は超特急で武装警察隊総本部に移動しましょう!武装警察隊の有人機を強奪するわよ…」
アルセイスの発言にクリスティーヌはビクッと反応する。
「強奪ですって!?」
「上空のスカイベースに到達するには有人機が必要不可欠だからね♪」
「武装警察隊の総本部よ!私達みたいな民間人が容易に潜入出来るかしら?」
クリスティーヌは不安視するものの…。
「武装警察隊総本部も攻防戦に必死よ♪レムリア解放軍と戦闘中だから容易に潜入出来るわ♪」
(こんな状況下でも…誰かの所有物を強奪するのは…)
クリスティーヌは不本意であるが承諾する。彼女達は武装警察隊総本部へと直行したのである。すると中心街にて暴徒化した数人の武装警察隊と遭遇する。彼等は友軍の武装警察員を殺害したのである。
「仲間内で…」
「ひょっとすると奴等は武装警察隊の革命派かも…」
彼等はアルセイスとクリスティーヌに気付くなり…。
「姉ちゃん達か…暇潰しに姉ちゃん達も殺そうかな?」
アルセイスは恐る恐る問い掛ける。
「如何してあんた達は仲間内で殺し合いなんか?あんた達が本来討伐するべき相手はレムリア解放軍でしょう?」
彼等は即答したのである。
「俺達はレムリア解放軍に寝返ったのさ♪」
「今更弱体化しちまった武装警察隊に貢献しても無意味だし…」
最早国全体が内戦状態であり敵味方の識別が出来なくなる。
「アルセイス…こんな現状では武装警察隊も信用出来ないわね…」
「こんな状態では両勢力とも共倒れだわ…」
アルセイスは即座に抜刀する。
「あんた達を瞬殺する…」
「刀剣で何が出来る?」
彼等は余裕の様子であるものの…。アルセイスは超音速で移動するなり彼等の背後から斬撃する。
「うわっ!」
「ぐっ!」
一瞬で二人の武装警察員を瞬殺したのである。
「ひっ!」
アルセイスに戦慄した武装警察員達は一目散に逃走する。
「片付いたわね…」
すると近辺より爆発音が響き渡る。
「爆発音だわ…」
「爆撃かしら?」
彼女達の背後より近未来型の重戦車が出現する。
「重戦車?」
「レムリア解放軍の代物ね…」
重戦車の正式名はロボット型試作重戦車『ジャガーノート』でありレーザーキャノン搭載型の無人型重戦車である。タンク型の履帯によって不整地でも容易に走破出来る。車体の動力炉は超小型化されたスーパーリアクターであり燃料油は不要である。
「レムリア解放軍は無人兵器ばかりね…」
ジャガーノートに搭載された人工知能がアルセイスとクリスティーヌを確認するなり戦車砲を照準させる。
「標的ヲ確認シマシタ…即刻殲滅シマス…」
アルセイスは恐る恐るクリスティーヌに合図する。
「クリスティーヌちゃん!撤退しましょう!」
「撤退ですって!?」
「相手は重戦車だからね…装甲もエターナルメタルだから私の刀剣でも斬撃出来ないわ…」
ジャガーノートは戦車砲のレーザーキャノンでアルセイスに砲撃するものの…。アルセイスは即座に超音速で砲撃を回避する。ジャガーノートの砲撃によりコンクリートの地面が抉れる。
「クリスティーヌちゃん!」
「アルセイス!?」
アルセイスはクリスティーヌの背後へと移動したのである。クリスティーヌの左手に接触すると即座に撤退…。彼女達は全力疾走したのである。数分後…。無人化した商店街へと到達する。
「商店街かしら…」
「危機一髪だったわね…」
周囲を警戒するものの…。人気は感じられない。
「人気は無さそうね…」
「無人機に襲撃されたら厄介よ…」
すると近辺より無数の爆発音が響き渡る。
「きゃっ!」
「爆発音だわ…」
彼女達は恐る恐る商店街から脱出する。するとアルセイスは笑顔で…。
「ラッキーだったわね♪」
幸運にも彼女達は武装警察隊総本部の近辺に到達したのである。
「目的地も間近よ♪」
「目的地が間近でも…無人機の襲撃が…」
上空には十数機ものケルベロスが武装警察隊総本部を爆撃…。武装警察隊総本部周辺には大勢の敵兵達が包囲する。外部から武装警察隊総本部に近寄るのは非常に困難である。
「中世期の攻城戦みたいね…」
「私でも奴等全員を仕留めるのは正直困難だわ…」
すると背後より先程遭遇したロボット型試作重戦車…。ジャガーノートが彼女達を追撃する。
「標的ヲ再確認…標的ヲ再確認…即刻殲滅シマス…」
「ロボットよ!」
戦慄したクリスティーヌはジャガーノートを直視するなりアルセイスの背後に密着したのである。絶望的状況下であるもののアルセイスは笑顔で…。
「好都合だわ♪」
「何が好都合なのよ…」
「此奴を利用するのよ♪」
するとアルセイスは超音速で疾走するなりジャガーノートの砲塔の背後に密着したのである。
「コントロール不能…コントロール不能…」
ジャガーノートの砲塔はグルグルと回転するものの…。アルセイスは力強く密着した状態である。グニャグニャと走行するなりレーザーキャノンを乱射する。
「うわっ!ジャガーノートだと!?」
「誤作動しやがったのかよ!?」
武装警察隊総本部を包囲した敵兵達は背後の異常音に気付くなりパニック化したのである。ジャガーノートの戦車砲の乱射によって十数人の敵兵を爆死…。数人を轢死させる。ジャガーノートの暴走によってレムリア解放軍の突撃隊は総崩れ…。武装警察隊総本部を包囲した敵兵達は撤退したのである。
「緊急停止装置…発動シマス…」
ジャガーノートは緊急停止装置を自動で作動させるなり全機能を遮断…。スリープモードにより停車したのである。アルセイスは恐る恐る地面に着地する。
「単独で敵軍を撤退させるなんて…アルセイスは本当に命知らずね♪」
「余裕よ♪」
アルセイスは笑顔で返答したのである。
「外部の敵兵は撤退させたけれど…内部に潜入したレムリア解放軍を蹴散らさないと…」
アルセイスは再度抜刀する。彼女達は恐る恐る武装警察隊総本部に潜入したのである。内部では武装警察隊の守備隊とレムリア解放軍の銃撃戦により無数の肉片やら血液が室内全域に散乱する。アルセイスは恐る恐る敵兵達に近寄るなり…。
「御免あそばせ♪」
笑顔で挨拶したのである。
「なっ!?貴様は…」
アルセイスはレムリア解放軍の背後より五人の敵兵を斬殺したのである。彼女達の存在に気付いた守備隊は恐る恐る彼女達に近寄る。
「貴様達は…」
アルセイスの刀剣を直視するなり…。
「貴様は敵兵を斬撃したのか?」
「彼女が武装警察隊総本部を包囲する敵兵を撤退させたのよ…彼女に感謝するのね…」
クリスティーヌの発言に守備隊はハッとする。
「内部の敵軍が少人数だったのは…外部の敵兵を撤退させたからか…」
「彼女が一人で…」
彼等はアルセイスに一礼したのである。
「貴女様の…孤軍奮闘を感謝します…」
クリスティーヌはボソッと発言する。
「武装警察隊も弱体化したわね…」
「クリスティーヌちゃん…」
アルセイスは苦笑いするものの…。武装警察員達はクリスティーヌに反論しなかったのである。するとアルセイスは恐る恐る問い掛ける。
「あんた達の総大将は?」
「ストライダー本部長ですかね?ストライダー本部長なら守備隊と一緒に地下豪に避難しました…」
「ストライダー本部長に対面させてよ…」
「本部長と対面ですと?」
彼等は一瞬困惑するものの…。
「承知しました…」
アルセイスとクリスティーヌを地下豪へと案内する。地下豪には本部長のストライダーと三人の守備隊が彼を防備する。
「ん?貴様達は?」
クリスティーヌはストライダーを直視するなり表情が赤面したのである。
(ストライダー本部長って意外と男前なのね♪)
クリスティーヌの様子にアルセイスは微笑む。
(クリスティーヌちゃん…ストライダー本部長に見惚れちゃったのね♪)
すると武装警察員の一人がストライダーに報告したのである。
「ストライダー本部長…彼女達の奮闘によってレムリア解放軍の突撃隊を撃退出来ました…」
「奴等を撃退したのか!?」
ストライダーは驚愕する。アルセイスを直視するなり…。
「貴様は…」
「私はアルセイスです…」
「アルセイスだったか!」
ストライダーは大喜びする。
「アルセイス?知人なの?」
「ストライダー本部長は十年前の五月十七日事件で漂流中の私を救出して下さった恩人なのよ♪」
「アルセイスも大変だったな…」
アルセイスは今迄の経緯を一部始終ストライダーに告白したのである。
「ブラッドフォードが上空の空中母艦に…」
「私達に武装警察隊の有人機をレンタル出来ないかしら?」
ストライダーは恐る恐る返答する。
「武装警察隊総本部の格納庫に俺の専用機が整備中だが…滑走路上空にはレムリア解放軍のドローンが爆撃中だからな…」
ストライダーは非常に困惑するものの…。
「滑走路のドローンさえ撃退出来れば…」
すると無口だったストライダーが発言する。
「サイバーライフルで滑走路のドローンを撃墜出来ないかしら?」
「サイバーライフルですって?」
サイバーライフルとはレムリア解放軍のケルベロスを対処出来る唯一のドローン対策兵器であり特殊性電磁波を射出するショットガンである。人間やら動植物には無害であるものの電磁波に接触したドローンは全機能を停止…。機体を無力化出来る。
「サイバーライフルは試作品だからな…サイバーライフルはドローンを無力化出来るが単独で無数の無人機を撃墜するのは…」
クリスティーヌは笑顔で…。
「ストライダー本部長♪アルセイスだったら出来るわよ♪こんなヘタレの私が今迄生存出来たのは彼女が粉骨砕身したからなのよ…アルセイスの屈強さは常人を超越するわ♪彼女は百人力だからね!」
クリスティーヌは断言する。
「アルセイスが百人力とは…承知した…」
ストライダーは承諾…。地下壕のシークレットエリアから試作型のサイバーライフルをアルセイスに手渡したのである。
「私が外部の無人機を蹴散らせるわね…」
アルセイスは滑走路へと移動する。滑走路には十六機のケルベロスが配備された状態でありレムリア解放軍の守備隊が武装警察隊の滑走路を占拠したのである。
「滑走路は奴等に占拠されたのね…」
(好都合だわ♪)
アルセイスは右手に刀剣を抜刀…。左手にはサイバーライフルを所持するなり超音速でレムリア解放軍の防衛網に突入する。
「なっ!?敵襲?」
「ぐっ!」
アルセイスは一瞬で四人の敵兵を仕留める。停止中のケルベロスにサイバーライフルを作動させたのである。するとサイバーライフルの特殊性電磁波によりケルベロスの全機能を妨害…。無力化したのである。
「小娘はモンスターなのか!?」
アルセイスのハイスピードを直視した敵兵達は彼女に戦慄する。
「モンスターなんて失礼しちゃうわね…」
アルセイスは逃走する敵兵も斬殺したのである。停止中の十五機のケルベロスをサイバーライフルで無力化させる。
「畜生が…」
隠密中の敵兵がリモートコントローラーでケルベロスを操作するものの…。各機体が作動しない。
「コントロール不能…コントロール不能…コントロール不能…」
「故障なのか!?」
すると誰かが背中をポンッと接触する。
「なっ!?貴様は!?」
「残念ね♪」
アルセイスを直視するなり敵兵は戦慄したのである。
「あんた達のドローンは無力化したわ♪」
「無力化だと!?」
「グッドナイト♪」
アルセイスは敵兵を斬撃する。
「ぎゃっ!」
滑走路に待機中のケルベロスとレムリア解放軍を全滅させたアルセイスは地下豪へと戻ったのである。
「アルセイスだわ!」
「アルセイス!無事に戻れたか!」
クリスティーヌとウィズラエルは一安心したのかホッとする。
「滑走路は無事に奪還したわ♪」
「単独で滑走路を制圧するとは…アルセイスは本当に百人力だな…」
ウィズラエルは驚愕したのである。
「であれば奴等に猛反撃出来ますね!ストライダー本部長!」
「俺達でレムリア解放軍を撃滅しましょう!」
「早速航空隊を再編制して上空の敵艦を撃沈するのです!」
武装警察員達は意気投合により団結するものの…。
「折角だけど…今回は私達だけで敵陣を攻略させてよ…私は個人的にブラッドフォードに復讐したいの…」
アルセイスの発言に武装警察員達は猛反対する。
「俺達はレムリア解放軍の猛攻撃によって一方的に圧倒されたのです…奴等に仕返ししなければ!」
「民間人の役目は終了しました…レムリア解放軍は俺達が撃滅しますよ!」
「ストライダー本部長!即刻航空隊を再編制して…」
ストライダーは一息するなり…。
「俺はアルセイスを信頼する…精一杯ブラッドフォードに復讐しな…」
「ストライダー本部長…」
すると武装警察員達はストライダーに猛反発する。
「如何してなのですか!?ストライダー本部長!」
「俺達を信用出来ないのですか!?」
「奴等に猛反撃する絶好のチャンスですよ!即刻各部隊を再編制して…」
「好い加減にしろ!貴様達!」
ストライダーの怒号に一同は一瞬で沈黙したのである。
「貴様達が敵軍の親玉を仕留めたいのも理解出来るが…貴様達は陸地の残党達を殲滅…拘束せよ…奴等は非戦闘員を襲撃するかも知れないからな…貴様達は極悪非道のテロリスト達から全国民を防備せよ!」
「承知しました!ストライダー本部長!」
彼等は即刻退室するなり任務に没頭する。
「アルセイスと…相方は誰だっけ?」
「私は修道女のクリスティーヌです♪」
クリスティーヌは笑顔で名前を名乗る。
「クリスティーヌか…ブラッドフォードを仕留めよ…」
ウィズラエルは専用機用のスマートエントリーをアルセイスに手渡したのである。
「無事に戻れよ…アルセイス…クリスティーヌ…」
「勿論よ…」
アルセイスとクリスティーヌは地下壕から退室するなり滑走路の格納庫へと移動する。格納庫にはウィズラエルの専用機が確認出来る。
「新品だわ…ウィズラエル本部長の専用機ね…」
するとアルセイスは笑顔でクリスティーヌに専用機用のスマートエントリーを手渡したのである。
「スカイカーを運転出来るなら大丈夫よね♪クリスティーヌちゃん♪」
「アルセイス…」
クリスティーヌは苦笑いするなり…。
「承知したわ…」
彼女達は恐る恐るストライダーの専用機に乗機したのである。コックピットにはクリスティーヌ…。アルセイスは客席にてシートベルトする。
(こんな飛行機を操縦出来るなんてね♪)
クリスティーヌは内心ワクワクしたのである。数秒後…。専用機が滑走路へと高加速化するなり上空へと急上昇する。

最終話

大動乱時代
同時刻…。スカイベース艦内では突撃隊の悪戦苦闘に混乱したのである。
「ブラッドフォード総帥…突撃隊が武装警察隊の猛反撃で圧倒されました…武装警察隊総本部の滑走路を占拠したケルベロスも全機…機能停止状態です…」
「ルーヴェルハルト補佐官…」
アルバードの目力に戦慄する。
「突撃隊がこんな状態では武装警察隊総本部は陥落出来ませんな…」
全身をプルプルさせるなり…。
「最早ケラウノスで敵味方諸共ノースサイド全域を無人化させなければ…」
「ですがアルバード総帥…こんな状況下でケルベロスを使用すればノースサイドは勿論…スカイベース艦内も…」
ブラッドフォードは笑顔で発言する。
「心配しなくても大丈夫ですよ♪ルーヴェルハルト補佐官…本艦にはケラウノスを無力化させる特殊エネルギーシールド装置が搭載されたのです…」
スカイベースはケラウノスを無力化させる特殊エネルギーシールド装置の搭載により成層圏からケラウノスを照射したとしてもスカイベース艦内の人間にはケラウノスの影響は皆無である。
「私達は無事ですからね…」
ルーヴェルハルトは内心ホッとしたのか一安心する。すると地球上全域を観測出来るスーパーレーダーがピピッと反応したのである。
「ブラッドフォード総帥!スーパーレーダーが反応しました!」
通信兵の報告にブラッドフォードとルーヴェルハルトが反応する。
「何事ですか?」
「敵機です!本艦に急接近中です!」
「武装警察隊ですかね?」
ルーヴェルハルトは艦内のホログラムで確認したのである。
「非武装です…如何やら民間機かと…」
「民間機が単機でスカイベースに急接近するなんて…」
ブラッドフォードは困惑するものの…。
「早速ケルベロスを出撃させるのです!折角なので民間機が相手なら小型ケラウノス搭載型のケルベロスで迎撃させましょう♪」
スカイベースには超小型化されたケラウノス搭載型のケルベロスを数機搭載する。スカイベースの飛行甲板より四機のケルベロスが出撃したのである。同時刻…。
「えっ?何かしら?」
クリスティーヌは上空のスカイベースから四機の艦載機が出撃する場面を直視する。
「ひょっとして艦載機かしら?」
「ケルベロスだわ!」
四機の艦載機が専用機に殺到したのである。
「敵機ヲ確認…撃墜シマス…」
ケルベロスの底部に搭載された砲塔から虹色の発光体を射出する。
「敵機の砲撃だわ!」
クリスティーヌは即座に虹色の発光体を回避したのである。
「虹色の発光体だわ…一体何かしら?」
アルセイスは窓側から恐る恐る虹色の発光体を直視するなり…。
(虹色の発光体…)
「ひょっとしてケラウノス?」
「ケラウノスって…五月十七日事件の…」
彼女達は戦慄したのである。
「クリスティーヌちゃん!ケラウノスがコックピットに照射されたら絶体絶命よ!確実に回避して!」
「承知したわ!」
背後からもケラウノスを射出するものの…。クリスティーヌは着実にケラウノスの狙撃を回避したのである。すると四機のケルベロスが光学迷彩システムを作動させる。
(厄介だわ…透明化するなんて…)
クリスティーヌは防空用スペースレーダーで確認するものの…。ケルベロスは確認出来ない。
(畜生…ステルスモードなのね…)
「アルセイス?ケルベロスはステルスモードみたいなのよ…ケルベロスの居場所を察知出来ないかしら?」
アルセイスは困惑するものの…。両目を瞑目させる。
(風音を利用して…)
機内は密閉された状態であり風音を感じられない。
(畜生…風音が利用出来ないわ…私は如何すれば…)
アルセイスは混乱する。パニックによりポケットの抗精神病薬を服薬したいが手首がプルプルしたのか入手出来ない。
「アルセイス!?大丈夫なの!?」
「殺されちゃう…」
「えっ…」
彼女はパニック状態であり脳内が狂乱する。
「私達は…殺される…殺されるのよ…」
「如何しちゃったのよ!?アルセイス!?確りしてよ!」
クリスティーヌは精神的に可笑しくなったアルセイスに困惑したのである。するとコックピットの真正面より一機のケルベロスが光学迷彩システムを解除…。専用機に殺到したのである。
「きゃっ!敵機が!」
衝突するかと思いきや…。ケルベロスは底部に搭載された捕獲用のアンカーで専用機を鹵獲したのである。
「如何して?私達を殺さないの?」
クリスティーヌは混乱する。
「敵機ヲ鹵獲シマシタ…即刻母艦ニ連行シマス…」
専用機を鹵獲したケルベロスは専用機諸共スカイベースの飛行甲板へと着艦する。
(如何してケルベロスは私達を殺さなかったのかしら?)
クリスティーヌは疑問視したのである。無事に飛行甲板へと着艦したものの…。アルセイスは脳内が狂乱した状態でありクリスティーヌは嫌気を感じる。
(鬱陶しいわね…)
クリスティーヌは恐る恐る客席へと移動したのである。
「私達は殺される…私達は殺される…」
「アルセイス?」
アルセイスは無表情でクリスティーヌを凝視する。
「何よ…クリスティーヌちゃん?」
謝罪するなり…。
「御免なさい!」
クリスティーヌは力一杯彼女の腹部を殴打したのである。
「ぐっ!」
アルセイスはグッタリと横たわる。
「アルセイスを沈黙させないと私自身が可笑しくなりそうだわ…」
すると数秒後…。アルセイスは恐る恐る目覚める。
「私は…今迄何を?」
「平常心に戻ったかしら?」
アルセイスは挙動不審みたいにキョロキョロしたのである。
「アルセイス…あんたは人騒がせだね…」
「御免なさいね…クリスティーヌちゃん…私自身パニック状態だったのよ…本当に殺されるかと…」
「パニックなのは私も一緒よ…あんたは抗精神病薬でも服用しなさい…」
アルセイスは再度ペットボトルの飲料水と抗精神病薬を服用する。
「アルセイス…ブラッドフォードに復讐するのよね?」
「勿論よ…」
アルセイスは即答したのである。即座に刀剣を所持する。
「私も…アルセイスに協力するよ♪」
(大変だったけれども…アルセイスには大助かりだからね…)
クリスティーヌは護身用にレーザーライフルを所持したのである。彼女達は警戒するなり恐る恐る専用機の機内から脱出する。スカイベースの飛行甲板には人気は皆無であり専用機と四機のケルベロスのみが確認出来る。
「人気は感じられないわね…」
彼女達は甲板に設置されたハッチへと近寄る。
「艦内に潜入出来そうね…」
ハッチを作動させたのである。彼女達は恐る恐る艦内へと潜入する。不可解にも艦内では人気が感じられない。
「艦内でも人気が感じられないわ…」
同時刻…。スカイベースのブリッジでは総司令官のブラッドフォードが監視用ホログラムにて移動中のアルセイスとクリスティーヌを観察する。
「如何やら彼女達は無事艦内に潜入したみたいですね…」
ルーヴェルハルトはホログラムのクリスティーヌを直視するなり…。
「金髪の女性は…私が十年前にイーストサイドのシークレットエリアで見逃した女学生っぽいですね…」
ルーヴェルハルトがボソッと発言したのである。
「ですが如何してブラッドフォード総帥は民間機の撃墜を断念されたのですか?奴等を仕留める絶好のチャンスだったのでは?」
ブラッドフォードはルーヴェルハルトの質問に即答する。
「茶髪の女性は非戦闘員なのに…単独で大勢の戦友達を殺害しました…本来なら処刑するのが妥当ですが…彼女の屈強さなら戦力的にも百人力でしょう…何よりも…」
一息するなり…。
「彼女は原因不明の難病で死去した私の恋人に酷似するのです…」
「彼女が…ブラッドフォード総帥の恋人に酷似するのですか?」
ブラッドフォードの予想外の返答に驚愕する。十年前にブラッドフォードがアルセイスを実験体として利用したのは戦闘員の育成化は勿論であるが…。半永久的に若齢の肉体を維持させたかったのである。数秒後…。
「ブラッドフォード総帥!侵入者です!」
通信兵がビクビクした様子でブラッドフォードに報告したのである。するとブリッジの鉄扉から二人の女性が出現する。
「貴様達は!?」
七人の乗組員達はアルセイスとクリスティーヌを包囲したのである。
「雑魚が…」
アルセイスは目力によって威嚇する。
「ひっ!」
すると彼等はアルセイスの目力に圧倒されたのか一歩ずつ後退りしたのである。
「ブラッドフォード…」
アルセイスはブラッドフォードを睥睨するなり…。
「ブラッドフォード…私はあんたを…」
アルセイスは目力によりブラッドフォードに威嚇するものの…。ブラッドフォードは無表情の様子である。ブラッドフォードの様子にクリスティーヌは一瞬戦慄する。
「此奴は一体何者なの!?ブラッドフォードはロボットみたいだわ…」
クリスティーヌの失言にルーヴェルハルトはピリピリしたのである。
「貴様!ブラッドフォード総帥を侮辱するな!殺されたいか!?」
「ひゃっ!」
ルーヴェルハルトを直視したクリスティーヌは後退りする。
「えっ?ひょっとしてあんたは…イーストサイドの心霊スポットで遭遇した兵隊さんかしら?」
クリスティーヌはハッとしたのである。クリスティーヌの発言にルーヴェルハルトもピクッと反応する。
「貴様だったのか…十年前は人一倍意地汚い女学生っぽかったが…雰囲気が随分変化しやがったな…」
「誰が意地汚いよ!」
クリスティーヌはルーヴェルハルトの発言にムスッとしたのである。するとアルセイスは恐る恐るブラッドフォードに問い掛ける。
「ブラッドフォード…如何してあんたは無人機のケルベロスで私達を殺さなかったのよ?専用機諸共鹵獲するなんて…私達を殺せる絶好のチャンスだったのに…」
「鹵獲したのはスーパーレーダーで専用機の客室で貴女様を確認したからなのです…」
スーパーレーダーは有人機と無人機を識別出来るだけではなく内部のパイロットが何者なのかも正確に特定出来る。
「私が…」
「貴女様は誰よりも絶世の女神様を想念させる女性です…病死した私の恋人に酷似する…私は貴女様を殺したくない…」
ブラッドフォードはアルセイスを殺したくないと断言するものの彼女は無表情で…。
「あんたが私を殺したくなくても…私はブラッドフォード…あんたを殺したい…私のパパとママを殺したあんたを…」
ブラッドフォードは恐る恐る返答する。
「私が貴女様の両親を?」
「あんたが十年前にケラウノスでイーストサイドの人間達を死滅させたのよね?」
ルーヴェルハルトがピクッと反応したのである。
「貴様!?如何してケラウノスの存在を!?」
ケラウノスは事実上極秘でありケラウノスの存在を熟知するのはブラッドフォードとルーヴェルハルトは勿論…。関係者である上級兵士と武装警察隊の革命派のみである。ケラウノスの存在を熟知するアルセイスに驚愕する。
「誰が貴様に漏洩しやがった!?」
「武装警察隊の革命派の奴等から盗み聞きしたのよ…」
アルセイスは即答したのである。アルセイスは一息するなり…。
「結局は彼等も役立たずの手駒でしたね…」
するとブラッドフォードは窓側上空を直視する。
「本日でノースサイドの人間達は全滅…レムリア共和国の主導権は私が掌握して…レムリア王国は再興されるでしょう…」
「如何するのよ!?」
クリスティーヌはビクビクしたのである。
「無論ケラウノスを照射します…」
「ケラウノスなんて照射させたら…私達は勿論!あんた達だって…」
「極度の心配性ですね…スカイベースにはケラウノスを無力化させる特殊エネルギーシールド装置が搭載されたので本艦は大丈夫ですよ…」
「大丈夫なのね…」
クリスティーヌはホッとしたのか一安心する。するとアルセイスが恐る恐るブラッドフォードに再度問い掛けたのである。
「私を超人化させたのは…あんたなの?」
「何を質問するかと思いきや…」
ブラッドフォードは笑顔で即答する。
「勿論私ですよ♪イーストサイドの地下豪で気絶した貴女様を実験体として利用したのです…」
「地下豪って…墓場の?」
「無論です…墓場の地下豪は私達レムリア解放軍のシークレットベースだったのです…」
「シークレットベースですって!?イーストサイドの心霊スポットの正体はあんた達の実験場だったのね!」
クリスティーヌも反応したのである。
「シークレットベースで貴女様を実験体として利用しました…純血の魔女の血液で貴女様を不老長寿の肉体に変化させたのです…」
「魔女の血液?如何してアルセイスに魔女の血液なんかを?」
クリスティーヌの質問にアルセイスは即答する。
「不老長寿の戦闘員育成化プランですよ…今迄大勢の実験体を利用しましたが…実験体は全員が即死…純血の魔女の血液を注入された人間は肉体が破裂したのです…結局誰一人として適合出来なかった…」
「肉体が破裂って…」
ブラッドフォードの説明にクリスティーヌは気味悪くなる。
「アルセイスさん…彼女こそが唯一の成功例なのですよ…」
「私が唯一の…成功例?」
「アルセイスの外傷が数秒間で治癒するのは…魔女の血液が影響したのね…」
「ですが採血したアルセイスさんの血液でも不老長寿の戦闘員育成化プランは失敗したのです…」
「失敗ですって!?」
アルセイスは純血の魔女の血液と適合出来たものの…。アルセイスの血液を各戦闘員に注入するものの全員の肉体が破裂したのである。結果的に不老長寿の戦闘員育成化プランは白紙化される。
「結果的に不老長寿の戦闘員育成化プランは断念しました…」
「あんたは今迄何人の人間を実験体に利用したのよ…残虐非道だわ…」
アルセイスに残虐非道と発言されたものの…。ブラッドフォードは無表情で返答する。
「私がレムリア共和国の主導権を掌握するには必要不可欠でしたからね…結果的に断念しましたが…」
アルセイスは一息するなり…。
「最後の質問だけどね…あんたは如何して私達の故郷…イーストサイドにケラウノスを照射したのよ…あんたのケラウノスで私達のパパとママは…」
ブラッドフォードは無表情で返答する。
「イーストサイドの海底下には大量のエターナルメタルが採掘出来ますし…大量の新型兵器を製造出来る製造所も入手出来ますからね…」
ブラッドフォードにとってイーストサイドの占拠は一石二鳥だったのである。
「私達にとってイーストサイドは宝島でしたからね…ノーダメージで攻略したかったのですよ…ですが何よりも…」
「何よ?」
無表情だったブラッドフォードの表情が険悪化する。
「イーストサイドには…私の大嫌いな富裕層の密集地でしたらかね!彼等によって大勢の貧困者達が続出したのです!」
「富裕層が大嫌いって…あんたなんて世界一の大富豪でしょう?」
アルセイスに反論されたブラッドフォードであるが…。
「私は世界一の大富豪だからこそ堕落したレムリア共和国の主導権を掌握したいのです!私がレムリア共和国の主導権を掌握出来れば全国民に最低限の生活を保障しますよ…」
ブラッドフォードは断言したのである。
「パパとママ達を虐殺した殺人鬼の分際で…何が全国民の生活を保障するよ…所詮世界一富裕層のあんたは武力と財力でレムリア共和国の主導権を掌握したいだけよ!」
ルーヴェルハルトはアルセイスの発言に苛立つなり…。
「小娘が!ブラッドフォード総帥に侮辱するとは!」
「ルーヴェルハルト補佐官…平常心ですよ…」
ブラッドフォードはピリピリするルーヴェルハルトを制止させる。
「ですがブラッドフォード総帥…」
するとブラッドフォードは軍服のポケットからリモートコントローラーを入手したのである。
「面談会は終了しました…早速ケラウノスを作動させますかね…」
(ケラウノスを!?)
戦慄したアルセイスは即座に超音速でブラッドフォードの背後へと移動するなり…。
「ケラウノスは作動させないわよ!」
ブラッドフォードの背中をバッサリと斬撃したのである。
「ブラッドフォード総帥!?貴様!」
ルーヴェルハルトはアルセイスに狙撃する直前…。アルセイスは即座にクリスティーヌの佇立する位置へと戻ったのである。
「アルセイス!?大丈夫!?」
心配するクリスティーヌにアルセイスは返答する。
「大丈夫よ…クリスティーヌちゃん…」
背後から斬撃されたブラッドフォードはガクッとするものの…。ブラッドフォードの表情は無表情であり佇立した状態で身動きしなくなる。ブラッドフォードの不自然さにクリスティーヌは気味悪がる。
「斬撃されたのに…如何してブラッドフォードは何も反応しないのよ?」
「私にも何が何やらサッパリだけどね…手応えは感じられなかったわ…」
刀剣を直視すると流血は皆無である。
「ブラッドフォードは一体何者なのよ…本当に人間なの!?」
すると背中を斬撃されたブラッドフォードは無表情でアルセイスを凝視する。
「誰であっても私は殺せません…魔女の血液と適合出来たアルセイスさんでも…」
ブラッドフォードの右腕から蛍光色の発光体が照射されたのである。
「クリスティーヌちゃん!」
アルセイスはクリスティーヌに接触…。超音速でクリスティーヌと一緒に左側へと移動したのである。
「狙撃を回避しましたか…」
彼女達はブラッドフォードの右腕を直視するなり驚愕する。
「義手かしら?」
「ブラッドフォードの正体って…本当にロボットだったの!?」
ブラッドフォードは無表情で即答したのである。
「ロボットデスト?私ハ…サイボーグ…最早生身ノ肉体ハ脳細胞ノミデスヨ…」
ブラッドフォードの正体とは全身がエターナルメタルで製造された正真正銘サイボーグの肉体であり体内には最新式の超小型スーパーリアクターを内蔵する。
「サイボーグね…あんたが流血しなかったのも納得だわ…」
(ブラッドフォードが誰にも殺せないって理由は…彼自身がサイボーグだったからね…用意周到ね…)
アルセイスはブラッドフォードが誰にも殺せない理由を熟知する。するとクリスティーヌがプルプルするなり…。
(相手がサイボーグなら…ヘタレの私でも!)
彼女はレーザーライフルでブラッドフォードを狙撃したのである。蛍光色の発光体がブラッドフォードに直撃…。ブラッドフォードの人工性の皮膚を燃焼させられたが本体であるエターナルメタルのエンドスケルトンはノーダメージだったのである。
「畜生…本体はビクともしないのね…」
「私ハ不老不死ノ肉体デスカラ…レーザーライフルハ通用シマセン…」
右腕の砲口に高エネルギーを収縮させる。
「同行者ハ不必要デス…同行者デアル貴女ハ即刻死滅シナサイ…」
「えっ…」
内蔵されたレーザーキャノンでクリスティーヌに狙撃する寸前…。
「クリスティーヌちゃん!」
アルセイスが即座にクリスティーヌの真正面へと移動したのである。ブラッドフォードのレーザーキャノンを刀剣でガードするものの…。ブラッドフォードに内蔵されたレーザーキャノンはジャガーノートに匹敵する威力でありアルセイスとクリスティーヌは背後の鉄壁にて吹っ飛ばされたのである。
「きゃっ!」
「ぐっ!」
彼女達は衝撃波により横たわる。アルセイスは負傷するものの…。即座に治癒したのである。
「クリスティーヌちゃん!?」
「彼女ハ気絶シマシタカ…」
クリスティーヌは衝撃波により気絶した状態であり口先から吐血する。
(気絶したのね…)
するとブラッドフォードが横たわる彼女達に近寄る。彼が移動するとガシャンガシャンと機械音が響き渡る。
(クリスティーヌちゃんが殺される!)
アルセイスでもサイボーグのブラッドフォードを相手に徹底抗戦は非常に困難である。力一杯クリスティーヌを背負った状態からブリッジから逃走する。ブリッジから無事脱出するものの…。クリスティーヌを背負ってからの逃走は非常に困難だったのである。艦内通用口のハッチへと到達するものの…。艦内のハッチはロックされた状態であり脱出出来なくなる。
「如何してロックされたのよ!?」
(畜生…如何すれば…)
クリスティーヌの装備品であるレーザーライフルで艦内のハッチを狙撃するもハッチはビクともしない。
「エターナルメタルかしら…レーザーライフルではビクともしないわ…」
すると背後よりガシャンガシャンと機械音が響き渡る。アルセイスは恐る恐る背後を警戒するなり…。
(ブラッドフォードだわ…)
「アルセイスサン…鬼ゴッコハ終了シマシタ…」
アルセイスは一歩ずつ後退りする。するとハッとしたのである。
「ン?」
アルセイスはポケットからサイバーライフルを入手する。
「玩具ノショットガンデスカ…私ノ装甲ハエターナルメタルナノデス…私ニ玩具ノショットガンハ通用シマセンヨ…」
余裕のブラッドフォードであるがアルセイスは無表情で…。
「ショットガンはショットガンでも…サイバーライフルなら如何かしら?」
サイバーライフルの銃口をブラッドフォードの胸部中心部に接触させる。
「サイバーライフルデスト?」
「一か八か…」
アルセイスは恐る恐るサイバーライフルを作動させたのである。するとブラッドフォードの体内の全機能が停止…。身動き出来なくなる。
「グッ!全身ガ…身動キ出来ナクナルナンテ…」
アルセイスは内心ホッとする。
「サイバーライフルは武装警察隊が開発したドローンをスリープ出来るアイテムらしいけど…サイボーグであるブラッドフォードにも通用したみたいね…」
サイボーグのブラッドフォードは不老不死の肉体であるものの…。機械類を無力化させるサイバーライフルは想定外であり体内の全機能をスリープモードに強制させられたのである。
「思う存分あんたを殺せないのが残念だわ…」
するとブラッドフォードの背後よりスタスタと何者かが近寄る。
「えっ?誰かしら?」
「ブラッドフォード総帥…」
ブラッドフォードの背後の人物とは補佐官のルーヴェルハルトである。
「誰カト思イキヤ…ルーヴェルハルト補佐官デシタカ…ルーヴェルハルト補佐官…即刻アルセイスサント同行者ノクリスティーヌヲ拘束スルノデス…私ノ体内ノシステムガ故障シマシタ…即刻整備員ヲ…」
するとルーヴェルハルトの表情が豹変する。
「鬱陶しい…」
「ナッ!?」
豹変したルーヴェルハルトの発言にブラッドフォードは勿論…。アルセイスも驚愕する。
「如何してよ…」
「ルーヴェルハルト補佐官…一体如何サレタノデスカ?冗談デスヨネ?」
動揺するブラッドフォードに失笑したのである。
「俺は誰よりも…ブラッドフォード…あんたを殺したかった!何が王族の末裔だよ!所詮あんたの主目的である王政復古なんて…夢物語だからな♪俺があんたの野望を粉砕するから覚悟しろ…」
ルーヴェルハルトの発言にピクッと反応する。
「ルーヴェルハルト補佐官…ルーヴェルハルト…貴様!」
「本日より俺があんたのレムリア解放軍を牛耳るからよ♪安心しろ…」
「一体何が?如何して仲間内で内輪揉めを…」
アルセイスは混乱したのである。
「ブラッドフォード…あんたはエターナルメタルの完全無欠のサイボーグだが…」
ブラッドフォードはポケットからハンドガンらしきアイテムを入手したのである。
「貴様!?」
ブラッドフォードはルーヴェルハルトのアイテムを直視するなり戦慄する。
「携帯式の超小型ケラウノスだよ♪あんたの脳味噌を狙撃すればサイボーグのあんたでも確実に殺せる…」
ルーヴェルハルトのアイテムは超小型化された携帯式のケラウノスである。
「貴様…恩人ノ私ヲ裏切ルノカ…」
「金蔓が…何が恩人だよ!」
ブラッドフォードにとって補佐官であるルーヴェルハルトはブラッドフォードの右腕であり軍内部では誰よりも信頼出来る側近であったが…。ルーヴェルハルトの本性に愕然とする。ルーヴェルハルトはケラウノスの銃口をブラッドフォードの後頭部に密着させたのである。
「アルセイス…死にたくなかったら回避しろ…」
アルセイスは即座に左側へと移動する。
「死滅しろ…ブラッドフォード総帥…」
「ルーヴェルハルト!貴様!」
ルーヴェルハルトは携帯式のケラウノスを作動させたのである。するとケラウノスの銃口から虹色の発光体が射出される。虹色の発光体はブラッドフォードの後頭部を貫通…。ブラッドフォードの頭部からドロドロと血液が流血する。
「ブラッドフォードは?」
アルセイスは恐る恐るブラッドフォードの頭部にコンッと接触したのである。
「安心しろ…ブラッドフォードはケラウノスで即死したよ…」
「あんたは…如何して恩人のブラッドフォードを裏切ったのよ?ブラッドフォードは極悪非道だけど…あんた達の恩人でしょう?」
アルセイスはルーヴェルハルトに問い掛ける。
「本来私はブラッドフォードに忠誠心なんて皆無だからな…私は私自身でレムリア共和国を牛耳る…」
ルーヴェルハルトの主目的とはレムリア共和国の主導権掌握でありブラッドフォードの存在は目の上のたん瘤であり目障りだったのである。ルーヴェルハルトは微笑むなりアルセイスに一礼する。
「貴様には感謝するよ♪アルセイス♪あんたがサイバーライフルを使用しなければブラッドフォードは殺せなかったからな…」
アルセイスは無表情で…。
「勘違いしないでよね!本来私がブラッドフォードに復讐したかったのに…」
ルーヴェルハルトは笑顔で質問する。
「ツンデレみたいだな…アルセイスちゃんよ♪表向きはブラッドフォードの協力者である俺にも復讐したいか?」
アルセイスは困惑するものの…。
「本来私達のターゲットはブラッドフォードだけよ…勿論あんたが私とクリスティーヌちゃんに手出しするなら手加減しないけどね…」
「あんたは本当に十年前とは別人だな…」
「十年前ですって?」
「シークレットベース…イーストサイドの墓場の地下壕であんたを気絶させたのは俺だよ…」
アルセイスはハッと反応したのである。
「あんただったのね…」
シークレットベースでの出来事を想起する。
「あんたが地下壕で遭遇した兵隊さんだったとはね…」
「奇遇だな♪」
するとルーヴェルハルトの表情が険悪化するなり…。
「アルセイスよ…あんたの本当の復讐相手は…ハイドマンだよ…」
「ハイドマンですって?誰なのよ?」
アルセイスは混乱したのである。
「ハイドマンって名前は通称名だからな…レムリア共和国武装警察隊総本部のストライダーだよ…」
「ストライダーって…ストライダー本部長!?」
ルーヴェルハルトは即答する。
「勿論…」
「ストライダー本部長が…私の復讐相手ですって?」
アルセイスはポカンとした反応であり理解出来ない。
「突然だから信用出来ないかも知れないが…レムリア解放軍に大量の新型兵器を提供したのは彼だよ…」
「如何してストライダー本部長があんた達に高額の新型兵器を提供するのよ!?」
「ストライダーはレムリア共和国武装警察隊総本部の総司令官であり…極悪非道の武器商人だからな…如何して彼が私達に高性能型の新兵器を大量に提供したのかは不明だが…」
「不明なのね…」
「ストライダーとの密約だからな…事実を熟知したければストライダー本人に接触するのが得策だよ…」
アルセイスは本当なのか如何なのかを確認したくなる。
「艦内から脱出したければ脱出しろ…」
「大丈夫なの?背後から狙撃しないでよ…」
アルセイスは非常に不安がる。
「俺を信用しろ…あんたはブラッドフォード暗殺の協力者だからな♪ケラウノスも作戦中のケルベロスもスリープさせたから安心しろ…」
ブラッドフォードが逃走中のアルセイスを追撃中に艦内の制御用メインコントローラーをシャットダウン…。成層圏のケラウノスとレムリア共和国上空作戦中のケルベロスとジャガーノートをスリープさせる。
「精一杯頑張れよ…アルセイス…」
ルーヴェルハルトはブリッジへと戻ったのである。すると数秒後…。気絶したクリスティーヌがピクッと目覚める。
「えっ?私は一体何を?」
「クリスティーヌちゃん?大丈夫?」
「アルセイス?」
クリスティーヌはハッとするなり…。
「ブラッドフォードは!?」
通路の中心部に佇立するブラッドフォードのエンドスケルトンを直視するなり戦慄したのである。
「きゃっ!」
「クリスティーヌちゃん…大丈夫よ…ブラッドフォードは殺されたの…」
「殺されたって?誰に?」
「彼を殺したのはルーヴェルハルト補佐官よ…」
アルセイスは先程の出来事を一部始終クリスティーヌに告白する。
「ルーヴェルハルト補佐官がね…ストライダー本部長がブラッドフォードに大量の新兵器を提供したなんて本当なの?」
「彼に確認したいの…クリスティーヌちゃん!即刻武装警察隊総本部に戻りましょう!」
「承知したわ…」
彼女達は艦内から脱出するなりスカイベースの飛行甲板に着陸したストライダー専用機で武装警察隊総本部へと戻ったのである。数分後…。ストライダー専用機は無事に武装警察隊総本部の滑走路へと着陸したのである。
「無事に戻れたわね…」
「アルセイス?如何するの?」
「クリスティーヌちゃん…ストライダー本部長とは私が一人で対面するわ…場合によってはストライダー本部長を…」
「アルセイス…」
不本意であるものの…。承諾する。
「無事解決したら…エントランスで合流しましょう…」
「承知したわ…」
アルセイスは覚悟するなり…。恐る恐る武装警察隊総本部へと潜入する。不自然にも室内は沈黙した状態であり人気は感じられない。
「人気が感じられないわ…」
総司令部へと到達する。アルセイスは鉄扉をノックするなり恐る恐る入室したのである。室内の中心部にはストライダーが佇立する。
「アルセイスだったか!」
ストライダーは笑顔で出迎える。
「無事に戻れたみたいだな♪念願のブラッドフォードには復讐出来たのか?」
ストライダーは笑顔で出迎えるものの…。アルセイスは無表情でありストライダーは困惑する。
「不機嫌そうだな…アルセイス…大丈夫か?」
「ストライダー本部長…」
無表情だったアルセイスの表情が険悪化するなり…。恐る恐るストライダーに問い掛ける。
「ストライダー本部長が武器商人で…ブラッドフォードに大量の新型兵器を提供したのは本当ですか?」
するとストライダーはピクッと反応したのである。
「突然何を!?俺がテロリストのブラッドフォードに新型兵器を提供するなんて…アルセイスは冗談が稚拙だな♪」
ストライダーは必死に誤魔化したものの…。アルセイスに誤魔化しは通用しない。アルセイスはジーッとストライダーを睥睨する。
「畜生が…」
(此奴には誤魔化しは通用しないな…)
ストライダーは白状したのである。
「俺だよ…俺がレムリア解放軍に大量の新型兵器を提供したのさ…」
「本当に売国奴だったのね…如何してあんたはテログループなんかに!?」
ストライダーは無表情で…。
「俺は武装警察隊総本部を見限ったのさ…」
「見限ったって…」
「レムリア共和国を牛耳る武装警察隊総本部の奴等は誰しもが無能で無責任…汚職は無論…総本部の首脳陣はこんな奴等ばかりだからな…俺も出来るなら自力で改善させたかったが…ぐっ!」
「ストライダー本部長!?」
するとストライダーは吐血したのである。
「俺は幼少期から…病弱だからな…何方にせよ長生きは出来ない…」
ストライダーの表情が険悪化する。
「俺は自国内の軍需産業は勿論…多種多様の海外の軍需産業と密談して…自国内だけでは開発出来ない近未来型の新型兵器を製造して…必要悪であるレムリア解放軍に大量の新型兵器を提供したのさ…」
「ひょっとしてケラウノスも?」
ストライダーは即答したのである。
「勿論だ…戦略兵器であるケラウノスでイーストサイドに照射させたのも提案者は俺だからな…イーストサイドは武装警察隊の兵器製造所であり…何よりも大量のエターナルメタルが採掘出来るからな…」
「結局あんたはブラッドフォードのスパイだったの?」
「武装警察隊の奴等にとってはスパイっぽいな…レムリア解放軍の主導権掌握に協力したのは事実だからな…」
一息するなり…。
「何よりも国民達も総本部の奴等と同様に無能で無責任…弱者への差別は常識化…殺されて当然だろ…」
ストライダーはレムリア共和国の人間達に憎悪する。大勢の人間達に不幸を拡散させたかったのである。
「所詮あんたもブラッドフォードと一緒ね…異端者だわ…」
「俺が異端者ね…如何するアルセイスちゃんよ?俺に復讐したいか?俺を打っ殺したければ思う存分打っ殺せよ…所詮俺は長生きしたくても長生き出来ない肉体だからな…」
アルセイスは反論する。
「何が復讐よ…あんたみたいな病弱の売国奴に復讐したって無益だわ…衰弱死するのね…」
すると突然…。ストライダーの通信機がピピッと反応したのである。
「ん?」
「何かしら?」
通信機を作動させるとホログラムが映写される。
「大胆不敵だな…」
「何よ…」
ストライダーは勿論…。アルセイスもゾッとする。ホログラムに映写されたのはレムリア解放軍の敵兵であり左手には殺害したルーヴェルハルトの生首を見せびらかしたのである。
「ルーヴェルハルト…補佐員だわ…」
「レムリア解放軍のサブリーダーが殺されちまったか…」
ホログラムの敵兵が発言する。
「俺達の金蔓を殺しやがって!金蔓が殺されちまったのは残念だったが…俺達は新政府軍を組織した!金輪際俺達新政府軍がレムリア共和国を牛耳るからよ♪覚悟しろよ♪愚民達…」
プチッと配信が遮断されたのである。
「何が新政府軍よ…」
「如何やらレムリア解放軍も総崩れらしいな…武装警察隊も分裂状態…結果的に両陣営とも共倒れしちまったか…」
「分裂ですって…」
最早レムリア共和国は内戦の泥沼化によって無政府化した状態であり各区域内では暴徒化した無数のテログループが衝突…。殺し合ったのである。レムリア共和国全域が弱肉強食の大動乱時代へと突入する。
「最早レムリア共和国全域が暴徒化しちまったからな…こんなにも泥沼化した状態では武装警察隊でも鎮圧出来ない…」
アルセイスは抜刀したのである。
「レムリア共和国全域が暴徒化しちゃったから何よ?愚民達が私達に手出しするなら…私は猛反撃するから…」
ストライダーはニヤリと微笑むなり…。
「今現在のアルセイスだったら…大丈夫かも知れないな♪」
するとストライダーは恐る恐る軍服のポケットから護身用のハンドガンを所持したのである。
「ハンドガンかしら?」
「アルセイス…精一杯長生きしろよ…」
アルセイスは即答する。
「勿論よ…」
アルセイスは総司令部から退室したのである。すると数秒後…。バンッとハンドガンの実弾による銃声が響き渡る。
「ストライダー本部長…」
アルセイスは沈黙した様子でありエントランスにてクリスティーヌと無事再合流したのである。
「アルセイス!?」
「クリスティーヌちゃん…」
クリスティーヌは恐る恐る…。
「ストライダー本部長は?」
クリスティーヌに問い掛けられたアルセイスは無表情で即答する。
「私が殺したわ…」
「本当に復讐したのね…」
(ストライダー本部長は自殺だけどね…)
アルセイスは険悪化した表情で発言したのである。
「クリスティーヌちゃん…最早国全体の内戦が泥沼化しちゃったみたい…」
「泥沼化ですって?」
「レムリア共和国は無政府化しちゃったのよ…国内全域が主戦場なのよ…」
「無政府化って…レムリア共和国の全国民が敵対者って意味なのよね…」
普段の彼女であれば人一倍絶望視するものの…。クリスティーヌは平常心だったのである。アルセイスは断言する。
「クリスティーヌちゃん…今後は大変かも知れないけれど…私達でレムリア共和国を再復興させましょう…」
クリスティーヌは一息するなり…。
「アルセイス…こんな私でもあんたと一緒だったら大丈夫かも知れないわ♪勿論私も精一杯協力するからね!」
クリスティーヌは笑顔で断言したのである。
「感謝するわね…クリスティーヌちゃん♪」
彼女達は一致団結…。前代未聞の大動乱時代へと突入したレムリア共和国の再復興を決意したのである。
完結
メンテ
メガラニカ大事変 ( No.94 )
日時: 2021/09/16 17:32
名前: 月影桜花姫

第一話

開戦

世界最終戦争終戦後の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『太平帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。終戦後は超大国としての地位と資源を牛耳ったのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得した太平帝国であるが…。太平帝国の圧政に反対する一部の国連軍残存勢力と各地の反政府勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ自由区』と命名され覇権国家である太平帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ自由区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ自由区の勢力拡大を危惧した太平帝国は世界暦五百二十二年七月十六日に宣戦布告…。翌日の七月十七日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ自由区本土を攻撃目標に直進したのである。太平帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦セイバードラゴンには太平帝国国家元首であり総軍の最高指導者である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。
「大総統!徹底的にメガラニカ自由区を撃滅しましょう!」
「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国である太平帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」
ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦セイバードラゴンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ自由区本土攻略作戦ではセイバードラゴン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。
「メガラニカ自由区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」
「全軍を警戒態勢に移行させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。
「全軍…警戒態勢に移行せよ…」
すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦セイバードラゴンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。
「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」
スーパーレーダーは太平帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。太平帝国軍では艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在太平帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。
「何事だ?」
ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。
「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」
スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。
「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」
すると直後…。
「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」
四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。
「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」
ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。
「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」
各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年太平帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。
「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」
「最先端の科学技術の結晶である太平帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」
ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」
総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。太平帝国軍の大艦隊はメガラニカ自由区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ自由区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。
「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」
メガラニカ自由区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。
「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」
ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。太平帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。
「味方艦隊の圧倒的優勢です!」
旗艦セイバードラゴンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。
「太平帝国軍の圧勝は確実だな…」
「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ自由区なんて…」
乗組員達は太平帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ自由区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。
「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」
「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…太平帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」
乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。
「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」
「狼狽えるな…」
ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。
「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ防衛軍が圧倒的に不利ですよ…」
ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。
「時間だな…」
周囲の乗組員達はハッとした表情で…。
「えっ…何が時間なのですか!?」
一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。
「作戦を開始する…」
ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。
「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」
「はっ!」
周囲の者達はポカンとする。
「一体何を開始するのか?」
同時刻…。メガラニカ自由区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ自由区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景に太平帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。
「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ自由区の南方地帯全域を空爆せよ…場合によっては非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」
「はっ!」
ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ自由区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死に太平帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦セイバードラゴンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。
「大総統♪太平帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」
副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…」
ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。
「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。
「スーパーレーダーが反応しました!」
特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。
「今度は何事だ!?」
ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。
「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」
「移動物体だと?敵機か?」
ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。
「此奴は…」
飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。
「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」
「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」
「戦闘用ドローンですと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」
「承知しました…大総統…」
戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。
「大総統…敵軍のドローンです…」
「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」
ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦セイバードラゴンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。
「なっ!?シールドでしょうか!?」
「シールドだと?」
「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」
「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」
電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年では太平帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。
「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」
ドローン関連の科学技術ではメガラニカ自由区が太平帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ防衛軍にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方の太平帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。
「艦長…上空より敵機が接近中です!」
対空パルスレーザーの弾幕が太平帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。
「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」
「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」
本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。
「大昔の大戦だな…」
太平帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。
「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」
特殊無線技士が報告する。
「即刻回避だ!」
ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦セイバードラゴンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦セイバードラゴンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。
「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」
メガラニカ防衛軍のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローン部隊も艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。
「大総統…太平帝国軍の劣勢です…」
形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦セイバードラゴンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。
「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」
同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦セイバードラゴンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。
「大総統!現状では太平帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」
撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。
「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」
実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。
「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」
ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。
「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」
特殊無線技士が報告する。
「敵機だと?」
数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦セイバードラゴンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。
「ぐっ!」
艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。
「大総統!大丈夫ですか!?」
副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。
「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」
先程のドローンの攻撃により旗艦セイバードラゴンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。
「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」
「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」
「であればダメージコントロールを急行せよ…」
乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。
(戦闘を続行し続ければ太平帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…)
味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。
「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」
ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始した太平帝国軍の艦隊にメガラニカ防衛軍のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦で太平帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ防衛軍はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。太平帝国の権威が失墜したのである。

第二話

大艦巨砲主義

メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ自由区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ防衛軍はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力により太平帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。太平帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。
「大総統…一週間の短期間で太平帝国の統治領の約半分がメガラニカ防衛軍の猛反撃により占拠されました…太平帝国軍は劣勢の状態です…」
「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」
ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。
「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ自由区は太平帝国以上に消耗した状態です!」
今現在のメガラニカ自由区と太平帝国の国力は一対十八でありメガラニカ自由区は圧倒的に不利である。メガラニカ防衛軍はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量の太平帝国軍を圧倒する。メガラニカ防衛軍の快進撃により太平帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ防衛軍は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。
「メガラニカ防衛軍は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来る絶好のチャンスですよ!」
するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」
「訓練中のホムンクルスの将兵達ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前の太平帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治の太平帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来るのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。
「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。太平帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が直接戦闘しなくても…ホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
近日では太平帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ防衛軍に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続ける太平帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。
「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」
開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。
「戦闘用ドローン…『ケルベロス』だと?」
「ケルベロスは…」
ケルベロスとは太平帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザーと実弾の対空機関砲を搭載…。
「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ防衛軍のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」
メガラニカ南方海戦で太平帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦で太平帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ防衛軍のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。
「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」
二枚目の設計図を直視する。
「ん?此奴は…」
「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『アプセラス』です…」
「超砲撃型戦艦…アプセラス?」
正式名は超砲撃型戦艦アプセラスであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるが戦艦アプセラスは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。
「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…」
ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるのだが…。
「戦艦アプセラスは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…所謂実験試作型の試験戦艦ですね…」
「電磁投射砲か…」
電磁投射砲は現在太平帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。
「海軍開発部の大計画では戦艦アプセラスの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも非常に安価ですからね♪」
「であれば建造を急行するべきだな…」
直後である。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。
「緊急事態だと?一体何事だ?」
ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。
「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍の攻勢で占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…守備隊は玉砕したとの情報です…」
「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。
「残念ですが…」
メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人もの太平帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ防衛軍の強襲で全滅したのである。
「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…パシフィスゾーン基地だな…」
パシフィスゾーン基地とは最南端に位置する離島…。パシフィスゾーン本島を防衛する太平帝国軍守備隊の本拠地である。太平帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「大総統…即刻パシフィスゾーン本島に援軍を派遣させますか?」
「援軍は不要だ…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。
「本気ですか!?大総統!?」
「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」
「如何して援軍を派遣しないのですか!?パシフィスゾーンが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」
ブラッドフォードは再度無表情で返答する。
「パシフィスゾーンの守備隊には陽動作戦に利用する…」
「陽動作戦ですと?」
「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…パシフィスゾーンに侵攻中のメガラニカ防衛軍を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」
パシフィスゾーン基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。パシフィスゾーンを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。
「特殊弾頭ミサイルですと!?パシフィスゾーンに特殊弾頭なんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の民間人にも被害が…」
特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発のミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には躊躇する。
「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」
小規模国家であった太平帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。
「特殊弾道ミサイルで敵味方諸共…殲滅されるのですか?」
「最早多少の犠牲は止むを得ない…」
ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。
「特殊弾頭は極秘だぞ…兎にも角にもパシフィスゾーンの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは不本意であるが…。ブラッドフォードの作戦に承諾したのである。

第三話

攻防戦

七月二十七日早朝…。メガラニカ防衛軍の大艦隊が太平帝国最終防衛区域パシフィスゾーンへと進行を開始したのである。同時刻…。パシフィスゾーン基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。
「一体何事だ!?」
パシフィスゾーン基地陸軍総司令官【ウィグノール】が偵察員に問い掛ける。
「スーパーレーダーが反応しました!」
即座に立体映像のホログラムで領海を確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。
「此奴はメガラニカ防衛軍の大艦隊だな…パシフィスゾーンを攻略するみたいだ…」
「如何しましょう…総司令官…」
「即刻防衛戦を開始する!各員は戦闘配置だ!パシフィスゾーンは徹底的に死守しろ!」
ウィグノールは各員に防衛戦を指示したのである。
「はっ!」
パシフィスゾーンは本土防衛の最終防衛ラインでありパシフィスゾーンが陥落すれば本土が攻撃される。
「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」
「はっ!」
通信兵は即座に総本部に通達したのである。三十分後…。メガラニカ防衛軍の大艦隊がパシフィスゾーンの防衛区域へと到達したのである。
「総司令官…メガラニカ防衛軍の大艦隊が防衛区域に到達しました…」
「防衛戦を開始するか…」
ウィグノールの攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻ものミサイル警備艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。同時刻…。メガラニカ防衛軍の大艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦レヴィアタンはスーパーレーダーで太平帝国軍のミサイル警備艇と戦闘爆撃機を確認する。
「艦長…敵部隊を確認しました…」
旗艦レヴィアタンの艦長はメガラニカ南方海戦で活躍したウィンフィールドである。
「即刻ホログラムを作動させろ…」
乗組員は艦内のホログラム装置を作動させる。するとホログラムには百隻以上のミサイル警備艇と戦闘爆撃機が立体映像として映写される。
「敵部隊は旧型の兵器ばかりか…」
「如何されますか?」
乗組員の問い掛けにウィンフィールドは即答する。
「即刻迎撃せよ…母艦からはドローン兵器を発進させろ…」
「承知しました…」
旗艦のレヴィアタンから二十八機のグリフォン型ドローン兵器が発進する。旗艦レヴィアタンは全長二百四十メートルサイズ…。全幅三十メートルサイズの大型艦であり満載排水量は推定五万トンである。ミサイル戦闘艦としての機能は勿論…。航空機用の母艦としても使用出来る。所謂現代型の航空戦艦である。艦載機はドローン兵器であり合計五十機以上搭載出来る。旗艦のレヴィアタンは勿論…。レヴィアタン級航空大型ミサイル戦闘艦六隻と最新鋭のドローン空母艦隊から合計四百機以上ものグリフォン型ドローン兵器が発進したのである。ドローン部隊が発進してより十五分後…。最前線のパシフィスゾーン防衛部隊と遭遇したのである。両軍が遭遇した直後に戦闘が開始され…。パシフィスゾーン防衛部隊はミサイル警備艇と戦闘爆撃機による対空ミサイル攻撃で十四機のドローンを撃墜したのである。ドローン撃墜に防衛部隊の将兵達は戦意が向上するも…。相手は新型のドローン兵器であり二分も経過すればドローンの反撃で八十三隻のミサイル警備艇が撃沈され七十六機の戦闘爆撃機が一瞬で撃墜されたのである。旗艦レヴィアタンの乗組員達は艦橋から戦況を確認する。
「艦長…味方の優勢です…」
「上出来だな…」
厳格の軍人であるウィンフィールドだが…。ドローン部隊の大戦果に上出来と判断したのである。
「ドローン部隊には攻撃を続行させろ…パシフィスゾーンを防衛する陸上部隊に空爆を仕掛けるのだ…」
ドローン部隊の攻撃の続行を指示する。
「承知しました!」
するとウィンフィールドは恐る恐る…。
「当然として無関係の非戦闘員への被害は最小限に努力せよ…」
「承知です…」
ドローン部隊の猛反撃からパシフィスゾーン防衛部隊は総崩れ…。海上の防衛網は簡単に突破されたのである。
「総司令官…海上の防衛部隊が壊滅…敵軍に突破されました…」
通信兵の報告にパシフィスゾーン総司令部は混乱する。
「海上の防衛部隊が壊滅だと…」
「敵軍はドローン部隊を使用したのか…」
総司令官のウィグノールは一瞬沈黙するも…。
「地上の守備隊に伝播せよ…陸上の防衛戦を開始すると!」
「承知しました…」
基地内の将兵達は承諾したのである。
「非戦闘員は緊急用シェルターに避難させろ…」
陸上の防衛部隊は即座に行動を開始する。緊急警報システムが作動され…。民間人は即座に各地域の地下壕に設置された避難用の緊急用シェルターへと移動したのである。民間人の避難終了から三分後…。メガラニカ防衛軍のドローン部隊がパシフィスゾーン領空へと到達する。
「メガラニカ防衛軍のドローンだ!」
「海上の防衛部隊は全滅したのか?」
「兎にも角にも敵機を迎撃するぞ!」
陸上の守備隊は迎撃を開始…。上空のドローンを目標に攻撃したのである。数千発もの機関砲と対空ミサイルが上空に炸裂する。守備隊の攻撃で二十二機のドローンを撃墜するも…。ドローンの空爆で三十六両の戦闘車が破壊され百三十七人の将兵が戦死する。三分間の空爆で陸上部隊の八割が壊滅したのである。
「陸上部隊の八割が壊滅しました…」
守備隊の劣勢に総司令部は混乱する。
「なっ!?八割も!?」
「全滅だな…」
「ドローンの空爆で守備隊の八割が壊滅したのか!?」
総司令部の将兵達は予想外の事態に恐怖したのである。直後…。スーパーレーダーが反応する。
「スーパーレーダーが反応したぞ…今度は何事だ?」
ホログラムを作動させるとメガラニカ防衛軍の大艦隊が映写される。
「敵軍の大艦隊だぞ…パシフィスゾーンの領海に到達したのか!?」
メガラニカ防衛軍の大艦隊は航空大型ミサイル戦闘艦が七隻と正規空母四隻…。ミサイル巡洋艦が十三隻と三十一隻の防空駆逐艦が確認出来る。後方には上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦が十八隻…。補助用の魚雷艇が十五隻確認出来る。メガラニカ防衛軍はドローンの投入で海上の防衛部隊を撃退…。メガラニカ防衛軍艦隊はノーダメージでパシフィスゾーンの領海へと到達出来たのである。
「本土から援軍は出動したのか!?」
ウィグノールは再度通信兵に問い掛ける。
「無線では…本土から味方の潜水艦が一隻…出撃したとの情報です…」
「はっ?」
ウィグノールは絶句する。
「こんな状況で援軍が潜水艦一隻だと!?何故海軍の主力艦隊を出動させない!?」
「主力艦隊は本土を防衛するのが手一杯であると…」
現実問題…。メガラニカ南方海戦の大敗北から太平帝国軍主力艦隊は艦隊の再建に手一杯であり主力の大艦隊は派遣出来なかったのである。
「畜生が…」
通信兵の報告にウィグノールはピリピリする。
(パシフィスゾーンは陥落しろと?総本部は本土での戦闘を決断したのか?)
総本部の意向に疑問視するが…。ウィグノールは決断したのである。
「総員…本土からの援軍は期待出来ないが…精一杯パシフィスゾーンを死守するぞ!」
「はっ!承知しました…」
絶望的状況下であるが守備隊の将兵達は一致団結…。残存部隊による徹底抗戦を決意したのである。同時刻…。メガラニカ防衛軍大艦隊は上陸作戦を開始したのである。十八隻の大型輸送艦から三十六隻の上陸用舟艇が出動…。陸上部隊によるパシフィスゾーン上陸作戦が開始されたのである。上陸部隊の戦力は主力戦車五十二両…。装甲車と軽量の戦闘車が六十四両投入される。二万人の海兵隊が上陸したのである。今回の上陸作戦では最新型の地上用ドローンである無人小型戦車を五機投入…。試作段階であるが実験目的で無人小型戦車が実戦配備されたのである。
「奴等…メガラニカ防衛軍の上陸部隊です…」
最前線に位置する陸軍の残存部隊が無傷のトーチカから恐る恐る…。上陸中の敵部隊を確認する。
「俺達は一先ず撤収するぞ…敵軍への反撃は本隊と合流してからだ…」
「はっ!」
最前線の残存部隊は総司令部へと撤収したのである。メガラニカ防衛軍上陸部隊は無傷で上陸地点を制圧…。後方支援部隊も上陸地点への上陸を開始したのである。同時刻…。太平帝国南方地帯軍港から出航した新型潜水艦アスピドケロンは国家元首であるブラッドフォードが艦長として乗艦したのである。
「航海は順調そうだな…」
アスピドケロンは順調に深度七百メートルの海中を潜航し続ける。
「パシフィスゾーンの戦況は?」
ブラッドフォードは乗組員に問い掛けるとホログラム装置を作動…。地形の様子を小型立体映像で映写させたのである。
「現状では太平帝国軍の劣勢ですね…」
「好都合だ…最低でも敵部隊の五割程度は中心地に侵攻させたい…」
同時刻…。陸地の残存部隊は必死に応戦するも最新兵器を多数投入するメガラニカ防衛軍の侵攻を阻止するのは実質不可能であり後退したのである。最早パシフィスゾーンは本拠地に残存した部隊以外は壊滅…。パシフィスゾーンが陥落するのは時間の問題でありメガラニカ防衛軍の勝利は目前だったのである。
メンテ
メガラニカ大事変 ( No.95 )
日時: 2021/09/16 22:16
名前: 月影桜花姫

第一話

開戦

世界最終戦争終戦後の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『太平帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。終戦後は超大国としての地位と資源を牛耳ったのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得した太平帝国であるが…。太平帝国の圧政に反対する一部の国連軍残存勢力と各地の反政府勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ自由区』と命名され覇権国家である太平帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ自由区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ自由区の勢力拡大を危惧した太平帝国は世界暦五百二十二年七月十六日に宣戦布告…。翌日の七月十七日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ自由区本土を攻撃目標に直進したのである。太平帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦セイバードラゴンには太平帝国国家元首であり総軍の最高指導者である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。
「大総統!徹底的にメガラニカ自由区を撃滅しましょう!」
「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国である太平帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」
ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦セイバードラゴンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ自由区本土攻略作戦ではセイバードラゴン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。
「メガラニカ自由区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」
「全軍を警戒態勢に移行させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。
「全軍…警戒態勢に移行せよ…」
すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦セイバードラゴンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。
「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」
スーパーレーダーは太平帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。太平帝国軍では艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在太平帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。
「何事だ?」
ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。
「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」
スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。
「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」
すると直後…。
「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」
四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。
「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」
ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。
「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」
各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年太平帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。
「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」
「最先端の科学技術の結晶である太平帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」
ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」
総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。太平帝国軍の大艦隊はメガラニカ自由区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ自由区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。
「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」
メガラニカ自由区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。
「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」
ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。太平帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。
「味方艦隊の圧倒的優勢です!」
旗艦セイバードラゴンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。
「太平帝国軍の圧勝は確実だな…」
「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ自由区なんて…」
乗組員達は太平帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ自由区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。
「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」
「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…太平帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」
乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。
「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」
「狼狽えるな…」
ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。
「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ防衛軍が圧倒的に不利ですよ…」
ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。
「時間だな…」
周囲の乗組員達はハッとした表情で…。
「えっ…何が時間なのですか!?」
一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。
「作戦を開始する…」
ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。
「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」
「はっ!」
周囲の者達はポカンとする。
「一体何を開始するのか?」
同時刻…。メガラニカ自由区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ自由区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景に太平帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。
「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ自由区の南方地帯全域を空爆せよ…場合によっては非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」
「はっ!」
ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ自由区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死に太平帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦セイバードラゴンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。
「大総統♪太平帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」
副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…」
ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。
「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。
「スーパーレーダーが反応しました!」
特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。
「今度は何事だ!?」
ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。
「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」
「移動物体だと?敵機か?」
ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。
「此奴は…」
飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。
「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」
「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」
「戦闘用ドローンですと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」
「承知しました…大総統…」
戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。
「大総統…敵軍のドローンです…」
「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」
ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦セイバードラゴンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。
「なっ!?シールドでしょうか!?」
「シールドだと?」
「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」
「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」
電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年では太平帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。
「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」
ドローン関連の科学技術ではメガラニカ自由区が太平帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ防衛軍にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方の太平帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。
「艦長…上空より敵機が接近中です!」
対空パルスレーザーの弾幕が太平帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。
「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」
「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」
本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。
「大昔の大戦だな…」
太平帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。
「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」
特殊無線技士が報告する。
「即刻回避だ!」
ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦セイバードラゴンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦セイバードラゴンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。
「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」
メガラニカ防衛軍のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローン部隊も艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。
「大総統…太平帝国軍の劣勢です…」
形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦セイバードラゴンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。
「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」
同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦セイバードラゴンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。
「大総統!現状では太平帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」
撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。
「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」
実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。
「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」
ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。
「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」
特殊無線技士が報告する。
「敵機だと?」
数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦セイバードラゴンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。
「ぐっ!」
艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。
「大総統!大丈夫ですか!?」
副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。
「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」
先程のドローンの攻撃により旗艦セイバードラゴンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。
「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」
「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」
「であればダメージコントロールを急行せよ…」
乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。
(戦闘を続行し続ければ太平帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…)
味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。
「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」
ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始した太平帝国軍の艦隊にメガラニカ防衛軍のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦で太平帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ防衛軍はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。太平帝国の権威が失墜したのである。

第二話

大艦巨砲主義

メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ自由区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ防衛軍はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力により太平帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。太平帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。
「大総統…一週間の短期間で太平帝国の統治領の約半分がメガラニカ防衛軍の猛反撃により占拠されました…太平帝国軍は劣勢の状態です…」
「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」
ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。
「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ自由区は太平帝国以上に消耗した状態です!」
今現在のメガラニカ自由区と太平帝国の国力は一対十八でありメガラニカ自由区は圧倒的に不利である。メガラニカ防衛軍はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量の太平帝国軍を圧倒する。メガラニカ防衛軍の快進撃により太平帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ防衛軍は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。
「メガラニカ防衛軍は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来る絶好のチャンスですよ!」
するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」
「訓練中のホムンクルスの将兵達ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前の太平帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治の太平帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来るのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。
「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。太平帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が直接戦闘しなくても…ホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
近日では太平帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ防衛軍に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続ける太平帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。
「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」
開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。
「戦闘用ドローン…『ケルベロス』だと?」
「ケルベロスは…」
ケルベロスとは太平帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザー機関砲と実弾の対空機関砲を両方搭載…。
「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ防衛軍のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」
メガラニカ南方海戦で太平帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦で太平帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ防衛軍のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。
「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」
二枚目の設計図を直視する。
「ん?此奴は…」
「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『アプセラス』です…」
「超砲撃型戦艦…アプセラス?」
正式名は超砲撃型戦艦アプセラスであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるが戦艦アプセラスは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。
「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…」
ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるのだが…。
「戦艦アプセラスは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…所謂実験試作型の試験戦艦ですね…」
「電磁投射砲か…」
電磁投射砲は現在太平帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。
「海軍開発部の大計画では戦艦アプセラスの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも非常に安価ですからね♪」
「であれば建造を急行するべきだな…」
直後である。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。
「緊急事態だと?一体何事だ?」
ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。
「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍の攻勢で占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…守備隊は玉砕したとの情報です…」
「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。
「残念ですが…」
メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人もの太平帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ防衛軍の強襲で全滅したのである。
「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…パシフィスアイランド基地だな…」
パシフィスアイランド基地とは最南端に位置する離島…。パシフィスアイランド本島を防衛する太平帝国軍守備隊の本拠地である。太平帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「大総統…即刻パシフィスアイランド本島に援軍を派遣させますか?」
「援軍は不要だ…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。
「本気ですか!?大総統!?」
「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」
「如何して援軍を派遣しないのですか!?パシフィスアイランドが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」
ブラッドフォードは再度無表情で返答する。
「パシフィスアイランドの守備隊には陽動作戦に利用する…」
「陽動作戦ですと?」
「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…パシフィスアイランドに侵攻中のメガラニカ防衛軍を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」
パシフィスアイランド基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。パシフィスアイランドを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。
「特殊弾頭ミサイルですと!?パシフィスアイランドに特殊弾頭なんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の民間人にも被害が…」
特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発のミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には躊躇する。
「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」
小規模国家であった太平帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。
「特殊弾道ミサイルで敵味方諸共…殲滅されるのですか?」
「最早多少の犠牲は止むを得ない…」
ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。
「特殊弾頭は極秘だぞ…兎にも角にもパシフィスアイランドの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは不本意であるが…。ブラッドフォードの提案する殲滅作戦に承諾したのである。

第三話

攻防戦

七月二十七日早朝…。メガラニカ防衛軍の大艦隊が太平帝国最終防衛区域パシフィスアイランドへと進行を開始したのである。同時刻…。パシフィスアイランド基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。
「一体何事だ!?」
パシフィスアイランド基地陸軍総司令官【ウィグノール】が偵察員に問い掛ける。
「スーパーレーダーが反応しました!」
即座に立体映像のホログラムで領海を確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。
「此奴はメガラニカ防衛軍の大艦隊だな…総力戦でパシフィスアイランドを攻略するみたいだ…」
「如何しましょう…総司令官…」
「即刻防衛戦を開始する!各戦闘員は戦闘配置だ!パシフィスアイランドは徹底的に死守しろ!」
ウィグノールは各員に防衛戦を指示したのである。
「はっ!」
パシフィスアイランドは本土防衛の最終防衛ラインでありパシフィスアイランドが陥落すれば本土が攻撃される。
「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」
「はっ!」
通信兵は即座に総本部に通達したのである。三十分後…。メガラニカ防衛軍の大艦隊がパシフィスアイランドの防衛区域へと到達したのである。
「総司令官…メガラニカ防衛軍の大艦隊が防衛区域に到達しました…」
「防衛戦を開始するか…」
ウィグノールの攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻ものミサイル警備艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。同時刻…。メガラニカ防衛軍の大艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦レヴィアタンはスーパーレーダーで太平帝国軍のミサイル警備艇と戦闘爆撃機を確認する。
「艦長…敵部隊を確認しました…」
旗艦レヴィアタンの艦長はメガラニカ南方海戦で活躍したウィンフィールドである。
「即刻ホログラムを作動させろ…」
乗組員は艦内のホログラム装置を作動させる。するとホログラムには百隻以上のミサイル警備艇と戦闘爆撃機が立体映像として映写される。
「敵部隊は旧型の兵器ばかりか…」
「如何されますか?」
乗組員の問い掛けにウィンフィールドは即答する。
「即刻迎撃せよ…母艦からはドローン兵器を発進させろ…」
「承知しました…」
旗艦のレヴィアタンから二十八機のグリフォン型ドローン兵器が発進する。旗艦レヴィアタンは全長二百四十メートルサイズ…。全幅三十メートルサイズの大型艦であり満載排水量は推定五万トンである。ミサイル戦闘艦としての機能は勿論…。航空機用の母艦としても使用出来る。所謂現代型の航空戦艦である。艦載機はドローン兵器であり合計五十機以上搭載出来る。旗艦のレヴィアタンは勿論…。レヴィアタン級航空大型ミサイル戦闘艦六隻と最新鋭のドローン空母艦隊から合計四百機以上ものグリフォン型ドローン兵器が発進したのである。ドローン部隊が発進してより十五分後…。最前線のパシフィスアイランド防衛部隊と遭遇したのである。両軍が遭遇した直後に戦闘が開始され…。パシフィスアイランド防衛部隊はミサイル警備艇と戦闘爆撃機による対空ミサイル攻撃で十四機のドローンを撃墜したのである。ドローン撃墜に防衛部隊の将兵達は戦意が向上するも…。相手は新型のドローン兵器であり二分も経過すればドローンの反撃で八十三隻のミサイル警備艇が撃沈され七十六機の戦闘爆撃機が一瞬で撃墜されたのである。旗艦レヴィアタンの乗組員達は艦橋から戦況を確認する。
「艦長…味方の優勢です…」
「上出来だな…」
厳格の軍人であるウィンフィールドだが…。ドローン部隊の大戦果に上出来と判断したのである。
「ドローン部隊には攻撃を続行させろ…パシフィスアイランドを防衛する陸上部隊に空爆を仕掛けるのだ…」
ドローン部隊の攻撃の続行を指示する。
「承知しました!」
するとウィンフィールドは恐る恐る…。
「当然として無関係の非戦闘員への被害は最小限に努力せよ…」
「承知です…」
ドローン部隊の猛反撃からパシフィスアイランド防衛部隊は総崩れ…。海上の防衛網は簡単に突破されたのである。
「総司令官…海上の防衛部隊が壊滅…敵軍に突破されました…」
通信兵の報告にパシフィスアイランド総司令部は混乱する。
「海上の防衛部隊が壊滅だと…」
「敵軍はドローン部隊を使用したのか…」
総司令官のウィグノールは一瞬沈黙するも…。
「地上の守備隊に伝播せよ…陸上の防衛戦を開始すると!」
「承知しました…」
基地内の将兵達は承諾したのである。
「非戦闘員は緊急用シェルターに避難させろ…」
陸上の防衛部隊は即座に行動を開始する。緊急警報システムが作動され…。民間人は即座に各地域の地下壕に設置された避難用の緊急用シェルターへと移動したのである。民間人の避難終了から三分後…。メガラニカ防衛軍のドローン部隊がパシフィスアイランド領空へと到達する。
「メガラニカ防衛軍のドローンだ!」
「海上の防衛部隊は全滅したのか?」
「兎にも角にも敵機を迎撃するぞ!」
陸上の守備隊は迎撃を開始…。上空のドローンを目標に攻撃したのである。数千発もの機関砲と対空ミサイルが上空に炸裂する。守備隊の攻撃で二十二機のドローンを撃墜するも…。ドローンの空爆で三十六両の戦闘車が破壊され百三十七人の将兵が戦死する。三分間の空爆で陸上部隊の八割が壊滅したのである。
「陸上部隊の八割が壊滅しました…」
守備隊の劣勢に総司令部は混乱する。
「なっ!?八割も!?」
「全滅だな…」
「ドローンの空爆で守備隊の八割が壊滅したのか!?」
総司令部の将兵達は予想外の事態に恐怖したのである。直後…。スーパーレーダーが反応する。
「スーパーレーダーが反応したぞ…今度は何事だ?」
ホログラムを作動させるとメガラニカ防衛軍の大艦隊が映写される。
「敵軍の大艦隊だぞ…パシフィスアイランドの領海に到達したのか!?」
メガラニカ防衛軍の大艦隊は航空大型ミサイル戦闘艦が七隻と正規空母四隻…。ミサイル巡洋艦が十三隻と三十一隻の防空駆逐艦が確認出来る。後方には上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦が十八隻…。補助用の魚雷艇が十五隻確認出来る。メガラニカ防衛軍はドローンの投入で海上の防衛部隊を撃退…。メガラニカ防衛軍艦隊はノーダメージでパシフィスアイランドの領海へと到達出来たのである。
「本土から援軍は出動したのか!?」
ウィグノールは再度通信兵に問い掛ける。
「無線では…本土から味方の潜水艦が一隻…出撃したとの情報です…」
「はっ?」
ウィグノールは絶句する。
「こんな状況で援軍が潜水艦一隻だと!?何故海軍の主力艦隊を出動させない!?」
「主力艦隊は本土を防衛するのが手一杯であると…」
現実問題…。メガラニカ南方海戦の大敗北から太平帝国軍主力艦隊は艦隊の再建に手一杯であり主力の大艦隊は派遣出来なかったのである。
「畜生が…」
通信兵の報告にウィグノールはピリピリする。
(パシフィスアイランドは陥落しろと?総本部は本土での戦闘を決断したのか?)
総本部の意向に疑問視するが…。ウィグノールは決断したのである。
「総員…太平帝国本土からの援軍は期待出来ないが…精一杯パシフィスアイランドを死守するぞ!」
「はっ!承知しました…」
絶望的状況下であるが守備隊の将兵達は一致団結…。残存部隊による徹底抗戦を決意したのである。同時刻…。メガラニカ防衛軍大艦隊は上陸作戦を開始したのである。十八隻の大型輸送艦から三十六隻の上陸用舟艇が出動…。陸上部隊によるパシフィスアイランド上陸作戦が開始されたのである。上陸部隊の戦力は主力戦車五十二両…。装甲車と軽量の戦闘車が六十四両投入される。二万人の海兵隊が上陸したのである。今回の上陸作戦では最新型の地上用ドローンである無人小型戦車を五機投入…。試作段階であるが実験目的で無人小型戦車が実戦配備されたのである。
「奴等…メガラニカ防衛軍の上陸部隊です…」
最前線に位置する陸軍の残存部隊が無傷のトーチカから恐る恐る…。上陸中の敵部隊を確認する。
「俺達は一先ず撤収するぞ…敵軍への反撃は本隊と合流してからだ…」
「はっ!」
最前線の残存部隊は総司令部へと撤収したのである。メガラニカ防衛軍上陸部隊は無傷で上陸地点を制圧…。後方支援部隊も上陸地点への上陸を開始したのである。同時刻…。太平帝国南方地帯軍港から出航した新型潜水艦アスピドケロンは国家元首であるブラッドフォードが艦長として乗艦したのである。
「航海は順調そうだな…」
アスピドケロンは順調に深度七百メートルの海底下を潜航し続ける。
「パシフィスアイランドの戦況は?」
ブラッドフォードは乗組員に問い掛けるとホログラム装置を作動…。地形の様子を小型立体映像で映写させたのである。
「現状では太平帝国軍の劣勢ですね…」
「好都合だ…最低でも敵部隊の五割程度は中心地に侵攻させたい…」
同時刻…。陸地の残存部隊は必死に応戦するも最新兵器を多数投入するメガラニカ防衛軍の侵攻を阻止するのは実質不可能であり後退したのである。最早パシフィスアイランドは本拠地に残存した守備隊以外は壊滅…。パシフィスアイランドが陥落するのは時間の問題でありメガラニカ防衛軍の勝利は目前だったのである。
メンテ
メガラニカ大事変 ( No.96 )
日時: 2021/09/17 19:41
名前: 月影桜花姫

第一話

開戦

世界最終戦争終戦後の出来事である。世界最終戦争唯一の戦勝国『太平帝国』は戦前でこそ小規模国家であったが世界最終戦争の快進撃から勢力を拡大化…。終戦後は超大国としての地位と資源を牛耳ったのである。世界最終戦争の大勝利によって全世界の秩序と覇権を獲得した太平帝国であるが…。太平帝国の圧政に反対する一部の国連軍残存勢力と各地の反政府勢力が大南海に位置する孤島にて合流したのである。彼等によって大南海の孤島は自治領『メガラニカ自由区』と命名され覇権国家である太平帝国の支配圏から逃亡した移民者達が亡命…。メガラニカ自由区樹立から一年が経過すると領内の総人口は推計五十万人規模に増大化したのである。メガラニカ自由区の勢力拡大を危惧した太平帝国は世界暦五百二十二年七月十六日に宣戦布告…。翌日の七月十七日には大規模艦隊を派遣させ南方のメガラニカ自由区本土を攻撃目標に直進したのである。太平帝国海軍主力艦隊旗艦…。戦闘航空母艦セイバードラゴンには太平帝国国家元首であり総軍の最高指導者である大総統【ブラッドフォード】が総司令官として乗艦する。
「大総統!徹底的にメガラニカ自由区を撃滅しましょう!」
「当然だ【ルーヴェルハルト】…新世界の統治国である太平帝国に反抗するのが最大の愚行であるか…奴等には徹底的に理解させなければ…」
ルーヴェルハルトは副総統であり大総統のブラッドフォードにとって最高の右腕である。今回は旗艦セイバードラゴンの副艦長として抜擢される。今回のメガラニカ自由区本土攻略作戦ではセイバードラゴン級大型戦闘航空母艦が五隻投入され…。護衛艦隊にはミサイル巡洋艦十六隻…。二十四隻の防空駆逐艦が出撃する。補助用の魚雷艇二十九隻と八百人以上の上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦十七隻が後方にて航行したのである。
「メガラニカ自由区の領海へは推定二時間で到達する予定です…」
「全軍を警戒態勢に移行させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは通信機にて各艦の乗組員達に警戒態勢を指示する。
「全軍…警戒態勢に移行せよ…」
すると各艦隊の戦闘要員達は戦闘配置に移動したのである。戦闘要員達が戦闘配置に移動してより三分後…。旗艦セイバードラゴンの艦橋に設置された最新型スーパーレーダーが反応したのである。
「本艦のスーパーレーダーが反応しました!」
スーパーレーダーは太平帝国海軍が開発した最新式の電波探知機であり地球全体を正確に索敵出来る。太平帝国軍では艦艇のみならず艦載機にも搭載され今現在太平帝国海軍と互角に交戦出来る国家は存在しない。
「何事だ?」
ブラッドフォードは偵察員に問い掛ける。
「南方…三百キロメートルの遠海より艦隊らしき艦影を無数確認…総数は推計四十隻程度です…」
スーパーレーダーには推計四十個もの光点が点滅したのである。
「ステルス機能を搭載させた艦艇か…」
すると直後…。
「無数の飛翔体が味方艦隊に接近中です!」
四十個の対象物である光点から数百個もの微小の光点が超音速で飛来するのを確認する。
「此奴は対艦ミサイル攻撃だ…迎撃態勢に移行しろ!」
ブラッドフォードは即座に迎撃を命令したのである。数秒後…。二十キロメートルの長距離より数百発もの飛翔体が味方艦隊に接近するのを確認する。
「各艦艇!飛翔体を迎撃せよ!」
各艦艇の迎撃システムが作動したのである。近年太平帝国海軍の各艦艇には対空戦闘用に開発された小型の全自動型パルスレーザー対空砲を設置…。超音速で飛来するミサイル迎撃に期待されたのである。数秒後各艦のパルスレーザー対空砲が炸裂…。蛍光色の光弾が各艦に接近する大型対艦ミサイルを迎撃したのである。全自動化によって大型対艦ミサイルは全弾迎撃…。敵艦から発射された大型対艦ミサイルは味方艦隊には一発も命中しなかったのである。通信兵が即座に報告する。
「通信です…敵軍の大型対艦ミサイルは全弾迎撃されました!味方艦隊への損害は皆無です!」
「最先端の科学技術の結晶である太平帝国海軍に旧型の対艦ミサイルで攻撃するとは…奴等は時代錯誤ですな♪」
ルーヴェルハルトは笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…所詮奴等は烏合の衆だ…」
総司令官のブラッドフォードも勝利を確信する。太平帝国軍の大艦隊はメガラニカ自由区近海へと直進したのである。十数分後…。メガラニカ自由区の防衛艦隊と遭遇したのである。ルーヴェルハルトはブリッジ正面の窓側にて恐る恐る双眼鏡を所持…。真正面の敵軍の中規模艦隊を確認する。
「大総統…敵軍の防衛艦隊です…」
メガラニカ自由区の防衛艦隊はミサイル巡洋艦八隻…。十九隻のミサイル駆逐艦と三十二隻の魚雷艇が確認出来る。
「中規模艦隊か…総攻撃せよ…」
ブラッドフォードは即刻中規模艦隊に対する総攻撃を指示…。各艦の大型対艦ミサイルと機関砲が炸裂する。太平帝国軍の先制攻撃によりメガラニカ防衛艦隊は二隻の大型ミサイル巡洋艦と六隻のミサイル駆逐艦が大型対艦ミサイルで撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。海面上には九百人以上の乗組員達が吹っ飛ばされる。
「味方艦隊の圧倒的優勢です!」
旗艦セイバードラゴンのブリッジでは乗組員達が沈没する敵艦を眺望する。
「太平帝国軍の圧勝は確実だな…」
「奴等は腐敗した国民主権勢力の残党だ…所詮メガラニカ自由区なんて…」
乗組員達は太平帝国軍の優勢に安堵したのである。同時刻…。メガラニカ自由区防衛艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦リトルヴィーナス艦内では味方艦隊の劣勢に騒然とする。
「多勢に無勢だ…こんな状態では防衛艦隊は全滅するぞ!」
「畜生…防衛艦隊が全滅すれば…太平帝国軍の本土上陸も時間の問題だ…」
乗組員達は騒然とするのだが…。艦長の【ウィンフィールド】は沈黙した様子であり冷静だったのである。乗組員の一人が恐る恐る…。
「ウィンフィールド艦長…如何されましょうか?こんなにも劣勢では味方の防衛艦隊は全滅しますよ…」
「狼狽えるな…」
ウィンフィールドは騒然とする周囲の乗組員達を制止させる。
「ですが艦長…今現在の戦況はメガラニカ防衛軍が圧倒的に不利ですよ…」
ウィンフィールドは沈黙した様子で腕時計を確認する。
「時間だな…」
周囲の乗組員達はハッとした表情で…。
「えっ…何が時間なのですか!?」
一人の乗組員が恐る恐るウィンフィールドに問い掛ける。
「作戦を開始する…」
ウィンフィールドは通信兵を直視するなり…。
「通信兵…即刻独立機動部隊に通信させるのだ…出撃の命令を…」
「はっ!」
周囲の者達はポカンとする。
「一体何を開始するのか?」
同時刻…。メガラニカ自由区西方地帯の軍港にて三隻の中型空母が出撃したのである。中型空母にはとある新型兵器が多数搭載される。西方地帯から独立機動部隊が出撃を開始してより五分後…。メガラニカ自由区南方地帯の防衛艦隊は壊滅状態であり撤退を余儀無くされる。壊滅寸前の防衛艦隊の光景に太平帝国軍総司令官のブラッドフォードは航空部隊の出撃を命令する。
「航空部隊を出撃させろ…メガラニカ自由区の南方地帯全域を空爆せよ…場合によっては非戦闘員への攻撃も許可する…徹底的に奴等を蹴散らせるのだ…」
「はっ!」
ブラッドフォードが命令すると五隻の大型戦闘航空母艦から推計三百機もの戦闘爆撃機が出撃したのである。航空部隊はメガラニカ自由区の南方地帯領空へと進入…。地上への空爆を開始したのである。南方地帯を防衛する地上部隊は必死に太平帝国軍の航空部隊を迎撃するも…。相手は超音速で飛行する戦闘爆撃機であり対空砲は通用せず対空ミサイルで攻撃しても機体に搭載されたパルスレーザーで簡単に無力化されたのである。攻撃開始から三分間が経過すると南方地帯の地上部隊は九割が壊滅…。数千人もの民間人が死傷したのである。旗艦セイバードラゴンではブリッジの乗組員達がモニターで戦況の映像を注視する。
「大総統♪太平帝国軍の圧倒的優勢です♪南方地帯の守備隊は壊滅状態ですよ…」
副艦長のルーヴェルハルトが笑顔で発言したのである。
「当然の結果だな…」
ブラッドフォードは現状であれば上陸作戦が可能であると判断…。
「敵軍は相当疲弊した状態だ…味方の上陸部隊に伝播させろ!」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは即座に各輸送艦に伝達する。上陸作戦を開始する直前…。スーパーレーダーが反応したのである。
「スーパーレーダーが反応しました!」
特殊無線技士がブラッドフォードに報告する。
「今度は何事だ!?」
ブラッドフォードが特殊無線技士に問い掛ける。
「西方の海域より無数の移動物体が出現…超音速で此方に急接近中です…」
「移動物体だと?敵機か?」
ブラッドフォードはモニターを作動させる。するとモニターの画面には無数の飛行物体が映写される。
「此奴は…」
飛行物体は軍用機の形状だが従来型の航空機とは異質的であり新型機であると認識する。
「大総統…敵軍の新型機でしょうか?」
「ひょっとすると無人兵器の戦闘用ドローンかも知れないな…」
「戦闘用ドローンですと?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「敵部隊の航空攻撃に警戒せよ…再度迎撃態勢に移行しろ…作戦中の航空部隊にもドローンの迎撃を急行させるのだ…」
「承知しました…大総統…」
戦闘艦隊と各輸送艦隊は上陸作戦を一時中止させ対空戦闘に移行する。数百機ものドローンが肉眼でも視認出来る位置へと到達…。
「大総統…敵軍のドローンです…」
「ドローンを撃墜せよ!味方艦隊には接近させるな!」
ブラッドフォードの命令と同時に各艦艇は対空戦闘を開始する。対空ミサイルと対空パルスレーザーが西方の上空にて炸裂したのである。対空パルスレーザーがドローンに直撃するのだが…。ドローンの機体内部には高エネルギー兵器を無力化する電磁防壁発生装置により対空パルスレーザーが無力化されたのである。旗艦セイバードラゴンのブリッジでは双眼鏡で副艦長のルーヴェルハルトが上空を直視する。
「なっ!?シールドでしょうか!?」
「シールドだと?」
「ドローンは高エネルギーのシールドで対空パルスレーザーを無力化しました…ひょっとして奴等…」
「電磁防壁だな…ドローンの機体に光学兵器を無力化するシールド装置を装備したのだな…」
電磁防壁発生装置とは高エネルギー兵器を無力化する補助装置である。近年では太平帝国軍にも同類の補助装置は保有するものの…。艦船用の大型装置であり小型航空機に搭載出来る小型の装置は開発中である。
「如何やら奴等…電磁防壁発生装置の小型化に成功したみたいだな…」
ドローン関連の科学技術ではメガラニカ自由区が太平帝国よりも数段階上回る。人員不足であり少数精鋭のメガラニカ防衛軍にとって無人兵器のドローンは最大の戦力であり戦闘に特化されたドローン兵器が多数開発される。一方の太平帝国軍にもドローン兵器は多数配備されるものの…。基本的に偵察用の警戒型ドローンであり戦闘に特化された戦闘用ドローンは試作機のみである。
「艦長…上空より敵機が接近中です!」
対空パルスレーザーの弾幕が太平帝国軍の艦隊周囲に炸裂するのだが…。ドローンは機体のシールド装置でパルスレーザーを潜り抜け味方艦隊の上空間近へと到達する。ドローンは即座に低空飛行…。高速航空魚雷を投下したのである。副艦長のルーヴェルハルトはドローンの高速航空魚雷を投下した瞬間を直視する。
「大総統!敵機は航空魚雷を投下しました…」
「航空魚雷だと?大昔の大戦か?」
本来パルスレーザーはミサイルやら敵機の迎撃を想定して開発された高エネルギー兵器であり水中の魚雷を迎撃するのは不可能である。
「大昔の大戦だな…」
太平帝国軍では魚雷は潜水艦と魚雷艇のみ搭載…。今現在航空魚雷は皆無である。
「艦長!右舷より魚雷が接近中です!」
特殊無線技士が報告する。
「即刻回避だ!」
ブラッドフォードは即座に回避を指示したのである。乗組員達の迅速の対応により旗艦セイバードラゴンは敵機の魚雷攻撃を回避する。旗艦セイバードラゴンの乗組員達はホッとするも…。直後である。対空戦闘中の一隻のミサイル巡洋艦と二隻の防空駆逐艦がドローンの魚雷攻撃により爆散…。轟沈したのである。
「大総統…戦闘中のミサイル巡洋艦ヘルフィッシュと二隻の防空駆逐艦が敵機の魚雷攻撃で撃沈されました…」
メガラニカ防衛軍のドローン兵器は潜水艦に搭載された大型魚雷であり大型艦をも撃沈出来る。今度は輸送艦五隻と魚雷艇八隻がドローンの魚雷攻撃で沈没…。輸送艦六隻と魚雷艇四隻が大破したのである。撃沈された輸送艦からは二千人以上の将兵が海面上に吹っ飛ばされる。作戦中だった航空部隊が味方艦隊上空に帰還…。ドローンを迎撃するもドローンの速度は戦闘爆撃機よりも高速であり反対に味方の戦闘爆撃機が反撃される。二分間の空戦で百八十機もの味方戦闘機が撃墜され…。百人以上のパイロットが戦死したのである。一方のドローン部隊も艦艇と艦載機の対空ミサイルにより三十四機撃墜される。副総統のルーヴェルハルトは上空の光景を直視するなり…。
「大総統…太平帝国軍の劣勢です…」
形勢は完全に逆転したのである。ブラッドフォードは沈黙した様子であるが…。自軍の劣勢に苛立ったのかピリピリし始める。すると直後…。主力の戦闘航空母艦にも被害が出始める。二隻の戦闘航空母艦はドローンの自爆攻撃によって飛行甲板が破壊され…。大破したのである。旗艦セイバードラゴンの同型艦であるレヴィアタンはドローンの魚雷攻撃で艦内の弾薬庫に引火…。一瞬で爆沈する。
「同型艦のレヴィアタンが撃沈されました!」
同型艦のレヴィアタンが爆沈したと同時に艦内の四十八機の艦載機は勿論…。五百人以上の乗組員達が一瞬で吹っ飛ばされる。旗艦セイバードラゴンの周辺海面上には無数の鉄屑やら乗組員達の死骸がプカプカと浮上する。艦隊の損害からルーヴェルハルトはブラッドフォードに撤退を要請したのである。
「大総統!現状では太平帝国軍が圧倒的に不利です!即刻撤退しなければ…味方の艦隊が全滅しますよ!」
撤退を要請するルーヴェルハルトにブラッドフォードはギロッと睥睨する。
「撤退だと?主力の戦闘航空母艦二隻は健在だ…ドローンは実弾の対空ミサイルで対応しろ…」
実際問題ドローンのシールド装置は対空パルスレーザーによる高エネルギー兵器は無力化出来る反面…。実弾兵器は無力化出来ない。
「ですが対空ミサイルのみでは…本数が…」
ドローンに実弾である対空ミサイルは通用するが…。ドローンに命中させるのは非常に困難であり発射された大半がドローンの機関砲で迎撃される。直後…。
「飛行甲板上空より敵機です!直上に急降下します!」
特殊無線技士が報告する。
「敵機だと?」
数秒後…。急降下したドローンは甲板の直上に対艦ミサイルを発射したのである。直後である。ドンッと艦内全体に爆発音が響き渡り…。旗艦セイバードラゴンの艦体全体がグラッと揺れ動いたのである。
「ぐっ!」
艦体が揺れ動いた衝撃にブラッドフォードは横たわる。
「大総統!大丈夫ですか!?」
副艦長のルーヴェルハルトは横たわったブラッドフォードに近寄る。
「私は大丈夫だ…本艦の被害状況は?」
先程のドローンの攻撃により旗艦セイバードラゴンの損傷は飛行甲板が大破…。艦内に収納された十八機の艦載機も破壊されたのである。反面…。飛行甲板以外の設備は健在だったのである。
「母艦としての機能は完全に阻害されたな…」
「飛行甲板は使用出来ませんが…旗艦としての機能は健在です…」
「であればダメージコントロールを急行せよ…」
乗組員達が飛行甲板を修理する最中…。三隻の大型輸送艦と六隻の防空駆逐艦がドローンと潜水艦の魚雷攻撃で撃沈されたのである。予想外の大損害にブラッドフォードは撤退を余儀無くされる。
(戦闘を続行し続ければ太平帝国軍の大艦隊でも確実に全滅するな…)
味方艦隊の全滅を危惧したブラッドフォードは不本意であるが…。撤退を決断する。艦内の通信機を所持するなり…。
「全軍に伝播する…戦闘続行は不可能だ…撤退を開始せよ…」
ブラッドフォードの判断に誰しもが反対しなかったのである。撤退を開始した太平帝国軍の艦隊にメガラニカ防衛軍のドローンは攻撃を停止…。本土へと戻ったのである。今回の大海戦で太平帝国軍は大型艦の戦闘航空母艦一隻とミサイル巡洋艦一隻…。小型艦の防空駆逐艦八隻と魚雷艇十二隻が撃沈される。損傷では三隻の戦闘航空母艦と二隻のミサイル巡洋艦が大破…。防空駆逐艦四隻と魚雷艇五隻が大破する。陸軍の上陸部隊は大型輸送艦が八隻撃沈され…。七隻の輸送艦が大破したのである。航空部隊は二百十九機の戦闘爆撃機を喪失…。五十四機の機体が損傷する。人的損害では合計六千九百四十二人が戦死…。合計三千五百六十一人が負傷したのである。一方のメガラニカ防衛軍はミライル駆逐艦二隻とミサイル駆逐艦六隻が撃沈され…。五隻のミサイル巡洋艦と十二隻のミサイル駆逐艦が大破したのである。陸軍の守備隊は五十八両の戦闘車両が破壊…。空軍は五十六機のドローンが撃墜される。人的被害では合計二千三百六十五人が戦死…。合計三千四百七十八人が負傷する。民間人への被害は合計三千五百八十九人が死亡…。合計四千七百三十二人が負傷したのである。今回の戦闘はメガラニカ南方海戦と命名される。今回の大敗北以降…。太平帝国の権威が失墜したのである。

第二話

大艦巨砲主義

メガラニカ南方海戦の大敗北以降…。メガラニカ自由区の猛反撃が開始されたのである。メガラニカ防衛軍はドローン兵器の大量投入と国内の反政府勢力の協力により太平帝国の領土の約半分を攻略…。占領したのである。メガラニカ南方海戦から一週間後の五月二十四日…。各自治領の戦闘で推計九百万人もの民間人が死亡したのである。同日…。太平帝国首都イーストサイドの大総統官邸会議室では大総統のブラッドフォードとルーヴェルハルトが対談する。
「大総統…一週間の短期間で太平帝国の統治領の約半分がメガラニカ防衛軍の猛反撃により占拠されました…太平帝国軍は劣勢の状態です…」
「一週間で領土の約半分が奴等に占拠させるなんて…ドローン兵器の威力を見縊らなければ…こんな状態には…」
ブラッドフォードは後悔したのである。後悔するブラッドフォードにルーヴェルハルトは前向きな姿勢で…。
「ですが大総統!今現在でこそ劣勢ですが…今迄の戦闘でメガラニカ自由区は太平帝国以上に消耗した状態です!」
今現在のメガラニカ自由区と太平帝国の国力は一対十八でありメガラニカ自由区は圧倒的に不利である。メガラニカ防衛軍はドローン兵器の有効活用から各地の戦場で圧倒的物量の太平帝国軍を圧倒する。メガラニカ防衛軍の快進撃により太平帝国は領土の約半分を占拠されたものの…。短期間で戦線を拡大させたメガラニカ防衛軍は国力が貧弱であり兵站の遅滞から膠着し始める。
「メガラニカ防衛軍は膠着状態ですからね!劣勢を挽回出来る絶好のチャンスですよ!」
するとブラッドフォードは恐る恐る問い掛ける。
「訓練中の【ホムンクルス】だが…正規軍の将兵として実戦に配属出来るのか?」
「訓練中のホムンクルスの将兵達ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から研究…。開発されたクローン人間達の総称である。度重なる戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。世界最終戦争以前の太平帝国は小規模の新興国であり人員不足の観点からクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。通常クローン人間の開発は倫理的問題点から民主主義の国家では法律で禁止されるのが通例であるが…。人権を尊重しない独裁政治の太平帝国ではクローン人間の開発も容易に実現出来るのである。今現在は推計三百万人ものホムンクルスが大量生産され…。正規軍の将兵として実戦に参加出来そうなホムンクルスは推計二十万人である。
「彼等が正規軍の将兵として実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。太平帝国軍はホムンクルスと人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が直接戦闘しなくても…ホムンクルスの将兵を最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
近日では太平帝国の劣勢から脱走兵やらメガラニカ防衛軍に加勢する勢力が続出…。両勢力の力関係は完全に逆転し始める。人員確保が難化し続ける太平帝国軍にとってホムンクルス将兵の投入は非常に好都合だったのである。
「本題ですが…開発部が新型兵器を提案しました…」
開発部が提案した数種類の新型兵器の設計図をブラッドフォードに提出する。
「戦闘用ドローン…『ケルベロス』だと?」
「ケルベロスは…」
ケルベロスとは太平帝国軍が開発した無人戦闘機である。従来型の有人戦闘機よりは一回り小型であるがマッハ八以上の最高速度を発揮出来…。機体底部には対地対艦武装は大型ミサイルを搭載する。対空装備は対空プラズマレーザー機関砲と実弾の対空機関砲を両方搭載…。
「ケルベロスが量産化に成功出来れば…メガラニカ防衛軍のドローン兵器『グリフォン』にも対抗出来ましょう…」
メガラニカ南方海戦で太平帝国軍艦隊を撃退させたドローン兵器の正体はグリフォンと判明する。本機は南方海戦で太平帝国海軍部隊が鹵獲したグリフォンを研究…。設計された機体でありメガラニカ防衛軍のグリフォンに対抗出来る戦闘用ドローン兵器として提案されたのである。
「ケルベロス…試作機の完成を見届けるか…」
二枚目の設計図を直視する。
「ん?此奴は…」
「二枚目の新型兵器は超砲撃型戦艦…『アプセラス』です…」
「超砲撃型戦艦…アプセラス?」
正式名は超砲撃型戦艦アプセラスであり海軍直属の開発部が提案したのである。今現在では完全に過去の遺産である超弩級戦艦であるが戦艦アプセラスは最先端の科学技術と過去のロストテクノロジーを結集…。現代型大艦巨砲主義の象徴である。艦体の全長は三百メートルサイズと巨体であり全幅は五十メートルサイズ…。全備総重量は前代未聞の推定七十万トンクラスの超弩級戦艦である。
「今時大艦巨砲主義なんて…時代錯誤だろ…近代に逆戻りするのか?」
ブラッドフォードは時代錯誤であると感じるのだが…。
「戦艦アプセラスは現在開発中の超大型電磁投射砲を搭載する予定なのです…所謂試験試作型の実験戦艦ですね…」
「電磁投射砲か…」
電磁投射砲は現在太平帝国軍が開発中の実弾電磁兵器である。高額のミサイルよりも安価であり高威力を発揮出来ると期待される。
「海軍開発部の大計画では戦艦アプセラスの装甲は『エターナルメタル』を使用するとの情報です…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは月面で採掘された不朽性の鉄鉱石である。非常に軽量であるが硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスも非常に安価ですからね♪」
「であれば建造を急行するべきだな…」
直後である。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で会議室に入室したのである。
「緊急事態だと?一体何事だ?」
ブラッドフォードが問い掛けると通信兵はビクビクした様子で…。
「南方のメティス諸島…メティス基地が敵軍の攻勢で占拠…基地を防衛する守備隊は必死に交戦しましたが…守備隊は玉砕したとの情報です…」
「なっ!?メティス基地の守備隊が…玉砕だと!?守備隊は全滅したのか!?」
ルーヴェルハルトは驚愕したのである。
「残念ですが…」
メティス基地とは強固の大規模要塞が構築された本土防衛用の第二防衛ライン…。推計三万人もの太平帝国陸軍守備隊が配置されたが本日未明にメガラニカ防衛軍の強襲で全滅したのである。
「メティス基地が陥落したか…恐らく今度の攻撃目標は最終防衛ラインの…パシフィスアイランド基地だな…」
パシフィスアイランド基地とは最南端に位置する離島…。パシフィスアイランド本島を防衛する太平帝国軍守備隊の本拠地である。太平帝国本土を防衛する最重要防衛拠点であるものの…。推計八十万人もの民間人も安住する。ルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「大総統…即刻パシフィスアイランド本島に援軍を派遣させますか?」
「援軍は不要だ…」
「えっ!?」
ブラッドフォードの返答にルーヴェルハルトと通信兵は絶句したのである。
「本気ですか!?大総統!?」
「私は本気だよ…ルーヴェルハルト…」
「如何して援軍を派遣しないのですか!?パシフィスアイランドが陥落すれば…今度は本土が攻撃対象なのですよ!?」
ブラッドフォードは再度無表情で返答する。
「パシフィスアイランドの守備隊には陽動作戦に利用する…」
「陽動作戦ですと?」
「味方の戦闘機に特殊弾頭を搭載…パシフィスアイランドに侵攻中のメガラニカ防衛軍を特殊弾頭ミサイルで殲滅する…」
パシフィスアイランド基地は陸海軍の大部隊が駐屯…。基地内の兵力も推計十四万人であり基地を陥落させるには相当数の部隊が必要である。パシフィスアイランドを攻防する両軍に特殊弾頭ミサイルで攻撃…。当然として味方の部隊は全滅するが敵軍の侵攻を阻止するには非常に好都合である。
「特殊弾頭ミサイルですと!?パシフィスアイランドに特殊弾頭ミサイルなんて使用すれば味方の守備隊は勿論…大勢の住民達にも被害が…」
特殊弾頭ミサイルは所謂核兵器の一種であり一発の弾道ミサイルで十数キロメートルもの広範囲を焦土化させられる。非人道的でありイエスマンのルーヴェルハルトも特殊弾頭ミサイルの使用には不承する。
「今更何を躊躇するのだ?ルーヴェルハルト…特殊弾頭なら二年前の大戦争で無尽蔵に使用しただろ…」
小規模国家であった太平帝国が世界最終戦争で勝利出来たのは特殊弾頭ミサイルの多用である。
「特殊弾道ミサイルで敵味方諸共…殲滅されるのですか?」
「最早多少の犠牲は止むを得ない…」
ルーヴェルハルトの問い掛けにブラッドフォードは即答する。
「特殊弾頭の使用は極秘だぞ…兎にも角にもパシフィスアイランドの守備隊には本島の防衛を徹底させろ…」
「承知しました…」
ルーヴェルハルトは不本意であるが…。ブラッドフォードの提案する殲滅作戦に承諾したのである。

第三話

攻防戦

世界暦七月二十七日早朝…。メガラニカ防衛軍の大艦隊が太平帝国最終防衛区域パシフィスアイランドへと進行を開始したのである。同時刻…。パシフィスアイランド基地総司令部では拠点防衛用のスーパーレーダーが反応したのである。
「一体何事だ!?」
パシフィスアイランド基地陸軍総司令官【ウィグノール】が偵察員に問い掛ける。
「スーパーレーダーが反応しました!」
即座に立体映像のホログラムで領海を確認する。ホログラムには数十隻もの艦艇が確認出来る。
「此奴はメガラニカ防衛軍の大艦隊だな…総力戦でパシフィスアイランドを攻略するみたいだ…」
「如何しましょう…総司令官…」
「即刻防衛戦を開始する!各戦闘員は戦闘配置だ!パシフィスアイランドは徹底的に死守しろ!」
ウィグノールは各員に防衛戦を指示する。
「はっ!」
パシフィスアイランドは本土防衛の最終防衛ラインでありパシフィスアイランドが陥落すれば本土が攻撃されるのは明白である。
「通信兵…本土にも援軍の要請を伝達しろ…」
「はっ!」
通信兵は即座に総本部に通達…。本土からの援軍を要請したのである。三十分後…。メガラニカ防衛軍の大艦隊がパシフィスアイランドの防衛区域へと到達したのである。
「総司令官…メガラニカ防衛軍の大艦隊が防衛区域に到達しました…」
「防衛戦を開始するか…」
ウィグノールの攻撃開始の合図と同時に海面上からは百二十隻ものミサイル警備艇…。滑走路からは百三十機もの戦闘爆撃機が飛来したのである。同時刻…。メガラニカ防衛軍の大艦隊旗艦である航空大型ミサイル戦闘艦レヴィアタンはスーパーレーダーで太平帝国軍のミサイル警備艇と戦闘爆撃機を確認する。
「艦長…敵部隊を確認しました…」
旗艦レヴィアタンの艦長はメガラニカ南方海戦で活躍したウィンフィールドである。
「即刻ホログラムを作動させろ…」
乗組員は艦内のホログラム装置を作動させる。するとホログラムには百隻以上のミサイル警備艇と戦闘爆撃機が立体映像として映写される。
「敵部隊は旧型の兵器ばかりか…」
「如何されますか?」
乗組員の問い掛けにウィンフィールドは即答する。
「即刻迎撃せよ…母艦からはドローン兵器を発進させろ…」
「承知しました…」
旗艦のレヴィアタンから二十八機のグリフォン型ドローン兵器が発進する。旗艦レヴィアタンは全長二百四十メートルサイズ…。全幅三十メートルサイズの大型艦であり満載排水量は推定五万トンである。ミサイル戦闘艦としての機能は勿論…。航空機用の母艦としても使用出来る。所謂現代型の航空戦艦である。艦載機はドローン兵器であり合計五十機以上搭載出来る。旗艦のレヴィアタンは勿論…。レヴィアタン級航空大型ミサイル戦闘艦六隻と最新鋭のドローン空母艦隊から合計四百機以上ものグリフォン型ドローン兵器が発進したのである。ドローン部隊が発進してより十五分後…。最前線のパシフィスアイランド防衛部隊と遭遇したのである。両軍が遭遇した直後に戦闘が開始され…。パシフィスアイランド防衛部隊はミサイル警備艇と戦闘爆撃機による対空ミサイル攻撃で十四機のドローンを撃墜したのである。ドローン撃墜に防衛部隊の将兵達は戦意が向上するも…。相手は新型のドローン兵器であり二分も経過すればドローンの反撃で八十三隻のミサイル警備艇が撃沈され七十六機の戦闘爆撃機が一瞬で撃墜されたのである。旗艦レヴィアタンの乗組員達は艦橋から戦況を確認する。
「艦長…味方の優勢です…」
「上出来だな…」
厳格の軍人であるウィンフィールドだが…。ドローン部隊の大戦果に上出来と判断したのである。
「ドローン部隊には攻撃を続行させろ…パシフィスアイランドを防衛する陸上部隊に空爆を仕掛けるのだ…」
ドローン部隊の攻撃の続行を指示する。
「承知しました!」
するとウィンフィールドは恐る恐る…。
「当然として無関係の非戦闘員への被害は最小限に努力せよ…」
「承知です…」
ドローン部隊の猛反撃からパシフィスアイランド防衛部隊は総崩れ…。海上の防衛網は簡単に突破されたのである。
「総司令官…海上の防衛部隊が壊滅…敵軍に突破されました…」
通信兵の報告にパシフィスアイランド総司令部は混乱する。
「海上の防衛部隊が壊滅だと…」
「敵軍はドローン部隊を使用したのか…」
総司令官のウィグノールは一瞬沈黙するも…。
「地上の守備隊に伝播せよ…陸上の防衛戦を開始すると!」
「承知しました…」
基地内の将兵達は承諾したのである。
「非戦闘員は緊急用シェルターに避難させろ…」
陸上の防衛部隊は即座に行動を開始する。緊急警報システムが作動され…。住民達は即座に各地域の地下壕に設置された避難用の緊急用防空シェルターへと移動したのである。住民達の避難終了から三分後…。メガラニカ防衛軍のドローン部隊がパシフィスアイランド領空へと到達する。
「メガラニカ防衛軍のドローンだ!」
「海上の防衛部隊は全滅したのか?」
「兎にも角にも上空の敵機を迎撃するぞ!」
陸上の守備隊は迎撃を開始…。上空のドローンを目標に攻撃したのである。数千発もの機関砲と対空ミサイルが上空に炸裂する。守備隊の攻撃で二十二機のドローンを撃墜するも…。ドローンの空爆で三十六両の戦闘車が破壊され百三十七人の将兵が戦死する。三分間の空爆で陸上部隊の八割が壊滅したのである。
「陸上部隊の八割が壊滅しました…」
守備隊の劣勢に総司令部は混乱する。
「なっ!?数分間で八割も!?」
「全滅だな…」
「ドローンの空爆で守備隊の八割が壊滅したのか!?」
総司令部の将兵達は予想外の事態に恐怖したのである。直後…。スーパーレーダーが反応する。
「スーパーレーダーが反応したぞ…今度は何事だ?」
ホログラムを作動させるとメガラニカ防衛軍大艦隊の様子が映写される。
「敵軍の大艦隊だぞ…パシフィスアイランドの領海に到達したのか!?」
メガラニカ防衛軍の大艦隊は航空大型ミサイル戦闘艦が七隻と正規空母四隻…。ミサイル巡洋艦が十三隻と三十一隻の防空駆逐艦が確認出来る。後方には上陸部隊を乗艦させた大型輸送艦が十八隻…。補助用の魚雷艇が十五隻確認出来る。メガラニカ防衛軍はドローンの投入で海上の防衛部隊を撃退…。メガラニカ防衛軍艦隊はノーダメージでパシフィスアイランドの領海へと到達出来たのである。
「本土から援軍は出動したのか!?」
ウィグノールは再度通信兵に問い掛ける。
「無線では…本土から味方の潜水艦が一隻…出撃したとの情報です…」
「はっ?」
ウィグノールは絶句する。
「こんな状況で援軍が潜水艦一隻だけだと!?何故海軍自慢の主力艦隊を出動させない!?」
「主力艦隊は本土を防衛するのが手一杯であると…」
現実問題…。メガラニカ南方海戦の大敗北から太平帝国軍主力艦隊は艦隊の再建に手一杯であり主力の大艦隊は派遣出来なかったのである。
「畜生が…」
通信兵の報告にウィグノールはピリピリする。
(パシフィスアイランドは陥落しろと?総本部は本土での戦闘を決断したのか?)
総本部の意向に疑問視するが…。ウィグノールは決断したのである。
「総員…太平帝国本土からの援軍は期待出来ないが…精一杯パシフィスアイランドを死守するぞ!」
「はっ!承知しました…」
絶望的状況下であるが守備隊の将兵達は一致団結…。残存部隊による徹底抗戦を決意したのである。同時刻…。メガラニカ防衛軍大艦隊は上陸作戦を開始したのである。十八隻の大型輸送艦から三十六隻の上陸用舟艇が出動…。陸上部隊によるパシフィスアイランド上陸作戦が開始されたのである。上陸部隊の戦力は主力戦車五十二両…。装甲車と軽量の戦闘車が六十四両投入される。二万人の海兵隊が上陸したのである。今回の上陸作戦では最新型の地上用ドローンである無人小型戦車を五機投入…。試作段階であるが実験目的で無人小型戦車が実戦配備されたのである。
「奴等…メガラニカ防衛軍の上陸部隊です…」
最前線に位置する陸軍の残存部隊が無傷のトーチカから恐る恐る…。上陸中の敵部隊を確認する。
「俺達は一先ず撤収するぞ…敵軍への反撃は本隊と合流してからだ…」
「はっ!」
最前線の残存部隊は総司令部へと撤収したのである。メガラニカ防衛軍上陸部隊は無傷で上陸地点を制圧…。後方支援部隊も上陸地点への上陸を開始したのである。同時刻…。太平帝国南方地帯軍港から出航した新型ステルス潜水艦アスピドケロンは国家元首であるブラッドフォードが艦長として乗艦したのである。
「航海は順調そうだな…」
アスピドケロンは順調に深度七百メートルの海底下を潜航し続ける。
「パシフィスアイランドの戦況は?」
ブラッドフォードは乗組員に問い掛けるとホログラム装置を作動…。地形の様子を小型立体映像で映写させたのである。
「現状では太平帝国軍の劣勢ですね…」
「好都合だ…最低でも敵部隊の五割程度は中心地に侵攻させたい…」
同時刻…。陸地の残存部隊は必死に応戦するも最新兵器を多数投入するメガラニカ防衛軍の侵攻を阻止するのは実質不可能であり後退したのである。最早パシフィスアイランドは本拠地に残存した守備隊以外は壊滅…。パシフィスアイランドが陥落するのは最早時間の問題でありメガラニカ防衛軍の勝利は目前だったのである。メガラニカ防衛軍主力艦隊旗艦レヴィアタンでは艦長のウェンフィールドが艦内ホログラムで戦場の様子を直視する。
「艦長…味方部隊は優勢です♪夕方にはパシフィスアイランドは陥落するでしょう♪」
部下達は余裕の様子であったが…。
「奇妙だな…」
今回の戦闘でウェンフィールドは不審に感じる。
「彼等にとってパシフィスアイランドは最終防衛ラインなのに…配備された戦力は旧型ばかり…援軍も派遣されないなんて不自然だな…」
パシフィスアイランドに配備された兵器は実質旧型兵器ばかりであり援軍も出撃しなかったのである。
「ひょっとすると…陽動作戦か?」
「陽動作戦ですと?」
直後…。
メンテ
宇宙大動乱 ( No.97 )
日時: 2021/09/17 22:27
名前: 月影桜花姫

第一話

宇宙艦隊戦闘

太古の大昔…。宇宙新暦七百二十二年三月二十八日午前一時の出来事である。とある銀河系では複数の巨大宇宙勢力が度重なる戦乱を頻発させる。太陽系から推定八万光年の宙域では銀河系全域を統治する大規模星間軍事国家『大銀河帝国』の宇宙大艦隊…。国民主義実現を主目的に活動する大規模反政府勢力である『タイラントキラー』の宇宙大艦隊が激突したのである。大銀河帝国軍宇宙軍主力艦隊旗艦…。宇宙戦艦『セイバードラゴン』ではブリッジの乗組員がタイラントキラーの宇宙艦隊を発見する。
「艦長!本艦のスペースレーダーが推定九百光年の宙域より敵軍の宇宙艦隊に反応しました!」
セイバードラゴンは大銀河帝国軍の主力宇宙戦艦であり地上の水上艦を連想させる巨大宇宙戦艦である。長距離索敵と誘導兵器の使用は勿論…。本艦一隻のみで数千キロメートルサイズの惑星表面を一掃させられる攻撃力を保持する。艦内には一隻だけで合計九十機もの宇宙用の艦載機を搭載出来る。本艦にとっての最大の武装は主砲である高エネルギーを放出する口径八百ミリメートルの高エネルギー連装砲である。主砲の威力は高火力であり数百メートルサイズの宇宙戦艦を一撃で撃沈出来ると推測される。本艦のレーダー射撃は高水準であり主砲の命中精度は八十五パーセントとも豪語される。本艦のサイズは全長八百メートルサイズで全幅六百メートルサイズ…。総重量は推定五百万トンと規格外に巨大であり現存する大銀河帝国軍宇宙主力艦隊では最大級の超巨大宇宙戦艦である。動力炉は『スーパーリアクター』が搭載され燃料の補給は不要であり半永久的に航行出来る。
「敵軍の宇宙艦隊を発見したか…」
セイバードラゴンの艦長は大銀河帝国の大総統…。【ブラッドフォード】である。ブラッドフォードは年齢二十九歳の青年であるが外見的には美少年であり十代後半にも間違われる。本来であればブラッドフォードは最前線での戦闘では参加しない立場であるものの…。少年時代の従軍経験から積極的に最前線での指揮を自発的に執行する。
「味方の全艦隊に伝播せよ…敵軍の宇宙大艦隊を発見したと…」
「はっ!承知しました!」
通信兵がブラッドフォードに敬礼するなり全艦隊に敵艦隊発見の情報を通信させる。大銀河帝国軍宇宙艦隊は大総統ブラッドフォードの乗艦する主力宇宙戦艦セイバードラゴンを先頭に推計十七万隻もの宇宙艦隊が追尾する。旗艦セイバードラゴン艦内ではブラッドフォードが再度指示したのである。
「最大船速でワープ機能を作動させろ…一瞬で敵軍艦隊の真正面に突入するぞ…」
「はっ!ワープ機能作動!」
ブリッジの乗組員がワープ機能を作動させる。すると味方の宇宙艦隊もワープ機能を作動させ最前線へと突入したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙軍艦隊は合計一万四千隻もの大規模艦隊であり旗艦は宇宙戦艦『サラマンダー』である。サラマンダーは全長七百八十メートルサイズで全幅五百四十メートルサイズ…。総重量は三百万トンもの大型宇宙戦艦である。旧型の宇宙戦艦であるが艦載機の総数は合計百五十機前後であり艦載機の搭載機数のみなら大銀河帝国軍のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。本艦の動力炉はスーパーリアクターであり燃料は不要である。
「艦長!スペースレーダーが反応しました!」
サラマンダーに搭載されたスペースレーダーが反応する。
「正体不明の無数の移動物体が超光速で味方艦隊に接近中です!移動物体の総数は推計十七万以上…」
旗艦サラマンダーの艦長は【ウィグノール】である。階級は中将であり本来は大銀河帝国軍親衛隊の総司令官であったが…。ブラッドフォードによる独裁政治を見限り脱退する。今現在は反政府組織であるタイラントキラーを創設…。国民主権の独立宇宙民主国家を目標に銀河系全域を支配する大銀河帝国に宣戦を布告する。
「恐らく敵軍の艦隊だろう…」
すると直後…。タイラントキラー宇宙艦隊から推定三百光年の宙域より数万隻もの艦影が突如として出現したのである。
「艦長!敵艦隊です!総数七万隻…大艦隊です!」
「敵艦隊の総数は七万隻か…」
今現在投入された戦力では大銀河帝国軍主力宇宙艦隊が宇宙艦艇推計十七万隻以上…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊の宇宙艦艇は推計三万四千隻程度でありタイラントキラーが圧倒的に不利である。
「直進せよ…」
ウィグノールが艦隊の直進を指示すると全艦隊が大銀河帝国軍主力宇宙艦隊に接近する。同時刻…。大銀河帝国軍主力宇宙艦隊旗艦セイバードラゴンではタイラントキラー宇宙艦隊の接近を確認する。
「艦長!敵軍の大艦隊が味方艦隊に接近中です!如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは無表情で…。
「急接近する敵軍艦隊を排除せよ…全軍…総攻撃開始!」
最前線の宇宙戦艦部隊を中心に全艦が砲撃を開始したのである。数秒間に数万発もの蛍光色の光線が射出され…。接近するタイラントキラー宇宙艦隊に砲撃したのである。宇宙戦艦部隊はエネルギーエネルギーシールド機能によって光線を無力化するが…。宇宙駆逐艦クラスの小型艦はエネルギーエネルギーシールド機能が最小限化された代物であり簡単に撃沈されたのである。一度の攻撃でタイラントキラー宇宙艦隊の二十パーセントが喪失…。多数の小型艦が損傷したのである。
「宇宙戦艦クラスの大型艦には光子魚雷…宇宙戦闘用多目的ミサイルで対応せよ…」
旗艦セイバードラゴンの艦長…。ブラッドフォードの指示と同時に最前線の宇宙戦艦部隊が光子魚雷攻撃と宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃したのである。無数の実弾兵器が超光速で接近…。タイラントキラー宇宙艦隊の大型艦に命中したのである。宇宙戦艦クラスの大型艦十数隻が轟沈…。数十隻の大型艦を大破される。エネルギーエネルギーシールド機能を搭載する大型の敵艦を撃沈させるのに効果的だったのは光子魚雷である。光子魚雷とは超光速で発射させる宇宙用の魚雷であり破壊力は三千キロメートルクラスの小惑星を一撃で破壊させられる代物である。光子魚雷一発でも重厚装甲の大型宇宙戦艦は数十隻撃沈…。数百隻もの大型宇宙戦艦が大破したのである。爆沈する宇宙艦艇より多数の乗組員達が宇宙空間へと吹っ飛ばされる。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーにも宇宙戦闘用多目的ミサイルが命中…。艦首が大破したのである。
「艦首が被弾しました!」
「本艦への被害状況は?」
ウィグノールは乗組員に問い掛ける。
「艦首は大破です…」
「艦首だけか…大破したのが艦首のみであれば戦況には問題無さそうだな…」
ブリッジの乗組員が恐る恐る…。
「ですが奴等の宇宙戦闘用多目的ミサイルと光子魚雷は味方艦艇のエネルギーエネルギーシールドを透過しました…一体奴等は実弾兵器に何を細工したのでしょうか?」
長期間の宇宙航行を想定した宇宙用の艦船には宇宙デブリやら小惑星の衝突を無力化するエネルギーエネルギーシールド機能が搭載されるのが基本である。
「恐らく奴等の実弾兵器にはエネルギーエネルギーシールドジャミング装置を搭載させたのであろうな…」
エネルギーエネルギーシールドジャミング装置とは大銀河帝国軍が最新式の科学技術を駆使して開発した特殊装置…。大型艦に搭載されたエネルギーエネルギーシールド機能を妨害させ高確率で実弾兵器を目標に直撃させられる。光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルによるアウトレンジ戦法によってタイラントキラーのサラマンダー級大型宇宙戦艦五十二隻が撃沈され…。三百四十八隻の大型宇宙戦艦が大破したのである。大型宇宙戦艦以外の小型艦艇は数百隻が轟沈…。数千隻が大破したのである。旗艦サラマンダーでは大銀河帝国軍の猛攻撃に畏怖したブリッジの乗組員が撤退を要請する。
「ウィグノール艦長!即刻艦隊を撤退させましょう!敵軍の総攻撃で多数の味方艦艇が撃沈されました…戦闘を継続すれば全滅しますよ!」
するとウィグノールが無表情で…。
「狼狽えるな…」
戦局は圧倒的にタイラントキラーが不利であるがウィグノールは平常心であり周囲の乗組員達は不思議がる。
(こんなにも劣勢なのに冷静なんて…)
同時刻…。大銀河帝国軍宇宙艦隊旗艦であるセイバードラゴンの艦内では乗組員達が爆散する敵艦の光景を眺望する。
「ブラッドフォード大総統♪大銀河帝国軍の優勢です!」
「大銀河帝国軍の圧勝は確実だな♪」
「所詮タイラントキラーなんて一部のカルト集団だ…大銀河帝国軍が本領を発揮すれば簡単に殲滅出来るさ♪」
「愚衆政治国家の実現なんて…所詮は夢物語だな…」
大銀河帝国軍ではタイラントキラーは少人数のカルト集団…。単なるテロリスト集団程度の存在であると認識される。誰しもが大銀河帝国軍の圧勝を確実視するのだが…。大総統であるブラッドフォードだけは表情が険悪化する。一人の乗組員が恐る恐る…。
「大総統…如何されましたか?」
するとブラッドフォードが苛立った表情で返答する。
「前方の敵軍艦隊は陽動艦隊だろう…此奴は恐らく陽動作戦だ…」
ブラッドフォードが陽動作戦の可能性を指摘した直後…。スペースレーダーが反応したのである。
「スペースレーダーが反応しました!」
「スペースレーダーが反応したって!?一体何事だ!?」
周囲の乗組員達は突如として反応したスペースレーダーに動揺する。
「味方艦隊後方より無数の移動物体が確認されました!サイズは小型の機影…」
「小型の機影だと?」
小型の機影の一言にブラッドフォードが反応したのである。
「恐らく機影の正体は宇宙戦闘機かと…総数は推計三十万機…敵機部隊との距離は推計七百光年です…」
「総数三十万機か…全軍に対空戦闘を通信させろ…」
「はっ!承知しました!」
通信兵が全軍に対空戦闘用意を通信させる。タイラントキラーの宇宙航空機部隊がワープ機能を使用…。一秒間で大銀河帝国軍宇宙艦隊上空へとワープしたのである。大銀河帝国軍宇宙艦隊のスペースレーダーが再度反応する。
「スペースレーダーが反応しました!味方艦隊の上空より無数の敵機です!」
「敵機部隊はワープ機能で到達したか…」
ブラッドフォードは一瞬沈黙するものの…。
「上空の敵機を撃墜…宇宙迎撃機を出撃させろ…」
「承知しました…」
大銀河帝国軍の宇宙艦艇は宇宙用の対空砲で迎撃を開始…。セイバードラゴン級大型宇宙戦艦からは多数の宇宙戦闘機『スペースバード』が出撃する。スペースバードは全長十六メートル…。全幅七メートルの宇宙戦闘機である。スペースレーダーが搭載され機体前方には二基の対空用パルスレーザーが装備される。両翼には対艦戦闘用の宇宙戦闘用多目的ミサイルは勿論…。光子魚雷も搭載可能である。二十年前に開発された旧型の機体であるが大勢のパイロット達が本機を愛用…。今現在でも現役の主力戦闘機である。出撃した多数のスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の対空砲は小型の高エネルギー機関砲が炸裂…。敵機に攻撃するのだが敵機は機体全面に新型エネルギーエネルギーシールド機能を搭載させた新型機であり対空用の高エネルギー機関砲が命中しても無力化される。
「大総統!敵機に攻撃しても敵機を撃墜出来ません!」
「此奴は新型機だな…ホログラムを作動させろ…」
ホログラムを作動させると新型機の立体映像が生成されたのである。
「此奴は恐らく無人機の『スペースドローン』だな…」
スペースドローンとは所謂宇宙戦闘用のドローンであり無人兵器に分類される。当然として大銀河帝国軍でも宇宙用の偵察型ドローンは多数使用されるのだが…。タイラントキラーは戦闘用に特化された新型のドローンを多数開発したのである。タイラントキラーの新型ドローンは高出力の光学兵器の搭載…。宇宙戦艦の艦砲射撃をも無力化する新型エネルギーエネルギーシールド機能が搭載されたのである。ドローン兵器の技術のみならタイラントキラーは大銀河帝国の技術レベルを数段階上回る。
「タイラントキラーは無人機を戦闘用に特化させたのか…」
同時刻…。タイラントキラーのスペースドローンがスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦に急襲したのである。スペースドローンは機体底部に搭載された対艦戦闘用の大型ミサイルで攻撃…。宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇は一機のスペースドローンに撃沈されたのである。本来大銀河帝国軍の宇宙艦艇には外部からの物理攻撃を無力化するエネルギーエネルギーシールド機能が搭載されたが…。タイラントキラーのスペースドローンの機体内部には特殊電磁パルス発生装置が搭載され本機が接近すると接近された宇宙艦艇はエネルギーエネルギーシールド機能が使用出来なくなる。スペースドローンの電磁パルス発生装置によって大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦はエネルギーエネルギーシールド機能が停止…。一方的に攻撃されたのである。必死に迎撃するスペースバードもスペースドローンの攻撃によって多数の機体が撃墜…。数万人ものパイロット達が戦死する。機体底部に対艦戦闘用の固定型高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンはセイバードラゴン級大型宇宙戦艦を砲撃…。一撃で撃沈したのである。三分間の戦闘で六隻ものセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が撃沈される。
「大総統!スペースドローンの出現によって味方艦隊が混乱中です!」
すると直後…。
「スペースレーダーが反応しました!一機のスペースドローンが本艦に急接近中です!」
スペースレーダーが接近中のスペースドローンに反応したのである。スペースドローンが旗艦のセイバードラゴンに接近するとエネルギーエネルギーシールド機能が強制的にスリープモードへと移行…。エネルギーエネルギーシールド機能が使用出来なくなる。
「大変です!本艦のエネルギーエネルギーシールド機能が無力化されました…」
セイバードラゴンのエネルギーエネルギーシールド機能の停止によって乗組員達は動揺する。
「狼狽えるな…」
こんな絶望的状況下であってもブラッドフォードは冷静であり周囲の乗組員達は非常に不思議がる。直後…。対艦戦闘用の高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンがセイバードラゴン艦尾に搭載されたロケットエンジンに砲撃したのである。艦内に爆発音が響き渡る。
「うわっ!一体何が発生したのでしょうか!?」
爆発音に乗組員達は動揺したのである。するとブラッドフォードが無表情で…。
「恐らく艦尾のロケットエンジンが敵機の攻撃で破壊されたな…」
「えっ!?ロケットエンジンが!?」
先程の攻撃によってセイバードラゴンは航行出来なくなる。
「大総統…即刻脱出しましょう…こんな場所で長居し続けては本艦諸共…」
ブラッドフォードは一瞬躊躇うが…。
「止むを得ないな…」
ブラッドフォードと十六人の乗組員達は即座に脱出用のポッドに乗艇すると航行不能のセイバードラゴンから脱出したのである。セイバードラゴンは二度目の光子魚雷攻撃で爆散…。撃沈されたのである。撃沈されたセイバードラゴンの乗組員達は轟沈するセイバードラゴンに絶句する。
「大総統…危機一髪でしたね♪」
一人の乗組員が笑顔で大総統に発言するのだが…。
「何が危機一髪だ…」
ブラッドフォードは睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨するブラッドフォードに周囲の乗組員達はゾッとする。
「敵軍の一個艦隊程度に敗北とは…」
同時刻…。多数のスペースドローンを搭載した宇宙戦闘母艦『レヴィアタン』が大銀河帝国軍宇宙艦隊の後方よりワープ機能で出現する。タイラントキラーの本隊である宇宙機動部隊は超大型宇宙戦闘母艦レヴィアタンを中心に六十隻もの宇宙用の空母戦闘艦隊が奇襲に参加したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はタイラントキラーが独自で開発した本格的宇宙戦闘用空母であり艦載機は有人型の宇宙戦闘機ではなく無人兵器のスペースドローンを四百機程度搭載する。艦体のサイズは全長九百六十メートル…。全幅は五百三十メートルであり艦体の総重量は推定六百二十万トンにも相当する。兵装は宇宙巡洋艦に匹敵する高エネルギー主砲が二基搭載され四基の対空パルスレーザーが装備される。六十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦が背後から大銀河帝国軍宇宙艦隊を砲撃する。スペースレーダーによる艦砲射撃により命中精度は八十パーセントと正確であり多数の宇宙艦艇を撃破したのである。同時刻…。脱出用ポッドに乗艇したブラッドフォードは撤退を決意したのである。
「全艦隊に撤退の命令を通信させろ…」
「承知しました…」
通信兵は即座に撤退命令を通信させる。同時に戦闘中の宇宙艦艇もワープ機能を作動…。大銀河帝国軍宇宙艦隊は推定四万光年に位置する大銀河帝国本土へと一瞬でワープしたのである。
「本船もワープさせろ…」
総司令官のブラッドフォードが乗艇する脱出用ポッドも一秒間で大銀河帝国本土『ユートピアサイド』へとワープ…。ユートピアサイドとはテラフォーミングによって地球型惑星に改装された海水の小惑星であり大銀河帝国軍本隊の本拠地である。ブラッドフォードは無事にユートピアサイドへと戻ったのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーのブリッジでは乗組員達がワープ機能で撤退する大銀河帝国軍宇宙艦隊を眺望する。
「艦長!敵軍が撤退します!」
ウィグノールは無表情で…。
「本拠地の防衛作戦には成功したが…陽動作戦の囮艦隊は壊滅状態だな…」
今回の宇宙戦闘では大銀河帝国軍は大型宇宙戦艦三千三百四十八隻…。宇宙巡洋艦四千二百六十七隻と三万隻以上の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。一方のタイラントキラーは大型宇宙戦艦二千二百四十九隻…。宇宙巡洋艦三千六百九十四隻と二万五千六百三十八隻の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。人的損害では大銀河帝国軍は推計八十万人もの将兵が戦死…。タイラントキラーでは推計四十万人もの将兵が戦死したのである。今回の宇宙戦闘は第二十四次宇宙星間戦争と命名される。

第二話

亡命艦隊

第二十四次宇宙星間戦争から三日後の三月三十一日十六時…。大銀河帝国軍宇宙艦隊がタイラントキラーの宇宙機動部隊の奇襲攻撃によって大敗北してよりブラッドフォードは非常にピリピリした様子でユートピアサイド大総統官邸の自室にて無人兵器の資料を徹底的に黙読したのである。
(今後の戦闘では…無人兵器が役立ちそうだな…)
今迄は無人兵器の有効性は偵察以外では限定的と判断されたが…。第二十四次宇宙星間戦争により無人兵器の有用性が証明されたのである。すると何者かがコンコンッと自室のドアをノックする。
「誰だ?」
大柄の白人男性がブラッドフォードの自室に入室したのである。
「失礼します…ブラッドフォード大総統♪」
大柄の白人男性はヘラヘラした様子でありブラッドフォードは彼を直視すると余計にピリピリする。
(誰かと思いきや…)
「貴様は…副総統の【ストライダー】か…」
ストライダーとは碧眼金髪の白人男性でありブラッドフォードが唯一悪友と認識する人物である。今現在は副総統の立場であるが…。彼自身も少年時代は大銀河帝国軍の将兵であり各地の戦闘で活躍したのである。
「ブラッドフォード大総統♪ピリピリしちゃって如何されましたか♪三日前の第二十四次宇宙星間戦争は大変残念でしたね…」
ストライダーの発言にブラッドフォードは小声で…。
「貴様…」
「失礼です♪失礼です♪」
ストライダーは笑顔で謝罪する。ヘラヘラするストライダーであるが表情が変化したのである。
「訓練中の【ホムンクルス】ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から開発されたクローン人間達の総称である。度重なる宇宙戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。大銀河帝国ではクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。本来クローン人間の製造は倫理観の問題点から民主制の国家では禁止される反面…。大銀河帝国は独裁制の国家でありクローン人間の製造も容易に実施出来る。今現在は推計七億人のホムンクルスが大量生産され…。即戦力として実戦に参加出来そうなホムンクルスの将兵は推計七百万人である。
「彼等が実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。大銀河帝国軍はホムンクルス将兵と人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスを最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
「結局貴様の用事とは?」
ブラッドフォードが問い掛けるとストライダーは笑顔で…。
「新型兵器の完成と開発プランが完了しました…即刻軍事工場で新型兵器を見物しませんか?」
「暇潰しには好都合だ…承知した…」
ブラッドフォードは無表情で承諾したのである。彼等は外出するとスカイカーで軍事工場へと移動する。三十分後…。軍事工場は首都からは非常に近辺であり三十分程度で到着する。
「即刻完成した新型兵器を見物させろ…」
「承知しました…」
ストライダーは恐る恐るブラッドフォードに道案内したのである。
「軍事工場へは久方振りに見物したが…無人だな…」
軍事工場は基本的に無人であり作業用のロボットが新型兵器を製造する。
「最近はロボット技術の向上で人間の作業員が必要無くなりましたからね…」
近年ではロボットの普及によりあらゆる企業が管理人を一人配置するのが一般化したのである。彼等は地下に存在する宇宙船の巨大造船施設へと進入…。
「新型艦か…」
地下の巨大造船施設には数百隻もの宇宙艦艇が確認出来る。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争では反政府勢力のタイラントキラーによって大銀河帝国軍の宇宙艦隊が手酷く撃破されましたからね♪」
三日前の第二十四次宇宙星間戦争では当初の想定を上回る予想外の大損害により宇宙艦隊の再建が急行されたのである。
「建造中の宇宙艦隊は三日後には完成するでしょうし…一週間後には各部隊に配属させる予定ですから♪」
するとストライダーは新型艦を紹介する。
「最初に紹介する新型艦は宇宙巡洋艦…『バジリスク』です…」
バジリスク級宇宙巡洋艦とは大銀河帝国軍宇宙軍が開発した新型宇宙巡洋艦である。全長二百メートル…。全幅百四十メートルの大型巡洋艦であり総重量は推定五万トンである。兵装は口径三百ミリメートルの高エネルギー連装砲が三基装備され両サイドの片舷には光子魚雷発射機が二基搭載される。本艦の最大の利点は対空装備であり宇宙巡洋艦であるが対空パルスレーザーが合計十二基搭載されたのである。乗組員は全自動化を考慮…。通常の乗組員は三人であるが場合によっては一人だけでも操縦出来る。
「基本的にバジリスクは主力艦隊の護衛に利用されるでしょうね…」
ブラッドフォードは宇宙巡洋艦には無関心だったのかノーコメントだったのである。
(大総統…)
ブラッドフォードの無関心の態度にストライダーは苦笑いする。
「此奴は…」
ブラッドフォードが指差した方向には全長五百メートルサイズのドッグに確認出来る未完成の宇宙戦艦だったのである。
「宇宙戦艦なのか?建造中みたいだが…」
ストライダーはニヤッとした表情で即答したのである。
「ドッグに確認出来る建造中の軍艦は久方振りの新型宇宙戦艦ですよ♪」
「新型宇宙戦艦だと?セイバードラゴンの後継艦か…」
大銀河帝国軍はセイバードラゴン級宇宙戦艦が建造されて以来…。後継艦の建造は計画されなかったのである。近年とある新兵器の開発が浮上…。とある新兵器を搭載可能である新型宇宙戦艦の建造が急遽計画されたのである。
「新型宇宙戦艦とやらはセイバードラゴンの二分の一程度のサイズだな…」
ドッグのサイズから全長は推定四百メートルサイズの宇宙戦艦であると推測される。
「ですが新型宇宙戦艦が完成すればセイバードラゴン級宇宙戦艦を上回る性能が期待出来ましょう♪」
ブラッドフォードは無表情で…。
「性能が上回っても無用の長物なら御免だが…」
「大総統…」
(本当に偏屈だな…)
ブラッドフォードの発言にストライダーは人一倍偏屈であると感じる。するとブラッドフォードはフッとした表情で問い掛ける。
「今後の開発プランとやらは?」
「今後の開発プランは第二十四次宇宙星間戦争でタイラントキラーが投入したスペースドローンに対抗出来る戦闘用ドローンの開発ですよ♪」
ブラッドフォードは第二十四次宇宙星間戦争の翌日…。軍政部に戦闘用ドローンの重要性と開発を強引に説得させ戦闘用ドローンの開発計画が実行されたのである。幸運にも大銀河帝国軍宇宙艦隊の宇宙救助船が故障により全機能停止したタイラントキラーのスペースドローンを発見…。機体を鹵獲したのである。スペースドローンは機内の故障のみで全体的にノーダメージであり軍関係の技術者達は徹底的に機体を解析する。
「戦闘用ドローンの開発計画は順調みたいだな…」
「勿論ですとも♪機体の解析が順調に進行すれば…大銀河帝国軍でも独自の戦闘用ドローンの製造が開始されましょう…」
すると直後…。ブラッドフォードが所持する非常用の携帯式通信機が作動したのである。
「ん?通信機だと?」
ブラッドフォードは応答する。
「私だが…一体何事だ?」
「ブラッドフォード大総統!大変です!」
「貴様は【ルーヴェルハルト】少将か…一体何が発生した?」
ブラッドフォードに通信した相手は少将のルーヴェルハルトだったのである。ルーヴェルハルトは大銀河帝国軍の帝国軍人であるが…。帝国軍人としては非常に穏健派であり強硬派の帝国軍人達とは常日頃から対立する。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争の大敗北からタイラントキラーに影響された民衆達が各惑星で暴動を発生させたとの情報です…」
第二十四次宇宙星間戦争での大敗北から大銀河帝国の威厳が没落…。暴動を発生させた各惑星の住民達は民主化運動に尽力中のタイラントキラーを支持したのである。軍内部からも離反した脱走兵がデモ隊に協力…。各惑星にて地上の治安部隊とデモ隊による内紛が彼方此方で勃発したのである。ルーヴェルハルトはソワソワした様子であったがブラッドフォードは呆れ果てた様子で…。
「愚民の暴走程度で報告するな…」
「えっ!?大総統…」
ブラッドフォードの予想外の返答にルーヴェルハルトはハッとする。
「愚民達のデモ隊なんて国軍の宇宙艦隊を派遣して鎮圧作戦を開始しろ…大気圏から光子魚雷を一発投下すれば簡単に鎮圧出来るだろう…」
「ですが大総統…国軍の宇宙艦隊を出撃させれば大勢の民間人が…」
躊躇するルーヴェルハルトにブラッドフォードは苛立ったのである。
「数億人程度の愚民に遠慮して如何する?デモ隊の暴動程度に畏怖するなら即刻宇宙艦隊を派遣させ…奴等を沈黙させろ…」
ルーヴェルハルトは一瞬沈黙するものの…。
「承知しました…大総統…」
ブラッドフォードの命令に承諾したルーヴェルハルトであるがプルプルした様子で通信を遮断させる。
「ルーヴェルハルトは本当に弱腰だな…」
ルーヴェルハルトを弱腰と罵倒するブラッドフォードにストライダーは恐る恐る…。
「ですが大総統…各地域でデモ隊の活動がエスカレートし続ければ大銀河帝国にとって非常に不都合ですよ…最悪大銀河帝国が内部分裂すればタイラントキラーの思う壺でしょう…」
「であれば一日も早くタイラントキラーの本土を攻略するべきだな…」
同日…。暴動が発生した各惑星には六個師団の大規模宇宙艦隊が派遣され艦隊の主力艦であるセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が各惑星の大気圏から地上を目標に光子魚雷を発射したのである。一発の光子魚雷により大都市諸共数千万人の住民達が死滅…。一度の鎮圧作戦で敵味方の合計死者数は推計十二億人を上回ったのである。同時刻…。タイラントキラーの本拠地であり自治領である母星『エデンプラネット』議会場では大銀河帝国軍による暴動鎮圧の情報が急報されたのである。総帥ウィグノールの右腕とも命名される【ウィンフィールド】がソワソワした様子で議会場へと入室する。
「ウィグノール総帥!緊急事態です!」
「ウィンフィールド大佐か…一体何事だ?」
ウィンフィールドとは若齢の職業軍人であり年齢は二十二歳の青年であるが階級は大佐…。非常に優秀でありタイラントキラーではウィグノールが唯一信頼する最高の部下である。
「大銀河帝国軍が自国内で発生した暴動を鎮圧したみたいですが…彼等の鎮圧作戦によってデモ隊のみならず…推計十二億人以上の非戦闘員が虐殺されたとの情報です…」
ウィンフィールドが最高指導者のウィグノールに伝達する。
「なっ!?虐殺だと!?奴等…デモ隊だけではなく自国内の国民をも殺害したのか?」
「残念ですが…本当みたいです…」
「大銀河帝国…ブラッドフォードは悪魔にでも憑依されたのか…」
ウィグノールは人一倍大銀河帝国のブラッドフォードを毛嫌いするのだが…。今回のデモ隊虐殺事件から今迄以上にブラッドフォードに対する嫌悪感が増大化したのである。
「最早大銀河帝国のブラッドフォードは野放しには出来ない…」
ウィグノールは一瞬沈黙するなり…。
「即刻宇宙大艦隊を準備させろ!タイラントキラーの宇宙艦隊を再編制させ…大銀河帝国本土…ユートピアサイドに宇宙艦隊を派遣…奇襲作戦を実行する…」
ウィグノールのユートピアサイド奇襲攻撃の発言にウィンフィールドは驚愕する。
「えっ!?総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて本気ですか!?」
「私は当然…本気だ!」
「ですが総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて実質自爆攻撃と一緒ですよ!エデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星『メティス基地』と人工惑星『プルトロン基地』を突破しなければ不可能です…」
現実問題…。タイラントキラーの本拠地であり自治領であるエデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破しなければ大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドへは到達出来ない。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地には合計十二万隻から十四万隻もの宇宙艦艇が配備され両陣営とも攻略するのは困難である。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破したとしてもユートピアサイドには二十万隻もの宇宙大艦隊は勿論…。両サイドの基地には新型巨大防衛兵器の存在が確認され簡単には攻略出来ない。奇襲作戦を実行すれば大多数の宇宙防衛艦隊からの猛反撃も予想され最悪味方艦隊全滅の可能性も否定出来ない。
「タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争でも相当の損害ですし…こんな作戦は将兵達も国民も支持しないでしょう…最悪の場合報復攻撃でエデンプラネットの滅亡も予想されましょう…」
実際タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争の陽動作戦で辛勝するものの大多数の大型艦が撃沈…。大破したのである。タイラントキラーも宇宙艦隊の再建に着手するのだが…。資源不足により手一杯の状態だったのである。こんな状態で奇襲作戦を強行すれば奇襲艦隊の全滅は確実であり最悪エデンプラネットの滅亡も否定出来ない。
「三日前の第二十四次宇宙星間戦争だけでタイラントキラーは二万隻以上の宇宙艦艇と四十万人以上の将兵達が戦死したのです…今現在は宇宙艦隊の再建と宇宙航空戦力の再強化に尽力するべきかと…」
直後…。会議室のホログラムがピコピコッと反応したのである。
「ん?ホログラム?」
ホログラムを作動させると通信兵の立体映像が出現する。
「ん?通信兵か?」
「ウィグノール総帥!大変です!緊急事態です!」
「緊急事態だと?今度は何事だ?」
「味方の宇宙偵察機が所属不明の宇宙艦隊を発見…小惑星『トレジャーホール』に接近中との情報です…」
小惑星トレジャーホールとはタイラントキラーが統治する小惑星でありタイラントキラーにとって資源採掘の宝庫である。
「所属不明の宇宙艦隊だと?大銀河帝国軍の奇襲部隊か?」
「現段階では不明ですが…恐らくは…」
ウィグノールは再度問い掛ける。
「宇宙艦隊の規模は?」
「宇宙偵察機の情報では…宇宙巡洋艦クラスの大型艦一隻と…二十隻の宇宙駆逐艦クラスの小型艦です…」
「極小規模の小艦隊だな…」
「ウィグノール総帥…如何されますか?」
ウィグノールは一息するなり…。
「小惑星トレジャーホールに宇宙警備艦隊の宇宙戦闘母艦一隻を派遣させ…所属不明の宇宙小艦隊を駆逐せよ…」
「承知しました…」
宇宙警備艦隊は主力のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦一隻で出撃したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はワープ機能を作動させると本拠地のエデンプラネットから推定百四十光年に位置する小惑星…。トレジャーホールの存在する宙域へと到達したのである。タイラントキラーの宇宙警備艦隊は所属不明の宇宙小艦隊と遭遇するのだが…。所属不明の宇宙小艦隊は交戦の意思が皆無であり救難信号を発信したのである。彼等は五千人以上の避難民達を乗艦…。所属不明の宇宙小艦隊の正体は大銀河帝国軍を見限り祖国である大銀河帝国から亡命した亡命艦隊だったのである。当初はエデンプラネットでも混乱するも亡命艦隊の脱走兵は捕虜として扱われ…。避難民達は無事に保護されたのである。

第三話

奇襲大作戦

宇宙新暦七百二十二年四月十六日未明…。タイラントキラー軍内部では大銀河帝国本拠地であるユートピアサイド奇襲大作戦が正式決定される。当初はウィグノールの右腕であるウィンフィールドは勿論…。数多くの首脳陣が今回のユートピアサイド奇襲大作戦には猛反対され一時は作戦内容が全面的に白紙化されたのである。作戦内容が白紙化された数日後…。状況は一変する。大銀河帝国国内では大総統のブラッドフォードによる圧政に猛反発した大勢の将兵達やら国民達のデモ隊活動によりブラッドフォード政権は失脚寸前だったのである。大銀河帝国国内の大混乱から作戦を実行するチャンスであると確信したウィグノールは再度右腕のウィンフィールドとタイラントキラー首脳陣に説得…。最終的に作戦開始の三日前に大銀河帝国軍総本部ユートピアサイド奇襲大作戦は総帥ウィグノールの説得により正式決定されたのである。四月十八日十六時五十分…。タイラントキラー宇宙艦隊は七十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦を主力に機動突撃艦隊を新編成したのである。機動突撃艦隊は宇宙空母と宇宙航空戦力を中心とした宇宙大艦隊であり宇宙型大艦巨砲主義の大銀河帝国軍には存在しない。宇宙艦艇の総数は合計六万隻以上でありタイラントキラーにとっては最大の戦力だったのである。今回のユートピアサイド奇襲大作戦では主力の大型宇宙空母を護衛する新型宇宙巡洋艦の『シーサーペント』が二万隻以上投入される。シーサーペント級宇宙巡洋艦はスーパーレーダーによるレーダー射撃により主砲の命中精度のみなら大銀河帝国軍主力宇宙戦艦のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にも匹敵する。旗艦レヴィアタンより総司令官であるウィグノールが通信機で全軍に伝播…。
「全軍!ワープ機能を作動させろ!目標地点は大銀河帝国軍本拠地…ユートピアサイド!」
タイラントキラーの宇宙艦艇は大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドを攻略目標にワープ機能を作動させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではステルス機能すら無効化する新型の改良型スーパーレーダーが設置されタイラントキラーの動向を察知したのである。
「大総統!タイラントキラーの主力宇宙艦隊が行動を開始しました!彼等は本拠地であるユートピアサイドに接近中です…」
通信兵の報告に大総統ブラッドフォードは承諾する。
「奴等…行動を開始したな…」
ブラッドフォードは基地内の総司令部に設置されたホログラムにてタイラントキラーの宇宙艦隊の動向を確認したのである。五日前にタイラントキラーの本拠地であるエデンプラネットに諜報部隊を派遣…。タイラントキラーの情報をキャッチするのに成功したのである。副総統のストライダーが恐る恐る…。
「大総統?ユートピアサイドに援軍を派遣しますか?」
「援軍は不要だ…」
問い掛けたストライダーであるがブラッドフォードは援軍の派遣は不要であると返答したのである。
「援軍は不要ですと?」
「最早大銀河帝国軍にとってユートピアサイドの戦略的価値は皆無だ…ユートピアサイドへは援軍は派遣しない…」
「であればユートピアサイドは如何されるのですか?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「新型戦略兵器『ツァーリーボンバ』で敵味方諸共…ユートピアサイドを殲滅する…」
「なっ!?戦略兵器であるツァーリーボンバで…大銀河帝国軍本拠地のユートピアサイドを殲滅するのですか!?」
ツァーリーボンバとは大銀河帝国軍が新開発した新型戦略兵器であり正式名は超大型戦略貫通ミサイルである。全長は七百メートルサイズ…。規格外の超巨大試作型誘導弾であり破壊力は未知数である。
「大総統は正気ですか!?ユートピアサイドには大勢の味方の地上部隊と民間人が居住する人口密集地ですし…何よりもユートピアサイドは大銀河帝国軍の本拠地なのですよ!?」
大銀河帝国軍の総本部であるユートピアサイドには総勢七十万人もの地上部隊が配備され…。推計七十億人以上の非戦闘員が居住する。
「敵軍を殲滅するには味方の犠牲は必要不可欠だ…」
(今現在ユートピアサイドの地上部隊は実質不要だからな…奴等にはツァーリーボンバの実験台として利用するのが適任だ…)
ユートピアサイドに配置された味方の地上部隊はブラッドフォードにとって不要と判断した部隊であり実質消耗品だったのである。
「即刻改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦に新型戦略兵器ツァーリーボンバを搭載させ…出撃させろ…」
「はっ!承知しました!」
ツァーリーボンバは宇宙戦艦クラスの大サイズであり実質改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にしか搭載出来ない。準備は五分で終了する。通信兵が再度司令室へと入室したのである。
「改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦にツァーリーボンバを搭載準備…完了しました…」
「上出来だ…」
ブラッドフォードはスマートウォッチで時間帯を確認する。
「出撃は五分後だ…」
「承知しました…」
五分が経過したと同時に…。ツァーリーボンバを搭載した改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦が出撃したのである。人工惑星プルトロン基地から改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦が出撃した同時刻…。タイラントキラーのユートピアサイド攻略宇宙艦隊が大銀河帝国軍本拠地ユートピアサイドの大気圏上空へと到達したのである。ユートピアサイド地上部隊は総司令部に設置されたスペースレーダーにてタイラントキラー宇宙艦隊の動向をキャッチする。
「大気圏上空よりタイラントキラーの宇宙艦隊です!」
「奇襲作戦か…」
タイラントキラー宇宙艦隊の突然の出現に地上部隊は動揺したのである。
「奴等…ワープ機能でプルトロン基地とメティス基地を突破したのか…」
「総数六万隻の大艦隊です…地上部隊だけで守備するのは不可能でしょう…」
現実問題地上部隊のみではタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するのは不可能…。味方の宇宙艦隊は各惑星のデモ隊鎮圧任務に投入され援軍からの援護は絶望的である。
「兎にも角にもタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するぞ!」
地上部隊の滑走路からは三百機前後の旧型宇宙戦闘機スペースバードが飛来…。地上軍は宇宙戦艦をも一発で撃沈出来る高エネルギー主砲搭載型砲撃列車と旧型戦闘装甲車が対空戦闘を開始したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦の宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは総司令官のウィグノールがホログラムにて地上の様子を観察する。
「ユートピアサイドの地上軍は攻撃を開始したか…」
ウィグノールは一息したのである。
「民間人への被害は最小限に努力しろ…」
数秒後…。
「全軍攻撃開始!敵部隊を排除せよ!」
タイラントキラーの攻撃開始と同時に七十隻のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦飛行甲板より数百機ものスペースドローンが飛来したのである。ユートピアサイド都市部大気圏上空では有人機と無人機の空戦が展開される。大銀河帝国軍地上軍のスペースバード航空隊は必死に反撃するのだが…。相手は新型の無人機であり旧型の有人型宇宙戦闘機であるスペースバードでは撃墜するのは困難である。一分間の戦闘で百八十機ものスペースバードが撃墜される。スペースバードの防衛網を突破した無数のスペースドローンは都市部直上へと突入…。地上部隊の基地と周辺区域を攻撃したのである。地上部隊は砲撃列車と戦闘装甲車は勿論…。基地周辺に設置された固定砲台で上空のスペースドローンを迎撃するも地上では超音速で飛来するスペースドローンを撃墜するのは困難である。反対にスペースドローンの宇宙戦闘用多目的ミサイル…。小型光子魚雷による爆撃で地上部隊の地上兵器が破壊されたのである。同時刻…。宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは副艦長のウィンフィールドが艦内のホログラム立体映像で地上の様子を再度直視する。
「味方部隊の優勢ですね…今現在自軍の損害は皆無です!」
タイラントキラーの優勢に大喜びするウィンフィールドであるが…。
「非常に奇妙だな…」
「奇妙ですと?」
奇妙であると発言するウィグノールにウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「何が奇妙なのですか?」
「敵軍の地上部隊は旧型の兵器ばかり…戦争博物館だな…」
ユートピアサイドは大銀河帝国軍にとって最重要拠点であるのだが…。投入された地上軍の兵器は旧型の前時代的代物ばかりでありウィグノールは胸騒ぎを感じる。
「最重要拠点の防衛戦としては抵抗が軽微に感じられる…」
戦闘開始から五分が経過するとユートピアサイドの地上部隊の戦力は八割が壊滅状態であり最早組織的抵抗は不可能の状態だったのである。タイラントキラーの将兵達は勝利を確信するのだが…。ウィグノールとウィンフィールドは表情が険悪化したのである。すると一人の将兵が彼等に問い掛ける。
「艦長達…一体如何されたのですか!?タイラントキラーの勝利は目前ですよ!今日より銀河系全体の民主主義が実現するのです!」
するとウィグノールは恐る恐る…。
「ひょっとすると敵軍のトラップかも知れないな…」
「えっ!?敵軍のトラップですと?」
直前である。艦内のスペースレーダーが正体不明の移動物体に反応…。艦内全体にサイレンが響き渡る。
「ん?何事だ…」
ホログラム立体映像を再作動させると規格外の超大型ミサイルを搭載したセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が映写される。
「此奴は…大銀河帝国軍の…援軍でしょうか?」
「セイバードラゴン級大型宇宙戦艦だな…改良型か…」
「ですが船底に大型戦艦クラスの超大型ミサイルらしき巨大物体が確認出来ます…巨大物体は超大型ミサイルなのでしょうか?」
ウィグノールは勿論…。周囲の乗組員達がセイバードラゴン級宇宙戦艦に搭載された超大型ミサイルに身震いしたのである。するとウィグノールは恐る恐る…。
「ウィンフィールド…」
「如何されましたか?ウィグノール総帥…」
普段は冷静であるウィグノールであるが不吉の予感を察知したのか今回は異常にビクビクしたのである。
(ウィグノール総帥が畏怖されるなんて…)
ウィンフィールドはウィグノールの様子に一大事であると察知する。
「不本意であるが…全軍を撤退させろ…」
ウィグノールの判断にウィンフィールドを除外する周囲の将兵達が猛反発したのである。
「えっ!?今更撤退ですと!?」
「敵艦は一隻だけです!即刻迎撃して…」
「下手に攻撃すると面倒だ…モニターの此奴は予想以上に危険かも知れない…」
ウィグノールは即座にワープ機能作動を全軍に伝播させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではブラッドフォードが基地内から無人の改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦を遠隔操作したのである。
(コンピュータゲームみたいだな…)
ストライダーは遠隔操作により航行する改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦をコンピュータゲームであると感じる。ブラッドフォードはモニターでユートピアサイドの大気圏上空を浮遊するタイラントキラーの宇宙艦隊を確認したのである。
「敵軍は大気圏上空に展開中だな…」
一息するなり…。
「攻撃目標…ユートピアサイド…超大型戦略貫通ミサイル…ツァーリーボンバ…発射する…」
改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦からツァーリーボンバが発射される。発射された同時刻…。ユートピアサイド大気圏上空にて展開中のタイラントキラー宇宙艦隊の各艦のスーパーレーダーにはツァーリーボンバが確認される。
「艦長!敵艦から規格外の超大型ミサイルが発射されました!」
ウィグノールはモニターの超大型ミサイルを直視する。
(此奴は大銀河帝国軍の新型兵器か…止むを得ないか…)
不本意であるが…。
「全軍に伝達する!全艦隊…即刻撤退せよ!」
直後である。ユートピアサイドに接近中の超大型戦略貫通ミサイル…。ツァーリーボンバが惑星全体にピカッと炸裂したのである。数秒後…。高熱の熱線が惑星全体を覆い包み天体諸共爆散したのである。タイラントキラーの主力宇宙艦隊はワープ機能の作動により撤退に成功したものの…。最前線の艦隊はツァーリーボンバの大爆発によってユートピアサイド諸共消滅したのである。
「はぁ…はぁ…ウィグノール総帥…無事に撤退出来ましたね…」
「主力の宇宙艦隊は無事だが…」
先程の自爆攻撃でタイラントキラーは推計三百四十八隻の宇宙戦艦…。六百八十九隻の宇宙巡洋艦と五千二百三十一隻の小型艦艇を喪失したのである。推計三十万人もの将兵を喪失する。一方の大銀河帝国軍は自身の自爆攻撃によって推計五百万人の兵員…。推計七十億人もの住民がツァーリーボンバで死滅したのである。タイラントキラーにとって今回の作戦失敗は甚大であり総帥のウィグノールは大勢の将兵達からは勿論…。民間からも作戦失敗の責任を追及され彼自身の妻子も戦争犯罪者として迫害されたのである。ウィグノールは作戦の失敗を契機に宇宙新暦七百二十二年四月二十一日…。自宅の寝室にて妻子と一緒に一家心中したのである。

第四話

新型宇宙戦艦

ユートピアサイド軍事工場で計画中であった新型宇宙戦艦は急遽人工惑星プルトロン基地で建造される。宇宙新暦七百二十二年四月二十四日早朝…。大総統のブラッドフォードはプルトロン基地の軍港へと来場する。
「如何やら新型宇宙戦艦が完成したみたいだな…」
軍港には全長四百メートルサイズ…。全幅二百二十メートルサイズの新型宇宙戦艦が確認出来る。すると背後より…。
「大総統♪こんな場所で一体何を?」
「ストライダーか…暇潰しに新型兵器を見物しただけだ…」
「新型兵器の見物ですか♪」
副総統のストライダーも新型宇宙戦艦を直視する。
「此奴はセイバードラゴン級宇宙戦艦の後継艦…キングタイタンですよ♪」
「キングタイタンだと?即刻改名しろ…」
艦名が気に入らなかったのか後継艦の改名を要求したのである。
「えっ?改名って…」
ストライダーは困惑したのである。
「であれば私が名付ける…此奴の艦名は『アプセラス』だ…」
「えっ…アプセラスって…」
ストライダーはハッとする。
「アプセラスとは…大総統の令夫人の名前では…」
「勿論…彼女の名前だ…」
アプセラスとは二年前の四月に大病で死去したブラッドフォードの令夫人の名前でありブラッドフォードの唯一の理解者である。
「大総統が希望するのであれば…」
新型宇宙戦艦の艦名はアプセラスと改名される。
「此奴の性能は?」
アプセラスは全長四百メートルサイズで全幅は二百二十メートルサイズ…。全備総重量は七十万トンの巨大宇宙戦艦である。全長が八百メートルサイズのセイバードラゴン級宇宙戦艦の二分の一のサイズであるが…。戦闘能力は段違いであり砲撃に特化された完全攻撃型宇宙戦艦である。兵装は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が二基…。対空兵装では五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八基搭載される。実弾兵器は光子魚雷発射機が二基…。宇宙戦闘用多目的ミサイル発射機が十二基配置される。本艦にとって最大の兵装であり最強の主砲…。超大型戦略高エネルギー兵器『ケラウノス』は無限の電力を内包するスパークストーンが使用され一撃で大惑星を消滅させる。動力炉はスーパーリアクターの改良型である新型無限動力炉『ハイパーリアクター』が搭載される。艦載機は無人機が四機…。乗組員は一人から三人程度で運用出来る。正式名は上級大将専用宇宙戦艦であり居住設備も豪華客船に匹敵する。本艦を一隻建造するだけでセイバードラゴン級宇宙戦艦二百隻の予算が使用…。政府首脳陣専用の宇宙戦艦であり実質ブラッドフォードのみが乗艦出来る。
「本艦の装甲は『エターナルメタル』ですからね…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは資源採掘惑星レアメタルスターで採掘された不朽性であり未知の鉄鉱石である。非常に軽量であるが…。硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスは非常に安価ですからね♪」
「であれば好都合だ…」

第五話

制圧作戦

三日後の四月二十七日早朝…。人工惑星プルトロン基地から三万隻もの宇宙大艦隊が出撃を開始する。旗艦は新型宇宙戦艦アプセラスであり大銀河帝国軍総司令官のブラッドフォードが乗艦したのである。
「全軍に伝達する!今回は小惑星トレジャーホールを確保…タイラントキラーの防衛宇宙艦隊を殲滅せよ!」
今回の作戦では新型宇宙巡洋艦バジリスクが推計二千隻…。六千隻もの新型宇宙駆逐艦『アスピドケロン』が投入され艦載機は新型戦闘用ドローン兵器『セイバードローン』が投入される。将兵の大半がクローン人間のホムンクルスであり人間の将兵は少数である。一新された大銀河帝国宇宙艦隊はタイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインである小惑星トレジャーホールを目標に全速前進…。各艦艇はワープ機能で小惑星トレジャーホールの宙域へと到達する。
「トレジャーホールの宙域に無事到達出来たな…」
旗艦アプセラスを先頭に…。背後からは三万隻もの宇宙艦艇がワープ機能で到達したのである。するとブリッジのホムンクルス将兵が発言する。
「味方の宇宙艦隊が到達したみたいですね…」
「トレジャーホールを攻略…奴等の最終防衛ラインを陥落させ…徹底的に奴等を絶望させるぞ…」
タイラントキラーの保有する惑星は実質母星であるエデンプラネットと最終防衛拠点のトレジャーホールのみである。
(タイラントキラーの資源宝庫であるトレジャーホールを陥落させれば…実質大銀河帝国の大勝利だ…)
タイラントキラーはユートピアサイド攻略作戦の失敗で戦力が低下…。最高指導者である総帥ウィグノールの自殺により以前より士気も戦争遂行能力も低下した状態だったのである。タイラントキラーは国民主権の勢力であり大勢の民間人が安住するエデンプラネットでの本土決戦は回避…。投降するのではと思考したのである。
「艦長!敵部隊の防衛宇宙艦隊を発見しました!」
艦内のスペースレーダーがトレジャーホールの防衛宇宙艦隊をキャッチする。
「敵部隊の宇宙艦艇の総数は?」
「推計一万五千隻です…」
「一万五千隻か…」
(敵軍の規模は一個艦隊程度だな…)
敵軍の規模から片手間であると感じるものの…。
「全軍…全速前進だ!戦闘艦艇は敵艦に砲撃を開始せよ!」
防衛艦隊との射程距離は推定十七光年と近距離であり各艦は高エネルギー砲塔から高エネルギーの光弾を射出…。数十万発もの発光体が各艦の砲塔から発射される。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の猛攻により数百隻もの宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇が轟沈したのである。宇宙巡洋艦クラスの大型艦は超大型エネルギーエネルギーシールド装置の設置により高エネルギー兵器を無力化…。ノーダメージだったのである。
「大総統…高エネルギー兵器が無力化されました…」
「エネルギーエネルギーシールド装置だな…であれば光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルの実弾攻撃で対応せよ…」
各艦は無数の光子魚雷…。宇宙戦闘用多目的ミサイルを発射する。大銀河帝国軍の実弾兵器はエネルギーエネルギーシールドジャミング装置が搭載され…。エネルギーエネルギーシールド装置を無力化させ大型艦に攻撃したのである。実弾兵器の猛攻で二百隻以上の宇宙巡洋艦クラスは勿論…。宇宙戦艦クラスの大型艦を撃沈する。
「大総統…大銀河帝国軍の優勢です!」
部下の報告にブラッドフォードは一安心するものの…。
「油断大敵だ…巨大宇宙空母『スレイプニル』から新型ドローン部隊を出撃させろ!」
今回の作戦では宇宙用の新型宇宙巨大空母スレイプニルが一隻投入されたのである。艦名はスレイプニルと命名され…。正式名は宇宙要塞母艦スレイプニルである。スレイプニル級宇宙空母はプルトロン軍事工場で建造されたドローン搭載型母艦であり十八隻が建造される。全長は九百九十メートルであり全長八百メートルクラスのセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。艦体の総重量は九百五十万トンと桁外れであり超光速の速力を発揮出来る。宇宙戦艦アプセラスと同様に動力炉はハイパーリアクターが使用され…。航続距離は実質無限光年である。規格外の巨大さのスレイプニル級宇宙空母であるが…。乗組員は一人から三人体制であり少人数での運用が可能である。推計五万人から八万人もの輸送要員を乗艦させられる。艦載機は無人兵器のドローン兵器が四百機搭載される。兵装は旗艦アプセラスと同様に主砲の超大型戦略高エネルギー兵器ケラウノスが艦首に設置…。副砲は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が六基と対空兵装は五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八十基搭載されたのである。実弾兵器は光子魚雷発射機が十二基と宇宙戦闘用多目的ミサイル発射機が三十基搭載され…。実質従来型の宇宙戦艦をも上回る戦闘空母である。補助兵装ではアプセラス同様…。ステルス機能と館内には娯楽施設が設置されたのである。スレイプニルの宇宙用甲板からは三百機ものセイバードローンが出撃…。ワーム機能を作動させ超光速で敵軍艦隊の射程圏内へと突入したのである。タイラントキラーのレヴィアタン級宇宙戦闘母艦もドローン兵器スペースドローンを発進させる。ドローン兵器同士による空戦が開始されるが…。セイバードローンは鹵獲したスペースドローンをベースに開発された機体でありスペースドローンは圧倒される。一分間の空戦で二百機以上のスペースドローンが撃墜されたのである。
「圧倒的だな…」
ブラッドフォードはアプセラスの艦内ホログラムからドローン部隊による空戦の様子を直視する。
「セイバードローンは予想以上の戦果ですね…」
「意外とドローン兵器も役立つな…」
今現在セイバードローンの損害は皆無であり敵機はバタバタと撃墜され…。タイラントキラーのドローン部隊は壊滅したのである。
「敵軍のドローン部隊は壊滅した…作戦中のドローン部隊には後方の敵軍艦隊への攻撃を続行させろ…」
「承知しました…」
セイバードローンは後方のタイラントキラー宇宙艦隊に攻撃を仕掛ける。セイバードローンは光子魚雷やら宇宙戦闘用多目的ミサイルで敵艦に攻撃したのである。ドローン部隊の攻撃で小型艦艇は勿論…。十数隻もの大型艦が撃沈されたのである。当然としてタイラントキラーの宇宙艦隊も迎撃するのだが…。セイバードローンにはエネルギーエネルギーシールド装置により対空パルスレーザー機関砲は無力化され光子魚雷やら宇宙戦闘用多目的ミサイルは機体に搭載された対空パルスレーザー機関砲により迎撃される。
「ドローン部隊が敵軍を圧倒しました…」
「であれば即刻敵軍宇宙艦隊に接近…総攻撃を仕掛ける!」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊はワープ機能を再作動…。トレジャーホールが肉眼でも視認出来る距離へと到達する。
「到達したな…」
トレジャーホール防衛艦隊との距離は七百キロメートルと至近距離である。
「ドローン部隊の攻撃で敵軍艦隊は大分疲弊した様子ですね…」
「全軍総攻撃を開始せよ…敵部隊を壊滅させろ…」
ブラッドフォードは総攻撃を指示…。全軍による総攻撃が開始されたのである。主力艦隊による艦砲射撃と実弾攻撃でトレジャーホール防衛艦隊の多数の宇宙艦艇が大破…。撃沈されたのである。戦闘不能と判断したのか残存艦隊は撤退を開始…。トレジャーホールは無人化したのである。
「敵軍艦隊は撤退を開始しました…トレジャーホールを制圧しましょう…」
大銀河帝国軍主力宇宙艦隊は無事トレジャーホールを制圧…。今回の制圧作戦で大銀河帝国軍の圧倒的大勝利に終結する。今回の戦闘でタイラントキラーは五十四隻のサラマンダー級大型宇宙戦艦と四十七隻のレヴィアタン級大型宇宙空母を喪失…。百八十三隻の旧型宇宙戦艦と八十二隻の旧型宇宙空母を喪失する。中型艦では二百十二隻のシーサーペント級宇宙巡洋艦が撃沈され…。四百五十六隻の旧型宇宙巡洋艦が撃沈されたのである。小型艦艇では二千七百六十八隻の宇宙駆逐艦と三千四百八十五隻の宇宙警備艇が撃沈され…。艦載機では三百六十六機のスペースドローンが撃墜されたのである。二十六隻の宇宙戦艦と十七隻の宇宙空母が大破…。百七十六隻の宇宙巡洋艦と五千八百七十四隻の小型艦艇が大破したのである。艦載機では二百四十八機のスペースドローンが損傷する。人的損害では推計五十三万人もの将兵が死傷したのである。一方の大銀河帝国軍は十二隻の宇宙戦艦と三十七隻の旧型宇宙巡洋艦を喪失…。六隻の宇宙戦艦と四十八隻の宇宙巡洋艦が大破したのである。十三機の戦闘用ドローンが損傷…。人的損害では九百二十六人の将兵が死傷したのである。各兵器を一新させた大銀河帝国軍であるが…。予想以上の損害の軽微に驚愕したのである。

第六話

殲滅作戦

タイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインであるトレジャーホールを無事制圧した大銀河帝国軍はトレジャーホールで放置された三十四隻の大型宇宙戦艦と十八隻の新型宇宙空母…。二十七隻の新型宇宙巡洋艦と艦載機のスペースドローン七十八機を鹵獲したのである。トレジャーホール制圧作戦から六日後の五月三日…。大総統のブラッドフォードは小惑星メティス基地で副総統のストライダーと再会する。
「大総統♪見事でしたな♪トレジャーホール制圧作戦は大銀河帝国軍の圧勝でしたね♪」
トレジャーホール制圧作戦の圧倒的勝利にストライダーは大喜びしたのである。
「当然の結果だ…ストライダーよ…総司令官であるウィグノールが自害した今現在のタイラントキラーは単なる烏合の衆…」
「資源宝庫のトレジャーホールが制圧されたのでは…タイラントキラーは投降する以外に選択肢は皆無ですからね♪」
最早戦力をズタズタに破壊されたタイラントキラーは誰しもが投降するものと思考するのだが…。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で司令室に入室する。
「何事だ?」
通信兵は恐る恐る…。
「ウィンフィールドと名乗る人物がタイラントキラーの新指導者に任命され…各惑星に戦闘継続を伝播させました…」
「なっ!?戦闘継続だと!?」
ストライダーは驚愕する。
「資源宝庫のトレジャーホールが制圧されたのに…奴等は正気か?」
するとブラッドフォードはボソッと一言…。
「この期に及んで奴等は余程死にたいらしいな…」
「大総統…如何されましょうか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「奴等が戦闘続行を決断するのであれば…此方も戦闘を続行…今度こそ奴等を徹底的に殲滅するだけだ…」
ブラッドフォードはストライダーを凝視するなり…。
「今度は大銀河帝国軍全軍で奴等の本拠地…エデンプラネットを攻略する…今度の作戦ではストライダー…貴様も参加しろ…」
「勿論ですとも…大総統…」
ストライダーは即答したのである。
「であれば即刻作戦を実行するか…大至急全軍に伝播させろ…エデンプラネット殲滅作戦を…」
「はっ!承知しました!」
通信兵は即座に各惑星の国軍宇宙艦隊に伝播させる。翌朝の五月四日…。各惑星の国軍宇宙艦隊が再集結したのである。今回の作戦では合計十九万隻の艦隊規模であり第四字宇宙星間戦争を上回る。
「全軍が集結したな…」
ブラッドフォードは旗艦のアプセラスに乗艦…。副総統のストライダーは改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦に乗艦したのである。ブラッドフォードは各艦に伝播…。
「全軍に伝播する…終戦は目前である!今回の作戦はタイラントキラー本拠地エデンプラネット!タイラントキラーの残存勢力を徹底的に殲滅する!諸君等の奮闘を期待する…」
ブラッドフォードの演説に将兵達の士気が向上したのである。するとストライダーはホログラムで返信する。
「大総統…先程の演説で将兵達の士気が向上しました♪精一杯奮闘しましょう♪」
「当然だ…ストライダー…」
直後…。
「各艦…ワープ機能を作動せよ…」
旗艦アプセラスを先頭に各艦はワープ機能を作動させる。一秒後…。合計十九万隻もの宇宙大艦隊がタイラントキラー本拠地エデンプラネットの宙域へと到達したのである。
「エデンプラネットの宙域に到達しました…味方艦隊とエデンプラネットの距離は一光年です…」
旗艦アプセラス艦内のスペースレーダーが反応する。
「大総統…スペースレーダーが反応しました…」
「敵軍の宇宙艦隊か?宇宙艦艇の総数は?」
「宇宙艦艇の総数は推計二万五千隻です…」
特殊無線技士のホムンクルス将兵が即答したのである。
「二万五千隻か…タイラントキラーの残存勢力にとっては最大戦力だな…」
度重なる敗北によりタイラントキラーの宇宙艦隊は二万五千隻に激減…。本拠地を防衛するのが手一杯だったのである。
「ですがこんな瀕死の状態で抵抗するなんて…奴等は正気ですか?」
ホムンクルス将兵の発言にブラッドフォードは即答する。
「所詮馬鹿の一つ覚えだな…超古代文明のとある地上の大帝国に酷似する…最早戦力の激減したタイラントキラーでは国民主権の大銀河共和国の再興は夢物語なのに…」
大銀河帝国が建国される以前…。銀河系には大銀河共和国と呼称される民主主義国家が存在したのである。大銀河共和国は政治の腐敗やら度重なる内戦…。最大の反政府勢力である大銀河革命軍との大銀河全面戦争により敗北…。民主制の大銀河共和国は独裁制の大銀河帝国へと再建されたのである。大銀河共和国軍に勝利した大銀河革命軍は大銀河帝国の常備軍…。大銀河帝国軍へと改編されたのである。
「所謂タイラントキラーは大銀河共和国の残党勢力だ…徹底的に殲滅せよ…」
数秒後…。
「全軍…敵軍宇宙艦隊に砲撃せよ!」
砲撃の合図と同時に大銀河帝国軍宇宙艦隊の総攻撃が開始される。同時刻…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊は旗艦である改良型サラマンダー級宇宙戦艦には次期総帥のウィンフィールドが乗艦する。
「艦長!大銀河帝国軍が総攻撃を開始しました!」
「全軍に伝達せよ!此方も応戦する!」
ウィンフィールドは応戦を指示したのである。直後…。一光年の宙域より発射された数千万発もの高エネルギーの光弾が味方宇宙艦隊に到達したのである。各艦に多数の光弾が命中するものの…。大型艦はエネルギーエネルギーシールド装置により光弾を無力化したのである。一方小型艦艇は簡単に撃沈され…。一度の総攻撃で推計三千隻もの小型艦艇が轟沈したのである。轟沈した小型艦艇は宇宙の藻屑へと変化…。数千人もの将兵が宇宙空間に吹っ飛ばされたのである。凄惨なる光景にウィンフィールドは落涙するものの…。
「彼等の犠牲を無駄にするな…即刻反撃しろ!」
タイラントキラー宇宙艦隊も反撃を開始したのである。各艦艇による高エネルギー砲塔の艦砲射撃…。実弾兵器である光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルを多数発射したのである。
「母艦部隊はドローン兵器を発進させ…敵軍艦隊に突入させろ!」
各航空母艦からはスペースドローンは勿論…。スペースドローンの後継機『ホワイトピクシー』が飛来したのである。各機体はワープ機能を作動…。数秒後には二万機以上のドローン兵器が大銀河帝国軍宇宙艦隊の宙域へと到達したのである。
「ひっ!ドローン兵器です!」
突如として出現したドローン兵器に大銀河帝国軍の将兵達は一時的に畏怖する。
「狼狽えるな…ドローン兵器を撃墜せよ…」
ブラッドフォードはドローンの迎撃を指示すると各艦艇は迎撃を開始したのである。するとブラッドフォードは気になるのかホログラム装置を作動…。スペースドローンの立体映像が映写される。
「えっ?大総統…如何されましたか?」
ブリッジのホムンクルス乗組員が彼に問い掛ける。
「恐らく此奴はタイラントキラーの新型機だな…」
ホワイトピクシーは性能的には大銀河帝国軍のセイバードローンと五分五分である。宇宙艦隊上空では互角の空中戦が展開される。
「味方のセイバードローン諸共…撃墜せよ…」
「味方の軍用機も攻撃するのですか?」
ブラッドフォードの指示にブリッジのホムンクルス乗組員が再度問い掛ける。
「所詮ドローンは自爆兵器だ…破壊されたって何機でも補充出来る…」
資源豊富の大銀河帝国軍にとってドローン兵器とは実質自爆用途の無人特攻兵器である。各機体の機体内部には宇宙戦艦クラスの大型艦をも一撃で撃沈出来る自爆装置が内蔵される。ブラッドフォードの指示に各艦艇は味方のドローン兵器諸共対空パルスレーザー機関砲は勿論…。実弾兵器の光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃したのである。無尽蔵の光弾と実弾攻撃により敵味方のドローン兵器が撃墜される。
「敵軍の宇宙航空戦力が半減したな…」
大銀河帝国軍宇宙艦隊の対空攻撃によりタイラントキラーの宇宙航空戦力が低下したのである。
「再度敵軍の防衛宇宙艦隊を攻撃…タイラントキラー本拠地エデンプラネットに突入するぞ…」

第七話

反帝国主義

宇宙新暦七百二十二年五月十七日…。最終戦略兵器ケラウノスによって国民主義勢力のタイライトキラーと本拠地である小惑星エデンプラネットを消滅させた大銀河帝国軍であるが…。日に日に過激化するブラッドフォード政権に対する反対運動は新勢力の誕生を促進させたのである。二日後の五月十九日…。ブラッドフォード政権を見限った穏健派の帝国軍人ルーヴェルハルトは大銀河帝国を脱退したのである。三日後の五月二十二日に反帝国主義勢力『ホープセイバーズ』が結成…。大銀河帝国自治領の一部である小惑星『ホープエリア』を本拠地として設置される。ホープセイバーズ結成から一週間後の五月二十四日…。大銀河帝国軍を見限った一部の帝国軍人達と母星の消滅により宇宙空間を漂流するタイライトキラーの臨時政府軍宇宙艦隊が小惑星ホープエリアへと集結したのである。ホープセイバーズ創設から二週間が経過するとホープエリアの総人口は推計二十億人に増加する。銀河系の各宙域ではタイラントキラーの残存艦隊が宇宙海賊団を組織…。彼等も義勇軍としてホープセイバーズに加入される。五月二十七日…。大銀河帝国軍総本部では大総統のブラッドフォードと副総統のストライダーが対談する。
「大総統…ルーヴェルハルト少将が大銀河帝国から脱退しましたな…」
「大銀河帝国に穏健派の帝国軍人は不要だ…」
(彼奴は目障りだからな…)
ブラッドフォードにとって穏健派のルーヴェルハルトは正直目の上のたん瘤でありルーヴェルハルトの脱退は非常に好都合だったのである。
「ホープセイバーズですが…如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「当然として…大銀河帝国に敵対する勢力は徹底的に殲滅する予定だ…」
「当然の判断ですね…」
同時刻…。ホープセイバーズ本拠地ホープエリアの総本部拠点ではとある人物が訪問する。ホープセイバーズ総帥ルーヴェルハルトの専用室にて何者かがコンッとドアをノックしたのである。
「誰だ?」
すると若齢の将校が入室する。
「失礼します…」
「貴方は…」
「私はタイラントキラー将兵だった…ウィンフィールド…階級は大佐です…」
「ウィンフィールド大佐か…」
両者は敬礼したのである。するとルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「本当に悪かった…私達の暴走で貴方の故郷は…」
ルーヴェルハルトは落涙…。謝罪したのである。
「気にしないで下さい…ルーヴェルハルト総帥…」
ウィンフィールドはルーヴェルハルトを非難せず…。
「大銀河帝国にも…貴方みたいな穏健派の軍人が存在するだけで…私の心情は救済されました♪」
ウィンフィールドは笑顔で返答する。するとルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「突然で混乱するかも知れないが…今後のホープセイバーズの方針を伝達する…」
「今後の方針ですか?」
ルーヴェルハルトは一息するなり…。
「ホープエリアは大銀河帝国から独立…小規模だがホープエリアに大銀河共和国の継承国家…宇宙新共和国を建国する予定だ…」
「宇宙新共和国ですと?」
今後の方針である大銀河帝国からの独立にウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「大銀河帝国からの独立なのですが…現実的に大銀河帝国からの独立なんて可能なのですかね?相手は大銀河帝国全勢力ですよ…大銀河共和国の継承勢力であるタイラントキラーも大銀河帝国軍によって徹底的に殲滅させられたのです…恐らく簡単には…」
「困難なのは承知だ…相手はブラッドフォードだからな…一筋縄では無理だろう…」
メンテ
宇宙 ( No.98 )
日時: 2021/09/17 22:46
名前: 月影桜花姫

第一話

宇宙艦隊戦闘

太古の大昔…。宇宙新暦七百二十二年三月二十八日午前一時の出来事である。とある銀河系では複数の巨大宇宙勢力が度重なる戦乱を頻発させる。太陽系から推定八万光年の宙域では銀河系全域を統治する大規模星間軍事国家『大銀河帝国』の宇宙大艦隊…。国民主義実現を主目的に活動する大規模反政府勢力である『タイラントキラー』の宇宙大艦隊が激突したのである。大銀河帝国軍宇宙軍主力艦隊旗艦…。宇宙戦艦『セイバードラゴン』ではブリッジの乗組員がタイラントキラーの宇宙艦隊を発見する。
「艦長!本艦のスペースレーダーが推定九百光年の宙域より敵軍の宇宙艦隊に反応しました!」
セイバードラゴンは大銀河帝国軍の主力宇宙戦艦であり地上の水上艦を連想させる巨大宇宙戦艦である。長距離索敵と誘導兵器の使用は勿論…。本艦一隻のみで数千キロメートルサイズの惑星表面を一掃させられる攻撃力を保持する。艦内には一隻だけで合計九十機もの宇宙用の艦載機を搭載出来る。本艦にとっての最大の武装は主砲である高エネルギーを放出する口径八百ミリメートルの高エネルギー連装砲である。主砲の威力は高火力であり数百メートルサイズの宇宙戦艦を一撃で撃沈出来ると推測される。本艦のレーダー射撃は高水準であり主砲の命中精度は八十五パーセントとも豪語される。本艦のサイズは全長八百メートルサイズで全幅六百メートルサイズ…。総重量は推定五百万トンと規格外に巨大であり現存する大銀河帝国軍宇宙主力艦隊では最大級の超巨大宇宙戦艦である。動力炉は『スーパーリアクター』が搭載され燃料の補給は不要であり半永久的に航行出来る。
「敵軍の宇宙艦隊を発見したか…」
セイバードラゴンの艦長は大銀河帝国の大総統…。【ブラッドフォード】である。ブラッドフォードは年齢二十九歳の青年であるが外見的には美少年であり十代後半にも間違われる。本来であればブラッドフォードは最前線での戦闘では参加しない立場であるものの…。少年時代の従軍経験から積極的に最前線での指揮を自発的に執行する。
「味方の全艦隊に伝播せよ…敵軍の宇宙大艦隊を発見したと…」
「はっ!承知しました!」
通信兵がブラッドフォードに敬礼するなり全艦隊に敵艦隊発見の情報を通信させる。大銀河帝国軍宇宙艦隊は大総統ブラッドフォードの乗艦する主力宇宙戦艦セイバードラゴンを先頭に推計十七万隻もの宇宙艦隊が追尾する。旗艦セイバードラゴン艦内ではブラッドフォードが再度指示したのである。
「最大船速でワープ機能を作動させろ…一瞬で敵軍艦隊の真正面に突入するぞ…」
「はっ!ワープ機能作動!」
ブリッジの乗組員がワープ機能を作動させる。すると味方の宇宙艦隊もワープ機能を作動させ最前線へと突入したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙軍艦隊は合計一万四千隻もの大規模艦隊であり旗艦は宇宙戦艦『サラマンダー』である。サラマンダーは全長七百八十メートルサイズで全幅五百四十メートルサイズ…。総重量は三百万トンもの大型宇宙戦艦である。旧型の宇宙戦艦であるが艦載機の総数は合計百五十機前後であり艦載機の搭載機数のみなら大銀河帝国軍のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。本艦の動力炉はスーパーリアクターであり燃料は不要である。
「艦長!スペースレーダーが反応しました!」
サラマンダーに搭載されたスペースレーダーが反応する。
「正体不明の無数の移動物体が超光速で味方艦隊に接近中です!移動物体の総数は推計十七万以上…」
旗艦サラマンダーの艦長は【ウィグノール】である。階級は中将であり本来は大銀河帝国軍親衛隊の総司令官であったが…。ブラッドフォードによる独裁政治を見限り脱退する。今現在は反政府組織であるタイラントキラーを創設…。国民主権の独立宇宙民主国家を目標に銀河系全域を支配する大銀河帝国に宣戦を布告する。
「恐らくタイラントキラーの宇宙艦隊だろう…」
すると直後…。タイラントキラー宇宙艦隊から推定三百光年の宙域より数万隻もの艦影が突如として出現したのである。
「艦長!タイラントキラーの宇宙艦隊です!総数七万隻前後…大艦隊です!」
「敵軍宇宙艦隊の総数は七万隻前後か…」
今現在投入された戦力では大銀河帝国軍主力宇宙艦隊が宇宙艦艇推計十七万隻以上…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊の宇宙艦艇は推計三万四千隻程度でありタイラントキラーが圧倒的に不利である。
「直進せよ…」
ウィグノールが艦隊の直進を指示すると全艦隊が大銀河帝国軍主力宇宙艦隊に接近する。同時刻…。大銀河帝国軍主力宇宙艦隊旗艦セイバードラゴンではタイラントキラー宇宙艦隊の接近を確認する。
「艦長!タイラントキラーの宇宙大艦隊が味方の宇宙艦隊に急接近中です!如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは無表情で…。
「急接近する敵軍宇宙艦隊を排除せよ…全軍…総攻撃開始!」
最前線の大型宇宙戦闘艦隊を中心に各艦艇が砲撃を開始したのである。数秒間に数万発もの蛍光色の光線が射出され…。接近するタイラントキラー宇宙艦隊に砲撃したのである。宇宙戦艦部隊はエネルギーエネルギーシールド機能によって光線を無力化するが…。宇宙駆逐艦クラスの小型艦はエネルギーエネルギーシールド機能が最小限化された代物であり簡単に撃沈されたのである。一度の攻撃でタイラントキラー宇宙艦隊の二十パーセントが喪失…。多数の小型艦が損傷したのである。
「宇宙戦艦クラスの大型艦には光子魚雷…宇宙戦闘用多目的ミサイルで対応せよ…」
旗艦セイバードラゴンの艦長…。ブラッドフォードの指示と同時に最前線の宇宙戦艦部隊が光子魚雷攻撃と宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃したのである。無数の実弾兵器が超光速で接近…。タイラントキラー宇宙艦隊の大型艦に命中したのである。宇宙戦艦クラスの大型艦十数隻が轟沈…。数十隻の大型艦を大破される。エネルギーエネルギーシールド機能を搭載する大型の敵艦を撃沈させるのに効果的だったのは光子魚雷である。光子魚雷とは超光速で発射させる宇宙用の魚雷であり破壊力は三千キロメートルクラスの小惑星を一撃で破壊させられる代物である。光子魚雷一発でも重厚装甲の大型宇宙戦艦は数十隻撃沈…。数百隻もの大型宇宙戦艦が大破したのである。爆沈する宇宙艦艇より多数の乗組員達が宇宙空間へと吹っ飛ばされる。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーにも宇宙戦闘用多目的ミサイルが命中…。艦首が大破したのである。
「艦首が被弾しました!」
「本艦への被害状況は?」
ウィグノールは乗組員に問い掛ける。
「艦首は大破です…」
「艦首だけか…大破したのが艦首のみであれば戦況には問題無さそうだな…」
ブリッジの乗組員が恐る恐る…。
「ですが奴等の宇宙戦闘用多目的ミサイルと光子魚雷は味方艦艇のエネルギーエネルギーシールドを透過しました…一体奴等は実弾兵器に何を細工したのでしょうか?」
長期間の宇宙航行を想定した宇宙用の艦船には宇宙デブリやら小惑星の衝突を無力化するエネルギーエネルギーシールド機能が搭載されるのが基本である。
「恐らく奴等の実弾兵器にはエネルギーエネルギーシールドジャミング装置を搭載させたのであろうな…」
エネルギーエネルギーシールドジャミング装置とは大銀河帝国軍が最新式の科学技術を駆使して開発した特殊装置…。大型艦に搭載されたエネルギーエネルギーシールド機能を妨害させ高確率で実弾兵器を目標に直撃させられる。光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルによるアウトレンジ戦法によってタイラントキラーのサラマンダー級大型宇宙戦艦五十二隻が撃沈され…。三百四十八隻の大型宇宙戦艦が大破したのである。大型宇宙戦艦以外の小型艦艇は数百隻が轟沈…。数千隻が大破したのである。旗艦サラマンダーでは大銀河帝国軍の猛攻撃に畏怖したブリッジの乗組員が撤退を要請する。
「ウィグノール艦長!即刻艦隊を撤退させましょう!敵軍の総攻撃で多数の味方艦艇が撃沈されました…戦闘を継続すれば全滅しますよ!」
するとウィグノールが無表情で…。
「狼狽えるな…」
戦局は圧倒的にタイラントキラーが不利であるがウィグノールは平常心であり周囲の乗組員達は不思議がる。
(こんなにも劣勢なのに冷静なんて…)
同時刻…。大銀河帝国軍宇宙艦隊旗艦であるセイバードラゴンの艦内では乗組員達が爆散する敵艦の光景を眺望する。
「ブラッドフォード大総統♪大銀河帝国軍の優勢です!」
「大銀河帝国軍の圧勝は確実だな♪」
「所詮タイラントキラーなんて一部のカルト集団だ…大銀河帝国軍が本領を発揮すれば簡単に殲滅出来るさ♪」
「愚衆政治国家の実現なんて…所詮は夢物語だな…」
大銀河帝国軍ではタイラントキラーは少人数のカルト集団…。単なるテロリスト集団程度の存在であると認識される。誰しもが大銀河帝国軍の圧勝を確実視するのだが…。大総統であるブラッドフォードだけは表情が険悪化する。一人の乗組員が恐る恐る…。
「大総統…如何されましたか?」
するとブラッドフォードが苛立った表情で返答する。
「前方の敵軍艦隊は陽動艦隊だろう…此奴は恐らく陽動作戦だ…」
ブラッドフォードが陽動作戦の可能性を指摘した直後…。スペースレーダーが反応したのである。
「スペースレーダーが反応しました!」
「スペースレーダーが反応したって!?一体何事だ!?」
周囲の乗組員達は突如として反応したスペースレーダーに動揺する。
「味方艦隊後方より無数の移動物体が確認されました!サイズは小型の機影…」
「小型の機影だと?」
小型の機影の一言にブラッドフォードが反応したのである。
「恐らく機影の正体は宇宙戦闘機かと…総数は推計三十万機…敵機部隊との距離は推計七百光年です…」
「総数三十万機か…全軍に対空戦闘を通信させろ…」
「はっ!承知しました!」
通信兵が全軍に対空戦闘用意を通信させる。タイラントキラーの宇宙航空機部隊がワープ機能を使用…。一秒間で大銀河帝国軍宇宙艦隊上空へとワープしたのである。大銀河帝国軍宇宙艦隊のスペースレーダーが再度反応する。
「スペースレーダーが反応しました!味方艦隊の上空より無数の敵機です!」
「敵機部隊はワープ機能で到達したか…」
ブラッドフォードは一瞬沈黙するものの…。
「上空の敵機を撃墜…宇宙迎撃機を出撃させろ…」
「承知しました…」
大銀河帝国軍の宇宙艦艇は宇宙用の対空砲で迎撃を開始…。セイバードラゴン級大型宇宙戦艦からは多数の宇宙戦闘機『スペースバード』が出撃する。スペースバードは全長十六メートル…。全幅七メートルの宇宙戦闘機である。スペースレーダーが搭載され機体前方には二基の対空用パルスレーザーが装備される。両翼には対艦戦闘用の宇宙戦闘用多目的ミサイルは勿論…。光子魚雷も搭載可能である。二十年前に開発された旧型の機体であるが大勢のパイロット達が本機を愛用…。今現在でも現役の主力戦闘機である。出撃した多数のスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の対空砲は小型の高エネルギー機関砲が炸裂…。敵機に攻撃するのだが敵機は機体全面に新型エネルギーエネルギーシールド機能を搭載させた新型機であり対空用の高エネルギー機関砲が命中しても無力化される。
「大総統!敵機に攻撃しても敵機を撃墜出来ません!」
「此奴は新型機だな…ホログラムを作動させろ…」
ホログラムを作動させると新型機の立体映像が生成されたのである。
「此奴は恐らく無人機の『スペースドローン』だな…」
スペースドローンとは所謂宇宙戦闘用のドローンであり無人兵器に分類される。当然として大銀河帝国軍でも宇宙用の偵察型ドローンは多数使用されるのだが…。タイラントキラーは戦闘用に特化された新型のドローンを多数開発したのである。タイラントキラーの新型ドローンは高出力の光学兵器の搭載…。宇宙戦艦の艦砲射撃をも無力化する新型エネルギーエネルギーシールド機能が搭載されたのである。ドローン兵器の技術のみならタイラントキラーは大銀河帝国の技術レベルを数段階上回る。
「タイラントキラーは無人機を戦闘用に特化させたのか…」
同時刻…。タイラントキラーのスペースドローンがスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦に急襲したのである。スペースドローンは機体底部に搭載された対艦戦闘用の大型ミサイルで攻撃…。宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇は一機のスペースドローンに撃沈されたのである。本来大銀河帝国軍の宇宙艦艇には外部からの物理攻撃を無力化するエネルギーエネルギーシールド機能が搭載されたが…。タイラントキラーのスペースドローンの機体内部には特殊電磁パルス発生装置が搭載され本機が接近すると接近された宇宙艦艇はエネルギーエネルギーシールド機能が使用出来なくなる。スペースドローンの電磁パルス発生装置によって大銀河帝国軍宇宙艦隊の各艦はエネルギーエネルギーシールド機能が停止…。一方的に攻撃されたのである。必死に迎撃するスペースバードもスペースドローンの攻撃によって多数の機体が撃墜…。数万人ものパイロット達が戦死する。機体底部に対艦戦闘用の固定型高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンはセイバードラゴン級大型宇宙戦艦を砲撃…。一撃で撃沈したのである。三分間の戦闘で六隻ものセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が撃沈される。
「大総統!スペースドローンの出現によって味方艦隊が混乱中です!」
すると直後…。
「スペースレーダーが反応しました!一機のスペースドローンが本艦に急接近中です!」
スペースレーダーが接近中のスペースドローンに反応したのである。スペースドローンが旗艦のセイバードラゴンに接近するとエネルギーエネルギーシールド機能が強制的にスリープモードへと移行…。エネルギーエネルギーシールド機能が使用出来なくなる。
「大変です!本艦のエネルギーエネルギーシールド機能が無力化されました…」
セイバードラゴンのエネルギーエネルギーシールド機能の停止によって乗組員達は動揺する。
「狼狽えるな…」
こんな絶望的状況下であってもブラッドフォードは冷静であり周囲の乗組員達は非常に不思議がる。直後…。対艦戦闘用の高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンがセイバードラゴン艦尾に搭載されたロケットエンジンに砲撃したのである。艦内に爆発音が響き渡る。
「うわっ!一体何が発生したのでしょうか!?」
爆発音に乗組員達は動揺したのである。するとブラッドフォードが無表情で…。
「恐らく艦尾のロケットエンジンが敵機の攻撃で破壊されたな…」
「えっ!?ロケットエンジンが!?」
先程の攻撃によってセイバードラゴンは航行出来なくなる。
「大総統…即刻脱出しましょう…こんな場所で長居し続けては本艦諸共…」
ブラッドフォードは一瞬躊躇うが…。
「止むを得ないな…」
ブラッドフォードと十六人の乗組員達は即座に脱出用のポッドに乗艇すると航行不能のセイバードラゴンから脱出したのである。セイバードラゴンは二度目の光子魚雷攻撃で爆散…。撃沈されたのである。撃沈されたセイバードラゴンの乗組員達は轟沈するセイバードラゴンに絶句する。
「大総統…危機一髪でしたね♪」
一人の乗組員が笑顔で大総統に発言するのだが…。
「何が危機一髪だ…」
ブラッドフォードは睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨するブラッドフォードに周囲の乗組員達はゾッとする。
「敵軍の一個艦隊程度に敗北とは…」
同時刻…。多数のスペースドローンを搭載した宇宙戦闘母艦『レヴィアタン』が大銀河帝国軍宇宙艦隊の後方よりワープ機能で出現する。タイラントキラーの本隊である宇宙機動部隊は超大型宇宙戦闘母艦レヴィアタンを中心に六十隻もの宇宙用の空母戦闘艦隊が奇襲に参加したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はタイラントキラーが独自で開発した本格的宇宙戦闘用空母であり艦載機は有人型の宇宙戦闘機ではなく無人兵器のスペースドローンを四百機程度搭載する。艦体のサイズは全長九百六十メートル…。全幅は五百三十メートルであり艦体の総重量は推定六百二十万トンにも相当する。兵装は宇宙巡洋艦に匹敵する高エネルギー主砲が二基搭載され四基の対空パルスレーザーが装備される。六十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦が背後から大銀河帝国軍宇宙艦隊を砲撃する。スペースレーダーによる艦砲射撃により命中精度は八十パーセントと正確であり多数の宇宙艦艇を撃破したのである。同時刻…。脱出用ポッドに乗艇したブラッドフォードは撤退を決意したのである。
「全艦隊に撤退の命令を通信させろ…」
「承知しました…」
通信兵は即座に撤退命令を通信させる。同時に戦闘中の宇宙艦艇もワープ機能を作動…。大銀河帝国軍宇宙艦隊は推定四万光年に位置する大銀河帝国本土へと一瞬でワープしたのである。
「本船もワープさせろ…」
総司令官のブラッドフォードが乗艇する脱出用ポッドも一秒間で大銀河帝国本土『ユートピアサイド』へとワープ…。ユートピアサイドとはテラフォーミングによって地球型惑星に改装された海水の小惑星であり大銀河帝国軍本隊の本拠地である。ブラッドフォードは無事にユートピアサイドへと戻ったのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーのブリッジでは乗組員達がワープ機能で撤退する大銀河帝国軍宇宙艦隊を眺望する。
「艦長!敵軍が撤退します!」
ウィグノールは無表情で…。
「本拠地の防衛作戦には成功したが…陽動作戦の囮艦隊は壊滅状態だな…」
今回の宇宙戦闘では大銀河帝国軍は大型宇宙戦艦三千三百四十八隻…。宇宙巡洋艦四千二百六十七隻と三万隻以上の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。一方のタイラントキラーは大型宇宙戦艦二千二百四十九隻…。宇宙巡洋艦三千六百九十四隻と二万五千六百三十八隻の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。人的損害では大銀河帝国軍は推計八十万人もの将兵が戦死…。タイラントキラーでは推計四十万人もの将兵が戦死したのである。今回の宇宙戦闘は第二十四次宇宙星間戦争と命名される。

第二話

亡命艦隊

第二十四次宇宙星間戦争から三日後の三月三十一日十六時…。大銀河帝国軍宇宙艦隊がタイラントキラーの宇宙機動部隊の奇襲攻撃によって大敗北してよりブラッドフォードは非常にピリピリした様子でユートピアサイド大総統官邸の自室にて無人兵器の資料を徹底的に黙読したのである。
(今後の戦闘では…無人兵器が役立ちそうだな…)
今迄は無人兵器の有効性は偵察以外では限定的と判断されたが…。第二十四次宇宙星間戦争により無人兵器の有用性が証明されたのである。すると何者かがコンコンッと自室のドアをノックする。
「誰だ?」
大柄の白人男性がブラッドフォードの自室に入室したのである。
「失礼します…ブラッドフォード大総統♪」
大柄の白人男性はヘラヘラした様子でありブラッドフォードは彼を直視すると余計にピリピリする。
(誰かと思いきや…)
「貴様は…副総統の【ストライダー】か…」
ストライダーとは碧眼金髪の白人男性でありブラッドフォードが唯一悪友と認識する人物である。今現在は副総統の立場であるが…。彼自身も少年時代は大銀河帝国軍の将兵であり各地の戦闘で活躍したのである。
「ブラッドフォード大総統♪ピリピリしちゃって如何されましたか♪三日前の第二十四次宇宙星間戦争は大変残念でしたね…」
ストライダーの発言にブラッドフォードは小声で…。
「貴様…」
「失礼です♪失礼です♪」
ストライダーは笑顔で謝罪する。ヘラヘラするストライダーであるが表情が変化したのである。
「訓練中の【ホムンクルス】ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から開発されたクローン人間達の総称である。度重なる宇宙戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。大銀河帝国ではクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。本来クローン人間の製造は倫理観の問題点から民主制の国家では禁止される反面…。大銀河帝国は独裁制の国家でありクローン人間の製造も容易に実施出来る。今現在は推計七億人のホムンクルスが大量生産され…。即戦力として実戦に参加出来そうなホムンクルスの将兵は推計七百万人である。
「彼等が実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。大銀河帝国軍はホムンクルス将兵と人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスを最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
「結局貴様の用事とは?」
ブラッドフォードが問い掛けるとストライダーは笑顔で…。
「新型兵器の完成と開発プランが完了しました…即刻軍事工場で新型兵器を見物しませんか?」
「暇潰しには好都合だ…承知した…」
ブラッドフォードは無表情で承諾したのである。彼等は外出するとスカイカーで軍事工場へと移動する。三十分後…。軍事工場は首都からは非常に近辺であり三十分程度で到着する。
「即刻完成した新型兵器を見物させろ…」
「承知しました…」
ストライダーは恐る恐るブラッドフォードに道案内したのである。
「軍事工場へは久方振りに見物したが…無人だな…」
軍事工場は基本的に無人であり作業用のロボットが新型兵器を製造する。
「最近はロボット技術の向上で人間の作業員が必要無くなりましたからね…」
近年ではロボットの普及によりあらゆる企業が管理人を一人配置するのが一般化したのである。彼等は地下に存在する宇宙船の巨大造船施設へと進入…。
「新型艦か…」
地下の巨大造船施設には数百隻もの宇宙艦艇が確認出来る。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争では反政府勢力のタイラントキラーによって大銀河帝国軍の宇宙艦隊が手酷く撃破されましたからね♪」
三日前の第二十四次宇宙星間戦争では当初の想定を上回る予想外の大損害により宇宙艦隊の再建が急行されたのである。
「建造中の宇宙艦隊は三日後には完成するでしょうし…一週間後には各部隊に配属させる予定ですから♪」
するとストライダーは新型艦を紹介する。
「最初に紹介する新型艦は宇宙巡洋艦…『バジリスク』です…」
バジリスク級宇宙巡洋艦とは大銀河帝国軍宇宙軍が開発した新型宇宙巡洋艦である。全長二百メートル…。全幅百四十メートルの大型巡洋艦であり総重量は推定五万トンである。兵装は口径三百ミリメートルの高エネルギー連装砲が三基装備され両サイドの片舷には光子魚雷発射機が二基搭載される。本艦の最大の利点は対空装備であり宇宙巡洋艦であるが対空パルスレーザーが合計十二基搭載されたのである。乗組員は全自動化を考慮…。通常の乗組員は三人であるが場合によっては一人だけでも操縦出来る。
「基本的にバジリスクは主力艦隊の護衛に利用されるでしょうね…」
ブラッドフォードは宇宙巡洋艦には無関心だったのかノーコメントだったのである。
(大総統…)
ブラッドフォードの無関心の態度にストライダーは苦笑いする。
「此奴は…」
ブラッドフォードが指差した方向には全長五百メートルサイズのドッグに確認出来る未完成の宇宙戦艦だったのである。
「宇宙戦艦なのか?建造中みたいだが…」
ストライダーはニヤッとした表情で即答したのである。
「ドッグに確認出来る建造中の軍艦は久方振りの新型宇宙戦艦ですよ♪」
「新型宇宙戦艦だと?セイバードラゴンの後継艦か…」
大銀河帝国軍はセイバードラゴン級宇宙戦艦が建造されて以来…。後継艦の建造は計画されなかったのである。近年とある新兵器の開発が浮上…。とある新兵器を搭載可能である新型宇宙戦艦の建造が急遽計画されたのである。
「新型宇宙戦艦とやらはセイバードラゴンの二分の一程度のサイズだな…」
ドッグのサイズから全長は推定四百メートルサイズの宇宙戦艦であると推測される。
「ですが新型宇宙戦艦が完成すればセイバードラゴン級宇宙戦艦を上回る性能が期待出来ましょう♪」
ブラッドフォードは無表情で…。
「性能が上回っても無用の長物なら御免だが…」
「大総統…」
(本当に偏屈だな…)
ブラッドフォードの発言にストライダーは人一倍偏屈であると感じる。するとブラッドフォードはフッとした表情で問い掛ける。
「今後の開発プランとやらは?」
「今後の開発プランは第二十四次宇宙星間戦争でタイラントキラーが投入したスペースドローンに対抗出来る戦闘用ドローンの開発ですよ♪」
ブラッドフォードは第二十四次宇宙星間戦争の翌日…。軍政部に戦闘用ドローンの重要性と開発を強引に説得させ戦闘用ドローンの開発計画が実行されたのである。幸運にも大銀河帝国軍宇宙艦隊の宇宙救助船が故障により全機能停止したタイラントキラーのスペースドローンを発見…。機体を鹵獲したのである。スペースドローンは機内の故障のみで全体的にノーダメージであり軍関係の技術者達は徹底的に機体を解析する。
「戦闘用ドローンの開発計画は順調みたいだな…」
「勿論ですとも♪機体の解析が順調に進行すれば…大銀河帝国軍でも独自の戦闘用ドローンの製造が開始されましょう…」
すると直後…。ブラッドフォードが所持する非常用の携帯式通信機が作動したのである。
「ん?通信機だと?」
ブラッドフォードは応答する。
「私だが…一体何事だ?」
「ブラッドフォード大総統!大変です!」
「貴様は【ルーヴェルハルト】少将か…一体何が発生した?」
ブラッドフォードに通信した相手は少将のルーヴェルハルトだったのである。ルーヴェルハルトは大銀河帝国軍の帝国軍人であるが…。帝国軍人としては非常に穏健派であり強硬派の帝国軍人達とは常日頃から対立する。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争の大敗北からタイラントキラーに影響された民衆達が各惑星で暴動を発生させたとの情報です…」
第二十四次宇宙星間戦争での大敗北から大銀河帝国の威厳が没落…。暴動を発生させた各惑星の住民達は民主化運動に尽力中のタイラントキラーを支持したのである。軍内部からも離反した脱走兵がデモ隊に協力…。各惑星にて地上の治安部隊とデモ隊による内紛が彼方此方で勃発したのである。ルーヴェルハルトはソワソワした様子であったがブラッドフォードは呆れ果てた様子で…。
「愚民の暴走程度で報告するな…」
「えっ!?大総統…」
ブラッドフォードの予想外の返答にルーヴェルハルトはハッとする。
「愚民達のデモ隊なんて国軍の宇宙艦隊を派遣して鎮圧作戦を開始しろ…大気圏から光子魚雷を一発投下すれば簡単に鎮圧出来るだろう…」
「ですが大総統…国軍の宇宙艦隊を出撃させれば大勢の民間人が…」
躊躇するルーヴェルハルトにブラッドフォードは苛立ったのである。
「数億人程度の愚民に遠慮して如何する?デモ隊の暴動程度に畏怖するなら即刻宇宙艦隊を派遣させ…奴等を沈黙させろ…」
ルーヴェルハルトは一瞬沈黙するものの…。
「承知しました…大総統…」
ブラッドフォードの命令に承諾したルーヴェルハルトであるがプルプルした様子で通信を遮断させる。
「ルーヴェルハルトは本当に弱腰だな…」
ルーヴェルハルトを弱腰と罵倒するブラッドフォードにストライダーは恐る恐る…。
「ですが大総統…各地域でデモ隊の活動がエスカレートし続ければ大銀河帝国にとって非常に不都合ですよ…最悪大銀河帝国が内部分裂すればタイラントキラーの思う壺でしょう…」
「であれば一日も早くタイラントキラーの本土を攻略するべきだな…」
同日…。暴動が発生した各惑星には六個師団の大規模宇宙艦隊が派遣され艦隊の主力艦であるセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が各惑星の大気圏から地上を目標に光子魚雷を発射したのである。一発の光子魚雷により大都市諸共数千万人の住民達が死滅…。一度の鎮圧作戦で敵味方の合計死者数は推計十二億人を上回ったのである。同時刻…。タイラントキラーの本拠地であり自治領である母星『エデンプラネット』議会場では大銀河帝国軍による暴動鎮圧の情報が急報されたのである。総帥ウィグノールの右腕とも命名される【ウィンフィールド】がソワソワした様子で議会場へと入室する。
「ウィグノール総帥!緊急事態です!」
「ウィンフィールド大佐か…一体何事だ?」
ウィンフィールドとは若齢の職業軍人であり年齢は二十二歳の青年であるが階級は大佐…。非常に優秀でありタイラントキラーではウィグノールが唯一信頼する最高の部下である。
「大銀河帝国軍が自国内で発生した暴動を鎮圧したみたいですが…彼等の鎮圧作戦によってデモ隊のみならず…推計十二億人以上の非戦闘員が虐殺されたとの情報です…」
ウィンフィールドが最高指導者のウィグノールに伝達する。
「なっ!?虐殺だと!?奴等…デモ隊だけではなく自国内の国民をも殺害したのか?」
「残念ですが…本当みたいです…」
「大銀河帝国…ブラッドフォードは悪魔にでも憑依されたのか…」
ウィグノールは人一倍大銀河帝国のブラッドフォードを毛嫌いするのだが…。今回のデモ隊虐殺事件から今迄以上にブラッドフォードに対する嫌悪感が増大化したのである。
「最早大銀河帝国のブラッドフォードは野放しには出来ない…」
ウィグノールは一瞬沈黙するなり…。
「即刻宇宙大艦隊を準備させろ!タイラントキラーの宇宙艦隊を再編制させ…大銀河帝国本土…ユートピアサイドに宇宙艦隊を派遣…奇襲作戦を実行する…」
ウィグノールのユートピアサイド奇襲攻撃の発言にウィンフィールドは驚愕する。
「えっ!?総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて本気ですか!?」
「私は当然…本気だ!」
「ですが総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて実質自爆攻撃と一緒ですよ!エデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星『メティス基地』と人工惑星『プルトロン基地』を突破しなければ不可能です…」
現実問題…。タイラントキラーの本拠地であり自治領であるエデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破しなければ大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドへは到達出来ない。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地には合計十二万隻から十四万隻もの宇宙艦艇が配備され両陣営とも攻略するのは困難である。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破したとしてもユートピアサイドには二十万隻もの宇宙大艦隊は勿論…。両サイドの基地には新型巨大防衛兵器の存在が確認され簡単には攻略出来ない。奇襲作戦を実行すれば大多数の宇宙防衛艦隊からの猛反撃も予想され最悪味方艦隊全滅の可能性も否定出来ない。
「タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争でも相当の損害ですし…こんな作戦は将兵達も国民も支持しないでしょう…最悪の場合報復攻撃でエデンプラネットの滅亡も予想されましょう…」
実際タイラントキラーの宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争の陽動作戦で辛勝するものの大多数の大型艦が撃沈…。大破したのである。タイラントキラーも宇宙艦隊の再建に着手するのだが…。資源不足により手一杯の状態だったのである。こんな状態で奇襲作戦を強行すれば奇襲艦隊の全滅は確実であり最悪エデンプラネットの滅亡も否定出来ない。
「三日前の第二十四次宇宙星間戦争だけでタイラントキラーは二万隻以上の宇宙艦艇と四十万人以上の将兵達が戦死したのです…今現在は宇宙艦隊の再建と宇宙航空戦力の再強化に尽力するべきかと…」
直後…。会議室のホログラムがピコピコッと反応したのである。
「ん?ホログラム?」
ホログラムを作動させると通信兵の立体映像が出現する。
「ん?通信兵か?」
「ウィグノール総帥!大変です!緊急事態です!」
「緊急事態だと?今度は何事だ?」
「味方の宇宙偵察機が所属不明の宇宙艦隊を発見…小惑星『トレジャーホール』に接近中との情報です…」
小惑星トレジャーホールとはタイラントキラーが統治する小惑星でありタイラントキラーにとって資源採掘の宝庫である。
「所属不明の宇宙艦隊だと?大銀河帝国軍の奇襲部隊か?」
「現段階では不明ですが…恐らくは…」
ウィグノールは再度問い掛ける。
「宇宙艦隊の規模は?」
「宇宙偵察機の情報では…宇宙巡洋艦クラスの大型艦一隻と…二十隻の宇宙駆逐艦クラスの小型艦です…」
「極小規模の小艦隊だな…」
「ウィグノール総帥…如何されますか?」
ウィグノールは一息するなり…。
「小惑星トレジャーホールに宇宙警備艦隊の宇宙戦闘母艦一隻を派遣させ…所属不明の宇宙小艦隊を駆逐せよ…」
「承知しました…」
宇宙警備艦隊は主力のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦一隻で出撃したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はワープ機能を作動させると本拠地のエデンプラネットから推定百四十光年に位置する小惑星…。トレジャーホールの存在する宙域へと到達したのである。タイラントキラーの宇宙警備艦隊は所属不明の宇宙小艦隊と遭遇するのだが…。所属不明の宇宙小艦隊は交戦の意思が皆無であり救難信号を発信したのである。彼等は五千人以上の避難民達を乗艦…。所属不明の宇宙小艦隊の正体は大銀河帝国軍を見限り祖国である大銀河帝国から亡命した亡命艦隊だったのである。当初はエデンプラネットでも混乱するも亡命艦隊の脱走兵は捕虜として扱われ…。避難民達は無事に保護されたのである。

第三話

奇襲大作戦

宇宙新暦七百二十二年四月十六日未明…。タイラントキラー軍内部では大銀河帝国本拠地であるユートピアサイド奇襲大作戦が正式決定される。当初はウィグノールの右腕であるウィンフィールドは勿論…。数多くの首脳陣が今回のユートピアサイド奇襲大作戦には猛反対され一時は作戦内容が全面的に白紙化されたのである。作戦内容が白紙化された数日後…。状況は一変する。大銀河帝国国内では大総統のブラッドフォードによる圧政に猛反発した大勢の将兵達やら国民達のデモ隊活動によりブラッドフォード政権は失脚寸前だったのである。大銀河帝国国内の大混乱から作戦を実行するチャンスであると確信したウィグノールは再度右腕のウィンフィールドとタイラントキラー首脳陣に説得…。最終的に作戦開始の三日前に大銀河帝国軍総本部ユートピアサイド奇襲大作戦は総帥ウィグノールの説得により正式決定されたのである。四月十八日十六時五十分…。タイラントキラー宇宙艦隊は七十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦を主力に機動突撃艦隊を新編成したのである。機動突撃艦隊は宇宙空母と宇宙航空戦力を中心とした宇宙大艦隊であり宇宙型大艦巨砲主義の大銀河帝国軍には存在しない。宇宙艦艇の総数は合計六万隻以上でありタイラントキラーにとっては最大の戦力だったのである。今回のユートピアサイド奇襲大作戦では主力の大型宇宙空母を護衛する新型宇宙巡洋艦の『シーサーペント』が二万隻以上投入される。シーサーペント級宇宙巡洋艦はスーパーレーダーによるレーダー射撃により主砲の命中精度のみなら大銀河帝国軍主力宇宙戦艦のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にも匹敵する。旗艦レヴィアタンより総司令官であるウィグノールが通信機で全軍に伝播…。
「全軍!ワープ機能を作動させろ!目標地点は大銀河帝国軍本拠地…ユートピアサイド!」
タイラントキラーの宇宙艦艇は大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドを攻略目標にワープ機能を作動させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではステルス機能すら無効化する新型の改良型スーパーレーダーが設置されタイラントキラーの動向を察知したのである。
「大総統!タイラントキラーの主力宇宙艦隊が行動を開始しました!彼等は本拠地であるユートピアサイドに接近中です…」
通信兵の報告に大総統ブラッドフォードは承諾する。
「奴等…行動を開始したな…」
ブラッドフォードは基地内の総司令部に設置されたホログラムにてタイラントキラーの宇宙艦隊の動向を確認したのである。五日前にタイラントキラーの本拠地であるエデンプラネットに諜報部隊を派遣…。タイラントキラーの情報をキャッチするのに成功したのである。副総統のストライダーが恐る恐る…。
「大総統?ユートピアサイドに援軍を派遣しますか?」
「援軍は不要だ…」
問い掛けたストライダーであるがブラッドフォードは援軍の派遣は不要であると返答したのである。
「援軍は不要ですと?」
「最早大銀河帝国軍にとってユートピアサイドの戦略的価値は皆無だ…ユートピアサイドへは援軍は派遣しない…」
「であればユートピアサイドは如何されるのですか?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「新型戦略兵器『ツァーリーボンバ』で敵味方諸共…ユートピアサイドを殲滅する…」
「なっ!?戦略兵器であるツァーリーボンバで…大銀河帝国軍本拠地のユートピアサイドを殲滅するのですか!?」
ツァーリーボンバとは大銀河帝国軍が新開発した新型戦略兵器であり正式名は超大型戦略貫通ミサイルである。全長は七百メートルサイズ…。規格外の超巨大試作型誘導弾であり破壊力は未知数である。
「大総統は正気ですか!?ユートピアサイドには大勢の味方の地上部隊と民間人が居住する人口密集地ですし…何よりもユートピアサイドは大銀河帝国軍の本拠地なのですよ!?」
大銀河帝国軍の総本部であるユートピアサイドには総勢七十万人もの地上部隊が配備され…。推計七十億人以上の非戦闘員が居住する。
「敵軍を殲滅するには味方の犠牲は必要不可欠だ…」
(今現在ユートピアサイドの地上部隊は実質不要だからな…奴等にはツァーリーボンバの実験台として利用するのが適任だ…)
ユートピアサイドに配置された味方の地上部隊はブラッドフォードにとって不要と判断した部隊であり実質消耗品だったのである。
「即刻改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦に新型戦略兵器ツァーリーボンバを搭載させ…出撃させろ…」
「はっ!承知しました!」
ツァーリーボンバは宇宙戦艦クラスの大サイズであり実質改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にしか搭載出来ない。準備は五分で終了する。通信兵が再度司令室へと入室したのである。
「改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦にツァーリーボンバを搭載準備…完了しました…」
「上出来だ…」
ブラッドフォードはスマートウォッチで時間帯を確認する。
「出撃は五分後だ…」
「承知しました…」
五分が経過したと同時に…。ツァーリーボンバを搭載した改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦が出撃したのである。人工惑星プルトロン基地から改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦が出撃した同時刻…。タイラントキラーのユートピアサイド攻略宇宙艦隊が大銀河帝国軍本拠地ユートピアサイドの大気圏上空へと到達したのである。ユートピアサイド地上部隊は総司令部に設置されたスペースレーダーにてタイラントキラー宇宙艦隊の動向をキャッチする。
「大気圏上空よりタイラントキラーの宇宙艦隊です!」
「奇襲作戦か…」
タイラントキラー宇宙艦隊の突然の出現に地上部隊は動揺したのである。
「奴等…ワープ機能でプルトロン基地とメティス基地を突破したのか…」
「総数六万隻の大艦隊です…地上部隊だけで守備するのは不可能でしょう…」
現実問題地上部隊のみではタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するのは不可能…。味方の宇宙艦隊は各惑星のデモ隊鎮圧任務に投入され援軍からの援護は絶望的である。
「兎にも角にもタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するぞ!」
地上部隊の滑走路からは三百機前後の旧型宇宙戦闘機スペースバードが飛来…。地上軍は宇宙戦艦をも一発で撃沈出来る高エネルギー主砲搭載型砲撃列車と旧型戦闘装甲車が対空戦闘を開始したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦の宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは総司令官のウィグノールがホログラムにて地上の様子を観察する。
「ユートピアサイドの地上軍は攻撃を開始したか…」
ウィグノールは一息したのである。
「民間人への被害は最小限に努力しろ…」
数秒後…。
「全軍攻撃開始!敵部隊を排除せよ!」
タイラントキラーの攻撃開始と同時に七十隻のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦飛行甲板より数百機ものスペースドローンが飛来したのである。ユートピアサイド都市部大気圏上空では有人機と無人機の空戦が展開される。大銀河帝国軍地上軍のスペースバード航空隊は必死に反撃するのだが…。相手は新型の無人機であり旧型の有人型宇宙戦闘機であるスペースバードでは撃墜するのは困難である。一分間の戦闘で百八十機ものスペースバードが撃墜される。スペースバードの防衛網を突破した無数のスペースドローンは都市部直上へと突入…。地上部隊の基地と周辺区域を攻撃したのである。地上部隊は砲撃列車と戦闘装甲車は勿論…。基地周辺に設置された固定砲台で上空のスペースドローンを迎撃するも地上では超音速で飛来するスペースドローンを撃墜するのは困難である。反対にスペースドローンの宇宙戦闘用多目的ミサイル…。小型光子魚雷による爆撃で地上部隊の地上兵器が破壊されたのである。同時刻…。宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは副艦長のウィンフィールドが艦内のホログラム立体映像で地上の様子を再度直視する。
「味方部隊の優勢ですね…今現在自軍の損害は皆無です!」
タイラントキラーの優勢に大喜びするウィンフィールドであるが…。
「非常に奇妙だな…」
「奇妙ですと?」
奇妙であると発言するウィグノールにウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「何が奇妙なのですか?」
「敵軍の地上部隊は旧型の兵器ばかり…戦争博物館だな…」
ユートピアサイドは大銀河帝国軍にとって最重要拠点であるのだが…。投入された地上軍の兵器は旧型の前時代的代物ばかりでありウィグノールは胸騒ぎを感じる。
「最重要拠点の防衛戦としては抵抗が軽微に感じられる…」
戦闘開始から五分が経過するとユートピアサイドの地上部隊の戦力は八割が壊滅状態であり最早組織的抵抗は不可能の状態だったのである。タイラントキラーの将兵達は勝利を確信するのだが…。ウィグノールとウィンフィールドは表情が険悪化したのである。すると一人の将兵が彼等に問い掛ける。
「艦長達…一体如何されたのですか!?タイラントキラーの勝利は目前ですよ!今日より銀河系全体の民主主義が実現するのです!」
するとウィグノールは恐る恐る…。
「ひょっとすると敵軍のトラップかも知れないな…」
「えっ!?敵軍のトラップですと?」
直前である。艦内のスペースレーダーが正体不明の移動物体に反応…。艦内全体にサイレンが響き渡る。
「ん?何事だ…」
ホログラム立体映像を再作動させると規格外の超大型ミサイルを搭載したセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が映写される。
「此奴は…大銀河帝国軍の…援軍でしょうか?」
「セイバードラゴン級大型宇宙戦艦だな…改良型か…」
「ですが船底に大型戦艦クラスの超大型ミサイルらしき巨大物体が確認出来ます…巨大物体は超大型ミサイルなのでしょうか?」
ウィグノールは勿論…。周囲の乗組員達がセイバードラゴン級宇宙戦艦に搭載された超大型ミサイルに身震いしたのである。するとウィグノールは恐る恐る…。
「ウィンフィールド…」
「如何されましたか?ウィグノール総帥…」
普段は冷静であるウィグノールであるが不吉の予感を察知したのか今回は異常にビクビクしたのである。
(ウィグノール総帥が畏怖されるなんて…)
ウィンフィールドはウィグノールの様子に一大事であると察知する。
「不本意であるが…全軍を撤退させろ…」
ウィグノールの判断にウィンフィールドを除外する周囲の将兵達が猛反発したのである。
「えっ!?今更撤退ですと!?」
「敵艦は一隻だけです!即刻迎撃して…」
「下手に攻撃すると面倒だ…モニターの此奴は予想以上に危険かも知れない…」
ウィグノールは即座にワープ機能作動を全軍に伝播させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではブラッドフォードが基地内から無人の改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦を遠隔操作したのである。
(コンピュータゲームみたいだな…)
ストライダーは遠隔操作により航行する改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦をコンピュータゲームであると感じる。ブラッドフォードはモニターでユートピアサイドの大気圏上空を浮遊するタイラントキラーの宇宙艦隊を確認したのである。
「敵軍は大気圏上空に展開中だな…」
一息するなり…。
「攻撃目標…ユートピアサイド…超大型戦略貫通ミサイル…ツァーリーボンバ…発射する…」
改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦からツァーリーボンバが発射される。発射された同時刻…。ユートピアサイド大気圏上空にて展開中のタイラントキラー宇宙艦隊の各艦のスーパーレーダーにはツァーリーボンバが確認される。
「艦長!敵艦から規格外の超大型ミサイルが発射されました!」
ウィグノールはモニターの超大型ミサイルを直視する。
(此奴は大銀河帝国軍の新型兵器か…止むを得ないか…)
不本意であるが…。
「全軍に伝達する!全艦隊…即刻撤退せよ!」
直後である。ユートピアサイドに接近中の超大型戦略貫通ミサイル…。ツァーリーボンバが惑星全体にピカッと炸裂したのである。数秒後…。高熱の熱線が惑星全体を覆い包み天体諸共爆散したのである。タイラントキラーの主力宇宙艦隊はワープ機能の作動により撤退に成功したものの…。最前線の艦隊はツァーリーボンバの大爆発によってユートピアサイド諸共消滅したのである。
「はぁ…はぁ…ウィグノール総帥…無事に撤退出来ましたね…」
「主力の宇宙艦隊は無事だが…」
先程の自爆攻撃でタイラントキラーは推計三百四十八隻の宇宙戦艦…。六百八十九隻の宇宙巡洋艦と五千二百三十一隻の小型艦艇を喪失したのである。推計三十万人もの将兵を喪失する。一方の大銀河帝国軍は自身の自爆攻撃によって推計五百万人の兵員…。推計七十億人もの住民がツァーリーボンバで死滅したのである。タイラントキラーにとって今回の作戦失敗は甚大であり総帥のウィグノールは大勢の将兵達からは勿論…。民間からも作戦失敗の責任を追及され彼自身の妻子も戦争犯罪者として迫害されたのである。ウィグノールは作戦の失敗を契機に宇宙新暦七百二十二年四月二十一日…。自宅の寝室にて妻子と一緒に一家心中したのである。

第四話

新型宇宙戦艦

ユートピアサイド軍事工場で計画中であった新型宇宙戦艦は急遽人工惑星プルトロン基地で建造される。宇宙新暦七百二十二年四月二十四日早朝…。大総統のブラッドフォードはプルトロン基地の軍港へと来場する。
「如何やら新型宇宙戦艦が完成したみたいだな…」
軍港には全長四百メートルサイズ…。全幅二百二十メートルサイズの新型宇宙戦艦が確認出来る。すると背後より…。
「大総統♪こんな場所で一体何を?」
「ストライダーか…暇潰しに新型兵器を見物しただけだ…」
「新型兵器の見物ですか♪」
副総統のストライダーも新型宇宙戦艦を直視する。
「此奴はセイバードラゴン級宇宙戦艦の後継艦…キングタイタンですよ♪」
「キングタイタンだと?即刻改名しろ…」
艦名が気に入らなかったのか後継艦の改名を要求したのである。
「えっ?改名って…」
ストライダーは困惑したのである。
「であれば私が名付ける…此奴の艦名は『アプセラス』だ…」
「えっ…アプセラスって…」
ストライダーはハッとする。
「アプセラスとは…大総統の令夫人の名前では…」
「勿論…彼女の名前だ…」
アプセラスとは二年前の四月に大病で死去したブラッドフォードの令夫人の名前でありブラッドフォードの唯一の理解者である。
「大総統が希望するのであれば…」
新型宇宙戦艦の艦名はアプセラスと改名される。
「此奴の性能は?」
アプセラスは全長四百メートルサイズで全幅は二百四十メートルサイズ…。全備総重量は七十万トンの巨大宇宙戦艦である。全長が八百メートルサイズのセイバードラゴン級宇宙戦艦の二分の一のサイズであるが…。戦闘能力は段違いであり砲撃に特化された完全攻撃型宇宙戦艦である。兵装は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が二基…。対空兵装では五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八基搭載される。実弾兵器は光子魚雷発射機が二基…。宇宙戦闘用多目的ミサイル発射機が十二基配置される。本艦にとって最大の兵装であり最強の主砲…。超大型戦略高エネルギー兵器『ケラウノス』は無限の電力を内包するスパークストーンが使用され一撃で大惑星を消滅させる。動力炉はスーパーリアクターの改良型である新型無限動力炉『ハイパーリアクター』が搭載される。艦載機は無人機が四機…。乗組員は一人から三人程度で運用出来る。正式名は上級大将専用宇宙戦艦であり居住設備も豪華客船に匹敵する。本艦を一隻建造するだけでセイバードラゴン級宇宙戦艦二百隻の予算が使用…。政府首脳陣専用の宇宙戦艦であり実質ブラッドフォードのみが乗艦出来る。
「本艦の装甲は『エターナルメタル』ですからね…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは資源採掘惑星レアメタルスターで採掘された不朽性であり未知の鉄鉱石である。非常に軽量であるが…。硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスは非常に安価ですからね♪」
「であれば好都合だ…」

第五話

制圧作戦

三日後の四月二十七日早朝…。人工惑星プルトロン基地から三万隻もの宇宙大艦隊が出撃を開始する。旗艦は新型宇宙戦艦アプセラスであり大銀河帝国軍総司令官のブラッドフォードが乗艦したのである。
「全軍に伝達する!今回は小惑星トレジャーホールを確保…タイラントキラーの防衛宇宙艦隊を殲滅せよ!」
今回の作戦では新型宇宙巡洋艦バジリスクが推計二千隻…。六千隻もの新型宇宙駆逐艦『アスピドケロン』が投入され艦載機は新型戦闘用ドローン兵器『セイバードローン』が投入される。将兵の大半がクローン人間のホムンクルスであり人間の将兵は少数である。一新された大銀河帝国宇宙艦隊はタイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインである小惑星トレジャーホールを目標に全速前進…。各艦艇はワープ機能で小惑星トレジャーホールの宙域へと到達する。
「トレジャーホールの宙域に無事到達出来たな…」
旗艦アプセラスを先頭に…。背後からは三万隻もの宇宙艦艇がワープ機能で到達したのである。するとブリッジのホムンクルス将兵が発言する。
「味方の宇宙艦隊が到達したみたいですね…」
「トレジャーホールを攻略…奴等の最終防衛ラインを陥落させ…徹底的に奴等を絶望させるぞ…」
タイラントキラーの保有する惑星は実質母星であるエデンプラネットと最終防衛拠点のトレジャーホールのみである。
(タイラントキラーの資源宝庫であるトレジャーホールを陥落させれば…実質大銀河帝国の大勝利だ…)
タイラントキラーはユートピアサイド攻略作戦の失敗で戦力が低下…。最高指導者である総帥ウィグノールの自殺により以前より士気も戦争遂行能力も低下した状態だったのである。タイラントキラーは国民主権の勢力であり大勢の民間人が安住するエデンプラネットでの本土決戦は回避…。投降するのではと思考したのである。
「艦長!敵部隊の防衛宇宙艦隊を発見しました!」
艦内のスペースレーダーがトレジャーホールの防衛宇宙艦隊をキャッチする。
「敵部隊の宇宙艦艇の総数は?」
「推計一万五千隻です…」
「一万五千隻か…」
(敵軍の規模は一個艦隊程度だな…)
敵軍の規模から片手間であると感じるものの…。
「全軍…全速前進だ!戦闘艦艇は敵艦に砲撃を開始せよ!」
防衛艦隊との射程距離は推定十七光年と近距離であり各艦は高エネルギー砲塔から高エネルギーの光弾を射出…。数十万発もの発光体が各艦の砲塔から発射される。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の猛攻により数百隻もの宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇が轟沈したのである。宇宙巡洋艦クラスの大型艦は超大型エネルギーエネルギーシールド装置の設置により高エネルギー兵器を無力化…。ノーダメージだったのである。
「大総統…高エネルギー兵器が無力化されました…」
「エネルギーエネルギーシールド装置だな…であれば光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルの実弾攻撃で対応せよ…」
各艦は無数の光子魚雷…。宇宙戦闘用多目的ミサイルを発射する。大銀河帝国軍の実弾兵器はエネルギーエネルギーシールドジャミング装置が搭載され…。エネルギーエネルギーシールド装置を無力化させ大型艦に攻撃したのである。実弾兵器の猛攻で二百隻以上の宇宙巡洋艦クラスは勿論…。宇宙戦艦クラスの大型艦を撃沈する。
「大総統…大銀河帝国軍の優勢です!」
部下の報告にブラッドフォードは一安心するものの…。
「油断大敵だ…巨大宇宙空母『スレイプニル』から新型ドローン部隊を出撃させろ!」
今回の作戦では宇宙用の新型宇宙巨大空母スレイプニルが一隻投入されたのである。艦名はスレイプニルと命名され…。正式名は宇宙要塞母艦スレイプニルである。スレイプニル級宇宙空母はプルトロン軍事工場で建造されたドローン搭載型母艦であり十八隻が建造される。全長は九百九十メートルであり全長八百メートルクラスのセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。艦体の総重量は九百五十万トンと桁外れであり超光速の速力を発揮出来る。宇宙戦艦アプセラスと同様に動力炉はハイパーリアクターが使用され…。航続距離は実質無限光年である。規格外の巨大さのスレイプニル級宇宙空母であるが…。乗組員は一人から三人体制であり少人数での運用が可能である。推計五万人から八万人もの輸送要員を乗艦させられる。艦載機は無人兵器のドローン兵器が四百機搭載される。兵装は旗艦アプセラスと同様に主砲の超大型戦略高エネルギー兵器ケラウノスが艦首に設置…。副砲は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が六基と対空兵装は五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八十基搭載されたのである。実弾兵器は光子魚雷発射機が十二基と宇宙戦闘用多目的ミサイル発射機が三十基搭載され…。実質従来型の宇宙戦艦をも上回る戦闘空母である。補助兵装ではアプセラス同様…。ステルス機能と館内には娯楽施設が設置されたのである。スレイプニルの宇宙用甲板からは三百機ものセイバードローンが出撃…。ワーム機能を作動させ超光速で敵軍艦隊の射程圏内へと突入したのである。タイラントキラーのレヴィアタン級宇宙戦闘母艦もドローン兵器スペースドローンを発進させる。ドローン兵器同士による空戦が開始されるが…。セイバードローンは鹵獲したスペースドローンをベースに開発された機体でありスペースドローンは圧倒される。一分間の空戦で二百機以上のスペースドローンが撃墜されたのである。
「圧倒的だな…」
ブラッドフォードはアプセラスの艦内ホログラムからドローン部隊による空戦の様子を直視する。
「セイバードローンは予想以上の戦果ですね…」
「所詮無人機だが…意外とドローン兵器も役立つな…」
今現在セイバードローンの損害は皆無であり敵機はバタバタと撃墜され…。タイラントキラーのドローン部隊は壊滅したのである。
「タイラントキラーのドローン部隊は壊滅した…戦闘中のドローン部隊には後方の敵軍宇宙艦隊への攻撃を続行させろ…」
「承知しました…」
セイバードローンは後方のタイラントキラー宇宙艦隊に攻撃を仕掛ける。セイバードローンは光子魚雷やら宇宙戦闘用多目的ミサイルで敵艦に攻撃したのである。ドローン部隊の攻撃で小型艦艇は勿論…。十数隻もの大型艦が撃沈されたのである。当然としてタイラントキラーの宇宙艦隊も迎撃するのだが…。セイバードローンにはエネルギーエネルギーシールド装置により対空パルスレーザー機関砲は無力化され光子魚雷やら宇宙戦闘用多目的ミサイルは機体に搭載された対空パルスレーザー機関砲により迎撃される。
「ドローン部隊がタイラントキラー宇宙艦隊を圧倒しました…」
「であれば即刻タイラントキラー宇宙艦隊に接近…総攻撃を仕掛ける!」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊はワープ機能を再作動…。トレジャーホールが肉眼でも視認出来る距離へと到達する。
「到達したな…」
トレジャーホール防衛艦隊との距離は七百キロメートルと至近距離である。
「ドローン部隊の攻撃で敵軍宇宙艦隊は大分疲弊した様子ですね…」
「全軍総攻撃を開始せよ…敵部隊を壊滅させろ…」
ブラッドフォードは総攻撃を指示…。全軍による総攻撃が開始されたのである。主力艦隊による艦砲射撃と実弾攻撃でトレジャーホール防衛艦隊の多数の宇宙艦艇が大破…。撃沈されたのである。戦闘不能と判断したのか残存艦隊は撤退を開始…。トレジャーホールは無人化したのである。
「敵軍艦隊は撤退を開始しました…トレジャーホールを制圧しましょう…」
大銀河帝国軍主力宇宙艦隊は無事トレジャーホールを制圧…。今回の制圧作戦で大銀河帝国軍の圧倒的大勝利に終結する。今回の戦闘でタイラントキラーは五十四隻のサラマンダー級大型宇宙戦艦と四十七隻のレヴィアタン級大型宇宙空母を喪失…。百八十三隻の旧型宇宙戦艦と八十二隻の旧型宇宙空母を喪失する。中型艦では二百十二隻のシーサーペント級宇宙巡洋艦が撃沈され…。四百五十六隻の旧型宇宙巡洋艦が撃沈されたのである。小型艦艇では二千七百六十八隻の宇宙駆逐艦と三千四百八十五隻の宇宙警備艇が撃沈され…。艦載機では三百六十六機のスペースドローンが撃墜されたのである。二十六隻の宇宙戦艦と十七隻の宇宙空母が大破…。百七十六隻の宇宙巡洋艦と五千八百七十四隻の小型艦艇が大破したのである。艦載機では二百四十八機のスペースドローンが損傷する。人的損害では推計五十三万人もの将兵が死傷したのである。一方の大銀河帝国軍は十二隻の宇宙戦艦と三十七隻の旧型宇宙巡洋艦を喪失…。六隻の宇宙戦艦と四十八隻の宇宙巡洋艦が大破したのである。十三機の戦闘用ドローンが損傷…。人的損害では九百二十六人の将兵が死傷したのである。各兵器を一新させた大銀河帝国軍であるが…。予想以上の損害の軽微に驚愕したのである。

第六話

殲滅作戦

タイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインであるトレジャーホールを無事制圧した大銀河帝国軍はトレジャーホールで放置された三十四隻の大型宇宙戦艦と十八隻の新型宇宙空母…。二十七隻の新型宇宙巡洋艦と艦載機のスペースドローン七十八機を鹵獲したのである。トレジャーホール制圧作戦から六日後の五月三日…。大総統のブラッドフォードは小惑星メティス基地で副総統のストライダーと再会する。
「大総統♪見事でしたな♪トレジャーホール制圧作戦は大銀河帝国軍の圧勝でしたね♪」
トレジャーホール制圧作戦の圧倒的勝利にストライダーは大喜びしたのである。
「当然の結果だ…ストライダーよ…総司令官であるウィグノールが自害した今現在のタイラントキラーは単なる烏合の衆…」
「資源宝庫のトレジャーホールが制圧されたのでは…タイラントキラーは投降する以外に選択肢は皆無ですからね♪」
最早戦力をズタズタに破壊されたタイラントキラーは誰しもが投降するものと思考するのだが…。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で司令室に入室する。
「何事だ?」
通信兵は恐る恐る…。
「ウィンフィールドと名乗る人物がタイラントキラーの新指導者に任命され…各惑星に戦闘継続を伝播させました…」
「なっ!?戦闘継続だと!?」
ストライダーは驚愕する。
「資源宝庫のトレジャーホールが制圧されたのに…奴等は正気か?」
するとブラッドフォードはボソッと一言…。
「この期に及んで奴等は余程死にたいらしいな…」
「大総統…如何されましょうか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「奴等が戦闘続行を決断するのであれば…此方も戦闘を続行…今度こそ奴等を徹底的に殲滅するだけだ…」
ブラッドフォードはストライダーを凝視するなり…。
「今度は大銀河帝国軍全軍で奴等の本拠地…エデンプラネットを攻略する…今度の作戦ではストライダー…貴様も参加しろ…」
「勿論ですとも…大総統…」
ストライダーは即答したのである。
「であれば即刻作戦を実行するか…大至急全軍に伝播させろ…エデンプラネット殲滅作戦を…」
「はっ!承知しました!」
通信兵は即座に各惑星の国軍宇宙艦隊に伝播させる。翌朝の五月四日…。各惑星の国軍宇宙艦隊が再集結したのである。今回の作戦では合計十九万隻の艦隊規模であり第四字宇宙星間戦争を上回る。
「全軍が集結したな…」
ブラッドフォードは旗艦のアプセラスに乗艦…。副総統のストライダーは改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦に乗艦したのである。ブラッドフォードは各艦に伝播…。
「全軍に伝播する…終戦は目前である!今回の作戦はタイラントキラー本拠地エデンプラネット!タイラントキラーの残存勢力を徹底的に殲滅する!諸君等の奮闘を期待する…」
ブラッドフォードの演説に将兵達の士気が向上したのである。するとストライダーはホログラムで返信する。
「大総統…先程の演説で将兵達の士気が向上しました♪精一杯奮闘しましょう♪」
「当然だ…ストライダー…」
直後…。
「各艦…ワープ機能を作動せよ…」
旗艦アプセラスを先頭に各艦はワープ機能を作動させる。一秒後…。合計十九万隻もの宇宙大艦隊がタイラントキラー本拠地エデンプラネットの宙域へと到達したのである。
「エデンプラネットの宙域に到達しました…味方艦隊とエデンプラネットの距離は一光年です…」
旗艦アプセラス艦内のスペースレーダーが反応する。
「大総統…スペースレーダーが反応しました…」
「タイラントキラーの宇宙艦隊か?宇宙艦艇の総数は?」
「宇宙艦艇の総数は推計二万五千隻です…」
特殊無線技士のホムンクルス将兵が即答したのである。
「二万五千隻か…タイラントキラーの残存勢力にとっては最大戦力だな…」
度重なる敗北によりタイラントキラーの宇宙艦隊は二万五千隻に激減…。本拠地を防衛するのが手一杯だったのである。
「ですがこんな瀕死の状態で抵抗するなんて…奴等は正気ですか?」
ホムンクルス将兵の発言にブラッドフォードは即答する。
「所詮馬鹿の一つ覚えだな…超古代文明のとある地上の大帝国に酷似する…最早戦力の激減したタイラントキラーでは国民主権の大銀河共和国の再興は夢物語なのに…」
大銀河帝国が建国される以前…。銀河系には大銀河共和国と呼称される民主主義国家が存在したのである。大銀河共和国は政治の腐敗やら度重なる内戦…。最大の反政府勢力である大銀河革命軍との大銀河全面戦争により敗北…。民主制の大銀河共和国は独裁制の大銀河帝国へと再建されたのである。大銀河共和国軍に勝利した大銀河革命軍は大銀河帝国の常備軍…。大銀河帝国軍へと改編されたのである。
「所謂タイラントキラーは大銀河共和国の残党勢力だ…徹底的に殲滅せよ…」
数秒後…。
「全軍…敵軍宇宙艦隊に砲撃せよ!」
砲撃の合図と同時に大銀河帝国軍宇宙艦隊の総攻撃が開始される。同時刻…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊は旗艦である改良型サラマンダー級宇宙戦艦には次期総帥のウィンフィールドが乗艦する。
「艦長!大銀河帝国軍が総攻撃を開始しました!」
「全軍に伝達せよ!此方も応戦する!」
ウィンフィールドは応戦を指示したのである。直後…。一光年の宙域より発射された数千万発もの高エネルギーの光弾が味方宇宙艦隊に到達したのである。各艦に多数の光弾が命中するものの…。大型艦はエネルギーエネルギーシールド装置により光弾を無力化したのである。一方小型艦艇は簡単に撃沈され…。一度の総攻撃で推計三千隻もの小型艦艇が轟沈したのである。轟沈した小型艦艇は宇宙の藻屑へと変化…。数千人もの将兵が宇宙空間に吹っ飛ばされたのである。凄惨なる光景にウィンフィールドは落涙するものの…。
「彼等の犠牲を無駄にするな…即刻反撃しろ!」
タイラントキラー宇宙艦隊も反撃を開始したのである。各艦艇による高エネルギー砲塔の艦砲射撃…。実弾兵器である光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルを多数発射したのである。
「母艦部隊はドローン兵器を発進させ…敵軍艦隊に突入させろ!」
各航空母艦からはスペースドローンは勿論…。スペースドローンの後継機『ホワイトピクシー』が飛来したのである。各機体はワープ機能を作動…。数秒後には二万機以上のドローン兵器が大銀河帝国軍宇宙艦隊の宙域へと到達したのである。
「ひっ!ドローン兵器です!」
突如として出現したドローン兵器に大銀河帝国軍の将兵達は一時的に畏怖する。
「狼狽えるな…ドローン兵器を撃墜せよ…」
ブラッドフォードはドローンの迎撃を指示すると各艦艇は迎撃を開始したのである。するとブラッドフォードは気になるのかホログラム装置を作動…。スペースドローンの立体映像が映写される。
「えっ?大総統…如何されましたか?」
ブリッジのホムンクルス乗組員が彼に問い掛ける。
「恐らく此奴はタイラントキラーの新型機だな…」
ホワイトピクシーは性能的には大銀河帝国軍のセイバードローンと五分五分である。宇宙艦隊上空では互角の空中戦が展開される。
「味方のセイバードローン諸共…撃墜せよ…」
「味方の軍用機も攻撃するのですか?」
ブラッドフォードの指示にブリッジのホムンクルス乗組員が再度問い掛ける。
「所詮ドローンは自爆兵器だ…破壊されたって何機でも補充出来る…」
資源豊富の大銀河帝国軍にとってドローン兵器とは実質自爆用途の無人特攻兵器である。各機体の機体内部には宇宙戦艦クラスの大型艦をも一撃で撃沈出来る自爆装置が内蔵される。ブラッドフォードの指示に各艦艇は味方のドローン兵器諸共対空パルスレーザー機関砲は勿論…。実弾兵器の光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃したのである。無尽蔵の光弾と実弾攻撃により敵味方のドローン兵器が撃墜される。
「タイラントキラーの宇宙航空戦力が半減したな…」
大銀河帝国軍宇宙艦隊の対空攻撃によりタイラントキラーの宇宙航空戦力が低下したのである。
「再度敵軍の防衛宇宙艦隊を攻撃…タイラントキラー本拠地エデンプラネットに突入するぞ…」

第七話

反帝国主義

宇宙新暦七百二十二年五月十七日…。最終戦略兵器ケラウノスによって国民主義勢力のタイライトキラーと本拠地である小惑星エデンプラネットを消滅させた大銀河帝国軍であるが…。日に日に過激化するブラッドフォード政権に対する反対運動は新勢力の誕生を促進させたのである。二日後の五月十九日…。ブラッドフォード政権を見限った穏健派の帝国軍人ルーヴェルハルトは大銀河帝国を脱退したのである。三日後の五月二十二日に反帝国主義勢力『ホープセイバーズ』が結成…。大銀河帝国自治領の一部である小惑星『ホープエリア』を本拠地として設置される。ホープセイバーズ結成から一週間後の五月二十四日…。大銀河帝国軍を見限った一部の帝国軍人達と母星の消滅により宇宙空間を漂流するタイライトキラーの臨時政府軍宇宙艦隊が小惑星ホープエリアへと集結したのである。ホープセイバーズ創設から二週間が経過するとホープエリアの総人口は推計二十億人に増加する。銀河系の各宙域ではタイラントキラーの残存艦隊が宇宙海賊団を組織…。彼等も義勇軍としてホープセイバーズに加入される。五月二十七日…。大銀河帝国軍総本部では大総統のブラッドフォードと副総統のストライダーが対談する。
「大総統…ルーヴェルハルト少将が大銀河帝国から脱退しましたな…」
「大銀河帝国に穏健派の帝国軍人は不要だ…」
(彼奴は目障りだからな…)
ブラッドフォードにとって穏健派のルーヴェルハルトは正直目の上のたん瘤でありルーヴェルハルトの脱退は非常に好都合だったのである。
「ホープセイバーズですが…如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「当然として…大銀河帝国に敵対する勢力は徹底的に殲滅する予定だ…」
「当然の判断ですね…」
同時刻…。ホープセイバーズ本拠地ホープエリアの総本部拠点ではとある人物が訪問する。ホープセイバーズ総帥ルーヴェルハルトの専用室にて何者かがコンッとドアをノックしたのである。
「誰だ?」
すると若齢の将校が入室する。
「失礼します…」
「貴方は…」
「私はタイラントキラー将兵だった…ウィンフィールド…階級は大佐です…」
「ウィンフィールド大佐か…」
両者は敬礼したのである。するとルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「本当に悪かった…私達の暴走で貴方の故郷は…」
ルーヴェルハルトは落涙…。謝罪したのである。
「気にしないで下さい…ルーヴェルハルト総帥…」
ウィンフィールドはルーヴェルハルトを非難せず…。
「大銀河帝国にも…貴方みたいな穏健派の軍人が存在するだけで…私の心情は救済されました♪」
ウィンフィールドは笑顔で返答する。するとルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「突然で混乱するかも知れないが…今後のホープセイバーズの方針を伝達する…」
「今後の方針ですか?」
ルーヴェルハルトは一息するなり…。
「ホープエリアは大銀河帝国から独立…小規模だがホープエリアに大銀河共和国の継承国家…宇宙新共和国を建国する予定だ…」
「宇宙新共和国ですと?」
今後の方針である大銀河帝国からの独立にウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「大銀河帝国からの独立なのですが…現実的に大銀河帝国からの独立なんて可能なのですかね?相手は大銀河帝国全勢力ですよ…大銀河共和国の継承勢力であるタイラントキラーも大銀河帝国軍によって徹底的に殲滅させられたのです…恐らく簡単には…」
「困難なのは承知だ…相手はブラッドフォードだからな…一筋縄では無理だろう…」
メンテ
宇宙大動乱 ( No.99 )
日時: 2021/09/18 19:54
名前: 月影桜花姫

第一話

宇宙艦隊戦闘

太古の大昔…。宇宙新暦七百二十二年三月二十八日午前一時の出来事である。とある銀河系では複数の巨大宇宙勢力が度重なる戦乱を頻発させる。太陽系から推定八万光年の宙域では銀河系全域を統治する大規模星間軍事国家『大銀河帝国』の宇宙大艦隊…。国民主義実現を主目的に活動する大規模反政府勢力である『タイラントキラー』の宇宙大艦隊が激突したのである。大銀河帝国軍宇宙軍主力艦隊旗艦…。宇宙戦艦『セイバードラゴン』ではブリッジの乗組員がタイラントキラーの宇宙艦隊を発見する。
「艦長!本艦のスペースレーダーが推定九百光年の宙域より敵軍の宇宙艦隊に反応しました!」
セイバードラゴンは大銀河帝国軍の主力宇宙戦艦であり地上の水上艦を連想させる巨大宇宙戦艦である。長距離索敵と誘導兵器の使用は勿論…。本艦一隻のみで数千キロメートルサイズの惑星表面を一掃させられる攻撃力を保持する。艦内には一隻だけで合計九十機もの宇宙用の艦載機を搭載出来る。本艦にとっての最大の武装は主砲である高エネルギーを放出する口径八百ミリメートルの高エネルギー連装砲である。主砲の威力は高火力であり数百メートルサイズの宇宙戦艦を一撃で撃沈出来ると推測される。本艦のレーダー射撃は高水準であり主砲の命中精度は八十五パーセントとも豪語される。本艦のサイズは全長八百メートルサイズで全幅六百メートルサイズ…。総重量は推定五百万トンクラスと規格外に巨大であり現存する大銀河帝国軍宇宙主力艦隊では最大級の超大型宇宙戦艦である。動力炉は『スーパーリアクター』が搭載され燃料の補給は不要であり半永久的に航行出来る。
「敵軍の宇宙艦隊を発見したか…」
セイバードラゴンの艦長は大銀河帝国の大総統…。【ブラッドフォード】である。ブラッドフォードは年齢二十九歳の青年であるが外見的には美少年であり十代後半にも間違われる。本来であればブラッドフォードは最前線での戦闘では参加しない立場であるものの…。少年時代の従軍経験から積極的に最前線での指揮を自発的に執行する。
「味方の全艦隊に伝播せよ…敵軍の宇宙大艦隊を発見したと…」
「はっ!承知しました!」
通信兵がブラッドフォードに敬礼するなり全軍に敵軍宇宙艦隊発見の情報を通信させる。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊は大総統ブラッドフォードの乗艦する主力宇宙戦艦セイバードラゴンを先頭に推計十七万隻もの宇宙艦隊が追尾する。旗艦セイバードラゴン艦内ではブラッドフォードが再度指示したのである。
「最大船速でワープ機能を作動させろ…一瞬で敵軍宇宙艦隊の真正面に突入するぞ…」
「はっ!ワープ機能作動!」
ブリッジの乗組員がワープ機能を作動させる。すると味方の宇宙艦隊もワープ機能を作動させ最前線へと突入したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙軍艦隊は合計一万四千隻もの大規模艦隊であり旗艦は宇宙戦艦『サラマンダー』である。サラマンダーは全長七百八十メートルサイズで全幅五百四十メートルサイズ…。総重量は三百万トンもの超大型宇宙戦艦である。旧型の宇宙戦艦であるが艦載機の総数は合計百五十機前後であり艦載機の搭載機数のみなら大銀河帝国軍のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。本艦の動力炉はスーパーリアクターであり燃料は不要である。
「艦長!スペースレーダーが反応しました!」
サラマンダーに搭載されたスペースレーダーが反応する。
「正体不明の無数の移動物体が超光速で味方艦隊に接近中です!移動物体の総数は推計十七万以上…」
旗艦サラマンダーの艦長は【ウィグノール】である。階級は中将であり本来は大銀河帝国軍親衛隊の総司令官であったが…。ブラッドフォードによる独裁政治を見限り脱退する。今現在は反政府組織であるタイラントキラーを創設…。国民主権の独立宇宙民主国家建国を目標に銀河系全域を支配する大銀河帝国に宣戦布告を表明する。
「恐らくタイラントキラーの宇宙艦隊だろう…」
すると直後…。タイラントキラー宇宙艦隊から推定三百光年の宙域より数万隻もの艦影が突如として出現したのである。
「艦長!タイラントキラーの宇宙艦隊です!総数七万隻前後…大艦隊です!」
「敵軍宇宙艦隊の総数は七万隻前後か…」
今現在投入された戦力では大銀河帝国軍主力宇宙艦隊が宇宙艦艇推計十七万隻以上…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊の宇宙艦艇は推計三万四千隻程度でありタイラントキラーが圧倒的に不利である。
「直進せよ…」
ウィグノールが艦隊の直進を指示すると全艦隊が大銀河帝国軍主力宇宙艦隊に接近する。同時刻…。大銀河帝国軍主力宇宙艦隊旗艦セイバードラゴンではタイラントキラー宇宙艦隊の接近を確認する。
「艦長!タイラントキラーの宇宙大艦隊が味方の宇宙艦隊に急接近中です!如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは無表情で…。
「急接近する敵軍宇宙艦隊を排除せよ…全軍…総攻撃開始!」
最前線の大型宇宙戦闘艦隊を中心に各艦艇が砲撃を開始したのである。数秒間に数万発もの蛍光色の光線が射出され…。接近するタイラントキラー宇宙艦隊に砲撃したのである。宇宙戦艦部隊はエネルギーシールド機能によって光線を無力化するが…。宇宙駆逐艦クラスの小型艦はエネルギーシールド機能が最小限化された代物であり簡単に撃沈されたのである。一度の攻撃でタイラントキラー宇宙艦隊の二十パーセントが喪失…。多数の小型艦が損傷したのである。
「宇宙戦艦クラスの大型艦には光子魚雷…宇宙戦闘用多目的ミサイルで対応せよ…」
旗艦セイバードラゴンの艦長…。ブラッドフォードの指示と同時に最前線の宇宙戦艦部隊が光子魚雷攻撃と宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃したのである。無数の実弾兵器が超光速で接近…。タイラントキラー宇宙艦隊の大型艦に命中したのである。宇宙戦艦クラスの大型艦十数隻が轟沈…。数十隻の大型艦を大破される。エネルギーシールド機能を搭載する大型の敵艦を撃沈させるのに効果的だったのは光子魚雷である。光子魚雷とは超光速で発射させる宇宙用の魚雷であり破壊力は三千キロメートルクラスの小惑星を一撃で破壊させられる代物である。光子魚雷一発でも重厚装甲の大型宇宙戦艦は数十隻撃沈…。数百隻もの大型宇宙戦艦が大破したのである。爆沈する宇宙艦艇より多数の乗組員達が宇宙空間へと吹っ飛ばされる。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーにも宇宙戦闘用多目的ミサイルが命中…。艦首が大破したのである。
「艦首が被弾しました!」
「本艦への被害状況は?」
ウィグノールは乗組員に問い掛ける。
「艦首は大破です…」
「艦首だけか…大破したのが艦首のみであれば戦況には問題無さそうだな…」
ブリッジの乗組員が恐る恐る…。
「ですが奴等の宇宙戦闘用多目的ミサイルと光子魚雷は味方艦艇のエネルギーシールドを透過しました…一体奴等は実弾兵器に何を細工したのでしょうか?」
長期間の宇宙航行を想定した宇宙用の艦船には宇宙デブリやら小惑星の衝突を無力化するエネルギーシールド機能が搭載されるのが基本である。
「恐らく奴等の実弾兵器にはエネルギーシールドジャミング装置を搭載させたのであろうな…」
エネルギーシールドジャミング装置とは大銀河帝国軍が最新式の科学技術を駆使して開発した特殊装置…。大型艦に搭載されたエネルギーシールド機能を妨害させ高確率で実弾兵器を目標に直撃させられる。光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルによるアウトレンジ戦法によってタイラントキラーのサラマンダー級大型宇宙戦艦五十二隻が撃沈され…。三百四十八隻の大型宇宙戦艦が大破したのである。大型宇宙戦艦以外の小型艦艇は数百隻が轟沈…。数千隻が大破したのである。旗艦サラマンダーでは大銀河帝国軍の猛攻撃に畏怖したブリッジの乗組員が撤退を要請する。
「ウィグノール艦長!即刻艦隊を撤退させましょう!敵軍の総攻撃で多数の味方艦艇が撃沈されました…戦闘を継続すれば全滅しますよ!」
するとウィグノールが無表情で…。
「狼狽えるな…」
戦局は圧倒的にタイラントキラーが不利であるがウィグノールは平常心であり周囲の乗組員達は不思議がる。
(こんなにも劣勢なのに冷静なんて…)
同時刻…。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊旗艦であるセイバードラゴンの艦内では乗組員達が爆散する敵艦の光景を眺望する。
「大総統♪大銀河帝国軍の優勢です!」
「大銀河帝国軍の圧勝は確実だな♪」
「所詮タイラントキラーなんて一部のカルト集団だ…大銀河帝国軍が本領を発揮すれば簡単に殲滅出来るさ♪」
するとブラッドフォードは小声で発言する。
「奴等の希望する愚衆政治国家実現なんて…所詮は夢物語だな…」
大銀河帝国軍ではタイラントキラーは少人数のカルト集団…。単なるテロリスト集団程度の存在であると認識される。誰しもが大銀河帝国軍の圧勝を確実視するのだが…。大総統であるブラッドフォードだけは表情が険悪化する。一人の乗組員が恐る恐る…。
「大総統…如何されましたか?」
するとブラッドフォードが苛立った表情で返答する。
「前方の敵軍宇宙艦隊は陽動艦隊だろう…此奴は恐らく陽動作戦だ…」
「陽動作戦ですと?」
ブラッドフォードが陽動作戦の可能性を指摘した直後…。スペースレーダーが反応したのである。
「スペースレーダーが反応しました!」
「スペースレーダーが反応したって!?一体何事だ!?」
周囲の乗組員達は突如として反応したスペースレーダーに動揺する。
「味方宇宙艦隊後方より無数の移動物体が確認されました!サイズは小型の機影でしょうか…」
「小型の機影だと?」
小型の機影の一言にブラッドフォードが反応したのである。
「恐らく機影の正体は宇宙戦闘機かと…総数は推計三十万機…敵機部隊との距離は推計七百光年です…」
「総数三十万機か…全軍に対空戦闘を通信させろ…」
「はっ!承知しました!」
通信兵が全軍に対空戦闘用意を通信させる。タイラントキラーの宇宙航空機部隊がワープ機能を使用…。一秒間で大銀河帝国軍宇宙主力艦隊上空へとワープしたのである。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊各艦艇のスペースレーダーが再度反応する。
「スペースレーダーが反応しました!味方宇宙艦隊の上空より無数の敵機です!」
「敵機部隊はワープ機能で到達したか…」
ブラッドフォードは一瞬沈黙するものの…。
「上空の敵機を撃墜…宇宙迎撃機を出撃させろ…」
「承知しました…」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の各艦艇は宇宙用の対空砲で迎撃を開始…。セイバードラゴン級大型宇宙戦艦からは多数の宇宙戦闘機『スペースバード』が出撃する。スペースバードは全長十六メートル…。全幅七メートルの宇宙戦闘機である。スペースレーダーが搭載され機体前方には二基の対空用パルスレーザーが装備される。両翼には対艦戦闘用の宇宙戦闘用多目的ミサイルは勿論…。光子魚雷も搭載可能である。二十年前に開発された旧型の機体であるが大勢のパイロット達が本機を愛用…。今現在でも現役の主力戦闘機である。出撃した多数のスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の対空砲は小型の高エネルギー機関砲が炸裂…。敵機に攻撃するのだが敵機は機体全面に新型エネルギーシールド機能を搭載させた新型機であり対空用の高エネルギー機関砲が命中しても無力化される。
「大総統!敵機に攻撃しても敵機を撃墜出来ません!」
「此奴は新型機だな…ホログラムを作動させろ…」
ホログラムを作動させると新型機の立体映像が生成されたのである。
「此奴は恐らく無人機の『スペースドローン』だな…」
スペースドローンとは所謂宇宙戦闘用のドローンであり無人兵器に分類される。当然として大銀河帝国軍でも宇宙用の偵察型ドローンは多数使用されるのだが…。タイラントキラーは戦闘用に特化された新型のドローンを多数開発したのである。タイラントキラーの新型ドローンは高出力の光学兵器の搭載…。宇宙戦艦の艦砲射撃をも無力化する新型エネルギーシールド機能が搭載されたのである。ドローン兵器の技術のみならタイラントキラーは大銀河帝国の技術レベルを数段階上回る。
「タイラントキラーは無人機を戦闘用に特化させたのか…」
同時刻…。タイラントキラーのスペースドローンがスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の各艦に急襲したのである。スペースドローンは機体底部に搭載された対艦宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃…。宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇は一機のスペースドローンに撃沈されたのである。本来大銀河帝国軍の宇宙艦艇には外部からの物理攻撃を無力化するエネルギーシールド機能が搭載されたが…。タイラントキラーのスペースドローンの機体内部には特殊電磁パルス発生装置が搭載され本機が接近すると接近された宇宙艦艇はエネルギーシールド機能が使用出来なくなる。スペースドローンの電磁パルス発生装置によって大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の各艦はエネルギーシールド機能が停止…。一方的に攻撃されたのである。必死に迎撃するスペースバードもスペースドローンの攻撃によって多数の機体が撃墜…。数万人ものパイロット達が戦死する。機体底部に対艦戦闘用の固定型高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンはセイバードラゴン級大型宇宙戦艦を砲撃…。一撃で撃沈したのである。三分間の戦闘で六隻ものセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が撃沈される。
「大総統!スペースドローンの出現によって味方艦隊が混乱中です!」
すると直後…。
「スペースレーダーが反応しました!一機のスペースドローンが本艦に急接近中です!」
スペースレーダーが接近中のスペースドローンに反応したのである。スペースドローンが旗艦のセイバードラゴンに接近するとエネルギーシールド機能が強制的にスリープモードへと移行…。エネルギーシールド機能が使用出来なくなる。
「大変です!本艦のエネルギーシールド機能が無力化されました…」
セイバードラゴンのエネルギーシールド機能の停止によって乗組員達は動揺する。
「狼狽えるな…」
こんな絶望的状況下であってもブラッドフォードは冷静であり周囲の乗組員達は非常に不思議がる。直後…。対艦戦闘用の高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンがセイバードラゴン艦尾に搭載されたロケットエンジンに砲撃したのである。艦内に爆発音が響き渡る。
「うわっ!一体何が発生したのでしょうか!?」
爆発音に乗組員達は動揺したのである。するとブラッドフォードが無表情で…。
「恐らく艦尾のロケットエンジンが敵機の攻撃で破壊されたな…」
「えっ!?ロケットエンジンが!?」
先程の攻撃によってセイバードラゴンは航行出来なくなる。
「大総統…即刻脱出しましょう…こんな場所で長居し続けては本艦諸共…」
ブラッドフォードは一瞬躊躇うが…。
「止むを得ないな…」
ブラッドフォードと十六人の乗組員達は即座に脱出用のポッドに乗艇すると航行不能のセイバードラゴンから脱出したのである。セイバードラゴンは二度目の光子魚雷攻撃で爆散…。撃沈されたのである。撃沈されたセイバードラゴンの乗組員達は轟沈するセイバードラゴンに絶句する。
「大総統…危機一髪でしたね♪」
一人の乗組員が笑顔で大総統に発言するのだが…。
「何が危機一髪だ…」
ブラッドフォードは睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨するブラッドフォードに周囲の乗組員達はゾッとする。
「敵軍の一個艦隊程度に敗北とは…」
同時刻…。多数のスペースドローンを搭載した宇宙戦闘母艦『レヴィアタン』が大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の後方よりワープ機能で出現する。タイラントキラーの本隊である宇宙機動艦隊は超大型宇宙戦闘母艦レヴィアタンを中心に六十隻もの宇宙用の空母戦闘艦隊が奇襲に参加したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はタイラントキラーが独自で開発した本格的宇宙戦闘用空母であり艦載機は有人型の宇宙戦闘機ではなく無人兵器のスペースドローンを四百機程度搭載する。艦体のサイズは全長九百六十メートル…。全幅は五百三十メートルであり艦体の総重量は推定六百二十万トンクラスにも相当する。兵装は宇宙巡洋艦に匹敵する高エネルギー主砲が二基搭載され四基の対空パルスレーザーが装備される。六十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦が背後から大銀河帝国軍宇宙主力艦隊を砲撃する。スペースレーダーによる艦砲射撃により命中精度は八十パーセントと正確であり多数の宇宙艦艇を撃破したのである。同時刻…。脱出用ポッドに乗艇したブラッドフォードは不本意であるが撤退を決意したのである。
「戦闘中の全軍に撤退の命令を通信させろ…」
「承知しました…」
通信兵は即座に撤退命令を通信させる。同時に戦闘中の宇宙艦艇もワープ機能を作動…。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊は推定四万光年に位置する大銀河帝国本土へと一瞬でワープしたのである。
「本船もワープさせろ…」
総司令官のブラッドフォードが乗艇する脱出用ポッドも一秒間で大銀河帝国本土『ユートピアサイド』へとワープ…。ユートピアサイドとはテラフォーミングによって地球型惑星に改装された海水の小惑星であり大銀河帝国軍本隊の本拠地である。ブラッドフォードは無事にユートピアサイドへと戻ったのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーのブリッジでは乗組員達がワープ機能で撤退する大銀河帝国軍宇宙主力艦隊を眺望する。
「艦長!敵軍が撤退します!」
ウィグノールは無表情で…。
「本拠地の防衛作戦には成功したが…陽動作戦の囮艦隊は壊滅状態だな…」
今回の宇宙戦闘では大銀河帝国軍宇宙主力艦隊は大型宇宙戦艦三千三百四十八隻…。宇宙巡洋艦四千二百六十七隻と三万隻以上の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。一方のタイラントキラーは大型宇宙戦艦二千二百四十九隻…。宇宙巡洋艦三千六百九十四隻と二万五千六百三十八隻の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。人的損害では大銀河帝国軍は推計八十万人もの将兵が戦死…。一方のタイラントキラーは推計四十万人もの将兵が戦死したのである。今回の大規模宇宙戦闘は第二十四次宇宙星間戦争と命名される。

第二話

亡命艦隊

第二十四次宇宙星間戦争から三日後の三月三十一日十六時…。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊がタイラントキラーの宇宙機動部隊の奇襲攻撃によって大敗北してよりブラッドフォードは非常にピリピリした様子でユートピアサイド大総統官邸の自室にて無人兵器の資料を徹底的に黙読したのである。
(今後の戦闘では…無人兵器が役立ちそうだな…)
今迄は無人兵器の有効性は偵察以外では限定的と判断されたが…。第二十四次宇宙星間戦争により無人兵器の有用性が証明されたのである。すると何者かがコンコンッと自室のドアをノックする。
「誰だ?」
大柄の白人男性がブラッドフォードの自室に入室したのである。
「失礼します…ブラッドフォード大総統♪」
大柄の白人男性はヘラヘラした様子でありブラッドフォードは彼を直視すると余計にピリピリする。
(誰かと思いきや…)
「貴様は…副総統の【ストライダー】か…」
ストライダーとは碧眼金髪の白人男性でありブラッドフォードが唯一悪友と認識する人物である。今現在は副総統の立場であるが…。彼自身も少年時代は大銀河帝国軍の将兵であり各地の戦闘で活躍したのである。
「ブラッドフォード大総統♪ピリピリしちゃって如何されましたか♪三日前の第二十四次宇宙星間戦争は大変残念でしたね…」
ストライダーの発言にブラッドフォードは小声で…。
「貴様…」
「失礼です♪失礼です♪」
ストライダーは笑顔で謝罪する。ヘラヘラするストライダーであるが表情が変化したのである。
「訓練中の【ホムンクルス】ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から開発されたクローン人間達の総称である。度重なる宇宙戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。大銀河帝国ではクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。本来クローン人間の製造は倫理観の問題点から民主制の国家では禁止される反面…。大銀河帝国は独裁制の国家でありクローン人間の製造も容易に実施出来る。今現在は推計七億人のホムンクルスが大量生産され…。即戦力として実戦に参加出来そうなホムンクルスの将兵は推計七百万人である。
「彼等が実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。大銀河帝国軍はホムンクルス将兵と人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスを最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
「結局貴様の用事とは?」
ブラッドフォードが問い掛けるとストライダーは笑顔で…。
「新型兵器の完成と開発プランが完了しました…即刻軍事工場で新型兵器を見物しませんか?」
「暇潰しには好都合だ…承知した…」
ブラッドフォードは無表情で承諾したのである。彼等は外出するとスカイカーで軍事工場へと移動する。三十分後…。軍事工場は首都からは非常に近辺であり三十分程度で到着する。
「即刻完成した新型兵器を見物させろ…」
「承知しました…」
ストライダーは恐る恐るブラッドフォードに道案内したのである。
「軍事工場へは久方振りに見物したが…無人だな…」
軍事工場は基本的に無人であり作業用のロボットが新型兵器を製造する。
「最近はロボット技術の向上で人間の作業員が必要無くなりましたからね…」
近年ではロボットの普及によりあらゆる企業が管理人を一人配置するのが一般化したのである。彼等は地下に存在する宇宙船の巨大造船施設へと進入…。
「新型艦か…」
地下の巨大造船施設には数百隻もの宇宙艦艇が確認出来る。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争では反政府勢力のタイラントキラーによって大銀河帝国軍の宇宙艦隊が手酷く撃破されましたからね♪」
三日前の第二十四次宇宙星間戦争では当初の想定を上回る予想外の大損害により宇宙艦隊の再建が急行されたのである。
「建造中の宇宙艦隊は三日後には完成するでしょうし…一週間後には各部隊に配属させる予定ですから♪」
するとストライダーは新型艦を紹介する。
「最初に紹介する新型艦は宇宙巡洋艦…『バジリスク』です…」
バジリスク級宇宙巡洋艦とは大銀河帝国軍宇宙軍が開発した新型宇宙巡洋艦である。全長二百メートル…。全幅百四十メートルの大型巡洋艦であり総重量は推定五万トンである。兵装は口径三百ミリメートルの高エネルギー連装砲が三基装備され両サイドの片舷には光子魚雷発射機が二基搭載される。本艦の最大の利点は対空装備であり宇宙巡洋艦であるが対空パルスレーザーが合計十二基搭載されたのである。乗組員は全自動化を考慮…。通常の乗組員は三人であるが場合によっては一人だけでも操縦出来る。
「基本的にバジリスクは主力艦隊の護衛に利用されるでしょうね…」
ブラッドフォードは宇宙巡洋艦には無関心だったのかノーコメントだったのである。
(大総統…)
ブラッドフォードの無関心の態度にストライダーは苦笑いする。
「此奴は…」
ブラッドフォードが指差した方向には全長五百メートルサイズのドッグに確認出来る未完成の宇宙戦艦だったのである。
「宇宙戦艦なのか?建造中みたいだが…」
ストライダーはニヤッとした表情で即答したのである。
「ドッグに確認出来る建造中の軍艦は久方振りの新型宇宙戦艦ですよ♪」
「新型宇宙戦艦だと?セイバードラゴンの後継艦か…」
大銀河帝国軍はセイバードラゴン級宇宙戦艦が建造されて以来…。後継艦の建造は計画されなかったのである。近年とある新兵器の開発が浮上…。とある新兵器を搭載可能である新型宇宙戦艦の建造が急遽計画されたのである。
「新型宇宙戦艦とやらはセイバードラゴンの二分の一程度のサイズだな…」
ドッグのサイズから全長は推定四百メートルサイズの宇宙戦艦であると推測される。
「ですが新型宇宙戦艦が完成すればセイバードラゴン級宇宙戦艦を上回る性能が期待出来ましょう♪」
ブラッドフォードは無表情で…。
「性能が上回っても無用の長物なら御免だが…」
「大総統…」
(本当に偏屈だな…)
ブラッドフォードの発言にストライダーは人一倍偏屈であると感じる。するとブラッドフォードはフッとした表情で問い掛ける。
「今後の開発プランとやらは?」
「今後の開発プランは第二十四次宇宙星間戦争でタイラントキラーが投入したスペースドローンに対抗出来る戦闘用ドローンの開発ですよ♪」
ブラッドフォードは第二十四次宇宙星間戦争の翌日…。軍政部に戦闘用ドローンの重要性と開発を強引に説得させ戦闘用ドローンの開発計画が実行されたのである。幸運にも大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の宇宙救助船が故障により全機能停止したタイラントキラーのスペースドローンを発見…。機体を鹵獲したのである。スペースドローンは機内の故障のみで全体的にノーダメージであり軍関係の技術者達は徹底的に機体を解析する。
「戦闘用ドローンの開発計画は順調みたいだな…」
「勿論ですとも♪機体の解析が順調に進行すれば…大銀河帝国軍でも独自の戦闘用ドローンの製造が開始されましょう…」
すると直後…。ブラッドフォードが所持する非常用の携帯式通信機が作動したのである。
「ん?通信機だと?」
ブラッドフォードは応答する。
「私だが…一体何事だ?」
「ブラッドフォード大総統!大変です!」
「貴様は【ルーヴェルハルト】少将か…一体何が発生した?」
ブラッドフォードに通信した相手は少将のルーヴェルハルトだったのである。ルーヴェルハルトは大銀河帝国軍の帝国軍人であるが…。帝国軍人としては非常に穏健派であり強硬派の帝国軍人達とは常日頃から対立する。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争の大敗北からタイラントキラーに影響された民衆達が各惑星で暴動を発生させたとの情報です…」
第二十四次宇宙星間戦争での大敗北から大銀河帝国の威厳が没落…。暴動を発生させた各惑星の住民達は民主化運動に尽力中のタイラントキラーを支持したのである。軍内部からも離反した脱走兵がデモ隊に協力…。各惑星にて地上の治安部隊とデモ隊による内紛が彼方此方で勃発したのである。ルーヴェルハルトはソワソワした様子であったがブラッドフォードは呆れ果てた様子で…。
「愚民の暴走程度で報告するな…」
「えっ!?大総統…」
ブラッドフォードの予想外の返答にルーヴェルハルトはハッとする。
「愚民達のデモ隊なんて国軍の宇宙艦隊を派遣して鎮圧作戦を開始しろ…大気圏から光子魚雷を一発投下すれば簡単に鎮圧出来るだろう…」
「ですが大総統…国軍の宇宙艦隊を出撃させれば大勢の民間人が…」
躊躇するルーヴェルハルトにブラッドフォードは苛立ったのである。
「数億人程度の愚民に遠慮して如何する?デモ隊の暴動程度に畏怖するなら即刻宇宙艦隊を派遣させ…奴等を沈黙させろ…」
ルーヴェルハルトは一瞬沈黙するものの…。
「承知しました…大総統…」
ブラッドフォードの命令に承諾したルーヴェルハルトであるがプルプルした様子で通信を遮断させる。
「ルーヴェルハルトは本当に弱腰だな…」
ルーヴェルハルトを弱腰と罵倒するブラッドフォードにストライダーは恐る恐る…。
「ですが大総統…各地域でデモ隊の活動がエスカレートし続ければ大銀河帝国にとって非常に不都合ですよ…最悪大銀河帝国が内部分裂すればタイラントキラーの思う壺でしょう…」
「漁夫の利か…であれば一日も早くタイラントキラーの本拠地を攻略するべきだな…」
同日…。暴動が発生した各惑星には六個師団の大規模宇宙艦隊が派遣され艦隊の主力艦であるセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が各惑星の大気圏から地上を目標に光子魚雷を発射したのである。一発の光子魚雷により大都市諸共数千万人の住民達が死滅…。一度の鎮圧作戦で敵味方の合計死者数は推計十二億人を上回ったのである。同時刻…。タイラントキラーの本拠地であり自治領である母星『エデンプラネット』議会場では大銀河帝国軍による暴動鎮圧の情報が急報されたのである。総帥ウィグノールの右腕とも命名される【ウィンフィールド】がソワソワした様子で議会場へと入室する。
「ウィグノール総帥!緊急事態です!」
「ウィンフィールド大佐か…一体何事だ?」
ウィンフィールドとは若齢の職業軍人であり年齢は二十二歳の青年であるが階級は大佐…。非常に優秀でありタイラントキラーではウィグノールが唯一信頼する最高の部下である。
「大銀河帝国軍が自国内で発生した暴動を鎮圧したみたいですが…彼等の鎮圧作戦によってデモ隊のみならず…推計十二億人以上の非戦闘員が虐殺されたとの情報です…」
ウィンフィールドが最高指導者のウィグノールに伝達する。
「なっ!?虐殺だと!?奴等…デモ隊だけではなく自国内の国民をも殺害したのか?」
「残念ですが…本当みたいです…」
「大銀河帝国…ブラッドフォードは悪魔にでも憑依されたのか…」
ウィグノールは人一倍大銀河帝国のブラッドフォードを毛嫌いするのだが…。今回のデモ隊虐殺事件から今迄以上にブラッドフォードに対する嫌悪感が増大化したのである。
「最早大銀河帝国のブラッドフォードは野放しには出来ない…」
ウィグノールは一瞬沈黙するなり…。
「即刻宇宙大艦隊を準備させろ!タイラントキラーの宇宙艦隊を再編制させ…大銀河帝国本土…ユートピアサイドに主力宇宙艦隊を派遣…奇襲作戦を実行する…」
ウィグノールのユートピアサイド奇襲攻撃の発言にウィンフィールドは驚愕する。
「えっ!?総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて本気ですか!?」
「私は当然…本気だ!」
「ですが総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて実質自爆攻撃と一緒ですよ!エデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星『メティス基地』と人工惑星『プルトロン基地』を突破しなければ不可能です…」
現実問題…。タイラントキラーの本拠地であり自治領であるエデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破しなければ大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の本拠地であるユートピアサイドへは到達出来ない。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地には合計十二万隻から十四万隻もの宇宙艦艇が配備され両陣営とも攻略するのは困難である。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破したとしてもユートピアサイドには二十万隻もの宇宙大艦隊は勿論…。両サイドの基地には新型巨大防衛兵器の存在が確認され簡単には攻略出来ない。奇襲作戦を実行すれば大多数の宇宙防衛艦隊からの猛反撃も予想され…。最悪味方宇宙艦隊全滅の可能性も否定出来ない。
「タイラントキラーの主力宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争でも相当の損害ですし…こんな作戦は将兵達も国民も支持しないでしょう…最悪の場合報復攻撃でエデンプラネットの滅亡も予想されましょう…」
実際タイラントキラーの宇宙主力艦隊は第二十四次宇宙星間戦争の陽動作戦で辛勝するものの大多数の大型艦が撃沈…。大破したのである。タイラントキラーも宇宙主力艦隊の再建に着手するのだが…。資源不足により手一杯の状態だったのである。こんな状態で奇襲作戦を強行すれば宇宙奇襲艦隊の全滅は確実であり最悪エデンプラネットの滅亡も否定出来ない。
「三日前の第二十四次宇宙星間戦争だけでタイラントキラーは二万隻以上の宇宙艦艇と四十万人以上の将兵達が戦死したのです…今現在は宇宙艦隊の再建と宇宙航空戦力の再強化に尽力するべきかと…」
直後…。会議室のホログラムがピコピコッと反応したのである。
「ん?ホログラム?」
ホログラムを作動させると通信兵の立体映像が出現する。
「ん?通信兵か?」
「ウィグノール総帥!大変です!緊急事態です!」
「緊急事態だと?今度は何事だ?」
「味方の宇宙偵察機が所属不明の宇宙艦隊を発見…小惑星『トレジャーホール』に接近中との情報です…」
小惑星トレジャーホールとはタイラントキラーが統治する小惑星でありタイラントキラーにとって資源採掘の宝庫である。
「所属不明の宇宙艦隊だと?大銀河帝国軍の宇宙奇襲部隊か?」
「現段階では不明ですが…恐らくは…」
ウィグノールは再度問い掛ける。
「宇宙艦隊の規模は?」
「宇宙偵察機の情報では…宇宙巡洋艦クラスの大型艦一隻と…二十隻の宇宙駆逐艦クラスの小型艦です…」
「極小規模の小艦隊だな…」
「ウィグノール総帥…如何されますか?」
ウィグノールは一息するなり…。
「小惑星トレジャーホールに宇宙警備艦隊の宇宙戦闘母艦一隻を派遣させ…所属不明の宇宙小艦隊を駆逐せよ…」
「承知しました…」
宇宙警備艦隊は主力のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦一隻で出撃したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はワープ機能を作動させると本拠地のエデンプラネットから推定百四十光年に位置する小惑星…。トレジャーホールの存在する宙域へと到達したのである。タイラントキラーの宇宙警備艦隊は所属不明の宇宙小艦隊と遭遇するのだが…。所属不明の宇宙小艦隊は交戦の意思が皆無であり救難信号を発信したのである。彼等は五千人以上の避難民達を乗艦…。所属不明の宇宙小艦隊の正体は大銀河帝国軍を見限り祖国である大銀河帝国から亡命した亡命艦隊だったのである。当初はエデンプラネットでも混乱するも亡命艦隊の脱走兵は捕虜として扱われ…。避難民達は無事に保護されたのである。

第三話

奇襲大作戦

宇宙新暦七百二十二年四月十六日未明…。タイラントキラー軍内部では大銀河帝国本拠地であるユートピアサイド奇襲大作戦が正式決定される。当初はウィグノールの右腕であるウィンフィールドは勿論…。数多くの首脳陣が今回のユートピアサイド奇襲大作戦には猛反対され一時は作戦内容が全面的に白紙化されたのである。作戦内容が白紙化された数日後…。状況は一変する。大銀河帝国国内では大総統のブラッドフォードによる圧政に猛反発した大勢の将兵達やら国民達のデモ隊活動によりブラッドフォード政権は失脚寸前だったのである。大銀河帝国国内の大混乱から作戦を実行するチャンスであると確信したウィグノールは再度右腕のウィンフィールドとタイラントキラー首脳陣に説得…。最終的に作戦開始の三日前に大銀河帝国軍総本部ユートピアサイド奇襲大作戦は総帥ウィグノールの説得により正式決定されたのである。四月十八日十六時五十分…。タイラントキラー宇宙艦隊は七十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦を主力に機動突撃艦隊を新編成したのである。機動突撃艦隊は宇宙空母と宇宙航空戦力を中心とした宇宙大艦隊であり宇宙型大艦巨砲主義の大銀河帝国軍には存在しない。宇宙艦艇の総数は合計六万隻以上でありタイラントキラーにとっては最大の戦力だったのである。今回のユートピアサイド奇襲大作戦では主力の大型宇宙空母を護衛する新型宇宙巡洋艦の『シーサーペント』が二万隻以上投入される。シーサーペント級宇宙巡洋艦はスーパーレーダーによるレーダー射撃により主砲の命中精度のみなら大銀河帝国軍主力宇宙戦艦のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にも匹敵する。旗艦レヴィアタンより総司令官であるウィグノールが通信機で全軍に伝播…。
「全軍!ワープ機能を作動させろ!目標地点は大銀河帝国軍本拠地…ユートピアサイド!」
タイラントキラーの宇宙艦艇は大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドを攻略目標にワープ機能を作動させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではステルス機能すら無効化する新型の改良型スーパーレーダーが設置されタイラントキラーの動向を察知したのである。
「大総統!タイラントキラーの主力宇宙艦隊が行動を開始しました!彼等は本拠地であるユートピアサイドに接近中です…」
通信兵の報告に大総統ブラッドフォードは承諾する。
「奴等…行動を開始したな…」
ブラッドフォードは基地内の総司令部に設置されたホログラムにてタイラントキラーの宇宙艦隊の動向を確認したのである。五日前にタイラントキラーの本拠地であるエデンプラネットに諜報部隊を派遣…。タイラントキラーの情報をキャッチするのに成功したのである。副総統のストライダーが恐る恐る…。
「大総統?ユートピアサイドに援軍を派遣しますか?」
「援軍は不要だ…」
問い掛けたストライダーであるがブラッドフォードは援軍の派遣は不要であると返答したのである。
「援軍は不要ですと?」
「最早大銀河帝国軍にとってユートピアサイドの戦略的価値は皆無だ…ユートピアサイドへは援軍は派遣しない…」
「であればユートピアサイドは如何されるのですか?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「新型戦略兵器『ツァーリーボンバ』で敵味方諸共…ユートピアサイドを殲滅する…」
「なっ!?戦略兵器であるツァーリーボンバで…大銀河帝国軍本拠地のユートピアサイドを殲滅するのですか!?」
ツァーリーボンバとは大銀河帝国軍が新開発した新型戦略兵器であり正式名は超大型戦略貫通ミサイルである。全長は七百メートルサイズ…。規格外の超巨大試作型誘導弾であり破壊力は未知数である。
「大総統は正気ですか!?ユートピアサイドには大勢の味方の地上防衛部隊と非戦闘員が居住する人口密集地ですし…何よりもユートピアサイドは大銀河帝国軍の本拠地なのですよ!?」
大銀河帝国軍の総本部であるユートピアサイドには総勢七十万人もの地上防衛部隊が配備され…。推計七十億人以上の非戦闘員が居住する。
「敵軍を殲滅するには味方の犠牲は必要不可欠だ…」
(今現在ユートピアサイドの地上防衛部隊は実質不要だからな…奴等にはツァーリーボンバの実験台として利用するのが適任だ…)
ユートピアサイドに配置された味方の地上防衛部隊はブラッドフォードにとって不要と判断した部隊であり実質消耗品だったのである。
「即刻改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦に新型戦略兵器ツァーリーボンバを搭載させ…出撃させろ…」
「はっ!承知しました!」
ツァーリーボンバは宇宙戦艦クラスの超大型サイズであり実質改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にしか搭載出来ない。準備は五分で終了する。通信兵が再度司令室へと入室したのである。
「改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦にツァーリーボンバを搭載準備…完了しました…」
「上出来だ…」
ブラッドフォードはスマートウォッチで時間帯を確認する。
「出撃は五分後だ…」
「承知しました…」
五分が経過したと同時に…。ツァーリーボンバを搭載した改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦が出撃したのである。人工惑星プルトロン基地から改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦が出撃した同時刻…。タイラントキラーのユートピアサイド攻略宇宙艦隊が大銀河帝国軍本拠地ユートピアサイドの大気圏上空へと到達したのである。ユートピアサイド地上防衛部隊は総司令部に設置されたスペースレーダーにてタイラントキラー宇宙艦隊の動向をキャッチする。
「大気圏上空よりタイラントキラーの宇宙艦隊です!」
「奇襲作戦か…」
タイラントキラー宇宙艦隊の突然の出現に地上防衛部隊は動揺したのである。
「奴等…ワープ機能でプルトロン基地とメティス基地を突破したのか…」
「総数六万隻の宇宙大艦隊です…地上防衛部隊だけで守備するのは不可能でしょう…」
現実問題地上防衛部隊のみではタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するのは不可能…。味方の主力宇宙艦隊は各惑星のデモ隊鎮圧任務に投入され援軍からの援護は絶望的である。
「兎にも角にもタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するぞ!」
地上防衛部隊の滑走路からは三百機前後の旧型宇宙戦闘機スペースバードが飛来…。味方の地上軍は宇宙戦艦をも一発で撃沈出来る高エネルギー主砲搭載型砲撃列車と旧型戦闘装甲車が対空戦闘を開始したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦の宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは総司令官のウィグノールがホログラムにて地上の様子を観察する。
「ユートピアサイドの地上軍は攻撃を開始したか…」
ウィグノールは一息したのである。
「非戦闘員への被害は最小限に努力しろ…」
数秒後…。
「全軍攻撃開始!敵部隊を排除せよ!」
タイラントキラーの攻撃開始と同時に七十隻のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦飛行甲板より数百機ものスペースドローンが飛来したのである。ユートピアサイド都市部大気圏上空では有人機と無人機の空戦が展開される。大銀河帝国軍地上軍のスペースバード航空隊は必死に反撃するのだが…。相手は新型の無人機であり旧型の有人型宇宙戦闘機であるスペースバードでは撃墜するのは困難である。一分間の戦闘で百八十機ものスペースバードが撃墜される。スペースバードの防衛網を突破した無数のスペースドローンは都市部直上へと突入…。地上防衛部隊の各基地と周辺区域を攻撃したのである。地上防衛部隊は砲撃列車と戦闘装甲車は勿論…。基地周辺に設置された固定砲台で上空のスペースドローンを迎撃するも地上では超音速で飛来するスペースドローンを撃墜するのは困難である。反対にスペースドローンの宇宙戦闘用多目的ミサイル…。小型光子魚雷による爆撃で地上部隊の地上兵器が破壊されたのである。同時刻…。宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは副艦長のウィンフィールドが艦内のホログラム立体映像で地上の様子を再度直視する。
「味方部隊の優勢ですね…今現在自軍の損害は皆無です!」
タイラントキラーの優勢に大喜びするウィンフィールドであるが…。
「非常に奇妙だな…」
「奇妙ですと?」
奇妙であると発言するウィグノールにウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「何が奇妙なのですか?」
「敵軍の地上防衛部隊は旧型の兵器ばかり…戦争博物館だな…」
ユートピアサイドは大銀河帝国軍にとって最重要拠点であるのだが…。投入された地上軍の兵器は旧型の前時代的代物ばかりでありウィグノールは胸騒ぎを感じる。
「最重要拠点の防衛戦としては抵抗が軽微に感じられる…」
戦闘開始から五分が経過するとユートピアサイドの地上部隊の戦力は八割が壊滅状態であり最早組織的抵抗は不可能の状態だったのである。タイラントキラーの将兵達は勝利を確信するのだが…。ウィグノールとウィンフィールドは表情が険悪化したのである。すると一人の将兵が彼等に問い掛ける。
「艦長達…一体如何されたのですか!?タイラントキラーの勝利は目前ですよ!今日より銀河系全体の民主主義が実現するのです!」
するとウィグノールは恐る恐る…。
「ひょっとすると敵軍のトラップかも知れないな…」
「えっ!?敵軍のトラップですと?」
直前である。艦内のスペースレーダーが正体不明の移動物体に反応…。艦内全体にサイレンが響き渡る。
「ん?何事だ…」
ホログラム立体映像を再作動させると規格外の超大型ミサイルを搭載したセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が映写される。
「此奴は…大銀河帝国軍の…援軍でしょうか?」
「セイバードラゴン級大型宇宙戦艦だな…改良型か…」
「ですが船底に大型宇宙戦艦クラスの超大型ミサイルらしき巨大物体が確認出来ます…巨大物体は超大型ミサイルなのでしょうか?」
ウィグノールは勿論…。周囲の乗組員達がセイバードラゴン級宇宙戦艦に搭載された超大型ミサイルに身震いしたのである。するとウィグノールは恐る恐る…。
「ウィンフィールド…」
「如何されましたか?ウィグノール総帥…」
普段は冷静であるウィグノールであるが不吉の予感を察知したのか今回は異常にビクビクしたのである。
(ウィグノール総帥が畏怖されるなんて…)
ウィンフィールドはウィグノールの様子に一大事であると察知する。
「不本意であるが…全軍を撤退させろ…」
ウィグノールの判断にウィンフィールドを除外する周囲の将兵達が猛反発したのである。
「えっ!?今更撤退ですと!?」
「敵艦は一隻だけです!即刻迎撃して…」
「下手に攻撃すると面倒だ…モニターの此奴は予想以上に危険かも知れない…」
ウィグノールは即座にワープ機能作動を全軍に伝播させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではブラッドフォードが基地内から無人の改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦を遠隔操作したのである。
(コンピュータゲームみたいだな…)
ストライダーは遠隔操作により航行する改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦をコンピュータゲームであると感じる。ブラッドフォードは艦内ホログラムでユートピアサイドの大気圏上空を浮遊するタイラントキラーの宇宙艦隊を確認したのである。
「敵軍は大気圏上空に展開中だな…」
一息するなり…。
「攻撃目標…ユートピアサイド…超大型戦略貫通ミサイル…ツァーリーボンバ…発射する…」
改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦からツァーリーボンバが発射される。発射された同時刻…。ユートピアサイド大気圏上空にて展開中のタイラントキラー宇宙艦隊の各艦のスーパーレーダーにはツァーリーボンバが確認される。
「艦長!敵艦から規格外の超大型ミサイルが発射されました!」
ウィグノールはホログラムの超大型ミサイルを直視する。
(此奴は大銀河帝国軍の巨大新型兵器…止むを得ないか…)
不本意であるが…。
「全軍に伝達する!即刻撤退せよ!」
直後である。ユートピアサイドに接近中の超大型戦略貫通ミサイル…。ツァーリーボンバが惑星全体にピカッと炸裂したのである。数秒後…。高熱の熱線が惑星全体を覆い包み天体諸共爆散したのである。タイラントキラーの主力宇宙艦隊はワープ機能の作動により撤退に成功したものの…。最前線の宇宙艦隊はツァーリーボンバの大爆発によってユートピアサイド諸共消滅したのである。
「はぁ…はぁ…ウィグノール総帥…無事に撤退出来ましたね…」
「主力の宇宙艦隊は無事だが…」
先程の自爆攻撃でタイラントキラーは推計三百四十八隻の宇宙戦艦…。六百八十九隻の宇宙巡洋艦と五千二百三十一隻の小型艦艇を喪失したのである。推計三十万人もの将兵を喪失する。一方の大銀河帝国軍は自軍の自爆攻撃によって推計五百万人の地上軍兵員…。推計七十億人もの住民がツァーリーボンバで死滅したのである。タイラントキラーにとって今回の作戦失敗は甚大であり総帥のウィグノールは大勢の将兵達からは勿論…。自国民からも作戦失敗の責任を追及され彼自身の妻子も戦争犯罪者として迫害されたのである。ウィグノールは作戦の失敗を契機に宇宙新暦七百二十二年四月二十一日…。自宅の寝室にて妻子と一緒に一家心中したのである。

第四話

新型宇宙戦艦

ユートピアサイド軍事工場で計画中であった新型宇宙戦艦は急遽人工惑星プルトロン基地で建造される。宇宙新暦七百二十二年四月二十四日早朝…。大総統のブラッドフォードはプルトロン基地の軍港へと来場する。
「如何やら新型宇宙戦艦が完成したみたいだな…」
軍港には全長四百メートルサイズ…。全幅二百二十メートルサイズの新型宇宙戦艦が確認出来る。すると背後より…。
「大総統♪こんな場所で一体何を?」
「ストライダーか…暇潰しに新型兵器を見物しただけだ…」
「新型兵器の見物ですか♪」
副総統のストライダーも新型宇宙戦艦を直視する。
「此奴はセイバードラゴン級宇宙戦艦の後継艦…キングタイタンですよ♪」
「キングタイタンだと?即刻改名しろ…」
艦名が気に入らなかったのか後継艦の改名を要求したのである。
「えっ?改名って…」
ストライダーは困惑したのである。
「であれば私が名付ける…此奴の艦名は『アプセラス』だ…」
「えっ…アプセラスって…」
ストライダーはハッとする。
「アプセラスとは…大総統の令夫人の名前では…」
「勿論…彼女の名前だ…」
アプセラスとは二年前の四月に大病で死去したブラッドフォードの令夫人の名前でありブラッドフォードの唯一の理解者である。
「大総統が希望するのであれば…」
新型宇宙戦艦の艦名はアプセラスと改名される。
「此奴の性能は?」
アプセラスは全長四百メートルサイズで全幅は二百四十メートルサイズ…。全備総重量は七十万トンクラスの巨大宇宙戦艦である。全長が八百メートルサイズのセイバードラゴン級宇宙戦艦の二分の一のサイズであるが…。戦闘能力は段違いであり砲撃に特化された完全攻撃型宇宙戦艦である。兵装は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が二基…。対空兵装では五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八基搭載される。実弾兵器は光子魚雷発射機が二基…。宇宙戦闘用多目的ミサイル発射機が十二基配置される。本艦にとって最大の兵装であり最強の主砲…。超大型戦略高エネルギー兵器『ケラウノス』は無限の電力を内包するスパークストーンが使用され一撃で大惑星を消滅させる。動力炉はスーパーリアクターの改良型である新型無限動力炉『ハイパーリアクター』が搭載される。艦載機は無人機が四機…。乗組員は一人から三人程度で運用出来る。正式名は上級大将専用宇宙戦艦であり居住設備も豪華客船に匹敵する。本艦を一隻建造するだけでセイバードラゴン級宇宙戦艦二百隻の予算が使用…。政府首脳陣専用の宇宙戦艦であり実質ブラッドフォードのみが乗艦出来る。
「本艦の装甲は『エターナルメタル』ですからね…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは資源採掘惑星レアメタルスターで採掘された不朽性であり未知の鉄鉱石である。非常に軽量であるが…。硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスは非常に安価ですからね♪」
「であれば好都合だ…」

第五話

制圧作戦

三日後の四月二十七日早朝…。人工惑星プルトロン基地から三万隻もの宇宙大艦隊が出撃を開始する。旗艦は新型宇宙戦艦アプセラスであり大銀河帝国軍総司令官のブラッドフォードが乗艦したのである。
「全軍に伝達する!今回は小惑星トレジャーホールを確保…タイラントキラーの防衛宇宙艦隊を殲滅せよ!」
今回の作戦では新型宇宙巡洋艦バジリスクが推計二千隻…。六千隻もの新型宇宙駆逐艦『アスピドケロン』が投入され艦載機は新型戦闘用ドローン兵器『セイバードローン』が投入される。将兵の大半がクローン人間のホムンクルスであり人間の将兵は少数である。一新された大銀河帝国軍宇宙主力艦隊はタイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインである小惑星トレジャーホールを目標に全速前進…。各艦艇はワープ機能で小惑星トレジャーホールの宙域へと到達する。
「トレジャーホールの宙域に無事到達出来たな…」
旗艦アプセラスを先頭に…。背後からは三万隻もの宇宙艦艇がワープ機能で到達したのである。するとブリッジのホムンクルス将兵が発言する。
「味方の宇宙艦隊が到達したみたいですね…」
「トレジャーホールを攻略…奴等の最終防衛ラインを陥落させ…徹底的に奴等を絶望させるぞ…」
タイラントキラーの保有する惑星は実質母星であるエデンプラネットと最終防衛拠点のトレジャーホールのみである。
(タイラントキラーの資源宝庫であるトレジャーホールを陥落させれば…実質大銀河帝国の大勝利だ…)
タイラントキラーはユートピアサイド攻略作戦の失敗で戦力が低下…。最高指導者である総帥ウィグノールの自殺により以前より士気も戦争遂行能力も低下した状態だったのである。タイラントキラーは国民主権の勢力であり大勢の民間人が安住するエデンプラネットでの本土決戦は回避…。投降するのではと思考したのである。
「艦長!敵部隊の防衛宇宙艦隊を発見しました!」
艦内のスペースレーダーがトレジャーホールの防衛宇宙艦隊をキャッチする。
「敵部隊の宇宙艦艇の総数は?」
「推計一万五千隻です…」
「一万五千隻か…」
(敵軍の規模は一個艦隊程度だな…)
敵軍の規模から片手間であると感じるものの…。
「全軍…全速前進だ!戦闘艦艇は敵艦に砲撃を開始せよ!」
防衛艦隊との射程距離は推定十七光年と近距離であり各艦は高エネルギー砲塔から高エネルギーの光弾を射出…。数十万発もの発光体が各艦の砲塔から発射される。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の猛攻により数百隻もの宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇が轟沈したのである。宇宙巡洋艦クラスの大型艦は超大型エネルギーシールド装置の設置により高エネルギー兵器を無力化…。ノーダメージだったのである。
「大総統…高エネルギー兵器が無力化されました…」
「エネルギーシールド装置だな…であれば光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルの実弾攻撃で対応せよ…」
各艦は無数の光子魚雷…。宇宙戦闘用多目的ミサイルを発射する。大銀河帝国軍の実弾兵器はエネルギーシールドジャミング装置が搭載され…。エネルギーシールド装置を無力化させ大型艦に攻撃したのである。実弾兵器の猛攻で二百隻以上の宇宙巡洋艦クラスは勿論…。宇宙戦艦クラスの大型艦を撃沈する。
「大総統…大銀河帝国軍の優勢です!」
部下の報告にブラッドフォードは一安心するものの…。
「油断大敵だ…巨大宇宙空母『スレイプニル』から新型ドローン部隊を出撃させろ!」
今回の作戦では宇宙用の新型宇宙巨大空母スレイプニルが一隻投入されたのである。艦名はスレイプニルと命名され…。正式名は宇宙要塞母艦スレイプニルである。スレイプニル級宇宙空母はプルトロン軍事工場で建造されたドローン搭載型母艦であり十八隻が建造される。全長は九百九十メートルであり全長八百メートルクラスのセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。艦体の総重量は九百五十万トンと桁外れであり超光速の速力を発揮出来る。宇宙戦艦アプセラスと同様に動力炉はハイパーリアクターが使用され…。航続距離は実質無限光年である。規格外の巨大さのスレイプニル級宇宙空母であるが…。乗組員は一人から三人体制であり少人数での運用が可能である。推計五万人から八万人もの輸送要員を乗艦させられる。艦載機は無人兵器のドローン兵器が四百機搭載される。兵装は旗艦アプセラスと同様に主砲の超大型戦略高エネルギー兵器ケラウノスが艦首に設置…。副砲は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が六基と対空兵装は五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八十基搭載されたのである。実弾兵器は光子魚雷発射機が十二基と宇宙戦闘用多目的ミサイル発射機が三十基搭載され…。実質従来型の宇宙戦艦をも上回る戦闘空母である。補助兵装ではアプセラス同様…。ステルス機能と館内には娯楽施設が設置されたのである。スレイプニルの宇宙用甲板からは三百機ものセイバードローンが出撃…。ワーム機能を作動させ超光速で敵軍艦隊の射程圏内へと突入したのである。タイラントキラーのレヴィアタン級宇宙戦闘母艦もドローン兵器スペースドローンを発進させる。ドローン兵器同士による空戦が開始されるが…。セイバードローンは鹵獲したスペースドローンをベースに開発された機体でありスペースドローンは圧倒される。一分間の空戦で二百機以上のスペースドローンが撃墜されたのである。
「圧倒的だな…」
ブラッドフォードはアプセラスの艦内ホログラムからドローン部隊による空戦の様子を直視する。
「セイバードローンは予想以上の戦果ですね…」
「所詮無人機だが…意外とドローン兵器も役立つな…」
今現在セイバードローンの損害は皆無であり敵機はバタバタと撃墜され…。タイラントキラーのドローン部隊は壊滅したのである。
「タイラントキラーのドローン部隊は壊滅した…戦闘中のドローン部隊には後方の敵軍宇宙艦隊への攻撃を続行させろ…」
「承知しました…」
セイバードローンは後方のタイラントキラー宇宙艦隊に攻撃を仕掛ける。セイバードローンは光子魚雷やら宇宙戦闘用多目的ミサイルで敵艦に攻撃したのである。ドローン部隊の攻撃で小型艦艇は勿論…。十数隻もの大型艦が撃沈されたのである。当然としてタイラントキラーの宇宙艦隊も迎撃するのだが…。セイバードローンにはエネルギーシールド装置により対空パルスレーザー機関砲は無力化され光子魚雷やら宇宙戦闘用多目的ミサイルは機体に搭載された対空パルスレーザー機関砲により迎撃される。
「ドローン部隊がタイラントキラー宇宙艦隊を圧倒しました…」
「であれば即刻タイラントキラー宇宙艦隊に接近…総攻撃を仕掛ける!」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊はワープ機能を再作動…。トレジャーホールが肉眼でも視認出来る距離へと到達する。
「到達したな…」
トレジャーホール防衛艦隊との距離は七百キロメートルと至近距離である。
「ドローン部隊の攻撃で敵軍宇宙艦隊は大分疲弊した様子ですね…」
「全軍総攻撃を開始せよ…敵部隊を壊滅させろ…」
ブラッドフォードは総攻撃を指示…。全軍による総攻撃が開始されたのである。主力艦隊による艦砲射撃と実弾攻撃でトレジャーホール防衛艦隊の多数の宇宙艦艇が大破…。撃沈されたのである。戦闘不能と判断したのか残存艦隊は撤退を開始…。トレジャーホールは無人化したのである。
「敵軍艦隊は撤退を開始しました…トレジャーホールを制圧しましょう…」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊は無事トレジャーホールを制圧…。今回の制圧作戦で大銀河帝国軍の圧倒的大勝利に終結する。今回の戦闘でタイラントキラーは五十四隻のサラマンダー級大型宇宙戦艦と四十七隻のレヴィアタン級大型宇宙空母を喪失…。百八十三隻の旧型宇宙戦艦と八十二隻の旧型宇宙空母を喪失する。中型艦では二百十二隻のシーサーペント級宇宙巡洋艦が撃沈され…。四百五十六隻の旧型宇宙巡洋艦が撃沈されたのである。小型艦艇では二千七百六十八隻の宇宙駆逐艦と三千四百八十五隻の宇宙警備艇が撃沈され…。艦載機では三百六十六機のスペースドローンが撃墜されたのである。二十六隻の宇宙戦艦と十七隻の宇宙空母が大破…。百七十六隻の宇宙巡洋艦と五千八百七十四隻の小型艦艇が大破したのである。艦載機では二百四十八機のスペースドローンが損傷する。人的損害では推計五十三万人もの将兵が死傷したのである。一方の大銀河帝国軍は十二隻の宇宙戦艦と三十七隻の旧型宇宙巡洋艦を喪失…。六隻の宇宙戦艦と四十八隻の宇宙巡洋艦が大破したのである。十三機の戦闘用ドローンが損傷…。人的損害では九百二十六人の将兵が死傷したのである。各兵器を一新させた大銀河帝国軍であるが…。予想以上の損害の軽微に驚愕したのである。

第六話

殲滅作戦

タイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインであるトレジャーホールを無事制圧した大銀河帝国軍はトレジャーホールで放置された三十四隻の大型宇宙戦艦と十八隻の新型宇宙空母…。二十七隻の新型宇宙巡洋艦と艦載機のスペースドローン七十八機を鹵獲したのである。トレジャーホール制圧作戦から六日後の五月三日…。大総統のブラッドフォードは小惑星メティス基地で副総統のストライダーと再会する。
「大総統♪見事でしたな♪トレジャーホール制圧作戦は大銀河帝国軍の圧勝でしたね♪」
トレジャーホール制圧作戦の圧倒的勝利にストライダーは大喜びしたのである。
「当然の結果だ…ストライダーよ…総司令官であるウィグノールが自害した今現在のタイラントキラーは単なる烏合の衆…」
「資源宝庫のトレジャーホールが制圧されたのでは…タイラントキラーは投降する以外に選択肢は皆無ですからね♪」
最早戦力をズタズタに破壊されたタイラントキラーは誰しもが投降するものと思考するのだが…。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で司令室に入室する。
「何事だ?」
通信兵は恐る恐る…。
「ウィンフィールドと名乗る人物がタイラントキラーの新指導者に任命され…各惑星に戦闘継続を伝播させました…」
「なっ!?戦闘継続だと!?」
ストライダーは驚愕する。
「資源宝庫のトレジャーホールが制圧されたのに…奴等は正気か?」
するとブラッドフォードはボソッと一言…。
「この期に及んで奴等は余程死にたいらしいな…」
「大総統…如何されましょうか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「奴等が戦闘続行を決断するのであれば…此方も戦闘を続行…今度こそ奴等を徹底的に殲滅するだけだ…」
ブラッドフォードはストライダーを凝視するなり…。
「今度は大銀河帝国軍全軍で奴等の本拠地…エデンプラネットを攻略する…今度の作戦ではストライダー…貴様も参加しろ…」
「勿論ですとも…大総統…」
ストライダーは即答したのである。
「であれば即刻作戦を実行するか…大至急全軍に伝播させろ…エデンプラネット殲滅作戦を開始すると…」
「はっ!承知しました!」
通信兵は即座に各惑星の国軍宇宙艦隊に伝播させる。翌朝の五月四日…。各惑星の国軍宇宙艦隊が再集結したのである。今回の作戦では合計十九万隻の艦隊規模であり第四字宇宙星間戦争を上回る。
「全軍が集結したな…」
ブラッドフォードは宇宙主力艦隊旗艦アプセラスに乗艦…。副総統のストライダーは改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦に乗艦したのである。ブラッドフォードは各艦に伝播…。
「全軍に伝播する…終戦は目前である!今回の作戦はタイラントキラー本拠地エデンプラネット!タイラントキラーの残存勢力を徹底的に殲滅する!諸君等の奮闘を期待する…」
ブラッドフォードの演説に将兵達の士気が向上したのである。するとストライダーはホログラムで返信する。
「大総統…先程の演説で将兵達の士気が向上しました♪精一杯奮闘しましょう♪」
「当然だ…ストライダー…」
直後…。
「各艦…ワープ機能を作動せよ…」
旗艦アプセラスを先頭に各艦はワープ機能を作動させる。一秒後…。合計十九万隻もの宇宙大艦隊がタイラントキラー本拠地エデンプラネットの宙域へと到達したのである。
「エデンプラネットの宙域に到達しました…味方艦隊とエデンプラネットの距離は一光年です…」
旗艦アプセラス艦内のスペースレーダーが反応する。
「大総統…スペースレーダーが反応しました…」
「タイラントキラーの宇宙艦隊か?宇宙艦艇の総数は?」
「宇宙艦艇の総数は推計二万五千隻です…」
特殊無線技士のホムンクルス将兵が即答したのである。
「二万五千隻か…タイラントキラーの残存勢力にとっては最大戦力だな…」
度重なる敗北によりタイラントキラーの宇宙艦隊は二万五千隻に激減…。本拠地を防衛するのが手一杯だったのである。
「ですがこんな瀕死の状態で抵抗するなんて…奴等は正気ですか?」
ホムンクルス将兵の発言にブラッドフォードは即答する。
「所詮馬鹿の一つ覚えだな…超古代文明のとある地上の大帝国に酷似する…最早戦力の激減したタイラントキラーでは国民主権の大銀河共和国の再興は夢物語なのに…」
大銀河帝国が建国される以前…。銀河系には大銀河共和国と呼称される民主主義国家が存在したのである。大銀河共和国は政治の腐敗やら度重なる内戦…。最大の反政府勢力である大銀河革命軍との大銀河全面戦争により敗北…。民主制の大銀河共和国は独裁制の大銀河帝国へと再建されたのである。大銀河共和国軍に勝利した大銀河革命軍は大銀河帝国の常備軍…。大銀河帝国軍へと改編されたのである。
「所謂タイラントキラーは大銀河共和国の残党勢力だ…徹底的に殲滅せよ…」
数秒後…。
「全軍…敵軍宇宙艦隊に砲撃せよ!」
砲撃の合図と同時に大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の総攻撃が開始される。同時刻…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊は旗艦である改良型サラマンダー級宇宙戦艦には次期総帥のウィンフィールドが乗艦する。
「艦長!大銀河帝国軍が総攻撃を開始しました!」
「全軍に伝達せよ!此方も応戦する!」
ウィンフィールドは応戦を指示したのである。直後…。一光年の宙域より発射された数千万発もの高エネルギーの光弾が味方宇宙艦隊に到達したのである。各艦に多数の光弾が命中するものの…。大型艦はエネルギーシールド装置により光弾を無力化したのである。一方小型艦艇は簡単に撃沈され…。一度の総攻撃で推計三千隻もの小型艦艇が轟沈したのである。轟沈した小型艦艇は宇宙の藻屑へと変化…。数千人もの将兵が宇宙空間に吹っ飛ばされたのである。凄惨なる光景にウィンフィールドは落涙するものの…。
「彼等の犠牲を無駄にするな…即刻反撃しろ!」
タイラントキラー宇宙艦隊も反撃を開始したのである。各艦艇による高エネルギー砲塔の艦砲射撃…。実弾兵器である光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルを多数発射したのである。
「母艦部隊はドローン兵器を発進させ…敵軍艦隊に突入させろ!」
各航空母艦からはスペースドローンは勿論…。スペースドローンの後継機『ホワイトピクシー』が飛来したのである。各機体はワープ機能を作動…。数秒後には二万機以上のドローン兵器が大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の宙域へと到達したのである。
「ひっ!ドローン兵器です!」
突如として出現したドローン兵器に大銀河帝国軍の将兵達は一時的に畏怖する。
「狼狽えるな…ドローン兵器を撃墜せよ…」
ブラッドフォードはドローンの迎撃を指示すると各艦艇は迎撃を開始したのである。するとブラッドフォードは気になるのかホログラム装置を作動…。スペースドローンの立体映像が映写される。
「えっ?大総統…如何されましたか?」
ブリッジのホムンクルス乗組員が彼に問い掛ける。
「恐らく此奴はタイラントキラーの新型機だな…」
ホワイトピクシーは性能的には大銀河帝国軍のセイバードローンと五分五分である。宇宙艦隊上空では互角の空中戦が展開される。
「味方のセイバードローン諸共…撃墜せよ…」
「味方の軍用機も攻撃するのですか?」
ブラッドフォードの指示にブリッジのホムンクルス乗組員が再度問い掛ける。
「所詮ドローンは自爆兵器だ…破壊されたって何機でも補充出来る…」
資源豊富の大銀河帝国軍にとってドローン兵器とは実質自爆用途の無人特攻兵器である。各機体の機体内部には宇宙戦艦クラスの大型艦さえも一撃で撃沈出来る自爆装置が内蔵される。ブラッドフォードの指示に各艦艇は味方のドローン兵器諸共対空パルスレーザー機関砲は勿論…。実弾兵器の光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃したのである。無尽蔵の光弾と実弾攻撃により敵味方のドローン兵器が撃墜される。
「味方宇宙艦隊の迎撃でタイラントキラーの宇宙航空戦力が半減したぞ…」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の対空攻撃によりタイラントキラーの宇宙航空戦力が低下したのである。
「再度敵軍の防衛宇宙艦隊を攻撃…タイラントキラー本拠地エデンプラネットに突入するぞ…」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊はタイラントキラーのドローン部隊による攻撃を物ともせず迎撃を続行…。エデンプラネットの宙域へと到達したのである。
「敵軍艦隊だ…」
タイラントキラー宇宙艦隊との距離は七十八万キロメートルと近距離であり肉眼でも直視出来る。七十八万キロメートルでも宇宙戦闘では至近距離である。
「タイラントキラー宇宙艦隊を殲滅せよ…」

第七話

反帝国主義

宇宙新暦七百二十二年五月十七日…。最終戦略兵器ケラウノスによって国民主義勢力のタイライトキラーと本拠地である小惑星エデンプラネットを消滅させた大銀河帝国軍であるが…。日に日に過激化するブラッドフォード政権に対する反対運動は新勢力の誕生を促進させたのである。二日後の五月十九日…。ブラッドフォード政権を見限った穏健派の帝国軍人ルーヴェルハルトは大銀河帝国を脱退したのである。三日後の五月二十二日に反帝国主義勢力『ホープセイバーズ』が結成…。大銀河帝国自治領の一部である小惑星『ホープエリア』を本拠地として設置される。ホープセイバーズ結成から一週間後の五月二十四日…。大銀河帝国軍を見限った一部の帝国軍人達と母星の消滅により宇宙空間を漂流するタイライトキラーの臨時政府軍宇宙艦隊が小惑星ホープエリアへと集結したのである。ホープセイバーズ創設から二週間が経過するとホープエリアの総人口は推計二十億人に増加する。銀河系の各宙域ではタイラントキラーの残存艦隊が宇宙海賊団を組織…。彼等も義勇軍としてホープセイバーズに加入される。五月二十七日…。大銀河帝国軍総本部では大総統のブラッドフォードと副総統のストライダーが対談する。
「大総統…ルーヴェルハルト少将が大銀河帝国から脱退しましたな…」
「大銀河帝国に穏健派の帝国軍人は不要だ…」
(彼奴は目障りだからな…)
ブラッドフォードにとって穏健派のルーヴェルハルトは正直目の上のたん瘤でありルーヴェルハルトの脱退は非常に好都合だったのである。
「ホープセイバーズですが…如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「当然として…大銀河帝国に敵対する勢力は徹底的に殲滅する予定だ…」
「当然の判断ですね…」
同時刻…。ホープセイバーズ本拠地ホープエリアの総本部拠点ではとある人物が訪問する。ホープセイバーズ総帥ルーヴェルハルトの専用室にて何者かがコンッとドアをノックしたのである。
「誰だ?」
すると若齢の将校が入室する。
「失礼します…」
「貴方は…」
「私はタイラントキラー将兵だった…ウィンフィールド…階級は大佐です…」
「ウィンフィールド大佐か…」
両者は敬礼したのである。するとルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「本当に悪かった…私達の暴走で貴方の故郷は…」
ルーヴェルハルトは落涙…。謝罪したのである。
「気にしないで下さい…ルーヴェルハルト総帥…」
ウィンフィールドはルーヴェルハルトを非難せず…。
「大銀河帝国にも…貴方みたいな穏健派の帝国軍人が存在するだけで…私の心情は救済されましたよ♪」
ウィンフィールドは笑顔で返答する。するとルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「突然で混乱するかも知れないが…今後のホープセイバーズの方針を伝達する…」
「今後の方針ですか?」
ルーヴェルハルトは一息するなり…。
「ホープエリアは大銀河帝国から独立…小規模だがホープエリアに大銀河共和国の継承国家…宇宙新共和国を建国する予定だ…」
「宇宙新共和国ですと?」
今後の方針である大銀河帝国からの独立にウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「大銀河帝国からの独立なのですが…現実的に大銀河帝国からの独立なんて可能なのですかね?相手は大銀河帝国全勢力ですよ…大銀河共和国の継承勢力であるタイラントキラーも大銀河帝国軍によって徹底的に殲滅させられたのです…恐らく簡単には…」
「困難なのは承知だ…相手はブラッドフォードだからな…一筋縄では無理だろう…」
ルーヴェルハルトはポケットから恐る恐る電子設計図を入手する。
「電子設計図ですか?」
ルーヴェルハルトは電子設計図のスイッチを作動…。すると円柱型の物体がホログラムにより映写されたのである。
「なっ!?ひょっとして…」
ウェンフィールドは電子設計図の物体に驚愕する。
「タイラントキラーが開発中だった…最終兵器では!?如何して大銀河帝国軍所属の貴方がタイラントキラーの遺産を?」
「私がタイラントキラーの遺産を所持した理由は…」
大銀河帝国軍がタイラントキラーとの戦時中の出来事である。ルーヴェルハルトは独自の私兵部隊を組織…。私兵部隊をタイラントキラーの兵器研究所に潜入させ一部の科学技術を入手したのである。
「ですがタイラントキラーの兵器研究所が貴方の私兵部隊に潜入されたなんて…驚愕しましたよ…」
「最終兵器の電子設計図を入手したのが私で正解だったな♪こんな代物をブラッドフォードが入手すれば絶対に悪用されるだろう…」
「ですが此奴が完成すれば…銀河系の支配勢力である大銀河帝国だって引っ繰り返せそうですね♪」
タイラントキラーが開発中だった最終兵器の正体は不明であるが…。最終兵器が完成すれば大銀河帝国をも引っ繰り返せる代物である。
「此奴は大銀河帝国軍の最強兵器…ケラウノスをも上回る最強最悪の最終兵器だからな…抑止力として利用出来る!」
メンテ
Re: 新世紀エヴァンゲリオン〔仮名〕※休止中 ( No.100 )
日時: 2021/09/18 23:08
名前: 月影桜花姫

第一話

宇宙艦隊戦闘

太古の大昔…。宇宙新暦七百二十二年三月二十八日午前一時の出来事である。とある銀河系では複数の巨大宇宙勢力が度重なる戦乱を頻発させる。太陽系から推定八万光年の宙域では銀河系全域を統治する大規模星間軍事国家『大銀河帝国』の宇宙大艦隊…。国民主義実現を主目的に活動する大規模反政府勢力である『タイラントキラー』の宇宙大艦隊が激突したのである。大銀河帝国軍宇宙軍主力艦隊旗艦…。宇宙戦艦『セイバードラゴン』ではブリッジの乗組員がタイラントキラーの宇宙艦隊を発見する。
「艦長!本艦のスペースレーダーが推定九百光年の宙域より敵軍の宇宙艦隊に反応しました!」
セイバードラゴンは大銀河帝国軍の主力宇宙戦艦であり地上の水上艦を連想させる巨大宇宙戦艦である。長距離索敵と誘導兵器の使用は勿論…。本艦一隻のみで数千キロメートルサイズの惑星表面を一掃させられる攻撃力を保持する。艦内には一隻だけで合計九十機もの宇宙用の艦載機を搭載出来る。本艦にとっての最大の武装は主砲である高エネルギーを放出する口径八百ミリメートルの高エネルギー連装砲である。主砲の威力は高火力であり数百メートルサイズの宇宙戦艦を一撃で撃沈出来ると推測される。本艦のレーダー射撃は高水準であり主砲の命中精度は八十五パーセントとも豪語される。本艦のサイズは全長八百メートルサイズで全幅六百メートルサイズ…。総重量は推定五百万トンクラスと規格外に巨大であり現存する大銀河帝国軍宇宙主力艦隊では最大級の超大型宇宙戦艦である。動力炉は『スーパーリアクター』が搭載され燃料の補給は不要であり半永久的に航行出来る。
「敵軍の宇宙艦隊を発見したか…」
セイバードラゴンの艦長は大銀河帝国の大総統…。【ブラッドフォード】である。ブラッドフォードは年齢二十九歳の青年であるが外見的には美少年であり十代後半にも間違われる。本来であればブラッドフォードは最前線での戦闘では参加しない立場であるものの…。少年時代の従軍経験から積極的に最前線での指揮を自発的に執行する。
「味方の全艦隊に伝播せよ…敵軍の宇宙大艦隊を発見したと…」
「はっ!承知しました!」
通信兵がブラッドフォードに敬礼するなり全軍に敵軍宇宙艦隊発見の情報を通信させる。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊は大総統ブラッドフォードの乗艦する主力宇宙戦艦セイバードラゴンを先頭に推計十七万隻もの宇宙艦隊が追尾する。旗艦セイバードラゴン艦内ではブラッドフォードが再度指示したのである。
「最大船速でワープ機能を作動させろ…一瞬で敵軍宇宙艦隊の真正面に突入するぞ…」
「はっ!ワープ機能作動!」
ブリッジの乗組員がワープ機能を作動させる。すると味方の宇宙艦隊もワープ機能を作動させ最前線へと突入したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙軍艦隊は合計一万四千隻もの大規模艦隊であり旗艦は宇宙戦艦『サラマンダー』である。サラマンダーは全長七百八十メートルサイズで全幅五百四十メートルサイズ…。総重量は三百万トンもの超大型宇宙戦艦である。旧型の宇宙戦艦であるが艦載機の総数は合計百五十機前後であり艦載機の搭載機数のみなら大銀河帝国軍のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。本艦の動力炉はスーパーリアクターであり燃料は不要である。
「艦長!スペースレーダーが反応しました!」
サラマンダーに搭載されたスペースレーダーが反応する。
「正体不明の無数の移動物体が超光速で味方艦隊に接近中です!移動物体の総数は推計十七万以上…」
旗艦サラマンダーの艦長は【ウィグノール】である。階級は中将であり本来は大銀河帝国軍親衛隊の総司令官であったが…。ブラッドフォードによる独裁政治を見限り脱退する。今現在は反政府組織であるタイラントキラーを創設…。国民主権の独立宇宙民主国家建国を目標に銀河系全域を支配する大銀河帝国に宣戦布告を表明する。
「恐らくタイラントキラーの宇宙艦隊だろう…」
すると直後…。タイラントキラー宇宙艦隊から推定三百光年の宙域より数万隻もの艦影が突如として出現したのである。
「艦長!タイラントキラーの宇宙艦隊です!総数七万隻前後…大艦隊です!」
「敵軍宇宙艦隊の総数は七万隻前後か…」
今現在投入された戦力では大銀河帝国軍主力宇宙艦隊が宇宙艦艇推計十七万隻以上…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊の宇宙艦艇は推計三万四千隻程度でありタイラントキラーが圧倒的に不利である。
「直進せよ…」
ウィグノールが艦隊の直進を指示すると全艦隊が大銀河帝国軍主力宇宙艦隊に接近する。同時刻…。大銀河帝国軍主力宇宙艦隊旗艦セイバードラゴンではタイラントキラー宇宙艦隊の接近を確認する。
「艦長!タイラントキラーの宇宙大艦隊が味方の宇宙艦隊に急接近中です!如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは無表情で…。
「急接近する敵軍宇宙艦隊を排除せよ…全軍…総攻撃開始!」
最前線の大型宇宙戦闘艦隊を中心に各艦艇が砲撃を開始したのである。数秒間に数万発もの蛍光色の光線が射出され…。接近するタイラントキラー宇宙艦隊に砲撃したのである。宇宙戦艦部隊はエネルギーシールド機能によって光線を無力化するが…。宇宙駆逐艦クラスの小型艦はエネルギーシールド機能が最小限化された代物であり簡単に撃沈されたのである。一度の攻撃でタイラントキラー宇宙艦隊の二十パーセントが喪失…。多数の小型艦が損傷したのである。
「宇宙戦艦クラスの大型艦には光子魚雷…宇宙戦闘用多目的ミサイルで対応せよ…」
旗艦セイバードラゴンの艦長…。ブラッドフォードの指示と同時に最前線の宇宙戦艦部隊が光子魚雷攻撃と宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃したのである。無数の実弾兵器が超光速で接近…。タイラントキラー宇宙艦隊の大型艦に命中したのである。宇宙戦艦クラスの大型艦十数隻が轟沈…。数十隻の大型艦を大破される。エネルギーシールド機能を搭載する大型の敵艦を撃沈させるのに効果的だったのは光子魚雷である。光子魚雷とは超光速で発射させる宇宙用の魚雷であり破壊力は三千キロメートルクラスの小惑星を一撃で破壊させられる代物である。光子魚雷一発でも重厚装甲の大型宇宙戦艦は数十隻撃沈…。数百隻もの大型宇宙戦艦が大破したのである。爆沈する宇宙艦艇より多数の乗組員達が宇宙空間へと吹っ飛ばされる。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーにも宇宙戦闘用多目的ミサイルが命中…。艦首が大破したのである。
「艦首が被弾しました!」
「本艦への被害状況は?」
ウィグノールは乗組員に問い掛ける。
「艦首は大破です…」
「艦首だけか…大破したのが艦首のみであれば戦況には問題無さそうだな…」
ブリッジの乗組員が恐る恐る…。
「ですが奴等の宇宙戦闘用多目的ミサイルと光子魚雷は味方艦艇のエネルギーシールドを透過しました…一体奴等は実弾兵器に何を細工したのでしょうか?」
長期間の宇宙航行を想定した宇宙用の艦船には宇宙デブリやら小惑星の衝突を無力化するエネルギーシールド機能が搭載されるのが基本である。
「恐らく奴等の実弾兵器にはエネルギーシールドジャミング装置を搭載させたのであろうな…」
エネルギーシールドジャミング装置とは大銀河帝国軍が最新式の科学技術を駆使して開発した特殊装置…。大型艦に搭載されたエネルギーシールド機能を妨害させ高確率で実弾兵器を目標に直撃させられる。光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルによるアウトレンジ戦法によってタイラントキラーのサラマンダー級大型宇宙戦艦五十二隻が撃沈され…。三百四十八隻の大型宇宙戦艦が大破したのである。大型宇宙戦艦以外の小型艦艇は数百隻が轟沈…。数千隻が大破したのである。旗艦サラマンダーでは大銀河帝国軍の猛攻撃に畏怖したブリッジの乗組員が撤退を要請する。
「ウィグノール艦長!即刻艦隊を撤退させましょう!敵軍の総攻撃で多数の味方艦艇が撃沈されました…戦闘を継続すれば全滅しますよ!」
するとウィグノールが無表情で…。
「狼狽えるな…」
戦局は圧倒的にタイラントキラーが不利であるがウィグノールは平常心であり周囲の乗組員達は不思議がる。
(こんなにも劣勢なのに冷静なんて…)
同時刻…。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊旗艦であるセイバードラゴンの艦内では乗組員達が爆散する敵艦の光景を眺望する。
「大総統♪大銀河帝国軍の優勢です!」
「大銀河帝国軍の圧勝は確実だな♪」
「所詮タイラントキラーなんて一部のカルト集団だ…大銀河帝国軍が本領を発揮すれば簡単に殲滅出来るさ♪」
するとブラッドフォードは小声で発言する。
「奴等の希望する愚衆政治国家実現なんて…所詮は夢物語だな…」
大銀河帝国軍ではタイラントキラーは少人数のカルト集団…。単なるテロリスト集団程度の存在であると認識される。誰しもが大銀河帝国軍の圧勝を確実視するのだが…。大総統であるブラッドフォードだけは表情が険悪化する。一人の乗組員が恐る恐る…。
「大総統…如何されましたか?」
するとブラッドフォードが苛立った表情で返答する。
「前方の敵軍宇宙艦隊は陽動艦隊だろう…此奴は恐らく陽動作戦だ…」
「陽動作戦ですと?」
ブラッドフォードが陽動作戦の可能性を指摘した直後…。スペースレーダーが反応したのである。
「スペースレーダーが反応しました!」
「スペースレーダーが反応したって!?一体何事だ!?」
周囲の乗組員達は突如として反応したスペースレーダーに動揺する。
「味方宇宙艦隊後方より無数の移動物体が確認されました!サイズは小型の機影でしょうか…」
「小型の機影だと?」
小型の機影の一言にブラッドフォードが反応したのである。
「恐らく機影の正体は宇宙戦闘機かと…総数は推計三十万機…敵機部隊との距離は推計七百光年です…」
「総数三十万機か…全軍に対空戦闘を通信させろ…」
「はっ!承知しました!」
通信兵が全軍に対空戦闘用意を通信させる。タイラントキラーの宇宙航空機部隊がワープ機能を使用…。一秒間で大銀河帝国軍宇宙主力艦隊上空へとワープしたのである。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊各艦艇のスペースレーダーが再度反応する。
「スペースレーダーが反応しました!味方宇宙艦隊の上空より無数の敵機です!」
「敵機部隊はワープ機能で到達したか…」
ブラッドフォードは一瞬沈黙するものの…。
「上空の敵機を撃墜…宇宙迎撃機を出撃させろ…」
「承知しました…」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の各艦艇は宇宙用の対空砲で迎撃を開始…。セイバードラゴン級大型宇宙戦艦からは多数の宇宙戦闘機『スペースバード』が出撃する。スペースバードは全長十六メートル…。全幅七メートルの宇宙戦闘機である。スペースレーダーが搭載され機体前方には二基の対空用パルスレーザーが装備される。両翼には対艦戦闘用の宇宙戦闘用多目的ミサイルは勿論…。光子魚雷も搭載可能である。二十年前に開発された旧型の機体であるが大勢のパイロット達が本機を愛用…。今現在でも現役の主力戦闘機である。出撃した多数のスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙艦隊の対空砲は小型の高エネルギー機関砲が炸裂…。敵機に攻撃するのだが敵機は機体全面に新型エネルギーシールド機能を搭載させた新型機であり対空用の高エネルギー機関砲が命中しても無力化される。
「大総統!敵機に攻撃しても敵機を撃墜出来ません!」
「此奴は新型機だな…ホログラムを作動させろ…」
ホログラムを作動させると新型機の立体映像が生成されたのである。
「此奴は恐らく無人機の『スペースドローン』だな…」
スペースドローンとは所謂宇宙戦闘用のドローンであり無人兵器に分類される。当然として大銀河帝国軍でも宇宙用の偵察型ドローンは多数使用されるのだが…。タイラントキラーは戦闘用に特化された新型のドローンを多数開発したのである。タイラントキラーの新型ドローンは高出力の光学兵器の搭載…。宇宙戦艦の艦砲射撃をも無力化する新型エネルギーシールド機能が搭載されたのである。ドローン兵器の技術のみならタイラントキラーは大銀河帝国の技術レベルを数段階上回る。
「タイラントキラーは無人機を戦闘用に特化させたのか…」
同時刻…。タイラントキラーのスペースドローンがスペースバード宇宙航空隊と大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の各艦に急襲したのである。スペースドローンは機体底部に搭載された対艦宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃…。宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇は一機のスペースドローンに撃沈されたのである。本来大銀河帝国軍の宇宙艦艇には外部からの物理攻撃を無力化するエネルギーシールド機能が搭載されたが…。タイラントキラーのスペースドローンの機体内部には特殊電磁パルス発生装置が搭載され本機が接近すると接近された宇宙艦艇はエネルギーシールド機能が使用出来なくなる。スペースドローンの電磁パルス発生装置によって大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の各艦はエネルギーシールド機能が停止…。一方的に攻撃されたのである。必死に迎撃するスペースバードもスペースドローンの攻撃によって多数の機体が撃墜…。数万人ものパイロット達が戦死する。機体底部に対艦戦闘用の固定型高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンはセイバードラゴン級大型宇宙戦艦を砲撃…。一撃で撃沈したのである。三分間の戦闘で六隻ものセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が撃沈される。
「大総統!スペースドローンの出現によって味方艦隊が混乱中です!」
すると直後…。
「スペースレーダーが反応しました!一機のスペースドローンが本艦に急接近中です!」
スペースレーダーが接近中のスペースドローンに反応したのである。スペースドローンが旗艦のセイバードラゴンに接近するとエネルギーシールド機能が強制的にスリープモードへと移行…。エネルギーシールド機能が使用出来なくなる。
「大変です!本艦のエネルギーシールド機能が無力化されました…」
セイバードラゴンのエネルギーシールド機能の停止によって乗組員達は動揺する。
「狼狽えるな…」
こんな絶望的状況下であってもブラッドフォードは冷静であり周囲の乗組員達は非常に不思議がる。直後…。対艦戦闘用の高エネルギー機関砲を搭載したスペースドローンがセイバードラゴン艦尾に搭載されたロケットエンジンに砲撃したのである。艦内に爆発音が響き渡る。
「うわっ!一体何が発生したのでしょうか!?」
爆発音に乗組員達は動揺したのである。するとブラッドフォードが無表情で…。
「恐らく艦尾のロケットエンジンが敵機の攻撃で破壊されたな…」
「えっ!?ロケットエンジンが!?」
先程の攻撃によってセイバードラゴンは航行出来なくなる。
「大総統…即刻脱出しましょう…こんな場所で長居し続けては本艦諸共…」
ブラッドフォードは一瞬躊躇うが…。
「止むを得ないな…」
ブラッドフォードと十六人の乗組員達は即座に脱出用のポッドに乗艇すると航行不能のセイバードラゴンから脱出したのである。セイバードラゴンは二度目の光子魚雷攻撃で爆散…。撃沈されたのである。撃沈されたセイバードラゴンの乗組員達は轟沈するセイバードラゴンに絶句する。
「大総統…危機一髪でしたね♪」
一人の乗組員が笑顔で大総統に発言するのだが…。
「何が危機一髪だ…」
ブラッドフォードは睥睨したのである。
「ひっ!」
睥睨するブラッドフォードに周囲の乗組員達はゾッとする。
「敵軍の一個艦隊程度に敗北とは…」
同時刻…。多数のスペースドローンを搭載した宇宙戦闘母艦『レヴィアタン』が大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の後方よりワープ機能で出現する。タイラントキラーの本隊である宇宙機動艦隊は超大型宇宙戦闘母艦レヴィアタンを中心に六十隻もの宇宙用の空母戦闘艦隊が奇襲に参加したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はタイラントキラーが独自で開発した本格的宇宙戦闘用空母であり艦載機は有人型の宇宙戦闘機ではなく無人兵器のスペースドローンを四百機程度搭載する。艦体のサイズは全長九百六十メートル…。全幅は五百三十メートルであり艦体の総重量は推定六百二十万トンクラスにも相当する。兵装は宇宙巡洋艦に匹敵する高エネルギー主砲が二基搭載され四基の対空パルスレーザーが装備される。六十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦が背後から大銀河帝国軍宇宙主力艦隊を砲撃する。スペースレーダーによる艦砲射撃により命中精度は八十パーセントと正確であり多数の宇宙艦艇を撃破したのである。同時刻…。脱出用ポッドに乗艇したブラッドフォードは不本意であるが撤退を決意したのである。
「戦闘中の全軍に撤退の命令を通信させろ…」
「承知しました…」
通信兵は即座に撤退命令を通信させる。同時に戦闘中の宇宙艦艇もワープ機能を作動…。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊は推定四万光年に位置する大銀河帝国本土へと一瞬でワープしたのである。
「本船もワープさせろ…」
総司令官のブラッドフォードが乗艇する脱出用ポッドも一秒間で大銀河帝国本土『ユートピアサイド』へとワープ…。ユートピアサイドとはテラフォーミングによって地球型惑星に改装された海水の小惑星であり大銀河帝国軍本隊の本拠地である。ブラッドフォードは無事にユートピアサイドへと戻ったのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦のサラマンダーのブリッジでは乗組員達がワープ機能で撤退する大銀河帝国軍宇宙主力艦隊を眺望する。
「艦長!敵軍が撤退します!」
ウィグノールは無表情で…。
「本拠地の防衛作戦には成功したが…陽動作戦の囮艦隊は壊滅状態だな…」
今回の宇宙戦闘では大銀河帝国軍宇宙主力艦隊は大型宇宙戦艦三千三百四十八隻…。宇宙巡洋艦四千二百六十七隻と三万隻以上の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。一方のタイラントキラーは大型宇宙戦艦二千二百四十九隻…。宇宙巡洋艦三千六百九十四隻と二万五千六百三十八隻の小型宇宙艦艇が撃沈されたのである。人的損害では大銀河帝国軍は推計八十万人もの将兵が戦死…。一方のタイラントキラーは推計四十万人もの将兵が戦死したのである。今回の大規模宇宙戦闘は第二十四次宇宙星間戦争と命名される。

第二話

亡命艦隊

第二十四次宇宙星間戦争から三日後の三月三十一日十六時…。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊がタイラントキラーの宇宙機動部隊の奇襲攻撃によって大敗北してよりブラッドフォードは非常にピリピリした様子でユートピアサイド大総統官邸の自室にて無人兵器の資料を徹底的に黙読したのである。
(今後の戦闘では…無人兵器が役立ちそうだな…)
今迄は無人兵器の有効性は偵察以外では限定的と判断されたが…。第二十四次宇宙星間戦争により無人兵器の有用性が証明されたのである。すると何者かがコンコンッと自室のドアをノックする。
「誰だ?」
大柄の白人男性がブラッドフォードの自室に入室したのである。
「失礼します…ブラッドフォード大総統♪」
大柄の白人男性はヘラヘラした様子でありブラッドフォードは彼を直視すると余計にピリピリする。
(誰かと思いきや…)
「貴様は…副総統の【ストライダー】か…」
ストライダーとは碧眼金髪の白人男性でありブラッドフォードが唯一悪友と認識する人物である。今現在は副総統の立場であるが…。彼自身も少年時代は大銀河帝国軍の将兵であり各地の戦闘で活躍したのである。
「ブラッドフォード大総統♪ピリピリしちゃって如何されましたか♪三日前の第二十四次宇宙星間戦争は大変残念でしたね…」
ストライダーの発言にブラッドフォードは小声で…。
「貴様…」
「失礼です♪失礼です♪」
ストライダーは笑顔で謝罪する。ヘラヘラするストライダーであるが表情が変化したのである。
「訓練中の【ホムンクルス】ですが…三日後には実戦配属出来るみたいです…」
ホムンクルスとは二十年前から開発されたクローン人間達の総称である。度重なる宇宙戦争やら内戦によって人間の将兵が不足…。大銀河帝国ではクローン人間の兵士の開発が浮上したのである。本来クローン人間の製造は倫理観の問題点から民主制の国家では禁止される反面…。大銀河帝国は独裁制の国家でありクローン人間の製造も容易に実施出来る。今現在は推計七億人のホムンクルスが大量生産され…。即戦力として実戦に参加出来そうなホムンクルスの将兵は推計七百万人である。
「彼等が実戦に参加出来れば…今後の作戦では人間の兵士は不要だからな…」
ロボット技術やら人工知能が格段に発達した近年では総兵力の縮小が開始される。数年後…。大銀河帝国軍はホムンクルス将兵と人工知能搭載型兵器のみの軍事組織に変化すると予測されたのである。
「であれば今後は理想の戦争が実現しそうですな♪人間の兵士が戦闘しなくてもホムンクルスを最前線の兵士として代替出来るのですから♪」
「結局貴様の用事とは?」
ブラッドフォードが問い掛けるとストライダーは笑顔で…。
「新型兵器の完成と開発プランが完了しました…即刻軍事工場で新型兵器を見物しませんか?」
「暇潰しには好都合だ…承知した…」
ブラッドフォードは無表情で承諾したのである。彼等は外出するとスカイカーで軍事工場へと移動する。三十分後…。軍事工場は首都からは非常に近辺であり三十分程度で到着する。
「即刻完成した新型兵器を見物させろ…」
「承知しました…」
ストライダーは恐る恐るブラッドフォードに道案内したのである。
「軍事工場へは久方振りに見物したが…無人だな…」
軍事工場は基本的に無人であり作業用のロボットが新型兵器を製造する。
「最近はロボット技術の向上で人間の作業員が必要無くなりましたからね…」
近年ではロボットの普及によりあらゆる企業が管理人を一人配置するのが一般化したのである。彼等は地下に存在する宇宙船の巨大造船施設へと進入…。
「新型艦か…」
地下の巨大造船施設には数百隻もの宇宙艦艇が確認出来る。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争では反政府勢力のタイラントキラーによって大銀河帝国軍の宇宙艦隊が手酷く撃破されましたからね♪」
三日前の第二十四次宇宙星間戦争では当初の想定を上回る予想外の大損害により宇宙艦隊の再建が急行されたのである。
「建造中の宇宙艦隊は三日後には完成するでしょうし…一週間後には各部隊に配属させる予定ですから♪」
するとストライダーは新型艦を紹介する。
「最初に紹介する新型艦は宇宙巡洋艦…『バジリスク』です…」
バジリスク級宇宙巡洋艦とは大銀河帝国軍宇宙軍が開発した新型宇宙巡洋艦である。全長二百メートル…。全幅百四十メートルの大型巡洋艦であり総重量は推定五万トンである。兵装は口径三百ミリメートルの高エネルギー連装砲が三基装備され両サイドの片舷には光子魚雷発射機が二基搭載される。本艦の最大の利点は対空装備であり宇宙巡洋艦であるが対空パルスレーザーが合計十二基搭載されたのである。乗組員は全自動化を考慮…。通常の乗組員は三人であるが場合によっては一人だけでも操縦出来る。
「基本的にバジリスクは主力艦隊の護衛に利用されるでしょうね…」
ブラッドフォードは宇宙巡洋艦には無関心だったのかノーコメントだったのである。
(大総統…)
ブラッドフォードの無関心の態度にストライダーは苦笑いする。
「此奴は…」
ブラッドフォードが指差した方向には全長五百メートルサイズのドッグに確認出来る未完成の宇宙戦艦だったのである。
「宇宙戦艦なのか?建造中みたいだが…」
ストライダーはニヤッとした表情で即答したのである。
「ドッグに確認出来る建造中の軍艦は久方振りの新型宇宙戦艦ですよ♪」
「新型宇宙戦艦だと?セイバードラゴンの後継艦か…」
大銀河帝国軍はセイバードラゴン級宇宙戦艦が建造されて以来…。後継艦の建造は計画されなかったのである。近年とある新兵器の開発が浮上…。とある新兵器を搭載可能である新型宇宙戦艦の建造が急遽計画されたのである。
「新型宇宙戦艦とやらはセイバードラゴンの二分の一程度のサイズだな…」
ドッグのサイズから全長は推定四百メートルサイズの宇宙戦艦であると推測される。
「ですが新型宇宙戦艦が完成すればセイバードラゴン級宇宙戦艦を上回る性能が期待出来ましょう♪」
ブラッドフォードは無表情で…。
「性能が上回っても無用の長物なら御免だが…」
「大総統…」
(本当に偏屈だな…)
ブラッドフォードの発言にストライダーは人一倍偏屈であると感じる。するとブラッドフォードはフッとした表情で問い掛ける。
「今後の開発プランとやらは?」
「今後の開発プランは第二十四次宇宙星間戦争でタイラントキラーが投入したスペースドローンに対抗出来る戦闘用ドローンの開発ですよ♪」
ブラッドフォードは第二十四次宇宙星間戦争の翌日…。軍政部に戦闘用ドローンの重要性と開発を強引に説得させ戦闘用ドローンの開発計画が実行されたのである。幸運にも大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の宇宙救助船が故障により全機能停止したタイラントキラーのスペースドローンを発見…。機体を鹵獲したのである。スペースドローンは機内の故障のみで全体的にノーダメージであり軍関係の技術者達は徹底的に機体を解析する。
「戦闘用ドローンの開発計画は順調みたいだな…」
「勿論ですとも♪機体の解析が順調に進行すれば…大銀河帝国軍でも独自の戦闘用ドローンの製造が開始されましょう…」
すると直後…。ブラッドフォードが所持する非常用の携帯式通信機が作動したのである。
「ん?通信機だと?」
ブラッドフォードは応答する。
「私だが…一体何事だ?」
「ブラッドフォード大総統!大変です!」
「貴様は【ルーヴェルハルト】少将か…一体何が発生した?」
ブラッドフォードに通信した相手は少将のルーヴェルハルトだったのである。ルーヴェルハルトは大銀河帝国軍の帝国軍人であるが…。帝国軍人としては非常に穏健派であり強硬派の帝国軍人達とは常日頃から対立する。
「先日の第二十四次宇宙星間戦争の大敗北からタイラントキラーに影響された民衆達が各惑星で暴動を発生させたとの情報です…」
第二十四次宇宙星間戦争での大敗北から大銀河帝国の威厳が没落…。暴動を発生させた各惑星の住民達は民主化運動に尽力中のタイラントキラーを支持したのである。軍内部からも離反した脱走兵がデモ隊に協力…。各惑星にて地上の治安部隊とデモ隊による内紛が彼方此方で勃発したのである。ルーヴェルハルトはソワソワした様子であったがブラッドフォードは呆れ果てた様子で…。
「愚民の暴走程度で報告するな…」
「えっ!?大総統…」
ブラッドフォードの予想外の返答にルーヴェルハルトはハッとする。
「愚民達のデモ隊なんて国軍の宇宙艦隊を派遣して鎮圧作戦を開始しろ…大気圏から光子魚雷を一発投下すれば簡単に鎮圧出来るだろう…」
「ですが大総統…国軍の宇宙艦隊を出撃させれば大勢の民間人が…」
躊躇するルーヴェルハルトにブラッドフォードは苛立ったのである。
「数億人程度の愚民に遠慮して如何する?デモ隊の暴動程度に畏怖するなら即刻宇宙艦隊を派遣させ…奴等を沈黙させろ…」
ルーヴェルハルトは一瞬沈黙するものの…。
「承知しました…大総統…」
ブラッドフォードの命令に承諾したルーヴェルハルトであるがプルプルした様子で通信を遮断させる。
「ルーヴェルハルトは本当に弱腰だな…」
ルーヴェルハルトを弱腰と罵倒するブラッドフォードにストライダーは恐る恐る…。
「ですが大総統…各地域でデモ隊の活動がエスカレートし続ければ大銀河帝国にとって非常に不都合ですよ…最悪大銀河帝国が内部分裂すればタイラントキラーの思う壺でしょう…」
「漁夫の利か…であれば一日も早くタイラントキラーの本拠地を攻略するべきだな…」
同日…。暴動が発生した各惑星には六個師団の大規模宇宙艦隊が派遣され艦隊の主力艦であるセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が各惑星の大気圏から地上を目標に光子魚雷を発射したのである。一発の光子魚雷により大都市諸共数千万人の住民達が死滅…。一度の鎮圧作戦で敵味方の合計死者数は推計十二億人を上回ったのである。同時刻…。タイラントキラーの本拠地であり自治領である母星『エデンプラネット』議会場では大銀河帝国軍による暴動鎮圧の情報が急報されたのである。総帥ウィグノールの右腕とも命名される【ウィンフィールド】がソワソワした様子で議会場へと入室する。
「ウィグノール総帥!緊急事態です!」
「ウィンフィールド大佐か…一体何事だ?」
ウィンフィールドとは若齢の職業軍人であり年齢は二十二歳の青年であるが階級は大佐…。非常に優秀でありタイラントキラーではウィグノールが唯一信頼する最高の部下である。
「大銀河帝国軍が自国内で発生した暴動を鎮圧したみたいですが…彼等の鎮圧作戦によってデモ隊のみならず…推計十二億人以上の非戦闘員が虐殺されたとの情報です…」
ウィンフィールドが最高指導者のウィグノールに伝達する。
「なっ!?虐殺だと!?奴等…デモ隊だけではなく自国内の国民をも殺害したのか?」
「残念ですが…本当みたいです…」
「大銀河帝国…ブラッドフォードは悪魔にでも憑依されたのか…」
ウィグノールは人一倍大銀河帝国のブラッドフォードを毛嫌いするのだが…。今回のデモ隊虐殺事件から今迄以上にブラッドフォードに対する嫌悪感が増大化したのである。
「最早大銀河帝国のブラッドフォードは野放しには出来ない…」
ウィグノールは一瞬沈黙するなり…。
「即刻宇宙大艦隊を準備させろ!タイラントキラーの宇宙艦隊を再編制させ…大銀河帝国本土…ユートピアサイドに主力宇宙艦隊を派遣…奇襲作戦を実行する…」
ウィグノールのユートピアサイド奇襲攻撃の発言にウィンフィールドは驚愕する。
「えっ!?総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて本気ですか!?」
「私は当然…本気だ!」
「ですが総帥…ユートピアサイドへの奇襲作戦なんて実質自爆攻撃と一緒ですよ!エデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星『メティス基地』と人工惑星『プルトロン基地』を突破しなければ不可能です…」
現実問題…。タイラントキラーの本拠地であり自治領であるエデンプラネットから大銀河帝国本拠地ユートピアサイドを攻略するには小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破しなければ大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の本拠地であるユートピアサイドへは到達出来ない。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地には合計十二万隻から十四万隻もの宇宙艦艇が配備され両陣営とも攻略するのは困難である。小惑星メティス基地と人工惑星プルトロン基地を突破したとしてもユートピアサイドには二十万隻もの宇宙大艦隊は勿論…。両サイドの基地には新型巨大防衛兵器の存在が確認され簡単には攻略出来ない。奇襲作戦を実行すれば大多数の宇宙防衛艦隊からの猛反撃も予想され…。最悪味方宇宙艦隊全滅の可能性も否定出来ない。
「タイラントキラーの主力宇宙艦隊は第二十四次宇宙星間戦争でも相当の損害ですし…こんな作戦は将兵達も国民も支持しないでしょう…最悪の場合報復攻撃でエデンプラネットの滅亡も予想されましょう…」
実際タイラントキラーの宇宙主力艦隊は第二十四次宇宙星間戦争の陽動作戦で辛勝するものの大多数の大型艦が撃沈…。大破したのである。タイラントキラーも宇宙主力艦隊の再建に着手するのだが…。資源不足により手一杯の状態だったのである。こんな状態で奇襲作戦を強行すれば宇宙奇襲艦隊の全滅は確実であり最悪エデンプラネットの滅亡も否定出来ない。
「三日前の第二十四次宇宙星間戦争だけでタイラントキラーは二万隻以上の宇宙艦艇と四十万人以上の将兵達が戦死したのです…今現在は宇宙艦隊の再建と宇宙航空戦力の再強化に尽力するべきかと…」
直後…。会議室のホログラムがピコピコッと反応したのである。
「ん?ホログラム?」
ホログラムを作動させると通信兵の立体映像が出現する。
「ん?通信兵か?」
「ウィグノール総帥!大変です!緊急事態です!」
「緊急事態だと?今度は何事だ?」
「味方の宇宙偵察機が所属不明の宇宙艦隊を発見…小惑星『トレジャーホール』に接近中との情報です…」
小惑星トレジャーホールとはタイラントキラーが統治する小惑星でありタイラントキラーにとって資源採掘の宝庫である。
「所属不明の宇宙艦隊だと?大銀河帝国軍の宇宙奇襲部隊か?」
「現段階では不明ですが…恐らくは…」
ウィグノールは再度問い掛ける。
「宇宙艦隊の規模は?」
「宇宙偵察機の情報では…宇宙巡洋艦クラスの大型艦一隻と…二十隻の宇宙駆逐艦クラスの小型艦です…」
「極小規模の小艦隊だな…」
「ウィグノール総帥…如何されますか?」
ウィグノールは一息するなり…。
「小惑星トレジャーホールに宇宙警備艦隊の宇宙戦闘母艦一隻を派遣させ…所属不明の宇宙小艦隊を駆逐せよ…」
「承知しました…」
宇宙警備艦隊は主力のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦一隻で出撃したのである。レヴィアタン級宇宙戦闘母艦はワープ機能を作動させると本拠地のエデンプラネットから推定百四十光年に位置する小惑星…。トレジャーホールの存在する宙域へと到達したのである。タイラントキラーの宇宙警備艦隊は所属不明の宇宙小艦隊と遭遇するのだが…。所属不明の宇宙小艦隊は交戦の意思が皆無であり救難信号を発信したのである。彼等は五千人以上の避難民達を乗艦…。所属不明の宇宙小艦隊の正体は大銀河帝国軍を見限り祖国である大銀河帝国から亡命した亡命艦隊だったのである。当初はエデンプラネットでも混乱するも亡命艦隊の脱走兵は捕虜として扱われ…。避難民達は無事に保護されたのである。

第三話

奇襲大作戦

宇宙新暦七百二十二年四月十六日未明…。タイラントキラー軍内部では大銀河帝国本拠地であるユートピアサイド奇襲大作戦が正式決定される。当初はウィグノールの右腕であるウィンフィールドは勿論…。数多くの首脳陣が今回のユートピアサイド奇襲大作戦には猛反対され一時は作戦内容が全面的に白紙化されたのである。作戦内容が白紙化された数日後…。状況は一変する。大銀河帝国国内では大総統のブラッドフォードによる圧政に猛反発した大勢の将兵達やら国民達のデモ隊活動によりブラッドフォード政権は失脚寸前だったのである。大銀河帝国国内の大混乱から作戦を実行するチャンスであると確信したウィグノールは再度右腕のウィンフィールドとタイラントキラー首脳陣に説得…。最終的に作戦開始の三日前に大銀河帝国軍総本部ユートピアサイド奇襲大作戦は総帥ウィグノールの説得により正式決定されたのである。四月十八日十六時五十分…。タイラントキラー宇宙艦隊は七十隻ものレヴィアタン級宇宙戦闘母艦を主力に機動突撃艦隊を新編成したのである。機動突撃艦隊は宇宙空母と宇宙航空戦力を中心とした宇宙大艦隊であり宇宙型大艦巨砲主義の大銀河帝国軍には存在しない。宇宙艦艇の総数は合計六万隻以上でありタイラントキラーにとっては最大の戦力だったのである。今回のユートピアサイド奇襲大作戦では主力の大型宇宙空母を護衛する新型宇宙巡洋艦の『シーサーペント』が二万隻以上投入される。シーサーペント級宇宙巡洋艦はスーパーレーダーによるレーダー射撃により主砲の命中精度のみなら大銀河帝国軍主力宇宙戦艦のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にも匹敵する。旗艦レヴィアタンより総司令官であるウィグノールが通信機で全軍に伝播…。
「全軍!ワープ機能を作動させろ!目標地点は大銀河帝国軍本拠地…ユートピアサイド!」
タイラントキラーの宇宙艦艇は大銀河帝国軍の本拠地であるユートピアサイドを攻略目標にワープ機能を作動させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではステルス機能すら無効化する新型の改良型スーパーレーダーが設置されタイラントキラーの動向を察知したのである。
「大総統!タイラントキラーの主力宇宙艦隊が行動を開始しました!彼等は本拠地であるユートピアサイドに接近中です…」
通信兵の報告に大総統ブラッドフォードは承諾する。
「奴等…行動を開始したな…」
ブラッドフォードは基地内の総司令部に設置されたホログラムにてタイラントキラーの宇宙艦隊の動向を確認したのである。五日前にタイラントキラーの本拠地であるエデンプラネットに諜報部隊を派遣…。タイラントキラーの情報をキャッチするのに成功したのである。副総統のストライダーが恐る恐る…。
「大総統?ユートピアサイドに援軍を派遣しますか?」
「援軍は不要だ…」
問い掛けたストライダーであるがブラッドフォードは援軍の派遣は不要であると返答したのである。
「援軍は不要ですと?」
「最早大銀河帝国軍にとってユートピアサイドの戦略的価値は皆無だ…ユートピアサイドへは援軍は派遣しない…」
「であればユートピアサイドは如何されるのですか?」
ブラッドフォードは一息するなり…。
「新型戦略兵器『ツァーリーボンバ』で敵味方諸共…ユートピアサイドを殲滅する…」
「なっ!?戦略兵器であるツァーリーボンバで…大銀河帝国軍本拠地のユートピアサイドを殲滅するのですか!?」
ツァーリーボンバとは大銀河帝国軍が新開発した新型戦略兵器であり正式名は超大型戦略貫通ミサイルである。全長は七百メートルサイズ…。規格外の超巨大試作型誘導弾であり破壊力は未知数である。
「大総統は正気ですか!?ユートピアサイドには大勢の味方の地上防衛部隊と非戦闘員が居住する人口密集地ですし…何よりもユートピアサイドは大銀河帝国軍の本拠地なのですよ!?」
大銀河帝国軍の総本部であるユートピアサイドには総勢七十万人もの地上防衛部隊が配備され…。推計七十億人以上の非戦闘員が居住する。
「敵軍を殲滅するには味方の犠牲は必要不可欠だ…」
(今現在ユートピアサイドの地上防衛部隊は実質不要だからな…奴等にはツァーリーボンバの実験台として利用するのが適任だ…)
ユートピアサイドに配置された味方の地上防衛部隊はブラッドフォードにとって不要と判断した部隊であり実質消耗品だったのである。
「即刻改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦に新型戦略兵器ツァーリーボンバを搭載させ…出撃させろ…」
「はっ!承知しました!」
ツァーリーボンバは宇宙戦艦クラスの超大型サイズであり実質改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦にしか搭載出来ない。準備は五分で終了する。通信兵が再度司令室へと入室したのである。
「改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦にツァーリーボンバを搭載準備…完了しました…」
「上出来だ…」
ブラッドフォードはスマートウォッチで時間帯を確認する。
「出撃は五分後だ…」
「承知しました…」
五分が経過したと同時に…。ツァーリーボンバを搭載した改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦が出撃したのである。人工惑星プルトロン基地から改良型セイバードラゴン級大型宇宙戦艦が出撃した同時刻…。タイラントキラーのユートピアサイド攻略宇宙艦隊が大銀河帝国軍本拠地ユートピアサイドの大気圏上空へと到達したのである。ユートピアサイド地上防衛部隊は総司令部に設置されたスペースレーダーにてタイラントキラー宇宙艦隊の動向をキャッチする。
「大気圏上空よりタイラントキラーの宇宙艦隊です!」
「奇襲作戦か…」
タイラントキラー宇宙艦隊の突然の出現に地上防衛部隊は動揺したのである。
「奴等…ワープ機能でプルトロン基地とメティス基地を突破したのか…」
「総数六万隻の宇宙大艦隊です…地上防衛部隊だけで守備するのは不可能でしょう…」
現実問題地上防衛部隊のみではタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するのは不可能…。味方の主力宇宙艦隊は各惑星のデモ隊鎮圧任務に投入され援軍からの援護は絶望的である。
「兎にも角にもタイラントキラーの宇宙艦隊を迎撃するぞ!」
地上防衛部隊の滑走路からは三百機前後の旧型宇宙戦闘機スペースバードが飛来…。味方の地上軍は宇宙戦艦をも一発で撃沈出来る高エネルギー主砲搭載型砲撃列車と旧型戦闘装甲車が対空戦闘を開始したのである。同時刻…。タイラントキラー宇宙艦隊旗艦の宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは総司令官のウィグノールがホログラムにて地上の様子を観察する。
「ユートピアサイドの地上軍は攻撃を開始したか…」
ウィグノールは一息したのである。
「非戦闘員への被害は最小限に努力しろ…」
数秒後…。
「全軍攻撃開始!敵部隊を排除せよ!」
タイラントキラーの攻撃開始と同時に七十隻のレヴィアタン級宇宙戦闘母艦飛行甲板より数百機ものスペースドローンが飛来したのである。ユートピアサイド都市部大気圏上空では有人機と無人機の空戦が展開される。大銀河帝国軍地上軍のスペースバード航空隊は必死に反撃するのだが…。相手は新型の無人機であり旧型の有人型宇宙戦闘機であるスペースバードでは撃墜するのは困難である。一分間の戦闘で百八十機ものスペースバードが撃墜される。スペースバードの防衛網を突破した無数のスペースドローンは都市部直上へと突入…。地上防衛部隊の各基地と周辺区域を攻撃したのである。地上防衛部隊は砲撃列車と戦闘装甲車は勿論…。基地周辺に設置された固定砲台で上空のスペースドローンを迎撃するも地上では超音速で飛来するスペースドローンを撃墜するのは困難である。反対にスペースドローンの宇宙戦闘用多目的ミサイル…。小型光子魚雷による爆撃で地上部隊の地上兵器が破壊されたのである。同時刻…。宇宙戦闘母艦レヴィアタンでは副艦長のウィンフィールドが艦内のホログラム立体映像で地上の様子を再度直視する。
「味方部隊の優勢ですね…今現在自軍の損害は皆無です!」
タイラントキラーの優勢に大喜びするウィンフィールドであるが…。
「非常に奇妙だな…」
「奇妙ですと?」
奇妙であると発言するウィグノールにウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「何が奇妙なのですか?」
「敵軍の地上防衛部隊は旧型の兵器ばかり…戦争博物館だな…」
ユートピアサイドは大銀河帝国軍にとって最重要拠点であるのだが…。投入された地上軍の兵器は旧型の前時代的代物ばかりでありウィグノールは胸騒ぎを感じる。
「最重要拠点の防衛戦としては抵抗が軽微に感じられる…」
戦闘開始から五分が経過するとユートピアサイドの地上部隊の戦力は八割が壊滅状態であり最早組織的抵抗は不可能の状態だったのである。タイラントキラーの将兵達は勝利を確信するのだが…。ウィグノールとウィンフィールドは表情が険悪化したのである。すると一人の将兵が彼等に問い掛ける。
「艦長達…一体如何されたのですか!?タイラントキラーの勝利は目前ですよ!今日より銀河系全体の民主主義が実現するのです!」
するとウィグノールは恐る恐る…。
「ひょっとすると敵軍のトラップかも知れないな…」
「えっ!?敵軍のトラップですと?」
直前である。艦内のスペースレーダーが正体不明の移動物体に反応…。艦内全体にサイレンが響き渡る。
「ん?何事だ…」
ホログラム立体映像を再作動させると規格外の超大型ミサイルを搭載したセイバードラゴン級大型宇宙戦艦が映写される。
「此奴は…大銀河帝国軍の…援軍でしょうか?」
「セイバードラゴン級大型宇宙戦艦だな…改良型か…」
「ですが船底に大型宇宙戦艦クラスの超大型ミサイルらしき巨大物体が確認出来ます…巨大物体は超大型ミサイルなのでしょうか?」
ウィグノールは勿論…。周囲の乗組員達がセイバードラゴン級宇宙戦艦に搭載された超大型ミサイルに身震いしたのである。するとウィグノールは恐る恐る…。
「ウィンフィールド…」
「如何されましたか?ウィグノール総帥…」
普段は冷静であるウィグノールであるが不吉の予感を察知したのか今回は異常にビクビクしたのである。
(ウィグノール総帥が畏怖されるなんて…)
ウィンフィールドはウィグノールの様子に一大事であると察知する。
「不本意であるが…全軍を撤退させろ…」
ウィグノールの判断にウィンフィールドを除外する周囲の将兵達が猛反発したのである。
「えっ!?今更撤退ですと!?」
「敵艦は一隻だけです!即刻迎撃して…」
「下手に攻撃すると面倒だ…モニターの此奴は予想以上に危険かも知れない…」
ウィグノールは即座にワープ機能作動を全軍に伝播させる。同時刻…。人工惑星プルトロン基地ではブラッドフォードが基地内から無人の改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦を遠隔操作したのである。
(コンピュータゲームみたいだな…)
ストライダーは遠隔操作により航行する改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦をコンピュータゲームであると感じる。ブラッドフォードは艦内ホログラムでユートピアサイドの大気圏上空を浮遊するタイラントキラーの宇宙艦隊を確認したのである。
「敵軍は大気圏上空に展開中だな…」
一息するなり…。
「攻撃目標…ユートピアサイド…超大型戦略貫通ミサイル…ツァーリーボンバ…発射する…」
改良型セイバードラゴン級宇宙戦艦からツァーリーボンバが発射される。発射された同時刻…。ユートピアサイド大気圏上空にて展開中のタイラントキラー宇宙艦隊の各艦のスーパーレーダーにはツァーリーボンバが確認される。
「艦長!敵艦から規格外の超大型ミサイルが発射されました!」
ウィグノールはホログラムの超大型ミサイルを直視する。
(此奴は大銀河帝国軍の巨大新型兵器…止むを得ないか…)
不本意であるが…。
「全軍に伝達する!即刻撤退せよ!」
直後である。ユートピアサイドに接近中の超大型戦略貫通ミサイル…。ツァーリーボンバが惑星全体にピカッと炸裂したのである。数秒後…。高熱の熱線が惑星全体を覆い包み天体諸共爆散したのである。タイラントキラーの主力宇宙艦隊はワープ機能の作動により撤退に成功したものの…。最前線の宇宙艦隊はツァーリーボンバの大爆発によってユートピアサイド諸共消滅したのである。
「はぁ…はぁ…ウィグノール総帥…無事に撤退出来ましたね…」
「主力の宇宙艦隊は無事だが…」
先程の自爆攻撃でタイラントキラーは推計三百四十八隻の宇宙戦艦…。六百八十九隻の宇宙巡洋艦と五千二百三十一隻の小型艦艇を喪失したのである。推計三十万人もの将兵を喪失する。一方の大銀河帝国軍は自軍の自爆攻撃によって推計五百万人の地上軍兵員…。推計七十億人もの住民がツァーリーボンバで死滅したのである。タイラントキラーにとって今回の作戦失敗は甚大であり総帥のウィグノールは大勢の将兵達からは勿論…。自国民からも作戦失敗の責任を追及され彼自身の妻子も戦争犯罪者として迫害されたのである。ウィグノールは作戦の失敗を契機に宇宙新暦七百二十二年四月二十一日…。自宅の寝室にて妻子と一緒に一家心中したのである。

第四話

新型宇宙戦艦

ユートピアサイド軍事工場で計画中であった新型宇宙戦艦は急遽人工惑星プルトロン基地で建造される。宇宙新暦七百二十二年四月二十四日早朝…。大総統のブラッドフォードはプルトロン基地の軍港へと来場する。
「如何やら新型宇宙戦艦が完成したみたいだな…」
軍港には全長四百メートルサイズ…。全幅二百二十メートルサイズの新型宇宙戦艦が確認出来る。すると背後より…。
「大総統♪こんな場所で一体何を?」
「ストライダーか…暇潰しに新型兵器を見物しただけだ…」
「新型兵器の見物ですか♪」
副総統のストライダーも新型宇宙戦艦を直視する。
「此奴はセイバードラゴン級宇宙戦艦の後継艦…キングタイタンですよ♪」
「キングタイタンだと?即刻改名しろ…」
艦名が気に入らなかったのか後継艦の改名を要求したのである。
「えっ?改名って…」
ストライダーは困惑したのである。
「であれば私が名付ける…此奴の艦名は『アプセラス』だ…」
「えっ…アプセラスって…」
ストライダーはハッとする。
「アプセラスとは…大総統の令夫人の名前では…」
「勿論…彼女の名前だ…」
アプセラスとは二年前の四月に大病で死去したブラッドフォードの令夫人の名前でありブラッドフォードの唯一の理解者である。
「大総統が希望するのであれば…」
新型宇宙戦艦の艦名はアプセラスと改名される。
「此奴の性能は?」
アプセラスは全長四百メートルサイズで全幅は二百四十メートルサイズ…。全備総重量は七十万トンクラスの巨大宇宙戦艦である。全長が八百メートルサイズのセイバードラゴン級宇宙戦艦の二分の一のサイズであるが…。戦闘能力は段違いであり砲撃に特化された完全攻撃型宇宙戦艦である。兵装は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が二基…。対空兵装では五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八基搭載される。実弾兵器は光子魚雷発射機が二基…。宇宙戦闘用多目的ミサイル発射機が十二基配置される。本艦にとって最大の兵装であり最強の主砲…。超大型戦略高エネルギー兵器『ケラウノス』は無限の電力を内包するスパークストーンが使用され一撃で大惑星を消滅させる。動力炉はスーパーリアクターの改良型である新型無限動力炉『ハイパーリアクター』が搭載される。艦載機は無人機が四機…。乗組員は一人から三人程度で運用出来る。正式名は上級大将専用宇宙戦艦であり居住設備も豪華客船に匹敵する。本艦を一隻建造するだけでセイバードラゴン級宇宙戦艦二百隻の予算が使用…。政府首脳陣専用の宇宙戦艦であり実質ブラッドフォードのみが乗艦出来る。
「本艦の装甲は『エターナルメタル』ですからね…」
「エターナルメタルだと?」
エターナルメタルとは資源採掘惑星レアメタルスターで採掘された不朽性であり未知の鉄鉱石である。非常に軽量であるが…。硬度は金剛石以上であり半永久的に原物を維持出来る。
「エターナルメタルを使用すれば…メンテナンスは非常に安価ですからね♪」
「であれば好都合だ…」

第五話

制圧作戦

三日後の四月二十七日早朝…。人工惑星プルトロン基地から三万隻もの宇宙大艦隊が出撃を開始する。旗艦は新型宇宙戦艦アプセラスであり大銀河帝国軍総司令官のブラッドフォードが乗艦したのである。
「全軍に伝達する!今回は小惑星トレジャーホールを確保…タイラントキラーの防衛宇宙艦隊を殲滅せよ!」
今回の作戦では新型宇宙巡洋艦バジリスクが推計二千隻…。六千隻もの新型宇宙駆逐艦『アスピドケロン』が投入され艦載機は新型戦闘用ドローン兵器『セイバードローン』が投入される。将兵の大半がクローン人間のホムンクルスであり人間の将兵は少数である。一新された大銀河帝国軍宇宙主力艦隊はタイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインである小惑星トレジャーホールを目標に全速前進…。各艦艇はワープ機能で小惑星トレジャーホールの宙域へと到達する。
「トレジャーホールの宙域に無事到達出来たな…」
旗艦アプセラスを先頭に…。背後からは三万隻もの宇宙艦艇がワープ機能で到達したのである。するとブリッジのホムンクルス将兵が発言する。
「味方の宇宙艦隊が到達したみたいですね…」
「トレジャーホールを攻略…奴等の最終防衛ラインを陥落させ…徹底的に奴等を絶望させるぞ…」
タイラントキラーの保有する惑星は実質母星であるエデンプラネットと最終防衛拠点のトレジャーホールのみである。
(タイラントキラーの資源宝庫であるトレジャーホールを陥落させれば…実質大銀河帝国の大勝利だ…)
タイラントキラーはユートピアサイド攻略作戦の失敗で戦力が低下…。最高指導者である総帥ウィグノールの自殺により以前より士気も戦争遂行能力も低下した状態だったのである。タイラントキラーは国民主権の勢力であり大勢の民間人が安住するエデンプラネットでの本土決戦は回避…。投降するのではと思考したのである。
「艦長!敵部隊の防衛宇宙艦隊を発見しました!」
艦内のスペースレーダーがトレジャーホールの防衛宇宙艦隊をキャッチする。
「敵部隊の宇宙艦艇の総数は?」
「推計一万五千隻です…」
「一万五千隻か…」
(敵軍の規模は一個艦隊程度だな…)
敵軍の規模から片手間であると感じるものの…。
「全軍…全速前進だ!戦闘艦艇は敵艦に砲撃を開始せよ!」
防衛艦隊との射程距離は推定十七光年と近距離であり各艦は高エネルギー砲塔から高エネルギーの光弾を射出…。数十万発もの発光体が各艦の砲塔から発射される。大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の猛攻により数百隻もの宇宙駆逐艦クラスの小型宇宙艦艇が轟沈したのである。宇宙巡洋艦クラスの大型艦は超大型エネルギーシールド装置の設置により高エネルギー兵器を無力化…。ノーダメージだったのである。
「大総統…高エネルギー兵器が無力化されました…」
「エネルギーシールド装置だな…であれば光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルの実弾攻撃で対応せよ…」
各艦は無数の光子魚雷…。宇宙戦闘用多目的ミサイルを発射する。大銀河帝国軍の実弾兵器はエネルギーシールドジャミング装置が搭載され…。エネルギーシールド装置を無力化させ大型艦に攻撃したのである。実弾兵器の猛攻で二百隻以上の宇宙巡洋艦クラスは勿論…。宇宙戦艦クラスの大型艦を撃沈する。
「大総統…大銀河帝国軍の優勢です!」
部下の報告にブラッドフォードは一安心するものの…。
「油断大敵だ…巨大宇宙空母『スレイプニル』から新型ドローン部隊を出撃させろ!」
今回の作戦では宇宙用の新型宇宙巨大空母スレイプニルが一隻投入されたのである。艦名はスレイプニルと命名され…。正式名は宇宙要塞母艦スレイプニルである。スレイプニル級宇宙空母はプルトロン軍事工場で建造されたドローン搭載型母艦であり十八隻が建造される。全長は九百九十メートルであり全長八百メートルクラスのセイバードラゴン級大型宇宙戦艦をも上回る。艦体の総重量は九百五十万トンと桁外れであり超光速の速力を発揮出来る。宇宙戦艦アプセラスと同様に動力炉はハイパーリアクターが使用され…。航続距離は実質無限光年である。規格外の巨大さのスレイプニル級宇宙空母であるが…。乗組員は一人から三人体制であり少人数での運用が可能である。推計五万人から八万人もの輸送要員を乗艦させられる。艦載機は無人兵器のドローン兵器が四百機搭載される。兵装は旗艦アプセラスと同様に主砲の超大型戦略高エネルギー兵器ケラウノスが艦首に設置…。副砲は六百ミリメートル高エネルギー連装砲が六基と対空兵装は五十ミリメートル対空パルスレーザー機関砲が八十基搭載されたのである。実弾兵器は光子魚雷発射機が十二基と宇宙戦闘用多目的ミサイル発射機が三十基搭載され…。実質従来型の宇宙戦艦をも上回る戦闘空母である。補助兵装ではアプセラス同様…。ステルス機能と館内には娯楽施設が設置されたのである。スレイプニルの宇宙用甲板からは三百機ものセイバードローンが出撃…。ワーム機能を作動させ超光速で敵軍艦隊の射程圏内へと突入したのである。タイラントキラーのレヴィアタン級宇宙戦闘母艦もドローン兵器スペースドローンを発進させる。ドローン兵器同士による空戦が開始されるが…。セイバードローンは鹵獲したスペースドローンをベースに開発された機体でありスペースドローンは圧倒される。一分間の空戦で二百機以上のスペースドローンが撃墜されたのである。
「圧倒的だな…」
ブラッドフォードはアプセラスの艦内ホログラムからドローン部隊による空戦の様子を直視する。
「セイバードローンは予想以上の戦果ですね…」
「所詮無人機だが…意外とドローン兵器も役立つな…」
今現在セイバードローンの損害は皆無であり敵機はバタバタと撃墜され…。タイラントキラーのドローン部隊は壊滅したのである。
「タイラントキラーのドローン部隊は壊滅した…戦闘中のドローン部隊には後方の敵軍宇宙艦隊への攻撃を続行させろ…」
「承知しました…」
セイバードローンは後方のタイラントキラー宇宙艦隊に攻撃を仕掛ける。セイバードローンは光子魚雷やら宇宙戦闘用多目的ミサイルで敵艦に攻撃したのである。ドローン部隊の攻撃で小型艦艇は勿論…。十数隻もの大型艦が撃沈されたのである。当然としてタイラントキラーの宇宙艦隊も迎撃するのだが…。セイバードローンにはエネルギーシールド装置により対空パルスレーザー機関砲は無力化され光子魚雷やら宇宙戦闘用多目的ミサイルは機体に搭載された対空パルスレーザー機関砲により迎撃される。
「ドローン部隊がタイラントキラー宇宙艦隊を圧倒しました…」
「であれば即刻タイラントキラー宇宙艦隊に接近…総攻撃を仕掛ける!」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊はワープ機能を再作動…。トレジャーホールが肉眼でも視認出来る距離へと到達する。
「到達したな…」
トレジャーホール防衛艦隊との距離は七百キロメートルと至近距離である。
「ドローン部隊の攻撃で敵軍宇宙艦隊は大分疲弊した様子ですね…」
「全軍総攻撃を開始せよ…敵部隊を壊滅させろ…」
ブラッドフォードは総攻撃を指示…。全軍による総攻撃が開始されたのである。主力艦隊による艦砲射撃と実弾攻撃でトレジャーホール防衛艦隊の多数の宇宙艦艇が大破…。撃沈されたのである。戦闘不能と判断したのか残存艦隊は撤退を開始…。トレジャーホールは無人化したのである。
「敵軍艦隊は撤退を開始しました…トレジャーホールを制圧しましょう…」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊は無事トレジャーホールを制圧…。今回の制圧作戦で大銀河帝国軍の圧倒的大勝利に終結する。今回の戦闘でタイラントキラーは五十四隻のサラマンダー級大型宇宙戦艦と四十七隻のレヴィアタン級大型宇宙空母を喪失…。百八十三隻の旧型宇宙戦艦と八十二隻の旧型宇宙空母を喪失する。中型艦では二百十二隻のシーサーペント級宇宙巡洋艦が撃沈され…。四百五十六隻の旧型宇宙巡洋艦が撃沈されたのである。小型艦艇では二千七百六十八隻の宇宙駆逐艦と三千四百八十五隻の宇宙警備艇が撃沈され…。艦載機では三百六十六機のスペースドローンが撃墜されたのである。二十六隻の宇宙戦艦と十七隻の宇宙空母が大破…。百七十六隻の宇宙巡洋艦と五千八百七十四隻の小型艦艇が大破したのである。艦載機では二百四十八機のスペースドローンが損傷する。人的損害では推計五十三万人もの将兵が死傷したのである。一方の大銀河帝国軍は十二隻の宇宙戦艦と三十七隻の旧型宇宙巡洋艦を喪失…。六隻の宇宙戦艦と四十八隻の宇宙巡洋艦が大破したのである。十三機の戦闘用ドローンが損傷…。人的損害では九百二十六人の将兵が死傷したのである。各兵器を一新させた大銀河帝国軍であるが…。予想以上の損害の軽微に驚愕したのである。

第六話

殲滅作戦

タイラントキラーの資源宝庫であり最終防衛ラインであるトレジャーホールを無事制圧した大銀河帝国軍はトレジャーホールで放置された三十四隻の大型宇宙戦艦と十八隻の新型宇宙空母…。二十七隻の新型宇宙巡洋艦と艦載機のスペースドローン七十八機を鹵獲したのである。トレジャーホール制圧作戦から六日後の五月三日…。大総統のブラッドフォードは小惑星メティス基地で副総統のストライダーと再会する。
「大総統♪見事でしたな♪トレジャーホール制圧作戦は大銀河帝国軍の圧勝でしたね♪」
トレジャーホール制圧作戦の圧倒的勝利にストライダーは大喜びしたのである。
「当然の結果だ…ストライダーよ…総司令官であるウィグノールが自害した今現在のタイラントキラーは単なる烏合の衆…」
「資源宝庫のトレジャーホールが制圧されたのでは…タイラントキラーは投降する以外に選択肢は皆無ですからね♪」
最早戦力をズタズタに破壊されたタイラントキラーは誰しもが投降するものと思考するのだが…。
「大総統!緊急事態です!」
通信兵がソワソワした様子で司令室に入室する。
「何事だ?」
通信兵は恐る恐る…。
「ウィンフィールドと名乗る人物がタイラントキラーの新指導者に任命され…各惑星に戦闘継続を伝播させました…」
「なっ!?戦闘継続だと!?」
ストライダーは驚愕する。
「資源宝庫のトレジャーホールが制圧されたのに…奴等は正気か?」
するとブラッドフォードはボソッと一言…。
「この期に及んで奴等は余程死にたいらしいな…」
「大総統…如何されましょうか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「奴等が戦闘続行を決断するのであれば…此方も戦闘を続行…今度こそ奴等を徹底的に殲滅するだけだ…」
ブラッドフォードはストライダーを凝視するなり…。
「今度は大銀河帝国軍全軍で奴等の本拠地…エデンプラネットを攻略する…今度の作戦ではストライダー…貴様も参加しろ…」
「勿論ですとも…大総統…」
ストライダーは即答したのである。
「であれば即刻作戦を実行するか…大至急全軍に伝播させろ…エデンプラネット殲滅作戦を開始すると…」
「はっ!承知しました!」
通信兵は即座に各惑星の国軍宇宙艦隊に伝播させる。翌朝の五月四日…。各惑星の国軍宇宙艦隊が再集結したのである。今回の作戦では合計十九万隻の艦隊規模であり第四字宇宙星間戦争を上回る。
「全軍が集結したな…」
ブラッドフォードは宇宙主力艦隊旗艦アプセラスに乗艦…。副総統のストライダーは改良型のセイバードラゴン級大型宇宙戦艦に乗艦したのである。ブラッドフォードは各艦に伝播…。
「全軍に伝播する…終戦は目前である!今回の作戦はタイラントキラー本拠地エデンプラネット!タイラントキラーの残存勢力を徹底的に殲滅する!諸君等の奮闘を期待する…」
ブラッドフォードの演説に将兵達の士気が向上したのである。するとストライダーはホログラムで返信する。
「大総統…先程の演説で将兵達の士気が向上しました♪精一杯奮闘しましょう♪」
「当然だ…ストライダー…」
直後…。
「各艦…ワープ機能を作動せよ…」
旗艦アプセラスを先頭に各艦はワープ機能を作動させる。一秒後…。合計十九万隻もの宇宙大艦隊がタイラントキラー本拠地エデンプラネットの宙域へと到達したのである。
「エデンプラネットの宙域に到達しました…味方艦隊とエデンプラネットの距離は一光年です…」
旗艦アプセラス艦内のスペースレーダーが反応する。
「大総統…スペースレーダーが反応しました…」
「タイラントキラーの宇宙艦隊か?宇宙艦艇の総数は?」
「宇宙艦艇の総数は推計二万五千隻です…」
特殊無線技士のホムンクルス将兵が即答したのである。
「二万五千隻か…タイラントキラーの残存勢力にとっては最大戦力だな…」
度重なる敗北によりタイラントキラーの宇宙艦隊は二万五千隻に激減…。本拠地を防衛するのが手一杯だったのである。
「ですがこんな瀕死の状態で抵抗するなんて…奴等は正気ですか?」
ホムンクルス将兵の発言にブラッドフォードは即答する。
「所詮馬鹿の一つ覚えだな…超古代文明のとある地上の大帝国に酷似する…最早戦力の激減したタイラントキラーでは国民主権の大銀河共和国の再興は夢物語なのに…」
大銀河帝国が建国される以前…。銀河系には大銀河共和国と呼称される民主主義国家が存在したのである。大銀河共和国は政治の腐敗やら度重なる内戦…。最大の反政府勢力である大銀河革命軍との大銀河全面戦争により敗北…。民主制の大銀河共和国は独裁制の大銀河帝国へと再建されたのである。大銀河共和国軍に勝利した大銀河革命軍は大銀河帝国の常備軍…。大銀河帝国軍へと改編されたのである。
「所謂タイラントキラーは大銀河共和国の残党勢力だ…徹底的に殲滅せよ…」
数秒後…。
「全軍…敵軍宇宙艦隊に砲撃せよ!」
砲撃の合図と同時に大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の総攻撃が開始される。同時刻…。相対するタイラントキラー宇宙艦隊は旗艦である改良型サラマンダー級宇宙戦艦には次期総帥のウィンフィールドが乗艦する。
「艦長!大銀河帝国軍が総攻撃を開始しました!」
「全軍に伝達せよ!此方も応戦する!」
ウィンフィールドは応戦を指示したのである。直後…。一光年の宙域より発射された数千万発もの高エネルギーの光弾が味方宇宙艦隊に到達したのである。各艦に多数の光弾が命中するものの…。大型艦はエネルギーシールド装置により光弾を無力化したのである。一方小型艦艇は簡単に撃沈され…。一度の総攻撃で推計三千隻もの小型艦艇が轟沈したのである。轟沈した小型艦艇は宇宙の藻屑へと変化…。数千人もの将兵が宇宙空間に吹っ飛ばされたのである。凄惨なる光景にウィンフィールドは落涙するものの…。
「彼等の犠牲を無駄にするな…即刻反撃しろ!」
タイラントキラー宇宙艦隊も反撃を開始したのである。各艦艇による高エネルギー砲塔の艦砲射撃…。実弾兵器である光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルを多数発射したのである。
「母艦部隊はドローン兵器を発進させ…敵軍艦隊に突入させろ!」
各航空母艦からはスペースドローンは勿論…。スペースドローンの後継機『ホワイトピクシー』が飛来したのである。各機体はワープ機能を作動…。数秒後には二万機以上のドローン兵器が大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の宙域へと到達したのである。
「ひっ!ドローン兵器です!」
突如として出現したドローン兵器に大銀河帝国軍の将兵達は一時的に畏怖する。
「狼狽えるな…ドローン兵器を撃墜せよ…」
ブラッドフォードはドローンの迎撃を指示すると各艦艇は迎撃を開始したのである。するとブラッドフォードは気になるのかホログラム装置を作動…。スペースドローンの立体映像が映写される。
「えっ?大総統…如何されましたか?」
ブリッジのホムンクルス乗組員が彼に問い掛ける。
「恐らく此奴はタイラントキラーの新型機だな…」
ホワイトピクシーは性能的には大銀河帝国軍のセイバードローンと五分五分である。宇宙艦隊上空では互角の空中戦が展開される。
「味方のセイバードローン諸共…撃墜せよ…」
「味方の軍用機も攻撃するのですか?」
ブラッドフォードの指示にブリッジのホムンクルス乗組員が再度問い掛ける。
「所詮ドローンは自爆兵器だ…破壊されたって何機でも補充出来る…」
資源豊富の大銀河帝国軍にとってドローン兵器とは実質自爆用途の無人特攻兵器である。各機体の機体内部には宇宙戦艦クラスの大型艦さえも一撃で撃沈出来る自爆装置が内蔵される。ブラッドフォードの指示に各艦艇は味方のドローン兵器諸共対空パルスレーザー機関砲は勿論…。実弾兵器の光子魚雷と宇宙戦闘用多目的ミサイルで攻撃したのである。無尽蔵の光弾と実弾攻撃により敵味方のドローン兵器が撃墜される。
「味方宇宙艦隊の迎撃でタイラントキラーの宇宙航空戦力が半減したぞ…」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊の対空攻撃によりタイラントキラーの宇宙航空戦力が低下したのである。
「再度敵軍の防衛宇宙艦隊を攻撃…タイラントキラー本拠地エデンプラネットに突入するぞ…」
大銀河帝国軍宇宙主力艦隊はタイラントキラーのドローン部隊による攻撃を物ともせず迎撃を続行…。エデンプラネットの宙域へと到達したのである。
「敵軍艦隊だ…」
タイラントキラー宇宙艦隊との距離は七十八万キロメートルと近距離であり肉眼でも直視出来る。七十八万キロメートルでも広大無辺の宇宙戦闘では至近距離である。
「タイラントキラー宇宙艦隊を殲滅せよ…」
ブラッドフォードの指示と同時に総攻撃が開始される。

第七話

反帝国主義

宇宙新暦七百二十二年五月十七日…。最終戦略兵器ケラウノスによって国民主義勢力のタイライトキラーと本拠地である小惑星エデンプラネットを消滅させた大銀河帝国軍であるが…。日に日に過激化するブラッドフォード政権に対する反対運動は新勢力の誕生を促進させたのである。二日後の五月十九日…。ブラッドフォード政権を見限った穏健派の帝国軍人ルーヴェルハルトは大銀河帝国を脱退したのである。三日後の五月二十二日に反帝国主義勢力『ホープセイバーズ』が結成…。大銀河帝国自治領の一部である小惑星『ホープエリア』を本拠地として設置される。ホープセイバーズ結成から一週間後の五月二十四日…。大銀河帝国軍を見限った一部の帝国軍人達と母星の消滅により宇宙空間を漂流するタイライトキラーの臨時政府軍宇宙艦隊が小惑星ホープエリアへと集結したのである。ホープセイバーズ創設から二週間が経過するとホープエリアの総人口は推計二十億人に増加する。銀河系の各宙域ではタイラントキラーの残存艦隊が宇宙海賊団を組織…。彼等も義勇軍としてホープセイバーズに加入される。五月二十七日…。大銀河帝国軍総本部では大総統のブラッドフォードと副総統のストライダーが対談する。
「大総統…ルーヴェルハルト少将が大銀河帝国から脱退しましたな…」
「大銀河帝国に穏健派の帝国軍人は不要だ…」
(彼奴は目障りだからな…)
ブラッドフォードにとって穏健派のルーヴェルハルトは正直目の上のたん瘤でありルーヴェルハルトの脱退は非常に好都合だったのである。
「ホープセイバーズですが…如何されますか?」
問い掛けられたブラッドフォードは即答する。
「当然として…大銀河帝国に敵対する勢力は徹底的に殲滅する予定だ…」
「当然の判断ですね…」
同時刻…。ホープセイバーズ本拠地ホープエリアの総本部拠点ではとある人物が訪問する。ホープセイバーズ総帥ルーヴェルハルトの専用室にて何者かがコンッとドアをノックしたのである。
「誰だ?」
すると若齢の将校が入室する。
「失礼します…」
「貴方は…」
「私はタイラントキラー将兵だった…ウィンフィールド…階級は大佐です…」
「ウィンフィールド大佐か…」
両者は敬礼したのである。するとルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「本当に悪かった…私達の暴走で貴方の故郷は…」
ルーヴェルハルトは落涙…。謝罪したのである。
「気にしないで下さい…ルーヴェルハルト総帥…」
ウィンフィールドはルーヴェルハルトを非難せず…。
「大銀河帝国にも…貴方みたいな穏健派の帝国軍人が存在するだけで…私の心情は救済されましたよ♪」
ウィンフィールドは笑顔で返答する。するとルーヴェルハルトは恐る恐る…。
「突然で混乱するかも知れないが…今後のホープセイバーズの方針を伝達する…」
「今後の方針ですか?」
ルーヴェルハルトは一息するなり…。
「ホープエリアは大銀河帝国から独立…小規模だがホープエリアに大銀河共和国の継承国家…宇宙新共和国を建国する予定だ…」
「宇宙新共和国ですと?」
今後の方針である大銀河帝国からの独立にウィンフィールドは恐る恐る問い掛ける。
「大銀河帝国からの独立なのですが…現実的に大銀河帝国からの独立なんて可能なのですかね?相手は大銀河帝国全勢力ですよ…大銀河共和国の継承勢力であるタイラントキラーも大銀河帝国軍によって徹底的に殲滅させられたのです…恐らく簡単には…」
「困難なのは承知だ…相手はブラッドフォードだからな…一筋縄では無理だろう…」
ルーヴェルハルトはポケットから恐る恐る電子設計図を入手する。
「電子設計図ですか?」
ルーヴェルハルトは電子設計図のスイッチを作動…。すると円柱型の物体がホログラムにより映写されたのである。
「なっ!?ひょっとして…」
ウェンフィールドは電子設計図の物体に驚愕する。
「タイラントキラーが開発中だった…最終兵器では!?如何して大銀河帝国軍所属の貴方がタイラントキラーの遺産を?」
「私がタイラントキラーの遺産を所持した理由は…」
大銀河帝国軍がタイラントキラーとの戦時中の出来事である。ルーヴェルハルトは独自の私兵部隊を組織…。私兵部隊をタイラントキラーの兵器研究所に潜入させ一部の科学技術を入手したのである。
「ですがタイラントキラーの兵器研究所が貴方の私兵部隊に潜入されたなんて…驚愕しましたよ…」
「最終兵器の電子設計図を入手したのが私で正解だったな♪こんな代物をブラッドフォードが入手すれば絶対に悪用されるだろう…」
「ですが此奴が完成すれば…銀河系の支配勢力である大銀河帝国だって引っ繰り返せそうですね♪」
タイラントキラーが開発中だった最終兵器の正体は不明であるが…。最終兵器が完成すれば大銀河帝国をも引っ繰り返せる代物である。
「此奴は大銀河帝国軍の最強兵器…ケラウノスをも上回る最強最悪の最終兵器だからな…抑止力として利用出来る!」
メンテ

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